説明

ブロモメチルシクロプロパン類の製造方法

【課題】高純度なブロモメチルシクロプロパン類を工業的に簡便に高収率で得ることができる製造方法を提供する。
【解決の手段】シクロプロピルメタノール類を臭素化して、ブロモメチルシクロプロパン類を製造する方法において、三臭化リン、五臭化リンおよび臭化ホスホリルの群から選ばれた少なくとも1種の臭素化合物、ならびにホルムアミド類の存在下に、当該シクロプロピルメタノール類を臭素化し、ブロモメチルシクロプロパン類を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、医薬、農薬、染料、香料などの有機合成原料として工業的に重要なブロモメチルシクロプロパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブロモメチルシクロプロパン類の製造方法としては、シクロプロピルメタノール類にメタンスルホニルブロミド(特許文献1)や三臭化リン(非特許文献1)を反応させる方法が知られている。しかし、得られるブロモメチルシクロプロパン類は、シクロプロピル部分が開環したものなどの異性体類が生成し、該異性体類は目的生成物との沸点が極めて近い場合が多く、蒸留による分離精製が困難という問題を有する。これらの異性体を多く含むブロモメチルシクロプロパン類を蒸留精製した場合、目的とするブロモメチルシクロプロパン類の収率は極端に低下し高純度な製品は得難い。
【0003】
一方、異性体類の生成を抑制させる手段として、ジメチルスルフィド・臭素系でブロモメチルシクロプロパン類を製造する方法(特許文献2)が知られているが、収率が65〜75%と中程度の収率に留まっており、工業的に有利とは言えない。
また、高純度のブロモメチルシクロプロパンの製造方法としては、シクロプロピルメタノール類をトリフェニルホスフィンジブロミドにより臭素化する方法(特許文献3および非特許文献2)が知られているのみであるが、臭素源が高価であり、また大量のリン廃棄物が副生し除去が困難という難点がある。
従って、高純度なブロモメチルシクロプロパン類を工業的に簡便に高収率で得ることができる製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−9451号公報
【特許文献2】特開平10−167999公報
【特許文献3】国際公開第97/30958号公報(特表2000−504733号公報)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. D. Robertsら、 Journal of the American Chemical Society, 73巻, 2509〜2520頁, 1951年6月発行
【非特許文献2】R. T. Hrubierら、 Journal of Organic Chemistry, 49巻, 431〜435頁, 1984年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高純度なブロモメチルシクロプロパン類を工業的に簡便に高収率で得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般式(1)で示されるシクロプロピルメタノール類を臭素化して、一般式(2)で示されるブロモメチルシクロプロパン類を製造する方法において、三臭化リン、五臭化リンおよび臭化ホスホリルの群から選ばれた少なくとも1種の臭素化合物、ならびに一般式(3)で示されるホルムアミド類の存在下に、当該シクロプロピルメタノール類を臭素化することを特徴とするブロモメチルシクロプロパン類の製造方法に関する。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R,R,R,R,Rは互いに独立に、水素または炭素数1〜6の直鎖または分岐状の脂肪族炭化水素基を示す。)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R,R,R,R,Rは、前記一般式(1)に同じ。)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R,Rは互いに独立に、炭素数1〜3の直鎖または分岐状の脂肪族炭化水素基、もしくはフェニル基を示す。)
【発明の効果】
【0014】
シクロプロピルメタノール類を、三臭化リン、五臭化リンおよび臭化ホスホリルの群から選ばれた少なくとも1種の臭素化合物、ならびホルムアミド類の存在下に臭素化することにより、異性体類の生成が抑制され、高純度なブロモメチルシクロプロパン類を得ることができ、工業的規模でも容易に高純度なブロモメチルシクロプロパン類を製造することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に用いられるシクロプロピルメタノール類は、前記一般式(1)で表されるが、式中、R,R,R,R,Rは互いに独立に、水素またはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素数1〜6の直鎖または分岐状の脂肪族炭化水素基である。
本発明における一般式(1)で表されるシクロプロピルメタノール類としては、具体的には、シクロプロピルメタノール、1−メチルシクロプロピルメタノール、1−エチルシクロプロピルメタノール、2−メチルシクロプロピルメタノール、2−エチルシクロプロピルメタノール、1,2−ジメチルシクロプロピルメタノール、1,2−ジエチルシクロプロピルメタノール、2,2−ジメチルシクロプロピルメタノール、2,2−ジエチルシクロプロピルメタノール、2,3−ジメチルシクロプロピルメタノール、2,3−ジエチルシクロプロピルメタノールなどが挙げられ、好ましくはシクロプロピルメタノールである。
【0016】
また、臭素源として用いられる臭素化合物としては、三臭化リン、五臭化リン又は臭化ホスホリルであり、これらは単独で用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。
三臭化リン又は臭化ホスホリルは、シクロプロピルメタノール類に対して0.33倍モル以上用いるのが好ましく、更に好ましくは、0.50〜1.50倍モルである。五臭化リンは、シクロプロピルメタノール類に対して0.20倍モル以上用いるのが好ましく、更に好ましくは、0.30〜1.50倍モルである。
【0017】
一方、本発明におけるホルムアミド類は、一般式(3)で表され、R,Rは互いに独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基などの炭素数1〜3の直鎖または分岐状の脂肪族炭化水素基、もしくはフェニル基を示す。
ホルムアミド類としては、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジ−n−プロピルホルムアミド、N−エチル−N−メチルホルムアミド、N−メチル−N−フェニルホルムアミドなどが挙げられ、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミドである。
ホルムアミド類は、三臭化リン、五臭化リン又は臭化ホスホリルに対して1.0倍モル以上用いるのが好ましく、更に好ましくは5.0〜100.0倍モルである。
【0018】
本発明は、三臭化リン、五臭化リン又は臭化ホスホリルとホルムアミド類を混合したものにシクロプロピルメタノール類を接触させ臭素化しても良く、又シクロプロピルメタノール類とホルムアミド類を混合したものに三臭化リン、五臭化リン又は臭化ホスホリルを接触させ臭素化しても良い。
臭素化反応時の温度は、通常、常圧下では−20℃〜40℃の範囲であり、更に好ましくは−10℃〜30℃の範囲である。
また、臭素化の反応時間(熟成時間)は、通常、10分〜72時間、好ましくは1〜48時間である。
【0019】
本発明は、ホルムアミド類を反応試剤兼溶媒として用いることが出来るが、他の溶媒の存在下に実施してもよく、この溶媒としては、ジメチルイミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化合物類を用いることが出来る。
この場合、溶媒の使用量は、シクロプロピルメタノール類100重量部に対し、通常、1,000重量部以下、好ましくは100重量部以下程度である。
【0020】
本発明にて合成したブロモメチルシクロプロパン類を含む層を蒸留することにより、高純度ブロモメチルシクロプロパン類を取得することが出来る。
ここで、本発明により得られる一般式(2)で表されるブロモメチルシクロプロパン類の具体例としては、一般式(1)に対応する臭化物であり、具体的には、ブロモメチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−1−メチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−1−エチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−2−メチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−2−エチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−1,2−ジメチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−1,2−ジエチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−2,2−ジメチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−2,2−ジエチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−2,3−ジメチルシクロプロパン、1−ブロモメチル−2,3−ジエチルシクロプロパンなどが挙げられ、好ましくはブロモメチルシクロプロパンである。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、生成物の分析は、いずれもガスクロマトグラフィーを用いて、下記の条件で行った。
[ガスクロマトグラフィー測定]
装置:GC−17A(島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム NEUTRA BOND−5(GCサイエンス製)(0.32mmI.D.×30m)
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
【0022】
[実施例1](低温反応)
N,N−ジメチルホルムアミド 95.5gを還流コンデンサー、温度計及び磁気撹拌子を装着した四つ口フラスコに入れ、撹拌しながら内温20℃で三臭化リン 20.0gをゆっくりと滴下し、30分熟成させた。次いで、撹拌しながら内温−10℃でシクロプロピルメタノール 8.0gをゆっくりと滴下し、臭素化させた。
熟成40時間後、分析した結果、シクロプロピルメタノールの転化率は100.0%、目的とするブロモメチルシクロプロパンの選択率は99.5%であり、定量収率は99mol%であった。また、副生したブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々0.3%と0.1%となった。次いで、得られた反応液を洗浄し減圧蒸留を行い、ブロモメチルシクロプロパンを留出液として得た。
分析した結果、ブロモメチルシクロプロパンの純度は99.6%、収率80mol%であった。また、ブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々0.2%と0.1%であった。
なお、三臭化リンの代わりに五臭化リン、臭化ホスホリルでも実施したところ、同様の結果を得た。
【0023】
[実施例2](標準条件でのスケールアップ)
N,N−ジメチルホルムアミド 1491.9gを還流コンデンサー、温度計及び磁気撹拌子を装着した四つ口フラスコに入れ、撹拌しながら内温20℃で三臭化リン 312.8gをゆっくりと滴下し、30分熟成させた。次いで、撹拌しながら内温20℃でシクロプロピルメタノール 125.0gをゆっくりと滴下し、臭素化させた。
熟成1時間後、分析した結果、シクロプロピルメタノールの転化率は100.0%、目的とするブロモメチルシクロプロパンの選択率は99.3%であり、定量収率は99mol%であった。また、副生したブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々0.5%と0.2%となった。次いで、得られた反応液を洗浄し減圧蒸留を行い、ブロモメチルシクロプロパンを留出液として得た。
分析した結果、ブロモメチルシクロプロパンの純度は99.4%、収率85mol%であった。また、ブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々0.3%と0.1%であった。
【0024】
[実施例3]
N,N−ジメチルホルムアミド 100.0gを還流コンデンサー、温度計及び磁気撹拌子を装着した四つ口フラスコに入れ、撹拌しながら内温20℃でシクロプロピルメタノール 8.0gを滴下した。次いで、撹拌しながら内温20℃で三臭化リン 20.0gをゆっくりと滴下し、臭素化させた。
熟成1時間後、分析した結果、シクロプロピルメタノールの転化率は100.0%、目的とするブロモメチルシクロプロパンの選択率は97.8%であり、定量収率は97mol%であった。また、副生したブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々0.9%と0.4%となった。次いで、得られた反応液を洗浄し減圧蒸留を行い、ブロモメチルシクロプロパンを留出液として得た。
分析した結果、ブロモメチルシクロプロパンの純度は98.5%、収率81mol%であった。また、ブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々0.6%と0.2%であった。
【0025】
[比較例1](ホルムアミド類を用いずにPBrを用いた反応)
シクロプロピルメタノール 10.0gとジエチルエーテル 140.0gを還流コンデンサー、温度計及び磁気撹拌子を装着した四つ口フラスコに入れ、撹拌しながら内温−10℃で三臭化リン 13.8gとジエチルエーテル 21.4gと混合したものをゆっくりと滴下し、反応させた。
熟成18時間後、分析した結果、シクロプロピルメタノールの転化率は99.9%、目的とするブロモメチルシクロプロパンの選択率は88.8%であり、定量収率は84mol%であった。また、副生したブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々5.6%と3.2%となった。次いで、得られた反応液を洗浄し減圧蒸留を行い、ブロモメチルシクロプロパンを留出液として得た。
分析した結果、ブロモメチルシクロプロパンの純度は92.3%、収率68mol%であった。また、ブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々3.9%と2.2%であった。
また、実施例1〜3で得られたような高純度のブロモメチルシクロプロパンを得ようとさらに減圧蒸留をしたところ、得られたブロモメチルシクロプロパンの純度は98.2%、収率16mol%であり、ブロモシクロブタンと4−ブロモ−1−ブテンの含有率は、各々0.9%と0.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により得られるブロモメチルシクロプロパン類は、高純度であり、電子材料、医薬、農薬、染料、香料などの有機合成原料として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるシクロプロピルメタノール類を臭素化して、一般式(2)で示されるブロモメチルシクロプロパン類を製造する方法において、三臭化リン、五臭化リンおよび臭化ホスホリルの群から選ばれた少なくとも1種の臭素化合物、ならびに一般式(3)で示されるホルムアミド類の存在下に、当該シクロプロピルメタノール類を臭素化することを特徴とするブロモメチルシクロプロパン類の製造方法。
【化1】

(式中、R,R,R,R,Rは互いに独立に、水素または炭素数1〜6の直鎖または分岐状の脂肪族炭化水素基を示す。)
【化2】

(式中、R,R,R,R,Rは、前記一般式(1)に同じ。)
【化3】

(式中、R,Rは互いに独立に、炭素数1〜3の直鎖または分岐状の脂肪族炭化水素基、もしくはフェニル基を示す。)
【請求項2】
一般式(1)で示されるシクロプロピルメタノール類を臭素化して、一般式(2)で示されるブロモメチルシクロプロパン類を製造する方法において、三臭化リン、五臭化リンおよび臭化ホスホリルの群から選ばれた少なくとも1種の臭素化合物と一般式(3)で示されるホルムアミド類を混合したのち、当該シクロプロピルメタノール類を臭素化する請求項1記載のブロモメチルシクロプロパン類の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で示されるシクロプロピルメタノール類がシクロプロピルメタノールである請求項1または2記載のブロモメチルシクロプロパン類の製造方法。
【請求項4】
臭素化合物が三臭化リンである請求項1〜3のいずれかに記載のブロモメチルシクロプロパン類の製造方法。
【請求項5】
一般式(3)で示されるホルムアミド類がN,N−ジメチルホルムアミドである請求項1〜4いずれかに記載のブロモメチルシクロプロパン類の製造方法