説明

ブラシレスモータ

【課題】1枚のパラレル配向性磁石に多極着磁を行った場合に生じる空間高調波磁束によるトルク脈動を低減する。
【解決手段】1枚の磁石に複数の極を形成したパラレル配向性磁石32を有するブラシレスモータ100であって、極数をP、スロット数をSとして、P=a×p、S=a×s(pとsとは互いに素、aは2以上の整数)とした場合、1枚のパラレル配向性磁石32に形成される極の数Pmとpとが互いに素の関係を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレル配向性磁石を用いたブラシレスモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ネオジム磁石は、特許文献1に示すように、永久磁石同期モータ(PMモータ)において、主としてロータの界磁用として使用されており、その製造方法は高性能化、低価格化を目的として磁場中で成形され、パラレル配向特性を有する(図1)。そして、このようにパラレル配向性磁石を用いる場合には、磁石を1極当たり1枚で構成するのが一般的である。
【0003】
例えば、洗濯機用のモータにおいて、ネオジム磁石はモータの磁石材料として使用されるが、モータの材料費を低減するため多極化されている。
【0004】
この場合、極数と同等数以上の磁石を必要とするため(図2)、生産工程において、必要数のネオジム磁石をロータヨークに1つ1つ取り付ける作業が必要となり、生産工数が著しく増大し、生産コストがアップして価格面で課題がある。
【0005】
磁石の取り付け作業の生産工数を抑制する手法として、一枚の磁石に複数の極を形成し、トータルの磁石数量を減らす方法も考えられている(図3)。磁石1個当り多極着磁する場合(例えばリング磁石)は、ラジアル異方性や等方性で磁石を構成している。
【0006】
このように磁石1枚に複数の極を着磁させる場合(例えばリング磁石)には、ラジアル異方性又は等方性とすることが一般的である。この理由は、パラレル配向性を有する磁石において、単純にその手段を採用した場合、個々の磁極から発生する磁束は対称形状にはならず、磁石1枚当たりに着磁される磁極数に相当する空間高調波磁束が発生するためである。したがって、出力されるトルクは、空間高調波磁束に影響されてリップル成分を持ち、騒音が大きくなり、製品の品質を落とすことになるためである(図4)。また、発生する誘起電圧にもひずみが生じてしまい制御からも騒音に悪影響を与えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−230240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、1枚のパラレル配向性磁石に多極着磁を行った場合に生じる空間高調波磁束によるトルク脈動を低減することを主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係るブラシレスモータは、1枚の磁石に複数の極を形成したパラレル配向性磁石を有するブラシレスモータであって、極数をP、スロット数をSとして、P=a×p、S=a×s(pとsとは互いに素、aは2以上の整数)とした場合、1枚のパラレル配向性磁石に形成される極の数Pmとpとが互いに素の関係を有することを特徴とする。
【0010】
1枚の磁石に複数の極を形成したパラレル配向性磁石を有するブラシレスモータにおいて、極数をP、スロット数をSとして、P=a×p、S=a×s(pとsは互いに素、aは2以上の整数)とした場合、Pm個の極を1枚のパラレル配向性磁石で構成した場合、各相の磁束は次の(1)〜(3)で表される。
【0011】
ここで、Φm、は1相、1極当りの磁束の基本波の波高値である。Φpは磁石の分割による高調波磁束の波高値であり、c=LCM(Pm,p)/Pmである。なお、LCMは最小公倍数を示す。
【0012】
【数1】

【0013】
トルクリップルは、磁束の高調波と電流の基本波によるものを考慮し、電流の高調波の影響は無視して計算すると以下となる。
【0014】
【数2】

【0015】
1+2n/Pmの周波数のトルクリップルは、0、(1+2n/Pm)2π/3、(1+2n/Pm)4π/3、の位相成分を4nCπ/PmずつずらしてC回加えた合計となる。これが0となる条件は、C=Pmであり、c=LCM(Pm,p)/Pmより、LCM(Pm,p)=Pm×pとなることが条件、すなわちPmとpが互いに素であることが条件となる。(1−2n/Pmの周波数成分も同様である。)
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、磁石の枚数、極数及びスロット数の組み合わせにより空間高調波成分をキャンセルすることができ、トルク脈動を低減することができ、低騒音化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ネオジム磁石の製造工程を示す図。
【図2】パラレル配向性磁石を用いて形成した48極のロータを示す図。
【図3】ラジアル異方性磁石を用いて形成した48極のロータを示す図。
【図4】パラレル配向性磁石に多極着磁した場合の空間高調波磁束の影響を示す図。
【図5】本実施形態に係るモータの構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係るブラシレスモータ100は、例えば3相駆動される洗濯機用のブラシレスDCモータであり、回転子3が固定子2の周りを回転するアウターローター型のものである。
【0020】
具体的このものは、図1に示すように、複数の磁極21および当該磁極21間に形成された複数のスロット22を有する固定子2と、固定子2の外側周面に対向して配置されており、複数のパラレル配向性磁石32が表面に張り付けられた回転子3と、固定子2の各磁極21に巻線される3相コイル4とを備えている。
【0021】
固定子2は、概略円筒形状又は概略円柱形状をなす磁性体であり、その外側周面において軸方向に沿って周方向に略等間隔に設けられた複数の磁極21を有する。この磁極21は、固定子2の外側周面において径方向外側に突出した突極であり、パラレル配向性磁石32と対向する先端部が拡幅しており断面概略T字形状をなすものである。
【0022】
回転子3は、固定子2の磁極21先端部に対して所定の間隙を形成する内側周面を有する概略円筒形状をなすものである。この回転子3は固定子2に対して同軸上に配置されて、固定子2の周囲を回転する。この回転子3は、概略円筒形状をなす磁性体からなる回転子本体31と、当該回転子本体31の内側周面において軸方向に沿って周方向に略等間隔に設けられた複数のパラレル配向性磁石32を有する。各パラレル配向性磁石32には複数の極が着磁されている。
【0023】
コイル4は、固定子2の各磁極21に集中巻されている。
【0024】
しかして本実施形態のセグメントモータ100は、極数をP、スロット数をSとして、P=a×p、S=a×s(pとsとは互いに素、aは2以上の整数)とした場合、1枚のパラレル配向性磁石32に形成される極の数Pmとpとが互いに素の関係を有するように構成されている。なお、図5の極数及びスロット数は以下の説明とは無関係である。
【0025】
以下、本発明のセグメントモータとなる組み合わせ(p=2、s=3、Pm=5(c=5)、c=aの場合(P=10、S=15))と、本発明のセグメントモータとならない組み合わせ(p=2、s=3、Pm=4(c=2)、a=10の場合(P=10、S=15))について具体的に計算を行う。
【0026】
後述する計算結果の通り(式1、式2)、本発明のセグメントモータでは騒音の悪化要因の1つであるトルクリップルが0となり騒音が抑制されることが分かる。
【0027】
本発明によると、安価なパラレル配向性磁石32を製造し、なおかつパラレル配向性磁石32に複数の磁極を形成することで、磁石のトータル枚数が減り、組み立て工程を大幅に削減することができる。さらにパラレル配向性磁石32の枚数、極数及びスロット数の最適化によって空間高調波成分をキャンセルし、騒音問題を解消することができる。
【0028】
<式1:本発明のモータとなる組み合わせ>
p=2、s=3、Pm=5(c=5)、c=aの場合 (P=10、S=15)
【0029】
【数3】

【0030】
(a)n=3l−1の場合
A=3(2l+1)/5、B=(7−6l)/5の時に、
【0031】
【数4】

となり、トルクリップルがゼロとなる。
【0032】
(b)n=3lの場合
A=(5−6l)/5、B=(5+6l)/5の時に、
【0033】
【数5】

となり、トルクリップルがゼロとなる。
【0034】
(c)n=3l+1の場合
A=(6l+7)/5、B=3(1−2l)/5の時に、
【0035】
【数6】

となり、トルクリップルがゼロとなる。
【0036】
<式2:本発明のモータとならない組み合わせ>
p=2、s=3、Pm=4(c=2)、a=10の場合 (P=10、S=15)
【0037】
【数7】

【0038】
(a)n=3l−1の場合
A=(3l+1)/2、B=(−3l+3)/2の時に、
【0039】
【数8】

となり、トルクリップルがゼロとはならない。
【0040】
(b)n=3lの場合
A=(3l+2)/2、B=(−3l+2)/2の時に、
【0041】
【数9】

となり、トルクリップルがゼロとはならない。
【0042】
(c)n=3l+1の場合
A=(3l+3)/2、B=(−3l+1)/2の時に、
【0043】
【数10】

となり、トルクリップルがゼロとはならない。
【0044】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係るモータ100によれば、パラレル配向性磁石32の枚数、極数P及びスロット数Sの最適化によって空間高調波成分をキャンセルすることができ、トルク脈動を低減することができ、低騒音化することができる。また、磁石を安価なパラレル配向性磁石32を製造し、なおかつ磁石に複数の磁極を形成することでパラレル配向性磁石32のトータル枚数を削減することができ、組み立て工程を大幅に削減することができる。
【0045】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0046】
100・・・ブラシレスモータ
22 ・・・スロット
32 ・・・パラレル配向性磁石
P ・・・極数
S ・・・スロット数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の磁石に複数の極を形成したパラレル配向性磁石を有するブラシレスモータであって、極数をP、スロット数をSとして、P=a×p、S=a×s(pとsとは互いに素、aは2以上の整数)とした場合、1枚のパラレル配向性磁石に形成される極の数Pmとpとが互いに素の関係を有することを特徴とするブラシレスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−130109(P2012−130109A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277526(P2010−277526)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】