説明

プラントの洗浄方法および運転方法

【課題】プラント内の配管および液体の流れる機器を対象とし微小気泡を用いて、流路壁面に付着した異物を除去するとともに異物の付着を防止して清浄に維持するプラントの洗浄方法および運転方法を提供すること。
【解決手段】プラント(1)内に流す液体(5)に微小気泡(4)を混入させてプラントの洗浄対象部分2に微小気泡(4)を衝突させ、微小気泡(4)が崩壊する際に発生する高圧のマイクロジェットを利用して洗浄対象部分2に付着している異物を除去する方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントなどにおいてスケールが付着しあるいは腐食生成物を生じた機器や配管を洗浄するとともに清浄に維持するプラントの洗浄方法および運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在プラントの洗浄方法としては、高圧水や化学的な特性を持つ物質を配管内に流す方法が広く用いられている。しかしながら、高圧水を用いる洗浄方法では、高耐圧の配管にその適用範囲が限定され、また、化学的な特性を持つ物質を配管内に流す方法では、使用した化学物質を洗浄後に回収する必要が生じる。
【0003】
これらの点を改善する技術として超音波振動や蒸気吹き込み、あるいはガス吹き込みによる洗浄方法が発明されているが(特許文献1,2,3)、費用や効果に問題があり実用化されていない。
【0004】
一方近年、マイクロバブル、ナノバブルと呼ばれる微小気泡に関する研究が盛んに行われている。マイクロバブルあるいはナノバブルは、その発生時における気泡径がそれぞれマイクロメートルのオーダーあるいはナノメートルのオーダーの気泡であり、気泡表面がマイナスに帯電する現象や気泡内部の圧力が数十気圧に達するなどの特殊な性質が実験や数値解析によって示されている。
【0005】
特許文献4にはナノバブルの広範な利用方法が示されているが、そこに開示されている物体表面の洗浄方法は、ナノバブルを含んだ高速の液体を洗浄対象表面に噴流として衝突させることが必要であるため適用範囲が狭く、またその具体的な洗浄対象物が明記されていない。また、その他の研究者による研究においても工業分野への微小気泡の適用に関する研究はほとんど行われていない。
【特許文献1】特開昭62−244483号公報
【特許文献2】特開昭62−269096号公報
【特許文献3】特開平3−229200号公報
【特許文献4】特開2004−121962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プラント内の配管および液体の流れる機器を対象とし微小気泡を用いて、流路壁面に付着した異物を除去するとともに異物の付着を防止して清浄に維持するプラントの洗浄方法および運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のプラントの洗浄方法においては、プラント内に流す液体に微小気泡を混入させてプラントの洗浄対象部分に微小気泡を衝突させ、微小気泡が崩壊する際に発生する高圧のマイクロジェットを利用して前記洗浄対象部分に付着しているスケール、錆などの異物を除去する方法とする。
【0008】
また、本発明のプラント洗浄方法においては、プラント内に流す液体に微小気泡を混入させて微小気泡の表面の電荷を利用して、金属イオンを微小気泡表面に集めることにより、プラントの洗浄対象部分への金属イオンの付着を防止する方法とする。
【0009】
また、本発明のプラントの運転方法においては、請求項1に記載のプラントの洗浄方法をプラントの点検時に実施し、請求項5に記載のプラントの洗浄方法をプラントの通常運転時に実施する方法とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプラントの洗浄方法および運転方法によれば、プラント内の配管および液体の流れる機器を対象とし微小気泡を用いて、流路壁面に付着した異物を除去するとともに異物の付着を防止して清浄に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るプラントの洗浄方法の第1ないし第10の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態を図1(a),(b)を用いて説明する。すなわち、図1(a)に示すように、プラントの配管1内の洗浄対象部分2の上流側に気泡発生装置3を設ける。気泡発生装置3は超音波振動板と陰電極および陽電極を備え、配管1内の液体を電気分解し超音波振動を与えてマイクロメートルオーダーあるいはナノメートルオーダーの微小気泡を発生させる。
【0013】
このように構成された本実施の形態において、気泡発生装置3により発生した微小気泡の気泡群4の数および液体の流れ5の流速を制御することにより、図1(b)に示すように洗浄対象面8に微小気泡6を衝突させる。そうすると、微小気泡6が崩壊する時に生じるマイクロジェット7が洗浄対象面8に噴出することにより付着した異物を除去することができる。
【0014】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態を図2を用いて説明する。すなわち、プラント点検時に、プラント配管系統10の任意の箇所11に常設ではない気泡発生装置3を取り付ける。このような構成において、気泡発生装置3から微小気泡を含んだ水12をプラント配管系統10に供給する。
本実施の形態によれば、プラント配管系統10の内壁を簡便に洗浄することができる。
【0015】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態を図3を用いて説明する。すなわち、原子力プラントの点検時に原子炉圧力容器13に接続された管13aの任意の位置に気泡発生装置3を接続する。このような構成において、気泡発生装置3により発生させた微小気泡を含んだ水の流れ14を圧力容器13内で循環させる。
本実施の形態によれば、原子炉圧力容器13内の残留放射線の発生源となる異物を除去することができるため、作業を行う際の作業員の被ばく量を低減することができる。
【0016】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態を図4を用いて説明する。すなわち、プラントの配管1内の洗浄対象部分2の上流側に気泡発生装置3を設け、洗浄対象部分2と気泡発生装置3の間に超音波発生装置15を設ける。このような構成において、超音波発生装置15により生じさせた音響定在波16は任意の位置に微小気泡を集めることができる性質を有するので、超音波発生装置15を調整することにより、気泡発生装置3により発生した気泡群4を洗浄対象部分2に衝突させる。
本実施の形態によれば、発生した気泡群4を効果的に洗浄対象部分2に衝突させることにより、洗浄効果を高めることができる。
【0017】
(第5の実施の形態)
本発明の第5の実施の形態を図5を用いて説明する。プラントの配管1内の洗浄対象部分2の上流側に超音波発生装置15を設ける。このような構成において、超音波発生装置15により生じた音響定在波16の圧力変動によるキャビテーションにより、微小気泡の気泡群4を発生させるとともに、音響定在波16の微小気泡を任意の場所に集める性質により、微小気泡を配管1の壁面側に集中させて、キャビテーションにより発生した気泡群4を洗浄対象部分2に衝突させる。
本実施の形態によれば、気泡発生装置が必要ないため、より簡便にプラントの洗浄を行うことができる。
【0018】
(第6の実施の形態)
本発明の第6の実施の形態を図6(a),(b)を用いて説明する。図6(a)に示すように、配管1内の洗浄対象部分2の上流側に気泡発生装置3を設ける。このような構成においては、気泡発生装置3により発生した気泡群4が、図6(b)に示すように、ナノバブルもしくはマイクロバブルと呼ばれる微小気泡6の周りの気液界面17に生じたマイナスの電荷18による静電気的な力により、液体中の金属イオン19を集めながら洗浄対象部分2の下流側まで輸送される。
本実施の形態によれば、洗浄対象部分2への金属イオン19の付着を防ぐことにより、錆などの再付着を防止することができる。
【0019】
(第7の実施の形態)
本発明の第7の実施の形態を図7を用いて説明する。すなわち、プラントの配管1内の洗浄対象部分2の上流側に気泡発生装置3を設け、洗浄対象部分2と気泡発生装置3の間に超音波発生装置15を設ける。このような構成において、超音波発生装置15により生じさせた音響定在波16は任意の位置に微小気泡を集めることができる性質を有するので、超音波発生装置15を調整することにより、微小気泡を配管1の軸中心側に集中させて、気泡発生装置3により発生した微小気泡群4が洗浄対象部分2に衝突する数を減らすことができる。
本実施の形態によれば、一旦微小気泡表面に集められた金属イオンが洗浄対象面に再付着することを防ぐ効果が得られるため、良好な洗浄効果が得られる。
【0020】
(第8の実施の形態)
本発明の第8の実施の形態を図8を用いて説明する。すなわち、プラントの配管1内の洗浄対象部分2の上流側に超音波発生装置15を設ける。このような構成において、超音波発生装置15により生じた音響定在波16の圧力変動によるキャビテーションにより、気泡群4を発生させるとともに、音響定在波16の微小気泡を任意の場所に集める性質により、微小気泡を配管1の軸中心側に集中させて、キャビテーションにより発生した気泡群4が洗浄対象部分2に衝突することを防ぐことができる。
【0021】
本実施の形態によれば、気泡発生装置を省略することができ、微小気泡表面に集められた金属イオンが洗浄対象面に再付着することを防ぐ効果が得られるため、より簡便に洗浄効果が得られる。
【0022】
(第9の実施の形態)
本発明の第9の実施の形態を図9を用いて説明する。すなわち、プラントの配管1内の洗浄対象部分2の上流側に気泡発生装置3を設ける。このような構成において、配管1内の流体の流れに旋回成分21を持たせることにより、気泡発生装置3から発生した気泡群4は配管1の中心部に集まる。
【0023】
本実施の形態によれば、流体の旋回を利用して洗浄対象部分2に気泡群4が衝突することを防ぎ、気泡表面に集められた金属イオンが洗浄対象面に再付着することを防ぐ効果が得られるため、洗浄効果が向上する。
【0024】
(第10の実施の形態)
本発明の第10の実施の形態を図10(a),(b)を用いて説明する。すなわち、プラントの配管1内において、洗浄対象部分2の上流側に気泡発生装置3を常設として取り付ける。このような構成において、通常運転時は、図10(a)に示すように、微小気泡の静電気的な力を利用して金属イオンを気泡発生装置3から発生させ配管1の軸中心部を流れる気泡群4に引き寄せる。また、プラント点検時などには微小気泡発生数および液体の流速を制御することにより、図10(b)に示すように、洗浄対象部分2に配管1の壁面に沿って流れる気泡群4を衝突させる。
【0025】
本実施の形態によれば、通常運転時に洗浄対象部分2へ金属イオンが付着することを防ぐことができるとともに、プラント点検時において、洗浄対象部分2に付着した異物を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明し、(a)は配管の透視図、(b)は作用を説明する図。
【図2】本発明の第2の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明する図。
【図3】本発明の第3の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明する図。
【図4】本発明の第4の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明する図。
【図5】本発明の第5の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明する図。
【図6】本発明の第6の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明し、(a)は配管の透視図、(b)は作用を説明する図。
【図7】本発明の第7の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明する図。
【図8】本発明の第8の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明する図。
【図9】本発明の第9の実施の形態のプラントの洗浄方法を説明する図。
【図10】本発明の第10の実施の形態のプラントの運転方法を説明し、(a)はプラントの通常運転時、(b)はプラントの点検時を示す図。
【符号の説明】
【0027】
1…配管、2…洗浄対象部分、3…気泡発生装置、4…気泡群、5…液体の流れ、6…微小気泡、7…マイクロジェット、8…洗浄対象面、10…プラント配管系統、11…任意の箇所、12…微小気泡を含んだ水、13…原子炉圧力容器、14…微小気泡を含んだ水の流れ、15…超音波発生装置、16…音響定在波、17…気液界面、18…マイナスの電荷、19…金属イオン、21…旋回成分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント内に流す液体に微小気泡を混入させてプラントの洗浄対象部分に微小気泡を衝突させ、この微小気泡が崩壊する際に発生する高圧のマイクロジェットを利用して前記洗浄対象部分に付着している異物を除去することを特徴とするプラントの洗浄方法。
【請求項2】
前記微小気泡を発生する気泡発生装置は前記洗浄対象部分の上流側に設置されることを特徴とする請求項1記載のプラントの洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄対象部分は原子炉圧力容器内の放射線の発生源となる異物を有する部分であることを特徴とする請求項1記載のプラントの洗浄方法。
【請求項4】
前記微小気泡は超音波の定在波を用いて調整して前記洗浄対象部分に衝突させることを特徴とする請求項1記載のプラントの洗浄方法。
【請求項5】
プラント内に流す液体に微小気泡を混入させて微小気泡の表面の電荷を利用して、金属イオンを微小気泡表面に集めることにより、プラントの洗浄対象部分への金属イオンの付着を防止することを特徴とするプラントの洗浄方法。
【請求項6】
前記微小気泡が超音波の定在波を用いて調整して洗浄対象部分に衝突することを防ぐことを特徴とする請求項5記載のプラントの洗浄方法。
【請求項7】
前記微小気泡の発生源は超音波によるキャビテーションであることを特徴とする請求項4または6記載のプラントの洗浄方法。
【請求項8】
前記プラントの配管内の流れに旋回成分を与えて微小気泡を洗浄対象物の中心に集めることにより、微小気泡が洗浄対象部分に衝突することを防ぐことを特徴とする請求項5記載のプラント洗浄方法。
【請求項9】
請求項1に記載のプラントの洗浄方法をプラントの点検時に実施し、請求項5に記載のプラントの洗浄方法をプラントの通常運転時に実施することを特徴とするプラントの運転方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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