説明

プラント機器の耐振動性評価方法および耐振動性評価装置、耐振動性評価システム

【課題】プラントにおける任意の断面形状の機器に適用可能であり、信頼性の高いプラント機器の耐振動性評価装置を提供する。
【解決手段】振動の波形に基づいて入力エネルギを計算する入力エネルギ演算手段S1と、機器の損傷エネルギを計算する損傷エネルギ演算手段S4と、前記入力エネルギと前記損傷エネルギを比較する比較手段S5と、この比較手段S5の比較結果に基づいて耐振動性を評価する評価手段S6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地震時におけるプラント機器の耐振動性評価方法および耐振動性評価装置、耐振動性評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な建築分野においては、例えば非特許文献1および2に記載されたように耐震裕度をエネルギーで評価する方法が考えられている。これらの非特許文献1および2に記載された耐震性能評価方法は、地震動によって構造物に入力されるエネルギーとその構造物が吸収することのできるエネルギーとを比較することにより、構造物の耐震安全性を検討する方法である。
【0003】
具体的には、非特許文献1および2に記載された耐震性能評価方法は、部材のエネルギー吸収に基づく骨組の保有性能が地震応答を上回っていることを確認することによって地震応答の性能評価を行う方法である。その評価方法によれば、骨組の保有性能は、断面形状別に幅厚比と降伏強度から算定することができるとしている。
【0004】
また、特許文献1に記載された技術では、地震により建造物が受けた荷重履歴及び累積損傷を、データベースとして荷重履歴及び累積損傷データ格納装置に記録しておき、さらに発生した地震による荷重履歴及び累積損傷を追加して記録することで、建造物の地震による荷重履歴及び累積損傷をモニタリングすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−177085号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】エネルギー法に基づく鋼構造建築物の耐震性能評価法その1.概要及び骨組の地震応答評価」、日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)2000年9月
【非特許文献2】「エネルギー法に基づく鋼構造建築物の耐震性能評価法その2.骨組の保有性能」、日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)2000年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、機器や配管系の耐震設計は、繰返し荷重である地震荷重を静的な荷重として弾性力学に基づいて評価を行っている。このため初通過破壊を想定して破損確率を求めることが行われる。しかしながら、実際には塑性変形のために累積損傷型の破壊にいたることが現実的であり、現行の耐震設計には大きな裕度が含まれているといわれている。
【0008】
ところで、上述した非特許文献1および2に記載された耐震性能評価方法は、柱や梁のエネルギーの保有性能から耐震安全性を評価するため、当然に柱や梁から構成される建築構造物を評価対象としたものである。これらの手法は、型鋼などの柱、梁やブレースなどに使用される限定された部材であり、また累積損傷については何等考慮されておらず、種々の断面から構成される配管などの一般的な機器に適用できるものではない。したがって、上記のような建築構造物に対しては優れた評価方法であるものの、プラント内の種々の機器や配管系(以下、これらを総称して機器という。)に適用するためには、その機器に適用可能な一般的な評価方法が要求されている。
【0009】
また、特許文献1に記載された技術では、加速度、変位、歪などを計測して地震荷重の履歴、累積損傷を評価している。すなわち、特許文献1に記載された技術は、弾性設計に基づく耐震性評価手法であるため、上述したように大きな裕度が含まれており、評価方法として改善の余地がある。
【0010】
本発明は上記事情を考慮してなされたものであり、プラントにおける任意の断面形状の機器に適用可能であり、信頼性の高いプラント機器の耐振動性評価方法および耐振動性評価装置、耐振動性評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法は、振動の波形から計算された入力エネルギと、機器の損傷エネルギとを比較して耐振動性を評価することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法は、機器の振動を観測する振動観測ステップと、前記機器ごとの振動による入力エネルギを計算する入力エネルギ演算ステップと、前記各機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算ステップと、前記入力エネルギと前記許容損傷エネルギとを比較演算する比較ステップと、前記比較ステップで前記入力エネルギが前記許容損傷エネルギを上回った場合に警報またはプラントの緊急停止信号を発するステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法は、機器の振動を観測する振動観測ステップと、前記機器ごとの振動による入力エネルギを計算する入力エネルギ演算ステップと、前記各機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算ステップと、前記入力エネルギと前記許容損傷エネルギとの比率を演算する比率演算ステップと、前記比率に基づいて前記機器の点検順位を決定する点検順位決定ステップと、を備えることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラント機器の耐振動性評価装置は、振動の波形に基づいて入力エネルギを計算する入力エネルギ演算手段と、機器の損傷エネルギを計算する損傷エネルギ演算手段と、前記入力エネルギと前記損傷エネルギを比較する比較手段と、前記比較した結果に基づいて耐振動性を評価する評価手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラント機器の耐振動性評価システムは、機器の振動を観測する振動観測手段と、前記機器ごとの振動による入力エネルギを計算する入力エネルギ演算手段と、前記各機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算手段と、前記入力エネルギと前記許容損傷エネルギとを比較演算する比較手段と、前記比較手段で前記入力エネルギが前記許容損傷エネルギを上回った場合に警報またはプラントの緊急停止信号を発する発報手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るプラント機器の耐振動性評価システムは、機器の振動を観測する振動観測手段と、前記機器ごとの振動による入力エネルギを計算する入力エネルギ演算手段と、前記各機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算手段と、前記入力エネルギと前記許容損傷エネルギとの比率を演算する比率演算手段と、前記比率に基づいて前記機器の点検順位を決定する点検順位決定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、実際の地震や運転などによる振動で機器に入力されるエネルギに基づいて耐振動性を評価するため、耐振動性を高い信頼性により評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法の第1実施形態における耐震設計の流れを示すフローチャートである。
【図2】第1実施形態において固有周期とエネルギとの関係を示すエネルギスペクトル図である。
【図3】第1実施形態において実力評価の妥当性を確認するための加振試験に用いられる試験体を示す説明図である。
【図4】図3の試験体における各部の寸法と固有振動数との関係を示す説明図である。
【図5】図3の試験体の応力振幅と単位体積あたりの破壊エネルギを示すグラフである。
【図6】本発明に係るプラント機器の耐振動評価方法の第2実施形態を用いた耐振動評価装置を示すブロック図である。
【図7】図6の機器別入力エネルギ演算装置の処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法の第3実施形態を用いた耐振動性評価装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法および耐振動性評価装置、耐振動性評価システムの各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法の第1実施形態における耐震設計の流れを示すフローチャートである。図2は第1実施形態において固有周期とエネルギとの関係を示すエネルギスペクトル図である。
【0021】
本実施形態では、実際の地震や運転などによる振動で機器に入力されるエネルギに基づいて実力を評価する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態における評価方法では、始めにステップS1で設計振動を選定する。この設計振動は、種々の原因によって生ずる振動のいずれを想定したものであってもよいが、以下の実施形態においては地震動に起因するものとして説明する。
【0023】
次に、ステップS2では、対象機器の固有値解析と減衰比を決定する。
【0024】
ステップS3では、機器の固有振動数および減衰比と、設計地震波に基づいて入力エネルギを計算する。このステップS3が入力エネルギ演算手段を構成する。また、ステップS4では、対象機器の損傷エネルギを計算する。このステップS4が損傷エネルギ演算手段を構成する。ここでいう損傷エネルギとは、「機器が破損に至ったときの入力エネルギ」に相当するものである。換言すると、累積した入力エネルギが損傷エネルギに達すると、機器に破損が生ずる。損傷エネルギの計算手法については後述する。
【0025】
ステップS5では、ステップS3で計算した対象機器の入力エネルギとステップS4で別途計算した対象機器の損傷エネルギとの比較を行い、評価する(ステップS6)。ステップS5が比較手段を、ステップS6が評価手段をそれぞれ構成する。
【0026】
このように、機器に入力されるエネルギに基づいた評価を行うことで、従来の弾性設計に基づく耐震性評価手法に比べて、より合理的な評価が可能となる。
【0027】
エネルギスペクトルは例えば次のようにして計算する。
【0028】
一質点系の運動方程式は、
【数1】

【0029】
で表される。ここで、
x;地動に対する相対変位
z;地動変位
m;質量
c;減衰係数 =2√(mkζ)
ζ;減衰比
k;ばね定数
である。
【0030】
この運動方程式で表される一質点系の固有振動数、固有周期はそれぞれ
固有振動数 :f=1/2π√(k/m) ・・・(2)
固有周期 :T=1/f ・・・(3)
で表される。
【0031】
式(1)の両辺に微小時間における変位増分dxdtを乗じたうえで時間0から時間tに渡って積分すれば、
【数2】

【0032】
が得られる。この式はエネルギの釣合式を示しており、左辺は慣性力、減衰力、および、復元力が成す仕事量(エネルギ)を、右辺は入力エネルギをそれぞれ表している。
【0033】
地震動が与えられたときに減衰比と固有周期を与えて式(4)の右辺の入力エネルギを計算する。固有周期を変えて入力エネルギを計算したものをエネルギスペクトルと呼び、これらの固有周期を横軸に、入力エネルギを縦軸に表した図をエネルギスペクトル図と呼ぶ。このエネルギスペクトル図の一例を模式的に図2に示す。
【0034】
機器の損傷エネルギは例えば次のように求める。式の展開にあたり次の記号を用いる。
【0035】
機器の塑性体積 : V
材料の降伏応力 : S
疲労曲線のひずみ振幅 : ε
荷重 : P
応力 : S
変位 : δ
エネルギ : U
とする。
【0036】
また、下記の2つの仮定をおく。
【0037】
・ 疲労試験時の試験片は全断面同一ひずみとする。
【0038】
・ 繰返しピーク応力強さによらず、変形は相似とする。
【0039】
このとき、
P=AS ・・・(5)
δ=lε ・・・(6)
である。
【0040】
簡単のため、弾完全塑性体を仮定すると、エネルギは
U=Pδ=4Vε ・・・(7)
となる。Vは仮定により繰返しピーク応力強さによらず一定であるから、単位体積あたりのエネルギは
U/V=4Sε ・・・(8)
である。このエネルギは繰返し1回あたりのエネルギであるから、損傷エネルギは当該ひずみ振幅に相当する最適疲労曲線の疲労破壊までの回数を式(8)に乗ずることによって求められる。すなわち、ひずみ振幅εに相当する最適疲労曲線の回数をNとすれば、損傷エネルギE
=4Sε ・・・(9)
このようにして求めた入力エネルギと損傷エネルギを比較して、両者が一致したときに破壊が生じる。すなわち、入力エネルギが損傷エネルギを下回っていれば破壊が起こらないと評価することが可能である。
【0041】
(実験例)
上記のようなエネルギを用いた実力評価の妥当性を実験により確認した。この実験について、図3〜図5に基づいて説明する。
【0042】
図3に示すように、先端に質量Mのおもり2を有し、板厚3mmの長方形断面の溶接構造用圧延鋼材SM400製の片持梁1を図示しない加振台に固定し、加振試験を行った。片持梁1には、大応力を発生させるべく固定部1a近傍に切欠部1bを形成した。この切欠部1bを形成したことにより、固定部1a近傍には幅狭部1cが形成される。その幅狭部1cは、幅wが10mm、長さlが8mmである。また、片持梁1の長さとおもり2の質量を変えるとともに、固有振動数5Hz、10Hz、15Hzの3条件によって試験体C1〜C3の試験を行った。図4に試験体C1〜C3の具体的な試験条件を示す。
【0043】
上記加振試験では、入力波の最大加速度レベルを徐々に大きくし、降伏荷重の10倍まで加振を行い、さらに試験体(片持梁1)が破損するまで繰り返し加振試験を継続し、試験体への総入力エネルギを求めた。この結果を図5に示す。
【0044】
図5は、試験体が累積損傷にいたるまでに繰り返し加振試験により入力された総エネルギを破壊エネルギとして、計測された最大応答歪から求めた応力振幅に対して整理したものである。破損エネルギは、計測したひずみ分布から塑性体積を仮定して単位体積あたりの値としている。
【0045】
また、図5中に示す曲線は、最大応答ひずみが繰り返されるものとして、履歴曲線から計算される1サイクルあたりのエネルギ消費と炭素鋼の最適疲労曲線から得られる繰り返し数を掛け合わせて求めたエネルギを示すものである。なお、最適疲労曲線は、非特許文献ASME,”CRITERIA OF THE ASME BOILER AND PRESSURE VESSEL CODE FOR DESIGN BY ANALYSIS INSECTION III AND VIII DIV.2”,1969年発行、76頁による。
【0046】
図5に示すように、最適疲労曲線から求めた破損エネルギと実験結果から求めた破損エネルギとは極めてよく一致しており、本実施形態による評価手法が妥当であることを示している。
【0047】
また、上記説明した評価方法に基づいて、例えば機器の設計や健全性評価を合理的に行うことが可能である。
【0048】
機器の設計に本実施形態の評価方法を用いる場合、損傷エネルギに基づき、任意の余裕を持たせた許容損傷エネルギを決定し、想定する地震動などによる機器への入力エネルギが許容損傷エネルギを上回らないように設計することで、信頼性の高い機器設計を行うことが可能である。例えば、設計する機器がプラントの配管系の場合は、サポートを追加して地震動による入力エネルギを小さくするか、あるいは配管形状や材料厚さなどを変更して許容エネルギを高めるといった設計変更を行う。最終的に、入力エネルギが許容損傷エネルギを下回っていることが確認されれば設計終了となる。このような設計方法を採用すれば、従来の弾性設計に基づく耐震性評価手法に比べてより合理的な設計が可能となる。なお、単純に損傷エネルギを上記許容損傷エネルギとして設計を行うことも可能であるが、実際には許容損傷エネルギに任意の余裕を持たせて設計を行うことが現実的である。
【0049】
また、既存の機器に対しては、上記評価方法を用いることで健全性が保たれているか判断することができる。例えば、目視が困難な破壊事象の有無を判定する指標の一つとして用いることで、健全性評価の信頼性を高めることが可能である。
【0050】
さらに、本実施形態では、単に入力エネルギと損傷エネルギの大小を判定するだけでなく、入力エネルギと損傷エネルギとの差に基づいて、機器が破壊に至るまでの余裕を評価することが可能である。例えば、定常運転に伴う振動で入力エネルギが累積していくような機器の場合、入力エネルギと損傷エネルギ、および累積した入力エネルギに基づいて余寿命を予測することが可能である。
【0051】
以上説明したように、本実施形態による耐振動性評価方法によれば、従来よりも合理的で信頼性の高い評価を行うことができ、機器の設計、健全性評価、余寿命予測などの種々の評価指標として用いることが可能である。
【0052】
(第2実施形態)
図6は本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法の第2実施形態を用いた耐振動性評価装置を示すブロック図である。図7は図6の機器別入力エネルギ演算装置の処理を示すフローチャートである。
【0053】
図6に示すように、地震が発生すると、プラント内に設置された地震観測装置11により地震動波形を観測記録するとともに、地震開始の時刻を記録する。そして、地震観測装置11により観測された地震動波形からエネルギスペクトルを計算するエネルギ演算装置12により時々刻々エネルギスペクトルを計算する。
【0054】
次に、耐震評価対象となる機器を網羅した機器リストデータベース13を参照して対象機器を抽出し、その固有振動数および減衰比を機器振動特性データベース14から選択して機器別入力エネルギ演算装置15により機器ごとの地震動による入力エネルギを計算する。なお、本実施形態では、各機器の過去の地震による入力エネルギの累積エネルギを履歴データとして機器別履歴データベース16に記録している。機器別入力エネルギ演算装置15は、上記入力エネルギに過去の累積エネルギを加算した合計入力エネルギを計算する。そして、算出した合計入力エネルギを比較演算装置20と機器別履歴データベース16に出力する。機器別履歴データベース16は入力された合計入力エネルギを、当該機器の累積エネルギとして上書き(更新)記録する。ここで、機器別履歴データベース16は、累積エネルギ記録手段を構成する。
【0055】
機器別入力エネルギ演算装置15の処理を図7に基づいて具体的に説明する。
【0056】
ステップS11では、機器リストデータベース13、機器振動特性データベース14および機器別履歴データベース16の各データを取得する。
【0057】
ステップS12では、機器リストデータベース13、機器振動特性データベース14からのそれぞれのデータに基づいて最新の入力エネルギを計算する。
【0058】
ステップS13では、その入力エネルギに機器別履歴データベース16から取得した累積エネルギを加算して合計入力エネルギを求める。
【0059】
ステップS14では、その合計入力エネルギを比較演算装置20に出力する。
【0060】
ステップS15では、上記合計入力エネルギを機器別履歴データベース16に出力して上記のように機器の最新の累積エネルギとして更新する。このような一連の処理を地震が発生するごとに繰り返す。
【0061】
一方、機器の構成要素を記録した機器別構成要素データベース17から各機器を構成する要素を抽出し、その各要素の許容損傷エネルギを要素別損傷エネルギデータベース18から参照する。ここで、機器を構成する要素とは、例えば配管の直管部、T字継手、エルボなどであり、これらの要素がどの程度の損傷エネルギで破壊が生じるかが要素別損傷エネルギデータベース18に記録されている。そして、機器の構成要素から機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算装置19を用いて各機器の許容損傷エネルギを求める。なお、許容損傷エネルギについては第1実施形態と同様である。
【0062】
次に、求めた許容損傷エネルギと上記合計入力エネルギとを比較演算装置20により比較して、許容損傷エネルギより合計入力エネルギが小さければ、何も実行せずに、即座に次の時刻に発生した地震の地震動波形からエネルギスペクトルの計算を行う。このような一連の処理を繰り返し、もし合計入力エネルギが許容損傷エネルギを超えた場合には、図示しない発報手段により即座に緊急停止信号を発してプラントを緊急停止する。この許容損傷エネルギは、上記のように損傷エネルギに基づいて任意の余裕を持たせるように設定されている。なお、比較演算装置20は、比較手段を構成する。
【0063】
このように本実施形態によれば、機器別入力エネルギ演算装置15を用いて機器ごとの地震動による入力エネルギに過去の累積エネルギを加算して合計入力エネルギを求める一方、許容損傷エネルギ演算装置19を用いて各機器の許容損傷エネルギを求め、この求めた許容損傷エネルギと合計入力エネルギとを比較演算装置20により比較することにより、従来の地震トリップ信号発生装置を用いる場合より合理的で信頼性の高い評価を行うことができる。
【0064】
(第3実施形態)
図8は本発明に係るプラント機器の耐振動性評価方法の第3実施形態を用いた耐振動性評価装置を示すブロック図である。なお、前記第2実施形態と同一または対応する部分には、同一の符号を付して説明する。
【0065】
図8に示すように、地震が発生すると、プラント内に設置された地震観測装置11により地震動波形を観測記録する。地震が収束した後、観測された地震動波形からエネルギ演算装置12によりエネルギスペクトルを計算する。
【0066】
次に、耐震評価対象となる機器を網羅した機器リストデータベース13を参照して対象機器を抽出し、その固有振動数および減衰比を機器振動特性データベース14から選択して機器別入力エネルギ演算装置15により機器ごとの地震動による入力エネルギを計算する。なお、本実施形態でも前記第2実施形態と同様に機器別履歴データベース16を設け、各機器の過去の入力エネルギの累積エネルギを履歴データとして機器別履歴データベース16に記録するようにしてもよい。
【0067】
一方、機器の構成要素を記録した機器別構成要素データベース17から各機器を構成する要素を抽出し、その各要素の許容損傷エネルギを要素別損傷エネルギデータベース18から参照する。そして、機器の構成要素から機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算装置19を用いて各機器の許容損傷エネルギを求める。
【0068】
次に、求めた許容損傷エネルギと上記入力エネルギとの比、すなわち許容損傷エネルギ/入力エネルギを耐震裕度として耐震裕度演算装置21により計算する。ここで、この入力エネルギは、前記第2実施形態と同様に機器別履歴データベース16を設けた場合、機器ごとの地震動による入力エネルギに機器別履歴データベース16に記録された過去の累積エネルギを加算した合計入力エネルギとなる。
【0069】
この耐震裕度演算装置21により求められた耐震裕度と機器ごとの重要度や、その他の評価関数に基づいて点検順位決定手段としての点検順位決定装置22により総合的に評価して順位表を作成するとともに、その点検順位表を出力表示する。
【0070】
この出力表示された点検順位は、重要度が高く、実際に損傷している可能性の高い機器順に並んでおり、この順位で点検を行っていくことで、プラントの地震後における早期の再立ち上げを行うことができる。
【0071】
このように本実施形態によれば、許容損傷エネルギと入力エネルギとの比を耐震裕度として耐震裕度演算装置21により計算し、その耐震裕度と機器ごとの重要度や、その他の評価関数に基づいて点検順位決定装置22により順位表を作成することにより、その順位表に従って点検を行うことで、プラントの地震後における早期の再立ち上げを行うことができる。
【0072】
なお、上記各実施形態では、外力として地震動を考えて地震動による振動応答を対象としたが、外力は前述した通り地震動に限定されるものではなく、例えば回転体などの機械の運転による定常的な振動の評価や、機械の起動・停止時の過渡的な振動の繰返しや異常時の非定常振動応答などを評価するのに用いるようにしてもよい。
【0073】
また、本発明について、各実施形態を用いて説明してきたが、本発明は上記各実施形態に限定されるものでなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を採ることが可能である。例えば、第2実施形態において、合計入力エネルギと許容損傷エネルギとを比較演算して緊急停止を行う構成として説明したが、緊急停止の代わりに単に警報を発する構成などとすることも可能である。例えば、第1許容損傷エネルギと、それよりも低い第2許容損傷エネルギを設定して、合計入力エネルギが第2許容損傷エネルギを超えたら警報を発報し、第1許容損傷エネルギを上回ったら緊急停止信号を発報してプラントを緊急停止する構成とすることが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…片持梁
2…おもり
11…地震観測装置(振動観測手段)
12…エネルギ演算装置
13…機器リストデータベース
14…機器振動特性データベース
15…機器別入力エネルギ演算装置(入力エネルギ演算手段)
16…機器別履歴データベース(累積エネルギ記録手段)
17…機器別構成要素データベース
18…要素別損傷エネルギデータベース
19…許容損傷エネルギ演算装置(許容損傷エネルギ演算手段)
20…比較演算装置(比較手段)
21…耐震裕度演算装置(比率演算手段)
22…点検順位決定装置(点検順位決定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動の波形から計算された入力エネルギと、機器の損傷エネルギとを比較して耐振動性を評価すること、
を特徴とするプラント機器の耐振動性評価方法。
【請求項2】
前記損傷エネルギは、前記機器を構成する金属材料の疲労曲線から計算すること、
を特徴とする請求項1に記載のプラント機器の耐振動性評価方法。
【請求項3】
機器の振動を観測する振動観測ステップと、
前記機器ごとの振動による入力エネルギを計算する入力エネルギ演算ステップと、
前記各機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算ステップと、
前記入力エネルギと前記許容損傷エネルギとを比較演算する比較ステップと、
前記比較ステップで前記入力エネルギが前記許容損傷エネルギを上回った場合に警報またはプラントの緊急停止信号を発するステップと、
を有することを特徴とするプラント機器の耐振動性評価方法。
【請求項4】
機器の振動を観測する振動観測ステップと、
前記機器ごとの振動による入力エネルギを計算する入力エネルギ演算ステップと、
前記各機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算ステップと、
前記入力エネルギと前記許容損傷エネルギとの比率を演算する比率演算ステップと、
前記比率に基づいて前記機器の点検順位を決定する点検順位決定ステップと、
を有することを特徴とするプラント機器の耐振動性評価方法。
【請求項5】
前記入力エネルギ演算ステップは、前記機器ごとの振動による入力エネルギと前記機器ごとの累積エネルギとを合計した合計入力エネルギを計算し、
前記比較ステップまたは前記比率演算ステップは、前記入力エネルギに代えて前記合計入力エネルギを用いて演算を行うこと、
を特徴とする請求項3または4に記載のプラント機器の耐振動性評価方法。
【請求項6】
振動の波形に基づいて入力エネルギを計算する入力エネルギ演算手段と、
機器の損傷エネルギを計算する損傷エネルギ演算手段と、
前記入力エネルギと前記損傷エネルギを比較する比較手段と、
前記比較した結果に基づいて耐振動性を評価する評価手段と、
を備えることを特徴とするプラント機器の耐振動性評価装置。
【請求項7】
機器の振動を観測する振動観測手段と、
前記機器ごとの振動による入力エネルギを計算する入力エネルギ演算手段と、
前記各機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算手段と、
前記入力エネルギと前記許容損傷エネルギとを比較演算する比較手段と、
前記比較手段で前記入力エネルギが前記許容損傷エネルギを上回った場合に警報またはプラントの緊急停止信号を発する発報手段と、
を備えることを特徴とするプラント機器の耐振動性評価システム。
【請求項8】
機器の振動を観測する振動観測手段と、
前記機器ごとの振動による入力エネルギを計算する入力エネルギ演算手段と、
前記各機器の許容損傷エネルギを求める許容損傷エネルギ演算手段と、
前記入力エネルギと前記許容損傷エネルギとの比率を演算する比率演算手段と、
前記比率に基づいて前記機器の点検順位を決定する点検順位決定手段と、
を備えることを特徴とするプラント機器の耐振動性評価システム。
【請求項9】
前記機器ごとの累積エネルギを記憶する累積エネルギ記録手段をさらに備え、
前記入力エネルギ演算手段は、前記累積エネルギ記録手段に記録された機器ごとの累積エネルギと入力エネルギを合計した合計入力エネルギを計算し、
前記比較手段または前記比率演算手段は、前記入力エネルギに代えて前記合計入力エネルギを用いて演算を行うこと、
を特徴とする請求項7または8に記載のプラント機器の耐振動性評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−214970(P2011−214970A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82833(P2010−82833)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本原子力学会 2010年春の年会予稿集(CD−ROM)平成22年3月9日発行
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】