説明

ブラックメタリック効果顔料

【課題】被覆、インク、及びプラスチック等の用途に好適に用いることのできるブラックメタリック顔料の提供。
【解決手段】顔料の外面に対して直角に顔料を見た場合に、顔料がメタリック色に見え、かつ顔料の外面に対して浅い角度で顔料を見た場合に、顔料が黒色に見えるようなブラックメタリック効果を有する顔料。顔料10は、高反射性の不透明または半透明金属基材12と、その基材の外面に被覆された高屈折率黒色材料の層14とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示は、概して、顔料(被覆、インク、及びプラスチック等の用途に用いることを目的したとしたものであるが、これらに限定されない)に関し、特に、顔料の外面に対して直角に顔料を見た場合に、顔料がメタリック色に見え、かつ顔料の外面に対して直角以外の角度で顔料を見た場合に、顔料がその厚みに応じて黒色に見えるようなブラックメタリック効果を有する顔料の設計に関する。
【背景技術】
【0002】
黒色顔料が知られている。例えば、黒色顔料は、マイカ基材上に黒色の酸化鉄を用いて形成されてきた。そのような顔料は黒色を呈するものの、メタリック色の外観についてはそれを有さないか、(仮にあっても)弱く、十分な平滑性も欠如している。他の種類の黒色顔料も報告されているが、例えば、炭素による光の散乱のために、メタリックブラック色が実現されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
Ge28Sb12Se60等のカルコゲニドガラス材料が知られており、市販されている。そのようなカルコゲニドガラス材料は、赤外波長に透過性を有することで知られており、例えば、光ファイバー、バイオミメティクスやフォトニクスの用途に用いられている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
カルコゲニド材料は、効果顔料をガラス基材上に作製する上で用いられる可能性を秘めた高屈折性材料としても報告されている。しかしながら、カルコゲニドガラス材料の既存の用途を発展、改良することで、効果的なブラックメタリック顔料を提供することができるであろう。
【0005】
本願では、概して、ブラックメタリック効果を有する顔料の設計を説明する。いくつかの実施形態で、前記顔料は、反射性の金属基材の外面に被覆された高屈折率黒色材料の層を有する。前記高屈折率黒色材料の層は、高い可視吸収性をもたらして暗い外観(例えば、黒色効果)を与える一方で、ある角度では高い反射性(例えば、メタリック効果)を与える。例えば、本願の顔料は、顔料の外面に対して直角に顔料を見た場合に、顔料がメタリック色に見え、かつ顔料の外面に対して直角以外の角度で顔料を見た場合に、顔料が黒色に見えるような効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、開示する被覆顔料の一実施形態の概略側断面図である。
【図2】図2は、開示する顔料の一実施形態の概略側面図である。
【図3】図3は、本願のブラックメタリック顔料の角度に応じたL*値のグラフである。
【図4】図4は、本願のブラックメタリック顔料の角度に応じた彩度値のグラフである。
【図5】図5は、本願のブラックメタリック顔料の角度に応じた色相値のグラフである。
【図6】図6は、他の既存の黒色顔料と比較した場合の本願のブラックメタリック顔料のa*対b*値を示す。
【図7】図7は、アルミニウム基材の粗さを原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて測定してアルミニウム基材の実効粗さを求めた顕微鏡法による結果を示す。
【図8】図8は、(ガラス基材上の)GeSbSe/アルミニウム二層フィルムの GeSbSe層の粗さを原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて測定して、 GeSbSe の実効粗さを求めた顕微鏡法による結果を示す。
【図9】図9は、所定の大きさにした後の薄片の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本願の顔料は、自動車並びに様々なインクやプラスチック等の被覆用途に用いることができるが、これらに限定されない。
【0008】
1つの実施形態では、顔料は、外面を有する反射性の不透明または半不透明の金属基材を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記高屈折率黒色材料は、ガラス材料の層、例えば、高い屈折率を有し、前記基材の外面の周りに被覆された黒色カルコゲニドガラス層である。外層は、例えば、ガラスセラミック等の非カルコゲニド黒色ガラスであってもよい。
【0010】
別の実施形態では、前記外層は、例えば、CuInGaSe、ストロンチウム、ケイ素、ゲルマニウム、及び黒色を呈する元素の炭化物、及び炭窒化物、例えばホウ素、バナジウム、モリブデン、ニオブ、チタン、ケイ素、及びそのような元素の合金の炭化物及び炭窒化物といったガラス以外の高屈折性黒色材料であってもよいが、これらに限定されない。
【0011】
概して、前記反射性の不透明または半不透明の金属基材と前記高屈折率黒色材料とによって、顔料の外面に対して直角に顔料を見た場合に、顔料がメタリック色に見え、かつ顔料の外面に対して直角以外の角度で顔料を見た場合に、顔料が黒色に見えるようなブラックメタリック顔料が形成される。
【0012】
1つの実施形態では、前記反射性の不透明または半不透明の金属基材は、アルミニウム、銀、錫、金、またはどのような反射性の面であってもよいが、これらに限定されない。別の例では、前記反射性の不透明または半不透明の金属基材は、Al、Ag、S、AuやTi等の反射性金属面であってもよい。
【0013】
1つの実施形態では、前記カルコゲニドガラス層の屈折率は、少なくとも1.5である。
【0014】
1つの実施形態では、前記高屈折率黒色材料の層がカルコゲニドガラスの層である場合、それは一般式YZで表わされ、ここで、Yは、例えば、Ge、Sb、Si、As、またはこれらの混合物のいずれかであってもよく、前記の元素パーセントは約15〜70%の範囲であってもよく、Zは、例えば、S、Se、Te、またはこれらの混合物のいずれかであってもよく、前記の元素パーセントは約30〜85%であり得る。いくつかの例として、GeまたはSiのいずれかがYとして含まれ、それにより広い範囲のGe系またはSi系カルコゲニドガラスがもたらされる。カルコゲニドガラスを用いる場合、S、Se、Te(またはこれらの混合物)のいずれかが存在して、カルコゲニドガラスを構成することになる。別の実施形態では、金属元素または非金属元素をさらに加えることができる。
【0015】
より一般的に、前記高屈折率黒色材料がガラス層である場合、それは、例えば、式Axyzで表わすことができ、ここで、例えばA=上記Yであり、例えばB=上記Yまたは1つ以上の他の金属元素もしくは非金属元素であり、例えばC=上記Zであり、x、y、及びzは、前記ガラス層がカルコゲニドガラスであるか、ガラスセラミックであるかによって選択される。更なる金属元素及び非金属元素を前記ガラス層に加えることもできることが理解されだろう。
【0016】
1つの実施形態では、物理蒸着法により前記高屈折率黒色材料が前記反射性の不透明または半不透明の金属基材に被覆される。
【0017】
別の実施形態では、顔料は前記高屈折率黒色材料のみ(例えば、前記反射性の不透明金属基材を含まずにカルコゲニドガラス層のみ)を含む。そのような場合、前記高屈折率黒色材料の厚みは、いくつかの実施形態では少なくとも1ミクロンである。別の実施形態では、前記厚みは1.5ミクロンであり、代替的には前記厚みは2ミクロン以上である。
【0018】
図1は、開示する被覆顔料の一実施形態の概略側断面図である。
図2は、開示する顔料の一実施形態の概略側面図である。
図3は、本願のブラックメタリック顔料の角度に応じたL*値のグラフである。
図4は、本願のブラックメタリック顔料の角度に応じた彩度値のグラフである。
図5は、本願のブラックメタリック顔料の角度に応じた色相値のグラフである。
図6は、他の既存の黒色顔料と比較した場合の本願のブラックメタリック顔料のa*対b*値を示す。
図7は、アルミニウム基材の粗さを原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて測定してアルミニウム基材の実効粗さを求めた顕微鏡法による結果を示す。
図8は、(ガラス基材上の)GeSbSe/アルミニウム二層フィルムの GeSbSe層の粗さを原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて測定して、 GeSbSe の実効粗さを求めた顕微鏡法による結果を示す。
図9は、所定の大きさにした後の薄片の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0019】
概して、本願ではブラックメタリック効果を有する被覆顔料または顔料の設計を説明する。1つの例では、高屈折率黒色材料の層が金属反射性または半不透明の基材の外面に被覆されて、被覆顔料が形成される。高屈折率黒色材料の層は、高い可視吸収性をもたらして暗い外観を与える一方で、ある角度では高い反射性を与え(例えば、メタリック効果)、不透明または半不透明の反射性金属基材に裏打ちされると高い反射性が一層高まる。
【0020】
代替的に、顔料の設計は、高屈折率黒色材料によって顔料が形成されるものであってもよい。そのような設計によっても、反射性金属基材の外面に被覆された高屈折率黒色材料の層を有する被覆顔料の効果と同じ効果をもたらすことができる。
【0021】
本願で説明する被覆顔料及び顔料は、被覆顔料または顔料の外面に対して直角に被覆顔料または顔料を見た場合に、被覆顔料または顔料がメタリック色に見え、かつ被覆顔料または顔料の外面に対して直角以外の角度で被覆顔料または顔料を見た場合に、被覆顔料または顔料が黒色に見えるような効果をもたらす。
【0022】
本願で説明する被覆顔料及び顔料は、自動車並びに様々なインクやプラスチック等の被覆用途に用いることができるが、これらに限定されない。即ち、本願の概念を適宜他の用途にも適用可能であることが理解されるだろう。
【0023】
1つの実施形態において、図1に、反射性の不透明または半不透明の金属基材12を含む被覆顔料10を示す。高屈折率黒色材料の層14が、反射性の不透明または半不透明の金属材12の外面の周りに被覆されている。いくつかの実施形態では、高屈折率黒色材料の層14は、黒色カルコゲニドガラス等の黒色ガラス層である。層14がカルコゲニドガラスではなく、非カルコゲニド黒色ガラス(例えばセラミックガラス)であり得ることが理解されるだろう。図1に示すように、反射性の不透明または半不透明の金属基材12は、カルコゲニドガラスの外層の間に挟まれている。いくつかの実施形態では、上記の被覆顔料10は追加の保護層(図示せず)を有してもよい。追加の保護層は、被覆顔料10を損傷から守るのに適した材料であればどのようなものから構成されてもよい。1つの例では、追加の保護層は、ショット(Schott)製SF11ガラスを含む。1つの実施形態では、追加の保護層は、基材12及び層14の構造の最外層全体に外層として配される。
【0024】
1つの実施形態では、反射性の不透明または半不透明の金属基材12は赤外線反射性であり、高屈折率黒色材料の層14は赤外線透過性である。
【0025】
高屈折率黒色材料の層14は屈折率を有し、反射性の不透明または半不透明の金属基材12と高屈折率黒色材料の層14とによって、被覆顔料10の外面に対して直角に顔料10を見た場合に、被覆顔料10がメタリック色に見え、かつ被覆顔料10の外面に対して直角以外の角度で被覆顔料10を見た場合に、被覆顔料10が黒色に見えるようなブラックメタリック顔料が形成される。即ち、被覆顔料10の全体配置は、直角に見た場合にメタリック色の外観(高い反射性)を与え、ある角度で見た場合には黒色の外観を与えることができる。
【0026】
反射性の不透明または半不透明の金属基材12をさらに参照して、反射性の不透明または半不透明の金属基材12は、いくつかの例ではアルミニウム、銀、銅、金、錫、タンタル、チタン、ルテニウム、ロジウム、プラチナ、パラジウム、これらの合金、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの金属である。1つの例では、反射性の基材12は、アルミニウム等の不透明材料である。
【0027】
いくつかの実施形態では、反射性の不透明または半不透明の基材12は薄片であり、薄片12に配置された高屈折率黒色材料の層14を薄膜として有する。例えば、基材12は、基材12の外面に薄膜として配置された高屈折率黒色材料の層14を有する板状の材料であってもよい。1つの例では、板状の材料は、約30nm〜約1000nm、代替的には約50nm〜約700nm、代替的には約80nm〜約200nmの厚みを有する。
【0028】
いくつかの実施形態では、高屈折率黒色材料の層14は、約400nm〜約2000nm、代替的には約500nm〜約1000nm、代替的には約600nm〜約800nmの厚みを有する。例示的な実施形態では、被覆顔料10は約400nm〜約3000nm、代替的には約600nm〜約2000nm、代替的には約700nm〜約1000nmの範囲の全体厚みを有する。
【0029】
上記の厚みは、原子間力顕微鏡法(AFM)により観察することができる。
【0030】
1つの実施形態では、カルコゲニドガラスが高屈折率黒色材料の層14として用いられる。カルコゲニドガラスの層を用いる場合、カルコゲニドガラスは、1つの実施形態では一般式YZで表される。1つの例では、Yは、Ge、Sb、Si、As、ならびにGe、Sb、Si及び/またはAsの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである。別の例では、Yは、Ge、Sb、Si、As、ならびにGe、Sb、Si及び/またはAsの混合物からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記の原子/元素パーセントは約15〜70%の範囲である。さらに別の例では、Zは、S、Se、Te、ならびにS、Se及び/またはTeの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである。別の例では、Zは、S、Se、Te、ならびにS、Se及び/またはTeの混合物からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記の原子/元素パーセントは約30〜85%の範囲である。いくつかの例として、GeまたはSiのいずれかがYとして含まれ、それにより広い範囲のGe系またはSi系カルコゲニドガラスがもたらされる。カルコゲニドガラスが用いられる場合、S、Se、Te、またはこれらの混合物が存在して、カルコゲニドガラスを構成することになる。別の実施形態では、金属元素または非金属元素をさらに加えることができる。
【0031】
より一般的に、高屈折率黒色材料の層14は、例えば、カルコゲニドガラスまたはセラミックガラス等の黒色ガラス材料であってもよい。いくつかの実施形態では、高屈折率黒色材料は、例えば、式Axyzで表わすことができる。1つの例では、A=Yである。1つの事例では、Yは、Ge、Sb、Si、As、ならびにGe、Sb、Si、及び/またはAsの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである。別の事例では、Yは、Ge、Sb、Si、As、ならびにGe、Sb、Si及び/またはAsの混合物からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記の原子/元素パーセントは約15〜70%の範囲である。別の例では、B=Yまたは1つ以上の他の金属元素または非金属元素である。さらに別の例では、C=Zである。1つの事例では、Zは、S、Se、Te、ならびにS、Se及び/またはTeの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである。別の事例では、Zは、S、Se、Te、ならびにS、Se、及び/またはTeの混合物からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記の原子/元素パーセントは約30〜85%の範囲である。いくつかの例として、GeまたはSiのいずれかがYとして含まれ、それにより広い範囲のGe系またはSi系カルコゲニドガラスがもたらされる。さらに別の例では、x、y、及びzの値は、利用されるガラスの種類、即ち、ガラスがカルコゲニドガラスであるか、ガラスセラミックであるかによって決定することができる。いくつかの実施形態では、Cを部分的にSn及び/またはBiで置換して、例えば式Sn−Sb−Bi−Seのようにすることができる。ガラス層を表わす式Axyzにも、更なる金属元素及び非金属元素を加えることができることが理解されるだろう。
【0032】
1つの実施形態では、高屈折率黒色材料の層14は、式Ge28Sb12Se60で表わされるカルコゲニドガラスを含む。別の例では、高屈折率黒色材料の層14は、GeSbSe、GeSe、GeSeTe、GeSeSn、及び/またはGeSeSnTeを含んでもよい。
【0033】
別の例として、高屈折率黒色材料の層14は、いくつかの実施形態ではガラス層ではない。例えば、高屈折率黒色材料の層14は、例えば、CuInGaSe、ストロンチウム、ケイ素、ゲルマニウム、及び黒色を呈する元素の炭化物及び/または炭窒化物、例えば、ホウ素、バナジウム、モリブデン、ニオブ、チタン、ケイ素、及びそのような元素の合金の炭化物及び炭窒化物といった黒色材料から構成されてもよい。
【0034】
高屈折率黒色材料の層14は、開示した被覆顔料10を被覆するのに適した厚みを有することができる。本願において、高屈折率黒色材料の層14の厚みとは、例えば、保護層等の他の層を含まない層14の全厚を意味する。1つの例では、層14の厚みは約1000nm〜約2000nmである。別の例では、層14は約1000nmである。さらに別の例では、層14の厚みは約1500nmである。さらに別の例では、層14の厚みは約2000nmである。いくつかの実施形態では、高屈折率黒色材料の層14及び保護層等の他の層の厚みを含めた被覆顔料10の全体厚みは約3000nmである。
【0035】
1つの実施形態では、カルコゲニドガラスを高屈折率黒色材料の層14として用いる場合に、カルコゲニドガラスはケイ素を含んでいてもよく、上記の他のカルコゲニド材料のいずれかと組み合わせて用いてもよい。例えば、高屈折率黒色材料の層14は、SiSbSe及びSiSeからなる群より選択される少なくとも1つを含むカルコゲニドガラスであってもよいが、これらに限定されない。別の例では、任意の金属元素または非金属元素が添加された、Sn−Sb−Bi−Seのようなカルコゲニドガラス層である。
【0036】
いくつかの実施形態では、高屈折率黒色材料の層14に用いられる材料に関係なく、屈折率は少なくとも1.5より大きく、約2.6、また場合によっては少なくとも約2.6であり得る。概して、高屈折率黒色材料の層14は、約1.5以上、またある場合では約2.0以上、また他の場合では約2.5以上の範囲の屈折率を有し得ることが理解されるだろう。
【0037】
別の例では、屈折率は2.5より大きくてもよい。例えば、ケイ素(例えば、屈折率(RI):約3.4)、ゲルマニウム(例えば、RI:約4.5)やケイ素炭化物(例えば、RI:約2.7)等の原料は、より高い値の屈折率をもたらすことができる。
【0038】
屈折率は、楕円偏光法により可視偏光を用いて室温で、即ち18〜25℃で測定される。測定された屈折率の値は、これらの温度の間で大きく変化しない。例えば、高屈折率黒色材料の層14は18〜25℃の間で、76×10−6/K(3.4μm);91×10−6/K(10.6μm)の熱変化(dn/dt、ここでnは屈折率であり、Tは温度)を有し得る。一例としての室温は21.5℃である。
【0039】
高屈折率黒色材料の層14は所定の吸色効果を有するため、浅い角度で見た場合に顔料が黒色に見えるようになる。即ち、高屈折率黒色材料の層14は、被覆顔料10を90度未満の角度で見た場合に、例えば被覆顔料10を真っ直ぐ以外で見た場合に、被覆顔料10が黒色に見えるようにする。即ち、被覆顔料10は、浅い角度で見た場合に光沢のある黒色に見え、ほぼ直角に見た場合にメタリック色に見えるという効果をもたらすことができる。90度から若干外れた角度で被覆顔料10を見た場合、例えば被覆顔料10をほぼ真っ直ぐ見た場合はその黒色の外観を失い出すことになることが理解されるだろう。概して、視線が90度から離れるほど、メタリック色の外観よりも黒色がより顕著になり、また同様に視線が90度に近づくと、メタリック色の外観がより顕著になり、黒色はその顕著さを失うことになる。また、黒色材料の屈折率が高いほど、高い屈折度が得られ、反射性の不透明または半不透明の金属基材に被覆された場合に、メタリック効果も得られることが理解されるだろう。
【0040】
被覆顔料10の調製方法の1つの実施形態では、例えばカルコゲニドガラス層を用いる場合、公知の物理蒸着法(PVD)により高屈折率黒色材料を反射性の不透明または半不透明の金属基材12に被覆することができる。例えば、本願の被覆顔料10は、熱蒸着法、Eビーム法やスパッタ蒸着法等の方法により作製することができるが、これらに限定されない。PVDを用いることで、厚みが均一の滑らかな顔料構造を提供することができ、その構造は鏡面のような効果をさらにもたらすことができる。本願の被覆顔料10を、例えばPVDを用いて作製して、表面の質感が非常に滑らかで、粗さの程度が約数十ナノメートルであるが15nm以下という小さい粗さを有することも可能な被覆顔料を製造することができる。1つの例では、粗さは、例えば少なくとも0.2μmの凹凸を示す場合の粗さと比べると極めて小さい。そのような粗さは原子間力顕微鏡法(AFM)により観察することができる。
【0041】
別の実施形態では、被覆顔料10は被覆組成物に用いられ得る。被覆組成物は、被覆顔料10と担体とを含む。「担体」成分としては、ベース液またはベース溶剤、フィルム形成成分、及び関連の添加剤が挙げられる。担体としては、アクリル乳剤、水希釈性のアルキル樹脂系、水希釈性のアルキル/メラミン架橋系、水性エポキシ系、ポリエステル乳剤、及び水希釈性のポリエステル/メラミン被覆があげられるが、これらに限定されない。
【0042】
さらに別の実施形態では、被覆顔料10は、物品における被覆に用いられ得る。物品は、被覆顔料10を含む被覆を含む。
【0043】
別の実施形態において、図2に高屈折率黒色材料を含む顔料20を示す。いくつかの実施形態では、高屈折率黒色材料は黒色ガラスである。1つの例では、黒色ガラスは黒色カルコゲニドガラスである。別の例では、黒色ガラスは非カルコゲニド黒色ガラス(例えばセラミックガラス)であってもよい。
【0044】
1つの具体例では、カルコゲニドガラスが高屈折率黒色材料として用いられる。この具体例では、カルコゲニドガラスは一般式YZで表わされる。1つの例では、Yは、Ge、Sb、Si、As、ならびにGe、Sb、Si及び/またはAsの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである。別の例では、Yは、Ge、Sb、Si、As、ならびにGe、Sb、Si及び/またはAsの混合物からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記の原子/元素パーセントは約15〜70%の範囲である。さらに別の例では、Zは、S、Se、Te、ならびにS、Se及び/またはTeの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである。別の例では、Zは、S、Se、Te、ならびにS、Se及び/またはTeの混合物からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記の原子/元素パーセントは約30〜85%の範囲である。いくつかの例として、GeまたはSiのいずれかがYとして含まれ、それにより広い範囲のGeまたはSi系カルコゲニドガラスがもたらされる。カルコゲニドガラスが用いられる場合、S、Se、Te(またはこれらの混合物)のいずれかが存在してカルコゲニドガラスを構成することになる。別の実施形態では、金属元素または非金属元素をさらに加えることができる。
【0045】
より一般的に、高屈折率黒色材料は、例えば、カルコゲニドガラスまたはセラミックガラス等の黒色ガラス材料であってもよい。いくつかの実施形態では、高屈折率黒色材料は、例えば、式Axyzで表わすことができる。1つの例では、A=Yである。1つの具体例では、Yは、Ge、Sb、Si、As、ならびにGe、Sb、Si及び/またはAsの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである。別の具体例では、Yは、Ge、Sb、Si、As、ならびにGe、Sb、Si及び/またはAsの混合物からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記の原子/元素パーセントは約15〜70%の範囲である。別の例では、B=Yまたは1つ以上の他の金属元素または非金属元素である。さらに別の例では、C=Zである。1つの具体例では、Zは、S、Se、Te、ならびにS、Se及び/またはTeの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである。別の具体例では、Zは、S、Se、Te、ならびにS、Se、及び/またはTeの混合物からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記の原子/元素パーセントは約30〜85%の範囲である。いくつかの例として、GeまたはSiのいずれかがYとして含まれ、それにより広い範囲のGeまたはSi系カルコゲニドガラスがもたらされる。さらに別の例では、x、y及びzの値は利用されるガラスの種類、即ち、ガラスがカルコゲニドガラスであるか、ガラスセラミックであるかによって決定することができる。いくつかの実施形態では、Cを部分的にSn及び/またはBiで置換して、例えば式Sn−Sb−Bi−Seのようにすることができる。式Axyzに更なる金属元素及び非金属元素を加えることができることが理解されるだろう。
【0046】
1つの実施形態では、高屈折率黒色材料は、式Ge28Sb12Se60で表わされるカルコゲニドガラスである。別の例では、高屈折率黒色材料は、GeSbSe、GeSe、GeSeTe、GeSeSn、及び/またはGeSeSnTeであってもよいが、これらに限定されない。
【0047】
別の例として、高屈折率黒色材料は、いくつかの実施形態ではガラス層ではない。例えば、高屈折率黒色材料の層は、例えば、CuInGaSe、ストロンチウム、ケイ素、ゲルマニウム、及び黒色を呈する元素の炭化物及び/または炭窒化物、例えばホウ素、バナジウム、モリブデン、ニオブ、チタン、ケイ素、及びそのような元素の合金の炭化物及び炭窒化物といった黒色材料から構成されてもよい。
【0048】
別の例では、高屈折率黒色材料は、上述した被覆顔料10の高屈折率黒色材料の層14に含まれる材料と同じものから構成される。
【0049】
別の実施形態では、カルコゲニドガラスが高屈折率黒色材料として用いられる場合に、カルコゲニドガラスはケイ素を含んでいてもよく、上記の他のカルコゲニド材料のいずれかと組み合わせて用いてもよい。例えば、高屈折率黒色材料は、SiSbSe及びSiSeからなる群より選択される少なくとも1つを含むカルコゲニドガラスであってもよいが、これらに限定されない。別の例では、任意の金属元素または非金属元素が添加された、Sn−Sb−Bi−Seのようなカルコゲニドガラス層である。
【0050】
顔料20は、前記顔料の外面に対して直角に顔料20を見た場合に、顔料20がメタリック色に見え、かつ前記顔料の外面に対して直角以外の角度で顔料20を見た場合に、顔料20が黒色に見えるような屈折率を有する。即ち、顔料20は直角に見た場合にメタリック色の外観(高い反射性)を与えることができ、ある角度で見た場合には黒色の外観を与えることができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、高屈折率黒色材料に用いられる材料に関係なく、屈折率は少なくとも約1.5より大きい。別の例では、屈折率は約2.6である。さらに別の例では、屈折率は少なくとも約2.6である。概して、高屈折率黒色材料は、約1.5以上、またある場合では約2.0以上、また他の場合では約2.5以上の範囲の屈折率を有し得ることが理解されるだろう。
【0052】
別の例では、屈折率は2.5より大きくてもよい。例えば、ケイ素(例えば、屈折率(RI):約3.4)、ゲルマニウム(例えば、RI:約4.5)やケイ素炭化物(例えば、RI:約2.7)等の原料は、より高い値の屈折率をもたらすことができる。
【0053】
屈折率は、楕円偏光法により可視偏光を用いて室温で、即ち18〜25℃で測定される。測定された屈折率の値は、これらの温度の間で大きく変化しない。例えば、高屈折率黒色材料の層は18〜25℃の間で、76×10−6/K(3.4μm);91×10−6/K(10.6μm)の熱変化(dn/dt、ここでnは屈折率であり、Tは温度)を有し得る。一例としての室温は21.5℃である。
【0054】
1つの例では、顔料20は約1000〜約2000nmの厚みを有する。さらに別の例では、顔料20は約1000nm、代替的には約1500nm、代替的には約2000nmの厚みを有する。さらに別の例では、顔料20は約2000nm以上の厚みを有する。そのような厚みは原子間力顕微鏡法(AFM)により観察することができる。
【0055】
顔料20は追加の保護層(図示せず)を有してもよいことが理解されるだろう。1つの例では、追加の保護層は、顔料20を損傷から守るのに適した材料であればどのようなものから構成されてもよい。1つの例では、追加の保護層は、ショット製SF11ガラスを含む。1つの実施形態では、追加の保護層は、顔料20の最外層として配置される。
【0056】
さらに別の実施形態では、顔料20は被覆組成物に用いられ得る。被覆組成物は、顔料20と担体とを含む。「担体」成分としては、ベース液またはベース溶剤、フィルム形成成分、及び関連の添加剤が挙げられる。担体としては、アクリル乳剤、水希釈性のアルキル樹脂系、水希釈性のアルキル/メラミン架橋系、水性エポキシ系、ポリエステル乳剤、及び水希釈性のポリエステル/メラミン被覆があげられるが、これらに限定されない。
【0057】
1つの実施形態では、顔料20は、物品における被覆に用いられ得る。物品は、顔料20を含む被覆を含む。
【0058】
実施例
[実施例1]
a)開示した被覆顔料の調製
Ge系黒色カルコゲニドガラスシステムを含む市販の塊状カルコゲニドガラスを原料として使用し、アルミニウムを基材に用いてカルコゲニド層を蒸着する。カルコゲニド層を、熱蒸着法により75Aの電流を用いて約5×10-7トールで基材を回転させずに蒸着させる。厚みが85nmのアルミニウム基材のいずれかの側に厚みが1.11μmのGeSbSeを有する被覆顔料を形成する。
【0059】
b)色試験
L、a、bの値を評価するために、公知のCIELAB法を用いて色試験を行った。a)で調製した被覆顔料のCIElab値を、既存の他の黒色顔料(BASF製ブラックオリーブ、EMD製9602SW、及びCIBA製サテンブラック)のものと比較する。図3、図4、及び図5はそれぞれ、上記顔料の角度に応じたL*値、彩度値、及び色相値を、既存の他の黒色顔料の値と共に示す。図6は、他の既存の黒色顔料と比較した上記カルコゲニド系黒色顔料のa*対b*値を示す。
【0060】
c)顕微鏡分析
a)で調製した被覆顔料の層の厚みを原子間力顕微鏡法(AFM)により測定した。粗さをさらに参照して、図7は、アルミニウム基材の粗さもAFM法により測定可能であることを示し、いくつかの例ではアルミニウム基材の二乗平均粗さが4.06nmであることが判明した。高屈折率黒色材料、例えば式GeSbSeで表わされるカルコゲニドガラス層を基材に被覆した場合、加算された粗さは、同様の評価分析法(例えばAFM法により)を用いた場合、約15nmであった。図8は、アルミニウム基材上のGeSbSeを有する二層フィルムのGeSbSe面のAFM画像である。二層フィルムをスライドガラス上に形成した。GeSbSeの粗さを観察したところ約15nmであった。図8に示す生成物は、その全体的な粗さの程度が数または数十ナノメートルであることから、図7に示すものと非常に類似している。任意で保護層を加えても、実質的には表面粗さが数十ナノメートを超えて変化しないことが理解されるだろう。
【0061】
高屈折率黒色材料の層は、高い可視吸収性をもたらして暗い外観(黒色)を与える一方で、ある角度では高い反射性(例えば、メタリック効果)を与え、不透明または半不透明の反射性金属に裏打ちされると高い反射性が一層高まる。例えば、a)で調製された被覆顔料は、被覆顔料の外面に対してほぼ直角に被覆顔料を見た場合に、被覆顔料がメタリック色に見え、かつ被覆顔料の外面に対してほぼ直角以外の角度で被覆顔料を見た場合に、被覆顔料が黒色に見えるという効果をもたらす。
【0062】
[実施例2]
a)開示した顔料の調製
好適な溶剤に溶解可能な有機剥離層がハードコーティングされた厚さ2mmのポリエステルウェブに、GeSbSeのみのフィルムを形成した。熱蒸着法により、GeSbSeをウェブ上に蒸着してそのフィルムを形成した。剥離層をN−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノール(NPP)溶液中で溶解してポリエステルウェブからフィルム材料を取り外した。ヒールッシャー(Hielscher)製の超音波処理器UP200Hの先端を、フィルム材料を含むNPP溶液に入れて、得られたフィルムを所定の大きさにした。遠心処理及び空気乾燥により薄片を溶液から取り出した。
【0063】
b)走査顕微鏡分析
図9は、約10分間の超音波処理後のa)で調製され、所定の大きさにされた薄片のSEM画像である。薄片の大きさは約50ミクロンであった。1つの実行例では、所定の大きさにされた薄片を溶液からろ取することができ、また再度バインダに分散させてそれを引き伸ばしたもの(drawdown)または噴出させたもの(spray out)を作製することができる。
【0064】
開示した被覆顔料、顔料、及び方法をいくつかの特定の実施形態と共に説明したが、開示の範囲内において、開示した被覆顔料、顔料、及び方法の他の目的や改良が行われてもよいことは当業者には明らかである。本開示は、その種々の態様及び開示の形態において、他の利点を達成するために適宜変更される。開示の詳細は、請求項に対する限定と見なされるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面を有する反射性の不透明または半不透明の金属基材と、
前記基材の外面の周りに被覆された黒色材料の層とを含む被覆顔料であって、
前記黒色材料の層は、前記被覆顔料の外面に対して直角に前記被覆顔料を見た場合に、前記被覆顔料がメタリック色に見え、かつ前記被覆顔料の外面に対して直角以外の角度で前記被覆顔料を見た場合に、前記被覆顔料が黒色に見えるような屈折率を有する被覆顔料。
【請求項2】
前記黒色材料の層は、カルコゲニドガラス層である請求項1に記載の被覆顔料。
【請求項3】
前記カルコゲニドガラス層は、GeSbSe、GeSe、GeSeTe、GeSeSn、及びGeSeSnTeからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項2に記載の被覆顔料。
【請求項4】
前記カルコゲニドガラス層は、ケイ素を含む請求項2に記載の被覆顔料。
【請求項5】
前記黒色材料の層の屈折率は、少なくとも約2.6である請求項1に記載の被覆顔料。
【請求項6】
さらに保護層を含む請求項1に記載の被覆顔料。
【請求項7】
前記基材は、アルミニウム、銀、銅、金、錫、タンタル、チタン、ルテニウム、ロジウム、プラチナ、パラジウム、これらの合金、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つである請求項1に記載の被覆顔料。
【請求項8】
顔料であって、
前記顔料の外面に対して直角に前記顔料を見た場合に、前記顔料がメタリック色に見え、かつ前記顔料の外面に対して直角以外の角度で前記顔料を見た場合に、前記顔料が黒色に見えるような屈折率を有する黒色材料を含む顔料。
【請求項9】
前記黒色材料は、カルコゲニドガラス層である請求項8に記載の顔料。
【請求項10】
前記カルコゲニドガラス層は、GeSbSe、GeSe、GeSeTe、GeSeSn、及びGeSeSnTeからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項9に記載の被覆顔料。
【請求項11】
前記カルコゲニドガラス層はGe28Sb12Se60である請求項9に記載の被覆顔料。
【請求項12】
前記黒色材料の屈折率は、少なくとも約2.6である請求項8に記載の被覆顔料。
【請求項13】
物理蒸着法によりカルコゲニドガラス層を前記基材に被覆することを含む、請求項1に記載の被覆顔料の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の被覆顔料、または請求項8に記載の顔料と、
担体とを含む被覆組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の被覆顔料、または請求項8に記載の顔料を含む被覆を含む物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−174065(P2011−174065A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−24817(P2011−24817)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(511034594)シルバーライン マニュファクチュアリング カンパニー,インク. (7)
【Fターム(参考)】