説明

ブロック官能化方法

エポキシ樹脂は、1段階プロセスによりカーボンナノチューブ(CNT)に化学的に結合され、前記1段階プロセスにおいて、エポキシポリマー、CNT、及びスチレンやMMA等のリビングポリマーを形成可能な化合物である架橋剤を含む反応混合物が形成され、その反応混合物中でラジカル形成が開始される。エポキシポリマー又はモノマーが架橋剤の中間ブロックを介してCNT上にグラフトする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノテクノロジー分野に関する。より詳細には、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノチューブをエポキシ樹脂のような構造材料に結合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、グラフェン(graphene)シートから形成され、一般的に孔径に対する長さの比率が約1000を超えるほぼ円筒形の中空構造である。それらは、例えばナノテクノロジー、電子工学、光学、及びその他の材料科学分野への適用に潜在的に有用な特殊な性質を有する。それらは極めて優れた機械的、熱的及び電気的特性を示す。それらの直径は数ナノメートルオーダーであり、長さは数ミリ以内である。その構造を形成する円筒形のグラフェンシートの数に基づき、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が存在する。
【0003】
多数の用途、特に複合材料の用途において使用するために、CNTは熱硬化性複合材料中でエポキシ樹脂等の他の構造材料に結合される必要がある。このため、即ち表面での化学官能基のグラフトのために、官能化が不可欠である。SWCNTでは、共有結合による官能化は炭素−炭素二重結合のいくつかを破壊し、ナノチューブ構造の孔を効果的に残存させ、その結果、機械的及び電気的特性が変化する。DWNTでは、外側の層だけが変性する。
【0004】
先行技術の簡単な説明
エポキシ樹脂へのCNTの結合は、一般的に少なくとも2つの段階を要する。即ち、CNTの官能化、及びそれに続くエポキシ樹脂との反応である。しかしながら、有用な機能を得るためのCNTの官能化それ自体が複数の段階を要する場合もある。1段階で結合されたCNTを有するエポキシ樹脂を作製することが好ましい。
【0005】
CNTをエポキシ樹脂に結合するための公知の1段階方法はない。3つ以上の段階を含む方法により結合を形成することも可能である。例えば、
多数段階例1:
段階1:SWCNT+Li/NH→LiインターカレートSWCNT
段階2:LiインターカレートSWCNT+X−R−NH→SWCNT−R−NH+LiX(X=Br,I)
段階3:SWCNT−R−NH+エポキシ樹脂→SWCNT官能化樹脂
(段階1及び2は非特許文献1に基づく。)
多数段階例2:
段階1:SWCNT+4−ヒドロキシメチル−アニリン+亜硝酸イソアミル→SWCNT−R−OH+他の生成物
段階2:SWCNT−R−OH+Na→SWCNT−R−ONa+H
段階3:SWCNT−R−ONa+エポキシ樹脂→SWCNT官能化樹脂
(段階1及び2はTourらの論文、例えば非特許文献2に基づく。)
しかし、多数段階官能化の作業は長時間かつ高コストであり、また、いくつかの段階は不活性雰囲気の環境を必要とする。更に、それはSWCNTの製造コストよりも高い。従って、段階数を削減することが望まれている。
【0006】
アニオン性前駆体により開始されるイン・サイチュラジカル重合によるポリスチレンのグラフトがQinらにより実証されている(非特許文献3)。ガンマ線照射により開始されるスチレンのイン・サイチュ重合がXuらにより実証されている(非特許文献4)。Qinらはまた、付加環化反応を介する官能化ポリスチレンのグラフトも実証した(非特許文献5)。
【0007】
アクリレート誘導体の結合も実証されている。例えば、超音波処理によるアクリレートのイン・サイチュ重合がMWCNTについてXiaらにより実証されている(非特許文献6)。より最近では、Liangらが液体アンモニア中におけるMMAのLiインターカレートSWCNT上へのイン・サイチュ重合を実証した(非特許文献7)。
【0008】
更に、背景として興味深いのは、Zhuら(非特許文献8)及び下記の式、
【0009】
【化1】

また、ここで「先行技術」図Aに記載されたスキームによる、Matrabら(非特許文献9)によって報告された臭素化MWCNT上へのポリスチレン及びPMMAのグラフトである。
【0010】
しかし、その反応は1段階ではない。SWCNTは最初に−COOH又はジアゾニウム誘導体、又は他の処理によって官能化される必要がある。
その上、これらの方法は一般にカーボンナノチューブとスペーサ骨格との間のスペーサ長の単純な調節を許容していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Liang et al.,NanoLetters,4,1257(2004)
【非特許文献2】C.A.Dyke and J.M.Tour,J.Am.Chem.Soc.,125,1156(2003)
【非特許文献3】Qin et al.,Chem Mat,17,2131(2005)
【非特許文献4】Xu et al.,Chem Mat,18,2929(2006)
【非特許文献5】Qin et al.,Macromolecules,37,752(2004)
【非特許文献6】Xia et al.,Chem Mat,15,3879(2003)
【非特許文献7】Liang et al.,Chem Mat,18,4764(2006)
【非特許文献8】Zhu et al.,Nanoletter,3,1107(2003)
【非特許文献9】Matrab et al.,Colloids and Surfaces A:Physicochem.Eng.Aspects,287,217(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、CNTを官能化し、それらをエポキシ樹脂に結合する新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
CNTをエポキシ樹脂モノマー又はポリマーに1段階で結合するための、スチレン及びメチルメタクリレート(MMA)のようなラジカル生成架橋剤を使用可能な方法が提供される。この方法は、SWCNTを含む中性カーボンナノチューブを用いて実施することができる。架橋剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基に伝搬するラジカル攻撃を通してCNTに固着する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】Matrabらによって説明された先行技術プロセスの概略図である。
【図2】本発明によるプロセスの一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記プロセスは、添付の図面の図2に示されるように図式化される。ラジカル生成架橋剤12及びエポキシ樹脂14の混合物中のCNT10は開始反応に供され、開始剤の二重結合の開裂をもたらし、ラジカルを生成する。これらは一方の端部でCNT10と反応し、他方の端部でエポキシ樹脂14と反応して架橋基を形成し、1段階で生成されるエポキシ−CNT結合生成物16をもたらす。
【0016】
前記開始は熱により、カチオンにより、または光分解により誘起されてもよい。架橋単位(例えばスチレン又はMMA)部分の長さは架橋剤及びエポキシ樹脂のモル比を調節することにより調整される。架橋剤の長さは、溶解性又は用途によって要求される他の特性を決定するために調整される。
【0017】
オレフィン(エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等)及びそれらの誘導体(アクリル酸、アクリレート、メタクリレート、エタクリレート、アクリロニトリル等)、ラクトン、ラクタムのような重合性モノマー等の任意の適切な架橋剤を使用することができる。適切なものであるためには、架橋剤はリビングポリマーを形成可能でなければならない。ラジカルを容易に開始させる架橋剤(スチレン及びMMA等)が好ましい。本明細書において「エポキシ樹脂」という用語は、エポキシ基を有し、かつ本明細書で説明されるCNTに対するブロック官能化が可能な任意の分子種を意味する。
【0018】
「n」(図2)の値は停止剤に対するモノマーの濃度比率によって調整される。ここで、モノマーはオレフィンであり、停止剤はエポキシ樹脂である。「n」は、好ましくは1〜10000、10〜8000、50〜50000、又は100〜2000である。
【0019】
本発明の一実施形態において、1段階でカーボンナノチューブを官能化する方法が提供される。
本発明の一実施形態において、(荷電していない)中性カーボンナノチューブを官能化する方法が提供される。
【0020】
本発明の一実施形態において、官能化カーボンナノチューブが提供される。
本発明の一実施形態において、少なくとも2つの「ブロック」、即ち[ブロック1]及び[ブロック2]の付加により官能化されたCNTが提供され、ここで[ブロック1]は架橋剤であり、[ブロック2]はエポキシ樹脂である。一実施形態において、官能化CNTは一般構造CNT[ブロック1][ブロック2](但し、n及びmは等しいか、又は一方が他方よりも大きい)を有する。
【0021】
いくつかの例において、CNT[[ブロック1]n[ブロック2]m]p構造(但し、pは1以上である)を形成することが望ましい。これは本方法を用いることにより達成され得る。
【0022】
しかしながら、殆どの場合、エポキシ樹脂の適用においてp=1が好ましい。これは化学量論又は試薬量の制御を通して調節され得ることが明らかであろう。
前記プロセスは、CNT−ブロック1の2つの異なる活性種が、同じエポキシ分子(モノマー又はポリマー鎖)の2つのエポキシ基を攻撃するように実施され、それによりCNTの間に架橋が生じる。これは化学量論又は試薬量の制御を通して調節され得ることが明らかであろう。
【0023】
本発明の一実施形態において、スチレン又はメチルメタクリレートのような架橋剤と共有結合したSWCNTを含む樹脂が提供される。
本発明の一実施形態において、架橋剤に共有結合したカーボンナノチューブを含む反応中間体が提供される。
【0024】
本明細書に記載される方法は、SWCNTとエポキシ樹脂骨格との間のスペーサ長を調節可能であり、そのため可塑剤の添加を必要とすることなく強靭性を調整し、また様々な溶媒中での官能化SWCNTの溶解性を調節することができる。
【実施例】
【0025】
化学名MY0510はトリグリシジル−p−アミノフェノールであり、ハンツマンケミカル社(Huntsman Chemical)から入手可能である。
樹脂MY0510の分子構造は下記の通りである。
【0026】
【化2】

実施例1:熱により誘起される開始
56mgのSWCNTを数滴のTHFと共に粉砕機で粉砕し、その混合物を超音波槽内の少量のTHF中で1時間超音波処理した。窒素フローによりTHFを除去した後、新たに蒸留したスチレン10ml(9.51g)及び市販のMY0510樹脂1.08gを粉末に加え、N下で1.5時間超音波処理し、その後室温で一晩攪拌した。混合物を3日間60〜70℃に加熱した。続いて、混合物をTHFで希釈して超音波処理し、さらに9000RPMで50分間遠心分離した。沈殿物をTHFで洗浄し、もう一度遠心分離した。固形物をTHF中に再分散させた。黒色のTHF溶液が形成され、それは安定であった。生成物は、エポキシ樹脂に結合された官能化SWCNTを含有することが確認された。
【0027】
ラマン分光法、官能化SWNTの固定、及び溶解性の向上から、官能化が生じたことが確認された。
実施例2:カチオンによる開始
50mgのSWCNTを数滴のTHFと共に粉砕機で粉砕し、その混合物を、シュレンク管内の25mlのTHF中、窒素下で0.5時間超音波処理した。(シクロヘキサン中1.4Mの)sec−ブチルリチウム1mlをよく分散された混合物に−78℃で添加した。1時間攪拌した後、MY0510の溶液及び10mlのTHF中の新たに蒸留したスチレンを添加した。混合物をドライアイス温度にて一晩攪拌した後、室温まで加温し、更に3日間攪拌した。混合物をTHFで90mlに希釈し、9000RPMで30分間遠心分離した。液体層は僅かに黒色で、これを廃棄した。沈殿物をもう一度THFで洗浄し、液相を廃棄した。沈殿物を100mlのCHClに挿入した。短時間の超音波処理及び9000rpmで30分間の遠心分離の後、非常に不透明かつ黒色の溶液が得られた。生成物は、エポキシ樹脂に結合された官能化SWCNTを含有することが確認された。
【0028】
実施例3:光により誘起される開始
50mgのSWCNTを数滴のTHFと共に粉砕機で粉砕し、その混合物を、25mlのTHFを入れたシュレンク管に移した。超音波槽内で0.5時間超音波処理した後、10mlのTHF中のよく混合されたスチレン及びMY0510の溶液を添加した。混合液にArをスパージし、1時間超音波処理した後、248nmのレーザ照射にさらした(KrF、円形アパーチャ及びレンズ間は275mJ及び210mJ、10Hzで8分間及び30Hzで8分間)。照射の後、混合物を室温で2日間攪拌した。混合物を総量50mlに達するまでTHFで希釈し、数分間超音波処理した後、9000RPMで30分間遠心分離した。液相は黒色であったが透明であり、これを廃棄した。沈殿物をTHF(50ml)で洗浄し、超音波処理/遠心分離サイクルを行った後、液相は濃い黒色かつ極めて不透明であった。生成物は、エポキシ樹脂に結合された官能化SWCNTを含有することが確認された。
【0029】
本明細書で用いられる「ブロック官能化」という用語は、分子の一つの「ブロック」がCNTに結合され、かつ別の異なる「ブロック」がその最初のブロックに結合するような化学的官能化を意味する(その反応はこの段階を過ぎても継続し得る)。図式的には以下の通りである。
【0030】
SWNT−[ブロック1]−[ブロック2]
本実施例のブロック1はポリスチレン又はPMMAであり、ブロック2はエポキシ樹脂である。このことは、2つのブロックが別々に、かつ直接的にSWCNT骨格に結合している場合とは大きく異なる。そのような場合は多官能化と称され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂モノマー又はポリマーをカーボンナノチューブ(CNT)に化学的に結合させ、その化学的に結合されたCNTの溶解性及び可塑性を調整する1つの反応段階による方法であって、
エポキシポリマー又はモノマー、CNT、及びリビングポリマーを形成する化合物である架橋剤を含む反応混合物を形成する工程、及び
前記反応混合物中でラジカル形成を開始する工程からなり、
前記エポキシポリマー又はモノマーは架橋剤の中間ブロックを介してCNTにグラフトする方法。
【請求項2】
前記ポリマー又はモノマーはエポキシ樹脂である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記開始する工程が、ラジカルにより、熱により、カチオンにより、又は光分解により誘起される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋剤は、オレフィン、オレフィン誘導体、ラクトン又はラクタムである請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記架橋剤はスチレンである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記架橋剤はメチルメタクリレートである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
エポキシ樹脂に対する架橋剤の濃度比率を調整することにより、1〜10000ユニットの架橋剤がCNTとエポキシモノマー又はポリマーとの間に組み込まれる請求項2〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
100〜2000ユニットの架橋剤が組み込まれる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
溶液中で実施される請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
一般式
CNT−[ブロック1]−[ブロック2]
で表される官能化カーボンナノチューブ複合体であって、
CNTはカーボンナノチューブを表し、「ブロック1」はオレフィン、オレフィン誘導体、ラクトン又はラクタム架橋剤に由来する少なくとも1つのモノマー単位を表し、かつ「ブロック2」はエポキシ樹脂を表す官能化カーボンナノチューブ複合体。
【請求項11】
「ブロック1」は1〜10000モノマー単位を有する請求項10に記載の官能化カーボンナノチューブ複合体。
【請求項12】
「ブロック1」は10〜2000モノマー単位を有する請求項10に記載の官能化カーボンナノチューブ複合体。
【請求項13】
「ブロック1」は重合スチレン単位からなる請求項10、11又は12に記載の官能化カーボンナノチューブ複合体。
【請求項14】
「ブロック1」は重合メチルメタクリレート単位からなる請求項10、11又は12に記載の官能化カーボンナノチューブ複合体。
【請求項15】
CNTは単層カーボンナノチューブである請求項10〜14のいずれか一項に記載の官能化カーボンナノチューブ複合体。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−519062(P2010−519062A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551086(P2009−551086)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000386
【国際公開番号】WO2008/104078
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(591106945)ナショナル・リサーチ・カウンシル・オブ・カナダ (4)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL RESEARCH COUNCIL OF CANADA
【Fターム(参考)】