説明

ブレードレスワイパー

【課題】風防ガラスのワイパーのブレードを廃止して、より安全でクリヤーな運転視界を維持確保するとともに洗浄液の使用を避けて環境保全に貢献する。
【解決手段】風防ガラス2内面に超音波振動子3を装着して縦波、横波、表面波からなる超音波を発振し、風防ガラス外面に雨滴等によって形成される境膜及び水層を破壊すると同時にスリット状ノズル4から風防ガラス外面に沿って高圧気体を噴射して雨滴等を吹き飛ばす。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は航空機、鉄道車輛、自動車、船舶等交通機関(以降交通移動体と称する)の運転視界を維持確保するためのワイパーに関する。
【0002】
【従来の技術】従来交通移動体のワイパーといえばゴム質の掻き取りブレードをスプリング機構によって風防ガラス外面に圧着しつつ、これをモータによって扇状に左右に動かして風防ガラス外面の雨滴、雪片、みぞれ、泥水その他の汚れ(以降雨滴等と称する。)を掻き取る方式のものが主流であり必要に応じてブレードの移動速度を調節したり、洗浄液を放出したりすることができるようになっている。また回転式のものも一部使用されているが掻き取り方式の範囲を出ない。航空機の風防ガラス外面に高圧の気体だけを吹き付けて雨滴等を除去しようとした試みがあったが実用化に至っていない。機械装置ではなく、表面エネルギーの小さな弗素系化合物を含有するコーティング材を風防ガラス外面に塗布して雨滴等の付着を防止する方法もあるがその効果は長持ちせず環境を汚染する原因ともなっている。最近、主として自動車のウィンドウの水滴除去を目的としてウィンドウに撓み振動を与えその節部に雨滴を凝集してからブローする装置(特開平6−227369)や車外ミラー等のガラス表面の雨滴を高周波スピーカからの音圧によって凝集流下させる装置(特開平8−295204)或いは撥水処理をしたウィンドウを加振して雨滴を凝集流下させる装置(特開平8−268232)などが提案されているが、いずれもガラス表面を雨滴や水膜が流下するので視界の歪みは避けられず特に高速走行時には問題がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来のワイパーはその機構から拭き残し部が発生するのは避けられず、また運転者の眼前を横切って掻き取りブレードが左右に激しく動くのはそのこと自体運転視界の妨害となっている。本発明は風防ガラス外面の拭き残しをなくし、運転者の眼前で移動を繰り返す掻き取りブレードを廃止して運転視界の質的向上を目的としている。さらに洗浄液の使用を廃止して環境にも配慮する。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明においては風防ガラス内面に1個又は複数個の超音波振動子を装着し、縦波、横波、表面波からなる28乃至500KHzの超音波振動を間欠的又は連続的に風防ガラスに与え、一方風防ガラス外面に沿って主として下方から上方に向け高圧の気体を間欠的又は連続的に噴射することによって風防ガラス外面に降り掛かる雨滴等視界を妨げる物体を吹き飛ばして運転視界を維持確保しようとするものでこれによって従来のワイパーのブレードは不要となる。
【0005】装着する超音波振動子の振動端面の角度が振動軸に対して10°乃至80°となるように形成して超音波振動が風防ガラス面に斜めに入射するようにすると超音波振動の伝播範囲を拡大するのに有効である。
【0006】風防ガラスに装着する超音波振動子が複数個の場合、それぞれが同時又は順次又は独立にランダムに作動させるかは必要に応じて選択することにする。
【0007】風防ガラス外面に沿って噴射させる高圧気体は7kg/cm以下に圧縮した空気又はエンジン排ガスとし、水平に細長いスリット状の噴射口が、基準噴射方向を風防ガラス下端とした時この位置を0°として上向きに35°までの方向を任意に設定できるか又は0°乃至35°の範囲を可変速往復運動できる高圧気体噴射装置であることが望ましい。
【0008】
【作用】雨滴等は通常各種の塩類や油分その他のイオン性の塵埃を含んでいるのでガラス表面との親和力が大きく、ガラス表面を濡らして極めて薄く且つ安定な境膜を形成しているので高圧気体を吹き付けたり衝突させるだけではこの境膜をはぎ取ることは困難である。更に気体の圧力を上げて境膜剥離を図ると噴射騒音が激しくなり実用化が断念された経緯がある。
【0009】本発明においては風防ガラス内面に装着した超音波振動子を作動するとその周波数に対応する縦波、横波、表面波が風防ガラス外面へ伝播するが水の境膜はガラスとその音響インピーダンスが近似しているため超音波は境膜にもよく伝播する。この時の振動の加速度は地球の重力の加速度Gの10乃至10倍であるのでガラス表面の水分層は境膜もろとも引き剥がされ微粒化される。この時別途用意した高圧の空気又はエンジン排ガスをスリット状の噴射口を通して風防ガラス外面に沿って噴射すると薄いナイフの刃状の気体層がガラス表面と前記剥離した水分層の間へ進入して丁度フィルムを剥がすような作用をする。これをエァナイフ効果と呼ぶこととするが、この操作を繰り返すことにより風防ガラス外面から視界を妨げる水層膜が除去され、しかも洗浄液を使用しなくても清潔となり運転視界が維持確保される。
【0010】超音波の周波数が大きくなるに従って指向性が鋭くなり伝播面積が狭まり一個の振動子のカバーする面積が小さくなることから本発明においては使用する超音波の上限は500KHzとした。また低い周波数の方が強力な超音波を発生しやすいが風防ガラスの厚さ形状によっては不快な騒音を起こすことがあるので下限は28KHzとした。これは28KHzと20KHzの振動子を用いて比較した場合前者が騒音発生の傾向が小さいことから決めた。一般的には厚い風防ガラスには低めの周波数を、薄い風防ガラスには高めの周波数を適用するのがよい。また使用する超音波振動子のパワー密度はいづれの場合も5W/cm以上であることが望ましい。
【0011】超音波振動子は風防ガラス内面の下端部のなるべく視界を妨げない場所を選んで装着するが、振動端面をガラス面に垂直に取り付けるよりも振動軸に対して斜めにカットされた端面の振動子を取り付ける方が超音波の上方への伝播は拡大する。この場合振動子を1個づつ間隔を置いて並べる方法もあるが数個の振動子を一ヶ所にまとめ互いに上向き角度を変えたものをひと組みとしてこれを配置してもよい。いづれにしても視界を妨げないことが肝要であるが本発明では配置の自由度が大きいので適正位置を選ぶことによって風防ガラス面の拭き残し部分を実質上ゼロにすることができる。
【0012】本発明の作用を区分けして説明すると第一段階として超音波の強大な加速度を利用して風防ガラス外面と水の境膜とを引き剥がし次いで高圧気体の噴射によるエァナイフ効果によって境膜と水層を吹き飛ばすのである。従来のワイパーの掻き取りブレードではこの境膜の除去は不可である。噴射気体は水平に細長いスリットから所謂二次元ジェットとして噴射され、周囲の空気との剪断層が粘性のために断熱的に噴散されて気体の温度が低下して結露の原因となったり、乱流による騒音発生の点も考慮すると噴射気体の圧力は7kg/cm以下が好ましい。
【0013】噴射口からの噴射角度は風防ガラスの傾斜角より小さくなければならないことは当然であるが高圧噴流が風防ガラスの下端に当たるだけではエァナイフ効果も制約を受けて上方にまでは及ばない。また高圧噴流が噴射口から約50cm以上進行した所ではその流速分布はつりがね型から平山型に広がり流速も低下してくるようになる。したがって噴射口は風防ガラスにできるだけ近接して設置すると同時に噴射角度を0°乃至35°の範囲に可変速往復運動させて噴射させるとエァナイフ効果が広範囲に及び視界の拡大につながる。
【0014】
【実施例】長さ1800mm、巾500mm、厚さ5mmの板ガラスを金属枠にはめ込んでテスト用風防ガラスとした。超音波振動子は角柱型フェライトで28KHz、75KHz250KHzの三種類を準備し、端面は振動軸に対して45°の傾きとなるようにカットした。端面の寸法はいずれも25mm*35.4mmに揃え、板ガラス下端部に端から300mm、900mm、1500mmの位置でこの板ガラスを支える金属フレームとの間に接着した。この板ガラスを金属フレームに45°の傾斜になるように取り付け上方から水滴を降下させてテストを行なった。各振動子はそれぞれ300Wの出力の超音波発信電源に連結されている。
【0015】三個の噴射日のスリットは 長さ400mm、巾0.7mmに加工しホーン型の箱の先端に取り付け噴射出口での乱流をできるだけ抑制した。小型コンプレッサーの圧縮空気をリザーブタンクに導いて所定圧力に調整した上、ここから三つの噴射口へ電磁弁を経て配管した。電磁弁の操作は手動又は自動タイマーでコントロールされる。噴射口は板ガラス下端から30mm離れた位置とし噴射角度は30°に固定した。
【0016】水滴降下装置は断面が楔形の先端をカットした台形状の樋で、透明なプラスチック板を接着して組み立てたもので、カットした部分を底面としてここに0.2¢及び0.4¢の孔を5mm乃至7mm間隔をおいてあけ、水の高さを調節することによって降水量や水滴の大きさを大雑把に変更調節することができた。寸法は長さ1600mm、高さ150mm、底面の巾15mmである。この樋を水平に保つことによって全長にわたってほぼ同一の降水状況を達成できることを確認した。上記の設備を用いて下記のテストを実施した。
【0017】ケース 1.風防ガラス全面が水層に覆われる程大量の降雨に相当する水量を板ガラス上に降らせてみた。ガラス表面を流下する波状で凹凸のある水層を通しての視野は著しく歪んでいる。この時点で各振動子を作動させると、いずれの振動子の作動領域でも気泡が生成してかえって見通しが悪化した。これはキャビテーションのためである。
ケース 2.ケース 1.と同じ降水条件において超音波振動子の作動を止め4kg/cmの高圧空気を噴射口から噴射したところ噴流の先端が衝突した付近の水層は除去されるが、他の水層にしわ状の模様が生成して寧ろ視界が妨げられた。気体の圧力を順次7kg/cmまで上昇してみたが排除される水層部分がやや広がるだけで改善の効果は殆どないといってよい。すなわち高圧気体の噴射だけでは全面的なエァナイフ効果は認められなかった。
ケース 3.ケース 1.と同じ降水条件で超音波振動子を作動させつつ4kg/cmの高圧空気を噴射すると板ガラスの上端へあと約100mmの位置まで水層が排除されて著しく視界は改善された。250KHz振動子領域では水層排除巾が約300mmとやや狭いが縦方向では板ガラス上端近くまで水層が排除されることもある。これは他の二つに比べて超音波の指向性が鋭いためと思われる。28と75KHzの振動子とでは殆ど差はなく水層排除巾はスリットノズルの巾と同程度であった。以上のテストから超音波と高圧気体の噴射の相乗作用に基づくエァナイフ効果を利用して風防ガラスの雨滴等をブレードを使用せずに排除できることを確認した。
【0018】
【発明の効果】本発明は上記に説明したように超音波の強大な加速度と高圧の噴流との相乗作用によるエァナイフ効果を利用して従来のワイパーの必須部品であるブレードを廃止することができた。その結果、より安全でクリヤーな運転視界を維持確保できる上、設計上の自由度が大きいので超音波振動子及び高圧気体噴射口の適正配置によって所謂拭き残しを実質上ゼロにすることができ、また高速交通移動体のデザイン上も有利となる。超音波の強大な加速度によって風防ガラス外面の水や油を含有する境膜を破壊することができるので従来のように洗浄液を用いて表面を洗い流す作業は殆ど必要なく、これによる水質悪化が避けられ環境保全にも貢献できる。
【0019】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係るブレードレスワイパーを示す概略説明図である。
【符号の説明】
1 金属フレーム
2 風防ガラス
3 超音波振動子
4 スリットノズル
5 ホーン型エァガイド
6 ノズル回転機構
7 電磁弁
8 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】 航空機、鉄道車輛、自動車、船舶の風防ガラスの内面に1個又は複数個の超音波振動子を装着して、縦波、横波、表面波からなる28乃至500KHzの超音波振動を間欠的又は連続的に風防ガラスに与えてガラス表面と雨滴等の間の境膜を破壊し、更に風防ガラスの外面に沿って主として下方から上方に向け高圧の気体を間欠的又は連続的に噴射することによって風防ガラス外面の雨滴等を除去することを特徴とするブレードレスワイパー。
【請求項2】 超音波振動が風防ガラス面に対して斜めに入射するように振動子の振動端面の角度が振動軸に対して10°乃至80°となすように形成して風防ガラスに装着することを特徴とする請求項1記載のブレードレスワイパー。
【請求項3】 風防ガラスに装着される超音波振動子が複数個の場合それぞれが同時又は順次又は独立にランダムに作動することを特徴とする請求項1記載のブレードレスワイパー。
【請求項4】 風防ガラス外面に沿って噴射させる高圧気体は7kg/cm以下に圧縮した空気又はエンジン排ガスとし、水平に細長いスリット状の噴射口が噴射気体の基準噴射方向を風防ガラスの下端とした時この位置を0°として上向きに35°までの方向を任意に設定できるか又は0°乃至35°の範囲を可変速往復運動できる高圧気体噴射装置を有する請求項1記載のブレードレスワイパー。

【図 1】
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【公開番号】特開2000−43682(P2000−43682A)
【公開日】平成12年2月15日(2000.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−242487
【出願日】平成10年7月24日(1998.7.24)
【出願人】(591163351)
【Fターム(参考)】