説明

ブラシの製造方法及び装置

【課題】 基板に植設される用毛束の植毛強度を確保するとともに、用毛束の毛立ちの整列性を向上し、かつ加熱体によってヘッド形状を損なうことなく、用毛束の植設部にバリを生じさせないこと。
【解決手段】 ブラシ10の製造方法であり、前記ブラシ10の基板11の背面側にブラシ10のヘッド14の形状保持治具33を位置決めした後、用毛束18の基部端面を加熱して溶融するとともに、該形状保持治具33に備えた冷却機構により該形状保持冶具33を冷却するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯ブラシのように植毛部分とハンドル部を有するブラシの製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシの製造において用毛を植設する場合、用毛束を用毛束挿入孔に挿入した後、金属の部材で用毛束を固定する方法が広く行なわれていた。しかしながら、この方法は装置を簡便に構成できるが、歯ブラシの植毛部分の厚みを薄くできない、斜め植毛が難しい等の不都合がある。特に歯ブラシのような植毛部が小さいブラシにおいてはこの傾向が強い。一方、金属の部材を用いない方法としては、次の3つの方法があり、それぞれ目的により使い分けされている。
【0003】
(1)タイプI(例えば、特公平6-16725、USP4635313)
用毛束挿入孔を有する成形用金型(キャビティ)の用毛束挿入孔に用毛束を挿入し、用毛束基部にプラスチック材料を充填し、歯ブラシのハンドル部を一体的に製造する方法。この方法は、キャビティの構成上、成形圧を上げた際には用毛束挿入孔の隙間からプラスチック材料の洩れが発生し易い。
【0004】
(2)タイプII(例えば、USP5458400、特開平9-182632)
予め成形された多数の用毛束挿入孔を有する基板に用毛束を植設し、この用毛束が植設された基板を金型に入れ、基板の開口部をプラスチック部材で充填する方法。この方法は、基板を成形する工程が増えるものの、プラスチック部材で充填する基板に用毛束を植設してあり、基板と用毛束の密着部が存在するため、プラスチック部材で充填する際の、基板と用毛束の間からの充填材の洩れはタイプIに比べ発生しにくい。
【0005】
(3)タイプIII(例えば、特公平6-46962)
用毛束挿入孔を有する基板の用毛束挿入孔部と用毛束基部の双方を加熱後密着させ、該基板に用毛束をかしめる方法。この方法は、用毛束の固定に関して品質のばらつきが出易い。
【0006】
これらの3つの方法は目的により使い分けされているが、斜め植毛や太い用毛束の植毛が必要な場合には、タイプI及びタイプIIの方が有利であり、タイプIIIは植毛強度がばらつきやすい点からほとんど使用されていない。用毛束を保持した状態でブラシハンドル部を成形し植設部とを一体化する方法であることはタイプIとタイプIIは同じであり、両者ともインサート成形法である。従って、用毛束挿入孔の隙間からのプラスチック材料の洩れは、上記のようにタイプIIの方が少ないというものの、共通の課題として残っている。
【0007】
この課題に対しては、用毛束挿入孔の隙間をできるだけ減少させる検討が行なわれてきた。例えば、特開平10-52316のでは次のような検討が行なわれている。即ち、金型に備えられた用毛束挿入用の保持孔に用毛束を導入し、用毛束の突出端部を加熱手段により保持孔の断面より大きい断面を有する融合塊に形成し、該融合塊をハンドル成形用金型のキャビティ内に位置させてから熱可塑性合成樹脂成形材料を導入(射出)している。特開平10-52316では、ハンドル成形用金型内に射出する溶融樹脂の樹脂流動特性値が17〜40g/10minと流動性が少ないものを使用している。
【0008】
以上のように、流動性の低い樹脂を使用すると成形圧力を上げる必要があるが、成形圧を上げると、用毛束の毛立ちの乱れが発生し易く、用毛束挿入孔からの樹脂の洩れも発生し易い。従って、使用される樹脂や成形条件(特に成形圧力)が制限されるのが実情であった。
【0009】
また、USP5458400、特開平9-182632にはタイプIIの製造方法において用毛束の突出端部を加熱手段により融合塊に形成する方法が開示されているが、この方法においても融合塊の形成時に、用毛束のねじれや毛立ちの乱れ、及び加熱手段による熱で基板が変形するなどの損傷を受け易いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平6-16725
【特許文献2】USP4635313
【特許文献3】USP5458400
【特許文献4】特開平9-182632
【特許文献5】特公平6-46962
【特許文献6】特開平10-52316
【特許文献7】USP5458400
【特許文献8】特開平9-182632
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、用毛束を挿入した後にハンドル部を充填するブラシの製造方法において、斜め植毛や太い用毛束の植毛をしても用毛束のねじれがなくや用毛束の毛立ちの整列性が良く、植毛強度が高く、用毛束挿入孔からの樹脂洩れがなく、ブラシ本体の変形や損傷のないブラシの製造方法を提供することにある。また、上記記載の如くの樹脂や成形条件の制限を除いたブラシの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記タイプIIの方法で課題解決を図ったものである。請求項1の発明は、ブラシの基板に用毛束を固定化するブラシの製造方法であって、用毛束を用毛束保持治具に据付けられている基板の用毛束挿入孔から用毛束保持治具の用毛束整形孔に植設し、用毛束を基板の用毛束挿入孔に植設し、基板の背面側に用毛束挿入孔から出ている用毛束の基部端面を加熱して溶融し、基板の背面側に用毛束挿入孔を塞ぐ溶融塊又は溶融プレス面を形成し、用毛束を植設した基板と用毛束保持治具を成形装置に位置決めし、成形装置が基板の背面側に形成する空間に充填材を充填し、基板に用毛束を固定化するブラシの製造方法であり、前記ブラシの基板の背面側にブラシのヘッドの形状保持治具を位置決めした後、用毛束の基部端面を加熱して溶融するとともに、該形状保持治具に備えた冷却機構により該形状保持冶具を冷却するようにしたものである。
【0013】
請求項の発明は、ブラシの基板に用毛束を植設するブラシの製造装置であって、(1)基板の据付部を有する用毛束保持治具を位置決め固定する保持装置であって、該基板を据付けた際に該基板の用毛束挿入孔と該用毛束保持治具の用毛束整形孔とが連なる状態になる保持装置と、(2)スリーブ及び該スリーブ内に収容されている用毛束の押出手段を備え、該用毛束を該押出手段により前記基板の用毛束挿入孔から用毛束保持治具の用毛束整形孔に連通するように該用毛束を植設する用毛束植設装置と、(3)前記基板の背面側に位置決めされるとともに冷却機構を備える、ブラシのヘッドの形状保持冶具を有するとともに、該基板の背面側に用毛束挿入孔から出ている用毛束の基部端面を加熱して溶融し、基板の背面側に用毛束挿入孔を塞ぐ溶融塊を形成させる加熱装置、又は、基板の背面側に植毛孔から出ている用毛束の基部端面を加熱して溶融した後、基板の背面側に植毛孔を塞ぐ溶融プレス面を形成させる加熱手段を有する用毛束端面プレス装置と、(4)用毛束を植設した基板と用毛束保持治具を位置決めする成形装置と、(5)成形装置が基板の背面側に形成する空間に充填材を充填する充填装置と、を有してなるようにしたものである。
【0014】
尚、本明細書の用毛束挿入孔の孔軸の「孔軸」の文言は、それらの孔に用毛束を保持させた(挿入した)際の用毛の長さ方向に沿う方向を意味する。また、「基板の背面」の文言は、歯ブラシ製品になった際の基板において用毛束が突き出る側と反対側の面を言う。
【0015】
また、本明細書における「固着」とは、一つの用毛束において各用毛が互いに溶融した後、接着すること、または、複数の用毛束が互いに融着した後に接着した状態を指す。本発明での溶融、又は溶融プレスにより用毛束を溶融固着した際に、用毛束と基板とは必ずしも接着するとは限らない。用毛の材料と基板の材料、また、加熱手段、溶融プレス手段により接着する場合もあるが、代表的な用毛の材料のナイロンや基板の材料であるポリプロピレンでは、接着しない場合の方が多い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基板に植設される用毛束の植毛強度を確保するとともに、用毛束の毛立ちの整列性を向上し、かつ加熱体によってヘッド形状を損なうことなく、用毛束の植設部にバリを生じさせないことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は第1実施形態の基板とその成形用金型を示す模式図である。
【図2】図2は基板の要部を示す模式図である。
【図3】図3は用毛束保持治具と用毛束植設装置を示す模式図である。
【図4】図4は用毛束端面プレス装置を示す模式図である。
【図5】図5は用毛束の溶融プレス面形成状態を示す模式図である。
【図6】図6は成形装置への基板の位置決め状態を示す模式図である。
【図7】図7は成形装置による樹脂の注入状態を示す模式図である。
【図8】図8は成形装置の型開き状態を示す模式図である。
【図9】図9は歯ブラシを基板保持治具から外した状態を示す模式図である。
【図10】図10はインパルス溶着機を示す模式図である。
【図11】図11は超音波溶着機を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
歯ブラシ製造装置の構成をその動作とともに示せば以下の通りである。
(1)歯ブラシ10の基板11を、図1の基板成形用金型20(上型21と下型22)により成形する。本実施形態において、基板11は、ハンドル12にネック13を介して一体成形されたヘッド14により構成されるものとした。ヘッド14は、図2に示す如く、背面側の外縁に設けた立上り壁15により囲まれる背面充填用凹部16を備え、この背面充填用凹部16の範囲内に定めた植設部16Aの基板面に多数の用毛束挿入孔17を貫通形成し、各用毛束挿入孔17に用毛束18を植設可能とする。
【0019】
ここで、基板11は、ハンドル12(ネック13)に一体成形されたヘッド14により構成され、後述するヘッド14への植設工程後に、ヘッド14の背面充填用凹部16に背面充填材19を2次充填するものである。基板の形態としてはヘッド14のみからなるものであってもよいが、基板とは、用毛束を植設する用毛束挿入孔を有するものである。基板の材質は、通常はプラスチックであるが、セラミック、木、パルプ積層体、金属等のプラスチック以外の材料も本発明の目的の範囲内で使用することができる。
【0020】
基板11は、ヘッド14の外縁の全周に連続する立上り壁15を設けたから、背面充填用凹部16への背面充填材19の接着性が良く、ヘッド14の曲げ強度も強化できる。
【0021】
また、ヘッド14の外縁の全周に連続する立上り壁15に凹凸形状15A(図2(D))を設けることにより、用毛束挿入孔17から出ている用毛束の基部端面を熱体により加熱して溶融し、基板1の背面側に用毛束挿入孔を塞ぐ溶融塊または帯状の溶融プレス面を形成する際に、熱体がヘッド14の外縁形状をなす面15Bに接触しないため、熱体によるヘッド14の外縁形状をなす面15Bの変形を防止でき、背面充填用凹部16の表面積が広くなり背面充填用凹部16への背面充填材19の接着性が良く、ヘッド14の曲げ強度も強化できる。尚、ヘッド14の外縁に連続する立上り壁15の全周でなく、一部の箇所に凹凸形状15Aを設けるものであっても良い。
【0022】
また、基板11は、ヘッド14の外縁の一部にだけ立上り壁15を備えるもの、又は立上り壁15を全く備えないものであっても良い。
【0023】
基板11を構成する樹脂としては、ポリプロピレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、不飽和ポリエステル等のいずれを採用しても良く、歯ブラシ10の必要強度と耐久性等の特性を確保できれば良い。用毛束18のブリッスルとしては、ポリエチレン、ナイロン(ポリアミド系)等を採用できる。
【0024】
(2)用毛束保持治具30に基板11を据付ける。用毛束保持治具30は、図3に示す如く、基板11の据付部31と、据付部31に据付けられる基板11の用毛束挿入孔17に連なる用毛束整形孔32を備える。図4中の用毛束保持治具30は、線30Lにより上段分割体30Aと下段分割体30Bに分割され、相互にスライド(スライド面30L)させて用毛束を固定できる構造になっている。この構造であれば、用毛束を用毛束挿入孔30に挿入した後、用毛束挿入孔30の孔軸の交差方向にスライドして固定できる。その結果、本発明の溶融又は溶融プレス処理の際に、用毛束の動きが抑えられ、用毛束の端面の整列性が良くなるので好ましい。尚、用毛束保持治具30の上段分割体と下段分割体のスライド機構は3分割以上でも良い。該スライド機構において、相対的移動距離は、0.1mm〜1mm程度で毛束保持の状態により移動量を選択する。
【0025】
用毛束保持治具30は、用毛束整形孔32の孔底面を、用毛束18の先端部に付与すべき形状に設定してある。後述する押出ピン51の先端形状を、用毛束整形孔32の孔底面形状とほぼ同形状(嵌合し合う形状)とすることで、用毛束18の先端部の成形性を向上できる。
【0026】
(3)用毛束18を収容するスリーブ40により用毛束18をピッキングする(図3)。そして、用毛束植設装置50により、スリーブ40に収容されている用毛束18を押出ピン51により押出し、用毛束18を用毛束保持治具30に据付けられている基板11の用毛束挿入孔17から用毛束保持治具30の用毛束整形孔32に植設し、用毛束18の基部を基板11の用毛束挿入孔17に植設し、用毛束18の先端部を用毛束整形孔32の孔底面に押し当て形成する(図3)。
【0027】
(4)用毛束端面溶融プレス装置60により、図4に示す如く、基板11の背面側に用毛束挿入孔17から出ている用毛束18の基部端面をインパルス溶着機100(熱体)により加熱して溶融プレスし、基板11の背面側に用毛束挿入孔17を塞ぐ帯状(シート状)の溶融プレス面18A(図5)を成形する。用毛束18の溶融プレス面18Aは相隣るもの同士が連続して上述の如くに帯状をなすものに限らず、各個別に塊状をなすものでも良い。
【0028】
用毛束端面溶融プレスの工程において、用毛束のねじれや毛立ちの乱れの発生を抑えるには、植設された用毛束を溶融する端面の整列性を良くすることが好ましい。この整列性を良くするには、植設された用毛束を、(a)前記用毛束保持治具30の用毛束整形孔32により用毛束の先端部の形状を充分に整形すること、(b)前記用毛束保持治具30の上段分割体30A及び下段分割体30Bをスライドさせて固定すること等を行なうことが好ましい。
【0029】
尚、インパルス溶着機100(図10)で溶融プレスした後、超音波溶着機200(図11)を用いて超音波振動で更に溶融プレスすることにより、最初から超音波振動を加えることによる用毛束18のねじれを発生させることなく、かつ超音波振動を加えることによって、基板11と用毛束18をその用毛束18の長い長さ範囲に渡って摩擦熱により溶融固着できるし、基板11と用毛束18を振動させながらプレスして両者を機械的にからみつかせる如くに強固に接着し、用毛束18の耐引抜き強度を強化できる。
【0030】
尚、溶融プレスする際、ヘッド14の立上り壁15の周囲、及び、ネック部13を形状保持治具33で位置決め保持した後、用毛束18の基部端面を加熱して溶融プレスする。これにより、ヘッド14の立上り壁15の周囲及びネック部13が加熱によって変形することを防止できる。形状保持治具33は加熱により変形を受け易い部位を保護することを目的としているので、必ずしも立上り壁15の周囲及びネック部13の全体を覆う必要はなく、基板11の材質や基板11を構成する各部の厚みに応じてその構造や材質を選択すれば良い。立上り壁15の肉厚が薄く変形し易い場合には、立上り壁15の背面充填用凹部16側内面を覆う構造の形状保持治具33を用いることもできる。また、用毛束18と基板11の溶融・溶融プレスするために必要な熱量が大きく、熱体の熱量又は温度が高い場合、ヘッド14の形状保持治具33に水冷や空冷等の冷却機構を備えることによって、ヘッド14の形状保持治具33の過剰な温度上昇を防ぎ、ヘッド14の立上り壁15の周辺及びネック部13が加熱によって変形することを防止できる。また、形状保持治具33を断熱性の高い材料で構成することでも同様の効果を得ることができる。
【0031】
インパルス溶着機100は、図10に示す如く、電気抵抗発熱体に給電されて瞬間的に発熱するプレスチップ101を備えるとともに、このプレスチップ101を急冷する冷却装置102を備え、プレスチップ101を駆動装置103で用毛束18の基部端面を介して基板11の背面に加圧する。インパルス溶着機100は、用毛束18の基部端面の溶融プレス過程で、図10に示す如く、一次加熱時間(用毛束18の基部端面を溶かすために必要な熱をプレスチップ101で発生させ、用毛束18の基部端面に伝達し溶融させる時間)、中間時間(一次加熱による過剰な温度上昇を防止し、一次加熱で発生した熱を用毛束18の基部端面に伝達し溶融させる時間)、二次加熱時間(基板11と用毛束18の基部端面を溶融し溶融プレスするために必要な熱をここで補充し、用毛束18の基部端面に伝達し溶融させる時間)、溶融プレス時間(二次加熱による過剰な温度上昇を防止し、二次加熱で発生した熱を基板11と用毛束18の基部端面に伝達し、基板11と用毛束18を溶融し、溶融プレスする時間)、冷却時間(エアーによりプレスチップ101を冷却し、基板11と用毛束18の溶融プレス面18Aを冷却固着する時間)、離脱加熱時間(用毛束18(溶融プレス面18A)とプレスチップ101の分離を容易にするため再度加熱する時間)、遅延時間(この時間中に、用毛束18(溶融プレス面18A)とプレスチップ101を分離する)、再冷却時間(離脱加熱により熱くなったプレスチップ101を冷却する時間)を経過する。但し、用毛束18と基板11の溶融・溶融プレスするために必要な熱量およびプレスチップ101への樹脂付着状況等に応じて、工程の簡略化したり工程を追加しても良い。インパルス溶着機100は、プレスチップ101が用毛束18の基部端面に接する面に凸部101A(又は凹部)を備えることにより、基板11と用毛束18の相互溶融部をその凸部101A(又は凹部)によって押し込み、両者を機械的にからみつかせる如くの接着状態を形成することができる。
【0032】
用毛束端面プレス装置60は、所望により、インパルス溶着機100に超音波溶着機200を併用し、用毛束18の下部端面をインパルス溶着機100により加熱して溶融し、該インパルス溶着機100で溶融プレスした後、該用毛束18の基部端面を超音波溶着機200が発生する超音波振動で溶融プレスして前記溶融プレス面18Aを成形することもできる。
【0033】
超音波溶着機200は、図11に示す如く、超音波振動子201に結合されたプレスチップ202(ホーン)を超音波振動させながら、該プレスチップ202を駆動装置203で用毛束18の基部端面を介して基板11の背面に加圧する。超音波溶着機200は、駆動装置203によるプレスチップ202の原点位置からの下降過程で、プレスチップ202が用毛束18に接触したタイミングから下降端までの間でプレスチップ202を振動させ、プレスチップ202を下降端で一定時間保持して用毛束18の基部端面に形成した溶融プレス面18Aを冷却ホールドする(図11)。尚、プレスチップ202は用毛束18に接触する前の原点位置にあるタイミングから振動開始しても良い。
【0034】
超音波溶着機200は、プレスチップ202が用毛束18の基部端面に接する面に凸部202Aを備えることにより、基板11と用毛束18の相互溶融部をその凸部202Aによって押し込み、両者を機械的にからみつかせる如くの接着状態を形成することができる。
【0035】
(5)用毛束18を挿入した基板11と用毛束保持治具30を成形装置70の金型71に位置決めする(図6)。
【0036】
(6)充填装置80により、成形装置70の金型71の注入口72(ゲート)から吐出される背面充填材19を、金型71が基板11の背面充填用凹部16における背面側の、用毛束18の基部(溶融プレス面18A)周囲に形成する空間(背面充填用凹部16の空間)に注入して接着し、基板11に用毛束18を固定化する(図7)。充填材19の固化後、金型71を開いて歯ブラシ10及び用毛束保持治具30を取出し(図8)、歯ブラシ10を用毛束保持治具30から外す(図9)。
【0037】
充填装置80は射出成形機81を採用できる。図7の射出成形機81は、射出シリンダ及び射出プランジャを縦型配置したものであるが、横型配置でも良い。成形装置70の注入口72のゲート方式は、コールドランナー方式でも、ホットランナー方式でも良い。
【0038】
充填材19として用いられる材料は、基板11と同一材料でも異材料でも良く、ホットメルト接着剤、エラストマーでも良い。
【0039】
充填材19は、基板11や用毛束18との接着力を強化するため、基板11や用毛束18の構成材料と熱接着や化学的接着による接着性のある材料を配合すること、基板11を温めたり金型71を高温にして熱接着性を高めること、充填材19自体の注入時の溶融温度を高めることが好ましい。また、充填材19の注入圧力は高くする方が、基板11や用毛束18との接着力を強化し、かつ外観性(ヒケ)を向上する。基板11も、用毛束18や充填材19との接着力を強化するため、用毛束18や充填材19の構成材料を一部配合したり、用毛束18や充填材19の構成材料と熱接着や化学的接着による接着性のある材料を配合したり、プライマー処理をすることもできる。
【0040】
本実施形態によれば、以下の作用がある。
(a)基板11の背面側に形成する空間(背面充填用凹部16)に充填材19を注入し、基板11に用毛束18を固定化して植設するに先立ち、基板11の背面側に用毛束挿入孔17から出ている用毛束18の基部端面を溶融プレスし、基板11の背面側に用毛束挿入孔17を塞ぐ用毛束18の溶融プレス面18Aを形成した。
【0041】
(b)上述(a)により、用毛束18が基板11の用毛束挿入孔17から外れることを溶融プレス面18Aが阻止するものとなり、十分な植毛強度を確保できる。
【0042】
(c)上述(a)により、基板11の背面側の空間(背面充填用凹部16)に注入される充填材19は、用毛束18の基部の溶融プレス面18A上をスムースに流れてその空間(凹部16)に充填され、用毛束18を斜めに傾かせるような衝突力を用毛束18の基部に付与することがなく、基板11に対する用毛束18の毛立ちの整列性を良好にする。また、基板11の背面側の空間(凹部16)に臨む用毛束挿入孔17は用毛束18の上述の溶融プレス面18Aにより塞がれているから、その空間(凹部16)に装填された充填材19がその用毛束挿入孔17に漏出することがなく、用毛束18の植設部にバリを生じない。
【0043】
(d)インパルス溶着機100で溶融プレスすることにより、用毛束18に機械的な振動を与えることがなく、静かにプレスできるから、用毛束18の溶融プレス面18Aを形成する際における用毛束18のねじれによる毛立ちの乱れを防止できる。
【0044】
また、基板11の背面側に用毛束挿入孔17から出ている用毛束18の基部端面を一段目の加熱手段として熱風、レーザー等の熱体で溶融した後、二段目の加熱手段として、インパルス溶着機100で溶融プレスすると、加熱手段が一段だけの場合と比べ、用毛束及び用毛の植毛強度(引抜き強度)が向上し好ましい。二段の加熱手段を用いた場合に、植毛強度が向上する理由は、一段目の加熱手段である熱風、レーザー等の非接触式熱体では、基板11の背面側に用毛束挿入孔17から突出している用毛束18の基部全体を加熱するため、用毛の長さ方向の溶融領域が広くなり、そこに二段目のインパルス溶着機による溶融プレスされるので、溶融プレス面が広い範囲に渡って形成されるためと推定される。
【0045】
(e)基板11の背面側の外縁に設けた立上り壁15に、図2(D)に示す如く、凹凸形状15Aを設けることにより、熱体がヘッド14の外縁形状をなす面15Bに接触せず、熱体の熱によるヘッド14の形状変形を防止できる。
【0046】
(f)ヘッド14の背面側に、図4のヘッドの形状保持治具33を位置決めした後、熱体(特に熱風、レーザー等の被接触式熱体)で基板11の背面側に用毛束挿入孔17から出ている用毛束18の基部端面を加熱溶融することにより、熱によって背面側の外縁の形状を変形することなく良好な外観が得られる。
【0047】
また、ヘッド14の形状保持治具33に水冷や空冷等の冷却機構を備えると、用毛束18と基板11の溶融又は溶融プレスするために必要な熱量が大きく熱体の熱量または温度が高い場合は特に、ヘッド14の形状保持治具33の過剰な温度上昇を防止できる。そのため、ヘッド14の立上り壁15の周辺及びネック部13の加熱による変形を防止できるので好ましい。
【0048】
(g)インパルス溶着機100で溶融プレスした後、加熱部(溶融樹脂)をエア等で冷却して固着することにより、インパルス溶着機100を加熱部から離すときに溶融樹脂の糸を引かず、樹脂付着を防止できる。
【0049】
(h)インパルス溶着機100で溶融プレスした後、超音波溶着機200を用いて超音波振動で更に溶融プレスすると、最初から超音波振動を加えることによる用毛束18のねじれを発生させることなく、かつ超音波振動を加えることによって、基板11と用毛束18をその用毛束18の長い長さ範囲に渡って摩擦熱により溶融固着できるし、基板11と用毛束18を振動させながらプレスして両者を機械的にからみつかせる如くに強固に接着し、用毛束18の耐引抜き強度を強化できる。
【0050】
(i)インパルス溶着機100と超音波溶着機200のプレスチップ101、202に凸部101A、202Aを備えたことにより、基板11と用毛束18の相互溶融部をその凸部101A、202Aによって押し込み、両者を機械的にからみつかせる如くの接着状態を形成し、用毛束18の耐引き抜き強度を強化できる。基板11と用毛束18が相互接着性を示さない異種材料からなる場合にも、それらを擬似的に接着できる。
【0051】
尚、本発明の用毛束端面プレス装置60において、熱体はインパルス溶着機に限定されない。また、本発明の充填装置80は、ホットメルト接着剤等のためのアプリケータ(エアポンプ式、ギヤポンプ式又はスクリューポンプ式等)であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、基板に植設される用毛束の植毛強度を確保するとともに、用毛束の毛立ちの整列性を向上し、かつ加熱体によってヘッド形状を損なうことなく、用毛束の植設部にバリを生じさせないことができる。
【符号の説明】
【0053】
10 歯ブラシ(ブラシ)
11 基板
12 ハンドル
13 ネック
14 ヘッド
15 立上り壁
16 背面充填用凹部
16A 植設部
17 用毛束挿入孔
18 用毛束
18A 溶融プレス面(基部)
19 充填材
20 基板成形用金型
30 用毛束保持治具
30A 上段分割体
30B 下段分割体
30L スライド面
31 据付部
32 用毛束整形孔
33 ヘッドの形状保持治具
40 スリーブ
50 用毛束植設装置
51 押出ピン
60 用毛束端面プレス装置
70 成形装置
71 金型
72 注入口(ゲート)
80 充填装置
100 インパルス溶着機(熱体)
101、202 プレスチップ
101A 凸部
102 冷却装置
103、203 駆動装置
200 超音波溶着機
201 超音波振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシの基板に用毛束を固定化するブラシの製造方法であって、用毛束を用毛束保持治具に据付けられている基板の用毛束挿入孔から用毛束保持治具の用毛束整形孔に植設し、用毛束を基板の用毛束挿入孔に植設し、基板の背面側に用毛束挿入孔から出ている用毛束の基部端面を加熱して溶融し、基板の背面側に用毛束挿入孔を塞ぐ溶融塊又は溶融プレス面を形成し、用毛束を植設した基板と用毛束保持治具を成形装置に位置決めし、成形装置が基板の背面側に形成する空間に充填材を充填し、基板に用毛束を固定化するブラシの製造方法であり、
前記ブラシの基板の背面側にブラシのヘッドの形状保持治具を位置決めした後、用毛束の基部端面を加熱して溶融するとともに、該形状保持治具に備えた冷却機構により該形状保持冶具を冷却するブラシの製造方法
【請求項2】
前記基板の背面側の外縁に連続する立上り壁に凹凸形状を設けた請求項に記載のブラシの製造方法。
【請求項3】
ブラシの基板に用毛束を植設するブラシの製造装置であって、
(1)基板の据付部を有する用毛束保持治具を位置決め固定する保持装置であって、該基板を据付けた際に該基板の用毛束挿入孔と該用毛束保持治具の用毛束整形孔とが連なる状態になる保持装置と、
(2)スリーブ及び該スリーブ内に収容されている用毛束の押出手段を備え、該用毛束を該押出手段により前記基板の用毛束挿入孔から用毛束保持治具の用毛束整形孔に連通するように該用毛束を植設する用毛束植設装置と、
(3)前記基板の背面側に位置決めされるとともに冷却機構を備える、ブラシのヘッドの形状保持冶具を有するとともに、該基板の背面側に用毛束挿入孔から出ている用毛束の基部端面を加熱して溶融し、基板の背面側に用毛束挿入孔を塞ぐ溶融塊を形成させる加熱装置、又は、基板の背面側に植毛孔から出ている用毛束の基部端面を加熱して溶融した後、基板の背面側に植毛孔を塞ぐ溶融プレス面を形成させる加熱手段を有する用毛束端面プレス装置と、
(4)用毛束を植設した基板と用毛束保持治具を位置決めする成形装置と、
(5)成形装置が基板の背面側に形成する空間に充填材を充填する充填装置と、を有してなるブラシの製造装置。
【請求項4】
前記用毛束端面プレス装置が用毛束の基部端面をプレスするプレスチップを備え、該プレスチップが用毛束の基部端面に接する面に凸部を備える請求項に記載のブラシの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−131087(P2011−131087A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82296(P2011−82296)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【分割の表示】特願2001−255296(P2001−255296)の分割
【原出願日】平成13年8月24日(2001.8.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】