説明

プリテンショナ

【課題】シリンダの機械的強度を特に高く設定しなくても、ピストンを停止させることができるプリテンショナを得る。
【解決手段】本プリテンショナ10では、シリンダ11に規制部13が形成されている。この規制部13を構成するピストン干渉部13Aとピース収容部13Bは、ピース30の通過は可能だがピストン14の通過ができないように内径寸法が設定されており、しかも、ピース収容部13Bの全長はピース30の軸方向長さよりも長い。このため、ピストン14が規制部13により摺動が規制された後はピース30が慣性(惰性)で移動し、ピース30がピストン14から離間してピストン14の貫通孔26とワイヤ28の間からガスが抜ける。これにより、ピストン14やピース30がシリンダ11(規制部13)に衝突した際の衝撃を緩和できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両急減速状態等に車両のシートベルト装置を構成するウエビングベルトの張力を増加させるプリテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたプリテンショナ(特許文献1ではパワーソースと称している)では、シリンダにエネルギー吸収ゾーンを設けている。このエネルギー吸収ゾーンにおいてはシリンダの内径寸法が縮径されており、ガスジェネレータにて発生したガスによりピストンがシリンダ内を摺動してエネルギー吸収ゾーンに達すると、ピストンによってエネルギー吸収ゾーンが押し広げられてシリンダが変形する。このエネルギー吸収ゾーンにて生じたシリンダの変形にピストンの運動エネルギーが供されるので、シリンダが破壊されることなくシリンダの終端にピストンが到達できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−193446号の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に開示された構成では、ピストンによってシリンダが押し広げられてシリンダが変形することで上記のようにシリンダの破壊を防止するようになっている。しかしながら、ピストンがエネルギー吸収ゾーンに到達した際にシリンダがピストンから受ける衝撃や、その後、ピストンがシリンダを押し広げる力に対して破壊しない程度の機械的強度をシリンダに付与しなければならない。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、シリンダの機械的強度を特に高く設定しなくても、ピストンを停止させることができるプリテンショナを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係るプリテンショナは、作動することでガスを発生させるガス発生手段と、両端が開口し、前記ガス発生手段にて発生した前記ガスが一端側から内側に供給されるシリンダと、前記シリンダの内側で摺動可能に前記シリンダに収容され、前記シリンダに供給されたガスの圧力で前記シリンダの他端側へ摺動するピストンと、シートベルト装置を構成する所定の部材に先端側が連結されると共に、基端側が前記シリンダの一端側から前記シリンダの内側に入り込み更に前記ピストンを貫通し、基端側へ引っ張られることにより前記所定の部材を介して前記シートベルト装置を構成するウエビングベルトの張力を増加させる連結手段と、前記シリンダの径方向に沿った径寸法が前記ピストンよりも小さく形成されて、前記ピストンよりも前記シリンダの他端側に配置されると共に前記ピストンを貫通した前記連結手段の基端側が一体的に連結され、前記ガスの圧力で前記シリンダの他端側へ摺動する前記ピストンに押圧されて前記シリンダの他端側へ移動して前記連結手段を引っ張ると共に、前記ピストンにおける前記シリンダ他端側の面に接して前記ピストンと前記連結手段の間を通過しようとする前記ガスが前記ピストンよりも前記シリンダの他端側に抜けることを抑制する引張手段と、前記引張手段よりも前記シリンダの他端側に設けられて、前記シリンダ他端側への前記引張手段の移動を許容すると共に前記ピストンに干渉して前記シリンダ他端側への前記ピストンの摺動を規制する規制手段と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るプリテンショナでは、ガス発生手段が作動してガス発生手段においてガスが発生すると、このガスがシリンダの一端側からシリンダの内部に供給され、このガスの圧力でシリンダ内のピストンがシリンダの他端側へ摺動する。ピストンがシリンダの他端側へ摺動すると、ピストンが引張手段を直接又は間接的に押圧してピストンと共に引張手段がシリンダの他端側へ移動する。
【0008】
この引張手段には連結手段の基端側が一体的に連結され、更に、この連結手段はピストンを貫通し、その先端側にはバックル又はタングが係止されている。このため、ピストンと共にシリンダの他端側へ引張手段が移動すると、引張手段によって連結手段が引っ張られる。この連結手段の先端側にはシートベルト装置を構成する所定の部材に連結されており、連結手段が引っ張られると、連結手段が連結されたシートベルト装置を構成する所定の部材を介してシートベルト装置を構成するウエビングベルトが引っ張られ、ウエビングベルトの張力が増加する。このようにウエビングベルトが引っ張られることでウエビングベルトを装着している乗員の身体がウエビングベルトにより強く拘束される。
【0009】
ここで、本発明に係るプリテンショナでは、引張手段はピストンにおけるシリンダ他端側の面に接することでピストンと連結手段の間を通過しようとするガスがピストンよりもシリンダの他端側に漏れ出ることを抑制する。これにより、シリンダ内に供給されたガスの圧力を効率よくピストンの摺動、ひいては、バックル又はタングの引っ張りに寄与させることができる。
【0010】
一方、上記のようにピストン及び引張手段がシリンダの他端側へ移動することで、シリンダにおいて規制手段が設けられた位置にピストン及び引張手段が到達すると、ピストンは規制手段に干渉されてそれ以上シリンダの他端側へ摺動することができなくなる。しかしながら、引張手段がシリンダの他端側へ移動することに関して規制手段は許容する。この状態では、シリンダの他端側へのピストンの摺動が規制され、それ以上ピストンがシリンダの他端側へ摺動しないので、引張手段に対するピストンからの押圧力の付与は解消されるが、それまでのピストンからの押圧により引張手段は惰性で更にシリンダの他端側へ移動する。
【0011】
このように、ピストンの摺動が規制された状態で引張手段が更に移動することで、ピストンから引張手段が離間する。これにより、ピストンと連結手段との間をガスが通過できるようになり、ピストンの摺動が規制された状態からシリンダの内圧が上昇することを抑制できる。このため、この状態やこの状態の後にピストンがシリンダの一部に係合する構成であっても、ピストンをシリンダの他端側へ移動させようとするガスの圧力の上昇が抑制されているので、シリンダはガス圧に対する充分な機械的強度を確保できる。
【0012】
なお、本発明において連結手段に連結されているシートベルト装置の所定の部材とは、連結手段とウエビングベルトとの間に機械的に介在して、連結手段が引っ張られることによって結果的にウエビングベルトの張力が増加する構成であればその具体的な構成に限定されるものではない。
【0013】
したがって、例えば、ウエビングベルトの先端が係止されたアンカ部材を上記のシートベルト装置を構成する所定の部材としてもよいし、ウエビングベルトを装着する際にウエビングベルトに設けられたタングが装着されるバックルを上記のシートベルト装置を構成する所定の部材としてもよい。
【0014】
更には、所定の方向へ回転することでウエビングベルトを巻き取る向きにウエビングベルトの長手方向基端側が係止されたスプール(巻取軸)を回転させる回転力伝達部手段と、連結手段がその基端側へ引っ張られることで回転伝達部材を上記の所定の方向へ回転させる回転力付与手段とを含めてシートベルト装置を構成し、この回転力付与手段を上記のシートベルト装置の所定の部材としてもよい。
【0015】
請求項2に記載の本発明に係るプリテンショナは、請求項1に記載の本発明において、前記シリンダの中間部よりも他端側で前記シリンダに形成されて、内周部における前記シリンダの中心軸線からの径方向寸法が前記引張手段の外径寸法以上で前記ピストンの外径寸法未満とされた規制部を前記規制手段としている。
【0016】
請求項2に記載の本発明に係るプリテンショナでは、シリンダの中間部よりも他端側に規制手段としての規制部がシリンダの一部として形成される。この規制部は、内周部におけるシリンダの中心軸線からの径方向寸法が引張手段の外径寸法以上でピストンの外径寸法未満とされる。このため、引張手段は規制部に入り込むことができるものの、ピストンは規制部に入り込むことはできず、これにより、シリンダが規制部に干渉された状態で引張手段が惰性でシリンダの他端側へ移動するとピストンから引張手段が離間して、上記のようにピストンと連結手段との間をガスが通過できるようになる。
【0017】
このような作用を奏する規制部は、例えば、シリンダの一部を潰して部分的にシリンダの中心からの径方向寸法を短くするだけでよいので、部品点数の増加やコストの増加を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係るプリテンショナでは、シリンダの機械的強度を特に高く設定しなくても、ガスの圧力で摺動するピストンや引張手段を停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプリテンショナの構成の概略を示す断面図である。
【図2】ピストンの摺動が規制された状態を示すシリンダの規制手段側の断面図である。
【図3】引張手段の移動が規制された状態を示す図2に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本実施の形態の構成>
図1には本発明の一実施の形態に係るプリテンショナ10の構成が断面図により示されている。
【0021】
この図に示されるようにプリテンショナ10はシリンダ11を備えている。シリンダ11は、シリンダ本体12と、シリンダ本体12の一端から連続して形成された規制手段としての規制部13とにより、全体的に両端が開口した筒形状(一例として円筒形状)に形成されている。
【0022】
シリンダ本体12の一端から連続して形成された規制部13は、ピストン干渉部13Aと、ピース収容部13Bと、ピース干渉部13Cとを含めて構成されている。ピストン干渉部13Aは外周形状がシリンダ11の軸方向にシリンダ本体12とは反対側へ向けて漸次外径寸法が小さくなるテーパ状で、内周部では内径寸法がシリンダ本体12における内径寸法により小さくなるように形成されている。
【0023】
このピストン干渉部13Aのシリンダ本体12とは反対側の端部からピース収容部13Bが連続して形成されている。このピース収容部13Bはその軸方向に内径寸法が変化しない筒状に形成されており、その内径寸法はシリンダ本体12の内径寸法よりも小さい。このピース収容部13Bのピストン干渉部13Aとは反対側からはピース干渉部13Cが連続して形成されている。ピース干渉部13Cはピース収容部13Bとは反対側へ向けて外径寸法及び内径寸法の双方が小さくなるテーパ状に形成されている。
【0024】
一方、シリンダ11を構成するシリンダ本体12の内側には、金属を鍛造成形することにより形成されたピストン14が収容されている。ピストン14はピストン本体16を備えている。ピストン本体16はシリンダ11の先端(一端)側(図1の矢印A方向の側)へ向けて漸次外径寸法が大きくなり、少なくとも、シリンダ11の先端側におけるピストン本体16の端部の外周形状は、鍛造成形されたワークを切削加工することでシリンダ本体12の内周形状に略等しく、ピストン干渉部13Aのシリンダ本体12とは反対側の端部やピース収容部13Bの内径寸法よりも大きな錐台形状とされている。
【0025】
シリンダ11の基端(他端)側(図1の矢印B方向の側)におけるピストン本体16の端部には外周形状がシリンダ本体12の内周形状に略等しいフランジ部18が、シリンダ11の先端側におけるピストン本体16の端部に対して略同軸的に形成されている。このフランジ部18とシリンダ11の先端側におけるピストン本体16の端部とがシリンダ本体12の内周部に摺接しており、ピストン14はシリンダ本体12の先端と他端との間を摺動できる。シリンダ11の基端側におけるフランジ部18の端部には、外径寸法がフランジ部18よりも小さな小径部20がフランジ部18に対して略同軸的に形成されている。
【0026】
小径部20の外周部にはゴム材やゴム材程度の弾性を有する合成樹脂材により環状に形成されたOリング(オーリング)22が装着されている。Oリング22は小径部20の外周方向に沿った全域が小径部20に密着していると共に、シリンダ11の内周部に密着しており、Oリング22を境とするシリンダ11の先端側と他端側との間がOリング22により封止されている。
【0027】
一方、シリンダ11の先端側におけるフランジ部18の側方には複数のクラッチ球24がピストン本体16の外周方向に適宜な間隔をおいて配置されている。シリンダ11の基端側からシリンダ11の先端側へピストン14が移動した際(すなわち、シリンダ本体12内を図1の矢印A方向にピストン14が摺動した際)に、各クラッチ球24が慣性でピストン本体16の外周面(斜面)を移動すると、ピストン本体16の外周部とシリンダ本体12の内周部とにクラッチ球24が挟まれる。
【0028】
この状態で更にピストン14がシリンダ11の先端側へ移動すると、ピストン14に伴われてシリンダ11の基端側へ移動するクラッチ球24がシリンダ本体12の内周側から変形させる。このクラッチ球24によるシリンダ本体12の変形又は切削の際の摩擦がシリンダ11の基端側へのピストン14の摺動を規制する。
【0029】
一方、ピストン14には貫通孔26が形成されている。貫通孔26は一端がピストン本体16のフランジ部18とは反対側の面で開口しており、他端が小径部20のフランジ部18とは反対側の面で開口している。プリテンショナ10は連結手段としてのワイヤ28を備えており、貫通孔26をワイヤ28が通過している。シリンダ11の基端側におけるピストン14の側方には引張手段としてのピース30が設けられている。
【0030】
ピース30には貫通孔32が形成されており、この貫通孔32をワイヤ28が通過している。ピース30のピストン14とは反対側まで貫通孔32を通過したワイヤ28に対しては抜け止めが施されており、ワイヤ28は貫通孔32を通過してピース30のピストン14側へ抜け出ることができない。したがって、ワイヤ28が貫通孔26を通過してピストン14のピース30とは反対側へ抜け出ることが規制されている。
【0031】
また、ピース30の外径寸法は上記のピース収容部13Bの内径寸法以下でピース干渉部13Cにおける最小内径寸法以上に設定されている。さらに、シリンダ11の軸方向に沿ったピース30の全長はシリンダ11の軸方向に沿ったピース収容部13Bの長さよりも短く設定されている。
【0032】
このワイヤ28のピース30が設けられた側とは反対側の端部は、例えば、車両のシートベルト装置の一態様である三点式シートベルト装置を構成するアンカとしてのアンカ34に係止されている。詳細な図示は省略するが、アンカ34は車両室内に設置された座席の幅方向一方の側で車両の床部近傍に設けられている。このアンカ34には三点式シートベルト装置を構成する長尺帯状のウエビングベルト36の先端部が係止されている。ウエビングベルト36の基端側は座席の幅方向一方の側で車両の天井部近傍に設けられたスルーアンカを通過した状態で下方へ折り返されており、座席の幅方向一方の側で車両の床部近傍に設けられたウエビング巻取装置のスプールに基端側が係止されている。
【0033】
上記のスルーアンカとアンカ34との間でウエビングベルト36はタングプレートを通過している。座席に着座した乗員がウエビング巻取装置のスプールからウエビングベルト36を引き出しつつ身体の前方にウエビングベルト36を掛け回し、この状態で座席の幅方向他方の側で車両の床部近傍に設けられたバックル38にタングプレートを装着することで乗員の身体に対するウエビングベルト36の装着状態になる。
【0034】
なお、上記の説明では、ワイヤ28のピース30が設けられた側とは反対側の端部はアンカ34に係止される構成であったが、ワイヤ28のピース30が設けられた側とは反対側の端部がバックル38に係止される構成としてもよい。
【0035】
また、図1に示されるように、プリテンショナ10はプリテンショナ本体としてのベースカートリッジ40を備えている。ベースカートリッジ40は本体部42を備えている。本体部42にはシリンダ装着部44が形成されている。シリンダ装着部44には装着孔46が形成されている。装着孔46は一端がシリンダ装着部44の外面にて開口している。シリンダ装着部44の開口端での内径寸法はシリンダ11の先端側の外径寸法よりも極僅かに大きく、装着孔46の開口端からシリンダ11をその先端から嵌挿できる。
【0036】
また、例えば、装着孔46の内周部には図示しない雌ねじが形成されており、この雌ねじに対応してシリンダ11の先端側の外周部には図示しない雄ねじが形成されている。この装着孔46の雌ねじにシリンダ11の雄ねじが螺合することでベースカートリッジ40にシリンダ11が連結される。
【0037】
一方、本体部42にはガス発生手段装着部としてのガスジェネレータ装着部48が形成されている。ガスジェネレータ装着部48はシリンダ装着部44における装着孔46の開口方向に対して交差する向きに沿った本体部42の側方に形成されている。ガスジェネレータ装着部48にはガスジェネレータ装着孔50が形成されている。ガスジェネレータ装着孔50はその一端がガスジェネレータ装着部48の外面にて開口している。
【0038】
ガスジェネレータ装着部48にはガス発生手段としてのガスジェネレータ52が取り付けられている。ガスジェネレータ52は嵌挿部54を備えている。嵌挿部54は外周形状がガスジェネレータ装着孔50の内周形状に略等しく、ガスジェネレータ装着孔50の開口端からガスジェネレータ52を嵌挿できる。ガスジェネレータ52の一端(図1における上側端部)には外周形状がガスジェネレータ52の外周形状よりも大きなフランジ部56が形成されている。嵌挿部54をガスジェネレータ装着孔50に挿し込むと、ガスジェネレータ装着孔50の開口端側のガスジェネレータ装着部48の端部にフランジ部56が干渉される。
【0039】
フランジ部56の嵌挿部54とは反対側には頭部58が形成されている。頭部58のフランジ部56とは反対側からはキャップ60がガスジェネレータ装着部48に装着され、キャップ60によりガスジェネレータ装着部48からのガスジェネレータ52の抜け止めが成される。ガスジェネレータ装着部48に装着されたガスジェネレータ52は、作動することで瞬時にガスを発生して嵌挿部54のフランジ部56とは反対側の端部からガスを噴出する。
【0040】
また、ベースカートリッジ40にはガス通過部62が形成されており、ガスジェネレータ52の嵌挿部54が嵌挿される側とは反対側のガスジェネレータ装着孔50の端部ではガス通過部62の一端が開口している。ガス通過部62はその中間部から装着孔46の開口端の側へ屈曲しており、ガス通過部62の他端は装着孔46の底部64にて開口している。このため、ガスジェネレータ52から噴出されたガスがガス通過部62に案内されて嵌挿部54へ向うと、このガスの圧力がピストン14をシリンダ11の基端側(すなわち、規制部13側)へ向けて押圧する。
【0041】
一方、ベースカートリッジ40はガイド部68を備えている。ガイド部68は本体部42のシリンダ装着部44とは反対側に形成されている。ガイド部68には特許請求の範囲で言うところの貫通孔としてのワイヤ通過部70が形成されている。ワイヤ通過部70は、その一端がガス通過部62の内周部で開口している。これに対し、ワイヤ通過部70の他端はガイド部68の本体部42とは反対側の外面にて開口している。また、ワイヤ通過部70の内周形状は、ワイヤ28の外周形状と略同じ形状(厳密にはワイヤ28の外周形状よりも極僅かに大きい形状)に設定されており、図1に示されるように、ワイヤ通過部70にはワイヤ28が通過する。
【0042】
図1に示されるように、ワイヤ通過部70の貫通方向はシリンダ装着部44に形成されている装着孔46の貫通方向に沿ってガス通過部62側の装着孔46の貫通方向に対して略同方向とされ、しかも、ワイヤ通過部70の一端(すなわち、ガス通過部62の内周部におけるワイヤ通過部70の開口端)は、シリンダ装着部44に形成されている装着孔46の貫通方向に沿ってガス通過部62側の装着孔46の端部に対し同軸的に対向している。このため、ワイヤ28はベースカートリッジ40内を直線的に通過できる。
【0043】
また、ワイヤ通過部70の他端側(ガス通過部62とは反対側)では、ワイヤ通過部70の内周面の一部がワイヤ通過部70の開口径方向一方の側を曲率の中心として湾曲しており、ワイヤ通過部70の他端からベースカートリッジ40の外部へ引き出されたワイヤ28は、このワイヤ通過部70の他端側におけるワイヤ通過部70の内周面に倣って湾曲している。これにより、ワイヤ28に無理な屈曲や湾曲が生じることなくアンカ34又はバックル38の側へ湾曲してアンカ34又はバックル38に係止される。
【0044】
さらに、ワイヤ通過部70の一端部に対応してガス通過部62にはガード手段としてのワイヤ保護筒72が設けられている。ワイヤ保護筒72は内周形状がワイヤ通過部70の内周形状に略等しい筒形状に形成されている。ワイヤ保護筒72はワイヤ通過部70の一端に対して同軸となるようにガス通過部62の内壁から突出形成されており、ワイヤ保護筒72を通過したワイヤ28がワイヤ通過部70に入り込んでいる。
【0045】
一方、ガイド部68にはパッキン収容部74が形成されている。パッキン収容部74はワイヤ通過部70の中間部(すなわち、ガス通過部62の一端と他端との間)に形成されている。また、パッキン収容部74は、ベースカートリッジ40の正面視で互いに対向する一対の辺がワイヤ通過部70のパッキン収容部74の形成位置近傍部分と平行で、互いに対向する他の一対の辺がワイヤ通過部70のパッキン収容部74の形成位置近傍部分と直交する矩形状とされている。
【0046】
このパッキン収容部74の内側にはパッキン80が嵌挿されている。パッキン80はゴムやゴム程度の弾性を有する弾性部材や、このような弾性部材よりも剛性が高い合成樹脂材により、外周形状がパッキン収容部74の内周形状に概ね等しいブロック状に形成されている。このパッキン80はパッキン収容部74の内壁に圧接することでパッキン80はパッキン収容部74の内壁との間を封止している。
【0047】
また、パッキン80には貫通孔82が形成されている。貫通孔82は内径寸法がワイヤ28の外径寸法に略等しくパッキン収容部74にパッキン80が収容された状態では、一端がパッキン収容部74よりも一端側のワイヤ通過部70と連通し、他端がパッキン収容部74よりも他端側のワイヤ通過部70と連通する。したがって、ワイヤ通過部70を通過するワイヤ28は、パッキン収容部74内においてパッキン80の貫通孔82を通過している。しかも、上記のように、貫通孔82の内径寸法はワイヤ28の外径寸法に略等しいので、貫通孔82にワイヤ28が通過した状態では、貫通孔82の内周部とワイヤ28の外周部との間に隙間がほぼ形成されることはない。
【0048】
さらに、ベースカートリッジ40には円孔90が形成されている。この円孔90には固定ボルト等の締結手段が通過する。円孔90を通過した固定ボルト等の締結手段は座席の骨格部分や車体に固定され、これにより、本プリテンショナ10が車両に取り付けられる。
【0049】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0050】
乗員が座席に着座してシートベルト装置のウエビングベルトを装着した状態で、例えば、車両が急減速状態になったことを車両に設けられた加速度センサ等の検知手段が検出すると、ECUが着火信号を出力する。この着火信号がガスジェネレータ52に入力されると、ガスジェネレータ52内のガス発生剤が着火される。着火されたガス発生剤は短時間で燃焼して、急激にガスを発生させる。
【0051】
このように発生したガスはガス通過部62に送り込まれる。ガス通過部62に送り込まれたガスは、シリンダ11の先端(シリンダ11のガス通過部62側の端部)近傍に位置しているピストン14を、シリンダ11の基端側(シリンダ11のガス通過部62とは反対側)へ押圧する。このようにしてピストン14に付与されたガスの圧力でピストン14はシール部材110をシリンダ11の基端側へ押圧し、更に、シール部材110を介してピース30をシリンダ11の基端側へ押圧しながらシリンダ11の基端側、すなわち、規制部13側へスライドする。
【0052】
このようにスライドするピース30やシール部材110によりワイヤ28が引っ張られると、ワイヤ28の端部に係止されたアンカ34又はバックル38が引っ張られ、これにより、車両の乗員の身体に装着されているウエビングベルト36に張力が付与される。このように、ウエビングベルト36に張力が付与されることでウエビングベルト36の僅かな弛み、所謂「スラック」が解消されると共に、ウエビングベルト36が乗員の身体を拘束する拘束力が増し、より強く乗員の身体を拘束できる。
【0053】
ところで、本実施の形態では、ガス通過部62を通過するワイヤ28が、ガス通過部62の内周から突出形成されたワイヤ保護筒72の内部を通過していることで、実質的にはガスジェネレータ装着孔50とワイヤ28との間にワイヤ保護筒72が介在した状態になっている。このため、ガスがガス通過部62を通過する際にガスはワイヤ保護筒72に噴き付けられ、ワイヤ28に直接噴き付けられることはない。このように本実施の形態では、高温で高圧のガスからワイヤ28を保護できる。
【0054】
一方、上記のように シリンダ11に供給されたガスの圧力で摺動するピストン14とピース30は規制部13に接近する。ここで、上記のように、ピストン干渉部13A及びピース収容部13Bの内径寸法はピース30の外径寸法以上である。このため、図2に示されるように、規制部13に接近したピース30は、ピストン干渉部13Aにおけるシリンダ本体12側の開口端からピストン干渉部13Aを通過してピース収容部13Bに入り込む。
【0055】
しかしながら、ピストン干渉部13A及びピース収容部13Bの内径寸法はピストン本体16における規制部13側の端部の外径寸法よりも小さい。このため、図2に示されるように、規制部13側へ摺動したピストン14は、ピストン干渉部13Aを形成することでシリンダ11の内側にシリンダ本体12とピストン干渉部13Aとの境界部分に形成される干渉壁13Dに干渉されて、それ以上規制部13の側へ摺動することが規制される。
【0056】
このように、ピストン14が干渉壁13Dに干渉されてピストン14の摺動が規制されることによりピース30に対するピストン14の押圧は解消される。しかしながら、ピース収容部13Bの全長はピース30の軸方向寸法よりも長く、しかも、それまでにピース30がピストン14に押圧されていたことで、ピース30はピース干渉部13Cに干渉されるまでピース収容部13Bの内側を慣性で移動する。これにより、図3に示されるようにピース30がピストン14から離間する。
【0057】
ピストン14とピース30との互いに対向する面が接していることでピストン14とピース30との間が封止され、ピストン14の貫通孔26の内周部とワイヤ28の外周部との間を通過してピストン14のピース30側へガスが抜け出ることは、ピストン14とピース30との互いに対向する面が接していることにより防止又は抑制される。しかしながら、上記のようにピストン14からピース30が離間することでピストン14とピース30との間の封止が解除され、ガスは貫通孔26の内周部とワイヤ28の外周部との間を通過してピストン14のピース30側へ抜け出ることができる。
【0058】
このように、ピストン14のピース30側へ抜け出たガスは更にピース30の外周部側方を通過してピース干渉部13Cのピース収容部13Bとは反対側の開口端からシリンダ11の外部へ放出される。このように、ガスの圧力で摺動したピストン14は干渉壁13Dに衝突するものの、その直後にピストン14とピース30との間の封止が解除されてスガスが抜け出るため、干渉壁13Dに対する衝突時及びその直後にピストン14から干渉壁13Dに付与される衝撃が効果的に緩和される。しかも、ピース30はピース干渉部13Cに衝突して停止させられるが、干渉壁13Dにピストン14が干渉された後では、ピース30は慣性で移動しているだけなので、ピース30がピース干渉部13Cに衝突した際の衝撃を低く抑えることができる。
【0059】
このように、本プリテンショナ10では、ピストン14やピース30が停止させられる際にシリンダ11に付与する衝撃を抑制できるので、シリンダ11の機械的強度を低く抑えることができ、これにより、シリンダ11の肉厚を薄くする等、シリンダ11の小型化、軽量化を図ることができる。
【0060】
しかも、シリンダ11に設定した規制部13は、一般的な円筒形状のシリンダの一端を適宜に潰す等の比較的簡単な加工により形成できるので、上記のようは効果を得られるにも関わらずコストが安価である。
【0061】
なお、上記の各実施の形態は、何れも、アンカ34やバックル38を引っ張るためのプリテンショナ10であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、車両急減速時にガスジェネレータ52のようなガス発生手段にて発生したガスの圧力で、ウエビング巻取装置のスプールを強制的に巻取方向に回転させ、これにより、ウエビングベルト36をスプールに巻き取らせることでウエビングベルト36の張力を増加させるプリテンショナに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 プリテンショナ
11 シリンダ
13 規制部(規制手段)
14 ピストン
28 ワイヤ(連結手段)
30 ピース(引張手段)
36 ウエビングベルト
52 ガスジェネレータ(ガス発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動することでガスを発生させるガス発生手段と、
両端が開口し、前記ガス発生手段にて発生した前記ガスが一端側から内側に供給されるシリンダと、
前記シリンダの内側で摺動可能に前記シリンダに収容され、前記シリンダに供給されたガスの圧力で前記シリンダの他端側へ摺動するピストンと、
シートベルト装置を構成する所定の部材に先端側が連結されると共に、基端側が前記シリンダの一端側から前記シリンダの内側に入り込み更に前記ピストンを貫通し、基端側へ引っ張られることにより前記所定の部材を介して前記シートベルト装置を構成するウエビングベルトの張力を増加させる連結手段と、
前記シリンダの径方向に沿った径寸法が前記ピストンよりも小さく形成されて、前記ピストンよりも前記シリンダの他端側に配置されると共に前記ピストンを貫通した前記連結手段の基端側が一体的に連結され、前記ガスの圧力で前記シリンダの他端側へ摺動する前記ピストンに押圧されて前記シリンダの他端側へ移動して前記連結手段を引っ張ると共に、前記ピストンにおける前記シリンダ他端側の面に接して前記ピストンと前記連結手段の間を通過しようとする前記ガスが前記ピストンよりも前記シリンダの他端側に抜けることを抑制する引張手段と、
前記引張手段よりも前記シリンダの他端側に設けられて、前記シリンダ他端側への前記引張手段の移動を許容すると共に前記ピストンに干渉して前記シリンダ他端側への前記ピストンの摺動を規制する規制手段と、
を備えるプリテンショナ。
【請求項2】
前記シリンダの中間部よりも他端側で前記シリンダに形成されて、内周部における前記シリンダの中心軸線からの径方向寸法が前記引張手段の外径寸法以上で前記ピストンの外径寸法未満とされた規制部を前記規制手段とした請求項1に記載のプリテンショナ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−63178(P2011−63178A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217289(P2009−217289)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】