説明

ブロックコポリマーを選択的に水素化する方法およびその組成物

【課題】ポリマーの部分水素化方法の提供。
【解決手段】少なくとも1つの芳香族ビニルブロックを有するポリマーを用意する工程、及び不均一系触媒が存在する状況下で前記ポリマーを水素化して水素化ポリマーを得る工程を含み、前記不均一系触媒が担体上に位置し、前記担体が、BaSO、Al、TiO、ZrO、活性炭及びこれらの任意の組み合わせから構成される群から選択される。前記水素化ポリマーは、少なくとも1つの水素化芳香族ビニルブロックを含み、前記水素化芳香族ビニルブロックは、前記水素化ポリマーの主鎖に結合された炭素環を有し、前記炭素環に1個のみ及び2個のみの二重結合を備えた前記芳香族ビニルブロックの平均重量百分率が、前記水素化ポリマーの総重量の1〜30wt%の間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2009年8月28日に出願された「ブロックコポリマーを選択的に水素化する方法およびその組成物」と題された、米国仮出願番号61/237,999(参照することにより本明細書に取り込まれ、また、譲受人に譲渡された)を基礎とする優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は部分水素化不飽和ポリマーに関し、特に、不均一系触媒下における芳香族ビニル基を含む不飽和ポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
スチレン−ブタジエン或いはスチレン−イソプレンのトリブロックまたはペンタブロックコポリマーなど、共役ジエン及び芳香族ビニル基を含むポリマーは、すでに商業化され、接着剤、靴底、ポリマー改質剤等に応用されている。しかしながら、共役ジエン基及び芳香族ビニル基は、熱や、紫外光下に暴露されることによる酸化、その他不良な環境中で開裂を生じやすく、このため不安定となる。
【0004】
水素化でこれらポリマーを高度に飽和させることによって、ポリマーの安定性を改善することができ、可撓性材料や生体材料等に広く用いられている。この技術に関する多くの特許があり、例えば米国特許5,352,744号(特許文献1)、は芳香族基/ポリジエン基の飽和度が99.5%を超える完全に水素化されたポリマーを開示している。米国特許6,841,626号(特許文献2)も、ポリスチレン基の飽和度が98.4%の水素化ポリマーを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許5,352,744号明細書
【特許文献2】米国特許6,841,626号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現有の部分飽和化技術で得られるポリマーは、芳香族基の飽和度が高すぎたり低すぎたりする。飽和度が90%を超えるとポリマー鎖の弾性が損なわれるため、不利となる。また、飽和度が20%を下回ると安定性が不足するため望ましくない。このため、適切な飽和度で応用ニ−ズを満たす新規な部分水素化ポリマーを提供することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの目的は、適切な飽和度の部分水素化ポリマー、つまり芳香族ブロック上に適切な数の二重結合を保った部分水素化ポリマーを提供することにある。
【0008】
1つの実施態様として、本発明の提供する水素化ポリマーは、少なくとも1つの水素化共役ジエンブロックと、少なくとも1つの水素化芳香族ビニルブロックを含み、前記水素化芳香族ビニルブロックが前記水素化ポリマーの主鎖に結合された炭素環を有し、前記炭素環に1個のみ及び2個のみの二重結合を備えている前記水素化芳香族ビニルブロックの平均重量百分率が、前記水素化ポリマーの総重量の1〜30wt%の間であり、2〜20wt%の間が好ましい。
【0009】
本発明の他の目的は、不均一系触媒を使用してポリマーの共役ジエンブロック及び芳香族ビニルブロックを部分的に水素化することにある。
【0010】
より具体的には、共役ジエンポリマーブロックの水素化率は95%より大きい一方、芳香族基は部分水素化によって、例えばシクロヘキセン、シクロヘキサン、またはシクロヘキサジエン部分に変化される。前述の望ましくない特性を回避するため、芳香族ブロックの水素化率は20%〜90%の間であり、25%〜80%の間が好ましく、30%〜60%の間がより好ましい。炭素環上に適切な数の二重結合を保持させることにより、後続での官能化反応または部分架橋反応を容易にできる。
【0011】
別の実施態様において、本発明の提供する水素化ポリマーは、前記水素化ポリマーの主鎖に結合された炭素環を備えた少なくとも1つの水素化芳香族ビニルブロックを主に含む(consisting essentially)。つまり、前記水素化ポリマーは共役ジエンブロックを含まない。前記炭素環に1個のみ及び2個のみの二重結合を有している前記芳香族ビニルブロックの平均重量百分率が、前記水素化ポリマーの総重量の1〜30 wt%の間であり、2〜20wt%の間が好ましく、2〜15wt%の間がより好ましい。
【0012】
本発明の他の目的は、不均一系触媒を使用して共役ジエンを持たないポリマーの芳香族ブロックを部分的に水素化することにある。
【0013】
より具体的には、芳香族基が部分水素化によって例えばシクロヘキセン、シクロヘキサンまたはシクロヘキサジエンに変化される。上述の望ましくない特性を回避するため、芳香族ブロックの水素化率は20%〜90%の間であり、25%〜80%の間が好ましく、30%〜60%の間がより好ましい。つまり、芳香族基の水素化率を、炭素環上に適切な数の二重結合を保持させることにより最適化し、後続での官能化反応または部分架橋反応を容易にできる。
【0014】
本発明はさらにその他の目的でほか問題を解決するが、そのいくつかは、上述の各目的と併せて、以下の発明を実施するための形態において詳細に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施態様に基づく第1の水素化ポリマーの、いくつかの例示的態様を示す。
【図2】本発明の一実施態様に基づく第1の水素化ポリマーの製造プロセスを示す。
【図3】本発明の一実施態様に基づく第2の水素化ポリマーのプロセスを示す。
【図4】本発明の一実施態様に基づくベースのポリマー(即ち、水素化されていないポリマー)と、水素化ブロックコポリマーのFT−IRスペクトルを示す。
【図5】本発明の一実施態様に基づく水素化ブロックコポリマーのH−NMRスペクトルを示す。
【図6】本発明の一実施態様に基づく部分水素化ポリスチレンのH−NMRスペクトルを示す。
【図7】本発明の一実施態様に基づく水素化トリブロックコポリマーのH−NMRスペクトルを示す。
【図8】本発明の一実施態様に基づく部分水素化トリブロックコポリマーの2D H−MBC(Heteronuclear multiple bond coherence)スペクトル図を示す。
【図9】本発明の一実施態様に基づく水素化トリブロックコポリマーの2D COSY(Correlation spectroscopy)スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願に付随する図面を参照して、本発明の好ましい実施態様を詳述する。本発明の実施態様に不要な混乱を生じないよう、以下の説明では周知の部材、材料、処理技術については、省略する。
【0017】
第1の水素化ポリマー
本発明の水素化ポリマーは2つの類別に分けることがでる。第1類は第1の水素化ポリマーであり、少なくとも1つの水素化芳香族ビニルブロック及び少なくとも1つの水素化共役ジエンブロックを含む。第1の水素化ポリマーの総重量平均分子量(Mw)は5,000〜400,000の間であり、5,000〜200,000の間がより好ましく、20,000〜100,000の間を最良とする。総重量平均分子量(Mw)の測定はゲル浸透クロマトグラフィ−(gel permeation chromatography;GPC)を使用するが、これは当業者の常用の方法である。第1の水素化ポリマーは、炭素環上に1個のみ及び2個のみの二重結合を有する水素化芳香族ビニルブロックの平均重量百分率が、前記第1の水素化ポリマーの総重量の1〜30wt%の間であり、2〜20wt%の間がより好ましいことを特徴とする。これは、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定される。芳香族ブロック上の1個のみ及び2個のみの二重結合の数を測定するための、この平均重量百分率を以下DB%と略称する。DB%の測定方法は、後述する。第1の水素化ポリマーはさらに、水素化共役ジエンブロックの平均水素化率が95%より大きく、水素化芳香族ビニルブロックの平均水素化率が20%〜90%の間であり、25%〜80%の間がより好ましく、30%〜60%の間がさらに好ましいことを特徴とする。平均水素化率の測定にはUV−VIS分光光度計を使用し、これは当業者の常用の方法である。第1の水素化ポリマーの化学構造を以下に示すが、これらに限定されない。
【0018】
【化1】

【0019】
図1にも、本発明の第1の水素化ポリマーのいくつかの態様例を示す。第1の水素化ポリマーは、水素化ブロックコポリマーの総重量に対して5wt%〜95wt%の水素化芳香族ビニルポリマー及び5wt%〜95wt%の水素化共役ジエンポリマーを含む。1つの実施態様において、芳香族ビニルモノマーはスチレンであり、共役ジエンモノマーはブタジエンまたはイソプレンである。また1つの実施態様において、水素化ポリブタジエンポリマーは、ポリブタジエンの水素化によって得られる。1つの実施態様において、水素化共役ジエンポリマーは、水素化ポリイソプレンである。ただし、本発明のモノマーはスチレン、ブタジエン及びイソプレンに限られず、上述のあらゆる適切な誘導体はすべて本発明に用いることができることに注意すべきである。例えば、水素化芳香族ビニルブロックのモノマーは、スチレン(styrene)、メチルスチレン(methylstyrene)のあらゆる異性体、エチルスチレン(ethylstyrene)のあらゆる異性体、シクロヘキシルスチレン(cyclohexylstyrene)、ビニルビフェニル(vinyl biphenyl)、1−ビニル−5−ヘキシルナフタレン(1−vinyl−5−hexyl naphthalene)、ビニルナフタレン(vinyl naphthalene)、ビニルアントラセン(vinyl anthracene)及びこれらの任意の組み合わせから構成される群から独立して選択することができる。水素化共役ジエンブロックのモノマーは、1,3−ブタジエン(1,3−butadiene)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン (2,3−dimethyl−1,3−butadiene)、3−ブチル−1,3−オクタジエン(3−butyl−1,3−octadiene)、イソプレン(isoprene)、1−メチルブタジエン (1−methylbutadiene)、 2−フェニル−1,3−ブタジエン(2−phenyl−1,3−butadiene)及びこれらの任意の組み合わせから構成される群から独立して選択することができる。
【0020】
第2の水素化ポリマー
第2類は、第2の水素化ポリマーであり、少なくとも1つの水素化芳香族ビニルブロックを主に含む(essentially consisting)。つまり、第2の水素化ポリマーは、水素化共役ジエンブロックを含まない。第2の水素化ポリマーの総重量平均分子量(Mw)は5,000〜150,000の間であり、5,000〜100,000の間がより好ましい。総重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィ−(gel permeation chromatography;GPC)を使用するが、これは当業者に常用の方法である。第2の水素化ポリマーは、炭素環上に1個のみ及び2個のみの二重結合を有する水素化芳香族ビニルブロックの平均重量百分率(DB%)が前記第2の水素化ポリマーの総重量の1〜30wt%の間が好ましく、2〜20wt%の間がより好ましく、2〜15wt%の間を最良とすることを特徴とする。DB%は核磁気共鳴装置(NMR)を使用して測定される。DB%の測定方法は後述する。第2の水素化ポリマーはさらに、水素化芳香族ビニルブロックの平均水素化率が20%〜90%の間であり、25%〜80%の間が好ましく、30%〜60%の間がより好ましいことを特徴とする。平均水素化率は、UV−VIS分光光度計を使用して測定され、これは当業者の常用の方法である。
【0021】
1つの実施態様において、芳香族ビニルのモノマーはスチレンであるが、本発明のモノマーはスチレンに限定されず、上述のあらゆる適切な誘導体はすべて本発明に用いることができる。例えば、水素化芳香族ビニルブロックのモノマーは、スチレン(styrene)、メチルスチレン(methylstyrene)のあらゆる異性体、エチルスチレン(ethylstyrene)のあらゆる異性体、シクロヘキシルスチレン(cyclohexylstyrene)、ビニルビフェニル(vinyl biphenyl)、1−ビニル−5−ヘキシルナフタレン(1−vinyl−5−hexyl naphthalene)、ビニルナフタレン(vinyl naphthalene)、ビニルアントラセン(vinyl anthracene)及びこれらの任意の組み合わせから構成される群から独立して選択することができる。
【0022】
第1の水素化ポリマーの製造プロセス
図2に、本発明の1つの実施態様に基づく第1の水素化ポリマーの製造プロセスを示す。この実施態様において、プロセスは、工程201〜205の手段で行われるが、これらに限定されない。工程201:重合反応を行ってブロックコポリマーを形成する、工程202:異物を濾過する、工程203:ブロックコポリマーを部分水素化する、工程204:リサイクル使用のため触媒を回収する、工程205:溶媒を除去する。本明細書の詳細な説明は例示の目的にのみ記述するものであり、本発明はこれに限定されないことに注意が必要である。例えば、本発明は、プロセスを実行するための特定の順番は必要ではない。工程201では、例えば有機リチウム化合物を重合開始剤として使用し、ブロックコポリマーを形成する。工程202では、重合反応が完了した後、有機リチウム化合物を選択的に除去することができる。一部の実施態様において、ブロックコポリマーの重量平均分子量の範囲は5,000〜400,000の間であり、5,000〜200,000の間がより好ましく、20,000〜100,000の間を最良とする。1つの実施態様において、ブロックコポリマーは芳香族ビニルポリマーブロック−共役ジエンポリマーブロック−芳香族ビニルポリマーブロックのトリブロックコポリマーである。別の実施態様において、ブロックコポリマーは、芳香族ビニルポリマーブロック−共役ジエンポリマーブロック−芳香族ビニルポリマーブロック−共役ジエンポリマーブロック−芳香族ビニルポリマーブロックのペンタブロックコポリマーである。1つの実施態様において、ブロックコポリマーのうち芳香族ビニルポリマーブロックの共役ジエンポリマーブロックに対する重量比は約5: 95〜約95:5であり、約10:90〜約90:10がより好ましい。
【0023】
続いて、工程203では、水素化触媒が存在する状況下で、芳香族ビニルポリマーブロック及び共役ジエンポリマーブロックを有するブロックコポリマーと、水素化試剤(例えば水素ガス)を接触させて水素化し、水素化率が20%を超え、90%未満である部分水素化したブロックコポリマーを含むポリマー溶液が得られる。水素化触媒は周期表の遷移金属VIII族の元素を含み、パラジウム、ルテニウム、及びニッケルから構成される群から選択することが好ましい。これら水素化触媒の担体は、BaSO4、Al2O3、TiO2、ZrO2、活性炭及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。また、水素化触媒の担体の孔径が500オングストロームより大きいとき、接触面積が比較的高いため、容易に水素化率が高くなる傾向がある。このため、水素化触媒の担体の孔径の分布は500オングストローム未満のみとすべきである。孔径の分布は気体吸着脱着等温線で測定でき、これは当業者の常用の方法である。この実施態様では、続いて工程204を行い、触媒をポリマー溶液中から濾過する。その後、ポリマー溶液中に、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(hindered phenolic antioxidant)などの抗酸化剤を加えることができる。
【0024】
続いて工程205を行い、温度条件を200℃〜300℃の間、圧力条件を1Bar〜10Barの間とし、瞬間揮発(flash devolatilization)技術を利用して溶媒をポリマー溶液中から除去し、濃縮したポリマー溶液を得る。この濃縮したポリマー溶液中に残留する溶媒は、濃縮したポリマー溶液の総重量の1wt%〜50wt%を占めることができる。100torr未満、好ましくは10torr未満の圧力で、気化器により残留した溶媒を濃縮したポリマー溶液中から除去し、水素化ブロックコポリマーを単離する。気化器は二軸押出機または薄膜蒸発器とすることができる。この実施態様では、二軸押出機を200℃〜300℃の温度下で使用して行う。
【0025】
第2の水素化ポリマーの製造プロセス
図3に本発明の1つの実施態様である、第2の水素化ポリマーの製造プロセスを示す。この実施態様において、プロセスは工程301〜305により実行されるが、これらに限定されない。工程301:重合反応を行いポリマーを形成する、工程302:異物を除去する、工程303:ポリマーを部分水素化する、工程304:リサイクル使用のため触媒を回収する、工程305:溶媒を除去する。以下、詳細な説明で述べるものは、例示の目的のみのものであり、本発明はこれに限定されないことに注意が必要である。例えば、このプロセスを実行するための特定な順番は必要とされない。工程において、例えば有機リチウム化合物を重合開始剤として使用し、芳香族ビニルポリマーを形成する。重合反応が完了した後、工程302では、有機リチウム化合物を任意に濾過する。一部の実施態様において、芳香族ビニルポリマーの重量平均分子量の範囲は、5,000〜150,000の間であり、5,000〜100,000の間がより好ましい。
【0026】
続いて、工程303では、水素化触媒が存在する状況下で芳香族ビニルポリマーと水素化試剤(例えば水素ガス)を接触させてポリマー溶液を得、このポリマー溶液は水素化率が20%を超え、90%未満である部分水素化したブロックコポリマーを含んでいる。水素化触媒は、周期表の遷移金属VIII族の元素が挙げられ、パラジウム、ルテニウム、及びニッケルから構成される群から選択することが好ましい。これら水素化触媒の担体としては、BaSO4、Al2O3、TiO2、ZrO2、活性炭及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。水素化触媒の担体の孔径が500オングストロームより大きいとき、接触表面積が高いため、水素化率が高くなる傾向があり、このため、水素化触媒の担体の孔径分布は好ましくは500オングストローム未満のみとすることに留意すべきである。孔径分布は、気体吸着脱着等温線を用いて測定でき、これは当業者に常用のものである。この実施態様は続いて工程304を行い、触媒をポリマー溶液中から濾過する。その後、ポリマー溶液中に例えばヒンダードフェノール系抗酸化剤(hindered phenolic antioxidant)などの抗酸化剤を加える。
【0027】
続いて工程305を行い、温度条件は200℃〜300℃の間、圧力条件は1Bar〜10Barの間とし、瞬間揮発(flash devolatilization)技術を利用して溶媒をポリマー溶液中から除去し、濃縮したポリマー溶液を得る。この濃縮したポリマー溶液中に残留する溶媒は、濃縮したポリマー溶液の総重量の1wt%〜50wt%である。100torr未満、好ましくは10torr未満の圧力下で、気化器により残留した溶媒を濃縮したポリマー溶液中から除去し、水素化ポリマーを単離する。気化器は二軸押出機または薄膜蒸発器でもよい。この実施態様では、濃縮したポリマー溶液は、200℃〜300℃の温度下で二軸押出を行う。
【0028】
以下、第1の水素化ポリマーの好ましい実施例である、実施例1〜7を示す。
【実施例】
【0029】
(実施例1:水素化トリブロックコポリマー)
A.重合
本実施例の重合プロセスはシクロヘキサンを溶媒として用い、その中に少量のテトラヒドロフラン(THF)を添加して極性を調節し、かつセカンダリ−ブチルリチウムを重合開始剤とする。反応性モノマーはスチレン、ブタジエンまたはイソプレンとする。溶媒、促進剤及びモノマーは、先に活性アルミナ(Activated Alumina)で精製することができる。反応は、撹拌器を備えたオートクレーブ中で行う。反応プロセスを概述すると、以下のような工程となる。
1.1 シクロヘキサン1100gとTHF4gを加える。
1.2 温度50℃まで加熱する。
1.3 スチレン22.3gを加える。
1.4 開始剤を5.5g加えて反応を開始させる。
1.5 反応を30分間持続させる。
1.6 ブタジエン93.3gを加える。
1.7 反応を60分間持続させる。
1.8 スチレン22.3gを加える。
1.9 反応を30分間持続させる。
1.10 メタノール0.2gを終止剤として加えて反応を終止させる。
【0030】
その後、重量平均分子量が22,000のポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロックコポリマーを含む1245gの溶液が得られる。この実施例において、スチレンモノマー及びブタジエンモノマーは異なるタイミングで分けて加えられる。その他実施例において、スチレンモノマー及びブタジエンモノマーを同時に加えてランダムコポリマー(random type copolymers)を取得することもできる。
【0031】
B.部分水素化
2.1 トリブロックコポリマー溶液200mlをオートクレーブ中に加える(総固形分:12%)。
2.2 Ru−Al2O3触媒(Al2O3を担体とすし、10%のRuを含む)3.0gを加える。
2.3 5倍量の窒素ガス及び3倍量の水素ガスでパージする。
2.4 水素ガスの圧力を60kg/cm2とする。
2.5 加熱して温度を170℃に維持する。
2.6 反応を200分間持続させる。
【0032】
(実施例2:水素化ペンタブロックコポリマー)
A.重合
1.1 シクロヘキサン2320g及びTHF6.9gを加える。
1.2 温度50℃まで加熱する。
1.3 スチレン40.95gを加える。
1.4 開始剤を6.8g加えて反応を開始させる。
1.5 反応を30分間持続させる。
1.6 ブタジエン143.3gを加える。
1.7 反応を45分間持続させる。
1.8 スチレン40.95gを加える。
1.9 反応を30分間持続させる。
1.10 ブタジエン143.3gを加える。
1.11 反応を45分間持続させる。
1.12 スチレン40.95gを加える。
1.13 反応を30分間持続させる。
1.14 メタノール0.2gを終止剤として加え、反応を終止する。
【0033】
その後、重量平均分子量が65,000のポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンのペンタブロックコポリマーを含む2736gの溶液が得られる。
【0034】
B.部分水素化
2.1 ペンタブロックコポリマー溶液2000 mlをオートクレーブ中に加える(総固形分:7%)。
2.2 Pd−C触媒(Pd−C:活性炭を担体とし、10%のパラジウムを含む)3.5gを加える。
2.3 5倍量の窒素ガス及び3倍量の水素ガスでパージする。
2.4 水素ガスの圧力を38kg/cm2とする。
2.5 加熱して温度を170℃に維持する。
2.6 反応を240分間持続させる。
【0035】
上述の水素化ブロックコポリマーは適切なサンプリングを行い、FT−IR及びH−NMR処理を行ってその細部構造を分析することができる。
【0036】
FT−IR分析(ペンタブロックSBSBSコポリマー)
図4に水素化ブロックコポリマー及びそのベースのポリマー(即ち、水素化を行っていないポリマー)のFT−IRスペクトル図を示す。ベースのポリマーと比較して、水素化ブロックコポリマーはトランス及びビニル構造の比較的はっきりしない吸収帯があり、これはポリブタジエンのC−C二重結合のほとんどが水素化されていることを表す。約1400cm−1の箇所に新しく特有の吸収ピークがあり、これはシクロヘキセンのCH2の変角を表すことができる。
【0037】
H−NMR分析(ペンタブロックSBSBSコポリマー)
図5に水素化ブロックコポリマーのH−NMRスペクトル図を示す。これは、SBSBSペンタブロックコポリマー上の大部分のポリブタジエンが水素化されていることを示す。図5において、6.0〜7.5ppmの範囲の一定のNMRピークは、水素化工程中に水素化されなかったスチレン基の吸収ピークを表す。5.0〜5.5ppmの範囲の新しく特有のNMRピークは、水素化ブロックコポリマーの芳香族部分が部分的に水素化されていることを表す。5.0〜5.3ppmの範囲のピークは、水素化工程中に生じるビニルシクロヘキサジエン(vinyl−cyclohexadiene)基(即ち、2個の二重結合を有する)の吸収を表す。5.3〜5.5ppmの範囲のピークは、水素化工程中に生じるビニルシクロヘキセン(vinyl cyclohexene)基(即ち、1個の二重結合を有する)の吸収を表すと考えられる。
【0038】
本明細書でいう水素化ポリマーのDB%は、核磁気共鳴装置(NMR)を使用して測定される。以下、図5を参照し、実施例2で得られるペンタブロック水素化コポリマーについて、DB%の測定方法を説明する。まず、この実施例において、DB%ビニルシクロヘキセンは、1個のみの二重結合を炭素環上に有する割合を表し、DB%ビニルシクロヘキサジエンは2個の二重結合を炭素環上に有する割合を表すことを理解しておく必要がある。DB%は以下の式で得られ、ここで、Rは水素化される前のポリマーの総量に対するスチレンモノマーの割合を表し、Sは水素化されたポリマーの総量に対するスチレン基の割合を表す。Sは水素化されたポリマー中のスチレン基の未水素化率と見なすことができ、UV−VISにより測定された水素化率から得ることができる。
DB% =(DB%ビニルシクロヘキセン+DB%ビニルシクロヘキサジエン)×R、
DB%ビニルシクロヘキセン=(5/2)×S×(H−NMRスペクトル中のビニルシクロヘキセン基のシグナルの積分面積/H−NMRスペクトル中の水素化工程中に水素化されなかったスチレン基のシグナルの積分面積)×(108/104)
DB%ビニルシクロヘキサジエン=(5/4)×S×(H−NMRスペクトル中のビニルシクロヘキサジエン基のシグナルの積分面積/H−NMRスペクトル中の水素化工程中に水素化されなかったスチレン基のシグナルの積分面積)×(106/104)。
【0039】
水素化トリブロックコポリマーについてのDB%の測定方法は、上述と同様の方法により、得ることができる。
【0040】
NMR分析(トリブロックSBSコポリマー)
図7に、水素化トリブロックコポリマーのH−NMRスペクトル図を示す。
【0041】
NMR分析(トリブロックSBSコポリマー)
図8に、水素化トリブロックコポリマーの2D H−MBC(Heteronuclear multiple bond coherence)のスペクトル図を示す。
【0042】
NMR分析(トリブロックSBSコポリマー)
図9に、水素化トリブロックコポリマーの2D COSY(correlation spectroscopy)のスペクトル図を示す。
【0043】
実施例1〜2の詳細と類似しているため、実施例3〜7の詳細は省略する。表1に実施例1〜7の測定結果を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
以下に第2の水素化ポリマー製造の好ましい実施例である、実施例8〜13を説明する。
【0046】
(実施例8:水素化ポリスチレン)
A.重合
重合プロセスはシクロヘキサンを溶媒として使用し、その中に少量のテトラヒドロフラン(THF)を添加して極性を調節し、セカンダリ−ブチルリチウムを重合開始剤とする。反応性モノマーは、スチレンとする。溶媒、促進剤及びモノマーは活性アルミナ(Activated Alumina)で精製しておくことができる。反応は、撹拌器を備えたオートクレーブ中で行う。反応プロセスは、おおよそ以下の工程のようになる。
1.1 シクロヘキサン1100g及びTHF1gを加える。
1.2 温度45℃まで加熱する。
1.3 スチレン150gを加える。
1.4 開始剤4.61gを加えて反応を開始させる。
1.5 反応を30分間持続させる。
1.6 メタノール0.2gを加えて終止剤とし、反応を終止させる。
その後、重量平均分子量(Mw)15,400のポリスチレンを含む1250gの溶液が得られる。
【0047】
B.部分水素化
2.1 ポリスチレン溶液1100 mlをオートクレーブ中に加える(総固形分:12%)。
2.2 Ru/Al2O3触媒(Ru/Al2O3:Al2O3を担体とし、10%のルテニウムを含む)3.5gを加える。
2.3 5倍量の窒素ガスおよび3倍量の水素ガスでパージする。
2.4 水素ガスの圧力を60kg/cm2とする。
2.5 加熱して温度を170℃に維持する。
2.6 反応を160分間持続させる。
【0048】
図6に、実施例8で得た部分水素化ポリスチレンのH−NMRスペクトル図を示す。実施例8の詳細と類似しているため、実施例9〜13の詳細は省略する。下記表2に実施例8〜13の測定結果を示す。水素化ポリスチレンについての測定方法は上述と同様の方法により得ることができる。ポリスチレンにおいて、R(即ち、水素化される前のポリマーの総量に対するスチレンモノマーの割合)は1に等しいことに注意する。
【0049】
【表2】

【0050】
本発明はまた、前述の線形ブロックコポリマーから得られる星型ブロックコポリマーの部分水素化を含む。星型ブロックコポリマーはマルチコアを有することができ(即ち、ポリアルケニルカップリング剤)、及びポリマーアームとコアが連結される。ポリマーアームは共役ジエンまたは芳香族ビニルのホモポリマーまたはコポリマーを含む。星型ブロックコポリマーは、活性リチウム原子がポリマー鎖の1つの末端にある線形ブロックコポリマーを形成し、このポリマー鎖の両末端を多官能性化合物とカップリングし、このポリマー鎖を多官能性化合物の各官能基に加える、という工程で作製することができる。
【0051】
水素化コポリマーの応用
本発明の別の応用は、水素化ブロックコポリマーを官能性化合物と反応させることにより、官能化水素化ブロックコポリマーを提供する。適した官能性化合物には、酸無水物(acid anhydride)、酸ハロゲン化物(acid halides)、酸アミド(acid amide)、スルホン(sulfones)、オキサゾリン(oxazolines)、エポキシ化合物(epoxies)、イソシアネート(isocyanates)及びアミノ基(amino group)が含まれる。例えば、官能性化合物はカルボキシル基及びその誘導基を有することができ、例えばカルボキシル基及びその塩、またはエステル基、アミド基、及び酸無水物基等とすることができる。官能化反応はラジカル反応開始剤がある状況下で行うことができ、ラジカル反応開始剤は過酸化物やアゾ化合物等とすることができる。官能基は水素化ブロックコポリマーの環に結合することができる。官能性水素化ブロックコポリマーは改質剤として用いることができ、熱可塑性樹脂中の無機填料の分散性、極性、反応特性、耐熱性を改善できる。
【0052】
以上の詳細な説明は本発明の特定の好ましい実施例に基づくものであり、これらの記載は、本明細書に開示された特定の形態に、本発明を限定するものではない。
【0053】
即ち、これらの記載は限定ではなく、例示として認識すべきであり、本発明がそのように限定されるものではないことは、当業者には明白であろう。本発明の最も広い形態における精神及び範囲から逸脱せず、様々な変更、置き換え及び代替が可能であることを、当業者は理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ポリマーであって、
少なくとも1つの水素化共役ジエンブロックと、
少なくとも1つの水素化芳香族ビニルブロックを含み、前記水素化芳香族ビニルブロックが前記水素化ポリマーの主鎖に結合された炭素環を有し、
前記炭素環に1個のみ及び2個のみの二重結合を有する前記水素化芳香族ビニルブロックの平均重量百分率が、前記水素化ポリマーの総重量の1〜30wt%の間であることを特徴とする、水素化ポリマー。
【請求項2】
前記炭素環に1個のみ及び2個のみの二重結合を備えている前記水素化芳香族ビニルブロックの平均重量百分率が、前記水素化ポリマーの総重量の2〜20wt%の間であることを特徴とする、請求項1に記載の水素化ポリマー。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニルブロックの平均水素化率が20%〜90%の間であり、且つ前記水素化共役ジエンブロックの平均水素化率が95%より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の水素化ポリマー。
【請求項4】
ポリマーの部分水素化方法であって、少なくとも1つの芳香族ビニルブロック及び少なくとも1つの共役ジエンブロックを有するポリマーを用意する工程、及び
不均一系触媒が存在する状況下で前記ポリマーを水素化して請求項1に記載の水素化ポリマーを得る工程を含み、
前記不均一系触媒が担体上に位置し、前記担体がBaSO、Al、TiO、ZrO、活性炭及びこれらの任意の組み合わせから構成される群から選択されることを特徴とする、ポリマーの部分水素化方法。
【請求項5】
前記不均一系触媒が、パラジウム、ルテニウム、ニッケル及びこれらの任意の組み合わせから構成される群から選択される金属を含むことを特徴とする、請求項4に記載のポリマーの部分水素化方法。
【請求項6】
前記担体が、500オングストローム未満のみの孔径分布を有することを特徴とする、請求項4に記載のポリマーの部分水素化方法。
【請求項7】
水素化ポリマーであって、少なくとも1つの水素化芳香族ビニルブロックを含み、前記水素化芳香族ビニルブロックが前記水素化ポリマーの主鎖に結合された炭素環を有し、
前記炭素環に1個のみ及び2個のみの二重結合を有する前記水素化芳香族ビニルブロックの平均重量百分率が、前記水素化ポリマーの総重量の1〜30wt%の間であることを特徴とする、水素化ポリマー。
【請求項8】
前記炭素環に1個のみ及び2個のみの二重結合を有する前記水素化芳香族ビニルブロックの平均重量百分率が、前記水素化ポリマーの総重量の2〜20wt%の間であることを特徴とする、請求項7に記載の水素化ポリマー。
【請求項9】
前記水素化芳香族ビニルブロックの平均水素化率が、20%〜90%の間であることを特徴とする、請求項7に記載の水素化ポリマー。
【請求項10】
ポリマーの部分水素化方法であって、
少なくとも1つの芳香族ビニルブロックを有するポリマーを用意する工程、及び
不均一系触媒が存在する状況下で前記ポリマーを水素化して請求項7に記載の水素化ポリマーを得る工程を含み、
前記不均一系触媒が担体上に位置し、前記担体がBaSO、Al、TiO、ZrO、活性炭及びこれらの任意の組み合わせから構成される群から選択されることを特徴とする、ポリマーの部分水素化方法。
【請求項11】
前記不均一系触媒が、パラジウム、ルテニウム、ニッケル及びこれらの任意の組み合わせから構成される群から選択された金属を含むことを特徴とする、請求項10に記載のポリマーの部分水素化方法。
【請求項12】
前記担体が、500オングストローム未満のみの孔径分布を有することを特徴とする、請求項10に記載のポリマーの部分水素化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−57981(P2011−57981A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−192164(P2010−192164)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(510168117)ティーエスアールシー コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】