説明

プラズマ点火装置、プラズマ点火方法、およびプラズマ発生装置

【課題】監視したり人手を要したりすることなく、容易にかつ確実にプラズマを点火したり再点火したりすることが可能なプラズマ点火技術を提供する。
【解決手段】所定の高周波信号HSを発生しプラズマ発生させるための負荷電極114に供給する高周波電源装置101、高周波電源装置側と負荷電極側とのインピーダンスを整合させる整合装置105、高周波信号HSの進行波および反射波を検出する進行波・反射波検出装置102、所定の高電圧HVを発生する高電圧発生装置103、反射波の進行波に対する比率が第1のしきい値より大きい場合に高電圧HVを高周波信号HSに重畳する制御装置100を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ点火装置、プラズマ点火方法、およびプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの生産現場においてプラズマが用いられている。例えば、半導体回路の製造分野では、プラズマによってボンディング対象となる半導体回路の表面を清浄している。
【0003】
従来のプラズマ発生装置として、例えば、特開2002−343599号公報には、アルゴンガスが導入されるガラスチューブの軸芯にワイヤが配置され、ガラスチューブの先端部分に高周波コイルと点火用コイルとが巻回された装置が開示されている(特許文献1)。当該装置では、アルゴンガスをガラスチューブに導入しプラズマガスの流れが安定した後、高周波電源から高周波コイルに高周波電力を供給し、次いで点火用コイルに高電圧を印加することで放電が発生し、プラズマが発生するようになっている。
【0004】
また、特開2003−328138号公報には、ワイヤを含むプラズマ点火用コイルにイグナイタから高電圧を印加し、プラズマ点火用コイルとワイヤとの間で放電を誘起させプラズマを点火するプラズマ点火機構が開示されている(特許文献2、図3)。
【0005】
さらに、特開2006−104545号公報には、高融点導線を挿通するプラズマトーチ内管の周囲を混合ガスが流通するプラズマトーチ外管で囲み、外部に設けられたイグナイタにより放電を開始させるマイクロプラズマ反応装置が開示されている(特許文献3、図1〜6)。
【0006】
また、特開平6−215894号公報には、インピーダンスマッチング回路を介してプラズマチャンバの電極間に高周波電力を供給する高周波プラズマ用電源が開示されている(特許文献4)。当該装置によれば、電源出力インピーダンスとプラズマチャンバのインピーダンスとが整合するまでの期間において電力増幅器のFETに供給する電圧値を低く設定して、反射波によるFETの破損を防止していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−343599号公報
【特許文献2】特開2003−328138号公報
【特許文献3】特開2006−104545号公報
【特許文献4】特開平6−215894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プラズマ発生装置では、プラズマ用不活性ガスの流動状態が悪化等するとプラズマが不安定になったり消滅したりする。プラズマが不安定であったり消滅したりした場合には、半導体回路等の製品の多くに欠陥が生じる。またそのような欠陥により、欠陥箇所とは異なる箇所が発熱する等の不都合が生じる場合もある。プラズマが消滅したことに気付くまでに時間がかかると、多くの製品に欠陥が生じることになってしまう。このため、上記特許文献に記載されたプラズマ発生装置では、プラズマが消滅していないか監視する必要があった。またプラズマが消滅した場合には手動により再点火しなければならなかった。さらにプラズマの点火作業は、高周波電力の印加作業と並行してタイミングを見計らって実施する必要があったため、点火作業にある程度の熟練を要するものであった。
【0009】
そこで、上記課題に鑑み、本発明は、監視したり人手を要したりすることなく、容易にかつ確実にプラズマを点火したり再点火したりすることが可能なプラズマ点火技術を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のプラズマ点火装置は、プラズマを発生させる負荷電極に所定の高周波信号を供給する高周波電源装置と、前記高周波電源装置側と前記負荷電極側とのインピーダンスを整合させる整合装置と、前記高周波信号の進行波および反射波を検出する進行波・反射波検出装置と、所定の高電圧を発生する高電圧発生装置と、前記反射波の前記進行波に対する比率が第1のしきい値より大きい場合に前記高電圧を前記高周波信号に重畳する制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、高周波信号が負荷電極に供給されるとその時のプラズマ状態等に応じた負荷電極側のインピーダンスが定まる。このときプラズマが適正に生じていないと整合装置側の出力インピーダンスと負荷電極側のインピーダンスとの不整合を生じるため、高周波信号の進行波に対する反射波の比率が大きくなる。この反射波の進行波に対する比率がある程度大きいと、点火前の状態、または、一旦点火していたプラズマが何らかの事情で消滅した状態であると推定可能である。そこで、プラズマの消滅状態を推定するために予め定めた第1のしきい値よりもこの比率が大きい場合には、プラズマが点火されていないと判定され、高電圧を高周波信号に重畳される。この高電圧により負荷電極に放電が発生し、プラズマが点火または再点火される。
【0012】
なお、「反射波の進行波に対する比率」は、通常、進行波の振幅値に対する反射波の振幅値の比として把握される、例えば、定在波比(SWR(Standing Wave Ratio)値)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラズマの点火状態を反射波の進行波に対する比率で判定し点火作業を実行するので、監視することなく、かつ、人手を介することなく、容易にかつ確実にプラズマを点火したり再点火したりすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1のプラズマ点火装置を含むプラズマ発生装置の構成図。
【図2】実施形態1におけるプラズマ点火方法を説明するフローチャート。
【図3】実施形態1におけるプラズマ点火方法を説明する波形図。
【図4】実施形態2におけるプラズマ点火方法を説明するフローチャート。
【図5】実施形態2におけるプラズマ点火方法を説明する波形図。
【図6】実施形態3におけるプラズマ点火方法を説明するフローチャート。
【図7】実施形態3におけるプラズマ点火方法を説明する波形図。
【図8】実施形態4におけるプラズマ点火方法を説明するフローチャート。
【図9】実施形態4におけるプラズマ点火方法を説明する波形図。
【図10】応用例のプラズマ点火方法を説明するフローチャート。
【図11】変形例に係るプラズマ発生装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似のステップには同一又は類似の符号で表している。ただし、図面に示すブロック図、波形図、およびフローチャートは例示である。よって、具体的なブロック、発生波形、処理フローは以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。
【0016】
(実施形態1)
本発明の実施形態1は、反射波の進行波に対する比率が所定のしきい値より大きい場合に高電圧を高周波信号に重畳し、また、高電圧を高周波信号に重畳した後に反射波の進行波に対する比率が上記しきい値以下になった場合に高電圧の重畳を停止する、自動点火可能なプラズマ点火装置の基本形に関する。
【0017】
図1に、本実施形態におけるプラズマ点火装置を含むプラズマ発生装置の構成図を示す。プラズマ発生装置1は、半導体回路の製造に用いる場合には、洗浄対象である半導体回路(ボンディング対象)の洗浄面に対向して配置され、プラズマを発生させて半導体回路の洗浄面を洗浄するために用いる。
【0018】
図1に示すように、本実施形態におけるプラズマ発生装置1は、プラズマ点火装置10、ガスチャンバ110、リアクタンス補正コイル111、セラミックスチューブ112、負荷電極114、接地電極116、プラズマガス供給口118を備えて構成される。
【0019】
ガスチャンバ110は、セラミックスチューブ112にプラズマガスを供給するためのガス充填室である。プラズマガスとしては、不活性ガスが好ましい。H、O、N、またはこれらと不活性ガスとの混合ガスを用いてもよい。不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、キセノン(Xe)、ネオン(Ne)が利用可能であり、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)が最もよく利用される。ガスチャンバ110には、プラズマガス供給口118から図示しないコンプレッサによりプラズマガスが供給され、所定の気圧、例えば大気圧から3気圧程度までに加圧される。なお、プラズマガスは、ガスボンベ、圧力計、流量計、配管等を備える任意のガス供給系統を通じてプラズマガス供給口118に供給されるようになっている。
【0020】
セラミックスチューブ112は、プラズマで発生する高温や高反応性に耐性のある絶縁体材料であるセラミックスで構成された構造物であり、プラズマ発生に適した所定の径に成形されている。セラミックスの他、石英ガラス等も利用可能である。セラミックスチューブ112には、軸芯に接地電極116が延設されている。セラミックスチューブ112はガスチャンバ110に連通しており、ガスチャンバ110内部の加圧されたプラズマガスが接地電極116の周囲を高速に流通するように構成されている。セラミックスチューブ112の開口(図1における左側端面)に対向させてプラズマ照射すべき面(半導体回路の被洗浄面等)が配置される。なお、セラミックスチューブ112を複数本束ねて広範な範囲を加工可能に構成してもよい(詳しくは変形例として後に説明する)。
【0021】
接地電極116は、プラズマを発生させるために接地される電極であり、負荷電極114の対極である。接地電極116は、セラミックチューブ112の軸芯に沿って延在している。接地電極116の先端部は、負荷電極114の覆う範囲に位置していても、負荷電極114の覆う範囲を超えてセラミックチューブ112の先端付近まで延在していてもよい。接地電極116は、周囲の発生するプラズマの高温に耐えられるような高融点を有する金属、例えばプラチナやタングステン等のワイヤにより構成されている。接地電極116は、ガスチャンバ110を経て外部で接地されている。
【0022】
負荷電極114は、プラズマ点火装置10から高周波信号HSが印加される、接地電極116と対となる電極である。負荷電極114は、セラミックスチューブ112の外側から囲むようにして前記接地電極の一部と対向しており、本実施形態では、断面管形状(円環状)の電極である。負荷電極114は、耐酸化性のある金属、例えばステンレスまたはメッキ等により耐酸化性を付与された金属で形成されている。負荷電極114と接地電極116との距離は、印加する高周波信号の電力と発生させたいプラズマ密度との関係に基づき設定されている。負荷電極114は、断面円環状に形成する他、セラミックスチューブ112に巻回等したコイル状に形成されていてもよい。
【0023】
リアクタンス補正コイル111は、オプショナルな構成要素であり、負荷電極114に接続されたコイル素子である。リアクタンス補正コイル111は、負荷電極114と接地電位との間に存在する容量成分によって生ずるリアクタンス(インピーダンス)の影響を抑制し、後述する電圧定在波比VSWRを改善(すなわちVSWRを1に近づける)するように機能する。
【0024】
プラズマ点火装置10は、制御装置100、高周波電源装置101、進行波・反射波検出装置102、高電圧発生装置103、重畳コイル104を備えて構成される。なお、高周波電源装置101と高電圧発生装置104とも、一つの装置にまとめて構成されていてもよい。
【0025】
また、整合装置105が、プラズマ点火装置10とプラズマチャンバ110との間に配置される。ここで、整合装置105と進行波・反射波検出装置102とは、一つの装置にまとめてプラズマ点火装置10の内部に配置されていてもよい。
【0026】
高周波電源装置101は、プラズマを発生させる負荷電極114に所定の高周波信号HSを供給するRF電源である。高周波信号HSは、プラズマの発生に適した周波数および出力を有する信号である。プラズマ発生に適した高周波信号HSの周波数は、10KHz程度から1GHz程度までであり、適した電力は0.1W程度〜100W程度である。本実施形態では、周波数450MHzで出力30Wの高周波信号とする。高周波電源装置101は、高周波電力トランジスタと高周波トランスとを組み合わせた出力段を有する発振回路等で構成されている。制御装置100からの制御信号SHSに対応して、高周波電源装置101は高周波信号HSの生成を開始し、また、停止する。
【0027】
整合装置105は、プラズマ点火装置10と負荷電極114と間の伝送経路上に設けられており、高周波電源装置101側と負荷電極114側とのインピーダンスを整合させるよう機能する。整合装置105は、コイルおよび可変コンデンサ等で構成されたフィルタ回路構造を有しており、プラズマが安定的に生成された状態での負荷インピーダンスが高周波電源装置101の出力側から見て、特性インピーダンスZ(例えば50Ω)になるように設計されている。しかし、プラズマガスの負荷インピーダンスZは、プラズマガスがプラズマを発生する過程で急激に変化する。またプラズマガスの種類、流量、圧力、温度等によっても負荷インピーダンスZは急激に変化する。負荷インピーダンスZが高周波電源装置101の特性インピーダンスZと整合しないと、供給された高周波電力の一部が反射波として帰還し、電力効率が低下したり高周波電源装置101の出力段の素子に損傷を与えたりすることがある。整合装置105は、インピーダンス整合機能により高周波電源装置101側と負荷電極114側とのインピーダンスマッチングを行い、反射波の発生を些少に抑制するようになっている。
【0028】
進行波・反射波検出装置102は、伝送経路を流れる高周波信号HSの進行波と、負荷電極114から反射された反射波とを検出するように構成されている装置である。具体的に、検出される物理量としては、進行波および反射波の電力値または振幅(電圧)値であるが、以下話を簡単にするため、振幅値(電圧値)を用いる。すなわち、進行波・反射波検出装置102は、高周波信号HSの進行波の振幅値Vfと反射波の振幅値Vrとをそれぞれ検出可能に構成されている。
【0029】
ここで、特性インピーダンスZの伝送経路の両端に信号源と負荷インピーダンスZとが接続されている場合、負荷側の電圧定在波比(VSWR: Voltage Standing Wave Ratio)
は、進行波振幅値Vfと反射波振幅値Vrとを用いて、式(1)および式(2)で表される。
【数1】

Γ(ガンマ)は電圧反射係数である。式(1)(2)に従えば、伝送経路の特性インピーダンスZと負荷インピーダンスZとが一致すると、Z=Zであり、電圧定在波比VSWR=1となる。整合装置105は、電圧反射係数Γが極力ゼロに近づくように内部のインピーダンスを変更制御する。
【0030】
なお、インピーダンスを整合させる過程で、進行波振幅値Vfおよび反射波振幅値Vrの検出が必須となるため、整合装置105と進行波・反射波検出装置102とは一つの装置で構成できる。ただし、整合装置105は、プラズマ点火装置10から負荷電極114までの伝送経路におけるインピーダンスを整合させる装置であることから、プラズマ点火装置10の出力端とガスチャンバ110との間に配置することが必要である。
【0031】
高電圧発生装置103は、制御装置100からの制御信号SHVに対応して所定の高電圧HVを生成する電圧発生回路である。高電圧HVの振幅値は、負荷となるプラズマガスにプラズマを励起するに十分な放電を与えるような電圧値とする。例えば、高電圧発生装置103は、0.8kVから2kV程度の高電圧HVを生成する。現実の回路としては、電源電圧に対して相当に高い電圧を発生させるため、高電圧発生装置103はスイッチング素子を用いており、そのため高電圧HVは、所定のスイッチング周波数(例えば1kHz)を有するパルス信号として生成される。このパルス信号はコンデンサで平滑化した直流電圧として出力してもよい。
【0032】
重畳コイル104は、高周波信号HSに対しては十分高いインピーダンスとなり、高電圧HVに対しては、十分低いインピーダンスとなるようなリアクタンスを備えている。このため、重畳コイル104は、高周波信号HSと高電圧HVとの加算器として機能する。
【0033】
同軸ケーブル106は、高周波信号HSを負荷電極114に供給する特性インピーダンスZの伝送経路である。同軸ケーブル106は、整合装置105およびガスチャンバ110のそれぞれにコネクタで接続されており、同軸ケーブル106の被覆は、整合装置105またはガスチャンバ110の少なくとも一方で接地されている。
【0034】
制御装置100は、図示しないCPU、RAM、ROM、I/O等を備えた汎用コンピュータとして動作可能に構成されている。制御装置100は、内部または外部の記憶媒体に格納された所定のプラズマ点火方法を実行させるプログラムを実行することにより、本発明のプラズマ点火方法に係る各機能を実行可能に構成されている。具体的に、制御装置100は、制御信号SHSを送信して、高周波電源装置101に高周波信号HSの発生開始および停止を指示する。また、制御信号SHVを送信して、高電圧発生装置103に高電圧HVの発生開始および停止を指示するように機能する。また制御装置100は、進行波・反射波検出装置102から進行波振幅値Vfおよび反射波振幅値Vrを入力し、上記式(1)および(2)に基づき電圧定在波比VSWR(以下「VSWR値」とも称する。)を算出可能になっている。制御装置100は、図示しないプラズマガス供給系に対する指示、例えば、プラズマガスの供給および供給停止の制御を実行可能に構成してもよい。なお、制御装置100は、VSWR値の代わりに、上記式(2)に基づき算出された電圧反射係数Γを利用たり、反射波振幅値Vrを利用したりしてもよい。
【0035】
ここで、高周波信号HSの電力が必要以上に高いと発熱による悪影響を生じるため、高周波信号HSの供給電力はプラズマの状態に応じて変更可能に構成することが好ましい。ただし、高周波信号HSの電力が変更されると、反射波振幅値Vrも連動して変動する。このため、振幅値変動の影響を受けないように、反射波の進行波に対する比率、例えば、VSWR値等の定在波比を用いることが好ましい。
【0036】
なお、本発明のプラズマ点火方法を実行させるためのプログラムは、記憶媒体Mに格納されて流通可能なものである。このような記憶媒体Mとしては、各種ROM、フラッシュメモリを備えたUSBメモリ、USBメモリ、SDメモリ、メモリスティック、メモリカードや、FD、CD−ROM、DVD−ROM等の物理的な記憶媒体の他、プログラムを伝送可能なインターネット等の伝送媒体をも含むものとする。典型的には、プログラムは制御装置100のROMに予め記憶されている。その他の着脱自在な記憶媒体Mに記憶されている場合には、制御装置100は図示しない記憶媒体読取装置を備え、図1に示すように、外部の記憶媒体Mに記憶されているプログラムを読み取って実行するよう構成されている。
【0037】
特に、本実施形態1において、制御装置100は、反射波の進行波に対する比率(VSWR値)が所定のしきい値Vthより大きい場合に所定の高電圧HVを高周波信号HSに重畳するように機能する。すなわち、VSWR値がある程度検出されたと判断したら、制御装置100は高電圧HVを発生させ、高電圧HVを高周波信号HSに重畳させるよう動作する。また、制御装置100は、高電圧HVを高周波信号HSに重畳した後に反射波の進行波に対する比率(VSWR値)が所定のしきい値以下になった場合に高電圧HVの重畳を停止するように機能する。高電圧HVを重畳する条件を判定するしきい値と高電圧HVの重畳を停止する条件を判定するしきい値とは異なる値としてもよいが、本実施形態1では、双方のしきい値が同じ値であるものとする。双方のしきい値が異なる値の場合は実施形態2において後述する。
【0038】
上述したように、プラズマ発生装置の負荷インピーダンスは、プラズマガスが点火する前から安定したプラズマが発生するまでの過渡期に急激に変化する。整合装置105は、インピーダンス整合動作に数秒の時間を要するため、負荷インピーダンスが継続的に変動する過渡期ではインピーダンスを整合させることができない。この期間、インピーダンスが不整合であるために反射波が多く発生し、一定以上のVSWR値となる。本実施形態1のプラズマ点火装置には、プラズマが不安定な時期のVSWR値と安定した時期のVSWR値とを識別可能な値にしきい値Vthが設定してある。このため、検出されるVSWR値としきい値Vthとを比較することにより、制御装置100は、プラズマが安定して発生しているか否かを判定することができるのである。すなわち、プラズマが有効に発生しているか消滅したか(不安定か)を容易に識別可能なのである。
【0039】
(動作の説明)
次に、図2のフローチャートおよび図3の波形図を参照しながら、本実施形態1におけるプラズマ点火方法についての処理を説明する。図2のフローチャートは、定期的にまたは必要に応じて不定期に、繰り返し実行されるプログラム処理である。
【0040】
プラズマを点火するための準備状態(以下「プラズマ待機状態」という。)となると、制御装置100の制御により、または、管理者の操作により、プラズマガスがプラズマガス供給口118からガスチャンバ110に供給される。プラズマガスが供給されると、ガスチャンバ110に充填されたプラズマガスが所定の圧力でセラミックスチューブ112を流れるようになる。プラズマガスの流れが安定したら、制御装置100に対し、プラズマ点火指示が出力される。プラズマガスの点火は、管理者により指示されるものとしたが、プラズマガスの点火タイミングを見計らって制御装置100が自ら決定するように構成してもよい。
【0041】
図2において、制御装置100は、システムのステータスがプラズマ待機状態か否かを判定する。プラズマ待機状態であるか否かは、制御装置100のメモリに記憶されたフラグや各種スイッチの操作状態を検出することで判定可能である。プラズマ待機状態ではない場合には(NO)、当該処理ループから復帰する。プラズマ待機状態であったら(YES)、ステップS11に移行する。ステップS11において、制御装置100は、高周波電源装置101に制御信号SHSを送信して高周波信号HSの供給を指示する。この制御信号SHSに対応して、高周波電源装置101は、周波数450MHzで出力30Wの高周波信号HSを伝送経路に出力する。高周波信号HSが供給されると、負荷電極114と接地電極116との間に高周波電磁波が誘起される。
【0042】
次いでステップS12に移行し、高周波信号HSの供給に伴って、進行波・反射波検出装置103が進行波振幅値Vfおよび負荷電極114から反射される反射波振幅値Vrを検出し、制御装置100がVSWR値を算出する。負荷電極114側の負荷インピーダンスは、適正なプラズマが発生している状態で高周波電源装置101の特性インピーダンスと同じ値になるようになっている。プラズマ発生前のこの段階では負荷電極114側の負荷インピーダンスは特性インピーダンスZと大幅に異なっている。このため、進行波・反射波検出装置102で検出される反射波振幅値Vrは大きな値となる。そのため制御装置100で算出されるVSWR値も相対的に大きな値となる。
【0043】
図3の波形図において、時刻t0〜t1は、上記ステップS10〜S11の過程に対応している。時刻t0に制御装置100が高周波信号をON状態に変化させ、伝送経路に高周波信号HSが印加される。高周波信号HSは所定の振幅を有する交流信号となっている。当初は負荷インピーダンスが特性インピーダンスZにマッチングしていないので、VSWR値がしきい値Vthを大きく超えている。
【0044】
図2に戻って、ステップS13に移行し、制御装置100は、算出されたVSWR値がプラズマの発生を識別するためのしきい値Vthより大きいか否かを判定する。判定の結果、VSWR値がしきい値Vthより大きいと判定された場合には(YES)、ステップS14に移行し、制御装置100は、高電圧発生装置103に制御信号SHVを送信して高電圧HVの発生開始を指示する。この制御信号SHVに対応して、高電圧発生装置103は、高電圧HVを発生させる。発生した高電圧HVは重畳コイル104を介して伝送経路に供給され、高周波信号HSに重畳される。高周波信号HSに高電圧HVが重畳されると、負荷電極114と接地電極116との間にも高電圧HVが印加され、セラミックスチューブ112内に放電が発生する。放電が発生すると、接地電極116で発生する電子が種火となってプラズマが発生する。プラズマが発生すると、負荷電極114に印加されている高周波信号HSによりプラズマが維持される。安定的にプラズマが発生すると、セラミックスチューブ112の先端からプラズマジェットが噴出し、必要な半導体回路等の処理に供することが可能となる。プラズマが発生すると、負荷電極114側の負荷インピーダンスは特性インピーダンスZに向けて収束していく。
【0045】
ステップS13の判定の結果、VSWR値がしきい値Vth以下となった場合には(NO)、ステップS15に移行し、制御装置100は、高電圧発生装置103に制御信号SHVを送信して高電圧HVの供給停止を指示する。この制御信号SHVに対応して、高電圧発生装置103は、高電圧HVの供給を停止する。伝送経路には、高周波信号HSのみが供給されるようになる。この段階では、プラズマが安定的に発生しているので、高電圧HVの重畳が存在しなくなってもプラズマが消失することはなくなっている。
【0046】
図3において、時刻t1〜t3は、上記ステップS13およびS15の過程に対応している。時刻t1に制御装置100が高電圧HVをON状態に変化させ、高周波信号HSに高電圧HVが重畳される。高電圧HVの重畳により、高周波信号HSは高電圧HVを中心に高周波信号HSの振幅で増減する交流信号となる。高電圧HVが印加されると種火となるプラズマが発生する。時刻t2において、プラズマが発生する。これに伴い、負荷電極114側の負荷インピーダンスは、特性インピーダンスZに向けて急速に収束していく。負荷インピーダンスの収束に伴って、負荷電極114から反射される反射波の進行波に対する比率、すなわちVSWR値も小さくなっていく。時刻t3において、VSWR値がしきい値Vr以下となった時に、制御装置100は高電圧HVをOFF状態に変化させる。高電圧HVの重畳が停止され、高周波信号HSはゼロボルトを中心に振動する交流信号となる。VSWR値はプラズマの安定時の値Vrminに収束する。
【0047】
上記処理は、プラズマ待機状態となって自動的にプラズマが点火される場合の制御であったが、プラズマ処理の中途にプラズマが消失した場合にプラズマに再点火するときにも適用される。なお、上記図2のフローチャートに基づく処理において、高電圧HVの供給が開始(ステップS14)した後は、定期的にVSWR値の算出(ステップS12)およびVSWR値の判定(ステップS13)が繰り返される。このVSWR値の算出および判定はプラズマの消滅が悪影響を与えない程度の時間をおいて繰り返せばよいため、ステップS14からステップS12に戻る過程で一定時間を待つように処理してもよい。この待ち時間は、プラズマ発生装置1の状態に応じて適宜変更するよう構成してもよい。
【0048】
例えば、図3の時刻t4において、プラズマガスの供給に不具合が生じ、プラズマの状態が不安定になり、時刻t5においてプラズマが消失したものとする。上記図2に示すプログラム処理は、プラズマ状態の如何に関わらず、定期的にまたは不定期に実行される。そのため所定の時刻、図3では時刻t6にVSWR値がしきい値Vthより大きいことが判定され(S13:YES)、高周波信号HSに高電圧HVが重畳される(S14)。高電圧HVの重畳により、時刻t7においてプラズマの種火が発生し、プラズマが発生する。プラズマが発生すると反射波が減少していく。そして、時刻t8において、VSWR値がしきい値Vth以下となると判定され(S13:NO)、高電圧HVの重畳が停止する(S15)。プラズマが中途に消失したとしても、本実施形態のプラズマ点火装置は自動的に再点火処理を行うのである。
【0049】
以上、本実施形態に係るプラズマ点火装置の処理によれば、VSWR値が所定のしきい値Vthより大きいか否かに基づいて、プラズマの発生の有無が判定される。このVSWR値がしきい値Vthより大きい場合には、プラズマを点火する前の状態であるか、または、一旦点火したプラズマが何らかの事情で消滅した状態であると判定し、高周波信号HSに高電圧HVを重畳する。従って、プラズマの点火状態を人間が監視することなく、かつ、人手を介することなく、容易にかつ確実にプラズマを点火したり再点火したりすることが可能である。
【0050】
(実施形態2)
本発明の実施形態2は、上記実施形態1の発展系に係り、プラズマに点火するために高電圧の供給を開始させる場合のしきい値(第1のしきい値)と高電圧の供給を停止する場合のしきい値(第2のしきい値)とを異ならせた実施形態に関する。
【0051】
本実施形態2に係るプラズマ発生装置1およびプラズマ点火装置10の構成は、上記実施形態1と同様であるため、その説明を省略する。但し、制御装置100のプログラム処理が図4のフローチャートに対応している点で実施形態1と異なる。
【0052】
本実施形態2において、制御装置100は、VSWR値が第1のしきい値Vth1より大きい場合に高電圧HVを高周波信号HSに重畳し、高電圧HVを高周波信号HSに重畳した後にVSWR値が第2のしきい値Vth2以下になった場合に高電圧HVの重畳を停止するように動作する。
【0053】
より具体的に、上記実施形態1では、高周波信号HSに高電圧HVを印加する場合と高電圧HVの印加を停止する場合とで、判定に用いるしきい値Vthを同じ値にしていたが、本実施形態2では異ならせる。すなわち、本実施形態2では、プラズマが消滅状態であることを判定するために第1のしきい値Vth1を用い、プラズマの消滅状態から点火状態に変わったことを判定するために第2のしきい値Vth2を用いる。第1のしきい値Vth1と第2のしきい値Vth2は、以下のような関係であることが好ましい。
【0054】
Vth1>Vth2 …(3)
【0055】
プラズマが発生していない状態、または、消滅してしまった状態からプラズマを点火するために高電圧HVを高周波信号HSに重畳すると、放電によりプラズマが点火され、プラズマが発生する。ここでプラズマ発生当初は、まだガスの状態等が不安定な場合があり、VSWR値が直ちに低下せず、しきい値Vth付近に留まることがあり得る。このような場合のプラズマは弱かったり不安定な状態であったりする。そのような状態のプラズマに、たまたまVSWR値がしきい値Vthを超えたがために高電圧HVが印加されると、その衝撃でプラズマが消滅してしまう場合がある。またプラズマが実際に消滅するとVSWR値がしきい値Vthを超えて高電圧HVが印加されるため、高電圧HVによる放電とプラズマの消滅とが繰り返される、いわゆるハンチング状態に陥る可能性もある。
【0056】
そこで、本実施形態2では、プラズマが消滅状態であることを判定するために第1のしきい値Vth1と、プラズマの消滅状態から点火状態に変わったことを判定するために第2のしきい値Vth2とを異ならせる。異なるしきい値を用いた判定により、高電圧印加処理はヒステリシスを有するようになり、動作を安定的に遷移させることが可能となる。
【0057】
次に本実施形態2に係るプラズマ点火方法を、図4のフローチャートおよび図5の波形図を参照しながら説明する。図4のフローチャートは、定期的にまたは必要に応じて不定期に、繰り返し実行されるプログラム処理である。上記実施形態1と同一の処理内容については同じステップ番号を付してある。
【0058】
図4において、プラズマ待機状態の判定(S10)、高周波信号HSの供給(S11)、VSWR値の算出(S12)までの処理は、上記実施形態1と同一である。
【0059】
ステップS13bに移行し、制御装置100は、算出されたVSWR値がプラズマの発生を識別するための第1のしきい値Vth1より大きいか否かを判定する。判定の結果、VSWR値が第1のしきい値Vth1より大きいと判定された場合には(YES)、プラズマが消滅していることが確認される。そこで、ステップS14に移行し、制御装置100は、高電圧発生装置103に制御信号SHVを送信して高電圧HVの発生開始を指示する。この処理により、負荷電極114と接地電極116との間に供給される高周波信号HSによるプラズマが発生する。
【0060】
ステップS13bの判定の結果、VSWR値が第1のしきい値Vth1以下となった場合には(NO)、制御装置100は、ステップS13cに移行し、さらにVSWR値が第2のしきい値Vth2以下であるか否かを判定する。その結果、VSWR値が第2のしきい値Vth2以下であると判定された場合には(YES)、消滅していたプラズマが安定的に点火したものと判定できる。そこでステップS15に移行し、制御装置100は、高電圧発生装置103に制御信号SHVを送信して高電圧HVの供給停止を指示する。
【0061】
ステップS13cにおいて、VSWR値が第2のしきい値Vth2より大きい場合には(NO)、プラズマが安定的に点火したものとまでは言えない、プラズマが弱かったり不安定であったりする状態なので、制御装置100はステップS12のVSWR値の算出に戻り高電圧HVの重畳を継続する。
【0062】
なお、上記図4のフローチャートに基づく処理において、高電圧HVの重畳が開始(ステップS14)した後に一定時間を待つように処理してもよい点は、上記実施形態1と同様である。この待ち時間は、プラズマ発生装置1の状態に応じて適宜変更するよう構成してもよい。
【0063】
図5の波形図において、時刻t0〜t2は、上記ステップS10〜S13b、S13c、S14の過程に対応している。時刻t0に制御装置100が高周波信号をON状態に変化させ、伝送経路に高周波信号HSが印加される。時刻t1に、VSWR値が第1のしきい値Vth1より大きいと判定すると、制御装置100が高電圧HVをON状態に変化させ、高周波信号HSに高電圧HVが重畳される。高電圧HVが印加されると種火となるプラズマが発生する。時刻t2において、プラズマが発生する。これに伴い、負荷電極114側の負荷インピーダンスは、特性インピーダンスZに向けて急速に収束し、負荷電極114から反射される反射波振幅値VrおよびVSWR値も小さくなっていく。時刻t3において、VSWR値が第2のしきい値Vth2以下となった時に、制御装置100は高電圧HVをOFF状態に変化させる。高電圧HVの重畳が停止され、VSWR値はプラズマの安定時の値Vrminに収束する。
【0064】
プラズマの再点火にも同様にプログラム処理される。図5の時刻t4においてプラズマガスの供給に不具合が生じ、プラズマの状態が不安定になり、時刻t5においてプラズマが消失したものとする。このプラズマの消滅は、時刻t6にVSWR値が第1のしきい値Vth1より大きいことによって判定される。
【0065】
以上、本実施形態2に係るプラズマ点火装置の処理によれば、上記実施形態1と同様の作用効果を奏する他、VSWR値が第1のしきい値Vth1より大きい場合に高電圧HVを供給させる。またVSWR値が第1のしきい値Vth1より小さい第2のしきい値Vth2以下である場合に高電圧HVの供給を停止させる。このため、プラズマが消滅状態であること、および、プラズマが点火状態から消滅したことを確実に検出し、安定したプラズマの点火制御が可能となる。
【0066】
(実施形態3)
本発明の実施形態3は、上記実施形態1の発展系に係り、高電圧を高周波信号に重畳した時から第1の時間経過してもVSWR値が所定のしきい値Vthより大きい場合には、所定の警報信号を出力し、かつ、高電圧の重畳を停止する態様に関する。プラズマが長時間点火されない場合に異常状態であると判定をする実施形態である。
【0067】
本実施形態3に係るプラズマ発生装置1およびプラズマ点火装置10の構成は、上記実施形態1と同様であるため、その説明を省略する。但し、制御装置100のプログラム処理が図6のフローチャートに対応している点で実施形態1と異なる。
【0068】
本実施形態3において、制御装置100は、高電圧HVを高周波信号HSに重畳した時から第1の時間T1経過してもVSWR値がしきい値Vthより大きい場合には、所定の警報信号を出力し、高周波信号の供給およびプラズマガスの供給を停止し、かつ、高電圧HVの重畳を停止するよう動作する。
【0069】
より具体的に、上記実施形態1では、VSWR値がしきい値Vthより大きい場合には高電圧HVを重畳し続けていた。しかし、高周波電源装置101または高電圧発生装置103の故障により、いつまで経ってもプラズマが発生しない場合がある。また、プラズマ供給系に生じた欠陥により、プラズマガスの流量や圧力に変動を生じた場合にもプラズマが生じない。そこで、本実施形態3では、一定時間経過してもプラズマの安定的な発生を検出できない場合は、異常状態にあるものと判定することとする。
【0070】
次に本実施形態3に係るプラズマ点火方法を、図6のフローチャートおよび図7の波形図を参照しながら説明する。図6のフローチャートは、定期的にまたは必要に応じて不定期に、繰り返し実行されるプログラム処理である。上記実施形態1と同一の処理内容については同じステップ番号を付してある。
【0071】
図6において、プラズマ待機状態の判定(S10)、高周波信号HSの供給(S11)、VSWR値の算出(S12)、VSWR値としきい値Vthとの比較(S13)、VSWR値がしきい値Vthより大きい場合の高電圧重畳(S14)、VSWR値がしきい値Vth以下である場合の高電圧重畳の停止(S15)の各処理は、上記実施形態1と同一である。
【0072】
ステップS14において、高電圧を重畳した後、本実施形態3ではステップS16が実行される。ステップS16において、制御装置100は、高電圧HVの重畳を開始した時からの経過時間Tが異常判定のためのしきい値時間である第1の時間T1より大きいか否かを判定する。第1の時間T1は、正常なプラズマガスの供給状態であれば、高電圧重畳後に確実にプラズマが発生すると期待される時間長に設定する。判定の結果、高電圧HVの重畳を開始した時からの経過時間が第1の時間T1を経過していると判定された場合(YES)、異常状態であると判定することが可能である。そこでステップS17に移行し、制御装置100は異常判定のための処理、例えば警報信号を出力する。次いでステップS18に移行し、制御装置100は、高周波信号HSの供給およびプラズマガスの供給を停止させる。そしてステップS15に移行し、高電圧HVの重畳を停止させる。ここで、警報信号の出力としては、表示装置への表示、警報ランプの点灯、警報ブザーの発音等が考えられる。
【0073】
なお、ステップS16において、高電圧HVの重畳を開始した時からの経過時間が第1の時間T1を経過していないと判定された場合には(NO)、通常のプラズマ点火待ちの時間範囲内であると判定し、VSWR値の算出に戻る(S12)。
【0074】
図7の波形図において、時刻t10〜t11は、上記ステップS10〜S13の過程に対応している。時刻t10に制御装置100が高周波信号をON状態に変化させ、伝送経路に高周波信号HSが印加される。時刻t11に、VSWR値がしきい値Vthより大きいと判定すると、制御装置100が高電圧HVをON状態に変化させ、高周波信号HSに高電圧HVが重畳される。
【0075】
ここで、何らかの異常が発生していると、高電圧HVが印加されても種火となるプラズマが発生せず、または、種火となるプラズマが発生してもプラズマが安定的に生じない。このような状態では、負荷インピーダンスが収束せず、VSWR値は、プラズマの安定的発生を検出するしきい値Vthを上回ったまま時間が経過する。この状態のまま、高電圧HVを印加した時刻t11から第1の時間T1が経過した時刻t12となると、制御装置100は異常状態が発生しているものと判定する。そして高周波信号および高電圧重畳をOFF状態とし、警報信号を出力するのである。
【0076】
以上、本実施形態3に係るプラズマ点火装置の処理によれば、上記実施形態1と同様の作用効果を奏する他、高電圧HVの重畳後に第1の時間T1が経過してもVSWR値がしきい値Vthより大きい場合には異常状態であると判定して警報信号を出力する。よって、プラズマ生成装置1に発生した不具合を確実に検出し、管理者に保守の必要性を報知することが可能である。
【0077】
(実施形態4)
本発明の実施形態4は、上記実施形態1の発展系に係り、高電圧を高周波信号に重畳した時から第2の時間経過してもVSWR値が所定のしきい値Vthより大きい場合には、高電圧の電圧値を変更する態様に関する。プラズマが一定時間で点火されない場合には印加する高電圧を変更していく実施形態である。
【0078】
本実施形態4に係るプラズマ発生装置1およびプラズマ点火装置10の構成は、上記実施形態1と同様であるため、その説明を省略する。但し、制御装置100のプログラム処理が図8のフローチャートに対応している点で実施形態1と異なる。
【0079】
本実施形態4において、制御装置100は、高電圧HVを高周波信号HSに重畳した時から第2の時間T2経過してもVSWR値がしきい値Vthより大きい場合には、高電圧HVの電圧値を変更するように動作する。
【0080】
より具体的に、上記実施形態1では、高周波信号HSに重畳する高電圧HVは変更されなかった。しかし、プラズマガスの状態によっては、高周波信号HSに印加する高電圧HVの電圧値が異なることによって、放電が発生しやすくなる場合もある。そこで、本実施形態4では、第2の時間T2経過してもプラズマが発生しない場合には、重畳する高電圧HVの電圧値を変更するよう制御することとする。特に、本実施形態では高電圧HVの電圧値を段階的に上昇させていくように処理する場合を例示する。
【0081】
次に本実施形態4に係るプラズマ点火方法を、図8のフローチャートおよび図9の波形図を参照しながら説明する。図8のフローチャートは、定期的にまたは必要に応じて不定期に、繰り返し実行されるプログラム処理である。上記実施形態1と同一の処理内容については同じステップ番号を付してある。
【0082】
図8において、プラズマ待機状態の判定(S10)、高周波信号HSの供給(S11)、VSWR値の算出(S12)、VSWR値としきい値Vthとの比較(S13)、VSWR値がしきい値Vthより大きい場合の高電圧重畳(S14)、VSWR値がしきい値Vth以下である場合の高電圧重畳の停止(S15)の各処理は、上記実施形態1と同一である。
【0083】
ステップS14において高電圧を重畳した後、本実施形態4ではステップS19が実行される。ステップS19において、制御装置100は、高電圧HVの重畳を開始した時からの経過時間Tが電圧値変更のしきい値である第2の時間T2より大きいか否かを判定する。第2の時間T2は、正常なプラズマガスの供給状態であれば、高電圧重畳後に確実にプラズマが発生すると期待される時間長(実施形態3における第1の時間T1)より短く設定する。また何段階電圧値を変更するかに応じて設定する。
【0084】
判定の結果、高電圧HVの重畳を開始した時からの経過時間が第2の時間T2を経過していると判定された場合(YES)、重畳する高電圧HVの電圧値を変更すべきと判断する。そこでステップS20に移行し、制御装置100は、高電圧発生装置103に制御信号SHVを出力し、重畳する高電圧HVの電圧値を所定のステップ(例えばΔV)上昇させる指示をする。そして、ステップS14に移行し、高電圧発生装置103は、指示された電圧値で高電圧HVを発生し、高周波信号HSに重畳させる。判定の結果、高電圧HVの重畳を開始したときからの経過時間が第2の時間T2だけ経過していないと判断された場合(NO)、VSWR値の算出に戻る(S12)。
【0085】
なお、ステップS19において、初回は高電圧HVの重畳を開始した時点からの経過時間Tを第2の時間T2と比較するが、2回目以降は、前回高電圧HVの電圧値を変更した時点からの経過時間Tを第2の時間T2と比較する。すなわち、第2の時間T2が経過する度に、経過時間の計測を行う内部タイマがリセットされる。
【0086】
図9の波形図において、時刻t20〜t21は、上記ステップS10〜S13の過程に対応している。時刻t20に制御装置100が高周波信号をON状態に変化させ、伝送経路に高周波信号HSが印加される。時刻t21に、VSWR値がしきい値Vthより大きいと判定すると、制御装置100が高電圧HVをON状態に変化させ、高周波信号HSに高電圧HV1(初期値)が重畳される。図9から明らかなように、第1の時間T1は、第2の時間T2より長く、かつ、時刻t21からt24までの時間に等しい。
【0087】
ここで、プラズマガスの状態によっては、所定の電圧値の高電圧HVが印加されても、プラズマが安定的に生じないことがある。このような状態では、負荷インピーダンスが収束せず、VSWR値はプラズマの安定的発生を検出するしきい値Vthを上回ったまま時間が経過する。前回、高電圧HVの重畳を開始した時刻t21から第2の時間T2が経過した時刻t22となると、高周波信号HSに重畳される高電圧HVの電圧値がステップΔVだけ高いHV2に変更される。変更された高電圧HV2によってもプラズマが発生しない場合、VSWR値は依然としてしきい値Vthを上回ったままである。そこで、前回、高電圧HVの電圧値を変更した時刻t22から第2の時間T2が経過した時刻t23となったら、高周波信号HSに重畳される高電圧HVの電圧値がさらにステップΔVだけ高いHV3に変更される。変更された高電圧HV3により時刻t24にプラズマが発生すれば、VSWR値は収束し、しきい値Vth以下となる結果、高電圧HVの重畳は停止される。
【0088】
以上、本実施形態4に係るプラズマ点火装置の処理によれば、上記実施形態1と同様の作用効果を奏する他、第2の時間T2が経過する度に重畳する高電圧HVの電圧値を変更するので、プラズマガスの状態が変動していても確実にプラズマに点火可能である。
【0089】
(その他の変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用することが可能である。
【0090】
例えば、上記実施形態1〜4は排他的な実施形態ではなく、複数の実施形態を任意に互いに組み合わせて適用することが可能である。図10に示すフローチャートは、実施形態1〜4の総てを反映させた場合の応用例を示している。当該応用例によれば、実施形態1による作用効果に加え、実施形態2〜4のそれぞれに特徴的な作用効果を総て備えるプラズマ点火方法を提供可能である。
【0091】
また上記実施形態1〜4では、図1に示すように、プラズマ発生装置1が一つのセラミックチューブ112を備える態様を例示していたが、複数のセラミックチューブによりプラズマを発生させる装置であってもよい。
【0092】
図11に、複数のセラミックチューブ112を備えたプラズマ発生装置1bの構成図を示す。上記実施形態1(図1)と同じ構成は同じ符号を付してある。
【0093】
本プラズマ発生装置1bは、プラズマ点火装置10、ガスチャンバ110b、リアクタンス補正コイル111、セラミックチューブ112、負荷電極114b、フレーム115、接地電極116b、プラズマガス供給口118を備えて構成される。特に本変形例では、セラミックチューブ112が複数設けられている点に特徴がある。
【0094】
ガスチャンバ110bは、実施形態1のガスチャンバ110と同様にプラズマガスを供給するためのガス充填室であるが、複数のセラミックスチューブ112が設けられたフレーム113を備える点で異なっている。フレーム113は、導電体で構成されており、セラミックチューブ112を貫通保持させるための保持穴が設けられた板状体となっている。各保持穴は、セラミックチューブ112を保持可能なように、セラミックチューブの外径と同じ程度に形成されている。複数のセラミックチューブ112は、各々の開口が洗浄面Sに対向するようにフレーム113に保持されている。負荷電極114bは、真鍮等の導電体で構成されており、フレーム113に保持されたセラミックチューブ112を挿通する挿通孔が設けられた板状体となっている。各挿通孔は、セラミックチューブ112の外径より僅かに大きくなるように形成されている。負荷電極114bは、上記実施形態1と同様に、リアクタンス補正コイル111を介して同軸ケーブル106に電気的に接続され、プラズマ点火装置10および整合装置105から出力された高周波信号HSが供給されるようになっている。ガスチャンバ110bには、セラミックチューブ112の一部および負荷電極114bを取り囲むように、シールドカバー115が設けられている。シールドカバー115は、導電体で構成されており、負荷電極114bから発生する電磁波をシールド可能に構成されている。また接地電極116bが複数、各セラミックチューブ112の軸芯に沿って設けられている。プラズマ点火装置10および整合装置105の構成および動作については、上記実施形態1〜4と同様である。
【0095】
上記変形例のプラズマ発生装置1bにおいて、上記実施形態1〜4と同様に、プラズマガス供給口118にプラズマガスが供給され、プラズマ点火装置10から高電圧HVを負荷電極114bに供給すると放電によりプラズマが発生する。さらにプラズマ点火装置10から高周波信号HSが供給されることにより安定的にプラズマが維持される。特に、上記変形例のプラズマ発生装置1bによれば、複数のセラミックチューブ112が洗浄面Sに向かってプラズマジェットを射出可能に構成されている。よって、広範囲に亘ってプラズマジェットによる加工(洗浄)が行える。そして、このような形態のプラズマ発生装置1bにおいても、本発明のプラズマ点火方法を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のプラズマ点火装置およびプラズマ点火方法は、手動によらず自動的に閉空間の換気を実施させたい環境において適用することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1…プラズマ発生装置、10…プラズマ点火装置、100…制御装置、101…高周波電源装置、102…進行波・反射波検出装置、103…高電圧発生装置、104…重畳コイル、105…整合装置、106…同軸ケーブル、110、110b…ガスチャンバ、111…リアクタンス補正コイル、112…セラミックチューブ、114、114b…負荷電極、115…シールドカバー、116、116b…接地電極、118…プラズマガス供給口、HS…高周波信号、HV…高電圧、HV1…高電圧、HV2…高電圧、HV3…高電圧、M…記憶媒体、S…洗浄面(被加工面)、SHS…制御信号、SHV…制御信号、Vf…進行波振幅値、Vr…反射波振幅値、Z…負荷インピーダンス、Z…特性インピーダンス、Γ(ガンマ)…電圧反射係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生させる負荷電極に所定の高周波信号を供給する高周波電源装置と、
前記高周波電源装置側と前記負荷電極側とのインピーダンスを整合させる整合装置と、
前記高周波信号の進行波および反射波を検出する進行波・反射波検出装置と、
所定の高電圧を発生する高電圧発生装置と、
前記反射波の前記進行波に対する比率が第1のしきい値より大きい場合に前記高電圧を前記高周波信号に重畳する制御装置と、
を備えたことを特徴とするプラズマ点火装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記高電圧を前記高周波信号に重畳した後に前記比率が第2のしきい値以下になった場合に前記高電圧の重畳を停止する、
請求項1に記載のプラズマ点火装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記高電圧を前記高周波信号に重畳した時から第1の時間経過しても前記比率が前記第2のしきい値より大きい場合には、所定の警報信号を出力し、かつ、前記高電圧の重畳、前記高周波信号の供給、および前記プラズマを誘導するために供給されていたプラズマガスの供給を停止する、
請求項1または2に記載のプラズマ点火装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記高電圧を前記高周波信号に重畳した時から第2の時間経過しても前記比率が前記第2のしきい値より大きい場合には、前記高電圧の電圧値を変更する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプラズマ点火装置。
【請求項5】
前記第1のしきい値と前記第2のしきい値とが異なっている、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプラズマ点火装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプラズマ点火装置を備えるプラズマ発生装置であって、
前記高周波信号が供給される前記負荷電極と、
前記負荷電極との間で前記プラズマを発生させるための接地電極と、
前記負荷電極または前記設置電極の周囲にプラズマガスを誘導するセラミックチューブと、
前記セラミックチューブに前記プラズマガスを供給するガス供給装置と、
を備えるプラズマ発生装置。
【請求項7】
前記接地電極は、前記セラミックチューブの軸芯に沿って延在しており、
前記負荷電極は、前記セラミックチューブの外側から囲むようにして前記接地電極の一部と対向している、
請求項6に記載のプラズマ発生装置。
【請求項8】
前記接地電極は、前記セラミックチューブの軸芯に沿って延在しており、
前記負荷電極は、前記セラミックチューブの外側を囲む管形状を有しており、前記接地電極の先端部まで延在している、
請求項6に記載のプラズマ発生装置。
【請求項9】
前記セラミックチューブを複数本備えており、
前記接地電極は、各前記セラミックチューブの軸芯に沿って、それぞれ延在している、
請求項6に記載のプラズマ発生装置。
【請求項10】
前記プラズマ点火装置と前記負荷電極との間にインピーダンス補正コイルが設けられている、
請求項6に記載のプラズマ発生装置。
【請求項11】
プラズマを発生させる負荷電極に所定の高周波信号を供給するステップと、
前記高周波信号供給側と前記負荷電極側とのインピーダンスを整合させるステップと、
前記高周波信号の進行波および反射波を検出するステップと、
前記反射波の前記進行波に対する比率が第1のしきい値より大きい場合に所定電圧の高電圧を前記高周波信号に重畳するステップと、
を備えたことを特徴とするプラズマ点火方法。
【請求項12】
プラズマを発生させる負荷電極に所定の高周波信号を供給する高周波電源装置と、前記高周波電源装置側と前記負荷電極側とのインピーダンスを整合させる整合装置と、前記高周波信号の進行波および反射波を検出する進行波・反射波検出装置と、所定の高電圧を発生する高電圧発生装置と、を備えるプラズマ点火装置のためのプラズマ点火制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記高周波信号の前記負荷電極への供給を開始させる機能と、
前記反射波の前記進行波に対する比率を演算して第1のしきい値と比較する機能と、
前記比率が前記第1のしきい値より大きい場合に前記高電圧を前記高周波信号に重畳させる機能と、
を実行させるための命令が記述されたプラズマ点火制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−124087(P2011−124087A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280581(P2009−280581)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000146722)株式会社新川 (128)
【出願人】(599145731)株式会社 東京ハイパワー (3)