説明

プリズムの製造方法

【課題】品質の向上が図れるとともに歩留まりの低下を防止して製造コストを向上させるプリズムの製造方法の提供。
【解決手段】複数の接合部13が板面に対してそれぞれ45°傾斜して設けられる光学素子ブロック11Bを形成し、光学素子ブロック11Bを個々のプリズム1に分離する。分離工程では、光学素子ブロック11Bの接合部13に近接して板厚方向にレーザー光を照射して罫書きするレーザースクライブ形成手順を実施し、光学素子ブロック11Bのスクライブ1Bが形成された箇所に衝撃力を付与する衝撃力付与手順を実施する。従来必要であった鏡面研磨工程を不要にできるから、プリズムを効率よく製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は矩形状断面を有するプリズムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップや液晶プロジェクター、その他の装置において、2つの三角柱部材の間に偏光分離膜等の光学薄膜を設けたプリズムがある。これらのプリズムでは、偏光分離膜等の光学薄膜と接着剤が矩形状断面の対角線に沿って形成されている。
【0003】
従来のプリズムの製造方法として、板面に光学薄膜が形成された矩形平板状光学部材を準備し、接着剤を介して、各平板状光学部材の端縁を結ぶ平面と平板状光学部材の板面との形成角度が45度となるよう矩形平板状光学部材の面方向位置を順次ずらして階段状に積層し、この一体化された積層体を45度の傾斜角度に沿った所定ピッチの複数の平行な切断面にて切断して複数の積層分割体を得る。積層分割体の切断面を鏡面研磨し、これらの複数の積層分割体を整合状態で積層して仮止めし、この仮止めした積層体をワイヤーソーで切断して光デバイス連結体を形成する。これらの光デバイス連結体を鏡面研磨し、底面あるいは頂面となる面を切断面として更に切断する。この切断後の光デバイス連結体を構成する仮止め材を溶解除去して個々の光学デバイスに分離する方法(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)がある。
【0004】
これら特許文献1〜3で示されるプリズムの製造方法では、仮止めは積層分割体間に予めパラフィンを塗布しておくことにより行われるものであり、仮止めした状態で光デバイス連結体をラップポリッシュ等で鏡面研磨する。
ラップポリッシュ等の鏡面研磨作業が終了したら、光デバイス連結体を温水やホットプレート上に載置して加熱することによってパラフィンを溶解させて、光デバイス連結体から個々のプリズムを分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−143264号公報
【特許文献2】特開2000−199810号公報
【特許文献3】特開2006−84861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3で示される従来例では、積層分割体の間に予めパラフィンを塗布して仮止めし、この仮止めを継続した状態で光デバイス連結体を鏡面研磨するが、積層分割体間の接着力が弱い場合には、光デバイス連結体が変形して研磨ムラが生じ、場合によっては、光デバイス連結体が仮止め部分で分離してしまう。
光デバイス連結体の板面に研磨ムラが生じると、プリズム自体の品質が劣化することになる。さらに、光デバイス連結体が仮止め部分から分離すると、歩留まりが低下するという不都合が生じる。
このような不都合を回避するために、積層分割体の間の接着力を強くすることも考えられるが、それでは、光デバイス連結体から個々のプリズムを分離することが困難となる。特にプリズムのサイズは益々小型化する傾向に有り、上述の問題は、特に、小型化されたプリズムでは益々影響が大きくなっている。
【0007】
本発明の目的は、品質の向上が図れるとともに歩留まりの低下を防止して製造コストを向上させることができるプリズムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、矩形状断面を有するとともにこの矩形状断面の対角線に沿って接合部が設けられたプリズムを製造する方法であって、前記接合部は光学薄膜と接着層とを有し、透光性板材の主面上に前記光学薄膜を形成し、前記接着剤を介して複数の前記透光性板材を積層した積層体を形成する積層体形成工程と、前記透光性板材の主面に対する所定の角度で前記積層体を切断して、複数の光学素子ブロックを生成する切断工程と、前記切断工程で切断された前記光学素子ブロックの切断面を鏡面加工する鏡面加工工程と、前記光学素子ブロックを個々の前記プリズムに分離する分離工程と、を備え、この分離工程は、前記光学素子ブロックの前記接合部に近接して板厚方向にレーザースクライブを形成するレーザースクライブ形成手段と、前記光学素子ブロックの前記レーザースクライブが形成された箇所に衝撃力を付与する衝撃力付与手段とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成の本適用例では、レーザースクライブ手順によって、光素子ブロックにレーザー光を照射して罫書きをしてレーザースクライブを形成し、このレーザースクライブを形成された箇所に衝撃力付与手段で衝撃力を付与することで、光学素子ブロックからプリズムを製造できる。
従って、本適用例では、光学素子ブロックを分離して複数のプリズムを形成する分離工程では、プリズムの切断面はほぼ鏡面となるために、従来技術で必要であった分離加工後の鏡面研磨が不要となる。したがって、パラフィンを用いた仮止め工程と鏡面研磨工程を不要にできるから生産性の高いプリズムの製造ができる。そのため、工程の簡略化の点からも、歩留まりの向上も達成することができる。
【0010】
[適用例2]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、前記分離工程では、光学素子ブロックの板面上の前記接合部に接する位置にV溝を形成するV溝形成手段を実施し、次に前記レーザースクライブ形成手段と前記衝撃力付与手段を実施することを特徴とする。
この構成の本適用例では、V溝を接合層に接するように形成することで、このV溝が光学素子ブロックの割断のきっかけとなり、スクライブ導入方向に沿って光学素子ブロックが容易に割断されることになる。その結果、光学素子ブロックを個々のプリズムに簡単に分離することができる。
【0011】
[適用例3]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、前記V溝形成手段は前記光学素子ブロックの両方の板面にV溝をそれぞれ形成し、これらのV溝は互いに対向配置されていることを特徴とする。
この構成の本適用例では、互いに対向配置されたV溝の一方に衝撃力を付与すると、この衝撃力が他方のV溝まで伝達されて容易に光学素子ブロックを割断させることができる。
【0012】
[適用例4]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、前記光学素子ブロックの一方の板面に反射防止膜を形成することを特徴とする。
この構成の本適用例では、光学素子ブロックの一方の板面に反射防止膜が形成されることで、プリズム自体に反射防止膜が設けられることになる。
【0013】
[適用例5]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、前記V溝は、前記反射防止膜を破断するように形成され、前記レーザースクライブ形成手段は、前記光学素子ブロックの板面に向けて照射した検査用レーザー光を反射又は透過させて前記V溝を検出し、このV溝の位置に前記レーザー光を照射することを特徴とする。
この構成の本適用例では、V溝を形成した後にレーザースクライブを形成する時に、V溝の位置を検出する。通常、位置検出のために、検査用レーザー光を目的物に照射し、その反射光あるいは透過光を検出することが行われているが、光学素子ブロックに反射防止膜が形成されていると、この反射防止膜により検査用レーザー光が透過してしまうので、V溝の位置を正確に検出することができない恐れがある。本適用例では、反射防止膜を破断するようにV溝を形成したから、反射防止膜が形成されていない位置がV溝の形成位置となり、V溝の位置を正確に検出することができる。そのため、レーザースクライブを正確に形成することができるので、光学素子ブロックの分離を正確に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかるプリズムの製造方法で製造されたプリズムを示す端面図。
【図2】前記実施形態にかかるプリズムの製造方法のうち積層体形成工程と切断工程を示す概略図。
【図3】前記実施形態にかかるプリズムの製造方法のうち鏡面研磨工程及び反射防止膜形成工程を示す概略図。
【図4】光学素子ブロックを示す平面図。
【図5】(A)は分離工程で使用する装置の概略斜視図、(B)は装置の要部正面図。
【図6】分離工程で使用する装置の概略斜視図。
【図7】(A)〜(F)は分離工程の手順を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態で製造されるプリズム1を示す端面図である。
図1において、プリズム1は、入射光側の第一光学部材11と、出射光側の第二光学部材12と、これらの第一光学部材11と第二光学部材12との間に設けられた接合部13とを備え、かつ、正方形断面を有する。接合部13は、矩形状断面の対角線に沿って形成されている。この接合部13は、光学薄膜14と接着剤15とが積層された構成である。なお、紙面の裏面および表面に、プリズムの頂面または底面が位置する。第一光学部材11と第二光学部材12の三角柱の隣辺に接する矩形面は4面とも鏡面仕上げであることが求められる。頂面または底面は梨地仕上げでもよい。
第一光学部材11及び第二光学部材12は、ともにBK7等の光学ガラス、白板ガラス、ホウケイ酸ガラス、青板ガラスをはじめとするガラス等である。
【0016】
光学薄膜14は偏光分離作用を有する誘導体多層膜からなる偏光分離膜等であり、異なる材質の層、例えば、高屈折材料層である酸化チタン(TiO)の層と、低屈折材料層である酸化ケイ素(SiO)の層とが交互に積層される。
接着剤15は、種々の光学接着剤から構成されるものであり、光学接着剤としては、例えば、接着加工が容易で比較的高温度に耐え得る一液性エポキシ又は一液性アクリル系の紫外線硬化型接着剤を用いることが好ましい。
この紫外線硬化型接着剤としては、例えば、サンライズMI株式会社製のPHOTOボンド(登録商標)が用いられる。この紫外線硬化型接着剤は、塗布した後、ケミカルランプや高圧水銀灯を照射して硬化される。
【0017】
次に、第1実施形態にかかる光学物品の製造方法について説明する。
[積層体形成工程]
図2(A)で示される通り、基台Bの上に板状の透光性板材11Aを複数積層して積層体を形成する。
ここで、板状の透光性板材11Aは、第一光学部材11と第二光学部材12を構成するものである。この透光性板材11Aの板面に光学薄膜14を蒸着等で形成する。この光学薄膜14の上に接着剤15を形成する。なお、最上位置には光学薄膜14及び接着剤15が設けられていない板状の透光性板材11Aを配置する。
板状の透光性板材11Aを光学薄膜14及び接着剤15からなる接合部13を挟んで複数積層するが、基台Bの平面に対して45°傾斜したプレートPに端部下端がそれぞれ当接するように透光性板材11Aを水平方向にずらして配置する。そして、複数が積層された透光性板材11A同士を互いに押し付ける。なお、図2では45°を例示したが、この他の角度でもよい。
【0018】
[切断工程]
図2(B)に示される通り、複数枚が積層された透光性光学基材11Aの積層体を所定形状に切断して分割する。
積層された透光性板材11Aの板面に対してプレートPの配置方向と平行、つまり、透光性板材11Aの板面に対して45°の方向Lに沿って所定間隔毎に切断し光学素子ブロック11Bを形成する。この光学素子ブロック11Bを図3(A)に示す。この光学素子ブロック11Bは複数のプリズム柱が連結されたものである。
積層体の切断は従来通り、ワイヤーソー、その他の装置を利用する。
【0019】
[鏡面研磨工程]
図3(A)に示される光学素子ブロック11Bをラップポリッシュで鏡面研磨する。
そのため、図3(B)に示される通り、上下の研磨用円板21,22の間に光学素子ブロック11Bを配置する。この際、光学素子ブロック11Bの両面に形成された切断面を研磨用円板21,22に対向させる。そして、研磨用円板21,22を相対的に回転させることで、光学素子ブロック11Bの切断面を研磨する。なお、研磨工程では、必要に応じて研磨剤を用いるものでもよい。
【0020】
[反射防止膜形成工程]
図3(C)に示される通り、光学素子ブロック11Bの一方の板面に反射防止膜16を蒸着等により従来の方法で形成する。
反射防止膜16が形成された光学素子ブロック11Bを必要に応じて洗浄する。
【0021】
[分離工程]
次に、光学素子ブロック11Bを個々のプリズム1に分離する分離工程を図4から図7に基づいて説明する。
分離工程は、V溝形成手順と、レーザースクライブ形成手順と、衝撃力付与手順とを含んで構成される。
まず、V溝形成する装置及びレーザースクライブを形成する装置について、図4から図6に基づいて説明する。
図4には光学素子ブロック11Bが治具3にセットされた状態が示されており、図5及び図6には、プリズムの製造方法で使用する装置が示されている。
図4において、光学素子ブロック11Bをセットする治具3は、光学素子ブロック11Bより大きな断面矩形状のリング状部31と、このリング状部31の一面に貼り付けられた弾性シート部(ダイシング用フィルム)32とを備えて構成され、この弾性シート部32の上面に光学素子ブロック11Bが載置される。リング状部31は金属製フレームが用いられる。弾性シート部32は、その上面に光学素子ブロック11Bを保持するための粘着層(図示せず)が設けられている。
【0022】
図5(A)において、本実施形態で使用される装置は、光学素子ブロック11Bの両板面にV溝1Aを形成するための溝形成用ブレード4と、V溝1Aにレーザースクライブ1Bを導入するレーザー照射機構5と、V溝1Aに導入されたレーザースクライブ1Bをレーザー照射直後に冷却する冷却機構6と、V溝位置の検出装置7とが示されている。
【0023】
図5(B)に示される通り、溝形成用ブレード4は刃先4Aがテーパーとされた円板部材であり、この中心部に設けられた軸部4Bが図示しないダイシング機構に連結されている。ダイシング機構は溝形成用ブレード4を回転させながら光学素子ブロック11Bに対して直進する構成である。なお、ダイシング機構を前進させる代わりに光学素子ブロック11Bが設けられた治具3を前進させる構成を採用してもよい。
ダイシング機構が作動されることで、溝形成用ブレード4は回転し、その先端部が光学素子ブロック11Bに押圧されることで、V字状溝のV溝1Aがダイシング機構の移動方向に沿って光デバイス連結体11Bに形成される。このV溝1Aの開放角度は溝形成用ブレード4の刃先4Aの角度αに対応するものであり、この角度αは60°〜120°であり、好ましくは、90°とされる。
V溝1Aの形成位置は、レーザースクライブを形成する予定位置であって板面上の接着剤15に近接する位置である。
【0024】
図5(A)に示される通り、レーザー照射機構5は、ダイシング機構で形成されたV溝1AにCOのレーザー光を照射するものである。レーザー光の照射により、V溝1Aの最も深い部位からレーザースクライブ1Bが略直線状に形成される。
レーザー照射機構5と冷却機構6は一体化もしくは近接していて、V溝1Aにレーザーを照射した直後に冷却する機構になっている。
レーザー照射機構5と冷却機構6はV溝1Aが形成された方向に沿って移動可能である。本実施形態では、レーザー照射機構5と冷却機構6を移動させる代わりに、光学素子ブロック11Bがセットされた治具3が移動する構成としてもよい。
【0025】
冷却機構6は、V溝1Aに導入されたレーザースクライブ1Bをレーザー照射直後に急冷するために、例えば、レーザースクライブ1Bを中心としたV溝1Aの周囲に冷却機構6のノズルから冷風ミストを吹き付けるものである。レーザー光を光学素子ブロック11BのV溝1Aに照射すると、その照射部分が加熱されて部分的に膨張しようとする圧縮応力が生じるが、冷却機構6でレーザー照射直後に急冷することで、圧縮応力から引っ張り応力に変換し瞬間的に亀裂が入ることになる。
【0026】
検出装置7は、レーザー照射機構5に隣接配置されており、検査用レーザー光を光学素子ブロック11Bに照射する検査光照射源71と、この光学素子ブロック11Bから反射したレーザー光を受光するCCDカメラ等からなる受光部72とを備える。この受光部72でV溝1Aの位置を確認しながらV溝1Aの最も深い部位にレーザー光を照射するようにレーザー照射機構5を制御する。なお、本実施形態では、検査光照射源71と受光部72とを光学素子ブロック11Bを挟んで配置し、光学素子ブロック11Bから照射した検査用のレーザー光を光学素子ブロック11Bに透過させ受光部72で受光する構造の装置を採用するものでもよい。
【0027】
図6において、本実施形態で使用される装置は、光デバイス連結体11BのV溝1Aが形成された部位に対応する位置からV溝1Aに向かって衝撃力を付与するハンマー装置8を備えている。
このハンマー装置8は、V溝1Aが形成されるとともに治具3にセットされた光デバイス連結体11Bを載置するテーブル80と、このテーブル80の光デバイス連結体11Bを挟んで反対側に配置されたハンマーブレード81とを備えている。テーブル80及びハンマーブレード81と光学素子ブロック11Bをセットした治具3とは、ハンマーブレード81と並んで形成されたV溝1Aに対応した部位を連続して破断するために、相対的に移動可能とされている。
テーブル80には光学素子ブロック11Bと対向する載置面80Aが形成され、光学素子ブロック11Bの載置面80Aに対向する面には弾性を有する図示しない透明保護フィルムが貼付されている。そして、光学素子ブロック11Bの透明保護フィルム側はV溝1Aとレーザースクライブ1Bとの双方が形成された部分とされる。
【0028】
テーブル80にはスリット80Sが貫通して形成されており、このスリット80Sの貫通方向に対してハンマーブレード81が進退自在とされる。ハンマーブレード81は、その先端部に形成されたテーパー面が形成され、かつ、その奥行き方向がV溝1Aの長さと対応する長さ寸法を有する板状部材である。
ハンマーブレード81は、図示しない進退機構と連結されており、この進退機構は、ハンマーブレード81の速度、深さ(進退量)を制御するパルスモータ(図示せず)を備える。
ハンマーブレード81のスリット80Sを挟んだ反対側の位置にはCCDカメラ82が配置されている。このCCDカメラ82は透明保護フィルムから透過されるV溝1Aを認識するものである。
テーブル80に形成されたスリット80Sはハンマーブレード81の板厚寸法より大きな幅方向を有するものであるが、この幅寸法は任意に変更可能とされる。
【0029】
以上の装置を用いて、光学素子ブロック11Bを分離させる工程を図7に基づいて説明する。
(V溝形成手順)
光学素子ブロック11Bの板面上であってレーザースクライブを形成する予定位置、つまり、接合層13に接する位置にV溝1Aを形成する
図7(A)に示される通り、溝形成用ブレード4を回転させるとともに溝形成用ブレード4の刃先4Aを光学素子ブロック11Bに向けて押しつける。その状態で、溝形成用ブレード4と光学素子ブロック11Bがセットされた治具3とを相対的に直線移動させる。これにより、光学素子ブロック11BにV溝1Aが直線状に形成されることになる。
V溝1Aの深さは光学素子ブロック11Bの板厚との関係で適宜設定される。
一方の板面でのV溝1Aの形成が終了したら、光学素子ブロック11Bをひっくり返し、光学素子ブロック11Bの他方の板面にもV溝1Aを形成する。これらのV溝1Aは互いに対向配置されるようにする。なお、V溝1Aは反射防止膜16を破断するように形成する。
【0030】
(レーザースクライブ形成手順)
次に、光学素子ブロック11Bの接合部13に近接して板厚方向にレーザー光を照射して罫書きしてレーザースクライブを形成するレーザースクライブ形成手順を実施する。
そのため、図5(A)に示される通り、光学素子ブロック11Bの板面に向けて検出装置7の検査光照射源71から検査用レーザー光を照射し、光学素子ブロック11Bから反射したレーザー光を受光部72で受光し、V溝1Aの位置を検出する。受光部72で検出された信号に基づいて、V溝1Aの最も深い部位にレーザー光を照射するようにレーザー照射機構5の位置を制御する。
【0031】
そして、図7(B)に示される通り、V溝検出工程で検出されたV溝1Aの位置にレーザー光を照射する。この際、レーザー照射機構5と光学素子ブロック11Bがセットされた治具3とを相対的に移動させる。V溝1Aにレーザースクライブ1Bを形成した直後に、このレーザースクライブ1Bを冷却機構6で急冷する。そのため、図7(C)に示される通り、レーザースクライブ1Bを中心としたV溝1Aの周囲に冷却機構6のノズルから冷風ミストを吹き付ける。
レーザー照射と冷却によって形成されるレーザースクライブ1Bの深さは適宜設定されるが、互いに対向するV溝1Aの谷部分同士を貫通するものでもよい。
【0032】
[衝撃力付与手順]
光学素子ブロック11BのV溝1Aが形成された部位に衝撃力をハンマー装置8で付与する。
そのため、図7(D)に示される通り、まず、治具3にセットされた光学素子ブロック11Bをテーブル80に配置する。この際、光学素子ブロック11Bの弾性シート部32が貼付されていない面に図示しない透明保護フィルムを貼付し、この透明保護フィルムがテーブル80に対向するようにする。光学素子ブロック11Bがセットされた治具3をテーブル80及びハンマーブレード81に対して相対的に移動させてV溝1AがCCDカメラ82(図6参照)で認識できるようにする。
【0033】
その後、ハンマー装置8の進退機構を作動させてハンマーブレード81をV溝1Aに向けて前進させる。すると、図7(E)に示される通り、ハンマーブレード81の先端が弾性シート部32の上から光学素子ブロック11BのV溝1Aに衝突し、光学素子ブロック11Bがレーザースクライブ1Bの深さ方向に沿って破断される。光学素子ブロック11Bの破断に伴って、光学素子ブロック11Bのレーザースクライブ1Bを中心とした両側が互いに傾くように折れ曲がって変位する。この変位に伴って、光学素子ブロック11Bのハンマーブレード81が衝突する部位では弾性シート部側のV溝1Aの開口角度が小さくなり、V溝1Aを構成する2つの傾斜面同士は当接しないか、あるいは、当接しても面同士が当接することになるので、角部の破損が防止される。そして、当該レーザースクライブ1Bと隣接するレーザースクライブ1Bが形成された部位では、光学素子ブロック11Bの透明保護フィルム側のV溝1Aの開口角度が小さくなり、V溝1Aを構成する2つの傾斜面同士は当接しないか、あるいは、当接しても面同士が当接することになるので、角部の破損が防止される。
【0034】
そして、破断に伴って光学素子ブロック11Bが変位することで、光学素子ブロック11Bの両側に貼付された弾性シート部32と透明保護フィルムとにそれぞれ伸縮方向の力が生じるが、これらの弾性シート部32と透明保護フィルムとはその弾性によって破断されることがない。
その後、図7(F)に示される通り、ハンマー装置8の進退機構を作動させてハンマーブレード81をV溝1Aから後退させる。すると、変位した光学素子ブロック11Bは、弾性シート部32と透明保護フィルムとの弾性力により、元の姿勢、つまり、テーブル80の平面に沿った姿勢となる。
さらに、光学素子ブロック11Bがセットされた治具3をテーブル80及びハンマーブレード81に対して相対的に移動させ、次の作業を実施する。これにより、光学素子ブロック11Bから複数のプリズム1が分離されることになる。なお、図7(F)ではV溝1Aによって、プリズム1の角部が斜めに欠けているように表示されるが、実際は、この欠けは大きいものではなく、プリズム1を実際に使用する時に不都合はない。
【0035】
従って、本実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(1)複数の接合部13が板面に対してそれぞれ45°傾斜して設けられる光学素子ブロック11Bを形成し、この光学素子ブロック11Bを個々のプリズム1に分離する。光学素子ブロック11Bから複数のプリズム1へ分離する工程では、光学素子ブロック11Bの接合部13に近接して板厚方向にレーザー光を照射して罫書きしてレーザースクライブを形成するレーザースクライブ形成手順を実施し、光学素子ブロック11Bのレーザースクライブ1Bが形成された箇所に衝撃力を付与する衝撃力付与手順を実施する。
従って、光学素子ブロック11Bを分離して複数のプリズム1を形成する際、切断面はほぼ鏡面となるために、従来必要であった分離後の鏡面研磨が不要となる。したがって、パラフィンを用いた仮止め工程を不要にできるから生産性の高いプリズムの製造ができる。
以上のことから、本実施形態では、プリズム1の生産性が向上して、製造コストを低下させることができる。
【0036】
(2)レーザースクライブ形成手順の前に、光学素子ブロック11Bの板面の接合部13に接する位置にV溝1Aを形成した。そのため、V溝1Aが光学素子ブロック11Bの割断のきっかけとなり、スクライブ形成方向に沿って光学素子ブロック11Bが真っ直ぐに割断されることになるから、プリズム1の分離を簡単に行うことができる。
【0037】
(3)V溝1Aは光学素子ブロック11Bの両方の板面にそれぞれ形成し、これらのV溝1Aを互いに対向配置した。そのため、互いに対向配置されたV溝1Aの一方に衝撃力を付与すると、この衝撃力が他方のV溝1Aまで伝達されて容易に光学素子ブロック11Bを割断させることができるから、プリズム1への分離作業がより容易となる。しかも、V溝1Aを光学素子ブロック11Bに形成しているので、ハンマー装置8で光学素子ブロック11Bを折り曲げて破断する際に、隣合う破断部分がV溝1Aを中心に互いに傾斜しV溝1Aを構成する傾斜面同士が互いに当接することで、角部同士の干渉を効率的に防止することができる。
【0038】
(4)光学素子ブロック11Bの一方の板面に反射防止膜16を形成したから、分離工程を実施することで、反射防止膜16が形成されたプリズム1を容易に製造することができる。
【0039】
(5)V溝1Aは反射防止膜16を破断するように形成した。レーザースクライブ形成手順は、光学素子ブロック11Bの板面に向けて照射した検査用レーザー光を反射させてV溝1Aを検出し、検出されたV溝1Aの位置にレーザー光を照射する照射する構成とした。そのため、反射防止膜16が形成されていない位置がV溝1Aの形成位置となり、V溝1Aの位置を正確に検出できる。従って、光学素子ブロック11Bの分離を正確な位置で実施することができるから、高品質のプリズム1を提供することができる。
【0040】
(6)ハンマー装置8は、ハンマーとして機能するハンマーブレード81をレーザースクライブ1Bが導入された箇所に衝突させる構成であるため、光学素子ブロック11Bをハンマーブレード81の衝撃力によって確実に分割させることができる。
(7)ハンマーブレード81を衝突させる際に、光学素子ブロック11Bに形成されたV溝1Aを光学素子ブロック11Bの位置決めのために利用するので、ハンマーブレード81の衝突位置が正確となり、光学素子ブロック11Bを確実に割断することができる。
【0041】
(8)ハンマー装置8で光学素子ブロック11Bを破断する際に、光学素子ブロック11Bの一方の板面に弾性シート部32を貼付し、光学素子ブロック11Bの他方の板面に透明保護フィルムを貼付するから、光学素子ブロック11Bの割断された部位が飛散することがない。
【0042】
(9)
幅が広い透光性板材11Aを積層して積層体を形成し、この積層体を切断して光学素子ブロック11Bを得て、上述の分割工程後、得られた長手方向に長いプリズムを、さらに、当該の頂面または底面に平行な切断面で複数個に切断して個片化し、複数のプリズム1を製造した。そのため、生産性がさらに高いいプリズム1の製造を実施できる。
【0043】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、V溝1Aを光学素子ブロック11Bの両方の板面にそれぞれ形成したが、本発明は、V溝1Aを一方の板面に形成するものでもよい。さらに、V溝1Aに代えて断面U字状の溝を光学素子ブロック11Bに形成するものでもよい。
また、光学素子ブロック11Bに反射防止膜16を必ずしも設けることを要せず、設ける場合であっても、個々に分離されたプリズム1にそれぞれ反射防止膜を形成するものでもよい。
さらに、前記実施形態では、光学素子ブロック11Bの板面に向けて照射した検査用レーザー光を反射させてV溝1Aを検出し、検出されたV溝1Aの位置にレーザー光を照射する構成としたが、本発明では、この検出を省略するものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、光ピックアップ、液晶プロジェクター、その他の装置に用いられるプリズムに利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1…プリズム、13…接合部、14…光学薄膜、15…接着剤、16…反射防止膜、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状断面を有するとともにこの矩形状断面の対角線に沿って接合部が設けられたプリズムを製造する方法であって、
前記接合部は光学薄膜と接着層とを有し、
透光性板材の主面上に前記光学薄膜を形成し、前記接着剤を介して複数の前記透光性板材を積層した積層体を形成する積層体形成工程と、
前記透光性板材の主面に対する所定の角度で前記積層体を切断して、複数の光学素子ブロックを生成する切断工程と、
上記切断工程で切断された前記光学素子ブロックの切断面を鏡面加工する鏡面加工工程と、
前記光学素子ブロックを個々の前記プリズムに分離する分離工程と、を備え、
この分離工程は、前記光学素子ブロックの前記接合部に近接して板厚方向にレーザースクライブを形成するレーザースクライブ形成手段と、前記光学素子ブロックの前記レーザースクライブが形成された箇所に衝撃力を付与する衝撃力付与手段とを有することを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたプリズムの製造方法において、
前記分離工程では、光学素子ブロックの板面上の前記接合部に接する位置にV溝を形成するV溝形成手段を実施し、次に前記レーザースクライブ形成手段と前記衝撃力付与手段を実施することを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載されたプリズムの製造方法において、
前記V溝形成手段は前記光学素子ブロックの両方の板面に前記V溝をそれぞれ形成し、これらのV溝は互いに対向配置されていることを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載されたプリズムの製造方法において、
前記光学素子ブロックの一方の板面に反射防止膜を形成することを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載されたプリズムの製造方法において、
前記V溝は、前記反射防止膜を破断するように形成され、前記レーザースクライブ形成手段は、前記光学素子ブロックの板面に向けて照射した検査用レーザー光を反射又は透過させて前記V溝を検出し、このV溝の位置に前記レーザー光を照射することを特徴とするプリズムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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