説明

ブドウ球菌肺疾患および状態に対する免疫に関連した方法および組成物

本発明の態様には、黄色ブドウ球菌性肺炎に対する免疫防御を与えるためにHlaを中和できるワクチン接種戦略において有用な方法および組成物が含まれる。ある種の局面において、本発明は、ヒスチジン35をロイシンに変換し、これを用いて毒素の生産的構築(productive assembly)を抑止できるかつ被験体をブドウ球菌性肺炎から防御できる、Hlaの組み換え変異型(HlaH35L)で表される、毒性の低減したHlaを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年8月31日付で出願された米国仮特許出願第60/969,514号の優先権を主張するものであり、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、米国立衛生研究所による助成金交付番号AI38897およびAI52474、ならびに米国立小児保健発育研究所による助成金交付番号HD00850の下での政府支援によってなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
I. 発明の分野
本発明は広くは、免疫学、微生物学、感染病および医薬の分野に関する。より具体的な態様において、本発明は、細菌に対する免疫反応を生み出すための、α-溶血素などの、外毒素タンパク質を含む方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
II. 背景
黄色ブドウ球菌(S. aureus)性肺炎を処置するための現行の方法は、生物が耐性を獲得する傾向が著しい抗菌薬に依っている。ブドウ球菌感染の病因は、分泌外毒素などの、多くの異なる病毒性因子に依る。過去の研究により、そのような因子をコードする単一の遺伝子を欠失しても、欠損が起こらないか、または病原性の低下がごくわずかにしか起こらないことが明らかにされている。しかしながら、本発明者らが行ったマウスモデル系における黄色ブドウ球菌性肺炎の研究により、意外にも、α毒素としても公知のα-溶血素は、この外毒素を欠く変異株が無病毒性であったことから、この疾患の病因において重要な病毒性因子と考えられた。α-溶血素は、黄色ブドウ球菌により分泌される細菌細胞毒素ファミリーの一員であり、多数の真核細胞の細胞膜に入り込むことができる。このタンパク質は単量体として分泌されるが、真核細胞の表面に7量体環状構造を構築する。構築された毒素は宿主細胞膜に入り込み、膜の完全性を破壊することにより細胞の損傷および死の一因となる細孔を形成する。いくつかの生化学的研究によって、宿主細胞への結合、7量体形成および宿主細胞溶解を促進するα-溶血素単量体内のアミノ酸残基が規定されている。
【0005】
ブドウ球菌ワクチンの開発は、ブドウ球菌の侵入戦略の多角的性質のために遅れている。弱毒化生微生物は非常に効果的なワクチンであり、いくつかの抗原を被験体の免疫系に提示することが十分に立証されている。そのようなワクチンにより誘発される免疫反応は、多くの場合、非複製性のまたは多成分の免疫原により生み出されたものよりも規模の大きいものであり、持続時間の長いものである。この解釈の一つは、弱毒化生菌株がいくつかの抗原を免疫系に提示することのほかに、宿主において有限の感染を確立し、自然感染の初期段階を模倣するということにあるのかもしれない。
【0006】
いくつかの参考文献にはワクチンにα-溶血素(Hla)成分を含めることが記述されており、そのなかには化学的にまたは熱により弱毒化されたHla類毒素について記述しているものもある。例えば米国特許第4,327,082号を参照されたい。他の参考文献には、ヒトを多成分の類毒素ワクチンで免疫すること、および受動免疫で用いるためのHla中和抗体を単離することが記述されている。米国特許第4,027,010号を参照されたい。Adlam et al., (1977)は、乳房感染を防ぐための精製Hlaの有効性について試験している。Adlamらは乳房炎の「青色乳房型(blue breast form)」の低減を観察したが、ブドウ球菌疾患の局所慢性膿瘍型に対する防御を認めなかった。Adlamらは、この観察結果が、ブドウ球菌感染の局所慢性膿瘍型のような多因子性の疾患状態を防ぐのにHlaだけでは不十分なことにあるとしている。
【0007】
Bhakdi et al. (1994)は、残基番号35の位置に突然変異を有するHlaの毒性の低減について記述しており、ウサギを殺さずにそのような変異体をウサギに投与することについて記述している。Menzies and Kernodle (1996)は、Hlaの類似のH35L変異体、およびそれを用いて、後に精製されかつ受動免疫実験に使用されうる抗体をウサギで産生することについて記述している。MenziesおよびKernodleは、単一成分のワクチンを用いて防御をもたらすことの難しさ、および失敗の予想されることについても記述しており、それらは「病原体としてのブドウ球菌の多様性の大きさおよびブドウ球菌が産生する病毒性因子の多さが、α毒素などの単一の免疫学的標的がワクチンの候補として有効であるような可能性を低くしている」ことを述べている。本発明者らは、これらの参考文献のどれも、ブドウ球菌性肺炎を防御するまたは処置するためのいずれかの組成物の有効性に取り組んでいないことに注目するものである。
【0008】
当技術分野の状況は、当業者が、組み換えHlaを単独でまたは実質的に単独で、ブドウ球菌感染、特にブドウ球菌の呼吸器感染またはブドウ球菌呼吸器感染の間接的影響に対する防御に有効な抗原とは考えていないというようなものである。したがって、当業者は、他のブドウ球菌抗原の非存在下または実質的な非存在下で主ワクチン成分として投与されたHlaが、呼吸器感染もしくはブドウ球菌関連肺炎から被験体を防御するまたは呼吸器感染もしくはブドウ球菌関連肺炎を有する被験体を処置するのに十分な免疫反応を惹起することを予想もしていないであろう。
【0009】
ブドウ球菌肺感染の予防および/または処置、ならびに、そのような感染の二次的影響の減弱または改善のためのさらなる組成物および方法が当技術分野で依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
本発明は、ヒトブドウ球菌性肺炎の動物モデルへの黄色ブドウ球菌由来の弱毒化α-溶血素(Hla)毒素の投与が動物の死を防ぎ、動物の肺から回収できる細菌の数を減らし、かつ病変を感染病巣部位に限定することを示すデータに基づく。さらに、本発明は、ウサギでα-溶血素(α毒素としても公知)に対して作製された抗体をマウスに投与して、ブドウ球菌性肺炎に対する防御効果を与えられることを示すデータに基づく。それゆえ、本発明は、他のブドウ球菌タンパク質および抗体を明確に除く単独療法としてのHla毒素を用いた被験体におけるブドウ球菌性肺炎に対する能動免疫のための方法および組成物、ならびにα-溶血素に特異的な抗体を用いた受動免疫のための方法および組成物に関する。
【0011】
ある種の態様では、SEQ ID NO:2の少なくともまたはせいぜい3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50またはそれ以上のアミノ酸を、その間の全ての値および範囲を含めて、含む単離ポリペプチドを含んだ免疫原性組成物を含む。ある種の局面において、単離ポリペプチドはSEQ ID NO:2の少なくとも、せいぜいまたは約アミノ酸1〜50を含む。さらなる局面において、単離ポリペプチドは融合タンパク質である。組成物はアジュバントを含むことができる。ある種の局面において、単離ポリペプチドは融合タンパク質および/またはリポペプチドである。
【0012】
本発明のいくつかの態様には、組み換えかつ弱毒化ブドウ球菌α-溶血素(Hla)毒素を含む組成物であって、その他任意のブドウ球菌タンパク質の混入量しか含有しない組成物の有効量を患者に投与する段階を含む、ブドウ球菌肺疾患または状態(例えば、ブドウ球菌感染または最初の疾患もしくは状態に続発するブドウ球菌感染から生じる疾患を含めてブドウ球菌の存在と関連する疾患または状態)から患者を防御する方法がある。混入量とは、Hlaの全部またはセグメントを含むペプチド以外のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの重量百分率が10、5、1、0.1、0.05またはそれ以下に満たないことをいう。
【0013】
本発明との関連で「患者を防御する」という語句は、ヒト患者においてブドウ球菌肺疾患もしくは状態の重症度を予防する、処置する、低減する、および/またはブドウ球菌肺疾患もしくは状態を改善することをいう。特に示されていない限り、それは、疾患もしくは状態に起因する死亡を阻止するもしくは遅延させる、肺から回収されうるブドウ球菌の数を減少させる、病変を病巣部位に限定する、疾患もしくは状態からの損傷の程度を減少させる、疾患もしくは状態の持続期間を減少させる、および/または疾患もしくは状態に関連する症状の数、程度もしくは持続期間を低減することもいう。ヒト患者との関連で実施される本発明の態様は、任意の哺乳類被験体に対しても実施されうる。他の局面において、それらの方法を、ブドウ球菌に対する免疫反応の誘発に向けることができる。さらなる局面において、患者は、ブドウ球菌と関連する肺疾患を有する、または発症するリスクがある。
【0014】
本発明の他の態様は、組み換えかつ弱毒化ブドウ球菌α-溶血素(Hla)毒素を含む組成物であって、その他任意のブドウ球菌タンパク質に対する検出可能な免疫反応を誘発しない組成物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者においてブドウ球菌肺疾患または状態を予防するための方法に関する。
【0015】
本発明は同様に、組み換えかつ弱毒化ブドウ球菌α-溶血素(Hla)毒素から本質的になる組成物の有効量を患者に投与する段階を含む、ブドウ球菌肺疾患または状態から患者を防御するための方法に関する。「から本質的になる」という用語は、組成物が本発明の基本特性および新規特性、すなわち、患者においてブドウ球菌に対する免疫反応を惹起するための組成物中のブドウ球菌抗原としての組み換え、弱毒化Hla毒素の使用に物質的に影響を及ぼす他の成分を含有しないことを意味する。
【0016】
本発明のさらなる態様には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α-溶血素(Hla)に対して免疫学的に反応性のヒト化抗体を含む組成物の有効量を患者に投与する段階を含む、ブドウ球菌肺疾患または状態から患者を防御するための方法がある。
【0017】
「ヒト化抗体」という用語は、ヒト抗体に移植される非ヒト抗体の量を最小限に抑えるために遺伝子操作されている抗体をいう。非ヒト配列を含有する抗体の部分は、典型的には、抗体の可変部分であり、非可変部分がヒト配列である。一般に、ヒト化抗体はヒト配列が90〜95%および非ヒト配列が5〜10%である。「免疫学的に反応性の」という用語は、抗体が特定抗原を特異的に認識し、その抗原に対する免疫反応を起こすことを意味する。
【0018】
「ブドウ球菌肺疾患または状態」という用語は、ブドウ球菌由来の感染が引き起こす、寄与する、悪影響を及ぼすおよび/または維持の一助となる肺の疾患または状態をいう。特定の態様において、ブドウ球菌肺疾患または状態は肺炎である。
【0019】
本発明の方法は、主張する発明によって示されるように意図した目的を達成するのに有効な量の抗原、エピトープまたは抗体を提供する段階を含む。より具体的には、いくつかの態様において、有効量とは、免疫反応を刺激するもしくは誘発するのに、または感染に対する耐性もしくは感染の改善をもたらすのに有効な活性成分の量を意味する。より具体的な局面において、有効量は、疾患もしくは感染の症状を阻止する、軽減するもしくは改善する、または処置される被験体の生存を引き延ばす。有効量の判定は十分に、とりわけ本明細書において提供される詳細な開示に照らして、当業者の能力の範囲内である。本発明の方法において用いられるどの調製物についても、有効な量または用量は、インビトロ、細胞培養および/または動物モデルアッセイ法から最初に推定することができる。例えば、所望の免疫反応または循環抗体の濃度もしくは力価を達成するため、動物モデルにおいて用量を処方することができる。そのような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に判定することができる。
【0020】
いくつかの態様において、本発明の方法にかかわる患者は、ブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがあるものと考えられる。そのような患者は、入院しているまたは入院する予定の患者、集中治療室に入っているまたは入る予定の患者、手術を受ける予定の患者、麻酔予定のまたは全身麻酔下の患者、年齢65歳を超える患者、免疫系の不全を有する患者、小児患者、人工呼吸器または他の機械的換気装置につながれているまたはつながれうる患者、気管内チューブが取り付けられる予定のまたは取り付けられた患者、体を固定されているまたは固定される予定の患者、化学療法または骨髄機能廃絶療法を受ける予定の、受けているまたは受けた患者、および特にかなりの(1ヶ月よりも長い)期間、一種または複数種の免疫抑制剤を服用する予定の、服用しているまたは服用した患者を含むが、これらに限定されることはない。さらに、患者はまた、健常な個体であるように見える、または本発明の方法および組成物の恩恵を享受できる患者に対して既知もしくは明白でありうる肺炎のリスク因子がないように見えることも考えられる。
【0021】
本発明のさらなる態様において、方法はブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある患者を特定する段階を伴うこともできる。さらに、方法は、患者をブドウ球菌肺疾患もしくは状態のリスク因子について評価する段階、患者をブドウ球菌肺疾患もしくは状態の症状について評価する段階、または患者をブドウ球菌肺疾患もしくは状態と診断する段階を含むこともできる。ある種の態様において、方法は、ブドウ球菌肺疾患または状態が肺炎の、実施する段階を伴うことができる。
【0022】
本発明のいくつかの局面において、α-溶血素(Hla)毒素は弱毒化されており、この毒素が未改変の毒素よりも機能的に弱いまたは毒性が低いように改変されていることを意味する。本発明のある種の態様において、毒素はHla変種を作出するために一つまたは複数のアミノ酸の変化によって弱毒化される。アミノ酸の変化は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282および283アミノ酸またはその中で導き出せる任意の範囲のアミノ酸の欠失、挿入、および/または置換でありうる。いくつかの態様において、変化はSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に対するものである。特定の態様において、改変はSEQ ID NO:2の位置番号24、35、66、70、110および/または152にある。特定の態様において、変化は、D24C、H35C、H35K、R66C、E70CもしくはK110C、またはその任意の組み合わせである(アミノ酸は1文字コードを用いて言及されている)。さらに、特定の態様において、弱毒化Hla毒素はH35L (文献中で用いられる名称)であり、これは、ポリペプチドの位置番号35にヒスチジンに代えてロイシンを有する毒素をいう。位置番号35をその位置で、他の19種の天然アミノ酸のいずれかを含め、その他任意のアミノ酸により置換できるものと考えられる。結果的に、本発明のいくつかの態様において、弱毒化Hla毒素は組み換え体であり、この毒素が、組み換え工学を通じて改変されたDNAを用いて作出されていることを意味する。
【0023】
ある種の態様において、Hla毒素はSEQ ID NO: 1または2に同一のまたは類似の配列を有する。ある種の局面において、Hla毒素は、SEQ ID NO:1の最初の26アミノ酸が除去されている成熟Hla毒素(SEQ ID NO:2)である。ある種の態様において、Hla毒素は、黄色ブドウ球菌Hla毒素由来のタンパク質配列を有する。類似性または同一性は、同一性が好ましいが、当技術分野において公知であり、いくつかの異なるプログラムを用いて、タンパク質(または核酸)が公知の配列に対して配列同一性または類似性を有するかどうかを特定することができる。配列同一性および/または類似性は、Smith & Waterman (1981)の局所配列同一性アルゴリズムを含むが、これに限定されない、当技術分野において公知の標準的な技術を用いて、Needleman & Wunsch (1970)の配列同一性アライメントアルゴリズムにより、Pearson & Lipman (1988)の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータでの実行(Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA, Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, Wis.)により、Devereux et al. (1984)によって記述されているBest Fit配列プログラムにより、好ましくは初期設定を用いて、または検査により判定される。好ましくは、同一性の割合は当業者にとって、公知のかつ容易に確認できるアライメントツールを用いることにより計算される。
【0024】
本発明のある種の態様において、弱毒化Hla毒素の活性は膜結合、細胞溶解(赤血球の細胞溶解または抗原提示細胞の溶血もしくは溶解に特異的でありうる)および/または7量体形成に関して弱められるまたは除かれる。これらの活性のいずれかまたは全てが、参照により本明細書に組み入れられるWalker and Bailey, (1995)に記述されているもの、および本明細書に記述されているものなどの、これらの活性のアッセイ法で非弱毒化Hla毒素に対して約、少なくとも約、またはせいぜい約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100%低減されうる。ある種の態様において、弱毒化Hla毒素は検出可能な溶血活性または致死活性を欠く。
【0025】
さらに、いくつかの態様において、Hla毒素は、例えば、(ホルムアミドおよびホルマリンを用いるような)化学変性または熱変性を通じて変性されるまたは変性されないことも企図される。「実質的に変性されない」という用語は、いくらかの変性は検出可能でありうるが、ポリペプチドの三次構造または二次構造と関連する免疫原性活性または立体構造特異的な結合剤との結合能は検出可能である毒素をいう。特定の態様において、Hla毒素は精製され、これは最小限の変性ありまたはなしで達成することができる。本発明のいくつかの局面において、Hla毒素は活性であり、この毒素が結合能を含め、上記のものなどの、いくらかの検出可能なレベルの機能または活性を保持していることを意味する。Hla毒素は約、少なくとも約またはせいぜい約(他のタンパク質性分子および/または細胞高分子に対して) 50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100%の、またはその中で導き出せる任意の範囲の純度または均一性までに精製できるものと企図される。さらなる態様において、組み換えHla毒素は単離することができる。「単離される」という用語は、その起源の細胞物質、細菌物質、ウイルス物質もしくは培地(組み換えDNA技術により産生される場合)、または化学的前駆物質もしくは他の化学物質(化学的に合成される場合)を実質的に含んでいない核酸またはポリペプチドをいうことができる。さらに、単離化合物とは、単離された化合物として被験体に投与できるものをいい; 換言すれば、化合物は、カラムに付着されているなら、またはアガロースゲルに埋め込まれているなら単純に「単離されている」と考えられない。さらに、「単離核酸断片」または「単離ペプチド」とは、断片として天然には存在していない、および/または典型的には機能的な状態にない、核酸またはタンパク質断片である。
【0026】
本発明の方法は、Hlaに対する患者での免疫反応を刺激するために患者にHla毒素を投与する段階を伴う。ある種の態様において、これらの方法は、Hla毒素に対する抗体について患者を試験する段階を伴う。そのような方法は当業者に周知であり、それらには以下のアッセイ法: ウエスタンブロッティング法、ELISA法、ドットブロット法、サンドイッチアッセイ法、免疫組織化学法、およびFACSなどのフローサイトメトリー法が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0027】
本発明の組成物は単回または複数回投与できるものと企図される。本発明のある種の態様において、組成物は1、2、3、4、5、6回もしくはそれ以上の、またはその中で導き出せる任意の範囲の回数投与される。予防または処置計画は1、2、3、4、5、6および/もしくは7日間、または1、2、3、4もしくは5週間、ならびに/または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11および/もしくは12ヶ月間、あるいはその中で導き出せる任意の範囲の間にわたる複数回の投与を伴うことができるものと企図される。さらに、ある程度の時間が経過した後に、あるいは被験体が再び、ブドウ球菌疾患もしくは状態のリスクを有するように思われる場合にまたはその疾患もしくは状態で苦しんでいる場合に、そのような任意の計画を繰り返すこともできる。
【0028】
本発明の組成物は、ワクチンまたは抗体を患者に導入するために使われる任意の経路を介して患者に投与することができる。そのような経路は粘膜送達または筋肉内送達を含むが、これらに限定されることはない。特定の態様において、組成物は患者に、鼻腔内によりまたは吸入により投与される。他の態様において、組成物は静脈内にまたは静脈内注射により投与される。さらなる態様において、組成物の投与は経口投与、非経口投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、またはその各種組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。
【0029】
組成物は薬学的に許容される組成物に処方することができる。本発明のある種の局面において、ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌である。
【0030】
さらに、本発明の態様において、本方法は、約、少なくとも約またはせいぜい約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、15.5、16.0、16.5、17.0、17.5、18.0、18.5、19.0、19.5、20.0、21、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990もしくは1000 μgもしくはmg (またはその中で導き出せる任意の範囲)のタンパク質を含有する組成物を伴うこともできる。タンパク質は約、少なくとも約またはせいぜい約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、10、11、12、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990もしくは1000 μlもしくはml (またはその中で導き出せる任意の範囲)の中に存在することができる。ある種の局面において、一種または複数種の抗Hla抗体を体重1 kgあたり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、15.5、16.0、16.5、17.0、17.5、18.0、18.5、19.0.19.5、20.0、21、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990または1000 mgの用量として投与することができる。
【0031】
いくつかの態様において、患者には同様に、黄色ブドウ球菌肺感染を処置するための一種または複数種の抗生物質が与えられる。抗生物質は、Hla毒素またはHla毒素に特異的な抗体を含む組成物で含まれてもまたは含まれなくてもよい。
【0032】
本発明のさらなる態様において、組成物は一種または複数種のアジュバントを含有する。アジュバントは、本発明のポリペプチドまたはペプチドに共有結合的にまたは非共有結合的にカップリングされてもよい。ある種の局面において、アジュバントはタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに化学的に抱合される。
【0033】
抗原または免疫原などの、本発明の部分をアジュバント、タンパク質、ペプチド、支持体、蛍光部分または標識などの、他の部分に共有結合的または非共有結合的に抱合または連結させることができる。「抱合体」または「免疫抱合体」という用語は、一つの部分と他の薬剤との機能的結合を定義するように広く用いられており、任意のタイプの機能的結合を単にいうようには意図されておらず、化学的「抱合」に特に限定されることはない。組み換え融合タンパク質が特に企図される。核酸またはポリペプチド組成物は、他の混入物質の量に基づいて、少なくとも、60、65、70、75、80、85、90、95、98または100%の純度のものでありうる。
【0034】
さらなる態様において、組成物は、Hla毒素をコードする組み換え核酸分子を含む。典型的には、組み換え核酸分子は異種プロモーターを含む。ある種の局面において、本発明の組み換え核酸分子はベクターであり、他の局面において、ベクターはプラスミドである。ある種の態様において、ベクターはウイルスベクターである。組成物は、典型的には、ヒト被験体に投与されるが、免疫反応を誘発できる他の動物、特にウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジおよび他の家畜への投与が企図される。さらなる局面において、ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌である。さらなる態様において、免疫反応は防御免疫反応である。さらなる局面において、本発明の方法および組成物は、肺の感染、特に肺炎および他の肺感染を予防する、改善する、軽減するまたは処置するために用いることができる。他の方法は、感染の兆候を呈していない被験体、特に標的細菌に侵されていると疑われるまたは標的細菌に侵されるリスクのある被験体、例えば、入院、処置および/または回復の間に感染のリスクまたは影響のあるまたはありうる患者における細菌負荷の予防的軽減を含むが、これに限定されることはない。
【0035】
本明細書において用いられる場合、「抗原」という用語は、抗体またはT細胞受容体によって結合されることができる分子である。抗原はさらに、体液性免疫反応および/または細胞性免疫反応を誘導し、Bリンパ球および/またはTリンパ球の産生をもたらすことができる。生物学的反応をもたらす抗原の構造的特徴(structural aspect)は、本明細書において「抗原決定基」といわれる。Bリンパ球は抗体産生を介して外来の抗原決定基に反応するのに対し、Tリンパ球は細胞性免疫の介在物質である。Tリンパ球は、細胞性免疫の介在物質であることに加えて、Bリンパ球と抗原との反応をさらに刺激することにより、抗体産生を促進することができる。このように、抗原決定基またはエピトープは、抗体により、またはMHCとの関連ではT細胞受容体により、認識される抗原の部分である。抗原決定基はタンパク質の、連続した配列またはセグメントである必要はなく、互いに直接隣接していない種々の配列を含むことができる。
【0036】
本発明の他の態様は、本出願の全体を通じて論じられている。本発明の一つの局面に関して論じられているいずれの態様も、同様に本発明の他の局面に当てはまり、その逆もまた同様である。実施例の項における態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様であると理解される。
【0037】
リストの個々の成分または要素は、主張する発明から具体的に包含されまたは除外されうることが具体的に企図される。
【0038】
「阻害する」、「低減する」もしくは「阻止」という用語、またはこれらの用語の任意の変化形は特許請求の範囲および/または明細書において用いられる場合、所望の結果を達成するためのいくらかの測定可能な減少または完全な阻害を含む。
【0039】
「一つの(a)」または「一つの(an)」という単語の使用は、特許請求項の範囲および/または明細書において「含む」という用語とともに用いられる場合、「一つの(one)」を意味することができるが、それは「一つまたは複数の」、「少なくとも一つの」および「一つまたは二つ以上」のという意味とも一致する。
【0040】
本明細書において論じられるいずれの態様も、本発明のいずれの方法または組成物に対しても実施することができ、その逆もまた同様であるものと企図される。さらに、本発明の組成物およびキットは本発明の方法を達成するために用いることもできる。
【0041】
本出願の全体を通じて、「約」という用語は、値にはその値を決定するために利用される装置または方法に対しての誤差の標準偏差が含まれることを示すために用いられる。
【0042】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、代替物だけをいうように明記されていない限りまたは代替物が相互排他的でない限り「および/または」を意味するように用いられるが、本開示では、代替物のみと「および/または」とをいうという定義を支持する。
【0043】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる場合、「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの、含む(comprising)の任意の形態)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などの、有する(having)の任意の形態)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの、含む(including)の任意の形態)または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの、含有する(containing)の任意の形態)という単語は、包括的または非制限的であり、さらなる、引用していない要素または方法の段階を除外しない。
【0044】
本発明の他の目標、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な例は、本発明の特定の態様を示しているが、この詳細な説明から当業者には本発明の趣旨および範囲のなかで種々の変更および修正が明らかになると考えられるので、単なる例示として与えられるものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の局面をさらに実証するために含まれる。本明細書において提示される特定の態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の一つまたは複数を参照することにより、本発明をさらによく理解することができる。
【図1】α-溶血素(Hla)は、CA-MRSA (市中関連のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌)肺感染の病毒性因子である。(図1A) 感染後24、48および72時間の時点での動物死亡率の評価によるマウス肺感染モデルにおけるCA-MRSA株黄色ブドウ球菌LAC (wt)と同質遺伝子的なhla::erm変異体との病毒性の比較。1群につき動物10匹を感染させた(p<0.0007)。(図1B) CA-MRSA株LACまたはMW2における、Panton-Valentineロイコシジン(PVL)毒素をコードする、lukS-PVおよびlukF-PVの欠失は、ブドウ球菌性肺炎のマウスモデルにおける病毒性に影響を与えない。マウスに2×108 CFUの黄色ブドウ球菌LAC野生型(wt)または同質遺伝子的なlukS-PVおよびluKF-PV欠失変異体(Δpvl) (p=0.22)ならびに3〜4×108 CFUの黄色ブドウ球菌MW2 (wt)およびその同質遺伝子的なpvl欠失変異体(Δpvl) (p=0.41)を感染させた。死亡率を1菌株につき動物15匹の群において感染後24、48および72時間の時点で評価した。(図1C) ヘマトキシリン・エオシン染色を介した薄片肺組織の病理組織学的分析から、LACおよびMW2分離株におけるPVL発現に関係なく類似の肺損傷パターンが明らかとなった。
【図2】α-溶血素(Hla)は、CA-MRSA (市中関連のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌)肺感染の病毒性因子である。(図2A) マウスに2×108 CFUの黄色ブドウ球菌LAC野生型(wt)または同質遺伝子的なlukS-PVおよびluKF-PV欠失変異体(Δpvl)ならびに3〜4×108 CFUの黄色ブドウ球菌MW2 (wt)およびその同質遺伝子的なpvl欠失変異体(Δpvl)を感染させた。ブドウ球菌を24時間感染させた動物の右肺からの菌回収により、lukS-PVおよびlukF-PVの欠失は肺組織におけるブドウ球菌の複製に影響を与えないことが明らかになった(1菌株につき動物10匹の群)。スチューデントのt-検定による統計解析から、LAC菌株の比較の場合p = 0.46およびMW2株の場合p = 0.23が得られた。(図2B) LukS-PVおよびLukF-PVに対する抗体による免疫ブロッティングはpvl変異株における毒素分泌の喪失を示したが、α-溶血素(Hla)の分泌は同質遺伝子的なpvl欠失によって影響を受けなかった。星印()で印を付けた交差反応種は、LukF-PVよりもわずかに速く移動する。
【図3】Panton-Valentineロイコシジン(PVL)を発現するφSa2mwファージによる溶原性は、ブドウ球菌性肺炎のマウスモデルにおいて黄色ブドウ球菌Newmanの病毒性に影響を与えない。(図3A) 略図は黄色ブドウ球菌Newmanのゲノム、その複製の起点(ori)および終結点(ter)ならびに四つのプロファージの挿入部位(φNM1、φNM2、φNM3、φNM4)を示す。黄色ブドウ球菌NewmanにおけるφSa2mwの挿入部位を示してある。(図3B) φSa2mwによる菌株Newmanの溶原性は、PVL毒素成分(LukS-PVおよびLukF-PV)のどちらも培養上清サンプル中でのウサギ抗血清を用いた免疫ブロット分析によって検出できることから、lukS-PVおよびlukF-PVの発現をもたらす。星印()で印を付けた交差反応種は、LukF-PVよりもわずかに速く移動する。(図3C) 3〜4×108コロニー形成単位(CFU)の黄色ブドウ球菌Newman (wt)またはφSa2mwで溶原化された同質遺伝子的な変種(Newman φSa2mw)を鼻腔内接種してから24時間後の、マウス右肺からの細菌回収により、ブドウ球菌複製の有意差は明らかにならなかった(スチューデントのt-検定でp = 0.74、1群につき動物15匹)。横線は細菌回収の平均を示す。(図3D) 黄色ブドウ球菌Newman (wt)またはφSa2mwで溶原化された同質遺伝子的な変種(Newman φSa2mw)の鼻腔内接種で感染された動物は24、48または72時間の観察後に類似の死亡率を示す(p=0.58)。(図3E) 黄色ブドウ球菌Newman φSa2mwへのhla::erm対立遺伝子の形質導入により、マウス肺感染モデルにおける病毒性がなくなる(p<0.00004)。
【図4】Panton-Valentineロイコシジン(PVL)を発現するφSa2mwファージによる溶原性は、ブドウ球菌性肺炎のマウスモデルにおいて黄色ブドウ球菌Newmanの病毒性に影響を与えない。(図4A) ベクターのみまたはppvlのどちらかを保持する3〜4×108 CFUの黄色ブドウ球菌Newmanを鼻腔内経路によって感染させた動物から、プラスミドを介したPVLの過剰発現が動物の死亡率に影響を与えないことが明らかになった(p=0.27)。α-溶血素欠損株(hla::erm)は、肺感染の間に無病原性であったので、ベクターのみ、ppvlまたはphlaで形質転換されたhla::erm変異体をマウス肺感染モデルでのその病毒性について分析した。1菌株につき動物10〜15匹を調べ、感染後24、48および72時間の時点で死亡率を記録した。黄色ブドウ球菌hla変異体(phla)を感染させた動物の死亡率は、ベクターまたはppvlのどちらかを内部に持つブドウ球菌hla変異体を感染させた動物のものに比べて著しく増加した(p=0.00004)。(図4B) PVL (ppvl、lukS-PVおよびlukF-PV)、α-溶血素(phla)またはベクターのみのいずれかの発現を促進するプラスミドで形質転換された、黄色ブドウ球菌Newmanおよびその同質遺伝子的なhla::erm変種に由来する18時間の培養上清の免疫ブロット分析。特異的抗体により、LukS-PV、LukF-PV、α-溶血素(Hla)およびヌクレアーゼの存在および/または非存在が明らかとなった。星印()で印を付けた交差反応種は、LukF-PVよりもわずかに速く移動する。
【図5】変異体α-溶血素による免疫は、ブドウ球菌性肺炎を防ぐ。(図5A) C57BL/6JマウスにPBSまたは20 μgのHlaH35L、つまり毒性活性および孔形成をなくす単一のアミノ酸置換を持った変異体α-溶血素を免疫し、次に、そのマウスを黄色ブドウ球菌Newmanで攻撃した。感染から24、48または72時間後に死亡率を記録した(p<0.001)。(図5B) HlaH35Lによるマウスの免疫は、感染マウス肺組織における黄色ブドウ球菌Newmanの増殖を低減する。(図5C) PBSまたはHlaH35Lを免疫したマウス由来の黄色ブドウ球菌Newman感染肺組織の肉眼的病態。(図5D) PBSまたはHlaH35Lを免疫したマウス由来の黄色ブドウ球菌Newman感染肺組織の病理組織診断。(図5E) C57BL/6JマウスにPBSまたは20 μgのHlaH35Lを免疫し、次に、そのマウスを黄色ブドウ球菌CA-MRSA株LACまたはMW2で攻撃した。感染から24、48または72時間後に死亡率を記録した。HlaH35L免疫動物の死亡率は、黄色ブドウ球菌株LAC (p=0.00001)またはMW2 (p=0.018)のどちらかで攻撃された模擬(PBS)免疫動物のそれと比べて著しく低下した。
【図6】α-溶血素はブドウ球菌によるヒト肺胞細胞の損傷を媒介する。(図6A) ヒトA549肺胞細胞にブドウ球菌(菌株LAC、MW2またはNewman)を感染させた。37℃で4時間の共培養の後、溶解細胞による乳酸脱水素酵素(LDH)放出の評価を各ウェルにて実施した。感染を三つ組で実施して、スチューデントのt-検定による統計的有意性の評価を可能にした。(図6B) 非感染のままとした、またはプラスミドベクターもしくはphlaのどちらかを保持するα-溶血素変異体の黄色ブドウ球菌株(hla::erm)を感染させた、A549細胞の位相差顕微鏡画像。感染から3時間後に画像を記録した。(図6C) ブドウ球菌によるα-溶血素を介したヒト肺細胞の損傷は、抗Hlaウサギ血清を用いた処理により、または精製HlaH35Lとのプレインキュベーションにより低減したのに対し、非反応性のウサギ血清(NRS)では影響がなかった。
【図7】抗Hla血清によるマウスの受動免疫は、ブドウ球菌肺感染に対する防御を生み出す。(図7A) マウスを、非反応性(NRS)のウサギ血清、または抗Hla抗体を含むウサギ血清の腹腔内注射によって受動免疫し、次に黄色ブドウ球菌Newmanで攻撃した(p<0.0007)。感染から24、48および72時間後に死亡率を記録した。(図7B) 抗Hlaによるマウスの受動免疫は、マウス肺組織における黄色ブドウ球菌Newmanの増殖能を低減し(図7C)、同様に、肉眼的病態(図7D)および感染後に明白な組織病理学的損傷を減少させる。(図7E) 抗Hla抗血清はまた、黄色ブドウ球菌株LAC (p<0.025)またはMW2 (p<0.009)の鼻腔内接種による攻撃時に動物を防御する。(図7F) 抗PVL免疫グロブリンは感染から24、48および72時間後に記録されたように黄色ブドウ球菌LACの感染に対する防御を与えることができない(p=0.55)。
【図8】ブドウ球菌肺感染中のサイトカイン反応は、α-溶血素に対する抗体による受動免疫に影響を受ける。マウスの腹膜腔に、非反応性のまたは抗Hla抗体を含むウサギ血清を注射した。血清中サイトカインレベルを多重ビーズに基づくサイトカインアッセイ法によって測定し、IL-1βおよびIFN-γの濃度を調べた。サイトカインレベルの相違の統計的有意性をスチューデントのt-検定により計算し(1群につき動物9匹)、記録した。
【図9】α-溶血素に対するマウスモノクローナル抗体は、A549細胞を黄色ブドウ球菌誘導性の溶解から防御する。A549細胞を、非反応性(NRS)のまたは抗Hlaを含むウサギ血清の存在下において黄色ブドウ球菌生菌と共培養した。A549細胞のさらなるウェルでは黄色ブドウ球菌生菌および二種の独立的な抗Hlaモノクローナル抗体(7B8.35および1A9)またはそのアイソタイプ適合性の対照抗体(それぞれIgG2aおよびIgG2b)と共培養を行い、ポリクローナルウサギ抗血清もマウスモノクローナル抗体もともにA549細胞をHla誘導性の損傷から防御できることが実証された。
【図10】A549細胞LDH放出アッセイ法におけるマウスモノクローナル抗体の用量設定。アイソタイプ対照抗体(IgG2aもしくはIgG2b)または抗α-溶血素モノクローナル抗体7B8.35/1A9.4F9を黄色ブドウ球菌Newmanの存在下においてA549細胞の共培養物に加えた。モノクローナル抗体を次のようにアッセイ法で用量設定した: 左から右へ2.5 mg/ml、2 mg/ml、1.5 mg/ml、1 mg/ml、0.5 mg/ml、0.1 mg/ml、0.01 mg/mlおよび0.001 mg/ml。4時間の共培養後にLDHの放出を評価した。
【図11】抗α-溶血素モノクローナル抗体7B8.35および1A9.4F9は、実験動物を、黄色ブドウ球菌性肺炎に関連する死から防御する。黄色ブドウ球菌Newmanの感染24時間前に、マウス15匹の群にアイソタイプ対照抗体(IgG2a、パネルAもしくはIgG2b、パネルB)または対応する抗Hlaモノクローナル抗体(7B8.35、パネルAもしくは1A9.4F9、パネルB)の腹腔内注射を行った。各抗体を5 mg/kgの用量で送達した。鼻腔内経路を介した黄色ブドウ球菌の感染の後、急性の致死性疾患がないか動物を観察したところ、どちらかのモノクローナル抗体での処置によって得られる顕著な防御が明らかになった。
【図12】抗Hlaモノクローナル抗体は、実験動物を、USA300/LACが引き起こす肺炎から防御する。動物にアイソタイプ対照抗体(IgG2aもしくはIgG2b)または対応する抗Hlaモノクローナル抗体(7B8.35もしくは1A9.4F9)の腹腔内用量を与えた。各抗体を5 mg/kgの用量で送達した。鼻腔内経路を介した黄色ブドウ球菌株USA300/LACの感染の後、急性の致死性疾患がないか動物を観察したところ、どちらかのモノクローナル抗体での処置によって得られる防御が明らかになった。
【図13】HlaH35L切断産物の略図。全長HlaH35Lおよび全長タンパク質下に図示した7種の切断産物。
【図14】抗Hlaモノクローナル抗体は、成熟毒素の単一のN末端領域に結合する。モノクローナル抗体7B8.35および1A9.4F9によるHlaH35L切断産物のドットブロット分析から、両方のモノクローナル抗体により認識されるエピトープはタンパク質の最初の50アミノ酸のなかに存在することが明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の詳細な説明
マウスモデル系における黄色ブドウ球菌性肺炎の研究により、α-溶血素(Hla)は、この外毒素を欠く変異株が無病毒性であることから、この疾患の病因において重要な病毒性因子と考えられている。Hlaは、黄色ブドウ球菌により分泌される細菌細胞毒素ファミリーの一員であり、多数の真核細胞の細胞膜に入り込むことができる。このタンパク質は単量体として分泌され、真核細胞の表面に7量体環状構造を構築する。構築された毒素は宿主細胞膜に入り込み、膜の完全性を破壊することにより細胞の損傷および死の一因となる細孔を形成する。いくつかの生化学的研究によって、宿主細胞への結合、7量体形成および宿主細胞溶解を促進するHla単量体内のアミノ酸残基が規定されている。成熟毒素における35位のヒスチジン残基は効率的な7量体形成および細胞溶解に必要であることが知られているが、真核細胞標的への結合に不可欠ではない。本発明者らは、Hlaを中和できるワクチン接種戦略が黄色ブドウ球菌性肺炎に対する免疫防御を与えるものと考える。このために、本発明者らは、ヒスチジン35をロイシンに変換し、かくしてこの毒素の生産的構築(productive assembly)を抑止した、Hlaの変異体型または変種型(HlaH35L)で表される組み換え弱毒化または減毒性Hlaを作出した。
【0047】
この変異体毒素での実験動物の免疫は、黄色ブドウ球菌での攻撃時に肺炎に対する防御を与えた。この防御は死亡率の低下、肺から回収される細菌の減少、および病変の病巣部位への限定として現れた。同様に、組み換えHlaH35Lで免疫されたウサギ由来の血清による受動免疫も、マウスを黄色ブドウ球菌性肺炎から防御し、能動免疫後に見られたのと同じ便益を示した。
【0048】
本発明の態様は感染の軽減もしくは感染に対する免疫および/またはブドウ球菌性肺炎の予防もしくは処置で用いるためのHla、HlaH35Lおよびその断片によって例示される、免疫原性タンパク質、ポリペプチドおよびペプチドに関する。抗原性タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、ブドウ球菌、特に黄色ブドウ球菌由来のHlaタンパク質の全部または一部を含むが、これらに限定されることはない。そのような菌株の非限定的な例としては、Lindsayら(2006)によって特定された10クローンのクラスタ(10 clonal cluster)(CC1、CC5、CC8、CC12、CC15、CC22、CC25、CC30、CC45およびCC51)のうちの1つに属するものが挙げられる。より詳細には、抗原性タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、黄色ブドウ球菌MRSA株、および黄色ブドウ球菌株8325、Barnum、Berlin、Brazilian Iberian、COL、EMRSA-15、EMRSA-16、Hanover、LAC、N315、MRSA 252、MW2、Mu50、Pediatric NY、Japanを含むがこれらに限定されない、院内及び市中感染と関連付けられている分岐群、ならびにCDC分岐群USA 100、USA 200、USA 300、USA 500、USA 600およびUSA 800のなかに分類されている黄色ブドウ球菌株由来のHlaタンパク質の全部または一部を含むが、これらに限定されることはない。
【0049】
I. ブドウ球菌HLA
ブドウ球菌α-溶血素(Hlaまたはα-毒素)は、細菌孔形成β-バレル毒素ファミリーの、当初からの成員である(Bhakdi and Tranum-Jensen, 1991; Song et al., 1996)。その構造遺伝子hlaは、293残基の水溶性単量体を分泌する、調べられている全ての黄色ブドウ球菌株の染色体に位置している(O'Reilly et al., 1990; O'Reilly et al., 1986)。Hlaは、感受性宿主細胞の表面受容体に会合し、それによって7量体の前細孔へのそのオリゴマー化および原形質膜への直径2 nmの細孔を有するβ-バレル構造の挿入を促進すると考えられている(Gouaux et al., 1997)。Hlaの細孔はリンパ球、マクロファージ、肺胞上皮細胞、肺内皮および赤血球に生じるが、顆粒球および線維芽細胞は溶解に耐性と思われる(Bhakdi and Tranum-Jensen, 1991; McElroy et al., 1999)。精製Hlaのウサギまたはラット肺組織への注入は血管漏出および肺高血圧を誘発し、これはいくつかのシグナル伝達分子、例えばホスファチジルイノシトール、酸化窒素、プロスタノイド(PGE2、PGI2)およびトロンボキサンA2の放出によるものとされている(McElroy et al., 1999; Seeger et al., 1984; Seeger et al., 1990; Rose et al., 2002; Suttorp and Habben, 1988)。Hlaの生化学的性質に一致して、黄色ブドウ球菌NewmanにおいてHlaの発現を抑止する突然変異は、マウス肺炎モデルにおいて細菌の病毒性を大幅に弱毒化する(Bubeck-Wardenburg et al., 2007)。ここで、本発明者は、黄色ブドウ球菌肺感染に対抗するワクチンまたは免疫治療戦略の開発のための標的としてHlaを調べた。
【0050】
本発明のある種の局面では、Hlaタンパク質のポリペプチド、ペプチド、またはHlaタンパク質のそのようなものをコードする核酸を含んだタンパク質性組成物に関する方法および組成物を含む。これらのタンパク質は欠失、挿入および/または置換によって修飾されてもよい。特定の態様において、これらのタンパク質の修飾は被験体において免疫反応を誘発することができる。
【0051】
Hlaポリペプチドはブドウ球菌属における細菌由来のHlaタンパク質のアミノ酸配列を含む。Hla配列は黄色ブドウ球菌などの、特定のブドウ球菌種由来であってよく、Newmanなどの、特定の菌株由来であってよい。ある種の態様において、Hla配列は

のコンセンサスな黄色ブドウ球菌前駆体配列
および

の成熟な黄色ブドウ球菌コンセンサス配列
を有する配列を含むことができる。
【0052】
ある種の局面において、Hla配列は、本出願の最も早い優先日の時点で、参照により本明細書に組み入れられるGenbankアクセッション番号AAA26498 (gi152953)、Mu50 (NP_371687.1) (gi15924153)、COL (YP_186036.1) (gi57650272)、N315 (NP_374279.1) (gi15926746)、JH9 (YP_001246598.1) (gi148267655)、JH1 (YP_001316387.1) (gi150393712)、USA300 (YP_493756.1) (gi87160380)、NCTC8325 (YP_499665.1) (gi88194865)、Newman (YP_001332107.1) (gi151221285)、MW2 (NP_645861.1) (gi21282773)およびMSSA476 (YP_043222.1) (gi49486001)に実質的に記載されており、またはその変種である。
【0053】
さらなる態様において、他のHlaポリペプチドを用いることができ、当業者はデータベースおよびインターネットでアクセスできる供給源を用いてその配列を特定することができる。
【0054】
本明細書において用いられる場合「タンパク質」または「ポリペプチド」とは、少なくとも10個のアミノ酸残基を含む分子をいう。いくつかの態様において、タンパク質またはポリペプチドの野生型が利用されるが、しかし、本発明の多くの態様において、免疫反応を生じさせるために修飾されたタンパク質またはポリペプチドが利用される。上記の用語は本明細書において互換的に用いることができる。「修飾タンパク質」または「修飾ポリペプチド」とは、その化学構造、特にそのアミノ酸配列が野生型のタンパク質またはポリペプチドに対して改変されているタンパク質またはポリペプチドをいう。いくつかの態様において、修飾されたタンパク質またはポリペプチドは少なくとも一つの修飾された活性または機能を有する(タンパク質またはポリペプチドが複数の活性または機能を持ちうることを認識して)。具体的には、修飾されたタンパク質またはポリペプチドは一つの活性または機能に関して改変されうるが、それでも免疫原性のような、その他の点では野生型の活性または機能を保持しているものと考えられる。
【0055】
ある種の態様において、(野生型または修飾)タンパク質またはポリペプチドのサイズは、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1750、2000、2250、2500もしくはそれ以上の、およびその中で導き出せる任意の範囲のアミノ分子、またはその派生体を含むことができるが、これらに限定されることはない。ポリペプチドを切断によって突然変異させ、それらを、対応するその野生型よりも短くさせてもよいが、それらを(例えば、標的化または局在化のために、免疫原性の増強のために、精製目的のために、など)特定の機能を有する異種タンパク質配列に融合または結合させることによって変化させることもできると考えられる。
【0056】
本明細書において用いられる場合、「アミノ分子」とは、当技術分野において公知の任意のアミノ酸、アミノ酸誘導体またはアミノ酸模倣体をいう。ある種の態様において、タンパク質性分子の残基は逐次的であり、アミノ分子残基の配列を中断するいかなる非アミノ分子も含まれない。他の態様において、その配列は一つまたは複数の非アミノ分子部分を含むことができる。特定の態様において、タンパク質性分子の残基の配列は一つまたは複数の非アミノ分子部分によって中断されることができる。
【0057】
したがって、「タンパク質性組成物」という用語は、天然に合成されたタンパク質における20種の共通アミノ酸の少なくとも一つ、または少なくとも一つの修飾もしくは異常アミノ酸を含むアミノ分子配列を包含する。
【0058】
タンパク質性組成物は、(i) 標準的な分子生物学的技術を通じたタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの発現、(ii) 天然源もしくは組み換え源(例えば、大腸菌(E. coli)、昆虫細胞、酵母など)からのタンパク質性化合物の単離、または(iii) タンパク質性物質の化学的合成を含めて、当業者に公知の任意の技術により作出することができる。さまざまな遺伝子に対するヌクレオチドならびにタンパク質、ポリペプチドおよびペプチド配列がこれまでに開示されており、公認のコンピュータ化されたデータベースにおいて見出される可能性がある。そのようなデータベースの一つが全米バイオテクノロジー情報センターのGenbankおよびGenPeptデータベース(www.ncbi.nlm.nih.gov/)である。これらの公知の遺伝子に対するコード領域は、本明細書において開示される技術を用いてまたは当業者に周知であるように、増幅されおよび/または発現されうる。
【0059】
Hlaのアミノ酸配列変種を企図し、置換変種、挿入変種または欠失変種とすることができる。本発明のポリペプチドにおける修飾は野生型と比べて、ポリペプチドの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291、292、293個またはそれ以上の非隣接または隣接アミノ酸に影響を与えることができる。任意のブドウ球菌種およびブドウ球菌株由来のHlaポリペプチドが本発明の方法で用いるために企図される。
【0060】
変種は、典型的には、天然または野生型タンパク質の一つまたは複数の残基を欠損している。個々の残基を欠失させてもよく、またはいくつかの隣接アミノ酸を欠失させてもよい。終止コドンを(置換または挿入により)コード化核酸配列に導入して、切断型タンパク質を作出することができる。挿入変異体は、典型的には、ポリペプチドにおける非末端点での物質の付加を伴う。これには一つまたは複数の残基の挿入を含めることができる。融合タンパク質と呼ばれる、末端付加体を作出することもできる。
【0061】
置換変種は、典型的には、タンパク質内の一つまたは複数の部位での一つのアミノ酸と別のアミノ酸との交換を含み、他の機能または特性を失うかまたは失うことなく、ポリペプチドの一つまたは複数の特性を調節するようにデザインされてもよい。置換は保存的であってもよく、すなわち、一つのアミノ酸が類似の形状および電荷のアミノ酸に置換されてもよい。保存的置換は当技術分野において周知であり、これには、例えば、アラニンをセリンへ、アルギニンをリジンへ、アスパラギンをグルタミンまたはヒスチジンへ、アスパラギン酸塩をグルタミン酸塩へ、システインをセリンへ、グルタミンをアスパラギンへ、グルタミン酸塩をアスパラギン酸塩へ、グリシンをプロリンへ、ヒスチジンをアスパラギンまたはグルタミンへ、イソロイシンをロイシンまたはバリンへ、ロイシンをバリンまたはイソロイシンへ、リジンをアルギニンへ、メチオニンをロイシンまたはイソロイシンへ、フェニルアラニンをチロシン、ロイシンまたはメチオニンへ、セリンをトレオニンへ、トレオニンをセリンへ、トリプトファンをチロシンへ、チロシンをトリプトファンまたはフェニルアラニンへ、およびバリンをイソロイシンまたはロイシンへ変化させることが含まれる。あるいは、置換はポリペプチドの機能または活性が影響を受けるように非保存的であってもよい。非保存的変化は、典型的には、非極性または非荷電アミノ酸の代わりに極性または荷電アミノ酸を用いるような、およびその逆のような、一つの残基を化学的に異なる残基に置換することを伴う。
【0062】
本発明のタンパク質は組み換えであっても、またはインビトロで合成されてもよい。あるいは、非組み換えまたは組み換えタンパク質を細菌から単離してもよい。そのような変種を含有する細菌を、本発明の組成物および方法のなかで実践できることも考えられる。結果的に、タンパク質は単離されなくてもよい。
【0063】
「機能的に同等なコドン」という用語は、アルギニンまたはセリンに対する6種のコドンのような、同じアミノ酸をコードするコドンをいうように本明細書において用いられ、同様に、生物学的に同等のアミノ酸をコードするコドンもいう(以下の表1を参照のこと)。
【0064】
(表1) コドン表

【0065】
アミノ酸および核酸配列は、タンパク質の発現が関与している生物学的タンパク質活性の維持を含めて、上記の基準を満たす限り、それぞれ、さらなるN末端もしくはC末端アミノ酸、または5'もしくは3'配列のような、さらなる残基を含むこともあり、それでも本質的には、本明細書において開示されている配列の一つに記載の通りでありうることも理解されよう。末端配列の付加は核酸配列に特に当てはまり、例えば、コード領域の5'または3'部分のどちらかに隣接する種々の非コード配列を含むことができる。
【0066】
以下は、同等の、さらには改善された、第二世代の分子を作出するためにタンパク質のアミノ酸を変化させることに基づく考察である。例えば、ある種のアミノ酸を、例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子上の結合部位のような構造との相互作用結合能をさほど失わずにタンパク質構造中の他のアミノ酸の代わりに用いることができる。タンパク質の生物学的機能活性を規定するのはタンパク質の相互作用能および性質であることから、アミノ酸配列の中に、およびその基礎となるDNAコード配列の中にある種のアミノ酸置換を施し、それでも、類似の特性を有するタンパク質を産生させることができる。このように、遺伝子または核酸のDNA配列においてその生物学的有用性または活性をさほど失わずに種々の変化を施すことができるものと本発明者らは企図している。
【0067】
そのような変化を施す際に、アミノ酸の疎水性親水性指標(hydropathic index)を考慮することができる。タンパク質に相互作用性の生物学的機能を付与する際の疎水性親水性アミノ酸指標の重要性は、当技術分野において広く理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的な疎水性親水性(hydropathic character)は、得られるタンパク質の二次構造に寄与し、これがタンパク質と他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を規定することが認められている。
【0068】
同様に、類似のアミノ酸の置換は、親水性に基づいて効果的に施せることも当技術分野において理解されている。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号には、タンパク質の最大の局所平均親水性が、その隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるため、タンパク質の生物学的特性と相関することが述べられている。アミノ酸を、類似の親水性値を有する別のアミノ酸の代わりに用い、それでも、生物学的に同等なおよび免疫学的に同等なタンパク質を産生できることが理解されよう。
【0069】
上記のように、アミノ酸置換は、一般的に、アミノ酸側鎖の置換基の相対的類似性、例えばその疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づく。さまざまな上述の特徴を考慮に入れた例示的な置換は、周知であり、アルギニンおよびリジン、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩、セリンおよびトレオニン、グルタミンおよびアスパラギン、ならびにバリン、ロイシンおよびイソロイシンを含む。
【0070】
本発明の組成物においては、1 mlあたり約0.001 mg〜約10 mgの総タンパク質が存在することが企図される。したがって、組成物中のタンパク質の濃度は約、少なくとも約またはせいぜい約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0 μg/ml、mg/mlもしくはそれ以上(またはその中で導き出せる任意の範囲)でありうる。このうち、約、少なくとも約、またはせいぜい約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%がHlaタンパク質であってよい。
【0071】
本発明は、ブドウ球菌病原菌による感染と関連する疾患または状態、ある種の局面においては肺炎の発症に対する予防的治療に影響を与えるためのHlaポリペプチドまたはペプチドの投与を企図する。本発明は同様に、ブドウ球菌病原菌による感染と関連する疾患または状態、ある種の局面においては肺炎の予防または処置で用いるためのHlaポリペプチドまたはペプチドに対して作製された抗体の投与を企図する。
【0072】
さらに、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号(Hopp)には、親水性に基づく一次アミノ酸配列からのエピトープの特定および調製が教示されている。Hoppに開示されている方法を通して、当業者はアミノ酸配列の中から潜在的なエピトープを特定し、その免疫原性を確認することができよう。多数の科学出版物もアミノ酸配列の解析からの、二次構造の予測をテーマとし、エピトープの特定をテーマとしている(Chou & Fasman, 1974a,b; 1978a,b, 1979)。必要なら、米国特許第4,554,101号におけるHoppの教示を補足するためにこれらのいずれも用いることができる。
【0073】
本発明は、本発明のさまざまな態様で用いるためのポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質について記述する。例えば、特定のポリペプチドについて、免疫反応を誘発するその能力をアッセイする。特定の態様において、本発明のタンパク質の全部または一部を、従来の技術にしたがって溶液中でまたは固体支持体上で合成することもできる。各種の自動合成機が市販されており、それらを公知のプロトコルにしたがって用いることができる。例えば、Stewart and Young, (1984); Tam et al., (1983); Merrifield, (1986); およびBarany and Merrifield (1979)を参照されたく、これらの各々が参照により本明細書に組み入れられる。あるいは、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、これを適切な宿主細胞に形質転換または形質移入し、これを発現に適した条件の下で培養する組み換えDNA技術を利用することもできる。
【0074】
本発明の一つの態様では、タンパク質の産生および/または提示のための、微生物を含む、細胞への遺伝子移入の使用を含む。関心対象のタンパク質に対する遺伝子を適切な宿主細胞に移入し、引き続いて適切な条件下での細胞の培養を行うことができる。本明細書において記述するほとんどすべてのポリペプチドをコードする核酸を、利用することができる。組み換え発現ベクターの作出、およびそのベクターに含まれる要素は、本明細書において論じられている。あるいは、産生されるタンパク質は、タンパク質の産生に使われる細胞によって通常合成される内因性タンパク質であってもよい。
【0075】
本発明の別の態様では、免疫原産物、より具体的には、免疫原性活性を有するタンパク質を発現するウイルスベクターにより形質移入された、自己Bリンパ球細胞株を用いる。哺乳類宿主細胞株の他の例としては、VeroおよびHeLa細胞、CEM、721.221、H9、Jurkat、Rajiなどの、他のB細胞株およびT細胞株、ならびにチャイニーズハムスター卵巣細胞株、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、3T3、RINおよびMDCK細胞が挙げられるが、これらに限定されることはない。さらに、挿入された配列の発現を調節する、または所望とされる様式で遺伝子産物を修飾およびプロセッシングする宿主細胞株を選択することもできる。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセッシング(例えば、切断)は、タンパク質の機能にとって重要でありうる。異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセッシングおよび修飾の特徴的かつ特異的な機構を有する。発現される外来タンパク質の的確な修飾およびプロセッシングを確実とするために、適切な細胞株または宿主系を選択することができる。
【0076】
tk細胞、hgprt細胞またはaprt細胞での、それぞれ、HSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼおよびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むが、これらに限定されない、いくつかの選択系を用いることができる。同様に、選択の基礎として抗代謝物耐性: トリメトプリムおよびメトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr; ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt; アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo; ならびにハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroを用いることもできる(例えば、細胞増殖の単分子層タイプ)。
【0077】
動物細胞はインビトロにおいて二つの様式で、つまり培養の大半を通じて浮遊状態で増殖する非足場依存性細胞として、または増殖のためには固体基材への付着を要する足場依存性細胞として増殖させることができる。
【0078】
連続樹立細胞株由来の非足場依存性培養または浮遊培養は、細胞および細胞産物の、最も広く使われている大規模産生手段である。しかしながら、浮遊培養細胞には、腫瘍形成能および接着細胞よりも低いタンパク質産生のような制限がある。
【0079】
A. 宿主細胞
本明細書において用いられる場合、「細胞」、「細胞株」および「細胞培養物」という用語は互換的に用いることができる。これらの用語の全てが、任意のおよび全ての次世代の、その子孫も含む。故意または偶然の変異により全ての子孫が同一ではないことがあると理解されよう。異種核酸配列を発現するという文脈において、「宿主細胞」とは、原核細胞または真核細胞をいい、これには、ベクターを複製できるまたはベクターによってコードされる異種遺伝子を発現できる、任意の形質転換可能な生物が含まれる。宿主細胞はベクターまたはウイルスのレシピエントとして、使用されることができ、使用されている。宿主細胞は「形質移入」または「形質転換」されてもよく、それらは組み換えタンパク質をコードする配列などの、外因性の核酸が宿主細胞に移入または導入される過程をいう。形質転換細胞には、初代被験細胞およびその子孫が含まれる。
【0080】
ベクターの複製または核酸配列の一部もしくは全部の発現のための細菌、酵母細胞、昆虫細胞および哺乳類細胞を含め、宿主細胞は原核生物または真核生物に由来することができる。多数の細胞株および培養物が宿主細胞用として利用可能であり、それらは、生きている培養物および遺伝物質のための保管庫としての機能を果たす機構であるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC) (www.atcc.org)を通じて入手することができる。当業者はベクター骨格および所望の結果に基づいて適切な宿主を判定することができる。例えば、プラスミドまたはコスミドを、多くのベクターの複製またはコードされるタンパク質の発現のために原核宿主細胞に導入することができる。ベクターの複製および/または発現用の宿主細胞として用いられる細菌細胞には、ブドウ球菌株、DH5α、JM109およびKC8、ならびにSURE(登録商標) Competent CellsおよびSOLOPACK(商標) Gold Cells (STRATAGENE(登録商標), La Jolla, CA)のような、いくつかの市販の細菌宿主が含まれる。あるいは、大腸菌LE392などの細菌細胞をファージウイルスの宿主細胞として用いることもできる。適切な酵母細胞にはサッカロマイセスセレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセスポンベ(Saccharomyces pombe)およびピチアパストリス(Pichia pastoris)が含まれる。
【0081】
ベクターまたはポリペプチドの複製および/または発現用の真核宿主細胞の例としては、HeLa、NIH3T3、Jurkat、293、Cos、CHO、SaosおよびPC12が挙げられる。さまざまな細胞型および生物由来の多くの宿主細胞が利用可能であり、当業者に公知であろう。同様に、ウイルスベクターを真核または原核宿主細胞のどちらか、特にベクターの複製または発現に許容性である細胞と併せて用いることもできる。
【0082】
ベクターのなかには原核細胞でも真核細胞でもともに複製および/または発現されることを可能にする制御配列を利用できるものもある。当業者なら、上記の宿主細胞のどれについてもインキュベートしてそれらを維持するための、かつベクターの複製を可能にするための条件をさらに理解するであろう。同様に理解され知られているのは、ベクターの大規模産生、ならびにベクターによってコードされる核酸およびその同源のポリペプチド、タンパク質またはペプチドの産生を可能にしうる、技術および条件である。
【0083】
B. 発現系
先に論じた組成物の少なくとも一部または全部を含む多数の発現系が存在する。原核生物および/または真核生物に基づく系を本発明で用いるために利用して、核酸配列、またはその同源のポリペプチド、タンパク質およびペプチドを産生することができる。そのような多くの系が市販されており、広く利用可能である。
【0084】
昆虫細胞/バキュロウイルス系は、ともに参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,871,986号、同第4,879,236号に記述されているように、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現をもたらすことができ、例えば、INVITROGEN(登録商標)からMAXBAC(登録商標) 2.0の名称で、およびCLONTECH(登録商標)からBACPACK(商標) BACULOVIRUS EXPRESSION SYSTEMの名称で購入することができる。
【0085】
本発明の開示の発現系に加え、発現系の他の例としては、合成エクダイソン誘導性受容体またはそのpET発現系、つまり大腸菌発現系を伴う、STRATAGENE(登録商標)のCOMPLETE CONTROL(商標) Inducible Mammalian Expression Systemが挙げられる。誘導性発現系の別例はINVITROGEN(登録商標)から入手可能で、T-REX (商標) (テトラサイクリン調節発現)系、つまり全長CMVプロモーターを用いた誘導性の哺乳類発現系を有するものである。INVITROGEN(登録商標)は、メチロトローフ酵母ピチアメタノリカ(Pichia methanolica)における組み換えタンパク質の高レベル産生のためにデザインされた、Pichia methanolica Expression Systemと呼ばれる酵母発現系も提供している。当業者なら、発現構築体のようなベクターを発現させる方法、核酸配列またはその同源のポリペプチド、タンパク質もしくはペプチドを産生する方法を承知しているであろう。
【0086】
II. 核酸
本発明は、本発明のタンパク質、ポリペプチド、ペプチドをコードする組み換えポリヌクレオチドに関する。野生型Hlaまたはその他任意のそのポリペプチド変種に対する核酸配列が含まれ、その全てが参照により組み入れられる。
【0087】
本出願において用いられる場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、組み換えであるか、全ゲノム核酸がない状態で単離されているかのどちらかの核酸分子をいう。「ポリヌクレオチド」という用語のなかに含まれるのは、オリゴヌクレオチド(長さが核酸100残基またはそれ以下の)、例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどを含む、組み換えベクターである。ポリヌクレオチドは、ある種の局面において、天然の遺伝子またはタンパク質コード配列から実質的に単離されている、調節配列を含む。ポリヌクレオチドはRNA、DNA、その類似体、またはその組み合わせでありうる。
【0088】
この点において、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする核酸(適切な転写、翻訳後修飾または局在化に必要とされる任意の配列を含む)をいうように用いられる。当業者に理解されるように、この用語はゲノム配列、発現カセット、cDNA配列、ならびにタンパク質、ポリペプチド、ドメイン、ペプチド、融合タンパク質および変異体を発現するまたは発現するように適合されうる、遺伝子操作されたもっと小さな核酸セグメントを包含する。ポリペプチドの全部または一部をコードする核酸は、以下の長さの、そのようなポリペプチドの全部または一部をコードする隣接核酸配列: 10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1010、1020、1030、1040、1050、1060、1070、1080、1090、1095、1100、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、9000、10000またはそれ以上の、ヌクレオチド、ヌクレオシドまたは塩基対を含むことができる。また、所与の種由来の特定のポリペプチドは、わずかに異なる核酸配列を有するが、それでも、同じまたは実質的に類似のタンパク質をコードする、天然の変異を含んだ核酸によってコードされうることも考えられる(上記の表1を参照のこと)。
【0089】
特定の態様において、本発明は、Hlaまたはその任意の変種もしくは断片をコードする核酸配列を組み入れた、単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。したがって、単離核酸セグメントまたは核酸セグメントを含んだベクターは、例えば、免疫原性であるHlaまたはHla(H35L)タンパク質をコードすることができる。「組み換え」という用語は、ポリペプチドまたは特定のポリペプチド名とともに用いることができ、これは一般に、インビトロにおいて操作されている核酸分子、またはこのような分子の複製産物である核酸分子から産生されたポリペプチドをいう。
【0090】
他の態様において、本発明は、被験体において免疫反応を生じさせるために使用できるHlaまたはHla変種ポリペプチドまたはペプチドをコードする核酸配列を組み入れた、単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。さまざまな態様において、本発明の核酸は遺伝子ワクチンに用いることができる。
【0091】
本発明において用いられる核酸セグメントは、コード核酸それ自体の長さに関係なく、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、付加的な制限酵素部位、マルチクローニング部位、他のコードセグメントなどのような、他の核酸配列と組み合わせることができ、したがってその全長はかなり変化することがある。それゆえ、ほぼすべての長さの核酸断片を利用することができ、その全長は精製の容易さおよび意図した組み換え核酸プロトコルでの用途によって制限されることが好ましいものと考えられる。場合によっては、核酸配列は、例えば、ポリペプチドの精製、輸送、分泌、翻訳後修飾を可能にするための、または標的化もしくは効力のような治療的有用性を可能にするための、さらなる異種コード配列を有するポリペプチド配列をコードすることができる。先に論じられるように、タグまたは他の異種ポリペプチドを、修飾されたポリペプチドをコードする配列に付加することができ、ここで「異種」とは、修飾されたポリペプチドと同じものではないポリペプチドをいう。
【0092】
本発明において用いられる核酸は、Hlaまたは任意のHla変種もしくは断片をコードする。そのような配列は、核酸配列、したがってコードされるタンパク質のなかで天然に存在することが知られているコドン重複性および機能的等価性の結果として生じうる。あるいは、機能的に等価なタンパク質またはペプチドは、タンパク質構造の変化を、交換されるアミノ酸の特性に関する考慮に基づいて、遺伝子操作できる組み換えDNA技術の適用によって作出することもできる。ヒトがデザインした変化を、部位特異的突然変異誘発技術の適用によって導入し、例えば、タンパク質の抗原性の向上を導入することができる。
【0093】
ある種の他の態様において、本発明は、配列内にSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:2由来の隣接核酸配列、または前記の参照により組み入れられる他のアミノ酸配列を含んだ単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。
【0094】
本発明の組成物の発現をもたらすための核酸送達に適した方法は、本明細書において記述するようにまたは当業者に公知であるように、核酸(例えば、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを含め、DNA)を細胞、組織または生物に導入できる事実上いかなる方法も含むものと考えられる。そのような方法には、例えばマイクロインジェクション(参照により本明細書に組み入れられる、Harland and Weintraub, 1985; 米国特許第5,789,215号)を含む、注入(その各々が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号および同第5,580,859号)による; 電気穿孔(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号)による; リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973; Chen and Okayama, 1987; Rippe et al., 1990)による; DEAEデキストランの後にポリエチレングリコールを用いること(Gopal, 1985)による; 直接音波負荷(Fechheimer et al., 1987)による; リポソームを介した形質移入(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979; Nicolau et al., 1987; Wong et al., 1980; Kaneda et al., 1989; Kato et al., 1991)による; 微粒子銃(PCT出願WO 94/09699および95/06128; 米国特許第5,610,042号; 同第5,322,783号、同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号、および同第5,538,880号、これらの各々が参照により本明細書に組み入れられる)による; 炭化ケイ素繊維を用いた撹拌(各々が参照により本明細書に組み入れられる、Kaeppler et al., 1990; 米国特許第5,302,523号および同第5,464,765号)による; アグロバクテリウム(Agrobacterium)を介した形質転換(各々が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,591,616号および同第5,563,055号)による; プロトプラストのPEGを介した形質転換(各々が参照により本明細書に組み入れられる、Omirulleh et al., 1993; 米国特許第4,684,611号および同第4,952,500号)による; または乾燥/阻害を介したDNAの取り込み(Potrykus et al., 1985)による、DNAの直接送達が含まれるが、これらに限定されることはない。これらのような技術の適用を通して、細胞小器官、細胞、組織または生物を安定的にまたは一過的に形質転換することができる。
【0095】
III. 免疫反応および治療
先に論じられるように、本発明は、被験体において、Hlaまたはその変種もしくは断片に対する免疫反応を惹起することに関する。一つの態様において、免疫反応は、感染または関連疾患、特にブドウ球菌性肺炎に関連するものを有する、有すると疑われる、または発症するリスクがある被験体を防御するまたは処置することができる。
【0096】
A. 防御免疫
本発明のいくつかの態様において、タンパク質性組成物は被験体に防御免疫を付与する。防御免疫とは、免疫反応が起こる作用因子を伴った特定の疾患または状態を被験体が発症することを防ぐ特異的な免疫反応を開始する身体の能力をいう。免疫原性上有効な量は、被験体に防御免疫を付与することができる。
【0097】
本明細書においておよび付随する特許請求の範囲において用いられる場合、ポリペプチドという用語は、ペプチド結合を介して共有結合的に連結された一続きのアミノ酸またはその模倣体をいう。異なるポリペプチドは、本発明による異なる機能性を有する。一つの局面によれば、ポリペプチドは、レシピエントにおいて能動免疫反応を誘導するようにデザインされた免疫原に由来するが、本発明の別の局面によれば、ポリペプチドは、例えば動物での、能動免疫反応の誘発後に生じる、かつレシピエントにおいて受動免疫反応を誘導する働きのできる、抗体に由来する。しかしながら、どちらの場合も、ポリペプチドは、任意の可能なコドン用法にしたがってポリヌクレオチドによりコードされることができる。
【0098】
本明細書において用いられる場合、「免疫反応」またはその等価語「免疫学的反応」という語句は、レシピエント患者での本発明のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに向けられた体液性(抗体を介した)反応、細胞性(抗原特異的T細胞もしくはその分泌産物によって媒介される)反応、または体液性反応と細胞性反応の両方の発生をいう。そのような反応は、免疫原の投与によって誘導された能動反応または抗体、抗体を含有する材料もしくは初回抗原刺激を受けたT細胞の投与によって誘導された受動反応でありうる。細胞性免疫反応はクラスIまたはクラスII MHC分子と結び付いたポリペプチドエピトープの提示により誘発されて、抗原特異的なCD4 (+) Tヘルパー細胞および/またはCD8 (+)細胞傷害性T細胞を活性化する。反応には単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、星状細胞、小膠細胞、好酸球または先天性免疫の他の成分も伴われうる。
【0099】
本明細書において用いられる場合、「能動免疫」とは、抗原の投与によって被験体に付与される任意の免疫をいう。
【0100】
本明細書において用いられる場合、「受動免疫」とは、被験体への抗原の投与なしで被験体に付与される任意の免疫をいう。「受動免疫」はそれゆえ、免疫反応の細胞メディエータまたはタンパク質メディエータ(例えば、モノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体)を含めた活性化免疫エフェクタの投与を含むが、これらに限定されることはない。モノクローナルまたはポリクローナル抗体組成物は、抗体によって認識される抗原を持った生物による感染の予防または処置のための受動免疫付与に用いることができる。抗体組成物は、さまざまな生物と関連しうる種々の抗原に結合する抗体を含むことができる。抗体成分はポリクローナル抗血清であることができる。ある種の局面において、抗体は動物または抗原を接種された第二の被験体からアフィニティー精製される。あるいは、ブドウ球菌を含むがこれに限定されない、グラム陽性菌、グラム陰性菌などの、同一の、関連の、または別の微生物または生物に存在する抗原に対するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体の混合物である、抗体混合物を用いることもできる。
【0101】
受動免疫は、免疫グロブリン(Ig)、および/またはドナーもしくは周囲の免疫反応性を有する他の非患者供給源から得られる他の免疫因子を患者に投与することによって、患者または被験体に与えることができる。他の局面において、本発明の抗原組成物は、Hlaまたはその任意の変種もしくは断片に対して作製された抗体を含んだ、その組成物の接種に反応して、産生されるグロブリン(「高力価免疫グロブリン」)の供給源もしくはドナーとしての役割を果たす被験体に投与することができる。このように処置された被験体は、高力価免疫グロブリンを、従来の血漿分画法により得て、ブドウ球菌感染に対する耐性を与えるためにまたはブドウ球菌感染を処置するために別の被験体に投与できる、血漿を提供することができる。本発明による高力価免疫グロブリンは、免疫不全の個体に、侵襲的処置を受けている個体に、または個体がワクチン接種に反応して自身の抗体を産生できる時間のない個体にとりわけ有用である。受動免疫に関連した例示的な方法および組成物は、米国特許第6,936,258号、同第6,770,278号、同第6,756,361号、同第5,548,066号、同第5,512,282号、同第4,338,298号、および同第4,748,018号を参照されたく、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0102】
本明細書および添付の特許請求の範囲のために「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、Bおよび/またはT細胞が反応するまたは認識する抗原上の部位をいうように互換的に用いられる。B細胞エピトープは、タンパク質の三次元の折り畳みが並置した隣接アミノ酸からも非隣接アミノ酸からも形成されることができる。隣接アミノ酸から形成されたエピトープは、通常、変性溶媒に曝されても保持されるのに対し、三次元の折り畳みによって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒を用いた処理によって失われる。エピトープは、通常、固有の空間的構造の中に少なくとも3個、より通常には、少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的構造を決定する方法は、例えば、x線結晶学および2次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols (1996)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、ある抗体が標的抗原への別の抗体の結合を遮断する能力を示す、単純な免疫アッセイ法において特定することができる。T細胞はCD8細胞の場合およそ9アミノ酸の、またはCD4細胞の場合およそ13〜15アミノ酸の連続エピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞は、エピトープに反応して、初回抗原刺激を受けたT細胞がする3H-チミジンの取り込み(Burke et al., 1994)により、抗原依存的な死滅化(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ法, Tigges et al., 1996)により、またはサイトカイン分泌により決定されるように、抗原依存的な増殖を測定するインビトロでのアッセイ法により特定することができる。
【0103】
細胞を介した免疫学的反応の存在は、増殖アッセイ法(CD4 (+) T細胞)またはCTL (細胞傷害性Tリンパ球)アッセイ法により決定することができる。免疫原の防御効果または治療効果に対する体液性および細胞性反応の相対的寄与は、免疫した同系動物からIgGおよびT細胞を個別に単離し、第二の被験体において防御効果または治療効果を測定することにより、識別することができる。
【0104】
本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は、互換的に用いられ、動物またはレシピエントの免疫反応の一部として機能する構造的に関連したタンパク質のいくつかのクラスのいずれかをいい、それらのタンパク質にはIgG、IgD、IgE、IgA、IgMおよび関連タンパク質が含まれる。
【0105】
「ヒト化」抗体も企図され、同様にヒト定常領域および/または可変領域ドメインを持つ、マウス、ラットまたは他の種由来のキメラ抗体、二重特異性抗体、組み換えおよび遺伝子操作抗体ならびにそれらの断片も企図される。「ヒト化」技術は、典型的には、抗体分子のポリペプチド鎖をコードするDNA配列を操作するための組み換えDNA技術の使用を伴う。モノクローナル抗体(MAb)をヒト化するための初期の方法では、ある抗体の完全な可変ドメインを含む抗原結合部位が別の抗体に由来する定常ドメインに連結された、キメラ抗体の産生を伴っていた。そのようなキメラ化手順を行うための方法は、EPO120694 (Celltech Limited)、EP0125023 (Genentech Inc. and City of Hope)、EP-A-0 171496 (Rev. Dev. Corp. Japan)、EP-A-0 173 494 (Stanford University)、およびWO 86/01533 (Celltech Limited)に記述されており、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。概して、これらの出願では、マウスMAb由来の可変ドメインおよびヒト免疫グロブリン由来の定常ドメインを有する抗体分子を調製するための工程を開示している。
【0106】
別のアプローチはEP-A-0239400 (Winter)に記述されており、長鎖オリゴヌクレオチドを用いた部位特異的突然変異誘発法により、マウスMAbの相補性決定領域(CDR)をヒト免疫グロブリンの可変ドメインのフレームワーク領域に移植している。そのような方法の一例は、米国特許第7,262,050号を参照されたく、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0107】
ヒト化抗体をトランスジェニック動物から得ることもできる。例えば、免疫化に反応して、ヒト抗体の全レパートリーを産生できるトランスジェニック、変異体マウスが報告されている(例えば、Jakobovits, et al., 1993; Jakobovits et al., 1993; Bruggermann, et al., 1993を参照されたく、これらは、少なくともヒト抗体調製の教示について、参照により本明細書に組み入れられる)。具体的には、これらのキメラおよび生殖系列変異体マウスでの抗体重鎖結合領域(J(H))遺伝子のホモ接合性の欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害を起こし、このような生殖系列変異体マウスへのヒト生殖系列抗体遺伝子アレイの成功裏の移入により、抗原攻撃の際にヒト抗体の産生が起こる。
【0108】
正常な生理学的条件の下で、抗体は、血漿および他の体液中にならびにある種の細胞の膜中に見られ、B細胞と表示されるタイプのリンパ球またはその機能的等価体によって産生される。IgGクラスの抗体は、ジスルフィド結合によってともに連結された四本のポリペプチド鎖で構成されている。インタクトなIgG分子の四本の鎖は、H鎖といわれる二本の同一の重鎖およびL鎖といわれる二本の同一の軽鎖である。
【0109】
ポリクローナル抗体を産生するために、ウサギまたはヤギなどの宿主を、一般的にアジュバントとともにおよび、必要なら、担体にカップリングされた、抗原または抗原断片で免疫する。その後、抗原に対する抗体を宿主の血清から回収する。ポリクローナル抗体を単一特異性にする抗原に対して、ポリクローナル抗体をアフィニティー精製することができる。
【0110】
モノクローナル抗体を産生するために、抗原による適切なドナー、一般にマウスの超免疫化を行う。次いで脾臓の抗体産生細胞の単離を行う。これらの細胞を、骨髄腫細胞などの、不死によって特徴付けられる細胞に融合して、培地中で維持できる、かつ、必要とされるモノクローナル抗体を分泌する融合細胞雑種(ハイブリドーマ)をもたらす。次いでこれらの細胞を大量に培養し、モノクローナル抗体を使用培地から回収する。定義上、モノクローナル抗体は単一のエピトープに特異的である。このためにモノクローナル抗体は、多くの場合、類似の抗原に対して作製されたポリクローナル抗体よりも低い親和性定数を有する。
【0111】
モノクローナル抗体は、脾細胞の初代培養物または脾臓に由来する細胞株の使用によりエクスビボで産生することもできる(Anavi, 1998)。組み換え抗体を産生するために(一般的にはHuston et al., 1991; Johnson et al., 1991; Mernaugh et al., 1995を参照のこと)、動物の抗体産生Bリンパ球またはハイブリドーマ由来の伝令RNAを逆転写して相補DNA (cDNA)を得る。完全長または部分長であってよい抗体cDNAを増幅し、ファージまたはプラスミドにクローニングする。cDNAは、リンカーによって分離または連結された、重鎖および軽鎖cDNAの部分長であってよい。抗体、抗体断片、または抗体の免疫学的部分もしくはセグメントを適当な発現系により発現させて、組み換え抗体を得る。適切な発現ライブラリーをスクリーニングすることにより、抗体cDNAを得ることもできる。
【0112】
先に論じられるように、本発明の方法で用いる抗体は、ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体またはその断片でありうる。しかしながら、ある種の治療目的で、投与した抗体に対する実質的な免疫反応を誘発しないように抗体をヒト化する。そのようなヒト化抗体を本発明によって用いることもでき、そのような抗体を作製するための方法は当業者に周知である(Jones et al., 1986; Riechmann et al., 1988; Verhoeyen et al., 1988)。
【0113】
抗体は固体支持体基材に結合させても、もしくは検出可能な部分と抱合させてもよく、または当技術分野において周知であるように結合も抱合もさせてもよい。蛍光部分または酵素部分の抱合の一般的な考察は、Johnstone et al. (1982)を参照されたい。固体支持体基材への抗体の結合は同様に、当技術分野において周知である(Harlow et al., 1988; Borrebaeck, 1992)。
【0114】
本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体の免疫学的部分」という語句は、抗体のFab部分、抗体のFv断片、抗体の重鎖、抗体の軽鎖、抗体の重鎖および軽鎖の非会合混合物、抗体の重鎖および軽鎖からなるヘテロ二量体、抗体の重鎖の触媒ドメイン、抗体の軽鎖の触媒ドメイン、抗体の軽鎖の可変断片、抗体の重鎖の可変断片、ならびにscFvとしても公知の、抗体の一本鎖変種を含む。さらに、この用語は、種の一つがヒトでありうる異なる種に由来する融合遺伝子の発現産物であるキメラ免疫グロブリンも含み、その場合、キメラ免疫グロブリンはヒト化されているといわれる。典型的には、抗体の免疫学的部分は、それを得たインタクトな抗体と、抗原への特異的結合で競合する。
【0115】
任意で、抗体または好ましくは抗体の免疫学的部分は、他のタンパク質との融合タンパク質に化学的に抱合されても、またはその融合タンパク質として発現されてもよい。本明細書および添付の特許請求の範囲のために、そのような全ての融合タンパク質は、抗体または抗体の免疫学的部分の定義のなかに含まれる。
【0116】
本明細書において用いられる場合、「免疫原性作用物質」または「免疫原」または「抗原」という用語は、アジュバントとともに、単独で、またはディスプレイ媒体上に提示された状態で、レシピエントに投与することにより、それ自体に対する免疫学的反応を誘導できる分子を記述するよう互換的に用いられる。
【0117】
一本鎖抗体(SCA)は、モノクローナル抗体を用いて可能な、治療的および診断的用途を広げるようにデザインされた遺伝子操作タンパク質である。SCAは、モノクローナル抗体の結合特異性および親和性を有し、その天然型で、モノクローナル抗体のサイズの約5分の1から6分の1であり、通常、それらを非常に短い半減期としている。SCAは大部分のモノクローナル抗体と比べて、検出に使用できるポリペプチド(例えば、ルシフェラーゼまたは蛍光タンパク質)と直接的に融合されるその能力を含め、いくつかの利点をもたらす。これらの利点に加えて、完全にヒトのSCAは、費用かつ時間のかかる「ヒト化」手順を必要とせずにヒトSCAライブラリーから直接的に単離することができる。
【0118】
一本鎖組み換え抗体(scFv)は、デザイン可動性ペプチド鎖(tether)によって連結された抗体VLおよびVHドメインからなる(Atwell et al., 1999)。インタクトなIgGと比べ、scFvは同程度の抗原結合親和性を持ちながら、サイズが小さく、構造が単純といった利点を有し、それらは類似の2鎖Fab断片よりも安定でありうる(Colcher et al., 1998; Adams and Schier, 1999)。
【0119】
重鎖および軽鎖由来の可変領域(VHおよびVL)はともにおよそ110アミノ酸長である。それらは、例えば二つのドメインが機能的な抗原結合ポケットを構築することを可能とするのに十分な可動性のある、配列を持った15アミノ酸またはそれよりも長いリンカーによって連結されてもよい。特定の態様において、さまざまなシグナル配列の付加により、scFvが細胞内の異なる細胞小器官に標的化されることが可能となり、または分泌されることが可能となる。軽鎖定常領域(Ck)の付加によってジスルフィド結合を介した二量体化が可能となり、安定性および結合活性の増大が生じる。このように、一本鎖Fv (scFv) SCAの場合、Fv断片の二つのドメインは別個の遺伝子によってコードされるものの、組み換え法によりそれらが単一のタンパク質鎖scFv (Bird et al., 1988; Huston et al., 1988)として作出されることを可能にする合成リンカーを作出できると証明されている。さらに、それらは、ファージディスプレイライブラリーからのその単離の容易さ、および保存された抗原を認識するその能力によって頻繁に用いられている(概説は、Adams and Schier, 1999を参照のこと)。したがって、本発明のいくつかの局面において、抗体は、より従来型の上記の抗体産生技術によって作出されたものよりも、ファージディスプレイライブラリーから単離されるSCAでありうる。
【0120】
B. 処置および予防方法
本発明の方法は、ブドウ球菌病原菌によって引き起こされる疾患または状態の処置、および病原菌への曝露の程度を抑えるまたは最小限に抑えるように感染の予防または感染の低減を含む。本発明の免疫原性ポリペプチドは、ブドウ球菌に罹患している者、ブドウ球菌に曝されていると疑われる者、またはブドウ球菌への曝露のリスクがある者において免疫反応を誘導するために与えることができる。さらに、本発明の免疫原性ポリペプチドまたはペプチドに特異的な抗体を、ブドウ球菌に罹患している者、ブドウ球菌に曝されていると疑われる者、またはブドウ球菌への曝露のリスクがある者の受動免疫のために投与することもできる。ブドウ球菌への曝露で陽性と判定された個体、または曝露の可能性に基づいて感染のリスクがあると思われる個体について、それらの方法を利用することができる。
【0121】
本発明の組成物は、ブドウ球菌の疾患もしくは状態と診断されてから、ブドウ球菌感染と診断されてから、ブドウ球菌感染またはブドウ球菌の疾患もしくは状態の症状を有すると特定されてから、ブドウ球菌感染のリスクにさらされてから、ブドウ球菌の疾患もしくは状態のリスクにさらされてから、あるいは集中治療を受けてから、および/または入院してから約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55分間、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、1、2、3、4、5、6、7日間、1、2、3、4、5週間、および/または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月間以下に患者に投与できることが企図される。
【0122】
組成物は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20回またはそれ以上の回数投与することができ、および/あるいは、それらは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、もしくは1、2、3、4、5、6、7日間、もしくは1、2、3、4、5週間、もしくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月間ごとに、またはその中の任意の範囲もしくは組み合わせごとに投与することができる。
【0123】
いくつかの態様において、処置は、他のブドウ球菌抗原および/またはタンパク質の非存在下または実質的な非存在下、アジュバントまたは担体の存在下で投与される。さらに、いくつかの例において、処置は、一つまたは複数の抗生物質などの、細菌感染に対してよく使われる他の薬剤の投与を含む。
【0124】
ワクチン接種のためにペプチドを用いるには、通常、B型肝炎表面抗原、キーホールリンペットヘモシアニン、またはウシ血清アルブミンなどの、免疫原担体タンパク質とのペプチドの抱合が必要になる。この抱合を行うための方法は、当技術分野において周知である。
【0125】
IV. ワクチンおよび薬学的組成物
A. ワクチン
本発明は、ブドウ球菌感染を予防または改善するための方法を含む。本発明の態様は、ブドウ球菌性肺炎の予防または改善を含む。したがって、本発明は、能動免疫と受動免疫の両方の態様で用いるためのワクチンを企図する。ワクチンとして用いるのに適当であると提唱されている免疫原性組成物は、本明細書において開示する様式で調製される免疫原性Hlaペプチドまたはタンパク質から直接的に最も容易に調製することができる。抗原材料は、望ましくない低分子量分子を除去するために十分に透析され、および/または所望の媒体へのより容易な処方のために凍結乾燥されることが好ましい。本発明は、ブドウ球菌による感染を防ぐおよびそのようなものにより引き起こされる状態または疾患の発症を防ぐために、Hlaペプチドまたはタンパク質に由来するポリペプチドまたはペプチドに対する免疫反応を誘導するために使用できる組成物を含む。ある種の局面において、組成物は粘膜表面に投与するために処方される、例えば、エアロゾル処方される。
【0126】
あるいは、タンパク質/ペプチドに基づくワクチンのための他の実行可能かつ重要な選択肢は、DNAワクチンとしての、抗原をコードする核酸の導入を伴う。この点で、最近の報告によれば、隣接する10個の最小のCTLエピトープ(Thomson, 1996)、またはいくつかの微生物由来のB細胞、CTLおよびTHエピトープの組み合わせ(An, 1997)を発現する組み換えワクシニアウイルスの構築、ならびに防御免疫反応に抗原刺激を与えるためにそのような構築体を用いてマウスを免疫することの成功について記述されている。このように、文献の中には、防御免疫反応の効率的なインビボ抗原刺激のためにペプチド、ペプチドパルスAPC、およびペプチドをコードする構築体を利用することの成功に関する十分な証拠が存在している。ワクチンとしての核酸配列の使用は、米国特許第5,958,895号および同第5,620,896号に例示されている。
【0127】
活性成分としてポリペプチドまたはペプチド配列を含むワクチンの調製は一般的に、米国特許第4,608,251号、同第4,601,903号、同第4,599,231号、同第4,599,230号、同第4,596,792号、および同第4,578,770号によって例示されるように、当技術分野において十分に理解されており、それらの特許の全てが参照により本明細書に組み入れられる。典型的には、そのようなワクチンは、液体溶液または液体懸濁液のいずれかとして注射用剤として調製される: 注射前の液体溶液または液体懸濁液に適した固体剤形を調製することもできる。調製物は乳化されてもよい。活性な免疫原性成分は、薬学的に許容されるかつ活性成分と適合性である、賦形剤と混合されることが多い。適当な賦形剤は、例えば、水、生理食塩液、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびその組み合わせである。さらに、必要に応じて、ワクチンは、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、またはワクチンの有効性を増強するアジュバントのような補助物質の量を含んでもよい。特定の態様において、ワクチンは、米国特許第6,793,923号および同第6,733,754号に記述されるように、物質の組み合わせを用いて処方され、それらの特許は参照により本明細書に組み入れられる。
【0128】
ワクチンは、通常、非経口的に、粘膜に、鼻腔内に、吸入により、および/または注射により、例えば、皮下または筋肉内のいずれかにより投与されうる。他の投与方法に適したさらなる処方物は、坐剤および、場合により、経口処方物を含む。坐剤の場合、従来の結合剤および担体は、例えば、ポリアルカレングリコールまたはトリグリセリドを含むことができ; そのような坐剤は、活性成分を約0.5%〜約10%、好ましくは約1%〜約2%の範囲内で含有する混合物から形成されることができる。経口処方物は、例えば、薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような通常利用される賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性処方物または粉末の形態をとり、約10%〜約95%の、好ましくは約25%〜約70%の活性成分を含有する。
【0129】
ポリペプチドおよびポリペプチドをコードするDNA構築体は、中性型または塩型としてワクチンに処方することができる。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基と形成される)および、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸と形成されるものを含む。また、遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基に由来することができる。
【0130】
典型的には、ワクチンは、投与処方物に適合する様式で、および治療的に有効かつ免疫原性であるような量で投与される。投与される量は、個体の免疫系の抗体合成能および望ましい防御の程度を含め、処置される被験体に依る。投与されるのに必要な活性成分の的確な量は、医師の判断に依る。しかしながら、適切な投与量範囲は、ワクチン接種1回あたり数百マイクログラムの活性成分の次数のものである。初回投与および追加免疫の接種に適したレジメも同様に多様であるが、初回投与後にその後の接種または他の投与を行うことが典型的である。
【0131】
適用の様式は広く異なってもよい。ワクチンの投与のための従来の方法のいずれも適用可能である。これらには、固体の生理学的に許容される基剤上でのまたは生理学的に許容される分散液中での経口適用、非経口的に、粘膜に、鼻腔内に、吸入により、注射により、などが含まれると考えられる。ワクチンの投与量は投与経路に依るであろうし、被験体のサイズおよび健康状態によって異なるであろう。
【0132】
多くの場合、通常は6回のワクチン接種を超えない、より通常は4回のワクチン接種を超えない、ワクチンの複数回の投与が有ること、および好ましくは1回または複数回、通常は少なくとも約3回のワクチン接種が有ることが望ましいであろう。ワクチン接種は、通常、2〜12週間の間隔であり、より通常は3〜5週間の間隔であろう。抗体の防御レベルを維持するには、1〜5年の間隔、通常は3年の間隔での定期的な追加免疫が望ましいであろう。例えば米国特許第3,791,932号、同第4,174,384号および同第3,949,064号に記述されているように、免疫過程の後に、抗原に対する抗体のアッセイを行ってもよく、それらの特許は参照により本明細書に組み入れられる。
【0133】
1. 担体
所与の組成物はその免疫原性が異なる場合がある。それゆえ、宿主免疫系を追加免疫することが必要になることが多く、これはペプチドまたはポリペプチドを担体にカップリングさせることにより達成することもできる。例示的かつ好適な担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。卵白アルブミン、マウス血清アルブミンまたはウサギ血清アルブミンなどのその他のアルブミンを担体として用いることもできる。ポリペプチドを担体タンパク質に抱合させるための手段は、当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびビス-ジアゾ化(bis-biazotized)ベンジジンを含む。
【0134】
2. アジュバント
ポリペプチドまたはペプチド組成物の免疫原性は、アジュバントとして公知の、免疫反応の非特異的刺激物質を用いることによって増強することができる。適当なアジュバントはサイトカイン、毒素または合成組成物などの、許容される全ての免疫刺激性化合物を含む。
【0135】
Hlaペプチドまたはタンパク質に対する抗体反応を増強するために、いくつかのアジュバントを用いることができる。アジュバントは、(1) 抗原を体内に捕捉して持続放出を引き起こすこと; (2) 免疫反応に関わる細胞を投与部位に引き付けること; (3) 免疫系細胞の増殖もしくは活性化を誘導すること; または(4) 被験体の体全体に抗原を広げるのを改善することができる。
【0136】
アジュバントは、水中油型乳濁液、油中水型乳濁液、無機塩類、ポリヌクレオチド、および天然物質を含むが、これらに限定されることはない。使用できる具体的なアジュバントはIL-1、IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、γ-インターフェロン、GMCSP、BCG、水酸化アルミニウムまたは他のアルミニウム化合物、thur-MDPおよびnor-MDPなどのMDP化合物、CGP (MTP-PE)、脂質A、ならびにモノホスホリル脂質A (MPL)を含む。使用できる他のアジュバントは、細菌から抽出された三種の成分、つまりMPL、トレハロースジマイコレート(TDM)および細胞壁骨格(CWS)を2%スクアレン/Tween 80乳濁液中に含有するRIBIを含む。MHC抗原をさらに使用することができる。他のアジュバントまたは方法は、各々が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,814,971号、同第5,084,269号、同第6,656,462号に例示されている。
【0137】
ワクチンのアジュバント作用を達成するさまざまな方法には、それぞれ、一般的に約0.05〜約0.1%のリン酸緩衝生理食塩水溶液として用いられる水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム(ミョウバン)のような作用物質を用いること、約0.25%の溶液として用いられる合成糖重合体(Carbopol(登録商標))とともに混合すること、約70℃〜約101℃の範囲の温度で30秒〜2分間の熱処理によってワクチンにおけるタンパク質を凝集させることが含まれる。アルブミンに対するペプシン処理抗体(Fab)での再活性化による凝集、細菌細胞(例えば、C.パルブム(C. parvum))、グラム陰性菌の内毒素もしくはリポ多糖類成分との混合物、生理学的に許容される油性媒体中の乳濁液(例えば、マンニドモノ-オレエート(Aracel A)); またはブロック代用物として用いられる20%のペルフルオロカーボン溶液との乳濁液(Fluosol-DA(登録商標))を利用して、アジュバント作用をもたらすこともできる。
【0138】
例示的な、多くの場合、好適なアジュバントには、フロイントの完全アジュバント(結核菌(Mycobacterium tuberculosis)死菌を含む免疫反応の非特異的な刺激物質)、フロイントの不完全アジュバント、および水酸化アルミニウムが含まれる。
【0139】
アジュバントの他に、生体反応修飾物質(BRM)を同時投与して、免疫反応を増強することが望ましいかもしれない。BRMは、T細胞免疫を上方制御するまたはサプレッサー細胞活性を下方制御することが示されている。そのようなBRMは、シメチジン(CIM; 1200 mg/d) (Smith/Kline, PA); 低用量シクロホスファミド(CYP; 300 mg/m2) (Johnson/Mead, NJ)およびγインターフェロン、IL-2もしくはIL-12のようなサイトカイン、またはB-7のような、免疫ヘルパー機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子を含むが、これらに限定されることはない。
【0140】
B. 脂質成分および部分
ある種の態様において、本発明は、核酸またはポリペプチド/ペプチドと結び付いた一つまたは複数の脂質を含む組成物に関する。脂質は水に不溶な、かつ有機溶媒で抽出可能な物質である。本明細書において具体的に記述するもの以外の化合物は、当業者により脂質と理解され、本発明の組成物および方法によって包含される。脂質成分および非脂質は、共有結合的または非共有結合的に、互いに付着されてもよい。
【0141】
脂質は天然の脂質または合成脂質であってもよい。しかしながら、脂質は、通常、生物学的物質である。生物学的脂質は、当技術分野において周知であり、例えば、中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リゾ脂質、スフィンゴ糖脂質、糖脂質、スルファチド、エーテルかつエステル結合した脂肪酸を有する脂質および重合可能な脂質、ならびにその組み合わせを含む。
【0142】
脂質と会合した、核酸分子またはポリペプチド/ペプチドを、脂質を含有する溶液に分散させ、脂質によって溶解させ、脂質によって乳化させ、脂質と混合させ、脂質と組み合わせ、脂質に共有結合させ、脂質中の懸濁液として含有させ、または他の方法で脂質と会合させてもよい。本発明の脂質または脂質-Hla会合組成物は、任意の特定の構造に限定されない。例えば、それらを単純に溶液中に散在させ、おそらくサイズまたは形状のどちらかが均一ではない凝集体を形成させてもよい。別の例において、それらは二層構造で、ミセルとして、または「崩壊した」構造で存在してもよい。別の非制限的な例において、リポフェクトアミン(Gibco BRL)-ポックスウイルスまたはSuperfect (Qiagen)-ポックスウイルス複合体も企図される。
【0143】
ある種の態様において、組成物は約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはその間の任意の範囲の、特定の脂質、脂質型、あるいはアジュバント、抗原、ペプチド、ポリペプチド、糖、核酸または本明細書に開示されるもしくは当業者に公知であるような他の材料などの非脂質成分を含むことができる。非限定的な例において、組成物は約10%〜約20%の中性脂質、および約33%〜約34%のセレブロシド、および約1%のコレステロールを含むことができる。別の非限定的な例において、リポソームは、ミセルの約1%が特にリコペンであって、リポソームの約3%〜約11%が他のテルペンを含んだままの、約4%〜約12%のテルペン、ならびに約10%〜約35%のホスファチジルコリン、および約1%の非脂質成分を含むことができる。このように、本発明の組成物は、任意の組み合わせまたは百分率の範囲で脂質、脂質型または他の成分のいずれを含んでもよいと企図される。
【0144】
C. 併用療法
本発明の組成物および関連する方法、特に、患者/被験体へのHlaタンパク質および/または抗Hla抗体の投与を従来の治療の施行と併せて用いることもできる。これらには、ストレプトマイシン、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、アンピシリン、テトラサイクリン、オキサシリン、バンコマイシンまたは抗生物質の各種組み合わせなどの抗生物質の投与が含まれるが、これらに限定されることはない。さらに、患者/被験体へのHlaタンパク質または抗Hla抗体の投与を、RIPなどの、抗病毒性剤の投与と併せて用いることもできる。
【0145】
一つの局面において、ポリペプチドワクチンおよび/または治療を、抗細菌処置および/または抗病毒性処置とともに用いることが企図される。あるいは、治療は数分から数週間に及ぶ間隔だけ、他剤での処置に先行するまたは続くこともできる。他の薬剤および/またはタンパク質もしくはポリヌクレオチドが別々に投与される態様において、薬剤および本発明の組成物が依然として、有利に組み合わさった効果を被験体に及ぼすことができるように、一般に、各送達の間にかなりの時間が経ってしまわないことを確実にする。そのような場合、双方の様式を互いに約12〜24時間以内に、より好ましくは、互いに約6〜12時間以内に施すことができると企図される。場合によっては、投与の期間をかなり延ばすことが望ましい場合もあるが、その場合には各投与の間隔は数日(2、3、4、5、6または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)である。
【0146】
例えば抗生物質治療を「A」とし、Hla抗原などの、免疫または受動免疫治療レジメの一部として投与される、それぞれ、免疫原性分子または抗体を「B」とし、種々の組み合わせを利用することができる。

【0147】
患者/被験体への本発明の組成物の投与は、もしあれば、Hlaポリペプチドまたは抗Hla抗体組成物の毒性を考慮に入れながらも、そのような化合物の投与に関する一般的なプロトコルに従う。処置周期は必要に応じて繰り返されるものと期待される。同様に、水和などの、種々の標準的な治療を記述の治療と併せて適用できるものと企図される。
【0148】
D. 一般的な薬学的組成物
いくつかの態様において、薬学的組成物が被験体に投与される。本発明の種々の局面では、被験体に組成物の有効量を投与することを伴う。本発明のいくつかの態様において、Hlaポリペプチドまたはペプチドを患者に投与して、一種または複数種のブドウ球菌病原菌による感染を防ぐことができる。本発明の他の態様において、Hlaポリペプチドまたはペプチドに特異的な抗体を患者に投与して、一種または複数種のブドウ球菌病原菌による感染を処置または予防することができる。あるいは、一つまたは複数のそのようなポリペプチドまたはペプチドをコードする発現ベクターを、予防的処置として患者に与えることもできる。さらに、そのような化合物を抗生物質および/または抗病毒性剤と併せて投与することもできる。そのような組成物は一般に、薬学的に許容される担体または水媒体中に溶解または分散される。
【0149】
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与される場合に有害反応、アレルギー反応または他の不適当な反応を生じることのない分子的実体および組成物をいう。本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体」とは、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が活性成分と不適合であるような場合を除き、免疫原性組成物および治療用組成物でのその使用が企図される。他の抗病毒性剤または抗感染剤などの、補助的な活性成分も組成物に組み入れることができる。
【0150】
静脈内注射または筋肉内注射のためのものなどの、非経口投与のために処方される化合物に加えて、他の薬学的に許容される形態には、例えば、錠剤または経口投与のための他の固形物; 徐放カプセル; および吸入薬などを含む、現在用いられているその他任意の形態が含まれる。
【0151】
本発明の活性化合物は、非経口投与のために処方することができ、例えば、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、またはさらに腹腔内経路による注射のために処方することができる。本発明の組成物を含む水性組成物の調製は、本開示に照らして当業者に公知であろう。典型的には、そのような組成物は、液体溶液または液体懸濁液のいずれかとして注射用剤として調製することができ: 注射前に液体を加えることで溶液または懸濁液を調製するために用いるのに適した固体剤形を調製することもでき; および調製物を乳化することもできる。
【0152】
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液をヒドロキシプロピルセルロースなどの、界面活性剤と適当に混合された水の中で調製することができる。分散液を同様に、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびその混合物の中でならびに油中で調製することができる。保存および使用の通常の状況下では、これらの調製物は微生物の増殖を防ぐよう保存剤を含む。
【0153】
注射可能な用途に適した薬学的形態は、無菌の水溶液または分散液; ごま油、落花生油または水性プロピレングリコールを含む処方物; および無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌の粉末を含む。いかなる場合でも、この形態は無菌でなければならず、容易に注射可能となる程度に流動性でなければならない。それは製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの、微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。
【0154】
タンパク質性組成物は、中性型または塩型で処方されてもよい。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)および、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸と形成されるものを含む。また、遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基に由来することができる。
【0155】
また、担体は、例えば、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、適当なそれらの混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒とすることができる。適切な流動は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によりおよび界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の予防はさまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物中での使用によってもたらすことができる。
【0156】
無菌の注射可能な溶液は、必要な量の活性化合物を適切な溶媒の中に、必要に応じて、上に列挙したさまざまなその他の成分とともに組み入れ、その後ろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散媒はさまざまな滅菌活性成分を、基礎の分散媒と前記の列挙したものより必要とされるその他の成分とを含む無菌の媒体の中に組み入れることによって調製される。無菌の注射可能な溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加え任意の付加的な望ましい成分の粉末を、予めろ過滅菌されたその溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0157】
本発明による組成物の投与は、典型的には、任意の共通の経路によるであろう。これには、経口投与、鼻腔投与または口腔投与が含まれるが、これらに限定されることはない。あるいは、投与は同所性の、皮内の、皮下の、筋肉内の、腹腔内の、鼻腔内の、粘膜の、または静脈内の注射によるものであってもよい。ある種の態様において、ワクチン組成物は吸入することができる(例えば、参照により具体的に組み入れられる米国特許第6,651,655号)。そのような組成物は、通常、薬理学的に許容される担体、緩衝液または他の賦形剤を含む薬学的に許容される組成物として投与される。薬学的に許容される材料、組成物または媒体は、化学剤の運搬または輸送に関わる、液体もしくは固体増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒または封入材料を含むことができるが、これらに限定されることはない。
【0158】
水溶液での非経口投与の場合、例えば、溶液を、必要ならば、適当に緩衝化し、液体希釈剤を最初に、十分な生理食塩水またはグルコースを用いて等張にしなければならない。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与のために特に適している。これに関連して、利用できる無菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に公知であろう。例えば、一投与量を等張NaCl溶液に溶解し、皮下注入液に加えるか、または提案される注入部位に注射してもよい(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 1990を参照のこと)。若干の投与量のばらつきは被験体の状態に応じて必然的に生じると考えられる。いずれにしても、投与責任者が個々の被験体に適した用量を判定すると考えられる。
【0159】
治療用または予防用組成物の有効量は、意図する目的に基づいて判定される。「単位用量」または「投与量」という用語は、被験体での使用に適した物理的に異なる単位をいうが、各単位はその投与、すなわち、適切な経路および投与計画に関連する上記の所望の反応を生じるように算出された所定の量の組成物を含有する。処置回数および単位用量の両方によって投与される量は、望まれる防御に依る。
【0160】
また、組成物の的確な量は医師の判断に依り、各個体に特有のものである。用量に影響する要因には、被験体の身体的および臨床的状態、投与経路、意図する処置の目的(症状の緩和対治癒)、ならびに特定の組成物の効力、安定性および毒性が含まれる。
【0161】
処方によって、溶液は、投与量処方物と適合する様式でおよび治療的にまたは予防的に有効であるような量で投与される。処方物は上記の注射可能な溶液のタイプなどの、種々の投与量形態で容易に投与される。
【0162】
E. インビトロ、エクスビボまたはインビボ投与
本明細書において用いられる場合、インビトロ投与という用語は、培養細胞を含むが、これに限定されない、動物から取り出されたまたは動物の体外の細胞に対して行われる操作をいう。エクスビボ投与という用語は、インビトロにおいて操作されており、その後で、生きている細胞に投与される細胞をいう。インビボ投与という用語は、動物の体内で行われる全ての操作を含む。
【0163】
本発明のある種の局面において、組成物はインビトロで、エクスビボで、またはインビボで投与することができる。ある種のインビトロの態様において、自己Bリンパ球細胞株を、典型的には本発明のウイルスベクターと24〜48時間またはHlaポリペプチドと2時間インキュベートする。次いで形質導入細胞を、インビトロでの分析に、あるいはエクスビボ投与に用いることができる。
【0164】
ともに参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,690,915号および同第5,199,942号には、治療用途で用いるための血中単核細胞および骨髄細胞のエクスビボ操作のための方法が開示されている。
【0165】
V. 実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな態様を例証する目的で与えられており、いかなる形においても本発明を限定することを意図するものではない。本発明は本明細書の中にある目標、目的および利点のほかに、言及されている、目標を実行するために、かつ目的および利点を得るために十分に適していることを当業者は容易に理解するであろう。本実施例は、本明細書において記述される方法とともに、目下、好ましい態様を代表するものであり、例示するものであり、本発明の範囲に対する限定と意図するものではない。その変更および特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨のなかに包含されるその他の用途が、当業者には思い浮かぶであろう。
【0166】
実施例1
黄色ブドウ球菌に対するワクチン媒介性の防御
A. 方法
細菌株および培養
黄色ブドウ球菌Newman、LACおよびMW2をトリプティックソイブロス(TSB)中またはトリプティックソイ寒天(TSA)上で増殖させた。PVL変換性のファージを得るため、黄色ブドウ球菌MW2培養物でのφSa2mwの溶解的複製を1 μg/mlのマイトマイシンCで誘導した。溶解物を0.22 μmの膜に通してろ過し、ろ液を黄色ブドウ球菌RN4220でのプラーク形成に供した(Bae et al., 2006)。ファージ懸濁液を、5 mM CaCl2 (HIBCa5)を補充したハートインフュージョンブロス中で増殖させた菌株RN4220の対数増殖期中期の培養物1 mlと混合し、次いで終夜37℃でのインキュベーションによって増幅させた。増幅されたファージ粒子からフェノール/クロロホルム抽出によってDNAを精製した。φSa2mwをプライマーcctcctgttgatggaccact (SEQ ID NO:3)およびggcgctgaggtagtcaaaag (SEQ ID NO:4)でのlukS-PV DNAのPCR増幅によって検出した。φSa2mwファージ溶液を、HIBCa5中で増殖させた菌株Newmanの対数増殖期中期の培養物と混合し、振盪(150 rpm)させながら37℃で終夜インキュベートし、次いでTSA上にプレーティングした。コロニーをTSA上で増殖させて混入ファージ粒子を除去した。φSa2mw溶原菌をTSB 5 ml中37℃で終夜増殖させ、染色体DNAを精製し、lukS-PV DNAを増幅させた。変種のNewman φSa2mw hla::erm、Newman hla::ermおよびLAC hla::ermを菌株ΦNΞ11568からのブルサアウレアリス(bursa aurealis)挿入突然変異の形質導入によって作出し、PCRおよびDNA配列決定によりスクリーニングして、hla遺伝子座の破壊を確認した(Bae et al., 2004)。100 μg/mlのエリスロマイシンを加えて増殖させたLAC hla::ermを除き、10 μg/mlのエリスロマイシンを含むTSA上にて形質導入株を維持した。補完試験のため、ブドウ球菌にプラスミドpOS1 (ベクター)、phlaまたはppvlを形質転換し、10 μg/mlのクロラムフェニコールを含むTSA上にて増殖させた。マウス肺感染を確立するため、細菌の終夜培養物を新鮮なTSB中で100倍希釈(1:100)し、37℃で回転させながらOD660 0.5まで増殖させた。培養のアリコット50 ml中のブドウ球菌を遠心分離によって沈降し、PBS中で洗浄し、死亡率の試験の場合PBS 750 μlに懸濁し(容量30 μlあたり3〜4×108のCFU)、または細菌負荷および組織病理学的実験の場合1250 μlに懸濁した(容量30 μlあたり2×108のCFU)。細胞毒性試験の場合、ブドウ球菌株をOD660 0.5まで増殖させた。培養のアリコット5 ml中のブドウ球菌を遠心分離によって沈降し、PBS中で洗浄し、F12培地(Gibco) 10 mlに懸濁した。
【0167】
プラスミド
鋳型として黄色ブドウ球菌Newman DNAを用いてプライマー

によりhla遺伝子およびプロモーターをPCR増幅した。プライマー

によりpvl遺伝子座およびプロモーターをPCR増幅した。PCR産物をBamHIおよびEcoRIで消化し、pOS1の対応部位にクローニングした。
【0168】
ウサギ抗血清の産生
pOS1-HlaH35L鋳型DNAとプライマー

とを用いて、成熟HlaH35LをコードするPCR産物を作出した。USA300ゲノム鋳型DNAとプライマー

ならびに

により、成熟LukS-PVおよびLukF-PVをコードするPCR産物を作出した。PCR産物をBamHIおよびEcoRIで消化し、pGEX-6P-1 (Amersham Biosciences)の対応部位にクローニングし、大腸菌に形質転換した。GST-HlaH35L、GST-LukF-PVおよびGST-LukS-PV融合タンパク質をアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。精製タンパク質(0.5 mg)をフロイントの完全アジュバント(CFA)またはフロイントの不完全アジュバント(IFA)で乳化し、初回免疫のため雌性のNew Zealand Whiteウサギの肩甲骨下に注射し、その後、21日の間隔をあけて2回の追加免疫を行った。
【0169】
能動および受動免疫試験
能動免疫のため、GST-HlaH35L融合タンパク質を、製造元の使用説明書(Amersham Biosciences)にしたがってPrecissionプロテアーゼ切断に供した。Triton X-114抽出による混入内毒素の除去後、HlaH35Lタンパク質をCFAまたはIFA中で乳化した。4週齢のC57B1/6Jマウス(Jackson Laboratories)に0日目にCFA中20 μgのHlaH35Lタンパク質を与え、引き続いて10日目にIFA中20 μgのHlaH35Lタンパク質の追加免疫を行った。次いで20日目に動物を黄色ブドウ球菌で攻撃した。0日目の免疫の前に、また、特異的な血清抗体の産生を評価するため21日目に動物から血清を回収した。
【0170】
受動免疫試験のため、7週齢のC57B1/6Jマウスに、黄色ブドウ球菌の攻撃の24時間前に腹腔内(IP)注射を介して100 μlの正常ウサギ血清(NRS, Sigma)または抗Hlaウサギ抗血清を与えた。動物にIP注射全容量200 μlに対し1:1の混合液で各特異的抗血清100 μlを与えてLukF-PVおよびLukS-PVを受動免疫した。LukF/S-PV免疫試験の対照動物にはNRS 200 μlを与えた。攻撃時に血清を回収して特異的ウサギ抗体の力価を評価した。
【0171】
マウス感染モデル
6週齢の雌性C57B1/6Jマウス(Jackson Laboratories)を感染前の1週間、シカゴ大学の動物施設内で飼育した。動物をケタミンおよびキシラジンで麻酔した。適切な場合には麻酔の記録を残し、ブドウ球菌の懸濁液30 μlを左鼻孔に植菌した。動物を植菌後1分間、真っすぐ立たせ、その後、回復のため背臥位でおりの中に入れておいた。全ての動物に飼料および水を適宜与え、それらを72時間にわたって継続的に観察した。少数の割合の動物が、おそらく誤嚥および麻酔の複合的影響から、植菌後の最初の6時間内にいつも決まって死亡した。これらの動物はその後の分析から除外した。
【0172】
細菌負荷および組織病理
感染動物を、両肺の除去前に、シカゴ大学の動物実験委員会(Institute of Animal Care and Use Committee)のガイドラインにしたがってCO2強制吸入により殺処理した。右肺を、連続希釈および寒天プレート上でのコロニー形成の前に、滅菌PBS 1 mlの中に入れてホモジナイズした。組織病理試験のため、左肺を解剖し、1%ホルマリンの中に入れた。ヘマトキシリンエオシン染色および光学顕微鏡検査の前に、ホルマリン固定組織を包埋し、薄片にした。
【0173】
ELISA
マウス血清抗体の力価分析は、1 μg/mlの組み換えHlaH35L、LukF-PV、またはLukS-PVでコーティングしたNunc MaxiSorp Immunoプレートを用いて行った。血清希釈液を適切なプレート中でインキュベートし、Tecan GENios分光光度計上で、HRP標識二次抗体およびOpti-EIA (BD Biosciences)により発色させた。
【0174】
タンパク質分析
TSB中で増殖させたブドウ球菌培養物を同等の光学密度に調整し、培養上清中のタンパク質をトリクロロ酢酸で沈殿し、アセトン中で洗浄し、サンプル用緩衝液中で可溶化した。15% SDS-PAGE上で分離されたタンパク質を、特異的抗血清(α-LukS-PV、α-LukF-PVまたはα-nuclease)およびHRP標識ヤギ抗ウサギ二次抗体での免疫ブロッティングにより、さらに強化された化学発光検出を用いて分析した。Toxin Technology, Inc. (Sarasota, FL)から西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗Hla抗体を購入した。
【0175】
細胞毒性アッセイ法
10%ウシ胎仔血清およびノルモシン(normocin) (100 μg/ml, InvivoGen, SanDiego, CA)を補充したF12培地中の培養でA549細胞を維持した。A549細胞を完全F12培地中にて洗浄し、96ウェルプレートに1ウェルあたり細胞1.5×104個の密度でプレーティングした。1ウェルごとにブドウ球菌懸濁液100 μlを加える前に、補充物を含まないF12培地でA549細胞を1回洗浄した。37℃の加湿インキュベータ中4時間のインキュベーションの後、LDH活性を三つ組で測定した(Roche Applied Science, Mannheim, Germany)。細胞損傷の顕微鏡的評価のため、感染から3時間後にNikon Eclipse TE2000U顕微鏡を用いて細胞の画像を得た。
【0176】
サイトカインアッセイ法
実験動物から感染後24時間で回収された血清を比率1:4で希釈し、Bioplex Mouse 8-Plex Aアッセイ(Bio-Rad)によりサイトカイン含量についてアッセイした。サイトカイン濃度をBio-Plex WorkstationにてBio-Plex Managerソフトウェアにより定量化した。
【0177】
統計解析
死亡率試験の統計的有意性の解析は、フィッシャーの直接確率検定を用いて行った。細菌回収試験およびA549 LDH放出の統計的有意性は、両側スチューデントのt-検定を用いて計算した。
【0178】
B. 結果
ブドウ球菌α-溶血素(Hlaまたはα-毒素)は、細菌孔形成β-バレル毒素の、当初からの成員である(Bhakdi and Tranum-Jensen, 1991; Song et al., 1996)。その構造遺伝子hlaは、293残基の水溶性単量体を分泌する、調べられている全ての黄色ブドウ球菌株の染色体に位置している(O'Reilly et al., 1990; O'Reilly et al., 1986)。Hlaは、感受性宿主細胞の表面受容体に会合し、それによって7量体の前細孔へのそのオリゴマー化および原形質膜への直径2 nmの細孔を有するβ-バレル構造の挿入を促進すると考えられている(Gouaux et al., 1997)。Hlaの細孔はリンパ球、マクロファージ、肺胞上皮細胞、肺内皮および赤血球に生じるが、顆粒球および線維芽細胞は溶解に耐性と思われる(Bhakdi and Tranum-Jensen, 1991; McElroy et al., 1999)。精製Hlaのウサギまたはラット肺組織への注入は血管漏出および肺高血圧を誘発し、これはいくつかのシグナル伝達分子、例えばホスファチジルイノシトール、酸化窒素、プロスタノイド(PGE2、PGI2)およびトロンボキサンA2の放出によるものとされている(McElroy et al., 1999; Seeger et al., 1984; Seeger et al., 1990; Rose et al., 2002; Suttorp and Habben, 1988)。Hlaの生化学的性質に一致して、黄色ブドウ球菌NewmanにおいてHlaの発現を抑止する突然変異は、マウス肺炎モデルにおいて病毒性を大幅に弱毒化する(Bubeck-Wardenburg et al., 2007)。ここで、本発明者は、黄色ブドウ球菌肺感染に対抗するワクチンまたは免疫治療戦略の開発のための標的としてα-溶血素を調べた。
【0179】
新たな黄色ブドウ球菌分離株における病毒性因子としてhlaが機能するかどうかを試験するため、本発明者らは市中MRSA株LAC (Los Angeles Clone, CDC分岐群USA300) (Voyich et al., 2006; Miller et al., 2005)を選択した。hlaをhla::erm対立遺伝子で置換することにより、肺感染を引き起こす黄色ブドウ球菌LACの能力が完全になくなった(図1A)。最近の報告には、バクテリオファージにコードされたPanton-Valentineロイコシジン(PVL)を分泌する黄色ブドウ球菌分離株の出現が記述されている(Miller et al., 2005; Chambers, 2005; Vandenesch et al., 2003; Fridkin et al., 2005)。PVLは、選択標的細胞の膜に入り込む二つのサブユニット(LukS-PVおよびLukF-PV)から形成された別の7量体β-バレル毒素である(Panton and Valentine, 1932; Menestrina et al., 2001)。実験室株の黄色ブドウ球菌RN6390およびそのPVL+ 派生株を用いて、Labandeira-Reyおよびその仲間らは、PVLがマウスの肺炎の発病に不可欠な病毒性因子として機能しうることを示唆した(Labandeira-Rey et al., 2007)。PVLを菌株RN6390において多コピープラスミドから発現させた場合に顕著な動物死亡率と肺炎の組織病理学的証拠とが観察された(Labandeira-Rey et al., 2007)。対照的に、Voyichらは、敗血症および皮膚感染症のマウスモデルを用いてブドウ球菌病毒性におけるPVLの直接的な役割がないことを認めた(Voyich et al., 2006)。主たるAmerican CA-MRSA分離株である菌株LAC (USA300)およびMW2 (USA400)の同質遺伝子的lukS-PVおよびlukF-PV変異派生株でも、好中球溶解、膿瘍形成、皮膚壊死、または敗血症誘導性の死亡率におけるPVLの役割を明らかにすることができなかった(Voyich et al., 2006)。
【0180】
PVLおよび肺感染症の発病に対するその寄与
現在の臨床分離株によって表されるようにPVLが肺感染の発病の寄与体であるかどうかを試験するため、黄色ブドウ球菌株LACおよびMW2ならびにPVL遺伝子を欠いたその同質遺伝子的な変種をマウス肺炎モデルにおいて分析した。野生型および同質遺伝子的なΔpvl変異株によって引き起こされた感染の対分析によっては、黄色ブドウ球菌性肺炎を有する動物の全死亡率の有意差が認められなかった(図1B)。二種のCA-MRSA株のどちらでlukS/F-PVを欠失(Δpvl)させてもマウス肺での細菌の増殖に影響がなかった。感染動物由来のヘマトキシリンエオシン染色済み薄片肺サンプルから、免疫細胞浸潤、肺実質の硬化を伴う肺胞構造の喪失および細菌浸潤物に見られるように、肺炎の病理学的証拠が明らかになった; これらの特徴は、PVLを分泌する菌株またはPVLを分泌しない菌株を感染させた動物で区別ができなかった(図1C)。
【0181】
本発明者らは肺感染の発病で主要な役割を果たすように思われるα-溶血素によって、ブドウ球菌性肺炎に対するPVLの何らかの寄与を遮蔽できるかどうかを企図した。黄色ブドウ球菌NewmanのlukS/F-PV溶原菌をバクテリオファージφSa2mw (黄色ブドウ球菌MW2から単離された)で作出した(Baba et al., 2002) (図3A)。黄色ブドウ球菌Newmanのヌクレオチド番号1565379の位置の染色体へのφSa2mwの挿入により、LukS-PVおよびLukF-PVの分泌が起きた(Kaneko et al., 1998) (図3B)。C57B1/6Jマウスの攻撃の後、φSa2mw溶原菌は、右肺のホモジナイズ組織内でのコロニー形成単位(CFU)として判定した場合、肺組織において等しい効率で複製した(図3C)。黄色ブドウ球菌Newman野生型またはNewman φSa2mw誘導性の肺炎に苦しんでいたマウスの全死亡率で有意差は認められず(図3D)、ファージ溶原性を介したPVLの分泌がマウス肺感染の間にブドウ球菌の病毒性を増大しないことが示唆された。PVLバクテリオファージの存在にもかかわらず、挿入によるhlaの破壊で、黄色ブドウ球菌Newman φSa2mw (hla::erm)はマウス肺感染に対して無病毒性になった(図3E)。
【0182】
黄色ブドウ球菌NewmanにlukS/F-PVをコードするプラスミド(ppvl)を形質転換し、高レベルのPVLの発現を促進した(図4B)。それにもかかわらず、肺炎に関係する実験動物の死亡率の変化は、ベクターのみまたはppvlのどちらかを内部に持った黄色ブドウ球菌Newmanによる感染で観察されなかった(図4A)。同様に、感染動物の肺からのブドウ球菌の回収または疾患の組織病理学的証拠は、PVLの発現によって変化しなかった(データ記載せず)。既報のように、黄色ブドウ球菌Newmanにおけるhla発現の喪失(hla::erm)によって肺感染モデルにおける黄色ブドウ球菌の病毒性および死亡率、つまり、ppvlの形質転換によっては覆せなかった欠陥が完全になくなった(Bubeck-Wardenburg et al., 2007)。対照的に、Hlaの発現を促進するプラスミドphlaでの形質転換によって病毒性表現型の完全かつ過度な復元が起こり、24時間の時点までに100%の動物が肺炎のために死んだ(図4A)。免疫ブロット分析は、これらの菌株の各々に存在するLukS-PV、LukF-PVおよびα-溶血素のレベルの指標となり、表示の遺伝的欠損によって、対応する関心対象のタンパク質が存在しなくなったことが同時に確認された(図4B)。このように、Hlaはマウスにおけるブドウ球菌肺疾患の確立に不可欠な病毒性因子であるが、PVLはそうではない。
【0183】
Hla特異的な免疫反応
Hla特異的な免疫反応がブドウ球菌性肺炎の発病に影響を及ぼすかどうかを試験するため、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または20 μgの精製HlaH35L、つまり宿主標的細胞への毒素の結合に影響を与えずに孔形成を阻止する一アミノ酸置換を持ったα-溶血素の変種のどちらかの筋肉内注射によりマウスを免疫した(Gouaux et al., 1997)。免疫によって1:5,601 (±2,789)のHlaH35L特異抗体の平均力価に上昇した。黄色ブドウ球菌Newmanでの攻撃により、HlaH35L免疫動物において動物死亡率の顕著な減少が観察された(図5A)。この減少は、感染後24時間の時点で肺から回収された黄色ブドウ球菌のコロニー形成単位の低下と一致していた(図5B)。感染肺組織の肉眼的病態分析により、模擬免疫動物において観察された広範性の硬化とは対照的に、HlaH35L免疫動物では局所域のみの硬化が明らかになった(図5C)。α-溶血素免疫動物における疾患の局所的性質は、感染肺組織の病理組織学的切片においても明白であった。HlaH35L免疫動物の損傷は離散的であり、重要なことには、影響を受けていない肺の領域によって囲まれていた(図5D)。逆に、模擬免疫動物において肺胞腔の大部分が消失した。臨床的に関連する黄色ブドウ球菌分離株によって引き起こされる肺感染の発病に及ぼすα-溶血素のワクチン接種の影響について調べるため、HlaH35L免疫動物に黄色ブドウ球菌LACまたは黄色ブドウ球菌MW2を感染させた。これらの菌株によって引き起こされる絶対死亡率は互いに異なっていたが、HlaH35Lを免疫した動物の全群で顕著な死亡防御が達成された(図5E)。
【0184】
本発明者らは、マウス肺のブドウ球菌感染がヒトのものとは異なりうる可能性を認識している。実際に、二種の黄色ブドウ球菌ファージによってコードされるタンパク質CHIPSおよびSCINは種特異的にヒト免疫系を調節するように思われる(Rooijakkers et al., 2005; Rooijakkers et al., 2006)。ヒト肺組織の損傷に対するPVLの潜在的な寄与について取り組むため、本発明者らは、ヒト肺上皮に及ぼす精製ブドウ球菌α-溶血素またはB群連鎖球菌β-溶血素の影響を調べるために過去に利用された(Rooijakkers et al., 2005; Rooijakkers et al., 2006)、ヒトA549肺胞上皮細胞に及ぼす黄色ブドウ球菌臨床分離株の細胞毒性について分析した(図6)。黄色ブドウ球菌LACおよびMW2を感染させた場合、A549の損傷は乳酸脱水素酵素の放出によって容易に検出された(図6A)。これらの分離株のいずれにおいてもpvl遺伝子座の破壊が黄色ブドウ球菌の細胞毒性を減ずることはなかった。顆粒球および単核食細胞に対して報告されているPVLの特異性と一致した所見である(Woodin, 1970; Meunier et al., 1995)。対照的に、α-溶血素を欠いた黄色ブドウ球菌Newmanの変種は、A549細胞を破壊することができなかった。つまりphlaにより補完され、感染細胞の顕微鏡検査により容易に可視化される欠陥が認められた(図6B)。直接的な肺胞細胞損傷におけるα-溶血素の主要な役割から、この毒素の中和によって細胞傷害が阻止されることが示唆される。黄色ブドウ球菌を同時に感染させたA549細胞へのHla抗血清の添加によって毒素損傷からの防御が得られた(図6C)が、対照血清では効果がなかった(図6C)。HlaH35Lが肺細胞表面上のα-溶血素結合部位を占有するという仮説と一致して、精製HlaH35Lによる処理でもA549細胞が防御された(図6C)。ヒトA549細胞の生/死画像を感染から4時間後に蛍光顕微鏡検査法によって記録し、非感染のままとしたA549細胞またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS, 1:1000)、正常ウサギ血清(NRS, 1:1000)、抗Hlaウサギ血清(α-Hla, 1:1000)もしくは精製HlaH35L (10 μg/ml)による処理培地中で黄色ブドウ球菌Newmanと共培養したA549細胞を評価した。ベクターまたはhla遺伝子を含んだプラスミド(phla)で形質転換された、Newman同質遺伝子的hla挿入変異体hla::ermでも感染を行った。これらの結果から、黄色ブドウ球菌によるヒト肺胞上皮細胞の損傷は、α-溶血素の拮抗作用によって低減することが実証された。
【0185】
α-溶血素特異的な抗体は、ブドウ球菌肺疾患を防御することができる
α-溶血素特異的な抗体がブドウ球菌肺疾患を防御できるかどうかを試験するため、実験動物を、黄色ブドウ球菌Newmanで攻撃する24時間前に、腹腔内注射によって正常ウサギ血清または抗Hla血清のどちらかで受動免疫した[HlaH35L特異的抗体の平均力価1:480 (±179)] (図7)。肺炎誘導性の死亡率の調査から、抗Hla血清での受動免疫による防御が示されたが、対照血清では示されなかった(図7A)。この防御は、疾患の肉眼的特徴(図7C)および病理組織学的特徴(図7D)の改善と相関していた。さらに、抗Hlaで免疫した動物の肺から得られたコロニー形成単位の顕著な減少も観察された(図7B)。受動免疫防御は、黄色ブドウ球菌Newmanで攻撃された動物においてだけでなく、黄色ブドウ球菌LACまたはMW2を感染させた動物においても有効であった(図7E)。対照的に、抗PVL血清[特異的抗体の平均力価LukS-PV=1:894 (±80)およびLukF-PV=1:3,689 (±186)]による受動免疫では、ブドウ球菌性肺炎の結果に影響がなかった(図7F)。
【0186】
種々の感染性または非感染性の刺激によって誘発される肺炎症は、IL-1βの分泌の増強をもたらし、これによって感染部位への免疫細胞の動員が促進されるだけではなく、全身炎症反応および急性肺損傷も引き起こされる(Goodman et al., 2003)。IL-1βの分泌は、過度に起こる場合、宿主にとって確実に有害である(Goodman et al., 2003)。ブドウ球菌肺感染を有する動物の血清中のサイトカインプロファイルから、抗Hlaによる受動免疫が血清IL-1βの顕著な低下をもたらすことが明らかになった(図8)。さらに、抗Hla免疫動物はIFN-γ (図8)、つまりマクロファージおよび好中球などの自然免疫細胞によるブドウ球菌の死滅ならびに食細胞による取り込みを促進するサイトカインの放出を示した(Zhao et al., 1998)。
【0187】
黄色ブドウ球菌α-溶血素に対して作製された抗体が、培養ヒト肺胞上皮細胞に対する細胞溶解性の損傷とマウスモデル系における侵襲性疾患の両方を防御する能力から、この毒素に対するモノクローナル抗体が有用な治療用物質でありうることが示唆された。この線での調査を進めるため、本発明者らは、マウスを組み換えHlaH35Lタンパク質で免疫し、一連の抗Hla分泌骨髄腫細胞を作出した。HlaH35Lの免疫に反応して作出された6種のハイブリドーマが、ELISAに基づくスクリーニングにおいて陽性反応を示したが、これらのうちの2種を増殖させ、これらがHla活性の機能的遮断をもたらすことを実証した(図9)。先の観察結果と一致して、非免疫性のウサギ血清(NRS)の存在下での黄色ブドウ球菌とA549細胞との共培養では、細胞の防御に至らず、対照的に、ウサギ抗Hlaとの共培養処理では溶解からの防御をもたらした。同様に、クローン7B8.35および1A9.4F9由来の精製モノクローナル抗体は、Hla誘導性のA549損傷に対する統計的に有意な程度の防御を付与した。対照的に、アイソタイプ対照のマウス抗体は防御を付与しなかった。これらの結果は、非感染とした、または抗Hlaモノクローナル抗体もしくはそのアイソタイプ適合対照のそれぞれで処理したA549細胞のLIVE-DEAD染色によっても可視化された。これらの2種のモノクローナル抗体によって得られる相対的防御について調べるため、2.5 mg/ml〜0.001 mg/mlの範囲の抗体濃度をLDH放出アッセイ法で、黄色ブドウ球菌Newmanとの共培養時にA549細胞を防御するその能力について評価した(図10)。モノクローナル1A9.4F9は細胞損傷に対する防御を明らかにもたらすが、この抗体から得られる防御は、7B8.35モノクローナル抗体によって得られるものほど強くはなく、おそらく、これらのモノクローナル抗体によって認識されるエピトープまたはα-溶血素に対するその親和性が異なることを示唆している。これらのインビトロでの防御試験の結果は、Hlaに特異的なモノクローナル抗体が黄色ブドウ球菌性肺炎の経過中にインビボでHlaの細胞傷害作用からの防御をもたらす可能性を実証するものである。
【0188】
これについて検討するため、本発明者らは、これらの精製マウスモノクローナル抗体が黄色ブドウ球菌性肺炎からマウスを防御するその能力について調べた。マウス15匹の群にそれぞれ、感染の24時間前に腹腔内経路を介して全量100 μl中5 mg/kg用量の精製モノクローナル抗体7B8.35 (図11A)または1A9.4F9 (図11B)のどちらかを与えた。偽処置マウスにはPBS 100 μlを与えた。上記の実験で利用したプロトコルにしたがって動物に黄色ブドウ球菌Newmanを感染させ、感染後72時間にわたり死亡率をスコア化した。各モノクローナル抗体による受動免疫は、このアッセイ法において統計的に有意な程度の死亡防御を付与し、これは感染後の動物の全体的な臨床所見の改善と相関していた。同様に、7B8.35も1A9.4F9もともにUSA300/LAC、つまり現在米国において最も普及しているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌分離株によって引き起こされる肺炎関連の死亡から動物を防御することができた(図12)。これらの結果と一致して、本発明者らは、A549アッセイにおいて、1A9.4F9が感染後24時間の時点で統計的に有意な程度の防御を付与したにすぎなかったように、モノクローナル7B8.35が実験動物の防御で1A9.4F9よりも有効であることを認めた。過去の研究から、USA300/LAC分離株はこの動物モデルにおいて非常に病毒性であり、Newmanよりもはるかに多くのHlaを分泌し、その結果、黄色ブドウ球菌Newmanの感染時に見られるものよりも高い実験動物での死亡度をもたらすことが実証されている。上記のインビトロおよびインビボでのデータを結び付けて考えると、これらの二種のマウスモノクローナル抗体はHlaの機能を標的としてその毒素に拮抗し、それにより疾患を防御する。
【0189】
これらのモノクローナル抗体は肺損傷の細胞培養モデルにおいてインビトロでの防御を示し、同様に、黄色ブドウ球菌性肺炎から動物を防御するので、本発明者らは、それらの抗体が標的とするHla分子の領域の決定に関心を持った。これらのエピトープに関する知識は、毒素の阻害がいかにして、構造的見地から生じうるのか、さらには、治療用化合物、他のモノクローナル抗体の将来的なデザインに役立つものとなりうるかを理解する際に有益だと分かり、またはおそらく、能動免疫法での投与に向けたワクチン調製物に組み入れられる単離された毒素域を明らかにしうるものと本発明者らは考えるものである。モノクローナル抗体がインビボでHlaの活性を遮断できる機構はいくつか存在する可能性がある。第一に、抗体は、真核生物の受容体結合部位を覆い隠すタンパク質の領域(これは現在不明である)に結合し、かくして、該単量体と宿主細胞との機能的相互作用を阻止することができる。第二に、抗体は分子間相互作用の発生を損なうことにより、結合した単量体の、細胞表面上7量体型への構築を阻止することができる。第三に、抗体は、構築された7量体が、その幹状部を真核生物の脂質二重層へ挿入して、安定な細孔を形成するのに必要な構造変化を起こせないようにすることができる。的確なHlaの生化学的および構造的分析は、宿主細胞の結合、7量体形成および細胞溶解に寄与するアミノ酸残基を理解する上での手掛かりとなった。このように、各モノクローナル抗体の正確な抗体結合部位を定義することは、その抗体が毒素に拮抗する機構への洞察をもたらす可能性が非常に高いであろう。さらに、そのようなマッピングは、それぞれが異なるエピトープに結合するモノクローナル抗体の効果的な組み合わせの、受動免疫用治療薬への組み立てを最終的に導くこともできる。Hlaのセグメントに対する各ヒト化モノクローナル抗体のエピトープ特異性の迅速な焦点化を可能にするため、それぞれ長さが約50アミノ酸の重複する毒素セグメントに相当する、一連の7種のグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質を作出した。
【0190】
各切断タンパク質は前後両方のタンパク質断片と10アミノ酸の重複を有する(図13)。これらの融合タンパク質をドットブロット分析技術で7B8および1A9モノクローナル抗体との反応性について調べた。手短に言えば、各融合タンパク質1 μgをニトロセルロース膜上にドットし、乾燥させた。二種のモノクローナル抗体のそれぞれについて一枚の膜パネルを調製した。次いでこれらの膜をブロッキングし、0.2 μg/mlの濃度で各モノクローナル抗体を用い標準的なプロトコルにしたがってウエスタンブロットを行った。これらのブロットを洗浄し、二次抗体とともにインキュベートし、融合タンパク質へのモノクローナル抗体の結合を化学発光による発色技術によって評価した。興味深いことに、7B8も1A9もともに、全長の融合タンパク質(HlaH35L)に結合するだけでなく、完全にプロセッシングされた毒素のアミノ酸1〜50 (HlaA1-K50)を含有する融合タンパク質にも排他的に結合する(図14)。7B8および1A9に対するアイソタイプ適合性の対照抗体(それぞれIgG2aおよびIgG2b)は、いずれの融合タンパク質にも結合することを示さなかったが、毒素に対して作製されたポリクローナルウサギ血清(α-Hla)は、該タンパク質の各セグメントも、GSTだけのものも認識する(ウサギ抗血清は全長のGST-HlaH35L融合体に対して作製されたので)。二種の独立的に作製された防御抗Hlaモノクローナル抗体が、プロセッシングされた成熟毒素の最初の50アミノ酸のなかに含まれるエピトープを認識するという所見から、これらの抗体が安定な7量体の細孔の構築を妨げることにより、毒素の機能を破壊する能力を持ちうることが強く示唆される。
【0191】
要約すれば、HlaH35Lワクチンによる能動免疫でもHla特異的な抗体による受動免疫でも、関連する動物モデルでのブドウ球菌肺感染に対する顕著な防御が得られた。したがって、α-溶血素、つまり全ての黄色ブドウ球菌株によって分泌される病毒性因子に対する抗体は同様に、ヒトでのブドウ球菌肺感染に対する防御を与えるはずである。
【0192】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載のものを補完する例示的な手順のまたはその他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書に特に組み入れられる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製組み換えの弱毒化ブドウ球菌(Staphylococcus)α-溶血素(Hla)毒素を含む組成物の有効量を患者に投与する段階を含む、ブドウ球菌肺疾患もしくは状態から患者を防御するおよび/またはブドウ球菌に対する患者の免疫反応を誘発する方法であって、該組成物が他の任意のブドウ球菌タンパク質を混入量しか含有しない、前記方法。
【請求項2】
患者がブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある、請求項1記載の方法。
【請求項3】
患者が入院しているまたは入院する予定がある、請求項2記載の方法。
【請求項4】
患者が手術を受ける予定があるおよび/または麻酔される予定がある、請求項2記載の方法。
【請求項5】
ブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある患者を特定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
弱毒化Hla毒素が検出可能な溶血活性を欠く、請求項1記載の方法。
【請求項7】
弱毒化Hla毒素が検出可能な致死活性を欠く、請求項1記載の方法。
【請求項8】
Hla毒素が、アミノ酸35に、ヒスチジンに代わって置き換えられたロイシンを有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
Hla毒素が実質的に変性されない、請求項1記載の方法。
【請求項10】
Hla毒素が精製されるまたは単離される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
Hla毒素が成熟Hla毒素のアミノ酸1〜50しか含まない、請求項1記載の方法。
【請求項12】
Hla毒素に対する抗体について患者を試験する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
患者が組成物を複数回投与される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
組成物が少なくとも一種のアジュバントをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
アジュバントがHla毒素に抱合される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
組成物が粘膜にまたは筋肉内に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
組成物が鼻腔内に投与されるまたは吸入される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ブドウ球菌肺疾患または状態は肺炎である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
組み換えの弱毒化ブドウ球菌α-溶血素(Hla)毒素を含む組成物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者のブドウ球菌肺疾患または状態を予防するための方法であって、該組成物が他の任意のブドウ球菌タンパク質に対する検出可能な免疫反応を誘発しない、前記方法。
【請求項20】
患者がブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある、請求項19記載の方法。
【請求項21】
患者が入院しているまたは入院する予定がある、請求項20記載の方法。
【請求項22】
患者が手術を受ける予定があるおよび/または麻酔される予定がある、請求項20記載の方法。
【請求項23】
ブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある患者を特定する段階をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項24】
弱毒化Hla毒素が検出可能な溶血活性を欠く、請求項19記載の方法。
【請求項25】
弱毒化Hla毒素が検出可能な致死活性を欠く、請求項19記載の方法。
【請求項26】
Hla毒素が、アミノ酸35に、ヒスチジンに代わって置き換えられたロイシンを有する、請求項19記載の方法。
【請求項27】
Hla毒素が成熟Hla毒素のアミノ酸1〜50しか含まない、請求項19記載の方法。
【請求項28】
Hla毒素が実質的に変性されない、請求項19記載の方法。
【請求項29】
Hla毒素が精製されるまたは単離される、請求項19記載の方法。
【請求項30】
組成物が患者に複数回投与される、請求項19記載の方法。
【請求項31】
組成物が少なくとも一種のアジュバントをさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項32】
アジュバントがHla毒素に抱合される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
Hla毒素に対する抗体について患者を試験する段階をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項34】
組成物が粘膜にまたは筋肉内に投与される、請求項19記載の方法。
【請求項35】
組成物が鼻腔内に投与されるまたは吸入される、請求項19記載の方法。
【請求項36】
ブドウ球菌肺疾患または状態は肺炎である、請求項19記載の方法。
【請求項37】
組み換えの弱毒化ブドウ球菌α-溶血素(Hla)毒素から本質的になる組成物の有効量を患者に投与する段階を含む、ブドウ球菌肺疾患または状態から患者を防御する方法。
【請求項38】
患者がブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある、請求項37記載の方法。
【請求項39】
患者が入院しているまたは入院する予定がある、請求項38記載の方法。
【請求項40】
患者が手術を受ける予定があるおよび/または麻酔される予定がある、請求項38記載の方法。
【請求項41】
ブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある患者を特定する段階をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項42】
弱毒化Hla毒素が検出可能な溶血活性を欠く、請求項37記載の方法。
【請求項43】
弱毒化Hla毒素が検出可能な致死活性を欠く、請求項37記載の方法。
【請求項44】
Hla毒素が、アミノ酸35に、ヒスチジンに代わって置き換えられたロイシンを有する、請求項37記載の方法。
【請求項45】
Hla毒素が成熟Hla毒素のアミノ酸1〜50しか含まない、請求項37記載の方法。
【請求項46】
Hla毒素が実質的に変性されない、請求項37記載の方法。
【請求項47】
Hla毒素が精製されるまたは単離される、請求項37記載の方法。
【請求項48】
Hla毒素に対する抗体について患者を試験する段階をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項49】
患者が組成物を複数回投与される、請求項37記載の方法。
【請求項50】
組成物が少なくとも一種のアジュバントをさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項51】
アジュバントがHla毒素に抱合される、請求項50記載の方法。
【請求項52】
組成物が粘膜にまたは筋肉内に投与される、請求項37記載の方法。
【請求項53】
組成物が鼻腔内に投与されるまたは吸入される、請求項37記載の方法。
【請求項54】
ブドウ球菌肺疾患または状態は肺炎である、請求項37記載の方法。
【請求項55】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α-溶血素(Hla)に対して免疫学的に反応性の抗体を含む組成物の有効量を患者に投与する段階を含む、ブドウ球菌肺疾患または状態から患者を防御する方法。
【請求項56】
抗体がヒト化抗体である、請求項55記載の方法。
【請求項57】
抗体がヒト抗体である、請求項55記載の方法。
【請求項58】
抗体がモノクローナル抗体であるまたは抗体の免疫学的部分である、請求項55記載の方法。
【請求項59】
患者がブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある、請求項55記載の方法。
【請求項60】
患者が入院しているまたは入院する予定がある、請求項59記載の方法。
【請求項61】
患者が手術を受ける予定があるおよび/または麻酔される予定がある、請求項59記載の方法。
【請求項62】
患者がブドウ球菌肺疾患もしくは状態の症状を有するまたはブドウ球菌肺疾患もしくは状態と診断されている、請求項55記載の方法。
【請求項63】
黄色ブドウ球菌肺感染を処置するための抗生物質を患者に投与する段階をさらに含む、請求項62記載の方法。
【請求項64】
ブドウ球菌肺疾患または状態のリスクがある患者を特定する段階をさらに含む、請求項55記載の方法。
【請求項65】
組成物が静脈内に投与される、請求項55記載の方法。
【請求項66】
組成物が患者に複数回投与される、請求項55記載の方法。
【請求項67】
ブドウ球菌肺疾患または状態は肺炎である、請求項55記載の方法。
【請求項68】
成熟Hla毒素のアミノ酸1〜50に特異的に結合する抗体。
【請求項69】
成熟Hla毒素がSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する、請求項68記載の抗体。
【請求項70】
SEQ ID NO:2のアミノ酸1〜50を含んだ単離ポリペプチドを含む免疫原性組成物。
【請求項71】
単離ポリペプチドがSEQ ID NO:2のせいぜいアミノ酸1〜50を含む、請求項70記載の組成物。
【請求項72】
単離ポリペプチドが融合タンパク質である、請求項71記載の組成物。
【請求項73】
アジュバントをさらに含む、請求項70記載の組成物。
【請求項74】
単離ポリペプチドが融合タンパク質である、請求項70記載の組成物。
【請求項75】
単離ポリペプチドがリポポリペプチドである、請求項70記載の組成物。
【請求項76】
薬学的に許容される処方物、特にエアロゾル処方物に含まれる、請求項70記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図5D】
image rotate

【図5E】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図7D】
image rotate

【図7E】
image rotate

【図7F】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公表番号】特表2010−538015(P2010−538015A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523163(P2010−523163)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/074849
【国際公開番号】WO2009/029831
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(503294773)ユニバーシティ オブ シカゴ (11)
【Fターム(参考)】