説明

プラスチックレンズの染色方法

【課題】屈折率が1.7以上の高屈折率のプラスチックレンズに対する染色処理を促進することを目的とする。
【解決手段】プラスチックより成るレンズ基材に、界面活性剤を塗布する工程S12と、界面活性剤を塗布したレンズ基材に、紫外線を照射する工程S13と、紫外線を照射したレンズ基材を、染色する工程S14と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば眼鏡用のプラスチックレンズなど、高屈折率のプラスチックレンズに対して染色を行うプラスチックレンズの染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡用のレンズとして、ガラスレンズに比べて軽量で且つ加工が容易であり、衝撃にも比較的強いプラスチックレンズが一般的となっている。そしてこのようなプラスチックレンズにおいて、ファッション性の付加、或いは目の保護のため、レンズを着色して用いることが多くなっている。従来の着色方法としては、染料を溶媒に分散させた染色液に、レンズ基材を浸漬する方法が一般的である。
【0003】
一方で、眼鏡用のレンズの場合、薄板化を達成するために高屈折率のプラスチックレンズが種々開発されている。その中でも特に1.7以上の高屈折率のプラスチックレンズにおいては、上述した従来の染色液に浸漬する染色方法では、染色処理に時間を要してしまい、更には時間をかけても濃度を高くすることが難しいという問題がある。
【0004】
これに対し、例えば下記の特許文献1においては、プラスチックレンズの表面に紫外線を照射し、照射されたプラスチックレンズを分散染料にて染色を行なう染色方法が提案されている。この方法では、低圧水銀ランプを用いて短波長紫外線(300nm以下)を照射することによって、レンズを構成する高分子有機化合物の主鎖や側鎖の結合を切断し、切断面が酸化されることで染色の均一性を向上している。
【0005】
また、特許文献2においては、透明プラスチック部材の表面に紫外線を照射してプラスチック部材の表面を改質する方法が提案されている。照射する紫外線の波長を185nm又は254nm(低圧水銀ランプ)、或いは172nm(エキシマランプ)等とすることによって、紫外線を照射しない場合と比べて短時間で透明プラスチック部材の表面を清浄化・活性化することができるとしている。
【0006】
更に、特許文献3においては、染色液に浸漬して染色するプラスチックレンズの染色方法において、染色液1リットルに対してフッ素系界面活性剤を0.02g〜0.2g添加する技術が開示されている。この場合、フッ素系界面活性剤を用いてレンズ表面の表面エネルギーを低減化することで、レンズを染色液に浸漬する際に発生する泡の発生を抑制し、これにより染色ムラを発生しにくくさせるものである。また、キャリヤー剤を染色液に含ませることで染料の含浸を促進させている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−91909号公報
【特許文献2】特開2002−88178号公報
【特許文献3】特開2006−267469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に開示された方法による場合、紫外線照射によりレンズ表面を活性化する結果、染色を均一にしたり染色濃度を向上させたりすることは可能である。更に、染色液に染色助剤を添加する従来の方法を併用する場合は、より染色を促進する効果を引き出すことも可能と考えられる。しかしながら、屈折率が従来よりも高く1.7以上の高屈折率のプラスチックレンズにおいては、染色液に染色助剤を添加しても染色濃度に関してはさほど大きな効果は見られず、目的とする高濃度に染色することが難しい。
【0009】
また、特許文献2に開示の方法においては、プラスチックレンズに紫外線を照射することで表面は活性化され、染色しやすい状態にはなっている。しかしながら、上記特許文献1に開示の方法と同様に、高屈折率のプラスチックレンズに適用する場合は、より短時間で濃度を高め、また望ましい高濃度の染色を実現する方法が求められている。
【0010】
更に、特許文献3に開示された方法では、フッ素系界面活性剤を染色液に加えることで発泡を抑えて均一な染色を行なっているが、高屈折率プラスチックレンズの高濃度染色を行なうという効果は得られない。
なお、上記の方法において、染色助剤としてキャリヤー剤を用いることによって多少の染色促進は期待できると考えられる。しかしながらキャリヤー剤としては主に有機溶剤(例えばベンジルアルコール)等が用いられ、上述した1.7以上の高屈折率プラスチックレンズには、あまり効果が得られない。したがって、依然として高屈折率レンズを高濃度に染色するには時間が非常にかかってしまうか、或いは目的とする濃度が得られない、という問題がある。
【0011】
以上の問題に鑑みて、本発明は、屈折率が1.7以上の高屈折率のプラスチックレンズに対する染色処理を促進することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明によるプラスチックレンズの染色方法は、プラスチックより成るレンズ基材に、界面活性剤を塗布する工程と、界面活性剤を塗布したレンズ基材に、紫外線を照射する工程と、紫外線を照射したレンズ基材を、染色する工程と、を含む。
【0013】
また、本発明によるプラスチックレンズの製造方法は、染色処理工程として、上述の本発明によるプラスチックレンズの染色方法により染色する工程を含み、更に、コーティング層形成工程と、反射防止膜形成工程と、を含む。
【0014】
上述の本発明のプラスチックレンズの染色方法は、プラスチックより成るレンズ基材に、界面活性剤を塗布した後紫外線を照射し、その後染色処理を行うものである。
このように、界面活性剤塗布処理と紫外線照射処理とを含み、その上で染色を行うことによって、プラスチックレンズにおいて、従来に比べて染色濃度を高めることができた。また、同程度の染色濃度とする場合は染色処理時間を短縮することができた。したがって、本発明によれば、高屈折率のプラスチックレンズに対して染色処理を促進することが可能となる。
そして、本発明のプラスチックレンズの製造方法においては、上述の本発明によるプラスチックレンズの染色方法により染色を行うため、屈折率が1.7以上の高屈折率レンズにおいても染色されたレンズを製造工程数の大幅な増加を招くことなく提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プラスチックレンズ、特に屈折率が1.7以上と高屈折率のプラスチックレンズにおいて、染色処理を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明によるプラスチックレンズの染色方法は、眼鏡用のプラスチックレンズに好ましく適用できるが、その他のプラスチックレンズにも適用可能である。例えば眼鏡用のプラスチックレンズに適用する場合は、プラスチックより成るレンズ基材に本発明を適用して染色した後、必要に応じて密着性、耐衝撃性を向上させるプライマー層や、耐擦傷性、耐候性を向上させるハードコート層、更に、少なくとも反射防止膜が形成されて眼鏡用の染色したプラスチックレンズが製造される。
【0017】
本発明のプラスチックレンズに用いるレンズ基材としては、以下の材料を用いることができる。例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、ポリスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体等である。
特にレンズ基材の材料として、屈折率が1.7以上の高屈折率な材料である、ポリスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体等を用いてレンズを構成する場合に、本発明の染色方法を好ましく適用することができる。
【0018】
また、プライマー層をレンズ基材とハードコート層との間に設ける場合、プライマー層の材料としては、レンズ基材とハードコート層との密着性及び耐衝撃性を高め、またレンズ基材を高屈折率材料より構成する場合は、光学特性に影響を及ぼさない材料であればよい。プライマー層の形成方法としては、ディッピング法やスピンコート法、スプレー法等により塗布した後、加熱や光線照射等により硬化して形成する方法が挙げられる。
【0019】
また、ハードコート層の材料としては、無機微粒子がコロイド状に分散している有機ケイ素化合物を用いることができる。無機微粒子として、例えば、シリカ、ジルコニア、チタニア、及び、アルミナが挙げられ、レンズ基材の屈折率に応じて選択される。ハードコート層の形成方法も、ディッピング法やスピンコート法、スプレー法等により塗布した後、加熱や光線照射等により硬化する方法が利用できる。
【0020】
ハードコート層の上に設ける反射防止膜としては、無機材料、有機材料いずれも使用可能であり、レンズ基材を高屈折率材料とする場合はその光学特性に影響を及ぼさない材料であればよい。無機材料より成る場合は真空蒸着法等によって形成し、有機材料より成る場合はディッピング法、スピンコーティング法等により塗布した後、加熱や光線照射等によって硬化して形成することができる。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの染色方法の処理工程を示すフローチャートである。図1に示すように、本発明においては、先ずプラスチックより成るレンズ基材を用意する(ステップS11)。このレンズ基材としては、屈折率が1.6以上、特に1.7以上の高屈折率プラスチックより成るレンズ基材とする。
そしてこのレンズ基材に、界面活性剤を塗布する(ステップS12)。この界面活性剤としては、ノニオン系(非イオン系)界面活性剤、又はアニオン系(陰イオン系)界面活性剤を好適に用いることができ、透明無色のものが特に好ましい。
【0022】
次に、界面活性剤を塗布したレンズ基材に、紫外線を照射する(ステップS13)。この紫外線の照射時間は、10分を超えるとレンズ基材が変質して不要な色が着色される恐れがあるので、10分以下とすることが望ましい。
【0023】
そして、紫外線を照射した後、レンズ基材を例えば染料を分散させた染色液に浸漬する等の方法により染色する(ステップS14)。なお、染色する前にレンズ基材表面の界面活性剤を水洗浄等により除去してもよく、除去しなくてもよいが、量産を考えた時に、染色液中に界面活性剤が徐々に流出することで、染色液自体の濃度が変化していく点を考慮すると、除去しておいた方が好ましい。除去する場合、表面に残っているのは界面活性剤なので、水で十分に洗い落とすことが可能である。有機溶剤、酸、アルカリといった材料を使用する必要がないため、環境面の配慮はかなり軽減される。以上の工程により、染色工程が終了する。
【0024】
これらいずれの方法においても、界面活性剤の塗布方法としては、刷毛塗り、スピンコート法、ディッピング法等任意の方法で塗布することができる。これらの方法により膜厚を均一に塗布することで、表面改質の効果のばらつきを抑えることができると考えられる。
【0025】
また、染色する色や染色剤は特に限定されることなく、種々の染色剤を用いた染色に本発明を適用することが可能である。
このように、本発明においては、界面活性剤として特殊な材料ではなく、一般的な界面活性剤、特にノニオン系やアニオン系の界面活性剤を用いることができ、また塗布方法もスピンコート法や浸漬法等の一般的な手法を用いることができる。更に、使用する目的に適した原料を自由に選択して本発明を適用することができる。したがって、高屈折率プラスチックレンズの染色用として、特別に大掛かりな製造設備を設ける必要がなく、この用途に限った設備投資は不要となる。すなわち、設備コストを抑えるという利点も得られる。
【0026】
以上の染色処理工程を経ることによって、屈折率が1.7以上の高屈折率レンズにおいても、一般的な染色方法、すなわち染色液への浸漬により、簡単に高濃度の染色が可能となる。上述したように、従来の方法では屈折率が1.7以上の高屈折率のプラスチックレンズに対して目的とする高い濃度に染色することが難しく、時間をかけても十分な高濃度を出しにくい。これに対し、本発明による場合は、後述するように屈折率が1.7以上の高屈折率レンズに対して高い濃度を実現でき、紫外線照射時間を短縮しても、従来と同程度の濃度の染色が可能となる。したがって染色工程を含むプラスチックレンズの製造プロセスにおいて、生産効率を格段に向上させることができる。
【0027】
なお、図1のステップS11〜14に示す染色処理工程(ステップS31)を経た後、上述したプライマー層やハードコート層等のコーティング層を形成するコーティング工程を行い、更に、反射防止膜形成工程を経て、染色が施された眼鏡用プラスチックレンズを製造することができる。なお、これらの工程の他、必要に応じて反射防止膜の上に撥水コート等の機能性膜を形成する工程を追加してもよい。
【0028】
次に、実施例及び比較例として、屈折率が1.7以上の眼鏡用のプラスチックレンズに対する染色を行った。下記の各例において、レンズ基材としてはどれも屈折率が1.76のプラスチックレンズを用いた。以下これを説明する。
【0029】
(1)実施例1及び比較例1
この例においては、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体より成る屈折率1.76の眼鏡用のプラスチックレンズを用いた。このレンズに対して最も濃度を高めにくいグレーの染色を行う場合に本発明を適用し、界面活性剤を塗布した後、紫外線を照射して、その後染色を行った。
界面活性剤としては、ノニオン系の界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王株式会社製、商品名「エマルゲン707」)を用いた。塗布方法としては、界面活性剤中に浸漬し、引き上げ速度2mm/sで引き上げて塗布した。
次に、紫外線照射処理を行った。紫外線照射装置としては、UVオゾン処理装置(岩崎電気株式会社製、商品名「アイ・UVオゾン洗浄装置」)を用いた。波長185nm、254nmの紫外線を発光する装置であり、波長185nmの紫外光によりオゾンが発生し、UV(紫外線)オゾン処理を行うものである。この紫外線照射装置を用いて出力15±5[mW/cm]として1分から8分まで1分刻みのサンプルを作製した(実施例1)。また、比較のために界面活性剤を塗布しないサンプルも同様の紫外線照射条件で作製した(比較例1)。
【0030】
次に、レンズ基材を染色した。この例では、染色剤に界面活性剤が混ざって染色の条件が変化しないように、染色前に界面活性剤を水で洗浄してから染色を行った。染色方法は浸漬法とし、染色液中95℃で1時間保持した。染色剤としてグレー系の染色液を用い、Dystar社商品名「Dianix Blue AC−E」及び「Dianix Red AC−E」、更に、住友化学工業株式会社製商品名「Sumikaron Orange SERPD」が調合された1.0%水溶液を用いた。
【0031】
各紫外線照射時間におけるレンズ基材の染色濃度の指標として、株式会社村上色彩技術研究所製、商品名「分光透過率測定機D0T−3C」を用いて波長550nmの光の透過率を測定し、下記式(1)により濃度を算出した。
(濃度%)=[1−透過率]×100・・・(1)
この結果を下記の表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上記表1の結果から、界面活性剤としてノニオン系の界面活性剤を用い、この界面活性剤を塗布した後紫外線照射処理を行う場合は、紫外線照射時間を2分以上6分以下とするとき、界面活性剤を塗布しないで紫外線を照射する場合の最大濃度と比較してもより高い濃度とすることができることがわかる。
したがって、実施例1による場合は、屈折率が1.7以上であり、1.76と極めて高屈折率のプラスチックレンズにおいても、従来と比べて高い濃度の染色が可能となることがわかる。また濃度を同様とする場合は、紫外線照射時間が短縮でき、すなわち染色処理全体に要する時間を短縮することも可能となる。
【0034】
(2)比較例2
この例においては、界面活性剤を塗布せず、また紫外線照射処理も行なわずに染色を行った。その他レンズ基材の材料、染色液、染色条件は実施例1と同様の方法で行ない、サンプルを3個とした。この結果を下記の表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2の結果から、屈折率1.76と高屈折率のプラスチックレンズに対し、同じ染色液を用いて、同じ染色条件とするときは、実施例1と比較して極めて低い濃度しか得られないことがわかる。
【0037】
(3)実施例2及び比較例3
次に、界面活性剤の種類を変えて、それ以外の条件、すなわちレンズ基材の材料、紫外線照射条件、染色液の材料、染色条件は実施例1と同様として染色を行なった。
界面活性剤としては、この例ではアニオン系界面活性剤であるジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名「ペレックスOT−P」)を用いた(実施例2)。また、比較のために界面活性剤を塗布しないサンプルも同様の条件で作製した(比較例3)。
【0038】
【表3】

【0039】
表3の結果から明らかなように、アニオン系界面活性剤を用いる場合は、紫外線照射時間を3分以上6分以下とするとき、界面活性剤を塗布しない場合と比較して濃度を高めることができることがわかる。特に、4分以上5分以下の場合は、界面活性剤を塗布しない場合に得られる最高の濃度(紫外線照射時間5分の場合の濃度23.7)を超える高い濃度を達成できることがわかる。
【0040】
以上の結果から、ノニオン系界面活性剤でもアニオン系界面活性剤でも、紫外線照射処理の前にレンズ基材に塗布することによって、染色後の濃度を高めることができることがわかる。特に、染色時間を適切に選定することによって、界面活性剤を塗布しない場合と比べて高い濃度に染色することが可能である。
【0041】
なお、実施例1及び2において用いたノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤は、殆ど無色透明である。また、粘度も比較的低く、ディッピング法によりほぼ均一な膜厚に塗布することができた。このため、紫外線照射、この場合紫外線オゾン処理による表面改質効果を十分に得ることができ、染色液の浸透を促進することができたものと思われる。
【0042】
(4)比較例4
次に、上記実施例1と同様の屈折率が1.76のレンズ基材に対して、界面活性剤塗布処理も紫外線照射処理も行なわず、従来行なわれているキャリヤー染色による染色を行って、得られる濃度を測定した。サンプル数は3とした。
染色液としては、グレー系の染色液とし、Dystar社製商品名「Dianix BlueAC−E」及び「Dianix Red AC−E」、更に、住友化学工業株式会社製商品名「Sumikaron Orange SERPD」を調合して成る1.0%水溶液を用いた。この染色液に、キャリヤー剤としてトリクロロベンゼンを、1l当たり2ml添加した。
染色方法としては浸漬法とし、染色液中で95℃1時間浸漬した。
このようにして染色したレンズ基材を、実施例1と同様に、株式会社村上色彩技術研究所製、商品名「分光透過率測定機D0T−3C」を用いて透過率を測定し、上記式(1)により濃度を測定した。また、キャリヤー剤を添加しない場合についても同様の染色を行い、濃度を測定した。この結果を下記の表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表4の結果から、染色濃度について若干の向上(最大で約0.4%)は見られたものの、ほとんど誤差範囲程度に留まり、効果としてはほとんど見られない傾向であった。
【0045】
以上説明したように、本発明によれば、屈折率が1.7以上の高屈折率のプラスチックレンズに対して界面活性剤を塗布してから紫外線を照射するか、或いは、紫外線を照射してから界面活性剤と塗布し、その後染色することによって、従来と比べて高濃度の染色を行なうことができ、また染色処理時間を短縮するという効果が得られる。
【0046】
使用する界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤又はアニオン系活性剤を用いることによって、確実に濃度を高めることができる。特に、ノニオン系界面活性剤を塗布した後紫外線を照射する方法を採用することで、屈折率が1.76と極めて高屈折率のプラスチックレンズに対して、高い濃度を実現できる。
従来高屈折率のプラスチックレンズに対して染色する時間がかかっていたが、本発明を適用することで、所定の濃度に染色する処理全体の時間を短縮することも可能である。また、有機溶剤等公知のキャリヤー剤を使用しないため、作業環境の面でも有利となる。
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載される本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変形例または応用例を含むものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの染色方法の処理工程を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックより成るレンズ基材に、界面活性剤を塗布する工程と、
前記界面活性剤を塗布したレンズ基材に、紫外線を照射する工程と、
前記紫外線を照射したレンズ基材を、染色する工程と、を含む
プラスチックレンズの染色方法。
【請求項2】
前記界面活性剤がノニオン系又はアニオン系の界面活性剤である請求項1に記載のプラスチックレンズの染色方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が無色である請求項2に記載のプラスチックレンズの染色方法。
【請求項4】
前記界面活性剤がノニオン系の界面活性剤であり、
前記紫外線を照射する時間を2分以上6分以下とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチックレンズの染色方法。
【請求項5】
染色処理工程として、
プラスチックより成るレンズ基材に、界面活性剤を塗布する工程と、
前記界面活性剤を塗布したレンズ基材に、紫外線を照射する工程と、
前記紫外線を照射したレンズ基材を、染色する工程と、を含み、
更に、コーティング層形成工程と、
反射防止膜形成工程と、を含む
プラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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