説明

プライム−ブーストワクチン接種法

【課題】HIV-1 CEF01 AEに対する新規ワクチン接種戦略を提供する。
【解決手段】組換えBCGワクチンによるプライミングステップと組換えワクチンによる1回以上のブースティングステップからなるプライム−ブーストワクチン接種法であって、プライミングステップ用の組換えBCGワクチンとブースティングステップ用の組換えワクチンの両方が、HIV-1 CRF01 AE株の少なくとも1遺伝子を有することを特徴とする接種方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はHIV-1 CRF01 AE株を原因とするエイズ(AIDS)症候群に対するプライム−ブーストワクチン接種法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の爆発的広がりは、東南アジア各国において深刻な問題となっている。タイでは、約130万人もの人々がHIV-1に感染し、2002年の終わりまでには、AIDS患者が約20万人に達したと推計されている。最新の報告によると、CCR5-熱帯性CRF01 AEウイルスが、薬物使用者集団の大多数の発生事例に見出され(Subbarao et al., 2000)、この組換え型が現在この国で優位を占めている。従って、CRF01 AE由来の抗原またはエピトープを組込んだ、HIV-1 CRF01 AEに対する予防的ワクチンを開発することが緊急に必要である。僅かな候補ワクチンとしては、第IIIフェーズ段階にあるAIDSVAX B/E組換えgp120(Berman et al., 1999; Migasena et al., 2000)およびAIDSVAX B/Eと組合わせた組換えカナリア痘ウイルスなどがある。しかし、他のベクターに基づくワクチンは、これまでのところCRF01 AEに対抗するAIDSワクチンの開発に利用されていない。
【0003】
Mycobacterium bovisの弱毒化BCG株(以下、「BCG」という)は、ヒトに使用される最もポピュラーな生細菌ワクチンの一つであり、深刻な合併症の恐れが非常に少ない。このワクチンは強力かつ長期間のTヘルパー1型応答を誘発することがよく知られており、細胞毒性Tリンパ球(CTL)を活性化し、維持するために重要である。HIV-1およびサル免疫不全ウイルス(SIV)を標的とする組換えBCG(rBCG)ワクチンの潜在的な免疫原性について説明する報告は数多くある(Honda et al., 1995; Lagranderie et al., 1997; Yasutomi et al., 1995)。しかし、HIVまたはSIV特異的なCTL応答がヒトに対する通常の用量では低いため、組換えBCGベクターのみを用いるAIDSワクチンの候補はない。
【0004】
本願の一部発明者は、感染性疾患、特にAIDS症候群に対するプライミングワクチン接種に使用する組換えBCGワクチンを発明し、発明の名称「BCGワクチンおよびその利用」として特許出願した(WO03/097087A1;以下、「先行出願1」という)。この先行出願1では、ワクチン接種効果を上昇させるために、組換えワクチンウイルスDIs株を使用することについても開示している。
【発明の開示】
【0005】
本願発明は、先行出願1の発明を利用し、発展させることにより、HIV-1 CRF01 AEに対する新規ワクチン接種戦略を提供することを目的とする。この目的のために、本発明者らは、ブースト抗原としての他のウイルスベクターに基づくワクチンと組合わせて、プライミング抗原として組換えBCGを使用する場合、非常に効率的に増強した細胞免疫応答が、HIV-1 CRF01 AEに対して誘発されることを発見した。本発明はこれに基づき達成されたものである。
【0006】
本願発明は、組換えBCGワクチンによるプライミングステップと組換えワクチンによる1回以上のブースティングステップを含むプライム−ブーストワクチン接種法であって、プライミングステップ用の組換えBCGワクチンとブースティングステップ用の組換えワクチンの両方が、HIV-1 CRF01 AE株の少なくとも1遺伝子を有することを特徴とする方法である。
【0007】
前記発明における好適な態様は、前記組換えワクチンの両方がHIV-1 CRF01 AE株の少なくともgag遺伝子を有していることである。この態様においてさらに好適なのは、前記gag遺伝子が配列番号2のアミノ酸配列をコードし、さらに、gag遺伝子が配列番号1のヌクレオチド配列を有していることである。
【0008】
前記発明におけるもう一つの好適な態様は、前記組換えBCGワクチンの遺伝子が、アミノ酸を変化させずに各コドンの第3位をGまたはCで置換するするように改変されていることである。
【0009】
また、前記発明における好適な態様は、ブースティングステップ用の組換えワクチンが組換えワクシニアウイルスDIs株である。この態様においてさらに好適には、組換えワクシニアウイルスDIs株によるブースティングステップは少なくとも2回行うことである。
【0010】
前記発明におけるさらに好適な態様は、前記ワクチンを1被験者あたり0.05-0.1mgの用量で投与することである。
【0011】
もう一つの発明は、配列番号1のヌクレオチド配列を有するHIV-1 CRF01 AE株のgag遺伝子、およびこのgag遺伝子を有する組換えBCGワクチンである。
【0012】
さらにもう一つの発明は、gag遺伝子の発現産物であるHIV-1 CRF01 AE株のGagタンパク質、およびこのGagタンパク質を特異的に認識する抗体である。
【0013】
本発明における用語および概念については、本発明の実施形態および実施例の記載において具体的に定義する。さらに、本発明を実施するために使用する様々な技法については、その出典を特定して引用した技法を除き、既知の刊行物などに従って、当業者が容易にかつ確実に実施し得るものである。例えば、ワクチンの調製については、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, ed. A. Gennaro, Mack Publishing Co., Easton, PA, 1990に記載されており、また、遺伝子工学および分子生物学技術については、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989およびAusubel, F.M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y., 1995などに記載されている。
【0014】
さらに、上記の本発明は当該先行出願1-3の発明を発展させ完成したものである;当該先行出願1-3はすべて参照により本願発明の一部とする。
【0015】
従って、本発明方法によると、HIV-1抗原特異的免疫応答を動物モデルにおいて効率的に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は組換えBCGワクチンによるプライミングステップと組換えワクチンによる1回以上のブースティングステップからなるプライム−ブーストワクチン接種法に関するものであり、このワクチン接種方法の特徴は、プライミングステップ用の組換えBCGワクチンとブースティングステップ用の組換えワクチンの両方が、HIV-1 CRF01 AE株の少なくとも1遺伝子を有することである。
【0017】
本方法において、組換えBCGワクチンは有効成分として組換えBCGを含有する。組換えBCGは少なくとも1個のHIV-1 CRF01 AE株の遺伝子を有する発現ベクターにより形質転換されたBCG株である。BCG株については、結核に対し実際のワクチン接種に使用されている広く知られた株を使用することが可能である。発現ベクターについては、従来の組換えBCGワクチン製造に使用されているマイコバクテリアのベクター(プラスミドpSO246など)を使用することが可能である。発現ベクターはHIV-1 CRF01 AEの遺伝子をこのベクターのクローニング部位に挿入することにより構築することができる。さらに、BCG株由来のプロモーターおよびターミネーター配列(BCG由来の熱ショックタンパク質(hsp)のプロモーターおよびターミネーター配列など)および/または他のマイコバクテリア株由来のものを遺伝子に連結し、それによってHIV-1 CRF01 AEからの遺伝子産物をBCGにおいて十分に発現させる。
【0018】
BCG株に挿入する遺伝子は、HIV-1 CRF01 AE株の抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。より具体的には、HIV-1 CRF01 AEの抗原性タンパク質であるgag前駆体p55、p24タンパク質、envタンパク質gp120、gp160またはgp41、polタンパク質逆転写酵素、nefタンパク質、tatタンパク質などである。これらのうち、gag遺伝子産物(配列番号2)がより好適である。具体的には、発現ベクターは配列番号1のポリヌクレオチドをpSO246に挿入することにより構築し得る。
【0019】
抗原遺伝子を得るには、そのために有効な配列をHIV-1 CRF01 AE株のゲノム遺伝子から、またはクローン化プラスミト゛cDNAから、適切な制限酵素により切り出す。あるいは、HIV-1 CRF01 AE株に感染した動物細胞由来のDNAまたはRNAを鋳型として用い、適切な配列のプライマーによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅してもよい。
【0020】
組換えBCG用の抗原性遺伝子の一つとして、本発明はHIV-1 CRF01 AE株のgag遺伝子を提供するが、この遺伝子は配列番号1のヌクレオチド配列を有する。本発明はさらにHIV-1 CRF01 AE株のgag遺伝子を保持する組換えBCGワクチンを提供する。
【0021】
上記のように構築した発現ベクターは、塩化カルシウム法またはエレクトロポレーション法などの既知の方法によりBCG株に導入し、ポリペプチドの発現はウエスタンブロット法または既知の免疫学的測定法(ELISAなど)により確認し、これによって本発明の組換えBCGを調製することができる。
【0022】
このように調製した組換えBCGを通常のBCGワクチンと同様の液状担体に懸濁し、組換えBCGワクチンを調製することができる;得られるワクチンは実際に免疫誘導に使用することができる。
【0023】
本発明の好適な態様では、組換えBCGワクチンの挿入遺伝子が、アミノ酸を変化させずに各コドンの第3位をGまたはCで置換するするように改変されている。表1は、それぞれのコドンにおける置換の具体的種類(「最適コドン」の欄)について示している。すなわち、例えば、グリシン(Gly)をコードするコドンは4種ある:GGT、GGC、GCA、およびGGG。上記の基準に一致するGlyコドンはGGCまたはGGGである。従って、ある種抗原タンパク質のアミノ酸配列におけるGlyコドンがGGTまたはGGAである場合には、3番目のT(チミン)またはA(アデニン)はCまたはGに置換される。
【0024】
【表1】

【0025】
本発明における好適な形態では、各コドンのすべての位置が、かかるコドンのエンコードするアミノ酸残基の種類を変化させない条件下に、できるだけGまたはCを含むように置換わっている。かかる種類の置換はロイシン(Leu)およびアルギニン(Arg)に適用し得る。すなわち、表1に示される最適コドンの中で、Leuコドンとしては2個の“T”を含むコドン(TTG)よりもむしろCTCまたはCTGが好適に選択される。さらに、Argコドンとしては“A”を含むコドン(AGG)よりもむしろCGCまたはCGGが好適に選択される。
【0026】
上記のコドン置換は以下の知見に基づいている。すなわち、BCGゲノムはG+Cを高含量で含むDNAから成り、コドンの3番目位置は取分けGC対を好む(J. Virol. 75: 9201-9209, 2001; Infect. Immun. 57: 283-288, 1989)。さらに、BCG遺伝子に関して蓄積された情報(Nucl. Acids Res. 28: 292, 2000)から、Argに対するAGAコドンおよびLeuに対するTTAコドンは余り使用されていないことも判明している(それぞれ、全コドンの0.9%および1.5%)。他方、例えば、HIV-1はコドンの3番目の位置がAT対であることを好むことが知られている。換言すると、HIV-1 p24遺伝子のoコード配列において、Argコドンの11個中、9個がAGAを用い、またLeuコドンの18個中、6個がTTAを使用する。コドン使用頻度の優先性が単細胞生物の相当するアミノアシルtRNA量と相関関係のあることが一般に知られている(Nature 325: 728-730, 1987; Mol. Biol. Evol. 2: 13-34, 1985)。Argコドン(AGA)とLeuコドン(TTA)はHIV-1 p24遺伝子に好まれるが、これらに対するアミノアシルtRNAの量は、BCG細胞では非常に低いと考えられる。
【0027】
従って、この好適な態様において、組換えBCGに挿入する遺伝子は、BCG細胞にとって特に好適なコドンの使用頻度と一致する塩基配列となるように設計する(すなわち、コドンの第3番目はGまたはCであり、さらに、コドンはできる限りGまたはCを含む)。
【0028】
各コドンに対応する好ましい塩基置換を遺伝子に導入するためには、周知のクンケル法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488, 1985; Methods in Enzymology 154: 367, 1987)、突然変異キットを用いるなどの周知の方法、突然変異誘発型PCR法等々を適用することができる。
【0029】
本発明プライム−ブースト法の第二の構成要素に関しては、上記組換えBCGワクチンと同じ抗原性遺伝子を発現するブースター抗原を使用することができる。例えば、組換えBCGワクチン(プライマーワクチン)と同じポリペプチド遺伝子を有するアデノウイルス、ポリオウイルス、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、水痘ウイルス、ワクシニアウイルス、サルモネラおよびリステリア種などの組換えウイルスおよび細菌のベクターである。特に、組換えワクシニアウイルスDIs株(先行出願2)は好適なブースターワクチンである。さらに好ましくは、組換えワクシニアウイルスDIs株によるブースティングステップは少なくとも2回の試行を含んでいる。
【0030】
プライムおよびブースターワクチンの投与は、注射または経口投与などの既知方法により行うことができる。用量、経路およびスケジュールなどは、試験すべき個体(ヒトまたは動物)の種類、体重、誘導する免疫の種類などで変わるが、プライムワクチンで0.05-1mg、ブースターワクチンで例えば、105-1010プラーク形成単位である。ワクチン2回接種の時間的間隔は2-12ヶ月とすることができる。
【0031】
さらに、本発明は配列番号1のヌクレオチド配列をもつHIV-1 CRF01 AE株のgag遺伝子、およびこのgag遺伝子を保持する組換えBCGワクチンを提供するが、これはブダペスト条約に基づき、寄託番号BP-0000としてIPODに寄託されている。
【0032】
本発明のgag遺伝子は図7に示した既知のgag遺伝子とは異なり、新規遺伝子である。従って、本発明の新規gag遺伝子は以下の用途を有する。
【0033】
本発明のgag遺伝子は、ワクチンの効果を増強する組換えBCGの構築のために、また、組換えワクシニアDIsなどのブースターワクチンの構築のために、挿入断片として使用することができる。当業者は寄託したBCG(BP-0000)から、例えば、適切な制限酵素またはPCR法を用いて入手することができる。PCR法については、実施例1に記載したプライマーのセット、すなわち、配列番号3および4を有するプライマーを使用することができる。
【0034】
また、本発明のgag遺伝子は、AIDS患者がHIV-1 CRF01 AE株に感染しているかどうかの診断に利用することができる。この診断は、例えば、患者から分離したgag遺伝子の配列を直接決定し、その配列を本発明の配列番号1の配列と比較することにより実施することができる。あるいは、配列番号1に特異的なプライマーのセットを使用するPCR法を診断のために採用することができる。すなわち、もし患者がHIV-1 CRF01 AE株に感染しているならば、その特徴的なgag遺伝子がPCR法により増幅される。さらに、診断は配列番号1の配列に特異的なプローブを含むDNAマイクロアレイシステムにより実施することができる。
【0035】
本発明のgag遺伝子はさらに、HIV-1 CRF01 AE株のGagタンパク質の製造に使用可能であり、これも本発明により提供される発明である。本発明のGagタンパク質は、AIDS、特にHIV-1 CRF01 AE株感染疾患に対する医薬開発の標的タンパク質として有用である。また、Gagタンパク質はHIV-1 CRF01 AE株感染疾患の診断薬開発にも使用することができる。例えば、Gagタンパク質を免疫原として用いることによって、HIV-1 CRF01 AE株に対する抗体を作成することができる。
【0036】
本発明のGagタンパク質、すなわち、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、本発明が提供するアミノ酸配列に基づき既知のペプチド化学合成などの方法によって調製するか、または本発明が提供するgag遺伝子を用いる組換えDNA技術により調製することができる。例えば、組換えDNA技術により適切な宿主ベクター系においてgag遺伝子を発現させることによりGagタンパク質を調製する場合、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などにおいて大量にGagタンパク質を得ることが可能である。
【0037】
本発明の抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり、Gagタンパク質のエピトープに結合する全体分子、Fab、F(ab')2、Fvフラグメントなどを包含する。ポリクローナル抗体はGagタンパク質またはその部分ペプチドにより免疫した動物の血清から得ることができる。モノクローナル抗体はMonoclonal Antibody, James W. Goding, third edition, Academic Press, 1996に記載の既知方法に従い取得することができる。
【0038】
実施例によって、本願発明をより詳細かつ具体的に以下に説明するが、この実施例は本願発明を制限するものではない。
【実施例】
【0039】
発現ベクターの構築
BCGのhsp60遺伝子をコードするDNAフラグメント(Thole et al. 1987)をpUC18(pUC-hsp60)のSmall-SalI部位にクローン化した。hsp60遺伝子のマルチクローニング部位とターミネーター領域に相当する合成DNAフラグメントをpUC-hsp60のMunI-KpnI部位にクローン化し、次いで、KpnIリンカーをEcoRI部位に挿入し、pUC-hspKベクターとした。HIV-1 CRF01 AE臨床分離株M33からのgag遺伝子をタイ患者のPBMCからPCRにより増幅した。使用したプライマーは以下のとおりである:
フォワードプライマー:
5'-ATATATCAATTGATCTAGCGGAGGCTAGAAGGAGAGAG-3'(配列番号3)
リバースプライマー:
5'-ATATAATGGATCCCTAATACTGTATCATCTGCTCCTGTAT-3'(配列番号4)
MunI-BamHI切断PCR産物をpUC-hspKベクターの同じ部位にクローン化しpUC-hsp-gagEとした。このプラスミドをKpnIで切断し、小フラグメントをpSO246(Matsumoto et al. 1994)にサブクローン化し、pSO-gagEを作成した(図1A)。

BCG東京株の形質転換
BCG東京亜株の種ロットを50mlの7H9-ADCブロスに接種し、撹拌下に37(Cにて14日間培養した。培養液を無菌の50%グリセロールと混合し、懸濁し、BCG溶液1mlずつ100部分として−80(Cに保存した。保存BCG溶液の1部を100mlの7H9-ADCブロスに接種し、撹拌下に37(Cにて10日間培養した。BCG細胞を5分間の遠心分離3000rpmにて採取し、冷却10%グリセロール10mlで懸濁した。2500rpmで5分間遠心分離した後、BCG細胞を冷却10%グリセロール5mlで再懸濁した。この工程は2回繰り返した。最後に、BCG細胞を10%グリセロール2mlに再懸濁した。BCG細胞溶液100μlを採り、遺伝子パルサー用キュベット(0.2cmギャップ)(Bio-Rad)中で発現プラスミドpSO-gagE 2μgと混合した。エレクトロポレーションは2500V、25μF、1000オームにて実施した。細胞を5分間氷上で冷却し、7H9ブロス150μlを加えて、37(Cで2時間培養した。BCG細胞をカナマイシン20μg/ml含有7H10寒天平板上に広げ、37(Cで3週間インキュベートした。

BCGにおけるGagE抗原の発現
BCGの形質転換体を拾い上げ、カナマイシン20μg/ml含有の新しい7H10−寒天平板上で2週間培養し、次いで、カナマイシン20μg/ml含有の7H9-ADCブロス30ml中で2週間増殖した。培養物2mlを採集し、トリス緩衝塩溶液(TBS)0.5mlにて2回洗浄し、次いで、TBS200μl中で超音波処理した。マルチ−ゲル4/20(第一化学(株);日本)を用い、細胞超音波処理物10μlをドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動に付した。分画したタンパク質をニトロセルロース膜フィルター上に電気ブロットし、相当するモノクローナル抗体と反応させて、ペルオキシダーゼの基質(3,3'−ジアミノベンジジン)で可視化した。最終的に、GagE抗原を発現したrBCGクローンを首尾良く入手し、rBCG-GagEと命名した(図1B)。
【0040】
gagE遺伝子用トランスファーベクターの構築:他方、感染したニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においてCRF01 AEGag抗原を産生するrDIsウイルスを得た。簡単に説明すると、gagE遺伝子をpUC-hspK-gagEからMunI-BamHIにより切り出し、クレノウ・フラグメントで平滑末端とし、次いで、pUC-vvp7.5HのSmaI部位にクローン化した(Ishii et al. 2002)。gagE遺伝子発現単位をHindIIIで切断し、pUC-DIsベクターにサブクローン化した(Ishii et al. 2002)。得られたプラスミドをpUC-DIs-gagEと命名した。

CEFの調製
8日目のニワトリ卵(10個)から胚を取り出した。PBS中で眼、脳および内部器官を除いた後、胚をハサミにより細片とし、50mlチューブ中0.02%EDTA-PBS50mlで処理した。2000rpmで5分間遠心分離した後、細胞を500mlフラスコ中でPBS−トリプシン(0.05%)100mlに懸濁し、無菌のマグネチックスターラーにより30分間ゆっくりと混合した。上清50mlを傾斜により採り、冷却したFBS10ml中に注入した。細胞懸濁液にPBS−トリプシン溶液50mlを添加し、30分間撹拌した。この工程を4回繰り返した。総量300mlの細胞懸濁液を無菌の網に通して細胞片を除去し、2000rpmで5分間遠心分離して、5%FBS添加イーグル修飾必須培地(MEM−5%FBS)500mlに再懸濁した。この懸濁液は1mlあたり1×106個の細胞を含み、これをプラスチックプレート(大きなものは10ml、小さなものは3ml)に注入し、37(Cで3日間インキュベートし、CEFの単層を得た。

組換えワクシニアウイルスDIs株の構築
7cmプレートのCEF単層から培地を除き、rDIs-lacZウイルス(Ishii et al. 2002)溶液(2×106pfu/MEM-1%FBS)0.4mlを加え、20分ごとに1時間ゆっくりと振盪した。新鮮なMEM-5%FBS培地(2ml)を加え、一夜培養した。pUC-DIs-gagEプラスミドはClonfectin(Clontech Co. Ltd)によりrDIs-lacZ感染CEFに形質導入し、親のワクシニアウイルスDIs株の主要欠失部位にて、lacZ遺伝子とgagE遺伝子と相同組換えさせた(図2A)。3日間のインキュベーションの後、細胞と上清の両方を採取し、凍結・融解を2回繰り返し、超音波処理して細胞をホモジネートとした。段階希釈したウイルス溶液を用いて新たに調製したCEFに感染させ、MEM-5%FBS培地中で3日間培養した。培地を除去した後、無色のプラークを0.004%5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ベータ−D−ガラクトシド(X-gal)含有MEM培地−寒天平板上で選択した。使用した培地の組成は、MEM中、1.2%寒天、0.225%NaHCO3、0.0292%L-Gln、80(g/mlのX-gal、40(g/mlのカナマイシンであった。無色プラークの寒天片をパスツールピペットで吸い上げ、エッペンドルフチューブ中、MEM-1%FBS培地に入れた。凍結および融解の後、寒天片を5分間超音波処理し、−80(Cで保存するか、または新鮮なCEFの感染に使用した。この青色−白色選択工程は、すべてのプラークが1プレート上で無色となるまで、3回または4回繰り返した。直径7cmの1プレートから、細胞と上清を採取し、10分間超音波処理してホモジネートとし、10cmプレート中、新鮮なCEFの感染に使用した。完全培地中、37(Cで3日間インキュベーションした後、細胞を採集し、PBSで2回洗浄し、0.5mlのPBS中、10分間超音波処理して細胞溶解液を調製した。

rDIs-感染CEFにおけるGagE抗原の発現
細胞溶解液10μlをマルチ−ゲル4/20(第一化学(株);日本)によりSDS-PAGEに付した。分画したタンパク質をニトロセルロース膜フィルター上に電気ブロットし、抗HIVgagV107モノクローナル抗体(Matsuo et al. 1994)と反応させた。第二抗体としてペルオキシダーゼ結合抗マウスIgGと反応させた後、反応したタンパク質をペルオキシダーゼの基質(3,3'−ジアミノベンジジン)により可視化した。ウエスタンブロット分析から、CEF中にgagE遺伝子を発現したrDIsクローンを得て、これをrDIs-GagEと命名した(図2B)。

組換えDIsウイルスの精製
rDIs-GagE感染CEF細胞溶解液を用い、75cm2フラスコ20個中の新しいCEF単層に感染させ、37(Cで3日間培養した。収穫後、細胞と上清の両方を2回凍結・融解させ、10分間の超音波処理を2回行い、細胞をホモジネートとし、次いで、精製に付した。精製手法は以下の通りである;(i)培養上清38mlを1チューブ(ベックマン・ウルトラ−クリアー1×3.5in. 25×89mm)あたり36%スクロース溶液5ml上に静かに載せ、14000rpmにて80分間遠心分離する。(ii)沈殿物を5ml、25mlおよび次いで8mlのPBSに再懸濁し(3回)、遠沈管中36%スクロース溶液5ml上に静かに載せ、17000rpmで30分間遠心分離する。(iii)沈殿物をPBSで穏やかに洗浄し、PBS100mlに完全に懸濁し、クリオチューブに分割し(チューブあたり1ml)、−80(Cに保存する(第一ロット)。

組換えDIsウイルスの滴定
CEFを48穴細胞培養プレート(2.5×105細胞/ウエル)中、37(CにてCO2インキュベーターで3日間培養した。MEM-1%FBS中ウイルスの10倍段階希釈液をCEFの感染に使用した(45μl/ウエル)。1時間のインキュベーションの後、新鮮なMEM-5%FBS培地0.5mlを加え、3日間インキュベートした。培地を除去した後、細胞を5%ホルマリン溶液(PBS中)200μl/ウエルにより室温で一夜固定した。細胞を0.02%メチレンブルー(PBS中)200μl/ウエルにて室温で3時間染色し、PBSで洗浄し、次いで、CPEを計数してウイルス力価を計算した。第一ロットの力価は約105pfu/mlであった。より高い力価のrDIs-GagEを得るために、第一ロットウイルスを75cm2フラスコ20個中の新しいCEF細胞に感染させ、培養し、上記同様に精製した。最終的に、rDIs-GagEウイルスの力価は1×108pfu/mlに調整した。

マウスにおける細胞免疫応答
rBCG-GagEをBALB/cに接種し、免疫した動物にペプチド−抗原特異CTLを誘発した(図3および4)。rDIs-GagE構築物もまたマウスにおいて十分に高いCTL応答を誘発し、その複製が機能不全であるにも関わらず、高い免疫原性であることが明瞭に証明された。その結果、これらの候補ワクチンにつき、カニクイザルにおいてプライム−ブースト投薬方法を評価することにした。

サルにおけるプライムおよびブーストワクチン接種による強化細胞性免疫応答
rBCG-GagE (0.1mg、皮内)−プライミングおよびrDIs-GagE (107pfu、皮内)−ブースティング投薬方法(両者ともヒトでの通常の用量と経路とした)につき、アカゲザルにおいて細胞免疫応答を増強するか、インターフェロンガンマ−エリスポット(ELISpot)アッセイにより評価した。図5に示すように、2回のrDIs−ブースティング注射により、非常に効率的にHIV-1Gag特異エリスポット応答が増強された。ウイルス特異IFNγエリスポットアッセイを実施した。簡単に説明すると、96穴平底プレート(U−Cytech−BV、ユトレヒト、オランダ)を抗−IFNγmAb MD-1(U−Cytech−BV)により4(Cで一夜被覆した。次いで、プレートを0.05%トゥイーン20含有PBS(PBST)で洗浄し、2%ウシ血清アルブミン含有PBS(PBSA)により37(Cで1時間ブロックした。PBSAはプレートから廃棄した。新たに単離したPBMCをコンカナバリンA(ConA)または0.2(MのプールGagペプチド(エイズ研究対照薬プログラム)のいずれかと共に加え、抗−IFNγ−被覆プレート中、5%CO2下37(Cにて16時間インキュベートし、次いで、氷冷脱イオン水で溶解させた。プレートを洗浄後、ウサギ抗−IFNγポリクローナルビオチニル化検出抗体(ウエルあたり1(g;U−Cytech−BV)を50μl加え、プレートをさらに37(Cで1時間インキュベートした。次いで、プレートをPBSTで洗浄し、その後に金標識抗−ビオチン免疫グロブリンG(GABA)溶液(U−Cytech−BV)を加え、37(Cで1時間インキュベートした。PBST洗浄に続き、活性化剤混合物(ウエルあたり30μl;U−Cytech−BV)を加え、15分間プレートを発色させた。
【0041】
ウエルを画像化し、スポット形成細胞(SFC)をKSエリスポット・コンパクトシステム(Carl Zeiss、ドイツ)により計数した。SFCは境界のはっきりしない大きな黒い斑点と定義した。有意レベルを決定するために、各ペプチドのベースラインを各ペプチドのSFC数の平均および標準偏差により確定した。この平均プラス2標準偏差に相当する閾有意値を次いで決定した。SFC数がペプチド不在サンプルの閾有意レベルを超えた場合、応答が陽性であるとした。
【0042】
さらに、細胞内サイトカイン染色アッセイが、免疫サルでのCD8+CTL活性化の増強を証明した(図6)。これらのデータは、本プライム−ブースト投薬方法が効率的な陽性細胞免疫を誘発し、増強し得ることを示唆している。フローサイトメトリーにより細胞内IFNを検出するために、新たに単離したPBMC(5×105-1×106細胞)をR-10培地に懸濁し、5%CO2下、抗原とともに37(Cで16時間インキュベートした。最後の6-8時間に、ブレフェルジンA(Sigma Chemical Co.、セントルイス、ミズーリ)10(g/mlを加えた。インキュベーションの間に、同時刺激剤分子としてCD28に対する抗体(1(g/ml、BD Pharmingen、サンディエゴ、カリフォルニア)も加えた。刺激後に細胞を洗浄し、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)−結合抗−CD3抗体(FN18;Biosource、カマリロ、カリフォルニア)およびペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)−結合抗−CD8抗体(Leu−2a; Becton Dickinson)で染色した。次いで、細胞を蛍光活性化セルソーター(FACS)溶解液(Becton Dickinson Biosciences、サンホセ、カリフォルニア)と10分間、およびFACS浸透化溶液(Becton Dickinson)とさらに10分間、連続してインキュベートした。細胞を洗浄し、フィコエリスリン(PE)−結合抗−ヒトIFNr抗体(4S.B3;BD Pharmingen)で染色し、2%パラホルムアルデヒドで固定した。サンプルは、Cell Questソフト(Becton Dickinson)を用い、FACS Callibur(Becton Dickinson)により解析した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上詳しく説明したとおり、組換えBCGと組換えワクシニアウイルスなどある種のブースターとを組合せて使用することにより、HIV-1 CRF01 AEに対する有効な免疫誘導が、本願発明に従い達成し得た。本発明によりHIV-1 CRF01 AE感染を有効に予防することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】BCGにおけるHIV-1 CRF01 AE Gag発現ベクターの構造およびrBCGクローンのウエスタンイムノブロット分析。hsp60プロモーターの矢印は転写の方向を示す。Km、Ori−マイコバクテリア、およびMCSは、それぞれカナマイシン抵抗遺伝子、pAL5000プラスミド由来マイコバクテリアの複製起点を含むDNAフラグメント、およびマルチクローニング部位を示す。rBCG細胞溶解液中のGag抗原は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分画し、ニトロセルロース膜フィルターに転写し、抗−HIV-1 Gagp24モノクローナル抗体により可視化した。
【図2】HIV-1 CRF01 AE Gag抗原を発現するrDIsウイルスの構造およびrDIs感染CEF細胞溶解液のウエスタンイムノブロット分析。VV-DIs、p11、およびp7.5は、それぞれ、非組換えDIsゲノム、ワクシニアp11およびp7.5プロモーター遺伝子を示す。rDIs感染CEF細胞溶解液中のSIV Gag抗原は、図1の説明文に記載したと同じ手法で分析した。
【図3】1ヶ月に1回、rBCG-GagE0.1mgを皮下投与したBALB/cマウスにおいて免疫化により誘発したCTL活性。脾臓細胞を取り出し、各群5段階のペプチドで再刺激し、エフェクター細胞として全HIV-1gagの10種の異なる領域を占める10種の群とし、一方、P815細胞はHIV-1gagを含む組換えワクシニアウイルスに感染させ、標的細胞として51Cr標識した。各ペプチド群に対する特異的な溶解を1ないし10の数値で示した。一方、rBCG/pSO246を注射したマウス群は免疫化対照とした。
【図4】棒グラフは、10種のgagペプチド領域を占める異なるHIV-1Gagペプチドプールによる再刺激に対しての、rBCG/HIV-1gag免疫化した脾臓細胞の、エフェクター:標的100:1での特異的溶解率%を示す。
【図5】rBCG-GagE-プライムおよびrDIs-GagE−ブースト免疫サルにおけるインターフェロン−ガンマのエリスポット活性。rBCG-GagE (0.1mg)を0日に皮内初回免疫し、rDIs-GagE(107pfu)を初回免疫後、10週目および15週目の2回、増強投与した。CRF01 AEの組換えGag抗原で刺激した後、インターフェロン−ガンマ分泌末梢血単核細胞を通常のキットの使用により計数した。
【図6】SIV Gagに特異的なIFN−ガンマ産生CD8+T細胞のフローサイトメトリー分析。アカゲザルからのPBMCを重複ペプチドとインビトロで培養し、細胞内IFN−ガンマについて染色した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えBCGワクチンによるプライミングステップと組換えワクチンによる1回以上のブースティングステップを含むプライム−ブーストワクチン接種法であって、プライミングステップ用の組換えBCGワクチンとブースティングステップ用の組換えワクチンの両方が、HIV-1 CRF01 AE株の少なくとも1遺伝子を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
組換えワクチンの両方がHIV-1 CRF01 AE株の少なくともgag遺伝子を有する請求項1の方法。
【請求項3】
gag遺伝子が配列番号2のアミノ酸配列を有するGagタンパク質をコードする請求項2の方法。
【請求項4】
gag遺伝子が配列番号1のヌクレオチド配列を有する請求項3の方法。
【請求項5】
組換えBCGワクチンの遺伝子が、アミノ酸を変化させずに、各コドンの第3位をGまたはCで置換するするように改変されている請求項1から4のいずれかの方法。
【請求項6】
ブースティング用の組換えワクチンが組換えワクシニアウイルスDIs株である請求項1の方法。
【請求項7】
組換えワクシニアウイルスDIs株によるブースティングステップが少なくとも2回である請求項6の方法。
【請求項8】
ワクチンを1被験者あたり0.05-0.1mgの用量で投与する請求項1から7のいずれかの方法。
【請求項9】
配列番号1のヌクレオチド配列を有するHIV-1 CRF01 AE株のgag遺伝子。
【請求項10】
請求項9記載のgag遺伝子を有する組換えBCGワクチン。
【請求項11】
請求項9記載のgag遺伝子の発現産物であるHIV-1 CRF01 AE株のGagタンパク質。
【請求項12】
請求項11記載のGagタンパク質を特異的に認識する抗体。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−149234(P2006−149234A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2004−341283(P2004−341283)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504434970)タイ国 ミニストリー オブ パブリック ヘルス、デパートメント オブ メディカル サイエンシス (1)
【氏名又は名称原語表記】Department of Medical Sciences, Ministry of Public Health, Thailand
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【Fターム(参考)】