説明

プリント基板の検査装置および検査方法

【課題】パルスの印加箇所に直列にダイオードが設けられている場合のように、従来、TDRによる検査ができなかったプリント基板に対しても検査を可能にする。
【解決手段】TDRを利用したプリント基板の検査装置1において、パルス発生器41は、オフセット電圧生成部61からプローブ32を介してプリント基板にオフセット電圧が印加された状態で、さらに、プローブ32を介してプリント基板に印加するためのパルス波を生成する。測定機42は、プリント基板によってパルス波が反射されることによって生じた電圧波形を検出する。判定部51は、検査用のプリント基板に対して検出された電圧波形と、参照用のプリント基板に対して検出された電圧波形との比較に基づいて、検査用のプリント基板の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント基板の検査部位の短絡または断線などを電気的に検査する検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板の検査において、プリント基板とそれに実装されている部品の接合部分の目視が困難な場合、バウンダリスキャンやX線による検査が行われる。しかしながら、バウンダリスキャンはコストがかかることや、高周波回路での利用できないといったデメリットがある。X線による検査は、スキャン精度が十分でないために、微小な亀裂などによる接続不良箇所を見つけることが困難であるといったデメリットがある。
【0003】
上記の検査法に比べて簡単かつ高精度な方法として、TDR(Time Domain Reflectometry:時間領域反射測定装置)を利用した接続異常部の検査法が知られている。
【0004】
たとえば、特開平9−61486号公報(特許文献1)に記載された半田付け検査装置は、高周波パルス波を発生するパルス発生装置と、パルス波を基板のランドに印加する高周波プローブと、反射波形を計測するオシロスコープと、オシロスコープで計測された波形を分析する波形分析装置と、高周波プローブを基板の所望のランドに移動・接触させるXY駆動機構と、これを制御するXY駆動機構制御装置とを備える。
【0005】
特開2009−294101号公報(特許文献2)では、量産に対応して測定時間を短縮するために、複数のプローブと判定部とを備えた半田付け検査装置が提案されている。判定部は、回路からの反射波形を測定して基準波形と比較することによって良品であるか不良品であるかを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−61486号公報
【特許文献2】特開2009−294101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、TDRの測定において、プリント基板のパッドに高速立ち上がりパルスを入力する場合、その入力パルスの波形は0Vを基準にしている。このため、たとえば、パルスが入力されるパッドと直列にダイオードが設けられている場合に、ダイオードの順方向降下電圧よりもパルスの振幅が小さければ、入力したパルスがダイオードによって反射されてしまう。この場合、ダイオードから先にある部品に対してTDR検査を実施することができないという不具合が生じる。このようなパッドに直接に接続されたダイオードの例としてブートストラップ駆動回路に用いられるダイオードが挙げられる。
【0008】
この発明の目的は、パルスの印加箇所と直列にダイオードが設けられている場合のように、従来、TDRによる検査ができなかったプリント基板に対してもTDR検査を可能にするプリント基板の検査装置および検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は一局面においてプリント基板の検査装置であって、プローブと、直流電源と、パルス発生器と、測定機と、判定部とを備える。プローブは、プリント基板上の検査部位に接続された配線パターンと接触するために設けられる。直流電源は、プローブを介してプリント基板に印加するためのオフセット電圧を生成する。パルス発生器は、直流電源からプローブを介してプリント基板にオフセット電圧が印加された状態で、さらに、プローブを介してプリント基板に印加するためのパルス波を生成する。測定機は、プリント基板によってパルス波が反射されることによって生じた電圧波形を検出する。判定部は、検査用のプリント基板に対して検出された電圧波形と、参照用のプリント基板に対して検出された電圧波形との比較に基づいて、検査用のプリント基板の良否を判定する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、直流電源からプローブを介してプリント基板にオフセット電圧が印加された状態で、さらに、パルス波がプローブを介してプリント基板にさらに印加される。そして、そのときのパルス波の反射に基づく電圧波形が検出される。このようにオフセット電圧を印加することによって、従来のTDR装置では検査できなかったプリント基板に対しても、接続状態の検査が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の一形態によるプリント基板検査装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のプリント基板検査装置1のうちインターフェース部30の概略的な構成を示す図である。
【図3】図2のインターフェース部30の一部の拡大図である。
【図4】図1のオフセット電圧生成部61の機能について説明するための図である。
【図5】ブートストラップ駆動回路の構成を示す図である。
【図6】パルス発生器41から出力されるパルス波の電圧波形、およびプローブ32を介してプリント基板20に入力されるパルス波の電圧波形を示す図である。
【図7】オフセット電圧生成部61のより詳しい構成を示すブロック図である。
【図8】図4の各部の電圧波形の一例を示す図である。
【図9】プリント基板の検査手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0013】
[プリント基板検査装置の構成]
図1は、この発明の実施の一形態によるプリント基板検査装置1の構成を示すブロック図である。図1を参照して、プリント基板検査装置1は、時間領域反射率計(TDR)40と、インターフェース部30と、コンピュータ50と、オフセット電圧生成部61と、コンデンサ62とを含む。オフセット電圧生成部61とコンデンサ62とによって、パルス波形変形部60が構成される。
【0014】
(TDR)
TDR40は、急峻な立ち上がりのパルス波を出力するパルス発生器41と、パルス発生器41から出力されたパルス波の反射波の波形を測定する測定機としてのオシロスコープ42とを含む。パルス発生器41およびオシロスコープ42は、コンデンサ62および高周波ケーブル37を介してインターフェース部30と接続される。パルス発生器41から出力されたパルス波は、インターフェース部30を介してプリント基板の入力パッド(ランドなど)に印加される。オシロスコープ42は、入力パルス波がプリント基板20に形成された回路の各場所で反射されることによって生じた反射波を、インターフェース部30を介して検出する。オシロスコープ42によって検出された反射波は、デジタル変換されてコンピュータ50に出力される。
【0015】
(インターフェース部)
図2は、図1のプリント基板検査装置1のうちインターフェース部30の概略的な構成を示す図である。図2には、さらに、検査対象であるプリント基板20の概略的な構成も併せて示される。
【0016】
図3は、図2のインターフェース部30の一部の拡大図である。図2、図3では、断面部分にハッチングを付している。
【0017】
図2、図3を参照して、プリント基板20は、絶縁性の基板21に配線パターンが形成されたプリント配線板20Aに、多数の電子部品が実装されたものである。配線パターンは、スルーホールに埋め込まれた導電層22や、導電層22に接続されたランド23,24などを含む。
【0018】
プリント基板検査装置1は、プリント配線板20Aに実装された電子部品の半田接続状態の良否を検査する。図2には、検査対象の1つとしてIC(Integrated Circuit)パッケージ10が示されている。ICパッケージ10は、パッケージの裏面に形成された半田11によって基板21に形成されたランド23と接続される。
【0019】
インターフェース部30は、絶縁性の基板33と、基板33上に形成された配線パターン34と、複数のプローブ32と、複数のプローブ32が埋め込まれた絶縁性のブロック31とを含む。プローブ32は、プリント基板20の複数の検査部位を一度に検査するために複数個設けられている。
【0020】
なお、TDR測定では高周波のパルス波を伝達するためにグランドラインが重要である。このため、プローブ32は、検査装置1のグランドと測定対象であるプリント基板20のグランドとを接続するために、さらに複数個設けられている。
【0021】
プローブ32は、円筒部32Aと、円筒部32Aの両端に挿入された第1、第2の接触子32B,32Cと、接触子32B,32Cの間に設けられたバネ部材32Dとを含む。第1の接触子32Bは、検査対象のプリント基板20のランド24と電気的に接触する。良好な電気的接触を得るために、接触子32Bの端部は王冠状に突出した形状を有する。第2の接触子32Cは、基板33に形成された配線パターン34と電気的に接触する。接触子32Cは、配線パターン34を介してコネクタ35に接続される。
【0022】
バネ部材32Dは、接触子32B,32Cを円筒部32Aの両端から突出するように付勢する。これによって、プローブ32とプリント基板20のランド24との間、およびプローブ32と配線パターン34との間の電気的接触を確実にする。
【0023】
なお、配線パターン34が形成された基板33は、検査対象のプリント基板20に応じて交換可能な構成となっている。検査用のプリント基板20を交換したとき、確実に電気的接触が取れるように、配線パターン34の表面は金メッキされていることが好ましい。
【0024】
再び図1を参照して、インターフェース部30は、さらに、リレーなどによって構成された複数のスイッチ36を含む。各スイッチ36は、各プローブ32と個別に対応し、各プローブ32とコネクタ35とを接続する配線パターン34に挿入される。コンピュータ50は、スイッチ36の接続を切替えることによって、TDR40に接続されるプローブ32を順次切替える。こうして、プリント基板検査装置1は、各プローブ32を介してプリント基板20に実装された電子部品の接続状態を検査する。
【0025】
(コンピュータ)
コンピュータ50は、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、メモリ回路、および信号の入出力のためのインターフェース回路などを含む。機能的に見ると、コンピュータ50は、測定制御部53と、記憶部(メモリ回路)52と、判定部51とを含む。測定制御部53および判定部51の機能は、プログラムに従って動作するCPU54によって実現される。
【0026】
測定制御部53は、パルス発生器41からのパルス波の出力タイミングを制御する。さらに、測定制御部53は、インターフェース部30のスイッチ36を切替えることによって、検査部位とTDR40とを選択的に接続する。
【0027】
記憶部52は、接続状態が良好な参照用のプリント基板に対してTDR検査を行なうことによって得られた電圧波形を基準波形として記憶する。
【0028】
判定部51は、検査用のプリント基板に対して測定した電圧波形と、予め測定された基準波形とを比較する。判定部51は、波形比較の結果に基づいて、検査部位の良否を判定する。
【0029】
[オフセット電圧生成部の構成および動作]
(オフセット電圧生成部の概略)
オフセット電圧生成部61は、パルス発生器41からインターフェース部30に至るパルス波の伝送経路に接続される。図1に示すように、このパルス波の伝送経路にはコンデンサ62が挿入されている。オフセット電圧生成部61は、コンデンサ62よりもインターフェース部30寄りの位置でパルス波の伝送経路と接続される。これに対して前述のオシロスコープ42は、コンデンサ62よりもパルス発生器41寄りの位置でパルス波の伝送経路と接続される。
【0030】
オフセット電圧生成部61は、直流電圧(オフセット電圧とも称する)を生成して、生成した直流電圧を高周波ケーブル37およびインターフェース部30を介してプリント基板に出力する。TDRによる検査時には、オフセット電圧生成部61から出力された直流電圧がプローブ32を介してプリント基板20に印加された状態で、さらに、パルス発生器41から出力されたパルス波がプリント基板20に印加される。オフセット電圧生成部61から出力される直流電圧の大きさは調整可能である。
【0031】
なお、オフセット電圧生成部61から出力される直流電圧はコンデンサ62によって遮断されるので、パルス発生器41およびオシロスコープ42には印加されない。
【0032】
(オフセット電圧生成部の機能)
オフセット電圧生成部61からプリント基板に直流電圧を印加する必要がある典型的な場合は、パルス波の伝送経路に直列にダイオードが設けられている場合である。以下、その理由を具体的に説明する。
【0033】
図4は、図1のオフセット電圧生成部61の機能について説明するための図である。
図4の例では、プリント基板20は、配線パターン25と、グランドパターン28と、入力パッド24と、配線パターン25に接続された電子部品27およびダイオード26とを含む。電子部品27の接続状態を検査するために、パルス発生器41から出力されたパルス波は、パルス波形変形部60、高周波ケーブル37、インターフェース部30内の配線パターン34、プローブ32、入力パッド24、配線パターン25、およびダイオード26を順に通過して電子部品27に到達する。そして、パルス波が電子部品27によって反射された反射波は、入力パルス波の経路を逆に辿ってTDR40に到達し、オシロスコープ42によって検出される。
【0034】
ここで、図4に例示したような入力パッド24と直列に設けられたダイオード26を含む回路の典型例として、次の図5に示すブートストラップ方式のゲート駆動回路が挙げられる。
【0035】
図5は、ブートストラップ方式のゲート駆動回路の構成を示す図である。図5を参照して、ゲート駆動回路によってIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)Q1,Q2のゲートが駆動される。プリント基板20には、複数のパッドPD1〜PD3と、IGBTQ1,Q2と、ダイオードD1〜D3と、コンデンサC1と、制御IC29とが設けられる。IGBTQ1,Q2は、パッドPD2,PD3間に直列に接続される。パッドPD2には高電圧が与えられ、パッドPD3は接地に接続される。
【0036】
図5において、ダイオードD3が図4のダイオード26に相当し、パッドPD1が図4の入力パッド24に相当する。TDR検査時には、パッドPD1にプローブ32を接触させ、パルス波が入力される。
【0037】
制御IC29は、高電圧側のIGBTQ1のゲートを駆動するための高電圧側回路と、低電圧側のIGBTQ2のゲートを駆動するための低電圧側回路とを含む。低電圧側回路は、VCC端子とCOM端子間の電圧によって動作し、高電圧側回路は、VB端子とVS端子との間に接続されたブートストラップコンデンサC1によって駆動される。ゲート駆動信号は、LO端子およびHO端子からそれぞれ出力される。
【0038】
コンデンサC1は、IGBTQ1がオフでありIGBTQ2がオンのときに、パッドPD1に接続された電源によって充電される。IGBTQ1がオンでありIGBTQ2がオフのときには、VB端子の電圧は、コンデンサC1の充電電圧とパッドPD2に供給される高電圧との和に等しくなる。このとき、ダイオードD3によって、VB端子からパッドPD1への電流が阻止される。
【0039】
再び図4を参照して、入力パッド24にプローブ32を接触させて半田接続状態のTDR検査を行なうとき、パッドPD1に直列に接続されたダイオード26がパルス波を完全に反射する場合がある。具体的には、パルス波の振幅がダイオード26の順方向降下電圧(シリコンの場合、約0.6V)より小さければ、ダイオード26によってパルス波が完全に反射される。この結果、ダイオード26よりも先に設けられた電子部品27のTDR検査ができなくなる。このような場合でもTDR検査が行なえるようにするために、オフセット電圧生成部61によって、ダイオード26の順方向降下電圧を超えるオフセット電圧がプリント基板20の入力パッド24に印加される。これによって、パルス波がダイオード26を通過できるようにする。
【0040】
図6は、パルス発生器41から出力されるパルス波の電圧波形、およびプローブ32を介してプリント基板20に入力されるパルス波の電圧波形を示す図である。図6の波線のグラフ83がパルス発生器41の出力波形を示し、実線のグラフ84がプリント基板20に入力されるパルス波形を示す。
【0041】
図4、図6を参照して、配線パターン25にダイオードが挿入されている場合、図6の波線のグラフ83で示すパルス発生器41の出力(400mVpp程度、ppはピーク・ツー・ピークを表わす)だけではダイオードの順方向降下電圧(シリコンダイオードで0.6V程度)より低いため、パルス波はダイオード26より先に伝播することが出来ない。このため、ダイオード26より先に実装されている電子部品27の接続状態を検査することができない。
【0042】
そこで、オフセット電圧生成部61から800mVppの直流電圧が出力される。この場合、図6の実線のグラフ84で示すように、プローブ32を介してプリント基板20に入力される波形の最低電圧が800mVとなり、電圧最大が1200mVとなる。これによりダイオード26の順方向降下電圧よりも高い電圧をプリント基板20に印加することが可能となる。
【0043】
なお、パルス波の最低電圧を0Vとし、最大電圧をダイオード26の順方向降下電圧よりも高い1200mVにしても、ダイオード26の影響を除去できない。なぜなら、ダイオードがオフ状態からオン状態に変化するスイッチング速度は、TDRに用いられる高速パルスの立上がり速度よりも遅いので、ダイオード26からの反射波が生じるからである。したがって、安定した状態でTDR検査を行なうためには、順方向降下電圧よりも高いオフセット電圧を印加することによってダイオード26が導通した状態で、パルス波をさらに印加する必要がある。
【0044】
(オフセット電圧生成部の詳細な構成)
測定精度の観点からは、オフセット電圧生成部61の出力電圧を、複数の検査用のプリント基板のいずれに対しても同一の値に設定することは望ましくない。図4のダイオード26のV−I特性には個体ごとにばらつきがあり、このV−I特性のばらつきによってパルス波の通過特性および反射特性が変化するからである。
【0045】
ダイオード26のV−I特性のばらつきの影響を除去するために、図4のオフセット電圧生成部61には、オフセット電圧を出力したときに、プローブ32を介してプリント基板20に供給される直流電流を検出する電流検出部(図7の参照符号65)が設けられる。オフセット電圧の大きさは、印加されたオフセット電圧の大きさ(V)と検出された直流電流との大きさ(I)の比であるインピーダンス値(R=V/I)が所定の基準インピーダンスに等しくなるように調整される。ここで、基準インピーダンスは、参照用のプリント基板からの反射波に基づく電圧波形(基準波形)を検出したときに設定されたオフセット電圧の大きさと、検出された直流電流の大きさとの比である。これによって、ダイオード26のばらつきの影響を除去して、検査用のプリント基板に対して検出された電圧波形と基準波形とを比較することができ、結果として測定精度を向上させることができる。
【0046】
図7は、オフセット電圧生成部61のより詳しい構成を示すブロック図である。図7を参照して、オフセット電圧生成部61は、直流電源63と、電圧検出部64と、電流検出部65と、アナログ・デジタル変換器(ADC:Analog-to-Digital Converter)66と、CPU(Central Processing Unit)67と、デジタル・アナログ変換器(DAC:Digital-to-Analog Converter)68とを含む。
【0047】
直流電源63は、オフセット電圧を生成して出力する。電圧検出部64は、直流電源63から出力されるオフセット電圧(直流電圧)を検出する。電流検出部65は、直流電源63から出力される直流電流を検出する。ADC66は、電圧検出部64によって検出された電圧値(V)および電流検出部65によって検出された電流値(I)をデジタルデータに変換してCPU67に出力する。
【0048】
CPU67は、電圧検出部64によって検出された電圧値(V)と電流検出部65によって検出された電流値(I)との比であるインピーダンス値(R=V/I)を算出する。そしてCPU67は算出したインピーダンス値(R)に基づいて、直流電源63の電圧レベルを調整するための制御信号(レベル調整信号)を出力する。DAC68は、CPU67から出力されたレベル調整信号をアナログデータに変換して、直流電源63に供給する。直流電源63は、レベル調整信号に応じて、出力するオフセット電圧の大きさを変化させる。このように、CPU67は、電圧検出部64および電流検出部65の検出結果に基づいてオフセット電圧の大きさを調整するオフセット電圧調整部として機能する。
【0049】
なお、コンピュータ50を構成するCPU54と別個にCPU67を設けるのでなく、CPU54がオフセット電圧の大きさを調整するためのレベル調整信号を生成するようにしてもよい。この場合、ADC66およびDAC68は、コンピュータ50に内蔵されている。そして、電圧検出部64および電流検出部65の検出結果はコンピュータ50に取り込まれ、内蔵のADC66によってデジタル値に変換される。
【0050】
[プリント基板の検査方法の詳細]
(プリント基板の良否判定の基準について)
図8は、図4の各部の電圧波形の一例を示す図である。
【0051】
図8(A)には、図4のパルス発生器41から出力されたパルス波の波形の一例が示される。図8(A)の時刻t1で立ち上がるパルス波の大きさは400mVpp程度である。既に説明したように、このパルス電圧に、図4のオフセット電圧生成部61から出力された直流電圧が加算されてプリント基板20に印加される。
【0052】
図8(B)には、オシロスコープ42によって測定された反射波の波形81の一例が示される。
【0053】
図4、図8(B)を参照して、実際のプリント基板では、TDR40から出力されたパルス波はプリント基板20に実装された多数の素子によって反射される。さらに、反射波には配線のインピーダンスや配線長も関係するので、オシロスコープ42によって測定される反射波は、図8(B)に示すように複雑な波形81となる。そこで、測定用のプリント基板からの反射波に基づく電圧波形と予め測定した参照用のプリント基板による基準波形とを比較することによってプリント基板の良否が判定される。
【0054】
たとえば、測定波形と基準波形との電圧の乖離が一瞬でも閾値(たとえば、50mV程度)以上になれば、プリント基板20は異常と判定される。また、閾値より低い乖離幅でも閾値時間以上(たとえば、200〜400p秒程度)乖離し続けた場合に、プリント基板20は異常と判定される。異常波形の例として図8(B)に波形82を示す。
【0055】
なお、これらの乖離幅の閾値の設定する際には、量産時の複数の正常なプリント基板に対して測定した波形からデータの標準偏差を求め、その標準偏差に基づいて閾値を設定するのが望ましい。実際に多数の良品のプリント基板を用いて反射波の波形のばらつきを計算したところ、TDR40から出力したパルスの大きさの1%程度が標準偏差に等しくなった。たとえば、400mVppのパルスの場合には、標準偏差σは4mV程度になる。したがって、乖離幅の閾値は少なくとも3σ=12mV以上に設定する必要がある。
【0056】
(検査手順のフローチャート)
図9は、プリント基板の検査手順を示すフローチャートである。
【0057】
図4、図7、図9を参照して、図9の検査手順は、プローブ32をプリント基板20の検査部位の近傍に設けられたランド(入力パッド)24に接触させた後に開始される。なお、図1の複数のスイッチ36のうち検査部位の近傍に配置されたものはオン状態であるとする。
【0058】
ステップS1で、CPU67は、オフセット電圧生成部61の出力(オフセット電圧(V))を初期値に設定する。
【0059】
次のステップS2で、オフセット電圧生成部61に設けられた電圧検出部64および電流検出部65は、オフセット電圧生成部61から出力される電圧値(V)および電流値(I)をそれぞれ検出する。
【0060】
次のステップS3で、CPU67は、インピーダンス値(R=V/I)を計算する。
次のステップS4で、CPU67は、算出したインピーダンス値(R)と基準インピーダンスとを比較する。基準インピーダンスは、参照用のプリント基板からの反射波に基づく電圧波形(基準波形)を検出したときに設定されたオフセット電圧の大きさと、検出された直流電流の大きさとの比である。CPU67は、算出したインピーダンス値(R)と基準インピーダンスとが一致しなければステップS5へ処理を進めてオフセット電圧の大きさを調整し、一致すればオフセット電圧の大きさの調整は完了したとしてステップS8へ処理を進める。
【0061】
まず、算出したインピーダンス値(R)と基準インピーダンスとが一致しない場合(ステップS5)について説明する。この場合、インピーダンス値(R)が基準インピーダンスより大きければ(ステップS5でYES)、CPU67は、直流電源63から出力するオフセット電圧(V)を上昇させ(ステップS6)、その後、処理をステップS1に戻す。インピーダンス値(R)が基準インピーダンスよりも小さければ(ステップS5でNO)、CPU67は、直流電源63から出力するオフセット電圧(V)を下降させ(ステップS7)、その後、処理をステップS1に戻す。
【0062】
次に、算出したインピーダンス値(R)と基準インピーダンスとが一致した場合について説明する。この場合、ステップS8において、測定制御部53は、オフセット電圧生成部61からオフセット電圧が出力された状態で、さらに、パルス発生器41からパルス波を出力させる。出力されたパルス波は、インターフェース部30を介して検査用のプリント基板20に印加される。
【0063】
次のステップS9で、オシロスコープ42は、プリント基板20からパルス波が反射されることによって生じた電圧波形を検出する。オシロスコープ42で検出された電圧波形は、コンピュータ50に取込まれた後にデジタル変換される。
【0064】
次のステップS10で、コンピュータ50の判定部51は、検査用のプリント基板からの反射波に基づく電圧波形(測定波形)と、予め参照用のプリント基板で測定した電圧波形(基準波形)とを比較する。電圧波形の比較結果に基づいて、判定部51は、検査部位の良否の判定を行なう。
【0065】
[まとめ]
以上のとおり、プリント基板の検査装置1によれば、ダイオードの順方向降下電圧よりも高い値に調整されたオフセット電圧がプリント基板に印加された状態で、さらにパルス波がプリント基板に印加される。この結果、プローブ32と検査部位との間の配線パターンにダイオードが挿入されているために、従来のTDR装置では検査できなかった場合でも、半田接続状態の検査が可能になる。
【0066】
さらに、オフセット電圧生成部61から出力されるオフセット電圧の大きさは、オフセット電圧の大きさと電流検出部65によって検出された直流電流との比であるインピーダンス値が所定の基準インピーダンスに等しくなるように調整される。ここで、基準インピーダンスは、参照用のプリント基板からの反射波に基づく電圧波形を検出したときに設定されたオフセット電圧の大きさと検出された直流電流の大きさとの比である。このように、検査用のプリント基板と参照用のプリント基板とでインピーダンスの大きさを揃えることによって、TDR検査の精度を向上させることができる。
【0067】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 プリント基板検査装置、20 プリント基板、20A プリント配線板、24,PD1 入力パッド(ランド)、26,D1 ダイオード、30 インターフェース部、32 プローブ、37 高周波ケーブル、41 パルス発生器、42 オシロスコープ、50 コンピュータ、51 判定部、52 記憶部、53 測定制御部、60 パルス波形変形部、61 オフセット電圧生成部、62,C1 コンデンサ、63 直流電源、64 電圧検出部、65 電流検出部、67 CPU(オフセット電圧調整部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント基板上の検査部位に接続された配線パターンと接触するためのプローブと、
前記プローブを介してプリント基板に印加するためのオフセット電圧を生成する直流電源と、
前記直流電源から前記プローブを介してプリント基板にオフセット電圧が印加された状態で、さらに、前記プローブを介してプリント基板に印加するためのパルス波を生成するパルス発生器と、
プリント基板によって前記パルス波が反射されることによって生じた電圧波形を検出する測定機と、
検査用のプリント基板に対して検出された電圧波形と、参照用のプリント基板に対して検出された電圧波形との比較に基づいて、前記検査用のプリント基板の良否を判定する判定部とを備える、プリント基板の検査装置。
【請求項2】
前記直流電源から前記プローブを介してプリント基板にオフセット電圧が印加されているときに、前記直流電源からプリント基板に流れる直流電流を検出する電流検出部と、
印加されたオフセット電圧の大きさと検出された直流電流の大きさとの比に基づいて、前記直流電源からプリント基板に印加するオフセット電圧の大きさを調整するオフセット電圧調整部とをさらに備え、
前記パルス発生器は、前記直流電源から出力するオフセット電圧の大きさが調整された後に、前記パルス波をプリント基板に印加する、請求項1に記載のプリント基板の検査装置。
【請求項3】
前記オフセット電圧調整部は、前記直流電源から前記検査用のプリント基板にオフセット電圧を印加したときに、印加したオフセット電圧の大きさと検出された直流電流の大きさとの比であるインピーダンス値を算出し、算出したインピーダンス値が所定の基準インピーダンスに等しくなるように、前記検査用のプリント基板に印加するオフセット電圧の大きさを調整し、
前記基準インピーダンスは、前記参照用のプリント基板に対する電圧波形を検出したときに設定されたオフセット電圧の大きさと検出された直流電流の大きさとの比である、請求項2に記載のプリント基板の検査装置。
【請求項4】
前記プローブの接触箇所と前記検査部位との間の配線パターンには、前記プローブ側がアノードとなるようにダイオードが設けられており、
前記直流電源からプリント基板に印加するオフセット電圧の大きさは、前記ダイオードの順方向降下電圧よりも大きい、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリント基板の検査装置。
【請求項5】
前記パルス発生器から前記プローブに至る前記パルス波の伝送経路に挿入されたコンデンサをさらに備え、
前記測定機は、前記コンデンサよりも前記パルス発生器寄りの位置で前記伝送経路に接続され、
前記直流電源は、前記コンデンサよりも前記プローブ寄りの位置で前記伝送経路に接続される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプリント基板の検査装置。
【請求項6】
プリント基板上の検査部位に接続された配線パターンにプローブを接触させるステップと、
前記プローブを介してプリント基板に、直流電源によって生成されたオフセット電圧を印加するステップと、
前記直流電源から前記プローブを介してプリント基板にオフセット電圧が印加された状態で、前記プローブを介してプリント基板にパルス発生器によって生成されたパルス波をさらに印加するステップと、
プリント基板によって前記パルス波が反射されることによって生じた電圧波形を検出するステップと、
検査用のプリント基板に対して検出された電圧波形と、参照用のプリント基板に対して検出された電圧波形との比較に基づいて、前記検査用のプリント基板の良否を判定するステップとを備える、プリント基板の検査方法。
【請求項7】
前記直流電源から前記プローブを介してプリント基板にオフセット電圧が印加されているときに、前記直流電源からプリント基板に流れる直流電流を検出するステップと、
印加されたオフセット電圧の大きさと検出された直流電流の大きさとの比に基づいて、前記直流電源からプリント基板に印加するオフセット電圧の大きさを調整するステップとをさらに備え、
前記パルス波を印加するステップでは、前記直流電源から出力するオフセット電圧の大きさが調整された後に、前記パルス波がプリント基板に印加される、請求項6に記載のプリント基板の検査方法。
【請求項8】
前記調整するステップは、
前記直流電源から前記検査用のプリント基板にオフセット電圧を印加したときに、印加したオフセット電圧の大きさと検出された直流電流の大きさとの比であるインピーダンス値を算出するステップと、
前記検査用のプリント基板に対して算出したインピーダンス値が所定の基準インピーダンスに等しくなるように、前記検査用のプリント基板に印加するオフセット電圧の大きさを調整するステップとを含み、
前記基準インピーダンスは、前記参照用のプリント基板に対する電圧波形を検出したときに設定されたオフセット電圧の大きさと検出された直流電流の大きさとの比である、請求項7に記載のプリント基板の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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