説明

ブテノリド化合物及びその植物生長促進用途、並びにその製造中間体

【課題】植物の生長を促進するために優れた効力を有する化合物を提供すること。
【解決手段】式(I)


で示されるブテノリド化合物は植物の生長を促進するために優れた効力を有することから植物生長促進剤の有効成分として有用であり、式(I)で示される化合物の有効量を植物又は植物の生育場所に施用することにより、植物の生育を促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブテノリド化合物及びその植物生長促進用途、並びにその製造中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
植物のうち種子植物において、生育の初期段階として休眠状態にある芽が発育を始める、所謂発芽を促進させる方法として、温浴法、冷却法、エチレンクロルヒドリン/シアン化水素ガス処理及びアルコール/有機酸処理の化学的処理法が知られおり、特に種皮の固く水の浸透性の場合には硫酸法、機械的もしくは火焼等により種皮に傷をつける方法が知られている。
一方、植物を燃焼させた煙成分から単離されたブテノリド化合物が難発芽雑草等の発芽を促進する効力を有することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【非特許文献1】サイエンス、第305巻、第13号、第977頁(2004年)(Science, 305(13), p.977 (2004))
【特許文献1】国際公開第2005/061515号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物の生長を促進するために優れた効力を有する化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、植物の生長を促進するために優れた効力を有する化合物を見出すべく鋭意検討した結果、下記式(I)で示されるブテノリド化合物が植物の生長を促進するために優れた効力を有することを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は式(I)

で示されるブテノリド化合物(以下、本発明化合物(I)と記す。)、本発明化合物を有効成分として含有することを特徴とする植物の生長促進剤、及び本発明化合物の有効量を植物又は植物の生育場所に施用することを特徴とする植物の生長促進方法を提供するものである。
【0006】
本発明は、本発明化合物の製造に有用な中間体である、式(II)

で示されるラクトン化合物(以下、本発明中間体(II)と記す。)、及び
式(III)

で示されるラクトン化合物(以下、本発明中間体(III)と記す。)を提供するものでもある。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、植物の生長を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明化合物(I)及び本発明中間体(III)は、いずれも縮環部分の不斉炭素にかかる立体異性体が存在するが、本発明にはこれらの異性体を単独で用いることができ、また任意の割合で含有したものを用いることもできる。
本発明中間体(II)には、縮環部分及び臭素原子が結合する炭素原子の2つの不斉炭素にかかる立体異性体が存在するが、本発明にはこれらの異性体を単独で用いることができ、また任意の割合で含有したものを用いることもできる。
【0009】
まず、本発明化合物(I)の製造法を説明する。
(製造法A)
本発明化合物(I)は、例えば本発明中間体(II)を第3級アミンと反応させることにより製造することができる。

該反応は通常、有機溶媒の存在下に行われる。
反応に用いられる有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサン等のエーテルが挙げられる。
反応に用いられる第3級アミンとしては、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデック−7−エン及び1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンが挙げられ、その使用量は、本発明中間体(II)1モルに対して通常1〜5モルの割合である。
該反応の反応温度は、通常0〜100℃の範囲であり、反応時間は1〜48時間の範囲である。
反応終了後は、例えば、反応混合物を水などと混合して有機溶媒抽出し、濃縮することにより本発明化合物(I)を単離することができる。単離された本発明化合物(I)は再結晶、クロマトグラフィー等によりさらに精製することもできる。
【0010】
次に、本発明中間体(II)及び(III)の製造法を説明する。
(中間体製造法B)
本発明中間体(II)は、例えば、本発明中間体(III)を臭素化剤及びラジカル発生剤と反応させることにより製造することができる。

該反応は通常、有機溶媒の存在下に行われる。
反応に用いられる有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリルが挙げられる。
反応に用いられる臭素化剤としては、例えば、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインが挙げられ、ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシドが挙げられる。これらの使用量は、本発明中間体(III)1モルに対して、臭素化剤が通常1〜5モルの割合、ラジカル発生剤が通常0.05〜0.3モルの割合である。
該反応の反応温度は、通常0〜150℃の範囲であり、反応時間は1〜24時間の範囲である。
反応終了後は、例えば、反応混合物をそのまま濃縮する、あるいは反応混合物を水などと混合して有機溶媒抽出し、濃縮することにより本発明中間体(II)を単離することができる。単離された本発明中間体(II)は再結晶、クロマトグラフィー等によりさらに精製することもできる。
【0011】
(中間体製造法C)
本発明中間体(III)は、例えば化合物(IV)を第3級アミンと反応させることにより製造することができる。

〔式中、Xは臭素原子又はヨウ素原子を表す。〕
該反応は通常、有機溶媒の存在下に行われる。
反応に用いられる有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサン等のエーテルが挙げられる。
反応に用いられる第3級アミンとしては、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデック−7−エン及び1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンが挙げられ、その使用量は、化合物(IV)1モルに対して通常1〜5モルの割合である。
該反応の反応温度は、通常0〜100℃の範囲であり、反応時間は1〜48時間の範囲である。
反応終了後は、例えば、反応混合物を水などと混合して有機溶媒抽出し、濃縮することにより本発明中間体(III)を単離することができる。単離された本発明中間体(III)は再結晶、クロマトグラフィー等によりさらに精製することもできる。
【0012】
(参考製造法D)
化合物(IV)は、例えば化合物(VII)から下記のスキームで製造することができる。

〔式中、R1及びR2は各々、メチル基又はエチル基を表し、Xは前記と同じ意味を表す。〕
(工程D−1)
化合物(VI−1)及び/又は化合物(VI−2)は、化合物(VII)と化合物(VIII)とを、塩基の存在下に反応させることにより製造することができる。
該反応は塩基の存在下、通常溶媒の存在下に行われる。
反応に用いられる溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、及びジメチルアセトアミド等の酸アミドが挙げられる。
反応に用いられる塩基としては、例えば水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物が挙げられ、その使用量は、化合物(VII)1モルに対して、通常1〜3モルの割合である。化合物(VIII)の使用量は、化合物(VII)1モルに対して、通常1〜3モルの割合である。
該反応の反応温度は通常0〜100℃の範囲であり、反応時間は通常1〜48時間の範囲である。
反応終了後は、例えば、反応混合物を水などと混合して有機溶媒抽出し、濃縮することにより化合物(VI−1)及び/又は化合物(IV−2)を単離することができる。単離された化合物(VI−1)及び/又は化合物(IV−2)はクロマトグラフィー等によりさらに精製することもできる。

(工程D−2)
化合物(V−1)及び/又は化合物(V−2)は、化合物(VI−1)及び/又は化合物(IV−2)を塩基の存在下で反応させることで製造することができる。
該反応は塩基の存在下、通常溶媒の存在下で行われる。
反応に用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノ−ル、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、水、及びこれらの混合物が挙げられる。
反応に用いられる塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられ、その使用量は、化合物(VI−1)及び化合物(IV−2)の合計量1モルに対して、通常1〜3モルの割合である。
該反応の反応温度は通常0〜250℃の範囲であり、反応時間は通常1〜24時間の範囲である。
反応終了後は、反応混合物を酸(塩酸等)と混合して有機溶媒抽出し、濃縮することにより化合物(V−1)及び/又は化合物(V−2)を単離することができる。単離された化合物(V−1)及び/又は化合物(V−2)は、クロマトグラフィー等によりさらに精製することもできる。

(工程D−3)
化合物(IV)は、化合物(V−1)及び/又は化合物(V−2)を臭素化剤又はヨウ素化剤と反応させることにより製造することができる。
該反応は通常、有機溶媒の存在下に行われる。
反応に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
反応に用いられる臭素化剤又はヨウ素化剤としては、例えば臭素、ヨウ素等のハロゲン分子が挙げられる。
該反応の反応温度は通常0〜100℃の範囲であり、反応時間は通常1〜120時間の範囲である。
反応終了後は、反応混合物に必要に応じて水等を混合してから有機溶媒抽出し、濃縮することにより化合物(IV)を単離することができる、単離された化合物(IV)は、クロマトグラフィー等によりさらに精製することもできる。
【0013】
本発明化合物(I)は、植物の生育の各段階で生長促進のために利用が可能である。その具体例としては、植物が種子植物である場合には種子発芽段階における発芽促進及び発芽率向上が挙げられ、また種々の植物において開花段階及び結実段階での促進、並びに、生殖生長若しくは栄養生長段階における休眠打破等が挙げられる。また、体細胞胚培養における増殖の促進も挙げられる。
【0014】
本発明化合物(I)が効果を示す植物としては、例えば、煙反応性植物;雑草;花卉、観葉植物等の観賞用植物;穀物、野菜、果樹、繊維植物等の作物;樹木;芝類等が挙げられ、具体例として以下のものが挙げられる。
【0015】
花卉:トルコギキョウ(Eustoma russellianum)、ストック(Mathiola incana)、カーネーション(Dianthus caryophyllus)、キク(Chrysanthemum morifolium)等;
穀物:イネ(Oryza sativa)、トウモロコシ(Zea mays)等;
樹木:サツキ(Rhododendron indicum)、ツツジ(Rhododendron Kurume)、スギ(Cryptomeria japonica)等の木本類;
芝類:ベントグラス(Agrostis stolonifera)、コウライシバ(Zoisia tenuifolia)等;
野菜:トマト(ycopersicon esculentum)、ピーマン(Capsicum annuum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、スイカ(Citrullus lanatus)、キュウリ(Cucumis sativus)、カボチャ(Cucurbita moschata)、メロン(Cucumis melo)等のウリ類、
キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica)、ハクサイ (Brassica campestris)等の菜類、
セロリ(Apium graveolens L.)、パセリ(Petroselium crispum)、レタス(Lactuca sativa)等の生菜及び香辛菜類、
ネギ(Allium fistuiosum)、タマネギ(Allium cepa L.)、ニンニク(Allium sativum)のネギ類、
ダイズ(Glycine max)、インゲン(Phaseolus vulgaris)、エンドウ(Pisum sativum L.)、アズキ(Vigna angularis)等のマメ類、
ダイコン(Raphanus sativus)、カブ(Brassica rapa)、ニンジン(Daucus carota L.)、ゴボウ(Arctium lappa L.)等の根菜類、
サトイモ(Colocasia esculenta)、バレイショ(Solanum tuberosum)、サツマイモ(Ipomoea batatas L.)、ナ ガイモ(Dioscorea batatas)等のイモ類、
アスパラガス(Asparagus officinalis)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea)、ミツバ(Cryptotaenia japonica )等の柔菜類、
ナタネ(Brassica rapa var. nippo-oleifera)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)等の油料作物類、
サトウキビ(Saccharum officinarum)、テンサイ(Beta vulgaris)等の糖料作物類、
ワタ(Gossypium spp.)、イグサ(Juncus effusus var. decipiens)等の繊維料作物類、
クローバー(Trifolium repens)、ソルガム(Sorghum vulgare)等の飼料作物類、
イチゴ(Fragaria x ananassa)等の果菜類;
果樹:リンゴ(Malus pumila var. domestica)、ナシ(Pyrus pyrifolia)、ブドウ(Vitis spp.)、モモ(Prunus persica)、クリ(Castanea crenata)等の落葉性果樹類、
ミカン(Citrus unshiu)、レモン(Citrus limon)、グレープフルーツ(Citrus paradisi)等の柑橘類;
煙反応性植物:グレーコットンヘッド(Conostylis candicans)、引き金草(Stylidium affine)、ブルーノニア(Brunonia austraris)等;
オートムギ(Avena sativa)、カブ(Brassica rapa)など。
【0016】
本発明の植物生長促進剤は、本発明化合物(I)そのものであってもよいが、通常は本発明化合物(I)を固体担体、液体担体等と混合し、必要により界面活性剤、その他の製剤用補助剤等を添加して、乳剤、水和剤、懸濁剤、水溶剤等に製剤化して用いられる。これらの製剤中には本発明化合物(I)が、通常0.0000000001〜98重量%、好ましくは0.0000000005〜50重量%含有される。
【0017】
製剤化に際し用いられる固体担体としては、例えば、粘土類(カオリナイト、珪藻土、合成含水酸化珪素、フバサミクレー、ベントナイト、酸性白土等)、タルク、その他の無機鉱物(セリサイト、石英粉末、硫黄粉末、活性炭、炭酸カルシウム等)、及び、化学肥料(硫安、燐安、硝安、塩安、尿素等)の微粉末や粒状物が挙げられ、液体担体としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルナフタレン等)、非芳香族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、ケロシン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジオキサン、ジイソプロピルエーテル等)、酸アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロエタン、トリクロロエチレン等)、及び、有機硫黄類(ジメチルスルホキシド等)が挙げられる。
【0018】
界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類及びそのポリオキシエチレン化物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類、並びに、糖アルコール誘導体が挙げられる。
その他の製剤用補助剤としては、例えば、カゼイン、ゼラチン、多糖類(澱粉、アラビアゴム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、及び、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等)等の固着剤や分散剤、並びに、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−/3−tert−ブチル−4−メトキシフェノール)、植物油、鉱物油、脂肪酸、及び、脂肪酸エステル等の安定剤が挙げられる。
【0019】
上記のようにして製剤化された本発明の植物生長促進剤は、例えばそのまま、或いは水等で希釈して、土壌処理することにより当該植物の生長を促進させることができる。本発明の植物生長促進剤はまた、植物の茎葉部及び/又は枝葉部に散布処理することによって用いることもできる。かかる場合に本発明の植物生長促進剤は、当該植物に対して1回又は2回以上処理される。
【0020】
本発明の植物生長促進剤を植物体に茎葉処理することにより用いる場合又は土壌処理することにより用いる場合、その処理量は製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、対象植物等に応じて適宜選択されるものであるが、本発明化合物(I)の使用量として1ヘクタール当り通常1μg〜1000gである。また、本発明の植物生長促進剤を水に希釈して用いる場合の使用濃度は、製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、対象植物等に応じて適宜選択されるものであるが、本発明化合物(I)の濃度として通常1ppt〜100ppm、好ましくは10ppt〜20ppmである。
本発明の植物生長促進剤が乳剤、水和剤、フロアブル剤等である場合には、通常本発明の植物生長促進剤は水に希釈して施用される。かかる場合の希釈濃度は、本発明化合物(I)の濃度として通常0.0000000001〜98重量%、好ましくは0.0000000005〜50重量%である。本発明の植物生長促進剤が粉剤、粒剤等である場合には、本発明の植物生長促進剤は通常そのまま施用される。
【0021】
本発明の植物生長促進剤は、対象植物の種子に直接処理するために用いることができる。かかる処理方法としては、例えば、本発明化合物(I)の濃度が1ppt〜10000ppmとなるように調製された本発明の植物生長促進剤もしくはその希釈液を、種子の浸漬に用いる方法、及び、種子に噴霧もしくは塗沫する方法、並びに本発明の植物生長促進剤を粉衣させる方法が挙げられる。
【0022】
また、本発明の植物生長促進剤は移植前の植物に処理するために用いることができる。かかる処理方法としては、例えば、本発明化合物(I)の濃度が1ppt〜10000ppmとなるように調製された本発明の植物生長促進剤又はその希釈液もしくは懸濁液に、植物の根部若しくは植物全体を浸漬させる方法が挙げられる。
【0023】
本発明の植物生長促進剤はさらに、植物の水耕栽培における水耕液に混合して、又は、植物の組織培養における培地成分として混合して用いることもできる。かかる処理方法としては、例えば植物の水耕栽培に用いられる水耕液中に、本発明化合物(I)の濃度が1ppt〜10000ppmとなるように希釈又は懸濁させる方法、及び、植物の組織細胞や細胞培養に通常用いられる培地等に本発明化合物(I)の濃度が1ppt〜10000ppmとなるように含有させる方法が挙げられる。かかる場合には、通常用いられる方法と同様に、炭素原としての糖類及び各種の植物ホルモンを適宜含有させることもできる。
【0024】
本発明の植物生長促進剤は殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、除草剤、植物生長調節剤及び/又は肥料と共に用いることができる。
例えば、本発明の植物生長促進剤により生育が促進される植物が雑草である場合には、前記した施用方法にて強制的に発芽させた上で除草剤を用いて防除することにより、雑草を効果的に防除することもできる。また、根寄生植物であるストライガが宿主植物に寄生する前に、本発明の植物生長促進剤を前記した方法にてストライガの発芽を促進させてから、除草剤を用いて防除することにより宿主植物をストライガによる寄生から保護することもできる。
【0025】
また、本発明中間体(II)及び本発明中間体(III)は植物の生長を促進するために効力を有することから、本発明化合物(I)と同様に植物生長促進剤の有効成分としても有用であり、本発明中間体(II)又は本発明中間体(III)の有効量を植物又は植物の生育場所に施用することによっても植物の生長を促進することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を製造例、製剤例、試験例等により説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
なお、1H−NMRは特記しない限り、テトラメチルシランを内部標準として室温(約25℃)で測定したものを化学シフト(δ)値で示す。
まず、本発明化合物の製造例を示す。
【0027】
製造例
本発明中間体(II)55mgとテトラヒドロフラン2mlとを混合し、ここに氷冷下で1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデック−7−エン72mgを加えた後、室温で24時間攪拌した。反応混合物に氷冷した5%塩酸1ml、水10ml及び酢酸エチル20mlを加え分液した。水層を20mlの酢酸エチルで2回抽出し、有機層を合わせて飽和食塩水20mlで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、本発明化合物(I)3.0mgを得た。
白色結晶、融点:111.0〜113.0℃
1H−NMR(CDCl3)δ(ppm):1.86(3H,d,J=2.0Hz)、3.81(1H,dd,J=10.4,12.8Hz)、4.63(1H,dd,J=6.4,10.4Hz)、4.95(1H,ddd,J=2.0,6.4,12.8Hz)、5.73(1H,d,J=6.0Hz)、6.75(1H,d,J=6.0Hz)
【0028】
次に、本発明中間体の製造例を中間体製造例に示す。
中間体製造例1
本発明中間体(III)167mgとアセトニトリル10mlとを混合し、ここに1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン465mg、次いでベンゾイルパーオキシド6mgを加え2時間還流した。室温付近まで冷却した反応混合物を減圧下に濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、本発明中間体(II)30mgを得た。
1H−NMR(CDCl3)δ(ppm):1.92(3H,d,J=1.6Hz)、3.08(1H,t,J=10.6Hz)、3.65(1H,dd,J=2.4,12.8Hz)、4.29(1H,d,J=12.8Hz)、4.59(1H,dd,J=6.4,10.6Hz)、5.01(1H,d,J=2.4Hz)、5.19〜5.24(1H,m)
融点:71.5〜73.5℃
【0029】
中間体製造例2
3a−ヨード−3−メチル−2,3,4,5,7,7a−ヘキサヒドロ−フロ[2,3−c]ピラン−2−オン

320mgとテトラヒドロフラン6mlとを混合し、ここに氷冷下で1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデック−7−エン358mgを加え、室温で1時間攪拌した。反応混合物に氷冷した5%塩酸10ml及び酢酸エチル20mlを加え分液し、水層を20mlの酢酸エチルで2回抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水30mlで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、本発明中間体(III)161mgを得た。
白色結晶、融点:74.5〜75.0℃
1H−NMR(CDCl3)δ(ppm):1.87(3H,t,J=1.7Hz)、2.55〜2.65(1H,m)、2.78(1H,dd,J=2.0,12.0Hz)、2.98(1H,t,J=10.4Hz)、3.21(1H,dt,J=2.0,12.0Hz)、4.21(1H,dd,J=6.8,12.0Hz)、4.52(1H,dd,J=6.8,10.4Hz)、4.66〜4.72(1H,m)
【0030】
本発明中間体の製造例を参考製造例に示す。
参考製造例1
水素化ナトリウム(55wt%)1.20gと無水ジメチルホルムアミド30mlとを混合し、ここに氷冷下でトリエチル 2−フォスフォノプロピオネート6.60gと無水ジメチルホルムアミド10mlとの混合液、次いでテトラヒドロ−4H−ピラン−4−オン

2.50gと無水ジメチルホルムアミド10mlとの混合液を加えた後、室温で一晩攪拌した。反応混合物を氷冷した5%塩酸100mlに注加し、150mlの酢酸エチルで水層を3回抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水150mlで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、エチル 2−(テトラヒドロ−4H−ピラニリデン)プロピオネート

及び
エチル 2−(2,3−ジヒドロ−6H−ピラン−4−イル)プロピオネート

の約1:1の混合物3.96gを得た。
1H−NMR(CDCl3)δ(ppm):1.2〜1.3(m)、1.88(s)、2.05〜2.20(bq)、2.38(bt)、2.67(bt)、3.1(bq)、3.65〜3.80(m)、4.1〜4.2(m)、5.59(s)
【0031】
参考製造例2
参考製造例1で得られたエチル 2−(テトラヒドロ−4H−ピラニリデン)プロピオネート及びエチル 2−(2,3−ジヒドロ−6H−ピラン−4−イル)プロピオネートの約1:1の混合物3.96gとエチレングリコール30mlと水酸化カリウム1.80gとを混合し、200℃で6時間攪拌した。室温付近まで冷却した反応混合物に氷水60mlを注加し、5%塩酸でpH3付近に調整後、酢酸エチル50mlで3回抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に濃縮し、2−(2,3−ジヒドロ−6H−ピラン−4−イル)プロピオン酸

及び
2−(テトラヒドロ−4H−ピラニリデン)プロピオン酸

の約9:1の混合物3.09gを得た。
1H−NMR(CDCl3)δ(ppm):1.30(3H,d)、2.06〜2.30(2H,bd)、3.14(2H,dq)、3.7〜3.85(2H,m)、4.17(2H,d)、5.65(1H、t)
【0032】
参考製造例3
参考製造例2で得られた2−(2,3−ジヒドロ−6H−ピラン−4−イル)プロピオン酸

及び
2−(テトラヒドロ−4H−ピラニリデン)プロピオン酸

の約9:1の混合物1.0g、炭酸水素ナトリウム1.1g、水10ml及びクロロホルム25mlを混合し、ここにヨード1.95gを加え室温で72時間攪拌した。反応混合物にナトリウムメタバイサルファイトの粉末約0.5gを加えてから分液し、水層を20mlのクロロホルムで2回抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水30mlで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、3a−ヨード−3−メチル−2,3,4,5,7,7a−ヘキサヒドロ−フロ[2,3−c]ピラン−2−オン

406mgを得た。
1H−NMR(CDCl3)δ(ppm):1.32(3H,d)、1.74(1H,m)、1.89(1H,m)、3.12(1H,q)、3.56(1H,dt)、3.90(1H,m)、4.07(1H,dd)、4.21(1H,d)、4.51(1H,s)
【0033】
次に、製剤例を示す。部は重量部を示す。
【0034】
製剤例
本発明化合物(I)1部とジメチルスルホキシド99部とを充分に撹拌・混合することにより、製剤を得た。
【0035】
本発明が効果を示すことを試験例に示す。
試験例
製剤例で得た本発明化合物(I)を含有する製剤とジメチルスルホキシド(DMSO)とを混合し、本発明化合物(I)が100ppm(重量基準)となるDMSO希釈液を調製し、次いで、該DMSO希釈液と超純水とを混合し、本発明化合物(I)濃度が100ppb(重量基準)の水希釈液を得た。直径60mmのプラスチックシャーレ内底面上に、直径50mmのろ紙を敷き、上記した水希釈液1.5mlをろ紙上に満遍なく滴下した後、暗室にて安全光の下でレタス(Lactuca sativa L. cv. Grand Rapids)種子 30粒をろ紙上に播種した。次いで、プラスチックシャーレをパラフィルムでシール後、暗箱に入れて、暗所25℃にてインキュベートした。48時間後に発芽したレタス種子数を数えて発芽率を求めた。同試験は3反復行った。
また、対照として下記式(A)

で示される化合物(国際公開第2005/061515号パンフレットにFormula 1aで記載の化合物)を用いて同試験を行った。
その結果、本発明化合物(I)を用いた試験での発芽率が59%であったのに対し、式(A)で示される化合物を用いた試験での発芽率は28%であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

で示されるブテノリド化合物。
【請求項2】
請求項1記載のブテノリド化合物を有効成分として含有することを特徴する植物の生長促進剤。
【請求項3】
植物が作物である請求項2記載の生長促進剤。
【請求項4】
植物が種子植物である請求項2記載の生長促進剤。
【請求項5】
請求項1記載のブテノリド化合物の有効量を植物又は植物の生育場所に施用することを特徴とする植物の生長促進方法。
【請求項6】
植物が作物である請求項5記載の生長促進方法。
【請求項7】
植物が種子植物である請求項5記載の生長促進方法。
【請求項8】
式(II)

で示されるラクトン化合物。
【請求項9】
式(III)

で示されるラクトン化合物。


【公開番号】特開2007−238476(P2007−238476A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60727(P2006−60727)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】