プリオン特異的ペプチド試薬を使用するELISAアッセイ
【課題】さまざまな試料中、例えば、生きた対象から得られた試料、輸血用血液、家畜動物、およびその他ヒトまたは動物用の食糧において、病原性プリオンタンパク質の存在を検出するための新規組成物および方法を提供する。
【解決手段】試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、その第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)その第一の複合体からその病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;および
(e)プリオン結合試薬を用いて、その解離させた病原性プリオンを検出する工程、
を含む、方法。
【解決手段】試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、その第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)その第一の複合体からその病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;および
(e)プリオン結合試薬を用いて、その解離させた病原性プリオンを検出する工程、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリオンタンパク質と相互作用するペプチド試薬、これらのペプチド試薬をコードするポリヌクレオチド、そのようなペプチド試薬およびポリヌクレオチドを用いる抗体作製法、およびこれらの方法を用いて作製された抗体に関する。本発明は、さらに、これらのペプチド試薬を用いて、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法、およびこれらのペプチド試薬を、治療用または予防用の組成物の成分として用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質コンフォメーション病は、伝染性海綿状脳症など、異常なタンパク質型の自己会合を順次もたらし、その結果、組織の沈着および損傷に至る、タンパク質の異常な構造変化(コンフォメーション病タンパク質)によって生じる、さまざまな無関係の病気を含む。また、これらの病気では、一般的には、さまざまな期間潜伏した後、診断から死亡までは急速に進行するという臨床症状も著しく共通している。
【0003】
コンフォメーション病の一つのグループは「プリオン病」または「伝染性海綿状脳症(TSE)」と名付けられている。ヒトにおいて、これらの病気は、クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症、およびクールー病を含む(例えば、Harrison’s Principles of Internal Medicine,Isselbacher et al.,eds.,McGraw−Hill,Inc.New York,(1994);Medori et al.(1992)N.Engl.J.Med.326:444−9参照)。動物では、TSEは、ヒツジのスクレイピー病、ウシ海綿状脳症(BSE)、伝染性ミンク脳症、および捕獲されたミュールジカおよびヘラジカの慢性消耗性疾患などである(Gajdusek,(1990)Subacute Spongiform Encephalopathies:Transmissible Cerebral Amyloidoses Caused by Unconventional Viruses.Pp.2289−2324 In:Virology,Fields,ed.New York:Raven Press,Ltd)。伝染性海綿状脳症は、同一の顕著な特徴をもつ。すなわち、霊長類、齧歯類、およびトランスジェニックマウスなどの実験動物に実験的に接種すると病気を伝染させる異常な(β構造に富み、プロテイナーゼK抵抗性の)立体構造のプリオンタンパク質が存在することである。
【0004】
最近、ウシ海綿状脳症が急速に拡大し、それが、ヒトにおける海綿状脳症の発症率の上昇と相関していることから、ヒト以外の哺乳動物において伝染性海綿状脳症を検出することに対する関心が著しく高まっている。これらの病気に偶然感染したときの悲劇的な結末(例えば、Gajdusek,Infectious Amyloids,and Prusiner Prions In Fields Virology.Fields,et al.,eds.Lippincott−Ravin,Pub.Philadelphia(1996);Brown et al.(1992)Lancet,340:24−27参照)、除染の難しさ(Asher et al.(1986)pages 59−71 In:Laboratory Safety:Principles and Practices, Miller ed. Am.Soc.Microb.)、およびウシ海綿状脳症に関する最近の懸念(British Med.J.(1995)311:1415−1421)があるため、伝染性海綿状脳症に罹ったヒトおよび動物を同定できる診断検査法および感染した患者に対する治療法の両方を緊急に必要としている。
【0005】
プリオンは、海綿状脳症(プリオン病)を引き起こす伝染性病原体である。プリオンは、細菌、ウイルス、およびウイロイドとは顕著に異なる。主な仮説は、他の伝染性病原体とは異なり、プリオンタンパク質の異常な立体構造が鋳型となって働き、正常なプリオンの立体構造を異常な立体構造に変えることによって感染が引き起こされるというものである。プリオンタンパク質は、1980年代の初期に初めてその特徴が明らかになった(例えば、Bolton,McKinley et al.(1982)Science 218:1309−1311;Prusiner,Bolton et al.(1982)Biochemistry 21:6942−6950;McKinley,Bolton et al.(1983)Cell 35:57−62参照)。それ以来、完全なプリオンタンパク質をコードする遺伝子がクローニングされ、配列決定され、トランスジェニック動物で発現されている。例えば、Basler,Oesch et al.(1986)Cell 46:417−428参照。
【0006】
プリオン病の主要な特徴は、正常な(細胞性または非病原性の)形状(PrPC)から、スクレイピータンパク質とも呼ばれる異常な形のタンパク質(PrPSc)を形成することである。例えば、Zhang et al.(1997)Biochem.36(12):3543−3553;Cohen & Prusiner(1998)Ann Rev.Biochem.67:793−819;Pan et al.(1993)Proc Nat’l Acad Sci USA 90:10962−10966;Safar et al.(1993)J Biol Chem 268:20276−20284参照。光学分光学および結晶学による研究で、プリオンの病気関連型は、主にアルファヘリクス構造に折り畳まれている無病型に較べ、実質的にベータシート構造に富んでいる。例えば、Wille et al.(2001)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 99:3563−3568;Peretz et al.(1997)J.MoI.Biol.273:614−622;Cohen & Prusiner,Chapter 5:Structural Studies of Prion Proteins in PRION BIOLOGY AND DISEASES,ed.S.Prusiner,Cold Spring Harbor Laboratory
Press,1999,pp:191−228参照。このような構造変化の後、生化学的性質に変化が起きると考えられている。すなわち、非変性界面活性剤中でPrPCは可溶性であるが、PrPScは不溶性であり;PrPCはプロテアーゼで容易に分解されるが、PrPScは一部抵抗性であるため、「PrPres」型(Baldwin et al.(1995);Cohen & Prusiner(1995);Safar et al.(1998)Nat.Med.4(10):1157−1165)、「PrP27−30」型(27-30kDA)、または「PK−抵抗性」(プロテイナーゼK抵抗
性)型として知られるN末端切断型断片の形成をもたらす。また、PrPScはPrPCを病原性型の立体構造に変換させる。例えば、Kaneko et al.(1995)Proc.Nat’l Acad.Sci USA 92:11160−11164;Caughey(2003)Br Med Bull.66:109−20参照。
【0007】
生きた対象、および生きた対象から採取した試料の中でコンフォメーション病タンパク質の病原性アイソフォームを検出することは難しいことが明らかになっている。そのため、これらの伝染性で、患者が死亡する前にアミロイドを含む症状に対する確定診断および苦痛緩和療法には、依然として実質的に満足の行くものがないままである。脳の生検を組織病理学的に検査するのは、対象者にとって危険が高く、また、その生検試料がどこから採取されたかによっては、病変およびアミロイド沈着を見逃す可能性もある。しかし、動物、患者、および医療施設職員にとっては生検に関連するリスクが依然として存在する。さらに、動物に対する脳検査の結果は、通常、その動物が食料として供給されるまでは得られない。また、プリオンペプチドに対して作製された抗体のほとんどは、変性されたPrPScとPrPCの両方を認識するが、未変性のPrPScに対して特異的な抗体も報告されている。(例えば、非特許文献1;特許文献1および特許文献2参照)。
【0008】
TSEについていくつかの検査法を利用することができる(非特許文献2,非特許文献3;非特許文献4,非特許文献5,非特許文献6参照)。しかし、これらはすべて、脳組織試料を利用するため、死後検査にしか適さない。また、これらのほとんどは、試料をプロテイナーゼKで処理することも必要とするが、それは、時間がかかり、PrPCを不完全に分解すると偽陽性の結果をもたらすことがあり、また、プロテアーゼ感受性PrPScを分解すると偽陰性の結果が生じることがある。
【0009】
このように、さまざまな試料中、例えば、生きた対象から得られた試料、輸血用血液、家畜動物、およびその他ヒトまたは動物用の食糧において、病原性プリオンタンパク質の存在を検出するための組成物および方法に対する需要が依然として存在する。また、プリオン関連疾患を診断および治療するための方法および組成物に対する需要も依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,846,533号明細書
【特許文献2】米国特許第6,765,088号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Matsunaga et al.(2001)PROTEINS:Structure,Function and Genetics 44:110−118
【非特許文献2】Soto,C.(2004)Nature Reviews Microbiol.2:809
【非特許文献3】Biffiger et al.(2002)J.Virol.Meth.101:79
【非特許文献4】Safar et al.(2002) Nature Biotech.20:1147
【非特許文献5】Schaller et al.Acta Neuropathol.(1999)98:437
【非特許文献6】Lane et al.(2003)Clin.Chem.49:1774
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、その第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)その第一の複合体からその病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;および
(e)プリオン結合試薬を用いて、その解離させた病原性プリオンを検出する工程、
を含む、方法。
(項目2)
試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをそのペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、その第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)その第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;
(e)その解離させた病原性プリオンタンパク質をその第一の固体支持体から分離する工程;
(f)その解離させた病原性プリオンタンパク質を、その解離したプリオンタンパク質が第二の固体支持体に付着させることができる条件下で、その第二の固体支持体に接触させる工程;および
(g)プリオン結合試薬を用いて、その第二の固体支持体上に付着した病原性プリオン検出する工程、
を含む、方法。
(項目3)
試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをそのペプチド試薬と結合させてその第一の複合体を形成させる条件下で、その第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)その第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させ、それによってその病原性プリオンが変性される工程;
(e)その解離させた変性病原性プリオンタンパク質をその第一の固体支持体から分離する工程;
(f)その解離させた変性病原性プリオンタンパク質を、その解離したプリオンタンパク質を第一の抗プリオン抗体に結合させる条件下で、その第一の抗プリオン抗体を含む第二の固体支持体に接触させる工程;および
(g)第二の抗プリオン抗体を用いて、その第二の固体支持体上に結合したその病原性プリオン検出する工程、
を含む、方法。
(項目4)
上記解離工程が、結合した病原性プリオンタンパク質を塩またはカオトロピック剤に接触させる工程を含む、項目1、2、または3いずれか記載の方法。
(項目5)
上記カオトロピック剤がグアニジンチオシアン酸(GdnSCN)またはグアニジン塩酸(GdnHCl)を含む、項目4記載の方法。
(項目6)
上記GdnSCNまたはGdnHClの濃度が約3Mと約6Mとの間である、項目5記載の方法。
(項目7)
上記解離工程が、結合した病原性プリオンタンパク質を高pHまたは低pHに曝露させて、それによってその解離された病原性プリオンタンパク質を変性させる工程を含む、項目1、2、または3いずれか記載の方法。
(項目8)
上記pHが12よりも高いか、または2よりも低い、項目7記載の方法。
(項目9)
上記pHが12.5と13.0との間である、項目8記載の方法。
(項目10)
NaOHを0.05Nから0.15Nの濃度になるまで加えることによって、上記結合した病原性プリオンタンパク質を高いpHに曝露する、項目7記載の方法。
(項目11)
上記曝露する工程が15分間までで行われる、項目7、8、9、または10のいずれか一項記載の方法。
(項目12)
上記曝露する工程が10分間までで行われる、項目11記載の方法。
(項目13)
上記変性し、解離された病原性プリオンタンパク質のpHを、7.0と7.5との間に中和する工程をさらに含む、項目7、8、9、または10のいずれか一項記載の方法。
(項目14)
リン酸またはそのナトリウム塩を加えることによって上記pHが中和される、項目10記載の方法。
(項目15)
上記第一の固体支持体が磁気ビーズを含む、項目1〜14いずれか一項記載の方法。
(項目16)
上記プリオン結合試薬が抗プリオン抗体である、項目1〜15いずれか一項記載の方法。
(項目17)
上記第一または第二の固体支持体がマイクロタイタープレートまたは磁気ビーズを含む、項目1〜16いずれか一項記載の方法。
(項目18)
上記第一または第二の抗プリオン抗体が上記プリオンタンパク質の変性型に結合する、項目1〜17いずれか一項記載の方法。
(項目19)
上記第一または第二の抗プリオン抗体の一つが、上記プリオンタンパク質のアミノ末端にあるエピトープを認識する、項目18記載の方法。
(項目20)
上記第一または第二の抗プリオン抗体のうちの一つが、上記プリオンタンパク質の23〜90番目の残基内にあるエピトープを認識する、項目19記載の方法。
(項目21)
上記抗プリオン抗体が、Fab D18、3F4、SAF−32、6H4からなる群から選択される、項目18記載の方法。
(項目22)
上記ペプチド試薬が、配列番号
(数1)
の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目1〜21のいずれかに記載の方法。
(項目23)
上記ペプチド試薬が、配列番号
(数2)
の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目22に記載の方法。
(項目24)
上記ペプチド試薬が、配列番号
(数3)
の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目22記載の方法。
(項目25)
上記ペプチド試薬が、配列番号56、57、65、82、84および136の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目22に記載の方法。
(項目26)
上記ペプチド試薬が、配列番号
(数4)
の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目22記載の方法。
(項目27)
上記ペプチド試薬が配列番号14を含む、項目22記載の方法。
(項目28)
上記ペプチド試薬が配列番号51を含む、項目22記載の方法。
(項目29)
上記ペプチド試薬が配列番号68を含む、項目22記載の方法。
(項目30)
プリオン検出アッセイ法で使用するための代理対照であって、配列番号12〜260からなる群から選択される配列をもつペプチドに由来するペプチド試薬に結合する第一の代理ドメイン、およびそのプリオンアッセイ法において使用される検出試薬に結合する第二の代理ドメインを含み、ここでそのプリオン検出アッセイ法は、試料中の病原性プリオンタンパク質の存在を検出するためにペプチド試薬および検出試薬を使用する、代理対照。
(項目31)
試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)試験用容器内において、第一のペプチド試薬が、病原性プリオンが存在する場合にはそれと結合して第一の複合体を形成させる条件下で、その病原性プリオンを含む疑いのある試料を、その病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するその第一のペプチド試薬に接触させる工程;(b)対照用容器において、その第一のペプチド試薬を、項目30記載の代理対照がその第一のペプチド試薬に結合できる条件下で、その代理対照に接触させる工程;(c)その病原性プリオンが存在する場合には、それをその第一のペプチド試薬に結合させることによってその存在を検出する工程;および(d)その第一のペプチド試薬に結合したその代理対照の存在を検出することによって、検出された病原性プリオンの存在を確認する工程、
を含む、方法。
【0013】
本発明者らは、病原性プリオンタンパク質を検出するための感度の高い方法を開発した。この方法は、プリオン関連疾患に苦しむ個体の体液に存在する可能性のある低量の病原性プリオンを検出するのに十分な感度をもつ。したがって、本方法は、取り分け、生前診断検査法として、または、献血試料をスクリーニングするのに有用である。
【0014】
本発明は、一部分において、プリオンタンパク質と相互作用するペプチド試薬に関連する。すなわち、このペプチド試薬は、プリオンタンパク質の病原型アイソフォームと選択的に相互作用する。このようなペプチド試薬は、共同出願された2004年8月13日出願の米国特許出願第10/917,646号;2005年2月11日出願の米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日出願のPCT/US出願第2004/026363号に記載されている。これらの出願はすべて参照されて本明細書に組み込まれる。本ペプチド試薬は、被検試料中の病原性プリオンタンパク質を濃縮および分離するために使用される。既述のPrPScのアッセイ法とは異なり、本方法では、PrPCを除去するために試料をプロテアーゼ処理する必要がない。本発明の方法においては、濃縮および分離したプリオンタンパク質を検出するために、ペプチド試薬を高感度ELISAと組み合わせて使用する。
【0015】
一つの実施態様において、本発明は、以下の工程を含む、病原性プリオンの存在を検出する方法を提供する:
(a)プリオンの病原型と選択的に相互作用するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させる条件下で、第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)非結合の試料を除去する工程;
(d)病原性プリオンタンパク質をペプチド試薬から解離させる工程;および
(e)解離させた病原性プリオンを、プリオン結合試薬を用いて検出する工程。
【0016】
ペプチド試薬は、好ましくは、配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来し、詳しくは、共同出願された2004年8月13日出願の米国特許出願第10/917,646号;2005年2月11日出願の米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日出願のPCT/US出願第2004/026363号に記載されている。非結合の試料を除去した後、病原性プリオンタンパク質をペプチド試薬から解離させる。一般的には、病原性プリオンタンパク質を解離過程で変性させる。この解離は、カオトロピック剤(例えば、グアニジンチオシアン酸、またはグアニジン塩酸)もしくは高塩濃度を利用することによって、または好ましくは、pHを変えることによって行う。低pH(例えば、pH2よりも低い)でも高pH(pH12よりも高い)でも利用することができるが、高pHが好適である。解離および変性されたプリオンタンパク質を、免疫アッセイ法、好ましくはELISA法、より好ましくは、サンドイッチ式ELISA法を用い、抗プリオン抗体を用いて検出する。
【0017】
本発明は、本方法を実施するためのキットも提供するが、このキットは、固体支持体上で提供することができる1つ以上のペプチド試薬、および任意には、1つ以上の抗プリオン抗体を含む。抗プリオン抗体は、標識することが可能であり、および/または固体支持体上で提供することができる。バッファー、洗浄溶液、変性剤、および本方法で使用するその他の成分を、使用説明書と同じように、キットに含ませることができる。
【0018】
これらのペプチド試薬は、病原性プリオンを単離したり、試料中に病原性プリオンが存在することを検出したりするためのツールとして、治療用または予防用の組成物の成分として、および/またはプリオン特異的な抗体を作製するためなど、広範な用途に使用することが可能である。例えば、PrPCよりもPrPScと選択的に相互作用するペプチド試薬は、例えば、病気の診断、または献血試料のスクリーニング、または臓器提供用の器官のスクリーニングなどのために、生きた対象から得た試料中の病原性型を直接検出するのに役立つ。
【0019】
本明細書記載のペプチド試薬は、一部または全部が合成のものでもよく、例えば、以下の成分:環状化された残基またはペプチド、ペプチドの多量体、標識、および/またはその他の化学成分を1つ以上含むことができる。適当なペプチド試薬の例は、配列番号12〜260のペプチドに由来するもの、例えば、配列番号66,67,68,72,81,96,97,98,107,108,119,120,121,122,123,124,125,126,127,14,35,36,37,40,50,51,77,89,100,101,109,110,111,112,113,114,115,116,117,118,128,129,130,131,132,133,134,135,136,56,57,65,82,または84に示されているペプチド、ならびにそのアナログおよび誘導体などである。本明細書記載のペプチド試薬は、任意のコンフォメーション病タンパク質、例えば、プリオンタンパク質(例えば、病原性タンパク質PrPSc、および非病原性型PrPC)などと相互作用することができる。一定の実施態様において、このペプチド試薬は、PrPCよりもPrPScと選択的に相互作用する。このペプ
チド試薬は、2つ以上の種に由来するPrPScに対して特異的であるが、単一種のPrPScに対して特異的であってもよい。
【0020】
別の実施態様において、本明細書記載の配列に示されているペプチドに由来するペプチド試薬が提供される。一定の実施態様において、ペプチド試薬はプリオンタンパク質の領域に由来し、例えば、23〜43位または85〜156位の残基(例えば、配列番号2に記載されたマウスプリオンの配列によれば、23〜30、86〜111、89〜112、97〜107、113〜135、および136〜156という番号になっている)に相当する領域が使用される。便宜上、上記に示したアミノ酸残基番号は、配列番号2のマウスのプリオンタンパク質の配列に対応する番号であるが、当業者は、当技術分野において既知の配列、および本明細書に記載した開示内容に基づいて、別の種のプリオンタンパク質における対応する領域を簡単に同定することができよう。ペプチド試薬の例は、配列番号66、67、68、72、81、96、97、98、107、108、119、120、121、122、123、124、125、126、127、134または135を有するペプチドに由来するもの、または、配列番号14、35、36、37、40、50、51、77、89、100、101、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、129、130、131、132、133または128を有するペプチドに由来するもの、または、配列番号56、57、65、82、84、または136有するペプチドに由来するものを含む。
【0021】
一つの態様において、プリオンタンパク質の存在を検出する方法が提供される。この検出方法は、とりわけ、(例えば、ヒト患者およびヒト以外の動物対象における)プリオン関連病を診断する方法、実質的にPrPScを含まない血液供給、血液製品の供給、または食糧供給を確実にする方法、移植のために器官および組織の試料を解析する方法、手術器具および装置の汚染除去を監視する方法、ならびに病原性プリオンの有無を知ることが重要なあらゆる場面に関連して用いることができる。
【0022】
検出方法は、ペプチド試薬が、病原性プリオンのアイソフォームと選択的に相互作用することを利用している。一定の実施態様においては、生体試料に病原性プリオンが存在することを検出する方法が提供される。
【0023】
一つの実施態様において、この方法は、病原性プリオンが存在するならば、ペプチド試薬とそれが相互作用できる条件下で、病原性プリオンを含む疑いのある試料を、本明細書記載のペプチド試薬の一つ以上と接触させる工程、および試料中の病原性プリオンの有無を、そのペプチド試薬への結合によって検出する工程を含む。ペプチド試薬と病原性プリオンの相互作用は、溶液で行わせるか、一つ以上の反応物を固相内または固相上に提供することもできる。ペプチド試薬を捕捉試薬、検出試薬、またはその両方として用いることができるサンドイッチ式アッセイ法を行うこともできる。好適な実施態様において、他のプリオン結合試薬(例えば、変性プリオンタンパク質に結合する抗体およびその他の結合分子)を、本発明のペプチド試薬と組み合わせて本態様において使用することも可能である。
【0024】
本実施態様の一つの態様において、本発明の一つ以上のペプチド試薬を固体支持体上に提供して、病原性プリオンが存在するならば、病原性プリオンがペプチド試薬に結合できる条件下で、病原性プリオンを含む疑いのある試料と接触させる。非病原性プリオンなど、未結合の試料物質を除去することができ、ペプチド試薬に結合したままで、あるいは、ペプチド試薬から解離させた後に、病原性プリオンを検出することができる。病原性プリオンは、検出できるよう標識したペプチド試薬(病原性プリオンを「捕捉」するために使用されるペプチド試薬と同じものであるか、本発明の第二のペプチド試薬)、または検出できるよう標識された抗プリオン抗体、またはその他のプリオン結合試薬を用いて検出することができる。この抗体またはプリオン結合試薬は、プリオンの病原型に特異的である必要はない。
【0025】
本実施態様の別の態様において、病原性プリオンはペプチド試薬から解離させられ、変性され、抗プリオン抗体によるサンドイッチ式アッセイ法を用いて検出される。
【0026】
さらなる実施態様において、本方法は、病原性プリオンを含む疑いのある試料を、配列番号12〜260の配列を有するペプチド、そのアナログおよび誘導体からなるグループから選択される一つ以上のペプチド試薬と、病原性プリオンが存在するならば、ペプチド試薬がそれに結合できる条件下で接触させる工程;および、試料中の病原性プリオンの有無を、そのペプチド試薬への結合によって検出する工程を含む。好適な実施態様では、試料を、配列番号66、67、68、72、81、96、97、98、107、108、119、120、121、122、123、124、125、126、127、14、35、36、37、40、50、51、77、89、100、101、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、128、129、130、131、132、133、134、135、56、57、65、82、136または84の配列を有するペプチド、ならびにそのアナログおよび誘導体からなる群から選択される一つ以上のペプチド試薬と接触させる。
【0027】
病原性プリオンを検出する上記方法のいずれかを、プリオン関連病を診断する方法に用いることができる。
【0028】
本発明のペプチド試薬を一つ以上含む固体支持体を提供する上記実施態様のすべてにおいて、ペプチド試薬を固体支持体に結合させる前に試料と接触させる別の実施態様が考えられる。このような実施態様では、ペプチド試薬が結合対の一方を含み、固体支持体が、結合対のもう一方を含む。例えば、本発明のペプチド試薬は、ビオチンを含むか、ビオチンを含むよう修飾することができる。ペプチド試薬が病原性プリオンに結合できる条件下で、ビオチン化ペプチド試薬を、病原性プリオンを含む疑いのある試料に接触させる。そして、アビジンまたはストレプトアビジンを含む固体支持体をビオチン化ペプチド試薬に接触させる。その他の適当な結合対は本明細書に記載される。
【0029】
本明細書記載の固体支持体を用いる方法において、固体支持体は、例えば、ニトロセルロース、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス、ポリビニルフルオリド、ジアゾ化紙、ナイロン膜、活性化ビーズ、および/または磁気反応性ビーズ、ポリ塩化ビニル;ポリプロピレン、ポリスチレンラテックス、ポリカーボネート、ナイロン、デキストラン、キチン、砂、シリカ、軽石、アガロース、セルロース、ガラス、金属、ポリアクリルアミド、シリコン、ゴム、ポリサッカライド、ジアゾ化紙、活性化ビーズ、磁気反応性ビーズ、ならびに固相合成、アフィニティー分離、精製、ハイブリダイゼーション反応、免疫アッセイ法、およびその他の応用場面で一般的に使用されている材料である。支持体は、微粒子でもよく、または、連続した表面の形になっていてもよく、膜、メッシュ、プレート、ペレット、スライド、ディスク、細管、中空糸、針、ピン、チップ、ソリッドファイバー、ゲル(例えば、シリカゲル)、およびビーズまたは粒子、(例えば、多孔質ガラスビーズ、シリカゲル、随意でジビニルベンゼンとクロスリンクしたポリスチレンビーズ、グラフト共重合ビーズ、ポリアクリルアミドビーズ、ラテックスビーズ、随意でN−N‘−ビス−アクリロイルエチレンジアミンとクロスリンクしたジメチルアクリルアミドビーズ、酸化鉄磁気ビーズ、および疎水性ポリマーで被覆されたガラス粒子)などがある。「固体支持体」および「固体表面」という用語は、本明細書では同義的に使用されている。
【0030】
また、本明細書記載のいずれの方法でも、試料は生体試料であることが可能である。すなわち、生きているか、生きていた生物から採取または由来した試料、例えば、器官、全血、血液分画、血液成分、血漿、血小板、血清、脳脊髄液(CSF)、脳組織、神経系組織、筋肉組織、骨髄、尿、涙、非神経系組織、器官、および/または生検もしくは剖検である。試料は非生体試料であってもよい。
【0031】
別の態様において、本発明は、本明細書記載の検出法のいずれかによって、対象から得た生体試料中に病原性プリオンが存在することを検出して、該対象におけるプリオン関連病を診断する方法を提供する。
【0032】
別の態様において、本発明は、実質的に病原性プリオンを含まない輸血用血液を調製する方法であって、集められた血液試料からの血液の等量液(例えば、全血、血漿、血小板、または血清)を、本明細書記載のいずれかの方法によってスクリーニングする工程;病原性プリオンが検出された試料を取り除く工程;および病原性プリオンが検出されなかった試料をまとめて、病原性プリオンを実質的に含まない輸血用血液を提供する工程を含む方法を含む。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、病原性プリオンを実質的に含まない食糧供給物、特に肉供給物(例えば、ヒトや動物が消費する牛肉、ラム肉、マトン、または豚肉)を調製する方法であって、食糧として供給されるはずの生きた生物または死んだ生物から採集した試料、または食糧供給されようとしている食品から採集した試料を、本明細書記載の検出法のいずれかを用いてスクリーニングする工程;病原性プリオンが検出された試料を同定する工程;およびその試料で病原性プリオンが検出された、食糧供給されようとしていた生きた生物もしくは死んだ生物または食品を食糧供給から排除する工程を含む方法を含む。
【0034】
別の態様において、本発明は、試料中に病原性プリオンが存在することを検出したり、試料から病原性プリオンを単離したり、試料から病原性プリオンを除去したりするためのさまざまなキットであって、本明細書記載の一つ以上のペプチド試薬;および/または本明細書記載の一つ以上のペプチド試薬を含む固体支持体、抗プリオン抗体、およびその他必要な試薬、ならびに、随意には、陽性および陰性の対照および/または代理(surrogate)陽性対照を含むキットを含む。また、本発明は、本明細書記載のアッセイ法の代理陽性対照として役立つ分子も提供する。
【0035】
本発明のこれらまたはこの他の実施態様は、本明細書の開示内容から当業者には容易に想到できよう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ヒト(配列番号1)およびマウス(配列番号2)のプリオンタンパク質のアミノ酸配列を示す。
【図2】ヒト(配列番号3)、ゴールデンハムスター(ハムスター)(配列番号4)、ウシ(配列番号5)、ヒツジ(配列番号6)、マウス(配列番号7)、ヘラジカ(配列番号8)、ダマジカ(ファロー)(配列番号9)、ミュールジカ(ミュール)(配列番号10)、およびオジロジカ(ホワイト)(配列番号11)に由来するプリオンタンパク質のアラインメントを示す。ヘラジカ、ダマジカ、ミュールジカ、およびオジロジカは、互いに2つの残基、S/N128とQ/E226(太字で示す)で異なっているだけである。
【図3】分図A〜Fは、本明細書記載のペプチド試薬のいずれかを調製するために行うことができる置換の例を示す。各分図においてペプトイドを丸く囲んであり、本明細書記載のペプチド試薬の一例(配列番号14、QWNKPSKPKTN)中に示されているが、その例中では、プロリン残基(配列番号14の8番目の残基)がN−置換グリシン(ペプトイド)残基で置換されている。分図Aは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(S)−(1−フェニルエチル)グリシンを表し;分図Bは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(4−ヒドロキシフェニル)グリシンを表し;分図Cは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(シクロプロピルメチル)グリシンを表し;分図Dは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(イソプロピル)グリシンを表し;分図Eは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(3,5−ジメトキシベンジル)グリシンを表し;また、分図Fは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−アミノブチルグリシンを表す。
【図4】実施例2に記載したウエスタンブロッティング実験の結果を示す。レーン1および2は、正常なマウス脳のホモジネート(レーン1、「C」と表示)および変性感染マウス脳のホモジネート(レーン2、「Sc」と表示)中にプリオンタンパク質が存在することを示している。レーン3、4、および5は、ヒト血漿存在下で、本明細書記載のペプチド試薬(配列番号68)が病原性プリオン型に特異的に結合することを示している。具体的には、レーン3はヒト血漿対照であり、レーン4は、正常なマウス脳のホモジネート試料である。レーン5は、感染マウス脳ホモジネート試料中でペプチド試薬がPrPScに強力に結合することを示している。
【図5】本明細書記載のPEG結合ペプチド試薬の例の構造を示す。
【図6】(QWNKPSKPKTN)2K(配列番号133)の構造を示す。
【図7】分図AからCは、一例となるPrPSc検出アッセイ法を示している。図7Aは、本明細書記載のPrPSc特異的ペプチド試薬でコートした磁気ビーズを用いたPrPScの捕捉法を示している。ビーズと結合PrPScを磁場にプルダウンして洗浄した。図7Bは、溶出、PrPScの変性、およびELISAを行うために変性したPrPScでウェルにコートすることを示す。図7Cは、ウェルにコートされたPrPScを2抗体ELISAで検出することを示す。
【図8】正常なマウス脳ホモジネートの中でさまざまな希釈度のマウスPrPScをELISAで検出できることを示したグラフである。
【図9】分図AおよびBは、ヒト血漿試料に入れたマウスPrPScのELISA検出を示す。図9Aは、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)によるELISA検出を示す。図9Bは、ビオチン−GGGKRPKPGG(配列番号68)によるELISA検出を示す。
【図10】分図AおよびBは、それぞれELISA検出とウエスタンブロット検出を示す。図10Aは、正常なゴールデンハムスターおよびスクレイピーに感染したゴールデンハムスター(SHa)における、PrPScのELISA検出を示す。図10Aは、プロテイナーゼKによる分解をせずにプルダウンしたPrPScを、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)(黒棒)またはビオチン−GGGKRPKPGG(配列番号68)(白棒)のELISA検出を示す。図10Bは、PK分解した試料のウエスタンブロット解析を示す。「MW」は分子量を表す。レーン1および2は、正常なSHa脳ホモジネートの2つの異なる試料の解析結果を示す。レーン3および4は、PrPScSHa脳ホモジネートの2つの異なる試料の解析結果を示す。レーン6は、PrPScマウス脳ホモジネートの解析結果を示す。
【図11】正常なマウス、およびシカPrP遺伝子を導入している感染マウスから得た試料についてのELISAの結果を示すグラフである。QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)(黒色および淡灰色の長方形)、ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGLGG−CONH2(配列番号136)(淡灰色の長方形)、およびビオチン−GGGKRPKPGG(配列番号68)(濃灰色の長方形)を用いてPrPScをプルダウンし、ELISA法で検出した。
【図12】分図AおよびBは、それぞれウエスタンブロット検出とELISA検出を示す。図12Aは、CJDのウエスタンブロット解析による検出結果を示す(sCJD、vCJD、感染SHa)。図12Bは、プロテイナーゼK分解を用いてプルダウンしたCJDのELISAによる検出を示す。
【図13】本明細書記載のさまざまなペプチド試薬を用いて、ヒトvCJD脳のホモジネートからPrPScをELISA検出した結果を示すグラフである。プリオン特異的試薬は以下の通りである:QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14);QWNKPSKPTKTNGGGQWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号51);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(3,5−ジメトキシベンジル)グリシンで置換されているもの(配列番号117);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−アミノブチルグリシンで置換されている(配列番号118);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P8がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されているもの(配列番号111);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P8がN−アミノブチルグリシンで置換されている(配列番号114);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されおり、P8がN−アミノブチルグリシンで置換されている(配列番号131);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(イソプロピル)グリシンで置換されおり、P8がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号132);QWNKPSKPKTN2K−ビオチン(配列番号133);ビオチン−GGGKKRPKPGG(配列番号68);ビオチン−KKRPKPGG、ただし、P6がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号122);ビオチン−GGGKKRPKPGGGQWNKPSKPKTN(配列番号81);4−分枝MAPS−GGGKKRPKPGGWNTGGG−ビオチン(配列番号134);8−分枝MAPS−GGGKKRPKPGGWNTGGG−ビオチン(配列番号135);ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGGLGGYMLGSAM(配列番号57);ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGGLGG−CONH2(配列番号136);およびビオチン−GGGKKKKKKKK(配列番号85)。
【図14】病原性プリオンを含むことが疑われる試料とインキュベートする前にビーズ上にペプチド試薬をコートした場合の検出結果を、試料とインキュベートした後にビーズ上にペプチド試薬をコートした場合と比較したものを示す。予めコートした場合(黒丸)の方が、インキュベートした後にコートした場合(白丸)よりも検出の効率が約100倍高かった。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明は、(非病原性プリオンタンパク質と比較して)病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するペプチド試薬の使用を改良ELISA法と併用する、病原性プリオンタンパク質の検出法を提供する。
【0038】
本発明は、比較的低分子のペプチド(長さが50〜100アミノ酸以下、好ましくは長さが50アミノ酸以下、さらに好ましくは、長さが約30アミノ酸以下)を用いて、非病原性プリオンタンパク質と病原性プリオンタンパク質とを識別することができるという驚くべき予想外の発見に関する。したがって、本発明の開示は、これらのペプチドおよびその誘導体(「ペプチド試薬」と総称する)が、異なった特異性および/またはアフィニティーで病原性タンパク質と非病原性タンパク質に結合することができ、その結果、それらだけで、診断/検出試薬、または治療組成物の成分として使用することができるという驚くべき発見に関する。本開示以前は、より大型の分子(例えば、抗体、PrPC、α型rPrPおよびプラスミノーゲン)だけが、病原型および非病原型を区別するために使用できると考えられていた。そのため、既述の抗原ペプチドは、病原型と非病原型とを識別することができると評価された抗体の作製に使用されていた。しかし、プリオンタンパク質は比較的非免疫原性であるため、病原型に対して特異的な抗体を産生することは難しいことが判明した。例えば、R.A.Williamson et al.“Antibodies as Tools to Probe Prion Protein Biology”in PRION BIOLOGY AND DISEASES,ed.S.Prusiner,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999,pp:717−741参照。
【0039】
本明細書記載の一定のペプチドが、病原性(PrPSc)プリオンタンパク質と選択的に相互作用するという発見によって、とりわけ、診断学、検出分析、および治療学では新規の試薬の開発が可能になる。したがって、本発明はペプチド試薬に関しており、さらには、これらのペプチド試薬を利用する検出分析および診断アッセイ法、これらのペプチド試薬を利用する精製法または単離法、ならびにこれらのペプチド試薬を含む治療組成物に関する。また、これらのペプチド試薬をコードするポリヌクレオチド、およびこれらのペプチド試薬を用いて作製される抗体も提供される。本明細書記載のペプチド試薬、ポリヌクレオチドおよび/または抗体は、例えば、生体試料の中に病原性プリオンが存在することを検出するための組成物および方法において有用である。さらに、本発明は、このようなペプチド試薬、抗体および/またはポリヌクレオチドを治療用または予防用の組成物の成分として用いる方法にも関する。
【0040】
本発明において用いられるペプチド試薬は、非病原性アイソフォームと比較して、病原性アイソフォームと選択的に相互作用するペプチドを含む。例えば、一定の実施態様において、本明細書記載のペプチド試薬は、病原性コンフォメーション病タンパク質型には特異的に結合するが、非病原型とは結合しない(または、より低い程度で結合する)。本明細書記載のペプチド試薬を用いて、例えば、抗体を作製することができる。これらの抗体は病原型、非病原型、または両方を認識する可能性がある。これらの分子は、診断アッセイ法および/または予防用もしくは治療用の組成物において、単独で、またはさまざまな組み合わせでも有用である。
【0041】
本発明の実施では、別途記載がない限り、当技術分野の範囲内で、化学、生化学、分子生物学、免疫学および薬理学の従来の方法が用いられる。このような技術は文献において十分に説明されている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition(Easton,Pennsylvania;Mack Publishing Company、1990)、Methods In Enzymology(S.Colowick and N.Kaplan,eds., Academic Press, Inc.)、およびHandbook of Experimental Immunology,Vols.I−IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986,Blackwell Scientific Publications)、Sambrook,et
al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition,1989);Handbook of Surface
and Colloidal Chemistry(Birdi,K.S.ed.,CRC Press,1997)、Short Protocols in Molecular Biology,4th ed.(Ausubel et al.eds.,1999,John Wiley & Sons);Molecular Biology
Techniques:An Intensive Laboratory Course,(Ream et al.,eds.,1998,Academic Press);PCR(Introduction to Biotechniques Series),2nd ed.(Newton & Graham eds.,1997,Springer Verlag)、Peters and Dalrymple,Fields Virology(2d ed),Fields et al.(eds.),B.N.Raven Press, New York, NY参照。
【0042】
当然のことながら、本発明のペプチド試薬、抗体および方法は、当然に変化する可能性のある特定の処方または処理パラメーターに限定されない。また、当然のことながら、本明細書において用いられる用語は、本発明の特定の実施態様を説明するためだけのものであって、限定的であることを意図するものではない。
【0043】
本明細書中のすべての刊行物、特許および特許出願は、その全体が参照されて本明細書に組み込まれる。
【0044】
I.定義
本発明を理解することを容易にするために、本出願の中で使用される、選択された用語を以下で考察する。
【0045】
「プリオン」、「プリオンタンパク質」、「PrPタンパク質」および「PrP」という用語は、本明細書において同義的に用いられ、病原性タンパク質型(スクレイピータンパク質、病原性タンパク質型、病原性アイソフォーム、病原性プリオンおよびPrPScと、さまざまに呼ばれる)、および非病原型タンパク質型(細胞タンパク質型、細胞アイソフォーム、非病原性アイソフォーム、非病原性プリオンタンパク質、およびPrPCとさまざまに呼ばれる)ならびに病原性コンフォメーションも正常な細胞コンフォメーションももたない可能性があるプリオンタンパク質の変性型およびさまざまな組み換え型を意味する。病原タンパク質型は、ヒトまたは動物における疾患(海綿状脳症)に付随しているが、非病原型は動物細胞の中に普通に存在しているので、適当な条件下で、病原性PrPScコンフォメーションに変わる可能性がある。プリオンは、ヒト、ヒツジ、ウシ、およびマウスなど、多様な哺乳動物種において自然に産生される。ヒトプリオンタンパク質の代表的なアミノ酸配列を配列番号1として示す。マウスプリオンタンパク質の代表的なアミノ酸配列を配列番号2として示す。その他の代表的な配列を図2に示す。
【0046】
本明細書では、「病原性の」という用語は、タンパク質が実際に病気を引き起こすことを意味するか、または、タンパク質が、病気に関連しているために、この病気が現れるときに、それが存在することを単純に意味する。したがって、本開示内容に関連して用いられる病原性タンパク質は、必ずしもある病気の特定の原因因子であるタンパク質というわけではない。病原型は感染性があってもなくてもよい。「病原性プリオン型」という用語は、より具体的には、哺乳類、鳥類または組み換え型のプリオンタンパク質のコンフォメーションおよび/またはβシートリッチコンフォメーションを意味する。通常、βシートリッチ構造はプロテイナーゼK耐性である。「非病原性」および「細胞性」という用語は、コンフォメーション病タンパク質型に関して用いられる場合には、同義的に使用され、その存在が病気とは関連しないタンパク質の正常型アイソフォームを意味する。
【0047】
さらに、本明細書では、「プリオンタンパク質」または「コンフォメーション病タンパク質」は、本明細書記載の配列そのものを有するポリヌクレオチドに限定されない。これらの用語が、確認済みのまたは未同定の種もしくは病気(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病など)のいずれかに由来するコンフォメーション病タンパク質型を含むことは容易に明白である。当業者は、本開示の教示内容および技術分野を考慮して、例えば、配列比較プログラム(例えば、本明細書記載のBLASTなど)、または構造的特徴またはモチーフを同定およびアラインメントを用いて、別のプリオンタンパク質で、図に示されている配列に対応する領域を決定することができる。
【0048】
本明細書において、「PrP遺伝子」という用語は、既知の遺伝子多型および病原性突然変異を含むプリオンタンパク質を発現する任意の遺伝物質を表すために使用される。「PrP遺伝子」という用語は、任意の型のPrPタンパク質をコードする、任意の種の任意の遺伝子を一般的に意味する。一般に知られているいくつかのPrP配列が、Gabriel et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:9097−9101(1992)ならびに米国特許第5,565,186号、第5,763,740号、第5,792,901号および国際特許公開第97/04814号に記載されており、それらの配列を開示および説明するために参照されて本明細書に組み込まれる。PrP遺伝子は、本明細書記載の「宿主」動物および「実験」動物など任意の動物、ならびにそれらのありとあらゆる遺伝子多型および変異型に由来することができるが、これらの用語は、未だ発見されるに至っていない他のPrP遺伝子も含むものと理解される。このような遺伝子によって発現されるタンパク質は、PrPC(無病)型またはPrPSc(有病)型のいずれかと見なすことができる。
【0049】
本明細書において「プリオン関連疾患」は、全体的または部分的に、病原性プリオンタンパク質(PrPSc)によって引き起こされる病気を意味する。プリオン関連疾患は、スクレイピー、ウシ海綿状脳症(BSE)、狂牛病、ネコ海綿状脳症、クールー病、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(nvCJD)、慢性消耗病(CWD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、および致死性家族性不眠症(FFI)などであるが、これらに限定されない。
【0050】
本明細書において用いられる「ペプチド試薬」という用語は、一般的にアミノ分子および/またはイミノ分子だけを含む化合物など、天然または合成のアミノ酸分子またはアミノ酸様分子のポリマーを意味する。本発明のペプチド試薬は、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用し、典型的には、プリオンタンパク質の断片に由来する。「ペプチド」という用語は、「オリゴペプチド」または「ポリペプチド」と同義的に用いられるが、これらの用語によって、特定のサイズが示唆されるわけではない。この定義の中には、例えば、一つのアミノ酸のアナログを一つ以上含むペプチド(例えば、非天然型アミノ酸、ペプトイドなど)、置換結合を有するペプチド、および天然または非天然(例えば、合成)の、当技術分野において知られているその他の修飾を有するペプチドが含まれる。したがって、合成ペプチド、二量体、多量体(例えば、タンデム反復、多重抗原ペプチド(MAP)型、直鎖状に連結したペプチド)、環状化した分岐分子などがこの定義に含まれる。また、これらの用語は、1つ以上のN−置換グリシン残基(「ペプトイド」)およびその他の合成アミノ酸またはペプチドを含む分子を含む(ペプトイドの説明については、例えば、米国特許第5,831,005号;第5,877,278号;および第5,977,301号;Nguyen et al.(2000)Chem Biol.7(7):463−473;およびSimon et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(20)9367−9371参照)。本発明に用いるのに適した非限定的なペプチドの長さは、長さ3〜5残基、長さ6〜10残基(またはその間の任意の整数)、長さ11〜20残基(またはその間の任意の整数)、長さ21〜75残基(またはその間の任意の整数)、長さ75〜100残基(またはその間の任意の整数)のペプチド、または長さ100残基よりも長いポリペプチドなどである。典型的には、本発明において有用なペプチドは、目的の用途に適した最大限の長さを有することが可能である。好ましくは、ペプチドは長さ約3〜100残基の間である。一般的に、当業者は、本明細書の教示内容を考慮して、最大限の長さを容易に選択することができる。さらに、本明細書記載のペプチド試薬、例えば、合成ペプチドは、標識、リンカー、またはその他の化学成分(例えば、ビオチン、コントロールレッドまたはチオフラビンなどのアミロイド特異的色素)などの付加的分子を含むことができる。このような成分は、ペプチドがプリオンタンパク質と相互作用すること、および/または、さらにプリオンタンパク質を検出することを促進することができる。
【0051】
また、ペプチド試薬は、1個以上の非天然型アミノ酸など、1つ以上の置換、付加および/または欠失を有する、本発明のアミノ酸配列の誘導体も含む。好ましくは、誘導体は、任意の野生型配列または参照配列に対して、少なくとも約50%の同一性を示し、好ましくは少なくとも約70%の同一性、より好ましくは、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を、本明細書記載の任意の野生型配列または参照配列に対して示す。配列(またはパーセント)同一性は下記のように測定することができる。このような誘導体は、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などを含んでもよい。
【0052】
また、ペプチド誘導体は、ポリペプチドが所望の活性を維持する限り、欠失、付加および置換(本来、一般的に保存的である)など、本来の配列を改変したものを含んでもよい。これらの改変は、部位特異的変異誘発などによる意図的なものでも、これらのタンパク質を産生する宿主の突然変異、またはPCR増幅による誤差などを介した偶然性のものであってもよい。さらに、以下の効果の一つ以上を有する改変を行うことができる:毒性の低下;プリオンタンパク質に対するアフィニティーおよび/または特異性の強化;細胞のプロセッシング(例えば、分泌、抗原提示など)の促進;およびB細胞および/またはT細胞に対する提示の促進。本明細書記載のポリペプチドは、組み換えによって、合成によって、天然源から精製によって、または組織培養によって作製することができる。
【0053】
本明細書において「断片」は、自然で見られるような無傷で完全長のタンパク質および構造の一部のみからなるペプチドを意味する。例えば、断片は、タンパク質のC末端欠失および/またはN末端欠失を含んでもよい。典型的には、この断片は、それが由来する完全長ポリペプチド配列の機能の一つ、一部、または全部を保持する。典型的には、断片は天然型タンパク質の少なくとも5つの連続したアミノ酸残基、好ましくは天然タンパク質の少なくとも約8個の連続したアミノ酸残基、より好ましくは少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個の連続したアミノ酸残基を含む。
【0054】
当技術分野において知られているように、「ポリヌクレオチド」という用語は一般的に核酸分子を意味する。「ポリヌクレオチド」は二本鎖配列および一本鎖配列を含むことができ、原核生物の配列、真核生物のmRNA、ウイルス由来cDNA、原核生物または真核生物のmRNA、ウイルス(例えば、RNAおよびDNAウイルスならびにレトロウイルス)由来のゲノムRNA配列およびゲノムDNA配列、原核生物のDNAまたは真核生物(例えば、哺乳動物)のDNA、ならびに特に合成DNA配列を意味するが、これらに限定されない。また、この用語は、DNAおよびRNAの既知の塩基類似体のいずれかを含む配列も捕捉し、天然型配列に対する欠失、付加および置換(本来は、一般的に保存的である)などの改変を含む。これらの改変は、部位特異的変異誘発などによる意図的なものでも、プリオンタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主の突然変異による偶然性のものであってもよい。ポリヌクレオチドの改変は、例えば、宿主細胞の中でポリペプチド産物の発現を促進するなど、いくつかの効果を有する。
【0055】
ポリヌクレオチドは、生物学的に活性な(例えば、免疫原性のまたは治療効果のある)タンパク質またはポリペプチドをコードすることができる。ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの性質により、ポリヌクレオチドは、例えば、このポリヌクレオチドが抗原またはエピトープをコードする場合、わずか10個のヌクレオチドしか含まないこともある。一般的には、ポリヌクレオチドは、少なくとも18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、30個またはさらに多くのアミノ酸からなるペプチドをコードする。
【0056】
「ポリヌクレオチドコード配列」、または選択されたポリペプチドを「コードする」配列は、適当な制御配列(または「調節因子」)の調節下に置かれると、インビボでポリペプチドへと転写(DNAの場合)および翻訳(RNAの場合)される核酸分子である。コード配列の範囲は、5’(アミノ)末端にある開始コドン、および3’(カルボキシル)末端にある翻訳終止コドンによって決定される。転写終結配列は、コード配列に対して3’側に位置していよう。典型的な「調節因子」は、プロモーター、転写エンハンサー因子、転写終結シグナル、およびポリアデニル化配列などの転写調節因子;および、翻訳開始を最適化するための配列、例えば、シャイン・ダルガーノ(リボソーム結合部位)配列、コザック配列(すなわち、例えば、コード配列の5’側に位置する、翻訳を最適化するための配列)、リーダー配列(異種性または天然型)、翻訳開始コドン(例えば、ATG)、および翻訳終結配列などの翻訳調節因子を含む。プロモーターは、誘導プロモーター(プロモーターに機能できるよう結合しているポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、共同因子、調節タンパク質などによって誘導される場合)、抑制プロモーター(プロモーターに機能できるよう結合しているポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、共同因子、調節タンパク質などによって誘導される場合)、および構成的プロモーターなどを含みうる。
【0057】
「機能できるように結合している」とは、このように表される成分がその通常の機能を果たすように構成されている、因子の並び方を意味する。したがって、コード配列に機能できるように結合しているプロモーターは、適当な酵素が存在すると、コード配列の発現に影響をもたらすことができる。プロモーターは、その発現を指示するように機能する限り、コード配列に隣接している必要はない。したがって、例えば、翻訳されないが転写はされる介在配列が、プロモーター配列とコード配列の間に存在していてもよく、プロモーター配列は依然として、コード配列に「機能できるように結合している」とみなすことができる。
【0058】
本明細書で核酸分子を表すために使用される「組み換え」核酸分子は、ゲノム、cDNA、半合成、または合成起源のポリヌクレオチドが、その起源または操作によって、(1)本来は会合しているポリヌクレオチドの全部または部分と会合していないこと、および/または(2)本来は連結しているポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドに連結してることを意味する。タンパク質またはポリペプチドに関して用いられる「組み換え」という用語は、組み換えポリヌクレオチドの発現によって生成されるポリペプチドを意味する。「組み換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」、および、単細胞物として培養される原核微生物または真核細胞株を意味するその他同様の用語は、同義的に用いられて、組み換えベクターまたはその他のトランスファーDNAのレシピエントとして用いることができるか、用いられてきた細胞を意味し、トランスフェクトされた最初の細胞の子孫を含む。当然のことながら、単一の親細胞の子孫は、偶発的または意図的な突然変異によって、最初の親細胞に対して、形態またはゲノムDNAもしくは全DNAの相補性において必ずしも完全に同一である必要はない。所望のペプチドをコードするヌクレオチド配列が存在することなど、関連する性質によって、親細胞に十分似ていると特徴づけられる親細胞の子孫は、この定義が意図する子孫に含まれ、上記の用語に包含される。
【0059】
「単離した」は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドについて言う場合、指示された分子が、自然では該分子が一緒に存在する全生物体から分離および隔離されていること、または、このポリヌクレオチドまたはポリペプチドが天然には存在しない場合、他の生体高分子から十分に遊離されているため、このポリヌクレオチドまたはポリペプチドを本来の使用目的に用いることができることを意味する。
【0060】
当技術分野において知られている「抗体」は、化学的または物理的手段によって、目的とするポリペプチドのエピトープに結合または会合することができる1つ以上の生物学的成分などである。例えば、本発明の抗体は、病原性プリオンのコンフォメーションをもつものと選択的に相互作用する(例えば、特異的に結合する)ことができる。「抗体」という用語は、ポリクローナル標本およびモノクローナル標本から得られる抗体、ならびに以下のものを含む:ハイブリッド(キメラ)抗体分子(例えば、Winter et al.(1991)Nature 349:293−299、および米国特許第4,816,567号参照);F(ab’)2およびF(ab)断片;Fv分子(非共有結合ヘテロ二量体、例えば、Inbar et al.(1972)Proc Natl Acad Sci USA 69:2659−2662、およびEhrlich et al.(1980)Biochem 19:4091−4096参照)、一本鎖Fv分子(sFv)(例えば、Huston et al.(1988)Proc Natl Acad Sci USA 85:5897−5883参照)、二量体および三量体の抗体断片コンストラクト、ミニボディー(minibodies)(例えば、Pack et al.(1992)Biochem 31:1579−1584、Cumber et al.(1992)J Immunology 149B:120−126参照)、ヒト化抗体分子(例えば、Riechmann et al.(1988)Nature 332:323−327、Verhoeyan et al.(1988)Science 239:1534−1536、および1994年9月21日公開の英国特許公開第GB2,276,169号参照)、および、このような分子から得られる任意の機能断片であって、親抗体分子の免疫学的結合特性を保持する機能断片。「抗体」という用語は、ファージ提示法など、非従来型処理法によって得られる抗体をさらに含む。
【0061】
本明細書では、「モノクローナル抗体」という用語は、均質な抗体集団を含む抗体組成物を意味する。この用語は、抗体の種または源に関して限定されるものではなく、それが作製された方法によって限定されるものでもない。したがって、この用語は、マウスハイブリドーマから得られる抗体、およびマウスハイブリドーマではなくヒトハイブリドーマを用いて得られるヒトモノクローナル抗体を包含する。例えば、Cote,et al.Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,1985,p77参照。
【0062】
ポリクローナル抗体が所望であれば、通常は、選択された哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫原性組成物(例えば、本明細書記載のペプチド試薬)によって免疫する。免疫された動物から血清を回収し、周知の手順に従って処理する。選択されたペプチド試薬に対するポリクローナル抗体を含む血清が、その他の抗原に対する抗体を含んでいる場合には、ポリクローナル抗体を免疫アフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。ポリクローナル抗血清を産生および加工する技術は当技術分野において知られている。例えば、Mayer and Walker,eds,(1987)IMMUNOCHEMICAL METHODS IN CELL AND MOLECULAR BIOLOGY(Academic Press,London)参照。
【0063】
当業者は、本明細書記載のペプチド試薬に対するモノクローナル抗体を容易に生成することもできる。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製するための一般的な方法は当技術分野においてよく知られている。細胞融合によって、また、腫瘍DNAでBリンパ球を直接形質転換するか、エプスタイン−バーウイルスをトランスフェクトするなど他の技術によって、不死化抗体産生細胞株を作成することができる。例えば、M.Schreier et al.(1980)HYBRIDOMA TECHNIQUES、Hammerling et al.(1981)MONOCLONAL ANTIBODIES AND T‐CELL HYBRIDOMAS、Kennett et al.(1980)MONOCLONAL ANTIBODIES参照;また、米国特許第4,341,761号、第4,399,121号、第4,427,783号、第4,444,887号、第4,466,917号、第4,472,500号、第4,491,632号、および第4,493,890号参照。
【0064】
本明細書では、「シングルドメイン抗体」(dAb)は、VHドメインからなる抗体であり、所定の抗原と特異的に結合する。dAbはVLドメインを含まないが、抗体、例えば、κおよびλドメインに対して存在することが知られている、その他の抗原結合ドメインを含むことができる。dAbを調製するための方法は当技術分野において知られている。例えば、Ward et al.Nature 341:544(1989)参照。
【0065】
また、抗原はVHドメインおよびVLドメイン、ならびにその他の既知の抗原結合ドメインから構成されうる。このような型の抗体の例、およびそれらを調製するための方法は当技術分野において知られており(例えば、米国特許第4,816,467号参照。これは参照されて本明細書に組み込まれる)、以下のものを含む。例えば、「脊椎動物の抗体」は、通常「Y」字構造に凝集していて、鎖同士の間に共有結合があってもなくてもよい軽鎖および重鎖を含む、四量体またはその凝集体である抗体を意味する。脊椎動物の抗体では、これらの鎖のアミノ酸配列は、インサイツであろうとインビトロであろうと(例えば、ハイブリドーマの中で)、脊椎動物の中で産生された抗体に存在するアミノ酸配列と相同である。脊椎動物抗体は、例えば、精製されたポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体などであり、これらを調製する方法は本明細書に記載されている。
【0066】
「ハイブリッド抗体」は、哺乳動物の抗体鎖に関して、鎖が別々に相同な抗体であって、それらの新規の集合体を表し、その結果、2つの異なる抗原が四量体または凝集体によって沈殿されうる抗体である。ハイブリッド抗体では、一組の重鎖と軽鎖が、第一の抗原に対して作製された抗体の中に存在する重鎖と軽鎖に相同であり、第二の組の鎖が、第二の抗体に対して産生された抗体の中に存在する鎖と相同である。その結果、「二価」という性質、すなわち2つの抗原に同時に結合する能力がもたらされる。また、下記に記載するように、このようなハイブリッドは、キメラ鎖を用いて形成させることもできる。
【0067】
「キメラ抗体」は、重鎖および/または軽鎖が融合タンパク質である抗体を意味する。典型的には、鎖のアミノ酸配列の一部が、特定の種または特定のクラスに由来する抗体の中にある対応配列に相同であるが、この鎖の残余の部分は、別の種および/またはクラスに由来する配列と相同である。通常、軽鎖および重鎖の可変領域は、脊椎動物の一つの種に由来する可変領域または抗体を模倣するが、定常部分は、脊椎動物の別の種に由来する抗体の中にある配列と相同である。しかし、この定義はこの特別な例に限定されない。また、起源が異なったクラスに由来しようと、異なった由来源の種に由来しようと、また、融合点が可変領域/定常領域の境界線にあろうなかろうと、重鎖または軽鎖の一方または両方が、異なった起源の抗体の中にある配列を模倣した配列の組み合わせからなる抗体も含まれる。したがって、定常領域および可変領域のどちらも、既知の抗体配列を模倣しない抗体を作製することが可能である。そのため、例えば、可変領域が特定の抗体に対してより強い特異的なアフィニティーを有する抗体や、定常領域が補体結合の促進を誘発することができる抗体を構築することが可能となり、あるいは、特定の定常領域が有する特性をさらに改良することが可能となる。
【0068】
別の例は「改変抗体」であって、脊椎動物抗体の中にある天然のアミノ酸配列が改変されている抗体を意味する。組み換えDNA技術を利用して、抗体を再設計して、所望の特性を得ることができる。可能な変更は数多くあり、1つ以上のアミノ酸を変更することから、ある領域、例えば、定常領域を完全に再設計することにまで及ぶが、通常は、所望の細胞過程特性、例えば、補体結合、膜との相互作用、およびその他のエフェクター機能の変更を達成するために行われる。可変領域の変更を行って、抗体結合特性を変えることができる。また、抗体を改造して、特定の細胞または組織部位への分子または物質の特異的送達を助けることができる。分子生物学における周知の技術、例えば、組み換え技術、部位特異的変異誘発などによって所望の改変を行うことができる。
【0069】
さらにもう一つの例は「一価抗体」であって、これは、第二の重鎖のFc(すなわち、ステム)領域に結合している重鎖/軽鎖二量体からなる凝集体である。この型の抗体は抗原変調(antigenic modulation)を免れる。例えば、Glennie et al.Nature 295:712(1982)参照。また、抗体の定義には、抗体の「Fab」断片も含まれる。「Fab」領域は、重鎖および軽鎖の分岐部を含む配列とほぼ同一か類似している、重鎖および軽鎖の部位であって、特定の抗原に対する免疫学的結合を示すことが分かっているが、エフェクターFc部位を欠いた部分を意味する。「Fab」は、1つの重鎖および1つの軽鎖(Fab’として一般に知られている)の凝集体、ならびに2H鎖および2L鎖を含む四量体(F(ab)2と呼ばれる)であって、所定の抗原または抗原ファミリーと選択的に反応することができる四量体を含む。Fab抗体は、上記のものに類似したサブセット、すなわち、「脊椎動物Fab」、「ハイブリッドFab」、「キメラFab」および「改変型Fab」に分けることができる。抗体のFab断片を作成する方法は、当技術分野において知られており、例えば、タンパク質分解、および組み換え技術による合成などがある。
【0070】
「抗原抗体複合体」は、抗原の上のエピトープに特異的に結合した抗体によって形成される複合体を意味する。
【0071】
ペプチド(またはペプチド試薬)は、特異的、非特異的、または特異的結合と非特異的結合の組み合わせで結合すれば、別のペプチドまたはタンパク質と「相互作用する」と言う。ペプチド(またはペプチド試薬)は、非病原性アイソフォームよりも病原型に対してより強いアフィニティーまたは特異性で結合するとき、病原性プリオンタンパク質と「選択的に相互作用する」と言う。また、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するペプチド試薬は、本明細書において、病原性プリオン特異的ペプチド試薬と呼ぶ。当然のことながら、選択的な相互作用は、特定のアミノ酸残基および/または各ペプチドのモチーフとの間で相互作用することを必ずしも必要としない。例えば、ある実施態様において、本明細書記載のペプチド試薬は、病原性アイソフォームと選択的に相互作用するが、それにもかかわらず、微弱ではある検出可能なレベル(例えば、目的とするポリペプチドに対して示された結合の10%以下)で非病原性アイソフォームに結合できるかもしれない。一般的に、弱い結合、あるいはバックグラウンド結合は、例えば、適当な対照を用いることで、目的とする化合物またはポリペプチドとの選択的な相互作用から簡単に識別できる。通常、本発明のペプチドは、非病原型のほうが106倍多く存在していても、病原性プリオンに結合する。
【0072】
「アフィニティー」という用語は結合の強さを意味し、解離定数(Kd)で定量的に表すことができる。好ましくは、病原型アイソフォームと選択的に相互作用するペプチド(またはペプチド試薬)は、非病原型アイソフォームと相互作用するよりも、少なくとも2倍のアフィニティー、より好ましくは少なくとも10倍のアフィニティー、さらに好ましくは少なくとも100倍のアフィニティーで、病原型アイソフォームと相互作用する。結合アフィニティー(Kd)は標準的な技術を用いて決定することができる。
【0073】
アミノ酸配列の「類似性」または「同一性の割合」を決定するための技術は、当技術分野においてよく知られている。一般的に、「類似性」は、適当な位置における2つ以上のポリペプチドのアミノ酸対アミノ酸の比較において、アミノ酸が同一か、電荷または疎水性などの類似した化学的および/または物理的特性を有することを意味する。そして、比較されるポリペプチド配列の間で、いわゆる「同一性の割合」を決定することができる。また、核酸配列とアミノ酸配列の同一性を測定する方法も当技術分野においてよく知られており、その遺伝子についてmRNAの塩基配列を(通常はcDNA中間体を介して)決定すること、およびそれによってコードされるアミノ酸配列を決定すること、およびこれを別のアミノ酸配列と比較することを含む。一般的に、「同一性」は、2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列のそれぞれヌクレオチド同士またはアミノ酸同士が正確に一致していることを意味する。
【0074】
2つ以上のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列は、その「同一性の割合」を決定して比較することができる。同一性の割合は、配列を整列させ、整列させた2つの配列の一致数を正確に数え、参照配列の長さで除し、その結果を100倍することによって、2つの分子(参照配列、および参照配列に対する同一性の割合が分からない配列)の配列情報を直接比較して決定することができる。簡単に利用できるコンピュータープログラムを利用して解析に役立てることができる。例えば、ペプチドを解析するためにSmith and Waterman Advances in Appl.Math.2:482−489,1981の局所的相同性アルゴリズムを採用する、Atlas of Protein Sequence and Structure M.O.Dayhoff ed.,5 Suppl.3:353−358,National biomedical Research Foundation,Washington,DCに記載されているALIGN、Dayhoff、M.O.などがある。ヌクレオチド配列の同一性を決定するためのプログラムは、the Wisconsin Sequence Analysis Package,Version8(Genetics Computer Group,Madison,WIから入手可能)で利用することができ、例えば、BESTFIT、FASTAおよびGAPプログラムがあるが、これらも、Smith and Watermanのアルゴリズムに依拠している。これらのプログラムは、製造業者が推奨し、前記のWisconsin Sequence Analysis Packageの中に記載されているデフォルトのパラメーターを用いて容易に利用できる。例えば、参照配列に対する特定のヌクレオチド配列の同一性の割合は、デフォルトのスコアテーブル、および6つのヌクレオチド部位のギャップペナルティを用いるSmith and Watermanのホモロジーアルゴリズムを用いて決定することができる。
【0075】
本発明との関連で同一性の割合を確認するための別の方法は、エジンバラ大学が著作権を有し、John F. CollinsおよびShane S. Sturrockによって開発され、多数の情報源、例えば、インターネット上から入手可能な、商標MPSRCHプログラムパッケージを使用することである。このパッケージ一式から、デフォルトパラメーター(例えば、ギャップオープンペナルティが12、ギャップエクステンションペナルティが1、およびギャップが6)がスコアテーブルに使用されているSmith‐Watermanのアルゴリズムを使用することができる。作成されたデータから、「マッチ」値は「配列同一性」を反映している。配列間の同一性または類似性を計算するためのその他の適当なプログラムが一般的に当技術分野において知られている。例えば、別のアラインメントプログラムはBLASTであり、デフォルトパラメーターで使用される。例えば、BLASTNおよびBLASTPを、以下のデフォルトパラメーターを用いて使用することができる:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;鎖=両鎖;カットオフ=60;期待値=10;マトリクス=BLOSUM62;記載=50配列;ソート順=高スコア順;データベース=非重複GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳配列+Swissプロテイン+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は簡単に入手できる。
【0076】
本明細書の中で用いられる「免疫原性組成物」は、この組成物を患者に投与すると、患者の体内で液性および/または細胞性の免疫反応が生じる組成物(例えば、ペプチド、抗体および/またはポリペプチド)を意味する。免疫原性組成物は、注射、吸入、経口、鼻腔、またはその他、非経口もしくは粘膜による投与経路(例えば、直腸内または膣内)などによって、投与対象患者に直接導入することができる。
【0077】
「エピトープ」は、特定のB細胞および/またはT細胞が反応して、そのエピトープを含む分子を、免疫反応を誘発することができるようにするか、生体試料の中に存在する抗体と反応することができるようにする抗体上の部位を意味する。また、この用語は「抗原決定基」または「抗原決定部位」と同義的に用いられる。エピトープは、そのエピトープに独特な立体配置の中に3つ以上のアミノ酸を含むことができる。一般的に、エピトープは少なくとも5個のそのようなアミノ酸からなり、より普通には、少なくとも8〜10個のそのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の立体配置を決定する方法は当技術分野において知られており、例えば、X線結晶構造解析および2次元核磁気共鳴などがある。さらに、所定のタンパク質におけるエピトープの同定は、例えば、疎水性についての諸研究および部位特異的な血清学を用いるなど、当技術分野においてよく知られている技術を使って容易に行われる。また、Geysen et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA(1984)81:3998−4002(ペプチドを迅速に合成して、所定の抗原の中にある免疫原性エピトープの位置を決定する一般的な方法)、米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定して、これを化学的に合成するための手順)、およびGeysen et al.,Molecular Immunology(1986)23:709−715(所定の抗体に対して高アフィニティーをもつペプチドを同定するための技術)参照。同一のエピトープを認識する抗体は、一つの抗体が、別の抗体が標的抗原に結合するのを阻害することができることを示す単純な免疫アッセイで同定することができる。
【0078】
本明細書の中で用いられる「免疫学的反応」または「免疫反応」は、ポリペプチドがワクチン組成物の中に存在すると、本明細書に記載されているようなペプチドに対する液性および/または細胞性の免疫反応が患者の体内で生じることを意味する。また、これらの抗体は、感染力を中和して、および/または、抗体−補体間または抗体依存性細胞傷害を媒介して、免疫された宿主を防御することができる。免疫学的反応性は、競合アッセイなど、当技術分野においてよく知られている標準的な免疫アッセイで測定することができる。
【0079】
「遺伝子移入」または「遺伝子送達」は、目的のDNAを宿主細胞の中に確実に挿入する方法またはシステムを意味する。このような方法は、組み込まれていない移入DNAの一時的発現、移入されたレプリコン(例えば、エピソーム)の染色体外での複製および発現、または、宿主細胞のゲノムDNAへの移入された遺伝物質の組み込みをもたらすことがある。遺伝子送達発現ベクターは、アルファウイルス、ポックスウイルス、ワクシニアウイルスなどに由来するベクターであるが、これらに限定されない。このような遺伝子送達発現ベクターを免疫化に用いる場合、それらは、ワクチン、またはワクチンベクターと呼ぶことができる。
【0080】
「試料」という用語は、生体試料および非生体試料を含む。生体試料は、生体または死体から得られたか、それらに由来するものである。非生体試料は生体に由来するものでも、死体に由来するものでもない。生体試料は、器官(例えば、脳、肝臓、腎臓など)、全血、血液分画、血漿、脳脊椎液(CSF)、尿、涙、組織、臓器、生検など、動物(生体または死体)に由来する試料であるが、これらに限定されない。非生体試料の例は、医薬品、食物、化粧品などである。
【0081】
「標識」または「検出可能な標識」という用語は、放射性同位元素、蛍光剤、発光剤、化学発光剤、酵素、酵素基質、酵素補助因子、酵素阻害剤、発光団、色素、金属イオン、金属ゾル、リガンド(例えば、ビオチンまたはハプテン)など、検出できる分子を意味するが、これらに限定されない。「蛍光剤」という用語は、検出可能な範囲で蛍光を発する能力をもつ物質またはその一部を意味する。本発明とともに使用することができる標識の具体的な例は、フルオレセイン、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、テキサスレッド、ルミノール、アクリジニウムエステル、NADPH、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、グルコース酸化酵素、アルカリンホスファターゼおよびウレアーゼなどであるが、これらに限定されない。また、標識は、エピトープ標識(例えば、His−Hisタグ)、抗体、または増幅可能であるか、そうでなければ検出可能なオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0082】
II.概観
本明細書には、ペプチド試薬を用いて試料の中にある病原性プリオンを検出する方法であって、ペプチド試薬が、例えば、一方の型と選択的に相互作用するが、他方とは相互作用しないことによって、プリオンタンパク質の病原型アイソフォームと非病原型アイソフォームとを区別することができる方法が記載されている。このようなペプチド試薬を使用して、本発明者らは、試料の中に病原性プリオンが存在することを検出するための高感度法を開発した。これらのペプチド試薬は本明細書に記載されており、また、2004年8月13日付で共同出願された米国特許出願第10/917,646号、2005年2月11日付で共同出願された米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日付で共同出願されたPCT出願第PCT/US/2004/026363号に記載されている。これらのペプチド試薬はプリオンの病原型と選択的に相互作用するため、これらを用いて、細胞性(すなわち、非病原型)プリオンタンパク質と病原性プリオンタンパク質を含む試料から病原性プリオンを効率的に分離して濃縮することができる。PrPSCを検出するための既述の方法とは異なり、プロテイナーゼKまたはその他のプロテアーゼによる分解は不要である。ペプチド試薬に結合している病原性プリオンタンパク質を、試料中の他の成分、特に非病原性プリオンタンパク質から簡単に分離するために、典型的には、ペプチド試薬は、固体支持体上、好ましくは電磁ビーズ上で提供される。結合した病原性プリオンタンパク質は、随意に洗浄して、微量の非結合物質を除去することができる。次に、カオトロピック剤を添加するか、好ましくはpHを変化させて、結合した病原性プリオンをペプチド試薬から解離させることができる。
III.A.ペプチド試薬
本発明は、プリオンタンパク質の比較的小さな断片が、プリオンの病原型と選択的に相互作用することができるという本発明者らが発見に一部基づいている。病原性プリオンアイソフォームと選択的な相互作用を示すためには、これらの断片がより大きいタンパク質構造体またはその他の型の足場(scaffold)分子の一部である必要はない。特定の理論に拘泥するわけではないが、ペプチド断片は、恐らくは、非病原性プリオンアイソフォームに存在するコンフォメーションを模倣することによって、非病原性プリオンアイソフォームではなく病原性プリオンアイソフォームに結合できるコンフォメーションを自発的に採るものと思われる。本明細書ではプリオンについて示されているが、あるコンフォメーション病タンパク質の一定の断片が、そのコンフォメーション病タンパク質の病原型と選択的に相互作用するという原則を直ちに他のコンフォメーション病タンパク質に適用して、病原型と選択的に相互作用するペプチド試薬を製造することができる。これらの断片は(例えば、サイズまたは配列特性に関して)出発点を提供するが、これらの断片に多くの改変を加えて、より望ましい属性(例えば、より高いアフィニティー、より高い安定性、より高い溶解性、プロテアーゼに対するより低い感受性、より高い特異性、合成するのがより容易であるなど)を有するペプチド試薬が作製できることは、当業者にとって明白であろう。
【0083】
一般的には、本明細書記載のペプチド試薬は、プリオンタンパク質の病原型と選択的に相互作用することができる。したがって、これらのペプチド試薬によって、病原性プリオンタンパク質の存在を直ちに検出して、生体脳もしくは死体脳、脊椎、またはその他の神経系組織および血液など、生体、非生体を問わず、実質的にいかなる試料においてもプリオン関連疾患を診断することが可能となる。
【0084】
さらに、分岐DNAを用いてシグナル増幅すること(例えば、米国特許第5,681,697号;第5,424,413号;第5,451,503号;第5、4547,025号;および第6,235,483号参照);PCR、ローリングサークル法、サードウエーブインベーダー(Third Wave’s invader)(Arruda et
al.2002.Expert.Rev.Mol.Diagn.2:487;米国特許第6090606号;第5843669号;第5985557号;第6090543号;第5846717号)、NASBA、TMAなどの標的増幅技術を応用すること(米国特許第6,511,809号;欧州特許第0544212A1号);および/または免疫PCR技術(例えば、米国特許第5,665,539号;国際特許公開第98/23962号;第00/75663号;および第01/31056号参照)を応用することなど、適当なシグナル増幅系を用いて、検出をさらに容易にすることができる。
【0085】
ここで、コンフォメーション病タンパク質の病原型と相互作用するペプチド試薬について説明する。本明細書には、コンフォメーション病タンパク質はプリオンタンパク質で例示されている。
【0086】
以下は、2つ以上の異なるコンフォメーションが見込まれているタンパク質が関係している病気の非制限的なリストである。
【0087】
【表1】
さらに、上掲のコンフォメーション病タンパク質はそれぞれ、すべて本発明に含まれるさまざまな系統を生じさせるいくつかの変異型または突然変異型を含む。マウスプリオンタンパク質のさまざまな領域および配列の機能解析を以下に示す。Priola(2001)Adv.Protein Chem.57:1−27も参照。マウス(Mo)、ハムスター(Ha)、ヒト(Hu)、トリ(A)およびヒツジ(Sh)について下記に示す領域および残基に対応するものを、標準的な手順および本明細書中の教示内容に従って、他の種についても容易に決定することができる。
【0088】
【表2−1】
【0089】
【表2−2】
【0090】
【表2−3】
プリオンタンパク質(およびその他のコンフォメーション病タンパク質)は、同じアミノ酸配列を有する、2つの異なる三次元構造を有することにも留意すべきである。一方のコンフォメーションは病気の特徴と関連し、一般的に不溶性であるが、もう一方のコンフォメーションは病気の特徴とは関連せず可溶性である。例えば、Wille, et al.,“Structural Studies of the Scrapie Prion Protein by Electron Crystallography”, Proc.Natl.Acad.Sci USA,99(6):3563−3568(2002)参照。本発明は、プリオンタンパク質に関して例示されているが、列挙された病気、タンパク質および系統に限定されない。
【0091】
したがって、一定の態様において、本明細書記載のペプチド試薬は、天然タンパク質、例えば、コンフォメーション病タンパク質(例えば、プリオンタンパク質)、またはプリオンタンパク質に相同性を示すモチーフもしくは配列を含むタンパク質に由来するアミノ酸配列を含む。特に、本発明のペプチド試薬は、一般的には、天然のプリオンタンパク質に由来する。これらのペプチド試薬は、好ましくは、プリオンタンパク質の一定の領域から得られたアミノ酸配列に由来する。これらの好適な領域は、マウスプリオン配列(配列番号2)について、23〜43位および85〜156位のアミノ酸残基に由来する領域、ならびにその部分領域あることが例示されている。本発明は、マウス配列に由来するペプチド試薬に限定されず、ヒト、ウシ、ヒツジ、シカ、エルク、ハムスターなど、任意の種のプリオン配列から、本明細書に記載されているのと同様の方法で得られるペプチド試薬を含む。プリオンタンパク質に由来する場合、本明細書記載のペプチド試薬は、ポリプロ
リンII型へリックスモチーフを含むかもしれない。このモチーフは、一般配列PxxP(例えば、配列番号1の残基番号102〜105)を典型的に含むが、ただし、他の配列、特にアラニンテトラペプチドも、ポリプロリンII型を形成することが示唆されている(例えば、Nguyen et al.Chem Biol.2000 7:463、Nguyen et al.Science 1998 282:2088、Schweitzer‐Stenner et al.J.Am.Chem Soc.2004 126:2768参照)。PxxP配列において、「x」はどのアミノ酸であってもよく、「P」は、天然配列ではプロリンであるが、本発明のペプチド試薬ではプロリン置換体によって置換されていてもよい。このようなプロリン置換体は、一般にペプトイドと呼ばれるN−置換グリシンなどを含む。したがって、PxxP配列に基づいたポリプロリンII型へリックスを含む、本発明のペプチド試薬において、「P」はプロリンまたはN−置換グリシン残基を表し、「x」は任煮のアミノ酸またはアミノ酸アナログを表す。特に好適なN−置換グリシンは本明細書に記載されている。
【0092】
さらに、ヒト、マウス、ヒツジ、ウシなど、多くの異なった種によって産生されるプリオンタンパク質のポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が知られている。これらの配列に対する変異体も、それぞれの種に存在する。したがって、本発明において用いられるペプチド試薬は、任意の種または変異体のアミノ酸配列の断片または誘導体を含むことができる。例えば、一定の実施態様において、本明細書記載のペプチド試薬は、図2に記載されている配列のいずれか(配列番号3〜11)に由来する。本明細書において具体的に開示されているペプチド試薬の配列は、一般的にマウスプリオンの配列に基づいているが、適当であるならば、当業者は、別の種に由来する対応配列で簡単に置き換えることができる。例えば、もしヒト診断薬または治療薬が所望であれば、マウス配列を対応するヒト配列のものとの置換を容易に行うことができる。具体例においては、およそ85位の残基からおよそ112位の残基までの領域に由来するペプチド試薬(例えば、配列番号35、36、37、40)では、109位の残基に対応する位置にあるロイシンをメチオニンで置換することができ、112位の残基に対応する位置にあるバリンをメチオニンで置換することができ、かつ97位の残基に対応する位置にあるアスパラギンをセリンで置換することができる。同様に、ウシの診断薬が所望であれば、開示されたペプチド配列に適当な置換を行って、ウシのプリオン配列を示すことができる。このようにして、およそ85位の残基からおよそ112位の残基までの領域に由来するペプチド試薬についての上記例を続けると、109位の残基に対応する位置にあるロイシンをメチオニンで置換することができ、また、97位の残基に対応する位置にあるアスパラギンをグリシンで置換することができる。また、これらの配列にアミノ酸の置換、欠失、付加、およびその他の変異を含む、プリオンタンパク質の誘導体を用いることもできる。好ましくは、プリオンタンパク質配列と比較して、どのようなアミノ酸置換、欠失、付加も、ペプチド試薬が病原型と相互作用する能力に影響を及ぼさない。
【0093】
当然のことながら、どのような由来源が本明細書記載のペプチド試薬に用いられようと、これらのペプチド試薬は、既知のプリオンタンパク質に対して必ずしも配列同一性を示すとは限らない。したがって、本明細書記載のペプチド試薬は、コンフォメーション病タンパク質の病原型と選択的に相互作用する能力を保持する限り、天然プリオンタンパク質または本明細書の中で開示されている配列に対して、一つ以上のアミノ酸の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。一定の実施態様では、保存的アミノ酸置換が好ましい。保存的アミノ酸置換は、側鎖が似ているアミノ酸のファミリー内で起きる置換である。遺伝的にコードされたアミノ酸は、通常、以下の4つのファミリーに分類される:(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非電荷極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、まとめて芳香族アミノ酸に分類されることもある。例えば、ロイシンをイソロイシンまたはバリンで、アスパラギン酸をグルタミン酸で、トレオニンをセリンで、または同様に、あるアミノ酸を構造的に類似したアミノ酸で単独に置換しても、生物活性に大きな影響を及ぼさないことが合理的に予想できる。
【0094】
また、天然アミノ酸と非天然アミノ酸アナログとの任意の組み合わせを用いて、本明細書記載のペプチド試薬を作製できることは明らかであろう。遺伝子によってコードされていないが、広く見られるアミノ酸アナログは、オルニチン(Orn);アミノイソ酪酸(Aib);ベンゾチオフェニルアラニン(BtPhe);アルビジイン(Abz);t−ブチルグリシン(Tle);フェニルグリシン(PhG);シクロヘキシルアラニン(Cha);ノルロイシン(Nle);2−ナフチルアラニン(2−Nal);1−ナフチルアラニン(1−Nal);2−チエニルアラニン(2−Thi);1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸(Tic);N−メチルイソロイシン(N−MeIle);ホモアルギニン(Har);Nα−メチルアルギニン(N−MeArg);ホスホチロシン(pTyrまたはpY);ピペコリン酸(Pip);4−クロロフェニルアラニン(4−ClPhe);4−フルオロフェニルアラニン(4−FPhe);1−アミノシクロプロパンカルボン酸(1−NCPC);およびサルコシン(Sar)などであるが、これらに限定されない。本発明のペプチド試薬において用いられるアミノ酸はいずれも、D型異性体、より典型的にはL型異性体であろう。
【0095】
その他に、本明細書記載のペプチド試薬を形成させるために用いることができるアミノ酸の天然アナログはペプトイドなどであり、および/または生物学的な機能的等価物である、アミノ酸のスルホン酸およびボロン酸のアナログなどのペプチド模倣化合物も、本発明の化合物において有用であり、任意にはアイソスターで置換された一つ以上のアミド結合を有する化合物を含む。本発明との関連では、例えば、これらのアイソスターによって連結された遊離基が、−−CONH−−によって連結された遊離基に対して同じ配向に保たれるよう、−−CONH−−を−−CH2NH−−、−−NHCO−−、−−SO2NH−−、−−CH2O−−、−−CH2CH2−−、−−CH2S−−、−−CH2SO−−、−−CH−−CH−−(シスまたはトランス)、−−COCH2−−、−−CH(OH)CH2−−、および1,5−2置換テトラゾールで置換することができる。本明細書記載のペプチド試薬の1つ以上の残基はペプトイドを含むことができる。
【0096】
このように、ペプチド試薬は、一つ以上のN−置換グリシン残基(一つ以上のN−置換グリシン残基を有するペプチドを「ペプトイド」と呼ぶことができる)を含むことができる。例えば、一定の実施態様において、本明細書記載のペプチド試薬の一つ以上のプロリン残基が、N−置換グリシン残基で置換される。これについて適当な具体的なN−置換グリシンは、N−(S)−(1−フェニルエチル)グリシン、N−(4−ヒドロキシフェニル)グリシン、N−(シクロプロピルメチル)グリシン、N−(イソプロピル)グリシン、N−(3,5−ジメトキシベンジル)グリシン、およびN−アミノブチルグリシンなどであるが、これらに限定されない。(例えば、図3)。その他のN−置換グリシンも、本明細書記載のペプチド試薬の配列中の1つ以上のアミノ酸残基を置換するのに適しているかもしれない。これら、およびその他のアミノ酸アナログおよびペプチド模倣体の一般的な概説については、Nguyen et al.(2000)Chem Biol.7(7):463−473、Spatola,A.F.,in Chemistry and
Biochemistry of Amino Acids,Peptides and Proteins,B.Weinstein,eds.,Marcel Dekker,New York,p.267(1983)参照。さらに、Spatola,A.F.,Peptide Backbone Modifications(general review),Vega Data,Vol.1,Issue 3,(March 1983)、Morley,Trends Pharm Sci(general review),pp.463−468(1980)、Hudson,D.et al.,Int J Pept Prot Res,14:177−185(1979)(−−CH2NH−−,CH2CH2−−)、Spatola et al.,Life Sci,38:1243−1249(1986)(‐CH2‐S)、Hann J.Chem.Soc.Perkin Trans.1,307−314(1982)(‐‐CH‐‐CH‐‐、シスおよびトランス)、Almquist et al.,J Med Chem,23:1392−1398(1980)(−−COCH2−−)、Jennings−White et al.,Tetrahedron Lett,23:2533(1982)(−−COCH2−−)、Szelke et al.,European Appln.EP45665CA:97:39405(1982)(−−CH(OH)CH2−−)、Holladay et al.,Tetrahedron Lett,24:4401−4404(1983)(−−C(OH)CH2−−)、およびHruby,Life Sci,31:189−199(1982)(−−CH2−−S−−)参照。以上のものは、それぞれ参照されて本明細書に組み込まれる。C末端のカルボン酸は、ボロン酸−−B(OH)2、またはボロン酸エステル−−B(OR)2、または米国特許第5,288,707号に記載されているようなボロン酸誘導体で置換することができる。この特許文献は、参照して本明細書に組み入れられる。
【0097】
本明細書記載のペプチド試薬は、単量体、多量体、環状化分子、分岐分子、リンカーなどを含むことができる。本明細書記載の配列のいずれかの多量体(すなわち、二量体、三量体など)、またはその生物学的機能等価物も想定される。この多量体はホモ多量体、すなわち、同一の単量体、例えば、各単量体が同じペプチド配列から構成されるホモ多量体でもよい。あるいは、この多量体はヘテロ多量体であってもよいが、それは、多量体を構成する単量体が全て同一であるというわけではないという意味である。
【0098】
単量体を互いに直接結合させることによって、または、例えば、多重抗原ペプチド(MAPS)(例えば、対称型MAPS)、高分子の足場、例えば、PEG足場に結合したペプチド、および/またはスペーサーユニットの有無にかかわらずタンデムに連結したペプチドなどの基質に直接結合させることによって多量体を形成することができる。
【0099】
あるいは、連結基(linking group)を単量体の配列に付加し、単量体をまとめて結合して一つの多量体を形成させることができる。連結基を用いた多量体の非限定的な例は、グリシンリンカーを用いたタンデム反復配列;リンカーを介して基質に結合しているMAPS、および/またはリンカーを介して足場に結合している直鎖状に連結したペプチドなどである。連結基は、当業者に周知されているように、二機能性スペーサーユニット(ホモ二機能性かヘテロ二機能性)を使用することを含むかもしれない。一例であって限定的なものではないが、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸塩(SMCC)、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)酪酸塩などの試薬を用いて、上記スペーサーユニットを連結基に組み込むための多数の方法が、the Pierce Immunotechnology Handbook(Pierce Chemical Co.,Rockville,Ill.)に記載されており、さらに、Sigma Chemical Co.(St.Louis,Mo.)およびAldrich Chemical Co.(Milwaukee,Wis.)から入手可能であり、“Comprehensive Organic Transformations”,VCK−Verlagsgesellschaft,Weinheim/Germany(1989)に記載されている。単量体配列を連結させるために用いることができる連結基の一例は、−Y1−−F−−Y2であって、式中Y1およびY2は同一であるか異なっており、0〜20個、好ましくは0〜8個、より好ましくは0〜3個の炭素原子からなるアルキレン基であり、かつFは、−−O−−、−−S−−、−−S−−S−−、−−C(O)−−O−−、−−NR−−、−−C(O)−−NR−
−、−−NR−−C(O)−−O−−、−−NR−−C(O)−−NR−−、−−NR−−C(S)−−NR−−、−−NR−−C(S)−−O−−など、1個以上の官能基である。Y1およびY2は、随意で、ヒドロキシ、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アミノ、カルボキシル、カルボキシアルキルなどで置換することができる。当然のことながら、単量体の任意の適当な原子を連結基に結合させることができる。
【0100】
さらに、本発明のペプチド試薬は、直鎖状、分枝状または環状でもよい。単量体ユニットは環状化することができ、または連結させて、直鎖状または分枝状の多量体を提供することができ、環状形(例えば、大環状分子)、星形(例えば、デンドリマー)、または球形(例えば、フラーレン)にすることができる。当業者は、本明細書に開示された単量体の配列から形成することができる多数のポリマーを容易に認識できる。一定の実施態様において、多量体は環状二量体である。上記したと同じ用語を用いれば、この二量体はホモ二量体またはヘテロ二量体でありうる。
【0101】
環状形は、単量体、多量体を問わず、上記の連結のいずれか、例えば、以下の方法にようにして作出することができる:(1)窒素とC末端カルボニルの間でアミド結合を直接形成することを介するか、または、例えば、εアミノカルボン酸との縮合などによる、スペーサー基の仲介によって、N−末端アミンをC末端カルボン酸とともに環状化すること;(2)例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸の側鎖とリジンの側鎖との間でアミド結合を形成することによって、または2つのシステインの側鎖間で、もしくはペニシラミンの側鎖とシステインの側鎖の間で、もしくは2つのペニシラミンの側鎖間でジスルフィド結合を形成することによって、2つの残基の側鎖の間に結合を形成することを介して環状化すること;(3)側鎖(例えば、アスパラギン酸またはリジン)と、N末端アミンまたはC末端カルボキシルのいずれかそれぞれとの間にアミド結合を形成して環状化すること;および/または(4)短い炭素スペーサー基の仲介によって2つの側鎖を連結させること。
【0102】
好ましくは、本明細書記載のペプチド試薬は病原性および/または感染性がない。
【0103】
本発明のペプチド試薬は、約3〜約100残基長(またはその間の任意の値)のいずれか、またはそれよりも長くてもよく、好ましくは約4〜約75残基(またはその間の任意の値)、好ましくは約5〜約63残基(またはその間の任意の値)、および、さらに好ましくは約8〜約30残基(またはその間の任意の値)、そして、最も好ましくは、ペプチド試薬は10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基であろう。
【0104】
本明細書記載の組成物および方法において有用なペプチド試薬の非限定的な例は、表1および表4に示された配列に由来する。表中のペプチド試薬は、従来の1文字アミノ酸コードで表されており、左側がN末端、右側がC末端になるよう描かれている。角括弧内のアミノ酸は、さまざまなペプチド試薬において、その位置で使用することができる代替的な残基を示している。丸括弧は、その残基がペプチド試薬に存在するかもしれないし、存在しないかもしれないことを示している。いずれのプロリン残基も、N−置換グリシン残基で置換してペプトイドを形成することができる。表中の配列はいずれも、N末端および/またはC末端にGlyリンカー(Gn、ただしn=1、2、3または4)を任意で含むことができる。
【0105】
【表3−1】
【0106】
【表3−2】
【0107】
【表3−3】
【0108】
【表3−4】
【0109】
【表3−5】
一つの態様において、本発明の方法で使用されるペプチド試薬は、本明細書に開示されている各ペプチド、および(本明細書に開示されている)その誘導体を含む。したがって、本発明は、以下の配列番号で示された配列のいずれかのペプチド、ならびにそのアナログ(例えば、N−置換グリシンによる一つ以上のプロリンの置換)および誘導体に由来するペプチド試薬を含む:配列番号
【0110】
【数5−1】
【0111】
【数5−2】
または260。
【0112】
本発明の方法は、好ましくは、以下の配列番号のペプチド、ならびにそのアナログ(例えば、N−置換グリシンによる一つ以上のプロリンの置換)および誘導体に由来するペプチド試薬を利用する:配列番号
【0113】
【数6】
または260。
【0114】
一定の好適な実施態様において、本方法で使用されるペプチド試薬は病原性プリオンに特異的に結合し、例えば、以下の配列番号のペプチド、ならびにそのアナログ(例えば、N−置換グリシンによる一つ以上のプロリンの置換)および誘導体に由来するペプチド試薬である:配列番号
【0115】
【数7−1】
【0116】
【数7−2】
または260。
【0117】
上記したように、本明細書記載のペプチド試薬は、一つ以上の置換、付加、および/または変異を含むことが可能である。例えば、ペプチド試薬の中で一つ以上の残基を別の残基、例えば、アラニン残基、またはアミノ酸アナログ、またはペプトイドを作るためのN−置換グリシン(例えば、Nguyen et al.(2000)Chem Biol.7(7):463−473参照)で置換することができる。さらに、本明細書記載のペプチド試薬は、付加的ペプチド成分または非ペプチド成分を含むこともできる。付加的ペプチド成分の非限定的な例は、スペーサー残基、例えば、2つ以上のグリシンの(天然または誘導体化された)残基、もしくは一方または両方の末端上のアミノヘキサン酸リンカー、または、ペプチド試薬を可溶化するのを助けることができる残基、例えば、配列番号83、86などに記載されているようなアスパラギン酸(AspまたはD)などの酸性残基などである。一定の実施態様において、例えば、ペプチド試薬は多重抗原ペプチド(MAPS)として合成される。典型的には、ペプチド試薬の多重コピー(例えば、2〜10個のコピー)は、分枝型リジンなどのMAP担体もしくはその他のMAP担体コアの上で直接合成される。例えば、Wu et al.(2001)J Am Chem Soc.2001 123(28):6778−84;Spetzler et al.(1995)Int J Pept Protein Res.45(l):78−85、および配列番号134および135参照。
【0118】
本明細書記載のペプチド試薬に含まれうる非ペプチド成分(例えば、化学的成分)の非限定的な例は、ペプチド試薬のどちらかの末端または内部にある、一つ以上の検出可能な標識、タグ(例えば、ビオチン、His−タグ、オリゴヌクレオチド)、色素、結合対のメンバーなどを含む。また、非ペプチド成分は、直接、またはスペーサー(例えば、アミド基)を介して、定量的な構造−活性データおよび/または分子モデリングによって非干渉的であると予測された、化合物上の位置に(例えば、一つ以上の標識の共有結合によって)結合することもできる。本明細書記載のペプチド試薬は、アミロイド特異的色素(例えば、コンゴレッドなど)のようなプリオン特異的化学成分も含むことが可能である。化合物の誘導体化(例えば、標識、環状化、化学成分の結合など)は、ペプチド試薬の結合特性、生体機能、および/または薬理活性を実質的に妨害するものであってはならない。
【0119】
ペプチド試薬は、典型的には、プリオンタンパク質断片、または本明細書に記載されたペプチド配列に対して、少なくとも約50%の配列同一性を有する。ペプチド試薬は、プリオンタンパク質断片または本明細書に記載されたペプチド配列に対して、好ましくは、少なくとも70%の配列同一性;より好ましくは、少なくとも75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の配列同一性を有する。
【0120】
本明細書記載のペプチド試薬は、病原型と選択的に相互作用するため、広範囲の単離、精製、検出、診断、および治療への応用に役立つ。例えば、ペプチド試薬が病原型と選択的に相互作用する実施態様では、そのペプチド試薬自体を使用して、血液、神経系組織(脳、脊髄、CSFなど)、またはその他の組織または器官試料における病原型を検出することができる。また、ペプチド試薬は、病原型に関連する病気の存在を診断し、病原型を単離し、また、病原型を除去することによって汚染除去するのにも役立つ。
【0121】
既知の結合アッセイ法、例えば、ELISA、ウエスタンブロットなどの免疫アッセイ法を用いてペプチド試薬とプリオンタンパク質との相互作用をテストすることができる(実施例参照)。
【0122】
本発明のペプチド試薬の特異性をテストする便利な方法は、病原性プリオンおよび非病原性プリオンの両方を含む試料を選択することである。典型的なそのような試料は、病気になった動物から採取した脳または脊髄などである。病原型に特異的に結合する本明細書記載のペプチド試薬を、固体支持体に(当技術分野において周知の方法によって、さらに下述するようにして)結合させて、病原性プリオンをその他の試料成分から分離(「プルダウン」)して、固体支持体上におけるペプチド−プリオン結合相互作用の数に直接関係する定量的値を得るために使用する。当技術分野において既知の変法および別のアッセイ法を用いて、本発明のペプチド試薬の特異的を明らかにすることも可能である。例えば、実施例参照。
【0123】
本明細書記載のペプチド試薬を使用する本発明の方法では必要ではないが、他のプリオンアッセイ法は、病原型コンフォメーションをもつプリオンは、一般的に、プロテイナーゼKなど、一定のプロテアーゼに対して耐性があるという事実を利用することができる。これらのプロテアーゼは、プリオンを分解して、非病原型のコンフォメーションにすることができる。したがって、プロテアーゼを使用すれば、試料を2つの等量に分けることができる。プロテアーゼを第二の試料に加えて、同じテストを行うことができる。第二の試料中のプロテアーゼは、非病原型プリオンを分解してしまうため、第二の試料においては、ペプチド−プリオン結合相互作用は、病原性プリオンによって生じさせることができる。
【0124】
したがって、本明細書記載のペプチド試薬の結合特異性および/または親和性を評価する方法の非限定的な例は、標準的なウエスタン法ならびにファーウェスタン法;標識ペプチド;ELISA類似法;および/または細胞法などである。例えば、ウエスタンブロットは、一般的に、「プルダウン」アッセイ法(本明細書記載のとおり)から得られた試料について、変性されたプリオンを、ニトロセルロースまたはPVDF上に電気ブロットされたSDS−PAGEゲルから検出するタグ付きの一次抗体を使用する。変性プリオンタンパク質を認識する抗体は記述済みであり(とりわけ、Peretz et al.1997 J.MoI.Biol.273:614;Peretz et al.2001 Nature 412:739;Williamson et al.1998 J.Virol.72:9413;米国特許第6,765,088号;米国特許第6,537548号に記載されている)、市販されているものもある。また、例えば、モチーフ移植(motif−grafted)ハイブリッドポリペプチド(国際公開公報第03/085086号参照)、一定のカチオン性またはアニオン性のポリマー(国際公開公報第03/073106号参照)、「増殖触媒(propagation catalyst)」である一定のペプチド(国際公開公報第02/0974444号参照)、およびプラスミノーゲンなど、別のプリオン結合分子も記述ずみである。そして、タグに対するプローブ(例えば、ストレプトアビジン結合アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ECL試薬、および/または増幅可能なオリゴヌクレオチド)により一次抗体を検出(および/または増幅)する。タグに対するプローブ(例えば、ストレプトアビジン結合アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ECL試薬、または増幅可能なオリゴヌクレオチド)で標識および増幅されるアフィニティータグ(例えば、ビオチン)をもつペプチドのような検出試薬を使用して、結合を評価することもできる。さらに、サンドイッチ式ELISAと同じようなマイクロタイタープレート法を用いることもできる。例えば、本明細書記載のプリオン特異的ペプチド試薬を用いて、プリオンタンパク質を固体支持体(例えば、マイクロタイタープレートのウェル、ビーズなど)上に固定し、別の検出用試薬は、結合アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ECL試薬、または増幅可能なオリゴヌクレオチドのようなアフィニティーおよび/または検出用の標識をもつ別のプリオン特異的ペプチド試薬などを含みうる。実施例参照。細胞アッセイ法も、例えば、プリオンタンパク質を各細胞上で(例えば、蛍光を利用して、特異的に標識された細胞の細胞選別、計数、または検出を可能にする、蛍光標識されたプリオン特異的ペプチド試薬を用いて)直接検出する場合には利用することができる。
【0125】
III.B.ペプチド試薬の製造
本発明のペプチド試薬は、いくつかの方法で製造することができ、それらはすべて当技術分野において周知である。
【0126】
ペプチド試薬の全部または一部で遺伝子によってコードされたペプチドである、一つの実施態様では、ペプチドを、当技術分野において周知である組換え技術を用いて作製することができる。当業者は、標準的な方法および本明細書記載の教示内容を利用して、所望のペプチドをコードする塩基配列を容易に決定することができる。単離されたところで、随意には、組換えペプチドを改変して、本明細書に記載されているような、また、当技術分野において周知されている、遺伝子にコードされていない成分(例えば、検出用標識、結合対メンバーなど)を含むようにして、ペプチド試薬を製造することができる。
【0127】
オリゴヌクレオチドプローブを既知の配列に基づいて工夫し、ゲノムまたはcDNAのライブラリーをプローブで検索することができる。そして、標準的な技術、および、例えば、全長配列の所望の部位で遺伝子を切断するために使用される制限酵素などを用いて、配列をさらに単離することができる。同様に、目的とする配列は、それを含む細胞および組織から、既知の技術、例えば、フェノール抽出法、および所望の切断型を作出するようさらに操作された配列を用いて直接に単離することができる。DNAを取得および単離するために使用される技術の説明については、例えば、Sambrook et al.前掲参照。
【0128】
ペプチドをコードする配列も、例えば、既知の配列に基づいて、合成により製造することができる。所望の特定アミノ酸配列に対する適当なコドンをもつ塩基配列を設計することができる。全長配列は、通常、標準的な方法によって調製された重複オリゴヌクレオチドから組み立てて、完全なコード配列にまとめる。例えば、Edge(1981)Nature 292:756;Nambair et al.(1984)Science 223:1299;Jay et al.(1984)J.Biol.Chem.259:6311;Stemmer et al.(1995)Gene 164:49−53参照。
【0129】
組換え技術を容易に利用して、本発明のペプチド試薬において有用なポリペプチドをコードする配列であって、所望のアミノ酸に対するコドンが得られるよう適当な塩基対で置換することによって、さらにインビトロで変異誘発することができる配列をクローニングすることができる。このような変異は、少なくとも一つの塩基対の変化で、1個のアミノ酸に変化をもたらすものを含むが、いくつかの塩基対の変異を包含することもできる。あるいは、ミスマッチ二重鎖の融解温度よりも低い温度で元の塩基配列(通常は、RNA配列に対応するcDNA)にハイブリダイズするミスマッチプライマーを用いて変異をもたらすこともできる。プライマーは、プライマー長と塩基組成を比較的狭い範囲に維持し、変異塩基を中央に位置させることによって、特異的なものにすることができる。例えば、Innis et al,(1990)PCR Applications:Protocols for Functional Genomics;Zoller and Smith,Methods Enzymol.(1983)100:468参照。プライマー伸長を、DNAポリメラーゼを用いて生じさせ、産物をクローニングし、プライマー伸長された鎖を分離することによって得られた変異DNAを含むクローンを選択する。選択は、変異プライマーをハイブリダイゼーション用プローブとして使用して行うことができる。例えば、Dalbie−McFarland et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA(1982)79:6409参照。
【0130】
コード配列が単離および/または合成されたところで、それらを発現させるのに適したベクターまたはレプリコンにクローニングすることができる(実施例も参照)。本明細書の開示内容から明らかなように、欠失または変異を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさまざまな組み合わせで機能できるように結合している発現コンストラクトを作出することによって、ポリペプチドをコードする多様なベクターを作製することができる。
【0131】
多数のクローニングベクターが当業者に知られており、適当なクローニングベクターを選ぶことは選択の問題である。クローニング用の組換えDNAベクター、およびそれらが形質転換できる宿主細胞の例には、バクテリオファージλ(大腸菌(E.coli))、pBR322(大腸菌)、pACYC177(大腸菌)、pKT230(グラム陰性細菌)、pGV1106(グラム陰性細菌)、pLAFRl(グラム陰性細菌)、pME290(大腸菌以外のグラム陰性細菌)、pHV14(大腸菌および枯草菌(Bacillus subtilis))、pBD9(バシラス属)、pIJ61(ストレプトマイセス属)、pUC6(ストレプトマイセス属)、YIp5(サッカロマイセス属)、YCp19(サッカロマイセス属)、およびウシパピローマウイルス(哺乳動物細胞)などがある。一般的には、DNA Cloning:Vols.I & II、前掲;Sambrook et al.,前掲;B.Perbal,前掲など参照。
【0132】
バキュロウイルス系などの昆虫細胞発現系も利用することができ、当業者に知られていて、例えば、Summers and Smith,Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No. 1555(1987)で説明されている。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のための材料および方法はキットという形で、なかんずく、Invitrogen,San Diego CA(「MaxBac」キット)から市販されている。
【0133】
植物発現系を利用して、本明細書記載のペプチド試薬を製造することができる。通常、このような系は、ウイルスベクターを用いて異種遺伝子を植物細胞にトランスフェクトする。このような系の説明については、例えば、Porta et al.,MoI.Biotech.(1996)5:209−221;およびHackland et al.,Arch.Virol.(1994)139:1−22参照。
【0134】
Tomei et al.,J.Virol.(1993)67:4017−4026、およびSelby et al.,J.Gen.Virol.(1993)74: 1103−1113に記載されているようなワクシニアによる感染/トランスフェクション系などのウイルス系も、本発明で利用することができる。この系では、まず、バクテリオファージT7のRNAポリメラーゼをコードするワクシニアウイルス組換え体により、細胞をインビトロでトランスフェクトする。このポリメラーゼは、T7プロモーターをもつ鋳型のみを転写するという優れた特異的を示す。感染後、T7プロモーターによって作動する目的DNAで細胞をトランスフェクトする。細胞質内でワクシニアウイルス組換え体から発現したポリメラーゼは、トランスフェクトされたDNAをRNAに転写し、そのRNAは次いで、宿主の翻訳装置によってタンパク質に翻訳される。本方法は、大量のRNAおよびその翻訳産物を高濃度で一過的に細胞質内で産生させるために提供される。
【0135】
遺伝子は、プロモーター、リボソーム結合部位(細菌での発現)、および随意では、オペレーター(本明細書では、「調節」因子と総称する)の調節下に置き、所望のポリペプチドをコードするDNA配列を、この発現構築物を含むベクターによって形質転換された宿主細胞の中でRNAに転写する。コード配列は、シグナル配列または先導配列を持っていてもいなくてもよい。本発明とともに、天然のシグナルペプチドまたは異種配列を使用することができる。先導配列は、翻訳後処理過程で宿主によって取り除かれる。例えば、米国特許第4,431,739号;第4,425,437号;第4,338,397号など参照。このような配列には、TPAリーダー、およびミツバチメリチンシグナル配列などがある。
【0136】
宿主細胞の成長に合わせてタンパク質配列の発現制御を可能にするその他の制御配列も望ましいかもしれない。そのような制御配列は当業者に知られており、その例には、制御用化合物が存在するなど、化学的または物理的な刺激に応答して遺伝子の発現をオンにしたりオフにしたりする配列が含まれる。別のタイプの制御因子もベクターの中に存在することができ、例えば、エンハンサー配列などがある。
【0137】
調節配列およびその他の制御配列は、ベクターの中に挿入する前にコード配列に連結させることができる。あるいは、コード配列を、すでに調節配列と適当な制限酵素部位を含んでいる発現ベクターの中に直接クローニングすることもできる。
【0138】
コード配列が、適当な方向性をもって調節配列に結合できるよう、すなわち適正な読み枠を維持できるよう、コード配列を改変することが必要な場合もある。タンパク質をコードする配列の一部を欠失させて、配列を挿入して、および/または配列の中にある一つ以上のヌクレオチドを置換することによって、変異体またはアナログを調製することができる。部位特異的変異誘発法など、塩基配列を改変する技術は当業者に周知されている。例えば、Sambrook et al.,前掲;DNA Cloning, Vols.
I and II,前掲;Nucleic Acid Hybridization,前掲参照。
【0139】
次に、発現ベクターを用いて、適当な宿主細胞を形質転換する。多数の哺乳動物細胞株が当技術分野において知られており、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手できる不死化細胞株、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、HeLa細胞、ベイビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、Vero293細胞、およびその他などが含まれる。同様に、大腸菌、枯草菌、およびストレプトコッカス種などの細菌宿主も、本発明の発現コンストラクトとともに利用することができる。本発明で有用な酵母宿主は、中でも、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・マルトーサ(Candida maltosa)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クリベロマイセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・グレリモンディー(Pichia guillerimondii)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、およびヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)などである。バキュロウイルス発現ベクターとともに使用するための昆虫細胞は、なかでも、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、アウトグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)、カイコ(Bombyx mori)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)、およびイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)などである。
【0140】
選択した発現系および宿主に応じて、目的とするタンパク質が発現される条件下で、上記の発現ベクターによって形質転換された宿主細胞を増殖させることによって本発明のタンパク質が産生される。当業者は適宜、適当な増殖条件を選択することができる。
【0141】
一つの実施態様において、形質転換された細胞は、ポリペプチド産物を周囲の培地の中に分泌する。一定の制御配列、例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)の先導配列、インターフェロン(γまたはα)のシグナル配列、または既知の分泌タンパク質に由来するその他のシグナル配列などが、タンパク質産物の分泌を促進するためにベクターの中に含まれることもある。そして、分泌されたポリペプチド産物を、本明細書記載のさまざまな技術によって、例えば、ハイドロキシアパタイト樹脂、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動、HPLC、免疫吸着技術、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈殿など標準的な精製技術を用いて単離することができる。
【0142】
あるいは、組換えポリペプチドを実質的に無傷な状態で維持したまま細胞を溶解する化学的、物理的、または機械的な手段を用いて、形質転換された細胞を破砕する。細胞内タンパク質は、ポリペプチドの漏出が起きるよう、細胞壁または細胞膜から成分を除去することによって、例えば、界面活性剤または有機溶媒を使用することによって得ることができる。このような方法は当業者に知られており、例えば、Protein Purification Applications:A Practical Approach,(E.L.V.Harris and S.Angal,Eds.,1990)に記載されている。
【0143】
例えば、本発明とともに使用するために細胞を破壊する方法は、超音波処理;振とう;液体または固体による押し出し(liquid or solid extrusion);熱処理;凍結融解;分離;瞬間減圧;浸透圧ショック;トリプシン、ノイラミニダーゼ、およびリゾチームなどのプロテアーゼを含む分解酵素による処理;アルカリ処理;胆汁酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、トリトン、NP40、およびCHAPSなどの界面活性剤および溶媒の使用を含むが、これらに限定されない。細胞を破壊するために使用される具体的な技術は、ほとんど選択の問題であり、ポリペプチドが発現される細胞型、培養条件、および使用される事前処理によって決まる。
【0144】
細胞を破壊した後、通常は遠心分離によって細胞残渣を除去し、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動、HPLC、免疫吸着技術、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈殿など標準的な精製技術を用いて、細胞内で産生されたポリペプチドをさらに精製する。
【0145】
例えば、本発明の細胞内ポリペプチドを得る方法は、例えば、抗体(例えば、既に作製してある抗体)を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィー、またはレクチンアフィニティークロマトグラフィーなどによるアフィニティー精製を含む。特に好適なレクチン樹脂は、マンノース成分を認識するもので、例えば、スノードロップ(Galanthus nivalis)アグルチニン(GNA)、レンズマメ(Lens culinaris)アグルチニン(LCAまたはレンチルレクチン)、エンドウ(Pisum sativum)アグルチニン(PSAまたはピーレクチン)、ラッパズイセン(Narcissus pseudonarcissus)アグルチニン(NPA)、アリウム・ウルシヌム(Allium ursinum)アグルチニン(AUA)に由来する樹脂などがあるが、これらに限定されない。適当なアフィニティー樹脂の選択は、当業者が適宜なしうる。アフィニティー精製した後、当技術分野において周知されている常法を用いて、例えば、上記されている技術のいずれかによって、ポリペプチドをさらに精製することができる。
【0146】
ペプチド試薬は、例えば、ペプチド技術分野の当業者に知られているいくつかの技術のいずれかによって化学的に簡便に合成することができる。一般的に、これらの方法は、成長しているペプチド鎖に一つ以上のアミノ酸を連続的に付加する方法を採用している。通常、第一のアミノ酸のアミノ基かカルボキシル基のいずれかを適当な保護基で保護する。次に、保護されたか誘導体化されたアミノ酸は、保護されるのに適した相補(アミノまたはカルボキシル)基を有する、配列中の次のアミノ酸を、アミド結合の形成を可能にする条件下で不活性な固体支持体に結合させるか、または溶液中で使用することができる。そして、新しく付加されたアミノ酸残基から保護基を除去して、次のアミノ酸(適当に保護されている)を付加し、それを繰り返す。所望のアミノ酸が正しくない配列中に結合されたら、残りの保護基(および、固相合成技術を使用した場合には固体支持体)を順番または同時に除去して、最終ポリペプチドを生じさせる。この一般的な手順を簡単に改変することで、一つよりも多くのアミノ酸を、成長している鎖に同時に付加することが可能になり、例えば、保護されたトリペプチドを(キラル中心をラセミ化しない条件下で)適正に保護されたジペプチドとカップリングすることで、脱保護した後、ペンタペプチドを形成させることができる。例えば、固相ペプチド合成技術については、J.M.Stewart and J.D.Young,Solid Phase Peptide Synthesis(Pierce Chemical Co.,Rockford,IL 1984)およびG.Barany and R.B.Merrifield,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology,editors E.Gross and J.Meienhofer,Vol.2,(Academic Press, New York,1980),pp.3−254;および、古典的な溶液合成については、M.Bodansky,Principles of Peptide Synthesis,(Springer− Verlag, Berlin
1984)、およびE.Gross and J.Meienhofer,Eds.,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology,Vol. 1参照。これらの方法は、一般的には、比較的低分子のポリペプチド、すなわち、長さ約50〜100アミノ酸までに使用されるものであるが、より大きなポリペプチドにも適用可能である。
【0147】
典型的な保護基は、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz);p−トルエンスルホニル(Tx);2,4−ジニトロフェニル;ベンジル(Bzl);ビフェニルイソプロピルオキシカルボキシル−カルボニル、t−アミルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、o−ブロモベンジルオキシカルボニル、シクロへキシル、イソプロピル、アセチル、o−ニトロフェニルスルホニルなどである。
【0148】
典型的な固体支持体は、架橋ポリマー支持体である。これらは、ジビニルベンゼン架橋スチレンポリマー、例えば、ジビニルベンゼン−ヒドロキシメチルスチレンコポリマー、ジビニルベンゼン−クロロメチルスチレンコポリマー、およびジビニルベンゼン−ベンズヒドリルアミノポリスチレンコポリマーを含むことができる。
【0149】
ペプトイド含有ポリマーの合成は、例えば、米国特許第5,877,278号;第6,033,631号;Simon et al.(1992)Proc.Natl Acad. Sci USA 89:9367に従って行うことができる。
【0150】
本発明のペプチド試薬は、同時複数ペプチド合成法などの他の方法によって化学的に調製することもできる。例えば、Houghten Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1985)82:5131−5135;米国特許第4,631,211号参照。
【0151】
IV.アッセイ法
本発明者らは、試料中の病原性プリオンを検出するための感度の高いアッセイ法を開発した。このアッセイ法は、プリオンタンパク質の病原型と非病原型を区別するペプチド試薬の力と、改良ELISA技術を組み合わせたものである。ペプチド試薬は、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するため、これらの試薬を用いて、試料中に存在する病原性プリオンを分離し濃縮する。一般的には、非病原型アイソフォームでもN末端の分解をもたらす、病原型および非病原型のアイソフォームを区別するためにプロテイナーゼKによる分解を利用する方法とは異なり、本発明の方法でペプチド試薬を使用すると、完全長の病原性プリオンタンパク質を分離することができる。したがって、プリオンタンパク質のN末端側にあるエピトープを認識する抗プリオン抗体も、また、プリオンタンパク質の別の領域に由来するエピトープを認識する抗プリオン抗体も検出に使用することができる。
【0152】
ペプチド試薬を用いて、非病原型アイソフォーム(ほとんどの試料に存在する)から病原性プリオンタンパク質を分離したら、病原性プリオンタンパク質をペプチド試薬から分離させて、本明細書に記載したいくつかのELISA方式で検出を行うことができる。病原性プリオンは、一般的には、ペプチド試薬から分離する過程で変性される。変性プリオンタンパク質をELISAで使用することは、変性PrPに結合する多くの抗プリオン抗体が知られており、また市販されているため好ましい。病原性プリオンの分離と変性は、高濃度のカオトロピック剤、例えば、3Mから6Mのグアニジウム塩、例えば、グアニジンチオシアン酸またはグアニジン塩酸などを用いて行うことができる。カオトロピック剤は、ELISAで使用される抗プリオン抗体の結合を妨害するため、ELISAを行う前に除去または希釈しておかなければならない。これは、さらなる洗浄工程または試料容量が大量になるという結果をもたらすが、それらはどちらも、迅速なハイスループットアッセイ法にとっては望ましくない。
【0153】
本発明者らは、ペプチド試薬から病原性プリオンタンパク質を分離/変性するためにカオトロピック剤を使用することに代わる好ましい代替法が高pHまたは低pHを利用することであることを発見した。pHを12よりも高くする成分(例えば、NaOH)または2よりも低くする成分(例えば、H3PO4)を加えることで、病原性プリオンタンパク質はペプチド試薬から簡単に分離し、変性する。さらに、このpHは、少量の適当な酸または塩基を加えることで、簡単に中性に再調整することができ、それにより、さらなる洗浄を行うことや、試料容量を顕著に増加させることなく、ELISAに直接使用することが可能になる。
【0154】
このように、本発明は、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、病原性プリオンを含む疑いのある試料を、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するペプチド試薬に、病原性プリオンが存在する場合には、該ペプチド試薬がそれと結合して第一の複合体を形成することができる条件下で接触させる工程;未結合の試料物質を除去する工程、病原性プリオンをペプチド試薬から分離する工程;および分離した病原性プリオンの存在を、プリオン結合試薬を用いて検出する工程を含む方法を提供する。「プリオン結合試薬」は、任意のコンフォメーションのプリオンタンパク質に結合する試薬である。典型的には、プリオン結合試薬は、プリオンタンパク質の変性型に結合する。このような試薬は既に記述されており、例えば、抗プリオン抗体(とりわけ、Peretz
et al.1997 J.MoI.Biol.273:614;Peretz et al.2001 Nature 412:739;Williamson et al.1998 J.Virol.72:9413;米国特許第6,765,088号;米国特許第6,537548号に記載されている)、モチーフ移植(motif−grafted)ハイブリッドポリペプチド(国際公開公報第03/085086号参照)、一定のカチオン性またはアニオン性のポリマー(国際公開公報第03/073106号参照)、「増殖触媒」である一定のペプチド(国際公開公報第02/0974444号参照)、およびプラスミノーゲンなどである。使用されている特定のプリオン結合試薬が、プリオンの変性型に結合する場合、プリオン結合試薬で検出する前に「捕捉された」病原性プリオンを変性しなければならない。好ましくは、プリオン結合試薬は抗プリオン抗体である。
【0155】
一定の実施態様において、抗PrPを用いてプリオンタンパク質を検出する。プリオン、特にPrPCまたは変性PrPに結合する抗体、改変抗体、およびその他の試薬が既に記述されており、それらの一部は市販されている(例えば、Peretz et al.1997 J.MoI.Biol.273:614;Peretz et al.2001 Nature 412:739;Williamson et al.1998 J.Virol.72:9413;米国特許第6,765,088号参照。これらの一部、またはその他は、なかでも、InPro Biotechnology,South San Francisco,CA,Cayman Chemicals,Ann Arbor MI;Prionics AG,Zurichから市販されている。また、改変抗体の説明については国際公開公報第03/085086号も参照)。本方法において使用するのに適した抗体に制限はないが、3F4、D18、D13、6H4、MAB5242、7D9、BDI115、SAF32、SAF53、SAF83、SAF84、19B10、7VC、12F10、PRI3O8、34C9、Fab HuM−P、Fab HuM−Rl、およびFab HuM−R72などである。
【0156】
好ましくは、分離した病原性プリオンタンパク質を変性する。「変性」または「変性された」という用語は、タンパク質の構造に使われるときと同じ従来の意味をもち、タンパク質が、本来の二次構造および三次構造を失っていることを意味する。病原性プリオンタンパク質については、「変性された」病原性プリオンタンパク質は、本来の病原型コンフォメーションを保持しておらず、そのため、このタンパク質はもう「病原型」ではない。変性された病原性プリオンタンパク質は、変性された非病原性プリオンタンパク質と類似しているか、同一のコンフォメーションを有する。しかし、本明細書では明確にするために、「変性型病原性プリオンタンパク質」という用語は、病原型アイソフォームとしてペプチド試薬に捕捉され、その後変性された病原性プリオンタンパク質を意味するものとして使用する。
【0157】
好適な実施態様において、ペプチド試薬は、固体支持体上に提供される。ペプチド試薬は、試料と接触させる前に固体支持体上で提供することができ、または、試料と接触して、そこに含まれている病原性プリオンと結合した後に(例えば、ビオチン化ペプチド試薬、およびアビジンまたはストレプトアビジンを含む固体支持体を用いて)固体支持体に結合するよう、ペプチド試薬を適合させることもできる。
【0158】
したがって、本発明は、さらに、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、以下の工程を含む方法も提供する:
(a)ペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬に結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;および
(e)プリオン結合試薬を用いて、解離した病原性プリオンを検出する工程。
【0159】
ペプチド試薬は、好ましくは、配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有する。
【0160】
ペプチド試薬を含む固体支持体を作製する方法は、当技術分野において通常のものであり、本明細書の別の箇所で説明ており、タンパク質およびペプチドをさまざまな固体表面に結合させる周知の方法を含む。試料中の病原性プリオンタンパク質の結合が、ペプチド試薬と結合して第一の複合体を形成できるような条件下で、試料を、ペプチド試薬を含む固体支持体に接触させる。このような結合条件は、当業者によって簡単に決定され、本明細書でさらに詳しく説明する。一般的には、この方法は、マイクロタイタープレートのウェルの中で、または、小容量のプラスチック製チューブの中で行なわれるが、便利な容器が適していよう。試料は、通常、液体試料または懸濁液であり、ペプチド試薬の前か後に反応用容器に加えることができる。第一の複合体が確認されところで、例えば、遠心分離、沈殿、濾過、磁力などにより固体支持体を反応溶液(未結合の試料物質を含む)から分離することによって、未結合の試料物質(すなわち、未結合の病原性プリオンタンパク質など、ペプチド試薬に結合しなかった試料の成分)を取り除くことができる。第一の複合体をもつ固体支持体に、随意で一回以上の洗浄工程を行って、本方法の次の工程を行う前に、残留している試料物質を取り除くことができる。
【0161】
未結合の試料物質を取り除いて、随意の洗浄を行った後、結合した病原性プリオンタンパク質を第一の複合体から解離させる。この解離は、いくつかの方法で行うことができる。一つの実施態様において、カオトロピック剤、好ましくはグアニジン化合物、例えば、グアニジンチオシアン酸またはグアニジン塩酸を、3Mから6Mの間の濃度で加える。カオトロピック剤を添加すると、病原性プリオンタンパク質がペプチド試薬から分離するようになり、また、病原性プリオンタンパク質が変性される。
【0162】
別の実施態様において、この分離は、pHを12以上に上げる(「高pH」)か、2以下に下げること(「低pH」)によって行われる。第一の複合体を高pHまたは低pHに曝露すると、ペプチド試薬から病原性プリオンタンパク質が解離する結果となり、また、病原性プリオンタンパク質が変性される。この実施態様では、第一の複合体を高pHに曝露することが好適である。12.0から13.0のpHで通常十分であるが、好ましくは、12.5から13.0のpHが用いられ、より好ましくは、12.7から12.9のpH、最も好ましくは、pH12.9が用いられる。あるいは、第一の複合体を低pHに曝露することを、ペプチド試薬から病原性プリオンタンパク質を分離し変性するために利用することができる。この代替態様では、1.0から2.0のpHで十分である。第一の複合体の高pHまたは低pHへの曝露は、短時間、例えば、60分間、好ましくは、15分以下、より好ましくは、10分以下行われる。これより長い曝露は、病原性プリオンタンパク質の構造を顕著に損ない、検出工程で使用される抗プリオン抗体によって認識されるエピトープが破壊されるかもしれない。病原性プリオンタンパク質を解離させるのに十分な時間曝露した後、pHは、酸性試薬(高pH分離条件を用いる場合)または塩基性試薬(低pH分離条件を用いる場合)のいずれかを加えることによって、簡単に中性(すなわち、約7.0から7.5の間)に再調整することができる。当業者は、適当なプロトコールを容易に決定することができ、また、実施例が本明細書で説明されている。
【0163】
通常、高pH分離条件を行うには、NaOHを約0.05Nから0.2Nの濃度にすれば十分である。好ましくは、NaOHを、0.05Nから0.15Nの濃度になるまで加え、より好ましくは、0.1N NaOHが使用される。ペプチド試薬から病原性プリオンを解離させたら、適当な量の酸性溶液、例えば、リン酸、リン酸一ナトリウムなどを加えることによって、pHを中性(すなわち、約7.0から7.5の間)に再調整することができる。
【0164】
通常、低pH分離条件を行うには、H3PO4を約0.2Mから約0.7Mの濃度にすれば十分である。好ましくは、H3PO4を、0.3Mから0.6Mの濃度になるまで加え、より好ましくは、0.5M H3PO4が使用される。ペプチド試薬から病原性プリオンを解離させたら、適当な量の塩基性溶液、例えば、NaOHまたはKOHなどを加えることによって、pHを中性(すなわち、約7.0から7.5の間)に再調整することができる。
【0165】
そして解離させた病原性プリオンタンパク質を、ペプチド試薬を含む固体支持体から分離させる。「分離させた」とは、解離したプリオンと固体支持体(ペプチド試薬を結合させている)が同じ容器に共存していないという意味である。この分離は、上記した未結合試料物質の除去と同様の方法で行うことができる。
【0166】
解離させた病原性プリオンタンパク質は、プリオン結合試薬を用いて検出することができる。そのようなプリオン結合剤がいくつか知られており、本明細書の別の箇所で説明されている。解離させた病原性プリオンタンパク質を検出するのに好適なプリオン結合試薬は抗プリオン抗体である。多数の抗プリオン抗体が記述されており、多くが市販されている。例えば、Fab D18(Peretz et al.(2001)Nature 412:739−743)、3F4(Sigma Chemical St Louis
MOから購入可能;また、米国特許第4,806,627号参照)、SAF−32(Cayman Chemical,Ann Arbor MI)、6H4(Prionic
AG,Switzerland;また、米国特許第6,765,088号参照)などがある。解離させた病原性プリオンタンパク質は、直接的ELISAまたは抗体サンドイッチ式ELISA型アッセイ法であるELISAアッセイ法で検出することができるが、これらは後により詳しく説明する。「ELISA」という用語は、抗プリオン抗体による検出を表現するために使用されるが、抗体が「酵素結合」しているアッセイ法に限定されない。検出用抗体は、本明細書に記載され、免疫アッセイ法の技術分野では周知されている検出用標識のいずれかで標識することができる。
【0167】
本発明の一つの実施態様において、解離させた病原性プリオンタンパク質を、第二の固体支持体の表面に受動的にコートする。このような受動コーティングの方法は周知されており、一般的には、pH8の100mMのNaHCO3中で、約37℃で数時間、または4℃で一晩行われる。別のコーティングバッファーが周知されている(例えば、50mM炭酸、pH9.6、10mMトリス pH8、または10mM PBS pH7.2)。第二の固体支持体は、本明細書記載または当技術分野において周知の固体支持体のいずれかでもよく、好ましくは、第二の固体支持体はマイクロタイタープレート、例えば、96穴ポリスチレン製プレートである。高濃度のカオトロピック剤を用いて解離を行った場合には、第二の固体支持体上にコーティングを行う前に約2倍に希釈して、カオトロピック剤の濃度を下げる。高pHまたは低pHを用いて解離が行われ、その後中和されている場合には、解離された病原性プリオンタンパク質をさらに希釈することなくコーティングに用いることができる。
【0168】
解離させた病原性プリオンタンパク質を第二の固体支持体上にコートしたら、支持体を洗浄して、固体支持体に付着していない成分をすべて除去することができる。第二の固体支持体上にコートされたプリオンタンパク質に抗体を結合させることができる条件下で抗プリオン抗体を加える。解離させた病原性プリオンタンパク質が、第二の固体支持体上にコートされる前に変性されていた場合には、用いられる抗体は、プリオンタンパク質の変性型に結合するものである。このような抗体は、周知の抗体(例えば、上記したもの)、および周知の方法、例えば、rPrP、PrPC、またはその断片を用いて、マウス、ウサギ、ラットなどで免疫反応を誘発するなどによって作製される抗体を含む。(米国特許第4,806,627号;第6,165,784号;第6,528,269号;第6,379,905号;第6,261,790号;第6,765,088号;第5,846,533号;欧州特許第891552B1号および欧州特許第909388B1号参照。)プリオンタンパク質のN末端でエピトープを認識する抗プリオン抗体、例えば、23〜90位の残基の領域内にあるエピトープを認識する抗体が特に好ましい。
【0169】
したがって、本発明は、一つの実施態様において、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)ペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;
(e)解離させた病原性プリオンタンパク質を第一の固体支持体から分離する工程;
(f)解離させた病原性プリオンタンパク質を、解離したプリオンタンパク質が第二の固体支持体に付着させることができる条件下で、第二の固体支持体に接触させる工程;および
(g)プリオン結合試薬を用いて、第二の固体支持体上に付着した病原性プリオン検出する工程を含む方法を提供する。好適なペプチド試薬は、配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するものである。
【0170】
この実施態様では、第一の固体支持体は、好ましくは磁気ビーズであり、第二の固体支持体は、好ましくはマイクロタイタープレートであり、プリオン結合試薬は、好ましくは抗プリオン抗体、特に3F4、6H4、SAF32である。プリオン結合試薬は、検出できるように標識されている。
【0171】
本方法の別の実施態様において、解離させた病原性プリオンタンパク質を、抗体サンドイッチ式ELISAを用いて検出する。この実施態様において、解離させた病原性プリオンタンパク質は、第一の抗プリオン抗体を含む第二の固体支持体上に「再捕捉」される。再捕捉されたプリオンタンパク質をもつ第二の固体支持体は、随意に洗浄して、未結合の物質を取り除いてから、第二の抗プリオン抗体を再捕捉されたプリオンタンパク質に結合させる条件下で、第二の抗プリオン抗体に接触させる。第一および第二の抗プリオン抗体は、一般的には異なる抗体であり、好ましくは、プリオンタンパク質上の異なったエピトープを認識する。例えば、第一の抗プリオン抗体は、プリオンタンパク質のN末端にあるエピトープを認識し、第二の抗プリオン抗体は、N末端以外にあるエピトープを認識するかその逆である。第一の抗体は、例えば、8回反復領域(23〜90位の残基)内にあるエピトープを認識するSAF32であってもよく、第二の抗体は、109〜112位の残基にあるエピトープを認識する3F4であってもよい。あるいは、第一の抗体が3F4で、第二の抗体がSAF32であってもよい。第一および第二の抗体の他の組み合わせも容易に選択することができる。この実施態様において、第一の抗プリオン抗体ではなく、第二の抗プリオン抗体を検出できるよう標識する。ペプチド試薬からの病原性プリオンタンパク質の解離をカオトロピック剤を用いて行う場合には、検出アッセイ法を行う前に、カオトロピック剤を除去するか、少なくとも15倍に希釈しなければならない。解離が、高pHまたは低pHと中和を用いてもたらされる場合には、さらに希釈することなく解離されたプリオンタンパク質を使用することができる。検出を行う前に解離させた病原性プリオンタンパク質を変性させた場合には、第一および第二の抗体は、どちらも変性したプリオンタンパク質に結合する。したがって、本発明は、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)ペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させ、それによって病原性プリオンを変性させる工程;
(e)解離させた変性病原性プリオンタンパク質を第一の固体支持体から分離する工程;
(f)解離させた変性病原性プリオンタンパク質を、解離したプリオンタンパク質を第一の抗プリオン抗体に結合させうる条件下で、第一の抗プリオン抗体を含む第二の固体支持体に接触させる工程;および
(g)第二の抗プリオン抗体を用いて、第二の固体支持体上に結合した病原性プリオン検出する工程を含む方法を提供する。好適なペプチド試薬は、配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するものである。
【0172】
本実施態様において、第一の固体支持体は、好ましくは磁気ビーズであり、第二の固体支持体は、好ましくはマイクロタイタープレートまたは磁気ビーズであり、第一および第二の抗プリオン抗体は、好ましくは異なった抗体であり、第一および第二の抗体は、変性したプリオンタンパク質に結合し、好ましくは、第一または第二の抗プリオン抗体の少なくとも一方が、プリオンタンパク質のN末端領域にあるエピトープを認識する。
【0173】
本発明の方法で使用するには、試料は、病原性プリオンタンパク質を含んでいることが分かっているか、その疑いがあるものなら何でもよい。試料は生体試料(すなわち、生きた生物、またはかつて生きていた生物から調製された試料)でも非生体試料でもよい。適当な生体試料は、器官、全血、血液分画、血液成分、血漿、血小板、血清、脳脊髄液(CSF)、脳組織、神経系組織、筋肉組織、骨髄、尿、涙、非神経系組織、器官、および/または生検もしくは剖検などであるが、これらに限定されない。通常、試料は、液体試料または懸濁液である。好適な生体試料は、全血、血液分画、血液成分、血漿、血小板、および血清などである。
【0174】
病原性プリオンタンパク質が存在している場合には、それにペプチド試薬を結合させる条件下で、試料を本発明の一つ以上のペプチド試薬に接触させる。当業者は、本明細書の開示内容に基づいて、適宜、具体的な条件を決定することができる。一般的には、試料とペプチド試薬を、適当なバッファーの中、ほぼ中性pH(例えば、pH7.5のTBSバッファー)で、適当な温度(例えば、約4℃)にて、適当な時間(例えば、約1時間から一晩)、一緒にインキュベートして、結合を生じさせる。
【0175】
上記の捕捉工程と検出工程は溶液内で行うか、固体支持体の中またはその上で行うことができ、あるいは、溶液と固相を組み合わせることもできる。適当な固相アッセイ方式が本明細書に記載されている。一般的に、固相方式では、捕捉試薬(一つ以上の本発明のペプチド試薬であってもよく、あるいは、一つ以上のプリオン結合試薬であってもよい)は、固体支持体に結合しているか、結合しやすくなっている。捕捉試薬は、当技術分野において既知の手段によって、固体支持体に結合しやすくすることができる。例えば、捕捉試薬と固体支持体は、結合対の一方のメンバーを互いに含むことができ、その結果、捕捉試薬が固体支持体に接触すると、捕捉試薬は、結合対のメンバーの結合を介して固体支持体に結合する。例えば、捕捉試薬がビオチンを含むことができ、支持体がアビジンまたはストレプトアビジンを含むことができる。ビオチン−アビジン、およびビオチン−ストレプトアビジン以外の、本実施態様に適した他の結合対は、例えば、抗原−抗体、ハプテン−抗体、ミメトープ(mimetope)−抗体、レセプター−ホルモン、レセプター−リガンド、アゴニスト−アンタゴニスト、レクチン−炭水化物、プロテインA−抗体Fcなどである。このような結合対は周知であり(例えば、米国特許第6,551,843号および第6,586,193号参照)、当業者は、適当な結合対を選択して、それらを本発明で使用するよう適合させることができる。捕捉試薬を、上記したように、支持体に結合するよう適合させる場合、捕捉試薬を支持体に結合させる前か後に、試料を捕捉試薬に接触させることができる。あるいは、当技術分野において周知の共役化学法を用いて、ペプチド試薬および抗プリオン抗体を固体支持体に共有結合させることができる。チオール基を含むペプチド試薬を、当技術分野において知られている標準的な方法を用いて、例えば、磁気ビーズなどの固体支持体に直接結合させる(例えば、Chrisey,L.A.,Lee,G.U.and O’Ferrall,C.E.(1996).Covalent attachment of synthetic DNA to self−assembled monolayer films. Nucleic Acids Research 24(15),3031−3039;Kitagawa, T.,Shimozono, T.,Aikawa, T.,Yoshida,T. and Nishimura,H.(1980).Preparation and characterization of hetero−bifunctional cross−linking reagents for protein modifications. Chem. Pharm. Bull.29(4),1130−1135参照)。カルボジイミド化学法を用いて、カルボキシル化された磁気ビーズを、まず、マレイミド官能基を含むヘテロ二機能性架橋剤(BMPH、Pierce Biotechnology Inc.より)に結合させる。そして、チオール化したペプチドまたはペプトイドを、BMPHコートされたビーズのマレイミド官能基に共有結合させる。
【0176】
本発明の方法で使用されるペプチド試薬は、本明細書、および2004年8月13日付で共同出願された米国特許出願第10/917,646号、2005年2月11日付で共同出願された米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日付で共同出願されたPCT出願第PCT/US/2004/026363号に記載されているとおりである。ペプチド試薬は、プリオンタンパク質のペプチド断片から得ることができる。好ましくは、ペプチド試薬は、配列番号12〜260の配列を有するペプチドから得ることができる。すなわち、ペプチド試薬は、以下の配列番号の配列をもつペプチドに由来する:配列番号
【0177】
【数8】
または260。より好ましくは、本方法で使用されるペプチド試薬は、
【0178】
【数9】
または135のうちの一つの配列をもつペプチドに由来するか、または
【0179】
【数10】
または133をもつペプチドに由来するか、または
【0180】
【数11】
または136に由来し、最も好ましくは、ペプチド試薬は
【0181】
【数12】
または14の配列をもつペプチドに由来する。ペプチド試薬はビオチン化することができる。ペプチド試薬は、固体支持体に結合することができる。いくつかの実施態様において、ペプチド試薬を検出できるように標識することができる。
【0182】
一般的に、本明細書記載のペプチド試薬は、試料中のプリオンタンパク質に(例えば、捕捉試薬として)結合するため、および/またはプリオンタンパク質の存在を(例えば、検出試薬として)検出するために使用される。捕捉試薬と検出試薬は別々の分子であってもよく、また、あるいは、一つの分子が、捕捉機能と検出機能の両方を果たすことも可能である。一定の実施態様において、捕捉試薬および/または検出試薬は、病原性プリオンと選択的に相互作用する(すなわち、病原性プリオン特異的な)本明細書記載のペプチド試薬である。別の実施態様では、捕捉試薬が、病原性プリオンに対して特異的で、検出試薬は病原型にも非病原型にも結合する、例えば、プリオンタンパク質に結合する抗体である。このようなプリオン結合試薬は、本明細書において既に説明されている。あるいは、別の実施態様において、捕捉試薬は病原性プリオンに特異的ではなく、検出試薬が病原性プリオンに特異的である。
【0183】
そして、適当な検出方法を用いて、本明細書記載のペプチド試薬とプリオンタンパク質の結合を同定する。例えば、本明細書に記載したようなアッセイ法は、標識されたペプチド試薬または抗体を使用することを含む。本発明で使用するのに適した検出可能な標識には、検出することができる分子が含まれ、放射性同位元素、蛍光剤、化学発光剤、発光団、蛍光半導体ナノ結晶、酵素、酵素基質、酵素補助因子、酵素阻害剤、発光団、色素、金属イオン、金属ゾル、リガンド(例えば、ビオチンまたはハプテン)などであるが、これらに限定されない。これら以外の標識には、検出可能な範囲で蛍光を発することができる蛍光基質または蛍光部位など、蛍光を使用するものなどがあるが、それらに限定されない。本発明で使用することができる標識の具体例には、アルカリホスファターゼ(AP)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、FITC、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、ジメチルアクリジニウムエステル(DMAE)、テキサスレッド、ルミノール、NADPH、およびβ−ガラクトシダーゼなどがあるが、これらに限定されない。また、検出可能な標識にはオリゴヌクレオチドタグがあるが、このタグは、PCR、TMA、b−DNA、NASBAなど、既知の核酸検出法のいずれかによって検出することができる。
【0184】
本明細書記載のアッセイ法の一つ以上の工程は、溶液中(例えば、液体培地)または固体支持体上で行うことができる。本発明の目的にとって、固体支持体は、不溶性基質であって、目的とする分子(例えば、本発明のペプチド試薬、プリオンタンパク質、抗体など)が連結または結合することができる剛体面または半剛体面をもつことができる任意の物質であればよい。固体支持体の例には、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ラテックス、ポリカーボネート、ナイロン、デキストラン、キチン、砂、シリカ、軽石、アガロース、セルロース、ガラス、金属、ポリアクリルアミド、シリコン、ゴム、ポリサッカライド、ポリビニルフルオリド、ジアゾ化紙;活性化ビーズ、磁気反応性ビーズなどの基質、ならびに固相合成、アフィニティー分離、精製、ハイブリダイゼーション反応、免疫アッセイ法、およびその他の用途で一般的に使用されている材料が含まれるが、これらに限定されない。この支持体は、微粒子でもよく、または、連続した表面の形になっていてもよく、膜、メッシュ、プレート、ペレット、スライド、ディスク、細管、中空糸、針、ピン、チップ、ソリッドファイバー、ゲル(例えば、シリカゲル)、およびビーズ(例えば、多孔質ガラスビーズ、シリカゲル、随意でジビニルベンゼンとクロスリンクしているポリスチレンビーズ、グラフト共重合ビーズ、ポリアクリルアミドビーズ、ラテックスビーズ、随意でN−N‘−ビス−アクリロイルエチレンジアミンとクロスリンクしているジメチルアクリルアミドビーズ、酸化鉄磁気ビーズ、および疎水性ポリマーで被覆されたガラス粒子)などがある。特に好適な固体支持体は、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートおよび/またはポリスチレン製磁気粒子、例えば、Dynabeads M−270(Dynal Biotech)などである。
【0185】
本明細書に記載したようなペプチド試薬は、標準的な技術を用いて容易に固体支持体に結合させることができる。支持体への固定は、まずペプチド試薬をタンパク質に結合させることで増強することができる(例えば、タンパク質がより強い固相結合特性を有する場合)。適当な共役タンパク質は、ウシ血清アルブミン(BSA)などの血清アルブミン、キーホールリムペット・ヘモシアニン、免疫グロブリン分子、チログロブリン、オボアルブミンなどの高分子、およびその他当技術分野において周知のタンパク質などであるが、これらに限定されない。この他の試薬で、分子を支持体に結合させるために使用できるものは、ポリサッカライド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸の重合体、アミノ酸コポリマーなどである。このような分子、およびこれらの分子をタンパク質に結合させる方法は、当業者にとって周知である。例えば、Brinkley, M.A.,(1992)Bioconjugate Chem.,3:2−13; Hashida et al.(1984) J.Appl.Biochem.,6:56−63;およびAnjaneyulu and Staros(1987) International J.of Peptide and Protein Res.30:117−124参照。
【0186】
所望であれば、固体支持体に付加する分子を容易に官能化して、スチレン部分またはアクリル酸部分として、ポリスチレン、ポリアクリル酸、またはその他のポリマー、例えば、ポリイミド、ポリアクリルアミド、ポリエチレン、ポリビニル、ポリジアセチレン、ポリフェニレン−ビニレン、ポリペプチド、ポリサッカライド、ポリスルホン、ポリピロール、ポリイミダゾール、ポリチオフェン、ポリエステル、エポキシ、シリカガラス、シリカゲル、シロキサン、ポリリン酸、ヒドロゲル、アガロース、セルロースなどの中に分子を取り込むことを可能にすることができる。
【0187】
ペプチド試薬は、分子の結合対の相互作用を介して固体支持体に結合させることができる。このような結合対は当技術分野において周知されており、本明細書の他の箇所で例が示されている。結合対の一方を上記の技術によって固体支持体に結合させ、結合対のもう一方は、(合成の前、最中、または後に)ペプチド試薬に結合させる。こうして修飾したペプチド試薬は、試料に接触させることができ、病原性プリオンが存在するならば、病原性プリオンとの相互作用を溶液の中で生じさせ、その後、固体支持体をペプチド試薬(すなわちペプチド−プリオン複合体)に接触させることができる。この実施態様にとって好適な結合対は、ビオチンとアビジン、ならびにビオチンとストレプトアビジンなどである。
【0188】
また、本発明のアッセイ法では、適当な対照を使用することも可能である。例えば、PrPCの陰性対照を本アッセイ法において使用することができる。PrPSc(またはPrPres)の陽性対照も本アッセイ法で使用できるであろう。以下で説明する代理対照も本発明で使用することができる。
【0189】
上記したような検出アッセイ法を行うために、本明細書記載のペプチド試薬を含む上記アッセイ試薬を、適当な使用説明書およびその他必要な試薬とともにキットにして提供することもできる。ペプチド試薬を固体支持体上に結合させる場合、キットは、さらに、または代わりに、一つ以上の固体支持体に結合した該ペプチド試薬を含むことも可能である。このキットは、さらに、一つ以上の抗プリオン抗体を含むことも可能である。このような抗プリオン抗体は、検出できるように標識されていてもよいし、または、固体支持体上で提供されてもよい。このキットは、上記したように、適当な陽性および陰性の対照をさらに含むこともできる。また、このキットは、使用される具体的な検出アッセイ法に応じて、適当な標識およびその他のパッケージされた試薬および材料(すなわち、洗浄バッファー、インキュベーション用バッファーなど)も含むことができる。
【0190】
V.代理対照
本明細書には、プリオン検出アッセイ法において有用な代理対照が記載されている。代理対照を含む組成物、およびこれらの代理物を使用する方法も提供される。免疫アッセイ用の人工的な対照については既述されている(例えば、米国特許第5,846,738号、第5,491,218号、第6,015,662号、第6,281,004号および国際特許公開第号99/33965参照)が、これらの分子はプリオンアッセイ法には適用できないので、対照として役に立たない。
【0191】
一定の態様において、代理対照は、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するペプチド試薬に結合する。したがって、これらの態様においては、本発明(代理対照およびそれを使用する方法)は、2004年8月13日付で出願された米国特許出願第10/917,646号、2005年2月11日付で出願された米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日付で出願されたPCT出願第PCT/US/2004/026363号に記載されているように、プリオンタンパク質の比較的小さな断片が、プリオンの病原型と選択的に相互作用できるという発見に部分的に依存している。これらの断片が、病原性プリオンアイソフォームとの選択的な相互作用を示すためには、より大きなタンパク質構造体の一部であることや、他の型の足場分子である必要はない。特定の理論に拘泥するわけではないが、ペプチド断片は、恐らくは、非病原性プリオンアイソフォームに存在するコンフォメーションを模倣することによって、非病原性プリオンアイソフォームではなく病原性プリオンアイソフォームに結合できるコンフォメーションを自発的に採るものと思われる。本明細書ではプリオンについて示されているが、あるコンフォメーション病タンパク質の一定の断片が、そのコンフォメーション病タンパク質の病原型と選択的に相互作用するというこの一般原則を直ちに他のコンフォメーション病タンパク質に適用して、病原型と選択的に相互作用するペプチド試薬を製造することができる。これらの断片は(例えば、サイズまたは配列特性に関して)出発点を提供するが、これらの断片に多くの改変を加えて、より望ましい属性(例えば、より高いアフィニティー、より高い安定性、より高い溶解性、プロテアーゼに対するより低い感受性、より高い特異性、合成するのがより容易であるなど)をもつペプチド試薬を作製できるということは、当業者にとって明白であろう。
【0192】
このように、本明細書記載の代理対照は、2004年8月13日付で出願された国際出願PCT/US/2004/026363に記載されているペプチド試薬、ならびにこれらのペプチド試薬に対する抗体(またはその断片)、および/またはその他のプリオン抗体などのプリオン結合試薬に結合する。したがって、これらの代理対照は、プリオンアッセイを行うための簡単かつ効率的で非感染性の陽性対照および/または精度対照(qualiy control)を提供し、生体脳もしくは死体脳、脊椎、またはその他の神経系組織および血液など、生体、非生体を問わず、実質的にいかなる試料においてもプリオン関連疾患の診断を確認するために使用することができる。
【0193】
さらに、シグナルを増幅するために複数の認識部位、分岐DNAなどを使用すること(例えば、米国特許第5,681,697号、第5,424,413号、第5,451,503号、第5、4547,025号、および第6,235,483号参照);PCR、ローリングサークル増幅法、サードウエーブインベーダー(Arruda et al.2002.Expert.Rev.Mol.Diagn.2:487、米国特許第6090606号、第5843669号、第5985557号、第6090543号、第5846717号)、NASBA、TMAなどの標的増幅技術を応用すること(米国特許第6,511,809号、欧州特許第0544212A1号);および/または免疫PCR技術(例えば、米国特許第5,665,539号、国際特許公開第98/23962号、第00
/75663号、および第01/31056号参照)などがあるが、これらに限定されない適当なシグナル増幅系を用いて、アッセイにおける代理対照の検出をさらに容易にすることができる。
【0194】
本明細書には、プリオン検出アッセイ法、特に、試料中の病原性プリオンを検出するアッセイ法のために代理対照として働く非感染性分子が記載されている。本明細書記載の代理対照は、プリオン検出/単離法の正確さを確認するための陽性対照として、および/またはアッセイ試薬および方法が、そのアッセイ法を適正なものとする基準に合致していることを保証するための精度対照として有用である。
【0195】
通常、記載された代理対照が最も有用であるアッセイ法は、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用して、検出すべきプリオンを「捕捉」するペプチド試薬でありうるプリオン結合試薬を利用する。「捕捉」とは、ペプチド試薬によってプリオンを固定または局在化することを意味するものである。プリオン結合試薬および「捕捉」されたプリオンタンパク質は、典型的には、本明細書の中でさらに説明されている方法によって検出可能な複合体を形成する。しばしば、この複合体の検出は検出試薬を用いて行う。この検出試薬は、典型的にはプリオン結合試薬であって、通常は、検出できるよう標識されている(または、例えば、検出用一次抗体および標識二次抗体の場合などには、標識可能である)。
【0196】
本発明の代理対照は、プリオンアッセイ法のプリオン結合試薬に結合する第一のドメインを含む。例えば、一つの態様において、第一のドメインは、PrPScと選択的に相互作用するペプチド試薬に結合する。また、この代理対照は、代理対照のプリオン結合試薬(例えば、ペプチド試薬)への結合を簡単に検出できるようにする一つ以上の検出可能な標識も含むことができる。
【0197】
一つの態様において、代理対照は、第一のプリオン結合試薬ドメインおよび第二のドメインを含み、第二のドメインがプリオンアッセイ法の検出試薬に結合する分子を含むという点で二機能性(または、場合によっては三機能性)である。例えば、検出試薬が抗体を含む場合、第二のドメインは、この抗体によって認識されるエピトープ(またはミモトープ)を含むことができる。あるいは、第二のドメインおよび検出試薬はそれぞれ、分子の結合対(例えば、ビオチンおよびストレプトアビジンなど)の一方を含むことができる。このように、第一および第二のドメインは、一般的には互いに異なる分子であるが、場合によっては同一の分子であってよい。
【0198】
二機能性代理物の第二のドメインは、検出できるよう標識された検出試薬に直接結合することができる。あるいは、第二のドメインは、検出システムの成分を認識することができる。例えば、一定の免疫アッセイ法(ELISAなど)において、検体(例えば、プリオンまたは代理対照)は、一次抗体に結合し、次に、この一次抗体が検出できるよう標識された二次抗体に結合することによって検出される。このように、一定の実施態様において、第二のドメインは、二抗体検出試薬システムの一次抗体を認識する。
【0199】
本発明の二機能性(もしくは三機能性)代理対照は、単一分子(例えば、2つのドメインを含む融合タンパク質またはキメラタンパク質)、または、別々に合成された2つ(以上)の分子であって、その後互いに共有的または非共有的に連結する分子であろう。これらの分子は、ドメインの結合機能が保存される限り、当技術分野において既知のいかなる方法で結合されてもよい。また、2つのドメインを含む二機能性代理対照は、これら2つのドメインの間に一つ以上のリンカーを含むことができる。
【0200】
本明細書記載の二機能性代理対照は、PrPScと選択的に相互作用する一つ以上のペプチド試薬をプリオン結合試薬として用いるプリオン測定アッセイ法において都合よく使用される。例えば、表Aに示されているように、多くの抗PrP抗体、およびそれらが認識するPrPエピトープが知られている。
【0201】
【表4−1】
【0202】
【表4−2】
上記に一覧した抗体およびエピトープ以外にも、本明細書記載のペプチド試薬に対して作製された抗体、そのような抗体の断片、またはそのような抗体のエピトープもしくはミモトープ(mimotope)も、本発明の代理対照に使用することができる。
【0203】
上記したように、代理対照の第一および第二のドメインは、アッセイで使用されるプリオン結合試薬および検出試薬に応じて選択される。表B、CおよびDは、典型的な代理対照の非限定的な例を示す。特に、表Bは、アッセイ法のプリオン結合試薬が本明細書記載のペプチド試薬であって、第一のドメインがこのペプチド試薬を認識する場合の代理対照の例を示す。
【0204】
【表5】
表Cは、アッセイ法のプリオン結合試薬が本明細書記載のペプチド試薬を含み、第一のドメインがこのペプチド上にある補助的なモチーフを認識する場合の代理対照の例を示す。補助的なモチーフは、例えば、検出可能な標識、結合対の一方(例えば、ビオチン、His−6)など、PrPプルダウンペプチド配列と無関係に認識されうるペプチドであろう。代理物の第一のドメインは、ペプチド試薬、例えば、抗体(またはその断片)、アプトマー、タンパク質などの補助的なモチーフを認識する分子を含む。
【0205】
【表6】
表Dは、第一のドメインがこのアッセイ法においてプリオン結合試薬として用いられる抗体によって認識されるエピトープを含む代理対照の例を示す。第二の代理ドメインも同様に、検出試薬(PrPを認識した抗体)によって認識されるエピトープを含む。
【0206】
【表7−1】
【0207】
【表7−2】
本明細書記載の代理対照のいずれにおいても、一つ以上のドメインが複数の認識部位を含むことができる。検出法が二抗体サンドイッチ式ELISAを利用する場合、代理対照は、「再捕捉」抗体に結合する第三のドメインを含む。例えば、SAF32抗体が、解離した病原性プリオンタンパク質を再捕捉するために用いられ、3F4抗体が検出抗体として用いられる場合には、代理対照は、「プルダウン」工程で用いられるペプチド試薬に結合するドメインに加えて、SAF32抗体および3F4抗体に対する認識エピトープを含む。
VI.更なる応用法
A.検出
上記したように、本明細書に記載した病原性プリオンタンパク質検出方法を用いて、対象者のプリオン病を診断することができる。さらに、上記方法を用いて、輸血用血液および/または食糧供給品における病原性プリオンによる汚染を検出することができる。したがって、本明細書記載の検出法のいずれかを用いて、採集試料またはプールした試料の各々の等量液をスクリーニングすることによって、実質的に病原性プリオンを含まない輸血用血液を調製することができる。病原性プリオンに汚染されたプール試料を、他の試料と混合する前に除去することができる。このようにして、実質的に病原性プリオン汚染のない輸血用血液を提供することができる。「実質的に」とは、本明細書記載のアッセイ法のいずれを用いても病原性プリオンの存在が検出されないことを意味する。重要なのは、本明細書記載のペプチド試薬が、正常組織で106倍に希釈した脳組織の中でタンパク質の病原型を検出することが示されていて、血液中の病原性プリオンを検出することができる可能性があることが示された唯一の試薬であるということである。
【0208】
したがって、本発明は、実質的に病原性プリオンを含まない輸血用血液を調製する方法であって、該輸血用血液が、全血、赤血球、血漿、血小板、または血清を含み、該方法が、(a)採集した血液試料の全血、赤血球、血漿、血小板、または血清の等量液を、検出のために本明細書で提供した検出法のいずれかによってスクリーニングする工程;および(b)病原性プリオンが検出されなかった試料のみを混合して、実質的に病原性プリオンを含まない輸血用血液を提供する工程を含む方法を提供する。
【0209】
同様に、食糧供給品も、実質的に病原性プリオンを含まない食糧を提供するために、病原性プリオンの存在をスクリーニングすることができる。すなわち、本明細書記載の方法のいずれかを用いて、ヒトまたは動物が消費するための食料にするつもりの生物の試料を、病原性プリオンの存在についてスクリーニングすることができる。食糧供給を始めようとする食料品から採取した試料もスクリーニングすることができる。病原性プリオンが検出された試料を同定して、病原性プリオンが検出された試料が採取された、食糧供給しようとしていた生物または食料品を、食糧供給から排除する。このようにして、実質的に病原性プリオンを含まない食糧供給が提供される。
【0210】
このように、本発明は、実質的に病原性プリオンを含まない食糧供給を準備する方法であって、(a)食糧供給されようとする生物から採集した試料、または食糧供給しようとする食料から採集した試料を、本明細書に記載された病原性プリオンを検出するための検出法のいずれかによってスクリーニングする工程;および(b)病原性プリオンが検出されない試料のみを混合して、実質的に病原性プリオンを含まない食糧供給を提供する工程を含む方法が提供される。
【実施例】
【0211】
以下は、本発明を実施するための具体的な実施態様の例である。実施例は、具体例を説明するだけの目的で提示されており、いかなる意味でも本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【0212】
使用する数字(例えば、量や温度など)についてはできるだけ正確を期して努力したが、いくらかの実験的な誤差および偏差は、当然のことながら考慮に入れられるべきである。
【0213】
(実施例1:ペプチド試薬の製造)
標準的なペプチド合成技術を用い、本質的には、Merrifield(1969)Advan.Enzymol.32:221およびHolm and Medal(1989)Multiple column peptide synthesis,p.208E,Bayer and G.Jung(ed.),Peptides 1988,Walter de Gruyter & Co Berlin−N.Y.Peptidesに記載されているとおりに、プリオンタンパク質のペプチド断片を化学的に合成した。ペプチドをHPLCによって精製し、配列を質量分析法によって確認した。
【0214】
場合によっては、合成されたペプチドは、N末端またはC末端に付加的な残基、例えば、GGG残基を含んでいるか、および/または、野生型配列と比較すると1個以上のアミノ酸置換を含んでいた。
【0215】
A.ペプトイド置換
配列番号14(QWNKPSKPKTN、配列番号2の97〜107位の残基に対応する)、配列番号67(KKRPKPGGWNTGG、配列番号2の23〜36位の残基に対応する)、および配列番号68(KKRPKPGG、配列番号2の23〜30位の残基に対応する)に示されたペプチドにペプトイド置換も行った。具体的には、これらのペプチドの一つ以上のプロリン残基を、さまざまなN置換型ペプトイドで置換した。任意のプロリンに置換することができるペプトイドについては図3参照。米国特許第5,877,278号および第6,033,631号に記載されているとおりにペプトイドを調製および合成した。これらの文献は、ともにその全体が参照されて本明細書に組み込まれる。Simon et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:9367.
B.多量体化
また、一定のペプチド試薬は、例えば、タンデム反復(GGGなどのリンカーを介してペプチドの多数のコピーを結合する)、多重抗原ペプチド(MAPS)、および/または直鎖状結合ペプチド(linearly−linked peptides)を調製することにより、多量体としても調製した。
【0216】
特に、標準的な技術を用い、本質的にはWu et al.(2001)J Am Chem Soc.2001 123(28):6778−84;Spetzler et
al.(1995)Int J Pept Protein Res.45(l):78−85に記載されているとおりにMAPSを調製した。
【0217】
また、直鎖状および分枝状のペプチド(例えば、PEGリンカー多量体化)は、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを用い、標準的な技術を用いて作成した。具体的には、分枝状多重ペプチドPEGの足場(branched multipeptide PEG scaffolds)は、以下の構造を持つものを作出した:ビオチン−PEG−Lys−PEG−Lys−PEG−Lys−PEG−Lys−PEG−Lys(ペプチド対照なし)およびビオチン−PEG−Lys(ペプチド)−PEG−Lys(ペプチド)−PEG−Lys(ペプチド)−PEG−Lys(ペプチド)−PEG−Lys(ペプチド)。さらに、ペプチドとLysの結合部を作成した:Lys−イプシロン−NH−CO−(CH2)3−Mal−S−Cys−ペプチド。図5参照。
【0218】
C.ビオチン化
合成および精製した後、標準的な技術を用いてペプチドをビオチン化した。ペプチドのN末端もしくはC末端にビオチンを加えた。
【0219】
(実施例2:結合アッセイ法)
A.プルダウン法
磁気ビーズプルダウンアッセイ法を用いて、本明細書記載のペプチド試薬がプリオンタンパク質に特異的に結合できるかをテストした。このアッセイのために、ペプチド試薬をビオチンで標識して、ストレプトアビジンでコートされた磁気ビーズへの結合を可能にするか、あるいは、磁気ビーズに共有結合させた。
【0220】
脳のホモジネートを、RML PrPSc+およびPrPC+のBalb−cマウスから調製した。要するに、1% TW20および1%トリトン100を含む5mLのTBSバッファー(50mM Tris−HCl pH7.5および37.5mM NaCl)を重量約0.5gの脳に加えて10%ホモジネートにした。脳のスラリーを加圧型細胞破砕装置で大きな粒子が見えなくなるまで破砕した。200μlの等量液をバッファーで1:1に希釈し、予め冷やしておいたエッペンドルフチューブに入れて、試料を、各回数秒ずつ数回繰り返して超音波で破砕した。試料を500xで10〜15分間遠心分離して、上清を取り除いた。
【0221】
プロテイナーゼK分解の効果を調べるために、一定の上清を2つの試料に分けて、一方の試料に4μlのプロテイナーゼKを加え、37℃で1時間回転させた。8μlのPMSFをプロテイナーゼKのチューブに加えて分解を停止させ、このチューブを最低でも1時間4℃に置いた。
【0222】
さらに、ビオチン化ペプチドとストレプトアビジン磁気ビーズによる異なった方式のプルダウン法もテストした。第一の一連の実験では、感染性のある脳ホモジネートをビオチン化ペプチドと混合した後、ストレプトアビジンビーズを加えた。第二の一連の実験では、磁性ストレプトアビジンビーズをビオチン化ペプチドでコートした後、感染性脳ホモジネートと混合した。どちらの実験セットにおいても、これら3つの成分(ビーズ、ペプチド、および脳ホモジネート)を一緒にインキュベートした後、混合物を洗浄し、室温で15分間3MGdnSCNによる処理を行い、下記のとおりにELISA測定を行った。
【0223】
図14に示すように、PrPScの単離(プルダウン)については、第二の方式(脳ホモジネートと混合する前にビーズをビオチン化ペプチドでコートする)の方が、第一の方式(ビオチン化ペプチドを脳ホモジネートと混合した後にビーズを加える)よりも約100倍効率が良かった。これらの結果に基づいて、第二の方式に従って、さらなる検出実験を行った。
【0224】
ホモジネートは、次回使用されるまで4℃で保存し、必要があれば、上記したとおりに、再び超音波破砕処理した。10% w/vのPrPC+またはPrPSc+の脳ホモジネート調製物を、ビオチン標識されたペプチド試薬と4℃で一晩、以下のようにしてインキュベートした。400μlのバッファー、50μlの抽出物、および5μlのビオチン標識ペプチド試薬(10mM保存液)を含むチューブを用意した。このチューブを振とう台上で、室温にて最低2時間インキュベートするか、4℃で一晩インキュベートした。
【0225】
インキュベートした後、50μlのSA−ビーズ(Dynal M280ストレプトアビジン112.06)を加え、チューブをボルテックスで撹拌した。このチューブを振とうさせながら(VWR、振とう台、モデル100)、室温で1時間、または4℃で一晩インキュベートした。
【0226】
試料を振とう器から取り出し、磁場に置いて、ペプチド試薬とプリオンを付着させた磁気ビーズを回収し、1mlのアッセイ用バッファーを用いて5〜6回洗浄した。試料は、直ちに使用するか、以下に説明するウエスタンブロッティングまたはELISAを行うまで−20℃で保存した。
【0227】
B.ウエスタンブロッティング
ウエスタンブロッティング解析は以下のようにして行った。ビーズ−ペプチド−プリオン複合体を上記したように沈殿させ、最後の洗浄後、25μl〜30μlSDSバッファー(Novexトリス−グリシンSDSサンプルバッファー2×)を各チューブに加えて変性させた。このチューブを、すべてのビーズが懸濁されるまで撹拌混合した。そして、蓋が開き始めるまでチューブを沸騰させ、標準的なSDS−PAGEゲル泳動を行い、WB解析を行うために固体膜に転写した。
【0228】
この膜を、5%ミルク/TBS−T[50mlの1Mトリス pH7.5;37.5mlの4M NaCl、1〜10mLのTween、ミルクで1Lの容量にする]の中に室温にて30分間ブロックした。2003年9月30日出願に係る国際出願番号PCT/US03/31057(発明の名称「プリオンキメラ、およびその用途」)に記載されているように、10〜15mlの抗プリオンポリクローナル抗体を、1:50の希釈倍率で上記膜に加え、室温にて1時間インキュベートした。この膜をTBS−Tで何度も洗浄した。洗浄後、アルカリホスファターゼ(AP)に結合させた二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG(H+L)抗体(Pierce)を、1:1000の希釈倍率(TBS−T中)で加え、室温にて20分間インキュベートした。この膜をTBS−Tで何度も洗浄した。アルカリホスファターゼ沈殿試薬(1段階NBT/BCIP(Pierce))を加えて、バックグランドがはっきりして来るか、シグナルが明らかになるまで発色させた。
【0229】
C.ELISA
以下のとおりに間接ELISAを行った(図7)。(間接ELISA法は、抗原被覆プレートを使用するが、今回は、プルダウン工程で得られたPrPで、抗原特異的な非標識一次抗体で、および一次抗体に結合する標識二次抗体でコートしたプレートを用いた)。さまざまな試料におけるPrPScのプルダウンを上記したように行った。要するに、磁気ビーズを一種類以上のペプチド試薬で本明細書に記載したようにコートして、96穴プレートに等量液を分注した。マウス脳ホモジネート、PrPScを加えたヒト血漿、正常脳およびスクレイピー脳に由来するゴールデンハムスター(SHa)脳ホモジネート、ヒトvCJD脳、およびシカPrP遺伝子で遺伝子組換えされた正常または病気(CWDPrPSc)のマウスの脳ホモジネートの試料を、ペプチド試薬でコートされたビーズと室温にて4時間インキュベートして、試料中にあるPrPScを、ペプチド試薬でコートされたビーズに結合させた。
【0230】
ペプチド試薬ビーズによってPrPScを捕捉した後、ウェルを洗浄して未結合のタンパク質を除去し、プレートを磁場に曝露して上清を除去した。そして、ペプチドに結合したPrPScをペプチドビーズから分離させた。天然型(未変性)のPrPScを認識する抗体を未だ使用することができないため、変性条件下、すなわち、3Mまたは6Mのグアニジンチオシアネート(GdnSCN)とインキュベートしてPrPScを分離した。例えば、Peretz et al.(1997)J.MoI.Biol.273(3):614−622;Ryou et al.(2003)Lab Invest.83(6):837−43参照。分離したPrPScを0.1M NaHCO3、pH8.9(110μl/ウェル)とインキュベートしてプレート上にコートし、吸引と洗浄(0.05% TW20を含む200μlのTBSで3回)によって、ビーズをウェルから除去した。
【0231】
洗浄後、ウェル(試料のいずれかのPrPScでコートされている)を、TBS中3%BSA、200μlで37℃にて1時間ブロックした。そして、ブロッキング溶液を吸引によりプレートから除去して、1%BSAを含むTBS中0.5μg/mlの一次Fab
D18溶液(Peretz et al.(2001)Nature 412(6848):739−743)100μlを各ウェルに加えて、37℃にて2時間インキュベートした。そして、0.05%TW2を含むTBC、300μlでウェルを9回洗浄した。アルカリホスファターゼ(AP)を結合したヤギ抗ヒト抗体を各ウェルに加え(100μlの1:5000希釈液)、プレートを37℃にて1時間インキュベートした。洗浄(0.05%TW2を含むTBC、300μlで9回)した後、100μlのAP基質を各ウェルに加え、37℃にて0.5時間インキュベートし、プレートの吸光度(OD)を読み取った。
【0232】
間接ELISAの結果を表2および図7〜12に示す。表2は、さまざまなペプチド試薬に関するO.D.値を示す。ブランク対照を上回るO.D.値(0.172〜0.259)を陽性と見なした。
【0233】
図8は、さまざまな希釈率で感染性プリオン粒子を添加したマウス脳ホモジネートからPrPScをELISAで検出したことを示す。ELISAアッセイは上記したとおりに行った。LD50は、動物の50%を死に至らせるPrPScの致死量であると定義されており、マウスを含む多くの齧歯類モデルで決定されている。例えば、Klohn et al.(2003)Proc Natl Acad Sci USA 100(20):11666−11671参照。このELISAアッセイでは、血液試料でプリオンを検出するために必要とされる感度である100LD50単位よりも低いプリオン感染性が血漿および軟膜で検出された。
【0234】
図9は、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)(図9A)およびビオチン−GGGKKRPKPGG(配列番号68)(図9B)を捕捉(プルダウン)試薬として用いた、ヒト血漿試料に添加されたマウスPrPScのELISAの結果を示す。
【0235】
図10Aは、プロテイナーゼKによる分解をせずに、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)およびビオチン−GGGKKRPKPGG(配列番号68)を用いてプルダウンした、正常なゴールデンハムスター(SHa)およびスクレイピーに感染したゴールデンハムスター(VA Medical Center, Baltimore,Marylandより購入)の1μlの10%脳ホモジネートのELISA検出を示す。図10Bは、PK分解した試料のウエスタンブロット解析を示す。図11は、シカPrP遺伝子もつトランスジェニックマウス(Glenn Telling,University of Kentuckyから入手。Browning et al.(2004)J.Virol.78(23):13345−13350参照)においてPrPScを検出したELISAを示す。PrPScは、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)、ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGLGG−CONH2(配列番号136)、およびGGGKRPKPGG(配列番号68)を用いてPrPScをプルダウンし、上記したようにしてELISAにより検出した。
【0236】
図12は、ウエスタンブロット(図12A)およびELISA(図12B)による、さまざまなCJD試料におけるPrPScの検出結果を示す。
【0237】
図13は、本明細書に記載された以下の多様なペプチドを用いて、vCJD脳ホモジネートにおいてPrPScを検出したことを示す:QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14);QWNKPSKPTKTNGGGQWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号51);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(3,5−ジメトキシベンジル)グリシンで置換されている(配列番号117);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−ブチルグリシンで置換されている(配列番号118);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P8がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号111);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P8がN−ブチルグリシンで置換されている(配列番号114);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されおり、P8がN−ブチルグリシンで置換されているもの(配列番号131);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(イソプロピル)グリシンで置換されおり、P8がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号132);QWNKPSKPKTN2K−ビオチン(配列番号133;図6);ビオチン−GGGKKRPKPGG(配列番号68);ビオチン−KKRPKPGG、ただし、P6がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号122);ビオチン−GGGKKRPKPGGGQWNKPSKPKTN(配列番号81);4−分枝MAPS−GGGKKRPKPGGWNTGGG−ビオチン(配列番号134);8−分枝MAPS−GGGKKRPKPGGWNTGGG−ビオチン(配列番号135);ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGGLGGYMLGSAM(配列番号57);ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGGLGG−CONH2(配列番号136);およびビオチン−GGGKKKKKKKK(配列番号85)。
【0238】
D.結果
ウエスタンブロティングおよび間接ELISA結合アッセイ法の結果が表2および図8〜14に要約されている。要するに、PrPScに結合する本明細書記載のペプチド試薬の特異的結合を検出するためには、脳ホモジネートのプロテイナーゼK分解は必要ではなかった。図4に示されているように、野生型の脳ホモジネートに対しては結合が全く見られず、ペプチド試薬がPrPScに特異的に結合していたことを示している。図8〜14は、さまざまな種を横断して感度と特異性を実証している。さらに、上記のウエスタンブロッティング解析では、4種類の対数希釈(logs dilution)にわたってPrPScが検出されたが、ELISAは、ウエスタンブロッティングよりも10倍以上感度が高かった。
【0239】
このように、本明細書記載のペプチド試薬は、さまざまな種に由来するPrPScが生体試料中に存在することを、100LD50よりも低い感度で、プロテイナーゼKによる分解を必要とせずに効率的に検出する、簡易な1ウェルでできるハイスループットアッセイ法を可能にする。
【0240】
【表8−1】
【0241】
【表8−2】
【0242】
【表8−3】
1 1:目視によって評価した相対的シグナル強度
2:環状化されている
3:示された位置にGGGG残基が付加/挿入されている
4:示された位置にGGG残基が付加/挿入されている
5:示された位置にGG残基が付加/挿入されている
6:示された位置にKKK残基が付加/挿入されている
ND=未決定
結合に関与する残基を同定するためにアラニンスキャニングも行った。結果を表3に示す。
【0243】
【表9−1】
【0244】
【表9−2】
さらに、表4に示すように、配列番号14、配列番号67および配列番号68を有するペプチド試薬によるPrPScへの結合は、いくつかのN−置換グリシン(ペプトイド)によるプロリン残基の置換によってさらに促進された。図13も参照。
【0245】
【表10−1】
【0246】
【表10−2】
【0247】
【表10−3】
1本表に示した実験では、ペプチド試薬中に任意のGGGリンカーは存在しなかった。
【0248】
さらに、PrPSc結合ペプチド試薬の多量体化も、PrPScへの親和性を向上させた。特に、タンデム反復は、単一コピーよりも強いシグナルをもたらした(ウエスタンブロッティングで測定したとき)。ビーズ上で予め誘導体化したMAP型は、一定の場合に結合を2倍まで増加させた。しかし、MAP型は、ペプチドが溶液中で沈殿する原因となった。直鎖状に結合したペプチドも、沈殿をもたらすことなしに結合を強化できるかをテストした。
【0249】
(実施例3:サンドイッチ式ELISAおよびpH分離)
グアニジウム塩などのカオトロピック剤が、実施例2に示したようなプルダウン工程で捕捉されたPrPSCを分離および変性するのに有効である。しかし、変性したプリオンタンパク質を抗プリオン抗体(例えば、PrPを検出するために使用されるもの)に曝露するためには、グアニジウムは除去するか、顕著に希釈する必要がある。これは、直接的または間接的なELISA(かなりの量のPrPをマイクロタイタープレートに直接コートする)にとっては問題ではないが、サンドイッチ式ELISAにとっては問題となりうる。本発明者らは、Gdnを使用せず、さらなる洗浄も、希釈のために大容量を導入することも必要としない、ペプチド試薬から捕捉したPrPを変性するための別のプロトコールを開発した。この方法は、PrPSCを変性するために高pHまたは低pHでのpH処理を利用する。変性したPrPは、ペプチド試薬から離れて行く。変性状態は、溶液を中和することで簡単に解消することができる。
【0250】
ペプチド試薬から分離した後に、PrPSCを検出するために2種類の抗プリオン抗体(一つは「再捕捉」のため、もう一つは検出のため)を用いてサンドイッチ式ELISAを行った。これらのアッセイ法は、プリオンタンパク質を分離および変性するために、3MのGdnSCNか、高pHまたは低pHでのpH処理を用いて行った。これらの実験のためのプロトコールを以下に概要する。
【0251】
ストレプトアビジン磁気ビーズ(M−280 Dynabeads)を、配列番号68を有するビオチン化ペプチド試薬と混合し、未結合のペプチド試薬を除去するために洗浄した。ペプチドでコートされたビーズを用いて、70%ヒト血漿を含む100μl溶液の中に添加したヒトvCJDの10%脳ホモジネート、0.025μlをプルダウンした。37℃で1時間混合した後、ビーズを洗浄し、さまざまなpHの溶液で処理した。室温で10分間インキュベートした後、溶液を約7という中性pHにした。上清は、分離され変性されたプリオンタンパク質を含んでいたが、これを、予め抗プリオン抗体SAF32でコートされたマイクロタイタープレートに加え、その後、このプレートを37℃で2時間インキュベートした。プレートを洗浄し、AP標識された3F4を検出用抗体として加えた。プレートを37℃で約2時間インキュベートし、再び洗浄し、化学発光AP基質(LumiphosPlus)を加えて、37℃で30分間インキュベートしてから、ルミノスキャンアセント(Luminoskan Ascent (Thermo Labsytems))でA405を読み取った。結果を表5に示す。この実験でpH分離と変性にとって最適な条件は、0.1N NaOH(約pH13)またはリン酸0.5M(約pH1)で10分間というものであった。
【0252】
本発明者らは、Gdnのときと比べて、ヒト血漿に添加されたBH(すなわち、100nlのvCJD BHまたは正常BH)を4倍量有する試料で、pH13またはpH1の処理を用いて、上記サンドイッチ式ELISAを繰り返した。これらの結果を表6に示すが、以前の結果と同様であった。
【0253】
【表11】
【0254】
【表12】
上記したところと同様であるが、異なった抗プリオン抗体を捕捉抗体として使用して、サンドイッチ式ELISAを行った。AP−3F4を、上記したように検出用に使用した。6H4(Prionics AGから市販されている)を捕捉用に使用した。別に2つの抗プリオン抗体、C2およびC17も捕捉用抗体として使用した。C2は、プリオンタンパク質のN末端にある8回反復配列中のエピトープを認識する。C17は、C末端側の121〜123位の残基の間にある領域にあるエピトープを認識する。この実験では、高pH処理のみを用い、60分間実施した後、上記したようにpH7に中和した。3MのGdnSCNによる10分間の処理を比較のために利用した。結果を表7に示す。
【0255】
【表13】
(実施例4:代理対照の製造)
A.代理物はペプチド試薬を認識する
ペプチド試薬QWNKPSKPKTNMKHMGGG(配列番号198、C末端にGGGリンカーを有する)を認識する代理対照を以下のようにして調製する。6H4のエピトープのペプチド配列(DWEDRYYRE、配列番号264)を、標準的な技術を用いて、末端にシステインをもつように調製し(DWEDRYYREC、配列番号265、またはCDWEDRYYRE、配列番号266)、Sulfo−SMCC(スルホサクシンイミダル(Sulfosuccinimidal)4−[N−マレイミドメチル]−シクロヘキサン−1−カルボキシレート)などの架橋試薬を用いて、3F4抗体に結合させる。徹底的な透析を行って、未反応の架橋剤と遊離ペプチドとを除去する。このようにして調製した代理対照は、配列「MKHM」(配列番号261)を含むペプチド試薬、例えば、配列番号183、188、193,198、206、211、216、224、229、234、243または244のいずれかに示されているもの、またはそれに由来するものなどを利用するプリオン検出アッセイ法に付随して使用することができる。
【0256】
B.ペプチド試薬上の代理認識補助的モチーフ
ペプチド試薬GGGKKRPKPGG(N末端にGGGリンカーを有する配列番号14)(さらにビオチンを含んでいる)に結合する代理対照を以下のように調製する。6H4のエピトープのペプチド配列(DWEDRYYRE、配列番号264)を、標準的な技術を用いて、末端にシステインをもつように調製し(DWEDRYYREC、配列番号265、またはCDWEDRYYRE、配列番号266)、Sulfo−SMCC(スルホサクシンイミダル(Sulfosuccinimidal)4−[N−マレイミドメチル]−シクロヘキサン−1−カルボキシレート)などの架橋試薬を用いて、ストレプトアビジンに結合させる。徹底的な透析を行って、未反応の架橋剤と遊離ペプチドとを除去する。
【0257】
C.サンドイッチアッセイ用の2−ペプチドドメイン代理物
プリオン結合試薬3F4および一次抗体6H4を認識する二機能性代理対照を以下のようにして調製する。3F4エピトープ、6H4エピトープおよびリンカーを含むペプチドを、標準的な固相ペプチド合成技術を用いて調製する。具体的には、MKHMGGGGGDWEDRYYRE(配列番号267)を合成するが、ここで、MKHM(配列番号261)は、3F4によって認識されるエピトープであり、GGGGG(配列番号268)はリンカーであり、DWEDRYYRE(配列番号264)は、6H4によって認識されるエピトープである。
【0258】
本発明の好適な実施態様をいくらか詳しく説明して来たが、当然ながら、本明細書に記載されている発明の精神および範囲を逸脱することなく、明らかな改変を行うこともできると考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリオンタンパク質と相互作用するペプチド試薬、これらのペプチド試薬をコードするポリヌクレオチド、そのようなペプチド試薬およびポリヌクレオチドを用いる抗体作製法、およびこれらの方法を用いて作製された抗体に関する。本発明は、さらに、これらのペプチド試薬を用いて、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法、およびこれらのペプチド試薬を、治療用または予防用の組成物の成分として用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質コンフォメーション病は、伝染性海綿状脳症など、異常なタンパク質型の自己会合を順次もたらし、その結果、組織の沈着および損傷に至る、タンパク質の異常な構造変化(コンフォメーション病タンパク質)によって生じる、さまざまな無関係の病気を含む。また、これらの病気では、一般的には、さまざまな期間潜伏した後、診断から死亡までは急速に進行するという臨床症状も著しく共通している。
【0003】
コンフォメーション病の一つのグループは「プリオン病」または「伝染性海綿状脳症(TSE)」と名付けられている。ヒトにおいて、これらの病気は、クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症、およびクールー病を含む(例えば、Harrison’s Principles of Internal Medicine,Isselbacher et al.,eds.,McGraw−Hill,Inc.New York,(1994);Medori et al.(1992)N.Engl.J.Med.326:444−9参照)。動物では、TSEは、ヒツジのスクレイピー病、ウシ海綿状脳症(BSE)、伝染性ミンク脳症、および捕獲されたミュールジカおよびヘラジカの慢性消耗性疾患などである(Gajdusek,(1990)Subacute Spongiform Encephalopathies:Transmissible Cerebral Amyloidoses Caused by Unconventional Viruses.Pp.2289−2324 In:Virology,Fields,ed.New York:Raven Press,Ltd)。伝染性海綿状脳症は、同一の顕著な特徴をもつ。すなわち、霊長類、齧歯類、およびトランスジェニックマウスなどの実験動物に実験的に接種すると病気を伝染させる異常な(β構造に富み、プロテイナーゼK抵抗性の)立体構造のプリオンタンパク質が存在することである。
【0004】
最近、ウシ海綿状脳症が急速に拡大し、それが、ヒトにおける海綿状脳症の発症率の上昇と相関していることから、ヒト以外の哺乳動物において伝染性海綿状脳症を検出することに対する関心が著しく高まっている。これらの病気に偶然感染したときの悲劇的な結末(例えば、Gajdusek,Infectious Amyloids,and Prusiner Prions In Fields Virology.Fields,et al.,eds.Lippincott−Ravin,Pub.Philadelphia(1996);Brown et al.(1992)Lancet,340:24−27参照)、除染の難しさ(Asher et al.(1986)pages 59−71 In:Laboratory Safety:Principles and Practices, Miller ed. Am.Soc.Microb.)、およびウシ海綿状脳症に関する最近の懸念(British Med.J.(1995)311:1415−1421)があるため、伝染性海綿状脳症に罹ったヒトおよび動物を同定できる診断検査法および感染した患者に対する治療法の両方を緊急に必要としている。
【0005】
プリオンは、海綿状脳症(プリオン病)を引き起こす伝染性病原体である。プリオンは、細菌、ウイルス、およびウイロイドとは顕著に異なる。主な仮説は、他の伝染性病原体とは異なり、プリオンタンパク質の異常な立体構造が鋳型となって働き、正常なプリオンの立体構造を異常な立体構造に変えることによって感染が引き起こされるというものである。プリオンタンパク質は、1980年代の初期に初めてその特徴が明らかになった(例えば、Bolton,McKinley et al.(1982)Science 218:1309−1311;Prusiner,Bolton et al.(1982)Biochemistry 21:6942−6950;McKinley,Bolton et al.(1983)Cell 35:57−62参照)。それ以来、完全なプリオンタンパク質をコードする遺伝子がクローニングされ、配列決定され、トランスジェニック動物で発現されている。例えば、Basler,Oesch et al.(1986)Cell 46:417−428参照。
【0006】
プリオン病の主要な特徴は、正常な(細胞性または非病原性の)形状(PrPC)から、スクレイピータンパク質とも呼ばれる異常な形のタンパク質(PrPSc)を形成することである。例えば、Zhang et al.(1997)Biochem.36(12):3543−3553;Cohen & Prusiner(1998)Ann Rev.Biochem.67:793−819;Pan et al.(1993)Proc Nat’l Acad Sci USA 90:10962−10966;Safar et al.(1993)J Biol Chem 268:20276−20284参照。光学分光学および結晶学による研究で、プリオンの病気関連型は、主にアルファヘリクス構造に折り畳まれている無病型に較べ、実質的にベータシート構造に富んでいる。例えば、Wille et al.(2001)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 99:3563−3568;Peretz et al.(1997)J.MoI.Biol.273:614−622;Cohen & Prusiner,Chapter 5:Structural Studies of Prion Proteins in PRION BIOLOGY AND DISEASES,ed.S.Prusiner,Cold Spring Harbor Laboratory
Press,1999,pp:191−228参照。このような構造変化の後、生化学的性質に変化が起きると考えられている。すなわち、非変性界面活性剤中でPrPCは可溶性であるが、PrPScは不溶性であり;PrPCはプロテアーゼで容易に分解されるが、PrPScは一部抵抗性であるため、「PrPres」型(Baldwin et al.(1995);Cohen & Prusiner(1995);Safar et al.(1998)Nat.Med.4(10):1157−1165)、「PrP27−30」型(27-30kDA)、または「PK−抵抗性」(プロテイナーゼK抵抗
性)型として知られるN末端切断型断片の形成をもたらす。また、PrPScはPrPCを病原性型の立体構造に変換させる。例えば、Kaneko et al.(1995)Proc.Nat’l Acad.Sci USA 92:11160−11164;Caughey(2003)Br Med Bull.66:109−20参照。
【0007】
生きた対象、および生きた対象から採取した試料の中でコンフォメーション病タンパク質の病原性アイソフォームを検出することは難しいことが明らかになっている。そのため、これらの伝染性で、患者が死亡する前にアミロイドを含む症状に対する確定診断および苦痛緩和療法には、依然として実質的に満足の行くものがないままである。脳の生検を組織病理学的に検査するのは、対象者にとって危険が高く、また、その生検試料がどこから採取されたかによっては、病変およびアミロイド沈着を見逃す可能性もある。しかし、動物、患者、および医療施設職員にとっては生検に関連するリスクが依然として存在する。さらに、動物に対する脳検査の結果は、通常、その動物が食料として供給されるまでは得られない。また、プリオンペプチドに対して作製された抗体のほとんどは、変性されたPrPScとPrPCの両方を認識するが、未変性のPrPScに対して特異的な抗体も報告されている。(例えば、非特許文献1;特許文献1および特許文献2参照)。
【0008】
TSEについていくつかの検査法を利用することができる(非特許文献2,非特許文献3;非特許文献4,非特許文献5,非特許文献6参照)。しかし、これらはすべて、脳組織試料を利用するため、死後検査にしか適さない。また、これらのほとんどは、試料をプロテイナーゼKで処理することも必要とするが、それは、時間がかかり、PrPCを不完全に分解すると偽陽性の結果をもたらすことがあり、また、プロテアーゼ感受性PrPScを分解すると偽陰性の結果が生じることがある。
【0009】
このように、さまざまな試料中、例えば、生きた対象から得られた試料、輸血用血液、家畜動物、およびその他ヒトまたは動物用の食糧において、病原性プリオンタンパク質の存在を検出するための組成物および方法に対する需要が依然として存在する。また、プリオン関連疾患を診断および治療するための方法および組成物に対する需要も依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,846,533号明細書
【特許文献2】米国特許第6,765,088号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Matsunaga et al.(2001)PROTEINS:Structure,Function and Genetics 44:110−118
【非特許文献2】Soto,C.(2004)Nature Reviews Microbiol.2:809
【非特許文献3】Biffiger et al.(2002)J.Virol.Meth.101:79
【非特許文献4】Safar et al.(2002) Nature Biotech.20:1147
【非特許文献5】Schaller et al.Acta Neuropathol.(1999)98:437
【非特許文献6】Lane et al.(2003)Clin.Chem.49:1774
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、その第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)その第一の複合体からその病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;および
(e)プリオン結合試薬を用いて、その解離させた病原性プリオンを検出する工程、
を含む、方法。
(項目2)
試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをそのペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、その第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)その第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;
(e)その解離させた病原性プリオンタンパク質をその第一の固体支持体から分離する工程;
(f)その解離させた病原性プリオンタンパク質を、その解離したプリオンタンパク質が第二の固体支持体に付着させることができる条件下で、その第二の固体支持体に接触させる工程;および
(g)プリオン結合試薬を用いて、その第二の固体支持体上に付着した病原性プリオン検出する工程、
を含む、方法。
(項目3)
試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをそのペプチド試薬と結合させてその第一の複合体を形成させる条件下で、その第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)その第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させ、それによってその病原性プリオンが変性される工程;
(e)その解離させた変性病原性プリオンタンパク質をその第一の固体支持体から分離する工程;
(f)その解離させた変性病原性プリオンタンパク質を、その解離したプリオンタンパク質を第一の抗プリオン抗体に結合させる条件下で、その第一の抗プリオン抗体を含む第二の固体支持体に接触させる工程;および
(g)第二の抗プリオン抗体を用いて、その第二の固体支持体上に結合したその病原性プリオン検出する工程、
を含む、方法。
(項目4)
上記解離工程が、結合した病原性プリオンタンパク質を塩またはカオトロピック剤に接触させる工程を含む、項目1、2、または3いずれか記載の方法。
(項目5)
上記カオトロピック剤がグアニジンチオシアン酸(GdnSCN)またはグアニジン塩酸(GdnHCl)を含む、項目4記載の方法。
(項目6)
上記GdnSCNまたはGdnHClの濃度が約3Mと約6Mとの間である、項目5記載の方法。
(項目7)
上記解離工程が、結合した病原性プリオンタンパク質を高pHまたは低pHに曝露させて、それによってその解離された病原性プリオンタンパク質を変性させる工程を含む、項目1、2、または3いずれか記載の方法。
(項目8)
上記pHが12よりも高いか、または2よりも低い、項目7記載の方法。
(項目9)
上記pHが12.5と13.0との間である、項目8記載の方法。
(項目10)
NaOHを0.05Nから0.15Nの濃度になるまで加えることによって、上記結合した病原性プリオンタンパク質を高いpHに曝露する、項目7記載の方法。
(項目11)
上記曝露する工程が15分間までで行われる、項目7、8、9、または10のいずれか一項記載の方法。
(項目12)
上記曝露する工程が10分間までで行われる、項目11記載の方法。
(項目13)
上記変性し、解離された病原性プリオンタンパク質のpHを、7.0と7.5との間に中和する工程をさらに含む、項目7、8、9、または10のいずれか一項記載の方法。
(項目14)
リン酸またはそのナトリウム塩を加えることによって上記pHが中和される、項目10記載の方法。
(項目15)
上記第一の固体支持体が磁気ビーズを含む、項目1〜14いずれか一項記載の方法。
(項目16)
上記プリオン結合試薬が抗プリオン抗体である、項目1〜15いずれか一項記載の方法。
(項目17)
上記第一または第二の固体支持体がマイクロタイタープレートまたは磁気ビーズを含む、項目1〜16いずれか一項記載の方法。
(項目18)
上記第一または第二の抗プリオン抗体が上記プリオンタンパク質の変性型に結合する、項目1〜17いずれか一項記載の方法。
(項目19)
上記第一または第二の抗プリオン抗体の一つが、上記プリオンタンパク質のアミノ末端にあるエピトープを認識する、項目18記載の方法。
(項目20)
上記第一または第二の抗プリオン抗体のうちの一つが、上記プリオンタンパク質の23〜90番目の残基内にあるエピトープを認識する、項目19記載の方法。
(項目21)
上記抗プリオン抗体が、Fab D18、3F4、SAF−32、6H4からなる群から選択される、項目18記載の方法。
(項目22)
上記ペプチド試薬が、配列番号
(数1)
の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目1〜21のいずれかに記載の方法。
(項目23)
上記ペプチド試薬が、配列番号
(数2)
の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目22に記載の方法。
(項目24)
上記ペプチド試薬が、配列番号
(数3)
の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目22記載の方法。
(項目25)
上記ペプチド試薬が、配列番号56、57、65、82、84および136の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目22に記載の方法。
(項目26)
上記ペプチド試薬が、配列番号
(数4)
の一つ以上からなる群から選択された配列をもつペプチドに由来する、項目22記載の方法。
(項目27)
上記ペプチド試薬が配列番号14を含む、項目22記載の方法。
(項目28)
上記ペプチド試薬が配列番号51を含む、項目22記載の方法。
(項目29)
上記ペプチド試薬が配列番号68を含む、項目22記載の方法。
(項目30)
プリオン検出アッセイ法で使用するための代理対照であって、配列番号12〜260からなる群から選択される配列をもつペプチドに由来するペプチド試薬に結合する第一の代理ドメイン、およびそのプリオンアッセイ法において使用される検出試薬に結合する第二の代理ドメインを含み、ここでそのプリオン検出アッセイ法は、試料中の病原性プリオンタンパク質の存在を検出するためにペプチド試薬および検出試薬を使用する、代理対照。
(項目31)
試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)試験用容器内において、第一のペプチド試薬が、病原性プリオンが存在する場合にはそれと結合して第一の複合体を形成させる条件下で、その病原性プリオンを含む疑いのある試料を、その病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するその第一のペプチド試薬に接触させる工程;(b)対照用容器において、その第一のペプチド試薬を、項目30記載の代理対照がその第一のペプチド試薬に結合できる条件下で、その代理対照に接触させる工程;(c)その病原性プリオンが存在する場合には、それをその第一のペプチド試薬に結合させることによってその存在を検出する工程;および(d)その第一のペプチド試薬に結合したその代理対照の存在を検出することによって、検出された病原性プリオンの存在を確認する工程、
を含む、方法。
【0013】
本発明者らは、病原性プリオンタンパク質を検出するための感度の高い方法を開発した。この方法は、プリオン関連疾患に苦しむ個体の体液に存在する可能性のある低量の病原性プリオンを検出するのに十分な感度をもつ。したがって、本方法は、取り分け、生前診断検査法として、または、献血試料をスクリーニングするのに有用である。
【0014】
本発明は、一部分において、プリオンタンパク質と相互作用するペプチド試薬に関連する。すなわち、このペプチド試薬は、プリオンタンパク質の病原型アイソフォームと選択的に相互作用する。このようなペプチド試薬は、共同出願された2004年8月13日出願の米国特許出願第10/917,646号;2005年2月11日出願の米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日出願のPCT/US出願第2004/026363号に記載されている。これらの出願はすべて参照されて本明細書に組み込まれる。本ペプチド試薬は、被検試料中の病原性プリオンタンパク質を濃縮および分離するために使用される。既述のPrPScのアッセイ法とは異なり、本方法では、PrPCを除去するために試料をプロテアーゼ処理する必要がない。本発明の方法においては、濃縮および分離したプリオンタンパク質を検出するために、ペプチド試薬を高感度ELISAと組み合わせて使用する。
【0015】
一つの実施態様において、本発明は、以下の工程を含む、病原性プリオンの存在を検出する方法を提供する:
(a)プリオンの病原型と選択的に相互作用するペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させる条件下で、第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)非結合の試料を除去する工程;
(d)病原性プリオンタンパク質をペプチド試薬から解離させる工程;および
(e)解離させた病原性プリオンを、プリオン結合試薬を用いて検出する工程。
【0016】
ペプチド試薬は、好ましくは、配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来し、詳しくは、共同出願された2004年8月13日出願の米国特許出願第10/917,646号;2005年2月11日出願の米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日出願のPCT/US出願第2004/026363号に記載されている。非結合の試料を除去した後、病原性プリオンタンパク質をペプチド試薬から解離させる。一般的には、病原性プリオンタンパク質を解離過程で変性させる。この解離は、カオトロピック剤(例えば、グアニジンチオシアン酸、またはグアニジン塩酸)もしくは高塩濃度を利用することによって、または好ましくは、pHを変えることによって行う。低pH(例えば、pH2よりも低い)でも高pH(pH12よりも高い)でも利用することができるが、高pHが好適である。解離および変性されたプリオンタンパク質を、免疫アッセイ法、好ましくはELISA法、より好ましくは、サンドイッチ式ELISA法を用い、抗プリオン抗体を用いて検出する。
【0017】
本発明は、本方法を実施するためのキットも提供するが、このキットは、固体支持体上で提供することができる1つ以上のペプチド試薬、および任意には、1つ以上の抗プリオン抗体を含む。抗プリオン抗体は、標識することが可能であり、および/または固体支持体上で提供することができる。バッファー、洗浄溶液、変性剤、および本方法で使用するその他の成分を、使用説明書と同じように、キットに含ませることができる。
【0018】
これらのペプチド試薬は、病原性プリオンを単離したり、試料中に病原性プリオンが存在することを検出したりするためのツールとして、治療用または予防用の組成物の成分として、および/またはプリオン特異的な抗体を作製するためなど、広範な用途に使用することが可能である。例えば、PrPCよりもPrPScと選択的に相互作用するペプチド試薬は、例えば、病気の診断、または献血試料のスクリーニング、または臓器提供用の器官のスクリーニングなどのために、生きた対象から得た試料中の病原性型を直接検出するのに役立つ。
【0019】
本明細書記載のペプチド試薬は、一部または全部が合成のものでもよく、例えば、以下の成分:環状化された残基またはペプチド、ペプチドの多量体、標識、および/またはその他の化学成分を1つ以上含むことができる。適当なペプチド試薬の例は、配列番号12〜260のペプチドに由来するもの、例えば、配列番号66,67,68,72,81,96,97,98,107,108,119,120,121,122,123,124,125,126,127,14,35,36,37,40,50,51,77,89,100,101,109,110,111,112,113,114,115,116,117,118,128,129,130,131,132,133,134,135,136,56,57,65,82,または84に示されているペプチド、ならびにそのアナログおよび誘導体などである。本明細書記載のペプチド試薬は、任意のコンフォメーション病タンパク質、例えば、プリオンタンパク質(例えば、病原性タンパク質PrPSc、および非病原性型PrPC)などと相互作用することができる。一定の実施態様において、このペプチド試薬は、PrPCよりもPrPScと選択的に相互作用する。このペプ
チド試薬は、2つ以上の種に由来するPrPScに対して特異的であるが、単一種のPrPScに対して特異的であってもよい。
【0020】
別の実施態様において、本明細書記載の配列に示されているペプチドに由来するペプチド試薬が提供される。一定の実施態様において、ペプチド試薬はプリオンタンパク質の領域に由来し、例えば、23〜43位または85〜156位の残基(例えば、配列番号2に記載されたマウスプリオンの配列によれば、23〜30、86〜111、89〜112、97〜107、113〜135、および136〜156という番号になっている)に相当する領域が使用される。便宜上、上記に示したアミノ酸残基番号は、配列番号2のマウスのプリオンタンパク質の配列に対応する番号であるが、当業者は、当技術分野において既知の配列、および本明細書に記載した開示内容に基づいて、別の種のプリオンタンパク質における対応する領域を簡単に同定することができよう。ペプチド試薬の例は、配列番号66、67、68、72、81、96、97、98、107、108、119、120、121、122、123、124、125、126、127、134または135を有するペプチドに由来するもの、または、配列番号14、35、36、37、40、50、51、77、89、100、101、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、129、130、131、132、133または128を有するペプチドに由来するもの、または、配列番号56、57、65、82、84、または136有するペプチドに由来するものを含む。
【0021】
一つの態様において、プリオンタンパク質の存在を検出する方法が提供される。この検出方法は、とりわけ、(例えば、ヒト患者およびヒト以外の動物対象における)プリオン関連病を診断する方法、実質的にPrPScを含まない血液供給、血液製品の供給、または食糧供給を確実にする方法、移植のために器官および組織の試料を解析する方法、手術器具および装置の汚染除去を監視する方法、ならびに病原性プリオンの有無を知ることが重要なあらゆる場面に関連して用いることができる。
【0022】
検出方法は、ペプチド試薬が、病原性プリオンのアイソフォームと選択的に相互作用することを利用している。一定の実施態様においては、生体試料に病原性プリオンが存在することを検出する方法が提供される。
【0023】
一つの実施態様において、この方法は、病原性プリオンが存在するならば、ペプチド試薬とそれが相互作用できる条件下で、病原性プリオンを含む疑いのある試料を、本明細書記載のペプチド試薬の一つ以上と接触させる工程、および試料中の病原性プリオンの有無を、そのペプチド試薬への結合によって検出する工程を含む。ペプチド試薬と病原性プリオンの相互作用は、溶液で行わせるか、一つ以上の反応物を固相内または固相上に提供することもできる。ペプチド試薬を捕捉試薬、検出試薬、またはその両方として用いることができるサンドイッチ式アッセイ法を行うこともできる。好適な実施態様において、他のプリオン結合試薬(例えば、変性プリオンタンパク質に結合する抗体およびその他の結合分子)を、本発明のペプチド試薬と組み合わせて本態様において使用することも可能である。
【0024】
本実施態様の一つの態様において、本発明の一つ以上のペプチド試薬を固体支持体上に提供して、病原性プリオンが存在するならば、病原性プリオンがペプチド試薬に結合できる条件下で、病原性プリオンを含む疑いのある試料と接触させる。非病原性プリオンなど、未結合の試料物質を除去することができ、ペプチド試薬に結合したままで、あるいは、ペプチド試薬から解離させた後に、病原性プリオンを検出することができる。病原性プリオンは、検出できるよう標識したペプチド試薬(病原性プリオンを「捕捉」するために使用されるペプチド試薬と同じものであるか、本発明の第二のペプチド試薬)、または検出できるよう標識された抗プリオン抗体、またはその他のプリオン結合試薬を用いて検出することができる。この抗体またはプリオン結合試薬は、プリオンの病原型に特異的である必要はない。
【0025】
本実施態様の別の態様において、病原性プリオンはペプチド試薬から解離させられ、変性され、抗プリオン抗体によるサンドイッチ式アッセイ法を用いて検出される。
【0026】
さらなる実施態様において、本方法は、病原性プリオンを含む疑いのある試料を、配列番号12〜260の配列を有するペプチド、そのアナログおよび誘導体からなるグループから選択される一つ以上のペプチド試薬と、病原性プリオンが存在するならば、ペプチド試薬がそれに結合できる条件下で接触させる工程;および、試料中の病原性プリオンの有無を、そのペプチド試薬への結合によって検出する工程を含む。好適な実施態様では、試料を、配列番号66、67、68、72、81、96、97、98、107、108、119、120、121、122、123、124、125、126、127、14、35、36、37、40、50、51、77、89、100、101、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、128、129、130、131、132、133、134、135、56、57、65、82、136または84の配列を有するペプチド、ならびにそのアナログおよび誘導体からなる群から選択される一つ以上のペプチド試薬と接触させる。
【0027】
病原性プリオンを検出する上記方法のいずれかを、プリオン関連病を診断する方法に用いることができる。
【0028】
本発明のペプチド試薬を一つ以上含む固体支持体を提供する上記実施態様のすべてにおいて、ペプチド試薬を固体支持体に結合させる前に試料と接触させる別の実施態様が考えられる。このような実施態様では、ペプチド試薬が結合対の一方を含み、固体支持体が、結合対のもう一方を含む。例えば、本発明のペプチド試薬は、ビオチンを含むか、ビオチンを含むよう修飾することができる。ペプチド試薬が病原性プリオンに結合できる条件下で、ビオチン化ペプチド試薬を、病原性プリオンを含む疑いのある試料に接触させる。そして、アビジンまたはストレプトアビジンを含む固体支持体をビオチン化ペプチド試薬に接触させる。その他の適当な結合対は本明細書に記載される。
【0029】
本明細書記載の固体支持体を用いる方法において、固体支持体は、例えば、ニトロセルロース、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス、ポリビニルフルオリド、ジアゾ化紙、ナイロン膜、活性化ビーズ、および/または磁気反応性ビーズ、ポリ塩化ビニル;ポリプロピレン、ポリスチレンラテックス、ポリカーボネート、ナイロン、デキストラン、キチン、砂、シリカ、軽石、アガロース、セルロース、ガラス、金属、ポリアクリルアミド、シリコン、ゴム、ポリサッカライド、ジアゾ化紙、活性化ビーズ、磁気反応性ビーズ、ならびに固相合成、アフィニティー分離、精製、ハイブリダイゼーション反応、免疫アッセイ法、およびその他の応用場面で一般的に使用されている材料である。支持体は、微粒子でもよく、または、連続した表面の形になっていてもよく、膜、メッシュ、プレート、ペレット、スライド、ディスク、細管、中空糸、針、ピン、チップ、ソリッドファイバー、ゲル(例えば、シリカゲル)、およびビーズまたは粒子、(例えば、多孔質ガラスビーズ、シリカゲル、随意でジビニルベンゼンとクロスリンクしたポリスチレンビーズ、グラフト共重合ビーズ、ポリアクリルアミドビーズ、ラテックスビーズ、随意でN−N‘−ビス−アクリロイルエチレンジアミンとクロスリンクしたジメチルアクリルアミドビーズ、酸化鉄磁気ビーズ、および疎水性ポリマーで被覆されたガラス粒子)などがある。「固体支持体」および「固体表面」という用語は、本明細書では同義的に使用されている。
【0030】
また、本明細書記載のいずれの方法でも、試料は生体試料であることが可能である。すなわち、生きているか、生きていた生物から採取または由来した試料、例えば、器官、全血、血液分画、血液成分、血漿、血小板、血清、脳脊髄液(CSF)、脳組織、神経系組織、筋肉組織、骨髄、尿、涙、非神経系組織、器官、および/または生検もしくは剖検である。試料は非生体試料であってもよい。
【0031】
別の態様において、本発明は、本明細書記載の検出法のいずれかによって、対象から得た生体試料中に病原性プリオンが存在することを検出して、該対象におけるプリオン関連病を診断する方法を提供する。
【0032】
別の態様において、本発明は、実質的に病原性プリオンを含まない輸血用血液を調製する方法であって、集められた血液試料からの血液の等量液(例えば、全血、血漿、血小板、または血清)を、本明細書記載のいずれかの方法によってスクリーニングする工程;病原性プリオンが検出された試料を取り除く工程;および病原性プリオンが検出されなかった試料をまとめて、病原性プリオンを実質的に含まない輸血用血液を提供する工程を含む方法を含む。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、病原性プリオンを実質的に含まない食糧供給物、特に肉供給物(例えば、ヒトや動物が消費する牛肉、ラム肉、マトン、または豚肉)を調製する方法であって、食糧として供給されるはずの生きた生物または死んだ生物から採集した試料、または食糧供給されようとしている食品から採集した試料を、本明細書記載の検出法のいずれかを用いてスクリーニングする工程;病原性プリオンが検出された試料を同定する工程;およびその試料で病原性プリオンが検出された、食糧供給されようとしていた生きた生物もしくは死んだ生物または食品を食糧供給から排除する工程を含む方法を含む。
【0034】
別の態様において、本発明は、試料中に病原性プリオンが存在することを検出したり、試料から病原性プリオンを単離したり、試料から病原性プリオンを除去したりするためのさまざまなキットであって、本明細書記載の一つ以上のペプチド試薬;および/または本明細書記載の一つ以上のペプチド試薬を含む固体支持体、抗プリオン抗体、およびその他必要な試薬、ならびに、随意には、陽性および陰性の対照および/または代理(surrogate)陽性対照を含むキットを含む。また、本発明は、本明細書記載のアッセイ法の代理陽性対照として役立つ分子も提供する。
【0035】
本発明のこれらまたはこの他の実施態様は、本明細書の開示内容から当業者には容易に想到できよう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ヒト(配列番号1)およびマウス(配列番号2)のプリオンタンパク質のアミノ酸配列を示す。
【図2】ヒト(配列番号3)、ゴールデンハムスター(ハムスター)(配列番号4)、ウシ(配列番号5)、ヒツジ(配列番号6)、マウス(配列番号7)、ヘラジカ(配列番号8)、ダマジカ(ファロー)(配列番号9)、ミュールジカ(ミュール)(配列番号10)、およびオジロジカ(ホワイト)(配列番号11)に由来するプリオンタンパク質のアラインメントを示す。ヘラジカ、ダマジカ、ミュールジカ、およびオジロジカは、互いに2つの残基、S/N128とQ/E226(太字で示す)で異なっているだけである。
【図3】分図A〜Fは、本明細書記載のペプチド試薬のいずれかを調製するために行うことができる置換の例を示す。各分図においてペプトイドを丸く囲んであり、本明細書記載のペプチド試薬の一例(配列番号14、QWNKPSKPKTN)中に示されているが、その例中では、プロリン残基(配列番号14の8番目の残基)がN−置換グリシン(ペプトイド)残基で置換されている。分図Aは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(S)−(1−フェニルエチル)グリシンを表し;分図Bは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(4−ヒドロキシフェニル)グリシンを表し;分図Cは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(シクロプロピルメチル)グリシンを表し;分図Dは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(イソプロピル)グリシンを表し;分図Eは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−(3,5−ジメトキシベンジル)グリシンを表し;また、分図Fは、プロリン残基がペプトイド残基で置換されたペプチド試薬:N−アミノブチルグリシンを表す。
【図4】実施例2に記載したウエスタンブロッティング実験の結果を示す。レーン1および2は、正常なマウス脳のホモジネート(レーン1、「C」と表示)および変性感染マウス脳のホモジネート(レーン2、「Sc」と表示)中にプリオンタンパク質が存在することを示している。レーン3、4、および5は、ヒト血漿存在下で、本明細書記載のペプチド試薬(配列番号68)が病原性プリオン型に特異的に結合することを示している。具体的には、レーン3はヒト血漿対照であり、レーン4は、正常なマウス脳のホモジネート試料である。レーン5は、感染マウス脳ホモジネート試料中でペプチド試薬がPrPScに強力に結合することを示している。
【図5】本明細書記載のPEG結合ペプチド試薬の例の構造を示す。
【図6】(QWNKPSKPKTN)2K(配列番号133)の構造を示す。
【図7】分図AからCは、一例となるPrPSc検出アッセイ法を示している。図7Aは、本明細書記載のPrPSc特異的ペプチド試薬でコートした磁気ビーズを用いたPrPScの捕捉法を示している。ビーズと結合PrPScを磁場にプルダウンして洗浄した。図7Bは、溶出、PrPScの変性、およびELISAを行うために変性したPrPScでウェルにコートすることを示す。図7Cは、ウェルにコートされたPrPScを2抗体ELISAで検出することを示す。
【図8】正常なマウス脳ホモジネートの中でさまざまな希釈度のマウスPrPScをELISAで検出できることを示したグラフである。
【図9】分図AおよびBは、ヒト血漿試料に入れたマウスPrPScのELISA検出を示す。図9Aは、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)によるELISA検出を示す。図9Bは、ビオチン−GGGKRPKPGG(配列番号68)によるELISA検出を示す。
【図10】分図AおよびBは、それぞれELISA検出とウエスタンブロット検出を示す。図10Aは、正常なゴールデンハムスターおよびスクレイピーに感染したゴールデンハムスター(SHa)における、PrPScのELISA検出を示す。図10Aは、プロテイナーゼKによる分解をせずにプルダウンしたPrPScを、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)(黒棒)またはビオチン−GGGKRPKPGG(配列番号68)(白棒)のELISA検出を示す。図10Bは、PK分解した試料のウエスタンブロット解析を示す。「MW」は分子量を表す。レーン1および2は、正常なSHa脳ホモジネートの2つの異なる試料の解析結果を示す。レーン3および4は、PrPScSHa脳ホモジネートの2つの異なる試料の解析結果を示す。レーン6は、PrPScマウス脳ホモジネートの解析結果を示す。
【図11】正常なマウス、およびシカPrP遺伝子を導入している感染マウスから得た試料についてのELISAの結果を示すグラフである。QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)(黒色および淡灰色の長方形)、ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGLGG−CONH2(配列番号136)(淡灰色の長方形)、およびビオチン−GGGKRPKPGG(配列番号68)(濃灰色の長方形)を用いてPrPScをプルダウンし、ELISA法で検出した。
【図12】分図AおよびBは、それぞれウエスタンブロット検出とELISA検出を示す。図12Aは、CJDのウエスタンブロット解析による検出結果を示す(sCJD、vCJD、感染SHa)。図12Bは、プロテイナーゼK分解を用いてプルダウンしたCJDのELISAによる検出を示す。
【図13】本明細書記載のさまざまなペプチド試薬を用いて、ヒトvCJD脳のホモジネートからPrPScをELISA検出した結果を示すグラフである。プリオン特異的試薬は以下の通りである:QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14);QWNKPSKPTKTNGGGQWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号51);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(3,5−ジメトキシベンジル)グリシンで置換されているもの(配列番号117);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−アミノブチルグリシンで置換されている(配列番号118);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P8がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されているもの(配列番号111);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P8がN−アミノブチルグリシンで置換されている(配列番号114);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されおり、P8がN−アミノブチルグリシンで置換されている(配列番号131);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(イソプロピル)グリシンで置換されおり、P8がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号132);QWNKPSKPKTN2K−ビオチン(配列番号133);ビオチン−GGGKKRPKPGG(配列番号68);ビオチン−KKRPKPGG、ただし、P6がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号122);ビオチン−GGGKKRPKPGGGQWNKPSKPKTN(配列番号81);4−分枝MAPS−GGGKKRPKPGGWNTGGG−ビオチン(配列番号134);8−分枝MAPS−GGGKKRPKPGGWNTGGG−ビオチン(配列番号135);ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGGLGGYMLGSAM(配列番号57);ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGGLGG−CONH2(配列番号136);およびビオチン−GGGKKKKKKKK(配列番号85)。
【図14】病原性プリオンを含むことが疑われる試料とインキュベートする前にビーズ上にペプチド試薬をコートした場合の検出結果を、試料とインキュベートした後にビーズ上にペプチド試薬をコートした場合と比較したものを示す。予めコートした場合(黒丸)の方が、インキュベートした後にコートした場合(白丸)よりも検出の効率が約100倍高かった。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明は、(非病原性プリオンタンパク質と比較して)病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するペプチド試薬の使用を改良ELISA法と併用する、病原性プリオンタンパク質の検出法を提供する。
【0038】
本発明は、比較的低分子のペプチド(長さが50〜100アミノ酸以下、好ましくは長さが50アミノ酸以下、さらに好ましくは、長さが約30アミノ酸以下)を用いて、非病原性プリオンタンパク質と病原性プリオンタンパク質とを識別することができるという驚くべき予想外の発見に関する。したがって、本発明の開示は、これらのペプチドおよびその誘導体(「ペプチド試薬」と総称する)が、異なった特異性および/またはアフィニティーで病原性タンパク質と非病原性タンパク質に結合することができ、その結果、それらだけで、診断/検出試薬、または治療組成物の成分として使用することができるという驚くべき発見に関する。本開示以前は、より大型の分子(例えば、抗体、PrPC、α型rPrPおよびプラスミノーゲン)だけが、病原型および非病原型を区別するために使用できると考えられていた。そのため、既述の抗原ペプチドは、病原型と非病原型とを識別することができると評価された抗体の作製に使用されていた。しかし、プリオンタンパク質は比較的非免疫原性であるため、病原型に対して特異的な抗体を産生することは難しいことが判明した。例えば、R.A.Williamson et al.“Antibodies as Tools to Probe Prion Protein Biology”in PRION BIOLOGY AND DISEASES,ed.S.Prusiner,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999,pp:717−741参照。
【0039】
本明細書記載の一定のペプチドが、病原性(PrPSc)プリオンタンパク質と選択的に相互作用するという発見によって、とりわけ、診断学、検出分析、および治療学では新規の試薬の開発が可能になる。したがって、本発明はペプチド試薬に関しており、さらには、これらのペプチド試薬を利用する検出分析および診断アッセイ法、これらのペプチド試薬を利用する精製法または単離法、ならびにこれらのペプチド試薬を含む治療組成物に関する。また、これらのペプチド試薬をコードするポリヌクレオチド、およびこれらのペプチド試薬を用いて作製される抗体も提供される。本明細書記載のペプチド試薬、ポリヌクレオチドおよび/または抗体は、例えば、生体試料の中に病原性プリオンが存在することを検出するための組成物および方法において有用である。さらに、本発明は、このようなペプチド試薬、抗体および/またはポリヌクレオチドを治療用または予防用の組成物の成分として用いる方法にも関する。
【0040】
本発明において用いられるペプチド試薬は、非病原性アイソフォームと比較して、病原性アイソフォームと選択的に相互作用するペプチドを含む。例えば、一定の実施態様において、本明細書記載のペプチド試薬は、病原性コンフォメーション病タンパク質型には特異的に結合するが、非病原型とは結合しない(または、より低い程度で結合する)。本明細書記載のペプチド試薬を用いて、例えば、抗体を作製することができる。これらの抗体は病原型、非病原型、または両方を認識する可能性がある。これらの分子は、診断アッセイ法および/または予防用もしくは治療用の組成物において、単独で、またはさまざまな組み合わせでも有用である。
【0041】
本発明の実施では、別途記載がない限り、当技術分野の範囲内で、化学、生化学、分子生物学、免疫学および薬理学の従来の方法が用いられる。このような技術は文献において十分に説明されている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition(Easton,Pennsylvania;Mack Publishing Company、1990)、Methods In Enzymology(S.Colowick and N.Kaplan,eds., Academic Press, Inc.)、およびHandbook of Experimental Immunology,Vols.I−IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986,Blackwell Scientific Publications)、Sambrook,et
al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition,1989);Handbook of Surface
and Colloidal Chemistry(Birdi,K.S.ed.,CRC Press,1997)、Short Protocols in Molecular Biology,4th ed.(Ausubel et al.eds.,1999,John Wiley & Sons);Molecular Biology
Techniques:An Intensive Laboratory Course,(Ream et al.,eds.,1998,Academic Press);PCR(Introduction to Biotechniques Series),2nd ed.(Newton & Graham eds.,1997,Springer Verlag)、Peters and Dalrymple,Fields Virology(2d ed),Fields et al.(eds.),B.N.Raven Press, New York, NY参照。
【0042】
当然のことながら、本発明のペプチド試薬、抗体および方法は、当然に変化する可能性のある特定の処方または処理パラメーターに限定されない。また、当然のことながら、本明細書において用いられる用語は、本発明の特定の実施態様を説明するためだけのものであって、限定的であることを意図するものではない。
【0043】
本明細書中のすべての刊行物、特許および特許出願は、その全体が参照されて本明細書に組み込まれる。
【0044】
I.定義
本発明を理解することを容易にするために、本出願の中で使用される、選択された用語を以下で考察する。
【0045】
「プリオン」、「プリオンタンパク質」、「PrPタンパク質」および「PrP」という用語は、本明細書において同義的に用いられ、病原性タンパク質型(スクレイピータンパク質、病原性タンパク質型、病原性アイソフォーム、病原性プリオンおよびPrPScと、さまざまに呼ばれる)、および非病原型タンパク質型(細胞タンパク質型、細胞アイソフォーム、非病原性アイソフォーム、非病原性プリオンタンパク質、およびPrPCとさまざまに呼ばれる)ならびに病原性コンフォメーションも正常な細胞コンフォメーションももたない可能性があるプリオンタンパク質の変性型およびさまざまな組み換え型を意味する。病原タンパク質型は、ヒトまたは動物における疾患(海綿状脳症)に付随しているが、非病原型は動物細胞の中に普通に存在しているので、適当な条件下で、病原性PrPScコンフォメーションに変わる可能性がある。プリオンは、ヒト、ヒツジ、ウシ、およびマウスなど、多様な哺乳動物種において自然に産生される。ヒトプリオンタンパク質の代表的なアミノ酸配列を配列番号1として示す。マウスプリオンタンパク質の代表的なアミノ酸配列を配列番号2として示す。その他の代表的な配列を図2に示す。
【0046】
本明細書では、「病原性の」という用語は、タンパク質が実際に病気を引き起こすことを意味するか、または、タンパク質が、病気に関連しているために、この病気が現れるときに、それが存在することを単純に意味する。したがって、本開示内容に関連して用いられる病原性タンパク質は、必ずしもある病気の特定の原因因子であるタンパク質というわけではない。病原型は感染性があってもなくてもよい。「病原性プリオン型」という用語は、より具体的には、哺乳類、鳥類または組み換え型のプリオンタンパク質のコンフォメーションおよび/またはβシートリッチコンフォメーションを意味する。通常、βシートリッチ構造はプロテイナーゼK耐性である。「非病原性」および「細胞性」という用語は、コンフォメーション病タンパク質型に関して用いられる場合には、同義的に使用され、その存在が病気とは関連しないタンパク質の正常型アイソフォームを意味する。
【0047】
さらに、本明細書では、「プリオンタンパク質」または「コンフォメーション病タンパク質」は、本明細書記載の配列そのものを有するポリヌクレオチドに限定されない。これらの用語が、確認済みのまたは未同定の種もしくは病気(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病など)のいずれかに由来するコンフォメーション病タンパク質型を含むことは容易に明白である。当業者は、本開示の教示内容および技術分野を考慮して、例えば、配列比較プログラム(例えば、本明細書記載のBLASTなど)、または構造的特徴またはモチーフを同定およびアラインメントを用いて、別のプリオンタンパク質で、図に示されている配列に対応する領域を決定することができる。
【0048】
本明細書において、「PrP遺伝子」という用語は、既知の遺伝子多型および病原性突然変異を含むプリオンタンパク質を発現する任意の遺伝物質を表すために使用される。「PrP遺伝子」という用語は、任意の型のPrPタンパク質をコードする、任意の種の任意の遺伝子を一般的に意味する。一般に知られているいくつかのPrP配列が、Gabriel et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:9097−9101(1992)ならびに米国特許第5,565,186号、第5,763,740号、第5,792,901号および国際特許公開第97/04814号に記載されており、それらの配列を開示および説明するために参照されて本明細書に組み込まれる。PrP遺伝子は、本明細書記載の「宿主」動物および「実験」動物など任意の動物、ならびにそれらのありとあらゆる遺伝子多型および変異型に由来することができるが、これらの用語は、未だ発見されるに至っていない他のPrP遺伝子も含むものと理解される。このような遺伝子によって発現されるタンパク質は、PrPC(無病)型またはPrPSc(有病)型のいずれかと見なすことができる。
【0049】
本明細書において「プリオン関連疾患」は、全体的または部分的に、病原性プリオンタンパク質(PrPSc)によって引き起こされる病気を意味する。プリオン関連疾患は、スクレイピー、ウシ海綿状脳症(BSE)、狂牛病、ネコ海綿状脳症、クールー病、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(nvCJD)、慢性消耗病(CWD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、および致死性家族性不眠症(FFI)などであるが、これらに限定されない。
【0050】
本明細書において用いられる「ペプチド試薬」という用語は、一般的にアミノ分子および/またはイミノ分子だけを含む化合物など、天然または合成のアミノ酸分子またはアミノ酸様分子のポリマーを意味する。本発明のペプチド試薬は、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用し、典型的には、プリオンタンパク質の断片に由来する。「ペプチド」という用語は、「オリゴペプチド」または「ポリペプチド」と同義的に用いられるが、これらの用語によって、特定のサイズが示唆されるわけではない。この定義の中には、例えば、一つのアミノ酸のアナログを一つ以上含むペプチド(例えば、非天然型アミノ酸、ペプトイドなど)、置換結合を有するペプチド、および天然または非天然(例えば、合成)の、当技術分野において知られているその他の修飾を有するペプチドが含まれる。したがって、合成ペプチド、二量体、多量体(例えば、タンデム反復、多重抗原ペプチド(MAP)型、直鎖状に連結したペプチド)、環状化した分岐分子などがこの定義に含まれる。また、これらの用語は、1つ以上のN−置換グリシン残基(「ペプトイド」)およびその他の合成アミノ酸またはペプチドを含む分子を含む(ペプトイドの説明については、例えば、米国特許第5,831,005号;第5,877,278号;および第5,977,301号;Nguyen et al.(2000)Chem Biol.7(7):463−473;およびSimon et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(20)9367−9371参照)。本発明に用いるのに適した非限定的なペプチドの長さは、長さ3〜5残基、長さ6〜10残基(またはその間の任意の整数)、長さ11〜20残基(またはその間の任意の整数)、長さ21〜75残基(またはその間の任意の整数)、長さ75〜100残基(またはその間の任意の整数)のペプチド、または長さ100残基よりも長いポリペプチドなどである。典型的には、本発明において有用なペプチドは、目的の用途に適した最大限の長さを有することが可能である。好ましくは、ペプチドは長さ約3〜100残基の間である。一般的に、当業者は、本明細書の教示内容を考慮して、最大限の長さを容易に選択することができる。さらに、本明細書記載のペプチド試薬、例えば、合成ペプチドは、標識、リンカー、またはその他の化学成分(例えば、ビオチン、コントロールレッドまたはチオフラビンなどのアミロイド特異的色素)などの付加的分子を含むことができる。このような成分は、ペプチドがプリオンタンパク質と相互作用すること、および/または、さらにプリオンタンパク質を検出することを促進することができる。
【0051】
また、ペプチド試薬は、1個以上の非天然型アミノ酸など、1つ以上の置換、付加および/または欠失を有する、本発明のアミノ酸配列の誘導体も含む。好ましくは、誘導体は、任意の野生型配列または参照配列に対して、少なくとも約50%の同一性を示し、好ましくは少なくとも約70%の同一性、より好ましくは、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を、本明細書記載の任意の野生型配列または参照配列に対して示す。配列(またはパーセント)同一性は下記のように測定することができる。このような誘導体は、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などを含んでもよい。
【0052】
また、ペプチド誘導体は、ポリペプチドが所望の活性を維持する限り、欠失、付加および置換(本来、一般的に保存的である)など、本来の配列を改変したものを含んでもよい。これらの改変は、部位特異的変異誘発などによる意図的なものでも、これらのタンパク質を産生する宿主の突然変異、またはPCR増幅による誤差などを介した偶然性のものであってもよい。さらに、以下の効果の一つ以上を有する改変を行うことができる:毒性の低下;プリオンタンパク質に対するアフィニティーおよび/または特異性の強化;細胞のプロセッシング(例えば、分泌、抗原提示など)の促進;およびB細胞および/またはT細胞に対する提示の促進。本明細書記載のポリペプチドは、組み換えによって、合成によって、天然源から精製によって、または組織培養によって作製することができる。
【0053】
本明細書において「断片」は、自然で見られるような無傷で完全長のタンパク質および構造の一部のみからなるペプチドを意味する。例えば、断片は、タンパク質のC末端欠失および/またはN末端欠失を含んでもよい。典型的には、この断片は、それが由来する完全長ポリペプチド配列の機能の一つ、一部、または全部を保持する。典型的には、断片は天然型タンパク質の少なくとも5つの連続したアミノ酸残基、好ましくは天然タンパク質の少なくとも約8個の連続したアミノ酸残基、より好ましくは少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個の連続したアミノ酸残基を含む。
【0054】
当技術分野において知られているように、「ポリヌクレオチド」という用語は一般的に核酸分子を意味する。「ポリヌクレオチド」は二本鎖配列および一本鎖配列を含むことができ、原核生物の配列、真核生物のmRNA、ウイルス由来cDNA、原核生物または真核生物のmRNA、ウイルス(例えば、RNAおよびDNAウイルスならびにレトロウイルス)由来のゲノムRNA配列およびゲノムDNA配列、原核生物のDNAまたは真核生物(例えば、哺乳動物)のDNA、ならびに特に合成DNA配列を意味するが、これらに限定されない。また、この用語は、DNAおよびRNAの既知の塩基類似体のいずれかを含む配列も捕捉し、天然型配列に対する欠失、付加および置換(本来は、一般的に保存的である)などの改変を含む。これらの改変は、部位特異的変異誘発などによる意図的なものでも、プリオンタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主の突然変異による偶然性のものであってもよい。ポリヌクレオチドの改変は、例えば、宿主細胞の中でポリペプチド産物の発現を促進するなど、いくつかの効果を有する。
【0055】
ポリヌクレオチドは、生物学的に活性な(例えば、免疫原性のまたは治療効果のある)タンパク質またはポリペプチドをコードすることができる。ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの性質により、ポリヌクレオチドは、例えば、このポリヌクレオチドが抗原またはエピトープをコードする場合、わずか10個のヌクレオチドしか含まないこともある。一般的には、ポリヌクレオチドは、少なくとも18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、30個またはさらに多くのアミノ酸からなるペプチドをコードする。
【0056】
「ポリヌクレオチドコード配列」、または選択されたポリペプチドを「コードする」配列は、適当な制御配列(または「調節因子」)の調節下に置かれると、インビボでポリペプチドへと転写(DNAの場合)および翻訳(RNAの場合)される核酸分子である。コード配列の範囲は、5’(アミノ)末端にある開始コドン、および3’(カルボキシル)末端にある翻訳終止コドンによって決定される。転写終結配列は、コード配列に対して3’側に位置していよう。典型的な「調節因子」は、プロモーター、転写エンハンサー因子、転写終結シグナル、およびポリアデニル化配列などの転写調節因子;および、翻訳開始を最適化するための配列、例えば、シャイン・ダルガーノ(リボソーム結合部位)配列、コザック配列(すなわち、例えば、コード配列の5’側に位置する、翻訳を最適化するための配列)、リーダー配列(異種性または天然型)、翻訳開始コドン(例えば、ATG)、および翻訳終結配列などの翻訳調節因子を含む。プロモーターは、誘導プロモーター(プロモーターに機能できるよう結合しているポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、共同因子、調節タンパク質などによって誘導される場合)、抑制プロモーター(プロモーターに機能できるよう結合しているポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、共同因子、調節タンパク質などによって誘導される場合)、および構成的プロモーターなどを含みうる。
【0057】
「機能できるように結合している」とは、このように表される成分がその通常の機能を果たすように構成されている、因子の並び方を意味する。したがって、コード配列に機能できるように結合しているプロモーターは、適当な酵素が存在すると、コード配列の発現に影響をもたらすことができる。プロモーターは、その発現を指示するように機能する限り、コード配列に隣接している必要はない。したがって、例えば、翻訳されないが転写はされる介在配列が、プロモーター配列とコード配列の間に存在していてもよく、プロモーター配列は依然として、コード配列に「機能できるように結合している」とみなすことができる。
【0058】
本明細書で核酸分子を表すために使用される「組み換え」核酸分子は、ゲノム、cDNA、半合成、または合成起源のポリヌクレオチドが、その起源または操作によって、(1)本来は会合しているポリヌクレオチドの全部または部分と会合していないこと、および/または(2)本来は連結しているポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドに連結してることを意味する。タンパク質またはポリペプチドに関して用いられる「組み換え」という用語は、組み換えポリヌクレオチドの発現によって生成されるポリペプチドを意味する。「組み換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」、および、単細胞物として培養される原核微生物または真核細胞株を意味するその他同様の用語は、同義的に用いられて、組み換えベクターまたはその他のトランスファーDNAのレシピエントとして用いることができるか、用いられてきた細胞を意味し、トランスフェクトされた最初の細胞の子孫を含む。当然のことながら、単一の親細胞の子孫は、偶発的または意図的な突然変異によって、最初の親細胞に対して、形態またはゲノムDNAもしくは全DNAの相補性において必ずしも完全に同一である必要はない。所望のペプチドをコードするヌクレオチド配列が存在することなど、関連する性質によって、親細胞に十分似ていると特徴づけられる親細胞の子孫は、この定義が意図する子孫に含まれ、上記の用語に包含される。
【0059】
「単離した」は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドについて言う場合、指示された分子が、自然では該分子が一緒に存在する全生物体から分離および隔離されていること、または、このポリヌクレオチドまたはポリペプチドが天然には存在しない場合、他の生体高分子から十分に遊離されているため、このポリヌクレオチドまたはポリペプチドを本来の使用目的に用いることができることを意味する。
【0060】
当技術分野において知られている「抗体」は、化学的または物理的手段によって、目的とするポリペプチドのエピトープに結合または会合することができる1つ以上の生物学的成分などである。例えば、本発明の抗体は、病原性プリオンのコンフォメーションをもつものと選択的に相互作用する(例えば、特異的に結合する)ことができる。「抗体」という用語は、ポリクローナル標本およびモノクローナル標本から得られる抗体、ならびに以下のものを含む:ハイブリッド(キメラ)抗体分子(例えば、Winter et al.(1991)Nature 349:293−299、および米国特許第4,816,567号参照);F(ab’)2およびF(ab)断片;Fv分子(非共有結合ヘテロ二量体、例えば、Inbar et al.(1972)Proc Natl Acad Sci USA 69:2659−2662、およびEhrlich et al.(1980)Biochem 19:4091−4096参照)、一本鎖Fv分子(sFv)(例えば、Huston et al.(1988)Proc Natl Acad Sci USA 85:5897−5883参照)、二量体および三量体の抗体断片コンストラクト、ミニボディー(minibodies)(例えば、Pack et al.(1992)Biochem 31:1579−1584、Cumber et al.(1992)J Immunology 149B:120−126参照)、ヒト化抗体分子(例えば、Riechmann et al.(1988)Nature 332:323−327、Verhoeyan et al.(1988)Science 239:1534−1536、および1994年9月21日公開の英国特許公開第GB2,276,169号参照)、および、このような分子から得られる任意の機能断片であって、親抗体分子の免疫学的結合特性を保持する機能断片。「抗体」という用語は、ファージ提示法など、非従来型処理法によって得られる抗体をさらに含む。
【0061】
本明細書では、「モノクローナル抗体」という用語は、均質な抗体集団を含む抗体組成物を意味する。この用語は、抗体の種または源に関して限定されるものではなく、それが作製された方法によって限定されるものでもない。したがって、この用語は、マウスハイブリドーマから得られる抗体、およびマウスハイブリドーマではなくヒトハイブリドーマを用いて得られるヒトモノクローナル抗体を包含する。例えば、Cote,et al.Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,1985,p77参照。
【0062】
ポリクローナル抗体が所望であれば、通常は、選択された哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫原性組成物(例えば、本明細書記載のペプチド試薬)によって免疫する。免疫された動物から血清を回収し、周知の手順に従って処理する。選択されたペプチド試薬に対するポリクローナル抗体を含む血清が、その他の抗原に対する抗体を含んでいる場合には、ポリクローナル抗体を免疫アフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。ポリクローナル抗血清を産生および加工する技術は当技術分野において知られている。例えば、Mayer and Walker,eds,(1987)IMMUNOCHEMICAL METHODS IN CELL AND MOLECULAR BIOLOGY(Academic Press,London)参照。
【0063】
当業者は、本明細書記載のペプチド試薬に対するモノクローナル抗体を容易に生成することもできる。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製するための一般的な方法は当技術分野においてよく知られている。細胞融合によって、また、腫瘍DNAでBリンパ球を直接形質転換するか、エプスタイン−バーウイルスをトランスフェクトするなど他の技術によって、不死化抗体産生細胞株を作成することができる。例えば、M.Schreier et al.(1980)HYBRIDOMA TECHNIQUES、Hammerling et al.(1981)MONOCLONAL ANTIBODIES AND T‐CELL HYBRIDOMAS、Kennett et al.(1980)MONOCLONAL ANTIBODIES参照;また、米国特許第4,341,761号、第4,399,121号、第4,427,783号、第4,444,887号、第4,466,917号、第4,472,500号、第4,491,632号、および第4,493,890号参照。
【0064】
本明細書では、「シングルドメイン抗体」(dAb)は、VHドメインからなる抗体であり、所定の抗原と特異的に結合する。dAbはVLドメインを含まないが、抗体、例えば、κおよびλドメインに対して存在することが知られている、その他の抗原結合ドメインを含むことができる。dAbを調製するための方法は当技術分野において知られている。例えば、Ward et al.Nature 341:544(1989)参照。
【0065】
また、抗原はVHドメインおよびVLドメイン、ならびにその他の既知の抗原結合ドメインから構成されうる。このような型の抗体の例、およびそれらを調製するための方法は当技術分野において知られており(例えば、米国特許第4,816,467号参照。これは参照されて本明細書に組み込まれる)、以下のものを含む。例えば、「脊椎動物の抗体」は、通常「Y」字構造に凝集していて、鎖同士の間に共有結合があってもなくてもよい軽鎖および重鎖を含む、四量体またはその凝集体である抗体を意味する。脊椎動物の抗体では、これらの鎖のアミノ酸配列は、インサイツであろうとインビトロであろうと(例えば、ハイブリドーマの中で)、脊椎動物の中で産生された抗体に存在するアミノ酸配列と相同である。脊椎動物抗体は、例えば、精製されたポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体などであり、これらを調製する方法は本明細書に記載されている。
【0066】
「ハイブリッド抗体」は、哺乳動物の抗体鎖に関して、鎖が別々に相同な抗体であって、それらの新規の集合体を表し、その結果、2つの異なる抗原が四量体または凝集体によって沈殿されうる抗体である。ハイブリッド抗体では、一組の重鎖と軽鎖が、第一の抗原に対して作製された抗体の中に存在する重鎖と軽鎖に相同であり、第二の組の鎖が、第二の抗体に対して産生された抗体の中に存在する鎖と相同である。その結果、「二価」という性質、すなわち2つの抗原に同時に結合する能力がもたらされる。また、下記に記載するように、このようなハイブリッドは、キメラ鎖を用いて形成させることもできる。
【0067】
「キメラ抗体」は、重鎖および/または軽鎖が融合タンパク質である抗体を意味する。典型的には、鎖のアミノ酸配列の一部が、特定の種または特定のクラスに由来する抗体の中にある対応配列に相同であるが、この鎖の残余の部分は、別の種および/またはクラスに由来する配列と相同である。通常、軽鎖および重鎖の可変領域は、脊椎動物の一つの種に由来する可変領域または抗体を模倣するが、定常部分は、脊椎動物の別の種に由来する抗体の中にある配列と相同である。しかし、この定義はこの特別な例に限定されない。また、起源が異なったクラスに由来しようと、異なった由来源の種に由来しようと、また、融合点が可変領域/定常領域の境界線にあろうなかろうと、重鎖または軽鎖の一方または両方が、異なった起源の抗体の中にある配列を模倣した配列の組み合わせからなる抗体も含まれる。したがって、定常領域および可変領域のどちらも、既知の抗体配列を模倣しない抗体を作製することが可能である。そのため、例えば、可変領域が特定の抗体に対してより強い特異的なアフィニティーを有する抗体や、定常領域が補体結合の促進を誘発することができる抗体を構築することが可能となり、あるいは、特定の定常領域が有する特性をさらに改良することが可能となる。
【0068】
別の例は「改変抗体」であって、脊椎動物抗体の中にある天然のアミノ酸配列が改変されている抗体を意味する。組み換えDNA技術を利用して、抗体を再設計して、所望の特性を得ることができる。可能な変更は数多くあり、1つ以上のアミノ酸を変更することから、ある領域、例えば、定常領域を完全に再設計することにまで及ぶが、通常は、所望の細胞過程特性、例えば、補体結合、膜との相互作用、およびその他のエフェクター機能の変更を達成するために行われる。可変領域の変更を行って、抗体結合特性を変えることができる。また、抗体を改造して、特定の細胞または組織部位への分子または物質の特異的送達を助けることができる。分子生物学における周知の技術、例えば、組み換え技術、部位特異的変異誘発などによって所望の改変を行うことができる。
【0069】
さらにもう一つの例は「一価抗体」であって、これは、第二の重鎖のFc(すなわち、ステム)領域に結合している重鎖/軽鎖二量体からなる凝集体である。この型の抗体は抗原変調(antigenic modulation)を免れる。例えば、Glennie et al.Nature 295:712(1982)参照。また、抗体の定義には、抗体の「Fab」断片も含まれる。「Fab」領域は、重鎖および軽鎖の分岐部を含む配列とほぼ同一か類似している、重鎖および軽鎖の部位であって、特定の抗原に対する免疫学的結合を示すことが分かっているが、エフェクターFc部位を欠いた部分を意味する。「Fab」は、1つの重鎖および1つの軽鎖(Fab’として一般に知られている)の凝集体、ならびに2H鎖および2L鎖を含む四量体(F(ab)2と呼ばれる)であって、所定の抗原または抗原ファミリーと選択的に反応することができる四量体を含む。Fab抗体は、上記のものに類似したサブセット、すなわち、「脊椎動物Fab」、「ハイブリッドFab」、「キメラFab」および「改変型Fab」に分けることができる。抗体のFab断片を作成する方法は、当技術分野において知られており、例えば、タンパク質分解、および組み換え技術による合成などがある。
【0070】
「抗原抗体複合体」は、抗原の上のエピトープに特異的に結合した抗体によって形成される複合体を意味する。
【0071】
ペプチド(またはペプチド試薬)は、特異的、非特異的、または特異的結合と非特異的結合の組み合わせで結合すれば、別のペプチドまたはタンパク質と「相互作用する」と言う。ペプチド(またはペプチド試薬)は、非病原性アイソフォームよりも病原型に対してより強いアフィニティーまたは特異性で結合するとき、病原性プリオンタンパク質と「選択的に相互作用する」と言う。また、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するペプチド試薬は、本明細書において、病原性プリオン特異的ペプチド試薬と呼ぶ。当然のことながら、選択的な相互作用は、特定のアミノ酸残基および/または各ペプチドのモチーフとの間で相互作用することを必ずしも必要としない。例えば、ある実施態様において、本明細書記載のペプチド試薬は、病原性アイソフォームと選択的に相互作用するが、それにもかかわらず、微弱ではある検出可能なレベル(例えば、目的とするポリペプチドに対して示された結合の10%以下)で非病原性アイソフォームに結合できるかもしれない。一般的に、弱い結合、あるいはバックグラウンド結合は、例えば、適当な対照を用いることで、目的とする化合物またはポリペプチドとの選択的な相互作用から簡単に識別できる。通常、本発明のペプチドは、非病原型のほうが106倍多く存在していても、病原性プリオンに結合する。
【0072】
「アフィニティー」という用語は結合の強さを意味し、解離定数(Kd)で定量的に表すことができる。好ましくは、病原型アイソフォームと選択的に相互作用するペプチド(またはペプチド試薬)は、非病原型アイソフォームと相互作用するよりも、少なくとも2倍のアフィニティー、より好ましくは少なくとも10倍のアフィニティー、さらに好ましくは少なくとも100倍のアフィニティーで、病原型アイソフォームと相互作用する。結合アフィニティー(Kd)は標準的な技術を用いて決定することができる。
【0073】
アミノ酸配列の「類似性」または「同一性の割合」を決定するための技術は、当技術分野においてよく知られている。一般的に、「類似性」は、適当な位置における2つ以上のポリペプチドのアミノ酸対アミノ酸の比較において、アミノ酸が同一か、電荷または疎水性などの類似した化学的および/または物理的特性を有することを意味する。そして、比較されるポリペプチド配列の間で、いわゆる「同一性の割合」を決定することができる。また、核酸配列とアミノ酸配列の同一性を測定する方法も当技術分野においてよく知られており、その遺伝子についてmRNAの塩基配列を(通常はcDNA中間体を介して)決定すること、およびそれによってコードされるアミノ酸配列を決定すること、およびこれを別のアミノ酸配列と比較することを含む。一般的に、「同一性」は、2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列のそれぞれヌクレオチド同士またはアミノ酸同士が正確に一致していることを意味する。
【0074】
2つ以上のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列は、その「同一性の割合」を決定して比較することができる。同一性の割合は、配列を整列させ、整列させた2つの配列の一致数を正確に数え、参照配列の長さで除し、その結果を100倍することによって、2つの分子(参照配列、および参照配列に対する同一性の割合が分からない配列)の配列情報を直接比較して決定することができる。簡単に利用できるコンピュータープログラムを利用して解析に役立てることができる。例えば、ペプチドを解析するためにSmith and Waterman Advances in Appl.Math.2:482−489,1981の局所的相同性アルゴリズムを採用する、Atlas of Protein Sequence and Structure M.O.Dayhoff ed.,5 Suppl.3:353−358,National biomedical Research Foundation,Washington,DCに記載されているALIGN、Dayhoff、M.O.などがある。ヌクレオチド配列の同一性を決定するためのプログラムは、the Wisconsin Sequence Analysis Package,Version8(Genetics Computer Group,Madison,WIから入手可能)で利用することができ、例えば、BESTFIT、FASTAおよびGAPプログラムがあるが、これらも、Smith and Watermanのアルゴリズムに依拠している。これらのプログラムは、製造業者が推奨し、前記のWisconsin Sequence Analysis Packageの中に記載されているデフォルトのパラメーターを用いて容易に利用できる。例えば、参照配列に対する特定のヌクレオチド配列の同一性の割合は、デフォルトのスコアテーブル、および6つのヌクレオチド部位のギャップペナルティを用いるSmith and Watermanのホモロジーアルゴリズムを用いて決定することができる。
【0075】
本発明との関連で同一性の割合を確認するための別の方法は、エジンバラ大学が著作権を有し、John F. CollinsおよびShane S. Sturrockによって開発され、多数の情報源、例えば、インターネット上から入手可能な、商標MPSRCHプログラムパッケージを使用することである。このパッケージ一式から、デフォルトパラメーター(例えば、ギャップオープンペナルティが12、ギャップエクステンションペナルティが1、およびギャップが6)がスコアテーブルに使用されているSmith‐Watermanのアルゴリズムを使用することができる。作成されたデータから、「マッチ」値は「配列同一性」を反映している。配列間の同一性または類似性を計算するためのその他の適当なプログラムが一般的に当技術分野において知られている。例えば、別のアラインメントプログラムはBLASTであり、デフォルトパラメーターで使用される。例えば、BLASTNおよびBLASTPを、以下のデフォルトパラメーターを用いて使用することができる:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;鎖=両鎖;カットオフ=60;期待値=10;マトリクス=BLOSUM62;記載=50配列;ソート順=高スコア順;データベース=非重複GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳配列+Swissプロテイン+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は簡単に入手できる。
【0076】
本明細書の中で用いられる「免疫原性組成物」は、この組成物を患者に投与すると、患者の体内で液性および/または細胞性の免疫反応が生じる組成物(例えば、ペプチド、抗体および/またはポリペプチド)を意味する。免疫原性組成物は、注射、吸入、経口、鼻腔、またはその他、非経口もしくは粘膜による投与経路(例えば、直腸内または膣内)などによって、投与対象患者に直接導入することができる。
【0077】
「エピトープ」は、特定のB細胞および/またはT細胞が反応して、そのエピトープを含む分子を、免疫反応を誘発することができるようにするか、生体試料の中に存在する抗体と反応することができるようにする抗体上の部位を意味する。また、この用語は「抗原決定基」または「抗原決定部位」と同義的に用いられる。エピトープは、そのエピトープに独特な立体配置の中に3つ以上のアミノ酸を含むことができる。一般的に、エピトープは少なくとも5個のそのようなアミノ酸からなり、より普通には、少なくとも8〜10個のそのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の立体配置を決定する方法は当技術分野において知られており、例えば、X線結晶構造解析および2次元核磁気共鳴などがある。さらに、所定のタンパク質におけるエピトープの同定は、例えば、疎水性についての諸研究および部位特異的な血清学を用いるなど、当技術分野においてよく知られている技術を使って容易に行われる。また、Geysen et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA(1984)81:3998−4002(ペプチドを迅速に合成して、所定の抗原の中にある免疫原性エピトープの位置を決定する一般的な方法)、米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定して、これを化学的に合成するための手順)、およびGeysen et al.,Molecular Immunology(1986)23:709−715(所定の抗体に対して高アフィニティーをもつペプチドを同定するための技術)参照。同一のエピトープを認識する抗体は、一つの抗体が、別の抗体が標的抗原に結合するのを阻害することができることを示す単純な免疫アッセイで同定することができる。
【0078】
本明細書の中で用いられる「免疫学的反応」または「免疫反応」は、ポリペプチドがワクチン組成物の中に存在すると、本明細書に記載されているようなペプチドに対する液性および/または細胞性の免疫反応が患者の体内で生じることを意味する。また、これらの抗体は、感染力を中和して、および/または、抗体−補体間または抗体依存性細胞傷害を媒介して、免疫された宿主を防御することができる。免疫学的反応性は、競合アッセイなど、当技術分野においてよく知られている標準的な免疫アッセイで測定することができる。
【0079】
「遺伝子移入」または「遺伝子送達」は、目的のDNAを宿主細胞の中に確実に挿入する方法またはシステムを意味する。このような方法は、組み込まれていない移入DNAの一時的発現、移入されたレプリコン(例えば、エピソーム)の染色体外での複製および発現、または、宿主細胞のゲノムDNAへの移入された遺伝物質の組み込みをもたらすことがある。遺伝子送達発現ベクターは、アルファウイルス、ポックスウイルス、ワクシニアウイルスなどに由来するベクターであるが、これらに限定されない。このような遺伝子送達発現ベクターを免疫化に用いる場合、それらは、ワクチン、またはワクチンベクターと呼ぶことができる。
【0080】
「試料」という用語は、生体試料および非生体試料を含む。生体試料は、生体または死体から得られたか、それらに由来するものである。非生体試料は生体に由来するものでも、死体に由来するものでもない。生体試料は、器官(例えば、脳、肝臓、腎臓など)、全血、血液分画、血漿、脳脊椎液(CSF)、尿、涙、組織、臓器、生検など、動物(生体または死体)に由来する試料であるが、これらに限定されない。非生体試料の例は、医薬品、食物、化粧品などである。
【0081】
「標識」または「検出可能な標識」という用語は、放射性同位元素、蛍光剤、発光剤、化学発光剤、酵素、酵素基質、酵素補助因子、酵素阻害剤、発光団、色素、金属イオン、金属ゾル、リガンド(例えば、ビオチンまたはハプテン)など、検出できる分子を意味するが、これらに限定されない。「蛍光剤」という用語は、検出可能な範囲で蛍光を発する能力をもつ物質またはその一部を意味する。本発明とともに使用することができる標識の具体的な例は、フルオレセイン、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、テキサスレッド、ルミノール、アクリジニウムエステル、NADPH、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、グルコース酸化酵素、アルカリンホスファターゼおよびウレアーゼなどであるが、これらに限定されない。また、標識は、エピトープ標識(例えば、His−Hisタグ)、抗体、または増幅可能であるか、そうでなければ検出可能なオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0082】
II.概観
本明細書には、ペプチド試薬を用いて試料の中にある病原性プリオンを検出する方法であって、ペプチド試薬が、例えば、一方の型と選択的に相互作用するが、他方とは相互作用しないことによって、プリオンタンパク質の病原型アイソフォームと非病原型アイソフォームとを区別することができる方法が記載されている。このようなペプチド試薬を使用して、本発明者らは、試料の中に病原性プリオンが存在することを検出するための高感度法を開発した。これらのペプチド試薬は本明細書に記載されており、また、2004年8月13日付で共同出願された米国特許出願第10/917,646号、2005年2月11日付で共同出願された米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日付で共同出願されたPCT出願第PCT/US/2004/026363号に記載されている。これらのペプチド試薬はプリオンの病原型と選択的に相互作用するため、これらを用いて、細胞性(すなわち、非病原型)プリオンタンパク質と病原性プリオンタンパク質を含む試料から病原性プリオンを効率的に分離して濃縮することができる。PrPSCを検出するための既述の方法とは異なり、プロテイナーゼKまたはその他のプロテアーゼによる分解は不要である。ペプチド試薬に結合している病原性プリオンタンパク質を、試料中の他の成分、特に非病原性プリオンタンパク質から簡単に分離するために、典型的には、ペプチド試薬は、固体支持体上、好ましくは電磁ビーズ上で提供される。結合した病原性プリオンタンパク質は、随意に洗浄して、微量の非結合物質を除去することができる。次に、カオトロピック剤を添加するか、好ましくはpHを変化させて、結合した病原性プリオンをペプチド試薬から解離させることができる。
III.A.ペプチド試薬
本発明は、プリオンタンパク質の比較的小さな断片が、プリオンの病原型と選択的に相互作用することができるという本発明者らが発見に一部基づいている。病原性プリオンアイソフォームと選択的な相互作用を示すためには、これらの断片がより大きいタンパク質構造体またはその他の型の足場(scaffold)分子の一部である必要はない。特定の理論に拘泥するわけではないが、ペプチド断片は、恐らくは、非病原性プリオンアイソフォームに存在するコンフォメーションを模倣することによって、非病原性プリオンアイソフォームではなく病原性プリオンアイソフォームに結合できるコンフォメーションを自発的に採るものと思われる。本明細書ではプリオンについて示されているが、あるコンフォメーション病タンパク質の一定の断片が、そのコンフォメーション病タンパク質の病原型と選択的に相互作用するという原則を直ちに他のコンフォメーション病タンパク質に適用して、病原型と選択的に相互作用するペプチド試薬を製造することができる。これらの断片は(例えば、サイズまたは配列特性に関して)出発点を提供するが、これらの断片に多くの改変を加えて、より望ましい属性(例えば、より高いアフィニティー、より高い安定性、より高い溶解性、プロテアーゼに対するより低い感受性、より高い特異性、合成するのがより容易であるなど)を有するペプチド試薬が作製できることは、当業者にとって明白であろう。
【0083】
一般的には、本明細書記載のペプチド試薬は、プリオンタンパク質の病原型と選択的に相互作用することができる。したがって、これらのペプチド試薬によって、病原性プリオンタンパク質の存在を直ちに検出して、生体脳もしくは死体脳、脊椎、またはその他の神経系組織および血液など、生体、非生体を問わず、実質的にいかなる試料においてもプリオン関連疾患を診断することが可能となる。
【0084】
さらに、分岐DNAを用いてシグナル増幅すること(例えば、米国特許第5,681,697号;第5,424,413号;第5,451,503号;第5、4547,025号;および第6,235,483号参照);PCR、ローリングサークル法、サードウエーブインベーダー(Third Wave’s invader)(Arruda et
al.2002.Expert.Rev.Mol.Diagn.2:487;米国特許第6090606号;第5843669号;第5985557号;第6090543号;第5846717号)、NASBA、TMAなどの標的増幅技術を応用すること(米国特許第6,511,809号;欧州特許第0544212A1号);および/または免疫PCR技術(例えば、米国特許第5,665,539号;国際特許公開第98/23962号;第00/75663号;および第01/31056号参照)を応用することなど、適当なシグナル増幅系を用いて、検出をさらに容易にすることができる。
【0085】
ここで、コンフォメーション病タンパク質の病原型と相互作用するペプチド試薬について説明する。本明細書には、コンフォメーション病タンパク質はプリオンタンパク質で例示されている。
【0086】
以下は、2つ以上の異なるコンフォメーションが見込まれているタンパク質が関係している病気の非制限的なリストである。
【0087】
【表1】
さらに、上掲のコンフォメーション病タンパク質はそれぞれ、すべて本発明に含まれるさまざまな系統を生じさせるいくつかの変異型または突然変異型を含む。マウスプリオンタンパク質のさまざまな領域および配列の機能解析を以下に示す。Priola(2001)Adv.Protein Chem.57:1−27も参照。マウス(Mo)、ハムスター(Ha)、ヒト(Hu)、トリ(A)およびヒツジ(Sh)について下記に示す領域および残基に対応するものを、標準的な手順および本明細書中の教示内容に従って、他の種についても容易に決定することができる。
【0088】
【表2−1】
【0089】
【表2−2】
【0090】
【表2−3】
プリオンタンパク質(およびその他のコンフォメーション病タンパク質)は、同じアミノ酸配列を有する、2つの異なる三次元構造を有することにも留意すべきである。一方のコンフォメーションは病気の特徴と関連し、一般的に不溶性であるが、もう一方のコンフォメーションは病気の特徴とは関連せず可溶性である。例えば、Wille, et al.,“Structural Studies of the Scrapie Prion Protein by Electron Crystallography”, Proc.Natl.Acad.Sci USA,99(6):3563−3568(2002)参照。本発明は、プリオンタンパク質に関して例示されているが、列挙された病気、タンパク質および系統に限定されない。
【0091】
したがって、一定の態様において、本明細書記載のペプチド試薬は、天然タンパク質、例えば、コンフォメーション病タンパク質(例えば、プリオンタンパク質)、またはプリオンタンパク質に相同性を示すモチーフもしくは配列を含むタンパク質に由来するアミノ酸配列を含む。特に、本発明のペプチド試薬は、一般的には、天然のプリオンタンパク質に由来する。これらのペプチド試薬は、好ましくは、プリオンタンパク質の一定の領域から得られたアミノ酸配列に由来する。これらの好適な領域は、マウスプリオン配列(配列番号2)について、23〜43位および85〜156位のアミノ酸残基に由来する領域、ならびにその部分領域あることが例示されている。本発明は、マウス配列に由来するペプチド試薬に限定されず、ヒト、ウシ、ヒツジ、シカ、エルク、ハムスターなど、任意の種のプリオン配列から、本明細書に記載されているのと同様の方法で得られるペプチド試薬を含む。プリオンタンパク質に由来する場合、本明細書記載のペプチド試薬は、ポリプロ
リンII型へリックスモチーフを含むかもしれない。このモチーフは、一般配列PxxP(例えば、配列番号1の残基番号102〜105)を典型的に含むが、ただし、他の配列、特にアラニンテトラペプチドも、ポリプロリンII型を形成することが示唆されている(例えば、Nguyen et al.Chem Biol.2000 7:463、Nguyen et al.Science 1998 282:2088、Schweitzer‐Stenner et al.J.Am.Chem Soc.2004 126:2768参照)。PxxP配列において、「x」はどのアミノ酸であってもよく、「P」は、天然配列ではプロリンであるが、本発明のペプチド試薬ではプロリン置換体によって置換されていてもよい。このようなプロリン置換体は、一般にペプトイドと呼ばれるN−置換グリシンなどを含む。したがって、PxxP配列に基づいたポリプロリンII型へリックスを含む、本発明のペプチド試薬において、「P」はプロリンまたはN−置換グリシン残基を表し、「x」は任煮のアミノ酸またはアミノ酸アナログを表す。特に好適なN−置換グリシンは本明細書に記載されている。
【0092】
さらに、ヒト、マウス、ヒツジ、ウシなど、多くの異なった種によって産生されるプリオンタンパク質のポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が知られている。これらの配列に対する変異体も、それぞれの種に存在する。したがって、本発明において用いられるペプチド試薬は、任意の種または変異体のアミノ酸配列の断片または誘導体を含むことができる。例えば、一定の実施態様において、本明細書記載のペプチド試薬は、図2に記載されている配列のいずれか(配列番号3〜11)に由来する。本明細書において具体的に開示されているペプチド試薬の配列は、一般的にマウスプリオンの配列に基づいているが、適当であるならば、当業者は、別の種に由来する対応配列で簡単に置き換えることができる。例えば、もしヒト診断薬または治療薬が所望であれば、マウス配列を対応するヒト配列のものとの置換を容易に行うことができる。具体例においては、およそ85位の残基からおよそ112位の残基までの領域に由来するペプチド試薬(例えば、配列番号35、36、37、40)では、109位の残基に対応する位置にあるロイシンをメチオニンで置換することができ、112位の残基に対応する位置にあるバリンをメチオニンで置換することができ、かつ97位の残基に対応する位置にあるアスパラギンをセリンで置換することができる。同様に、ウシの診断薬が所望であれば、開示されたペプチド配列に適当な置換を行って、ウシのプリオン配列を示すことができる。このようにして、およそ85位の残基からおよそ112位の残基までの領域に由来するペプチド試薬についての上記例を続けると、109位の残基に対応する位置にあるロイシンをメチオニンで置換することができ、また、97位の残基に対応する位置にあるアスパラギンをグリシンで置換することができる。また、これらの配列にアミノ酸の置換、欠失、付加、およびその他の変異を含む、プリオンタンパク質の誘導体を用いることもできる。好ましくは、プリオンタンパク質配列と比較して、どのようなアミノ酸置換、欠失、付加も、ペプチド試薬が病原型と相互作用する能力に影響を及ぼさない。
【0093】
当然のことながら、どのような由来源が本明細書記載のペプチド試薬に用いられようと、これらのペプチド試薬は、既知のプリオンタンパク質に対して必ずしも配列同一性を示すとは限らない。したがって、本明細書記載のペプチド試薬は、コンフォメーション病タンパク質の病原型と選択的に相互作用する能力を保持する限り、天然プリオンタンパク質または本明細書の中で開示されている配列に対して、一つ以上のアミノ酸の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。一定の実施態様では、保存的アミノ酸置換が好ましい。保存的アミノ酸置換は、側鎖が似ているアミノ酸のファミリー内で起きる置換である。遺伝的にコードされたアミノ酸は、通常、以下の4つのファミリーに分類される:(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非電荷極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、まとめて芳香族アミノ酸に分類されることもある。例えば、ロイシンをイソロイシンまたはバリンで、アスパラギン酸をグルタミン酸で、トレオニンをセリンで、または同様に、あるアミノ酸を構造的に類似したアミノ酸で単独に置換しても、生物活性に大きな影響を及ぼさないことが合理的に予想できる。
【0094】
また、天然アミノ酸と非天然アミノ酸アナログとの任意の組み合わせを用いて、本明細書記載のペプチド試薬を作製できることは明らかであろう。遺伝子によってコードされていないが、広く見られるアミノ酸アナログは、オルニチン(Orn);アミノイソ酪酸(Aib);ベンゾチオフェニルアラニン(BtPhe);アルビジイン(Abz);t−ブチルグリシン(Tle);フェニルグリシン(PhG);シクロヘキシルアラニン(Cha);ノルロイシン(Nle);2−ナフチルアラニン(2−Nal);1−ナフチルアラニン(1−Nal);2−チエニルアラニン(2−Thi);1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸(Tic);N−メチルイソロイシン(N−MeIle);ホモアルギニン(Har);Nα−メチルアルギニン(N−MeArg);ホスホチロシン(pTyrまたはpY);ピペコリン酸(Pip);4−クロロフェニルアラニン(4−ClPhe);4−フルオロフェニルアラニン(4−FPhe);1−アミノシクロプロパンカルボン酸(1−NCPC);およびサルコシン(Sar)などであるが、これらに限定されない。本発明のペプチド試薬において用いられるアミノ酸はいずれも、D型異性体、より典型的にはL型異性体であろう。
【0095】
その他に、本明細書記載のペプチド試薬を形成させるために用いることができるアミノ酸の天然アナログはペプトイドなどであり、および/または生物学的な機能的等価物である、アミノ酸のスルホン酸およびボロン酸のアナログなどのペプチド模倣化合物も、本発明の化合物において有用であり、任意にはアイソスターで置換された一つ以上のアミド結合を有する化合物を含む。本発明との関連では、例えば、これらのアイソスターによって連結された遊離基が、−−CONH−−によって連結された遊離基に対して同じ配向に保たれるよう、−−CONH−−を−−CH2NH−−、−−NHCO−−、−−SO2NH−−、−−CH2O−−、−−CH2CH2−−、−−CH2S−−、−−CH2SO−−、−−CH−−CH−−(シスまたはトランス)、−−COCH2−−、−−CH(OH)CH2−−、および1,5−2置換テトラゾールで置換することができる。本明細書記載のペプチド試薬の1つ以上の残基はペプトイドを含むことができる。
【0096】
このように、ペプチド試薬は、一つ以上のN−置換グリシン残基(一つ以上のN−置換グリシン残基を有するペプチドを「ペプトイド」と呼ぶことができる)を含むことができる。例えば、一定の実施態様において、本明細書記載のペプチド試薬の一つ以上のプロリン残基が、N−置換グリシン残基で置換される。これについて適当な具体的なN−置換グリシンは、N−(S)−(1−フェニルエチル)グリシン、N−(4−ヒドロキシフェニル)グリシン、N−(シクロプロピルメチル)グリシン、N−(イソプロピル)グリシン、N−(3,5−ジメトキシベンジル)グリシン、およびN−アミノブチルグリシンなどであるが、これらに限定されない。(例えば、図3)。その他のN−置換グリシンも、本明細書記載のペプチド試薬の配列中の1つ以上のアミノ酸残基を置換するのに適しているかもしれない。これら、およびその他のアミノ酸アナログおよびペプチド模倣体の一般的な概説については、Nguyen et al.(2000)Chem Biol.7(7):463−473、Spatola,A.F.,in Chemistry and
Biochemistry of Amino Acids,Peptides and Proteins,B.Weinstein,eds.,Marcel Dekker,New York,p.267(1983)参照。さらに、Spatola,A.F.,Peptide Backbone Modifications(general review),Vega Data,Vol.1,Issue 3,(March 1983)、Morley,Trends Pharm Sci(general review),pp.463−468(1980)、Hudson,D.et al.,Int J Pept Prot Res,14:177−185(1979)(−−CH2NH−−,CH2CH2−−)、Spatola et al.,Life Sci,38:1243−1249(1986)(‐CH2‐S)、Hann J.Chem.Soc.Perkin Trans.1,307−314(1982)(‐‐CH‐‐CH‐‐、シスおよびトランス)、Almquist et al.,J Med Chem,23:1392−1398(1980)(−−COCH2−−)、Jennings−White et al.,Tetrahedron Lett,23:2533(1982)(−−COCH2−−)、Szelke et al.,European Appln.EP45665CA:97:39405(1982)(−−CH(OH)CH2−−)、Holladay et al.,Tetrahedron Lett,24:4401−4404(1983)(−−C(OH)CH2−−)、およびHruby,Life Sci,31:189−199(1982)(−−CH2−−S−−)参照。以上のものは、それぞれ参照されて本明細書に組み込まれる。C末端のカルボン酸は、ボロン酸−−B(OH)2、またはボロン酸エステル−−B(OR)2、または米国特許第5,288,707号に記載されているようなボロン酸誘導体で置換することができる。この特許文献は、参照して本明細書に組み入れられる。
【0097】
本明細書記載のペプチド試薬は、単量体、多量体、環状化分子、分岐分子、リンカーなどを含むことができる。本明細書記載の配列のいずれかの多量体(すなわち、二量体、三量体など)、またはその生物学的機能等価物も想定される。この多量体はホモ多量体、すなわち、同一の単量体、例えば、各単量体が同じペプチド配列から構成されるホモ多量体でもよい。あるいは、この多量体はヘテロ多量体であってもよいが、それは、多量体を構成する単量体が全て同一であるというわけではないという意味である。
【0098】
単量体を互いに直接結合させることによって、または、例えば、多重抗原ペプチド(MAPS)(例えば、対称型MAPS)、高分子の足場、例えば、PEG足場に結合したペプチド、および/またはスペーサーユニットの有無にかかわらずタンデムに連結したペプチドなどの基質に直接結合させることによって多量体を形成することができる。
【0099】
あるいは、連結基(linking group)を単量体の配列に付加し、単量体をまとめて結合して一つの多量体を形成させることができる。連結基を用いた多量体の非限定的な例は、グリシンリンカーを用いたタンデム反復配列;リンカーを介して基質に結合しているMAPS、および/またはリンカーを介して足場に結合している直鎖状に連結したペプチドなどである。連結基は、当業者に周知されているように、二機能性スペーサーユニット(ホモ二機能性かヘテロ二機能性)を使用することを含むかもしれない。一例であって限定的なものではないが、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸塩(SMCC)、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)酪酸塩などの試薬を用いて、上記スペーサーユニットを連結基に組み込むための多数の方法が、the Pierce Immunotechnology Handbook(Pierce Chemical Co.,Rockville,Ill.)に記載されており、さらに、Sigma Chemical Co.(St.Louis,Mo.)およびAldrich Chemical Co.(Milwaukee,Wis.)から入手可能であり、“Comprehensive Organic Transformations”,VCK−Verlagsgesellschaft,Weinheim/Germany(1989)に記載されている。単量体配列を連結させるために用いることができる連結基の一例は、−Y1−−F−−Y2であって、式中Y1およびY2は同一であるか異なっており、0〜20個、好ましくは0〜8個、より好ましくは0〜3個の炭素原子からなるアルキレン基であり、かつFは、−−O−−、−−S−−、−−S−−S−−、−−C(O)−−O−−、−−NR−−、−−C(O)−−NR−
−、−−NR−−C(O)−−O−−、−−NR−−C(O)−−NR−−、−−NR−−C(S)−−NR−−、−−NR−−C(S)−−O−−など、1個以上の官能基である。Y1およびY2は、随意で、ヒドロキシ、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アミノ、カルボキシル、カルボキシアルキルなどで置換することができる。当然のことながら、単量体の任意の適当な原子を連結基に結合させることができる。
【0100】
さらに、本発明のペプチド試薬は、直鎖状、分枝状または環状でもよい。単量体ユニットは環状化することができ、または連結させて、直鎖状または分枝状の多量体を提供することができ、環状形(例えば、大環状分子)、星形(例えば、デンドリマー)、または球形(例えば、フラーレン)にすることができる。当業者は、本明細書に開示された単量体の配列から形成することができる多数のポリマーを容易に認識できる。一定の実施態様において、多量体は環状二量体である。上記したと同じ用語を用いれば、この二量体はホモ二量体またはヘテロ二量体でありうる。
【0101】
環状形は、単量体、多量体を問わず、上記の連結のいずれか、例えば、以下の方法にようにして作出することができる:(1)窒素とC末端カルボニルの間でアミド結合を直接形成することを介するか、または、例えば、εアミノカルボン酸との縮合などによる、スペーサー基の仲介によって、N−末端アミンをC末端カルボン酸とともに環状化すること;(2)例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸の側鎖とリジンの側鎖との間でアミド結合を形成することによって、または2つのシステインの側鎖間で、もしくはペニシラミンの側鎖とシステインの側鎖の間で、もしくは2つのペニシラミンの側鎖間でジスルフィド結合を形成することによって、2つの残基の側鎖の間に結合を形成することを介して環状化すること;(3)側鎖(例えば、アスパラギン酸またはリジン)と、N末端アミンまたはC末端カルボキシルのいずれかそれぞれとの間にアミド結合を形成して環状化すること;および/または(4)短い炭素スペーサー基の仲介によって2つの側鎖を連結させること。
【0102】
好ましくは、本明細書記載のペプチド試薬は病原性および/または感染性がない。
【0103】
本発明のペプチド試薬は、約3〜約100残基長(またはその間の任意の値)のいずれか、またはそれよりも長くてもよく、好ましくは約4〜約75残基(またはその間の任意の値)、好ましくは約5〜約63残基(またはその間の任意の値)、および、さらに好ましくは約8〜約30残基(またはその間の任意の値)、そして、最も好ましくは、ペプチド試薬は10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基であろう。
【0104】
本明細書記載の組成物および方法において有用なペプチド試薬の非限定的な例は、表1および表4に示された配列に由来する。表中のペプチド試薬は、従来の1文字アミノ酸コードで表されており、左側がN末端、右側がC末端になるよう描かれている。角括弧内のアミノ酸は、さまざまなペプチド試薬において、その位置で使用することができる代替的な残基を示している。丸括弧は、その残基がペプチド試薬に存在するかもしれないし、存在しないかもしれないことを示している。いずれのプロリン残基も、N−置換グリシン残基で置換してペプトイドを形成することができる。表中の配列はいずれも、N末端および/またはC末端にGlyリンカー(Gn、ただしn=1、2、3または4)を任意で含むことができる。
【0105】
【表3−1】
【0106】
【表3−2】
【0107】
【表3−3】
【0108】
【表3−4】
【0109】
【表3−5】
一つの態様において、本発明の方法で使用されるペプチド試薬は、本明細書に開示されている各ペプチド、および(本明細書に開示されている)その誘導体を含む。したがって、本発明は、以下の配列番号で示された配列のいずれかのペプチド、ならびにそのアナログ(例えば、N−置換グリシンによる一つ以上のプロリンの置換)および誘導体に由来するペプチド試薬を含む:配列番号
【0110】
【数5−1】
【0111】
【数5−2】
または260。
【0112】
本発明の方法は、好ましくは、以下の配列番号のペプチド、ならびにそのアナログ(例えば、N−置換グリシンによる一つ以上のプロリンの置換)および誘導体に由来するペプチド試薬を利用する:配列番号
【0113】
【数6】
または260。
【0114】
一定の好適な実施態様において、本方法で使用されるペプチド試薬は病原性プリオンに特異的に結合し、例えば、以下の配列番号のペプチド、ならびにそのアナログ(例えば、N−置換グリシンによる一つ以上のプロリンの置換)および誘導体に由来するペプチド試薬である:配列番号
【0115】
【数7−1】
【0116】
【数7−2】
または260。
【0117】
上記したように、本明細書記載のペプチド試薬は、一つ以上の置換、付加、および/または変異を含むことが可能である。例えば、ペプチド試薬の中で一つ以上の残基を別の残基、例えば、アラニン残基、またはアミノ酸アナログ、またはペプトイドを作るためのN−置換グリシン(例えば、Nguyen et al.(2000)Chem Biol.7(7):463−473参照)で置換することができる。さらに、本明細書記載のペプチド試薬は、付加的ペプチド成分または非ペプチド成分を含むこともできる。付加的ペプチド成分の非限定的な例は、スペーサー残基、例えば、2つ以上のグリシンの(天然または誘導体化された)残基、もしくは一方または両方の末端上のアミノヘキサン酸リンカー、または、ペプチド試薬を可溶化するのを助けることができる残基、例えば、配列番号83、86などに記載されているようなアスパラギン酸(AspまたはD)などの酸性残基などである。一定の実施態様において、例えば、ペプチド試薬は多重抗原ペプチド(MAPS)として合成される。典型的には、ペプチド試薬の多重コピー(例えば、2〜10個のコピー)は、分枝型リジンなどのMAP担体もしくはその他のMAP担体コアの上で直接合成される。例えば、Wu et al.(2001)J Am Chem Soc.2001 123(28):6778−84;Spetzler et al.(1995)Int J Pept Protein Res.45(l):78−85、および配列番号134および135参照。
【0118】
本明細書記載のペプチド試薬に含まれうる非ペプチド成分(例えば、化学的成分)の非限定的な例は、ペプチド試薬のどちらかの末端または内部にある、一つ以上の検出可能な標識、タグ(例えば、ビオチン、His−タグ、オリゴヌクレオチド)、色素、結合対のメンバーなどを含む。また、非ペプチド成分は、直接、またはスペーサー(例えば、アミド基)を介して、定量的な構造−活性データおよび/または分子モデリングによって非干渉的であると予測された、化合物上の位置に(例えば、一つ以上の標識の共有結合によって)結合することもできる。本明細書記載のペプチド試薬は、アミロイド特異的色素(例えば、コンゴレッドなど)のようなプリオン特異的化学成分も含むことが可能である。化合物の誘導体化(例えば、標識、環状化、化学成分の結合など)は、ペプチド試薬の結合特性、生体機能、および/または薬理活性を実質的に妨害するものであってはならない。
【0119】
ペプチド試薬は、典型的には、プリオンタンパク質断片、または本明細書に記載されたペプチド配列に対して、少なくとも約50%の配列同一性を有する。ペプチド試薬は、プリオンタンパク質断片または本明細書に記載されたペプチド配列に対して、好ましくは、少なくとも70%の配列同一性;より好ましくは、少なくとも75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の配列同一性を有する。
【0120】
本明細書記載のペプチド試薬は、病原型と選択的に相互作用するため、広範囲の単離、精製、検出、診断、および治療への応用に役立つ。例えば、ペプチド試薬が病原型と選択的に相互作用する実施態様では、そのペプチド試薬自体を使用して、血液、神経系組織(脳、脊髄、CSFなど)、またはその他の組織または器官試料における病原型を検出することができる。また、ペプチド試薬は、病原型に関連する病気の存在を診断し、病原型を単離し、また、病原型を除去することによって汚染除去するのにも役立つ。
【0121】
既知の結合アッセイ法、例えば、ELISA、ウエスタンブロットなどの免疫アッセイ法を用いてペプチド試薬とプリオンタンパク質との相互作用をテストすることができる(実施例参照)。
【0122】
本発明のペプチド試薬の特異性をテストする便利な方法は、病原性プリオンおよび非病原性プリオンの両方を含む試料を選択することである。典型的なそのような試料は、病気になった動物から採取した脳または脊髄などである。病原型に特異的に結合する本明細書記載のペプチド試薬を、固体支持体に(当技術分野において周知の方法によって、さらに下述するようにして)結合させて、病原性プリオンをその他の試料成分から分離(「プルダウン」)して、固体支持体上におけるペプチド−プリオン結合相互作用の数に直接関係する定量的値を得るために使用する。当技術分野において既知の変法および別のアッセイ法を用いて、本発明のペプチド試薬の特異的を明らかにすることも可能である。例えば、実施例参照。
【0123】
本明細書記載のペプチド試薬を使用する本発明の方法では必要ではないが、他のプリオンアッセイ法は、病原型コンフォメーションをもつプリオンは、一般的に、プロテイナーゼKなど、一定のプロテアーゼに対して耐性があるという事実を利用することができる。これらのプロテアーゼは、プリオンを分解して、非病原型のコンフォメーションにすることができる。したがって、プロテアーゼを使用すれば、試料を2つの等量に分けることができる。プロテアーゼを第二の試料に加えて、同じテストを行うことができる。第二の試料中のプロテアーゼは、非病原型プリオンを分解してしまうため、第二の試料においては、ペプチド−プリオン結合相互作用は、病原性プリオンによって生じさせることができる。
【0124】
したがって、本明細書記載のペプチド試薬の結合特異性および/または親和性を評価する方法の非限定的な例は、標準的なウエスタン法ならびにファーウェスタン法;標識ペプチド;ELISA類似法;および/または細胞法などである。例えば、ウエスタンブロットは、一般的に、「プルダウン」アッセイ法(本明細書記載のとおり)から得られた試料について、変性されたプリオンを、ニトロセルロースまたはPVDF上に電気ブロットされたSDS−PAGEゲルから検出するタグ付きの一次抗体を使用する。変性プリオンタンパク質を認識する抗体は記述済みであり(とりわけ、Peretz et al.1997 J.MoI.Biol.273:614;Peretz et al.2001 Nature 412:739;Williamson et al.1998 J.Virol.72:9413;米国特許第6,765,088号;米国特許第6,537548号に記載されている)、市販されているものもある。また、例えば、モチーフ移植(motif−grafted)ハイブリッドポリペプチド(国際公開公報第03/085086号参照)、一定のカチオン性またはアニオン性のポリマー(国際公開公報第03/073106号参照)、「増殖触媒(propagation catalyst)」である一定のペプチド(国際公開公報第02/0974444号参照)、およびプラスミノーゲンなど、別のプリオン結合分子も記述ずみである。そして、タグに対するプローブ(例えば、ストレプトアビジン結合アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ECL試薬、および/または増幅可能なオリゴヌクレオチド)により一次抗体を検出(および/または増幅)する。タグに対するプローブ(例えば、ストレプトアビジン結合アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ECL試薬、または増幅可能なオリゴヌクレオチド)で標識および増幅されるアフィニティータグ(例えば、ビオチン)をもつペプチドのような検出試薬を使用して、結合を評価することもできる。さらに、サンドイッチ式ELISAと同じようなマイクロタイタープレート法を用いることもできる。例えば、本明細書記載のプリオン特異的ペプチド試薬を用いて、プリオンタンパク質を固体支持体(例えば、マイクロタイタープレートのウェル、ビーズなど)上に固定し、別の検出用試薬は、結合アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ECL試薬、または増幅可能なオリゴヌクレオチドのようなアフィニティーおよび/または検出用の標識をもつ別のプリオン特異的ペプチド試薬などを含みうる。実施例参照。細胞アッセイ法も、例えば、プリオンタンパク質を各細胞上で(例えば、蛍光を利用して、特異的に標識された細胞の細胞選別、計数、または検出を可能にする、蛍光標識されたプリオン特異的ペプチド試薬を用いて)直接検出する場合には利用することができる。
【0125】
III.B.ペプチド試薬の製造
本発明のペプチド試薬は、いくつかの方法で製造することができ、それらはすべて当技術分野において周知である。
【0126】
ペプチド試薬の全部または一部で遺伝子によってコードされたペプチドである、一つの実施態様では、ペプチドを、当技術分野において周知である組換え技術を用いて作製することができる。当業者は、標準的な方法および本明細書記載の教示内容を利用して、所望のペプチドをコードする塩基配列を容易に決定することができる。単離されたところで、随意には、組換えペプチドを改変して、本明細書に記載されているような、また、当技術分野において周知されている、遺伝子にコードされていない成分(例えば、検出用標識、結合対メンバーなど)を含むようにして、ペプチド試薬を製造することができる。
【0127】
オリゴヌクレオチドプローブを既知の配列に基づいて工夫し、ゲノムまたはcDNAのライブラリーをプローブで検索することができる。そして、標準的な技術、および、例えば、全長配列の所望の部位で遺伝子を切断するために使用される制限酵素などを用いて、配列をさらに単離することができる。同様に、目的とする配列は、それを含む細胞および組織から、既知の技術、例えば、フェノール抽出法、および所望の切断型を作出するようさらに操作された配列を用いて直接に単離することができる。DNAを取得および単離するために使用される技術の説明については、例えば、Sambrook et al.前掲参照。
【0128】
ペプチドをコードする配列も、例えば、既知の配列に基づいて、合成により製造することができる。所望の特定アミノ酸配列に対する適当なコドンをもつ塩基配列を設計することができる。全長配列は、通常、標準的な方法によって調製された重複オリゴヌクレオチドから組み立てて、完全なコード配列にまとめる。例えば、Edge(1981)Nature 292:756;Nambair et al.(1984)Science 223:1299;Jay et al.(1984)J.Biol.Chem.259:6311;Stemmer et al.(1995)Gene 164:49−53参照。
【0129】
組換え技術を容易に利用して、本発明のペプチド試薬において有用なポリペプチドをコードする配列であって、所望のアミノ酸に対するコドンが得られるよう適当な塩基対で置換することによって、さらにインビトロで変異誘発することができる配列をクローニングすることができる。このような変異は、少なくとも一つの塩基対の変化で、1個のアミノ酸に変化をもたらすものを含むが、いくつかの塩基対の変異を包含することもできる。あるいは、ミスマッチ二重鎖の融解温度よりも低い温度で元の塩基配列(通常は、RNA配列に対応するcDNA)にハイブリダイズするミスマッチプライマーを用いて変異をもたらすこともできる。プライマーは、プライマー長と塩基組成を比較的狭い範囲に維持し、変異塩基を中央に位置させることによって、特異的なものにすることができる。例えば、Innis et al,(1990)PCR Applications:Protocols for Functional Genomics;Zoller and Smith,Methods Enzymol.(1983)100:468参照。プライマー伸長を、DNAポリメラーゼを用いて生じさせ、産物をクローニングし、プライマー伸長された鎖を分離することによって得られた変異DNAを含むクローンを選択する。選択は、変異プライマーをハイブリダイゼーション用プローブとして使用して行うことができる。例えば、Dalbie−McFarland et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA(1982)79:6409参照。
【0130】
コード配列が単離および/または合成されたところで、それらを発現させるのに適したベクターまたはレプリコンにクローニングすることができる(実施例も参照)。本明細書の開示内容から明らかなように、欠失または変異を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさまざまな組み合わせで機能できるように結合している発現コンストラクトを作出することによって、ポリペプチドをコードする多様なベクターを作製することができる。
【0131】
多数のクローニングベクターが当業者に知られており、適当なクローニングベクターを選ぶことは選択の問題である。クローニング用の組換えDNAベクター、およびそれらが形質転換できる宿主細胞の例には、バクテリオファージλ(大腸菌(E.coli))、pBR322(大腸菌)、pACYC177(大腸菌)、pKT230(グラム陰性細菌)、pGV1106(グラム陰性細菌)、pLAFRl(グラム陰性細菌)、pME290(大腸菌以外のグラム陰性細菌)、pHV14(大腸菌および枯草菌(Bacillus subtilis))、pBD9(バシラス属)、pIJ61(ストレプトマイセス属)、pUC6(ストレプトマイセス属)、YIp5(サッカロマイセス属)、YCp19(サッカロマイセス属)、およびウシパピローマウイルス(哺乳動物細胞)などがある。一般的には、DNA Cloning:Vols.I & II、前掲;Sambrook et al.,前掲;B.Perbal,前掲など参照。
【0132】
バキュロウイルス系などの昆虫細胞発現系も利用することができ、当業者に知られていて、例えば、Summers and Smith,Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No. 1555(1987)で説明されている。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のための材料および方法はキットという形で、なかんずく、Invitrogen,San Diego CA(「MaxBac」キット)から市販されている。
【0133】
植物発現系を利用して、本明細書記載のペプチド試薬を製造することができる。通常、このような系は、ウイルスベクターを用いて異種遺伝子を植物細胞にトランスフェクトする。このような系の説明については、例えば、Porta et al.,MoI.Biotech.(1996)5:209−221;およびHackland et al.,Arch.Virol.(1994)139:1−22参照。
【0134】
Tomei et al.,J.Virol.(1993)67:4017−4026、およびSelby et al.,J.Gen.Virol.(1993)74: 1103−1113に記載されているようなワクシニアによる感染/トランスフェクション系などのウイルス系も、本発明で利用することができる。この系では、まず、バクテリオファージT7のRNAポリメラーゼをコードするワクシニアウイルス組換え体により、細胞をインビトロでトランスフェクトする。このポリメラーゼは、T7プロモーターをもつ鋳型のみを転写するという優れた特異的を示す。感染後、T7プロモーターによって作動する目的DNAで細胞をトランスフェクトする。細胞質内でワクシニアウイルス組換え体から発現したポリメラーゼは、トランスフェクトされたDNAをRNAに転写し、そのRNAは次いで、宿主の翻訳装置によってタンパク質に翻訳される。本方法は、大量のRNAおよびその翻訳産物を高濃度で一過的に細胞質内で産生させるために提供される。
【0135】
遺伝子は、プロモーター、リボソーム結合部位(細菌での発現)、および随意では、オペレーター(本明細書では、「調節」因子と総称する)の調節下に置き、所望のポリペプチドをコードするDNA配列を、この発現構築物を含むベクターによって形質転換された宿主細胞の中でRNAに転写する。コード配列は、シグナル配列または先導配列を持っていてもいなくてもよい。本発明とともに、天然のシグナルペプチドまたは異種配列を使用することができる。先導配列は、翻訳後処理過程で宿主によって取り除かれる。例えば、米国特許第4,431,739号;第4,425,437号;第4,338,397号など参照。このような配列には、TPAリーダー、およびミツバチメリチンシグナル配列などがある。
【0136】
宿主細胞の成長に合わせてタンパク質配列の発現制御を可能にするその他の制御配列も望ましいかもしれない。そのような制御配列は当業者に知られており、その例には、制御用化合物が存在するなど、化学的または物理的な刺激に応答して遺伝子の発現をオンにしたりオフにしたりする配列が含まれる。別のタイプの制御因子もベクターの中に存在することができ、例えば、エンハンサー配列などがある。
【0137】
調節配列およびその他の制御配列は、ベクターの中に挿入する前にコード配列に連結させることができる。あるいは、コード配列を、すでに調節配列と適当な制限酵素部位を含んでいる発現ベクターの中に直接クローニングすることもできる。
【0138】
コード配列が、適当な方向性をもって調節配列に結合できるよう、すなわち適正な読み枠を維持できるよう、コード配列を改変することが必要な場合もある。タンパク質をコードする配列の一部を欠失させて、配列を挿入して、および/または配列の中にある一つ以上のヌクレオチドを置換することによって、変異体またはアナログを調製することができる。部位特異的変異誘発法など、塩基配列を改変する技術は当業者に周知されている。例えば、Sambrook et al.,前掲;DNA Cloning, Vols.
I and II,前掲;Nucleic Acid Hybridization,前掲参照。
【0139】
次に、発現ベクターを用いて、適当な宿主細胞を形質転換する。多数の哺乳動物細胞株が当技術分野において知られており、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手できる不死化細胞株、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、HeLa細胞、ベイビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、Vero293細胞、およびその他などが含まれる。同様に、大腸菌、枯草菌、およびストレプトコッカス種などの細菌宿主も、本発明の発現コンストラクトとともに利用することができる。本発明で有用な酵母宿主は、中でも、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・マルトーサ(Candida maltosa)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クリベロマイセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・グレリモンディー(Pichia guillerimondii)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、およびヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)などである。バキュロウイルス発現ベクターとともに使用するための昆虫細胞は、なかでも、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、アウトグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)、カイコ(Bombyx mori)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)、およびイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)などである。
【0140】
選択した発現系および宿主に応じて、目的とするタンパク質が発現される条件下で、上記の発現ベクターによって形質転換された宿主細胞を増殖させることによって本発明のタンパク質が産生される。当業者は適宜、適当な増殖条件を選択することができる。
【0141】
一つの実施態様において、形質転換された細胞は、ポリペプチド産物を周囲の培地の中に分泌する。一定の制御配列、例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)の先導配列、インターフェロン(γまたはα)のシグナル配列、または既知の分泌タンパク質に由来するその他のシグナル配列などが、タンパク質産物の分泌を促進するためにベクターの中に含まれることもある。そして、分泌されたポリペプチド産物を、本明細書記載のさまざまな技術によって、例えば、ハイドロキシアパタイト樹脂、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動、HPLC、免疫吸着技術、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈殿など標準的な精製技術を用いて単離することができる。
【0142】
あるいは、組換えポリペプチドを実質的に無傷な状態で維持したまま細胞を溶解する化学的、物理的、または機械的な手段を用いて、形質転換された細胞を破砕する。細胞内タンパク質は、ポリペプチドの漏出が起きるよう、細胞壁または細胞膜から成分を除去することによって、例えば、界面活性剤または有機溶媒を使用することによって得ることができる。このような方法は当業者に知られており、例えば、Protein Purification Applications:A Practical Approach,(E.L.V.Harris and S.Angal,Eds.,1990)に記載されている。
【0143】
例えば、本発明とともに使用するために細胞を破壊する方法は、超音波処理;振とう;液体または固体による押し出し(liquid or solid extrusion);熱処理;凍結融解;分離;瞬間減圧;浸透圧ショック;トリプシン、ノイラミニダーゼ、およびリゾチームなどのプロテアーゼを含む分解酵素による処理;アルカリ処理;胆汁酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、トリトン、NP40、およびCHAPSなどの界面活性剤および溶媒の使用を含むが、これらに限定されない。細胞を破壊するために使用される具体的な技術は、ほとんど選択の問題であり、ポリペプチドが発現される細胞型、培養条件、および使用される事前処理によって決まる。
【0144】
細胞を破壊した後、通常は遠心分離によって細胞残渣を除去し、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動、HPLC、免疫吸着技術、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈殿など標準的な精製技術を用いて、細胞内で産生されたポリペプチドをさらに精製する。
【0145】
例えば、本発明の細胞内ポリペプチドを得る方法は、例えば、抗体(例えば、既に作製してある抗体)を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィー、またはレクチンアフィニティークロマトグラフィーなどによるアフィニティー精製を含む。特に好適なレクチン樹脂は、マンノース成分を認識するもので、例えば、スノードロップ(Galanthus nivalis)アグルチニン(GNA)、レンズマメ(Lens culinaris)アグルチニン(LCAまたはレンチルレクチン)、エンドウ(Pisum sativum)アグルチニン(PSAまたはピーレクチン)、ラッパズイセン(Narcissus pseudonarcissus)アグルチニン(NPA)、アリウム・ウルシヌム(Allium ursinum)アグルチニン(AUA)に由来する樹脂などがあるが、これらに限定されない。適当なアフィニティー樹脂の選択は、当業者が適宜なしうる。アフィニティー精製した後、当技術分野において周知されている常法を用いて、例えば、上記されている技術のいずれかによって、ポリペプチドをさらに精製することができる。
【0146】
ペプチド試薬は、例えば、ペプチド技術分野の当業者に知られているいくつかの技術のいずれかによって化学的に簡便に合成することができる。一般的に、これらの方法は、成長しているペプチド鎖に一つ以上のアミノ酸を連続的に付加する方法を採用している。通常、第一のアミノ酸のアミノ基かカルボキシル基のいずれかを適当な保護基で保護する。次に、保護されたか誘導体化されたアミノ酸は、保護されるのに適した相補(アミノまたはカルボキシル)基を有する、配列中の次のアミノ酸を、アミド結合の形成を可能にする条件下で不活性な固体支持体に結合させるか、または溶液中で使用することができる。そして、新しく付加されたアミノ酸残基から保護基を除去して、次のアミノ酸(適当に保護されている)を付加し、それを繰り返す。所望のアミノ酸が正しくない配列中に結合されたら、残りの保護基(および、固相合成技術を使用した場合には固体支持体)を順番または同時に除去して、最終ポリペプチドを生じさせる。この一般的な手順を簡単に改変することで、一つよりも多くのアミノ酸を、成長している鎖に同時に付加することが可能になり、例えば、保護されたトリペプチドを(キラル中心をラセミ化しない条件下で)適正に保護されたジペプチドとカップリングすることで、脱保護した後、ペンタペプチドを形成させることができる。例えば、固相ペプチド合成技術については、J.M.Stewart and J.D.Young,Solid Phase Peptide Synthesis(Pierce Chemical Co.,Rockford,IL 1984)およびG.Barany and R.B.Merrifield,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology,editors E.Gross and J.Meienhofer,Vol.2,(Academic Press, New York,1980),pp.3−254;および、古典的な溶液合成については、M.Bodansky,Principles of Peptide Synthesis,(Springer− Verlag, Berlin
1984)、およびE.Gross and J.Meienhofer,Eds.,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology,Vol. 1参照。これらの方法は、一般的には、比較的低分子のポリペプチド、すなわち、長さ約50〜100アミノ酸までに使用されるものであるが、より大きなポリペプチドにも適用可能である。
【0147】
典型的な保護基は、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz);p−トルエンスルホニル(Tx);2,4−ジニトロフェニル;ベンジル(Bzl);ビフェニルイソプロピルオキシカルボキシル−カルボニル、t−アミルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、o−ブロモベンジルオキシカルボニル、シクロへキシル、イソプロピル、アセチル、o−ニトロフェニルスルホニルなどである。
【0148】
典型的な固体支持体は、架橋ポリマー支持体である。これらは、ジビニルベンゼン架橋スチレンポリマー、例えば、ジビニルベンゼン−ヒドロキシメチルスチレンコポリマー、ジビニルベンゼン−クロロメチルスチレンコポリマー、およびジビニルベンゼン−ベンズヒドリルアミノポリスチレンコポリマーを含むことができる。
【0149】
ペプトイド含有ポリマーの合成は、例えば、米国特許第5,877,278号;第6,033,631号;Simon et al.(1992)Proc.Natl Acad. Sci USA 89:9367に従って行うことができる。
【0150】
本発明のペプチド試薬は、同時複数ペプチド合成法などの他の方法によって化学的に調製することもできる。例えば、Houghten Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1985)82:5131−5135;米国特許第4,631,211号参照。
【0151】
IV.アッセイ法
本発明者らは、試料中の病原性プリオンを検出するための感度の高いアッセイ法を開発した。このアッセイ法は、プリオンタンパク質の病原型と非病原型を区別するペプチド試薬の力と、改良ELISA技術を組み合わせたものである。ペプチド試薬は、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するため、これらの試薬を用いて、試料中に存在する病原性プリオンを分離し濃縮する。一般的には、非病原型アイソフォームでもN末端の分解をもたらす、病原型および非病原型のアイソフォームを区別するためにプロテイナーゼKによる分解を利用する方法とは異なり、本発明の方法でペプチド試薬を使用すると、完全長の病原性プリオンタンパク質を分離することができる。したがって、プリオンタンパク質のN末端側にあるエピトープを認識する抗プリオン抗体も、また、プリオンタンパク質の別の領域に由来するエピトープを認識する抗プリオン抗体も検出に使用することができる。
【0152】
ペプチド試薬を用いて、非病原型アイソフォーム(ほとんどの試料に存在する)から病原性プリオンタンパク質を分離したら、病原性プリオンタンパク質をペプチド試薬から分離させて、本明細書に記載したいくつかのELISA方式で検出を行うことができる。病原性プリオンは、一般的には、ペプチド試薬から分離する過程で変性される。変性プリオンタンパク質をELISAで使用することは、変性PrPに結合する多くの抗プリオン抗体が知られており、また市販されているため好ましい。病原性プリオンの分離と変性は、高濃度のカオトロピック剤、例えば、3Mから6Mのグアニジウム塩、例えば、グアニジンチオシアン酸またはグアニジン塩酸などを用いて行うことができる。カオトロピック剤は、ELISAで使用される抗プリオン抗体の結合を妨害するため、ELISAを行う前に除去または希釈しておかなければならない。これは、さらなる洗浄工程または試料容量が大量になるという結果をもたらすが、それらはどちらも、迅速なハイスループットアッセイ法にとっては望ましくない。
【0153】
本発明者らは、ペプチド試薬から病原性プリオンタンパク質を分離/変性するためにカオトロピック剤を使用することに代わる好ましい代替法が高pHまたは低pHを利用することであることを発見した。pHを12よりも高くする成分(例えば、NaOH)または2よりも低くする成分(例えば、H3PO4)を加えることで、病原性プリオンタンパク質はペプチド試薬から簡単に分離し、変性する。さらに、このpHは、少量の適当な酸または塩基を加えることで、簡単に中性に再調整することができ、それにより、さらなる洗浄を行うことや、試料容量を顕著に増加させることなく、ELISAに直接使用することが可能になる。
【0154】
このように、本発明は、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、病原性プリオンを含む疑いのある試料を、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するペプチド試薬に、病原性プリオンが存在する場合には、該ペプチド試薬がそれと結合して第一の複合体を形成することができる条件下で接触させる工程;未結合の試料物質を除去する工程、病原性プリオンをペプチド試薬から分離する工程;および分離した病原性プリオンの存在を、プリオン結合試薬を用いて検出する工程を含む方法を提供する。「プリオン結合試薬」は、任意のコンフォメーションのプリオンタンパク質に結合する試薬である。典型的には、プリオン結合試薬は、プリオンタンパク質の変性型に結合する。このような試薬は既に記述されており、例えば、抗プリオン抗体(とりわけ、Peretz
et al.1997 J.MoI.Biol.273:614;Peretz et al.2001 Nature 412:739;Williamson et al.1998 J.Virol.72:9413;米国特許第6,765,088号;米国特許第6,537548号に記載されている)、モチーフ移植(motif−grafted)ハイブリッドポリペプチド(国際公開公報第03/085086号参照)、一定のカチオン性またはアニオン性のポリマー(国際公開公報第03/073106号参照)、「増殖触媒」である一定のペプチド(国際公開公報第02/0974444号参照)、およびプラスミノーゲンなどである。使用されている特定のプリオン結合試薬が、プリオンの変性型に結合する場合、プリオン結合試薬で検出する前に「捕捉された」病原性プリオンを変性しなければならない。好ましくは、プリオン結合試薬は抗プリオン抗体である。
【0155】
一定の実施態様において、抗PrPを用いてプリオンタンパク質を検出する。プリオン、特にPrPCまたは変性PrPに結合する抗体、改変抗体、およびその他の試薬が既に記述されており、それらの一部は市販されている(例えば、Peretz et al.1997 J.MoI.Biol.273:614;Peretz et al.2001 Nature 412:739;Williamson et al.1998 J.Virol.72:9413;米国特許第6,765,088号参照。これらの一部、またはその他は、なかでも、InPro Biotechnology,South San Francisco,CA,Cayman Chemicals,Ann Arbor MI;Prionics AG,Zurichから市販されている。また、改変抗体の説明については国際公開公報第03/085086号も参照)。本方法において使用するのに適した抗体に制限はないが、3F4、D18、D13、6H4、MAB5242、7D9、BDI115、SAF32、SAF53、SAF83、SAF84、19B10、7VC、12F10、PRI3O8、34C9、Fab HuM−P、Fab HuM−Rl、およびFab HuM−R72などである。
【0156】
好ましくは、分離した病原性プリオンタンパク質を変性する。「変性」または「変性された」という用語は、タンパク質の構造に使われるときと同じ従来の意味をもち、タンパク質が、本来の二次構造および三次構造を失っていることを意味する。病原性プリオンタンパク質については、「変性された」病原性プリオンタンパク質は、本来の病原型コンフォメーションを保持しておらず、そのため、このタンパク質はもう「病原型」ではない。変性された病原性プリオンタンパク質は、変性された非病原性プリオンタンパク質と類似しているか、同一のコンフォメーションを有する。しかし、本明細書では明確にするために、「変性型病原性プリオンタンパク質」という用語は、病原型アイソフォームとしてペプチド試薬に捕捉され、その後変性された病原性プリオンタンパク質を意味するものとして使用する。
【0157】
好適な実施態様において、ペプチド試薬は、固体支持体上に提供される。ペプチド試薬は、試料と接触させる前に固体支持体上で提供することができ、または、試料と接触して、そこに含まれている病原性プリオンと結合した後に(例えば、ビオチン化ペプチド試薬、およびアビジンまたはストレプトアビジンを含む固体支持体を用いて)固体支持体に結合するよう、ペプチド試薬を適合させることもできる。
【0158】
したがって、本発明は、さらに、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、以下の工程を含む方法も提供する:
(a)ペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬に結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;および
(e)プリオン結合試薬を用いて、解離した病原性プリオンを検出する工程。
【0159】
ペプチド試薬は、好ましくは、配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有する。
【0160】
ペプチド試薬を含む固体支持体を作製する方法は、当技術分野において通常のものであり、本明細書の別の箇所で説明ており、タンパク質およびペプチドをさまざまな固体表面に結合させる周知の方法を含む。試料中の病原性プリオンタンパク質の結合が、ペプチド試薬と結合して第一の複合体を形成できるような条件下で、試料を、ペプチド試薬を含む固体支持体に接触させる。このような結合条件は、当業者によって簡単に決定され、本明細書でさらに詳しく説明する。一般的には、この方法は、マイクロタイタープレートのウェルの中で、または、小容量のプラスチック製チューブの中で行なわれるが、便利な容器が適していよう。試料は、通常、液体試料または懸濁液であり、ペプチド試薬の前か後に反応用容器に加えることができる。第一の複合体が確認されところで、例えば、遠心分離、沈殿、濾過、磁力などにより固体支持体を反応溶液(未結合の試料物質を含む)から分離することによって、未結合の試料物質(すなわち、未結合の病原性プリオンタンパク質など、ペプチド試薬に結合しなかった試料の成分)を取り除くことができる。第一の複合体をもつ固体支持体に、随意で一回以上の洗浄工程を行って、本方法の次の工程を行う前に、残留している試料物質を取り除くことができる。
【0161】
未結合の試料物質を取り除いて、随意の洗浄を行った後、結合した病原性プリオンタンパク質を第一の複合体から解離させる。この解離は、いくつかの方法で行うことができる。一つの実施態様において、カオトロピック剤、好ましくはグアニジン化合物、例えば、グアニジンチオシアン酸またはグアニジン塩酸を、3Mから6Mの間の濃度で加える。カオトロピック剤を添加すると、病原性プリオンタンパク質がペプチド試薬から分離するようになり、また、病原性プリオンタンパク質が変性される。
【0162】
別の実施態様において、この分離は、pHを12以上に上げる(「高pH」)か、2以下に下げること(「低pH」)によって行われる。第一の複合体を高pHまたは低pHに曝露すると、ペプチド試薬から病原性プリオンタンパク質が解離する結果となり、また、病原性プリオンタンパク質が変性される。この実施態様では、第一の複合体を高pHに曝露することが好適である。12.0から13.0のpHで通常十分であるが、好ましくは、12.5から13.0のpHが用いられ、より好ましくは、12.7から12.9のpH、最も好ましくは、pH12.9が用いられる。あるいは、第一の複合体を低pHに曝露することを、ペプチド試薬から病原性プリオンタンパク質を分離し変性するために利用することができる。この代替態様では、1.0から2.0のpHで十分である。第一の複合体の高pHまたは低pHへの曝露は、短時間、例えば、60分間、好ましくは、15分以下、より好ましくは、10分以下行われる。これより長い曝露は、病原性プリオンタンパク質の構造を顕著に損ない、検出工程で使用される抗プリオン抗体によって認識されるエピトープが破壊されるかもしれない。病原性プリオンタンパク質を解離させるのに十分な時間曝露した後、pHは、酸性試薬(高pH分離条件を用いる場合)または塩基性試薬(低pH分離条件を用いる場合)のいずれかを加えることによって、簡単に中性(すなわち、約7.0から7.5の間)に再調整することができる。当業者は、適当なプロトコールを容易に決定することができ、また、実施例が本明細書で説明されている。
【0163】
通常、高pH分離条件を行うには、NaOHを約0.05Nから0.2Nの濃度にすれば十分である。好ましくは、NaOHを、0.05Nから0.15Nの濃度になるまで加え、より好ましくは、0.1N NaOHが使用される。ペプチド試薬から病原性プリオンを解離させたら、適当な量の酸性溶液、例えば、リン酸、リン酸一ナトリウムなどを加えることによって、pHを中性(すなわち、約7.0から7.5の間)に再調整することができる。
【0164】
通常、低pH分離条件を行うには、H3PO4を約0.2Mから約0.7Mの濃度にすれば十分である。好ましくは、H3PO4を、0.3Mから0.6Mの濃度になるまで加え、より好ましくは、0.5M H3PO4が使用される。ペプチド試薬から病原性プリオンを解離させたら、適当な量の塩基性溶液、例えば、NaOHまたはKOHなどを加えることによって、pHを中性(すなわち、約7.0から7.5の間)に再調整することができる。
【0165】
そして解離させた病原性プリオンタンパク質を、ペプチド試薬を含む固体支持体から分離させる。「分離させた」とは、解離したプリオンと固体支持体(ペプチド試薬を結合させている)が同じ容器に共存していないという意味である。この分離は、上記した未結合試料物質の除去と同様の方法で行うことができる。
【0166】
解離させた病原性プリオンタンパク質は、プリオン結合試薬を用いて検出することができる。そのようなプリオン結合剤がいくつか知られており、本明細書の別の箇所で説明されている。解離させた病原性プリオンタンパク質を検出するのに好適なプリオン結合試薬は抗プリオン抗体である。多数の抗プリオン抗体が記述されており、多くが市販されている。例えば、Fab D18(Peretz et al.(2001)Nature 412:739−743)、3F4(Sigma Chemical St Louis
MOから購入可能;また、米国特許第4,806,627号参照)、SAF−32(Cayman Chemical,Ann Arbor MI)、6H4(Prionic
AG,Switzerland;また、米国特許第6,765,088号参照)などがある。解離させた病原性プリオンタンパク質は、直接的ELISAまたは抗体サンドイッチ式ELISA型アッセイ法であるELISAアッセイ法で検出することができるが、これらは後により詳しく説明する。「ELISA」という用語は、抗プリオン抗体による検出を表現するために使用されるが、抗体が「酵素結合」しているアッセイ法に限定されない。検出用抗体は、本明細書に記載され、免疫アッセイ法の技術分野では周知されている検出用標識のいずれかで標識することができる。
【0167】
本発明の一つの実施態様において、解離させた病原性プリオンタンパク質を、第二の固体支持体の表面に受動的にコートする。このような受動コーティングの方法は周知されており、一般的には、pH8の100mMのNaHCO3中で、約37℃で数時間、または4℃で一晩行われる。別のコーティングバッファーが周知されている(例えば、50mM炭酸、pH9.6、10mMトリス pH8、または10mM PBS pH7.2)。第二の固体支持体は、本明細書記載または当技術分野において周知の固体支持体のいずれかでもよく、好ましくは、第二の固体支持体はマイクロタイタープレート、例えば、96穴ポリスチレン製プレートである。高濃度のカオトロピック剤を用いて解離を行った場合には、第二の固体支持体上にコーティングを行う前に約2倍に希釈して、カオトロピック剤の濃度を下げる。高pHまたは低pHを用いて解離が行われ、その後中和されている場合には、解離された病原性プリオンタンパク質をさらに希釈することなくコーティングに用いることができる。
【0168】
解離させた病原性プリオンタンパク質を第二の固体支持体上にコートしたら、支持体を洗浄して、固体支持体に付着していない成分をすべて除去することができる。第二の固体支持体上にコートされたプリオンタンパク質に抗体を結合させることができる条件下で抗プリオン抗体を加える。解離させた病原性プリオンタンパク質が、第二の固体支持体上にコートされる前に変性されていた場合には、用いられる抗体は、プリオンタンパク質の変性型に結合するものである。このような抗体は、周知の抗体(例えば、上記したもの)、および周知の方法、例えば、rPrP、PrPC、またはその断片を用いて、マウス、ウサギ、ラットなどで免疫反応を誘発するなどによって作製される抗体を含む。(米国特許第4,806,627号;第6,165,784号;第6,528,269号;第6,379,905号;第6,261,790号;第6,765,088号;第5,846,533号;欧州特許第891552B1号および欧州特許第909388B1号参照。)プリオンタンパク質のN末端でエピトープを認識する抗プリオン抗体、例えば、23〜90位の残基の領域内にあるエピトープを認識する抗体が特に好ましい。
【0169】
したがって、本発明は、一つの実施態様において、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)ペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させる工程;
(e)解離させた病原性プリオンタンパク質を第一の固体支持体から分離する工程;
(f)解離させた病原性プリオンタンパク質を、解離したプリオンタンパク質が第二の固体支持体に付着させることができる条件下で、第二の固体支持体に接触させる工程;および
(g)プリオン結合試薬を用いて、第二の固体支持体上に付着した病原性プリオン検出する工程を含む方法を提供する。好適なペプチド試薬は、配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するものである。
【0170】
この実施態様では、第一の固体支持体は、好ましくは磁気ビーズであり、第二の固体支持体は、好ましくはマイクロタイタープレートであり、プリオン結合試薬は、好ましくは抗プリオン抗体、特に3F4、6H4、SAF32である。プリオン結合試薬は、検出できるように標識されている。
【0171】
本方法の別の実施態様において、解離させた病原性プリオンタンパク質を、抗体サンドイッチ式ELISAを用いて検出する。この実施態様において、解離させた病原性プリオンタンパク質は、第一の抗プリオン抗体を含む第二の固体支持体上に「再捕捉」される。再捕捉されたプリオンタンパク質をもつ第二の固体支持体は、随意に洗浄して、未結合の物質を取り除いてから、第二の抗プリオン抗体を再捕捉されたプリオンタンパク質に結合させる条件下で、第二の抗プリオン抗体に接触させる。第一および第二の抗プリオン抗体は、一般的には異なる抗体であり、好ましくは、プリオンタンパク質上の異なったエピトープを認識する。例えば、第一の抗プリオン抗体は、プリオンタンパク質のN末端にあるエピトープを認識し、第二の抗プリオン抗体は、N末端以外にあるエピトープを認識するかその逆である。第一の抗体は、例えば、8回反復領域(23〜90位の残基)内にあるエピトープを認識するSAF32であってもよく、第二の抗体は、109〜112位の残基にあるエピトープを認識する3F4であってもよい。あるいは、第一の抗体が3F4で、第二の抗体がSAF32であってもよい。第一および第二の抗体の他の組み合わせも容易に選択することができる。この実施態様において、第一の抗プリオン抗体ではなく、第二の抗プリオン抗体を検出できるよう標識する。ペプチド試薬からの病原性プリオンタンパク質の解離をカオトロピック剤を用いて行う場合には、検出アッセイ法を行う前に、カオトロピック剤を除去するか、少なくとも15倍に希釈しなければならない。解離が、高pHまたは低pHと中和を用いてもたらされる場合には、さらに希釈することなく解離されたプリオンタンパク質を使用することができる。検出を行う前に解離させた病原性プリオンタンパク質を変性させた場合には、第一および第二の抗体は、どちらも変性したプリオンタンパク質に結合する。したがって、本発明は、試料中における病原性プリオンの存在を検出する方法であって、
(a)ペプチド試薬を含む第一の固体支持体を提供する工程;
(b)病原性プリオンが試料中に存在すれば、それをペプチド試薬と結合させて第一の複合体を形成させる条件下で、第一の固体支持体を試料と接触させる工程;
(c)結合していない試料物質を除去する工程;
(d)第一の複合体から病原性プリオンタンパク質を解離させ、それによって病原性プリオンを変性させる工程;
(e)解離させた変性病原性プリオンタンパク質を第一の固体支持体から分離する工程;
(f)解離させた変性病原性プリオンタンパク質を、解離したプリオンタンパク質を第一の抗プリオン抗体に結合させうる条件下で、第一の抗プリオン抗体を含む第二の固体支持体に接触させる工程;および
(g)第二の抗プリオン抗体を用いて、第二の固体支持体上に結合した病原性プリオン検出する工程を含む方法を提供する。好適なペプチド試薬は、配列番号12〜260からなる群から選択される配列を有するペプチドに由来するものである。
【0172】
本実施態様において、第一の固体支持体は、好ましくは磁気ビーズであり、第二の固体支持体は、好ましくはマイクロタイタープレートまたは磁気ビーズであり、第一および第二の抗プリオン抗体は、好ましくは異なった抗体であり、第一および第二の抗体は、変性したプリオンタンパク質に結合し、好ましくは、第一または第二の抗プリオン抗体の少なくとも一方が、プリオンタンパク質のN末端領域にあるエピトープを認識する。
【0173】
本発明の方法で使用するには、試料は、病原性プリオンタンパク質を含んでいることが分かっているか、その疑いがあるものなら何でもよい。試料は生体試料(すなわち、生きた生物、またはかつて生きていた生物から調製された試料)でも非生体試料でもよい。適当な生体試料は、器官、全血、血液分画、血液成分、血漿、血小板、血清、脳脊髄液(CSF)、脳組織、神経系組織、筋肉組織、骨髄、尿、涙、非神経系組織、器官、および/または生検もしくは剖検などであるが、これらに限定されない。通常、試料は、液体試料または懸濁液である。好適な生体試料は、全血、血液分画、血液成分、血漿、血小板、および血清などである。
【0174】
病原性プリオンタンパク質が存在している場合には、それにペプチド試薬を結合させる条件下で、試料を本発明の一つ以上のペプチド試薬に接触させる。当業者は、本明細書の開示内容に基づいて、適宜、具体的な条件を決定することができる。一般的には、試料とペプチド試薬を、適当なバッファーの中、ほぼ中性pH(例えば、pH7.5のTBSバッファー)で、適当な温度(例えば、約4℃)にて、適当な時間(例えば、約1時間から一晩)、一緒にインキュベートして、結合を生じさせる。
【0175】
上記の捕捉工程と検出工程は溶液内で行うか、固体支持体の中またはその上で行うことができ、あるいは、溶液と固相を組み合わせることもできる。適当な固相アッセイ方式が本明細書に記載されている。一般的に、固相方式では、捕捉試薬(一つ以上の本発明のペプチド試薬であってもよく、あるいは、一つ以上のプリオン結合試薬であってもよい)は、固体支持体に結合しているか、結合しやすくなっている。捕捉試薬は、当技術分野において既知の手段によって、固体支持体に結合しやすくすることができる。例えば、捕捉試薬と固体支持体は、結合対の一方のメンバーを互いに含むことができ、その結果、捕捉試薬が固体支持体に接触すると、捕捉試薬は、結合対のメンバーの結合を介して固体支持体に結合する。例えば、捕捉試薬がビオチンを含むことができ、支持体がアビジンまたはストレプトアビジンを含むことができる。ビオチン−アビジン、およびビオチン−ストレプトアビジン以外の、本実施態様に適した他の結合対は、例えば、抗原−抗体、ハプテン−抗体、ミメトープ(mimetope)−抗体、レセプター−ホルモン、レセプター−リガンド、アゴニスト−アンタゴニスト、レクチン−炭水化物、プロテインA−抗体Fcなどである。このような結合対は周知であり(例えば、米国特許第6,551,843号および第6,586,193号参照)、当業者は、適当な結合対を選択して、それらを本発明で使用するよう適合させることができる。捕捉試薬を、上記したように、支持体に結合するよう適合させる場合、捕捉試薬を支持体に結合させる前か後に、試料を捕捉試薬に接触させることができる。あるいは、当技術分野において周知の共役化学法を用いて、ペプチド試薬および抗プリオン抗体を固体支持体に共有結合させることができる。チオール基を含むペプチド試薬を、当技術分野において知られている標準的な方法を用いて、例えば、磁気ビーズなどの固体支持体に直接結合させる(例えば、Chrisey,L.A.,Lee,G.U.and O’Ferrall,C.E.(1996).Covalent attachment of synthetic DNA to self−assembled monolayer films. Nucleic Acids Research 24(15),3031−3039;Kitagawa, T.,Shimozono, T.,Aikawa, T.,Yoshida,T. and Nishimura,H.(1980).Preparation and characterization of hetero−bifunctional cross−linking reagents for protein modifications. Chem. Pharm. Bull.29(4),1130−1135参照)。カルボジイミド化学法を用いて、カルボキシル化された磁気ビーズを、まず、マレイミド官能基を含むヘテロ二機能性架橋剤(BMPH、Pierce Biotechnology Inc.より)に結合させる。そして、チオール化したペプチドまたはペプトイドを、BMPHコートされたビーズのマレイミド官能基に共有結合させる。
【0176】
本発明の方法で使用されるペプチド試薬は、本明細書、および2004年8月13日付で共同出願された米国特許出願第10/917,646号、2005年2月11日付で共同出願された米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日付で共同出願されたPCT出願第PCT/US/2004/026363号に記載されているとおりである。ペプチド試薬は、プリオンタンパク質のペプチド断片から得ることができる。好ましくは、ペプチド試薬は、配列番号12〜260の配列を有するペプチドから得ることができる。すなわち、ペプチド試薬は、以下の配列番号の配列をもつペプチドに由来する:配列番号
【0177】
【数8】
または260。より好ましくは、本方法で使用されるペプチド試薬は、
【0178】
【数9】
または135のうちの一つの配列をもつペプチドに由来するか、または
【0179】
【数10】
または133をもつペプチドに由来するか、または
【0180】
【数11】
または136に由来し、最も好ましくは、ペプチド試薬は
【0181】
【数12】
または14の配列をもつペプチドに由来する。ペプチド試薬はビオチン化することができる。ペプチド試薬は、固体支持体に結合することができる。いくつかの実施態様において、ペプチド試薬を検出できるように標識することができる。
【0182】
一般的に、本明細書記載のペプチド試薬は、試料中のプリオンタンパク質に(例えば、捕捉試薬として)結合するため、および/またはプリオンタンパク質の存在を(例えば、検出試薬として)検出するために使用される。捕捉試薬と検出試薬は別々の分子であってもよく、また、あるいは、一つの分子が、捕捉機能と検出機能の両方を果たすことも可能である。一定の実施態様において、捕捉試薬および/または検出試薬は、病原性プリオンと選択的に相互作用する(すなわち、病原性プリオン特異的な)本明細書記載のペプチド試薬である。別の実施態様では、捕捉試薬が、病原性プリオンに対して特異的で、検出試薬は病原型にも非病原型にも結合する、例えば、プリオンタンパク質に結合する抗体である。このようなプリオン結合試薬は、本明細書において既に説明されている。あるいは、別の実施態様において、捕捉試薬は病原性プリオンに特異的ではなく、検出試薬が病原性プリオンに特異的である。
【0183】
そして、適当な検出方法を用いて、本明細書記載のペプチド試薬とプリオンタンパク質の結合を同定する。例えば、本明細書に記載したようなアッセイ法は、標識されたペプチド試薬または抗体を使用することを含む。本発明で使用するのに適した検出可能な標識には、検出することができる分子が含まれ、放射性同位元素、蛍光剤、化学発光剤、発光団、蛍光半導体ナノ結晶、酵素、酵素基質、酵素補助因子、酵素阻害剤、発光団、色素、金属イオン、金属ゾル、リガンド(例えば、ビオチンまたはハプテン)などであるが、これらに限定されない。これら以外の標識には、検出可能な範囲で蛍光を発することができる蛍光基質または蛍光部位など、蛍光を使用するものなどがあるが、それらに限定されない。本発明で使用することができる標識の具体例には、アルカリホスファターゼ(AP)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、FITC、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、ジメチルアクリジニウムエステル(DMAE)、テキサスレッド、ルミノール、NADPH、およびβ−ガラクトシダーゼなどがあるが、これらに限定されない。また、検出可能な標識にはオリゴヌクレオチドタグがあるが、このタグは、PCR、TMA、b−DNA、NASBAなど、既知の核酸検出法のいずれかによって検出することができる。
【0184】
本明細書記載のアッセイ法の一つ以上の工程は、溶液中(例えば、液体培地)または固体支持体上で行うことができる。本発明の目的にとって、固体支持体は、不溶性基質であって、目的とする分子(例えば、本発明のペプチド試薬、プリオンタンパク質、抗体など)が連結または結合することができる剛体面または半剛体面をもつことができる任意の物質であればよい。固体支持体の例には、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ラテックス、ポリカーボネート、ナイロン、デキストラン、キチン、砂、シリカ、軽石、アガロース、セルロース、ガラス、金属、ポリアクリルアミド、シリコン、ゴム、ポリサッカライド、ポリビニルフルオリド、ジアゾ化紙;活性化ビーズ、磁気反応性ビーズなどの基質、ならびに固相合成、アフィニティー分離、精製、ハイブリダイゼーション反応、免疫アッセイ法、およびその他の用途で一般的に使用されている材料が含まれるが、これらに限定されない。この支持体は、微粒子でもよく、または、連続した表面の形になっていてもよく、膜、メッシュ、プレート、ペレット、スライド、ディスク、細管、中空糸、針、ピン、チップ、ソリッドファイバー、ゲル(例えば、シリカゲル)、およびビーズ(例えば、多孔質ガラスビーズ、シリカゲル、随意でジビニルベンゼンとクロスリンクしているポリスチレンビーズ、グラフト共重合ビーズ、ポリアクリルアミドビーズ、ラテックスビーズ、随意でN−N‘−ビス−アクリロイルエチレンジアミンとクロスリンクしているジメチルアクリルアミドビーズ、酸化鉄磁気ビーズ、および疎水性ポリマーで被覆されたガラス粒子)などがある。特に好適な固体支持体は、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートおよび/またはポリスチレン製磁気粒子、例えば、Dynabeads M−270(Dynal Biotech)などである。
【0185】
本明細書に記載したようなペプチド試薬は、標準的な技術を用いて容易に固体支持体に結合させることができる。支持体への固定は、まずペプチド試薬をタンパク質に結合させることで増強することができる(例えば、タンパク質がより強い固相結合特性を有する場合)。適当な共役タンパク質は、ウシ血清アルブミン(BSA)などの血清アルブミン、キーホールリムペット・ヘモシアニン、免疫グロブリン分子、チログロブリン、オボアルブミンなどの高分子、およびその他当技術分野において周知のタンパク質などであるが、これらに限定されない。この他の試薬で、分子を支持体に結合させるために使用できるものは、ポリサッカライド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸の重合体、アミノ酸コポリマーなどである。このような分子、およびこれらの分子をタンパク質に結合させる方法は、当業者にとって周知である。例えば、Brinkley, M.A.,(1992)Bioconjugate Chem.,3:2−13; Hashida et al.(1984) J.Appl.Biochem.,6:56−63;およびAnjaneyulu and Staros(1987) International J.of Peptide and Protein Res.30:117−124参照。
【0186】
所望であれば、固体支持体に付加する分子を容易に官能化して、スチレン部分またはアクリル酸部分として、ポリスチレン、ポリアクリル酸、またはその他のポリマー、例えば、ポリイミド、ポリアクリルアミド、ポリエチレン、ポリビニル、ポリジアセチレン、ポリフェニレン−ビニレン、ポリペプチド、ポリサッカライド、ポリスルホン、ポリピロール、ポリイミダゾール、ポリチオフェン、ポリエステル、エポキシ、シリカガラス、シリカゲル、シロキサン、ポリリン酸、ヒドロゲル、アガロース、セルロースなどの中に分子を取り込むことを可能にすることができる。
【0187】
ペプチド試薬は、分子の結合対の相互作用を介して固体支持体に結合させることができる。このような結合対は当技術分野において周知されており、本明細書の他の箇所で例が示されている。結合対の一方を上記の技術によって固体支持体に結合させ、結合対のもう一方は、(合成の前、最中、または後に)ペプチド試薬に結合させる。こうして修飾したペプチド試薬は、試料に接触させることができ、病原性プリオンが存在するならば、病原性プリオンとの相互作用を溶液の中で生じさせ、その後、固体支持体をペプチド試薬(すなわちペプチド−プリオン複合体)に接触させることができる。この実施態様にとって好適な結合対は、ビオチンとアビジン、ならびにビオチンとストレプトアビジンなどである。
【0188】
また、本発明のアッセイ法では、適当な対照を使用することも可能である。例えば、PrPCの陰性対照を本アッセイ法において使用することができる。PrPSc(またはPrPres)の陽性対照も本アッセイ法で使用できるであろう。以下で説明する代理対照も本発明で使用することができる。
【0189】
上記したような検出アッセイ法を行うために、本明細書記載のペプチド試薬を含む上記アッセイ試薬を、適当な使用説明書およびその他必要な試薬とともにキットにして提供することもできる。ペプチド試薬を固体支持体上に結合させる場合、キットは、さらに、または代わりに、一つ以上の固体支持体に結合した該ペプチド試薬を含むことも可能である。このキットは、さらに、一つ以上の抗プリオン抗体を含むことも可能である。このような抗プリオン抗体は、検出できるように標識されていてもよいし、または、固体支持体上で提供されてもよい。このキットは、上記したように、適当な陽性および陰性の対照をさらに含むこともできる。また、このキットは、使用される具体的な検出アッセイ法に応じて、適当な標識およびその他のパッケージされた試薬および材料(すなわち、洗浄バッファー、インキュベーション用バッファーなど)も含むことができる。
【0190】
V.代理対照
本明細書には、プリオン検出アッセイ法において有用な代理対照が記載されている。代理対照を含む組成物、およびこれらの代理物を使用する方法も提供される。免疫アッセイ用の人工的な対照については既述されている(例えば、米国特許第5,846,738号、第5,491,218号、第6,015,662号、第6,281,004号および国際特許公開第号99/33965参照)が、これらの分子はプリオンアッセイ法には適用できないので、対照として役に立たない。
【0191】
一定の態様において、代理対照は、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用するペプチド試薬に結合する。したがって、これらの態様においては、本発明(代理対照およびそれを使用する方法)は、2004年8月13日付で出願された米国特許出願第10/917,646号、2005年2月11日付で出願された米国特許出願第11/056,950号、および2004年8月13日付で出願されたPCT出願第PCT/US/2004/026363号に記載されているように、プリオンタンパク質の比較的小さな断片が、プリオンの病原型と選択的に相互作用できるという発見に部分的に依存している。これらの断片が、病原性プリオンアイソフォームとの選択的な相互作用を示すためには、より大きなタンパク質構造体の一部であることや、他の型の足場分子である必要はない。特定の理論に拘泥するわけではないが、ペプチド断片は、恐らくは、非病原性プリオンアイソフォームに存在するコンフォメーションを模倣することによって、非病原性プリオンアイソフォームではなく病原性プリオンアイソフォームに結合できるコンフォメーションを自発的に採るものと思われる。本明細書ではプリオンについて示されているが、あるコンフォメーション病タンパク質の一定の断片が、そのコンフォメーション病タンパク質の病原型と選択的に相互作用するというこの一般原則を直ちに他のコンフォメーション病タンパク質に適用して、病原型と選択的に相互作用するペプチド試薬を製造することができる。これらの断片は(例えば、サイズまたは配列特性に関して)出発点を提供するが、これらの断片に多くの改変を加えて、より望ましい属性(例えば、より高いアフィニティー、より高い安定性、より高い溶解性、プロテアーゼに対するより低い感受性、より高い特異性、合成するのがより容易であるなど)をもつペプチド試薬を作製できるということは、当業者にとって明白であろう。
【0192】
このように、本明細書記載の代理対照は、2004年8月13日付で出願された国際出願PCT/US/2004/026363に記載されているペプチド試薬、ならびにこれらのペプチド試薬に対する抗体(またはその断片)、および/またはその他のプリオン抗体などのプリオン結合試薬に結合する。したがって、これらの代理対照は、プリオンアッセイを行うための簡単かつ効率的で非感染性の陽性対照および/または精度対照(qualiy control)を提供し、生体脳もしくは死体脳、脊椎、またはその他の神経系組織および血液など、生体、非生体を問わず、実質的にいかなる試料においてもプリオン関連疾患の診断を確認するために使用することができる。
【0193】
さらに、シグナルを増幅するために複数の認識部位、分岐DNAなどを使用すること(例えば、米国特許第5,681,697号、第5,424,413号、第5,451,503号、第5、4547,025号、および第6,235,483号参照);PCR、ローリングサークル増幅法、サードウエーブインベーダー(Arruda et al.2002.Expert.Rev.Mol.Diagn.2:487、米国特許第6090606号、第5843669号、第5985557号、第6090543号、第5846717号)、NASBA、TMAなどの標的増幅技術を応用すること(米国特許第6,511,809号、欧州特許第0544212A1号);および/または免疫PCR技術(例えば、米国特許第5,665,539号、国際特許公開第98/23962号、第00
/75663号、および第01/31056号参照)などがあるが、これらに限定されない適当なシグナル増幅系を用いて、アッセイにおける代理対照の検出をさらに容易にすることができる。
【0194】
本明細書には、プリオン検出アッセイ法、特に、試料中の病原性プリオンを検出するアッセイ法のために代理対照として働く非感染性分子が記載されている。本明細書記載の代理対照は、プリオン検出/単離法の正確さを確認するための陽性対照として、および/またはアッセイ試薬および方法が、そのアッセイ法を適正なものとする基準に合致していることを保証するための精度対照として有用である。
【0195】
通常、記載された代理対照が最も有用であるアッセイ法は、病原性プリオンタンパク質と選択的に相互作用して、検出すべきプリオンを「捕捉」するペプチド試薬でありうるプリオン結合試薬を利用する。「捕捉」とは、ペプチド試薬によってプリオンを固定または局在化することを意味するものである。プリオン結合試薬および「捕捉」されたプリオンタンパク質は、典型的には、本明細書の中でさらに説明されている方法によって検出可能な複合体を形成する。しばしば、この複合体の検出は検出試薬を用いて行う。この検出試薬は、典型的にはプリオン結合試薬であって、通常は、検出できるよう標識されている(または、例えば、検出用一次抗体および標識二次抗体の場合などには、標識可能である)。
【0196】
本発明の代理対照は、プリオンアッセイ法のプリオン結合試薬に結合する第一のドメインを含む。例えば、一つの態様において、第一のドメインは、PrPScと選択的に相互作用するペプチド試薬に結合する。また、この代理対照は、代理対照のプリオン結合試薬(例えば、ペプチド試薬)への結合を簡単に検出できるようにする一つ以上の検出可能な標識も含むことができる。
【0197】
一つの態様において、代理対照は、第一のプリオン結合試薬ドメインおよび第二のドメインを含み、第二のドメインがプリオンアッセイ法の検出試薬に結合する分子を含むという点で二機能性(または、場合によっては三機能性)である。例えば、検出試薬が抗体を含む場合、第二のドメインは、この抗体によって認識されるエピトープ(またはミモトープ)を含むことができる。あるいは、第二のドメインおよび検出試薬はそれぞれ、分子の結合対(例えば、ビオチンおよびストレプトアビジンなど)の一方を含むことができる。このように、第一および第二のドメインは、一般的には互いに異なる分子であるが、場合によっては同一の分子であってよい。
【0198】
二機能性代理物の第二のドメインは、検出できるよう標識された検出試薬に直接結合することができる。あるいは、第二のドメインは、検出システムの成分を認識することができる。例えば、一定の免疫アッセイ法(ELISAなど)において、検体(例えば、プリオンまたは代理対照)は、一次抗体に結合し、次に、この一次抗体が検出できるよう標識された二次抗体に結合することによって検出される。このように、一定の実施態様において、第二のドメインは、二抗体検出試薬システムの一次抗体を認識する。
【0199】
本発明の二機能性(もしくは三機能性)代理対照は、単一分子(例えば、2つのドメインを含む融合タンパク質またはキメラタンパク質)、または、別々に合成された2つ(以上)の分子であって、その後互いに共有的または非共有的に連結する分子であろう。これらの分子は、ドメインの結合機能が保存される限り、当技術分野において既知のいかなる方法で結合されてもよい。また、2つのドメインを含む二機能性代理対照は、これら2つのドメインの間に一つ以上のリンカーを含むことができる。
【0200】
本明細書記載の二機能性代理対照は、PrPScと選択的に相互作用する一つ以上のペプチド試薬をプリオン結合試薬として用いるプリオン測定アッセイ法において都合よく使用される。例えば、表Aに示されているように、多くの抗PrP抗体、およびそれらが認識するPrPエピトープが知られている。
【0201】
【表4−1】
【0202】
【表4−2】
上記に一覧した抗体およびエピトープ以外にも、本明細書記載のペプチド試薬に対して作製された抗体、そのような抗体の断片、またはそのような抗体のエピトープもしくはミモトープ(mimotope)も、本発明の代理対照に使用することができる。
【0203】
上記したように、代理対照の第一および第二のドメインは、アッセイで使用されるプリオン結合試薬および検出試薬に応じて選択される。表B、CおよびDは、典型的な代理対照の非限定的な例を示す。特に、表Bは、アッセイ法のプリオン結合試薬が本明細書記載のペプチド試薬であって、第一のドメインがこのペプチド試薬を認識する場合の代理対照の例を示す。
【0204】
【表5】
表Cは、アッセイ法のプリオン結合試薬が本明細書記載のペプチド試薬を含み、第一のドメインがこのペプチド上にある補助的なモチーフを認識する場合の代理対照の例を示す。補助的なモチーフは、例えば、検出可能な標識、結合対の一方(例えば、ビオチン、His−6)など、PrPプルダウンペプチド配列と無関係に認識されうるペプチドであろう。代理物の第一のドメインは、ペプチド試薬、例えば、抗体(またはその断片)、アプトマー、タンパク質などの補助的なモチーフを認識する分子を含む。
【0205】
【表6】
表Dは、第一のドメインがこのアッセイ法においてプリオン結合試薬として用いられる抗体によって認識されるエピトープを含む代理対照の例を示す。第二の代理ドメインも同様に、検出試薬(PrPを認識した抗体)によって認識されるエピトープを含む。
【0206】
【表7−1】
【0207】
【表7−2】
本明細書記載の代理対照のいずれにおいても、一つ以上のドメインが複数の認識部位を含むことができる。検出法が二抗体サンドイッチ式ELISAを利用する場合、代理対照は、「再捕捉」抗体に結合する第三のドメインを含む。例えば、SAF32抗体が、解離した病原性プリオンタンパク質を再捕捉するために用いられ、3F4抗体が検出抗体として用いられる場合には、代理対照は、「プルダウン」工程で用いられるペプチド試薬に結合するドメインに加えて、SAF32抗体および3F4抗体に対する認識エピトープを含む。
VI.更なる応用法
A.検出
上記したように、本明細書に記載した病原性プリオンタンパク質検出方法を用いて、対象者のプリオン病を診断することができる。さらに、上記方法を用いて、輸血用血液および/または食糧供給品における病原性プリオンによる汚染を検出することができる。したがって、本明細書記載の検出法のいずれかを用いて、採集試料またはプールした試料の各々の等量液をスクリーニングすることによって、実質的に病原性プリオンを含まない輸血用血液を調製することができる。病原性プリオンに汚染されたプール試料を、他の試料と混合する前に除去することができる。このようにして、実質的に病原性プリオン汚染のない輸血用血液を提供することができる。「実質的に」とは、本明細書記載のアッセイ法のいずれを用いても病原性プリオンの存在が検出されないことを意味する。重要なのは、本明細書記載のペプチド試薬が、正常組織で106倍に希釈した脳組織の中でタンパク質の病原型を検出することが示されていて、血液中の病原性プリオンを検出することができる可能性があることが示された唯一の試薬であるということである。
【0208】
したがって、本発明は、実質的に病原性プリオンを含まない輸血用血液を調製する方法であって、該輸血用血液が、全血、赤血球、血漿、血小板、または血清を含み、該方法が、(a)採集した血液試料の全血、赤血球、血漿、血小板、または血清の等量液を、検出のために本明細書で提供した検出法のいずれかによってスクリーニングする工程;および(b)病原性プリオンが検出されなかった試料のみを混合して、実質的に病原性プリオンを含まない輸血用血液を提供する工程を含む方法を提供する。
【0209】
同様に、食糧供給品も、実質的に病原性プリオンを含まない食糧を提供するために、病原性プリオンの存在をスクリーニングすることができる。すなわち、本明細書記載の方法のいずれかを用いて、ヒトまたは動物が消費するための食料にするつもりの生物の試料を、病原性プリオンの存在についてスクリーニングすることができる。食糧供給を始めようとする食料品から採取した試料もスクリーニングすることができる。病原性プリオンが検出された試料を同定して、病原性プリオンが検出された試料が採取された、食糧供給しようとしていた生物または食料品を、食糧供給から排除する。このようにして、実質的に病原性プリオンを含まない食糧供給が提供される。
【0210】
このように、本発明は、実質的に病原性プリオンを含まない食糧供給を準備する方法であって、(a)食糧供給されようとする生物から採集した試料、または食糧供給しようとする食料から採集した試料を、本明細書に記載された病原性プリオンを検出するための検出法のいずれかによってスクリーニングする工程;および(b)病原性プリオンが検出されない試料のみを混合して、実質的に病原性プリオンを含まない食糧供給を提供する工程を含む方法が提供される。
【実施例】
【0211】
以下は、本発明を実施するための具体的な実施態様の例である。実施例は、具体例を説明するだけの目的で提示されており、いかなる意味でも本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【0212】
使用する数字(例えば、量や温度など)についてはできるだけ正確を期して努力したが、いくらかの実験的な誤差および偏差は、当然のことながら考慮に入れられるべきである。
【0213】
(実施例1:ペプチド試薬の製造)
標準的なペプチド合成技術を用い、本質的には、Merrifield(1969)Advan.Enzymol.32:221およびHolm and Medal(1989)Multiple column peptide synthesis,p.208E,Bayer and G.Jung(ed.),Peptides 1988,Walter de Gruyter & Co Berlin−N.Y.Peptidesに記載されているとおりに、プリオンタンパク質のペプチド断片を化学的に合成した。ペプチドをHPLCによって精製し、配列を質量分析法によって確認した。
【0214】
場合によっては、合成されたペプチドは、N末端またはC末端に付加的な残基、例えば、GGG残基を含んでいるか、および/または、野生型配列と比較すると1個以上のアミノ酸置換を含んでいた。
【0215】
A.ペプトイド置換
配列番号14(QWNKPSKPKTN、配列番号2の97〜107位の残基に対応する)、配列番号67(KKRPKPGGWNTGG、配列番号2の23〜36位の残基に対応する)、および配列番号68(KKRPKPGG、配列番号2の23〜30位の残基に対応する)に示されたペプチドにペプトイド置換も行った。具体的には、これらのペプチドの一つ以上のプロリン残基を、さまざまなN置換型ペプトイドで置換した。任意のプロリンに置換することができるペプトイドについては図3参照。米国特許第5,877,278号および第6,033,631号に記載されているとおりにペプトイドを調製および合成した。これらの文献は、ともにその全体が参照されて本明細書に組み込まれる。Simon et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:9367.
B.多量体化
また、一定のペプチド試薬は、例えば、タンデム反復(GGGなどのリンカーを介してペプチドの多数のコピーを結合する)、多重抗原ペプチド(MAPS)、および/または直鎖状結合ペプチド(linearly−linked peptides)を調製することにより、多量体としても調製した。
【0216】
特に、標準的な技術を用い、本質的にはWu et al.(2001)J Am Chem Soc.2001 123(28):6778−84;Spetzler et
al.(1995)Int J Pept Protein Res.45(l):78−85に記載されているとおりにMAPSを調製した。
【0217】
また、直鎖状および分枝状のペプチド(例えば、PEGリンカー多量体化)は、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを用い、標準的な技術を用いて作成した。具体的には、分枝状多重ペプチドPEGの足場(branched multipeptide PEG scaffolds)は、以下の構造を持つものを作出した:ビオチン−PEG−Lys−PEG−Lys−PEG−Lys−PEG−Lys−PEG−Lys(ペプチド対照なし)およびビオチン−PEG−Lys(ペプチド)−PEG−Lys(ペプチド)−PEG−Lys(ペプチド)−PEG−Lys(ペプチド)−PEG−Lys(ペプチド)。さらに、ペプチドとLysの結合部を作成した:Lys−イプシロン−NH−CO−(CH2)3−Mal−S−Cys−ペプチド。図5参照。
【0218】
C.ビオチン化
合成および精製した後、標準的な技術を用いてペプチドをビオチン化した。ペプチドのN末端もしくはC末端にビオチンを加えた。
【0219】
(実施例2:結合アッセイ法)
A.プルダウン法
磁気ビーズプルダウンアッセイ法を用いて、本明細書記載のペプチド試薬がプリオンタンパク質に特異的に結合できるかをテストした。このアッセイのために、ペプチド試薬をビオチンで標識して、ストレプトアビジンでコートされた磁気ビーズへの結合を可能にするか、あるいは、磁気ビーズに共有結合させた。
【0220】
脳のホモジネートを、RML PrPSc+およびPrPC+のBalb−cマウスから調製した。要するに、1% TW20および1%トリトン100を含む5mLのTBSバッファー(50mM Tris−HCl pH7.5および37.5mM NaCl)を重量約0.5gの脳に加えて10%ホモジネートにした。脳のスラリーを加圧型細胞破砕装置で大きな粒子が見えなくなるまで破砕した。200μlの等量液をバッファーで1:1に希釈し、予め冷やしておいたエッペンドルフチューブに入れて、試料を、各回数秒ずつ数回繰り返して超音波で破砕した。試料を500xで10〜15分間遠心分離して、上清を取り除いた。
【0221】
プロテイナーゼK分解の効果を調べるために、一定の上清を2つの試料に分けて、一方の試料に4μlのプロテイナーゼKを加え、37℃で1時間回転させた。8μlのPMSFをプロテイナーゼKのチューブに加えて分解を停止させ、このチューブを最低でも1時間4℃に置いた。
【0222】
さらに、ビオチン化ペプチドとストレプトアビジン磁気ビーズによる異なった方式のプルダウン法もテストした。第一の一連の実験では、感染性のある脳ホモジネートをビオチン化ペプチドと混合した後、ストレプトアビジンビーズを加えた。第二の一連の実験では、磁性ストレプトアビジンビーズをビオチン化ペプチドでコートした後、感染性脳ホモジネートと混合した。どちらの実験セットにおいても、これら3つの成分(ビーズ、ペプチド、および脳ホモジネート)を一緒にインキュベートした後、混合物を洗浄し、室温で15分間3MGdnSCNによる処理を行い、下記のとおりにELISA測定を行った。
【0223】
図14に示すように、PrPScの単離(プルダウン)については、第二の方式(脳ホモジネートと混合する前にビーズをビオチン化ペプチドでコートする)の方が、第一の方式(ビオチン化ペプチドを脳ホモジネートと混合した後にビーズを加える)よりも約100倍効率が良かった。これらの結果に基づいて、第二の方式に従って、さらなる検出実験を行った。
【0224】
ホモジネートは、次回使用されるまで4℃で保存し、必要があれば、上記したとおりに、再び超音波破砕処理した。10% w/vのPrPC+またはPrPSc+の脳ホモジネート調製物を、ビオチン標識されたペプチド試薬と4℃で一晩、以下のようにしてインキュベートした。400μlのバッファー、50μlの抽出物、および5μlのビオチン標識ペプチド試薬(10mM保存液)を含むチューブを用意した。このチューブを振とう台上で、室温にて最低2時間インキュベートするか、4℃で一晩インキュベートした。
【0225】
インキュベートした後、50μlのSA−ビーズ(Dynal M280ストレプトアビジン112.06)を加え、チューブをボルテックスで撹拌した。このチューブを振とうさせながら(VWR、振とう台、モデル100)、室温で1時間、または4℃で一晩インキュベートした。
【0226】
試料を振とう器から取り出し、磁場に置いて、ペプチド試薬とプリオンを付着させた磁気ビーズを回収し、1mlのアッセイ用バッファーを用いて5〜6回洗浄した。試料は、直ちに使用するか、以下に説明するウエスタンブロッティングまたはELISAを行うまで−20℃で保存した。
【0227】
B.ウエスタンブロッティング
ウエスタンブロッティング解析は以下のようにして行った。ビーズ−ペプチド−プリオン複合体を上記したように沈殿させ、最後の洗浄後、25μl〜30μlSDSバッファー(Novexトリス−グリシンSDSサンプルバッファー2×)を各チューブに加えて変性させた。このチューブを、すべてのビーズが懸濁されるまで撹拌混合した。そして、蓋が開き始めるまでチューブを沸騰させ、標準的なSDS−PAGEゲル泳動を行い、WB解析を行うために固体膜に転写した。
【0228】
この膜を、5%ミルク/TBS−T[50mlの1Mトリス pH7.5;37.5mlの4M NaCl、1〜10mLのTween、ミルクで1Lの容量にする]の中に室温にて30分間ブロックした。2003年9月30日出願に係る国際出願番号PCT/US03/31057(発明の名称「プリオンキメラ、およびその用途」)に記載されているように、10〜15mlの抗プリオンポリクローナル抗体を、1:50の希釈倍率で上記膜に加え、室温にて1時間インキュベートした。この膜をTBS−Tで何度も洗浄した。洗浄後、アルカリホスファターゼ(AP)に結合させた二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG(H+L)抗体(Pierce)を、1:1000の希釈倍率(TBS−T中)で加え、室温にて20分間インキュベートした。この膜をTBS−Tで何度も洗浄した。アルカリホスファターゼ沈殿試薬(1段階NBT/BCIP(Pierce))を加えて、バックグランドがはっきりして来るか、シグナルが明らかになるまで発色させた。
【0229】
C.ELISA
以下のとおりに間接ELISAを行った(図7)。(間接ELISA法は、抗原被覆プレートを使用するが、今回は、プルダウン工程で得られたPrPで、抗原特異的な非標識一次抗体で、および一次抗体に結合する標識二次抗体でコートしたプレートを用いた)。さまざまな試料におけるPrPScのプルダウンを上記したように行った。要するに、磁気ビーズを一種類以上のペプチド試薬で本明細書に記載したようにコートして、96穴プレートに等量液を分注した。マウス脳ホモジネート、PrPScを加えたヒト血漿、正常脳およびスクレイピー脳に由来するゴールデンハムスター(SHa)脳ホモジネート、ヒトvCJD脳、およびシカPrP遺伝子で遺伝子組換えされた正常または病気(CWDPrPSc)のマウスの脳ホモジネートの試料を、ペプチド試薬でコートされたビーズと室温にて4時間インキュベートして、試料中にあるPrPScを、ペプチド試薬でコートされたビーズに結合させた。
【0230】
ペプチド試薬ビーズによってPrPScを捕捉した後、ウェルを洗浄して未結合のタンパク質を除去し、プレートを磁場に曝露して上清を除去した。そして、ペプチドに結合したPrPScをペプチドビーズから分離させた。天然型(未変性)のPrPScを認識する抗体を未だ使用することができないため、変性条件下、すなわち、3Mまたは6Mのグアニジンチオシアネート(GdnSCN)とインキュベートしてPrPScを分離した。例えば、Peretz et al.(1997)J.MoI.Biol.273(3):614−622;Ryou et al.(2003)Lab Invest.83(6):837−43参照。分離したPrPScを0.1M NaHCO3、pH8.9(110μl/ウェル)とインキュベートしてプレート上にコートし、吸引と洗浄(0.05% TW20を含む200μlのTBSで3回)によって、ビーズをウェルから除去した。
【0231】
洗浄後、ウェル(試料のいずれかのPrPScでコートされている)を、TBS中3%BSA、200μlで37℃にて1時間ブロックした。そして、ブロッキング溶液を吸引によりプレートから除去して、1%BSAを含むTBS中0.5μg/mlの一次Fab
D18溶液(Peretz et al.(2001)Nature 412(6848):739−743)100μlを各ウェルに加えて、37℃にて2時間インキュベートした。そして、0.05%TW2を含むTBC、300μlでウェルを9回洗浄した。アルカリホスファターゼ(AP)を結合したヤギ抗ヒト抗体を各ウェルに加え(100μlの1:5000希釈液)、プレートを37℃にて1時間インキュベートした。洗浄(0.05%TW2を含むTBC、300μlで9回)した後、100μlのAP基質を各ウェルに加え、37℃にて0.5時間インキュベートし、プレートの吸光度(OD)を読み取った。
【0232】
間接ELISAの結果を表2および図7〜12に示す。表2は、さまざまなペプチド試薬に関するO.D.値を示す。ブランク対照を上回るO.D.値(0.172〜0.259)を陽性と見なした。
【0233】
図8は、さまざまな希釈率で感染性プリオン粒子を添加したマウス脳ホモジネートからPrPScをELISAで検出したことを示す。ELISAアッセイは上記したとおりに行った。LD50は、動物の50%を死に至らせるPrPScの致死量であると定義されており、マウスを含む多くの齧歯類モデルで決定されている。例えば、Klohn et al.(2003)Proc Natl Acad Sci USA 100(20):11666−11671参照。このELISAアッセイでは、血液試料でプリオンを検出するために必要とされる感度である100LD50単位よりも低いプリオン感染性が血漿および軟膜で検出された。
【0234】
図9は、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)(図9A)およびビオチン−GGGKKRPKPGG(配列番号68)(図9B)を捕捉(プルダウン)試薬として用いた、ヒト血漿試料に添加されたマウスPrPScのELISAの結果を示す。
【0235】
図10Aは、プロテイナーゼKによる分解をせずに、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)およびビオチン−GGGKKRPKPGG(配列番号68)を用いてプルダウンした、正常なゴールデンハムスター(SHa)およびスクレイピーに感染したゴールデンハムスター(VA Medical Center, Baltimore,Marylandより購入)の1μlの10%脳ホモジネートのELISA検出を示す。図10Bは、PK分解した試料のウエスタンブロット解析を示す。図11は、シカPrP遺伝子もつトランスジェニックマウス(Glenn Telling,University of Kentuckyから入手。Browning et al.(2004)J.Virol.78(23):13345−13350参照)においてPrPScを検出したELISAを示す。PrPScは、QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14)、ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGLGG−CONH2(配列番号136)、およびGGGKRPKPGG(配列番号68)を用いてPrPScをプルダウンし、上記したようにしてELISAにより検出した。
【0236】
図12は、ウエスタンブロット(図12A)およびELISA(図12B)による、さまざまなCJD試料におけるPrPScの検出結果を示す。
【0237】
図13は、本明細書に記載された以下の多様なペプチドを用いて、vCJD脳ホモジネートにおいてPrPScを検出したことを示す:QWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号14);QWNKPSKPTKTNGGGQWNKPSKPKTN−ビオチン(配列番号51);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(3,5−ジメトキシベンジル)グリシンで置換されている(配列番号117);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−ブチルグリシンで置換されている(配列番号118);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P8がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号111);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P8がN−ブチルグリシンで置換されている(配列番号114);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されおり、P8がN−ブチルグリシンで置換されているもの(配列番号131);ビオチン−QWNKPSKPKTN、ただし、P5がN−(イソプロピル)グリシンで置換されおり、P8がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号132);QWNKPSKPKTN2K−ビオチン(配列番号133;図6);ビオチン−GGGKKRPKPGG(配列番号68);ビオチン−KKRPKPGG、ただし、P6がN−(シクロプロピルメチル)グリシンで置換されている(配列番号122);ビオチン−GGGKKRPKPGGGQWNKPSKPKTN(配列番号81);4−分枝MAPS−GGGKKRPKPGGWNTGGG−ビオチン(配列番号134);8−分枝MAPS−GGGKKRPKPGGWNTGGG−ビオチン(配列番号135);ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGGLGGYMLGSAM(配列番号57);ビオチン−KKKAGAAAAGAVVGGLGG−CONH2(配列番号136);およびビオチン−GGGKKKKKKKK(配列番号85)。
【0238】
D.結果
ウエスタンブロティングおよび間接ELISA結合アッセイ法の結果が表2および図8〜14に要約されている。要するに、PrPScに結合する本明細書記載のペプチド試薬の特異的結合を検出するためには、脳ホモジネートのプロテイナーゼK分解は必要ではなかった。図4に示されているように、野生型の脳ホモジネートに対しては結合が全く見られず、ペプチド試薬がPrPScに特異的に結合していたことを示している。図8〜14は、さまざまな種を横断して感度と特異性を実証している。さらに、上記のウエスタンブロッティング解析では、4種類の対数希釈(logs dilution)にわたってPrPScが検出されたが、ELISAは、ウエスタンブロッティングよりも10倍以上感度が高かった。
【0239】
このように、本明細書記載のペプチド試薬は、さまざまな種に由来するPrPScが生体試料中に存在することを、100LD50よりも低い感度で、プロテイナーゼKによる分解を必要とせずに効率的に検出する、簡易な1ウェルでできるハイスループットアッセイ法を可能にする。
【0240】
【表8−1】
【0241】
【表8−2】
【0242】
【表8−3】
1 1:目視によって評価した相対的シグナル強度
2:環状化されている
3:示された位置にGGGG残基が付加/挿入されている
4:示された位置にGGG残基が付加/挿入されている
5:示された位置にGG残基が付加/挿入されている
6:示された位置にKKK残基が付加/挿入されている
ND=未決定
結合に関与する残基を同定するためにアラニンスキャニングも行った。結果を表3に示す。
【0243】
【表9−1】
【0244】
【表9−2】
さらに、表4に示すように、配列番号14、配列番号67および配列番号68を有するペプチド試薬によるPrPScへの結合は、いくつかのN−置換グリシン(ペプトイド)によるプロリン残基の置換によってさらに促進された。図13も参照。
【0245】
【表10−1】
【0246】
【表10−2】
【0247】
【表10−3】
1本表に示した実験では、ペプチド試薬中に任意のGGGリンカーは存在しなかった。
【0248】
さらに、PrPSc結合ペプチド試薬の多量体化も、PrPScへの親和性を向上させた。特に、タンデム反復は、単一コピーよりも強いシグナルをもたらした(ウエスタンブロッティングで測定したとき)。ビーズ上で予め誘導体化したMAP型は、一定の場合に結合を2倍まで増加させた。しかし、MAP型は、ペプチドが溶液中で沈殿する原因となった。直鎖状に結合したペプチドも、沈殿をもたらすことなしに結合を強化できるかをテストした。
【0249】
(実施例3:サンドイッチ式ELISAおよびpH分離)
グアニジウム塩などのカオトロピック剤が、実施例2に示したようなプルダウン工程で捕捉されたPrPSCを分離および変性するのに有効である。しかし、変性したプリオンタンパク質を抗プリオン抗体(例えば、PrPを検出するために使用されるもの)に曝露するためには、グアニジウムは除去するか、顕著に希釈する必要がある。これは、直接的または間接的なELISA(かなりの量のPrPをマイクロタイタープレートに直接コートする)にとっては問題ではないが、サンドイッチ式ELISAにとっては問題となりうる。本発明者らは、Gdnを使用せず、さらなる洗浄も、希釈のために大容量を導入することも必要としない、ペプチド試薬から捕捉したPrPを変性するための別のプロトコールを開発した。この方法は、PrPSCを変性するために高pHまたは低pHでのpH処理を利用する。変性したPrPは、ペプチド試薬から離れて行く。変性状態は、溶液を中和することで簡単に解消することができる。
【0250】
ペプチド試薬から分離した後に、PrPSCを検出するために2種類の抗プリオン抗体(一つは「再捕捉」のため、もう一つは検出のため)を用いてサンドイッチ式ELISAを行った。これらのアッセイ法は、プリオンタンパク質を分離および変性するために、3MのGdnSCNか、高pHまたは低pHでのpH処理を用いて行った。これらの実験のためのプロトコールを以下に概要する。
【0251】
ストレプトアビジン磁気ビーズ(M−280 Dynabeads)を、配列番号68を有するビオチン化ペプチド試薬と混合し、未結合のペプチド試薬を除去するために洗浄した。ペプチドでコートされたビーズを用いて、70%ヒト血漿を含む100μl溶液の中に添加したヒトvCJDの10%脳ホモジネート、0.025μlをプルダウンした。37℃で1時間混合した後、ビーズを洗浄し、さまざまなpHの溶液で処理した。室温で10分間インキュベートした後、溶液を約7という中性pHにした。上清は、分離され変性されたプリオンタンパク質を含んでいたが、これを、予め抗プリオン抗体SAF32でコートされたマイクロタイタープレートに加え、その後、このプレートを37℃で2時間インキュベートした。プレートを洗浄し、AP標識された3F4を検出用抗体として加えた。プレートを37℃で約2時間インキュベートし、再び洗浄し、化学発光AP基質(LumiphosPlus)を加えて、37℃で30分間インキュベートしてから、ルミノスキャンアセント(Luminoskan Ascent (Thermo Labsytems))でA405を読み取った。結果を表5に示す。この実験でpH分離と変性にとって最適な条件は、0.1N NaOH(約pH13)またはリン酸0.5M(約pH1)で10分間というものであった。
【0252】
本発明者らは、Gdnのときと比べて、ヒト血漿に添加されたBH(すなわち、100nlのvCJD BHまたは正常BH)を4倍量有する試料で、pH13またはpH1の処理を用いて、上記サンドイッチ式ELISAを繰り返した。これらの結果を表6に示すが、以前の結果と同様であった。
【0253】
【表11】
【0254】
【表12】
上記したところと同様であるが、異なった抗プリオン抗体を捕捉抗体として使用して、サンドイッチ式ELISAを行った。AP−3F4を、上記したように検出用に使用した。6H4(Prionics AGから市販されている)を捕捉用に使用した。別に2つの抗プリオン抗体、C2およびC17も捕捉用抗体として使用した。C2は、プリオンタンパク質のN末端にある8回反復配列中のエピトープを認識する。C17は、C末端側の121〜123位の残基の間にある領域にあるエピトープを認識する。この実験では、高pH処理のみを用い、60分間実施した後、上記したようにpH7に中和した。3MのGdnSCNによる10分間の処理を比較のために利用した。結果を表7に示す。
【0255】
【表13】
(実施例4:代理対照の製造)
A.代理物はペプチド試薬を認識する
ペプチド試薬QWNKPSKPKTNMKHMGGG(配列番号198、C末端にGGGリンカーを有する)を認識する代理対照を以下のようにして調製する。6H4のエピトープのペプチド配列(DWEDRYYRE、配列番号264)を、標準的な技術を用いて、末端にシステインをもつように調製し(DWEDRYYREC、配列番号265、またはCDWEDRYYRE、配列番号266)、Sulfo−SMCC(スルホサクシンイミダル(Sulfosuccinimidal)4−[N−マレイミドメチル]−シクロヘキサン−1−カルボキシレート)などの架橋試薬を用いて、3F4抗体に結合させる。徹底的な透析を行って、未反応の架橋剤と遊離ペプチドとを除去する。このようにして調製した代理対照は、配列「MKHM」(配列番号261)を含むペプチド試薬、例えば、配列番号183、188、193,198、206、211、216、224、229、234、243または244のいずれかに示されているもの、またはそれに由来するものなどを利用するプリオン検出アッセイ法に付随して使用することができる。
【0256】
B.ペプチド試薬上の代理認識補助的モチーフ
ペプチド試薬GGGKKRPKPGG(N末端にGGGリンカーを有する配列番号14)(さらにビオチンを含んでいる)に結合する代理対照を以下のように調製する。6H4のエピトープのペプチド配列(DWEDRYYRE、配列番号264)を、標準的な技術を用いて、末端にシステインをもつように調製し(DWEDRYYREC、配列番号265、またはCDWEDRYYRE、配列番号266)、Sulfo−SMCC(スルホサクシンイミダル(Sulfosuccinimidal)4−[N−マレイミドメチル]−シクロヘキサン−1−カルボキシレート)などの架橋試薬を用いて、ストレプトアビジンに結合させる。徹底的な透析を行って、未反応の架橋剤と遊離ペプチドとを除去する。
【0257】
C.サンドイッチアッセイ用の2−ペプチドドメイン代理物
プリオン結合試薬3F4および一次抗体6H4を認識する二機能性代理対照を以下のようにして調製する。3F4エピトープ、6H4エピトープおよびリンカーを含むペプチドを、標準的な固相ペプチド合成技術を用いて調製する。具体的には、MKHMGGGGGDWEDRYYRE(配列番号267)を合成するが、ここで、MKHM(配列番号261)は、3F4によって認識されるエピトープであり、GGGGG(配列番号268)はリンカーであり、DWEDRYYRE(配列番号264)は、6H4によって認識されるエピトープである。
【0258】
本発明の好適な実施態様をいくらか詳しく説明して来たが、当然ながら、本明細書に記載されている発明の精神および範囲を逸脱することなく、明らかな改変を行うこともできると考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−115815(P2009−115815A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1994(P2009−1994)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【分割の表示】特願2007−551450(P2007−551450)の分割
【原出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(591076811)ノバルティス バクシンズ アンド ダイアグノスティックス,インコーポレーテッド (265)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【分割の表示】特願2007−551450(P2007−551450)の分割
【原出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(591076811)ノバルティス バクシンズ アンド ダイアグノスティックス,インコーポレーテッド (265)
【Fターム(参考)】
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