説明

プラスチックレンズの染色方法

【課題】気層法によるプラスチックレンズの染色方法において、従来法に比してさらに短時間でレンズを染色する方法を提供する。
【解決手段】基板2上に遠赤外線輻射層12を形成する輻射層形成工程、該遠赤外線輻射層上に昇華性染料を塗布する塗布工程及び、該基板の該昇華性染料が塗布された面3とプラスチックレンズの被染色面7とを離間して対向させ、該基板を加熱10することにより該昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを染色する染色工程とを有するプラスチックレンズの染色方法とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、気相法によるプラスチックレンズの染色方法に関し、更に詳しくは、昇華性染料を効率良く加熱して短い時間で染色を行ない得る、気相法によるプラスチックレンズの染色方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
気相法によるプラスチックレンズの染色方法は従来から知られている。その例として、特開2002−82204号公報には、アルミニウム板に、染料を碁盤目状に塗布し、加熱用部材にて該アルミニウム板を加熱し、染料を昇華させてレンズを染色する方法が記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開2002−82204号公報に開示されている方法は、染色時間においては、必ずしも満足し得るものではなく、生産効率を高めるために、さらに短時間でレンズを染色する方法が求められている。
本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、従来法に比してさらに短時間でレンズを染色する方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意研究の結果、基板上に遠赤外線輻射層を形成し、その上に昇華性染料を塗布することにより当該課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
即ち本発明は、基板上に遠赤外線輻射層を形成する輻射層形成工程、該遠赤外線輻射層上に昇華性染料を塗布する塗布工程及び、該基板の該昇華性染料が塗布された面とプラスチックレンズの被染色面とを離間して対向させ、該基板を加熱することにより該昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを染色する染色工程とを有するプラスチックレンズの染色方法である。
【0005】
本発明の輻射層形成工程において基板上に遠赤外線輻射層を形成するために使用する遠赤外線輻射塗料は、特開昭61−149737号公報、特開平10−279845号公報、特開平10−324825号公報、特開平10−219137号公報などに開示されている。その例としては、平均粒径が約150μmの二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの遠赤外線輻射効果があるセラミックと、有機ケイ素化合物、ポリウレタン溶液などのバインダ−を含んだ塗料などがある。そして、かかる塗料を基板上に塗布することにより遠赤外線輻射層を形成する。塗布する方法は特に限定されず、刷毛塗り、スプレ−方式、漬浸方式、スピンコ−ト式が挙げられる。
【0006】
本発明において昇華性染料とは、大気中又は真空中にて染料を加熱した場合に昇華する特性がある染料をいい、そのような染料としては、特開平1−277814号公報の第2頁左下欄第6行〜第13行に記載されている染料、Dianix RedTA−N (三菱化学社製) 、Kayalon Microester Red C−LSconc(日本化薬社製)、Kayalon Microester Red AQ−LE(日本化薬社製)、Miketon Fast Red Z(三井化学社製) 、Kayalon Microester Red DX−LS(日本化薬社製) 、Dianix Blue UN− SE(三菱化学社製) 、DisperseFast Blue Z(三井化学社製) 、Dianix/Samaron Navy Blue TA−N(三菱化学社製) 、Kayalon Microester Blue C−LS conc(日本化薬社製) 、Kayalon Microester Blue AQ−LE(日本化薬社製) 、Kayalon Microester Blue DX−LS conc(日本化薬社製) 、Dianix/Samaron Orange TA−N(三菱化学社製)、Dianix Yellow TA−N(三菱化学社製) 、Kayalon Microester Yellow AQ−LE(日本化薬社製) 、Kayalon Microester Yellow DX−LS conc (日本化薬社製) 、Miketon Fast Yellow Z(三井化学社製) 、Kayalon Microester Yellow C−LS(日本化薬社製) 等の染料が好ましく用いられる。
【0007】
本発明で使用する基板の素材に関して、特に制限はないが、その表面に前述した遠赤外線輻射層を形成でき、熱伝導性を有し、染料を昇華させるのに必要な加熱に対し、十分な耐性を有するものであればよい。その例として、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼などの金属板が用いられ、特に、アルミミウム板やアルミニウム合金板が軽量性及び熱伝導性などの観点から好ましい。
また、基板の大きさは、プラスチックレンズにおける染色しようとする範囲以上の大きさを必要とする。基板上において昇華性染料が塗布される位置は、基板上に染料が所定の範囲に入る位置であればよい。
【0008】
特開2002−82204号公報に開示されているように、染料を点在させて塗布する場合には、プラスチックレンズを均一に染色する観点から、基板上にX軸及びY軸を設定し、X軸及びY軸それぞれに平行な線を0.2〜3.0cm間隔毎に、特に好ましくは0.2〜1.5cm間隔毎に想定し、その交点位置に染料を塗布することが好ましい。
ハ−フ染色を行う場合は、図3に示すよう、レンズに対応する位置において、点在させる間隔を垂直方向に行くほど階調的に変化させて染料を塗布する。
かかる手段によって、レンズの染色濃度を制御することが可能になる。塗布に際しては、基板における染料を塗布すべき位置に印を付けて塗布位置を認知しやすいようにしてもよい。
塗布方法としては、加工時の加熱や洗浄等で剥離しないインクを用いた印刷や、刻印、更には、市販されている塗布パタ−ン編集ソフトを用いる方法などがある。
【0009】
昇華性染料は、水などの溶媒、あるいは水溶性アクリル樹脂などのバインダ−を配合した染料液の形で、基板上にある遠赤外線輻射層上の所定位置に塗布する。これらの溶媒等の使用量は、重量比で昇華性染料1に対して1〜30とすることができる。
この染料液の塗布は、例えばマイクロシリンジ、少量塗布が可能なディスペンサ−を用いて行うことができる。塗布量は、染色濃度に応じて変化させることができ、例えば、前記交点位置ごとに0.01〜500マイクロリットルの範囲とすることができる。昇華性染料を固着させるために、染料液を塗布するに際し、基板をあらかじめ加熱しておくこともできる。
また、カラー情報に基づいて基板上にある遠赤外線輻射層上の所定位置に所定の昇華性染料を点在させることも可能である。
【0010】
基板上にある該遠赤外線輻射層上に塗布した昇華性染料の点在範囲は、プラスチックレンズを均一に染色させるため、プラスチックレンズにおける染色しようとする範囲以上の大きさが必要である。プラスチックレンズにおける染色しようとする範囲よりも、昇華性染料の点在範囲が小さい場合には、染料が放射状に昇華するとはいえ、染色ムラが生じやすい。なお、基板上にある昇華性染料が点在した遠赤外線輻射層と被染色プラスチックレンズとを対向させる際には、プラスチックレンズにおける染色しようとする範囲が、昇華性染料が点在した範囲に含まれるような位置関係となるように対向させる。
【0011】
なお、特開2001−66401号公報に記載されているように、昇華性染料を遠赤外線輻射層上に点在させるのでなく、昇華性染料からなる層を、染料液をスプレ−法によって均一に塗布して形成することもできる。
【0012】
基板にある遠赤外線輻射層上に塗布した昇華性染料は、基板を加熱することにより加熱して昇華させる。
基板を加熱する手段としては、温度調節が容易で実用的な電流抵抗ヒーターや、遠赤外線ヒーターなどの加熱用部材を基板の昇華性染料を塗布した面と反対の面に接触して設ける方法や電磁誘導加熱を用いて基板を加熱する方法が挙げられる。好ましい方法は、基板を短時間で加熱することができる電磁誘導加熱を用いる方法である。
電流抵抗ヒーターや、遠赤外線ヒーターを加熱手段として用いた場合、基板上に点在した染料を均一に加熱する観点から、加熱用部材は、染料が点在した基板と接触状態とすることが好ましい。また、電磁誘導加熱による加熱方法を用いた場合は、基板と磁力加熱用部材とを非接触状態にしても良い。
【0013】
なお、電磁誘導加熱とは、磁力発生コイルに電気が流れると磁力線が金属製品を通るとき、うず電流に変わり、金属製品に熱を発生させる方式をいい、この場合は磁力加熱用部材により発生した磁力線により基板に熱を発生させる。
電磁誘導加熱により基板を加熱し、昇華性染料を昇華させてレンズを染色する操作は、大気中及び真空中のいずれで行ってもよいが、短時間で染色する場合は、真空雰囲気下で行うのが好ましい。真空度は被染色プラスチックレンズの材質、使用する昇華染料の種類に応じて適宜選定される。
【0014】
また、加熱用部材による加熱温度は、被染色レンズの材質、使用する昇華性染料などに応じて異なるが、短時間で染色させるには、加熱用部材を100℃以上にするのが好ましい。さらに、染色時間は、被染色プラスチックレンズの材質、使用する昇華性染料の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0015】
昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズ表面に染色層を形成させるに際し、該プラスチックレンズの温度は、レンズの種類により異なり、特に限定されないが、通常70〜150℃の範囲に保持するのが好ましい。
【0016】
本発明において使用されるプラスチックレンズとしては、特に限定されず、例えばメチルメタクリレ−ト単独重合体、メチルメタクリレ−トと1種以上の他のモノマ−とをモノマ−成分とする共重合体、ジエチレングリコ−ルビスアリルカ−ボネ−ト単独重合体、ジエチレングリコ−ルビスアリルカ−ボネ−トと1種以上の他のモノマ−とをモノマ−成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカ−ボネ−ト、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリウレタン、ポリチオウレタンなどからなるレンズが挙げられる。また、これらのプラスチックレンズ上に、公知のプライマ−層、ハ−ドコ−ト層を施したレンズも本発明の染色方法により染色することができる。
【0017】
本発明のプラスチックレンズ染色方法で使用する第1の装置(加熱用部材を使用)について、添付図面に従って説明する。
HYPERLINK ”E:¥My Documents¥JPO¥JP−A−2002−82204.files¥000003.gif” 図1は、本発明の、加熱用部材を使用した、プラスチックレンズ染色装置を構成する各部材の一例を示す概略図であって、この染色装置は、レンズ保持部材1と、塗布した染料3が点在した基板2と、加熱用部材4と、収容器5と、真空ポンプ6より構成されている。保持部材1は、被染色プラスチックレンズ7の周辺部を支持して、該レンズを保持する部材であって、レンズの染色面方向が開口すると共に、この開口部を密閉する基板2が係合するための段差部8を有している。また9は、被染色プラスチックレンズ7の位置調節用リングである。基板2は、被染色プラスチックレンズ7の染色面と対面する側に、縦軸及び横軸方向に点在した染料3を有しており(図2及び図3参照)、染料3の点在範囲はプラスチックレンズにおける染色しようとする範囲よりも大きい。そして、基板2はレンズ保持部1の開口部を密閉するのに用いられる。なお、点在する染料3は、基板2の表面上に形成された遠赤外線輻射層12上に塗布されている。
【0018】
加熱用部材4は、基板2の背面(染料3を塗布したとは反対側の面)全体に接触させて加熱し、染料を昇華させて、被染色プラスチックレンズ7の染色面を染色するのに用いる。この染色装置において、加熱用部材4として具体的には上ゴテ(熱板)を用いることができる。収容器5は、レンズ保持部材1と被染色プラスチックレンズ7と染料3を有する基板3との組み合わせを1組または複数組収容する部材であって、それらを収納するための開口部を有し、上記加熱部材4によって密閉される。この収納器5には、被染色プラスチックレンズ7を所定の温度に保持するために、所望により加熱機構10を有してもよい。さらに、適当な位置に温度測定用センサ−及び真空度測定用機器(図示せず)を設けることができる。なお、11はパッキンである。
真空ポンプ6は、収納器5内を真空状態に保持するためのものである。
【0019】
この染色装置においては、被染色プラスチックレンズ7と染色層3との間の距離は、該レンズおよび染色層の加熱温度、染色時間、真空度、所望の染色濃度などに応じて、適宜選定されるが、一般的には1〜1000mmの範囲で選ばれる。
なお、レンズのハ−フ染色を行うには、図3に示すように、基板2の半分に昇華性染料を塗布し、点在させるとよい。
【0020】
さらに、本発明のプラスチックレンズ染色方法で使用する第2の装置(電磁誘導加熱を使用)について、添付図面に従って説明する。
図4は、本発明の、電磁誘導加熱方式を使用した、プラスチックレンズ染色装置の一例の概略図である。
装置500は、2つの装置が一組になっている。図4において、装置Aの状態は、初期状態であり、装置Bの状態は染色中の状態である。
本装置の基本的な思想は、次の通りである。
(1)レンズ及び染料が塗布された基板を保持するレンズ保持具と、該レンズ保持具を密閉する密閉手段と、密閉内を減圧する減圧手段と、前記基板を電磁誘導加熱により加熱する加熱手段と、を備えたプラスチックレンズの染色装置。
(2)前記(1)の装置に、初期位置から加熱位置間を移動させる移動手段と、加熱手段による加熱終了後、密閉を解除する解除手段と、初期位置にてレンズを冷却する冷却手段と、をさらに備えたプラスチックレンズの染色装置である。
【0021】
係る装置500は、レンズ置き台100、レンズ保持具110、レンズ置き台100が前後方向に移動する移動機構120、レンズ50、レンズ保持具110を密閉するための被せ蓋130、レンズ50を冷却する冷却手段140、フレ−ム板150、電磁誘導加熱器(磁気加熱用部材、図4には示さず)より基本的に構成されている。
フレ−ム板150とレンズ置き台100とは、フレ−ム板150に電磁誘導加熱による熱が伝わらないよう、作業上の観点から別部材で作るのが好ましい。フレ−ム板150が、電磁誘導加熱により必要以上に熱くなると、作業者の安全性に支障をきたす可能性があるからである。本実施例では、フレ−ム板150に熱が伝わらないよう、レンズ置き台100と間隔をあけ、4つの連結部材で連結を行っている。レンズ置き台100の素材は、その上に染料を塗布した基板160を載置し、さらに、レンズ保持台110を載せ、レンズ保持台内にレンズ50を載置する観点から電磁誘導加熱により熱が発生する素材が好ましい。その例としては、電気を通す鉄、ステンレスなどが挙げられる。
【0022】
次に、レンズ50をセットする方法について、図4と、各部材の位置関係を示す概略図である図5を参酌して説明する。
図5に示すように、レンズ置き台100上に、遠赤外線輻射層210を形成したステンレスなどから構成される基板200を載置する。このときの、遠赤外線輻射層には昇華性染料220が塗布されている。そして、該昇華性染料220が塗布された基板面とプラスチックレンズの被染色面を離間して対向させることができるように、リング状のレンズ保持具110を載置する。リング状のレンズ保持具110の中空部にレンズ50を載せてレンズ50を保持して、図4に示す装置Aの状態にする(設定状態、初期状態)。なお、レンズ保持具110を必要以上に熱くさせたくない場合には、レンズ保持具110とレンズ置き台100の間に断熱ゴムを入れることも可能である。
その後、レンズ50、レンズ保持具110を載置しているフレ−ム板150を被せ蓋130の下まで、移動機構120により移動する。フレ−ム板150は、その外側に矩形形状の枠体151が施され、4つの連結部材120により連結されている。枠体151の下方四隅には連結棒153が施され、正面から見て『逆L字型』、側面及び上面からみて矩形のスライド部材154に連結されている。スライド部材154がレ−ル155上をスライドすることによりフレ−ム板150がスライドする。スライド部材154は伸縮可能なシャフト部材156に連結されている。
【0023】
レンズ置き台100が被せ蓋130の下まで移動した後、上下方向に移動可能な被せ蓋130によりレンズ50、レンズ保持具110を密閉できるように被せ蓋130を下方に移動する。その状態は、図4で示す装置Bに相当する。図5に示すように、レンズ置き台の下にはトッププレ−ト300が置かれている。トッププレ−ト300は、その下にある電磁誘導加熱器400の磁力発生コイルが必要以上に加熱しないよう、電気を通さない耐熱ガラス、アルミ、陶磁器などで作られている。
【0024】
被せ蓋130(図5には示さず。)によりレンズ50、レンズ保持具110を密閉した後、電磁誘導加熱器400により磁力を発生させることにより、電気を通す素材である基板200を加熱させ、遠赤外線輻射層に塗布されている染料を昇華させてレンズを染色させる。遠赤外線輻射層によりレンズ50に遠赤外線が当たることにより、遠赤外線輻射層を施さない場合と比べ、高周波電磁誘導加熱器が同じ出力の場合において、レンズが短時間で且つより高い温度にて加熱され、短時間で染色することができる。高周波電磁誘導加熱器により磁力を発生させる際において、短時間で染色させるために同時に密閉された空間内を減圧することも可能である。
【0025】
染色終了後は、被せ蓋130を上方向に移動させ、レンズ置き台100を初期位置に移動させる。初期位置に移動させたとき、作業者が火傷しないようレンズ置き台100の下から冷却装置150にてレンズ50、レンズ保持具110を冷却する。
電磁誘導加熱による加熱は、ヒ−タによる加熱と比べ短時間で加熱することができ、好ましく用いられる。
【0026】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
実施例1
Dianix Red −ACE(三菱化学社製), Dianix Blue AC(三菱化学社製), Fast Yellow GL (三井化学社製)を重量比で5:2:24の割合で混合し、この染料の重量に対して10倍の純水を加えて染料液を作製した。
次いで、この染料液を、遠赤外線輻射層〔パ−カ−加工株式会社の「セラスパッツ加工」(商品名)厚さ5〜20ミクロン〕が形成されている直径103mm、厚さ1mmの円形のアルミニウム板に、碁盤目状に1cm間隔で70箇所に塗布した。塗布量は一点につき5マイクロリットルとした。
染色装置としては、図1に示す染色装置を用い、プラスチックレンズ素材としては、含硫黄プラスチックレンズである未加工のテスラリッド(商品名、HOYA株製、直径80mm) を用いた。
治具にて上ゴテ(熱板) に基板のアルミニウム板を接触させて、熱板の温度を115℃、真空度3.5kPaの状態にした後、15分間その状態を保持した。なお、加熱手段はヒ−タ(5kw)を用いた。
染色はレンズの凹面に対して行った。得られたレンズの透過率を測定(測定波長575nm)したところ70.4%であった。また目視で染色の均一性を調べたところ、均一に染色されていることが認められた。また、レンズの変形も見られなかった。
この染色処理を何度も繰り返してもほぼ同様の結果が得られた。
【0027】
比較例1
遠赤外線輻射層を形成していないアルミニウム板を使用した以外は全て、実施例1と同様に行って染色を行った。得られたレンズの透過率を測定(測定波長575nm)したところ76.4%であった。
【0028】
比較例2
遠赤外線輻射層を形成していないアルミニウム板を使用し、且つ染色時間を20分間にした以外は全て、実施例1と同様に行って染色を行った。得られたレンズの透過率を測定(測定波長575nm)したところ70.4%であった。
【0029】
実施例2
染色装置として、図1記載の染色装置に代えて、図4記載の電磁誘導加熱方式の染色装置を用いた。さらにレンズ基材はアイリ−基材(商品名:HOYA株式会社製造)とし、染料は以下の4種の染料〔何れも販売元は双葉産業(株)〕を混合して用いた。
(1) ディスパ−ス・レッドM
(2) ディスパ−ス・ブラックB
(3) ディスパ−ス・エロ−G
(4) ディスパ−ス・ブル−R
上記4種の染料(配合比は重量比で1:3:2:4)を合計で5重量%含有する染料液0.06gを、ステンレス板からなる基板上に形成された遠赤外線輻射層(パ−カ−加工株式会社の「セラスパッツ加工」厚さ5〜20ミクロン)上に点在するように塗布した。
真空度21kPa、基板温度が120℃になるように電磁誘導加熱方式(5kw用)で、60分間加熱して、染色を行った。その結果、透過率37%(測定波長575nm)の均一に染色されたレンズが得られた。なお、初期の基板温度は室温で、初期の真空度は大気圧で行った。加熱時間の60分間は、図4に示す被せ蓋を下方向に降ろし、レンズが密閉された状態を起算時間とした。
なお、レンズ表面温度が測定できるようにして、レンズ表面温度を測定したところ、8分後のレンズ表面温度は92.0℃で、30分後のレンズ表面温度は106℃であった。
【0030】
比較例3
遠赤外線輻射層を形成していないステンレス板を使用した以外は全て、実施例2と同様に行って染色を行った。得られたレンズの透過率を測定(測定波長575nm)したところ68%であった。
なお、レンズ表面温度が測定できるようにして、レンズ表面温度を測定したところ、8分後のレンズ表面温度は66.0℃で、30分後のレンズ表面温度は93℃であった。
【0031】
比較例4
遠赤外線輻射層を形成していないステンレス板を使用し、且つ染色時間を120分間にした以外は全て、実施例1と同様に行って染色を行った。得られたレンズの透過率を測定(測定波長575nm)したところ37%であった。
【0032】
実施例3
レンズ基材と染料液とを実施例1で用いたのと同じとし、点在させる染料の間隔を図3で示す如くにした以外は、全て実施例2と同様に行なって染色を行った。
その結果、染色濃度が変化する良好なハ−フ染色されたレンズが得られた。
【0033】
本発明によれば、基板上に遠赤外線輻射層を形成しその上に染料を塗布することにより、レンズの染色時間の短縮が図れる。その理由は明らかでないが、遠赤外線がレンズにあたることにより、レンズが短時間で加熱され、さらにレンズの加熱温度が高くなり、染色されやすくなるものと推測する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の、加熱用部材を使用した、プラスチックレンズ染色装置を構成する各部材の一例を示す概略図
【図2】本発明の、基板上に昇華性染料を点在させる態様の1例を示す概略図
【図3】本発明の、基板上に昇華性染料を点在させる態様の1例を示す概略図
【図4】本発明の、電磁誘導加熱方式を使用した、プラスチックレンズ染色装置の一例の概略図
【図5】本発明の、電磁誘導加熱方式を使用した、プラスチックレンズ染色の一例における各部材の位置関係を示す概略図
【符号の説明】
1:レンズ保持部材
2:基板
3:染料
4:加熱用部材
5:収容器
6:真空ポンプ
7:被染色プラスチックレンズ
8:段差部
9:被染色プラスチックレンズ7の位置調節用リング
10:加熱機構
11:パッキン
12:遠赤外線輻射層
50:レンズ
100:レンズ置き台
110:レンズ保持具
120:移動機構
130:被せ蓋
140:冷却手段
150:フレ−ム板
151:枠体
153:連結棒
154:スライド部材
155:レール
156:シャフト部材
200:基板
210:遠赤外線輻射層
220:昇華性染料
300:トッププレート
400:電磁誘導加熱器(磁気加熱用部材)
500:染色装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に遠赤外線輻射層を形成する輻射層形成工程、該遠赤外線輻射層上に昇華性染料を塗布する塗布工程及び、該基板の該昇華性染料が塗布された面とプラスチックレンズの被染色面とを離間して対向させ、該基板を加熱することにより該昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを染色する染色工程とを有するプラスチックレンズの染色方法。
【請求項2】
昇華性染料を遠赤外線輻射層上に点在させて塗布する請求項1に記載のプラスチックレンズの染色方法。
【請求項3】
遠赤外線輻射層上に点在させて塗布する昇華性染料の点在の間隔を変化させることにより染色濃度を制御する請求項2に記載のプラスチックレンズの染色方法。
【請求項4】
基板が円形平板である請求項1〜3の何れかに記載のプラスチックレンズの染色方法。
【請求項5】
円形平板である基板上の遠赤外線輻射層に点在させて塗布する昇華性染料の点在の間隔を、レンズを濃く染色しようとする箇所に対応する箇所においては小さくし、レンズを薄く染色しようとする箇所に対応する箇所においては、大きくすることによりハ−フ染色を行う請求項4に記載のプラスチックレンズの染色方法。
【請求項6】
電磁誘導加熱方式により基板を加熱する請求項1〜5いずれかに記載のプラスチックレンズの染色方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2004−53975(P2004−53975A)
【公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−211995(P2002−211995)
【出願日】平成14年7月22日(2002.7.22)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】