説明

フロントフォーク

【課題】 車体側チューブと車輪側チューブとの間の潤滑隙間の潤滑材がオイルシール越しに漏出する可能性をあらかじめ検知し得て、潤滑材の漏出に未然に対処することで、爾後に誘発される封入エアの漏れの阻止を可能にする。
【解決手段】 車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間にオイルシール12の配設で外部と遮断されながら潤滑材を収容する潤滑隙間Aを有し、オイルシール12が車輪側チューブ2を出没可能に挿通させる車体側チューブ1における開口端部を形成するシールケース部1aに配設されると共に、このシールケース部1aに潤滑隙間A側からオイルシール12に隣接する液溜り室Rが画成され、この液溜り室Rに貯留液体Fが収容されると共に、この貯留液体Fがオイルシール12越しに車体側チューブにおける開口端部から突出する車輪側チューブ2の外周に漏出することで、潤滑隙間Aから潤滑材が漏れていることを検知可能にしてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントフォークに関し、特に、二輪車の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する緩衝器たるフロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フロントフォークにあって、懸架バネの収装に代えて、あるいは、懸架バネの収装と共に、所定圧のエアの封入でフロントフォークを伸長方向に附勢する技術が多用される傾向にある。
【0003】
このような所定圧のエアを封入するフロントフォークにあって、車体側チューブと車輪側チューブとの間に出現する潤滑隙間にある潤滑材、たとえば、フロントフォークが内蔵するダンパにおける作動流体たる作動油のオイルシール越しの漏れは、その後の封入するエアの漏れを誘発する可能性が高くなり、実際にエアが漏れる場合には、所定のエアバネ効果が得られなくなって、二輪車における所定の車高維持が困難になると共に乗り心地が損なわれる。
【0004】
そこで、従来から、車体側チューブと車輪側チューブとの間に出現する潤滑隙間にある潤滑材がオイルシール越しに外部に漏出しないようにする提案があり、たとえば、特許文献1に開示されている提案にあっては、潤滑隙間にある潤滑材が外部に漏出することを阻止するオイルシールの耐久性を保障手段で保障するとし、この保障手段は、オイルシールに隣接する潤滑隙間における油圧を抑制するとしている。
【0005】
それゆえ、この特許文献1に開示の提案にあっては、保障手段が車体側チューブと車輪側チューブとの間に出現してオイルシールに隣接する潤滑隙間における油圧を抑制するから、オイルシールの耐久性が向上され、潤滑隙間にある潤滑材のオイルシール越しの漏れを効果的に阻止し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−127410号公報(要約,請求項1,請求項2,請求項3,請求項5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、車体側チューブと車輪側チューブとの間に出現する潤滑隙間における油圧を抑制することで、オイルシールの耐久性を向上させて油漏れを阻止し得る点で、基本的に問題がある訳ではないが、その実施にあって、些か不具合があると指摘される可能性がある。
【0008】
すなわち、上記した特許文献1に開示されている提案にあって、保障手段は、車体側チューブ内に車輪側チューブが最没入する最収縮作動時に車体側チューブと車輪側チューブとの間に出現してオイルシールに隣接する潤滑隙間における油圧を抑制する。
【0009】
そして、保障手段の具体的な構成としては、たとえば、車体側チューブの閉塞端部と車輪側チューブの開口端部とに連結されてその内外の連通を遮断する遮蔽部材を有し、あるいは、車輪側チューブの外周に保持されて車体側チューブの内周に摺接しながら車体側チューブと車輪側チューブとの間の潤滑隙間を画成するシール部材を有する。
【0010】
つまり、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、保障手段が車体側チューブと車輪側チューブとの間に遮蔽部材やシール部材を有するとするから、フロントフォークにあっては、新たな部品の配置やそれに伴う加工が必須になり、製品コストの低減化が阻害されると共に、車体側チューブと車輪側チューブとの間における摺動性に少なからぬ影響があり、伸縮作動性が阻害されて二輪車における乗り心地が損なわれることが懸念される。
【0011】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、車体側チューブと車輪側チューブとの間に出現する潤滑隙間にある潤滑材がオイルシール越しに漏出する可能性をあらかじめ検知し得て、潤滑隙間にある潤滑材の漏出に未然に対処することで、この潤滑材が漏れる場合に誘発される封入するエアの漏れを阻止して、二輪車における乗り心地が損なわれることを回避し得るようにしたフロントフォークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、この発明によるフロントフォークの構成を、基本的には、車体側チューブと車輪側チューブとを有すると共に車体側チューブと車輪側チューブとの間にオイルシールの配設で外部と遮断されながら潤滑材を収容する潤滑隙間を有してなるフロントフォークにおいて、オイルシールが車輪側チューブを出没可能に挿通させる車体側チューブにおける開口端部を形成するシールケース部に配設されると共に、このシールケース部に潤滑隙間側からオイルシールに隣接する液溜り室が画成され、この液溜り室に貯留液体が収容されると共に、この貯留液体がオイルシール越しに車体側チューブにおける開口端部から突出する車輪側チューブの外周に漏出することで、潤滑隙間から潤滑材が漏れていることを検知可能にしてなるとする。
【0013】
そして、より具体的には、上記の貯留液体が車輪側チューブの外周色と異なる色に着色されて車体側チューブにおける開口端部から突出する車輪側チューブの外周に漏出することを視認可能にしてなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
それゆえ、この発明にあって、車体側チューブと車輪側チューブとの間に出現する潤滑隙間にある潤滑材は、この潤滑隙間側からオイルシールに隣接する液溜り室にある貯留液体がオイルシール越しに外部たるシールケース部から突出する車輪側チューブの外周に漏出した後でなければ、シールケース部から突出する車輪側チューブの外周にオイルシール越しに漏出し得なくなる。
【0015】
そして、液溜り室にある貯留液体がシールケース部から突出する車輪側チューブの外周にオイルシール越しに漏出する場合には、これを検知可能にしてなるから、その後に発現される潤滑材の漏れを、たとえば、二輪車の利用を中止することで回避できる。
【0016】
このとき、液溜り室にある貯留液体が車輪側チューブの外周色と異なる色に着色されてなる場合には、オイルシールに隣接して設けられた液溜り室から貯留液体がシールケース部から突出する車輪側チューブの外周にオイルシール越しに附着することで、貯留液体が漏出していることを容易に視認し得る。
【0017】
その結果、潤滑材の漏れによって誘発されるその後の封入するエアの漏れを未然に回避し得ることになり、封入するエアが漏れることによって、所定のエアバネ効果が得られなくなって、二輪車における乗り心地が損なわれることをあらかじめ阻止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態によるフロントフォークを破断して部分的に示す半截縦断面図である。
【図2】図1のフロントフォークにおける要部を拡大して示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明によるフロントフォークは、二輪車(図示せず)の前輪(図示せず)側に装備されて走行中の振動を吸収する緩衝器として機能する。
【0020】
ちなみに、フロントフォークを二輪車の前輪側に装備するについては、図示しないが、左右となる二本のフロントフォークの上端側部をあらかじめブリッジ機構で一体化し、各フロントフォークにおける車輪側チューブ2(図1参照)の下端部を前輪の車軸に連結させて前輪を挟むようにして懸架する。
【0021】
そして、ブリッジ機構は、図示しないが、フロントフォークを構成する車体側チューブ1(図1参照)における上端部の上方側部に連結されるアッパーブラケットと、下方側部に連結されるアンダーブラケットとを有し、それぞれが両端部に形成の取り付け孔に車体側チューブ1における上端部を挿通させて一体的に把持する。
【0022】
また、このブリッジ機構は、同じく図示しないが、アッパーブラケットとアンダーブラケットとを一体的に連結する一本のステアリングシャフトを両者の中央に有し、このステアリングシャフトが二輪車における車体の先端部を構成するヘッドパイプ内に回動可能に導通され、これによって、ハンドル操作による二本のフロントフォークを介しての前輪における左右方向への転舵が可能になる。
【0023】
ところで、この発明によるフロントフォークは、図1に示すところにあって、上端側部材とされるアウターチューブからなる車体側チューブ1内に下端側部材とされるインナーチューブからなる車輪側チューブ2がテレスコピック型に出没可能に挿通されて伸縮可能とされるフォーク本体(符示せず)を有し、このフォーク本体が内部に封入されるエア圧によって車体側チューブ1内から車輪側チューブ2を突出させるように伸長方向に附勢される。
【0024】
そして、このフォーク本体内に封入されるエア圧は、フォーク本体が最伸長状態にあるときに、大気圧以上となるとして、フォーク本体が最伸長状態から反転して収縮作動を開始する当初から、たとえば、ダンパ内の減衰部による減衰作用がいわゆる遊びなくして設定通りに具現化されるように配慮されている。
【0025】
もっとも、フォーク本体内に封入されるエア圧については、フロントフォークが二輪車の前輪側に装備される状況では、わずかではあるが収縮状態になることでエア圧が大気圧以上になるから、その意味では、最伸長状態時に大気圧以上になっていなくても良いと言い得る。
【0026】
また、フォーク本体を伸長方向に附勢するについて、図示するところでは、封入されるエア圧によるとしたが、この発明が意図するところからすると、フォーク本体が懸架バネを収装していて、この懸架バネとの協働でフォーク本体を伸長方向に附勢するとしても良い。
【0027】
そして、フォーク本体が専ら懸架バネによって伸長方向に附勢されるとしても、フォーク本体内には、事実上、エアが封入されるから、この封入されるエアの漏れを回避してチューブ反力を保障するとの観点からすれば、この発明の適用が可能とされるのはもちろんである。
【0028】
ところで、この発明は、車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間に出現する潤滑隙間Aにある潤滑材(符示せず)が後述するオイルシール12越しに外部に漏出し、それゆえ、その後に、この潤滑隙間Aを介してフォーク本体内に封入のエア圧が抜ける不具合を招来させないようにする。
【0029】
それゆえ、この観点からすれば、フォーク本体が懸架バネではなくて内部に封入されるエア圧で伸長方向に附勢される図示例の場合に、この発明が効果的に具現化されることになる。
【0030】
もっとも、フォーク本体が繰り返し最収縮状態になるとしても、車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間に出現する潤滑隙間Aにある潤滑材がオイルシール12越しに外部に漏出しないようにするとの観点からすれば、フォーク本体が内装する懸架バネのバネ力で伸長方向に附勢されてなるとしても、この発明の具現化を妨げるものではない。
【0031】
なお、この発明のフロントフォークにあっては、フォーク本体内に封入されるエア圧によって伸長方向に附勢されるから、たとえば、フォーク本体内に内装される懸架バネによって伸長方向に附勢される場合に比較して、懸架バネを有しない分フロントフォークにおける全体重量の軽減化に寄与する。
【0032】
一方、図示するフォーク本体にあっては、車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間に上下となって離間配置される上方の軸受21と下方の軸受11とを有し、この上方の軸受21と下方の軸受11が車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間における同芯となる摺動性を保障する。
【0033】
そして、このフォーク本体にあっては、離間配置される上方の軸受21と下方の軸受11とで車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間に潤滑隙間Aを出現させ、この潤滑隙間Aに車輪側チューブ2に開穿の連通孔2aを介して車輪側チューブ2の内側の作動流体、たとえば、フォーク本体の軸芯部に配設されるダンパ(図示せず)における作動流体たる作動油の流入を許容し、この流入した作動油を潤滑材にして車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間における潤滑を保障する。
【0034】
そしてまた、車体側チューブ1の図中で下端部となる開口端部は、シールケース部1aとされ、図2にも示すように、このシールケース部1aの内周には、下方の軸受11が配設されると共に、この下方の軸受11に原理的に直列するようにオイルシール12とダストシール13が配設され、オイルシール12の配在でフォーク本体内を密封空間にする。
【0035】
なお、ダストシール13は、車輪側チューブ2の外周に付着する微小な砂粒などのダストを掻き落し、このダストが上記のオイルシール12側に侵入することを阻止して、オイルシール12におけるシール面(符示せず)の傷付きを回避させてシール機能を保障する。
【0036】
そして、図示するシールケース部1aにあっては、オイルシール12とダストシール13との間にオイルシール12のダストシールイ13側へのいわゆる抜けを阻止するストップリング14が配設され、また、オイルシール12を所定位置に定着させるホルダ部材15が上記の軸受11に隣接しつつオイルシール12との間に隙間(符示せず)を有して配設されている。
【0037】
さらに、車体側チューブ1内に車輪側チューブ2が大きいストロークで没入するフォーク本体の最収縮作動時には、それ以上の収縮を阻止するべく、図示しないが、車輪側チューブ2の上端が車体側チューブ1側に当接される設定としても良く、また、詳しくは図示しないが、オイルロック機構で最収縮作動時の底突きが阻止されるとしても良い。
【0038】
そして、フォーク本体が最伸長するときには、図示しないが、多くの場合に、ダンパが収装する伸び切りバネが最収縮し、この伸び切りバネの最収縮でいわゆる衝撃吸収が実現される。
【0039】
ところで、このフォーク本体にあっては、上記のオイルシール12の配設で密封空間となる内方をリザーバ(符示せず)に設定し、このリザーバは、所定量の作動油を収容すると共に、作動油の油面(図示せず)を境にして画成される気室(符示せず)を有し、この気室は、フォーク本体の伸縮作動時に同期して膨縮して、この膨縮の際に所定のエアバネ力を発生する。
【0040】
ちなみに、上記の気室は、車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ部材16(図1参照)に配設されるエアバルブ(図示せず)類を介して封入された内圧を高低し得るとしても良い。
【0041】
一方、このフォーク本体は、作動油を収容してリザーバとされる内方にダンパ(符示せず)を有し、このダンパは、上端側部材とされる車体側チューブ1の軸芯部に垂設されるシリンダ体3内に下端側部材とされる車輪側チューブ2の軸芯部に起立するロッド体4の上端側となる先端側を出没可能に挿通させる倒立型に設定される。
【0042】
そして、このダンパにあっては、作動油を充満するシリンダ体3内にピストン体(図示せず)が摺動可能に収装され、このピストン体には上記のロッド体4の言うなれば図中で上端部となる先端部が連結される。
【0043】
ちなみに、ロッド体4は、任意の方策で車輪側チューブ2の軸芯部に立設されて良く、図示しないが、車輪側チューブ2のボトム端を螺着させて閉塞するアクスルブラケット22(図1参照)側に基端部が螺着されている。
【0044】
一方、シリンダ体3も、基本的には、任意の方策で車体側チューブ1の軸芯部に垂設されて良いが、図示しないが、シリンダ体3の図中での上端部となるボトム端部が車体側チューブ1の上端部側に連結、すなわち、螺着される。
【0045】
また、このダンパにあっては、シリンダ体3内にピストン体(図示せず)によって画成されてピストン体の言うなれば図中で下方となるロッド側室(図示せず)と、このピストン体の図中で上方となるピストン側室(図示せず)とを有する。
【0046】
ちなみに、このダンパにあっては、凡そこの種のダンパがそうであるように、ピストン体が減衰手段を有し、それゆえ、ロッド側室とピストン側室とが減衰手段を介して連通するときに所定の減衰作用が具現化される。
【0047】
なお、ダンパについては、この発明が意図するところからすると、図示する倒立型に設定されるのに代えて、図示しないが、シリンダ体3が下端側部材にされると共に、ロッド体4が上端側部材とされる正立型に設定されても良い。
【0048】
また、図示するところにあって、ダンパを構成するシリンダ体3のヘッド端部3aには、前記したオイルロック機構を構成するオイルロックピース5が保持されており、このオイルロックピース5は、ダンパが最収縮するときに車輪側チューブのボトム部側に配設のオイルロックケース(図示せず)に嵌合して、所定のオイルロック機能を発揮する。
【0049】
一方、このフロントフォークにあっては、ダンパが収縮作動時に折れ曲がって車輪側チューブ2の内周を齧ったりすることがないように、シリンダ体3のヘッド端部3aに近い外周にガイド部材6を有している。
【0050】
すなわち、外周に作動油の通過を許容する切欠通路6aを有して外周を車輪側チューブ2の内周に摺接させるガイド部材6を有し、このガイド部材6は、同じくシリンダ体3の外周に保持されたストッパ61に係止されて所定位置に固定状態に配設されている。
【0051】
ちなみに、図示する実施形態では、詳しくは図示しないが、上記のシリンダ体3にあって、ヘッド端部3aがヘッド端部部材(符示せず)で形成されると共に、このヘッド端部部材にシリンダ体3における本体部分(符示せず)が連結部材たるコネクタ7で連結されてなるとする。
【0052】
そして、このコネクタ7の外周に上記のガイド部材6を介装させるとするもので、このとき、コネクタ7は、たとえば、シリンダ体3の本体部分に螺着されるとし、この螺着の際に、コネクタ7とシリンダ体3の本体部分との間に環状溝7aを出現させ、この環状溝7aに上記のストッパ61を係止させるスナップリング71を嵌装させるとしている。
【0053】
このように、コネクタ7を利用してスナップリング71を嵌装させるための環状溝7aを形成する場合には、シリンダ体3の外周に環状溝を直接形成する場合に比較して、シリンダ体3の機械的強度を低下させない利点があると共に、環状溝7aを切削加工などで形成する手間を要しない点で有利となる。
【0054】
ところで、以上のように形成されたこの発明によるフロントフォークにあっては、前記したように、車輪側チューブ2を出没可能に挿通させる車体側チューブ1における図中で下端部となる開口端部たるシールケース部1aにオイルシール12を配設させてなる。
【0055】
このオイルシール12は、基本的には、その上方の潤滑隙間A、すなわち、車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間に出現する潤滑隙間Aにある潤滑材がこのオイルシール12を交すようにして外部、すなわち、車体側チューブ1の開口端部から外部に突出する車輪側チューブ2の外周に漏れ出ることを阻止する。
【0056】
ちなみに、潤滑隙間Aにある潤滑材が車体側チューブ1の開口端部から外部に突出する車輪側チューブ2の外周に漏れ出る原因としては、多くの場合に、オイルシール12が傷付く、すなわち、オイルシール12の車輪側チューブ2の外周に摺接するシール面(符示せず)が傷付くことがある。
【0057】
そして、近年のフロントフォークにあっては、前記したところであるが、懸架バネの収装に代えて、所定圧のエアの封入でフロントフォークを伸長方向に附勢する技術が多用される傾向にある。
【0058】
このようなフロントフォークにあっては、潤滑材の漏れは、エアの漏れを誘発することになり、実際にエアが漏れる場合には、フロントフォークにおいて、所定のエアバネ効果が得られなくなり、二輪車における車高維持が困難になると共に乗り心地が損なわれる。
【0059】
そこで、オイルシール12が傷付くことで、潤滑隙間Aにある潤滑材がオイルシール12を交すようにして、つまり、オイルシール12越しに外部たる車輪側チューブ2の外周に漏れ出ることを阻止する必要がある。
【0060】
そのため、この発明にあっては、フォーク本体を構成する車体側チューブ1の開口端部たるシールケース部1aに潤滑隙間A側からオイルシール12に隣接する液溜り室Rが画成されるとしている。
【0061】
そして、このフォーク本体にあっては、この液溜り室Rに貯留液体Fが収容されると共に、この貯留液体Fがオイルシール12越しにシールケース部1aから突出する車輪側チューブ2の外周に漏出すること検知可能にしてなる。
【0062】
少し説明すると、この発明にあって、車体側チューブ1の開口端部たるシールケース部1aは、前記したように、軸受11とオイルシール12との間にホルダ部材15を有しており、このホルダ部材15は、前記したように、軸受11に隣接しつつオイルシール12との間に隙間(符示せず)を有しなるが、この隙間に通じる内周側を液溜り室Rに設定している。
【0063】
つまり、この発明におけるフォーク本体にあっては、オイルシール12の上方には軸受11を介して潤滑隙間Aと直列する液溜り室Rを有し、この液溜り室Rに貯留液体Fを収容してなる。
【0064】
このことから、この発明にあっては、液溜り室Rを形成するために、新たな部品を配設する必要がなく、したがって、前記した特許文献1に開示されているように、所期の目的を達成するために新たな部品を要することになるような不具合を招来しない利点がある。
【0065】
そして、貯留液体Fは、基本的には、車輪側チューブ2の外周色と異なる色、たとえば、補色とになる色に着色されてシールケース部1aから突出する車輪側チューブ2の外周に漏出することを視認可能にしてなる。
【0066】
このとき、貯留液体Fは、具体的には、潤滑隙間Aに収容される潤滑材と異なる液体とされ、あるいは、潤滑隙間Aに収容される潤滑材とされ、もしくは、車体側チューブ1と車輪側チューブ2とからなるフォーク本体内に収容の作動流体たる作動油とされる。
【0067】
ちなみに、貯留液体Fが潤滑隙間Aに収容される潤滑材と異なる流体とされるのは、この液溜り室Rに収容される貯留液体Fが潤滑隙間Aにいわゆる逆流して潤滑隙間Aにある潤滑材と混合される事態にならないと予想されるからである。
【0068】
とは言え、この貯留液体Fが車輪側チューブ2の外周に附着し、また、この車輪側チューブ2が軸受11に摺接することを鑑みると、さらには、潤滑隙間Aに逆流することもあり得ると想定すると、所定の潤滑性を有して、少なくとも、潤滑隙間Aにある潤滑材の潤滑性を妨げないように配慮するのが好ましいであろう。
【0069】
ところで、ホルダ部材15であるが、図示するところでは、断面を指矩(さしがね)状にする、つまり、逆L字状にする環状に形成されてなるが、要は、液溜り室Rを画成し得る限りには、任意の形状に形成されて良い。
【0070】
また、この液溜り室Rには、図示しないが、たとえば、多孔質の充填材が収容され、この充填材に貯留液体Fが浸潤されてなるとしても良い。
【0071】
さらに、貯留液体Fは、液溜り室Rを形成するホルダ部材15の内側に収容されるが、図示するところでは、上方の軸受11の下端と下方のオイルシール12の上端との間に出現する空部にも収容される。
【0072】
以上のように、フォーク本体を構成する車体側チューブ1の開口端部たるシールケース部1aに、オイルシール12に上流側から、すなわち、潤滑隙間A側から直列する液溜り室Rを有し、この液溜り室Rに貯留液体Fを収容する場合には、潤滑隙間Aにある潤滑材が外部たる開口端部から突出する車輪側チューブ2の外周に漏れ出る状況になるときには、先ず、液溜り室Rに収容の貯留液体Fが車輪側チューブ2の外周に漏れ出ることになる。
【0073】
それゆえ、この貯留液体Fの漏れが検知されることで、その後の潤滑隙間Aにある潤滑材の漏れ、さらには、この潤滑材の漏れに起因するフォーク本体内に封入のエアの漏れを二輪車の走行を中止するなどで、未然に回避することが可能になり、二輪車における乗り心地が悪化される不具合の招来を回避できることになる。
【0074】
そして、貯留液体Fの漏れの検知については、貯留液体F自体が着色されている場合には、これを簡単に視認できることになり、この貯留液体Fの漏れが視認されたとき、上記したように、たとえば、二輪車の走行を中止するなどで、潤滑隙間Aにある潤滑材が漏れることを回避でき、その後にフォーク本体内に封入のエアが漏れでることを確実に阻止し得ることになる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
車体側チューブと車輪側チューブとの間となる潤滑隙間からの潤滑材がオイルシール越しに漏出する可能性をあらかじめ検知し得て、潤滑隙間からの潤滑材の漏出に未然に対処することで車体側チューブと車輪側チューブとの間における潤滑性を恒久的に保障し得るようにして、二輪車の前輪側に装備の緩衝器とされるのに向く。
【符号の説明】
【0076】
1 車体側チューブ
1a 開口端部たるシールケース部
2 車輪側チューブ
2a 連通孔
3 シリンダ体
3a ヘッド端部
4 ロッド体
5 オイルロックピース
6 ガイド部材
6a 切欠通路
11,21 軸受
12 オイルシール
13 ダストシール
14 ストップリング
15 ホルダ部材
16 キャップ部材
22 アクスルブラケット
61 ストッパ
A 潤滑隙間
F 貯留液体
R 液溜り室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車輪側チューブとを有すると共に車体側チューブと車輪側チューブとの間にオイルシールの配設で外部と遮断されながら潤滑材を収容する潤滑隙間を有してなるフロントフォークにおいて、オイルシールが車輪側チューブを出没可能に挿通させる車体側チューブにおける開口端部を形成するシールケース部に配設されると共に、このシールケース部に潤滑隙間側からオイルシールに隣接する液溜り室が画成され、この液溜り室に貯留液体が収容されると共に、この貯留液体がオイルシール越しに車体側チューブの開口端部から突出する車輪側チューブの外周に漏出することで、潤滑隙間から潤滑材が漏れていることを検知可能にしてなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記の貯留液体が車輪側チューブの外周色と異なる色に着色されて車体チューブの開口端部から突出する車輪側チューブの外周に漏出することを視認可能にしてなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記の貯留液体が潤滑隙間に収容される潤滑材と異なる流体とされ、あるいは、潤滑隙間に収容される潤滑材とされ、もしくは、車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体内に収容の作動油とされてなる請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体内に封入されるエア圧がこのフォーク本体の最伸長時に大気圧以上されてなる請求項1,請求項2または請求項3に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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