説明

ブタジエンの製造方法

【課題】触媒の活性低下の抑制及びブタジエンの水素化の抑制に優れた、C4留分を原料として用いる、アセチレン系化合物が除去されたブタジエンの製造方法を提供する。
【解決手段】C4留分を原料として用い、前記原料中の三重結合を有する化合物を触媒の存在下に選択的に水素添加するブタジエンの製造方法であって、前記原料中のメチルアセチレンの濃度が0.1〜1.0体積%となるように調節することを特徴とするブタジエンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタジエンの製造方法に関する。更に詳しくは、C4留分を用いてブタジエンを製造する方法であって、触媒の活性低下の抑制及びブタジエンの水素化の抑制に優れたブタジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製から得られるC4留分には、1、3−ブタジエンが多く含有されており、このC4留分から、SBR等の合成ゴムの形成に用いられる1、3−ブタジエンの多くが精製されている。この精製過程では、C4留分からアセチレン系化合物の除去を要することはよく知られている。1、3−ブタジエンを重合体の単量体として用いるには、C4留分から得られる精製物において、1、3−ブタジエンの濃度を99%以上とし、且つアセチレン系化合物の含有量を100ppm以下、更に重合条件によっては10ppm以下にまで低下させる必要がある。
【0003】
また、C4留分からエチルアセチレン及びビニルアセチレン等のアセチレン系化合物を一般的な精製により分離することは、非常に大きなエネルギーが必要であることは、当該技術分野ではよく知られていることである。そこで、C4留分に含有されるアセチレン系化合物に水素添加を行った後に、その水素添加物を精製することで、アセチレン系化合物を分離するエネルギーを低減させる方法が多く行われている。
しかし、従来の水素添加を行う方法では、アセチレン系化合物以外に、1,3−ブタジエンが水素添加されてしまい、C4留分中の1,3−ブタジエンが失われてしまうという問題がある。また、水素添加に用いる触媒の活性低下は早く、触媒の再生が頻繁に必要となり、その触媒の再生には大量のエネルギーを必要とするという問題がある。
これに対して、ブタジエンの損失を抑制する方法として、下記特許文献1に開示された技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭48−52704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1に開示された技術では、触媒の活性低下の抑制については、何ら意図されていない。また、石油精製物と異なる由来の一酸化炭素を、0.7容量%乃至15容量%含有させることが必要であり、製造工程が煩雑である。
前記特許文献1に開示された技術では、触媒の活性低下の抑制及びブタジエンの水素化の抑制について、十分満足できていないのが現状である。
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、触媒の活性低下の抑制に優れ、並びにブタジエンの収率及びブタジエンの水素化の抑制に優れるブタジエンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示される。
1.C4留分を原料として用い、前記原料中の三重結合を有する化合物を触媒の存在のもとに選択的に水素添加するブタジエンの製造方法であって、
前記原料中のメチルアセチレンの濃度が0.1〜1.0体積%となるように調節することを特徴とするブタジエンの製造方法。
2.前記メチルアセチレンが、前記原料としてのC4留分に存在していたメチルアセチレンと、前記原料としてのC4留分以外の別のC4留分を蒸留して得られたメチルアセチレンとからなる前記1.に記載のブタジエンの製造方法。
3.抽出蒸留及び/又は蒸留による精製工程を備える前記1.又は前記2.に記載のブタジエンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のブタジエンの製造方法によれば、C4留分からブタジエンを製造する方法であって、水添添加における触媒の活性低下の抑制と、ブタジエンの水素化の抑制及びブタジエンの収率とに優れ、C4留分から効率よくブタジエンを製造することができる。
また、メチルアセチレンが、前記原料としてのC4留分に存在していたメチルアセチレンと、前記原料としてのC4留分以外の別のC4留分を蒸留して得られたメチルアセチレンとからなる場合には、蒸留によりC4留分からブタジエンを製造する方法において副生される副生留分を用いることができる。この副生留分は、メチルアセチレン及びブタジエンを主成分とし、ブタジエンを多く含有しているが、通常、燃焼させることより廃棄されていた留分である。この副生留分をブタジエンの製造に使用することができ、リサイクル性及びより効率性に優れ、更に環境保全に優れるブタジエンの製造方法とすることができる。
更に、抽出蒸留及び/又は蒸留による精製工程を備える場合には、効率的に高い濃度のブタジエンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のブタジエンの製造方法の構成及びフローを示す模式的な説明図である。
【図2】本発明のブタジエンの製造方法における精製工程の構成及びフローを示す模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、「体積%」とは、ガスクロマトグラフィーにより測定及び定量される値である。また、ガスクロマトグラフィー(以下、「GC」ともいう)の測定条件は、具体的には、以下のようにすることができる。
分析装置 :ガスクロマトグラフフィー(型式「GC−380」)、ジーエルイエンス社製
検出器 :FID
検出器温度:200℃
カラム :「ALUMINA」(長さ50m、内径0.53mm)、J&W社製
キャリアーガス:He(ヘリウム)
スプリット比:10/1
試料注入口温度:150℃
昇温条件:90℃(30分)→(昇温速度:毎分5℃)→110℃→(昇温速度:毎分15℃)→180℃(20分)
【0010】
本発明のブタジエンの製造方法は、C4留分を原料として用い、前記C4留分中の三重結合を有する化合物を触媒の存在のもとに選択的に水素添加するブタジエンの製造方法であって、原料中のメチルアセチレンの初期濃度が0.1〜1.0体積%となるように調節することを特徴とする。
【0011】
前記C4留分は、原油の精製過程で得られるナフサから、ナフサ分解(ナフサクラッキング)等により得られる留分である。このC4留分は、1、3−ブタジエン、1、2−ブタジエン、n−ブタン、イソブタン、1−ブテン、cis−2−ブテン、trans−2−ブテン、イソブテン、メチルアセチレン、エチルアセチレン、及びビニルアセチレン等を含有している。このC4留分は、好ましくは1、3−ブタジエンを20体積%以上、より好ましくは30体積%以上、更に好ましくは40体積%以上を含む(通常、90体積%以下)。また、C4留分中に含まれるメチルアセチレンの濃度は、通常、0.1体積%未満である。
このC4留分は、常温(18℃)及び常圧(0.1MPa)で気体である。本発明において使用する場合、C4留分の状態は、気体でも、常温で加圧液化させた液体でも構わない。好ましくは常温で加圧液化させた液体状のC4留分を使用ことができる。このC4留分を液化する加圧条件は、特に限定されず、C4留分が液化される圧力であればよく、具体的には、0.5〜5MPaの圧力条件である。
【0012】
本発明において、前記原料中のメチルアセチレンの濃度は、原料全体を100体積%としたときに、0.1〜1.0体積%(以下、単に「所定の濃度」ともいう。)に調節される。このメチルアセチレンの濃度は、好ましくは0.3〜0.7体積%であり、より好ましくは、0.4〜0.6体積%である。原料中のメチルアセチレンの濃度が前記範囲内にある場合には、水添添加における触媒の活性低下の抑制と、ブタジエンの水素化の抑制とに優れ、C4留分から効率よくブタジエンを製造することができる
前記原料のメチルアセチレンの濃度は、前記C4留分メチルアセチレンと、前記C4留分に含まれるメチルアセチレン以外のメチルアセチレンと、を混合することによって、原料中のメチルアセチレンの濃度を調節することができる。
【0013】
前記原料のメチルアセチレン濃度の調節は、メチルアセチレン以外の他の成分も含有するメチルアセチレン混合物(以下、「MA混合物」という。)と、前記C4留分とを混合して行うこともできる。MA混合物を使用する場合、MA混合物におけるメチルアセチレン濃度は、特に限定されないが、MA混合物を100体積%としたときに、10〜99体積%が好ましく、20体積%以上がより好ましく、30体積%以上が更に好ましく、40体積%以上が特に好ましい。
また、MA混合物に含まれるメチルアセチレン以外の他の成分は、特に限定されない。この他の成分としては、例えば、炭素数1〜8のアルカン、炭素数2〜8のアルケン及び芳香族化合物等が挙げられる。このうち、炭素数2〜8のアルケンが好ましく、特に1,3−ブタジエンが好ましい。
これらのMA混合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよく、更に、MA混合物にメチルアセチレン(純度80〜100%)を併用することもできる。
【0014】
前記MA混合物としては、前記原料としてのC4留分と異なるC4留分を蒸留して得られる、メチルアセチレン及び1,3−ブタジエンを主成分とする副生留分を用いることができる。
C4留分からブタジエンを精製する方法は、(1)C4留分を水素添加処理した後、精製するブタジエンの製造(精製)方法、(2)水素添加処理をせずに、C4留分を各種蒸留により製造(精製)する方法が主として行われている。前記副生留分は、後者の方法(2)によって、得られたものであり、この副生留分は、1,3−ブタジエンの蒸留工程で得られる留分である。この副生留分に含まれる組成は、通常、副生留分を100体積%としたときに、1,3−ブタジエンを50〜90体積%含有し、メチルアセチレンを10〜50体積%含有し、その他の成分(ブテン系炭化水素等)を0〜5体積%含有する。
この副生留分は、C4留分から蒸留により1,3−ブタジエン蒸留物を製造する上で、
1,3−ブタジエン蒸留物のメチルアセチレン濃度を減少させるために、C4留分から抜き出したメチルアセチレン含有留分である。そして、1,3−ブタジエン蒸留物におけるメチルアセチレンの濃度が高くなりすぎないようにするために、この副生留分は、1,3−ブタジエンを多く含有させて抜き出している。この副生留分は、通常、燃焼させる等により廃棄されている。副生留分は、メチルアセチレンを多く含有することから、メチルアセチレン濃度の調節にこの副生留分を使用することができる。そして、通常、廃棄されていた副生留分に含有されている1,3−ブタジエンも得ることができる。これにより、効率性及びリサイクル性に優れ、更に環境保全にも優れるブタジエンの製造方法とすることができる。
この副生留分を使用する場合、副生留分の状態は、気体でも、常温で加圧液化させたものでも構わない。好ましくは常温で加圧液化させた液体状の副生留分である。この副生留分を液化する加圧条件は、特に限定されず、副生留分が液化される圧力であればよく、具体的には、0.5〜5MPaの圧力条件である。
【0015】
前記触媒は、原料中に含まれる、三重結合を有する化合物(以下、「アセチレン系化合物」ともいう。)を水素化する作用を有する水素化用の触媒である。この触媒は、不飽和結合を有する炭化水素(芳香族系等を含む。)及びその誘導体(例えば、アルキン誘導体等)等の水素添加(水素化)に用いられる触媒であれば、特に限定されない。この触媒により水素添加する対象物は、前記原料中に含有されるアセチレン性化合物(例えば、アセチレン、メチルアセチレン、ビニルアセチレン等)が挙げられる。
この触媒は、単一物であってもよく、複合物であってもよい。単一物とは、触媒機能を有する成分(以下、単に「触媒成分」という)のみからなる触媒である。複合物とは、触媒成分と、この触媒成分を担持する担体とを備える触媒である。
前記触媒成分は、特に限定されない。具体的には、各種遷移金属及びその化合物等が挙げられる。各種遷移金属としては、例えば、銅、プラチナ、パラジウム、マンガン、コバルト、ニッケル、クロム及びモリブデン、並びにこれらの合金等が挙げられる。また、各種遷移金属の化合物としては、これら遷移金属の塩化物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの各種遷移金属及び各種遷移金属の化合物等のなかでも、銅、銅化合物、パラジウム、及びパラジウム化合物が好ましく、銅又はパラジウムがより好ましい。触媒成分が銅の場合には、ブタジエンの水素化を抑制する効果に優れる。また、触媒成分がパラジウムの場合、触媒劣化の進行が銅よりも遅く、触媒の劣化耐性が銅より優れている。しかし、パラジウムの場合には、銅に比べブタジエンが水素化される割合が多い。
従って、本発明のブタジエンの製造方法においては、触媒の劣化の抑制に優れていることから、ブタジエンの水素化を抑制する効果に優れる銅触媒を触媒成分に用いることが特に好ましい。
【0016】
一方、担体は、触媒成分を担持できる担体であれば特に限定されない。具体的には、アルミナ、ゼオライト、シリカ及び活性炭等が挙げられる。これらの担体のなかでもアルミナが好ましい。また、担体の形状(球状、柱状及び管状等)も特に限定されない。本発明を用いるプラントの及び設備等の形状により適宜選択される。また、形態(多孔質及び非多孔質等)なども特に限定されない。これらの形態としては、原料と接触状態となる機会が多い多孔質体が好ましい。
触媒の比表面積は、5〜1000m/gが好ましく、50〜500m/gがより好ましい。触媒の比表面積が前記範囲内にあると、原料及び水素と、担体に担持された触媒成分が良好な接触状態となり、効率的にアセチレン化合物を水素添加することができる。
また、触媒における触媒成分の含有量は、触媒全体を100質量%としたときに、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上である。また、触媒成分の含有量は、通常、10質量%以下であり、5質量%以下、又は2質量%以下とすることができる。
これらの触媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、触媒としては、市販品等を用いることができる。この市販品としては、例えば、UOP LLC社製 銅触媒「KLP−60」、アクセンス ファーイースト株式会社製 パラジウム触媒「LD277」、及びズードケミー触媒株式会社製 パラジウム触媒「G−68」等が挙げられる。
【0017】
原料に含まれるアセチレン系化合物の選択的な水素添加の方法は、一般的に行われている、C4留分への水素添加方法を用いることができる。具体的には、前記触媒及び水素の存在下、原料中の三重結合を有する化合物を水素化させる方法が挙げられる。この水素化させる方法としては、例えば、触媒を備える水素反応装置に、原料と水素との混合物を通過させることにより原料の水素添加を行うことができる。
水素は、分子状の水素(以下、単に「水素」という。)であり、気体(ガス状)でも液体でも構わない。水素が原料と触媒とが接触状態となり、原料に含まれるアセチレン系化合物が水素添加さればよいことから、常圧又は加圧(1〜5MPa、好ましくは2〜4MPa、より好ましくは2.5〜3.5MPa)されたガス状の水素を用いることができる。
本発明における水素の使用量は、原料に含まれるアセチレン系化合物の量により、適宜選択される。具体的には、アセチレン系化合物1.0モルに対して、水素を1.0〜2.0モル使用することが好ましく、より好ましくは1.3〜1.8モルである。水素の使用量がこの範囲内にある場合には、原料に含まれるアセチレン系化合物に対する水素添加が効率的に行われる。
【0018】
本発明のブタジエンの製造方法での水素添加の反応条件は、特に限定されない。例えば、触媒を備える水素反応装置に、原料と水素との混合物を通過させることにより原料の水素添加を行う場合には、原料等の空間速度は、0.1〜30(1/hr)が好ましく、0.5〜10(1/hr)がより好ましく、1〜3(1/hr)が更に好ましい。
また、反応温度は、10〜70℃が好ましく、20〜60℃がより好ましく、30〜50℃が更に好ましい。
また、反応圧力は、0.5〜5MPaが好ましく、1〜4MPaがより好ましく、2.5〜3.5MPaが更に好ましい。例えば、アセチレン1モルに対して、水素を2モル程度溶解させる場合には、3MPa程度必要になる。従って、4MPa以上の高圧は、アセチレン濃度が特に高い場合を除いて、特に必要ではない。
【0019】
原料中のアセチレン系化合物としては、メチルアセチレン、エチルアセチレン及びビニルアセチレン等が挙げられる。原料中に含まれる、これらのアセチレン系化合物が選択的に水素添加されることにより、原料中のアセチレン系化合物が低減あるいは除去される。具体的には、メチルアセチレン、及びエチルアセチレンは水素添加により、それぞれプロピレンあるいはプロパン、及び1−ブテンあるいはブタンとなり、その後の精製工程等により分離することができる。また、ビニルアセチレンを水素添加することにより、1,3−ブタジエンが得られる。
本発明の製造方法により、原料への水素添加により得られる反応生成物のアセチレン系化合物全体の含有量は、100ppm以下とすることができる。好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下、特に好ましくは0ppmとすることができる。
【0020】
また、C4留分を水素添加する際に用いられる触媒は、原料の水素添加反応により、次第に、触媒が有する触媒活性が低下していく。これは、アセチレン系化合物の水素添加反応において、原料に含まれる成分から重合物等が副生され、この重合物等が触媒を被膜する被膜物となり、触媒の活性が次第に低下していく。そして、活性が低下した触媒は、酸化還元法等により再生して再利用されている。
本発明の製造方法によれば、上述の触媒活性の低下を抑制することができ、言い換えれば、触媒を使用した時から触媒の再生を必要とする時までの稼動期間を延ばすことができる。具体的には、メチルアセチレンの濃度を調製しない場合の稼動期間に対して、本発明によれば、その稼動期間を1.2倍、更には2倍、あるいは3倍とすることができる。
【0021】
本発明のブタジエンの製造方法が、触媒の活性低下の抑制及びブタジエンの水素化の抑制に優れるのは、以下の理由によるものと推測される。
一般的に、1,3−ブタジエン類(ジエン系化合物)やアセチレン類(3重結合を1つ有する、ビニルアセチレン、エチルアセチレン及びメチルアセチレン等の化合物)が、触媒に吸着されると、ジエン系化合物やアセチレン類同士が反応して重合体等が形成され、この重合体が被膜物となる。よって、この被膜により触媒活性が低下する。
一方、本発明のように、1,3−ブタジエンと、メチルアセチレンとが、混合された状況下では、メチルアセチレンは、1,3−ブタジエンに比べ触媒に吸着されやすい。この触媒に吸着されたメチルアセチレンは、水素添加によりメチルアセチレンが有する三重結合が、二重結合となり触媒から脱着され、被膜が形成され難い。よって、この場合には、被膜形成による触媒活性の低下が抑制されているものと推測される。
また、上述のとおり、1,3−ブタジエンと、メチルアセチレンとが、混合された状況下では、メチルアセチレンは、1,3−ブタジエンに比べ触媒に吸着されやすい。メチルアセチレン濃度が高いと、1,3−ブタジエンが触媒と接触する機会が減少する。よって、この場合には、1,3−ブタジエンの水素化が抑制されるものと推測される。
【0022】
尚、本発明における原料としては、本発明の目的が達成される限り、C4留分とメチルアセチレン及び/又はMA混合物とに加えて、他の成分を含有させることができる。他の成分としてはピペリジン等の電子供与体、及び一酸化炭素等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明のブタジエンの製造方法は、更に、精製工程を備えることができる。この精製工程は、水素添加により得られた反応生成物から、1,3−ブタジエンが精製される工程である。この精製工程は、抽出蒸留又は蒸留により行われる。好ましくは、抽出蒸留及び蒸留により1,3−ブタジエンを精製する。この抽出蒸留及び蒸留は、それぞれ複数備えることもできる。
【0024】
抽出蒸留は、水素添加により得られた反応生成物と抽出溶剤とを接触させて、抽出溶剤にブタジエン類(ジエン系化合物)を溶解させ、ブタジエン類を抽出し、更に、溶剤を蒸留により留去して、ブタジエン類を得る方法である。この抽出蒸留により、揮発度がブタジエン以上(溶解度がブタジエン以下)のガス混合物(ブタン及びブテン等)は、抽出溶剤に溶解せず、反応生成物から分離される。
前記抽出蒸留に用いる抽出溶剤は、1,3−ブタジエンを溶解できる溶剤である。この抽出溶剤としては、C4留分等の炭化水素留分から共役ジエン系化合物の抽出蒸留用溶剤として用いられているものが挙げられる。具体的には、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのN−アルキル置換低級脂肪酸アミド、フルフラール、N−メチルピロリドン、ホルミルモルホリン、β−メトキシプロピオニトリル等が挙げられる。これらの抽出溶剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また抽出溶剤の沸点を調整するため、水、メタノールなどを適宜混合することもできる。更に、ブタジエンの重合を防止する重合防止剤、酸化防止剤、及び消泡剤等を抽出溶剤と併用することもできる。
【0025】
精製工程としての蒸留は、水素添加により得られた反応生成物を、各組成分の沸点帯域で分離する。これにより、水素添加により得られた反応生成物から、1,3−ブタジエンを分離することができる。
また、抽出蒸留により得られたブタジエン抽出液から分離されたブタジエン類を蒸留し、高濃度の1,3−ブタジエンを得ることもできる。
本発明においては、水素添加により得られた反応生成物を抽出蒸留した後、更に、蒸留する精製工程を備えることが好ましい。
【0026】
本発明のブタジエンの製造方法は、原料中のメチルアセチレンの濃度が所定の濃度となるように調節され、その原料を水素添加する方法であれば、特に限定されない。例えば、以下の態様が挙げられる。
(1)C4留分と、メチルアセチレン及び/又はMA混合物とを混合し、メチルアセチレンの濃度が所定の濃度となるように原料を調製した後、その原料と水素とを混合し、水素添加を行う。
(2)C4留分と水素とを混合し、得られたC4留分及び水素の混合物に、原料のメチルアセチレンの濃度が所定の濃度となるようにメチルアセチレン及び/又はMA混合物を混合し、その後、水素添加を行う。
(3)C4留分と、原料のメチルアセチレンの濃度が所定の濃度となるメチルアセチレン及び/MA混合物と、水素とを混合し、その後、水素添加を行う。
これらの態様のうち、原料の調製が容易であることから、前記(1)の態様が好ましい。更に、メチルアセチレン及び/又はMA混合物を供給する設備を、水素供給装置の前に設置することにより、原料調製、及び原料と水素との混合を効率的に行うことができる。
【0027】
本発明のブタジエンの製造方法は、具体的には、以下のようにすることができる(図1参照)。
C4留分と、メチルアセチレン及び/又はMA混合物とを混合し、原料中のメチルアセチレンの濃度が所定の濃度となるように調節する原料調製工程と、原料調製工程により得られた原料に含まれるアセチレン系化合物を水素添加する水添工程と、を備えることができる。
【0028】
原料調製工程は、C4留分と、メチルアセチレン及び/又はMA混合物とを混合し、原料を調製する工程である。この原料調節工程では、原料中のメチルアセチレンの濃度が所定の濃度となるように調節される。具体的には、図1に示されるように、C4留分をC4留分供給装置2から、移送ラインを介して、水素反応装置5に入れる。また、メチルアセチレン及び/又はMA混合物を供給装置3から、移送ラインを介して、水素反応装置5に入れる。これにより、移送ライン内で、C4留分とメチルアセチレン及び/又はMA混合物とが混合され、原料のメチルアセチレン濃度が所定の濃度に調節される。
また、原料のメチルアセチレン濃度は、適宜ガスクロマトグラフィーにより測定が可能であり、これによりメチルアセチレン濃度の調節をすることができる。即ち、C4留分、あるいはメチルアセチレン及び/又はMA混合物の移送ラインへ供給する流量を変更することにより、原料中のメチルアセチレン濃度の調節を行うことができる。
【0029】
水添工程は、前記原料調製工程により得られた原料に含まれるアセチレン系化合物を水素添加する工程である。具体的には、図1に示されるように、水素ガスを水素供給装置4から、移送ラインを介して、水素反応装置5に入れる。これにより原料と水素との混合物が移送ライン内で得られ、この混合物を水素反応装置5に導入することができる。
水素反応装置5は、触媒床等により前記触媒を装置内に備えることができる。水素反応装置5に導入された原料は、水素反応装置5において水素添加反応がなされ、原料中のアセチレン系化合物が選択的に水素添加される。尚、水素反応装置5は、一つでもよく、複数備えてもよい。
そして、原料は、水素反応装置5で水素添加がされた反応生成物となり、移送ライン6から得られる。
【0030】
本発明のブタジエンの製造方法は、更に、精製工程を備えることができる。この精製工程は、前記水添工程により得られた反応生成物から、1,3−ブタジエンを精製する工程である。
前記精製工程は、例えば、図2に示されるように、水添工程により得られた反応生成物を移送ライン6から、抽出蒸留装置(抽出蒸留塔)8に導入し、抽出蒸留装置における抽出溶剤にブタジエン類(ジエン系化合物)を溶解させる。そして抽出溶剤に溶解されたブタジエン抽出液を得る。このブタジエン抽出液は、溶剤分離装置(放散塔)9に移送される。一方、揮発度がブタジエン以上(溶解度がブタジエン以下)のガス混合物(プロパン及びブテン等)は排出される(81)。
また、溶剤分離装置9に移送されたブタジエン抽出液は、溶剤分離装置9で抽出溶剤とブタジエン類とに分離される。更に、溶剤分離装置9で分離されたブタジエン類は、蒸留装置10に移送される。一方、溶剤分離装置9で分離された抽出溶剤は排出される(91)。
更に、蒸留装置10に移送されたブタジエン類は、蒸留装置10で蒸留され、1,3−ブタジエン以外の1,2−ブタジエン等の不純物が排出される(11)。そして、蒸留装置10から1,3−ブタジエンが得られる(20)。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。ここで、「%」は、特記しない限り体積基準である。
【0032】
下記実施例における各組成成分の定性及び定量(体積%)の測定は、ガスクロマトクロマトグラフィー(GC)により下記の測定条件により行った。
分析装置 :ガスクロマトグラフフィー(型式「GC−380」)、ジーエルイエンス社製
検出器 :FID
検出器温度:200℃
カラム :「ALUMINA」(長さ50m、内径0.53mm)、J&W社製
キャリアーガス:He(ヘリウム)
スプリット比:10/1
試料注入口温度:150℃
昇温条件:90℃(30分)→(昇温速度:毎分5℃)→110℃→(昇温速度:毎分15℃)→180℃(20分)
【0033】
<評価方法>
評価方法及び収率の算出方法を以下に示す。
(1)触媒活性低下抑制評価
下記実施例及び比較例に記載の装置を使用して、生産量を40m/hとした場合で評価した。C4留分等への水素添加により触媒活性は徐々に低下していく。そのため、生産物(反応生成物)のアセチレン系化合物の濃度(メチルアセチレン、エチルアセチレン、及びビニルアセチレンの合計)が上がらないようにし、更に、水素添加反応の効率を上げるために(反応)入口温度を上げていく。評価方法としては、反応開始時の反応器の反応温度を、入口温度45℃とし、触媒の劣化による反応性の低下を補うために、反応器にフィードする、反応器中の原料の温度を上げていき、入口温度が55℃に達するまでの経過日数を稼動日数として評価した。尚、この稼動日数が長い方が、触媒活性低下が抑制されたことになる。
(2)収率%
原料及び原料を水素添加して得られた反応生成物における、1,3−ブタジエン(以下「1,3−BD」ともいう。)濃度を、前記クラマトグラフィーにより測定した値から算出した。そして、原料及び反応生成物の1,3−BD濃度から、下記式に基づいて1,3−ブタジエンの収率(1,3−BD収率)を算出した。
収率(%)=〔(反応生成物の1,3−BD濃度)/(原料の1,3−BD濃度)〕×100
【0034】
原料として表1に示される組成を有するC4留分及びMA混合物を使用した。C4留分及びMA混合物の各成分の含有量は、全体を100%としたときに、表1に示される範囲内の含有量であった。このC4留分及びMA混合物を下記の通り調節し、原料として使用した。
尚、C4留分は、常温で3.0MPaで加圧液化された液状物を使用した。また、MA混合物は、上述の副生留分を使用した。この副生留分(MA混合物)は、常温で3.0MPaで加圧液化された液状物を使用した。また、水素は、ガスの状態の水素をコンプレッサーで3.0MPaに加圧し、C4留分の液化物、又は、C4留分とMA混合物との混合物の液化物に溶解させて使用した。
【0035】
【表1】

【0036】
<実施例1>
図1に示される製造工程に従って水素添加を行った。符号5の水素反応装置としては、内径2m、長さ16mの炭素鋼製の水素反応装置2基を直列に連結した状態で使用した。また、前記水素反応装置5には、アルミナ担体に銅が担持された触媒(「KLP−60」、UOP LLC社製)を各20トンずつ充填した。
前記C4留分を符号2から導入し、前記MA混合物を符号3から導入した。そして、符号23において、メチルアセチレン濃度が0.10%になるように調節した原料(1)を得た。この原料(1)を、水素反応装置5に導入した。更に、前記水素の量を、アセチレン系化合物全モルを1モルとしたときのモル比換算で1.8となる量とし、水素を符号3から水素反応装置5に導入し、移送ライン内で、前記原料(1)と前記水素との混合物とした。
そして、前記水素反応装置5における入口温度を45℃の反応温度とし、3.0MPaの反応圧力による反応条件で、前記原料(1)と前記水素との混合物を、前記水素反応装置5に通過させて、1,3−ブタジエンを含有する反応生成物(1)を得た。尚、生産物(反応生成物)のアセチレン濃度をGCにより測定し、アセチレン系化合物の濃度が上がらないようにするため、及び水素添加反応の効率を上げるために、反応温度(入口温度)を上げていき、入口温度を55℃まで上げていった。この原料(1)、及び反応生成物(1)の組成、並びに1,3−BD収率、稼動日数を表2に示す。
【0037】
<実施例2>
前記C4留分を符号2から導入し、前記MA混合物を符号3から導入した。そして、符号23において、メチルアセチレン濃度が0.17%になるように調節した原料(2)を得た。原料は、メチルアセチレン濃度が0.17%の原料(2)を使用し、原料(1)に代えて原料(2)を使用した以外は、実施例1と同様にして、反応生成物(2)を得た。原料(2)及び反応生成物(2)の組成、並びに1,3−BD収率、稼動日数を表2に併記する。尚、実験例2では、触媒活性低下抑制評価における稼動日数は算出していない。
【0038】
<実施例3>
前記C4留分を符号2から導入し、前記MA混合物を符号3から導入した。そして、符号23において、メチルアセチレン濃度が0.30%になるように調節した原料(3)を得た。原料は、メチルアセチレン濃度が0.30%の原料(3)を使用し、原料(1)に代えて原料(3)を使用した以外は、実施例1と同様にして、反応生成物(3)を得た。原料(3)及び反応生成物(3)の組成、並びに1,3−BD収率、稼動日数を表2に併記する。
【0039】
<実施例4>
前記C4留分を符号2から導入し、前記MA混合物を符号3から導入した。そして、符号23において、メチルアセチレン濃度が0.43%になるように調節した原料(4)を得た。原料は、メチルアセチレン濃度が0.43%の原料(4)を使用し、原料(1)に代えて原料(4)を使用した以外は、実施例1と同様にして、反応生成物(4)を得た。原料(4)及び反応生成物(4)の組成、並びに1,3−BD収率、稼動日数を表2に併記する。
【0040】
<実施例5>
前記C4留分を符号2から導入し、前記MA混合物を符号3から導入した。そして、符号23において、メチルアセチレン濃度が0.67%になるように調節した原料(5)を得た。原料は、メチルアセチレン濃度が0.67%の原料(5)を使用し、原料(1)に代えて原料(5)を使用した以外は、実施例1と同様にして、反応生成物(5)を得た。原料(5)及び反応生成物(5)の組成、並びに1,3−BD収率、稼動日数を表2に併記する。尚、実験例5では、触媒活性低下抑制評価における稼動日数は算出していない。
【0041】
<比較例1>
前記C4留分を符号2から導入し、メチルアセチレンの濃度を調節することなく、前記C4留分のみを原料に使用し、メチルアセチレン濃度が0.04%の原料(6)とした。符号23でのメチルアセチレン濃度も0.04%であった。そして、原料(1)に代えて原料(6)を使用した以外は、実施例1と同様にして、反応生成物(6)を得た。原料(6)及び反応生成物(6)の組成、並びに1,3−BD収率、稼動日数を表2に併記する。
【0042】
【表2】

【0043】
表2の結果より、メチルアセチレン濃度が0.1%以上(0.1%〜0.7%)に調節されたC4留分を原料とすることにより、1,3−ブタジエンの収率、及び触媒の劣化が改善されたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のブタジエンの製造方法は、触媒の活性低下の抑制及びブタジエンの水素化の抑制に優れ、1,3−ブタジエンを高い収率で得ることができる。また、本発明のブタジエンの製造方法により得られたものは、アセチレ系化合物の含有量が極めて低く、SBR等の合成ゴムの単量体として有用である。
【符号の説明】
【0045】
1;本発明の製造装置、2;C4留分供給装置、3;MA混合物供給装置、4;水素供給装置、5;水素反応装置、6;反応生成物移送ライン(反応生成物)、7;本発明における精製装置、8;抽出蒸留装置、81;ガス混合物移送ライン(プロパン及びブテン等ガス混合物)、9;溶剤分離装置、91;分離抽出溶剤移送ライン(分離された抽出溶剤)、10;蒸留装置、11;不純物移送ライン(1,2−ブタジエン等)、20;1,3−ブタジエン移送ライン(1,3−ブタジエン)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C4留分を原料として用い、前記原料中の三重結合を有する化合物を触媒の存在のもとに選択的に水素添加するブタジエンの製造方法であって、
前記原料中のメチルアセチレンの濃度が0.1〜1.0体積%となるように調節することを特徴とするブタジエンの製造方法。
【請求項2】
前記メチルアセチレンは、前記原料としてのC4留分に存在していたメチルアセチレンと、前記原料としてのC4留分以外の別のC4留分を蒸留して得られたメチルアセチレンとからなる請求項1に記載のブタジエンの製造方法。
【請求項3】
抽出蒸留又は蒸留する精製工程を備える請求項1又は2に記載のブタジエンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265188(P2010−265188A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115988(P2009−115988)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】