説明

プリント配線板の製造方法およびそれを用いたプリント配線板

【課題】 本発明は、高精度で高密度なプリント配線板を安価で信頼性良く量産できるプリント配線板の製造法を提供することを目的とする。
【解決手段】 所定形状のパターン電極層3が形成されたマスター基板1を作製するマスター基板作製工程と、前記マスター基板上に撥水性薄膜からなる剥離層4を形成する剥離層形成工程と、前記剥離層上に電着法にて電着樹脂薄膜5を形成する電着樹脂薄膜形成工程と、前記電着樹脂薄膜5上にメッキ法にて金属膜からなる配線導体6を形成する配線導体形成工程と、前記電着樹脂薄膜5に水分を含浸させる含水工程と、前記電着樹脂薄膜5と前記配線導体6が積層化した電析物を、粘着層もしくは接着層10を介してマスター基板1から剥離させて被転写基板8に転写する剥離転写工程と、を備えた構成よりなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ICカード端子等の半導体パッケージングおよび携帯情報端末等の電子機器に組み込まれる高密度プリント配線板、多層プリント配線板およびフレキシブルプリント配線板等の多様な配線板を形成する際に利用できるプリント配線板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のプリント配線板の製造方法としては、銅張基板表面の銅箔上に所定の絶縁性回路パターンを形成した後、これをエッチングマスクとして利用し、エッチング処理にて不要部分を除去して配線導体を形成するサブトラクト法や、銅箔の張っていない絶縁基板表面に触媒を付与させた後、所定の絶縁性回路パターンを形成した後、これをメッキマスクとして利用し、無電解銅メッキにて配線導体を形成するアディティブ法がある。
【0003】一方、基板表面上に絶縁性回路パターンを形成する方法としては、半導体プロセスで多く用いられ、感光性レジストを露光現像するフォトリソグラフィー法がある。この感光性レジスト露光装置は精密機械であり、また高度に調整された光学系を有しており、高解像度のパターン形成が可能である。しかし、露光装置は、極めて高価な装置であり、その結果として製品価格が高価なものになっていた。これに対して、安価に絶縁性回路パターンを形成する方法として、基板表面上にパターンを直接形成する印刷法がある。印刷法には、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等があるが、いずれの方法においてもインクの流動性やインクの転写不良等に起因して量産時のパターン精度で100μmが限界であり、また繰り返し再現性の点でも良好とは言えず、高解像度のパターン形成には適していなかった。
【0004】近年、半導体素子の高周波化と電子機器の小型化、高集積化に伴い、プリント配線板の薄膜化、高密度化及び多層化が要求されている。そのため高集積化のための品質が優れているフォトリソグラフィー法が主に使用されるようになってきたが高価であり、高集積化と低価格化を可能にするプリント配線板の製造方法が望まれていた。
【0005】そこで、プリント配線板の低価格化を実現すべく、以下に説明するような考案がなされている。まず特開昭52−50572号公報に開示されているのが、配線導体を表面性状に優れた別の基板上に形成した後、表面に接着層を有するフレキシブル基板へ剥離転写形成する方法である。この公報では、鏡面を有した金属製導体基板上に絶縁性回路パターンを形成した後、この絶縁性回路パターンで被覆されずに金属製導体基板が露出している部分に、銅の電気メッキをすることで配線導体を形成した後、フレキシブル基板表面の接着層によってこの配線導体をフレキシブル基板上に剥離転写してプリント配線板が形成される。しかし、この方法では配線導体をフレキシブル基板に接着して機械的に剥離転写するため、絶縁性回路パターン自体もフレキシブル基板表面の接着層によってはぎ取られる可能性があり、絶縁性回路パターンを繰り返し利用できずに、フォトリソグラフィー法による絶縁性回路パターン形成が頻繁に必要となるという課題がある。さらに、配線導体の高密度化が進展するにつれ、配線導体が接着層と接する面積が小さくなり、配線導体の完全剥離転写が難しいことが予想される。
【0006】次に、高密度な配線導体の完全剥離転写を可能にすべく、特開昭58−168296号公報が考案された。この公報では、金属製導体基板上に、まず、単体として取り扱い可能な厚さの銅メッキ厚膜を形成し、この銅メッキ厚膜上にフォトリソグラフィー法により絶縁性回路パターンを形成した後、この絶縁性回路パターンで被覆されずに銅メッキ厚膜が露出している部分に、耐食性金属メッキと銅の電気メッキにより積層して配線導体を形成した後、フレキシブル基板表面の接着層によってこの配線導体を銅メッキ厚膜ごとフレキシブル基板上に剥離転写することで、高密度配線導体の完全剥離転写が可能となり、次に銅メッキ厚膜をエッチング除去してプリント配線板が形成される。しかし、フォトリソグラフィー法による絶縁性回路パターン形成が毎回必要であり、プリント配線板の低価格化という課題が依然としてある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】以上述べたプリント配線板の製造方法では、いずれの公報においても高密度な配線導体の完全剥離転写と絶縁性回路パターンの繰り返し利用の両方を満足し得なかった。また、電気メッキと剥離転写を繰り返すことで、鏡面であった金属製導体基板の表面性状が劣化し、繰り返し利用のためには表面の再研磨が必要であった。従って、更に安価で歩留まり良く量産性に優れた高精度で高密度な配線導体を形成できるプリント配線板の製造方法が要求されている。また、絶縁性回路パターンおよび金属製導体基板の繰り返し利用を可能とし、より高寿命化も要求されている。
【0008】本発明は、高精度で高密度なプリント配線板を安価で信頼性良く量産できるプリント配線板の製造法およびそれを用いたプリント配線板を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明のプリント配線板の製造方法は、基板上に所定形状のパターン電極層を形成するマスター基板作製工程と、前記マスター基板上に撥水性薄膜からなる剥離層を形成する剥離層形成工程と、前記剥離層上に電着法にて電着樹脂薄膜を形成する電着樹脂薄膜形成工程と、前記電着樹脂薄膜上にメッキ法にて金属膜からなる配線導体を形成する配線導体形成工程と、前記電着樹脂薄膜に水分を含浸させる含水工程と、前記電着樹脂薄膜と前記配線導体が積層化した電析物を、粘着層もしくは接着層を介してマスター基板から剥離させて被転写基板に転写する剥離転写工程と、を備えた構成よりなる。この構成により、含水工程において電着樹脂薄膜に水分が含浸されると、剥離層が撥水性であるために、電着樹脂薄膜の剥離層に対する付着力が著しく弱められた状態となって、マスター基板から被転写基板の接着層上に電着樹脂薄膜と配線導体が積層化した電析物を確実に完全剥離転写することができ、高精細、高密度の配線導体を有する量産性に優れたプリント配線板を製造することができる。
【0010】また、上記課題を解決するために本発明のプリント配線板は、基板と前記基板上に形成された配線導体と、前記基板を貫通する貫通孔と、前記貫通孔中に導入された導電性材料と、を備えた構成からなり、前記導電性材料と前記配線導体とが導通することを特徴とする上記のプリント配線板の製造方法により製造されたプリント配線板である。この構成により、高精細、高密度の配線導体を低価格で提供できる。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明の請求項1に記載のプリント配線板の製造方法は、表面に所定形状のパターン電極層が形成されたマスター基板を作製するマスター基板作製工程と、前記マスター基板上に撥水性薄膜からなる剥離層を形成する剥離層形成工程と、前記剥離層上に電着法にて電着樹脂薄膜を形成する電着樹脂薄膜形成工程と、前記電着樹脂薄膜上にメッキ法にて金属膜からなる配線導体を形成する配線導体形成工程と、前記電着樹脂薄膜に水分を含浸させる含水工程と、前記電着樹脂薄膜と前記配線導体が積層化した電析物を、粘着層もしくは接着層を介してマスター基板から剥離させて被転写基板に転写する剥離転写工程と、を備えたものである。この構成により、含水工程において電着樹脂薄膜に水分が含浸されると、剥離層が撥水性であるために、電着樹脂薄膜の剥離層に対する付着力が著しく弱められた状態となって、マスター基板から被転写基板の接着層上に電着樹脂薄膜と配線導体が積層化した電析物を確実に完全剥離転写することが可能となるという作用を有する。これにより、剥離層に対する電着樹脂薄膜の付着力を著しく弱めた状態で剥離転写を行うため、剥離転写の際にマスター基板の剥離層やパターン電極層にダメージを与えることがなく、同一のマスター基板を用いて極めて再現性よく同じ形状の配線導体を形成することができるとともに、マスター基板を繰り返して利用可能で、長寿命化することができるという作用を有する。また、剥離層に対する電着樹脂薄膜の付着力を弱めることができることから、被転写基板には接着強度の弱い接着層の使用が可能であり、剥離転写の際にマスター基板と被転写基板を強引に引き剥がすことがないため、配線導体の形状をくずしたり、損傷したりすることを防止できるという作用を有する。さらに電着樹脂薄膜および配線導体を形成するパターン電極層がフォトリソグラフィー法等によりマスター基板上に極めて緻密にかつ高い密度に形成可能なものであることから、高精細、高密度の配線導体を簡単に量産性よく製造することが可能となるという作用を有する。
【0012】本発明の請求項2に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1に記載の発明において、マスター基板作製工程が、絶縁性の基板上に導電層を形成する導電層形成工程と、前記導電層のエッチングにより所定形状の配線導体のパターン電極層を形成してマスター基板を作製する電極層形成工程と、を備えたものであり、マスター基板の電極層のパターン形状がエッチングによって形成できるため、極めて容易で作成し易いという作用を有する。
【0013】本発明の請求項3に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1に記載の発明において、マスター基板作製工程が、絶縁性の基板上に導電層を形成する導電層形成工程と、前記導電層上に絶縁層を形成し、前記絶縁層のエッチングにより所定形状の配線導体のネガ形状のパターン電極層を形成してマスター基板を作製する電極層形成工程と、を備えたものであり、自由度のある配線導体の設計が可能になるという作用を有する。
【0014】本発明の請求項4に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1に記載の発明において、マスター基板作製工程が、導電性基板上に絶縁層を形成し、前記絶縁層のエッチングにより所定形状の配線導体のネガ形状のパターン電極層を形成してマスター基板を作製する電極層形成工程となるものであり、自由度のある配線導体の設計が可能になるという作用を有する。
【0015】本発明の請求項5および請求項6に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項4の内のいずれか1に記載の発明において、マスター基板となる絶縁性の基板もしくは被転写基板の一方が柔軟性を有するフィルム等からなり、かつ他方の前記絶縁性の基板もしくは前記被転写基板が剛性を有するガラス等よりなるものであり、マスター基板および被転写基板のうち一方が柔軟性を有しているため、マスター基板と被転写基板を密着接合した後、容易に引き剥がすことができるという作用を有し、マスター基板上の電着樹脂薄膜と配線導体が積層化した電析物を容易に被転写基板に剥離転写できる。
【0016】本発明の請求項7に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項4に記載の発明において、マスター基板作製工程が、柔軟性を有する金属箔上に絶縁層を形成し、前記絶縁層エッチングにより所定形状の配線導体のネガ形状のパターン電極層を形成してマスター基板を作製する電極層形成工程となるものであり、マスター基板が柔軟性を有しているため、マスター基板と被転写基板を密着接合した後、容易に引き剥がすことができるという作用を有し、マスター基板上の電着樹脂薄膜と配線導体が積層化した電析物を容易に被転写基板に剥離転写できる。
【0017】本発明の請求項8に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項7の内のいずれか1に記載の発明において、マスター基板の電極層が、配線導体となる金属膜のエッチング液に対して耐蝕性を有する材料よりなるものであり、マスター基板上に残った配線導体となる金属膜をエッチング除去する際、マスター基板上の電極層がこのエッチング液によってエッチングされないという作用を有し、マスター基板の再生が容易にできる。
【0018】本発明の請求項9に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項8の内のいずれか1に記載の発明において、剥離層形成工程が、前記マスター基板上にフッ化グラファイト粒子を含有する金属膜で構成される撥水性薄膜からなる剥離層を形成する剥離層形成工程よりなるものであり、導電性を有する金属膜と撥水性を有するポリテトラフルオロエチレン等のフッ化グラファイト粒子を同時にメッキ法等によって容易に形成することができるという作用を有する。
【0019】本発明の請求項10に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項8の内のいずれか1に記載の発明において、剥離層形成工程が、前記マスター基板上にフッ化グラファイト薄膜で構成される撥水性薄膜からなる剥離層を形成する剥離層形成工程よりなるものであり、薄いが故に液体中で導電性を有する撥水性薄膜をスパッタリング法等によって容易に形成することができるとともに、膜厚を高い精度で制御することができるという作用を有する。
【0020】本発明の請求項11に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項8の内のいずれか1に記載の発明において、剥離層形成工程が、前記マスター基板上にフッ素系コーティング剤で構成される撥水性薄膜からなる剥離層を形成する剥離層形成工程よりなるものであり、薄いが故に液体中で導電性を有するフッ素オイル等の撥水性薄膜をディップコート法等によって容易に形成することができるとともに、マスター基板を再利用する際にも、剥離層を簡単に再生することが可能になるという作用を有する。
【0021】本発明の請求項12に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項8の内のいずれか1に記載の発明において、剥離層形成工程が、前記マスター基板上に末端基としてシリコン系化合物もしくはチタン系化合物を有するパーフルオロポリエチレンで構成される撥水性薄膜からなる剥離層を形成する剥離層形成工程よりなるものであり、ディップコート法等を用いた場合に前記末端基がマスター版上の電極層等に付着し易い性質を有しているために薄いが故に液体中で導電性を有するパーフルオロポリエチレンの撥水性薄膜を容易に、しかも均一にマスター版上に形成することができるとともに、マスター基板を再利用する際にも、剥離層を簡単に再生することが可能になるという作用を有する。
【0022】本発明の請求項13に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項10から請求項12の内のいずれか1に記載の発明において、剥離層の厚みが5nm以上で100nm以下であることを特徴とするものであり、導電性の低いフッ素系化合物からなる剥離層において、剥離層に対する電着樹脂薄膜の付着力を弱めるための撥水性を維持しながら、液体中で電着樹脂が電着可能な程度の導電性を剥離層に付与することができるという作用を有する。
【0023】本発明の請求項14に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項13の内のいずれか1に記載の発明において、電着法にて電着樹脂薄膜を形成することを特徴とするものであり、効率良く、品質の良い電着樹脂薄膜を形成することができるという作用を有する。
【0024】本発明の請求項15に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項14の内のいずれか1に記載の発明において、電着樹脂薄膜の厚みが50nm以上で500nm以下であることを特徴とするものであり、導電性の低い電着樹脂薄膜において、剥離層に対する電着樹脂薄膜の付着力を弱めるための含水性を維持しながら、配線導体がメッキ形成可能な程度の液体中での導電性を電着樹脂薄膜に付与することができるという作用を有する。
【0025】本発明の請求項16に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1〜請求項15の内のいずれか1に記載の発明において、配線導体形成工程が、メッキ法にて配線導体を形成することを特徴とするものであり、効率良く、品質の良い配線導体を形成することができるという作用を有する。
【0026】本発明の請求項17に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から16の内のいずれか1に記載の発明において、含水工程が、電着樹脂薄膜に30℃以上で80℃以下の温水を含浸させる含水工程よりなるものであり、配線導体表面の水分の蒸発を促進しながら、電着樹脂薄膜の内部には十分に水分を含浸させることが可能となり、電着樹脂薄膜と配線導体が積層化した電析物のマスター基板からの剥離をより容易にできるとともに、被転写基板への配線導体の密着性を向上させることが可能になるという作用を有する。
【0027】本発明の請求項18に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項17の内のいずれか1に記載の発明において、前記被転写基板の被転写面が粘着性を有することとしたものであり、被転写基板への配線導体の密着性を向上させることが可能になるという作用を有する。
【0028】本発明の請求項19に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項17の内のいずれか1に記載の発明において、前記被転写基板が、その被転写面上に接着層を配設したこととしたものであり、被転写基板への配線導体の密着性を向上させることが可能になるという作用を有する。
【0029】本発明の請求項20に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1から請求項18の内のいずれか1に記載の発明において、前記配線導体に対応する位置に、前記被転写基板に貫通孔を形成する工程と、前記貫通孔作製工程が前記貫通孔中に導電性材料を導入する工程と、を備えたこととしたものであり、量産性に優れ、かつ、利用価値の高いプリント配線板が得られるという作用を有する。
【0030】本発明の請求項21に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項19に記載の発明において、前記配線導体に対応する位置に、前記被転写基板および前記接着層に貫通孔を形成する工程と、前記貫通孔作製工程が前記貫通孔中に導電性材料を導入する工程と、を備えたこととしたものであり、量産性に優れ、かつ、利用価値の高いプリント配線板が得られるという作用を有する。
【0031】本発明の請求項22に記載のプリント配線板は、請求項1〜請求項19の内のいずれか1に記載の発明によって製造されたプリント配線板において、基板と前記基板上に形成された配線導体と、を備えたこととしたものであり、量産性に優れ、かつ、低コストのプリント配線板が得られるという作用を有する。
【0032】本発明の請求項23に記載のプリント配線板は、請求項20または請求項21に記載の発明によって製造されたプリント配線板において、基板と前記基板上に形成された配線導体と、前記基板を貫通する貫通孔と、前記貫通孔中に導入された導電性材料と、を備えたこととしたものであり、量産性に優れ、かつ、低コストのプリント配線板が得られるという作用を有する。
【0033】以下本発明の一実施の形態について、図1から図5を用いて説明する。
(実施の形態1)図1は本発明の実施の形態1におけるプリント配線板の製造方法のためのマスター基板を示す斜視断面図である。図1において、マスター基板1はプリント配線板の配線導体の形成をメッキ法にて行うもので、被転写基板上に配線導体を剥離転写させる作用を有する。マスター基板1は剛性のあるガラス等からなる絶縁性の基板2と、この絶縁性の基板2上に所定形状の配線導体をメッキ形成するためのパターン電極層3と、マスター基板1から配線導体を容易に剥離させるための剥離層4と、から構成されている。
【0034】このようなマスター基板を形成するマスター基板作製工程からプリント配線板を作製する本発明の実施の形態1の製造方法について、図2(a)〜(f)の本発明の要部断面図を用いて説明する。
【0035】まず図2(a)に示すマスター基板は以下のようなマスター基板作製工程と剥離層形成工程にて作製される。ガラス基板からなる剛性を有する絶縁性の基板2上に厚さ300nmのNi−Fe合金膜をスパッタ法を用いて成膜する。次に、ポジ型フォトレジストをスピンコート法にて厚さ2μmに塗布して、フォトマスクを用いて露光した後、炭酸ナトリウム水溶液にて現像してパターン電極層3に対応したレジストパターンを形成する。このレジストパターンをエッチングマスクとして利用し、絶縁性の基板2上のNi−Fe合金膜を硝酸と酢酸の水溶液からなるエッチング液によってエッチングした後、上記レジストパターンを水酸化ナトリウム水溶液にて除去することでパターン電極層3を形成する。これにより、本発明の実施の形態1のプリント配線板の製造方法に用いるマスター基板1が作製される。
【0036】次に、図2(a)に示しているように、パターン電極層3上に、撥水性と導電性を有する剥離層4を形成する。この剥離層の材料としては、メッキ法で形成されて粒子状のポリテトラフルオロエチレン等のフッ化グラファイト粒子を含有するニッケル等の金属複合膜、スパッタ法等の真空蒸着法で形成されるフッ化グラファイト薄膜、塗布法やディップコート法により形成されるフッ素オイル等のフッ素系コーティング剤等の撥水性薄膜を用いることができる。ここで、フッ化グラファイト粒子を含有する金属複合膜の場合、成膜された状態でフッ化グラファイト粒子が金属膜内で均一に分散されるように形成される必要がある。また、フッ化グラファイト薄膜やフッ素系コーティング剤の場合、いずれもそれ自体の導電率は低いが、成膜した際の膜厚を5nm以上で100nm以下とすることによって、撥水性及び他の電着樹脂を電着することが可能な程度の導電性を有する薄膜が得られる。例えば、本発明の筆者らが行った実験によれば、スパッタリング法によりパターン電極層上に剥離層として、5nm、15nm、30nm、100nmの各膜厚のフッ化グラファイト薄膜を成膜した場合、いずれの膜厚のフッ化グラファイト薄膜でも電着樹脂薄膜の電着が可能であるとともに、電着樹脂薄膜に水分を含浸させた際に、剥離層に対する付着力を十分に弱めることができる撥水性を有することが判明した。しかしながら、膜厚を200nmとしたフッ化グラファイト薄膜では導電性が無く、電着樹脂薄膜の電着が不可能であり、膜厚3nmのフッ化グラファイト薄膜では電着は可能であったが、撥水性がほとんど無く、電着樹脂薄膜の付着力を十分に弱めることが困難であった。即ち、剥離層の厚さが、5nmよりも小さいと剥離層の撥水効果が薄れて、剥離層に対する電着樹脂薄膜の付着力を十分に弱めることができなくなる傾向を生じ、100nmよりも大きくなると、剥離層の抵抗が大きくなって剥離層上に電着樹脂薄膜を電着できなくなる傾向を生じるため、いずれも好ましくない。さらにフッ素系コーティング剤として有用なものには、フッ素オイル、完全フッ素化油等があり、XおよびYを加水分解基とすると、これらのフッ素系コーティング剤の末端基にシリコン系のSiX3およびチタン系のTiY3を有するものが好ましく、パターン電極層表面の水酸基等と加水分解反応をして、密着性をより強固にすることが可能となり、マスター基板を繰り返して使用する際の剥離層の耐久性を向上させることができる。特に、フッ素系コーティング剤の剥離層に、末端基としてシリコン系化合物もしくはチタン系化合物を有するパーフルオロポリエチレンで構成される撥水性薄膜を用いた場合、これらの末端基がマスター版上の電極層等に付着し易い性質を有しているために、ディップコート法等で容易に所望の厚みに形成でき、薄いが故に液体中で導電性を有する撥水性薄膜を均一にマスター版上に形成することができる。
【0037】次に、本発明の実施の形態1のプリント配線板の製造方法におけるマスター基板上に電着樹脂薄膜および配線導体を形成する電着樹脂薄膜形成工程および配線導体形成工程について図2(b)および(c)を用いて説明する。図2(b)はマスター基板上に電着形成された電着樹脂薄膜の要部断面図であり、図2(c)はマスター基板上にメッキ形成された金属膜からなる配線導体の要部断面図である。図2(b)および(c)において、5は電着法にて形成された電着樹脂薄膜で、6はメッキ法にて形成された金属膜からなる配線導体である。この電着樹脂薄膜5は、アクリル系カチオン型電着樹脂浴で金属製の対向電極とマスター基板1上のパターン電極層3に電圧を印加する電着法を用いて、パターン電極3の表面に形成された剥離層4上に厚さ100nmの導電性を有する電着樹脂薄膜5を形成する電着樹脂薄膜形成工程により得られる。同様に、この配線導体6は、電着樹脂薄膜5上に銅の電気メッキ法にて厚さが18μmの銅メッキ膜からなる配線導体6を形成する配線導体形成工程により得られる。銅メッキ浴組成は、硫酸銅五水和物が80g/l、硫酸が180g/l、塩素イオンが2.5mg/lおよび添加剤が2.5ml/lで残余が水となっており、電気メッキ時の電流密度が3A/dm2である。
【0038】ここで、電着樹脂薄膜5の膜厚は以下に述べる理由から50nm以上で500nm以下が好適である。本発明の筆者らが行った実験によれば、電着樹脂薄膜5の膜厚が極めて薄く約30nmとなる場合、電着樹脂薄膜5が導電性を有して配線導体6のメッキ形成は可能であるが、後に述べる含水工程における電着樹脂薄膜5への含水性がほとんど無く、後の剥離転写工程において剥離層4に対する電着樹脂薄膜5の付着力を十分に弱めることが困難であった。これに対してパターン電極層上に50nm、100nm、300nm、500nmの各膜厚の電着樹脂薄膜5を形成した場合、これらの膜厚の電着樹脂薄膜5であれば配線導体のメッキ形成が可能であるとともに、電着樹脂薄膜5に水分を含浸させた際に、後の剥離転写工程において剥離層4に対する電着樹脂薄膜5の付着力を十分に弱めることができる含水性を有することが判明した。しかしながら、膜厚が厚くなり、600nmとなる場合には、電着樹脂薄膜5の抵抗が大きく導電性が無くなり、配線導体6のメッキ形成が困難になる傾向を示した。
【0039】次に、本発明の実施の形態1のプリント配線板の製造方法におけるマスター基板上に形成された電着樹脂薄膜5に水分を含浸させる含水工程と、電着樹脂薄膜5および銅メッキ膜からなる配線導体6が積層化した電析物を被転写基板へ剥離転写する剥離転写工程について図2(d)、(e)および(f)の要部断面図を用いて説明する。図2(d)、(e)および(f)において、7は水、8は被転写基板、10は接着層である。含水工程では、図2(d)に示すように、電着樹脂薄膜5と配線導体6が積層形成されたマスター基板1を水7中に浸漬することにより、電着樹脂薄膜5に水分を十分に含浸させる。ここで、含水時間は1分程度であるが、含水させる水7の水温は後に述べる理由から30以上で80℃以下とする必要があり、特に50℃近傍が好適である。この含水工程を経て、図2(e)および(f)に示すように、剥離転写工程では、含水工程により付着力が弱くなった電着樹脂薄膜5と、これに積層形成された配線導体6からなる電析物を、マスター基板1から被転写基板8上に設けられた接着層10上に剥離転写する。被転写基板8としてはポリイミドフィルム等の可撓性を有する基板等が用いられ、これに接着層10としてエポキシ系接着剤等をロールコートで塗布する。図2(e)および(f)のように、被転写基板8とマスター基板1を、図2(e)に示す方向で密着加圧した後、このマスター基板1を引き剥がすことによって、図2(f)に示したように被転写基板上8に設けられた接着層10上にマスター基板1に形成されていた電着樹脂薄膜5と配線導体6からなる電析物が剥離転写される。剥離層4はマスター基板1側に残される。
【0040】上記の含水工程において、本発明の筆者らが行った実験によれば、含水させる水7の温度が25℃の場合には配線導体6表面の水分が完全に蒸発できない状態となり、剥離転写工程において被転写基板8上の接着層10と配線導体6との間で十分な密着性が得られなくなる傾向が認められた。一方、水7の温度を30℃、40℃、50℃、60℃および70℃とした場合には配線導体6表面の水分が蒸発して除去され、被転写基板8上の接着層10に対して十分な接着強度が得られるとともに電着樹脂薄膜5内部に含浸された水分により剥離層4と電着樹脂薄膜5との付着力も弱くなって、再現性の良い完全剥離転写が可能であることが判った。特に水7の温度が50℃近傍の場合には、配線導体表面の水分が蒸発する時間と、含水工程から剥離転写工程へ移るまでの時間との関係が良く、待ち時間が短くなって、作業性の点で最も好ましいことも明らかになった。逆に水温が80℃の場合には、電着樹脂薄膜5内部の水分まで蒸発して剥離層4と電着樹脂薄膜5の付着力を十分弱めることができずに、配線導体6の完全剥離転写が困難になる傾向が認められた。即ち、含水させる水7の温度が30℃よりも低くなる場合、配線導体6表面の水分が完全に蒸発できない状態のまま被転写基板8の接着層10に剥離転写されて、接着層と配線導体との間に十分な密着性が得られなくなる傾向を生じ、逆に80℃よりも高くなると、電着樹脂薄膜5内部の水分まで蒸発しやすくなり、剥離層4の撥水効果による電着樹脂薄膜5の付着力を十分に弱めることができなくなる傾向を生じるため、いずれも好ましくないのである。また水7の温度が略50℃の場合には、電着樹脂薄膜の内部に含浸された水分により剥離層に対する電着樹脂薄膜の付着力を十分に弱めることができるとともに、配線導体表面の水分が蒸発する時間も短く、含水工程から剥離転写工程へ移る際の待ち時間も少なくなることから、作業性の点で最も好ましいのである。
【0041】上記の剥離転写工程の後に、図2(g)に示すように被転写基板8上に剥離転写された配線導体6表面の電着樹脂薄膜5をアルコール等の有機溶剤で溶解除去することで、高精度で高密度のプリント配線板が得られる。また、剥離転写後のマスター基板1については、上記の電着樹脂薄膜形成工程に戻って繰り返し使用することができる。
【0042】以上のように本実施の形態1によれば、剥離層4として撥水性薄膜を用いて、この撥水性薄膜上に形成した電着樹脂薄膜5に水分を含浸させることによって、電着樹脂薄膜5の剥離層4に対する付着力を著しく弱め、マスター基板1から被転写基板8の接着層10上に、電着樹脂薄膜5とその上に積層形成した配線導体6からなる電析物を確実に完全に剥離転写することが可能となる。ここでは剥離層4に対する電着樹脂薄膜5の付着力を著しく弱めた状態で剥離転写を行うため、剥離転写の際にマスター基板1の剥離層4やパターン電極層にダメージを与えることなく、同一のマスター基板1を用いて極めて再現性よく同じ形状の配線導体6を形成できるとともに、マスター基板1を繰り返して利用可能で、長寿命化することができる。また、剥離層4に対する電着樹脂薄膜5の付着力を弱めることができることから、剥離転写の際にマスター基板と被転写基板8を強引に引き剥がすことがないため、配線導体6の形状をくずしたり、損傷したりすることを防止できる。また、マスター基板1の繰り返し使用回数が増えた場合には、剥離層4とパターン電極層4との密着性が低下して、剥離転写工程において電着樹脂薄膜5上に剥離層4が付着した状態で転写される可能性があるため、必要に応じて剥離層4を再生することが好ましい。但し、本実施の形態に示した剥離層4の場合、仮にこのように電着樹脂薄膜5上に剥離層4が付着しても、電着樹脂薄膜5を溶剤で除去する際に、一緒に除去されるため配線導体6には影響はない。耐久性の面からは、剥離層4としては、フッ化グラファイト粒子を含む金属複合膜およびフッ化グラファイト薄膜等に比べて、フッ素系コーティング剤を成膜したものの方がパターン電極層3と化学的に結合しているためにより優れており、フッ素系コーティング剤の場合にはディップコート法等により極めて簡単にマスター基板上に形成できるため、マスター基板1を繰り返し利用する際には、剥離転写工程の後に毎回コーティングして剥離層4を再生成膜できる。さらに以上のような一連の工程に伴って、配線導体6をメッキ形成するパターン電極層3がフォトリソグラフィー法等によりマスター基板1上に極めて緻密にかつ高い密度で形成可能なものであるから、高精細、高密度の配線導体を簡単に量産性よく製造することが可能となる。
【0043】本実施の形態1で述べてきたように、本発明によれば、含水工程において電着樹脂薄膜に水分が含浸され、剥離層が撥水性であるために電着樹脂薄膜の剥離層に対する付着力が著しく弱められた状態となって、マスター基板から被転写基板の接着層上に電着樹脂薄膜と配線導体が積層化した電析物を確実に完全剥離転写することができるものである。したがって本発明により得られたプリント配線板は、高精度かつ高密度に形成された配線導体を有し、量産性にも優れたものになっている。
【0044】(実施の形態2)以下に本発明の実施の形態2のプリント配線板の製造方法について説明する。本発明の実施の形態2が実施の形態1と異なる点はマスター基板1の構成である。図3は本発明の実施の形態2におけるプリント配線板の製造方法のためのマスター基板を示す斜視断面図である。図3において、マスター基板1は実施の形態1と同様に配線導体の形成をメッキ法にて行うもので、被転写基板上に配線導体を剥離転写させる作用を有する。マスター基板1は剛性のあるガラス等からなる絶縁性の基板2と、絶縁性の基板2上に積層形成された配線導体をメッキ形成するための配線導体形成用電極12と、この配線導体形成用電極12上に絶縁材料が積層形成され所定の配線導体のネガ形状にパターンエッチングすることで形成された絶縁性マスキング層11と、マスター基板1から配線導体を容易に剥離させるための剥離層4と、から構成されている。
【0045】このようなマスター基板を形成するマスター基板作製工程からプリント配線板を作製する本発明の実施の形態2の製造方法について、図4(a)〜(f)の本発明の要部断面図を用いて説明する。
【0046】まず、マスター基板形成工程および剥離層形成工程について図4(a)のマスター基板の要部断面図を用いて説明する。ガラス基板からなる剛性を有する絶縁性の基板2上に配線導体をメッキ形成するための配線導体形成用電極12をスパッタ法を用いてニッケル膜を厚さ300nmで成膜し、その上に、絶縁性マスキング層11を形成するための厚さ1μmの酸化珪素膜をスパッタ法を用いて成膜する。次に、ポジ型フォトレジストをスピンコート法にて厚さ2μmに塗布して、フォトマスクを用いて露光した後、炭酸ナトリウム水溶液にて現像して配線導体のネガ形状に対応したレジストパターンを形成する。このレジストパターンをエッチングマスクとして利用し、表面の酸化珪素膜をフッ素系のエッチング液によってエッチングした後、上記レジストパターンを水酸化ナトリウム水溶液にて除去することで絶縁性マスキング層11を形成するとともに、配線導体形成用電極12が露出する。これにより、プリント配線板の製造方法に用いるマスター基板1が形成される。次に配線導体形成用電極12上に、撥水性と導電性を有する剥離層4を形成する。剥離層4は、本発明の実施の形態1と同等な材料を用いる。
【0047】次に、本発明の実施の形態2のプリント配線板の製造方法におけるマスター基板上に電着樹脂薄膜および配線導体を形成する電着樹脂薄膜形成工程および配線導体形成工程について図4(b)および(c)に示す。図4(b)はマスター基板上に電着形成された電着樹脂薄膜の要部断面図であり、図4(c)は電着樹脂薄膜上にメッキ形成された金属膜からなる配線導体の要部断面図である。図4において、5は電着法にて形成された電着樹脂薄膜で、6はメッキ法にて形成された金属膜からなる配線導体である。実施の形態1と同様にして、マスター基板1において、配線導体形成用電極12の表面に形成された剥離層4上にアクリル系カチオン型電着樹脂浴を用いて厚さ200nmの導電性を有する電着樹脂薄膜5を形成した後、次に、前記電着樹脂薄膜5上に銅の電気メッキにて厚さ18μmの銅メッキ膜からなる配線導体6を形成する。
【0048】ここで、図4(d)に示す含水工程についても本発明の実施の形態1と同様にして、マスター基板1を水7中に浸漬することにより、マスター基板1上に形成された電着樹脂薄膜5に水分を十分に含浸させる。
【0049】以上のように形成された本発明の実施の形態2の電着樹脂薄膜と銅メッキ膜からなる配線導体が積層化した電析物を被転写基板へ剥離転写する剥離転写工程について図4(e)および(f)を用いて説明する。図4(e)および(f)は本発明の実施の形態2のプリント配線板の製造方法における剥離転写工程を示すマスター基板及び被転写基板の要部断面図である。実施の形態1と同様に、被転写基板8とマスター基板1を、図4(e)に示す方向で密着加圧した後、引き剥がすことによって、図4(f)に示したように、マスター基板1に形成されていた電着樹脂薄膜5と配線導体6からなる電析物が、被転写基板8上に配された接着層10上に剥離転写される。
【0050】上記の剥離転写工程の後に、被転写基板8上に剥離転写された配線導体6表面の電着樹脂薄膜5をアルコール等の溶剤で溶解除去することで、図4(g)に示す高精度で高密度のプリント配線板が得られる。また、剥離転写後のマスター基板については、上記の電着樹脂薄膜形成工程に戻って繰り返し使用することができる。
【0051】本発明の実施の形態2では、剛性のあるマスター基板を用いて柔軟性を有する基板への転写を示したが、柔軟性のあるマスター基板を用いて剛性のある基板への転写でも同様の効果が得られる。また、柔軟性のあるマスター基板として、薄い金属箔でも同様の効果が得られる。また、マスター基板の配線導体形成用電極が、配線導体となる金属膜のエッチング液に対して耐食性を有する材料にて構成することで、マスター基板上に配線導体が残存した場合に、配線導体をエッチング除去してマスター基板の再生が可能となる。
【0052】(実施の形態3)図5は、本発明の実施の形態3におけるプリント配線板の要部断面図を示している。図5において、9は貫通孔、13は導電性材料である。マスター基板およびその上に形成された剥離層4,電着樹脂薄膜5、配線導体6は、本発明の実施の形態1、あるいは、本発明の実施の形態2と同等な方法によって製造される。本発明の実施の形態3においては、被転写基板8、あるいは、被転写基板8及び被転写基板8上に配された接着層10には、配線導体に対応する部分に貫通孔9が予め形成されている。マスター基板1に形成されていた電着樹脂薄膜5と配線導体6からなる電析物が、粘着性を有する被転写基板8上に剥離転写される工程あるいは被転写基板8上に配された接着層10上に剥離転写される工程は、本発明の実施の形態1、あるいは、本発明の実施の形態2と同等である。剥離転写工程の後、前記貫通孔9に導電性材料13として溶融した半田を流し込んで、導電性材料13が配線導体6と導通するようにした。導電性材料13としては、半田以外の場合として、銅製のリード線を差し込み、先端を配線導体6に接続させる形態でも良い。即ち、本実施例のように、被転写基板8に貫通孔9が形成されたものを用いると、この貫通孔9を通じてプリント配線板の電極を取り出すことができて、非常に効率的に他の電気部品との接続ができる。また、これらのプリント配線板を積層することもできるため、量産性に優れた多層プリント配線板を製造することができる。
【0053】
【発明の効果】本発明のプリント配線板の製造方法によれば、剥離層として撥水性薄膜を形成し、この剥離層上に電着樹脂薄膜と金属メッキ膜を積層形成した後、この電着樹脂薄膜に含水させると、剥離層が撥水性であるために、電着樹脂薄膜の剥離層に対する付着力が著しく弱められた状態となって、マスター基板から被転写基板の接着層上に電着樹脂薄膜と配線導体が積層化した電析物を確実に完全剥離転写することができる。これにより本発明は、剥離転写の際にマスター基板の剥離層やパターン電極層にダメージを与えることがなく、同一のマスター基板を用いて極めて再現性よく同じ形状の配線導体を形成でき、マスター基板を繰り返し利用可能で長寿命化でき、さらに被転写基板に接着強度の弱い接着層を使用した場合も配線導体の形状を損傷したりすることを防止できるため、配線導体の形成を信頼性良く行うことができるという優れた効果が得られる。
【0054】また本発明は、電着樹脂薄膜および配線導体を形成するパターン電極層がフォトリソグラフィー法等によりマスター基板上に極めて緻密にかつ高い密度に形成可能なものであり、このマスター基板を一旦作製しておき、これを繰り返し使用することにより、以降の工程において高額な装置や煩雑な工程を使用することなく安価で高精細、高密度の配線導体を製造することができる。
【0055】したがって、本発明は高精度で高密度なプリント配線板を安価で信頼性良く量産できるプリント配線板の製造方法を提供することができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1におけるプリント配線板の製造方法のためのマスター基板を示す斜視断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるプリント配線板の製造方法を示す要部断面図
【図3】本発明の実施の形態2におけるプリント配線板の製造方法のためのマスター基板を示す斜視断面図
【図4】本発明の実施の形態2におけるプリント配線板の製造方法を示す要部断面図
【図5】本発明の実施の形態3におけるプリント配線板の要部断面図
【符号の説明】
1 マスター基板
2 基板
3 パターン電極層
4 剥離層
5 電着樹脂薄膜
6 配線導体
7 水
8 被転写基板
9 貫通孔
10 接着層
11 絶縁性マスキング層
12 配線導体形成用電極
13 導電性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】基板上に所定形状のパターン電極層を形成するマスター基板作製工程と、前記マスター基板上に撥水性薄膜からなる剥離層を形成する剥離層形成工程と、前記剥離層上に電着樹脂薄膜を形成する電着樹脂薄膜形成工程と、前記電着樹脂薄膜上に金属膜からなる配線導体を形成する配線導体形成工程と、前記電着樹脂薄膜に水分を含浸させる含水工程と、前記電着樹脂薄膜と前記配線導体が積層化した電析物をマスター基板から剥離させて被転写基板上に転写する剥離転写工程と、を備えたプリント配線板の製造方法。
【請求項2】前記マスター基板作製工程が、絶縁性の基板上に導電層を形成する導電層形成工程と、前記導電層をエッチングすることにより所定形状の配線導体のパターン電極層を形成する電極層形成工程と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】前記マスター基板作製工程が、絶縁性の基板上に導電層を形成する導電層形成工程と、前記導電層上に絶縁層を形成し、前記絶縁層をエッチングすることより所定形状の配線導体のネガ形状のパターン電極層を形成する電極層形成工程と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】前記マスター基板作製工程が、導電性基板上に絶縁層を形成する導電層形成工程と、前記絶縁層をエッチングすることにより所定形状の配線導体のネガ形状のパターン電極層を形成する電極層形成工程と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】前記基板が柔軟性を有し、かつ、前記被転写基板が剛性を有することを特徴とする請求項1〜請求項4の内いずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項6】前記被転写基板が柔軟性を有し、かつ、前記基板が剛性を有することを特徴とする請求項1〜請求項4の内いずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項7】前記導電性基板が、柔軟性を有する金属箔であることを特徴とする請求項4に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項8】前記電極層が、前記配線導体用のエッチング液に対して耐蝕性を有する材料であることを特徴とする請求項1〜請求項7の内いずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項9】前記剥離層形成工程が、フッ化グラファイト粒子を含有する金属膜で構成される撥水性薄膜からなる剥離層を前記マスター基板上に形成することを特徴とする請求項1〜請求項8の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項10】前記剥離層形成工程が、フッ化グラファイト薄膜で構成される撥水性薄膜からなる剥離層を前記マスター基板上に形成することを特徴とする請求項1〜請求項8の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項11】前記剥離層形成工程が、フッ素系コーティング剤で構成される撥水性薄膜からなる剥離層を前記マスター基板上に形成することを特徴とする請求項1〜請求項8の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項12】前記剥離層形成工程が、末端基としてシリコン系化合物、または、チタン系化合物を有するパーフルオロポリエチレンで構成される撥水性薄膜からなる剥離層を前記マスター基板上に形成することを特徴とする請求項1〜請求項8の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項13】前記剥離層の厚みが5nm以上で100nm以下であることを特徴とする請求項10〜請求項12の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項14】前記電着樹脂薄膜形成工程が、電着法にて電着樹脂薄膜を形成することを特徴とする請求項1〜請求項13の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項15】前記電着樹脂薄膜の厚みが50nm以上で500nm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項14の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項16】前記配線導体形成工程が、メッキ法にて配線導体を形成することを特徴とする請求項1〜請求項15の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項17】前記含水工程が、電着樹脂薄膜に30℃以上で80℃以下の温水を含浸させることを特徴とする請求項1〜請求項16の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項18】前記被転写基板の被転写面が粘着性を有することを特徴とする請求項1〜請求項17の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項19】前記被転写基板が、その被転写面上に接着層を配設したことを特徴とする請求項1〜請求項17の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項20】前記配線導体に対応する位置に、前記被転写基板に貫通孔を形成する工程と、前記貫通孔中に導電性材料を導入する工程と、を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項18の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項21】前記配線導体に対応する位置に、前記被転写基板および前記接着層に貫通孔を形成する工程と、前記貫通孔中に導電性材料を導入する工程と、を備えたことを特徴とする請求項19に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項22】基板と前記基板上に形成された配線導体と、を備えたことを特徴とする、請求項1〜請求項19の内のいずれか1に記載のプリント配線板の製造方法により製造されたプリント配線板。
【請求項23】基板と前記基板上に形成された配線導体と、前記基板を貫通する貫通孔と、前記貫通孔中に導入された導電性材料と、を備え、前記導電性材料と前記配線導体とが導通することを特徴とする請求項20または請求項21に記載のプリント配線板の製造方法により製造されたプリント配線板。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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