説明

ブラシ用毛材、及びブラシ用毛材の製造方法

【課題】生産性を向上させることのできるブラシ用毛材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】第1のモノフィラメント21を含む芯糸2と、芯糸2の外周面に巻かれた状態で芯糸2に接着された第2のモノフィラメント31を含むカバーリング糸3と、を備え、第2のモノフィラメント31は、中央部311と、中央部311の融点よりも高い融点を有する外周部312と、の少なくとも2層を有し、外周部312と芯糸2とが熱融着することで芯糸2と接着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ用毛材、及びブラシ用毛材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の研磨や洗浄するための道具として工業用ブラシが使用されている。この工業用ブラシは、複数本のブラシ用毛材から構成されており、各ブラシ用毛材は、特許文献1に示すように、芯糸と、芯糸の周囲に巻かれたカバーリング糸と、から構成されており、芯糸とカバーリング糸とは接着剤によって接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−306882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなブラシ用毛材は、その製造方法として、まず、芯糸の周囲にカバーリング糸を巻き、その状態で接着剤が収容された接着剤槽を通すことで接着剤を含浸させる。そして、その後に乾燥炉にて接着剤を乾燥させて、最後に熱処理炉にて芯糸の巻き癖を取ってまっすぐの状態とするという工程を採用していた。このようなブラシ用毛材の製造方法に対しても、その他の製品の製造方法と同様に、より生産性を向上させたいという要望が存在している。
【0005】
そこで、本発明は、生産性を向上させることのできるブラシ用毛材及びブラシ用毛材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るブラシ用毛材は、第1のモノフィラメントを含む芯糸と、前記芯糸の外周面に巻かれた状態で前記芯糸に接着された第2のモノフィラメントを含むカバーリング糸と、を備え、前記第2のモノフィラメントは、中央部と、前記中央部の融点よりも高い融点を有する外周部と、の少なくとも2層を有し、前記外周部と前記芯糸とが熱融着することで前記芯糸と接着している。
【0007】
上述したブラシ用毛材によれば、カバーリング糸を構成する第2のモノフィラメントが、中央部と外周部との2層構造となっており、外周部の方が中央部よりも低い融点を有するような構成となっている。このため、カバーリング糸を芯糸に接着させるためには、芯糸の外周にカバーリング糸を巻いた状態で、第2のモノフィラメントの中央部の融点よりも低い温度であり外周部の融点よりも高い温度でカバーリング糸を加熱すればよい。これにより、カバーリング糸を構成する第2のモノフィラメントの外周部のみが溶融するため、この溶融した外周部が芯糸と溶着することでカバーリング糸は芯糸に接着される。このように本発明に係るブラシ用毛材によれば、接着剤を別途含浸させる必要がなくカバーリング糸を芯糸に接着させることができるため、接着剤を含浸させる工程を省略することができ、その結果として生産性を向上させることができる。
【0008】
また、本発明に係るブラシ用毛材は以下のような利点も有している。従来のブラシ用毛材によって構成される工業用ブラシなどで研磨や洗浄を行うと、繊維状物が発生するという問題があった。鋼板等を研磨・洗浄する場所では、通常、研磨や洗浄の際に使用される液体などを排出するための配管があるが、繊維状物が発生すると、この繊維状物が配管やこの配管に取り付けられたフィルターなどが詰まってしまうという問題が生じる。これに対して、本発明のブラシ用毛材から構成される工業用ブラシを使用すると、溶着によって芯糸とカバーリング糸が、またカバーリング糸同士が接着されるため、接着剤によってこれらを接着させるよりも上述したような繊維状物の発生が抑制される。このため、配管やフィルターが詰まるといったような問題を抑制することができる。
【0009】
上述したブラシ用毛材は、種々の構成をとることができ、例えば、芯糸は、第1のモノフィラメントを複数本含んでいる構成とすることができる。この場合は、複数本の第1のモノフィラメントが互いに撚られているような構成とすることもできる。
【0010】
また、上記カバーリング糸は、複数本の第2のモノフィラメントを含むフィラメントヤーンとすることができる。
【0011】
また、上記第2のモノフィラメントは、中央部及び外周部が熱可塑性樹脂で形成されている構成とすることができる。
【0012】
また、本発明に係るブラシ用毛材の製造方法は、少なくとも1本の第1のモノフィラメントを有する芯糸を準備する工程と、中央部及び外周部の少なくとも2層を有する第2のモノフィラメントを有するカバーリング糸であって、前記外周部の融点は前記中央部の融点よりも低い前記カバーリング糸を準備する工程と、前記芯糸の回りに前記カバーリング糸を巻く工程と、前記カバーリング糸が巻かれた状態の芯糸を、前記中央部の融点よりも低く、前記外周部の融点よりも高い温度で加熱する工程と、を含む。
【0013】
このブラシ用毛材の製造方法によれば、カバーリング糸を芯糸に接着させる工程において、接着剤を含浸させる工程を省略している。すなわち、カバーリング糸を構成する第2のモノフィラメントの外周部のみが溶融するような温度でカバーリング糸を加熱することで、第2のモノフィラメントの外周部を溶融させ、この溶融した外周部によってカバーリング糸と芯糸とを溶着させることでカバーリング糸を芯糸に接着させる。以上のように、カバーリング糸を芯糸に接着させる工程において接着剤を含浸させる工程を省略しているため、生産性を向上させることができる。また、この製造方法によって製造されたブラシ用毛材は、上述したのと同じように繊維状物の発生が抑制され、配管やフィルターに詰まるといった問題を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るブラシ用毛材及びその製造方法によれば、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本実施形態に係るブラシ用毛材の斜視図である。
【図2】図2は、他の実施形態に係るブラシ用毛材の斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る第2のモノフィラメントを示す平面図である。
【図4】図4は、本実施形態に係るブラシ用毛材の製造工程の概略を示す工程図である。
【図5】図5は、試験した結果、発生した実施例1の研磨屑(写真左)及び比較例1(写真右)の研磨屑の量の違いを示す写真である。
【図6】図6は、実施例1を試験した際に発生した研磨屑を示す拡大写真である。
【図7】図7は、比較例1を試験した際に発生した研磨屑を示す拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るブラシ用毛材の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1に示すように、ブラシ用毛材1は、芯糸2と、この芯糸2の外周に巻かれたカバーリング糸3と、から構成されている。
【0018】
芯糸2は、1本の第1のモノフィラメント21のみによって、又は複数本の第1のモノフィラメント21によって構成することができ、本実施形態では、3本の第1のモノフィラメント21から構成している。特に限定されるものではないが、1本の第1のモノフィラメント21から構成する場合は、その直径を0.1〜5.0mmとすることが好ましく、複数本、例えば本実施形態のように3本の第1のモノフィラメント21によって芯糸2を構成する場合は、各第1のモノフィラメントの直径を0.1〜2.0mmとすることが好ましい。
【0019】
第1のモノフィラメント21の材質としては、例えばナイロン、エステルなどを挙げることができる。ナイロンの具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン12などを挙げることができ、エステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などを挙げることができる。また、芯糸2は、また、その他にも、砥材を含んだ構成とすることもできる。
【0020】
カバーリング糸3は、芯糸2の外周に巻かれて芯糸2に接着されている。このカバーリング糸3は、1本の第2のモノフィラメント31から構成することができるが,通常は、約7〜500本の第2のモノフィラメント31からなるマルチフィラメントヤーンから構成されている。そして、カバーリング糸3は、第2のモノフィラメント31単独の状態若しくはマルチフィラメントヤーンの状態で芯糸2の外周に巻かれているが、このカバーリング糸3の芯糸2への巻き方は特に限定されるものではなく、例えばスパイラル状に右巻き又は左巻きに巻くこともできるし、図2に示すような組紐状に編み込まれた状態で巻くこともできる。また、その他にも、例えば、まずカバーリング糸3をスパイラル状に右巻きに巻き、その上からさらにスパイラル状に左巻きに巻くなどのように、カバーリング糸3を2重以上で巻くことも可能であり、この場合の巻き方の組み合わせは、右巻き、左巻き、組紐状などを種々の組み合わせとすることができる。さらには、芯糸2を複数本の第1のモノフィラメント21から構成する場合は、各第1のモノフィラメント21に第2のモノフィラメント31若しくはマルチフィラメントヤーンを巻いておき、この第2のモノフィラメント31若しくはマルチフィラメントヤーンが巻かれた各第1のモノフィラメント21を複数本束ねた状態にして、さらにそれを第2のモノフィラメント31若しくはマルチフィラメントヤーンによって巻くような構成とすることもできる。
【0021】
カバーリング糸3を構成する各第2のモノフィラメント31は、図3に示すように、中央部311と外周部312とを有する2重構造となっている。第2のモノフィラメント31の材質は、中央部311と外周部312とで異なっており、中央部311の方が外周部312よりも高い融点を有するように材質が使用される。例えば、中央部311の融点は、約200〜300℃くらいとすることが好ましく、外周部312の融点は、その中央部311の融点よりも約20〜100℃程度低くすることが好ましい。中央部311の材質としては、熱可塑性の樹脂とすることが好ましく、例えば、ナイロンやポリエステル、ポリプロピレンなどを挙げることができ、外周部312の材質としても同様に熱可塑性樹脂とすることが好ましく、例えば、ナイロンやポリエステル、ポリプロピレンなどを挙げることができる。なお、ナイロンの具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン12などを挙げることができ、エステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などを挙げることができる。そして、中央部311と外周部312との組み合わせ例としては、例えば、中央部311をナイロンで形成した場合は、外周部312はナイロンで形成することが好ましく、その他にも、中央部311をポリエステルで形成した場合は、外周部312をポリエステルで形成することが好ましい。その他にも、ナイロンとポリエステルなど種々の組み合わせをとることができる。
【0022】
次に、上述したようなブラシ用毛材1の製造方法について図4を参照しつつ説明する。
【0023】
まず、芯糸供給部10から芯糸2をテンションを掛けた状態で供給する。そして、カバーリング糸供給部11からカバーリング糸3を供給し、芯糸2の周囲にカバーリング糸3をスパイラル状又は組紐状に巻く。なお、もう一つカバーリング糸供給部11を設け、芯糸2の周囲に巻かれたカバーリング糸3の上からさらにカバーリング糸2を巻くこともできる。
【0024】
カバーリング糸3が巻かれた芯糸2は、次に、熱処理炉12に送られ、この熱処理炉12内においてカバーリング糸3が芯糸2に接着する。より詳細には、熱処理炉12では、カバーリング糸3を構成する第2のモノフィラメント31の外周部312のみを溶融させ、この溶融した外周部312を利用して第2のモノフィラメント31を芯糸2に熱融着させる。このため、熱処理炉12においては、芯糸2に巻かれたカバーリング糸3を、中央部311は溶融させずに外周部312のみを溶融させる温度、すなわち、中央部311の融点よりも低く、外周部312の融点よりも高い温度で加熱する。なお、この熱処理炉12による加熱方法は、種々の方法を採用することができるが、例えばこの熱処理炉12を熱風を吹き込むことで温度制御された炉とすることができ、この熱風によりカバーリング糸3を加熱することができる。なお、この加熱方法は特に限定されるものではなく、例えば、ヒータによって加熱することもできる。
【0025】
以上のように熱処理炉12によってカバーリング糸3が芯糸2に接着されてできたブラシ用毛材1は、最後に巻取工程で巻き取られる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態のブラシ用毛材1によれば、接着剤を含浸させる必要なく、カバーリング糸3を熱融着によって芯糸2に接着させることができる。このように接着剤の含浸工程を省略することができるため、生産性を向上させることができる。また、このようにカバーリング糸3と芯糸2との接着、及びカバーリング糸3同士の接着を、接着剤の使用ではなく、熱融着によって行うため、このブラシ用毛材1を使用した工業用ブラシで研磨や洗浄を行う際に発生する研磨屑を抑制することができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、段階的にカバーリング糸3を加熱するために熱処理炉12の前工程として熱処理炉12よりも低い温度でカバーリング糸3を加熱する予熱炉をさらに設けることもできる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
芯糸2として、材質がナイロン6であり、直径1.0mmで砥材が混入された第1のフィラメント21を3本使用した。また、カバーリング糸3としては、直径0.03mmの第2のフィラメント31を約200本用いたユニチカファイバー株式会社の「メルセット」(登録商標)を使用した。そして、3本の第1のフィラメント21からなる芯糸2に対して、カバーリング糸3を4mmピッチでS巻方向に巻いた後Z巻方向にも4mmピッチの条件で巻いた。
【0030】
そして、熱処理炉12において、芯糸2の外周に巻かれたカバーリング糸3を180℃、6分の条件で、加熱し、カバーリング糸3を芯糸2に接着させてブラシ用毛材を作製した。
【0031】
以上のように作製したブラシ用毛材1を、ディスクに植設し、このディスクを12枚重ねてブラシロールを作製した。なお、各ディスクは外周縁に等間隔で57個の穴が形成されており、1穴に10本のブラシ用毛材1が植設されている。また、ブラシロールの外径は、φ420mmとなっている。
【0032】
(比較例1)
芯糸は、上記実施例1と同様のものを3本使用した。
【0033】
カバーリング糸としては、材質がナイロン6、直径が0.02mmである約200本のモノフィラメントからなるフィラメントヤーンを使用した。そして、このカバーリング糸を、芯糸2の外周に、4mmピッチでS巻方向に巻いた後、Z巻方向にも4mmピッチで巻いた。
【0034】
続いて、このカバーリング糸が巻かれた芯糸を、変性ポリアミド樹脂が収容された接着剤槽を通すことで接着剤を塗布し、その後、乾燥炉にて100℃×3分の条件で接着剤を乾燥し、熱処理炉で100℃×6分の条件でカバーリング糸が巻かれた芯糸を加熱してブラシ用毛材を作製した。
【0035】
以上のように作製したブラシ用毛材から、上記実施例1と同様の方法でブラシロールを作製した。
【0036】
以上のように作製した実施例1と比較例1のブラシロールを用いて、耐久試験機において24時間の試験を行い、耐久試験機の排水溝に設置したフィルターに集まった研磨屑の量を測定した。耐久試験としては、ブラシ回転数1200rpm、圧下量3mmの条件で鋼材(SS400)を研磨した。なお、実施例1と比較例1のブラシ用毛材のブラッシング性能値は、表1に示す通りである。耐久試験機での結果、実施例1のブラシ用毛材1から出た研磨屑の量と比較例1のブラシ用毛材1から出た研磨屑の量とを比較して撮った写真を図5に示す。なお、写真右側が実施例1のブラシ用毛材1から出た研磨屑を示しており、その研磨屑の質量は2.241gであった。これに対して、写真左側の比較例1のブラシ用毛材から出た研磨屑は質量が30.068gであった。以上より、実施例1のようなブラシ用毛材を使用した方が研磨の際に発生する研磨屑が抑制されることが分かった。また、図6は実施例1による研磨屑を拡大して撮った写真であり、図7は比較例1による研磨屑を拡大して撮った写真である。
【0037】
【表1】

【符号の説明】
【0038】
1 ブラシ用毛材
2 芯糸
21 第1のモノフィラメント
3 カバーリング糸
31 第2のモノフィラメント
311 中央部
312 外周部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のモノフィラメントを含む芯糸と、
前記芯糸の外周面に巻かれた状態で前記芯糸に接着された第2のモノフィラメントを含むカバーリング糸と、を備え、
前記第2のモノフィラメントは、中央部と、前記中央部の融点よりも高い融点を有する外周部と、の少なくとも2層を有し、前記外周部と前記芯糸とが熱融着することで前記芯糸と接着している、ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記芯糸は、第1のモノフィラメントを複数本含んでいる、請求項1に記載のブラシ用毛材。
【請求項3】
前記カバーリング糸は、複数本の第2のモノフィラメントを含むフィラメントヤーンである、請求項1又は2に記載のブラシ用毛材。
【請求項4】
前記第2のモノフィラメントは、前記中央部が高融点の熱可塑性樹脂で形成されており、外周部が低融点の熱可塑性樹脂で形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載のブラシ用毛材。
【請求項5】
少なくとも1本の第1のモノフィラメントを有する芯糸を準備する工程と、
中央部及び外周部の少なくとも2層を有する第2のモノフィラメントを有するカバーリング糸であって、前記外周部の融点は前記中央部の融点よりも低い前記カバーリング糸を準備する工程と、
前記芯糸の回りに前記カバーリング糸を巻く工程と、
前記カバーリング糸が巻かれた状態の芯糸を、前記中央部の融点よりも低く、前記外周部の融点よりも高い温度で加熱する工程と、
を含む、ブラシ用毛材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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