説明

プラバスタチンナトリウムの生産に用いる微生物およびそれによるプラバスタチンナトリウムの製造方法

本発明はプラバスタチンナトリウムの生産に用いる新しい微生物およびそれによるプラバスタチンナトリウムの製造方法を提供する。本発明のピンク白色の小多胞菌CGMCC 0624はプラバスタチンナトリウムに対し強い耐性を持っており、メバスタチンナトリウムにおける転化速度が速いため、高効率、低コストでプラバスタチンナトリウムを生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラバスタチンナトリウムの生産に用いる新しい微生物およびそれによるプラバスタチンナトリウムの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
心臓血管疾病はすでに人間死亡の主要原因となり、その発病率と死亡率はあらゆる疾病の中で一位を占める。動脈粥状硬化が心臓血管疾病の主要病理基礎となることが医学研究で検証され、また高脂血症は動脈粥状硬化の最も重要な要素になる。そのため、血中脂質を低下させる薬の心臓血管疾病発病率を減少させる方面の重要性が人々の関心を集めており、各国は争って血中脂質降下薬の研究開発に取り組んでいる。
【0003】
多くの血中脂質降下薬の中で、80年代の初めから発展してきた化合物はHMG−CoA還元酵素阻害剤であり、コレステロール降下の高効率性、コレステロール合成を抑制する高度の選択性および低毒性を持っているため、心臓血管薬物の研究の中で最も活躍し、かつ迅速に発展している領域になっている。
【0004】
これらの薬物はまたタチン類薬物とも称し、その中にはロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン(fluvastatin)、セリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)などが含まれる。
【0005】
同類の薬物と比べて、プラバスタチンは独特な組織選択性を持っており、それは肝臓と小腸内のコレステロールの合成を選択的に抑制するが、その他の器官中のコレステロール合成に対してはその抑制作用が微弱で、また低毒性の長所も持っている。
【0006】
プラバスタチンナトリウム(式I)は、微生物により、その前駆体薬物であるメバスタチン(式IIa)やメバスタチンの塩(Mevastatin salt、式IIb)のヒドロキシル化反応を通じて得られる。
【化1】

【0007】
そのうちメバスタチン(IIa)の水溶性が低いため、通常アルカリを加えて式IIaをメバスタチンの塩(式IIb、式の中でR=アルカリ金属(例えばNa、K)、アルカリ土類金属とNH4)に転換させる。
【0008】
メバスタチンナトリウムのバイオ転化は多種の微生物を用いて行うことができる。主な種類として、下記に挙げている: カビ類の複数の属(Mortierella, WO00/46175)、ノルカシア菌(Norcardia, US5830695)、マデラ放線菌(Actinomadura, WO96/40863)、ストレプトマイセス属菌(Streptomyces Carbopilus EP215665, Streptomyces exfoliatus WO98/45410)、ミクロモノスポラ菌(Micromonospora)。
【0009】
上述の各菌種はいずれも生産過程で一つの欠点を有する。即ち、プラバスタチンの前駆体であるメバスタチンは微生物に対し、より強い毒性(特にカビ類)を持っているため、工業化生産過程でメバスタチンは低い濃度だけを維持し、それに転化速度が遅いのでプラバスタチンの微生物による転化の生産コストを大幅に向上させる。
【0010】
そのため、大規模工業化生産に満足できるために、プラバスタチンナトリウムの高効率に生産に用いる微生物および相応の生産技術の開発が要求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高効率的にプラバスタチンナトリウムの生産に用いる微生物とプラバスタチンナトリウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様では、ピンク白色の小多胞菌(Micropolyspora roseoalba)が提供され、その寄託番号はCGMCC 0624である。
本発明の第2の態様では、ピンク白色の小多胞菌の使用が提供され、その微生物はプラバスタチンナトリウムの生産に用いられる。
【0013】
本発明の第3の態様では、プラバスタチンまたはその塩の製造方法が提供され、下記の工程が含まれている。
(a)温度28-35℃、pH6.8-7.5の条件で、寄託番号がCGMCC 0624のピンク白色の小多胞菌を培養する工程、
(b)メバスタチンまたはその塩を加えて、メバスタチンの濃度を0.005-0.5wt%とし、2〜6日間連続して維持する工程、
(c)メバスタチンまたはその塩の添加を停止する工程、
(d)プラバスタチンまたはその塩を分離する工程。
【0014】
好ましい態様では、工程(b)においてメバスタチンまたはその塩の濃度を0.01-0.05wt%に維持する。
他の好ましい態様では、工程(b)の持続時間を3〜5日間にする。
【0015】
別の好ましい態様では、工程(d)においてメバスタチンまたはその塩の濃度が1mg/lより低くなってから、プラバスタチンナトリウムの分離を始める。
別の好ましい態様では、工程(b)と(c)のメバスタチンまたはその塩はメバスタチンナトリウムである。
別の好ましい態様では、工程(d)から分離したプラバスタチン塩はプラバスタチンナトリウムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは広範及び深い研究を通して、微生物をふるいわける伝統的な方法によって新しい微生物TW-9918を獲得した。その微生物は高濃度のメバスタチンに耐えると同時に、極めて高い転化効率を持っている。この菌株がピンク白色の小多胞菌(Micropolyspora roseoalba)と命名された。この菌株に基づいて、本発明を完成した。
【0017】
本発明のピンク白色の小多胞菌TW-9918はすでに2001年8月29日に中国微生物菌種保存管理委員会普通微生物センター(中国・北京)に寄託され、その寄託番号はCGMCC 0624である。
【0018】
本明細書中で使われる用語「本発明の菌株」又は「本発明の微生物」とは、番号がCGMCC 0624のピンク白色の小多胞菌、つまりTW-9918を指すものである。
【0019】
本発明の製造方法は、生産用菌と発酵条件を除いて、他の条件は現有技術のプラバスタチンナトリウムの製造方法と基本的に同様である。例えば、プラバスタチンナトリウムの分離と純化プロセス。
【0020】
本発明の菌株の発酵条件は普通の小多胞菌のものとほぼ同じである。即ち、炭素源、窒素源および微量元素を含む培地で、pH6.8-7.5(pH7.0-7.2の場合がより最適)、温度25-38℃(28-35℃の場合がより好ましい)条件で発酵させる。
好ましい培地としては、下の例が挙げられる。
【0021】
斜面培地は酵母・麦芽寒天(ISP2)を採用し、その構成は、麦芽抽出物1.0%、酵母抽出物0.4%、ブドウ糖0.4%、寒天2.0%、pH7.0-7.2である。
シード培地の構成は、ブドウ糖0.2-5.0%、酵母抽出物0.05-0.5%、ペプトン0.1-2.0%、K2HPO4 0.02-0.1%、pH7.0-7.2である。
【0022】
発酵用培地の構成は、ブドウ糖1.0-5.0%、酵母抽出物0.1-1.0%、ペプトン0.5-2.0%、K2HPO4 0.01-0.5%、MgSO4・7H2O=0.01-0.05%、pH7.0-7.2である。
【0023】
最適化のメバスタチンをプラバスタチンにTW-9918菌株にて転化する生産過程は次の通り。
TW-9918を温度28℃、斜面で7-10日間培養していたとその菌株が成熟される。斜面上の成熟した菌糸をシード培地に接種して、温度28℃で、振動台において回転速度210RPMで2-3日間培養する。
【0024】
発酵培地を5-15%のシード培養液に接種して、その後振動台に置くか発酵缶で培養温度28-35℃で培養する。菌体が12-24時間成長後、毎日0.2-2.0%のブドウ糖を補充すると同時にメバスタチンも補充して、培養液のメバスタチンの濃度を0.005-0.5wt%(0.01-0.05%の場合がより最適)に維持する。転化培養は普通2-6日間(3-5日間の場合がより最適)行った後、メバスタチンの補充を停止し、培養液中のメバスタチンの濃度が1mg/Lより低くなるとすぐ培養を終止する。
【0025】
発酵液を遠心分離により菌体を取り除き、上澄液を疎水性樹脂で吸着し、水で樹脂を洗浄し、メバスタチンナトリウムをエタノール/水混合液やアセトン/水混合液を用いて溶出し、メバスタチンの部分だけを収集し、それを濃縮する。酢酸エチルを用いて濃縮液を抽出し、エタノール/酢酸エチルの結晶からメバスタチンナトリウムの純品を得る。
【0026】
本発明の主要メリットは本発明の菌株がメバスタチンナトリウムに対して強い耐性を持っており、生産過程でメバスタチンナトリウムの濃度をかりに高い濃度を維持することができ、又メバスタチンナトリウムの転化速度が速いため、生産コストも大幅降下できるものである。
【0027】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。理解すべきものは、これらの実施例はただ本発明の説明に適用し、本発明の範囲の制限には適用されない。下記の実施例の中で具体的条件を明記していない実験方法は、普通に通常条件やそれともメーカーの提言条件に従うものである。
【実施例】
【0028】
実施例1
プラバスタチンナトリウム生産用菌株の取得と鑑定
1.微生物の分離と選別
中国各地から採集した土壌見本を10-2-10-6に希釈させて平板の上に塗り延ばし、その平板を28℃の恒温で7-10日間培養する。合計約1,500個の菌株が分離され、振動瓶による選別に提供する。その中の3株の菌株はメバスタチンの転化能力を持っており、その中の1株は中国寧波土壌から分離して得られたTW-9918で、メバスタチンに対し高い耐性を示していると同時に、高効率的にプラバスタチンに転化することができる。
【0029】
2.微生物の鑑定
形態特徴:
TW-9918を桑塔斯寒天とグルコース・アスパラギン寒天の培地で5-10日間培養すると、気生菌糸に3-12個の胞子の短い鎖、胞子糸直糸が生じる。培地内の菌糸では横隔、破裂があり、又少量の短い胞子の鎖が生じる。胞子は楕円形で、大きさが0.85x1.5umで、滑らかな表面を持っている。
【0030】
培養特長:
TW-9918を7種の培地、温度28℃の条件で7-15日間培養後の特徴は次の通り。
【表1】

【0031】
化学分類
細胞壁成分の分析:
菌株TW-9918の細胞壁では、mdso-DAP (ジアミノピメリン酸)、グリシン(細胞壁IV型)を含有している。
【0032】
全細胞糖型分析:
菌株TW-9918の加水分解液の中ではガラクトースとアラビノース(糖型A)を含有している。
【0033】
枝菌酸(mycolicacid)分析:
菌株TW-9918の中では枝菌酸を含有していない。
【表2】

【0034】
菌種鑑定結果:
形態特徴と細胞壁の化学成分によって属を定める原則に従うと、TW-9918基糸に横隔、破裂があり、気生菌糸と培地内菌糸に皆短い胞子の鎖が生じ、細胞壁がIV型で、糖型がA型で、枝菌酸がないから、小多胞菌属に属する。また培養特徴と生理・生物化学上の特徴によって属を定める原則に従うと、菌株TW-9918は気生菌糸が灰白色、ピンク白色である。培地内菌糸は浅黄色で、可溶性色素がない、又生理・生物化学上の特徴を結び付けて、菌株TW-9918はピンク白色の小多胞菌に類似しているから、ピンク白色の小多胞菌に繰り入れる。
【0035】
今までピンク白色の小多胞菌属に所属する菌株をプラバスタチンナトリウムの生産に用いるなどの報道がなかった。
【0036】
実施例2
本実施例では、TW-9918でプラバスタチンナトリウムを生産する。
容積が250mlの振動瓶に50mlのシード液を加える。シード液の成分構成は次の通り: ブドウ糖2.0%、酵母抽出物1.0%、ペプトン1.0%、又pHは7.2。シード液を温度121℃で20分間殺菌し、冷却した後TW-9918菌種を接種し、振動台に置いて温度28℃、回転速度210RPMにて、2日間培養する。
【0037】
2日後それぞれ10mlのシード培養液を100mlの発酵培地を含有している2つの500ml振動瓶の中に接種し、振動台に置いて温度30℃、回転速度290RPMで培養する。発酵培地の成分構成は次の通り: ブドウ糖2.0%、酵母抽出物0.5%、ペプトン2.0%、K2HPO4 0.05%、MgSO4・7H2O 0.05%、又そのpHは7.2。温度121℃で20分間殺菌する。24時間培養してから、糖を補充しはじめて、毎日2.0%のブドウ糖を補充する。溶液中のメバスタチンの含有量はHPLCにより測定し、メバスタチンナトリウム塩の溶液を加えてその濃度を0.01%-0.05%に維持する。4日後培養が終り、メバスタチンの総添加量は0.6g(3g/L)となる。
【0038】
発酵終止後、培養液を遠心分離により菌体を取り除き、およそ180mlの上澄液を100mlのHP-20樹脂を用いて吸着した後、500mlの蒸留水で洗浄し、それから50%のアセトンを用いて溶出し、メバスタチンの部分を収集し、又それを濃縮させる。濃縮液はそれぞれ脱色、酢酸エチルを用いて抽出し、エタノール/酢酸エチルの結晶からメバスタチンナトリウムの純品を0.2g得る。
【0039】
実施例3
本実施例ではTW-9918で容積が5Lの全自動発酵缶を用いてプラバスタチンナトリウムを生産する。
5Lの全自動発酵缶内に総計3.5リットルの発酵培地を収容し、それを温度121℃で20分間殺菌し、又それを冷却した後300mlのシード液に接種する。シード液の培養方法は実施例2と同様である。発酵培地の成分構成は、ブドウ糖2.0%、酵母抽出物1.0%、ペプトン2.0%、K2HPO4 0.1%、MgSO4・7H2O 0.05%である。
【0040】
発酵は30℃の温度で、通気量3L/分、回転速度300-500rpmで行う。発酵を18時間まで行ってからメバスタチンナトリウム塩の水溶液とブドウ糖溶液を連続補充しはじめて、又メバスタチンの濃度を0.03-0.05%に維持させる。転化は96時間まで続いており、メバスタチンの総添加量は20g(5.7g/L)となる。
【0041】
転化液を実施例2と同様の方法で純化し、精製した後、合計7.6gのプラバスタチンナトリウムを得る。その得られたプラバスタチンナトリウムの1H NMRスペクトルは図1で示し、プラバスタチンナトリウムの基準品と同様である。
【0042】
菌株の寄託:
本発明のピンク白色の小多胞菌(Micropolyspora roseoalba)TW-9918はすでに2001年8月29日に中国微生物菌種保存管理委員会普通微生物センター(中国・北京)に寄託し、寄託番号はCGMCC 0624。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は本発明の微生物を用いて製造したプラバスタチンナトリウムの1H NMRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託番号がCGMCC 0624であるピンク白色の小多胞菌(Micropolyspora roseoalba)。
【請求項2】
プラバスタチンナトリウムの生産に用いる請求項1に記載のピンク白色の小多胞菌の使用。
【請求項3】
(a) 温度28-35℃、pH6.8-7.5の条件で、寄託番号がCGMCC 0624の小多胞菌を培養する工程、
(b) メバスタチンまたはその塩を加えて、メバスタチンの濃度を0.005-0.5wt%とし、2〜6日間連続して維持する工程、
(c) メバスタチンまたはその塩の添加を停止する工程、
(d) プラバスタチンまたはその塩を分離する工程
を含むことを特徴とする、プラバスタチンまたはその塩の製造方法。
【請求項4】
工程(b)にてメバスタチンまたはその塩の濃度を0.01-0.05wt%に維持することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)にて3〜5日間持続することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
工程(d)にてメバスタチンまたはその塩の濃度が1mg/lより低くなってから、プラバスタチンナトリウムの分離を始めることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)と(c)中のメバスタチンまたはその塩がメバスタチンナトリウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
工程(d)にて分離させたプラバスタチン塩がプラバスタチンナトリウムである、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−508805(P2007−508805A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517934(P2006−517934)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【国際出願番号】PCT/CN2004/000699
【国際公開番号】WO2005/005618
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(506010046)上海天偉生物制薬有限公司 (6)
【Fターム(参考)】