説明

プリン及びその製造方法

【課題】 簡便な方法で、加熱凝固タイプのプリンにおける「す」の発生を抑えて、製品の外観を向上する。
【解決手段】発酵セルロースを含有するプリン原料液を容器に充填して加熱凝固させてプリンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリン原料液を容器に充填して加熱凝固させたタイプのプリン、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業的に製造されるプリンとして、卵成分を含む原料液を焼成及び/又は蒸しにより加熱凝固させて製造されるタイプのものがある。具体的には、卵成分およびその他の原料を卵成分の熱凝固温度以下で混合溶解して原料液を調製し、該原料液を容器に充填しし、オーブン又は蒸煮器を用いて加熱凝固させて製造する。
【0003】
上述の様なプリンの製造方法においては、焼成及び/又は蒸しの工程で、容器内面に泡状の組織(一般的には「す」と呼ばれるものである。以下、本明細書においては「す」と記載する。)が形成され、商品としての外観が損なわれる場合がある。この「す」が発生する原因としては、焼成及び/又は蒸しを行なう前の原料液の脱気が不十分である、原料液の均質化が不十分である、充填機により原料液を容器に充填する際に吐出圧の影響で原料液に空気を巻き込んでしまう、加熱装置の下方からの熱が強すぎる、等があることが知られている。
【0004】
上記のような「す」の発生を抑える方法は、これまでにも提案されている。
例えば下記特許文献1には、ゼラチンを含有する原料液を容器に充填して一度蒸煮した後に、その上層に含気泡原料を蒸煮し、更にオーブンで焼成すると、「す」が発生しにくいことが記載されている。
下記特許文献2には、原料液を超音波照射装置にて脱気した後、容器に充填し、焼成及び/又は蒸しすることによって「す」の発生を抑える方法が開示されている。
下記特許文献3には、原料液を充填する容器に予めアルコール液を噴霧して、原料液と容器の付着性を改善することによって「す」の発生を抑える方法が開示されている。
【特許文献1】特開平6−261705号公報
【特許文献2】特開2004−41019号公報
【特許文献3】特開2004−113119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は2段階の加熱が必要なので製造工程が著しく煩雑化されてしまう。特許文献2に記載の方法は、超音波照射装置という特殊な装置が必要であること、及び超音波照射装置にて脱気した後の容器への充填工程で空気を巻き込んだ場合には効果が無いという課題がある。特許文献3に記載の方法は、アルコール液を噴霧するための工程が新たに増えるほか、アルコール噴霧装置も必要である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、簡便な方法で、加熱凝固タイプのプリンにおける「す」の発生を抑えて、製品の外観を向上できるようにしたプリン及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のプリンの製造方法は、発酵セルロースを含有するプリン原料液を容器に充填して加熱凝固させる工程を有することを特徴とする。
前記プリン原料液に含まれる発酵セルロースが、均質化工程を経ていることが好ましい。
【0008】
均質化工程を行う場合、発酵セルロースを含み卵成分を含まない発酵セルロース含有液を均質化して均質化液を得る均質化工程と、前記均質化液と卵成分とを混合して前記プリン原料液を調製する混合工程を有する方法を用いることができる。
前記均質化工程および前記混合工程を行う場合、発酵セルロースと卵成分以外の、他の原料を、前記混合工程において前記均質化液および卵成分と混合してもよい。
または、前記均質化工程および前記混合工程を行う場合、発酵セルロースと卵成分以外の、他の原料を、前記発酵セルロース含有液に含有させてもよい。
均質化工程を行う場合、卵成分および発酵セルロースを含む混合液を均質化して前記プリン原料液を調製する方法を用いることができる。
【0009】
本発明は、プリン原料液を容器に充填し、加熱凝固してなるプリンであって、発酵セルロースを均一に含有することを特徴とするプリンを提供する。
また本発明は、均質化された発酵セルロースを含有する、プリン原料液を容器に充填し、加熱凝固してなることを特徴とするプリンを提供する。
本発明のプリンにおいて、前記プリン原料液中における発酵セルロースの含有量が0.01〜0.12質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便な方法で、加熱凝固タイプのプリンにおける「す」の発生を抑えて、製品の外観を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
プリンの原料としては、通常、卵成分、乳成分、甘味成分等が用いられるが、本発明におてもこれら公知の成分を用いることができる。
卵成分は、全卵、卵黄、卵白等が使用でき、これらに加糖したものであってもよい。また、卵は鶏卵が主であるが、うずらやアヒル等の卵であってもよい。
乳成分は、生乳、牛乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、れん乳、クリーム、バター、チーズ、脱脂粉乳、全脂粉乳等を用いることができる。
甘味成分は、砂糖や、砂糖以外の甘味料を用いることができる。
またこれら以外にも、油脂、色素、調味料、香料、酒類、果汁、乳化剤等を必要に応じて使用することができる。
【0012】
本発明では発酵セルロースを必須成分として用いる。発酵セルロースは、酢酸菌(Acetobactor aceti)が産生するセルロースである。例えば、ココナッツミルク培地を酢酸菌(Acetobactor aceti)を用いて発酵させて得られるナタデココも発酵セルロースの1種である。発酵セルロースは市販品から入手できる。
発酵セルロースの添加量は、プリン原料液に対して0.01〜0.12質量%の範囲が好ましく、0.03〜0.09質量%の範囲がより好ましい。発酵セルロースの添加量が少なすぎると「す」の発生を抑える効果が不十分となり、多すぎると逆に「す」の発生を助長する。発酵セルロースの添加量が多すぎるとプリン原料液の粘度が増し、プリン原料液を容器に充填する際に空気を巻き込み易くなるためと考えられる。
【0013】
本発明において、プリンは、概略、発酵セルロースを含有するプリン原料液を調製し、該プリン原料液を容器に充填して加熱凝固させることによって製造される。
プリン原料液には、発酵セルロースの他に、卵成分、乳成分、甘味成分、および必要に応じてその他の成分が含まれている。
プリン原料液の調製方法は特に限定されず、卵成分の熱凝固温度以下で、各成分が均一に溶解されるように混合すればよい。
【0014】
プリン原料液に含まれる各成分のうち、少なくとも発酵セルロースは均質化工程を経ていることが好ましい。すなわち、少なくとも発酵セルロースを含有する液を均質化する工程を設けることが好ましい。なお、本発明における均質化および均質化工程は、各原料を用いてプリンを製造する過程における均質化および均質化工程の意味であり、各原料が製造される過程での均質化および均質化工程はこれに含まれない。
後述の試験例に示されるように、プリン原料液に含まれる発酵セルロースが均質化工程を経ていると、均質化工程を経ていない場合に比べて、プリンの「す」の発生を抑える効果が向上する。これは発酵セルロースを含む液を均質化することにより発酵セルロースの繊維が解されて三次元の網目構造を形成し、プリン原料液中の卵たんぱく質が熱凝固する際の凝集や収縮の動きを制限するために、「す」ができ難くなると推定される。
【0015】
均質化工程を行う場合、プリン原料液に含まれる卵成分は、均質化工程を経てもよく、経なくてもよい。したがって、均質化された発酵セルロースを含有するプリン原料液を調製する方法として(1)発酵セルロースを含み卵成分を含まない発酵セルロース含有液を均質化し、得られた均質化液と卵成分を混合してプリン原料液を調製する方法を用いることができる。この方法(1)で得られるプリン原料液に含まれる卵成分は、均質化工程を経ていない。
又は(2)卵成分および発酵セルロースを含む混合液を均質化してプリン原料液を調製する方法を用いることもできる。この方法(2)で得られるプリン原料液に含まれる卵成分は、均化工程を経ている。
発酵セルロース含有液に高温の加熱殺菌を施すことができるという点では方法(1)の方が好ましい。
【0016】
上記方法(1)において、発酵セルロースと卵成分以外の他の原料、具体的には乳成分、甘味成分、およびその他の成分は、均質化工程を経てもよく、経なくてもよい。したがって、上記方法(1)において、(1−1)均質化液と卵成分を混合する混合工程において、他の原料も一緒に混合してプリン原料液を調製する方法を用いてもよく、又は(1−2)前記発酵セルロース含有液に他の原料を含有させておいて、これを均質化した均質化液と卵成分とを混合してプリン原料液を調製する方法を用いてもよい。均質化液と混合させる卵成分およびその他の原料は、必要に応じて予め水に分散または溶解させておくことが好ましい。
また、方法(1−1)と方法(1−2)を併用することも可能である。すなわち、他の原料の一部は発酵セルロース含有液に含有させて均質化し、他の原料の残部は卵成分と一緒に均質化液に加えて混合してもよい。
特に方法(1−1)において、(1−1S)発酵セルロース含有液には他の原料を含有させずに発酵セルロースを単独で水に溶解または分散させ、これを均質化した均質化液に卵成分と他の原料の全部を加えて混合する方法がより好ましい。この方法(1−1S)によれば、発酵セルロース含有液の粘度を低く抑えて、均質化をより容易に行うことができる。
特に方法(1−2)において、(1−2S)発酵セルロース含有液に他の原料の全部を含有させておき、これを均質化した均質化液に卵成分のみを加えて混合する方法がより好ましい。この方法(1−2S)によれば、加熱凝固時の「す」の発生をより抑えることができる。
【0017】
前記方法(2)において、他の原料(発酵セルロースと卵成分以外)は、均質化前の混合液に含有させてもよく、均質化後に加えて混合してもよい。あるいは他の原料の一部を均質化前の混合液に含有させ、残部を均質化後に加えてもよい。製造工程が簡単であるという点では、まず発酵セルロース、卵成分、及び他の原料の全部を混合した全部混合液を調製し、これを均質化してプリン原料液を調製する方法が好ましい。
【0018】
上記いずれの方法においても、原料を混合・溶解する工程には、ミキサー(例えば、商品名:スーパーミキサー、ヤスダファインテ社製)、エジェクター(例えば、商品名:エジェクター、ヤスダファインテ社製)、攪拌機付きタンク(例えば、商品名:Bパス、ヤスダファインテ社製)等が好適に使用できる。
【0019】
上記いずれの方法においても均質化工程を行う場合には、高圧均質機(例えば、商品名:Homogenizer、三丸機械工業社製)が好適に使用できる。均質化の条件は、均質化バルブで10〜20MPaの圧力をかけて行なうことが好ましい。圧力が低すぎると発酵セルロースの繊維の解れが不十分となり、圧力が高過ぎると均質機のパッキン類に過大な負荷が掛かり損傷が早くなる他に、エネルギーのロスも大きくなる。
【0020】
特に前記方法(1)のように、均質化の対照とされる液に卵成分が含まれない場合には、高圧均質機を内蔵するUHT殺菌機(例えば、商品名:プレート式UHT殺菌機、森永エンジニアリング社製)を用い、加熱殺菌工程と均質化工程を連続して行なうことも好ましい。この場合の高圧均質機の位置はUP HOMO(加熱工程の途中にある)であっても、DOWN HOMO(冷却工程の途中にある)であってもよい。均質化の条件(圧力)は、上記と同である。
UHT殺菌機は、インフュージョン及びインジェクション等の直接加熱式でもよく、プレート式、チューブラ式、掻き取り式、多重管式等の間接加熱式でもよい。直接加熱式では加熱後にイクスパンジョンベッセル(加熱時に加えた蒸気を減圧して除く装置)を通過する際に、蒸気と共にフレーバー成分が揮発するので、間接加熱式の方が望ましい。間接加熱式では、加熱時間が短く、熱媒体との温度差が比較的小さいプレート式が最も適している。
【0021】
上記いずれの方法においても、均質化の対照とされる液(前記方法(1)の発酵セルロース含有液、および前記方法(2)の卵成分および発酵セルロースを含む混合液)における発酵セルロースの濃度は2質量%を超えないことが好ましい。より好ましくは1.5質量%以下である。該発酵セルロースの濃度が高過ぎると均質化後に液の粘度が急激に上昇して取り扱い難くなり、均質化工程における繊維の解れも少なくなる。
均質化の対照とされる液における発酵セルロースの濃度の下限は特に制限されず、低くても繊維の解れには影響しない。
特に前記方法(1−1S)のように、発酵セルロース含有液として発酵セルロースを単独で水に溶解または分散させた液を用い、これを均質化する場合には、発酵セルロース含有液における発酵セルロースの濃度が低いほど、発酵セルロース含有液の溶媒(水)の量が増えるため、相対的に他の原料を混合・溶解させるために使用できる水の量が少なくなってしまい、混合・溶解させる作業が困難になる場合がある。したがって、発酵セルロース含有液における発酵セルロースの濃度は0.5質量%以上とするのが好ましい。
【0022】
プリン原料液を容器に充填する工程は、2段充填の行なえる充填機(例えば、商品名:MTYパッカー、トーワテクノ社製)で、先にプリン原料液を充填し、次にカラメルシロップ等を充填する方法が適している。
プリン原料液が充填される容器は、ガラス製、プラスチック製、金属製等があるが、それぞれに長所と短所があるので、製造条件や流通条件に合せて選択する。ガラス製は、透明性、耐熱性に優れているが、工程中で割れ易い、重量が重い、シールし難い等の欠点がある。プラスチックは割れ難いが、ガラス製に比べると耐熱性と透明性はやや低い。金属製は、割れ難く、熱伝導性が良く、耐熱性に優れているが、不透明である、金属探知機の精度が落ちる、腐食する等の短所がある。
好ましくはガラス製、プラスチック製等の透明容器が用いられる。
【0023】
プリン原料液を容器に充填した後に加熱凝固する工程は、焼成工程でもよく、蒸し工程でもよく、両方を組み合わせてもよい。
加熱装置としては、オーブン(例えば、商品名:トンネルオーブン、リールオーブン、ラックオーブン、コンベクションオーブン、いずれも久電舎製)又は蒸し器が使用できる。
オーブンで焼成する際は、部分的な過加熱を防ぐため、湯を張ったトレー等に、プリン原料液が充填された容器を入れて焼成することが望ましい。加熱時間は30〜90分間が好ましく、45〜60分間がより好ましい。温度条件は、容器に充填されたプリン原料液の中心温度が、加熱開始から40〜50分後に75〜85℃になるように、ヒーターの設定や蒸気量を調整することが好ましい。
加熱条件は加熱時間と温度との積として考えられる。短時間で加熱する場合にはオーブンや蒸し器の温度を高く設定する必要があるため、加熱ムラが生じ易く、プラスチック容器を使用する場合には熱変形する惧れが生じる。一方、長時間で加熱する場合には、オーブンや蒸し器の温度を低く設定できるが、オーブン又は蒸し器での焼成時間を確保するために巨大な装置にするか、製造速度を落として時間を確保する必要があり、製造効率が悪くなるので、これらを加味して加熱条件を設定することが好ましい。
【0024】
加熱凝固工程を終えて得られたプリンは、好ましくは容器の開口部を密封してプリン製品とする。開口部を密閉する際には、プリンの温度が外気温(10〜30℃)と同程度となるように冷却した後、例えばヒートシーラー等で容器の開口部、好ましくはフランジ部に蓋材を熱圧シールする方法により行うことができる。開口部を蓋材で閉じる前の冷却が不十分であると、密封後にプリンから発生する水蒸気が蓋材の内側で凝縮水となって、プリン表面に落下し、外観を悪化させる。冷却温度が低過ぎても、零下になって凍結しない限り、プリンの組織には影響しないが、開口部を蓋材で閉じる前不必要に冷却時間を多くとることは、落下菌等による汚染の確率を増す点では好ましくない。
【0025】
このようにして得られる本発明のプリンは、プリン原料液を容器に充填し、加熱凝固してなるプリンであって、発酵セルロースを均一に含有する。ここでの「均一に含有する」とは、プリン内に発酵セルロースが偏在するのではなく、プリンの各部分における発酵セルロース濃度が均一化されていることを意味する。
【0026】
本発明のプリンは、プリン原料液を加熱凝固させたタイプのプリンであり、「す」の発生が抑えられており、外観が良好である。また「す」の発生が少ないので舌触りが滑らかで良好な食感を有する。
本発明のプリンの製造方法は、プリン原料液に発酵セルロースを含有させることにより、加熱凝固時の「す」の発生を抑えることができる。したがって、新たな装置の導入を必要とせず、また工程の煩雑化を招くことなく、簡便な方法で「す」の発生が少ないプリンを製造することができる。
【実施例】
【0027】
以下、試験例および実施例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
<試験例1>
(目的)
この試験は、「す」を少なくする要件を検索する目的で実施された。
(試料の調製)
配合は下記表1に示す通りとした。尚、以下の表において「発酵セルロース(商品名:プリマセル、三栄源FFI社製)」は発酵セルロースを60質量%含有する製剤であり、「0.6%発酵セルロース液」は、該発酵セルロース60質量%含有製剤(商品名:プリマセル)を水に1質量%の濃度で分散させた分散液を、高圧均質機(Homogenizer、三丸機械工業社製、以下同様。)で15MPaの圧力で均質化した液(以下、発酵セルロース均質化液という。)である。
【0028】
まず、プリン原料液を調製した。
No.1は、各原料(発酵セルロースを含まない)を均一に混合してプリン原料液を調製した。
No.2は、卵成分、発酵セルロース、および他の原料を混合し、均質化は行わずにプリン原料液を調製した。
No.3は、前記発酵セルロース均質化液と、卵成分および他の原料を混合してプリン原料液を調製した(前記方法(1−1S))。
No.4は、卵成分、発酵セルロース、および他の原料を混合して全部混合液を調製した後、該全部混合液を高圧均質機で15MPaの圧力で均質化してプリン原料液を調製した(前記方法(2))。
No.5は、卵成分以外の原料(発酵セルロースおよび他の原料)を混合した混合液を、高圧均質機で15MPaの圧力で均質化して均質化液を得、該均質化液に卵成分を加えて混合することによりプリン原料液を調製した(前記方法(1−2S))。
【0029】
次いで、プリン原料液を透明容器(略円錐台形ポリプリピレンカップ、上直径:64mm、下直径:42mm、高さ:55mm、岸本産業社製)に80g充填し、40℃の水を3cm深さになるように入れたアルミトレーに容器ごといれ、アルミトレーごとオーブン(商品名:CERAMIC MICRO COMPUTER OVEN、久電舎製)で加熱した。加熱条件は、設定温度160℃、加熱時間60分間とし、加熱開始から45分でプリン原料液の中心温度が80℃になるようにヒーターを調整した。加熱終了後、オーブンから容器を取り出し、冷蔵庫でプリンの中心温度が10℃になるまで冷却して、プリン試料を得た。
【0030】
【表1】

【0031】
(評価方法)
各プリン試料10個について、容器の側表面を目視観察し、「す」の数を数えた。プリン試料10個における「す」の数の平均値と分散を計算した。分散については、F−検定により各試料間の等分散性を評価した。平均値については、t−検定により各試料間の有意差を検定し、評価した。この結果を表2に示す。
なお、F−検定およびt−検定は公知の手法を用いた((株)培風館発行、「確率統計演習2 統計」、昭和48年初版第8刷発行、p112〜117 参照)。
分散の評価について、表2中の「**」は有意水準5%以内で「等分散性有り(ばらつき間に差は無い)」と判定されることを示す。
平均値の評価について、表2中の「**」は有意水準1%以上で「有意差あり」と判定されることを示す。
【0032】
【表2】

【0033】
(結果)
表2より、「す」の数は多い順に、No.1>2>3≧4≧5であった。
なお、「>」は統計的に有意に左が右より多いことを示し、「≧」は左が右より多いが統計的に有意な差はないことを示す。以下、同様。)
(考察)
発酵セルロースを含有しないNo.1に比べて、No.2は「す」の数が有意に少ないことから、発酵セルロースを添加することにより「す」を減少できることが認められる。
発酵セルロースが均質化されていないNo.2に比べて、No.3,4,5の方が「す」の数が有意に少ないことから、発酵セルロースが均質化工程を経た方が「す」を減少させる効果が高いことが認められる。
【0034】
<試験例2>
(目的)
この試験は、発酵セルロースの添加量を検索する目的で実施された。
(試料の調製)
配合は下記表3に示す通りとした。プリン試料の調製方法は前記試験例1のNo.4(前記方法(2))と同じ方法とした。すなわち、プリン原料液は、卵成分、発酵セルロース、および他の原料を混合して全部混合液を調製した後、該全部混合液を高圧均質機で15MPaの圧力で均質化する方法を用いた。
【0035】
【表3】

【0036】
(評価方法)
得られたプリン試料について、試験例1と同じ方法で評価した。この結果を表4に示す。
分散の評価について、表4中の「**」は有意水準5%以内で「等分散性有り(ばらつき間に差は無い)」と判定されることを示す。
平均値の評価について、表4中の「*」は有意水準1%以上で「有意差あり」と判定され、「**」は有意水準5%以上で「有意差あり」と判定されることを示す。
【0037】
【表4】

【0038】
(結果)
表4より、「す」の数は多い順に、No.17>11>12≧16>13≧15≧14であった。
(考察)
プリン原料液における発酵セルロースの含有量が0.01〜0.12質量%の範囲(No.12〜16)では、発酵セルロースを添加しなかったNo.11に比べて「す」の発生数が有意に少ない。
プリン原料液における発酵セルロースの含有量が0.03〜0.09質量%の範囲(No.13〜15)では、No.12,16に比べて「す」の発生数が有意に少ない。
プリン原料液における発酵セルロースの含有量が0.15質量%(No.17)は、発酵セルロースを添加しなかったNo.11に比べて「す」の発生数がかえって増加した。
【0039】
<実施例1>
表5のNo.21に示す配合に従ってプリン原料液を調製した。プリン原料液の調製は前記方法(1−2S)を用いて行った。まず、卵成分以外の原料(発酵セルロースおよび他の原料)をミキサー(商品名:スーパーミキサー、ヤスダファインテ社製)で混合し、高圧均質機を内蔵するUHT殺菌機(商品名:プレート式UHT殺菌機、森永エンジニアリング社製)で125℃に加熱して2秒間保持した後、85℃に冷却し、15MPaの圧力を掛けて均質化した後、10℃に冷却して均質化液を得た。混合タンク(商品名:Bパス、ヤスダファインテ社製)内で、前記で得た均質化液に卵成分を添加して均一に攪拌混合してプリン原料液を得た。
【0040】
これとは別に、表6のNo.31に示す配合に従ってシロップを調製した。まず、全部の原料をミキサー(商品名:スーパーミキサー、ヤスダファインテ社製)で混合し、UHT殺菌機(商品名:プレート式UHT殺菌機、森永エンジニアリング社製)で125℃に加熱して2秒間保持した後、10℃に冷却してタンク(商品名:Bパス、ヤスダファインテ社製)に貯蔵した。
【0041】
2段充填できる充填機(商品名:MTYパッカー、トーワテクノ社製)のメインフィラータンクに前記で得たプリン原料液を導入し、ポストフィラータンクに前記で得たシロップを導入した。試験例1で用いたのと同じ透明容器にメインフィラーでプリン原料液を80g充填し、続いてポストフィラーでシロップを5g充填した。
次いで、40℃の水を3cmの深さに入れたアルミトレーに容器ごと入れて、アルミトレーごとオーブンで加熱した。試験例1と同じオーブンを用い、加熱条件も試験例1と同様とした。加熱終了後、オーブンから容器を取り出し、冷蔵庫でプリンの中心温度が20℃になるまで冷却した。
【0042】
続いて、ヒートシール装置(商品名:Auto Cup Sealer、サニーパッケージ社製)のリテーナーに容器を収め、蓋ロール(商品名:ナイロンフィルム蓋、東洋アルミニウム社製)を被せ、ヒートシーラーで熱圧シールし、トリミングカッターでフィルムを切り離して密封した。
密封した容器を冷蔵庫に入れて冷却し、プリンの中心温度が10℃になるまで冷却して、カラメルシロップ入りのカスタードプリンを製造した。
得られたプリンは、風味、食感共に良好であり、10個について容器側面を目視観察した結果、「す」は平均3.5個、最大7個、最小0個であり、外観は良好であった。
【0043】
<実施例2>
表5のNo.22に示す配合に従ってプリン原料液を調製した。プリン原料液の調製は前記方法(2)を用いて行った。まず、全部の原料(卵成分、発酵セルロース、他の原料)をミキサー(商品名:スーパーミキサー、ヤスダファインテ社製)で混合して全部混合液を得た。この全部混合液を、高圧均質機で15MPaの圧力をかけて均質化してプリン原料液を得、これを混合タンク(商品名:Bパス、ヤスダファインテ社製)に貯蔵した。
これとは別に、表6のNo.32に示す配合に従ってシロップを調製した。まず、全部の原料を実施例1と同じミキサーで混合し、実施例1と同じUHT殺菌機で125℃に加熱して2秒間保持した後、10℃に冷却して実施例1と同じタンクに貯蔵した。
【0044】
実施例1と同様にして、透明容器にプリン原料液およびシロップを充填した。
次いで、コンベクションオーブン(商品名:Electric Convection Oven、サンヨー社製)で120℃に設定して、60分加熱した。加熱開始から40分でプリン原料液の中心温度が80℃になるようにヒーターを調整した。加熱終了後、オーブンから容器を取り出し、冷蔵庫でプリンの中心温度が20℃になるまで冷却した。
続いて、実施例1と同様にして容器を密閉した。
密封した容器を冷蔵庫に入れて冷却し、プリンの中心温度が10℃になるまで冷却して、いちごソース入りいちごプリンを製造した。
得られたプリンは、風味、食感共に良好であり、10個について容器側面を目視観察した結果、「す」は平均4.3個、最大9個、最小0個であり、外観は良好であった。
【0045】
<実施例3>
表5のNo.23に示す配合に従ってプリン原料液を調製した。プリン原料液の調製は前記方法(1−1S)を用いて行った。すなわち、発酵セルロース均質化液を用い、全部の原料をミキサー(商品名:スーパーミキサー、ヤスダファインテ社製)で混合してプリン原料液を調製し、これをタンク(商品名:Bパス、ヤスダファインテ社製)に貯蔵した。
これとは別に、表6のNo.33に示す配合に従ってシロップを調製した。まず、全部の原料を実施例1と同じミキサーで混合し、実施例1と同じUHT殺菌機で125℃に加熱して2秒間保持した後、10℃に冷却して実施例1と同じタンクに貯蔵した。
【0046】
実施例1と同様にして、透明容器にプリン原料液およびシロップを充填した。
次いで、市販の蒸篭に容器ごと入れて、ガスコンロで水を沸騰させた釜に蒸篭ごと乗せて蒸し、60分加熱した。加熱開始から45分でプリン原料液に中心温度が80℃になるようにガスコンロの炎を調整した。加熱終了後、蒸篭から容器を取り出し、冷蔵庫でプリンの中心温度が20℃になるまで冷却した。
続いて、実施例1と同様にして容器を密閉した。
密封した容器を冷蔵庫に入れて冷却し、プリンの中心温度が10℃になるまで冷却して、黒糖シロップ入りカボチャプリンを製造した。
得られたプリンは、風味、食感共に良好であり、10個について容器側面を目視観察した結果、「す」は平均4.7個、最大8個、最小0個であり、外観は良好であった。
【0047】
【表5】

【0048】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵セルロースを含有するプリン原料液を容器に充填して加熱凝固させる工程を有することを特徴とするプリンの製造方法。
【請求項2】
前記プリン原料液に含まれる発酵セルロースが、均質化工程を経ていることを特徴とする請求項1記載のプリンの製造方法。
【請求項3】
発酵セルロースを含み卵成分を含まない発酵セルロース含有液を均質化して均質化液を得る均質化工程と、前記均質化液と卵成分とを混合して前記プリン原料液を調製する混合工程を有することを特徴とする請求項2記載のプリンの製造方法。
【請求項4】
発酵セルロースと卵成分以外の、他の原料を、前記混合工程において前記均質化液および卵成分と混合することを特徴とする請求項3記載のプリンの製造方法。
【請求項5】
発酵セルロースと卵成分以外の、他の原料を、前記発酵セルロース含有液に含有させることを特徴とする請求項3記載のプリンの製造方法。
【請求項6】
卵成分および発酵セルロースを含む混合液を均質化して前記プリン原料液を調製することを特徴とする請求項2記載のプリンの製造方法。
【請求項7】
プリン原料液を容器に充填し、加熱凝固してなるプリンであって、発酵セルロースを均一に含有することを特徴とするプリン。
【請求項8】
均質化された発酵セルロースを含有する、プリン原料液を容器に充填し加熱凝固してなることを特徴とするプリン。
【請求項9】
前記プリン原料液中における発酵セルロースの含有量が0.01〜0.12質量%である請求項7または8に記載のプリン。