説明

ブレーキ用摩擦材

【課題】ブレーキ用摩擦材の性能を従来品よりも高めるために、高くて安定した摩擦係数を確保しながら、対面攻撃性及び摩擦材自体への攻撃性と錆落とし性能を満足のいくようにバランスさせることを課題としている。
【解決手段】繊維基材、摩擦調整材、有機充填材、無機充填材、及びバインダーの熱硬化性樹脂を主成分とする原料組成物を成形、硬化してなるブレーキ用摩擦材に、粒子径0.2〜0.9μmの微粒アルミナ粒子を凝集させて形成される平均粒径が30〜60μmの凝集アルミナを含ませた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用、産業用のディスクブレーキやドラムブレーキなどに採用するブレーキ用摩擦材、特に、相手材の摺動面を傷つける対面攻撃性を抑えながら相手材の摺動面の浄化性能(特に錆落とし性能)を高めたブレーキ用摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキに採用される非石綿系摩擦材において、粒径の大きなアルミナ粒子やチタニア粒子などの硬質無機粒子を研磨材(アブレシブ)として使用することで、安定した高い摩擦係数を確保する手法が用いられている。しかしながら、粒径の大きな硬質無機粒子(単結晶粒子)は、相手材だけでなく摩擦材自体も過度に攻撃し、制動時のいわゆる鳴き(異音)やジャダを発生させやすいという問題がある。
【0003】
その対応として、単結晶粒子が凝集して固まった凝集アルミナを研磨材として使用する方法が提案されている(特許文献1,2)。
【0004】
また、凝集アルミナをさらに湿式粉砕することで鋭角な部分を減少させて対面攻撃性をより低下させ、同時に、二次粒子径(凝集アルミナの粒径)を一次粒子径(一次結晶アルミナの粒径)に近づけて摩擦材中での分散性を向上させ、摩擦係数を安定させる方法も提
案されている(特許文献3)。
【0005】
特許文献1〜3が開示している凝集アルミナの粒径と、配合量は以下の通りである。
・特許文献1・・・一次粒子径:0.4μm、二次粒子径:5μm程度から200μm程度の粒度範囲を有し、最大分布が63μm。配合量0.5〜20体積%。
・特許文献2・・・平均一次粒子径:1〜10μm、平均二次粒子径:30〜100μm
。配合量0.1〜2%。
・特許文献3・・・平均一次粒子径:1.0〜5.0μm、粉砕凝集アルミナの平均粒子径:1.0〜15.0μm。配合量0.1〜1.0体積%。
【特許文献1】特開平07−247372号公報
【特許文献2】特開平10−205555号公報
【特許文献3】特開2005−263823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
研磨材として凝集アルミナを採用すると対面攻撃性を弱めることができるが、その一方で、相手材を浄化する効果、特に錆落としの効果が低下する不具合がある。
【0007】
特許文献1〜3が開示している摩擦材は、対面攻撃性と相手材の錆びを落とす性能のバランスがとれたものとは言い難い。例えば、特許文献3が開示している摩擦材は、粉砕凝集アルミナの平均粒子径を15μm以下にしているので、満足できる錆落とし効果を期待できない。
【0008】
また、特許文献1の摩擦材は、相手材の錆びを落とす性能(以下では、単に錆落とし性能と言う)と対面攻撃性に関する性能のどちらかが不十分になることが考えられ、信頼性に問題がある。特許文献2の摩擦材も、対面攻撃性が強すぎて錆落とし性能とのバランスがとれていない。
【0009】
この発明は、ブレーキ用摩擦材の性能を従来品よりも高めるために、高くて安定した摩擦係数を確保しながら、対面攻撃性及び摩擦材自体への攻撃性と錆落とし性能を満足のいくようにバランスさせることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、繊維基材、摩擦調整材、有機充填材
、無機充填材、及びバインダーの熱硬化性樹脂を主成分とする原料組成物を成形、硬化してなるブレーキ用摩擦材において、粒子径0.2〜0.9μmの微粒アルミナ粒子を凝集させて形成される平均粒径が30〜60μmの凝集アルミナを含ませた。
その凝集アルミナの含有量は、0.1〜4.0体積%の範囲が好ましい。
【0011】
なお、凝集アルミナを形成する粒子径0.2〜0.9μmの微粒アルミナは、αアルミナを使用する。アルミナは水酸化アルミニウムを焼成して生成される。その生成の過程で焼成温度を高めていくと最終的にαアルミナができる。そのαアルミナは、融点が2050℃、モース硬度(新モース硬度)12の物性を示し、硬度が高いだけでなく、化学的に安定している、融点が高い、機械的強度が大きい等の優れた特性をもつ。
【発明の効果】
【0012】
この発明の摩擦材は、粒径0.2〜0.9μmの微粒アルミナを一次粒子として使用することによって対面攻撃性を抑えつつも高い摩擦係数を確保でき、さらに、凝集アルミナ(二次粒子)の平均粒径を30〜60μmとしたことにより錆落とし性能も確保され、結果として高い摩擦係数を持ちつつ、対面攻撃性及び摩擦材自体への攻撃性と錆落とし性能がバランスよく確保される。また、仮に凝集アルミナが粉砕された場合でも、粉砕されて生じるアルミナは細かい微粒アルミナであるため、粉砕脱落後も摩擦材自体への攻撃性は低い。
【0013】
なお、一次粒子の粒子径が0.2μm未満であるものは摩擦性能が十分に確保されず、さらに、一次粒子の粒子径が0.9μmを超えるものは対面攻撃性が強すぎるものになる
。従って、一次粒子である微粒アルミナ粒子は、その粒子径を0.2〜0.9μmの範囲に制限した。
【0014】
また、凝集アルミナの平均粒径が30μm未満のものは、錆落とし性能が不満足なものになり、その平均粒径が60μmを超えるものは、凝集アルミナの分散性が悪化し、摩擦面の各域における錆落とし性能にばらつきがでる。従って、凝集アルミナの平均粒径は30〜60μmの範囲とした。
【0015】
なお、凝集アルミナの添加量は、0.1〜4.0体積%の範囲が適当である。後述の実施例によって証明されるように、その量が0.1体積%未満であると添加の効果が十分に発揮されず、一方、その量が4.0体積%を超えると対面攻撃性が強すぎるものになる傾向がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の摩擦材の実施形態について説明する。この発明の摩擦材は、繊維基材
として、アラミド繊維などの有機繊維、ロックウールなどの無機繊維、銅繊維などの金属繊維を使用する。有害な石綿は用いない。また、摩擦調整材及び充填材として、カシューダスト、チタン酸カリウム、グラファイト、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、酸化ジルコニウムなどを使用する。
【0017】
さらに、摩擦調整材を兼ねた研磨材として、微粒アルミナ粒子の凝集体、即ち、凝集アルミナを使用する。この凝集アルミナは、粒子径0.2〜0.9μmの微粒アルミナ粒子(α結晶の粒子)が凝集して形成されるものを使用し、その平均粒径は30〜60μmとする。また、この凝集アルミナは、好ましくはその含有量を0.1〜4.0体積%の範囲に制限する。
【0018】
これらの原料を結合させるバインダーは、熱硬化性樹脂を用いる。その熱硬化性樹脂は、耐熱性、難燃性、機械的特性などに優れたものが望ましく、フェノール樹脂はその要求に応えられる。
【0019】
この発明の摩擦材は、必要な原料を所定の比率で配合して得られる原料組成物を、所定の温度と圧力を加えて成形し、さらに、バインダーの樹脂を熱硬化させ、必要に応じて仕上げ研磨などを施して摩擦パッドなどの所望の製品に仕上げる。成形と硬化は、前掲の特許文献2,3が開示しているような方法や摩擦材製造の一般的な方法で行える。製造条件も一般的に採用されている条件でよく、特別な条件は必要でない。
【0020】
−実施例−
性能評価のために、凝集アルミナを含む摩擦材を試作した。その試作摩擦材に添加した微粒アルミナ粒子の粒径(一次粒子径)と凝集アルミナの粒径(二次粒子径)の関係を表1に示す。また、試作摩擦材の原料成分とその原料成分の含有量を表2に示す。また、各試作摩擦材について実施した摩擦性能試験、ロータ攻撃性(対面攻撃性)試験、錆落とし性能試験、凝集アルミナの分散性評価の結果も表2に併せて示す。表2の実施例1〜13はいずれも発明品である。性能評価のために実施した試験の方法と評価の基準を以下にまとめる。
【0021】
・〔摩擦性能試験〕
JASO C406 に準拠したフルサイズダイナモ試験を行った。
判定基準:第2効力 速度Vo=100km/h、減速度=0.6Gにおける摩擦係数μを求め、○:0.37≦μ、×:μ<0.37として結果を表示。
・〔ロータ攻撃性試験〕
JIS D 4411に準拠したロータ攻撃性試験を行った。
判定基準:摩擦材押付け圧0.05kgf/cm、実車100km/h相当の回転数で20時間試験を行った後のロータ摩耗量を測定し、○:ロータ摩耗量≦10μm、×:10μm<ロータ摩耗量として結果を表示。
・〔錆落とし性能試験〕
自社基準の評価方法でフルサイズダイナモメータを使用して錆落とし性能をテスト。
判定基準:摩擦材を50℃、湿度95%の湿箱に入れて試験用に作成した錆付きロータを速度V=60km/h、減速度=0.4Gで200回摺り合わせ、試験前後の錆びの厚みから錆落とし率を算出して○:80%≦錆落とし率、×:錆落とし率<80%として結果を表示。
*錆落とし率(%)=(試験前錆び厚み−試験後錆び厚み)×100/試験前錆び厚み
・〔分散性〕
錆落とし性能試験の評価において分散性が錆落とし性能に与える影響をテストした。
判定基準:摩擦材を50℃、湿度95%の湿箱に入れて試験用に作成した錆付きロータを速度V=60km/h、減速度=0.4Gで200回摺り合わせた後の残存錆部分の面積割合(%)を求め、○:残存部分の面積割合≦20%、×:20%<残存部分の面積割合として結果を表示。
【0022】
−評価−
表2の試験結果からわかるように、比較例1は、摩擦性能に問題がある。これは、使用したアルミナの一次粒子径が小さ過ぎることが原因と考えられる。また、比較例2はロータ攻撃性(対面攻撃性)が悪い。その原因はアルミナの一次粒子径が大き過ぎることにあると考えられる。さらに、比較例3は錆落とし性能が悪く、比較例4は分散性が悪い。比較例3は凝集アルミナの粒径(二次粒子径)が小さ過ぎ、逆に比較例4は二次粒子径が大き過ぎると考えられる。
【0023】
これに対し、実施例1〜7及び9〜12は、すべての評価項目が○の判定になっている。なお、実施例8は摩擦性能が良くない。また、実施例13はロータ攻撃性が良くない。その原因は試験データから考えて凝集アルミナの添加量の過不足にあると思われる。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、摩擦調整材、有機充填材、無機充填材、及びバインダーの熱硬化性樹脂を主成分とする原料組成物を成形、硬化してなるブレーキ用摩擦材において、粒子径0.2〜0.9μmの微粒アルミナ粒子を凝集させて形成される平均粒径が30〜60μmの凝集アルミナを含むことを特徴とするブレーキ用摩擦材。
【請求項2】
前記凝集アルミナの含有量が0.1〜4.0体積%であることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ用摩擦材。

【公開番号】特開2008−163178(P2008−163178A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353922(P2006−353922)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】