説明

プラスチックレンズの染色方法および染色装置

【課題】構造が簡単で染色基板とレンズの装着、取り出し作業を容易に行うことができるプラスチックレンズの染色方法および染色装置を提供する。
【解決手段】真空容器4内に加熱装置6と可動ステージ7と昇降機構10を配置する。プラスチックレンズ3と、昇華染料2が塗布された染料基板8とを保持部材11に保持させる。加熱装置6と保持部材11とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させ、染色基板8を保持部材11から加熱装置6に加熱可能に保持されるように受け渡す。そして、染色基板8を保持した加熱装置6と保持部材11とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させ、プラスチックレンズ3を染色基板8に近接させる。その後、加熱装置によって染色基板を加熱し、昇華性染料を昇華させ、プラスチックレンズの被染色面に染色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華性染料でプラスチックレンズを染色する染色方法および染色装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズ、特に眼鏡用プラスチックレンズに染色する方法の1つとして、昇華性染料を加熱、昇華させて染色する方法(気相法)が従来から種々提案されている。この種の染色方法は、例えば特許文献1〜4等に開示されている。
【0003】
特許文献1に記載されているプラスチックレンズの染色方法は、染色用用材を印刷媒体に塗布した後、この印刷媒体をプラスチックレンズに対向させて真空中で加熱することによって実施される。前記染色用用材は、昇華性色素を溶解または微粒子として分散させ、電子計算機にて管理された色データに基づいてプリンタによって印刷基体に塗布されている。印刷基体は、塗布面がプラスチックレンズと非接触で対向する状態で加熱手段で加熱される。この印刷基体が真空中で加熱されることによって、昇華性色素が昇華する。
【0004】
特許文献2に記載されているプラスチックレンズの染色方法は、プラスチックレンズと染色用の基体とを保持手段によって装置内で保持し、プラスチックレンズの両面を同時に染色する方法である。前記染色用の基体には、昇華性色素を溶解または微粒子として分散させた染色用用材が塗布されている。この基体は、第一、第二対向手段によってプラスチックレンズの凸面と凹面とにそれぞれ対向させられている。第一対向手段は、基体の塗布面を前記凸面に非接触で対向させる。第二対向手段は、基体の塗布面を前記凹面に非接触で対向させる。これらの第一対向手段と第二対向手段によってプラスチックレンズと対向させられた基体は、加熱手段によって加熱させられる。この加熱は、装置内が排気装置によって略真空雰囲気にされた状態で行われる。
【0005】
特許文献3に記載されているプラスチックレンズの染色方法は、色の再現性が安定するように装置を冷却する方法である。この方法を実施する染色装置は、染色用の基体と、真空雰囲気形成手段と、加熱手段と、冷却手段とを備えている。前記基体は、昇華性染料が塗布され、染色装置内に設置されている。前記真空雰囲気形成手段は、染色装置内を略真空雰囲気にする。前記加熱手段は、染色装置内に設置されており、前記基体を加熱する。前記冷却手段は、染色装置の外壁に接触し、この接触部分で熱交換を行うことによって染色装置を冷却する。
【0006】
特許文献4に記載されているプラスチックレンズの染色方法は、昇華性染料を保持する保持材とプラスチックレンズの少なくとも一方を加熱時に回転させたり振動させたりする方法である。この方法を採ることによりプラスチックレンズが均一にムラなく染色される。保持材は、加熱部材によって加熱され、前記プラスチックレンズは、レンズ温調器によって加熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−59950号公報
【特許文献2】特開2001−215306号公報
【特許文献3】特開2004−69905号公報
【特許文献4】特開2005−25130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した特許文献1、3、4に記載されている染色装置は、いずれもレンズと染色基板を真空装置内に別々に配置しているため、その装着、取り出し作業が煩わしく、時間を要するという問題があった。また、これらの特許文献に記載されている染色装置は、レンズと染色基板との間隔を調整するために何らかの機構または手段が必要である。
一方、特許文献2に記載されている染色装置においては、印刷基体とレンズとの間隔が固定であるため、この間隔を変更する場合は適宜な調整手段を設ける必要がある。
【0009】
本発明は上記した従来の問題を一挙に解決するためになされたもので、その目的とするところは、構造が簡単で染色基板とレンズの装着、取り出し作業を容易に行うことができるプラスチックレンズの染色方法および染色装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明に係るプラスチックレンズの染色方法は、染色基板に昇華性染料を塗布する工程と、前記染色基板を保持部材に保持させる工程と、プラスチックレンズを前記染色基板の上方で前記保持部材に保持させる工程と、前記保持部材を収容した真空容器を真空排気する工程と、前記真空容器内に設けられた加熱装置と前記保持部材とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させることにより、前記染色基板を前記保持部材から前記加熱装置に加熱可能に保持されるように受け渡す工程と、前記染色基板を保持した前記加熱装置と前記保持部材とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させて前記プラスチックレンズを前記染色基板に近接させる工程と、前記加熱装置によって前記染色基板を加熱することにより前記昇華性染料を昇華させ、前記プラスチックレンズの被染色面に染色する工程とによって実施する。
【0011】
また、本発明に係るプラスチックレンズの染色方法は、上記発明において、染色基板に昇華性染料を塗布する工程は、昇華性染料を染色基板にドット状に滴下して塗布することにより実施する。
【0012】
また、本発明に係るプラスチックレンズの染色装置は、プラスチックレンズの染色を真空容器内で気相にて行なう染色装置において、前記真空容器内には、表面に昇華性染料が塗布された染色基板の外縁部を保持しかつ前記プラスチックレンズを前記染色基板の上方で保持する保持部材と、前記染色基板の下面における前記外縁部より中心側と対向する加熱面を有する加熱装置と、前記保持部材と前記加熱装置とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させる昇降機構と、前記加熱装置および昇降装置の動作を制御する制御部とを備え、前記昇降機構は、前記染色基板が前記保持部材から前記加熱装置に加熱可能に保持されるように受け渡され、かつ前記加熱装置に保持された前記染色基板が前記プラスチックレンズに近接するように前記加熱装置と前記保持部材とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させるものである。
【0013】
さらに、本発明に係るプラスチックレンズの染色装置は、上記発明において、前記染色基板には、昇華性染料がドット状に塗布されているものである。
さらにまた、本発明に係るプラスチックレンズの染色装置は、上記発明において、前記プラスチックレンズと前記染色基板との間に出し入れ可能な遮蔽板を備えているものである。この遮蔽板は、プラスチックレンズと染色基板との間に挿入された状態でプラスチックレンズを下方から覆う大きさに形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、染色基板とプラスチックレンズとを保持部材に保持させている。このため、本発明によれば、染色基板とプラスチックレンズの装着、取り出し作業が容易になる。また、染色基板とプラスチックレンズの取り扱いが簡単になる。
さらに、本発明においては、保持部材と加熱装置との少なくともいずれか一方を上下方向に移動させることによって、染色基板が保持部材と加熱部材との間で受け渡され、プラスチックレンズが染色基板に近接する。このため、これらの部材が簡単に染色可能な状態になる。この染色可能な状態とは、染色基板が加熱装置に加熱可能に保持されるとともに、プラスチックレンズが染色基板に近接する状態をいう。すなわち、本発明によれば、染色基板とプラスチックレンズの装着、取り出し作業が容易な状態から前記染色可能な状態に簡単に移すことができる。したがって、本発明によれば、特殊な機構や手段等を設ける必要がないから、簡素化されたプラスチックレンズの染色装置を提供することができる。
【0015】
さらに、本発明は、昇華性染料を染色基板にドット状に塗布しているので、染色基板からプラスチックレンズの被染色面までの距離に応じてドットの大きさを任意に変更することができる。例えば、被染色面が凹面の場合は、中央部において染色基板から最も遠くなるため、その距離に応じてドットの大きさを徐々に変化させる。このようにすることにより、染色ムラの発生が防止され、またグラデーション(階調表現)が可能になる。
【0016】
さらに、本発明は、プラスチックレンズと染色基板との間に遮蔽板を挿入することによて、プラスチックレンズを染色する染料の量を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る染色装置の一実施の形態の染色直前の状態を示す概略構成図である。
【図2】染色開始時の状態を示す概略構成図である。
【図3】染色基板の平面図である。
【図4】加熱装置が昇降する他の実施の形態を示す概略構成図である。
【図5】保持部材と加熱装置とが昇降する他の実施の形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図3において、全体を符号1で示す染色装置は、昇華性染料2をプラスチックレンズ3の被染色面3aに塗布するものである。この染色装置1は、真空容器4と、染色時に真空容器4内の空気を排気し所定の真空度にする排気装置5と、真空容器4内に配設された加熱装置6と、可動ステージ7と、染色基板8およびプラスチックレンズ3が装着されたホルダー9と、可動ステージ7の昇降機構10と、保持部材11および装置全体と染色工程を制御する制御部12等を備えている。
【0019】
昇華性染料2は、大気中または真空中で加熱した場合に昇華する染料であればよい。昇華性染料2としては、市販品、例えばカヤセットブルー906(日本化薬株式会社製)、カヤセットブラウン939(日本化薬株式会社製)、 カヤセットレッド130(日本化薬株式会社製)Kayalon Microester Red C-LS conc(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Red AQ-LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Red DX-LS(日本化薬株式会社製)、Dianix Blue AC-E(ダイスタージャパン株式会社製)、 Dianix Red AC-E 01、(ダイスタージャパン株式会社製)、Dianix Yellow AC-E new(ダイスタージャパン株式会社製)、Kayalon Microester Yellow C-LS(日本化薬株式会社製)、 Kayalon Microester Yellow AQ-LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue C-LS conc(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue AQ-LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue DX-LS conc(日本化薬株式会社製)等を使用することができる。
【0020】
昇華性染料2の染色基板8への塗布方法は、種々の塗布方法が可能である。本発明においては、昇華性染料2を市販品のディスペンサー装置によって染色基板8の表面にドット状に点在するように滴下して多数塗布した。滴下によって塗布されたドット状の昇華性染料2の大きさ(塗布量)は、ノズルからの吐出量によって自由に調整することが可能である。この大きさは、好ましくは1ドット当たりの直径が1mm〜10mm程度、より好ましくは、2mm〜6mmで、ドット間隔(昇華性染料の点在の間隔)は1mm〜10mm程度が好ましい。また、ドットの大きさは、染色濃度に応じて変化させることができ、また全て同じ大きさにせず、被染色面3aのカーブやハーフ染色(グラデーション染色)に応じて徐々に変化させてもよい。
【0021】
染色基板8としては、ガラスが使用されるが、これに限らず金属であってもよい。
【0022】
加熱装置6は、円筒状の外ケース6A内にヒータ13を内蔵して真空容器4の内部下方に配設されている。外ケース6Aの上面は、平坦な円形の加熱面13aを形成している。ヒータ13としては、電流抵抗ヒータや遠赤外線ヒータ等を用いることができる。
【0023】
可動ステージ7は、真空容器4内に立設した複数本のガイド支柱14に上下動自在に配設され、昇降機構10によって昇降されるように構成されている。可動ステージ7の中央には、加熱装置6が貫通可能な中心孔15が形成されている。また、可動ステージ7の上面であって、前記中心孔15の周囲には、凹陥部16が中心孔15と同心状に形成されている。この凹陥部16は、前記保持部材11の下端部が嵌合するように形成されている。昇降機構10としては、可動ステージ7を昇降させる機構であればどのような機構、装置でもよい。昇降機構10は、例えばリニアガイドや回動アームを用いて構成することができる。
【0024】
ホルダー9は、リング状に形成されている。このホルダー9の内周面には、プラスチックレンズ3を、例えば三点保持する保持手段としての3つの板ばね17が片持ち支持されて設けられている。板ばね17の自由端部は、押圧保持部18を構成している。板ばね17は、プラスチックレンズ3の外周面(コバ面)を弾性的に押圧保持している。また、ホルダー9は、図示してはいないが、複数の小さいフック状の爪をプラスチックレンズ3の外周面に押し付けてプラスチックレンズ3を保持する構成を採ることができる。
【0025】
保持部材11は、外径がステージ7の凹陥部16の内径と略等しく、内径が染色基板8の外径より若干大きい両端開放の円筒体である。この保持部材11の下端開口部には、前記染色基板8を保持するための載置部20が一体に設けられている。載置部20は、内フランジによって構成されている。載置部20の内径は、ステージ7の中心孔15の穴径と略等しく、かつ染色基板8の外径より小さく設定されている。すなわち、保持部材11は、染色基板8の外縁部を保持する。染色基板8が保持部材11に保持された状態においては、染色基板8の下面における前記外縁部より中心側が加熱装置6の前記加熱面13aと対向する。
保持部材11の上面には、前記ホルダー9が設置されている。すなわち、プラスチックレンズ3は、前記ホルダー9によって前記染色基板8の上方で保持部材11に保持されている。
【0026】
次に、上記構造からなる染色装置1を使用してプラスチックレンズ3を染色する染色手順について説明する。
染色の準備工程として、先ず、プラスチックレンズ3をホルダー9に装着する。装着に際しては、3つの板ばね17の先端部を外側に弾性変形させて、これらの板ばね17の中央にプラスチックレンズ3を挿入する。そして、この状態で板ばね17を解放させ、各板ばね17を内側に弾性で復帰させる。この結果、板ばね17の押圧保持部18がプラスチックレンズ3の外周面を押圧し3点保持する。
【0027】
また、ディスペンサー装置(図示せず)によって染色基板8の表面に昇華性染料2を所定の間隔をおいてドット状に多数滴下して塗布する。なお、染色基板8への昇華性染料2の塗布工程と、プラスチックレンズ3をホルダー9に装着する工程は、前後いずれであってもよく、また並行して行なってもよい。
【0028】
次に、昇華性染料2が塗布された染色基板8を保持部材11に装着する。染色基板8を保持部材11に装着するときは、昇華性染料2側を上にして保持部材11の載置部20に載せる。染色基板8を載置部20に載せるときは、例えば染色基板8の下面外周縁部が載置部20上に落下して支持されるように、染色基板8を自重により落下させて行う。このため、染色基板8を保持部材11に保持させる作業を容易に行うことができる。
【0029】
さらに、プラスチックレンズ3が装着されたホルダー9を保持部材11の上面に装着する。
【0030】
次に、染色基板8とホルダー9が装着された保持部材11を真空容器4内に挿入し、保持部材11の下端部を可動ステージ7の凹陥部16に嵌合させる。このとき、保持部材11の下面に設けた位置決め用凹部21と凹陥部16の底面に設けた突起22とを嵌合させる。このように凹部21と突起22とが嵌合することにより、保持部材11が可動ステージ7に対して位置決めされるとともに、保持部材11の回転が防止される。このとき、可動ステージ7は、図1に示すように加熱装置6より上方の初期位置に保持されている。
【0031】
次に、真空容器4を密閉して排気装置5を駆動し、真空容器4内を排気して所定の真空度にする。また、加熱装置6の電源をONにしてヒータ13を加熱し、加熱面13aを所定の温度にまで上昇させる。加熱面13aの温度は、図示を省略した温度センサによって検知され、その信号が制御部12に送られる。制御部12は、加熱面13aが所定の温度を保持するようにヒータ13を制御する。なお、加熱面13aの温度は、昇華性染料2の種類、染色濃度、プラスチックレンズ3の材質等によって予め決定される。この温度は、タッチパネル(図示せず)等の入力装置によって制御部12に入力される。
【0032】
制御部12は、加熱面13aの温度が所定の温度に達すると、昇降機構10を駆動して可動ステージ7を図2に示す染色位置まで下降させる。可動ステージ7は、下降途中において加熱装置6に染色基板8を受け渡す。すなわち、可動ステージ7が加熱装置6の高さまで下降すると、染色基板8は加熱装置6の上に載置され、染色基板8の下面がヒータ13の加熱面13aに密接する。その後も可動ステージ7がさらに下降することにより、染色基板8は保持部材11と離間して加熱装置6に載置された状態となる。すなわち、染色基板8は、加熱装置6に加熱可能に保持されるように保持部材11から受け渡される。そして、プラスチックレンズ3が染色基板8に近づく。その後、可動ステージ7は染色位置まで下降すると停止し、プラスチックレンズ3を染色基板8に近接させる。
【0033】
プラスチックレンズ3と染色基板8の間隔が狭すぎる場合は、昇華性染料2の分散が十分に行われず、染色ムラの原因となる。このため、プラスチックレンズ3は、染色基板8に対して光学中心が最短で5mm程度以上離れるように配置することが望ましい。プラスチックレンズ3と染色基板8との間隔は、可動ステージ7の昇降動作を制御することにより、例えば1mm間隔で調整が可能である。なお、プラスチックレンズ3と染色基板8の間隔が広すぎる場合も、昇華性染料が均一に分散されず、染色ムラの原因となる。また、所定の染色濃度を得るために時間がかかる。このため、プラスチックレンズ3と染色基板8の間隔は、5〜25mm程度とされる。
【0034】
昇華性染料2は、加熱装置6により染色基板8を介して加熱されることにより昇華し、微粒子となってプラスチックレンズ3の被染色面3aに付着、堆積し、被膜を形成する。
染色基板8の加熱温度は、真空容器4の真空条件、プラスチックレンズ3の材質、昇華性染料2の材質等によって異なるが、80℃〜280℃程度にするのが好ましい。
【0035】
昇華染色工程が終了すると、加熱装置6の電源をOFFにし、昇降機構10を上記とは反対方向に駆動して可動ステージ7を上昇させ、図1に示す初期位置に復帰させる。可動ステージ7は、上昇途中において、載置部20が染色基板8の下面外周縁部に接触して持ち上げることにより、加熱装置6から染色基板8を受け取る。加熱装置6は、昇華染色工程が終了した後も継続して電源がONの状態に保つことができる。この場合であっても、昇華染色工程が終了した後に染色基板8の加熱が停止される。この理由は、昇華染色工程が終了した後に可動ステージ7が上昇し、染色基板8が加熱装置6から上方に離れるからである。
【0036】
可動ステージ7が上昇して初期位置に復帰すると、真空容器4を開いて保持部材11を取り出す。そして、次工程において、プラスチックレンズ3に染色された昇華性染料2をプラスチックレンズの内部に浸透、拡散させる(浸透工程)。
【0037】
このように本発明に係る染色装置1は、保持部材11にプラスチックレンズ3と染色基板8を装着し、保持部材11を有する可動ステージ7を下降させるものである。この可動ステージ7の下降動作によって、染色基板8が加熱装置6に受け渡されるとともにプラスチックレンズ3と染色基板8の間隔が所定の間隔に設定される。このため、プラスチックレンズ3と染色基板8の装着、取り出し作業が容易で、格別な機構、手段等を設ける必要がなく、安価で取扱いが簡単な染色装置を提供することができる。
【0038】
また、染色基板8が加熱装置6の加熱面13aに密接するために、加熱効率が高く、短時間に所定の温度に加熱することができる。このため、生産性が向上する。この実施の形態による染色装置を使用して染色されたプラスチックレンズ3を目視によって検査したところ、昇華性染料2がプラスチックレンズ3の被染色面全体にムラなく均一に染色されていた。
【0039】
なお、上記した実施の形態は、染色基板8を加熱装置6の加熱面13aに直接密接させて加熱するようにしたが、本発明はこれに何ら特定されるものではなく、加熱面13aと所定の間隔を保って近接させてもよい。その場合は、ヒータ13の加熱面13aが外ケース6Aの上面より下方に位置するようにヒータ13を外ケース6A内に組み込む。また、この構造の他に、外ケース6Aの上面に染色基板8の下面外周縁部を支持する支持部を設けても同一の効果が得られる。さらに、ヒータ13と染色基板8との間の間隔は、図示してはいないが、加熱装置6に設けた間隔調整装置によって調整することができる。この間隔調整装置は、制御部12による制御によってヒータ13を昇降させる構成を採ることができる。
また、上記した実施の形態では、保持部材11は可動ステージ7と分離可能である。しかし、保持部材11は、可動ステージ7に一体に形成することができる。この場合は、可動ステージ7に保持部材11と同形状をもった保持部を設ける。
【0040】
(第2の実施の形態)
本発明に係るプラスチックレンズの染色装置は、図4に示すように構成することができる。図4おいて、前記図1〜図3によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0041】
図4に示す保持部材11は、真空容器4に固定ステージ31を介して支持されている。固定ステージ31は、真空容器4に移動することができないように支持されている。この固定ステージ31には、加熱装置6が貫通可能な中心孔15が形成されている。また、固定ステージ7の上面であって、前記中心孔15の周囲には、凹陥部16が中心孔15と同心状に形成されている。この凹陥部16は、前記保持部材11の下端部が嵌合するように形成されている。
【0042】
この実施の形態によるホルダー9は、支持用ブラケット32を介して真空容器4に移動できないように支持されている。このホルダー9と前記保持部材11との間(プラスチックレンズ3と染色基板8との間)には、遮蔽板33を通すための隙間Sが形成されている。遮蔽板33は、金属製の円板によって形成されており、真空容器4内に設けられた駆動装置34に水平方向に移動できるように支持されている。遮蔽板33は、駆動装置34による駆動によって、プラスチックレンズ3の下方に位置する遮蔽位置と、プラスチックレンズ3より側方に離間した開放位置との間で移動する。この実施の形態による遮蔽板33は、プラスチックレンズ3と染色基板8との間に挿入された状態でプラスチックレンズ3を下方から覆うことができる大きさに形成されている。
【0043】
この実施の形態による加熱装置6は、昇降機構10に接続されており、ガイド支柱14に上下方向に移動自在に支持されている。すなわち、この加熱装置6は、昇降機構10による駆動によって、真空容器4内で上下方向に移動することができる。この実施の形態による加熱装置6は、図4中に実線で示す初期位置と、同図中に二点鎖線で示す染色位置と間で昇降する。
【0044】
保持部材11に染色基板8が保持されている状態で加熱装置6が上昇すると、加熱装置6の加熱面13aが染色基板8の下面に下方から接触する。加熱装置6が引き続き上昇することによって、染色基板8が保持部材11から上方に押し上げられる。加熱装置6が染色位置まで上昇すると、染色基板8が染色に適した間隔をおいてプラスチックレンズ3と対向することになる。この染色装置1においては、このように加熱装置6が上昇した状態で昇華染色工程が実施される。加熱装置6は、昇華染色工程が終了した後、加熱を止めて初期位置に下降する。この加熱装置6が下降する途中で染色基板8が再び保持部材11に保持される。なお、この実施の形態においても、昇華染色工程が終了した後に加熱装置6を継続して加熱状態としておくことができる。この場合であっても、昇華染色工程が終了した後に染色基板8の加熱が停止される。この理由は、昇華染色工程が終了した後に加熱装置6が下降し、染色基板8が加熱装置6から上方に離れるからである。
【0045】
この実施の形態による染色装置1は、遮蔽板33を使用して前記昇華染色工程で各種の調整を行うことができる。遮蔽板33がプラスチックレンズ3の被染色面3aの全域を下方から覆う状態においては、染色が行われることはない。このため、この染色装置1においては、染色開始時期や染色終了時期を調整することができる。また、遮蔽板33がプラスチックレンズ3の被染色面3aを部分的に下方から覆う状態においては、被染色面3aの一部が部分的に染色される。このため、この染色装置1においては、染色される範囲の広さを調整することができる。
【0046】
(第3の実施の形態)
本発明に係るプラスチックレンズの染色装置は、図5に示すように構成することができる。図4おいて、前記図1〜図4によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図5に示す保持部材11は、第1の実施の形態を採るときと同様に、可動ステージ7を介して昇降機構10に接続されている。この保持部材11の上端部には、遮蔽板33を通す隙間Sが形成される状態でホルダー9が取付けられている。遮蔽板33を駆動する駆動装置34は、可動ステージ7に支持されている。
【0047】
この実施の形態による加熱装置6は、第2の実施の形態を採るときと同様に昇降機構10に接続され、ガイド支柱14に上下方向に移動自在に支持されている。この実施の形態による昇降機構10は、図示してはいないが、前記保持部材11に接続された保持部材用昇降部と、前記加熱装置6に接続された加熱装置用昇降部とを備えている。保持部材用昇降部と、加熱装置用昇降部とは、それぞれ単独で動作する。すなわち、保持部材11は、保持部材用昇降部による駆動によって真空容器4内で上下方向に移動する。加熱装置6は、加熱装置用昇降部による駆動によって真空装置4内で上下方向に移動する。
【0048】
この実施の形態による染色装置1においては、プラスチックレンズ3を所定の高さに位置付けた状態で染色を行うことができる。この所定の高さは、真空容器4内の雰囲気の温度分布に基づいて決める。この温度分布は、例えば真空容器4の内壁に設けた複数の温度センサによって検出することができる。真空容器4内の雰囲気の温度は、高さに対応して変わることが多い。
【0049】
ところで、一般的に、この実施の形態による染色方法も含めて昇華染色は、プラスチックレンズ3を真空容器4内で所定の温度に予め温めた後に開始される。この実施の形態による染色装置1は、上述したようにプラスチックレンズ3を予め温めるときに前記雰囲気の温度分布に対応させてプラスチックレンズ3の高さを変えることができる。例えば、プラスチックレンズ3は、温度が低いときは相対的に温度が高い位置に移動される。このようにすることによって、前記加温に要する時間を短縮することができる。また、プラスチックレンズ3は、温度が高いときは相対的に温度が低い位置に移動される。このようにすることによって、プラスチックレンズ3が過度に温められることを防ぐことができる。
【0050】
なお、上述した第2、第3の実施の形態では遮蔽板33を備えた染色装置1について説明した。しかし、本発明に係る染色装置は、遮蔽板33を備えることなく構成することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…染色装置、2…昇華性染料、3…プラスチックレンズ、3a…被染色面、4…真空容器、5…排気装置、6…加熱装置、13a…加熱面、7…可動ステージ、8…染色基板、9…ホルダー、10…昇降機構、11…保持部材、12…制御部、31…固定ステージ、33…遮蔽板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色基板に昇華性染料を塗布する工程と、
前記染色基板を保持部材に保持させる工程と、
プラスチックレンズを前記染色基板の上方で前記保持部材に保持させる工程と、
前記保持部材を収容した真空容器を真空排気する工程と、
前記真空容器内に設けられた加熱装置と前記保持部材とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させることにより、前記染色基板を前記保持部材から前記加熱装置に加熱可能に保持されるように受け渡す工程と、
前記染色基板を保持した前記加熱装置と前記保持部材とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させて前記プラスチックレンズを前記染色基板に近接させる工程と、
前記加熱装置によって前記染色基板を加熱することにより前記昇華性染料を昇華させ、前記プラスチックレンズの被染色面に染色する工程と、
を備えたプラスチックレンズの染色方法。
【請求項2】
請求項1記載のプラスチックレンズの染色方法において、
染色基板に昇華性染料を塗布する工程は、昇華性染料を染色基板にドット状に滴下して塗布するプラスチックレンズの染色方法。
【請求項3】
プラスチックレンズの染色を真空容器内で気相にて行なう染色装置において、
前記真空容器内には、表面に昇華性染料が塗布された染色基板の外縁部を保持しかつ前記プラスチックレンズを前記染色基板の上方で保持する保持部材と、
前記染色基板の下面における前記外縁部より中心側と対向する加熱面を有する加熱装置と、
前記保持部材と前記加熱装置とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させる昇降機構と、
前記加熱装置および昇降装置の動作を制御する制御部とを備え、
前記昇降機構は、前記染色基板が前記保持部材から前記加熱装置に加熱可能に保持されるように受け渡され、かつ前記加熱装置に保持された前記染色基板が前記プラスチックレンズに近接するように前記加熱装置と前記保持部材とのうち少なくともいずれか一方を上下方向に移動させるものであるプラスチックレンズの染色装置。
【請求項4】
請求項3記載のプラスチックレンズの染色装置において、
前記染色基板には、昇華性染料がドット状に塗布されているプラスチックレンズの染色装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載のプラスチックレンズの染色装置において、前記プラスチックレンズと前記染色基板との間に出し入れ可能な遮蔽板を備え、
前記遮蔽板は、プラスチックレンズと染色基板との間に挿入された状態でプラスチックレンズを下方から覆う大きさに形成されていることを特徴とするプラスチックレンズの染色装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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