説明

ブレーキ装置

【課題】 ポンプの吸入抵抗を抑制しつつ低μ路面での減圧性能を得ることが可能なブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】 本発明では、マスタシリンダと回転式ポンプの吸入側をつなぐ吸入油路にマスタシリンダ圧とポンプ吸入側の圧力に関連して開閉動作を行うゲートイン弁を備え、回転式ポンプは、マスタシリンダ圧が作用しているときは開閉動作をしているゲートイン弁を介してブレーキ液を吸入することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキ装置内に、ホイルシリンダからのブレーキ液を一時的に蓄える内部リザーバを備えた技術として特許文献1に記載の技術が知られている。この公報に記載の内部リザーバは、ボールと、ピンと、ピストンと、ばねから構成され、ブレーキ液の貯留に加え、マスタシリンダからポンプ吸入側に加わる圧力を調圧する機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−238095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に記載のブレーキ装置において、高圧のマスタシリンダ圧に対しても作動を成立させるには、リザーバ内に備えられたばね力を大きく設定するか、あるいはボールの受圧面積を小さめに設定する必要がある。ばね力を大きく設定した場合、ホイルシリンダから減圧可能なブレーキ液圧が高めになり、低μ路面での減圧性能が得られない。一方、ボールの受圧面積を小さめに設定した場合、低μ路面での減圧性能は確保できたとしても、自動ブレーキのようなポンプアップによりマスタシリンダ側からブレーキ液を吸入するときの吸入抵抗が増大し、昇圧性能が低下する。すなわち、二律背反の関係にあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ポンプの吸入抵抗を抑制しつつ低μ路面での減圧性能を得ることが可能なブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、マスタシリンダと回転式ポンプの吸入側をつなぐ吸入油路にマスタシリンダ圧とポンプ吸入側の圧力に関連して開閉動作を行うゲートイン弁を備え、回転式ポンプは、マスタシリンダ圧が作用しているときは開閉動作をしているゲートイン弁を介してブレーキ液を吸入することとした。
【発明の効果】
【0007】
ホイルシリンダから減圧されたブレーキ液を貯留するリザーバとは別に、マスタシリンダ圧とポンプ吸入側の圧力に関連して作動するゲートイン弁を設けることで、ポンプの吸入抵抗を抑制しつつ低μ路面での減圧性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のブレーキ装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。
【図2】実施例1のゲートインバルブ2の構成を示す概略図である。
【図3】特許文献1に記載の内部リザーバの構成を表す概略図である。
【図4】液圧とばね力(荷重)との関係を表す特性図である。
【図5】実施例1のポンプアップ作用を表すタイムチャートである。
【図6】実施例2のブレーキ装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。
【図7】実施例3のブレーキ装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の最良の実施形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
実施例1のブレーキ装置は、モータ,ポンプ,電磁弁及びセンサ等が搭載されると共に、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの間に介在されアルミブロックハウジングからなる油圧ユニット31と、この油圧ユニット31に一体に取り付けられ各要素を制御するコントロールユニットCUとから構成された機電一体型のブレーキ装置である。尚、機電一体の構成に限定するものではなく、油圧ユニット31とコントロールユニットCUとが別体の構成であってもよく、特に限定しない。
【0011】
〔ブレーキ配管の構成〕
図1は本発明のブレーキ装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。図中一点鎖線で囲む部分が油圧ユニット31である。このブレーキシステムにおいては、P系統とS系統との2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造となっている。P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統それぞれに、ポンプPPとポンプPSとが設けられ、このポンプPPとポンプPSは、1つのモータMによって駆動される。尚、一つのモータと一つのポンプから構成してもよいし、プランジャポンプやギヤポンプを搭載してもよく、特に限定しない。
【0012】
ブレーキペダルBPには、ブレーキペダルBPの操作状態を検出するブレーキスイッチBSが設けられている。ブレーキペダルBPは、インプットロッド1を介してマスタシリンダM/Cに接続されている。マスタシリンダM/CとポンプPP,PS(以下、ポンプPと記載する)の吸入側とは、管路11P,11S(以下、管路11と記載する(吸入油路に相当))によって接続されている。この各管路11上には、ゲートインバルブ2P,2S(ゲートイン弁、差圧弁に相当)が設けられている。管路11のうちゲートインバルブ2よりもマスタシリンダ側の管路11をマスタシリンダ側管路111とし、ゲートインバルブ2よりもポンプ吸入側の管路11をポンプ吸入側管路112とする。尚、ゲートインバルブ2P,2Sの詳細については後述する。マスタシリンダM/Cとゲートインバルブ2Pとの間には、マスタシリンダM/Cの圧力を検出する圧力センサPMCが設けられている。
【0013】
各ポンプPの吐出側とマスタシリンダM/Cとは、管路13P,13S(以下、管路13と記載する(吐出油路に相当))によって接続されている。また、各ポンプPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路13から分岐した管路12P,12S(以下、管路12と記載する(第1油路に相当))によって接続されている。この各管路12上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RL(以下、ソレノイドインバルブ4)が設けられている。また、各管路13上であって、各ソレノイドインバルブ4とポンプPとの間にはチェックバルブ7P,7S(以下、チェックバルブ7と記載する)が設けられて、この各チェックバルブ7は、ポンプPからソレノイドインバルブ4(もしくはマスタシリンダM/C)へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0014】
更に、各管路12には、各ソレノイドインバルブ4を迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RL(以下、管路17と記載する)が設けられ、この管路17には、チェックバルブ10FL,10RR,10FR,10RL(以下、チェックバルブ10と記載する)が設けられている。この各チェックバルブ10は、ホイルシリンダW/CからポンプP(もしくはマスタシリンダM/C)へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0015】
管路12と管路13とはポンプPとソレノイドインバルブ4との間において合流する。この各管路13上には、常開型の電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3S(以下、ゲートアウトバルブ3と記載する)が設けられている。ここで、管路13のうち、ゲートアウトバルブ3よりもマスタシリンダ側には管路11が接続されている。また、各管路13には、各ゲートアウトバルブ3を迂回する管路18P,18S(以下、管路18と記載する)が設けられ、この管路18には、チェックバルブ9P,9S(以下、チェックバルブ9と記載する)が設けられている。この各チェックバルブ9は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0016】
ポンプPの吸入側にはリザーバ16P,16S(以下、リザーバ16と記載する)が設けられ、このリザーバ16とポンプPとは管路15P,15S(以下、管路15と記載する(掻き出し油路に相当)によって接続されている。リザーバ16とポンプPとの間にはチェックバルブ8P,8S(以下、チェックバルブ8と記載する)が設けられて、この各チェックバルブ8は、リザーバ16からポンプPへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。ホイルシリンダW/Cと管路15とは管路14P,14S(以下、管路14と記載する(減圧油路に相当))によって接続され、管路14と管路15とはチェックバルブ8とリザーバ16との間において合流する。この各管路14には、それぞれ常閉型の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RLが設けられている。
【0017】
油圧ユニット31には、マスタシリンダM/CとP系統及びS系統それぞれとの間でブレーキ液が供給・還流されるマスタシリンダポートMPTと、油圧ユニット31と各ホイルシリンダとの間でブレーキ液が供給・還流されるホイルシリンダポートWPTを有し、ここに鋼管等により形成されたブレーキ配管が接続される。
【0018】
コントロールユニットCUは、図外の車輪速センサやヨーレイトセンサ及び前後加速度センサもしくは通信線等を介した制動指令等に基づいて、アンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御)、車両挙動制御(以下、VDC制御)、自動制動制御(以下、ACC制御)等が適宜実行される。これら制御に基づく駆動信号に基づいてモータMや各種電磁弁(ゲートアウトバルブ3,ソレノイドインバルブ4,ソレノイドアウトバルブ5)へ適宜駆動指令値が出力される。実施例1ではゲートアウトバルブ3として、開度を調整可能な比例電磁弁とし、他の電磁弁をオンオフ式の電磁弁としたが、全て比例電磁弁でもよいし、全てオンオフ式の電磁弁としてもよく特に限定しない。また、モータMの制御は回転数制御を採用しているが、単にオンオフ制御としてもよい。また、実施例1では、マスタシリンダ圧に係らず、もしくはマスタシリンダ圧に加えて、ポンプPの作動によりホイルシリンダ圧を加圧する作用をポンプアップと記載する。
【0019】
〔ゲートインバルブについて〕
(ゲートインバルブの構成)
次にゲートインバルブ2について説明する。図2はゲートインバルブ2の構成を示す概略図である。図2(a)はボール81が上方に移動した状態を示し、図2(b)はボール81が着座した状態を示す。
【0020】
ハウジング86には、内部にボール81を収装し弁機能を果たすボール収装部860と、内部に円盤状のピストン83を収装しブレーキ液貯留機能を果たすピストン収装部861とを有する。ボール収装部860の上方には貫通孔87が形成され、ここにマスタシリンダ側管路111が接続される。ボール収装部860内周には、円筒状であってボール81が所定範囲で移動できる中空部86a1が形成され、下面に向かうに連れてすり鉢状に形成されたシート面86aが形成されている。図2(b)に示すように、シート面86aはボール81が着座したときに有効受圧面積S2を得るように形成されている。尚、この有効受圧面積S2は円形の面積であり、その円の直径をRとする。
【0021】
シート面86aの略中心部分にはボール81よりも小径で、かつ、上述の直径Rよりも小径の円筒状通路86bが形成されている。これにより中空部80a1とピストン収装部861内部とを連通している。また、ボール収装部860には、円筒状通路86bの途中から径方向に向けて貫通形成された径方向貫通孔88が形成され、ここに管路112が接続される。
【0022】
ピストン収装部861は円筒状のシリンダであり、ブレーキ液が大気圧のときにピストン83と当接すると共に円筒状通路86bが開口した天面86cと、この天面86cと同一径の円筒壁86dと、この円筒壁86dを閉塞すると共に図外の大気解放孔を有する下面86eとを有する。ピストン83の外周にはシール84が取り付けられ、ピストン収装部861内にブレーキ液が流れ込むと、ピストン83を下面側へ移動させ、これによりブレーキ液を貯留する貯留室89を形成する。尚、このとき、ピストン83の下面86e側は大気解放孔により常時大気圧とされている。また、ピストン83と下面86eとの間には、ピストン83を図中上方に付勢するばね85が収装されている。ブレーキ液が大気圧のときは、ばね85によりピストン83は上面86cと当接する位置まで押し上げられる。すなわち、ばね85には所定のセット荷重が付与されている。
【0023】
ピストン83にはピン82が取り付けられている。このピン82は円筒状通路82b内に挿通されており、円筒状通路82bの直径よりも小径な円筒形状とされている。すなわち、円筒状通路82b内周とピン82外周との間に形成された隙間により通路が形成される。ピストン83とピン82とは一体に移動するように溶接等により固定されている。尚、一体部品から削りだし等によって形成してもよく、特に限定しない。
【0024】
(ゲートインバルブの作用)
次に、ゲートインバルブ2の作用について説明する。尚、ゲートインバルブ2の特徴的な動作を説明するため、ブレーキペダルBPが踏み込まれていない状態を初期状態とし、その後、ブレーキペダルBPが踏み込まれマスタシリンダ圧が作用した状態、この状態でポンプアップによりマスタシリンダ側からブレーキ液を吸入する状態の順に説明する。以下、マスタシリンダ圧をPm、ピストン83の有効受圧面積をS1、ボール81がシート面86aに着座したときのボール81に作用する有効受圧面積をS2(<S1)、ばね85のセット荷重をf1とする。尚、このセット荷重f1は、ばねの縮みにより厳密には多少変化する(大きくなる)ものの、非常に僅かの変化であるため、略一定として説明する。
【0025】
(ステップ1:初期状態からマスタシリンダ圧作用開始)
図2(a)は、マスタシリンダ圧が作用していない初期状態のゲートインバルブ2を表す概略図である。この状態でマスタシリンダ圧が発生すると、ボール81がシート面86aに着座しておらず中空部86a1と貯留室89とが円筒状通路86bを介して連通しているため、ピストン83にはマスタシリンダ圧が作用し、ピストン83を下方に押し下げる力F=Pm×S1が発生する。マスタシリンダ圧Pmが低いときは、力Fは、ばね85のセット荷重f1よりも小さいため、中空部86a1とポンプ吸入側管路112と貯留室89とはいずれも連通した状態である。尚、リザーバ16との間にはチェックバルブ8が設けられているため、ブレーキ液がリザーバ16側に流れることはない。
【0026】
(ステップ2:マスタシリンダ圧上昇によるピストン押し下げ)
マスタシリンダ圧Pmが上昇し、力F>f1となると、ピストン83は下方に移動する。これに伴い、ピン82も下方に移動し、ボール81も下方に移動する。この関係は下記のように表される。
f1<Pm×S1
【0027】
(ステップ3:ボールによる遮断)
ボール81がシート面86aに当接すると、図2(b)に示す状態となり、マスタシリンダ側管路111とポンプ吸入側管路112との間を遮断する。このとき、ボール81の前後に作用する圧力は、
ボール81のマスタシリンダ側:Pm
ボール81のポンプ吸入側(着座時):Ps0=f1/S1
である。尚、ボール81のシート面86aへの着座時におけるマスタシリンダ圧をPm0とすると、Pm0×S1>f1であるから、変形してS1>f1/Pm0を得る。これを上記関係に代入すると、Ps0=f1/S1より、Ps0<Pm0となる。従って、ポンプ吸入側の圧力Ps0は、ボール81による遮断によってf1/S1より高くなることはなく、着座時のマスタシリンダ圧Pm0未満に保たれる。
【0028】
(ステップ4:ポンプ作動)
ここで、ポンプPが作動すると、ポンプ吸入側管路112からブレーキ液が吸入されるため、ポンプ吸入側の圧力PsはPs0よりも低下する。Psが低下すると、ピストン83を押し下げる力が減少する。よって、
f1−(Ps×S1)>Pm×S2(ボール81に作用する押し下げ力)
となると、ボール81は上方に移動し、シート面86aから離れ、マスタシリンダ側管路111とポンプ吸入側管路112とが連通する(この時点のポンプ吸入側の圧力Psが第3所定値を意味する)。よって、ポンプPはマスタシリンダM/Cからブレーキ液を吸入する。尚、ポンプPの作動によってPsはすぐに0となるため、上記関係式は、下記のように表される。
f1>Pm×S2
【0029】
〔比較例における技術的課題〕
以下、比較例における技術的課題について説明する。図3は特許文献1に記載の内部リザーバの構成を表す概略図である。この内部リザーバは、ボールと、ピンと、ピストンと、ばねから構成され、減圧制御弁から流出したブレーキ液の貯留に加え、マスタシリンダからポンプ吸入側に加わる圧力を調圧する機能を有する。尚、ピストンの受圧面積をS1,ボールの有効受圧面積をS2,ばね力をF1とする。この特許文献1に記載のブレーキ装置は、リザーバの役割とゲートインバルブの役割を同時に兼ね備えている点において魅力的である。また、液圧の釣り合いにより機械的に開閉動作する点は、特段の制御を必要としない点からも魅力的である。しかし、高圧のマスタシリンダ圧に対しても作動を成立させるには、リザーバ内に備えられたばね力を大きく設定するか、あるいはボールの受圧面積を小さめに設定する必要がある。以下、詳述する。
【0030】
図4は液圧とばね力(荷重)との関係を表す特性図である。この特性図に示すように、ばね力を大きく設定した場合、S1は固定であることから減圧制御弁から流出するブレーキ液の液圧Prが大きくなる。このことは、ホイルシリンダから減圧可能なブレーキ液圧が高めになり、低μ路面での減圧性能が得られないことを意味する。一方、ボールの受圧面積を小さめに設定した場合、低μ路面での減圧性能は確保できたとしても、自動ブレーキのようなポンプアップによりマスタシリンダ側からブレーキ液を吸入するときの吸入抵抗が増大し、昇圧性能が低下する。また、ばね力を小さく設定した場合、図4のばね力F1'に示すように、減圧制御弁から流出するブレーキ液の液圧Prを低下させることは可能である。しかし、同時に低いマスタシリンダ圧までしか調圧機能を成立させることができず、マスタシリンダ圧の成立範囲は結果として狭くなるという問題がある。すなわち、マスタシリンダ圧成立範囲を広くするにはばね力を大きくすることが有効であるが、減圧制御弁から流出するブレーキ液の液圧Prを低い値で成立させることは不可能である。
【0031】
そこで、実施例1では、ポンプ作動時にマスタシリンダ側からブレーキ液を吸入する機能に特化した弁を構成しつつ、減圧制御弁から流出したブレーキ液はリザーバ16により吸収させることとした。これにより、実施例1のゲートインバルブ2のばね力は、マスタシリンダ圧成立範囲が広くなるように高めに設定し(マスタシリンダ圧Pmが第1所定値から第2所定値の間を意味する)、リザーバ16のばね力については、より低いブレーキ液圧を吸収可能なばね力に設定することが可能となる。これにより、ゲートインバルブ2の円筒状通路86bを広くしてボール81の有効受圧面積を広く設定することができ、ポンプの吸入抵抗を抑制することができる。また、リザーバ16のばね力は独立して低く設定できるため、低μ路面での減圧性能を高めることができるものである。また、ポンプ吸入側の圧力を比較的低く設定することができ、ポンプのシール部材等に過剰な油圧が作用することによる耐久性の悪化等を回避することができる。
【0032】
〔マスタシリンダ圧作用時におけるポンプアップ〕
次に、実施例1の構成において、マスタシリンダ圧が作用しているときのポンプアップ作用を説明する。図5は実施例1のポンプアップ作用を表すタイムチャートである。時刻t51において、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み、マスタシリンダ圧Pm及びホイルシリンダ圧Pwが共に上昇する。時刻t52において、f1<Pm×S1となると、ゲートインバルブ2が閉じ、ポンプ吸入側の圧力Ps0はこれ以上上昇することはない。
【0033】
時刻t53において、ホイルシリンダ圧を高める指令信号が出力されると、ゲートアウトバルブ3を閉じ、モータMがオンとされる。ポンプ吸入側の圧力Psが第3所定値以上であるため、ゲートインバルブ2は閉じたままであり、ポンプPは貯留室89内のブレーキ液を吸入する。時刻t54において、ポンプ吸入側の圧力Psが第3所定値未満となると、ゲートインバルブ2が開き、マスタシリンダ側からブレーキ液を吸入してホイルシリンダを増圧する。
【0034】
時刻t55において、ホイルシリンダ圧を高める指令信号が終了すると、モータMの作動をオフする。すると、ポンプ吸入側の圧力Psが上昇し始める。時刻t56において、ポンプ吸入側の圧力Psが上昇して第3所定値以上となると、ゲートインバルブ2は再び閉じる。これにより、ポンプ吸入側の圧力Psは第1所定値以下に保たれる。
【0035】
時刻t57において、減圧要求を表す制御指令が出力されると、ゲートアウトバルブ3を開き、減少し始めたマスタシリンダ圧Pmと共にホイルシリンダ圧も減少する。そして、時刻t58において、マスタシリンダ圧が第1所定値以下となるため、ゲートインバルブ2は開となり、ポンプ吸入側の圧力Psが減少する。時刻t59において、マスタシリンダ圧、ホイルシリンダ圧、ポンプ吸入側の圧力がいずれも0となる。
【0036】
尚、実施例1では、チェックバルブ8を備えているが、このチェックバルブ8がなくても、上述の作用効果を得ることができる。しかし、チェックバルブ8を用いることにより、マスタシリンダ圧がゲートインバルブ2に加わって閉となるまで(すなわち、マスタシリンダ圧が第1所定値以下)において、マスタシリンダ圧がリザーバ16内部に伝達されるのを防止することで、マスタシリンダから供給されるブレーキ液の消費液量を低減でき、ブレーキペダルのストロークの短縮、サービスブレーキ時のホイルシリンダ圧の立ち上がり時の応答の改善といった効果が得られる。
【0037】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得られる。
(1)マスタシリンダM/Cと回転式ポンプPの吸入側をつなぐ管路11(吸入油路)と、回転式ポンプPの吐出側とマスタシリンダM/Cをつなぐ管路13(吐出油路)と、管路13から分岐してホイルシリンダと連通する管路12(第1油路)と、ホイルシリンダから減圧されたブレーキ液を貯留するリザーバ16と連通する管路14(減圧油路)と、リザーバ16と管路11(吸入油路)とを連通する管路15(掻き出し油路)と、管路11(吸入油路)をマスタシリンダ圧とポンプ吸入側の圧力に関連して開閉動作を行うゲートインバルブ2(ゲートイン弁)と、を備えた。すなわち、リザーバ16とは別に圧力に関連して開閉動作を行うゲートインバルブ2を設けたため、ゲートインバルブの特性の設定を容易に行うことができる。
【0038】
(2)ゲートインバルブ2は、管路13(吸入通路)におけるゲートインバルブ2前後のマスタシリンダ圧とポンプ吸入側の圧力差に応じて開閉動作を行う。このように、前後さ圧によって作動するため、容易に開閉動作を行うことができる。
【0039】
(3)ゲートインバルブ2は、マスタシリンダ圧が第1の所定値以上第2の所定値以下のとき、ポンプ吸入側の圧力が第3の所定値以上で閉弁し、第3の所定値以下では開弁する。すなわち、ゲートインバルブ2の作動圧を任意に設定することが可能となり、マスタシリンダ圧が作用しているときにポンプが吸入可能で、かつ、ポンプの低圧部を保護することができる。
【0040】
(4)管路15(掻き出し油路)にはゲートインバルブ2からリザーバ16方向への流れを遮断し、逆方向への流れを許容するチェックバルブ8が設けられている。よって、マスタシリンダ圧作用時のリザーバ16へのブレーキ液の流れ込みを防止することができ、ペダルフィーリングの悪化を抑制することができる。
【0041】
(5)ゲートインバルブ2は、マスタシリンダからの圧力により閉弁される管路13(吸入通路)の一部に形成された弁座に着座するボール81(ボール弁)と、ボール81に連動して作動するピストン83と、該ピストン83をボール81側に押圧するばね85(ばね部材)とから構成した。よって、簡素な構造でゲートインバルブ2を構成することができる。
【0042】
(6)マスタシリンダ圧をPm、ピストン83の断面積をS1、ボール81が閉塞する吸入通路の断面積をS2、ばね85のばね力をf1としたとき、ばね力f1は、Pm×S1>f1>Pm×S2で設定される。リザーバ16としての性能に影響を与えないことから、広い範囲のマスタシリンダ圧に対応するばね力に容易に設定することができる。
【0043】
(7)第1の所定値はf1/S1、第2の所定値はf1/S2、第3の所定値は0<第1の所定値で設定される。よって、ゲートインバルブ2を要求された条件に沿って容易に設定することができる。
【0044】
(8)モータの回転運動により回転する回転式ポンプPと、該回転式ポンプ及び油路を内蔵した油圧ユニット31(ハウジング)は、外部のマスタシリンダM/Cと油路を接続するマスタシリンダポートMPTと、油路としてマスタシリンダポートMPTと回転式ポンプPの吸入側をつなぐ管路11(吸入油路)と、管路11から分岐して回転式ポンプPの吐出側とマスタシリンダポートMPTを連通する管路13(吐出通路)と、管路13から分岐した管路12(第1通路)と外部のホイルシリンダとを連通するホイルシリンダポートWPTと、該ホイルシリンダポートWPTを介してホイルシリンダ内のブレーキ液が流れ込むリザーバ16と、を連通する管路14(減圧油路)と、リザーバ16と管路11(吸入油路)とを連通する管路15(掻き出し油路)とを形成し、管路11(吸入油路)にその前後差圧で開閉動作するゲートインバルブ2(差圧弁)を備えた。すなわち、リザーバ16とは別に圧力に関連して開閉動作を行うゲートインバルブ2を設けたため、ゲートインバルブの特性の設定を容易に行うことができる。
【0045】
(9)内部に回転式ポンプP及び油路が形成された油圧ユニット31(ハウジング)と、油圧ユニット31外部と回転式ポンプPの吸入側をつなぐ管路11(吸入油路)と、回転式ポンプPの吐出側と油圧ユニット31外部をつなぐ管路13(吐出油路)と、管路13から分岐してホイルシリンダと連通する管路12(第1油路)と、油圧ユニット31外部に設けられたホイルシリンダから流れ込んだブレーキ液を貯留するリザーバ16と連通する管路14(減圧油路)と、管路11(吸入油路)に設けられその前後の差圧に応じて開閉動作を行うゲートインバルブ2と、を備え、回転式ポンプPはゲートインバルブ2を介して油圧ユニット31外部からブレーキ液を吸入する。すなわち、リザーバ16とは別に圧力に関連して開閉動作を行うゲートインバルブ2を設けたため、ゲートインバルブの特性の設定を容易に行うことができる。
【実施例2】
【0046】
次に実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図6は実施例2のブレーキ装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。実施例1では、チェックバルブ8を管路15上に設け、ペダルフィーリングの向上を図っていた。これに対し、実施例2では、チェックバルブ8を取り外し、ゲートインバルブ2と管路15との間の管路11上に電磁開閉弁80S,80P(以下、電磁開閉弁80)を設けた点が異なる。この電磁開閉弁80は、コントロールユニットCUからの指令電流により開閉動作を行い、ゲートインバルブ2とポンプ吸入側の管路15との連通・遮断を行う。
【0047】
次に、作用について説明すると、通常のブレーキ時は、電磁開閉弁80は閉とする。また、ブレーキアシスト制御等のホイルシリンダ圧をマスタシリンダ圧以上に増圧制御する場合には、ポンプPの作動時に電磁開閉弁80を開とする。従って、通常のブレーキ時は、マスタシリンダ圧がゲートインバルブ2に加わり閉となるまで(すなわち、マスタシリンダ圧が第1所定値以下)、管路11でのブレーキ液の消費が抑制され、加えて、リザーバ16やソレノイドアウトバルブ5に作用することを防止するとともに、ポンプ吸入側に作用することを防止することができる。これにより、マスタシリンダM/Cから供給されるブレーキ液の消費液量を一層低減でき、ブレーキペダルのストロークの短縮、通常ブレーキ時のホイルシリンダ圧の立ち上がり応答を改善できる。また、ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ圧以上に増圧制御する場合、電磁開閉弁80を開とする間は、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。更に、例えば、マスタシリンダ圧が略0でリザーバ16に蓄えられたブレーキ液を掻き出す際、すなわちゲートインバルブ2が開の場合に、電磁開閉弁80を閉とすることにより、マスタシリンダM/Cからのブレーキ液をポンプPが吸入することを抑制し、効率よく内部リザーバ16のブレーキ液を掻き出すことができる。
【0048】
以上説明したように、実施例2にあっては、実施例1の各作用効果に加えて、下記の作用効果を得ることができる。
(10)管路11(吸入通路)であって、ゲートインバルブ2とポンプPとの間に電磁開閉弁80を設けたため、ブレーキペダルのストロークの短縮、通常ブレーキ時のホイルシリンダ圧の立ち上がり応答を改善できる。また、リザーバ16内に貯留されたブレーキ液を効率よく掻き出すことができる。
【実施例3】
【0049】
次に実施例3について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図7は実施例3のブレーキ装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。実施例1ではチェックバルブ8を管路15上に設け、ペダルフィーリングの向上を図っていた。これに対し、実施例3では、チェックバルブ8に代えて、管路15に電磁開閉弁800S,81P(以下、電磁開閉弁800)を設けた点が異なる。この電磁開閉弁800は、コントロールユニットCUからの指令電流により開閉動作を行い、ゲートインバルブ2とポンプ吸入側の管路15との連通・遮断を行う。
【0050】
次に、作用について説明すると、ABS制御等によりリザーバ16に蓄えられたブレーキ液を掻き出すときにのみ、電磁開閉弁800を開とし、それ以外(通常のブレーキ時、ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ圧以上に増圧制御する時)は、閉とする。従って、ABS制御等でリザーバ16に蓄えられたブレーキ液を掻き出すときに開とすることで、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。また、通常のブレーキ時に、マスタシリンダ圧がゲートインバルブ2に加わり閉となるまで(すなわち、マスタシリンダ圧が第1所定値以下)、リザーバ16やソレノイドアウトバルブ5にブレーキ液が作用することを防止することができる。これにより、マスタシリンダM/Cから供給されるブレーキ液の消費量を低減することができる。また、ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ圧以上に増圧制御する場合、電磁開閉弁800は閉じたまま行われるため、ポンプPが吸入するブレーキ液は、マスタシリンダ側からのみ吸入することができる。よって、増圧制御における制御性能(制御精度)を向上することができる。
【0051】
以上説明したように、実施例3にあっては、実施例1の各作用効果に加えて、下記の作用効果を得ることができる。
(11)管路15(掻き出し通路)であって、ゲートインバルブ2とリザーバ16との間に電磁開閉弁800を設けたため、ブレーキペダルのストロークの短縮、通常ブレーキ時のホイルシリンダ圧の立ち上がり応答を改善できる。また、リザーバ16内に貯留されたブレーキ液を効率よく掻き出すことができる。また、増圧制御時における制御性能を向上することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 インプットロッド
2 ゲートインバルブ(ゲートイン弁、差圧弁)
3 ゲートアウトバルブ
4 ソレノイドインバルブ
5 ソレノイドアウトバルブ
7 チェックバルブ
8 チェックバルブ
9 チェックバルブ
10 チェックバルブ
11 管路(吸入油路)
12 管路(第1油路)
13 管路(吐出油路)
14 管路(減圧油路)
15 管路(掻き出し油路)
16 リザーバ
31 油圧ユニット(ハウジング)
80 電磁開閉弁
800 電磁開閉弁
81 ボール
82 ピン
82b 円筒状通路
83 ピストン
CU コントロールユニット
MPT マスタシリンダポート
P ポンプ
W/C ホイルシリンダ
WPT ホイルシリンダポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダと回転式ポンプの吸入側とをつなぐ吸入油路と、
前記回転式ポンプの吐出側と前記マスタシリンダとをつなぐ吐出油路と、
該吐出油路から分岐してホイルシリンダと連通する第1油路と、
前記ホイルシリンダから減圧されたブレーキ液を貯留するリザーバと連通する減圧油路と、
前記リザーバと前記吸入油路とを連通する掻き出し油路と、
前記吸入油路に設けられ前記マスタシリンダ圧が作用すると閉弁する一方、前記マスタシリンダ圧が作用し前記ポンプが回転している時には前記吸入油路を開閉動作するゲートイン弁と、
を備え、
前記ポンプは、前記マスタシリンダ圧が作用しているときは前記開閉動作をしている前記ゲートイン弁を介してブレーキ液を吸入することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
モータの回転運動により回転する回転式ポンプと、
該回転式ポンプ及び油路を内蔵したハウジングと、
該ハウジングには、外部のマスタシリンダと前記油路とを接続するマスタシリンダポートと、
前記油路として前記マスタシリンダポートと前記回転式ポンプの吸入側とを接続する吸入油路と、
該吸入油路から分岐して前記回転式ポンプの吐出側と前記マスタシリンダポートとを連通する吐出通路と、
該吐出通路から分岐した第1通路と外部のホイルシリンダとを連通するホイルシリンダポートと、該ホイルシリンダポートを介して前記ホイルシリンダ内のブレーキ液が流れ込むリザーバとを連通する減圧油路と、
前記リザーバと前記吸入油路とを連通する掻き出し油路と、
を形成し、
前記吸入油路にその前後差圧で開閉動作する差圧弁を備え、該差圧弁は前記マスタシリンダ圧が作用し前記回転式ポンプが回転している時に開閉駆動するよう設定され、前記回転式ポンプは前記差圧弁を介して前記ブレーキ液を吸入するよう設定されていることを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−229020(P2012−229020A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−190502(P2012−190502)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【分割の表示】特願2009−72248(P2009−72248)の分割
【原出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】