説明

プラネタリウムにおける星空の分割投映方法

【課題】 プラネタリウムにおける分割投映において、投映恒星数を著しく増加させた場合においても、これまでと同様の星の位置精度を保った上で分割境界線が目立たず、自然で正確な星空を再現することを可能とし、一方、位置精度が許容範囲を超えた場合でも目視により調整すべき方向を容易に判断して調整することを可能とする。
【解決手段】 投映機単位の分割投映領域1を更に投映機内の同一の光学系により投映される互いに独立した2つ以上の投映機内分割投映領域2に分割し、かつ相互に隣り合う投映機単位の分割投映領域内の投映機内分割投映領域同士が重ならないように投映する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はプラネタリウムに関し、より詳細には複数の投映機からの分割投映像をつなぎ合わせてドームスクリーン上に全天の星空を投映する場合の分割投映方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラネタリウムにおいては、複数の投映機からの投映機単位の分割投映像の合成によりドームスクリーン上に恒星、天の川、星雲、星団などの星像からなる全天の星空を投映している。すなわち、図7に示すように全天Aを複数の面に分割し、図8の恒星投映装置の図に示すように投映光学系上に投映原板を配した複数の投映機Pによりそれぞれの分割面に分割投映像Bを投映し、これらをつなぎ合わせて星空を再現している。この場合、分割投映像の形状は正多面体あるいは、切頂多面体であることが通常であり、分割投映像の形状は図形の各内角が180度を越えることのない凸多角形となる(特許文献1)。
【0003】
複数の投映機からの投映機単位の分割投映像のつなぎ合わせにより一つの映像を完成させることはプラネタリウムに特有の技術ではなく、映像一般の投映技術においては慣用されている技術である(例えば、特許文献2)。
【0004】
前記のプラネタリウムにおけるつなぎ合わせにおいては、各投映像のつなぎ合わせ箇所は重複や隙間が生じることなく連続するように設計されることが原則であり、実際のプラネタリウムの製造においては設計通りつなぎ合わせが行われるように、各投映機同士の配置の誤差や投映倍率の誤差が生じないように細心の注意が払われた。
【0005】
これに対し、映像一般の投映技術においては、各投映像の隣接する一部を互いに重なるように配することにより、各投映機同士の配置や投映倍率の精度が多少甘くても、投映像同士に隙間が生ぜず、つながりをスムーズとする方法が早くから提案されていた(例えば、特許文献3)。
【0006】
そして、この場合、重なり合う箇所において同一の画像をそれぞれの投映機から重畳して投映する方法(例えば、特許文献4)の他、画像をそれぞれの投映機に振り分けて投映する方法(例えば、特許文献5)が提案されており、後者の場合は画像のずれが防止される効果が得られていた。
【0007】
一方、プラネタリウムの分野においては、天の川などの自然な再現を目的に通常肉眼では点像として認識できない6等星よりも暗い星を投映する場合のように投映する星の数が増加した際に、設計通りつなぎ合わせが行われていないと分割境界線が目立ってしまうという問題が顕在化した。そこで、重なり合う箇所において画像をそれぞれの投映機に振り分けて投映する前記の映像一般の投映技術を適用し、各投映像の隣接する一部を互いに重なるように配すると共に、重なり合う箇所に投映すべき恒星群をそれぞれの投映機に振り分けて投映する方法が提案されていた(特許文献6)。具体的には、この方法においては両投映原板に互いに重なり合う部分を設け、その部分の星の投映割合を重なり合う位置によってそれぞれの投映原板に振り分けることで、それぞれの投映原板の星の数を調整している。
【0008】
また、特許文献7においても、隣り合う恒星原板に重複部分を設け、該当する星の等級によって描画する原板を決定する方法が開示されている。
【0009】
一方、本願出願人は、投映機単位の分割投映像を相互に重複しないようにつなぎ合わせて投映すると共に、これらの分割投映像の形状を非凸図形とする発明を提案している(特許文献8)。
【0010】
以上のいずれの方法においても、一つの投映機で投映する投映像領域は単一であった。図4はこれを示す図であるが、ここには一つの投映機で投映される分割投映像Bは図において濃色で塗りつぶされた六角形の領域であり、この領域は単一である。本願明細書においてはこの分割投映像を「投映機単位の分割投映像」と称することにする。
【特許文献1】特開平9−218641号公報
【特許文献2】特開平5−19347号公報
【特許文献3】特開昭58−125986号公報
【特許文献4】特開平3−58082号公報
【特許文献5】特開昭64−27374号公報
【特許文献6】特開2001−134172公報
【特許文献7】特開2003−122247公報
【特許文献8】特開2011−141483公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
自然な星空を再現するために、多数の星を投映するようなプラネタリウムにおいて、特許文献6に記載の方法によれば、投映機の組付け誤差が大きな場合や、プラネタリウム投映機の設置位置が正しくない場合においても、分割境界線がある程度目立たない星空を再現することができる。
【0012】
しかしながら、前記のような方法を用いて投映を行なう場合、正確な組立や調整、設置作業を行なわずとも分割境界線の目立たない星空が再現されてしまうため、適切な組立調整作業、あるいは据付作業が行なわれているのか目視により判断することが困難となった。そのため、正確な組立や調整、設置作業が困難になりドーム上に再現される星空の星々の位置が正確であるとは限らない問題が生じてしまう。
【0013】
組立や調整け精度が悪くなれば、投映機ごとに星々の相対的な位置が正しくないことになるし、設置位置が悪くなれば、ドームスクリーンとの相対的位置関係で、実際の星空よりも拡大されて投映される星空と縮小されて投映される星空が混在してしまうことになる。また、特許文献7に記載の方法においても、どのような等級ごとの分布を用いるかによって差はあるものの同様の問題が生じる。
【0014】
星の数が数万個程度と少なかった従来のプラネタリウムにおいても、特別な場合を除いて、星の位置は可能な限り正確であることが要求されてきた。星の数が非常に多くなった場合の対策として提案されている前記の方法では、別途測定をしなければ、これまでと同等の精度で組立調整、あるいは据付けが行なわれたか否かが判断できない問題を生じた。
【0015】
一方、特許文献8に記載の方法を用いて投映を行なう場合は、分割投映像の形状は非凸図形であるので、その投映機の中心からの放射状の方向では同量の値であっても、実際の隙間あるいは重複は、描画領域の接線方向と直交した成分となるため、放射状方向とのなす角が小さいほど少なくなり、原板の分割境界線は目立たなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明のプラネタリウムにおける星空の分割投映方法は以上の従来技術の問題点に鑑みて創作されたものであり、投映する星の数が非常に多い場合であっても、組立調整作業や据付調整作業を投映像の目視により容易に実現できることを可能とし、これまでと同等の星の位置の再現精度を確保すると共に、分割境界線の目立たない星空を再現することを目的とする。
【0017】
前記目的を達成するために、この発明の星空の分割投映方法は全天の星空を複数の投映機ごとの投映機単位の分割投映領域に分割し、これらの投映機単位の分割投映領域を合成してドームスクリーン上に全天の星空を投映する方法において、投映機単位の分割投映領域を更に同一の投映機により投映される互いに独立した2つ以上の投映機内分割投映領域に分割し、かつ相互に隣り合う投映機単位の分割投映領域内の投映機内分割投映領域同士が重ならないように投映することを特徴とする。
【0018】
すなわち、この発明においては一つの投映機で投映する投映像領域を単一としないで、互いに独立した2つ以上の投映機内分割投映領域に分割している。
【発明の効果】
【0019】
プラネタリウムの製造上で生ずるわずかな誤差は、基本的に投映倍率の誤差と投映機相互の配置の誤差である。これらのうち、相互配置の誤差は調整によって最小限に抑えることが可能であるが、投映倍率の誤差を調整することは非常に困難である。
【0020】
この誤差は投映像の大きさの違いとなって現れるから、倍率の誤差を直接反映した量の隙間あるいは重畳箇所として現れて一つの大きな模様を形成し、非常に目立つものとなる。
【0021】
しかしながら、一つの投映機で投映する投映像領域を単一としないで投映機内投映領域に分割した場合、隙間あるいは重畳箇所は細かく分断されるため、原板の分割境界線は目立たなくなる。
【0022】
一方で、中心位置の誤差は、許容される量を超えると、ズレている方向では、周囲に比べて明るくなり、逆の方向では暗くなり、また直交する方向では繰返される明暗の模様になり目立つようになることから、調整すべき方向を容易に判断することができる。
【0023】
ところで、この発明においては一つの投映機で投映する範囲内には「投映機内投映領域」とそれ以外の「非投映領域」が存することになる。この場合、上記の「非投映領域」には当然のことながらなんらの星像も投映されない。一方、従来技術の投映方法においても、投映機内分割投映領域内にはなんらの星像は投映されていない部分が存する。
【0024】
しかしながら、前記の従来技術の投映方法におけるなんらの星像も投映されていない部分はたまたま当該投映機で投映する投映像中のその部分になんらの星像も含まれていなかったにすぎず、その部分はあくまでも当該投映機の投映領域に含まれる。すなわち、別の投映機においてはその部分に星像が存することもある。反対に、この発明においては投映機によっては、なんらの星像も存しない投映機内分割投映領域を含む場合もある。
【0025】
つまり、この発明においては「投映機内投映領域」とはあくまでも原板内に仮想した定型的な投映領域を指し、そこに投映される星像自体を指すものではない。
【0026】
よって、この発明においては分割は現実に投映される具体的な星像を対象とするものではなく、あくまでも定型的に一律に決定された投映機内投映領域を対象とするものであり、そのため分割作業は極めて容易である。
【0027】
以上のように、この発明による分割投映方法によれば、投映恒星数を著しく増加させた場合においても、これまでと同様の星の位置精度を保った上で分割境界線が目立たず、自然で正確な星空を再現することが可能となり、一方、位置精度が許容範囲を超えた場合は目視により調整すべき方向を容易に判断して調整することが可能となる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の投映方法による分割投映像を示す概念図。
【図2】この発明の投映方法による分割投映像を示す概念図。
【図3】この発明の投映方法の作用を示す概念図。
【図4】従来技術の投映方法の作用を示す概念図。
【図5】この発明の投映方法の作用を示す概念図。
【図6】従来技術の投映方法の作用を示す概念図。
【図7】従来技術の投映方法の構成図。
【図8】恒星投映装置の一例を示す構成図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図3はこの発明の投映方法における投映機単位の分割投映領域を示す図である。ここにおいては投映機単位の分割投映領域1は点線で示した矩形の範囲内であるが、これを図4の従来技術の投映機単位の分割投映領域Bのように単一のものとしないで、投映機内分割投映領域2と非投映領域3に分割している。
【0030】
前記投映機内分割投映領域2の形状としてここでは矩形状や鉤の手状のものを図示しているが、これは一例であり、これに限定されないことを勿論である。また、ここでは投映機内分割投映領域2の大きさを投映中心Cから離れるに従って小さくし、かつ、その存在確率を投映中心から離れるに従って小さくしている。
【0031】
図1および2は各投映機による投映機単位の分割投映領域1同士の関係を示す図である。図2に示すように相互に隣り合う投映機単位の分割投映領域1は、それぞれの投映機内分割投映領域2同士が重ならないように投映される。
【0032】
この場合、図5に示すように、この発明においては仮に投映倍率の誤差があっても、隙間Yや重畳箇所Xは細かく分断されるため、分割境界線は目立たないものとなる。これは、図6に示す従来技術の分割投映方法において重畳箇所Xが一つの大きな模様を形成し、非常に目立つことと対照的である。
【符号の説明】
【0033】
1 投映機単位の分割投映領域
2 投映機内分割投映領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全天の星空を複数の投映機ごとの投映機単位の分割投映領域に分割し、これらの投映機単位の分割投映領域を合成してドームスクリーン上に全天の星空を投映する方法において、投映機単位の分割投映領域を更に同一の投映機により投映される互いに独立した2つ以上の投映機内分割投映領域に分割し、かつ相互に隣り合う投映機単位の分割投映領域内の投映機内分割投映領域同士が重ならないように投映することを特徴とするプラネタリウムにおける星空の分割投映方法。
【請求項2】
投映機内分割投映領域の大きさを投映中心から離れるに従って小さくすることを特徴とする請求項1記載のプラネタリウムにおける星空の分割投映方法。
【請求項3】
投映機内分割投映領域の存在確率を投映中心から離れるに従って小さくすることを特徴とする請求項1または2記載のプラネタリウムにおける星空の分割投映方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−68742(P2013−68742A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206415(P2011−206415)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000142894)株式会社五藤光学研究所 (9)
【Fターム(参考)】