説明

プレス加工方法

【課題】平板状の被加工材を用い、パイロット穴を空ける工程及び金型を不要とすることで、コストの低減が可能となり、歩留まりを向上させ、さらに成形品の加工精度を向上させることが可能となる、プレス加工方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス加工方法では、被加工板11にCVTエレメントEの間隔ごとにスリットSを加工するスリット加工工程S1と、被加工板11の一部をプレスしスリットSに余肉を逃がすことで、被加工板11に板厚減少部分11bを加工する板厚減少部分加工工程S2と、被加工板11からCVTエレメントEを抜き打ち加工する抜き加工工程S3とを備え、スリット加工工程S1では、板厚減少部分11bの範囲外に位置する内側端部を有するスリットSを形成し、抜き成形工程S3では、スリットSの、板厚減少部分11bの範囲外に位置する内側端部を、被加工板11の位置決め用のパイロット穴hとして使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工方法に関し、より詳しくは、板厚減少部分を有する成形品の、抜き打ち加工における生産性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のCVT(Continuously Variable Transmission;無段変速機)において、多数のCVTエレメントを隙間なく無端状のリングに係合してCVTベルトを形成し、該CVTベルトをプーリ間の動力伝達に用いる技術が採用されている。そして、前記CVTベルトが円滑に各プーリの周りを廻ることができるように、各CVTエレメントのプーリ側(CVTベルトの内側)は、他部よりも板厚が薄い板厚減少部分として形成される(図3(a)、(b)参照)。
【0003】
そして、例えばこのCVTエレメントのような板厚減少部分を有する部品のプレス加工方法として、あらかじめ厚み方向を薄く形成した板厚減少部分が加工された異厚材を打ち抜いて形成する方法がある(例えば、特許文献1)。
また、平板状の被加工板をプレス加工して板厚減少部分を形成し、その後位置決め用のパイロット穴を開口し、CVTエレメントを打ち抜き加工する方法も知られている(例えば、特許文献2、特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−246428号公報
【特許文献2】特開2004−174585号公報
【特許文献3】特開平9−85496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1に記載の技術のように、あらかじめ厚み方向に板厚減少部分を設けて加工された異厚材を用いた場合は、異厚材が高価なことから材料の購入コストが高くなるという問題があった。
一方、前記特許文献2に記載の技術のように、被加工板をプレス加工して板厚減少部分を形成し、その後、被加工板の位置決めを行うためのパイロット穴の加工を行った場合は、廉価な平板状部材を使用するために材料コストを低減させることはできるものの、パイロット穴を空ける工程及び金型が必要となり、コスト増の原因となっていた。また、被加工板のうち、パイロット穴を開口する部分及びその周辺は成形品として用いることができないため、歩留まりの悪化に繋がっていた。
さらに、前記特許文献3に記載の技術のように、パイロット穴を成形品の包絡線内の凹部に設ける構成とした場合は、抜き打ち工程時に被加工板を押さえる面積が小さくなるため、適切な被加工板の保持が難しくなり、成形品の加工精度が低下する可能性があった。特に、前記CVTエレメントのように凹部に高い精度が求められる部品を成形する場合は、加工精度の低下によるデメリットは顕著であった。
【0005】
そこで本発明では、上記現状に鑑み、平板状の被加工材を用い、パイロット穴を空ける工程及び金型を不要とすることで、コストの低減が可能となり、歩留まりを向上させ、さらに成形品の加工精度を向上させることが可能となる、プレス加工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、被加工板に、該被加工板に形成される複数の成形品の間隔ごとにスリットを加工する、スリット加工工程と、前記被加工板の一部をプレスし、前記スリットに余肉を逃がすことで、前記被加工板に板厚減少部分を加工する、板厚減少部分加工工程と、前記被加工板から成形品を抜き打ち加工する、抜き加工工程と、を備えるプレス加工方法であって、前記スリット加工工程では、前記板厚減少部分加工工程にて形成される板厚減少部分の範囲外に位置する端部を有するスリットを形成し、前記抜き成形工程では、前記スリットの、前記板厚減少部分の範囲外に位置する端部を、前記被加工板の位置決め用のパイロット穴として使用するものである。
【0008】
請求項2においては、前記スリットの、前記板厚減少部分の範囲外に位置する端部は、半円形状に形成されるものである。
【0009】
請求項3においては、前記被加工板は対向する一対の短辺と対向する一対の長辺とを有する平板状部材であり、前記成形品はCVTエレメントであって、前記スリット加工工程では、前記被加工板の各長辺側の端部から該被加工板の内側へ向かって延出する形状のスリットが略等間隔に形成され、一方の長辺側に形成されるスリットと他方の長辺側に形成されるスリットとは、長辺方向の位置をずらして千鳥状に配置され、前記板厚減少部分加工工程では、前記板厚減少部分を、前記被加工板の各長辺側端部に形成し、前記抜き加工工程では、前記CVTエレメントは、前記被加工板の各長辺に沿って抜き打ち加工されるとともに、一方の長辺側のCVTエレメントと他方の長辺側のCVTエレメントとは長辺方向の位置をずらして千鳥状に抜き打ち加工されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
本発明により、プレス加工において、平板状の被加工材を用い、パイロット穴を空ける工程及び金型を不要とすることで、コストの低減が可能となり、歩留まりを向上させ、さらに成形品の加工精度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係るプレス加工方法の各工程における被加工板を示した図である。
図2は本発明に係るプレス加工方法のフローチャートを示した図である。
図3は本発明による成形品であるCVTエレメントを示した図である。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる、本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
また、本明細書については、被加工板11から成形する成形品として、CVTエレメントE・E・・・を打ち抜き加工するものとして説明するが、本発明は歯車やセンサの端子など、板厚減少部分を有する部品であれば適用可能であり、本明細書における実施形態に限定されるものではない。
さらに、本実施形態における被加工板11は耐摩耗性に優れた硬質鋼板であり、対向する一対の短辺と対向する一対の長辺とを有する平板状部材を用いるものとする。
【0013】
本発明に係るプレス加工方法について、図1及び図2を用いて説明する。
図1(a)は、被加工板11にスリットS・S・・・を加工した状態を示した図である。図1(b−1)は、被加工板11の被加工部11a・11a・・・に板厚減少部分11b・11b・・・を加工した状態を示した図である。図1(b−2)は、被加工板11の被加工部11a・11a・・・に板厚減少部分11b・11b・・・を別形態として加工した状態を示した図である。図1(c)は、成形品であるCVTエレメントE・E・・・を打ち抜く際の被加工板11を示した図である。
【0014】
本発明に係るプレス加工方法は、被加工板11をプレス機等の加工機によって順に加工するもの(順送りプレス加工)であり、図2に示す如く、被加工板11に、該被加工板11に形成される複数のCVTエレメントEの間隔ごとにスリットS・S・・・を加工する、スリット加工工程(ステップS1)と、前記被加工板11の一部をプレスし、前記スリットS・S・・・に膨張部11c・11c・・・として余肉を逃がすことで、前記被加工板11に板厚減少部分11b・11b・・・を加工する、板厚減少部分加工工程(ステップS2)と、前記被加工板11からCVTエレメントE・E・・・を抜き打ち加工する、抜き加工工程(ステップS3)と、を備える。
【0015】
詳細には、前記スリット加工工程(ステップS1)では、被加工板11の対向する二つの長辺側に、CVTエレメントE・E・・・の間隔ごとに、スリットS・S・・・を交互等間隔に加工するのである。換言すれば、図1(a)に示すように、スリットS・S・・・が、CVTエレメントE・E・・・の幅を確保して、交互に対向して等間隔に形成されるのである。
具体的は、各スリットS・S・・・は、被加工板11の各長辺側の端部から、被加工板11の長辺と直交する方向の内側へ向かって延出する形状に形成されており、各スリットS・S・・・の長辺側端部は開放され、内側端部は有端となっている。また、各長辺側に形成される複数のスリットS・S・・・は等間隔に配置されており、一方の長辺側に形成されるスリットS・S・・・と他方の長辺側に形成されるスリットS・S・・・とは、長辺方向の位置をずらして千鳥状に配置されている。
そして、前記スリットS・S・・・の相互間は、CVTエレメントEが打ち抜かれる部分である被加工部11a・11a・・・となるのである。また、前記スリットS・S・・・の、前記被加工板11における内側端部は、半円形状に形成されている。
【0016】
次に、板厚減少部分加工工程(ステップS2)では、前記被加工板11の二つの長辺側の被加工部11a・11a・・・をプレス加工し、板厚減少部分11b・11b・・・を形成するのである。その際、図1(b−1)に示すように、被加工部11a・11a・・・をプレス加工する応力によって発生する余肉を、被加工板11の長辺側の外側、及び、前記スリットS・S・・・に、膨張部11c・11c・・・として逃がしているのである。
【0017】
ここで、図1(b−1)に示すように、前記板厚減少部分11b・11b・・・の被加工板11における長辺側の端部から内側方向への幅は、スリットS・S・・・の長さよりも長さdだけ短くなるように形成される。換言すれば、前記スリットS・S・・・の長さは、被加工板11の端部からの板厚減少部分11b・11b・・・の幅よりも長さdだけ長く形成されているのである。
【0018】
これにより、スリットS・S・・・は、板厚減少部分11b・11b・・・の範囲外に位置する端部(内側端部)を有することとなる。ここで、本明細書における板厚減少部分11b・11b・・・の範囲とは、被加工板11において、それぞれの長辺側の端部に位置する、板厚減少部分11b・11b・・・の間の部分を含む、帯状の範囲を意味するものである。
即ち、図1(b−2)に示すように、一辺の長辺側の板厚減少部分11b・11b・・・を、それぞれの被加工部11a・11a・・・に跨るように帯状に形成し、スリットS・S・・・を、板厚減少部分11b・11b・・・の範囲外に位置する端部を有するように形成することも可能である。
【0019】
上記のように形成することにより、前記のように膨張部11c・11c・・・によってスリットS・S・・・の一部が塞がれても、スリットS・S・・・の前記被加工板11における内側端部は板厚減少部分11b・11b・・・の範囲外に位置しているため余肉によって塞がれることがなく、開口状態を維持することが可能となるのである。
【0020】
次に、抜き加工工程(ステップS3)では、図1(c)に示すように、前記被加工板11の二つの長辺に沿って、CVTエレメントE・E・・・を交互に対向して抜き打ち加工する。
つまり、CVTエレメントE・E・・・は、被加工板11の各長辺に沿って抜き打ち加工されるとともに、一方の長辺側のCVTエレメントE・E・・・と他方の長辺側のCVTエレメントE・E・・・とは長辺方向の位置をずらして千鳥状に抜き打ち加工されるのである。
【0021】
この際、前記スリットS・S・・・の、前記被加工板11における内側端部を、治具による位置決めのためのパイロット穴h・h・・・として使用するのである。即ち、前記板厚減少部分加工工程(ステップS2)において被加工部11a・11a・・・をプレス加工しても、スリットS・S・・・の前記被加工板11における内側端部は板厚減少部分11b・11b・・・の範囲外に位置しているため、余肉によって塞がれることがなく、パイロット穴h・h・・・として所定の大きさの空間を確保することができるのである。
そして、前記のように、前記スリットS・S・・・の前記被加工板11における内側端部は、半円形状に形成されているため、パイロット穴h・h・・・として使用可能な程度に開口形状が保持されるのである。
【0022】
上記のように、本発明に係るプレス加工方法においては、平板状の被加工板11を用いるため、高価な異厚材を購入する必要がなく、材料の購入コストを低廉に抑えることが可能となる。
また、スリットS・S・・・の前記被加工板11における内側端部を、位置決めのためのパイロット穴h・h・・・として使用するため、パイロット穴h・h・・・を空ける工程及び金型が不要となり、コストを抑えることができる。そして、被加工板11において、パイロット穴h・h・・・を開口する部分を別に確保する必要がないため、図1(c)に示すようにCVTエレメントE・E・・・を交互に対向して抜き打ち加工することにより、被加工板11の加工効率を向上させることが可能となる。換言すれば、CVTエレメントE・E・・・以外の廃却部分の面積が減少するため、歩留まりを向上させることができるのである。
さらに、パイロット穴h・h・・・をCVTエレメントE・E・・・の包絡線内の凹部に設ける構成としないため、抜き打ち工程時に被加工板11を押さえる面積が小さくなることがなく、適切に被加工板11を保持することができ、CVTエレメントE・E・・・の凹部を加工する際に高い精度を確保することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るプレス加工方法の各工程における被加工板を示した図。
【図2】本発明に係るプレス加工方法のフローチャートを示した図。
【図3】本発明による成形品であるCVTエレメントを示した図。
【符号の説明】
【0024】
11 被加工板
11a 被加工部
11b 板厚減少部分
11c 膨出部
S スリット
h パイロット穴
E CVTエレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工板に、該被加工板に形成される複数の成形品の間隔ごとにスリットを加工する、スリット加工工程と、
前記被加工板の一部をプレスし、前記スリットに余肉を逃がすことで、前記被加工板に板厚減少部分を加工する、板厚減少部分加工工程と、
前記被加工板から成形品を抜き打ち加工する、抜き加工工程と、を備えるプレス加工方法であって、
前記スリット加工工程では、前記板厚減少部分加工工程にて形成される板厚減少部分の範囲外に位置する端部を有するスリットを形成し、
前記抜き成形工程では、前記スリットの、前記板厚減少部分の範囲外に位置する端部を、前記被加工板の位置決め用のパイロット穴として使用する、
ことを特徴とする、プレス加工方法。
【請求項2】
前記スリットの、前記板厚減少部分の範囲外に位置する端部は、半円形状に形成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載のプレス加工方法。
【請求項3】
前記被加工板は対向する一対の短辺と対向する一対の長辺とを有する平板状部材であり、
前記成形品はCVTエレメントであって、
前記スリット加工工程では、前記被加工板の各長辺側の端部から該被加工板の内側へ向かって延出する形状のスリットが略等間隔に形成され、
一方の長辺側に形成されるスリットと他方の長辺側に形成されるスリットとは、長辺方向の位置をずらして千鳥状に配置され、
前記板厚減少部分加工工程では、前記板厚減少部分を、前記被加工板の各長辺側端部に形成し、
前記抜き加工工程では、前記CVTエレメントは、前記被加工板の各長辺に沿って抜き打ち加工されるとともに、一方の長辺側のCVTエレメントと他方の長辺側のCVTエレメントとは長辺方向の位置をずらして千鳥状に抜き打ち加工される、
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のプレス加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−105033(P2010−105033A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281956(P2008−281956)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】