説明

フロー電解セル及びそれを用いた濃度定量装置、濃度定量方法

【課題】多数の線状の導体を充填して作用電極としたフロー電解セルにおいて、分析の精度を向上させることができるとともに、取り扱いが容易であり、しかも多くの試料溶液の分析をより迅速に行うことができるものを提供する。
【解決手段】このフロー電解セル1は、電解質溶液を溜める液溜部1Lを有した筐体1aに、各リード線2A、3A、4Aを介して所定電位とされる作用電極2、参照電極3、対極4の一部が電解質溶液に浸るように取着され、作用電極2に試料溶液を流してそれに含まれる目的成分を電解するものにおいて、作用電極2は、絶縁性の中空管20と、中空管20の内部に軸方向に平行に配列して充填された線状の導体の束21と、を有して成り、導体の束21は、中空管20の後端部20bから外方に延出させて液溜部1Lから離れた位置でリード線2Aに接続されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用電極に所定電位を印加し、電解に要した電荷量を測定するために試料溶液中の目的成分のほぼ全てを電解するフロー電解セルに関し、また、そのフロー電解セルを用いた濃度定量装置と濃度定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的に活性な目的成分を含む試料溶液を流液とする分析方法は、化学工業設備におけるプロセス制御、医療分野や化学分野における検体の迅速分析、など多くの分野で広く用いられている。このような分析方法のうち、電解を基礎とする主なものの一つとして、試料溶液に含まれる目的成分のほぼ全てを電解し、そのとき電解に要した電荷量を測定する方法(フロークーロメトリ)がある。この方法では、フロー電解セルに試料溶液が供給されると、迅速に目的成分が電解されて平衡に達するようにすることが必要である。このため、試料溶液の量に対する作用電極の導体の表面積比を様々な方法で大きくしている。例えば、特許文献1乃至3に記載のフロー電解セルは、絶縁性の中空管に多数の線状の導体であるカーボン繊維を充填して作用電極の導体の表面積を大きくし、かつ、中空管の内径を小さくすることで試料溶液の量を少なくしている。
【0003】
図5(a)は、特許文献1に記載のものと同様の作用電極102を示す断面模式図であり、同図(b)は、特許文献2、3に記載のものと同様の作用電極102’を示す断面模式図である。これらは、バイコールガラス管又は石英ガラス管からなる絶縁性の中空管120にカーボン繊維束121を充填している。カーボン繊維束121とリード線122の接続について、前者では、中空管120の前方に別のガラス管120Aを設け、その外方にこれより大径であって外側からリード線122が接続される白金管120Bを設け、別のガラス管120Aと白金管120Bとの間にカーボン繊維束121の一部を延出させて挟持固定している。一方、後者では、中空管120の長手方向の中央付近に貫通孔を形成して外側からリード線122が接続されるカーボン電極120’を埋め込み、それがカーボン繊維束121に接触するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−264869号公報
【特許文献2】特開平9−292359号公報
【特許文献3】特開平10−19844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前者の作用電極102のように中空管120の他に別のガラス管120Aや白金管120Bを設けたり、後者の作用電極102’のように中空管120を加工してカーボン電極120’を埋め込んだりする構造では、それらのフロー電解セルは破損し易いので慎重な取扱いが必要であり、しかも、高価なものとなる。また、中空管120がバイコールガラス管又は石英ガラス管であるため、それ自体も破損し易い。従って、このようなフロー電解セルにおいて、多くの試料溶液の分析をより迅速に行うことができ、取扱いを容易にし、更に分析の精度を向上させるためには、改良の余地がある。
【0006】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、多数の線状の導体を充填して作用電極としたフロー電解セルにおいて、分析の精度を向上させることができるとともに、取り扱いが容易であり、しかも多くの試料溶液の分析をより迅速に行うことができるフロー電解セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のフロー電解セルは、電解質溶液を溜める液溜部を有した筐体に、各リード線を介して所定電位とされる作用電極、参照電極、対極が該電解質溶液に浸るように取着され、該作用電極に試料溶液を流してそれに含まれる目的成分を電解するフロー電解セルにおいて、前記作用電極は、絶縁性の中空管と、中空管の内部に軸方向に平行に配列して充填された線状の導体の束と、を有して成り、該導体の束は、中空管の後端部から外方に延出させて前記液溜部から離れた位置で前記リード線に接続されてなることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載のフロー電解セルは、請求項1に記載のフロー電解セルにおいて、前記中空管は、ポリテトラフルオロエチレン製であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載のフロー電解セルは、請求項1又は2に記載のフロー電解セルにおいて、前記導体は、カーボン繊維であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の濃度定量装置は、請求項1乃至3のいずれかに記載のフロー電解セルを備える濃度定量装置であって、前記目的成分が作用電極により電解される試料溶液の量を測定する分析用天秤を更に備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の濃度定量装置は、請求項4に記載の濃度定量装置において、前記試料溶液を溜める試料溶液容器と、該試料溶液容器から前記作用電極に試料溶液を送る送液チューブと、を更に備え、前記分析用天秤は、フロー電解セルの前記筐体の重量を計測するか、又は、前記試料溶液容器の重量を計測するものであることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の濃度定量方法は、請求項5に記載の濃度定量装置を用いた濃度定量方法であって、フロー電解セルの前記液溜部の液面と前記作用電極との間が接近するように制御するか、又は、前記試料溶液容器の試料溶液の液面と前記送液チューブとの間が接近するように制御するかしながら、前記分析用天秤で重量を計測することによって、試料溶液に含まれる目的成分の濃度を定量することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフロー電解セルによれば、多数の線状の導体を充填して作用電極としたものにおいて、作用電極を、絶縁性の中空管と、中空管の内部に軸方向に平行に配列して充填された線状の導体の束と、を有して構成し、その導体の束を、中空管の後端から外方に延出させて液溜部から離れた位置でリード線に接続するようにしたので、リード線が試料溶液と接触して電位窓が変化することが確実に防止され、作用電極において液流の乱れが生じ難くなるため、分析の精度を向上させることができ、また、構造が簡単で丈夫になるため、取り扱いが容易となり、しかも多くの試料の分析を迅速に行うことができる。また、このフロー電解セルを用いると、高精度な濃度算出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るフロー電解セルを含む濃度定量装置を示す模式図である。
【図2】同上の別の濃度定量装置を示す模式図である。
【図3】同上のフロー電解セルの作用電極を上方から見た斜視図である。
【図4】同上のフロー電解セルを用いた実験結果を示すグラフである。
【図5】従来のフロー電解セルの作用電極を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係るフロー電解セル1を含む濃度定量装置10を示す模式図である。なお、フロー電解セル1は、濃度定量装置10を用いた濃度定量のみならず、電解合成や電解反応機構の解明、金属イオンの濃縮にも使用可能である。
【0016】
フロー電解セル1の基本構造体となる例えばガラス製の筐体1aは、電解質溶液を溜める液溜部1Lを有しており、各リード線2A、3A、4Aを介して所定電位とされる作用電極2、参照電極3、対極4を、液溜部1Lの電解質溶液に直接又は作用電極2に流れる試料溶液を介して浸るように取着している。筐体1aは、大略下方がやや膨らんだ有底円筒状をなし、上方の略円筒部分が作用電極取着部1A、下方の円筒部分が液溜部1L、そして、下方の円筒部分から斜め上方に突出形成される部分が参照電極取着部1B及び対極取着部1C、となっている。
【0017】
作用電極2は、絶縁性の中空管20と、中空管20の内部に軸方向に平行に配列して充填された線状の導体の束21と、を有して作用電極取着部1Aに取着される。中空管20は、内径が約1mm程度の管であり、筐体1aに取着した状態で、前端部(図1における上端の部分)20aが筐体1aの上端部から突出している。また、中空管20は、後端部(図1における下端の部分)20bが液溜部1Lに溜められる電解質溶液の液面1LSに到達しているか或いはほぼ到達する長さを有しており、それにより作用電極2が液溜部1Lの電解質溶液に直接又は作用電極2に流れる試料溶液を介して浸ることになる。中空管20の前端部20aは、送液チューブ6に接続される。目的成分が加えられた電解質溶液である試料溶液は、試料溶液容器7Aに溜められており、試料溶液容器7Aから、送液ポンプ(例えば、ペリスタポンプ)7によりほぼ一定速度で送液チューブ6を介して作用電極2に送られ、作用電極2を通過した試料溶液は液溜部1Lに元々溜められていた電解質溶液に混合する。作用電極2の構成、材質、寸法、リード線2Aとの接続等については後に詳述する。
【0018】
参照電極3は、例えば、ガラス製であり、管状を成し、内部に公知の形状(例えば、螺旋形状)の導体31を配設し、内方端に隔膜32が取着されて電解質溶液を封入し、参照電極取着部1Bに固定材33を用いて取着される。導体31は、電解質溶液に浸されている。また、隔膜32は、液溜部1Lに溜められる電解質溶液に浸たるように位置決めされており、封入している電解質溶液との間で支持電解質が通過し得るものとなっている。また、参照電極3の筐体1aの外側に位置する外方端の栓材34を通過して導体31が取り出され、リード線3Aに接続されている。
【0019】
対極4は、公知の形状(例えば、螺旋形状)の導体41が液溜部1Lに溜められる電解質溶液に浸たるように配設され、栓材44によって対極取着部1Cに取着され、栓材44を通過して導体41が取り出されてリード線4Aに接続されている。
【0020】
作用電極2の導体の束21、参照電極3の導体31、対極4の導体41は、それぞれのリード線2A、3A、4Aを介して、ポテンショスタット8により所定の電位とされる。すなわち、作用電極2には参照電極3に対し、試料溶液に含まれる目的成分を十分に酸化又は還元反応によって電解させる電位が印加される。そして、目的成分の酸化又は還元反応に起因して作用電極2と対極4間を流れる電流がクーロンメーター9で電荷量に換算される。
【0021】
次に、作用電極2について詳述する。作用電極2の中空管20は、試料溶液の量を少なくできるように内径を小さくしているので、各種の試料溶液に対して耐久性がある材質であるとともに、折れ難くて丈夫なものが望ましい。
【0022】
これらの点において、中空管20は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であること、具体的にはテフロン(米国デュポン社の登録商標)製のものが最適である。このような材料にて形成された中空管20は、試料溶液が酸性、アルカリ性のいずれにも、また有機溶媒に対しても耐久性があり、外径が2mm程度であっても、折損し難くて丈夫である。また、柔軟性に富み、軸方向において曲げることや螺旋状にすることも可能であって、更なる小型化を図ることもできる。また、試料溶液の種類に応じて軸方向の長さを変えて原材料の長いチューブから切り取ることにより、容易に製作でき、従って、作用電極2の長さも自由に調整できるため、例えば、目的成分が酸化還元の電極反応が遅いものであっても、作用電極2を長くすることでほぼ全ての電解が可能である。よって、ヒ酸やフェノール類のような有害物質或いはアスコルビン酸やNADHのような生体関連物質などの酸化還元挙動の分析が容易になる。
【0023】
作用電極2の線状の導体の束21は、図3に示すように、中空管20内部に、極めて小径の多数の導体21a、21a、・・・から成る導体の束21を充填している。導体の束21は、その前端が中空管20の前端部20aとほぼ揃っており、その後端は、図1に示すように、中空管20の後端部20bから十分に長く延出させている。具体的には、180度曲げて折り返され、中空管20に沿い筐体1aの作用電極取着部1Aの外方へ延出させている。そして、液溜部1Lから離れた位置、すなわち電解質溶液が存在し得る領域から確実に離れた位置で、例えば、白金のような金属製のリード線2Aに接続されている。導体の束21において中空管20の後端部20bから折り返されてリード線2Aへ接続されるまでの殆どの部分は、電解質溶液が隙間に入り込まないように凝集され、電解質溶液(混合した試料溶液も含む)と電極反応しないように、被覆テープ22で被覆されている。
【0024】
作用電極2の導体21a、21a、…は、直径が例えば10μm程度のカーボン繊維が用いられる。カーボン繊維は、目的成分の酸化還元の電極反応が適切に進行するような電位窓が広く、一方、柔軟であって曲げなどを行っても破断し難い。なお、カーボン繊維と同程度の性質、性能を有した導体を用いてもよい。
【0025】
前述した導体の束21の後端のリード線2Aへ接続は、リード線2Aを導体の束21の後端に巻着してこれらの間に電気的接続がなされる。リード線2Aを巻着することで、導体の束21の周囲を万遍なく均一にリード線2Aに電気的接続させることができる。また、図示はしないが、上記被覆テープ22を延長して又は別の被覆テープや熱収縮チューブにより、巻着部分を被覆して圧着してもよい。
【0026】
前述した作用電極2、参照電極3、対極4、が取着されている筐体1aは、分析用天秤5の上皿に載置されている。この分析用天秤5により、目的成分が作用電極2により電解される試料溶液の量を、その前後の筐体1aの重量を計測することで求める。分析用天秤5により得られた計測値は、試料溶液における目的成分の濃度の算出等の定量分析で用いられる。それにより、送液ポンプ7の設定値などに頼らず、高精度の分析が可能となる。これは、試料溶液が少量でありフロー電解セル1が小型軽量であるためにその重量の高精度の測定が可能であることによっている。
【0027】
分析用天秤5は、図2に示す濃度定量装置10’のように、試料溶液を溜めた試料溶液容器7Aの重量を計測するものであってもよい。この場合、試料溶液容器7Aは分析用天秤5の上皿に載置されており、目的成分が作用電極2により電解される試料溶液の量を、その前後の試料溶液容器7Aの重量を分析用天秤5により計測することで求める。このようにすると、上記と同様に、送液ポンプ7の設定値などに頼らず、高精度の分析が可能となる。更に、試料溶液容器7Aは作用電極2、参照電極3、対極4、が取着されている筐体1aよりも、通常、重量の値が小さく、また、構造が簡単なので、誤差要因が少ないために高精度に測定し易く、更には、後述の実験2などで説明するように、重量の値を読む際の利点もある。なお、試料溶液容器7Aは、図2に示すように上部を細くすると、試料溶液の蒸発を抑えることができるので、高精度な測定に寄与する。
【0028】
次に、フロー電解セル1の使用方法について説明する。先ず、筐体1aの液溜部1Lに電解質溶液を貯留し、作用電極2、参照電極3、対極4を浸しておく。作用電極2と液面1LSとの間には若干の距離が有っても構わない。そして、送液ポンプ7で作用電極2に試料溶液を送る。作用電極2の中空管20に流入した試料溶液は、導体21a、21a、・・・の隙間を軸方向に通過する。試料溶液に含まれる目的成分は、所定電位の導体21a、21a、・・・により酸化還元され、試料溶液は中空管20から流出する。中空管20を通過し終えるまでに、目的成分はほぼ全て電解され、そのとき電解に要した電荷量を測定する。また、そのときの重量を分析用天秤5で測定する。
【0029】
ここで、導体の束21が中空管20の前端部20aから後端部20bまで一定の線状であるので、流入した試料溶液の流れの方向が乱れることがなく、すなわち乱流が生じることなく、試料溶液は中空管20の全区間を通過する。また、導体の束21は、混合した試料溶液も含む電解質溶液が存在し得る領域から確実に離れた位置でリード線2Aに接続されているので、リード線2Aが電解質溶液と接触して酸化還元反応することにより電位窓が変化するようなことがなく、電荷量の測定に誤差が生じることが防止できる。
【0030】
このようにして、フロー電解セル1は、中空管20の内径を小さくしても、高精度の分析が可能であり、しかも構造が簡単で丈夫である。その結果、化学や医療分野などで多くの試料の分析を必要とするところにて、試料溶液の量を少なくして分析を短時間で行うことができる。また、持ち運び易く、取り扱い易いため、現場での分析が容易である。
【0031】
図4は、フロー電解セル1の性能を確認するために、それを用いてサイクリックボルタモグラムを求めた実験1の実験結果である。横軸が参照電極3に対する作用電極2の電位であり、縦軸が電流値である。試料溶液は、0.5mM [Fe(CN)3−を目的成分として含み、1MKClを支持電解質として含むものである。送液ポンプ7から0.2ml/分で送液しながら、作用電極2の電位を掃引速度1mV/分で変化させて記録した。参照電極3の導体31は銀/塩化銀とした。液溜部1Lに貯留した電解質溶液は1MKClを支持電解質とするものである。同図の実線の曲線Aがその結果を示すボルタモグラムである。同図の破線の曲線Aは、曲線Aとの比較のために、1MKClのみを含む試料溶液について行った結果のボルタモグラムである。
【0032】
曲線Aは約0.15〜0.35Vの電位の範囲で急峻な曲線である。可逆な1電子還元反応を示す理想的な曲線となっている。その範囲よりも負電位側では電流値(約−200μA)がほぼ一定であるので、安定したほぼ100%の還元反応が起こっている。また、その範囲よりも正電位側では電流値がほぼ0になっているので、残余電流(バックグラウンド電流)が少ないことが分かる。従って、フロー電解セル1は、SN比が良好で高精度の定量分析ができるものであることが分かる。
【0033】
次に、極めて高精度な濃度算出が可能な濃度定量方法について説明する。この濃度定量方法は、図2に示した濃度定量装置10’を用いたものであって、分析用天秤5で試料溶液容器7Aの重量の値を読む際に、試料溶液容器7Aの試料溶液の液面7LSと送液チューブ6との間が接近するように制御しながら、重量を計測する。これは、送液チューブ6が試料溶液の中まで入り込んでいると、送液チューブ6への浮力により読み取る重量の値が変わるので、送液チューブ6の存在による影響を最小限に抑えるためである。送液チューブ6の存在による影響を最小限に抑えるためには、送液チューブ6を液面7LSから離して測定するのが理想的であるが、気泡が入ってしまう。よって、送液チューブ6の端が液面7LSすれすれに引き上げられた状態、すなわち、送液チューブ6の端と液面7LSとの間に界面張力による試料溶液が僅かに存在する状態が好ましい。なお、送液チューブ6の端と液面7LSとの間の距離の制御は、少なくとも分析用天秤5で試料溶液容器7Aの重量の値を読む際に行えばよい。
【0034】
送液チューブ6の端と液面7LSとの間の距離の制御は、人間の手によって行うのが最も簡単であるが、公知の画像認識技術を用いて液面7LSの高さを自動で認識することにより送液チューブ6の高さを自動位置制御してもよい。
【0035】
この濃度定量方法の検証のために実験2を行った。試料溶液は、所定の濃度のFe3+を目的成分として含み、1M HSOを支持電解質として含むものである。液溜部1Lに貯留した電解質溶液は1M HSOを支持電解質とするものである。参照電極3の導体31は銀/塩化銀とした。作用電極2の電位を、Fe3+がFe2+に100%還元される電位である0.2Vとして、送液ポンプ7から0.2ml/分の流速で20分間送液した前後で試料溶液容器7Aの重量の値を読み、精度を求めるためにこれを5回繰り返した。そして、分析用天秤5で得られた重量から電荷量の理論値を求め、クーロンメーター9で得られた電荷量の実験値と比較して電解効率を算出した。クーロンメーター9で得られた電荷量は、バックグラウンド電流による電荷量を差し引いている。試料溶液のFe3+の濃度が5×10−4M、1×10−4M、5×10−5Mの場合で行った電解効率の算出の結果を、表1に示す。表1より、電解効率の精度は±0.1〜±0.2%であり、極めて高精度である。よって、この濃度定量方法を用いれば、極めて高精度な濃度算出が可能であることが分かる。
【0036】
【表1】

【0037】
なお、図1に示した濃度定量装置10を用いた濃度定量方法では、作用電極2等への浮力の影響を抑えるために、フロー電解セル1の液溜部1Lの液面1LSと作用電極2との間が接近するように制御することも可能である。この場合、作用電極2の構造の複雑さから、液面1LSと作用電極2との間の距離の制御は、図2に示した濃度定量装置10’を用いた濃度定量方法に比べて余り容易ではないが、公知の画像認識技術および位置制御技術を用いて作用電極2の高さを自動制御したり、筐体1aに排出口を設けて液面1LSを一定に保つようにしたりすることもできる。
【0038】
以上、本発明の実施形態に係るフロー電解セルについて説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、筐体1aの形状を変えることは任意であるし、また、液溜部1Lの上部に開閉可能な排出口を筐体1aに設け、一の試料の分析が終わるとそれを開いて溜まった試料溶液も含む電解質溶液の一部を排出するようにして、連続して他の試料溶液を分析し易くすることもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 フロー電解セル
1a 筐体
1L 液溜部
1LS 液溜部の液面
2 作用電極
2A 作用電極のリード線
20 中空管
20a 中空管の前端部
20b 中空管の後端部
21 作用電極の導体の束
21a 導体の束を構成する導体
3 参照電極
4 対極
5 分析用天秤
6 送液チューブ
7 送液ポンプ
7A 試料溶液容器
7LS 試料溶液容器の液面
8 ポテンショスタット
9 クーロンメーター
10 濃度定量装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質溶液を溜める液溜部を有した筐体に、各リード線を介して所定電位とされる作用電極、参照電極、対極が該電解質溶液に浸るように取着され、該作用電極に試料溶液を流してそれに含まれる目的成分を電解するフロー電解セルにおいて、
前記作用電極は、絶縁性の中空管と、中空管の内部に軸方向に平行に配列して充填された線状の導体の束と、を有して成り、該導体の束は、中空管の後端部から外方に延出させて前記液溜部から離れた位置で前記リード線に接続されてなることを特徴とするフロー電解セル。
【請求項2】
請求項1に記載のフロー電解セルにおいて、
前記中空管は、ポリテトラフルオロエチレン製であることを特徴とするフロー電解セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフロー電解セルにおいて、
前記導体は、カーボン繊維であることを特徴とするフロー電解セル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のフロー電解セルを備える濃度定量装置であって、
前記目的成分が作用電極により電解される試料溶液の量を測定する分析用天秤を更に備えることを特徴とする濃度定量装置。
【請求項5】
請求項4に記載の濃度定量装置において、
前記試料溶液を溜める試料溶液容器と、
該試料溶液容器から前記作用電極に試料溶液を送る送液チューブと、を更に備え、
前記分析用天秤は、フロー電解セルの前記筐体の重量を計測するか、又は、前記試料溶液容器の重量を計測するものであることを特徴とする濃度定量装置。
【請求項6】
請求項5に記載の濃度定量装置を用いた濃度定量方法であって、
フロー電解セルの前記液溜部の液面と前記作用電極との間が接近するように制御するか、又は、前記試料溶液容器の試料溶液の液面と前記送液チューブとの間が接近するように制御するかしながら、前記分析用天秤で重量を計測することによって、試料溶液に含まれる目的成分の濃度を定量することを特徴とする濃度定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−186460(P2009−186460A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2839(P2009−2839)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)