説明

ブロモピクリンを調製する連続プロセス

ブロモピクリンを調製する連続プロセスが開示される。このプロセスは、ニトロメタンおよび臭素を含有する第1の混合物の連続した流れと、アルカリ性物質の水溶液を含有する第2の混合物の連続した流れとを第1の反応器の中に移して、それにより、ブロモピクリンを含む反応混合物を前記第1の反応器において得ること;およびブロモピクリンを反応混合物から回収することによって行われる。このプロセスによって得られた高純度のブロモピクリンもまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学的な合成および製造の分野に関連し、より具体的には、ブロモピクリンを調製する連続プロセス、およびそのようなプロセスから製造される高純度のブロモピクリンに関連する。
【背景技術】
【0002】
ブロモピクリン(CAS登録番号464−10−8)は、1,1,1−トリブロモニトロメタン(メタン,トリブロモニトロ−)、ニトロトリブロモメタン(メタン,ニトロトリブロモ−)およびニトロブロモホルムの異名が知られており、CBrNOの化学式、297.728グラム/molの分子量、10℃の融点、89℃〜90℃の沸点(20mmHgにおいて)、2.79の比重、1リットルの水あたり約1.5グラムの水への溶解度(20℃において)を有しており、固相におけるプリズム状結晶として現れるか、または油状の無色の液体として現れるかのどちらかである。
【0003】
ブロモピクリンは、ハロニトロアルカン(または同等に、ニトロハロアルカン)の広汎な化学物質群に属する。この群には、例えば、モノブロモニトロアルカン、ジブロモニトロアルカンおよびトリブロモニトロアルカン、ならびにモノクロロニトロアルカン、ジクロロニトロアルカンおよびトリクロロニトロアルカン(例えば、それぞれ、モノブロモニトロメタン、ジブロモニトロメタンおよびトリブロモニトロメタン、ならびにモノクロロニトロメタン、ジクロロニトロメタンおよびトリクロロニトロメタンなど)が含まれる。
【0004】
ブロモニトロメタンの選択された様々な例(例えば、ブロモピクリンなど)、およびそれらの使用が、米国特許第5866511号(Dallmier他)、米国特許第5591759号(Ito他)、米国特許第5411990号および同第5397804号(それぞれがTsuji他)、米国特許第5013762号(Smith他)、ならびに米国特許第4039731号、同第4020249号、同第4017666号および同第3968096号(それぞれがFreedman他)に開示される。
【0005】
国際特許出願公開WO2006/061842(本出願人による)は、ブロモピクリンの新規な殺虫剤配合物、およびこの殺虫剤配合物を、様々な物質、製造物または構造物を消毒するために、また、特に、植物害虫を駆除するために使用する方法を教示する。
【0006】
これらの開示のいずれもが、ブロモニトロメタンの合成または製造を示していなかったことは言うまでもなく、ブロモニトロメタン、具体的には、ブロモピクリンの純度または供給源に何ら言及していなかったことは注目に値する。
【0007】
別の組成物または配合物を調製するプロセスにおいて消費され得る反応物または成分として使用されるブロモピクリンの選択された様々な例が、米国特許第5219938号、同第5128416号、同第5015692号および同第4957976号の開示において提供されるが、これらの開示はどれもが、ブロモピクリンを調製するプロセスを記載しておらず、また、その純度レベルを記載していない。米国特許第4922030号では、別のブロモニトロメタン、すなわち、モノブロモニトロメタンが、モノブロモニトロアルコールを続いて調製するためにカスタム合成される。
【0008】
一般に、ハロニトロアルカンを合成および/または製造する方法またはプロセスは周知であり、例えば、Tscherniak、Ann.180、128〜130(1876);米国特許第2309806号(Tindall);米国特許第2633776号(Slagh);米国特許第4922030号(Nocito他);米国特許第5043489号(Nocito他);および米国特許第5180859号(Timberlake他)に記載される。
【0009】
ブロモピクリンはハロニトロアルカンの1つであるので、これらのプロセスがブロモピクリンの調製において適用可能であることが予想され得る。しかしながら、ブロモピクリンおよびジブロモニトロメタンは、所望されるモノブロモニトロメタン生成物の望ましくないポリハロゲン化ニトロメタンの低収率の副産物または不純物に関連してそれらに記載されるだけであることが判明する。従って、上記開示のどれにも、純粋なブロモピクリンを高い収率で目標生成物として調製する方法の記載がなされていない。
【0010】
ピクリン酸、水酸化カルシウムおよび臭素の水性混合物の蒸留によるブロモピクリンの調製が、Stenhouseによって、Annalen 91、307(1854)において初めて開示された。ブロモピクリンが、ピクリン酸を塩基性金属の次亜臭素酸塩と反応させ、ブロモピクリン生成物を蒸留により高収率で単離することによって調製できることもまた、先行技術の教示から既知である。
【0011】
これらのプロセスは、下記のように、いくつかの著しい不都合および制限を有する:
a)ピクリン酸は、穏和な条件のもとでさえ爆発する可能性があり、従って、ピクリン酸を反応物として使用することは、潜在的に危険な条件で作業することを伴う。
b)ブロモピクリンは、比較的大きい発熱の分解熱(HOD)を有する高エネルギー化合物であり、それにより、約1700ジュール/グラムがその分解時に放出される。従って、ブロモピクリンは、例えば、蒸留による反応混合物からのその回収および精製の期間中において、ある種の条件のもとでは潜在的に危険である。
c)溶媒抽出を、ブロモピクリンを反応生成物から回収および精製するために、蒸留の代わりに使用するときでさえ、抽出手順が、方法全体の中に組み込まれる必要があり、それにより、有機溶媒が、他の場合には有機溶媒を伴わない方法に導入され、このことは、さらなる費用、健康被害および有機溶媒廃棄物管理を方法全体に加えることになる。
d)このプロセスは、ブロモピクリンの回収段階および精製段階をスケールアップすることの費用が大きいために、大容量の工業的サイズのプロセスとして適用することができない。
【0012】
本出願人による国際特許出願公開WO2007/023496(2006年8月22日出願)は、ピクリン酸を開始物質として使用せず、従って、上記で詳述された欠点を克服する、ブロモピクリンを調製するための新規な回分プロセスを初めて開示する。国際特許出願公開WO2007/023496において教示されるプロセスは、下記の「一般化された」化学式によって示されるように、臭素、ニトロメタン(NM)およびアルカリ性物質の反応に基づく(aq.=水性):
ニトロメタン+臭素+アルカリ性物質(aq.)→
ブロモピクリン+HO+二次生成物
(有機相) (水相)
【0013】
このプロセスの1つの例示的な好ましい実施形態において、アルカリ性物質はアルカリ金属塩基であり、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどである。
【0014】
国際特許出願公開WO2007/023496において教示されるように、このプロセスは、最初に、ニトロメタンおよび臭素の混合物を、好ましくは水の存在下において、かつ有機溶媒を何ら加えることなく得ることによって行われる。その後、アルカリ性物質が少量ずつ混合物に加えられ、ニトロメタン混合物に含有される臭素と迅速かつ選択的に反応し、1つまたは複数の臭素含有化学中間体を形成し、この中間体が次に、既に存在するニトロメタンと選択的に反応し、従って、所望される高純度のブロモピクリン生成物を高い収率で選択的に形成する。反応が完了すると、ブロモピクリンを含有するより重い(下側の)有機相が、より軽い(上側の)水相から分離され、従って、ブロモピクリンが反応混合物から回収される。
【0015】
国際特許出願公開WO2007/023496の教示によれば、ブロモピクリンの調製のための推奨される反応条件は、
反応器における温度:40℃(±5℃)
Br/ニトロメタンのモル比:3.25(±0.03)
NaOH水溶液の濃度:35重量%(±1)
反応時間(塩基の添加時間):4時間〜6時間
であることが決定された。
【0016】
これらの条件のもとで、反応の選択性は、96%を超え、99%を超えることさえあり、また、収率は高く、例えば、92%〜94.5%の間である(ニトロメタンに基づく)。このプロセスの選択性および収率は、反応の温度(T)、臭素とニトロメタンとの間におけるモル比、および塩基が加えられる期間によって決まる。この点に関して、不純物の形成が、十分に高い開始時のBr:ニトロメタンのモル比(例えば、約3.25)を使用することによって妨げられ得ることが明らかにされた。
【0017】
従って、国際特許出願公開WO2007/023496に開示されるプロセスは、高収率および高品質のブロモピクリン製造物を得る一方で、ブロモピクリンをピクリン酸から調製するための以前から知られている方法の不都合な点を克服する。
【0018】
工業的な化学的プロセスの設計において知られているように、プロセス反応器は、サンプルまたは生成物がプロセス処理のために取り扱われる様式に基づいて、回分式処理装置または連続式処理装置のいずれかとして規定される。回分式のプロセス反応器は、反応器操作の最も簡便な様式である。この様式では、プロセス反応器に、媒体が負荷され、反応を進行させることができる。反応が完了したとき、内容物が下流側のプロセス処理のために空にされる。その後、反応器は清浄化され、再び充填され、再び接種され、反応プロセスが再び開始される。
【0019】
連続式のプロセス反応器では、新鮮な媒体が連続して加えられ、反応器流体(これは、所望される生成物だけでなく、廃棄物を含有する)が連続して取り出される。従って、反応器を、運転を中断させる必要なく、長期間にわたって運転することができる。連続式のプロセス反応器は、回分式反応器よりも数倍大きい生産性を有することができ、また、時間および費用に関してより効果的であるので、一般に、工業的プロセス処理における好ましい様式である。
【0020】
今日まで、どの連続プロセスも、ブロモピクリンを塩基の存在下においてニトロメタンおよび臭素から調製するために記載されていない。
【発明の概要】
【0021】
本発明者らは今回、ブロモピクリンを調製する新規なプロセスを設計し、首尾良く実施している。連続様式で操作されることによって、このプロセスは、工業的に適用可能であり、再現性があり、安全であり、環境に優しく、かつ、費用効果が高く、従って、大量の高純度ブロモピクリンを製造するために都合よく使用することができる。
【0022】
本発明の1つの局面によれば、ブロモピクリンを調製するプロセスが提供され、このプロセスは、
ニトロメタンおよび臭素を含有する第1の混合物の連続した流れと、アルカリ性物質の水溶液を含有する第2の混合物の連続した流れとを第1の反応器の中に移して、それにより、ブロモピクリンを含む反応混合物を第1の反応器において得ること;および
ブロモピクリンを反応混合物から回収し、それにより、ブロモピクリンを調製すること
を含む。
【0023】
下記に記載される本発明のいくつかの実施形態によれば、第1の混合物および第2の混合物は、前記連続した流れにより、第1の反応器の中に同時に移される。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、このプロセスは、反応混合物中に有機溶媒が実質的に存在しないように行われる。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、第1の混合物は、ニトロメタンおよび臭素を、約10℃〜約50℃の範囲にある温度において混合することによって調製される。好ましくは、温度は約20℃〜約25℃の範囲にある。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、第1の混合物における臭素およびニトロメタンのモル比は、約3〜約4の範囲にある。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、モル比は、約3〜約3.1の範囲にある。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、アルカリ性物質は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類水酸化物およびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、アルカリ金属水酸化物は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0031】
いくつかの実施形態によれば、アルカリ性物質は、水酸化ナトリウムである。
【0032】
いくつかの実施形態によれば、第2の混合物の水溶液におけるアルカリ性物質の濃度は、水溶液重量の総重量の約5重量%〜約40重量%の範囲にある。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、第2の混合物の水溶液におけるアルカリ性物質の濃度は、水溶液重量の総重量の約20重量%〜約35重量%の範囲にある。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、濃度は、水溶液重量の総重量の約26重量%〜約27重量%の範囲にある。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、第1の反応器における反応混合物の滞留時間は、約0.3時間〜約6時間の範囲にあり、好ましくは約0.5時間〜約4時間の範囲にある。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、第1の反応器は、約30℃〜約100℃の範囲にある温度に維持され、好ましくは、約40℃〜約80℃の範囲にある温度に維持される。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、本明細書中に記載されるプロセスは、ブロモピクリンを回収する前に、反応混合物を第1の反応器から第2の反応器に移すことをさらに含む。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、第2の反応器は、約15℃〜約30℃の範囲にある温度に維持され、好ましくは、約20℃〜約25℃の範囲にある温度に維持される。
【0039】
いくつかの実施形態によれば、本明細書中上記で記載されるプロセスは、ブロモピクリンを回収する前に、反応混合物を冷却することをさらに含む。
【0040】
いくつかの実施形態によれば、本明細書中上記で記載されるプロセスは、ブロモピクリンを回収した後、水相を反応混合物から回収することをさらに含む。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、本明細書中上記で記載されるプロセスは、前記水相を化学的に処理し、それにより、処理された形態の水相を提供することをさらに含む。いくつかの実施形態において、水相を化学的に処理することは、臭素および/または臭化ナトリウムの再生を含む。
【0042】
いくつかの実施形態によれば、ブロモピクリンは、90重量%以上の化学的収率で得られ、好ましくは95重量%以上の化学的収率で得られ、より好ましくは98重量%以上の化学的収率で得られる(すべてがニトロメタンに対してである)。
【0043】
いくつかの実施形態によれば、ブロモピクリンは、99重量%以上の純度を有する。
【0044】
本発明の別の局面によれば、本明細書中上記で記載されるプロセスのいずれかによって調製されるブロモピクリンが提供される。
【0045】
下記に記載される本発明のいくつかの実施形態によれば、ブロモピクリンは、99重量%以上の純度を有する。
【0046】
別途定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または同等の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0047】
本明細書中で使用される場合、用語「含む(comprising)」は、最終結果に影響しない他の工程および成分が加えられ得ることを意味する。この用語は、用語「からなる(consisting of)」および用語「から本質的になる(consisting essentially of)」を包含する。
【0048】
表現「から本質的になる」は、さらなる成分および/または工程が、主張される組成物または方法の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物または方法がさらなる成分および/または工程を含み得ることを意味する。
【0049】
用語「方法(method)」または「プロセス(process)」は、所与の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を示し、これには、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者に知られているそのような様式、手段、技術および手順、または、知られている様式、手段、技術および手順から、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者によって容易に開発されるそのような様式、手段、技術および手順が含まれるが、それらに限定されない。
【0050】
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
【0051】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1〜6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
【0052】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲にある/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0053】
本明細書中で使用される場合、用語「約」は±10%を示す。
【図面の簡単な説明】
【0054】
本明細書では本発明を単に例示し図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施態様を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【図1】図1は、ブロモピクリンを製造するために連続様式で運転される反応器を使用する、本発明の実施形態を実行する一般的スキームの流れブロック図である。
【図2】図2は、連続式の化学反応器を使用する、本発明の実施形態のいくつかを実験室規模で実行する1つの代表的な例の実際のスキームおよび手順の流れブロック図であり、この場合、反応温度は40℃であり、反応器における滞留時間は約68分である(6時間の総実施プロセス時間)。
【図3】図3は、連続式の化学反応器を使用する、本発明の実施形態のいくつかを実験室規模で実行する他の代表的な例の実際のスキームおよび手順の流れブロック図であり、この場合、反応温度は60℃または80℃であり、反応器における滞留時間は約83分である(7.25時間の総実施プロセス時間)。
【図4】図4は、連続式の化学反応器を使用する、本発明の実施形態のいくつかを実験室規模で実行する別の代表的な例の実際のスキームおよび手順の流れブロック図であり、この場合、反応温度は60℃であり、反応器における滞留時間は約135分である(30時間の総実施プロセス時間)。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明は、ブロモピクリンを調製する新規なプロセス、およびそれによって製造される高純度のブロモピクリンに関する。具体的には、本発明は、そのいくつかの実施形態において、アルカリ性物質(例えば、アルカリ金属塩基、例えば、水酸化ナトリウムなど)の水溶液の連続した流れと、ニトロメタンおよび臭素の混合物(これは好ましくは有機溶媒を含まない)の連続した流れとを反応器の中に移すこと、およびその後で、ブロモピクリンを含有する有機相を、有機相を蒸留または抽出に供することなく、反応混合物から直接、具体的には重力によって回収することに基づく、ブロモピクリンを調製する連続プロセスに関する。本発明はさらに、そのいくつかの実施形態において、このプロセスによって得られる、99重量%以上の純度、および(ニトロメタンに基づいて)95%よりも大きく、また、さらには98%よりも高い収率を有するブロモピクリンに関する。
【0056】
本実施形態のプロセスの原理および操作は、図面および添付された説明を参照してより良く理解することができる。
【0057】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示されるかまたは実施例によって例示される構成および構成要素の配置の細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は、他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施することができ、または様々な方法で実施される。また、本明細書中で用いられる表現および用語は説明のためであり、従って限定として見なされるべきではないことを理解しなければならない。
【0058】
本明細書中上記で詳しく議論されたように、ブロモピクリンは、環境に危害を加えない効果的な農業用薬剤として知られ、かつ、環境に対して問題のある抗菌剤、殺生物剤および防腐剤(例えば、臭化メチル、1,3−ジクロロプロパン、イソチオシアン酸メチル、ヨウ化メチル(ヨードメタン)および臭化プロパルギルなど)の代替物として提案されているハロニトロアルカンの1つである。
【0059】
ハロニトロアルカンを調製する様々な方法が広く知られており、また、記載されるが、これらの方法は、ほとんどがブロモピクリンの調製において適用することができない。ブロモピクリンを調製するための利用可能な高収率プロセスは、最近までは、ピクリン酸、水酸化カルシウムおよび臭素の水性混合物を蒸留すること(Stenhouse(1854)、上掲)、またはピクリン酸を卑金属の次亜臭素酸塩と反応させ、その後、蒸留することであった。このプロセスは、蒸留下におけるピクリン酸の爆発性およびブロモピクリンの危険性のために不都合ある。さらに、有機溶媒の導入は、蒸留を回避するために必要であることがあるが、それにより、さらなる費用、健康被害および有機溶媒廃棄物管理が方法全体に加わることになる。このことは、大量のブロモピクリンを製造することに関して、スケールアップすることが必要となるならば、すべてが一層より複雑になる。
【0060】
本明細書中上記で詳しく議論されたように、近年には、臭素、ニトロメタン(NM)およびアルカリ性物質の反応に基づく、ブロモピクリンを調製するための新規な回分プロセスが、本出願人による国際特許出願公開WO2007/023496(上掲)において開示されている。このプロセスは、回分式タイプのプロセスであり、さらに、過剰なアルカリ性物質が反応混合物に存在しないように行われる、アルカリ性物質の回分式様式での添加に基づく。
【0061】
ブロモピクリンを調製するプロセスをさらに検討している間に、本発明者らは今回、例えば、図1に示されるように、ニトロメタン/臭素の混合物と、アルカリ性物質の水溶液とのそれぞれの連続した流れを反応器に移すことに基づく、ブロモピクリンを調製するための連続プロセスを設計し、首尾良く実施した。
【0062】
従って、下記の実施例の節において明らかにされるように、非常に好都合で、費用効果が高く、かつ、時間のかかる連続プロセスを使用して、ブロモピクリンが、高い純度(99%を超える)、高い収率(ニトロメタンに基づいて95%を超え、また、98%さえ超える)、および極めて高い処理能(220グラム/時間/リットル反応器〜1000グラム/時間/リットル反応器)で得られ、これらは、このプロセスを、大量のブロモピクリンを工業的に製造することに関して大いに適用可能にしている。
【0063】
この連続プロセスは、さらに好都合には、望まれない生成物の形成が回避される条件で、従って、様々なパラメーター(例えば、温度およびpHなど)を制御する必要性を回避する条件で行われことによって特徴づけられる。
【0064】
用語「純度」は、生成物の総重量中の、所望される化合物の重量%を規定する。
【0065】
用語「収率」は、ニトロメタンの実際の消費と、理論的消費との間における比率を規定する。
【0066】
従って、本発明の実施形態のいくつかによれば、ブロモピクリンを調製するプロセスが提供される。このプロセスは、ニトロメタンおよび臭素を含有する第1の混合物の連続した流れと、アルカリ性物質の水溶液を含有する第2の混合物の連続した流れとを第1の反応器の中に移して、その結果、ブロモピクリンを含む反応混合物を第1の反応器において得ること;およびブロモピクリンを反応混合物から回収することによって行われる。
【0067】
本明細書中およびこの技術分野で使用される用語「流れ」は、液体物質またはガス物質のどちらかが連続的に進行すること、または流れることを示す。
【0068】
本明細書中で使用される用語「連続した流れ」または用語「連続プロセス」は、間欠的に停止または遅くすることを必要とすることなく行われるプロセスを示す。
【0069】
本明細書中で使用される用語「移す」は、手作業で、あるいは機械的に、例えば、パイプを介して、あるいは、校正済みまたは非校正のポンプ(例えば、蠕動ポンプ)を使用することによって行うことができる、1つの容器および/または反応器から別の容器および/または反応器への反応物および/または反応混合物の移転を示す。用語「移す」はまた、本明細書中およびこの技術分野では、反応物および/または反応混合物が移される容器および/または反応器に関して「供給する」として示される。
【0070】
第1の混合物は、ニトロメタンおよび臭素の混合物であり、この混合物は、好ましくは、臭素およびニトロメタンを単に混合することによって別個の反応器において調製される。
【0071】
臭素およびニトロメタンをこの別個の反応器において混合することは、好ましくは、撹拌することによって行われ、例えば、自動制御可能な機械的撹拌装置または電気機械的撹拌装置を使用することによって行われる。
【0072】
ニトロメタンおよび臭素の混合物の(初期)温度は変化させることができ、一般には、ニトロメタンおよび臭素の混合物の(初期)温度は、好ましくは約10℃〜約50℃の間の範囲であり、より好ましくは約20℃〜約25℃(これは室温に対応する)の間の範囲である。
【0073】
ブロモピクリンを調製するプロセス全体は、本発明によれば、本明細書中下記の式[1]において要約される。この式によれば、臭素と、ニトロメタンとの間における化学量論的比率は、3:1である。
CHNO+3Br+3NaOH(aq.)→ [1]
CBrNO+3NaBr+3HO+二次生成物
(有機相) (水相)
【0074】
実際には、国際特許出願公開WO2007/023496(上掲)において教示されるように、化学量論的比率よりも大きい比率が、望ましい収率および純度を得るために多くの場合に必要とされる。従って、臭素およびニトロメタンの比率は、3:1を超えるどのような比率も可能であり、典型的な値は3.3:1および3.25:1である。
【0075】
今回、驚くべきことに、本明細書中に記載される連続プロセスは、臭素:ニトロメタンの比率が、平均では約3.07:1であるが、3.1:1まで低いときでさえ、または3:1まで低いときでさえ、高い収率および純度で行われ得ることが見出されている(本明細書中下記の表1を参照のこと)。ほぼ化学量論的な比率ではあるが、より少ない量の臭素を使用することは、費用、安全性、環境的考慮などの点で明らかに非常に好都合である。
【0076】
ニトロメタンおよび臭素の混合物は、好ましくは、何らの有機溶媒も混合物に加えることなく調製され、その結果、混合物は有機溶媒を実質的に含まない。この局面は、さらなる費用、健康被害および有機溶媒廃棄物管理が回避される点で、明らかに好都合である。
【0077】
第2の混合物は、アルカリ性物質の水溶液である。
【0078】
用語「水溶液」は、水、または水および有機溶媒(後者は場合により添加される)の水性混合物のどちらかを包含するために使用される。好ましくは、水溶液は、本明細書中上記で記述されるように、水を含み、有機溶媒を含まない。
【0079】
このアルカリ性物質は、化学式[2]によって一般に示されるように、1つまたは複数の臭素含有化学中間体(例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなど)と、臭素との間における反応によって形成される金属の次亜臭素酸塩)を形成するために、(水およびニトロメタンが存在している間に)臭素と迅速かつ選択的に反応することができる本質的には任意のタイプのアルカリ性物質である:
Br+アルカリ性物質(aq.)→[Br−化学中間体]+HO [2]
[迅速かつ選択的]
【0080】
例えば、2当量の水酸化ナトリウム(NaOH)が臭素(Br)と反応して、その結果、次亜臭素酸ナトリウム(NaOBr、1当量)、臭化ナトリウム(NaBr、1当量)および水(HO、1当量)を生じさせる。
【0081】
次いで、そのような1つまたは複数の臭素含有中間体が、水の存在下において、化学式[3]によって一般に示されるように、所望される高純度のブロモピクリン生成物を高い収率(本質的には、理論的な化学量論的)収率で選択的に形成するために、既に存在するニトロメタンと選択的に反応する:
[3]
CHNO+[Br−化学中間体]→CBrNO+NaOH+二次生成物
(有機相) (水相)
【0082】
何らの特定の機構にもとらわれないが、次亜臭素酸塩がニトロメタンと反応して、その結果、ブロモニトロメタンおよび水酸化ナトリウムを生じさせることが推定される。その後、このブロモニトロメタンが、絶えず生成する次亜臭素酸塩と反応して、その結果、ジブロモニトロメタンを生じさせ、その後、このジブロモニトロメタンが同様に反応して、その結果、トリブロモニトロメタン(ブロモピクリン)を生じさせる。
【0083】
例えば、アルカリ性物質は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類水酸化物およびこれらの組合せからなる群から選択される。例示的なアルカリ金属水酸化物は、水酸化リチウム[LiOH]、水酸化ナトリウム[NaOH]および水酸化カリウム[KOH]である。例示的なアルカリ土類水酸化物は、水酸化マグネシウム[Mg(OH)]、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、水酸化ストロンチウム[Sr(OH)]および水酸化バリウム[Ba(OH)]である。
【0084】
この手順を行うために、好ましくは、アルカリ性物質は、水酸化リチウム[LiOH]、水酸化ナトリウム[NaOH]、水酸化カリウム[KOH]およびこれらの組合せからなる群から選択されるアルカリ金属水酸化物である。いくつかの実施形態において、アルカリ性物質は、水酸化ナトリウム[NaOH]、水酸化カリウム[KOH]およびこれらの組合せからなる群から選択されるアルカリ金属水酸化物である。いくつかの実施形態において、アルカリ性物質は、水酸化ナトリウム[NaOH]である。
【0085】
水酸化ナトリウムが、主に化学的なプロセス経済性に基づいて、この手順を行うために水酸化カリウムよりも好まれる。同等な性状(純度)および濃度について、水酸化ナトリウムは、費用が水酸化カリウムよりも少ない。
【0086】
下記の実施例の節において理解され得るように、水酸化ナトリウムが、ブロモピクリンの高い収率、高い純度および高い処理能を維持しながら、本明細書中下記で調製されるサンプルにおいて使用された。
【0087】
従って、本発明の1つの実施形態によれば、アルカリ性物質は水酸化ナトリウムである。
【0088】
水溶液中のアルカリ性物質の濃度は様々な単位で表すことができ、例えば、水溶液におけるアルカリ性物質の重量比率の%に対応する%(重量/重量)または%(w/w)の単位で表すことができる。
【0089】
一般に、アルカリ性物質の水溶液におけるアルカリ性物質の濃度は変化させることができるが、アルカリ性物質は多くの場合、水溶液重量の総重量の約5重量%〜約40重量%の範囲にある濃度で使用される。
【0090】
下記の実施例の節において理解され得るように、試験されたサンプルのすべてにおいて(表1)、水溶液中のアルカリ性物質の濃度は35重量%よりも低く、一般には約26重量%〜約27重量%の範囲であった。
【0091】
従って、本発明のいくつかの実施形態によれば、第2の混合物の水溶液におけるアルカリ性物質の濃度は、水溶液重量の総重量の約20重量%〜約35重量%の範囲にあり、より好ましくは約26重量%または27重量%である。
【0092】
本明細書中に記載される第1の混合物および第2の混合物は、好ましくは、回分様式タイプの化学反応器において調製および使用されるが、これらの混合物はまた、連続様式タイプの化学反応器において調製および使用することができる。
【0093】
一般に、本質的には任意の回分様式タイプの化学反応器を、ニトロメタンおよび臭素の混合物、またはアルカリ性物質の水溶液を調製するための化学反応器として使用することができる。いくつかの実施形態において、化学反応器は機器類とともに操作可能に組み立てられるか、または機器類が操作可能に取り付けられ、例えば、化学反応器の内部における内容物の手動または半自動または全自動による温度制御を様々な所定の範囲の温度について可能にするための、例えば、化学反応器の内部における温度を約10℃〜50℃の間の総範囲に設定する能力を有する温度制御可能な化学反応器ジャケットとともに操作可能に組み立てられるか、またはそのような化学反応器ジャケットが操作可能に取り付けられる。そのような1つの実施形態において、好ましくは、そのような温度制御可能な機器は、それぞれ手動または半自動または全自動による温度制御装置(例えば、可変の化学反応器温度設定点により操作可能なLauda自動化学反応器温度制御装置デバイス)に操作可能につながれ、この温度制御装置は次に、適切な電源に操作可能につながれる。加えて、好ましくは、化学反応器は機器類とともに操作可能に組み立てられるか、または機器類が操作可能に取り付けられ、例えば、化学反応器の内容物の手動または半自動または全自動による混合制御または撹拌制御を様々な所定の範囲の混合速度または撹拌速度について、また、様々な所定のパターンまたは形態の混合または撹拌について可能にするための機械式または電気機械式の撹拌装置とともに操作可能に組み立てられるか、またはそのような撹拌装置が操作可能に取り付けられる。そのような1つの実施形態において、好ましくは、混合または撹拌のそのような制御可能な機器は、それぞれ手動または半自動または全自動による混合制御装置または撹拌制御装置に操作可能につながれ、この混合制御装置または撹拌制御装置は次に、適切な電源に操作可能につながれる。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態において、第1の混合物の連続した流れと、第2の混合物の連続した流れとが、第1の反応器に同時に移される。
【0095】
ブロモピクリンを調製するための回分プロセスを記載する国際特許出願公開WO2007/023496(上掲)において教示されるように、過剰なアルカリ性物質(例えば、NaOH)が、ブロモピクリンを含有する反応混合物に存在しないことが、過剰なアルカリ性物質と、ブロモピクリンとの間における何らかの起こり得る望ましくない反応を防止するために不可欠である。
【0096】
従って、回分式タイプのプロセスでは、反応混合物におけるアルカリ性物質の濃度は、その過剰が生じることを回避するように、この物質を少量ずつ加えることによって決定される。
【0097】
連続プロセスでは、本明細書中に記載される第1の混合物および第2の混合物のそれぞれの添加速度により、反応経過の期間中における任意の所与の瞬間での、アルカリ性物質と臭素との間における比率が決定され、また、反応を、(ニトロメタンと有害に反応し得る)過剰なアルカリ性物質が存在せず、従って、アルカリ性物質が実質的に臭素とだけ反応するように行うことが可能となる。従って、本明細書中に記載される第1の混合物および第2の混合物の添加速度により、反応の選択性が決定される。従って、これらの添加速度は、好ましくは、反応速度を超えてはならない。
【0098】
従って、第2の混合物(例えば、NaOH水溶液)を添加する速度は、好ましくは、第1の臭素/ニトロメタン混合物を添加する速度に対応し、両者は、好ましくは、反応速度に等しいか、または反応速度よりも低い。
【0099】
なおさらに、第1の混合物および/または第2の混合物を添加する速度は、反応において形成される熱に常に影響を及ぼし、従って、好ましくは、穏当な熱が得られるように選択される。「穏当な熱」とは、発熱反応の温度が従来の技術によって容易に制御され得ることを意味する。
【0100】
得られる反応混合物の滞留時間は比較的短く、例えば、約0.3時間〜6時間の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、滞留時間は約0.5時間〜約4時間の範囲である。例えば、本明細書中下記の実施例の節において表1に示される実験のすべてにおける滞留時間は、2.5時間未満であった。1つの実施形態において、滞留時間は約2時間である。
【0101】
用語「滞留時間」は、反応物が反応器において費やす平均時間を示し、流通反応装置についての処理速度の尺度して使用される。滞留時間は、チャンバーまたは領域の体積を、それを通過する体積流量により除することによって見積もることができる。従って、滞留時間=反応器体積/流量であり、それにより、流量は、第1の混合物および第2の混合物の流量の和である。
【0102】
下記の実施例の節において示されるように、本明細書中に記載されるプロセスは、総プロセス時間を変化させながら実施された。従って、6時間から30時間まで変化する総プロセス時間が実施され、この総プロセス時間は、ブロモピクリンの収率または純度に著しく影響しないことが見出された。従って、このことから、プロセスの再現性が明らかにされる。
【0103】
一般に、本質的には任意の連続様式タイプの化学反応器を、臭素中のニトロメタンの混合物をアルカリ性物質の溶液と混合するための化学反応器として使用することができ、連続様式タイプの化学反応器はどれも、少なくとも2つの側方の入口/出口を有する。好ましくは、化学反応器は、機器類とともに操作可能に組み立てられるか、または機器類が操作可能に取り付けられ、例えば、化学反応器の内部における内容物の手動または半自動または全自動による温度制御を様々な所定の範囲の温度について可能にするための、例えば、化学反応器の内部における温度を約10℃〜50℃の間の総範囲に設定する能力を有する温度制御可能な化学反応器ジャケットとともに操作可能に組み立てられるか、またはそのような化学反応器ジャケットが操作可能に取り付けられる。そのような1つの実施形態において、好ましくは、そのような温度制御可能な機器は、それぞれ手動または半自動または全自動による温度制御装置(例えば、可変の化学反応器温度設定点により操作可能なLauda自動化学反応器温度制御装置デバイス)に操作可能につながれ、この温度制御装置は次に、適切な電源に操作可能につながれる。加えて、好ましくは、化学反応器は機器類とともに操作可能に組み立てられるか、または機器類が操作可能に取り付けられ、例えば、化学反応器の内容物の手動または半自動または全自動による混合制御または撹拌制御を様々な所定の範囲の混合速度または撹拌速度について、また、様々な所定のパターンまたは形態の混合または撹拌について可能にするための機械式または電気機械式の撹拌装置とともに操作可能に組み立てられるか、またはそのような撹拌装置が操作可能に取り付けられる。そのような1つの実施形態において、好ましくは、混合または撹拌のそのような制御可能な機器は、それぞれ手動または半自動または全自動による混合制御装置または撹拌制御装置に操作可能につながれ、この混合制御装置または撹拌制御装置は次に、適切な電源に操作可能につながれる。
【0104】
反応混合物を化学反応器において混合することは接触を最大にし、従って、アルカリ性物質(例えば、遊離の水酸化ナトリウム)と、ニトロメタンおよび臭素の混合物との間における反応を促進する。化学反応器内の反応混合物のそのような混合はまた、アルカリ性物質の局在化した領域または地点が化学反応器において全く形成されないことを保証することを助け、それにより、過剰なアルカリ性物質が、ブロモピクリンを含有する反応混合物において何ら形成されないことを確実にし、それにより、不純物の量を低下させる。化学反応器における反応混合物のそのような混合はまた、均一な熱分布を化学反応器の体積の全体にわたって保証することを助ける。
【0105】
下記の実施例の節において明らかにされるように、反応は、これら2つの流れが反応器に入ると直ちに始まり、この反応は速く、ブロモピクリンを高い収率(ニトロメタンに対して98%を超える)および高い純度(99%超)でもたらす。
【0106】
このプロセスを行うために、反応の実際の温度(反応温度(T))およびその範囲は、いくつかの要因によって決まる値に維持される。第1に、温度は、上記の化学式[2]および化学式[3]によって一般に示されるように、アルカリ性物質と、ニトロメタンおよび臭素の混合物との間における反応の期間中に放出される発熱の大きさおよび速度によって決まる。その場合、温度はまた、この発熱の消散、移動および/または制御の大きさおよび速度によっても決まる。
【0107】
反応温度はまた、反応物の物理的性質、および/または反応の期間中に形成される中間体の物理的性質によって制限され得る。従って、例えば、臭素の沸点が56℃であるので、反応温度をこの温度よりも低く維持することが望ましい場合がある。
【0108】
しかしながら、この要求は、本明細書中に記載されるように、連続プロセスを行うことによって回避される。なぜなら、反応器に移される臭素は、(第2の混合物に含まれて反応器に同時に移される)アルカリ性物質と直ちに反応して、その結果、揮発性の弱い中間体を形成するからである。このことは、反応を、より速い反応速度およびより高い収率をもたらすことができるより高い温度で行うことを可能にし、このことはさらに、反応温度を、(その発熱性のために)大規模な外部冷却によって低い温度に維持しなければならないことを回避する。
【0109】
従って、本発明のいくつかの実施形態によれば、反応器の温度は約30℃〜約100℃の間の範囲に維持され、好ましくは、約40℃〜約80℃の間の範囲に維持される。
【0110】
連続プロセスにおける反応温度の範囲がより広いことは、より速い反応を可能にし、反応の高い処理能および高い収率に寄与し、かつ、反応物を冷却するために必要とするエネルギーがより少ない。従って、反応をより高い温度で行うことは、ブロモピクリンの調製において、とりわけ、その大きな量を調製することにおいて好都合である。
【0111】
実際、これらの検討に従って、自動の化学反応器温度制御装置デバイスを、(図2〜図4において現れるような)所定の設定点(「s.p.」)に設定することによって、反応の温度およびその範囲が所定の値に制御および維持される。
【0112】
第1の混合物および第2の混合物を第1の反応器において混合するとき、反応混合物を、場合により、また、好ましくは、第1の反応器から第2の反応器に連続して移すことができる。下記の実施例の節において議論されるように、この移動は、反応混合物における反応物がそれらの間での反応を完了することを可能にする。特定の条件のもとでは、この移動により、プロセスの収率が大きく改善することが示されている。
【0113】
この場合において、本明細書中上記で記述されるように、ブロモピクリンと、場合により、未反応の反応物および/または中間体とを含有する反応混合物が、反応のほぼ完全な継続期間(反応時間)の後で第2の反応器にあふれ出る。従って、反応混合物は、ブロモピクリンを含有する反応混合物の温度が好ましくは室温(約20℃〜約25℃の間)に維持されている間に、さらに第2の化学反応器において混合される。
【0114】
第2の反応器における好ましい滞留時間は、典型的には、第1の反応器のサイズと、第2の反応器のサイズとの間における比率によって決まる。従って、例えば、第1の反応器のサイズと、第2の反応器のサイズとの3:1の比率、および0.3時間から6時間に及ぶ第1の反応器における滞留時間を考えると、第2の反応器における好ましい滞留時間は、約6分〜約120分の範囲であり、好ましくは約15分〜約80分の範囲である。
【0115】
第2の反応器における温度は、好ましくは約15℃〜約30℃の範囲であり、より好ましくは約20℃〜約25℃の範囲である(本質的には室温である)。
【0116】
第2の反応器におけるpHは、好ましくは約9〜約12.5の範囲であり、より好ましくは約10〜約12の範囲であることが示されている。
【0117】
ブロモピクリンを含有する反応混合物の第1の滞留時間、および場合により、第2の滞留時間の後、ブロモピクリンを含有する反応混合物、すなわち、一次生成物であるブロモピクリン[CBrNO]および水と、二次生成物である無機塩、無機酸化剤、ならびに微量の有機物および/または無機物とを含有する反応混合物は、相分離を経ることができる。一次生成物のブロモピクリンは、20℃での1リットルの水あたり約1.5グラムの水への溶解度および2.79の比重を有するので、移動して、反応混合物のより重い(下側の)有機相になり、一方、一次生成物の水、および二次生成物は移動して、反応混合物のより軽い(上側の)水相になる。1つの典型的な例において、NaOHをアルカリ性物質として使用したときに形成される水相は、約1.5の比重を有する。
【0118】
ブロモピクリンを含有するより重い(下側の)有機相は、(水および二次生成物を含有する)より軽い(上側の)水相を最初は化学反応器に残しながら、垂直に配置された化学反応器の底部端部分または底部出口から選択的に回収される。同時に、回収された液体(すなわち、ブロモピクリンを含有するより重い(下側の)有機相)の特徴を正確かつ再現性よく示す、回収された液体の少なくとも1つの特性(例えば、色、電気伝導率および/または密度)の監視および測定を、有機相がもはや化学反応器の底部に残留していないことの徴候または兆しが現れるまで行うことができる。これは、水相が化学反応器の底部端部分または底部出口に入る最初の徴候または兆しが現れる直前のときに対応し、そのような時に、ブロモピクリンを含有するより重い(下側の)有機相の化学反応器からの排出またはポンプ搬出が終わる。
【0119】
その後、(水および二次生成物を含有する)より軽い(上側の)水相(これは最初は化学反応器に残される)が化学反応器から回収され、場合により、水相の化学的な組成および構成の決定に供される。
【0120】
いくつかの実施形態において、相分離は、それぞれの知られている方法論のいずれかを使用して、(例えば、連続式の相分離器によって)連続的に行われる。
【0121】
反応混合物の(ブロモピクリンを含有する)回収されたより重い(下側の)有機相は、ブロモピクリンの純度およびその組成を決定するために、上記で記載されたガスクロマトグラフィー化学分析手順に供することができる。反応混合物の(水および二次生成物を含有する)回収されたより軽い(上側の)水相は、標準的な湿式化学タイプの分析手順に供することができる。
【0122】
回収された水相は、例えば、反応において副生成物として生じる無機塩(例えば、NaBr)を単離するように、および/または臭素を再生するように化学的に処理することができる。
【0123】
ブロモピクリンを含有する有機相は、99重量%以上の純度を有するブロモピクリンのほぼ定量的(理論的な化学量論的)収率を得るために、有機相を蒸留または抽出に供することなく反応混合物から直接に回収される。本発明のこの局面は、有益なことに、蒸留手順または抽出手順を比較的費用のかかる蒸留機器または抽出機器と一緒に含む必要性を排除し、かつその操作および維持のために関わる費用を排除する。この局面はまた、特に健康および安全性に関連するように、潜在的に危険な(高エネルギーの)ブロモピクリン生成物を蒸留条件または抽出条件の期間中に取り扱う必要性、ならびに潜在的に危険であり、かつ廃棄物を生じさせる抽出溶媒を取り扱う必要性、また、蒸留条件または抽出条件の期間中における潜在的に危険な(高エネルギーの)ブロモピクリン生成物の影響、ならびに潜在的に危険であり、かつ廃棄物を生じさせる抽出溶媒の影響を考慮に入れる必要性を排除する。
【0124】
従って、ブロモピクリンを含有する回収された有機相は、好ましくは「そのまま」使用されるか、あるいは、回収用または受け取り用の器または容器において「そのまま」貯蔵されるか、あるいは、より好適な貯蔵用の器または容器に移され、その後、適切な化学的貯蔵環境において貯蔵される。ブロモピクリンのための好適な貯蔵条件は、低い光透過性の容器(例えば、不透明な褐色のガラス製ボトル)において、好ましくは日光にさらされず、かつ室温(すなわち、約20℃〜約25℃の間)において、かつ潜在的に可燃性または爆発性の条件から離れている。そのような貯蔵条件のもとでは、ブロモピクリンは比較的安定であり、少なくとも数ヶ月までの期間にわたって、また、さらには1年間までの期間にわたって、非常に純粋なままである。
【0125】
本明細書中に記載されるプロセスによって製造されるブロモピクリンは、純度が99重量%以上である。
【0126】
さらに、記載されるプロセスによって製造されるブロモピクリンは、90重量%よりも高い収率で、また、95重量%よりも高い収率で、また、さらには98重量%よりも高い収率で得られる。
【0127】
下記の実施例の節において明らかにされるように、水相の分析では、本明細書中に記載される連続プロセスで得られる不純物レベルは比較的低いことが示された。このことはさらに、収率および純度に関するこのプロセスの有効性を明らかにする。例えば、酸化剤のレベルは、この連続プロセスではわずかに0.4%〜2.1%であり、ほとんどの場合、0.3%〜1.7%の範囲にあることが明らかにされた。さらに、全有機炭素(TOC)値(これは様々な有機不純物の存在を反映する)もまた、22ppm〜106ppmと低下していた(本明細書中下記の表2を参照のこと)。
【0128】
従って、本明細書中に記載されるプロセスは、工業的に適用可能であり、再現性があり、安全であり、環境に優しく、かつ費用効果が高い。
【0129】
本発明は、その適用において、本明細書中に別途具体的に明記されない限り、下記の例示的な記載、添付されている図面および実施例において示される、プロセスの操作または実行の手順、工程および部分工程の順序または配列の細部、ならびにその数、またはプロセスを実行するために使用される機器類、試薬および材料の細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、様々な方式で実施または実行することができる。本明細書中に例示的に記載されるものと類似または同等である様々な手順、工程、部分工程、機器類、試薬および材料を、本発明を実施または試験するために使用することができるが、好適な手順、工程、部分工程、機器類、試薬および材料が、本明細書中において例示的に記載される。
【0130】
本開示を通して本明細書中で使用されるすべての技術的および科学的な語句、用語および/または表現は、本明細書中において別途具体的に定義または明記されない限り、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるのと同一の意味または類似する意味のどちらかを有することもまた理解しなければならない。本開示を通して本明細書中で用いられる表現法、専門用語および表記法は、記述を目的とし、限定として見なしてはならない。そのうえ、例えば、ブロモピクリンの異名に関して、上記の背景の節において紹介、定義、記載および/または例示されるすべての技術的および科学的な語句、用語および/または表現は、本発明の好ましい実施形態、実施例および添付された請求項の例示的な記載において同等または同様に適用可能である。
【0131】
本明細書中で使用される用語「約」は、その伴う値の±10%を示す。加えて、本明細書中で使用される表現「室温」は、約20℃〜約25℃の間の範囲における温度を示す。
【0132】
ブロモピクリンを本発明に従って調製するプロセスの例示的な好ましい実施形態の手順、工程、部分工程、機器類、試薬および材料、ならびにブロモピクリンを本発明に従って調製するプロセスの例示的な好ましい実施形態の実行、ブロモピクリンを本発明に従って調製するプロセスの代替となる好ましい実施形態、ブロモピクリンを本発明に従って調製するプロセスの具体的な形態、また、ブロモピクリンを本発明に従って調製するプロセスのそれらの付加的および随意的な局面、特徴または特色、そして、本発明に従ってそれらから製造される高純度のブロモピクリンは、下記の例示的な記載および添付されている図面を参照してより良く理解される。下記の例示的な記載および添付されている図面を通して、同じ参照数字および/または文字は、同じ構成成分を示す。
【0133】
本発明のプロセスの下記の例示的な記載には、開示されたプロセスの利用および実行を適正に「可能にする」ことを十分に理解するために必要である主要な、または最も重要な手順、工程、部分工程、機器類、試薬および材料が含まれる。従って、本発明の実行を可能にすることに関して二次的に重要な、要求される、および/または場合に応じて使用される様々な考えられる予備的、中間的、副次的な手順、工程、部分工程、機器類、試薬および/または材料の記載は、本明細書中では、最大限でも、簡単に示されるにすぎない。なぜなら、これらは当業者によって容易に知られ、ならびに/またはこれらは、化学的な合成および製造に関連する先行技術および技術文献において得ることができるからである。
【0134】
本発明の追加の目的、利点および新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0135】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を非限定的な様式で例示する。
【0136】
材料および実験方法
化学試薬:
液相でのニトロメタン[CHNO]をAldrichから得た(少なくとも96重量%のアッセイ)。
【0137】
水酸化ナトリウム[NaOH]水溶液(48%)をF&C(イスラエル)から得た。
【0138】
少なくとも99重量%のアッセイを有する、液相での臭素[Br]を、Dead Sea Bromine(DSB)(イスラエル)から得た。
【0139】
実験構成:
ニトロメタンおよび臭素の混合物と、NaOH水溶液とを、回分式様式の供給用反応器として機能した、すりガラスの頚部を有する2リットルまたは10リットルのメスシリンダーにおいて調製した。
【0140】
校正済みの蠕動ポンプを、ニトロメタン/Brの混合物と、NaOH水溶液との両方を供給するために使用した。Viton(登録商標)はニトロメタンに対して抵抗性でないことが知られているので、ニトロメタン/Brの供給用チューブは、Viton(登録商標)から作製されるポンプホイール間の小さい部品は別として、Teflon(登録商標)から作製される。NaOHの供給用チューブは、Viton(登録商標)から作製される。
【0141】
2つのタイプの垂直に配置された化学反応器を使用して、連続様式で操作可能なシステムを組み立てた:
(i)ジャケットが付けられ、かつ、機械式撹拌装置(約400RPMに設定される)、冷却器および熱電対が操作可能に取り付けられた、サイズが1080mlの実験室規模の化学反応器;反応物は、2つの別個の開口部においてチューブを介して反応器に導入される。反応器は側方の出口を有する。
(ii)機械式撹拌装置、冷却器、pH計および熱電対を備える、側方の出口を有するサイズが120mlの四つ口丸底フラスコ。場合により、反応混合物は、あふれ出ることによって反応器(i)からこのフラスコに入り、室温に冷却されながら、このフラスコにおいて完了に至る。
【0142】
加えて、2つの1リットル分液ロート(これは相分離器として作用する)が、化学反応器(第1の化学反応器、または好ましくは、第2の化学反応器が存在するならば、第2の化学反応器)につながれる。一方のロートが丸底フラスコの出口につながれ、反応混合物を連続的に受け取り、その間、相分離がもう一方のロートにおいて行われる。生成物および水相を第2の分液ロートから除いた後、第1のロートが丸底フラスコの出口に再びつながれ、第2のロートがつながれ、その結果、第1のロートが相分離を繰り返し待機するようにされる。生成物(有機相)は、重量測定および分析のために褐色ボトルに回収され、一方、水相は、重量測定、分析、およびさらなる処理のためにポリエチレンフラスコに回収される。
【0143】
Lauda自動化学反応器温度制御装置デバイスを、可変の化学反応器温度設定点(s.p.)により操作可能な反応器(i)および反応器(ii)のそれぞれにつなぎ、次いで、適切な電源に操作可能につないだ。
【0144】
分析手順:
ガスクロマトグラフィー(GC):GC分析を、RTx−1、キャピラリーカラム(15m×0.25mm×0.25μ、100%ジメチルポリシロキサン充填)を備え、下記の条件のもとで操作されるHP5890ガスクロマトグラフで行った:
温度プログラム(BPK法):30℃の初期温度、2分;10℃/分で30℃から220℃に;220℃、5分。
インジェクター:170℃
検出器:325℃
スプリット比: 1:100
注入量:0.2μl〜0.5μl(希釈せず)
【0145】
成分のカラム保持時間は、下記の通りであった:ニトロメタン、2.8分;モノブロモニトロメタン、4.5分;ジブロモニトロメタン、6.3分;ブロモピクリン、12.3分;テトラブロモジニトロエタン、約14.6分。
【0146】
標準的な湿式化学タイプの分析手順を、プロセスの期間中に回収された、反応混合物のより軽い(上側の)水相(水および二次生成物を含有する)に対して行った。
【0147】
ブロモピクリンの調製
一般的手順:
ニトロメタン(NM)および臭素の混合物を第1の回分式タイプの反応器において室温(RT)で調製する。この混合物は、少なくとも7日間、室温で安定である。第2の回分式タイプの反応器において、アルカリ性塩基(例えば、水酸化ナトリウム)の水溶液を調製する。その後、NM/臭素混合物の流れと、水性アルカリ性塩基の流れとを、黄緑色の反応混合物を形成させるように、校正済みの蠕動ポンプによって連続式タイプの反応器に同時に移す。反応混合物のpHを約10〜12に維持し、温度を40℃〜80℃の間で変化させる。反応は速く、発熱性であり、収率はほぼ定量的である。
【0148】
場合により、また、好ましくは、その後、反応混合物またはその一部を第2の反応器に移し、第2の反応器において、反応を、混合物を室温に冷却しながら完了させる。その後、反応混合物を分液ロートに入れるか、あるいは、1つまたは2つの分液ロートから構成される分離システムに入れ、分液ロートにおいて、相を、ブロモピクリンを含有する下側の有機相(約2.75グラム/cm〜約2.78グラム/cmのd)を回収することによって分離する。臭化ナトリウム、酸化剤および微量の有機物を含有する上側の水相(約1.5グラム/cmのd)もまた回収される。
【0149】
図1は、本明細書中に記載される連続プロセスの一般化された流れブロック図を示す。
【0150】
例示的実験:
1つの例示的な実験(実験38745−44)において、NM/Brの混合物および27%のNaOH水溶液が、約6ml/分および約10ml/分の速度でそれぞれ、1Lの反応器に同時に導入され、機械式撹拌装置が400rpmで操作された。Lauda温度制御装置における冷却溶液の設定点は、23℃〜27℃に設定された。反応は速く、臭素の色が直ちに消失した。反応器における温度は40℃に上昇し、40±2℃で留まった。反応混合物のpHが時々調べられ、10〜12の範囲であった。約1時間の供給の後、反応混合物は第2の撹拌された丸底フラスコの中に流れ始め、そして、約8分後、第2の丸底フラスコから分液ロートの中に流れ始めた。第2のフラスコにおける温度は、外部冷却によって約20℃に維持され、pHは約11であった。
【0151】
第1の化学反応器におけるpHは制御可能であり、アルカリ性物質(NaOH)の水溶液の添加速度を操作することによって調節され得ることに留意しなければならない。
【0152】
冷却溶液の設定点もまた操作することができ、いくつかの実験では、例えば、55℃〜56℃に設定された。一般に、冷却溶液の設定点は、反応器における滞留時間および/または所望される温度に従って決定される。プロセスが約6時間、連続して行われ、その期間中に、5520グラムの、Br中のニトロメタンの混合物(4920グラムの臭素中の600グラムのニトロメタン)と、4626グラムの27%NaOH水溶液とが供給された。すべての溶液を、分液ロート、反応器および丸底フラスコから回収した後、2845グラムのBPおよび7284グラムの水溶液が得られた。
【0153】
図2は、本明細書中に記載される連続プロセスの流れブロック図を(サンプル38745−44について)示す。
【0154】
2つのさらなる代表的な実験が、図3および図4において流れブロック図としてそれぞれ示される。
【0155】
実験結果
下記の表1は、本明細書中上記で記載される一般的手順に従ったいくつかの例示的プロセスの反応条件および生成物分析を示す。
【0156】
表1に示されるように、すべてのプロセスにおいて、有機相として回収された粗ブロモピクリンの純度は、定量的GCによって決定されたとき、99重量%より高く、また、プロセス収率は、ニトロメタンに基づいて96%〜98%に達した。反応は発熱性であり、非常に速く、試薬が供給される第1の反応器においてほぼ完了する。
【0157】
出発物質として使用される臭素およびニトロメタンの間のモル比は、ほぼ化学量論的であり(3.0:1〜3.1:1)、何らの過剰な臭素もほとんど使用されなかった。3.05の臭素:ニトロメタンのモル比(これは8.0の臭素:ニトロメタンの重量比に等しい)において、反応の選択性が99%を超えることが示されている。
【0158】
すべてのプロセスにおいて、26%〜27%のNaOH溶液が使用され、水酸化ナトリウムとニトロメタンとの間におけるモル比は、3.0:1〜3.2:1であった。
【0159】
さらに、BPを実験室規模で製造するための連続プロセスの再現性が、明らかにされている。従って、例えば、図4に示される実験(実験番号38846−7)は、30時間にわたって連続して行われており、その間、生成物の高い収率および純度が維持された。このことから、このプロセスの再現性が明らかにされる。
【0160】
第1の反応器の内部における温度は、38℃〜80℃の間で変化した。
【0161】
主反応器における滞留時間(t)は、30分〜4時間の間で変化した。このことから、非常に短い滞留時間の期間中でさえ、最終的な収率は非常に高かった(98%を超えた)ことが示された。
【0162】
表1において理解され得るように(サンプル41、サンプル42、サンプル44、サンプル46、サンプル47およびサンプル50を参照のこと)、ブロモピクリンは、300グラム/時間・リットル〜1000グラム/時間・リットルの間の処理能で得られた。このことは、熱の発生が効果的に制御されるならば、例えば、連続プロセスでの8m(8000リットル)の反応器におけるBPの処理能が、2時間の滞留時間を伴うプロセスでの約2.4トン/時間から、8トン/時間に至ることすらあることを示している。
【0163】

【0164】
反応混合物のいくつかのサンプルの、回収されたより軽い(上側の)水相(水および二次生成物を含有する)の、化学的処理の前後における組成分析が、下記の表2に示される。
【0165】

【0166】
表2において理解され得るように、水相は、典型的には約45%のNaBr、0.4%〜2.1%の間の酸化剤(NaBrOとして)、および微量の有機物を含有する。総有機炭素(TOC)は、22ppm〜約106ppmの間で変化した。
【0167】
NaOH水溶液の濃度は、水相におけるNaBrおよびNaBrOの両方の塩の濃度に影響する。NaOH水溶液を約27%の濃度で使用することにより、室温(RT)条件において水相に析出しない約45%の塩を含有する水溶液が生じることが示されている。
【0168】
連続プロセスによる粗ブロモピクリンの調製についての主原料の平均消費率が、下記の表3にまとめられる。
【0169】

【0170】
明確にするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の局面および特徴は単一の実施態様に組み合わせて提供することもできることが認識されるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施態様で説明されている本発明の各種の局面および特徴は別個にまたはいかなる適切なサブコンビネーションでも提供することもできる。
【0171】
本明細書中で挙げた刊行物、特許および特許願は全て、個々の刊行物、特許および特許願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願でのいかなる引用または確認したことも本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【0172】
本発明はその特定の実施態様および実施例によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入る係る別法、変更および変形すべてを包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロモピクリンを調製するプロセスであって、
ニトロメタンおよび臭素を含有する第1の混合物の連続した流れと、アルカリ性物質の水溶液を含有する第2の混合物の連続した流れとを第1の反応器の中に移して、それにより、ブロモピクリンを含む反応混合物を前記第1の反応器において得ること;および
ブロモピクリンを前記反応混合物から回収し、それにより、ブロモピクリンを調製すること
を含むプロセス。
【請求項2】
前記第1の混合物および前記第2の混合物は、前記連続した流れにより、前記第1の反応器の中に同時に移される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記プロセスは、前記反応混合物中に有機溶媒が実質的に存在しないように行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記第1の混合物は、ニトロメタンおよび臭素を、約10℃〜約50℃の範囲にある温度において混合することによって調製される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記温度は約20℃〜約25℃の範囲にある、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記第1の混合物における前記臭素および前記ニトロメタンのモル比は、約3〜約4の範囲にある、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記比は、約3〜約3.1の範囲にある、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記アルカリ性物質は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類水酸化物およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
前記アルカリ性物質は、水酸化ナトリウムである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項12】
前記第2の混合物の前記水溶液における前記アルカリ性物質の濃度は、前記水溶液重量の総重量の約5重量%〜約40重量%の範囲にある、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記第2の混合物の前記水溶液における前記アルカリ性物質の濃度は、前記水溶液重量の総重量の約20重量%〜約35重量%の範囲にある、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記濃度は、前記水溶液重量の総重量の約26重量%〜約27重量%の範囲にある、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記第1の反応器における前記反応混合物の滞留時間は、約0.3時間〜約6時間の範囲にある、請求項1に記載のプロセス。
【請求項16】
前記滞留時間は、約0.5時間〜約4時間の範囲にある、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記第1の反応器は、約30℃〜約100℃の範囲にある温度に維持される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項18】
前記温度は、約40℃〜約80℃の範囲にある、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記ブロモピクリンを回収する前に、前記反応混合物を前記第1の反応器から第2の反応器に移すことをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項20】
前記第2の反応器は、約15℃〜約30℃の範囲にある温度に維持される、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記温度は、約20℃〜約25℃の範囲にある、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記ブロモピクリンを回収する前に、前記反応混合物を冷却することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項23】
前記ブロモピクリンを回収した後、水相を前記反応混合物から回収することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項24】
前記水相を化学的に処理し、それにより、処理された形態の前記水相を提供することをさらに含む、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記水相を前記化学的に処理することは、臭素および/または臭化ナトリウムの再生を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
ブロモピクリンは、ニトロメタンに対して90重量%以上の化学的収率で得られる、請求項1〜24のいずれかに記載のプロセス。
【請求項27】
ブロモピクリンは、ニトロメタンに対して95重量%以上の化学的収率で得られる、請求項26に記載のプロセス。
【請求項28】
ブロモピクリンは、ニトロメタンに対して98重量%以上の化学的収率で得られる、請求項26に記載のプロセス。
【請求項29】
ブロモピクリンは、99重量%以上の純度を有する、請求項1〜24のいずれかに記載のプロセス。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれかに記載のプロセスによって調製されるブロモピクリン。
【請求項31】
99重量%以上の純度を有する、請求項30に記載のブロモピクリン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−528102(P2010−528102A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509945(P2010−509945)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【国際出願番号】PCT/IL2008/000712
【国際公開番号】WO2008/146277
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(507192507)ブローミン コンパウンズ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】