説明

プレス成形金型

【課題】傾斜面を有する部品を高い寸法精度でプレス成形する。
【解決手段】パンチ10の成形面11に、プレス方向と直交する方向に対して傾斜した傾斜面(テーパ面11a)を設け、ダイ20に、ダイ本体21に対して水平方向に可動な可動成形部22を設け、ダイ本体21を降下させると共に、可動成形部22の成形孔22aを、ブランク材Wに押し付けながらパンチ10のテーパ面11aに沿って拡径させることにより、ブランク材Wをテーパ面11aに沿って成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドアパネルのような金属製の外板部品の多くは、絞り成形や張り出し成形などのプレス成形により形成される。プレス成形は、通常、ダイとブランクホルダとで端部を挟持したブランク材を、パンチの成形面に押し付けることで行われる(例えば、特許文献1参照)。具体的には、ブランク材Wの両端をダイ120及びブランクホルダ130で挟持し(図9参照)、これらを一体に降下させて、ブランク材Wをパンチ110の成形面111に押し付けることにより、部品W’を成形する(図10及び図11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−344925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、図1に示すように、部品W’が傾斜部W1を有する場合、パンチ110の成形面111に傾斜部W1を成形するための傾斜面111aが設けられる(図9〜11参照)。この場合、部品W’の傾斜部W1は、図11に示すプレス完了時に初めて傾斜面111aと接触して成形されるため、パンチ110の成形面111の傾斜面111aにブランク材Wを精度良く倣わせることができず、部品W’の傾斜部W1を所望の寸法精度に成形できない恐れがある。
【0005】
本発明が解決すべき技術的課題は、傾斜部を有する部品を高い寸法精度でプレス成形することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためになされた本発明は、ダイ、ブランクホルダ、及びパンチを有し、パンチの成形面に、プレス方向と直交する方向に対して傾斜した傾斜面を設け、ダイが、パンチに対してプレス方向に相対移動可能とされたダイ本体と、ダイ本体に対してプレス方向と直交する方向に移動可能とされた可動成形部とを備えたプレス成形金型であって、ダイ及びブランクホルダでブランク材の端部を挟持した状態でプレス方向一方に相対移動させて、ブランク材をパンチの成形面に押し付けると共に、可動成形部を、パンチの傾斜面から浮きあがったブランク材に押し付けながら傾斜面に沿って移動させることにより、ブランク材を傾斜面に沿って成形するものである。
【0007】
このように、本発明のプレス成形金型では、通常のプレス成形と同様にダイ及びブランクホルダで挟持したブランク材をパンチの成形面に押し付けたときに、パンチの傾斜面から浮き上がったブランク材に可動成形部を押し付けながら、可動成形部を傾斜面に沿って移動させることにより、ブランク材をパンチの傾斜面に沿って成形する。これにより、プレス完了時にのみブランク材をパンチの傾斜面と接触させる場合(図9〜11参照)と比べて、ブランク材の傾斜部を精度良く成形することが可能となる。
【0008】
パンチの傾斜面が、プレス方向一方へ向けて徐々に拡径した外周面(例えばテーパ面)からなる場合、可動成形部に、傾斜面に沿って拡径縮径可能な成形孔を設け、この成形孔をブランク材に押し付けながら傾斜面に沿って移動させることで、ブランク材の傾斜部を成形することができる。この場合、例えば、可動成形部を、ダイ本体に回転可能に取り付けられた複数の回転部材で構成し、この複数の回転部材で成形孔を形成することができる。
【0009】
上記のように、可動成形部をブランク材に押し付けながら傾斜面に沿って移動させることで、ブランク材が可動成形部の移動方向に引っ張られる。このとき、パンチの傾斜面のプレス方向他方の端部(ダイ側の端部)に接触したブランク材の折れ曲がり部P(図4参照)が、破断の恐れが最も高い箇所となる。特に、図1に示すように、下方に向けて曲率を徐々に小さくした傾斜部(図示例ではテーパ部W1)を成形する場合、傾斜部の小径側の材料が大径側に向けて引っ張られるため、小径側の端部に破断が生じやすい。そこで、ダイに、ダイ本体に対してプレス方向に可動とされた押さえ部を設け、押さえ部によりブランク材をパンチの傾斜面に押し付けた状態で、ブランク材のうち、押さえ部により押さえられた領域よりもプレス方向一方側の領域を、可動成形部により傾斜面に沿って成形するようにすれば、ブランク材の傾斜部の折れ曲がり部に加わる負荷を低減し、ブランク材の破断を防止できる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明のプレス成形金型によれば、傾斜部を有する部品を高い寸法精度で成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】傾斜面を有する部品の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るプレス成形金型の断面図である。
【図3】上記プレス成形金型の可動成形部の平面図である。
【図4】上記プレス成形金型によるプレス成形の様子を示す断面図である。
【図5】上記プレス成形金型によるプレス成形の様子を示す断面図である。
【図6】上記プレス成形金型によるプレス成形の様子を示す断面図である。
【図7】傾斜面を有する部品の他の例を示す斜視図である。
【図8】他の実施形態に係るプレス成形金型の断面図である。
【図9】従来のプレス成形金型によるプレス成形の様子を示す断面図である。
【図10】従来のプレス成形金型によるプレス成形の様子を示す断面図である。
【図11】従来のプレス成形金型によるプレス成形の様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
本実施形態では、平板状のブランク材をプレス成形して図1に示すような傾斜部を有する部品W’を成形する場合を示す。図示例の部品W’は、傾斜部が、全周で連続し、下方に向けて徐々に拡径した筒状のテーパ部W1で構成される。テーパ部W1の小径側端部には平坦な頂部W2が設けられ、テーパ部W1の大径側端部には外径に延びた平坦なフランジ部W3が設けられる。このような形状の部品W’としては、例えば自動車のサスペンションに組み込まれるスプリングシート等がある。
【0014】
図2に、本発明の一実施形態に係るプレス成形金型を示す。このプレス成形金型は、パンチ10と、ダイ20と、ブランクホルダ30とを備える。本実施形態では、パンチ10が固定型とされ、ダイ20がプレス方向に可動な可動型とされる。尚、本実施形態では、プレス方向を鉛直方向(上下方向)とし、プレス方向と直交する方向を水平方向とした場合を示す。
【0015】
パンチ10は、上面に成形面11を有する。成形面11は、水平方向に対して傾斜した傾斜面を有し、図示例では傾斜面が、下方に向けて徐々に拡径したテーパ状外周面(テーパ面11a)で構成される。テーパ面11aの上端には、水平方向の平坦面からなる頂面11bが設けられる。ブランクホルダ30は、パンチ10の全周に環状に設けられ、所定のクッション圧で上向きに付勢された状態で、上下方向に可動とされる。
【0016】
ダイ20は、ダイ本体21と、可動成形部22と、押さえ部23とを有する。ダイ本体21は、図示しない駆動手段(例えば油圧シリンダやサーボモータ)により上下方向に可動とされる。ダイ20の下面24とブランクホルダ30の上面31とでブランク材Wの端部を所定のクッション圧で挟持する。
【0017】
可動成形部22は、ダイ本体21に対して水平方向に移動可能とされる。本実施形態では、可動成形部22の中央に、拡径縮径可能な成形孔22aが設けられる。具体的に、可動成形部22は、図3に示すように、複数(図示例では4つ)の回転部材22bからなる。各回転部材22bは、ダイ本体21にピン22cを介して回転可能に取付けられる。回転部材22bには略円弧状の湾曲部22dが設けられ、各回転部材22bの湾曲部22dを組み合せて、成形孔22aが形成される。複数の回転部材22bを回転させることにより、成形孔22aが拡径(図3(b)参照)あるいは縮径(図3(a)参照)可能とされる。
【0018】
押さえ部23は、図2に示すようにダイ本体21に設けられた凹部21aの内周に収容され、ダイ本体21に対して上下方向に移動可能とされる。押さえ部23は、パンチ10のテーパ面11aの等高線に沿って設けられ、図示例では円筒状に設けられる。本実施形態では、同心上に配された径の異なる複数の円筒状の押さえ部(第1押さえ部23a〜第3押さえ部23c)で押さえ部23が構成される。各押さえ部23a、23b、及び23cの先端(下端)には、ブランク材Wと接触する環状の押さえ面23a1、23b1、及び23c1が設けられる。図2に示す成形前の状態では、押さえ面23a1、23b1、及び23c1は可動成形部22の上面の高さに配される。ダイ20には、第1押さえ部23a〜第3押さえ部23cをそれぞれパンチ10側(下方)に付勢する付勢手段が設けられる。図示例では、付勢手段として、各押さえ部23a〜23cの上方に、各押さえ部23a〜23cと略同径の円筒状のスプリング25a〜25cが設けられる。尚、付勢手段はスプリングに限らず、例えば圧力制御可能な機構(エアシリンダ等)を使用することもできる。
【0019】
以下、上記構成のプレス成形金型を用いたプレス成形方法を説明する。
【0020】
まず、図2に示すように、ブランクホルダ30の上面31に円板状のブランク材Wを載置する。このとき、可動成形部22の成形孔22aは縮径され(図3(a)参照)、パンチ10の成形面11のテーパ面11aの最小径部(頂面11bの外径)よりも若干大きくなっている(図2参照)。
【0021】
そして、ダイ20を降下させ、ダイ本体21の下面24とブランクホルダ30の上面31とで、円盤状のブランク材Wの外周端全周を挟持する。その後、ダイ20、ブランクホルダ30、及びブランク材Wを一体的に降下させ、ブランク材Wをパンチ10の成形面11の頂面11bに押し付ける(図4参照)。これにより、ブランク材Wがパンチ10の成形面11の頂面11bの外周端で折り曲げられる。このとき、パンチ10の成形面11のテーパ面11aから浮き上がったブランク材W(図4の点線参照)を、可動成形部22の成形孔22aにより下向きに押し付けることにより、ブランク材Wに、パンチ10のテーパ面11aに沿ったテーパ部W1が成形され始める。これと同時に、ブランク材Wのテーパ部W1が、最も小径な第1押さえ部23aの押さえ面23a1により下向きに押圧され、パンチ10のテーパ面11aの等高線の全周に押し付けられる。
【0022】
さらに、ダイ20、ブランクホルダ30、及びブランク材Wを降下させると、図4に矢印Aで示すように、可動成形部22の成形孔22aでブランク材Wを成形しながら、成形孔22aパンチ10のテーパ面11aに沿って拡径する。具体的には、成形孔22aにパンチ10のテーパ面11aが挿入されることで回転部材22bが回転し、これにより成形孔22aが拡径する。こうして、可動成形部22の成形孔22aをブランク材Wに押し付けながら、パンチ10のテーパ面11aに沿って拡径させることにより、ブランク材Wにテーパ部W1が順次成形される。
【0023】
このとき、ブランク材Wのテーパ部W1は、可動成形部22の移動方向(図4の矢印A方向)に引っ張られるが、テーパ部W1の上端部よりも下側の等高線を第1押さえ部23aで押さえていることで、テーパ部W1の小径側端部(折れ曲がり部P)に加わる負荷を軽減し、テーパ部W1の破断を防止できる。また、このように、テーパ部W1のうち、小径側端部よりも大径な領域を第1押さえ部23aで押さえることで、可動成形部22の引っ張り力に対して対抗する領域が大きくなるため、テーパ部W1の破断を防止できる。
【0024】
そして、図5に示すように、可動成形部22の成形孔22aが、第2押さえ部23bの外径よりも大径となると、第2押さえ部23bがスプリング25bにより下向きに付勢され、第2押さえ部23bの押さえ面23b1でブランク材Wのテーパ部W1をパンチ10のテーパ面11aに押し付ける。これにより、テーパ部W1のうち、さらに大径な領域が第2押さえ部23bにより押さえられるため、テーパ部W1の破断の恐れがさらに減じられる。
【0025】
その後、さらにダイ20、ブランクホルダ30、及びブランク材Wを降下させ、可動成形部22の成形孔22aを拡径させながら、テーパ部W1を成形する。そして、可動成形部22の成形孔22aが、第3押さえ部23cの外径よりも大径となると、第3押さえ部23cの押さえ面23c1でブランク材Wのテーパ部W1をパンチ10のテーパ面11aに押し付ける。そして、成形孔22aによるテーパ部W1の成形を続け、図6に示すようにダイ20が下死点に達したら、テーパ部W1の全面がパンチ10のテーパ面11aに押し付けられて成形され、部品W’が完成する。
【0026】
その後、ダイ20を上昇させると共に、ブランクホルダ30で部品W’を持ち上げてパンチ10から分離する。このとき、可動成形部22の回転部材22bを図示しない駆動手段により回転させ、成形孔22aを縮径させる。ダイ20が上死点に達したら、部品W’をプレス成形金型から取り出す。
【0027】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、部品Wの傾斜部がテーパ部W1であり、パンチ10の成形面11に設けられる傾斜面がテーパ面11aである場合を示したが、これに限らず、水平方向に対して傾斜した平面や曲面であればよい。例えば、図7に示すように、略矩形状の頂部W4の外周端から下方に向けて外側に傾斜した傾斜部W5を有する部品W’’を成形するためのプレス成形金型に本発明を適用することもできる。
【0028】
また、上記の実施形態では、ブランクホルダ30の上面31とでブランク材Wを挟持するダイ20の下面24が、可動成形部22に設けられているが、これに限らず、例えば図8に示すようにダイ本体21に設けてもよい。
【0029】
また、上記の実施形態では、可動成形部22を複数の回転部材22bで構成した場合を示したが、これに限らず、例えばダイに対して水平方向にスライド(平行移動)可能な複数のスライド部材で可動成形部を構成してもよい(図示省略)。
【0030】
また、上記の実施形態では、パンチ10を固定型、ダイ20を可動型とした場合を示したが、これとは逆に、ダイ20を固定型として、パンチ10を上下動させてもよい。あるいは、パンチ10とダイ20とを上下反転させた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0031】
W ブランク材
W1 テーパ部(傾斜部)
W2 頂部
W3 フランジ部
W’ 部品
10 パンチ
11 成形面
11a テーパ面(傾斜面)
20 ダイ
21 ダイ本体
22 可動成形部
22a 成形孔
22b 回転部材
23 押さえ部
23a 第1押さえ部
23b 第2押さえ部
23c 第3押さえ部
30 ブランクホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイ、ブランクホルダ、及びパンチを有し、前記パンチの成形面に、プレス方向と直交する方向に対して傾斜した傾斜面を設け、前記ダイが、前記パンチに対してプレス方向に相対移動可能とされたダイ本体と、前記ダイ本体に対してプレス方向と直交する方向に移動可能とされた可動成形部とを備えたプレス成形金型であって、
前記ダイ及び前記ブランクホルダで前記ブランク材の端部を挟持した状態でプレス方向一方に相対移動させて、前記ブランク材を前記パンチの成形面に押し付けると共に、
前記可動成形部を、前記パンチの傾斜面から浮き上がった前記ブランク材に押し付けながら前記傾斜面に沿って移動させることにより、前記ブランク材を前記傾斜面に沿って成形するプレス成形金型。
【請求項2】
前記傾斜面が、プレス方向一方へ向けて徐々に拡径した外周面からなり、前記可動成形部に、前記傾斜面に沿って拡径縮径可能な成形孔を設けた請求項1記載のプレス成形金型。
【請求項3】
前記ダイに、前記ダイ本体に対してプレス方向に移動可能とされた押さえ部を設け、
前記押さえ部により前記ブランク材を前記傾斜面に押し付けた状態で、前記ブランク材のうち、前記押さえ部により押さえられた領域よりもプレス方向一方側の領域を、前記可動成形部により前記傾斜面に沿って成形する請求項1又は2に記載のプレス成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−111643(P2013−111643A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262873(P2011−262873)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)