説明

プラスチックフイルム及びその製造方法

【目的】 光学特性に優れ、且つ酸素、窒素、水分等のバリヤー性に優れた液晶表示パネル電極基板等に有用なプラスチックフイルム及びその製造方法を提供する。
【構成】 フイルムの複屈折(Δn)が負の値を有し、リターデーション(R)が50nm以下及び分子配向軸の角度(θ)が−30°以上、+30°以下であることを特徴とするプラスチックフイルム。ただし、フイルムの複屈折(Δn)はnMDからnTDを引いて求まる値、リターデーション(R)はΔnとdの積により求まる値の絶対値、分子配向軸の角度(θ)はフイルムの屈折率主軸のフイルム幅方向に対する角度、nMDはフイルムの長手方向の屈折率、nTDはフイルムの長手方向に直交する幅方向の屈折率、dはフイルムの厚さ(nm)である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプラスチックフイルム及びその製造方法に関し、更に詳しくは光学特性に優れ、且つ酸素、窒素、水分等のバリヤー性に優れた液晶表示パネル電極基板等に有用なプラスチックフイルム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶表示素子を用いた液晶パネルには、従来からガラス基板が使用されているが近年プラスッチク基板が検討され、一部がガラス基板に替って実用化されている。プラスチック基板は一般に、ガラス基板に比較して軽量化・薄型化等の市場要望を満たすが、光学等方性の点ではガラス基板に劣る。ガラスは本質的に光学等方であるのに対し、プラスチックフィルムは分子配向に起因する複屈折性を有するため製膜条件により光学異方性が生じ易い欠点がある。液晶ディスプレィの表示機能は、偏光の光スイッチングにより可視化が発現するという原理を利用したものであり、液晶基板に複屈折性(光学異方性)があると表示が着色したり、コントラストが著しく低下する等の品質上の欠点が生じる。
【0003】プラスチックフイルムのかかる欠点を改良するために、ポリマーの光学弾性係数を低減する方法、押出し製膜を特定の条件で行なう方法(特開平4−275129号)、特殊な条件で溶液製膜を行なう方法、或いは注型重合成形で枚葉シートとして1枚づつ製膜する方法(特開平5−323303号)等が提案されている。しかしながら、かかるプラスチックフイルムの製造方法は、非常に特殊な樹脂材料を用いる方法、特別な生産条件を設定した方法、或いは長時間をかけた生産性が極めて低い方法であるため、従来のガラス基板の製造方法に比較してコスト競争力が劣るものである。
【0004】例えば、特開平4−275129号には、光学的歪み(複屈折率)を低減したポリカーボネート製シートの製造方法が提案されおり、具体的製造条件として、樹脂温度、エアーギャップおよび冷却ロール温度の3因子を適切な範囲とすることが開示されている。しかし、この方法によるプラスチックフイルムは、光ディスク基板用に用いることを主目的としており複屈折率の絶対値を小さくすることに主眼を置いていたものである。かかるフイルムを液晶表示パネル用電極に用いると、液晶表示パネル用電極をつくる際の加工工程で長手方向に張力を掛けながら熱処理を施すため、熱処理後にフイルムの複屈折率が増大してしまう不都合が生じる。
【0005】更に、この従来技術の方法では、比較的幅の狭いフイルム(例えば幅が300mm程度のフイルム)であれば複屈折率の小さいプラスチックフイルムが得られるが、コスト競争力に優れる製品幅のフイルム(例えば1mを越えるフイルム)を製造することは困難である。即ち、製品幅の広いフイルムを安定して巻き取るためにはフイルムの長手方向(以下『MD方向』と略記することがある)に大きな張力を掛ける必要があり、この結果ポリマー分子がMD方向に配向してしまうので、開示された3因子の条件範囲のみでは、幅の広い液晶表示パネル電極用原反に適した品質のフイルムを安定的に得ることは困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は従来技術の欠点を解消し、液晶表示パネル用電極基板に用いた際にガラス基板を用いたものと同程度の表示品位を持ち、かつコスト競争力の高いプラスチックフイルムを得るべく鋭意検討を行った結果、プラスチックフイルムの分子配向を実質的にフイルムの幅方向(MD方向に直交する方向、以下『TD方向』と略記することがある)に配向させることによって、かかるフイルムが得られることを見出だし本発明に至ったものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、かかる目的を達成するため、次の構成からなる。フイルムの複屈折(Δn)が負の値を有し、リターデーション(R)が50nm以下及び分子配向軸の角度(θ)が−30°以上、+30°以下であることを特徴とするプラスチックフイルム。
【0008】ただし、フイルムの複屈折(Δn)はnMDからnTDを引いて求まる値、リターデーション(R)はΔnとdの積により求まる値の絶対値、分子配向軸の角度(θ)はフイルムの屈折率主軸のフイルム幅方向に対する角度、nMDはフイルムの長手方向の屈折率、nTDはフイルムの長手方向に直交する幅方向の屈折率、dはフイルムの厚さ(nm)である。
【0009】本発明のプラスチックフイルムを用いて液晶基板用電極を生産すると、その加工工程において加熱雰囲気下でMD方向に張力を加えても、またTD方向に熱収縮が生じても光学的等方性に優れた液晶基板用電極を効率良く生産することができる。
【0010】以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】[フイルムを構成するポリマー]本発明のプラスチックフイルムを構成するポリマーには、透明性の良好な熱可塑性樹脂を用いるが、透明性の良好なフイルムを得るにはアモルファス構造のポリマーを用いることが好ましい。更に、かかるポリマーには、ガラス転移温度(以下『Tg』と略記することがある)が120℃以上のポリマーを用いることが好ましい。Tgが120℃以上であると耐熱寸法安定性が優れたプラスチックフイルム、例えば120℃で1時間の加熱処理を施した時の寸法変化率が、0.1%以下のプラスチックフイルムが得られるため好ましい。
【0012】かかるポリマーとしては、例えばポリカーボネート、アモルファスポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォンおよびアモルファスポリオレフィン等を挙げることができ、これらのポリマーの群から選ばれた少なくとも1種の単一重合体或いは共重合体が好ましい。
【0013】[フイルムの複屈折]本発明のプラスチックフイルムは複屈折(以下単に『Δn』と略記することがある)が負のもの(Δn<0)である。このΔnはフイルムのMD方向の屈折率(以下『nMD』と略記することがある)から、フイルムのTD方向の屈折率(以下『nTD』と略記することがある)を引いて得られる値(Δn=nMD−nTD)である。Δnが負の値であるプラスチックフイルムを用いることにより、光学特性に優れた液晶表示パネル電極基板(以下『液晶基板』と略記する)を得ることができる。
【0014】通常、ポリマーを一般的な方法でフイルムに製膜した場合は、得られたフイルムのMD方向の屈折率が最大となる特性を有している。即ち、ポリマーの分子配向がフイルムの流れ方向と一致した向きとなるため一般にnMDがnTDよりも大きな値となりΔnが正(Δn>0)となる。かかるΔnが正の値をもつフイルムを液晶基板用のフイルムとして用いると、種々の後加工によりΔnの値が更に増すため液晶基板の光学異方性が著しくなり、表示が着色したり、コントラストが低下する等の欠点が生じる。
【0015】即ち、液晶基板を造るためにはプラスチックフイルムに種々の後加工、例えば酸素、窒素および水分に対するバリアー加工、ハードコート加工等の乾燥プロセスを含む湿式塗工加工、真空プロセスを含む透明電極膜加工等を施すが、乾燥プロセスや真空プロセスではMD方向に張力を加えた状態で加熱するので、フイルムのMD方向の分子配向がますます顕著になり、加工前のΔnの値よりも加工後のΔnの値が大きくなる影響を受ける。
【0016】また、張力や加熱のバラつきにより分子配向に乱れが生じ、加工後のフイルムのΔnがバラつくこともあり、その結果、Δnを低減させたプラスチックフイルム原反を用いても、後加工工程でΔnがバラついたものとなるため、液晶パネルの表示品位に著しい低下が生じる。
【0017】更に、湿式塗工工程や透明電極膜加工工程等の生産性を向上させるには、一般に加熱温度を高めにし、フイルムの走行スピードを増す方法が採られるが、この結果、走行方向(MD方向)のフィルム張力が高くなってしまうため、生産された液晶基板のΔnの値が増加し品質が低下してしまう問題が生じる。
【0018】[フイルムのリターデーション]また、本発明のプラスチックフイルムはリターデーション(以下『R』と略記することがある)が50nm以下のものである。RはΔnとフイルム肉厚(d[nm])の積の絶対値である。Δnとdの積は一般にリターディションと呼ばれ、フイルムに入射した光がフイルム面内を互いに直交して進む場合、進行方向で屈折率の差による光の速度差に起因する位相差の大きさを表したものである。尚、本発明においては、Δn=nMD−nTDと定義し、R=|Δn×d|と定義した。
【0019】Rが50nm以下のプラスチックフイルムを液晶基板に用いた場合の表示に着色がなく良好なものとなる。特に、プラスチックフイルムをSTN(スーパーツイストネマティック)方式の液晶基板に用いる場合には、Rが20nm以下である事が望ましい。
【0020】[フイルムの分子配向軸の角度(θ)]更に、本発明のプラスチックフイルムは分子配向軸の角度(以下『θ』と略記することがある)が−30度から+30度の範囲のものである。ここで、分子配向軸の角度(θ)とはフイルムの屈折率主軸(フイルム面内で屈折率が最大の値となる方向)のフイルムTD方向に対する角度である。本発明のプラスチックフイルムは、分子配向軸がTD方向に傾いているので、種々の後工程プロセスにおいて加熱雰囲気下でMD方向に張力が作用した場合でも、Δnが増加し難く、θが−30度から+30度の範囲であれば、液晶基板の光学的等方性が優れたものとなる。
【0021】また、種々の後工程プロセスではTD方向の熱収縮が生じる場合があるが、θが上記の範囲であれば熱収縮によりΔnが低減して光学的等方性が優れたものとなる。更に、後加工工程で張力調整が困難な場合、或いはMD方向に比較的大きな張力で加工される場合には、液晶基板の光学的等方性を優れたものとするためθが±20度の範囲内にあることが好ましい。
【0022】[フイルムの肉厚]本発明のプラスチックフイルムの厚さは、液晶パネルの表示品位の要求と加工工程でのプロセス・ハンドリングからの要求から決められるべきであるが、連続式のロールプロセス加工処理を行うことの要求から30μm〜500μmが好ましく、液晶パネルの表示品位の要求と加工工程でのプロセス・ハンドリングの要求の両方を満たすためには50μm〜400μmが好ましい。
【0023】[プラスチックフイルムの製造方法]本発明のプラスチックフイルムは、複屈折(Δn)が負の値を有し、リターデーション(R)が50(nm)以下及び分子配向軸の角度(θ)が−30度から+30度の範囲のものであるが、かかるプラスチックフイルムは例えば以下に説明する方法で製造することができる。
【0024】押出し製膜法によりプラスチックフイルムを製造する場合、光学的歪みが発生する機構は完全に解明されているわけではないが、一般に、次の(a)〜(c)の因子が複雑に絡み合い分子が配向した結果として発現するものと考えられている。すなわち;(a)製膜ダイ内で流動する溶融樹脂が流れ方向(本発明でいう長手方向と一致する。以下『MD方向』という。)の剪断応力をうけ、分子がMD方向に配向する。(b)ダイと冷却ドラムとの間で溶融フイルムがMD方向のドラフトと張力の影響を受け、分子がMD方向に配向する。(c)冷却ドラムに接触した溶融フイルムが冷却ドラムにて冷却固化する際(以下『冷却過程』という)に熱収縮が生じるが、収縮が拘束されると拘束された方向に収縮応力が発生し、これに応じて分子が配向する。
【0025】本発明のプラスチックフイルムは、主として上記(c)に着眼した製造方法の改良で得ることができる。即ち、溶融フイルムの冷却過程で通常はMD方向の巻取張力が支配的であるためフイルムにMD方向の応力が加わるのに対し、冷却過程でフイルムのTD方向に積極的に張力を発生させること及び/又はTD方向にフイルムを拘束することにより発生するTD方向の熱収縮応力をフィルムに作用させること等により本発明のフイルムを得ることができる。
【0026】本発明のプラスチックフイルムを製造する設備には、通常の押出し法製膜設備、すなわち単軸または双軸押出し機、コートハンガー型ダイ、冷却ドラム(熱媒により温度調節が可能)、引取りロールを経て巻取機(巻取張力調整可能)よりなるフイルム製造設備を用いることができる。かかる製造設備を用いた実施態様を更に説明する。
【0027】本発明のプラスチックフイルムを得るには、巻取機の張力を調整してMD方向の張力を可能な限り低めに設定することが重要であるが、それに加えて例えば、フイルム状に押出された溶融ポリマー(以下『溶融フイルム』ということがある)が冷却ドラムに接触し固化する際に、このフイルム(以下『冷却過程のフイルム』ということがある)にTD方向の張力を発生させること及び/又はTD方向にフイルムを拘束して発生するTD方向の熱収縮応力を十分フィルム面に作用させる。
【0028】例えば、溶融フイルムが冷却ドラムに接触する際に、次の(i)〜(v)の方法を用いることができる、すなわち;(i)静電ワイヤーにより冷却過程のフイルム両端部に静電気を荷電させることにより、フイルム両端部を冷却ドラムに密着させTD方向の収縮を抑制する。(ii)エアーナイフ(銅製等金属製のパイプの先端をスリット状に加工し、先端部から圧空を吹き付ける)にて冷却過程のフイルム両端部にエアーを吹き付けることにより、フイルム両端部を冷却ドラムに密着させTD方向の収縮を抑制する。(iii )エアーナイフにてフイルムがTD方向に伸長し、かつ冷却ドラムに密着するよう冷却過程のフイルム両端部にフイルム面に垂直よりやや外側に向けてエアーを吹き付けることにより、フイルムのTD方向の張力を発生させつつTD方向の収縮を抑制する。(iv)押えロール(内部に冷媒を循環出来る機構を有した金属製またはゴム製ロール等)にて冷却過程のフイルム両端部を冷却ドラムに圧着させTD方向の収縮を抑制する。(v)エアーナイフと静電ワイヤーを併用して冷却過程のフイルムのTD方向の収縮を抑制し、かつフイルムをTD方向に伸長させる。(i)〜(v)以外の方法であっても本発明の目的が達成できる方法であれば、これに限定されるものではない。
【0029】上記(i)〜(v)の方法を実施するには、得られたフイルムのマクロな光学特性のみを対象とする場合、フイルム全面に亘ることも可能であるが、一般にはフイルム両端部分のみを(i)〜(v)の方法で密着あるいは圧着させることが好ましい。この理由は、得られたフイルムの密着あるいは圧着された部分の表面が、静電気放電、エアー吹付け或いはロール転写等により微妙に粗れたり変形したりして、液晶基板用として使用できる表面性が確保でき難いことによる。この様な不適部分はエッジトリムカッターで切り離して製品から除くことが好ましい。
【0030】また本発明のプラスチックフイルムを製造するには、冷却ドラムの温度を適切に調整することも重要である。この理由は、冷却ドラムの温度が高すぎると、冷却ドラム上でのフイルムの熱収縮量が不足し、冷却過程のフイルムのTD方向への十分な収縮応力が発現し難くなる。また冷却ドラムの温度が低すぎると、冷却過程のフイルムが急激に冷却され温度分布が不均一となること等により、フイルムが部分的にフクレ状となり表面欠陥を示すことがある。従って冷却ドラム温度は、用いたポリマーのTg(℃)に対して、Tg℃〜(Tg−40)℃の範囲、更に好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg−30)℃の範囲に設定することが好適である。
【0031】本発明のプラスチックフイルムは、通常の巻取機で製品としてそのまま巻き取ることが可能であるが、フイルムの表面保護や巻取性向上等の目的でマスキングフイルム(プロテクトフイルムとも称する)を挿入して巻き取ったり、フイルム両端にエンボス加工(ナーリングとも称する)を施しながら巻き取ることが欠点のない製品が得られ易いので好ましい。
【0032】かかる方法により、Δnが負、Rが50以下およびθが−30から+30度の範囲のプラスチックフイルムを製造することができる。
【0033】[液晶基板生産用加工工程]本発明のプラスチックフイルムを、液晶基板として使用するには、液晶表示素子の長期信頼性を確保するために、酸素、水分に対するバリアー加工、耐溶剤性、表面硬度を付与するハードコート加工、および表面に透明導電膜を形成するための透明電極加工を適宜実施する。かかる加工については、従来の公知材料と加工技術を用いて、その目的とする機能を付与することができる。
【0034】バリアー加工としては、湿式コーティング法、或いはスッパタリングや蒸着等を用いる乾式コーティング法(ドライプロセス)があり、いずれも公知の材料・方法を用いることができる。また、耐溶剤性等を付与するハードコート加工も公知の材料・方法を用いることができ、さらにフイルム基板とバリアー層及び/又はハードコート層との各層間の接着性を向上させるのためにプライマー層を適宜設けたり、必要に応じて各層を2層以上設けることも可能である。液晶表示素子として、本発明のプラスチックフイルムを使用する場合には、更に透明導電膜を形成する必要があるが、このためには、例えばガラス基板にも用いられているインジウム−錫酸化物の薄膜形成法を活用することが好ましい。
【0035】上記の加工を施す前に、本発明のプラスチックフイルムをTg近傍の温度に連続的に加熱しながら走行させTD方向に収縮させてRの値が20nm以下となるよう熱弛緩処理し、しかる後にバリアー加工、ハードコート加工および透明電極膜加工等を行って光学的等方性に優れた液晶基板を得ることもできる。
【0036】液晶基板を経済的に生産するには、通常はロール状に巻かれた原反からプラスチックフイルムをバリアー層、ハードコート層或いは透明導電膜層を積層する工程に連続的に供給し、積層化後製品を連続的にロール状に巻き取る方法(ロール処理法)が採られる。このロール処理法では、フイルムを走行させるためにMD方向に張力をかけることが必要であり、塗工層あるいはスッパタ層の特性を向上させるためには加熱処理が必要となる場合がしばしばある。特に、生産性を向上させるためには、より大きな張力及びより高温の加熱条件が必要になる。本発明のプラスチックフイルムを用いれば、かかる生産性を高めた加工プロセスにより液晶基板を生産しても品質要求を満たした優れた特性の液晶基板を生産することができる。
【0037】
【実施例】以下、実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。尚、各特性値は下記の方法で測定した。
【0038】1.複屈折(Δn)
日本分光(株)製の透過型波長分散リターデーション測定装置・M−150を用いて測定波長590nmにてフイルムサンプルのnMDとnTDを測定し、Δn=nMD−nTDの計算式からΔnを求めた。尚、測定箇所はフイルムの全幅に亘りTD方向に40mm間隔とした。更に、それらの平均値をΔnとした。
【0039】2.リターデーション(R)
フイルムの全幅に亘りTD方向に40mm間隔でフイルムサンプルの肉厚(d[nm])を測定し、上記の方法で求めたΔnと、R=|Δn×d|の計算式からRを求めた。尚、それらの平均値をRとした。
【0040】3.分子配向軸の角度(θ)
フイルムサンプルの屈折率主軸(フイルム面内の最大屈折率方向)を日本分光(株)製の透過型波長分散リターデーション測定装置・M−150を用いて測定した。尚、フイルムの長手方向をMD方向、これと直交する幅方向をTD方向とし、フイルムの屈折率主軸とTD方向とのなす角度を分子配向軸の角度(θ)とした。なお角度の符号(正負)は、反時計回りを正とした。フイルム全幅に亘りTD方向に40mm間隔でθを測定し、それらの値の最小値〜最大値の範囲を求めた。
【0041】[実施例1〜9]帝人化成(株)製ポリカーボネート樹脂(パンライト(商標名)K−1285、分子量=28,000、DSC法によるTg=145℃)を、充填塔型乾燥機にて乾燥(乾燥温度130℃;乾燥時間6時間)したものを原料として製膜をおこなった。製膜設備として、スクリュー径が90mmの単軸押出機、1.5m幅のコートハンガー型Tダイ、冷却ドラム(熱媒により温度調節可能)、引取りロール系および巻取機(張力調整可能)よりなるフイルム製造設備を用いた。そしてエアーギャップ(Tダイの樹脂吐出部から冷却ドラムの溶融フイルムが接触部までの距離)は135mmとし、MD方向の張力は巻取機の張力により調整した。更に、フイルムのTD方向に張力(以下『TD張力』という)を発生させ及び/又はフイルムのTD方向の収縮を拘束してTD方向の熱収縮応力(以下『熱収縮応力』という)を発生させるため、フイルム状に押出された溶融フイルムが冷却ドラムに接触し固化する過程のフイルムの両端部(フイルム端面から各々約50mmの範囲)について、■静電ワイヤー(印加電圧=10〜14kV;印加有効長さ=45mm)にて印加し、フイルムの両端部を冷却ドラムに密着させる方法。■エアーナイフ(銅製パイプの先端をスリット状に加工したものの内部から圧空を吹き付ける装置:スリット長さ15mm、スリット間隙1mm)にてフイルムをTD方向に伸長させつつフイルムの両端部を冷却ドラムに密着させる方法。■押えロール(内部から水冷出来る機構を有したゴムロール(外径76mm、幅50mm)を用い、フイルム両端部を50mm押さえる)でフイルムの両端部を冷却ドラムに圧着させる方法。■エアーナイフと静電ワイヤー(印加電圧=14kV;印加有効長さ=45mm)を併用してフイルムをTD方向に伸長させつつフイルムの両端部を冷却ドラムに密着させる方法、のうち表1に示す方法を用いて、膜厚125μmのポリカーボネートフイルムを製造した。尚、樹脂温度は280℃、樹脂押出し量は86Kg/hr 、製膜速度は6.3m/min とし、引取りロール系の途中にエッジトリムカッターを設けて冷却ドラムに密着ないし圧着されて表面性が好適でない部分を除去し、全幅1160mmの製品フイルムを得た。製膜の主な条件と得られたフイルムの特性を表1に示す。
【0042】[比較例1〜4]TD張力と熱収縮応力の発生を積極的に施さない以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートフイルムを得た。得られたフイルムの特性を表1に示す。
【0043】
【表1】


【0044】表1から明らかなように、実施例1〜9のプラスチックフイルムは光学特性が良好であった。また、実施例1〜9の製造方法により光学特性が良好で、製品幅が1m以上のポリカーボネートフイルムを安定的に製造することができた。なお、冷却ドラムの温度は、原料ポリカーボネート樹脂のTg−0〜−40℃の範囲、特にTg−5〜−30℃の範囲に設定すると、フイルムサンプルの屈折率主軸がより狭い範囲でTD方向に揃ったプラスチックフイルムが得られる。
【0045】これに対して、積極的にTD張力または熱収縮応力の発生方法を用いない、通常の方法で得られた比較例1〜2のフイルムは、分子配向軸の角度(θ)が大きすぎ、屈折率主軸が実質的にMD方向を向いた不良なものであった。またMD方向への分子配向を抑制するために巻取張力を低下させた比較例3のフイルムは、フイルム走行の蛇行・たるみ・シワ入り等が次第に顕著になり、光学特性のバラつきが大きく最終的にはフイルムの巻取りが不能に陥った。また比較例4ではフイルムの巻取りが不能であった。
【0046】[実施例10〜13]帝人化成(株)製ポリカーボネート樹脂(パンライト(商標名)K−1285(分子量=28,000)、L−1225(分子量=22,000)およびC−1400(分子量=38,000)を、各々表2に示すとおり原料として用い、実施例3と同様の設備を用い、膜厚が80〜125μのポリカーボネートフイルムを製造し、得られたフイルムの光学特性を測定した。製膜条件としては、TD張力または熱収縮応力の発生方法は■、樹脂押出し量は85Kg/hr(一定)とし、所定の膜厚が得られるように製膜速度を調整した。その他の条件は表2に示す以外は実施例3と実質的に同等とした。表2に示す結果から明らかなように、分子量の異なるポリカーボネート原料を用いた場合でも光学特性に優れたプラスチックフイルムが得られた。
【0047】
【表2】


【0048】[実施例14〜19]ユニチカ(株)製ポリアリレート樹脂、Uポリマー(商標名)P−5001(Tg=165℃)、P−3001(Tg=176℃)およびU−100(Tg=190℃)を各々表3に示すとおり原料として用い、乾燥温度135℃;乾燥時間6時間で乾燥し、実施例3と同様の設備を用いて、膜厚が80μmのアモルファスポリアリレートフイルムを製造した。得られたフイルムの光学特性を表3に示す。製膜条件としては、TD張力または熱収縮応力の発生方法は■、製膜速度は10.0m/min とし、その他表3に示し条件以外は実施例3と実質的に同等とした。
【0049】表3より明らかなように、ポリカーボネート樹脂以外の原料を用いても、本発明のプラスチックフイルムが得られた。なお、冷却ドラムの温度は、原料樹脂のTgを基準として−0〜−40℃の範囲、好ましくは−5〜−30℃の範囲に設定するのが適切である。
【0050】
【表3】


【0051】[実施例20〜22]テイジン・アモコ・エンジニアリング・プラスチックス(株)販売のポリサルフォン樹脂、ユーデル(商標名)P−1700(Tg=186℃)を原料として用い、実施例3と同様の設備を用いて、膜厚が50〜200μmのポリサルフォンフイルムを製造しその光学特性を測定した。結果を表4に示す。製膜条件としては、TD張力または熱収縮応力の発生方法は■、樹脂押出し量は86Kg/hr(一定)とし、所定の膜厚が得られるように製膜速度を調整した。その他表4に示した以外の条件は実施例3と実質的に同等とした。
【0052】
【表4】


【0053】[実施例23〜24]テイジン・アモコ・エンジニアリング・プラスチックス(株)販売のポリエーテルサルフォン樹脂、レーデル(商標名)A−200(Tg=218℃)、およびA−300(Tg=219℃)を各々表5に示すとおり原料として用い、乾燥温度135℃;乾燥時間6時間で乾燥し、実施例3と同様の設備を用いて、膜厚が100μmのポリエーテルサルフォンフイルムを製造しその光学特性を測定した。結果を表5に示す。製膜条件としては、TD張力または熱収縮応力の発生方法は■、樹脂押出し量は80Kg/hr、製膜速度は6.4m/min とし、その他の表5に示す以外は実施例3と実質的に同等とした。
【0054】
【表5】


【0055】[実施例25〜27]日本ゼオン(株)製アモルファスポリオレフィン樹脂、ゼオネクッス−250(商標名)(Tg=140℃)を、乾燥温度110℃;乾燥時間4時間で乾燥し、実施例−3と同様の設備を用いて、膜厚が80〜400μmのアモルファスポリオレフィンフイルムを製造し、その光学特性を測定した。結果を表6に示す。製膜条件としては、TD張力または熱収縮応力の発生方法は■、樹脂押出し量は80Kg/hr(一定)とし、所定の膜厚が得られるように製膜速度を調整した。その他の条件は表6に示す以外は実施例3と実質的に同等とした。
【0056】アモルファスポリオレフィン樹脂を用いても光学特性の優れた本発明のプラスチックフイルムが得られる。なお、この樹脂の特徴として、膜厚が400μmという厚手のフイルムでも、リターデーションの比較的小さい製品が得られることが、実施例27から明らかである。
【0057】
【表6】


【0058】[実施例28/比較例5]実施例3で得られた、膜厚が125μm、光学特性;R=38nm,θ=−5〜6度のポリカーボネートフイルムを懸垂型熱処理機にセットし、加熱温度を135℃、処理速度を0.5m/min 、張力を30N(ニュートン)/全幅として連続的に加熱処理を施こし、その光学特性を測定した。結果を表7に示す。
【0059】比較のために、比較例1で得られた膜厚が125μm、光学特性;R=25nm、θ=75〜108度のポリカーボネートフイルムを、実施例28と同一の設備および条件にて処理した結果を、比較例5として表7に示した。
【0060】表7より明らかなように本発明のポリカーボネートフイルムは、後処理によりRが低減し光学特性が向上するのにたいし、分子配向が実質的にMD方向を向いている比較例1のフイルムは、Rが増加し光学特性が更に悪くなった。
【0061】
【表7】


【0062】以上の実施例から明らかなように、従来技術、例えば特開平4−275129では、光学的歪み(複屈折率)の低減したポリカーボネートシートを製造する具体的条件として、樹脂温度(300〜330℃)、エアーギャップ(80〜100mm)および冷却ロール温度(100〜140℃)の3因子を適切な範囲(カッコ内に示した)とすることを開示しているが、このポリカーボネートシートを液晶表示パネル用電極に用いると光学特性が不十分なものとなる。
【0063】これに対し本発明のプラスチックフイルムは、液晶表示パネル用電極を主要な用途とした用途に用いることができる。なお、本発明のプラスチックフイルムは独立に製膜条件を設定して製造することができ、得られるフイルムはコスト競争力に優れるものである。
【0064】
【発明の効果】本発明のプラスチックフイルムは、液晶表示パネル電極基板用には勿論のこと、その他光導電性感光体電極、面状発熱体、有機EL用電極等のディスプレィ用電極材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フイルムの複屈折(Δn)が負の値を有し、リターデーション(R)が50nm以下及び分子配向軸の角度(θ)が−30°以上、+30°以下であることを特徴とするプラスチックフイルム。ただし、フイルムの複屈折(Δn)はnMDからnTDを引いて求まる値、リターデーション(R)はΔnとdの積により求まる値の絶対値、分子配向軸の角度(θ)はフイルムの屈折率主軸のフイルム幅方向に対する角度、nMDはフイルムの長手方向の屈折率、nTDはフイルムの長手方向に直交する幅方向の屈折率、dはフイルムの厚さ(nm)である。
【請求項2】 プラスチックフイルムを構成するポリマーがガラス転移温度120℃以上のポリマーである請求項1記載のプラスチックフイルム。
【請求項3】 プラスチックフイルムを構成するポリマーがポリカーボネート、アモルファスポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォンおよびアモルファスポリオレフィンの群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のプラスチックフイルム。
【請求項4】 120℃で1時間加熱処理したときの熱収縮率が0.1%以下である請求項1記載のプラスチックフイルム。
【請求項5】 溶融ポリマーをフイルム状に押出し、次いで冷却ドラムに接触させて冷却固化させる際に、フイルム両端部を冷却ドラムに密着及び/若しくは圧着させることによりフイルムを幅方向の収縮を拘束し、冷却により発生する熱収縮応力をフイルムの幅方向の張力として作用させること、並びに/又はフイルムを幅方向に伸長させフイルムの幅方向の張力として作用させることを特徴とする請求項1記載のプラスチックフイルムの製造方法。
【請求項6】 静電ワイヤーにてフイルム両端部に静電気を荷電させ、フイルム両端部を冷却ドラムに密着させる請求項5記載のプラスチックフイルムの製造方法。
【請求項7】 押えロールにてフイルム両端部を冷却ドラムに圧着させる請求項5記載のプラスチックフイルムの製造方法。
【請求項8】 エアーナイフにてエアーをフイルム両端部に吹き付け、フイルム両端部を冷却ドラムに密着させる請求項5記載のプラスチックフイルムの製造方法。
【請求項9】 エアーナイフにてエアーをフイルム両端部に吹き付け、フイルムを幅方向に伸長させ、かつフイルム両端部を冷却ドラムに密着させる請求項5記載のプラスチックフイルムの製造方法。
【請求項10】 静電ワイヤーにてフイルム両端部に静電気を荷電させ、かつエアーナイフにてエアーをフイルム両端部に吹き付け、フイルム両端部を冷却ドラムに密着させ、かつフイルムを幅方向に伸長させる請求項5記載のプラスチックフイルムの製造方法。
【請求項11】 冷却ドラム温度をTg℃〜(Tg−40)℃とする請求項5記載のプラスチックフイルムの製造方法。(ただし、Tgはプラスチックフイルムを構成するポリマーのガラス転移温度(℃))

【公開番号】特開平8−171001
【公開日】平成8年(1996)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−314657
【出願日】平成6年(1994)12月19日
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)