説明

フレネルゾーンプレートを製造するための方法および装置

フレネルゾーンプレート(13)の製造方法であって、中心軸(1a、4a、7a)に関して回転対称である基材(1、4、7)を利用可能にするステップと、前記基材(1、4、7)を回転させずに該基材(1、4、7)の面(1b〜c;4b〜c;7b〜c)へと原子層堆積(ALD)法によって層(2a〜d;5a〜d;8a〜d;11)を順に堆積し、コート済みの基材を形成するステップと、前記コート済みの基材(1、4、7)を前記中心軸(1a、4a、7a)に対して直角に少なくとも1回分割することによって、該コート済みの基材(1、4、7)から少なくとも1つのスライス(13)を分断するステップ(3a、b;6a、b;9a、b)とを含んでいる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレネルゾーンプレートを製造するための方法および装置であって、順に続く各層の追加が行われた後で複数のフレネルゾーンプレートの製造を可能にする方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線顕微鏡法は、光および電子顕微鏡法に対する補完的な特徴解明方法として、有効性が証明済みである。限界は、X線照射による対象の画像化に対して集光光学系によって設定される。これまでのところ、フレネルゾーンプレートが、X線の集光のための最も一般的かつ効果的な集光装置の1つである。この種のフレネルゾーンプレートの分解能の最適化および製造プロセスの簡素化の両方が求められている。
【0003】
ナノメートル範囲の技術の急激な進歩ならびにその科学の進歩における顕著な効果(特に、生物学、化学、ならびに材料科学から環境科学および生物医科学までにおける使用についての顕著な効果)という背景に対して、ナノメートル範囲の適切な分析ツールのさらなる改善が、強く求められていることは知られている。
【0004】
X線顕微鏡法は、化学的な選択性を高空間時間分解能と組み合わせる。
【0005】
加えて、X線顕微鏡法は、マイクロメートルおよびナノメートルの範囲の物質の物理的、磁気的、化学的、および構造的特性の調査を可能にする他のX線ベースの方法の同時使用を許容する。この場合、可能性は、例えばμXANES、微量化学分析、およびX線磁気円二色性(XMCD)の顕微分光法から、時間分解顕微鏡法までの範囲に及ぶ。さらなる利点は、透過電子顕微鏡法と比べ、サンプルの準備における支出が少ないことである。例として、電子顕微鏡法の場合と異なり、この種の薄いサンプルの事前の作成(サンプル材料の破壊または損傷につながることが多い)が不要である。したがって、X線顕微鏡法は、生命科学においても頻繁に使用される。
【0006】
X線顕微鏡法の潜在的な空間分解能は、おおむね使用される光の波長の程度にある。軟X線照射(0.5〜10nmの波長、120eV〜2keVのエネルギ)によるX線顕微鏡の動作の場合には、光子のエネルギが軽い元素のK吸収端に一致し、有機物質と水との間のきわめて良好なコントラストおよびマイクロメートルの厚さのサンプルにおける良好な進入の深さが達成される。より硬いX線照射での動作の場合には、中程度−重い元素のK吸収端ならびに重い元素のLおよびM吸収端へのアクセスが可能になる。さらに、このエネルギ範囲におけるより大きな進入深さが、より厚いサンプルの調査を可能にする。
【0007】
X線レンズが、X線顕微鏡法におけるX線の性能および効果的な働きのために根本的に重要である。X線は、物体(すなわち、調査すべきサンプル)ときわめて弱く相互作用するにすぎないため、一方では、断層撮影による研究を好都合に実行でき、厚い材料を調査することができるが、他方では、それらのX線の集光を、きわめて多大な困難を伴わない限り実行することができない。上述のように、X線レンズの改善が、依然として大きな難題である。X線レンズによる集光においては、X線の屈折および反射ならびに回折の両方が使用されている。これまでのところ、最良の集光特性は、フレネルゾーンプレートの場合において達成されており、すなわちX線の回折にもとづいて達成されている。
【0008】
フレネルゾーンプレートは、連続的に続き、X線を吸収する材料とX線を通す材料とが交互している複数の同心リング(ゾーンとも称される)を含んでいる。ゾーンプレートは、焦点を生み出すために隣接するゾーンからのX線の建設的干渉を使用する。ゾーンプレートの焦点距離fは、その直径、最も外側のゾーンの厚さΔr、および使用されるX線照射の波長の関数である。ゾーンプレートの分解能は、最も外側のゾーンの厚さΔrに密接に関係する。この場合、いわゆるレイリー分解能は、1.22Δrに限られる。
【0009】
フレネルゾーンプレート(FZP)の分解能は、これまでに使用されている製造方法で厚さの薄いゾーンを生成することが依然として困難であるため、物理的に達成可能な理論的限界に未だ達していない。
【0010】
効率を、フレネルゾーンプレートの製造におけるさらなる因子であると考えることができる。吸収リングおよび透過リングを互いに交互に備える標準的なフレネルゾーンプレート(いわゆる、振幅ゾーンプレート)の理論的効率は、一次において、約10%に限られる。他の種類のゾーンプレートは、より高い効率を有するが、標準的なフレネルゾーンプレートおよび他の構造の両方の主たる問題点の1つは、製造プロセスにおける限界ゆえに、理論的に予測される効率を達成することが難しいことにある。
【0011】
ゾーンプレートの高さまたはアスペクト比が、フレネルゾーンプレートについて適切な製造方法を決定するときに、考慮に入れなければならない重要な変数の1つである。一般に、特に高いエネルギで使用される振幅ゾーンプレートにおいて、ゾーンプレートは、高いアスペクト比を有さなければならない。集光させるべきX線のエネルギが大きいほど、集光に必要とされるゾーンプレートの最適高さも大きくなる。現在の製造方法において直面される技術的限界ゆえに、高いアスペクト比を有するゾーンプレートの製造は、依然としてきわめて困難である。
【0012】
要約すると、ゾーンプレートの製造における問題点に関して、以下の重要な因子、すなわち分解能、効率、アスペクト比、および製造プロセスの費用に、注意すべきである。目的は、薄い〜きわめて薄い最も外側のゾーンおよび高いアスペクト比の両方を有するフレネルゾーンプレートの製造を可能にする信頼できる製造プロセスである。
【0013】
高分解能のフレネルゾーンプレートの形成に現時点において使用されている技術は、多くの場合、電子ビームリソグラフィの分野に由来する。これらの方法においては、基本的に1つのゾーンプレートパターンがレジスト(電子ビームに反応するラッカー)に刻まれ、結果として現像後に型が形成され、この型がガルバナイゼーションによって金属で満たされる。次いでレジストが取り除かれ、ゾーンプレートがもたらされる。別の一般的に知られているフレネルゾーンプレートの製造のための技術は、いわゆる「スパッタ−スライス法」であり、この方法においては、吸収材料および透過材料の薄い層が、回転しているワイヤへと交互に堆積され、結果として適切なゾーンプレートパターンが生成される。次いで、コート済みのワイヤまたはその一部を、必要な厚さへと研削または研磨することができる。
【0014】
リソグラフィにもとづく方法は、現在のところ、分解能に関してゾーンプレートを製造する最も一般的な方法の1つである。最も薄い最も外側のゾーンによる高い分解能が可能である。しかしながら、この方法は、電子ビームレジストにおける電子ビームの直径および散乱の結果として、いくつかの限界を抱える。より高い分解能(特に、きわめて小さい構造的な幅を有するゾーンの透過)の達成が、これまでのところ成功しておらず、この種の構造を電子ビームリソグラフィの助けによって透過できるのか否かも、未だ明確にされていない。
【0015】
限られた分解能を改善するために、さまざまな方法が提案されている。例えば、「ダブルパターニング」重ね合わせ法においては、きわめて高い分解能が可能であるが、この場合には、きわめて正確な配置の技法が必要となり、これが、この方法を、時間およびコストのかかるものにしている。リソグラフィ法と薄い層を付着させる方法とを組み合わせてなる「ゾーン二重化」法が、より高い分解能を有するテスト構造の製造を可能にしているが、X線吸収材料をゾーンプレートの全体に付着させることが必要になるため、レンズの効率がかなりの程度にまで低下する。
【0016】
「スパッタ−スライス」法は、リソグラフィ法と比べて、分解能に関して精度が限られており、高分解能のフレネルゾーンプレートの設計に適さないことが明らかになっており、結果として、ほとんど使用されていない。
【0017】
要約すると、従来技術によれば、以下に注目すべきである。
・特に軟X線の範囲におけるフレネルゾーンプレートの分解能に関して、これまでのところ、最良の結果は、電子ビームリソグラフィ法によって達成されている。
・フレネルゾーンプレートの効率は、理論的に限られており、現実においては、不備なゾーンにつながりかねない種々の製造方法の不正確さによってさらに制限される。より高い効率を有する別のゾーンプレート構造は、これまでに知られている製造方法では、困難を伴わない限り実現することができない。
・高いエネルギの範囲において使用される高分解能のフレネルゾーンプレートには、高いアスペクト比が必要である。現行の電子ビームリソグラフィ法は、この場合に、限られた程度までしか使用することができない。結果として、硬X線照射については、高い分解能が困難である。
・電子ビームリソグラフィ法は、現時点において、高い分解能を有するFZPの好ましい製造方法の1つであるように思われる。しかしながら、分解能のさらなる改善は、かなりの追加の費用がなければ達成することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、フレネルゾーンプレートの製造のための方法および装置であって、高い分解能、小さな層の厚さ、高いアスペクト比、ならびに誤差のない層またはゾーンを有するフレネルゾーンプレートを、簡単かつ安価に製造できるようにする方法および装置を利用可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、方法に関して、請求項1の特徴によって達成され、装置に関して、請求項14の特徴によって達成される。
【0020】
本発明の本質的な態様は、フレネルゾーンプレートの製造のための本発明による方法が、
中心軸(好ましくは、長手方向の軸)に関して回転対称である(好ましくは、細長い)基材を利用可能にするステップと、
前記基材を回転させずに好ましくは該基材の面へと原子層堆積(ALD)法によって層を順に堆積し、コート済みの(好ましくは、細長い)基材を形成するステップと、
前記コート済みの基材を前記中心軸(特に、長手方向の中心軸)に対して直角に少なくとも1回分割することで、該コート済みの(好ましくは、細長い)基材から少なくとも1つのスライスを分断するステップとを備えるという事実にある。
【0021】
本発明によるこの形式の製造方法によれば、コート済みの細長い基材を形成するために、製造方法において基材の回転が不要であるため、フレネルゾーンプレートの簡単な製造が可能になる。実際、ALD法によって、一方では回転なしでの加工が可能になり、他方では得られる高分解能のフレネルゾーンプレートを形成するためのきわめて薄い層を得ることが可能になる。これは、フレネルゾーンプレートの層が薄いほど、分解能が向上するからである。これは、特に最も外側の層に当てはまり、すなわち層が外側に堆積される場合には、コート済みの細長い基材の最も新しく堆積された層に当てはまる。層が内側に堆積される場合には、これがコート済みの基材の最初に堆積された層である。
【0022】
細長い基材からスライスの形態で切り出されるフレネルゾーンプレートの良好な品質の前提条件は、表面の粗さがわずかでありかつ長手方向の中心軸に関する基材の対称の逸脱がわずかである基材の滑らかな表面である。
【0023】
さらに、このやり方で製造されたフレネルゾーンプレートは、高いアスペクト比を有し、高いX線エネルギにおいて使用することが可能である。これは、例えば、硬X線照射におけるフレネルゾーンプレートの使用に当てはまる。この際に得られるフレネルゾーンプレートの分解能の数字は、およそ5〜100nmとなることができ、好ましくは約15nm未満になることができる。
【0024】
コート済みの基材の断面に関して基材の周囲に通常の円形の形態で存在する個々の層の堆積にALD法を使用することで、層の厚さおよび組成の正確な監視が可能になる。これは、原子層堆積に対応する原子層堆積法の使用によって可能にされる。加えて、この結果として、高いアスペクト比および高い分解能を得るためのきわめて薄い層が生成される。
【0025】
加えて、ALD法を使用することによって、わずか数ナノメートル以下の厚さの層を堆積することが可能である。最も外側のゾーンまたは層が、例えば数ナノメートルの層厚さを有することができ、すなわち例えば5〜100nm、より好ましいやり方では5〜30nm、好ましくは15nmを下回り、さらには1nmまでの範囲からの層厚さを有することができ、これが現在まで使用されている標準的な電子ビームリソグラフィ法に対する顕著な利点につながる。
【0026】
加えて、標準的な「スパッタ−スライス」法の場合と異なり、層の堆積の際に基材の回転を実行する必要がなくなる。実際に、これによって基材の機械的な振動を防止でき、これが個々の層のより良好な品質結果につながり、すなわち不具合の少ないゾーンの構造がもたらされる。これが、結果として、分解能の改善および効率の改善に関して好都合な効果を有し、効率が理論的に達成可能な数字に近付く。
【0027】
ALD法の使用は、層の材料の多様な選択を提供する。これらの層の材料および随意による材料の組成を、それらの組成比について正確なやり方で制御することができる。各々の個別の原子層について、どの材料を堆積するかを決定することが可能である。結果として、高度に正確な様相で制御された構造を有するフレネルゾーンプレートの製造のための経路が平滑化される。例として、先行技術から知られた形態のキノフォームゾーンプレートを、100%の効率という理論的な程度を有する結果として簡単なやり方で製造することができる。
【0028】
好ましい実施形態によれば、ワイヤなどの円柱形の部材が、細長い基材として使用される。この形式のワイヤが使用される場合、外面に個々の層がALD法によって設けられる。
【0029】
あるいは、例えば、中央に長手方向の中心軸の方向の貫通穴(例えば、内腔の形態の貫通穴)が配置された円柱形の部材を使用することが可能である。この形式の円柱形の部材の内側、すなわち貫通穴の壁面に、個々の層を設けることが可能である。これに代え、あるいはこれに加えて、この形式の円柱形の部材の外壁に、層を設けてもよい。
【0030】
細長い基材を、テーパ状または円錐台形状の部材の形態に設計することが可能である。同じやり方で、任意の他の対称な三次元形状を使用することができる。例えば、断面において見たとき、楕円形を細長い基材として使用することができる。同じやり方で、断面において円形を有しているが、自身の長手方向の延在において異なる直径を呈する細長い基材も可能である。加えて、基材の形状として、球形または球形の一部分を使用することも可能である。
【0031】
円柱形、テーパ状、または円錐台形状の部材の順次の層が、基材と一緒に、長手方向の中心軸に対して直角に、スライスの様相で切断される。この場合、例えば数10nm〜10μmの範囲からなど、きわめて小さい厚さのスライスを使用することができる。この目的のために、従来からの切断ツール、分離ツール、または従来からの分離方法が使用され、あるいはFIB(集束イオンビーム)法でさえも使用される。
【0032】
このやり方で、複数の個別のフレネルゾーンプレート(すなわち、複数の分断されたスライス)をもたらすコート済みの細長い基材を、1回だけ行われる製造方法によって製造することができる。
【0033】
分断された層のスライス厚さが、研削または研磨の処理によって減らされ、スライス厚さの所望の寸法が得られる。
【0034】
分断されたスライスが、フレネルゾーンプレートとして固定された形態で使用できるよう、さらなる基材へと貼り付けられる。好都合には、最も外側の層が、5〜100nm、より好ましい様相では5〜30nm、好ましくは15nmを下回って1nmまでの範囲からの層厚さを有する。例えば38μmという全体としての直径および35nmという最も外側のゾーンの幅を有する1200eVでの使用のためのゾーンプレートのゾーンの幅は、外側から内側へと35nmから477nmに変化する。
【0035】
ガラス、金属、セラミック材料、またはポリマーが、基材として頻繁に使用される。
【0036】
当然ながら、表面の粗さがわずかであり、回転対称における逸脱がわずかであるという特性を有する任意の他の材料も、使用することが可能である。
【0037】
上述のとおりの方法を実行するための装置は、好都合には、細長い基材から個々のスライスを分断または切断する分断装置または切断装置を有する。同じやり方で、原子層堆積法を堆積するための装置が設けられ、ALD法による個々の層の堆積の際に基材を回転させることなく固定する装置が設けられる。
【0038】
加えて、スライスの所望の厚さを生み出すために、分断後の個々のスライスを研磨または研削するための装置を使用することができる。
【0039】
すでに述べたように、複数のフレネルゾーンプレートを、例えばワイヤの形態の個々の基材から、この基材がどんなに長く製作されたかにかかわりなく、切り出すことが可能である。コート済みの基材をスライスへと切断することによって、ワイヤが使用される場合について、より大規模でのフレネルゾーンプレートの製造を実行することができる。ワイヤへと個々の層を堆積した後で、複数のフレネルゾーンプレートを、スライスの様相で切り出すことができる。結果として、ここで使用される製造方法は、電子ビームリソグラフィプロセスと比べ、効率的かつ比較的簡単になる。電子ビームリソグラフィが使用される場合には、多数のフレネルゾーンプレートを製造し、その中から所望の集光効果を有するフレネルゾーンプレートを得なければならないため、製造の歩留まりが比較的低い。このようにして、フレネルゾーンプレートの本発明による製造は、安価かつ効率的である。
【0040】
さらなる好都合な実施形態が、従属請求項に記載される。
【0041】
有利かつ好都合な特性が、図面による以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明による方法に従って複数のフレネルゾーンプレートを製造するためのコート済みの細長い基材の第1の断面図である。
【図2】本発明による方法に従って複数のフレネルゾーンプレートを製造するための第2のコート済みの細長い基材の断面図である。
【図3】本発明による方法に従って複数のフレネルゾーンプレートを製造するためのコート済みの細長い基材の断面図である。
【図4】コート済みの円柱形の基材の断面における全視野顕微鏡画像化である。
【図5】本発明による方法に従ってコート済みの基材の層の一部分を切り出したSEM(走査型電子顕微鏡)記録である。
【図6】分断処理の最中のコート済みワイヤのSEM記録である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
ワイヤによって代表されるような円柱形の基材による本発明の第1の実施形態が、図1に断面図で再現されている。図1に示されるように、ワイヤ1が、長手方向の中心軸1aを有し、この断面図によれば、左側の外壁1bおよび右側の外壁1cを有しており、外壁1bおよび1cは、円柱形の被膜の一部分である。
【0044】
この形式の基材1は、以下の実施形態の基材と同様に、光軸または長手方向の中心軸1aを中心とする実質的に理想的な回転対称を有している。これは、例えば約30μmの直径を有する基材が、長手方向の中心軸に関して、逸脱が25〜50nm未満である丸さを有することを意味する。この場合には、丸さが、理想の円からの逸脱として定義される。円が理想的でなく、a軸およびb軸を有する楕円を形成するように設計されている場合、丸さについて、以下が当てはまる。
丸さ=a−b
【0045】
使用される基材の光軸または長手方向の中心軸に関する実質的に理想的な対称は、光学収差を防止するために必要である。ゾーンまたは層の配置のずれは、実際に、フレネルゾーンプレートの効果的な働きに深刻な影響を及ぼす。製造方法に関連して考えられる配置の精度の異なる程度は、楕円率、非同心度、および半径シフトである。これらは、それぞれの場合において、以下の収差、すなわち非点収差、コマ収差、および球面収差につながる。したがって、フレネルゾーンプレートについて満足できる集光特性を得るために、高い精度の要求が必要であると考えられる。同じやり方で、例えばガラスまたは任意の他の材料からなる球など、円錐、楕円、または任意の他の軸対称な基材を、使用することが可能である。例として、図2に示されるような円錐台形状、または図3に示されるような長手方向の中心軸の方向に見たときに貫通穴を有している円柱形の形状を、使用することができる。
【0046】
図1において、堆積された個々の層が、参照番号2a〜2dによって示されている。第1の層2aが、まず最初に堆積され、その後にALD法によって層2bが、次いで層2cが、最後に層2dが堆積される。個々の層の実際の数および厚さは、ゾーンプレートの公式によってあらかじめ設定され、典型的には100〜数百の層に達する。
【0047】
細長い様相にて形作られ、コート済みの基材を構成している円柱が、続く分離方法(2つのシルエット3aおよび3bによって示されている)によって個々のスライス形状とされ、研磨または研削の実行後に、フレネルゾーンプレートを構成する。シルエット3aおよび3b(あくまでもスタイリスティックに示されているにすぎない)に従った複数の分離により、細長い様相でコート済みのこの形式の基材1から、複数のフレネルゾーンプレートがもたらされる。
【0048】
図2に再現されている円錐台形状の基材4も、同じやり方で、図2には断面が再現されているがために円錐台形状の被膜の一部分を構成している外壁4bおよび4cを有している。長手方向の中心軸4aが、この円錐台形状の対称を示している。
【0049】
層5a〜5dが、ALD法によって、回転なしで、5a、5b、5c、および5dの順に堆積されている。
【0050】
その後に、コート済みの細長い基材の分断が、スタイリスティックに配置された切断地点6aおよび6bに従って行われることで、このやり方でスライスまたは複数のスライスが得られるが、これは基材の円錐台形状にもとづいて異なる直径および傾斜したゾーンを有するフレネルゾーンプレートをもたらし、得られるゾーンプレートについて、集光能力および分解能などに関して異なる使用目的を随意により有することができる。
【0051】
スライスは、好ましくは、数マイクロメートル〜数100ナノメートルの高さを有する。これは、スライスの厚さに相当する。
【0052】
このやり方で製造されたフレネルゾーンプレートは、アスペクト比に関して自然の上限を有さない。層を基材へと堆積した後で、基材から切り出すことができるスライスの高さまたは厚さは、必要に応じた高さである。結果として、上限が存在せず、したがってアスペクト比の限界が存在しない。ゾーンプレートの作成が、高い分解能を意図しているため、一方では微細な層構造を傷めることがない切断および薄化のプロセスという要件が存在し、他方ではスライスへの切断に適した層という要件が存在する。この場合に、集束イオンビーム(FIB)による方法が、フレネルゾーンプレートをスライスへと切断して薄くするための適切な方法であることが、明らかになっている。したがって、イオンビーム分離装置が、この形式の分断または切断装置を構成する。
【0053】
同じやり方で、図1に図式的に示したとおりのガラスワイヤへのTaおよびAlの層の交互の堆積が、簡単なやり方でのスライスへのさらなる切断およびコーティング基材の薄化を可能にする耐久性のある最終的なコーティングをもたらすことが明らかになっている。
【0054】
この場合、ALD法によって、分布に関する優秀な一様性および層の厚さに関する良好な精度を有しつつ、TaがX線吸収材料として設けられ、AlがX線透過材料として設けられる。例えば、TaおよびAlの100を超える層を、5〜100nmの範囲の最も外側の層の厚さにて、上述の基材へと堆積することが好都合である。
【0055】
上述の基材、すなわちTaおよびAlの交互の層を有するガラスワイヤを、以下の方法によってスライスへと切断し、薄くすることが可能である。
【0056】
層を原子層堆積(ALD)によってファイバまたはワイヤにそれぞれ堆積した後で、コート済みのガラスファイバが、集束イオンビームおよび走査型電子顕微鏡を有する装置の組み合わせである二連ビーム器具へと移され、以下の処理工程が実行される。
・外側層が、白金の堆積によって保護される。
・約5μmの幅を有するスライスが、集束イオンビームによって切り出される。
・スライスが、極微操作装置(オムニプローブ)によってキャリア構造(TEM格子)へと移され、白金で固定される。
・スライスが、装置において集束イオンビームによって薄くされ、あるいは狭くされ、すなわち厚さが減らされる。この場合、繊細な層構造を破壊することなく、600nm未満の厚さを、この場合には達成することができる。
・円板の形態であり、X線照射を通さないスクリーンが、集束イオンビームによってフレネルゾーンプレートの中心に堆積される。
【0057】
図3に示されているように、小さな管または毛管を、ガラスワイヤの代案として使用することができ、その場合には、層の堆積が、貫通穴20の壁の内側について行われる。この場合にも、基材7の回転は行われない。基材7の内壁が、7bおよび7cで指し示されている。長手方向の中心軸が、7aで指し示されている。
【0058】
個々の層が、参照番号8a〜8dによって表されている。当然ながら、基材7は、円柱の形状に設計されている。図3には、その断面だけが示されている。
【0059】
コーティングが行われた後で、やはり図3によれば参照番号9aおよび9bにて図式的に再現されている分離の手順が実行される。この場合、層の厚さ9cを有する個々のスライスが製造され、この厚さ9cを、後の狭くする方法にて減らすことができる。図1および図2に再現されており、図1および図2に示した基材から製造されるスライスの層の厚さは、3cおよび6cによって示されている。
【0060】
ガラスワイヤ10が、図4に断面で示されている。これは、X線顕微鏡画像である。最適な丸さからのずれがごくわずかであり、すなわち約30μmの直径の場合の25〜50nm未満に相当することが、図から明らかである。
【0061】
堆積された個々の層11の切断図が、図5にREM画像によって再現されている。コーティングの幅の全体にわたって層が明瞭かつ滑らかな境界面を示していることが、この図から明らかである。
【0062】
図6に、分断の手順の際のワイヤの側面図が、REM画像にて示されている。番号12が、切断を指し示しており、13が、分断されるスライス(フレネルゾーンプレート)を示している。
【0063】
本発明による製造方法および本発明による装置は、高い分解能、大きなアスペクト比、および低い不良率で硬および軟の両方のX線照射に使用することができるフレネルゾーンプレートを製造するために使用することが可能である。
【0064】
出願書類に開示の特徴のすべてが、個別または組み合わせにおいて先行技術と比べて新規である限りにおいて、本発明に不可欠であるとして請求される。
【符号の説明】
【0065】
1,4,7 ワイヤ、基材
1a、4a、7a 長手方向の中心軸
1b、1c、4b、4c 外壁
2a、2b、2c、2d ALDによって堆積された層の例示
5a、5b、5c、5d ALDによって堆積された層の例示
8a、8b、8c、8d ALDによって堆積された層の例示
3a、3b、6a、6b 切断
11 層
9a、9b、12 切断
7b、7c 内壁
3c、6c、9c 層の厚さ
10 ガラスファイバ
13 分断されたスライス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にアスペクト比の制限がないフレネルゾーンプレート(15)の製造方法であって、
中心軸(1a、4a、7a)に関して回転対称である基材(1、4、7)を利用可能にするステップと、
前記基材(1、4、7)を回転させずに該基材(1、4、7)の面(1b〜c;4b〜c;7b〜c)へと原子層堆積(ALD)法によって層(2a〜d;5a〜d;8a〜d;11)を順に堆積し、コート済みの基材を形成するステップと、
前記コート済みの基材(1、4、7)を前記中心軸(1a、4a、7a)に対して直角に少なくとも1回分割することによって、該コート済みの基材(1、4、7)から少なくとも1つのスライス(13)を分断するステップ(3a、b;6a、b;9a、b)と
を含んでいる方法。
【請求項2】
前記中心軸に相当する長手方向の中心軸(1a、4a、7a)を有している細長い基材(1、4、7)が、前記基材として使用され、前記面が、前記細長い基材の長手方向に延びる側面(1b〜c;4b〜c;7b〜c)を構成していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ワイヤ(1)などの円柱形の部材(1、7)が、細長い基材として使用されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記円柱形の部材(7)が、中心に配置された長手方向の中心軸(7a)の方向の貫通穴(20)を有していることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
テーパ状または円錐台形状の部材(4)が、前記細長い基材として使用されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記順に続く層(2a〜d;5a〜d)が、円柱形またはテーパ状または円錐台形状の部材(1、4)の外側に堆積されることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記順に続く層(8a〜d)が、前記貫通穴(20)を有する円柱形の部材(7)へと、該貫通穴(20)の壁(7b、7c)に沿って内側に堆積されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
球または球の一部が、前記基材として使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記分断されたスライス(13)の厚さ(3c、6c、9c)が、研削および/または研磨処理によって減らされることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記分断されたスライス(13)が、さらなる基材へと貼り付けられることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
1〜150nmの範囲の層厚さを有し、好ましくは15nm未満の層厚さを有する最大の半径の前記層(2a〜d;5a〜d;8a〜d;11)が堆積されることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ガラス、金属、セラミック材料、またはポリマー、あるいはこれらの複合物からなる基材(1、4、7)が使用され、前記層(2a〜d;5a〜d;8a〜d;11)が、交互にTaおよびAlから形成されることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
100nm〜10μmの範囲からのスライス厚さ(3c、6c、9c)を有するスライス(13)が分断されることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
先行する請求項のいずれか一項に記載の方法を実行するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−508735(P2013−508735A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535730(P2012−535730)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065492
【国際公開番号】WO2011/054651
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(390040420)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (54)
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.