説明

プラスチックフィルム除電装置及びプラスチックフィルム用加熱搬送装置

【課題】 プラスチックフィルムに帯電した静電気を搬送しながら簡便に除電することが可能な除電装置、及びそれを具備した加熱搬送装置を提供する。
【解決手段】 真空排気手段3cを備えた真空容器内において、巻き出し装置6から巻き取り装置8に向けてロールトゥロールでプラスチックフィルムFを搬送しながら、プラスチックフィルムF上に帯電した静電気を除電するプラスチックフィルム除電装置であって、巻き取り装置8の巻き取り部近傍に、真空引きされた真空容器内のプラスチックフィルムに向けてガスを吹き出すガス吹き出し手段10を有している。除電する際は、真空容器内の圧力を、絶対圧で1.33Pa〜1.33kPa(1×10−2Torr〜10Torr)とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルム上に帯電した電荷を除電するプラスチックフィルム除電装置、及びそれを具備したプラスチックフィルム用加熱搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性を有し、また、機械的、電気的及び化学的特性においても他のプラスチック材料に比べ遜色のないことから、例えばプリント配線板(PWB)、フレキシブルプリント配線板(FPC)、テープ自動ボンディング用テープ(TAB)、そしてチップオンフィルム(COF)等の電子部品用の絶縁基板材料として多用されている。この様なPWB、FPC、TAB、及びCOFは、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属導体層として主に銅を被覆した金属被膜ポリイミド基板を加工することによって得られる。
【0003】
金属被覆ポリイミド基板には、ポリイミドフィルムと銅箔とを接着剤を介して接合した3層銅ポリイミド基板と、ポリイミドフィルムに銅層を直接形成した2層銅ポリイミド基板がある。また2層銅ポリイミド基板には、市販の銅箔にポリイミドを成膜したキャスティング基板と、市販のポリイミドフィルムにスパッタリングした後電気めっきを行う方法、及び/又は市販のポリイミドフィルムに無電解めっきを行う方法によって金属を直接積層するめっき法による2層銅ポリイミド基板とがある。
【0004】
最近では、金属被覆ポリイミド基板は、ノートPCのほか、液晶モニターなどに使用される大型液晶パネル用途のTABやCOF材料として広く用いられるようになってきている。一方、これら電子機器の小型化及び薄型化にともない、TABやCOFに対しても小型化及び薄型化、即ち高密度化が要求されている。その結果、配線ピッチ(配線幅/スペース幅)は益々狭くなっているが、上記めっき法による2層銅ポリイミド基板では、ポリイミドフィルムや導体層(銅被膜)の厚みを薄くしたり、厚みを自由にコントロールしたりすることができるので、特に注目されている。
【0005】
ところで、上記めっき法による2層銅ポリイミド基板の製造工程には、真空でポリイミドフィルムを処理する工程が含まれている。この真空処理工程には、一般的に、フィルム乾燥工程、プラズマ処理工程、及びスパッタリング成膜工程があり、ポリイミドフィルムは巻出ローラから巻取ローラに向けてロールトゥロールによって搬送されながら、これらの工程において処理される。
【0006】
ロールトゥロールで搬送されるポリイミドフィルムは、ローラとの摩擦などにより、静電気が帯電することがある。特に、ポリイミドフィルムが薄くなるほど、静電気の帯電によって、ポリイミドフィルムにしわが発生する、ポリイミドフィルムからの静電気放電によりポリイミドフィルムに欠陥が発生する、ポリイミドフィルムに傷が発生する、ポリイミドフィルム搬送時にポリイミドフィルムのロールへの巻き込みが発生するなど様々な不具合が発生する可能性が高いことがわかってきた。
【0007】
従来、プラスチックフィルム上に帯電した静電気を真空中で除電する場合は、アースされた細いブラシ状の導電物を除電対象であるフィルムに接近させ、ブラシ先端でコロナ放電を発生させて除電する自己放電式除電装置を用いたり、フィルムに接近させた針状電極に高電圧を印加してコロナ放電を発生させて除電する交流式や直流式等の電圧印加式除電装置を用いたりしていた。その他、プラズマ除電装置、紫外線除電装置、軟X線除電装置などを用いることもあった。
【0008】
上記コロナ放電を利用した従来の除電装置の除電原理は、電極におけるコロナ放電によって正や負のイオンを発生させ、絶縁性シート等の帯電体が持つ静電荷の極性と逆極性のイオンを、帯電体の電荷に起因する電界で引き寄せて、帯電体の静電気を中和するというものである。
【0009】
例えば、特公平05−015040号公報(特許文献1)には、走行するプラスチックフィルム等の帯電体を、コロナ放電を用いて走行途中で除電するフィルムの除電方法及び除電装置が開示されている。この技術は、除電のし過ぎによる逆帯電を除去するため、高周波除電と直流除電との2段階で除電を行うこと、及び直流除電器をフィードバック制御することを特徴としている。
【0010】
具体的には、帯電している走行物体を高周波除電器による高周波コロナ放電で除電処理した後、その高周波除電処理後の走行物体の残留電位及び極性を電位検出器で検出し、その検出した残留電位及び極性に従って直流除電器を自動制御することにより、この直流除電器から残留電位とは逆極性の、しかも残留電位を相殺する強さの直流コロナ放電を生じさせて、中和することにより除電している。
【0011】
しかし、絶縁性シートであるプラスチックフィルムには、表面固有抵抗や体積固有抵抗が高い種類もあるため、プラスチックフィルムをローラで案内しながら走行させると、一旦接したローラとの剥離に伴って生じる剥離放電によって、プラスチックフィルムの表裏両面に、放電態様に応じて、ランダムに混在した無数の小さい正負の帯電部分からなる不可視の非常に複雑な帯電模様が形成される。このような場合、電気力線が上記の極性の異なる帯電部位の中で閉じてしまうため、帯電体から少し離れた位置では電界が非常に弱くなり、除電に必要なイオンを引き寄せることができず、絶縁性シート上の電荷を中和することができない場合がある。
【0012】
これに対して、特開平07−263173号公報(特許文献2)には、走行するフィルム等の帯電体の走行方向及びこれに直交する方向に拡がる面を有するイオン吸引電極を、正負イオン生成用除電電極に対して帯電物体を挟んで対向配置し、正負イオン生成用除電電極から正負のイオンを交互又は同時に生成しながら、イオン吸引電極に正負が逆極性になる高電圧を交互に印加し、正負イオン生成用除電電極で発生した正負のイオンをイオン吸引電極で吸引して帯電物体に強制的に照射することを特徴とする除電方法及び除電装置が開示されている。
【0013】
この技術によって、帯電体に電位が誘起されるのに加えて、その正の帯電部分には負のイオンが、負の帯電部分には正のイオンが確実に反応するので、前述のランダムに混在した無数の小さい正負の帯電部分によって形成される複雑な帯電模様により帯電体面が微視的に中和状態になっていても、正負それぞれの帯電部分を別々に強力に除電することができる。また、イオン吸引電極は、帯電物体の走行方向及びこれに直交する方向に拡がる面を有しているため、イオン吸引力に場所的なムラが生じることがなくなると共に、正負のイオンを同等に吸引できるので、除電ムラを少なくすることが可能となる。
【0014】
【特許文献1】特公平05−015040号公報
【特許文献2】特開平07−263173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載された除電に関する技術は、使用できる真空度に制限があるため、金属被覆ポリイミド基板を作製するための真空処理工程には適用できない場合があった。更に、特許文献1及び2の除電装置は、装置構成及び制御が複雑であるため、簡便に使用することが困難であった。
【0016】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑み、ロールトゥロールで搬送されるプラスチックフィルム上に帯電した静電気を、フィルムを搬送しながら簡便に除電することが可能なプラスチックフィルム除電装置、及びそれを具備したプラスチックフィルム用加熱搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、プラスチックフィルムを搬送する時の帯電の起こり方に注目して、ポリイミドフィルムの表面電位を、ポリイミドフィルムの巻き出し側と巻き取り側にそれぞれ設置した表面電位計を用いて測定したところ、プラズマ処理工程の後やスパッタリング成膜工程の後では、ポリイミドフィルムの表面電位がほぼゼロになっていることがわかった。これは、プラズマ処理工程やスパッタリング成膜工程では、プラズマ空間に正電荷を帯びた粒子と負電荷を帯びた粒子が存在するため、ポリイミドフィルムが帯電していたとしても、プラズマ空間を通過している間に除電されるからであると推定される。
【0018】
一方、フィルム乾燥工程のようにプラズマ空間が存在しない真空中でポリイミドフィルムを搬送する場合は、一旦ポリイミドフィルムの表面が帯電してしまうと容易に除電することができないことがわかった。即ち、プラズマ空間が存在しない乾燥工程では、上記したポリイミドフィルムの帯電に起因する不具合が特に発生しやすくなると考えられる。
【0019】
更に、本発明者はプラスチックフィルムを搬送する時の帯電に関する多くの実験を試みていた際、真空度と帯電したプラスチックフィルムの表面電位との間に相関があることを見出した。そこで、具体的に検討を重ね、真空容器全体を真空引きする真空ポンプを備えた真空容器内に、ロールトゥロールでプラスチックフィルムを搬送するための巻き出し装置及び巻き取り装置を備え、この巻き取り装置の近傍に、プラスチックフィルムに向けてガスを吹き出すことが可能なガス吹き出し装置を設けた。
【0020】
このような構成の下、先ず、真空容器内を大気圧に保ち、プラスチックフィルムの搬送を停止した状態で、プラスチックフィルムの表面を帯電させた。その後、プラスチックフィルムの搬送を開始し、該フィルムにガス吹き出し装置からガスを吹き出しつつ真空容器内を排気し、真空容器内の圧力とフィルムの表面電位との関係を測定した。
【0021】
その結果、図1に示すように、排気によって真空容器内の圧力が低下するのに伴い、フィルムの表面電位がゼロに近づいていくことがわかった。このように、真空容器内の圧力を特定の範囲の真空度に保持しながら、該真空容器内のプラスチックフィルムにガスを吹き出すことにより、プラスチックフィルムに帯電している静電気を殆ど残すことなく効果的に除電できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0022】
即ち、本発明が提供するプラスチックフィルム除電装置は、真空排気手段を備えた真空容器内において、巻き出し装置から巻き取り装置に向けてロールトゥロールでプラスチックフィルムを搬送しながら、プラスチックフィルム上に帯電した静電気を除電するプラスチックフィルム除電装置であって、巻き取り装置の巻き取り部近傍に、真空容器の外部から導入されたガスの吹き出し手段を有し、該ガス吹き出し手段により、真空引きされた真空容器内でプラスチックフィルムに向けてガスを吹き出して除電することを特徴とする。
【0023】
上記プラスチックフィルム除電装置は、図1から明らかなように、真空容器内の圧力を、ガスを吹き出して除電する際に、絶対圧で1.33Pa〜1.33kPa(1×10−2Torr〜10Torr)とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明が提供するプラスチックフィルム用加熱搬送装置は、真空排気手段を備えた真空容器内において、プラスチックフィルムを、巻き出し室に設けられた巻き出し装置から巻き取り室に設けられた巻き取り装置に向けてロールトゥロールで搬送しながら、加熱装置を備えた乾燥室において乾燥し、プラスチックフィルム上に帯電した静電気を、該プラスチックフィルムを搬送しながら除電するプラスチックフィルム除電装置を備えている。該プラスチックフィルム除電装置は、真空容器の外部から導入されたガスを、真空引きされた巻き取り室内でプラスチックフィルムに向けて吹き出すガス吹き出し手段を有していることを特徴とする.
【0025】
上記プラスチックフィルム用加熱搬送装置においては、図1から明らかなように、巻き取り室の圧力を、ガスを吹き出して除電する際に、絶対圧で1.33Pa〜1.33kPa(1×10−2Torr〜10Torr)とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ロールトゥロールでプラスチックフィルムを搬送する際に、プラスチックフィルムに帯電した静電気を、搬送しながら殆ど除電することができ、プラスチックフィルムの搬送時に発生していた帯電をなくすことが可能となった。また、プラスチックフィルムに向けて吹き出したガスは、プラスチックフィルムの電荷を除去した後は速やかに真空容器外に排気されるので、プラスチックフィルムの乾燥工程に悪影響を及ぼすことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のプラスチックフィルム除電装置は、真空排気手段を備えた真空容器内において、巻き出し装置から巻取り装置に向けてロールトゥロールで搬送されるプラスチックフィルム上に帯電した静電気を、プラスチックフィルムを搬送しながら除電する。このプラスチックフィルム除電装置は、真空容器の外部から導入されたガスを、真空引きされた真空容器内で、プラスチックフィルムに向けて吹き出すガス吹き出し手段を有している。このガス吹き出し手段の配置は、特に制限はないが、巻き出し装置の巻き出し部近傍、即ち、プラスチックフィルムが巻き出し装置によって巻き出された直後の位置、あるいは、巻き取り装置の巻き取り部近傍、即ち、プラスチックフィルムが巻き取り装置によって巻き取られる直前の位置に配置することができる。
【0028】
上記のプラスチックフィルム除電装置は、例えば、プラスチックフィルム用加熱搬送装置に適用することができる。プラスチックフィルム用加熱搬送装置は、真空排気手段を備えた真空容器内において、プラスチックフィルムを、巻き出し室に設けられた巻き出し装置から巻き取り室に設けられた巻き取り装置に向けてロールトゥロールで搬送しながら、これら巻き出し室と巻き取り室との間に配置された加熱装置を有する乾燥室において乾燥する構成を有している。そして、このプラスチックフィルム用加熱搬送装置に設けるプラスチックフィルム除電装置は、真空容器の外部から導入されたガスを、真空引きされた巻き出し室あるいは巻き取り室内でプラスチックフィルムに向けて吹き出すガス吹き出し手段を有している。
【0029】
真空引きされる真空容器内の圧力、例えば、プラスチックフィルム用加熱搬送装置の場合では巻き取り室の圧力は、ガスを吹き出して除電する際に、絶対圧で1.33Pa〜1.33kPa(1×10−2Torr〜10Torr)とすることが好ましい。
【0030】
次に、本発明のプラスチックフィルム除電装置について、それを具体的に適用したプラスチックフィルム用加熱搬送装置を例に、図2を参照しつつ以下に説明する。
【0031】
図2には、プラスチックフィルム用加熱搬送装置20の概略図が示されている。プラスチックフィルム用加熱搬送装置20は、中央に位置する乾燥室1aと、これを挟んで両側に配設された巻き出し室1b及び巻き取り室1cを備えている。乾燥室1a、巻き出し室1b及び巻き取り室1cは、それぞれ略個別の真空度を維持できるように、仕切り板2により仕切られている。
【0032】
仕切り板2には、後述する巻き出し装置6及び巻き取り装置8によって搬送されるプラスチックフィルムFが通過する開口部2aが設けられている。また、乾燥室1a、巻き出し室1b及び巻き取り室1cには、それぞれ真空ポンプなどの真空排気手段3a、3b及び3cが具備されている。これらによって、乾燥室1a、巻き出し室1b及び巻き取り室1cは、各々、所定の真空度に真空引きされる。尚、乾燥室1a、巻き出し室1b及び巻き取り室1cには、各々、室内の真空度を測定する圧力ゲージなどの圧力測定器4a、4b及び4cが設けられていても良い。
【0033】
乾燥室1aには、加熱装置5が設けられている。加熱装置5は、巻き出し装置6から搬送されてきたプラスチックフィルムFの表裏を挟むように対向して、ヒーターなどの加熱手段5a及び5bを有している。これにより、プラスチックフィルムFは、真空下で連続的に加熱乾燥される。尚、加熱装置5の近傍には、熱電対などの温度測定器(図示せず)が設けられていても良い。これにより、加熱装置5の加熱温度を適切に制御することが可能となる。
【0034】
巻き出し室1bには、回転軸に関して回転自在な巻出ローラなどの巻き出し装置6が設けられている。巻き出し装置6から巻き出されたプラスチックフィルムFは、ガイドローラ7a及び7bを経て乾燥室1aに向けて搬送される。一方、巻き取り室1cには、回転軸に関して回転自在な巻取ローラなどの巻き取り装置8が設けられている。この巻き取り装置8に、乾燥室1aにおいて乾燥処理された後、ガイドローラ9a及び9bを経て搬送されてきたプラスチックフィルムFが巻き取られる。これらの構成により、プラスチックフィルムFは、巻き出し装置6から巻き取り装置8に向けてロールトゥロールで搬送されながら、真空引きされた乾燥室1a内で連続的に乾燥される。
【0035】
上記のプラスチックフィルム用加熱搬送装置20には、図2に示すように、真空排気手段3cによって真空引きされる巻き取り室1cに、ガス吹き出し手段10が設けられており、プラスチックフィルム用加熱搬送装置20の容器壁を通して外部から導入されたガスをプラスチックフィルムFに吹き出すようになっている。具体的には、このガス吹き出し手段10は、その近傍を通過するプラスチックフィルムFに向けてガスを吹き出すノズルなどのガス吹出し部10a、ガス吹出し部10aにガス供給源(図示せず)からガスを供給するガス供給ライン10b、及びガス供給ライン10b上に設けられたガス流量の調節などを行うバルブ10cを有している。尚、上記した吹き出しに使用するガスの種類は、特に限定されないが、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスが好ましい。
【0036】
このプラスチックフィルム除電装置により除電する際、上記のガスの吹き出しが行われる空間の圧力、例えば、図2に示すように、巻き取り室1cにおいてガスの吹き出しが行われる場合は、巻き取り室1c内の圧力は、絶対圧で1.33Pa〜1.33kPa(1×10−2Torr〜10Torr)とすることが好ましい。この範囲の圧力に制御することにより、図1から分かるように除電をより一層効果的に行うことができる。尚、上記の圧力の制御は、プラスチックフィルムFに向けて放出するガスの導入量を調整することによって、例えば、バルブ10cの開度や真空排気手段3cの排気量などを調整することにより行うことができる。
【0037】
プラスチックフィルムFに向けて放出されたガスは、プラスチックフィルムFの表面の電荷を除去した後、直ちに外部に排出されることが好ましい。これによって、乾燥工程に及ぼす影響を抑えることができる。例えば、巻き取り室1cにおいてガスの吹き出しが行われる場合は、巻き取り室1cに具備されている真空排気手段3cを用いて、当該ガスを吸引して巻き取り室1cの外部に速やかに排出することが好ましい。これにより、巻き取り室1cに放出されたガスが乾燥室1a内に侵入しにくくなるため、放出されたガスによる影響を殆ど受けることなくプラスチックフィルムFを乾燥することができる。
【0038】
また、図2に示すように、プラスチックフィルムFの経路に沿った位置に表面電位計12を設けて、プラスチックフィルムFの表面電位を測定することができる。これにより、プラスチックフィルムFの帯電量を正確に把握することが可能となるため、最適な除電処理を行うことが可能となる。尚、表面電位計12の位置は、適切にプラスチックフィルムの表面電位を測定できるのであれば、図2に示す位置に限られるわけではない。
【0039】
上記のプラスチックフィルム用加熱搬送装置20の説明においては、図2に示す矢印のように、プラスチックフィルムFが、巻き出し装置6から巻き出されて巻き取り装置8によって巻き取られることを前提にしている。しかしながら、巻き出し装置6及び巻き取り装置8を、それぞれ正逆回転させ、図2に示す矢印方向の搬送に加えて、該矢印方向と逆方向の搬送を行うことも可能である。このように、巻き出し室1bにおいて巻き出し及び巻き取りを行うと共に、巻き取り室1cにおいて巻き取り及び巻き出しを行うことを企図して、図2に示すように、巻き出し室1bにも、ガス吹き出し手段11や表面電位計13を具備することが好ましい。
【実施例】
【0040】
[実施例]
図2に示すプラスチックフィルム用加熱搬送装置を使用して、本発明の除電装置の除電効果を調べた。ここにおいて、プラスチックフィルムFには、宇部興産(株)製のユーピレックス(登録商標)−Sフィルム(厚さ12.5μm)を使用し、巻き出し装置6から巻き取り装置8に向けてロールトゥロールで搬送した。この搬送に際し、巻き出し装置6と巻き取り装置8に差速を付け、これによって生じるプラスチックフィルムFと巻き出し装置6などとの間の摩擦により、プラスチックフィルムFを帯電させた。尚、上記差速条件を0%、1%、5%及び10%と変化させた。
【0041】
上記の各差速条件で搬送しているプラスチックフィルムFに向けて、ガス吹き出し手段10からアルゴンガスを吹き出した。同時に、真空排気手段3cを起動して、巻き取り室1c内の圧力を絶対圧で1.33×10−2Pa〜1.33×10Pa(1×10−4Torr〜1×10Torr)に変化させていった。プラスチックフィルムFの表面電位は、巻き取り室1c内の表面電位計(春日電機(株)製KSD−0103)12で測定した。尚、加熱装置5は、そのヒーターの表面に設けられている熱電対温度が300℃となるように設定した。またプラスチックフィルムFの搬送速度は毎分3mとした。
【0042】
上記のようにして測定した巻き取り室1c内の圧力とプラスチックフィルムFの表面電位との関係を、0%、1%、5%及び10%の差速について、それぞれ図3〜図6に示す。
【0043】
また、差速10%において、巻き取り室1c内の圧力が1.29×10−1Pa(条件a)、1.99×10−1Pa(条件b)、2.93×10−1Pa(条件c)、1.33Pa(条件d)、及び1.33×10Pa(条件e)としたとき、プラスチックフィルムFの表面電位を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
これらの結果から、差速0%では、図3に示すように、摩擦による帯電は殆どなく、上記いずれの圧力でも表面電位はほぼゼロとなっていた。また、差速1%では、図4に示すように、1.33Pa(1×10−2Torr)より低い圧力側で帯電が認められた。更に、図5及び図6からわかるように、差速が5%から10%に大きくなるにつれて、帯電量も大きくなり表面電位の絶対値が高くなっていることがわかった。
【0046】
また、差速が5%及び10%では、1.33kPa(10Torr)よりも高い圧力側においても、1.33Paより低い低圧力側同様、表面電位の絶対値が高くなっていることがわかった。即ち、1.33Pa〜1.33kPa(1×10−2Torr〜10Torr)の範囲においては、図4〜図6のいずれの場合においても、表面電位はほぼゼロであり、良好に除電されていることがわかった。
【0047】
[比較例]
比較例として、ガス吹き出しを行わなかった以外は上記実施例の差速10%の場合と同様にして乾燥処理を行って、プラスチックフィルムFの表面電位を測定した。その際、巻き取り室1c内の圧力を、0.046Paとした。得られた結果を下記表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
この結果から、ガス吹き出しを行わなかった場合は、良好な除電効果が得られないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の除電装置で除電したときの、排気時間とプラスチックフィルムの表面電位及び圧力の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例に係るプラスチックフィルム用加熱搬送装置を示す概略図である。
【図3】差速0%で搬送されるプラスチックフィルムを、本発明の除電装置で除電したときの圧力と表面電位の関係を示すグラフである。
【図4】差速1%で搬送されるプラスチックフィルムを、本発明の除電装置で除電したときの圧力と表面電位の関係を示すグラフである。
【図5】差速5%で搬送されるプラスチックフィルムを、本発明の除電装置で除電したときの圧力と表面電位の関係を示すグラフである。
【図6】差速10%で搬送されるプラスチックフィルムを、本発明の除電装置で除電したときの圧力と表面電位の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1a 乾燥室
1b 巻き出し室
1c 巻き取り室
3a、3b、3c 真空排気手段
5 加熱装置
6 巻き出し装置
8 巻き取り装置
10、11 ガス吹き出し手段
12、13 表面電位計
20 プラスチックフィルム用加熱搬送装置
F プラスチックフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気手段を備えた真空容器内において、巻き出し装置から巻き取り装置に向けてロールトゥロールでプラスチックフィルムを搬送しながら、プラスチックフィルム上に帯電した静電気を除電するプラスチックフィルム除電装置であって、巻き取り装置の巻き取り部近傍に、真空容器の外部から導入されたガスの吹き出し手段を有し、該ガス吹き出し手段により、真空引きされた真空容器内でプラスチックフィルムに向けてガスを吹き出して除電することを特徴とするプラスチックフィルム除電装置。
【請求項2】
前記真空容器内の圧力は、前記ガスを吹き出して除電する際に、絶対圧で1.33Pa〜1.33kPa(1×10−2Torr〜10Torr)とすることを特徴とする、請求項1に記載のプラスチックフィルム除電装置。
【請求項3】
真空排気手段を備えた真空容器内において、プラスチックフィルムを、巻き出し室に設けられた巻き出し装置から巻き取り室に設けられた巻き取り装置に向けてロールトゥロールで搬送しながら、加熱装置を備えた乾燥室において乾燥するプラスチックフィルム用加熱搬送装置であって、プラスチックフィルム上に帯電した静電気を、該プラスチックフィルムを搬送しながら除電するプラスチックフィルム除電装置を備えており、該プラスチックフィルム除電装置は、真空容器の外部から導入されたガスを、真空引きされた巻き取り室内でプラスチックフィルムに向けて吹き出すガス吹き出し手段を有していることを特徴とするプラスチックフィルム用加熱搬送装置。
【請求項4】
前記巻き取り室の圧力は、前記ガスを吹き出して除電する際に、絶対圧で1.33Pa〜1.33kPa(1×10−2Torr〜10Torr)とすることを特徴とする、請求項3に記載のプラスチックフィルム用加熱搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−181938(P2009−181938A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22622(P2008−22622)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】