説明

ブレースの非破壊検査方法

【課題】 容易且つ安価に滑らかなブレース形状を把握することができるブレース形状の非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】 ブレース形状の非破壊検査方法は、住宅1を補強するブレース形状の非破壊検査方法であって、内部にブレース4を配置した外壁8に、予めマーキング材9をマーキングしたアクリル板7を設置し、電磁誘導方式の探査装置10により前記マーキング材9に沿って、ブレース4の形状を探査し、その探査結果を表示装置11に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉄骨造住宅等の構築物の骨組みを補強するブレースの非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、住宅等の構築物の耐震性の向上を目的として、骨組みに対して、鉄筋やアングルで形成されたブレースを設置することがよく知られている。このブレースにより構築物の水平応力を高めることができ、地震等による建物の倒壊を防ぐことができる。
【0003】
ところで、大きな地震があった場合等には、ブレースに過度の負担がかかり、ブレースが塑性変形する場合がある。このように塑性変形したブレースは、元の長さ寸法よりも伸長し、又は座屈を起こして強度が劣化しているため、新たな地震が発生すると、その地震規模が大きくない場合であっても、建物を大きく変形させる虞がある。そのため、最初の大地震で、建物に外観上の大きな損傷が認められない場合であっても、ブレースが許容限度を超えて大きく塑性変形している場合は、ブレースを交換しておく必要がある。
【0004】
しかし、ブレースは壁や床等の内部に入れられているので、ブレースの損傷の有無や程度を把握しブレースの交換の必要性を判断するために、壁パネルや床パネル等を取り外して直接ブレースを検査するのでは費用がかかりすぎる。そこで、壁パネルや床パネル等を取り外すことなく、ブレースの損傷の有無や程度を把握する種々の非破壊検査方法が知られている。
【0005】
このような非破壊検査方法としては、例えば、図7に示すようにX線発生器100よりX線101を壁や床等の住宅構成部材102の一方面側からブレース4に照射し、住宅構成部材102の内部を透過したX線101を他方面側に固定したフィルム103に撮像するX線透過方式の非破壊検査方法(例えば非特許文献1)や図8に示すように、住宅構成部材102の一方面で小型磁界プローブ104を縦横に設けられたガイドレール105によりスライドさせて、住宅構成部材102に縦横に配置された基準線106に沿って縦横方向に走査して磁界データを取得し、誘起電圧を分析して壁や床内部の形状を検査する電磁誘導式の非破壊検査方法(例えば特許文献1)が挙げられる。
【非特許文献1】非破壊検査株式会社「コンクリート診断技術/コンクリート内部の深査」〔平成20年5月22日検索〕インターネット〈URL:http://www.hihakaikensa.co.jp/concrete/index.html〉
【特許文献1】特開平10−307124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のようなX線透過方式の非破壊検査方法は、X線101を扱うものであるので、作業者の安全確保が必要なため非常に大掛かりな検査となり、また、特殊技能を備えた作業員も必要であるので、作業に掛かる時間及び費用が大きくなる問題がある。
【0007】
また、上述の電磁誘導式の非破壊検査方法は、比較的容易に作業することができるものの、壁面や床面を隈なく走査するために多くの時間がかかり、また、縦横方向に走査するものであるので、住宅構成部材102の内部を斜め方向に配置されているブレース4を走査する場合には、ブレース4の形状を滑らかに探査することができず、適切なブレース4の形状を把握できない。
【0008】
そこで本発明は、容易且つ安価に滑らかなブレース形状を把握することができるブレースの非破壊検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載のブレースの非破壊検査方法は、住宅の軸組を補強するブレースの非破壊検査方法であって、前記軸組を挟んで両側に板体を配置して空間を仕切る住宅構成部材の一方側の板体に、前記軸組を補強するブレースの配置位置を予めマーキングしている樹脂板を当接させ、電磁誘導方式の探査装置を前記マーキングに沿って前記樹脂板上を移動させることにより、前記ブレースの形状を探査し、当該探査の結果を表示装置に出力することを特徴としている。
【0010】
請求項2記載のブレースの非破壊検査方法は、前記樹脂板がアクリル板であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載のブレースの非破壊検査方法によると、予めブレースの配置位置をマーキングした樹脂板を用いるので、内部にブレースを配置した住宅構成部材の全面を走査しなくてもブレース測定位置のみを走査することで、ブレース形状を探査することができる。したがって、全面を走査する場合に比べて、作業時間を大幅に減少させることができる。また、ブレース測定位置に沿って斜めにブレース形状を探査することで、縦横に探査する場合に比べてブレースを連続的に探査することができるので、滑らかなブレース形状のデータを得ることができる。
【0012】
また、電磁誘導方式の探査装置を用いることで、X線透過方式の非破壊検査方法に比べて簡単な設備で検査することができ、安全で安価な非破壊検査方法とすることができる。
【0013】
請求項2に記載のブレースの非破壊検査方法によると、樹脂板として安価なアクリル板を使用するので、安価な検査方法とすることができる。また、アクリル板は透明且つ軽量であるので、検査をする際の作業効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明におけるブレースの非破壊検査方法について、図1から図6を参照しつつ説明する。住宅1の構造躯体2には、図1に示すように、住宅1の耐震性を向上させるために多くのブレース4を用いる場合がある。ブレース4は、例えば、構造躯体2を構成する軸組3の4隅に設けられた接合用プレート5にその両端が固定される長尺の丸鋼により形成された部材であって、例えば軸組3の対角線上に配置される。ブレース4の中間位置には、両端にそれぞれ雌螺子が形成され中央にシノ等の工具を挿入できる穴を備えたターンバックル6が設けられている。このターンバックル6の雌螺子は一方の端部を右螺子に他方の端部を左螺子に形成しており、締結方向又は弛緩方向に回転させることで、ブレース4の長さを調整することができる。
【0015】
なお、ブレース4は、図1に示すように外壁8と図示しない内壁との間に軸組3を設置した住宅構成部材の内部の他にも、図示しないが、住宅1の間仕切壁の内部や住宅1の天井板と床板との間にも設置される。また、本発明の対象となるブレース4は図1に示すように、軸組3の対角線上に配置されるX字状のブレース4に限定されるものではなく、例えば図6に示すように、軸組3の下側の横材3aの両端と、上側の横材3bの中央とを連結する形状のブレース4やその他の種々の形状のブレース4であってもよい。
【0016】
ブレースの非破壊検査方法には、図2に示すように、例えば軸組3とほぼ等しい大きさの矩形のアクリル板7が用いられる。このアクリル板7には、外壁8側から見た場合にブレース4が配置されている位置に、予め例えばビニルテープ等のマーキング材9が一定の幅で貼付されている。なお、本実施形態においては樹脂板として、アクリル板7を用いている。このように安価、軽量且つ透明なアクリル板7を用いることで、ブレースの非破壊検査を安価にすることができるとともに、作業をより容易なものとすることができるが、これに限定されるものではなく、その他の樹脂製の板を用いることもできる。
【0017】
また、ブレースの非破壊検査方法は、例えば、所定以上の震度の地震が発生した場合に、その地震が発生した地域に所在する住宅を対象として実施する。
【0018】
ブレースの非破壊検査をするときには、まず、図2に示すように、住宅構成部材である壁体、床面、天井等の一方の面に、アクリル板7を当接させる。例えば、本実施形態では、住宅の外壁8に、アクリル板7を当接させている。このとき、アクリル板7に貼付されたマーキング材9の位置が外壁8の内側に配置されたブレース4の位置と整合するようしておく。そして、例えば図示しないが、外壁パネルの継ぎ目やドアや窓等の他の構成部材からの距離を基準にして軸組3に対応する位置にアクリル板7を設置する。
【0019】
アクリル板7を設置し終えると、次に、図3に示すように、作業者の手によって、このアクリル板7に貼付されたマーキング材9に沿って探査装置10を走査し、外壁8の内側を探査する。このようにマーキング材9が貼付されている位置のみを探査装置10により走査すればよいので、外壁8の全面を走査する場合に比べて作業に掛かる時間を減らすことができる。また、ブレース4に沿って走査することになるので、ブレース4の形状に沿って滑らかな直線又は曲線のデータを得やすい。この探査装置10としては、内部に図示しないコイルを備えており、このコイルに電流を流して磁場を発生させ、その変化を捉えることにより外壁8の内側に入っているブレース4の形状を探査することができる電磁誘導方式の探査装置10が用いられる。この探査装置10は、所定の幅で内部を探査することができるものであり、図4に示すように、ブレース4が本来の長さから伸長しており、元の位置からややずれて配置されているような場合でも、ブレース4の形状を探査することができる。このような電磁誘導方式の探査装置10は、X線透過方式の探査装置に比べて、安全且つ安価に使用することができる。
【0020】
探査装置10により探査されたブレース4の形状のデータは、例えばこの探査装置10に備わる図示しない制御装置により解析され、表示装置11に無線送信されて、表示される。なお、この表示装置11としては、例えば、この探査装置10専用の液晶表示装置を用いることもでき、また、PCのモニターなどの汎用の表示装置を用いても良い。表示される情報としては、ブレース4の形状を図示したものが好ましく、特にブレース4の3次元形状を把握することができる情報であることが最も好ましい。このようにブレース4の3次元形状を表示装置11に図示することで、数値やグラフ等を用いてブレース4の損傷の有無や程度を判断する場合に比べて、ブレース4の補修や交換の必要性を認識し易い。なお、上述のような表示装置11に代えて、又は、表示装置11に加えて、記録用紙に記録するプリンタ12を備えていてもよい。
【0021】
そして、表示装置11に表示されたデータが所定の閾値を超えるものである場合は、すなわち、探査の結果導き出されたブレース4の形状が、許容範囲を超えて伸長している、座屈を起こしている、又はせん断している場合には、ブレース4の補修又は交換が必要であると判断する。
【0022】
ブレース4の補修が必要であると判断された場合には、まず図示しない外壁パネルを取り外して、図5(a)(b)に示すように伸長しているブレース4のターンバックル6を締結方向に回転させる。そして、図5(c)に示すように、ブレース4が適切な引張り力で軸組3を補強するように、ブレース4の長さを縮退させる。なお、ブレース4がすでに伸長し切っている場合やせん断している場合には、上述のようにブレース4の長さを調整しても軸組3を適切に補強することができないので、ブレース4を新たなものと交換する等の別の補修を行う。
【0023】
以上のように、本実施形態のブレースの非破壊検査方法を用いると、容易且つ安価にブレース4の形状を滑らかに把握することができるので、地震があった後で、住宅1の外観には異常が見られない場合にも、比較的簡単にブレース4の形状を検査することができる。
【0024】
なお、本実施形態においては、X字状のブレース4について説明したが、他の形状のブレース4であっても、本発明のブレースの非破壊検査方法を用いて検査することができる。例えば、図6(a)に示すように、ブレース4の形状が軸組3の下側の横材3aの両端と上側の横材3bの中心とに架設される逆V字状に形成されている場合であっても、図6(b)に示すように、このブレース4が配置されている位置に、予めマーキング材9を貼付したアクリル板7を外壁8の表面に、ブレース4の位置に整合するように当接させる。そして、探査装置10をこのマーキング材9に沿って走査し、外壁8の内側を探査する。
【0025】
このように、アクリル板7は、予め住宅1に用いられるブレース4の形状に合わせてそれぞれマーキング材9を貼付したものを、ブレース4の形状毎に用意しておくことで、住宅1に用いられる種々のブレース4に適用することができる。なお、1枚のアクリル板7に複数の異なる形状のブレース4の形状を色彩を変えたマーキング材9を用いたものを使用しても良い。このようにすると、アクリル板7を使いまわすことができるので、ブレース形状の非破壊検査に用いるアクリル板7の種類を少なくすることができる。
【0026】
なお、本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【0027】
なお、上述の実施形態においてマーキング材9は、例えばビニルテープで形成されたものを例示したが、これに限定されるものではなく、電磁誘導で反応する金属で形成されたもの、又は電磁誘導で反応する金属を含むものとしてもとしてもよい。このようなマーキング材9を用いると、表示装置11にブレース形状を表示したときに、実際のブレース形状とともに、正常なブレースの配置位置を示すマーキング材9の形状も表示されるので、ブレース4のゆがみをより容易に測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係るブレースの非破壊検査方法は、簡易的に住宅の耐震強度を検査することができる方法として、地震があった後等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】住宅に用いられるブレースを説明する斜視図。
【図2】外壁にアクリル板を配置する状態を示す斜視図。
【図3】外壁の内部を探査する状態を示す斜視図。
【図4】ブレースが伸長している場合の外壁の内部を探査する状態を示す斜視図。
【図5】伸長したブレースを調整する状態を示す正面図。
【図6】異なる形状のブレースを検査する状態を示す斜視図。
【図7】従来のX線透過方式のブレースの非破壊検査方法を説明する図。
【図8】従来の電磁誘導方式のブレースの非破壊検査方法を説明する図。
【符号の説明】
【0030】
1 住宅
4 ブレース
7 アクリル板(樹脂板)
8 外壁(一方側の板体)
9 マーキング材(マーキング)
10 探査装置
11 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅の軸組を補強するブレースの非破壊検査方法であって、
前記軸組を挟んで両側に板体を配置して空間を仕切る住宅構成部材の一方側の板体に、前記軸組を補強するブレースの配置位置を予めマーキングしている樹脂板を当接させ、
電磁誘導方式の探査装置を前記マーキングに沿って前記樹脂板上を移動させることにより、前記ブレースの形状を探査し、当該探査の結果を表示装置に出力することを特徴とするブレースの非破壊検査方法。
【請求項2】
前記樹脂板がアクリル板であることを特徴とする請求項1に記載のブレースの非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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