説明

プリンターの記録紙搬送制御方法およびプリンター

【課題】繰り出しローラーによる記録紙繰り出し動作を適切に制御することにより、テンションガイドによる張力緩和性能が制限されている場合においても、記録紙を常に適切な張力状態で搬送することのできるプリンターの記録紙搬送制御方法を提案すること。
【解決手段】ロール紙プリンター1の紙送りローラー対34による紙送り時には、テンションガイド32の変位に基づき記録紙8aに作用する張力が許容上限値を超えたことが検出されると(時点t2)、その時点から送り速度V(34)に対応した動作開始遅延時間DLSが経過した後の時点t3で繰り出しローラー対33による繰り出し動作を開始し、張力が許容上限値以下に戻ると、同じく送り速度V(34)に対応した動作停止遅延時間DLEが経過した後の時点t5で繰り出し動作を停止する。繰り出し動作制御にチャタリングを生じさせずに張力変動(紙送りローラー対に作用する負荷変動)を制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロール紙などから引き出される長尺状の記録紙にテンションガイドによって一定の張力を与えた状態で、当該記録紙を繰り出しローラーおよび紙送りローラーを経由させて印刷位置に向けて搬送して印刷を行うプリンターに関する。さらに詳しくは、搬送される記録紙が適切な張力状態に保持されるように、紙送りローラーの記録紙搬送動作を補助するための繰り出しローラーによる記録紙繰り出し動作を制御可能なプリンターの記録紙搬送制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レシートなどを発行するロール紙プリンターでは、長尺状の記録紙がロール状に巻き取られた構成のロール紙が用いられている。ロール紙は転動可能な状態でロール紙収納部に収納され、紙送りローラーによって、ロール紙から繰り出された記録紙が印刷位置に向けて搬送され、印刷位置において印刷ヘッドによって印刷が施される。記録紙の送り負荷が大きく変動すると紙送りローラーによる紙送りに、送りムラ、蛇行などが発生し、印刷品質が低下するおそれがある。そこで、ロール紙から繰り出されて紙送りローラーに至る記録紙の部分を、バネ部材によって付勢されているテンションガイド(緩衝機構)に架け渡し、記録紙を所定の張力状態に保持すると共に、送り負荷の変動をテンションガイドが変位することで吸収できるようにしている。
【0003】
ここで、ロール紙の大型化などに伴い、紙送りローラーに加わる送り負荷が増加し、また、新たなロール紙を使用開始する場合と使い終わり間際のロール紙の場合では送り負荷に大きな差が発生する。このため、紙送りローラーのみでは送りムラ等を十分に抑制できないので、テンションガイドの上流側の部位に、紙送りを補助するための繰り出しローラーを配置することが提案されている。特許文献1、2には、このような繰り出しローラーを備えたロール紙供給機構が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−203563号公報
【特許文献2】特開2007−203564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
繰り出しローラーは、記録紙の張力状態を監視するセンサーによって駆動を制御することができる。張力が許容上限値を超えた場合には繰り出しローラーによる記録紙の繰り出し動作を開始して紙送りローラーによる紙送りを補助し、記録紙の張力が許容上限値以下に戻ると繰り出し動作を停止すればよい。
【0006】
ここで、特にキャリッジを搭載したシリアルプリンターの場合などでは、記録紙は一行ごとに間欠送りされるので、記録紙の張力(紙送り負荷)は絶えず変動している。テンションガイドの変位量を大きくしておけば、記録紙の張力変動を十分に緩和することが可能である。しかし、プリンターの小型化、低コスト化などの要求から、大きく変位可能なテンションガイドを設置できない場合や、そのようなテンションガイドを設置可能な大きな設置スペースを確保ができない場合が多い。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、繰り出しローラーによる記録紙の繰り出し動作を適切に制御することにより、テンションガイドによる張力緩和性能が制限されている場合においても、記録紙を常に適切な張力状態で搬送することのできるプリンターの記録紙搬送制御方法、および、プリンターを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のプリンターの記録紙搬送制御方法は、
繰り出しローラーによる紙繰り出し位置および紙送りローラーによる紙送り位置の間に位置するテンションガイドに、長尺状の記録紙を架け渡した状態にし、
前記テンションガイドによって所定の張力を付与した状態で、前記繰り出し位置から前記紙送り位置に向かう搬送路に沿って、前記紙送りローラーによって前記記録紙を順方向あるいは逆方向に搬送し、
前記記録紙に生ずる張力が予め定めた許容上限値を超えたか否かを検出し、
前記記録紙を前記順方向に搬送する場合には、前記張力が許容上限値を超えたことが検出された時点から、所定の動作開始遅延時間だけ遅延させた後の時点において、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の繰り出し動作を開始することを特徴としている。
【0009】
また、本発明では、前記記録紙を前記順方向に搬送する場合には、前記張力が前記許容上限値以下になったことが検出された時点から、所定の動作停止遅延時間だけ遅延させた後の時点において、前記繰り出し動作を停止することを特徴としている。
【0010】
印刷時などにおける記録紙の送り動作においては、記録紙の張力(送り負荷)が絶えず変動する。したがって、記録紙の張力が一時的に許容上限値を超えても再び許容上限値以下に戻る場合が多い。記録紙の張力を検出するセンサーの出力に応じて繰り出しローラーによる繰り出し動作の開始および停止を制御すると、許容上限値前後の張力が記録紙に加わっている状態では張力が許容上限値を跨ぎ、繰り返し上下に変動する場合が多く、繰り出し動作の制御が、所謂、チャタリングあるいはフラッタリング状態に陥ってしまう。本発明では、記録紙の繰り出し動作の制御にヒステリシスを持たせているので、このような不所望な制御状態を回避できる。
【0011】
本発明のプリンターの記録紙搬送制御方法では、前記紙送りローラーによる前記記録紙の送り速度が速い程、前記動作開始遅延時間および前記動作停止遅延時間の少なくとも一方を短くすることを特徴としている。
【0012】
送り速度が速い場合には記録紙に作用する張力が短時間で増加するので、それに対応できるように、動作開始遅延時間として短い時間を設定し、迅速に繰り出しローラーによって紙送り動作を補助することが望ましい。また、記録紙に作用している張力が許容上限値以下に戻った場合にも、直ちに繰り出しローラーによる記録紙繰り出し動作を停止することにより、記録紙の張力が大幅に下がり記録紙に余分な弛みが発生して紙詰まりが発生しやすくなる状態になることを回避できる。
【0013】
また、本発明のプリンターの記録紙搬送制御方法では、前記記録紙を前記順方向に搬送する場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の繰り出し速度を前記紙送りローラーによる前記送り速度よりも速くすることを特徴としている。紙送りローラーによる送り速度に比べて、繰り出しローラーによる繰り出し速度を常に速くなるように設定しておくことにより、記録紙の張力を低減でき、これにより、紙送りローラーに作用する送り負荷を低減できるので、紙送りローラーの下流の印刷位置に向けて記録紙を精度良く送り込むことができる。
【0014】
次に、本発明のプリンターの記録紙搬送制御方法では、前記記録紙を前記順方向に搬送する場合には、前記紙送りローラーによる前記記録紙の送り動作が停止した時点から前記繰り出しローラーによる前記記録紙の繰り出し量をカウントし、前記繰り出し量が予め定めた値を超えた場合は前記繰り出しローラーによる前記繰り出し動作を強制停止することを特徴としている。
【0015】
紙送りローラーによる送り動作が停止した後に、繰り出しローラーによる繰り出し動作が継続する場合には、これらのローラーの間に位置する記録紙の部分が紙詰まり状態に陥っている、張力を検出するセンサーに異常が発生した等、プリンターがエラー状態に陥ったものと推定できる。したがって、この場合には直ちに動作を中止することが望ましい。
【0016】
次に、本発明のプリンターの記録紙搬送制御方法において、前記記録紙を前記逆方向に搬送する場合には、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量が第1所定量以上の場合にのみ、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作を行うことを特徴としている。一般的に、記録紙の逆送り量が少ない場合には、繰り出しローラーと紙送りローラーの間に、逆送りされた記録紙の部分を溜めても紙詰まり状態に陥るおそれが無い。これに対して、逆送り量が多い場合には、繰り出しローラーと紙送りローラーの間に、逆送りされた多量の記録紙の部分が折り重なった状態で溜まってしまう。記録紙が折り重なった状態になると、次に行われる記録紙の順送り時に、折り重なった状態の記録紙の部分が紙詰まりの原因になりやすい。本発明では、記録紙の逆送り量が第1所定量以上の場合には、紙送りローラーによって逆送りされた記録紙の部分を、繰り出しローラーによって引き戻すようにしている。したがって、記録紙の逆送り量が多い場合であっても、逆送りされた記録紙が折り重なった状態に陥ることが無く、記録紙の紙詰まりを防止できる。
【0017】
ここで、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作の開始を、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り動作の開始に連動させて行えば良い。記録紙を逆送りする場合には、上流側に負荷となるロール紙がないため、一般に一定の送り速度で行われ、また、記録紙の送り負荷変動も少ない。したがって、張力の値に拘りなく、繰り出しローラーによる記録紙の引き戻し動作の開始を、紙送りローラーによる逆送り動作の開始に連動させることができる。
【0018】
また、逆送りの場合には、順送りの場合とは逆に、繰り出しローラーによる記録紙の引き戻し速度を紙送りローラーによる逆送り速度よりも遅くしておき、紙送りローラーと繰り出しローラーの間の記録紙の部分に過剰な張力が発生しないようにしておけばよい。
【0019】
さらに、逆送りの場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し量を、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量よりも少ない値に設定し、前記記録紙を前記引き戻し量だけ引き戻した時点で、前記繰り出しローラーによる前記引き戻し動作を停止すればよい。一般に、紙送りローラーと繰り出しローラーの間の搬送経路上には記録紙を溜める多少の余裕があるので、繰り出しローラーによる記録紙の引き戻し量を少なくしておいても問題がない。
【0020】
また、次に、本発明のプリンターの記録紙搬送制御方法では、前記記録紙を前記逆方向に搬送する場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し速度と前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り速度とをほぼ同一にし、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り動作と前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作とを同期させて行うことが望ましい。
【0021】
本発明によれば、記録紙の順方向への搬送が終了した時点では、記録紙は許容上限値よりも低い張力が生じている適切な張力状態に保持されている。従って、繰り出しローラーによる引き戻し速度と紙送りローラーによる逆送り速度とをほぼ同一にして逆送り動作と引き戻し動作とを同期させて行えば、紙送り位置と繰り出し位置の間は、記録紙は記録紙の順方向への搬送が終了した時点の適切な張力状態のままで逆方向に搬送される。この結果、記録紙を逆方向に搬送する間に、紙送り位置と繰り出し位置の間で記録紙が蛇行してしまうことを回避できるので、紙送りローラーによる記録紙の逆送り量が安定し、紙幅方向における記録紙の位置がずれることもない。よって、その後に記録紙を順方向に搬送して印刷を行う際に、印刷品質が低下することを回避できる。また、このように記録紙を逆方向に搬送すると繰り出し位置よりも上流側に記録紙が弛むので、その後に記録紙を順方向に搬送して印刷を行う際にこの弛みが取れると紙送りローラーに衝撃負荷が発生するという問題があるが、記録紙が逆方向に搬送されている間、記録紙に生じている張力は許容上限値よりも低い値に維持されているので、このような衝撃負荷が発生しても、衝撃負荷はテンションガイドによって緩和できる。
【0022】
次に、本発明のプリンターの記録紙搬送制御方法では、前記記録紙を前記逆方向に搬送する場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し量を、予め定めた第2所定量以上であり、かつ、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量以上に設定するとともに、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し速度を前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り速度よりも遅くし、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作を開始し、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し量が前記第2所定量に達した時点から前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り動作を開始し、前記記録紙を前記引き戻し量だけ引き戻した時点で、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作を停止することが望ましい。
【0023】
本発明によれば、記録紙の順方向への搬送が終了した時点では、記録紙は許容上限値よりも低い張力が生じている適切な張力状態で保持されている。そこで、記録紙を逆方向に搬送する際には、まず、繰り出しローラーによる引き戻し動作を開始して記録紙を第2所定量だけ引き戻して記録紙に生じている張力の値を高くする。しかる後に、繰り出しローラーによる引き戻し速度よりも速い逆送り速度で紙送りローラーによる逆送り動作を開始する。このようにすれば、記録紙に生じている張力を高い値から漸減させながら、記録紙を逆方向に搬送することができる。また、繰り出しローラーによる記録紙の引き戻し量は、紙送りローラーによる記録紙の逆送り量以上に設定されているので、記録紙を逆方向に搬送している間は、紙送り位置と繰り出し位置の間において記録紙は張力状態に維持される。この結果、記録紙を逆方向に搬送する間に、紙送り位置と繰り出し位置の間で記録紙が蛇行してしまうことを回避できるので、紙送りローラーによる記録紙の逆送り量が安定し、紙幅方向における記録紙の位置がずれることもない。従って、その後に記録紙を順方向に搬送して印刷を行う際に、印刷品質が低下することを回避できる。また、このように記録紙を逆方向に搬送すると繰り出し位置よりも上流側に記録紙が弛むので、その後に記録紙を順方向に搬送して印刷を行う際にこの弛みが取れると紙送りローラーに衝撃負荷が発生するという問題があるが、記録紙が逆方向に搬送されている間に記録紙に生じている張力は高い値から漸減させられているので、このような衝撃負荷が発生しても、衝撃負荷はテンションガイドによって緩和することができる。
【0024】
この場合において、前記第2所定量は、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作により前記記録紙に前記許容上限値の張力を生じさせる引き戻し量であることが望ましい。このようにすれば、繰り出しローラーが記録紙を第2所定量だけ引き戻した時点で、記録紙に加わる張力が許容上限値を超えてしまうという弊害を防止できる。また、このようにすれば、第2所定量を長く確保できるので、紙送りローラーによる記録紙の逆送り量が多くなる場合でも、記録紙を張力状態で搬送することが容易になる。
【0025】
ここで、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量が前記第2所定量以上の場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し量を、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量とほぼ同一量に設定することが望ましい。このようにすれば、紙送りローラーによる記録紙の逆送り量が第2所定量以上の場合には、記録紙を逆方向に搬送する動作が終了した時点の記録紙の張力状態と、記録紙を逆方向に搬送する動作を開始した時点の張力状態とが同じになる。すなわち、記録紙を逆方向に搬送する動作が終了した時点で記録紙は適切な張力状態に戻る。従って、その後に記録紙を順方向に搬送して印刷を行う際に記録紙の張力状態を適切な状態に保持することが容易であり、印刷品質が低下することを回避できる。また、このようにしておくことで、次の順方向の動作の開始の際に、記録紙に生じている張力が予め定めた許容上限値を超えることがないため、所定の動作開始遅延時間だけ遅延させた後の時点において、繰り出しローラーによる記録紙の繰り出し動作を開始することなく、必ず紙送りローラーの動作が行われるため、印字の高速化を図ることができる。
【0026】
ここで、一般的に、プリンターは、ロール紙から記録紙が引き出される紙引き出し位置と繰り出しローラーとの間には、逆方向に搬送された記録紙の弛みを受け入れ可能なデッドスペースを備えている場合が多いが、このようなデッドスペースがない場合には、予め、前記記録紙がロール紙から引き出される紙引き出し位置と前記紙繰り出し位置の間に前記記録紙の弛みを受け入れる空間を形成しておくことが望ましい。
【0027】
一方、本発明による、上記の記録紙搬送制御方法により長尺状の記録紙を搬送するプリンターは、前記記録紙の印刷を行う印刷ヘッドと、前記紙送りローラーと、前記テンションガイドと、前記繰り出しローラーと、前記張力が前記許容値を超えたか否かを検出するセンサーと、前記紙送りローラーを回転駆動するための紙送りモーターと、前記繰り出しローラーを回転駆動するための繰り出しモーターと、前記センサーの検出出力に基づき前記紙送りモーターおよび前記繰り出しモーターを制御して前記記録紙の搬送動作を制御する制御部とを有していることを特徴としている。
【0028】
また、本発明による、上記の記録紙搬送制御方法により長尺状の記録紙を搬送するプリンターは、前記ロール紙を収納するロール紙収納部と、前記ロール紙から繰り出される長尺状の記録紙の印刷を行う印刷ヘッドと、前記紙送りローラーと、前記テンションガイドと、前記繰り出しローラーと、前記張力が前記許容上限値を超えたか否かを検出するセンサーと、前記紙送りローラーを回転駆動するための紙送りモーターと、前記繰り出しローラーを回転駆動するための繰り出しモーターと、前記センサーの検出出力に基づき前記紙送りモーターおよび前記繰り出しモーターを制御して、前記記録紙の前記順送りおよび前記逆送りを制御する制御部と、前記ロール紙収納部と前記繰り出しローラーとの間に形成されている前記空間とを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、繰り出しローラーによる記録紙の繰り出し動作の開始および停止制御を、紙送りローラーによる記録紙の送り動作の開始および停止の時点から所定の遅延時間が経過した後に行うようにしている。また、遅延時間を紙送りローラーによる送り速度に対応させ、速度が速い程、短い遅延時間としている。したがって、繰り出しローラーによる記録紙の繰り出し制御にフラッタリングが生ずることがなく、搬送される記録紙の張力を許容上限値以下に維持でき、張力変動幅も少なくすることができる。よって、紙送りローラーによって印刷位置に送り込まれる記録紙の紙送り精度を高めることができ、印刷品質を高めることができる。
【0030】
また、紙送りローラーによる送り速度に応じて、きめ細かく繰り出しローラーによる記録紙繰り出し動作を制御しているので、記録紙の張力変動を抑制でき、張力変動を抑制するためのテンションガイドの変位量を小さくでき、小型のテンションガイドを用いることが可能になり、プリンターの小型化、低コスト化に有利である。
【0031】
さらに、紙送りローラーによる送り動作が停止した後にも繰り出しローラーによる記録紙の繰り出し動作が継続している場合には繰り出しローラーの動作を強制的に停止するようにしている。このようにすると、紙詰まり状態が進行して記録紙の破損などに繋がる事態を未然に防止できる。
【0032】
また、記録紙を逆方向に搬送する場合においても、紙送り位置と繰り出し位置の間で記録紙を張力状態で搬送することができるので、紙送りローラーによる記録紙の逆送り量が安定し、紙幅方向における記録紙の位置がずれることもない。従って、その後に順方向に搬送して印刷を行う際に、印刷品質が低下することがない。また、順方向に搬送する際に必ず紙送りローラーの動作が行われるため、印字の高速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を適用したロール紙プリンターの外観斜視図である。
【図2】ロール紙プリンターのプリンター機構部を示す斜視図である。
【図3】ロール紙プリンターの内部構造を示す概略構成図および部分説明図である。
【図4】ロール紙プリンターの制御系を示す概略ブロック図である。
【図5】繰り出し動作および引き戻し動作を示す概略フローチャートである。
【図6】繰り出し動作および引き戻し動作のタイミングチャートである。
【図7】記録紙の逆方向への搬送制御動作の別の例を示すフローチャートである。
【図8】記録紙の逆方向への搬送制御動作の別の例のタイミングチャートである。
【図9】逆方向への搬送時の記録紙とテンションガイドの状態を示す説明図である。
【図10】記録紙の逆方向への搬送制御動作の更に別の例を示すフローチャートである。
【図11】記録紙の逆方向への搬送制御動作の更に別の例のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、図面を参照して、本発明による記録紙搬送制御方法を適用したプリンターの実施の形態を説明する。
【0035】
(全体構成)
図1(a)は本発明の実施の形態に係るインクジェット式のロール紙プリンターの外観斜視図であり、図1(b)はその開閉蓋を全開にした状態の外観斜視図である。
【0036】
これらの図に示すように、ロール紙プリンター1は全体としてほぼ直方体形状をしたプリンター本体2と、このプリンター本体2の前面に取り付けた開閉蓋3とを有している。プリンター本体2の外装ケース2aの前面には所定幅の記録紙排出口4が形成されている。記録紙排出口4の下側には排紙ガイド5が前方に突出しており、当該排紙ガイド5の側方には蓋開閉レバー6が配置されている。外装ケース2aにおける排紙ガイド5および蓋開閉レバー6の下側には、ロール紙出し入れ用の矩形の開口部2bが形成されており、この開口部2bが開閉蓋3の蓋カバー3aによって封鎖されている。
【0037】
蓋開閉レバー6を操作すると開閉蓋3のロックが解除される。排紙ガイド5を前方に引くと、開閉蓋3が下端部を中心として、図1(a)に示す起立状態の閉じ位置3Aから、図1(b)に示す前方にほぼ水平となる開き位置3Bまで開く。開閉蓋3が開くと、プリンター本体2の内部に形成されているロール紙収納部7が開放状態となる。同時に、印刷位置を規定するためのプラテン26が開閉蓋3と一緒に移動してロール紙収納部7から記録紙排出口4に到る記録紙搬送経路が開放状態となり、プリンター前方からロール紙の交換作業などを簡単に行うことができるようになっている。なお、図1(b)においては、蓋カバー3aおよび蓋開閉レバー6を省略して示してある。
【0038】
図2はロール紙プリンター1の外装ケース2aおよび蓋カバー3aに覆われているプリンター機構部を示す斜視図であり、図2(a)は開閉蓋3を閉じた状態のプリンター機構部を示し、図2(b)は開閉蓋3を開けた状態のプリンター機構部を示す。
【0039】
プリンター機構部10は、板金製のプリンター本体フレーム11を備え、ここに各部品が搭載されている。プリンター本体フレーム11は、本体側フレームユニット部分12と、この上に水平に搭載されているヘッド側フレームユニット部分13とを備えている。
【0040】
本体側フレームユニット部分12は、底板14、左右の側板15、16および背面板17を備えており、この内部に、ロール紙収納部7が形成されている。左右の側板15、16の前端部の下端にはプリンター幅方向に水平に延びる支軸18が架け渡されており、この支軸18を中心として開閉可能な状態で開閉蓋3が取り付けられている。開閉蓋3は板金製の矩形の蓋フレーム3bを備えており、この蓋フレーム3bは4節リンク機構に取り付けられている。4節リンク機構は、左右の前側平行リンク21、22と、左右の後側平行リンク23、24と、これら4本のリンク21〜24の上端に水平に取り付けられている直方体形状のプラテンフレーム25から構成されている。プラテンフレーム25の上端には水平にプラテン26が取り付けられている。4節リンク機構によって、開閉蓋3は図2(a)に示す閉じ位置3Aから図2(b)に示す開き位置3Bまでの間を、プラテン26をほぼ水平に保持したまま開閉可能である。
【0041】
ここで、開閉可能な開閉蓋3と、固定側のプリンター本体フレーム11の側板16との間には、引張りコイルばねからなる緩衝ばね27が架け渡されている。この緩衝ばね27によって、開閉蓋3を閉じ位置3Aに係止しているロック部材9を外して開閉蓋3を開放可能にした際に、勢い良く開閉蓋3が前方に倒れることが防止される。
【0042】
次に、ヘッド側フレームユニット部分13の内部には、後述するように、インクジェットヘッド28、インクジェットヘッド28が搭載されているヘッドキャリッジ29、キャリッジ駆動機構などが組み込まれている(図3(a)参照)。
【0043】
(プリンターの内部構成)
図3(a)はロール紙プリンター1の内部構成を示す概略断面図であり、図3(b)はその部分断面図である。これらの図を参照して説明すると、プリンター内部に形成されているロール紙収納部7にはロール紙8がプリンター幅方向に向いた横置き状態で収納される。ロール紙収納部7の上側には、ヘッド側フレームユニット部分13が水平に取り付けられている。ヘッド側フレームユニット部分13には、インクジェットヘッド28、ヘッドキャリッジ29、および、ヘッドキャリッジ29のプリンター幅方向への移動をガイドするキャリッジガイド軸30が配置されている。インクジェットヘッド28はインクノズル面28aが下向きになるようにヘッドキャリッジ29に搭載されている。また、ヘッド側フレームユニット部分13には、ヘッドキャリッジ29をキャリッジガイド軸30に沿って往復移動させるためのキャリッジモーター31aおよびタイミングベルト31bを備えたキャリッジ搬送機構が搭載されている。
【0044】
プラテン26は、インクジェットヘッド28のノズル面28aに対して、下側から一定のギャップを開けて対峙しており、当該プラテン26によってインクジェットヘッド28による印刷位置が規定されている。プラテン26の後端には下方に湾曲しているテンションガイド32が取り付けられている。
【0045】
テンションガイド32は、図3(b)に示すように、実線で示す位置から想像線で示す位置までの間を上下に旋回可能であり、バネ力によって常に実線で示す位置に付勢されている。ロール紙収納部7に収納されているロール紙8から引き出された記録紙8aはテンションガイド32によって所定の張力が付与された状態で印刷位置を経由する記録紙搬送経路に沿って引き出される。また、テンションガイド32の近傍には、テンションガイド32が下側に所定量だけ移動したことを検出するセンサー32aが配置されている。センサー32aは例えばメカニカルスイッチなどの接触型のセンサーであるが、フォトセンサーなどの非接触型のものであってもよい。
【0046】
記録紙搬送経路には、繰り出しローラー33aおよび従動ローラー33bからなる繰り出しローラー対33と、紙送りローラー34aおよび従動ローラー34bからなる紙送りローラー対34と、搬送ローラー35aおよび従動ローラー35bからなる搬送ローラー対35が配置されている。
【0047】
繰り出しローラー対33は、ロール紙収納部7の後側の部位におけるテンションガイド32の下方に配置されている。繰り出しローラー33aは、プリンター本体フレーム11の左右の側板15、16の間に、プリンター幅方向に水平に架け渡されている。この繰り出しローラー33aには減速歯車列36を介して繰り出しモーター37から回転力が伝達される。従動ローラー33bは、開閉蓋3の側のプラテンフレーム25に取り付けられたローラー支持レバー38の先端部(プリンター後側の端部)に回転自在の状態で支持されている。開閉蓋3を閉じた状態では、緩衝ばね27のばね力によって、記録紙8aを介して繰り出しローラー33aに押し付けられる。
【0048】
紙送りローラー対34はプラテン26の後側の部位に配置されており、その紙送りローラー34aは開閉蓋3の側のプラテンフレーム25に取り付けられており、その従動ローラー34bはプリンター本体フレーム11の側に取り付けられている。開閉蓋3を閉じた状態では、紙送りローラー34aに、プリンター本体フレーム11に搭載されている紙送りモーター39から減速歯車列40を介して回転力が伝達される。また、従動ローラー34bが所定の押し付け力で、記録紙8aを介して紙送りローラー34aに押し付けられる。
【0049】
搬送ローラー対35はプラテン26の前側の部位に配置されており、その搬送ローラー35aは開閉蓋3の側のプラテンフレーム25に取り付けられており、その従動ローラー35bはプリンター本体フレーム11の側に取り付けられている。搬送ローラー35aは紙送りローラー34aと不図示の歯車列を介して連結されており、当該紙送りローラー34aと同期して回転する。開閉蓋3を閉じた状態では、記録紙8aを挟み、従動ローラー35bが搬送ローラー35aに押し付けられる。
【0050】
ロール紙8から繰り出された記録紙8aは、繰り出しローラー対33の繰り出し位置(ニップ部)、テンションガイド32、紙送りローラー対34の送り位置(ニップ部)を介して、プラテン26の表面を通り、搬送ローラー対35を介して記録紙排出口4に至る記録紙搬送経路に沿って引き出される。繰り出しローラー対33および紙送りローラー対34の間に掛け渡されている記録紙8aの部分はテンションガイド32に架け渡されており、テンションガイド32によって上方に付勢されて、所定の張力が付与された状態となっている。
【0051】
紙送りローラー対34を経由してプラテン26上の印刷位置を搬送される記録紙8aの表面にインクジェットヘッド28により印刷が行われる。記録紙8aの幅方向への一連の行印刷が終了した後は、各ローラー対33〜35が回転駆動されて1行分の所定ピッチだけ記録紙8aが送り出される。この後に、次の行印刷が行われる。このように、記録紙8aは、所定ピッチで間欠的に送り出されながらインクジェットヘッド28によって記録紙8aに印刷が施される。印刷後の記録紙8aが排出される記録紙排出口4には記録紙切断装置、例えば鋏式の記録紙切断装置(図示せず)が配置されている。記録紙切断装置によって、これらの間に位置する記録紙8aが幅方向に切断される。
【0052】
(制御系)
図4はロール紙プリンター1の制御系を示す概略ブロック図である。制御系は、マイクロコンピューターを備えた駆動制御部50を中心に構成されており、この駆動制御部50は、ホストコンピューターなどの上位機器51からの印刷データの供給を受けて、紙送り動作および印刷動作を実行する。駆動制御部50には、キャリッジ位置を示す検出信号などの各種の不図示のセンサーからの検出信号が入力され、これらに基づき、駆動制御部50は、繰り出しモーター37、紙送りモーター39およびキャリッジモーター31aを、モータードライバー52、53、54を介して駆動制御し、インクジェットヘッド28をヘッドドライバー55を介して駆動制御する。繰り出しモーター37、紙送りモーター39にはステッピングモーターが用いられている。勿論、他の形式のモーターであってもよい。
【0053】
ここで、駆動制御部50は、テンションガイド32の移動位置を検出するセンサー32aからの検出信号32S(記録紙8aの張力状態)、紙送りモーター39のオンオフ(紙送り動作の開始および停止)、および、紙送りモーター39の回転速度(紙送りローラー34aによる記録紙の送り速度)、紙送りモーター39の駆動ステップ数(紙送り量)に基づき、繰り出しモーター37の駆動を制御して、繰り出しローラー33aによる記録紙の繰り出し動作および引き戻し動作を制御する。また、記録紙8aの順送り時と逆送り時では異なる駆動制御形態で繰り出しモーター37を駆動制御する。
【0054】
駆動制御部50の記憶領域には繰り出しモーター37の駆動制御のために用いる対応テーブルA、Bが展開されている。後述のように、これらの対応テーブルに基づき繰り出しローラー33aによる記録紙の繰り出し動作の開始および停止の遅延時間が設定される。
【0055】
(記録紙の順方向への搬送制御動作)
図5(a)はロール紙プリンター1における記録紙の搬送制御動作を示す概略フローチャートであり、記録紙8aを順送りする場合における繰り出しモーター37によって駆動される繰り出しローラー対33による記録紙の繰り出し動作を示すものである。図6(a)はそのタイミングチャートである。
【0056】
記録紙8aは、繰り出しローラー対33による繰り出し位置および紙送りローラー対34による送り位置の間に位置する長尺状の記録紙8aの部分をテンションガイド32に架け渡した状態に配置されている。この状態においては、紙送りローラー対34に供給される記録紙8aにはテンションガイド32によって所定の張力が付与されている。
【0057】
例えば、記録紙8aの先頭がインクジェットヘッド28の印刷位置に位置しているものとし、この状態において上位機器51から印刷データを受信して印刷動作が開始されると、記録紙8aはその先頭部分の印刷開始位置が印刷位置まで送り出される。まず、紙送りモーター39が駆動され、紙送りローラー対34および搬送ローラー対35が順送り方向に記録紙8aの搬送を開始する(図6(a)の時点t1)。記録紙8aが紙送りローラー対34によって引き出されるので、記録紙8aの張力が増加し、張力の増加に応じてテンションガイド32が下方に押し込まれる。
【0058】
記録紙8aの張力が増加して予め設定されている許容上限値を超えると、テンションガイド32がセンサー32aによる検出領域まで下がり、センサー32aの検出信号32Sがオフからオンに立ち上がる(図6(a)の時点t2)。駆動制御部50は、検出信号32Sがオンに切り替わったことにより張力が許容上限値を超えたと判断する(図5(a)のステップST1)。
【0059】
駆動制御部50は、張力が許容上限値を超えたことが検出された時点から、所定の動作開始遅延時間DLSをカウントし(図5(a)のステップST2)、この時間だけ遅延させた後の時点において、繰り出しモーター37を起動し、繰り出しローラー33aによる記録紙8aの繰り出し動作を開始する(図5(a)のステップST3、図6(a)の時点t3)。ここで、繰り出しモーター37によって回転駆動される繰り出しローラー33aによる記録紙8aの繰り出し速度V(33)は、紙送りモーター39によって回転駆動されている紙送りローラー34aによる記録紙8aの送り速度V(34)よりも速い速度に設定される。
【0060】
繰り出しローラー対33による記録紙8aの繰り出し速度が速いので、繰り出しローラー対33による記録紙の繰り出し量の方が紙送りローラー対34による紙送り量よりも多くなり、記録紙8aに弛みが生じ、張力が緩和される。これに伴ってテンションガイド32がバネ力によって上方に押し戻される。記録紙8aの張力が許容上限値以下に戻ると、テンションガイド32がセンサー32aの検出領域から上方に外れ、検出信号32Sが再びオフに戻る(図5(a)のステップST5、図6(a)の時点t4)。
【0061】
駆動制御部50は、張力が許容上限値以下に戻ったことが検出された時点から、所定の動作停止遅延時間DLEをカウントし(図5(a)のステップST6)、この時間だけ遅延させた後の時点において、繰り出しモーター37を停止し、繰り出しローラー対33による記録紙8aの繰り出し動作を停止する(図5(a)のステップST7、図6(a)の時点t5)。以後、センサー32aのオンオフに応じて所定の遅延時間の経過後に繰り出しモーター37の起動、停止を行って、繰り出しローラー33対による記録紙の繰り出し動作の開始および停止を制御し、紙送りローラー対34による記録紙の送り動作を補助して、記録紙8aに作用する張力の増加を抑制すると共に、張力の変動を抑制する。
【0062】
このように、記録紙8aの張力が増加すると繰り出しローラー対33による記録紙の繰り出し動作を行って記録紙8aの張力を低減している。また、繰り出しローラー対33による繰り出し動作の開始制御および停止制御には動作開始遅延時間DLS、動作停止遅延時間DLEにより所定のヒステリシスを持たせてある。記録紙8aの送り動作においては通常は記録紙の張力(送り負荷)が絶えず変動する。したがって、記録紙8aの張力が一時的に許容上限値を超えても再び許容上限値以下に戻る場合が多い。記録紙8aの張力を検出するセンサー32aのオンオフに応じて繰り出しローラー対33による記録紙繰り出し動作の開始および停止を制御すると、許容上限値前後の張力が記録紙に加わっている状態では張力が許容上限値を跨ぎ、繰り返し上下に変動する場合が多く、繰り出し動作の制御がチャタリング状態に陥ってしまう。本実施の形態では、このような状態を回避することができる。
【0063】
ここで、ロール紙プリンター1において、印刷動作においては、印刷と搬送が交互に行われるので、印刷中における記録紙の平均紙送り速度は大幅に低下し、印刷のスループットが低下する。したがって、印刷動作を行う場合には印刷のスループットの低下を抑制するために、一般に、紙送りローラーによる記録紙の送り速度を最も速い速度に設定している。逆に、マニュアルフィードにより記録紙を搬送する場合などでは、記録紙を送り過ぎることの無いように、紙送りローラーによる記録紙の送り速度を最も遅い速度に設定している。
【0064】
そこで、本実施の形態では、駆動制御部50は動作開始遅延時間DLSおよび動作停止遅延時間DLEを、紙送りローラー対34による送り速度V(34)に応じて変更している。そのために、駆動制御部50の記憶領域内には、送り速度V(34)と動作開始遅延時間DLSとの対応テーブルAと、送り速度V(34)と動作停止遅延時間DLEとの対応テーブルBが記憶保持されている。勿論、関数計算によって送り速度V(34)から動作開始および停止の遅延時間を算出してもよいし、検出信号32Sをディスクリートな遅延回路を介して駆動制御部50に入力してもよい。いずれの場合においても、送り速度V(34)が速い程、遅延時間を短くする。
【0065】
例えば、図5(b)に示すように、対応テーブルAには送り速度V(34)を4つの速度領域S1〜S4に区切り、最も遅い速度領域S1から最も速い速度領域S4に対して、段階的に短くした遅延時間T1〜T4が割り当てられている。対応テーブルBも同様に構成されている。
【0066】
したがって、紙送りローラー対34による記録紙の送り速度V(34)が速い場合には記録紙8aに作用する張力の増加速度が速いので(より短時間で張力が許容上限値を超えるので)、それに対応して、動作開始遅延時間DLSとして短い時間が設定され、応答性良く繰り出しローラー34aによって紙送り動作が補助される。また、記録紙8aに作用している張力が許容上限値以下に戻った場合にも、直ちに繰り出しローラー33aによる記録紙繰り出し動作が停止するので、記録紙8aの張力が大幅に下がり記録紙に大きな弛みが発生して紙詰まりが発生しやすくなる等の弊害を回避できる。
【0067】
次に、駆動制御部50では、繰り出しローラー対33による記録紙繰り出し動作を開始した後は、紙送りローラー対34による記録紙の送り動作が停止した時点から繰り出しローラー対33による記録紙8aの繰り出し量をカウントしている。繰り出しモーター37がステッピングモーターの場合にはその駆動ステップ数をカウントする。紙送り動作が停止した後からの繰り出しローラー33による記録紙8aの繰り出し量が予め設定された量を超えた場合には、紙詰まりなどのエラーが発生したものと判断して、繰り出しモーター37を強制的に停止すると共に、エラーが発生した旨のメッセージをロール紙プリンター1の表示ランプ(図示せず)を介して表示し、あるいは、上位機器にエラーメッセージを送信し、上位機器のモニター画面上にエラーメッセージを表示させる(図5(a)のステップST4、ST8)。
【0068】
正常な搬送動作においては、繰り出しローラー対33の下流側に位置している紙送りローラー対34による記録紙の送り動作が終了すると、繰り出しローラー対33によって繰り出される記録紙8aに弛みが生じ、張力が低下してテンションガイド32がバネ力によって押し上げられてセンサー32aがオフに切り替わり、繰り出しローラー対33の記録紙繰り出し動作が停止する筈である。
【0069】
紙送りローラー対34による送り動作が停止した後に、繰り出しローラー対33による繰り出し動作が継続している場合には、これらのローラー対33、34の間に位置する記録紙8aの部分が紙詰まり状態に陥って、テンションガイド32に架け渡されている記録紙8aの部分に作用している張力が解除されないことが考えられる。紙詰まり状態において繰り出しローラー対33によって記録紙8aの繰り出し動作を継続すると、繰り出しローラー対33と紙送りローラー対34の間の部分に多量の記録紙8aが繰り出され、この部分に記録紙8aが詰まり、記録紙8aに折り目が付く、破れが生ずる状態などの状態に陥り、回復作業が大変になる。
【0070】
本実施の形態では、このような場合に直ちに繰り出しモーター37を停止して、繰り出しローラー対33による繰り出し動作を停止してエラーメッセージを表示しているので、操作者に対して、紙詰まりなどのエラー状態に迅速に警告できる。
【0071】
(記録紙の逆方向への搬送制御動作)
次に、図5(c)は、記録紙8aを逆送りする場合における繰り出しローラー33aによる記録紙引き戻し動作を示す概略フローチャートであり、図6(b)はそのタイミングチャートである。例えば、印刷が終了した記録紙8aの先端部分が切断された後に、切断位置にある記録紙8aの先頭をインクジェットヘッド28の印刷位置まで戻す頭出し動作において記録紙8aの逆送りが行われる。
【0072】
この場合には、駆動制御部50は、テンションガイド32のセンサー32aの検出信号32Sによらずに繰り出しローラー対33による記録紙の引き戻し動作を制御している。すなわち、紙送りローラー対34による記録紙の逆送り量が第1所定量以上の場合にのみ、繰り出しローラー対33による記録紙の引き戻し動作を行うようにしている。また、繰り出しローラー対33による記録紙の引き戻し動作の開始を、紙送りローラー対34による記録紙の逆送り動作の開始に連動させて行うようにしている(図5(c)のステップST11、図6(b)の時点t11)。
【0073】
紙送りローラー対34による記録紙の逆送り量が少ない場合には、繰り出しローラー対33と紙送りローラー対34の間に、逆送りされた記録紙の部分を溜めても紙詰まり状態に陥るおそれが無い。これに対して、逆送り量が多い場合には、繰り出しローラー対33と紙送りローラー対34の間に、逆送りされた多量の記録紙の部分が折り重なった状態で溜まってしまう。記録紙が折り重なった状態になると、次に行われる記録紙の順送り時に、折り重なった状態の記録紙の部分が紙詰まりの原因になりやすい。記録紙の逆送り量が第1所定量以上の場合にのみ、紙送りローラー対34によって逆送りされた記録紙の部分を、繰り出しローラー対33によって引き戻すことにより、効率良く、記録紙の紙詰まりを防止できる。
【0074】
また、記録紙8aを逆送りする場合には、上流側に負荷となるロール紙8がなく、先端が切断された記録紙8aのみのため負荷が極めて小さいため、一般に一定の逆送り速度で行われ、また、記録紙8aの送り負荷変動も少ない。テンションガイド32に掛かる張力も小さく、センサー32aがONになることもない。したがって、張力の値に拘りなく、繰り出しローラー33aによる記録紙の引き戻し動作の開始を、紙送りローラー対34による逆送り動作の開始に連動させることができる。
【0075】
次に、駆動制御部50は、記録紙8aを逆送りする場合には、順送りの場合とは逆に、繰り出しローラー対33による記録紙の引き戻し速度V(33’)を紙送りローラー対34による逆送り速度V(34’)よりも遅くなるように制御する。これにより、逆送りされる記録紙8aが繰り出しローラー対33によって引かれて、記録紙8aに加わる張力が許容上限値を超えてしまうという弊害を防止できる。
【0076】
また、逆送りの場合には、駆動制御部50は、繰り出しローラー対33による記録紙の引き戻し動作の終了を、当該繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量により制御している。すなわち、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量を、紙送りローラー対34による記録紙の逆送り量に基づき算出する。繰り出しローラー対33による記録紙の引き戻し量は紙送りローラー対34による逆送り量よりも少なく設定しておくことができる。例えば、記録紙の引き戻し量を逆送り量の1/2に設定しておくことができる。算出した引き戻し量を搬送するのに必要な駆動ステップ数を算出し、これに基づき、繰り出しモーター37を逆回転させ(図5(c)のステップST12)、しかる後に動作を停止する(図5(c)のステップST13、図6(b)の時点t13)。
【0077】
(記録紙の逆方向への搬送制御動作の別の例)
次に、図7は記録紙8aの逆方向への搬送制御動作を示すフローチャートである。図8はそのタイミングチャートであり、図8(a)は紙送りローラー対34による逆送り量が第2所定量以上の場合を示し、図8(b)は紙送りローラー対34による逆送り量が第2所定量よりも少ない場合を示している。図9は、記録紙8aの引き戻し動作中における記録紙8aおよびテンションガイド32の状態を模式的に示す説明図であり、図9(a)は記録紙8aの逆方向への搬送が始まる前の状態を示し、図9(b)は記録紙8aが第2所定量だけ引き戻された状態を示し、図9(b)は記録紙8aの引き戻し動作と逆送り動作が並行して行われている状態を示している。
【0078】
記録紙8aの逆方向への搬送は、例えば、印刷が終了した記録紙8aの先端部分が切断された後に、切断位置にある記録紙8aの先頭をインクジェットヘッド28の印刷位置まで戻す頭出し動作において行われる。記録紙8aの先端部分が切断された時点では、記録紙8aの順方向への搬送は終了している。従って、図9(a)に示すように、テンションガイド32は適正位置にあり、記録紙8aは許容上限値よりも低い張力が生じている適切な張力状態で保持されている。
【0079】
記録紙8aを逆方向へ搬送する場合には、駆動制御部50は、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し速度V(33’’)を、紙送りローラー対34による逆送り速度V(34’’)よりも遅くなるように設定する。
【0080】
また、駆動制御部50は、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作の終了を、当該繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量から制御する。すなわち、繰り出しローラー対33による引き戻し量を、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り量に基づいて設定し、設定された引き戻し量を搬送するのに必要な繰り出しモーター37の総駆動ステップ数を予め算出しておく(ステップST21、図8(a)の時点t21、(b)の時点t31)。
【0081】
ここで、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量は、予め定めた第2所定量以上で、かつ、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り量以上に設定される。より詳細には、紙送りローラー対34による逆送り量が第2所定量よりも少ない場合には、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量は第2所定量に設定される。紙送りローラー対34による逆送り量が第2所定量以上の場合には、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量は紙送りローラー対34による逆送り量とほぼ同一量に設定される。第2所定量は、繰り出しローラーの記録紙8aの引き戻し動作によって記録紙8aに許容上限値の張力を生じさせる引き戻し量である。換言すれば、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作によって、適正位置にあるテンションガイド32をセンサーによる検出領域まで下げることができる引き戻し量である。第2所定量は予め測定により求めておくことができるので、第2所定量を逆方向に搬送するのに必要な繰り出しモーター37の所定駆動ステップ数も予め算出されている。
【0082】
次に、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作を開始し、繰り出しローラー対33により記録紙8aを第2所定量だけ引き戻す(ステップST22)。
【0083】
ここで、駆動制御部50は、テンションガイド32のセンサー32aの検出信号32Sによらずに、予め算出されている所定駆動ステップ数だけ繰り出しモーター37を逆回転させることにより、記録紙8aを第2所定量だけ引き戻す。従って、記録紙8aを第2所定量だけ引き戻すための駆動制御が簡易になっている。
【0084】
記録紙8aが第2所定量だけ逆方向に搬送されると、図9(b)に示すように、テンションガイド32は、センサー32aによる検出領域まで下がる。また、繰り出しローラーとロール紙収納部7(紙引き出し位置)の間のデッドスペース60には、逆方向に搬送された記録紙8aが僅かに弛む。
【0085】
繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量が第2所定量に達すると、この時点から、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り動作が始まる(ステップST23)。
【0086】
すなわち、紙送りローラー対34による逆送り量が第2所定量以上の場合には、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作(ステップST24、ST25)と並行して、紙送りローラー対34による逆送り動作が始まる(ステップST23、ST26、ST27、図8(a)の時点t22)。
【0087】
紙送りローラー対34による逆送り量が第2所定量よりも少ない場合には、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量は第2所定量に設定されているので、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作はこの時点で終了する(ステップST24、ST28)。従って、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り動作が単独で始まる(ステップST23、ST26、ST27、図8(b)の時点t32)。
【0088】
ここで、紙送りローラー対34による逆送り量が第2所定量以上であり、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作と並行して紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り動作が行われる場合には、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し速度V(33’’)の方が紙送りローラーによる記録紙8aの逆送り速度V(34’’)よりも遅いので、記録紙8aは、紙送りローラー対34と繰り出しローラー対33の間において当該記録紙8aに生じている張力を漸減させながら搬送される。この結果、図9(c)に示すように、センサー32aによる検出領域まで下がっていたテンションガイド32は、記録紙8aが逆方向に搬送されるのに伴って、適正位置に向かって上方に旋回する。繰り出しローラー対33とロール紙収納部7の間のデッドスペース60には、逆方向に搬送された記録紙8aがさらに弛む。
【0089】
なお、繰り出しローラー対33は、プラテン26の後端部分を中心にして上下方向に旋回するテンションガイド32の下方に配置されている。このため、ステップST21でテンションガイド32が下方に旋回してセンサー32aによる検出領域まで下がると、張力状態の記録紙8aは繰り出しローラー対33の送り位置(ニップ部)に対して繰り出しローラー33aの接線よりも離れた方向から進入するようになる(図9(b)参照)。また、この状態から繰り出しローラー対33が記録紙8aを引き戻すと、送り位置を通過した記録紙8aは繰り出しローラー対33の外周面に巻きついて回転方向に沿うように後退して弛む。この結果、記録紙8aの弛み方向がロール状に巻きつけられていたクセの方向と同じ方向になるので、弛みに対する記録紙8aの反力により記録紙8aの位置が幅方向にずれてしまうことを低減あるいは回避される。また、記録紙8aがラベル用紙の場合には、ラベルが剥離台紙から剥がれてしまうことを防止できる。
【0090】
その後、繰り出しローラー対33を駆動している繰り出しモーター37の駆動ステップ数が総駆動ステップ数に達すると、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作は終了する(ステップST24、ST28、図8(a)の時点t23)。また、駆動制御部50は、紙送りローラー対34によって記録紙8aを必要な逆送り量だけ搬送すると、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り動作を終了する(ステップST26、ST29、図8(a)の時点t24)。
【0091】
次に、紙送りローラー対34による逆送り量が第2所定量より少なくて、ステップST21の時点で、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作が終了する場合でも、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り動作が行われると、記録紙8aは当該記録紙8aに生じている張力を漸減させながら搬送される。従って、センサー32aによる検出領域まで下がっていたテンションガイド32は、記録紙8aが逆方向に搬送されるのに伴って、適正位置に向かって上方に旋回する。
【0092】
その後、駆動制御部50は、紙送りローラー対34によって記録紙8aを必要な逆送り量だけ搬送すると、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り動作を終了する(ステップST26、ST29、図8(b)の時点t33)。
【0093】
以上、本例によれば、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量は、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り量以上に設定されているので、記録紙8aを逆方向に搬送する動作が行われている間、紙送りローラー対34と繰り出しローラー対33の間において、記録紙8aは張力状態に維持される。この結果、紙送り位置と繰り出し位置の間で記録紙8aが蛇行してしまうことを回避できるので、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り量が安定し、紙幅方向における記録紙8aの位置がずれることもない。従って、その後に記録紙8aを順方向に搬送して印刷を行う際に、印刷品質が低下することを回避できる。
【0094】
また、本例のように記録紙8aを逆方向に搬送すると、繰り出しローラー対33よりも上流側に記録紙8aが弛むので、その後に記録紙8aを順方向に搬送して印刷を行う際にこの弛みが取れると紙送りローラー対34に衝撃負荷が発生するという問題があるが、記録紙8aに生じている張力は記録紙8aが逆方向へ搬送される間に許容最大値から漸減させられており搬送が終了した時点では適切な値になっているので、このような衝撃負荷が発生しても、衝撃負荷はテンションガイド32によって緩和される。
【0095】
また、本例によれば、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り量が第2所定量以上の場合には、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し量が紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り量とほぼ同一量に設定されるので、記録紙8aを逆方向に搬送する動作が終了した時点の記録紙8aの張力状態は、記録紙8aを逆方向に搬送する動作を開始した時点の張力状態とが同じになる。すなわち、記録紙8aを逆方向に搬送する動作が終了した時点で、記録紙8aは適切な張力状態に戻るので、その後に記録紙8aを順方向に搬送して印刷を行う際に記録紙8aの張力状態を適切な状態に保持することが容易であり、印刷品質が低下することを回避できる。
【0096】
さらに、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し速度V(33’’)を紙送りローラー対34による逆送り速度V(34’’)よりも遅くしてあるので、記録紙8aが繰り出しローラー対33によって引かれて、記録紙8aに加わる張力が許容上限値を超えてしまうという弊害を防止できる。また、繰り出しモーター37に低速のモーターを用いることができるので、装置をコストダウンすることができる。
【0097】
また、第2所定量を、繰り出しローラー対33の引き戻し動作により記録紙8aに許容上限値の張力を生じさせる引き戻し量としているので、記録紙8aに加わる張力が許容上限値を超えてしまうという弊害を防止できる。また、このようにすれば、第2所定量を長く確保できるので、紙送りローラー33による記録紙8aの逆送り量が多くなる場合でも、記録紙8aを張力状態で搬送する駆動制御が容易になる。
【0098】
さらに、本例によれば、記録紙8aを逆方向に搬送したときに、繰り出しローラー対33とロール紙収納部7との間において発生する逆方向に搬送された記録紙8aの弛みをプリンター本体2内にあるデッドスペース60に受け入れているので、記録紙8aの弛みを受け入れるスペースを別途設ける必要がなく、装置の小型化が妨げられることがない。
【0099】
なお、プリンター本体2内に記録紙8aの弛みを受け入れるデッドスペース60ない場合には、繰り出しローラー対33とロール紙収納部7との間に記録紙8aの弛みを受け入れるための空間を形成しておけばよい。
【0100】
(記録紙の逆方向への搬送制御動作の更に別の例)
図10は記録紙8aの逆方向への搬送制御動作を示すフローチャートであり、図11はそのタイミングチャートである。
【0101】
本例では、記録紙8aを逆方向へ搬送する場合には、駆動制御部50は、繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し速度V(33’’’)と紙送りローラー対34による逆送り速度V(34’’’)とをほぼ同一速度に設定する(ステップST31)。
【0102】
しかる後に、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り動作と繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作とを同期させておこなう。すなわち、これらの逆送り動作および引き戻し動作を同時に開始し(ステップST32、図11の時点t41)、同時に停止させる(ステップST33、図11の時点t42)。
【0103】
本例によれば、紙送りローラー対34による記録紙8aの逆送り動作と繰り出しローラー対33による記録紙8aの引き戻し動作とを同期させて行うので、紙送りローラー対34と繰り出しローラー対33の間は、記録紙8aは、順方向への搬送が終了した時点の適切な張力状態のままで逆方向に搬送される。この結果、記録紙8aを逆方向に搬送する間に、紙送り位置と繰り出し位置の間で記録紙8aが蛇行してしまうことを回避できるので、紙送りローラー34aによる記録紙8aの逆送り量が安定し、紙幅方向における記録紙8aの位置がずれることもない。従って、その後に記録紙8aを順方向に搬送して印刷を行う際に、印刷品質が低下することを回避できる。
【0104】
また、逆方向に搬送する動作を開始した時点の張力状態と記録紙8aを逆方向に搬送する動作が終了した時点で、記録紙8aの張力状態が変化しない。従って、その後に記録紙8aを順方向に搬送して印刷を行う際に記録紙8aの張力状態を適切な状態に保持することが容易であり、印刷品質が低下することを回避できる。また、このようにしておくことで、次の順方向の動作の開始の際に、記録紙8aに生じている張力が予め定めた許容上限値を超えることがないため、所定の動作開始遅延時間だけ遅延させた後の時点において、繰り出しローラー33aによる記録紙8aの繰り出し動作を開始することなく、必ず紙送りローラー34aの動作が行われるため、印字の高速化を図ることができる。
【0105】
さらに、紙送りローラー34aによる記録紙8aの逆送り動作と繰り出しローラー33aによる記録紙8aの引き戻し動作とを同期させて記録紙8aを逆方向に搬送すると、繰り出し位置よりも上流側に記録紙8aが弛むので、その後に記録紙8aを順方向に搬送して印刷を行う際にこの弛みが取れると紙送りローラー34aに衝撃負荷が発生するという問題があるが、記録紙8aが逆方向に搬送されている間記録紙8aに生じている張力は適切な値に維持されているので、このような衝撃負荷が発生しても、衝撃負荷はテンションガイド32で緩和できる。
【0106】
(その他の実施の形態)
なお、上記の例は、シリアル型のロール紙プリンターに本発明を適用したものであるが、ライン型のロール紙プリンターに対しても本発明を同様に適用可能である。また、上記の例は、インクジェット式のロール紙プリンターに本発明を適用したものであるが、サーマルヘッドなど各種の印刷ヘッドを備えたロール紙プリンターに対しても本発明を同様に適用可能である。また、逆送り時に紙送り負荷が大きい場合、順送りと同様の制御をしてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1 ロール紙プリンター、2 プリンター本体、2a 外装ケース、2b 開口部、3 開閉蓋、3A 閉じ位置、3B 開き位置、3a 蓋カバー、3b 蓋フレーム、4 記録紙排出口、5 排紙ガイド、6 蓋開閉レバー、7 ロール紙収納部、8 ロール紙、8a 記録紙、9 ロック部材、10 プリンター機構部、11 プリンター本体フレーム、12 本体側フレームユニット部分、13 ヘッド側フレームユニット部分、14 底板、15・16 側板、17 背面板、18 支軸、21,22 前側平行リンク、23,24 後側平行リンク、25 プラテンフレーム、26 プラテン、27 緩衝ばね、28 インクジェットヘッド、28a ノズル面、29 ヘッドキャリッジ、30 キャリッジガイド軸、31a キャリッジモーター、32 テンションガイド、32a センサー、33 繰り出しローラー対、33a 繰り出しローラー、33b 従動ローラー、34 紙送りローラー対、34a 紙送りローラー、34b 従動ローラー、35 搬送ローラー対、35a 搬送ローラー、35b 従動ローラー、36 減速歯車列、37 繰り出しモーター、38 ローラー支持レバー、39 紙送りモーター、40 減速歯車列、50 駆動制御部、51 上位機器、52・53・54 モータードライバー、55 ヘッドドライバー、60 デッドスペース DLE 動作停止遅延時間、DLS 動作開始遅延時間、V(33) 繰り出し速度、V(33’)・V(33’’)・V(33’’’) 引き戻し速度、V(34) 送り速度、V(34’)・V(34’’)・V(34’’’) 逆送り速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り出しローラーによる紙繰り出し位置および紙送りローラーによる紙送り位置の間に位置するテンションガイドに、長尺状の記録紙を架け渡した状態にし、
前記テンションガイドによって所定の張力を付与した状態で、前記繰り出し位置から前記紙送り位置に向かう搬送路に沿って、前記紙送りローラーによって前記記録紙を順方向あるいは逆方向に搬送し、
前記記録紙に生ずる張力が予め定めた許容上限値を超えたか否かを検出し、
前記記録紙を前記順方向に搬送する場合には、前記張力が許容上限値を超えたことが検出された時点から、所定の動作開始遅延時間だけ遅延させた後の時点において、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の繰り出し動作を開始することを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記記録紙を前記順方向に搬送する場合には、前記張力が前記許容上限値以下になったことが検出された時点から、所定の動作停止遅延時間だけ遅延させた後の時点において、前記繰り出し動作を停止することを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記紙送りローラーによる前記記録紙の送り速度が速い程、前記動作開始遅延時間および前記動作停止遅延時間の少なくとも一方を短くすることを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記記録紙を前記順方向に搬送する場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の繰り出し速度を前記紙送りローラーによる前記送り速度よりも速くすることを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれかの項に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記記録紙を前記順方向に搬送する場合には、前記紙送りローラーによる前記記録紙の送り動作が停止した時点から前記繰り出しローラーによる前記記録紙の繰り出し量をカウントし、
前記繰り出し量が予め定めた値を超えた場合は前記繰り出しローラーによる前記繰り出し動作を強制停止することを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記記録紙を前記逆方向に搬送する場合には、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量が第1所定量以上の場合にのみ、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作を行うことを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作の開始を、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り動作の開始に連動させて行うことを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記記録紙を前記逆方向に搬送する場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し速度を前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り速度よりも遅くすることを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項9】
請求項6ないし8のうちのいずれかの項に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し量を、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量より少ない量に設定し、
前記記録紙を前記引き戻し量だけ引き戻した時点で、前記繰り出しローラーによる前記引き戻し動作を停止することを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項10】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記記録紙を前記逆方向に搬送する場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し速度と前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り速度とをほぼ同一にし、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り動作と前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作とを同期させて行うことを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項11】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記記録紙を前記逆方向に搬送する場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し量を、予め定めた第2所定量以上であり、かつ、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量以上に設定するとともに、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し速度を前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り速度よりも遅くし、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作を開始し、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し量が前記第2所定量に達した時点から前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り動作を開始し、前記記録紙を前記引き戻し量だけ引き戻した時点で、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作を停止することを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記第2所定量は、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し動作により前記記録紙に前記許容上限値の張力を生じさせる引き戻し量であることを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量が前記第2所定量以上の場合には、前記繰り出しローラーによる前記記録紙の引き戻し量を、前記紙送りローラーによる前記記録紙の逆送り量とほぼ同一量に設定することを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項14】
請求項10ないし13のうちのいずれかの項に記載のプリンターの記録紙搬送制御方法において、
予め、前記記録紙がロール紙から引き出される紙引き出し位置と前記紙繰り出し位置の間に前記記録紙の弛みを受け入れる空間を形成しておくことを特徴とするプリンターの記録紙搬送制御方法。
【請求項15】
請求項1ないし13のうちのいずれかの項に記載の搬送制御方法により長尺状の記録紙を搬送するプリンターであって、
前記記録紙の印刷を行う印刷ヘッドと、
前記紙送りローラーと、
前記テンションガイドと、
前記繰り出しローラーと、
前記張力が前記許容上限値を超えたか否かを検出するセンサーと、
前記紙送りローラーを回転駆動するための紙送りモーターと、
前記繰り出しローラーを回転駆動するための繰り出しモーターと、
前記センサーの検出出力に基づき前記紙送りモーターおよび前記繰り出しモーターを制御して、前記記録紙の前記順送りおよび前記逆送りを制御する制御部とを有していることを特徴とするプリンター。
【請求項16】
請求項14に記載の搬送制御方法により長尺状の記録紙を搬送するプリンターであって、
前記ロール紙を収納するロール紙収納部と、
前記ロール紙から繰り出される長尺状の記録紙の印刷を行う印刷ヘッドと、
前記紙送りローラーと、
前記テンションガイドと、
前記繰り出しローラーと、
前記張力が前記許容上限値を超えたか否かを検出するセンサーと、
前記紙送りローラーを回転駆動するための紙送りモーターと、
前記繰り出しローラーを回転駆動するための繰り出しモーターと、
前記センサーの検出出力に基づき前記紙送りモーターおよび前記繰り出しモーターを制御して、前記記録紙の前記順送りおよび前記逆送りを制御する制御部と、
前記ロール紙収納部と前記繰り出しローラーとの間に形成されている前記空間とを有していることを特徴とするプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−269399(P2009−269399A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47652(P2009−47652)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】