説明

プレス機械並びにその上死点停止制御方法および装置

【課題】スライドを上死点位置で正確に停止させることができるプレス機械並びにその上死点停止制御方法及び装置を提供する。
【解決手段】回転角検出器21によりクランク軸4の回転角を検出し、粘度センサ22によりクラッチブレーキ装置8を作動させる作動液の粘度を測定する。検出及び測定した回転角と粘度に基づいて、上死点位置でクランク軸4の回転が停止するようにバルブ17の開閉タイミングを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メーンモータによって回転駆動されるクランク軸等の回転体を上死点位置に正確に停止させることができるプレス機械並びにその上死点停止制御方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機械は、メーンモータの動力をクラッチを介してクランク軸に伝達し、クランク軸の回転運動をスライドの昇降運動に変換する。スライドを停止するときは、クラッチを切り、クランク軸に接続されたブレーキによりクランク軸を制動する。ブレーキすべり量はクランク軸の回転速度に依存するので、クランク軸の回転速度に応じて、スライドが上死点位置で停止するように、クラッチを切ってブレーキを作動させるタイミングを制御装置により制御する。
【0003】
下記特許文献1には、プレス機械の上死点停止制御方法及び装置について1つの提案がなされている。特許文献1の方法及び装置は、ブレーキに設けた温度センサのブレーキ温度に基づいてブレーキすべり量を補正して制御し、常に正確な上死点位置を得るように構成している。
【0004】
【特許文献1】特開2003−340599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プレス機械のクラッチ、ブレーキでは、作動液(例えば油)の供給/排出によりクラッチ板・ブレーキ板を液圧で押し付けたり離したりする。これにより、クラッチのオン/オフとブレーキのオン/オフの切り替えが行われる。制御装置は、バルブをオン/オフして作動液の流れを制御するが、作動液の流れ具合は流体の特性、特に粘度により変化する。このため、同じクランク軸の回転速度で同じタイミングでクラッチを切り、ブレーキが制動するように制御装置が指令しても、クラッチの切れ・ブレーキの作動のタイミング・ブレーキ板の押付け力は作動液の粘度の影響を受けて変化し、ブレーキすべり量が変化するため、スライドの停止位置が上死点からずれてしまう。
【0006】
作動液の特性、特に粘度が変化する主な原因は温度変化である。作動液の流れを制御するバルブとその前後の配管は周囲環境に曝されているため、周囲環境の温度変化の影響を受けやすい。そのため、その中を流れる作動液も温度変化によって粘度が変化し、クラッチの切れ・ブレーキの作動のタイミング・ブレーキ板の押付け力が変化し、これによりブレーキすべり量が変化する。
【0007】
上記特許文献1では、ブレーキの温度を測定してブレーキすべり量を補正しているが、湿式ブレーキの場合、ブレーキは油で冷却されるため温度変化が小さく、ブレーキ温度を測定してブレーキすべり量を補正する効果は小さい。作動液の特性、特に粘度の変化によるブレーキすべり量の変化のほうが大きい。このため、特許文献1の方法では、スライドを上死点位置で正確に停止させることができない。
【0008】
そこで、本発明は、スライドを上死点位置で正確に停止させることができるプレス機械並びにその上死点停止制御方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のプレス機械並びにその上死点停止制御方法及び装置は、以下の手段を採用する。
(1)すなわち、本発明のプレス機械の上死点停止制御方法は、メーンモータの動力をクラッチを介して回転体に伝達し、前記回転体の回転運動を動力伝達機構によりスライドの昇降運動に変換し、前記回転体に接続され作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるブレーキにより上死点位置で前記回転体の回転を停止させるようにしたプレス機械の上死点停止制御方法において、前記回転体の回転角と前記作動液の所定の特性を測定し、前記回転角と前記特性に基づいて、上死点位置で前記回転体の回転が停止するように前記ブレーキへの作動液の給排を制御する、ことを特徴とする。
【0010】
(2)また、上記(1)のプレス機械の上死点停止制御方法において、前記ブレーキへの作動液の給排の制御において、作動液の給排を切り替えるタイミングを制御する。
【0011】
(3)また、上記(1)または(2)のプレス機械の上死点停止制御方法において、前記クラッチは、クラッチ用作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるものであり、前記クラッチ用作動液の所定の特性を測定し、前記ブレーキへの作動液の給排の制御と併せて、前記回転角と前記クラッチ用作動液の特性に基づいて、上死点位置で前記回転体の回転が停止するように前記クラッチへのクラッチ用作動液の給排を制御する。
【0012】
(4)また、上記(3)のプレス機械の上死点停止制御方法において、前記クラッチへのクラッチ用作動液の給排の制御において、クラッチ用作動液の給排を切り替えるタイミングを制御する。
【0013】
(5)また、上記(1)〜(4)のいずれかのプレス機械の上死点停止制御方法において、前記特性は粘度である。
【0014】
(6)本発明のプレス機械の上死点停止制御装置は、メーンモータの動力をクラッチを介して回転体に伝達し、回転体の回転運動を動力伝達機構によりスライドの昇降運動に変換し、回転体に接続され作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるブレーキにより上死点位置で回転体の回転を停止させるようにしたプレス機械の上死点停止制御装置において、前記回転体の回転角を検出する回転角検出器と、前記作動液の所定の特性を測定する特性測定手段と、前記ブレーキに接続された作動液配管上に設けられたバルブと、前記回転角検出器からの角度信号と前記特性測定手段からの特性信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記バルブを制御する制御部と、を備える、ことを特徴とする。
【0015】
(7)また、上記(6)のプレス機械の上死点停止制御装置において、前記制御部は、前記角度信号及び前記特性信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記バルブの開閉タイミングを制御する。
【0016】
(8)また、上記(6)または(7)のプレス機械の上死点停止制御装置において、前記クラッチは、クラッチ用作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるものであり、さらに、前記クラッチ用作動液の所定の特性を測定する第2の特性測定手段と、前記クラッチに接続されたクラッチ用作動液配管上に設けられた第2のバルブと、を備え、前記制御部は、前記バルブの制御と併せて、前記回転角検出器からの角度信号と前記第2の特性測定手段からの粘度信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記第2バルブを制御する。
【0017】
(9)また、上記(8)のプレス機械の上死点停止制御装置において、前記制御部は、前記角度信号及び前記第2の特性測定手段からの粘度信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記第2のバルブの開閉タイミングを制御する。
【0018】
(10)また、上記(6)〜(9)のいずれかのプレス機械の上死点停止制御装置において、前記特性は粘度である。
【0019】
(11)また、本発明のプレス機械は、メーンモータの動力をクラッチを介して回転体に伝達し、回転体の回転運動を動力伝達機構によりスライドの昇降運動に変換し、回転体に接続され作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるブレーキにより上死点位置で回転体の回転を停止させるようにしたプレス機械において、前記回転体の回転角を検出する回転角検出器と、前記作動液の所定の特性を測定する特性測定手段と、前記ブレーキに接続された作動液配管上に設けられたバルブと、前記回転角検出器からの角度信号と前記特性測定手段からの特性信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記バルブを制御する制御部と、を備える上死点停止制御装置を備える、ことを特徴とする。
【0020】
(12)また、上記(11)のプレス機械において、前記クラッチは、クラッチ用作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるものであり、さらに、前記クラッチ用作動液の所定の特性を測定する第2の特性測定手段と、前記クラッチに接続されたクラッチ用作動液配管上に設けられた第2のバルブと、を備え、前記制御部は、前記バルブの制御と併せて、前記回転角検出器からの角度信号と前記第2の特性測定手段からの粘度信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記第2バルブを制御する。
【発明の効果】
【0021】
クラッチの切れ・ブレーキの作動タイミング・ブレーキ板の押付け力は、作動液配管及びこの配管に設けられたバルブを通過する作動液の特性に影響を受ける。そこで、本発明では、作動液配管及びバルブを通過する作動液の特性を測定し、その特性に応じてブレーキ、クラッチへの作動液の給排を制御する。測定する作動液の特性は、クラッチの切れ・ブレーキの作動タイミング・ブレーキ板の押付け力に対して特に影響を与えやすい粘度であるのが好ましい。また、ブレーキ、クラッチの作動液の給排の制御では、上死点位置で回転体(クランクプレスの場合、クランク軸)の回転が停止するようにバルブの開閉タイミングを制御することにより、ブレーキすべり量を補正することが好ましい。
【0022】
このような本発明によれば、プレス機械の周囲環境温度が変化しても、スライドを上死点位置に正確に停止させることができる。
したがって、プレス間搬送装置とスライドとの干渉を防ぐための離間距離を小さくでき、ラインの稼動速度が向上する。
また、上死点ではスライドの直線動の速度がゼロであることから、上死点で正確に停止させることにより、スライドの加速度・ジャーク(加速度の一回微分:躍度)は小さくなる。このため、プレス機械に加わる機械的ショックも小さくなり、耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0024】
[第1実施形態]
図1に、本発明の第1実施形態にかかるプレス機械1及びその上死点停止制御装置20の概略構成を示す。
プレス機械1は、メーンモータ(図示せず)の動力をクラッチ2を介して回転体に伝達し、回転体の回転運動を動力伝達機構によりスライド6の昇降運動に変換し、回転体に接続され作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるブレーキ3により上死点位置で回転体の回転を停止させるように構成されている。
【0025】
プレス機械1のフレーム7には、回転体としてのクランク軸4が回転可能に支持されている。クランク軸4のクランク部には、コネクティングロッド5が回転可能に連結されている。コネクティングロッド5の下端には、フレーム7に上下動可能に支持されたスライド6が連結されている。
【0026】
クランク軸4の一端には、クラッチブレーキ装置8が設けられている。このクラッチブレーキ装置8は、クラッチ2とブレーキ3が一体化されて機械的に連動し、クラッチ2のオン時にはブレーキ3がオフとなり、クラッチ2のオフ時にはブレーキ3がオンとなるように構成されている。
クラッチブレーキ装置8のケーシング9には、メーンモータ(図示せず)により回転駆動されるフライホイール13が連結されている。
【0027】
クラッチブレーキ装置8内には、軸方向にスライド可能なクラッチブレーキ板10が設けられている。クラッチブレーキ板10は、一方側(図1では右側)に移動したときには、フレーム7に回転可能に支持されたケーシング9の内部に固定されたクラッチ外板2aに接触し、他方側(図1では左側)に移動したときには、フレーム7側に固定されたブレーキ外板3aに接触するようになっている。
【0028】
クラッチブレーキ板10は、作動液の液圧とバネの弾性力(図示せず)によって作動する。作動液は、例えば油であるが、これに限定されない。
作動液が供給されると、作動液の液圧によって、クラッチブレーキ板10はクラッチ外板2a側に移動し、クラッチ外板2aに押し付けられて、クラッチ2がオン(接続状態)となる。このとき、ブレーキ3はオフ(解除状態)となっている。したがって、フライホイール13の回転動力がクラッチ2を介してクランク軸4に伝達される。
作動液が排出されると、バネの弾性力によって、クラッチブレーキ板10はブレーキ外板3a側に移動し、ブレーキ外板3aに押し付けられて、ブレーキ3がオン(制動状態)となる。このとき、クラッチ2はオフ(遮断状態)となっている。したがって、フライホイール13からの回転動力の伝達が遮断され、クランク軸4はブレーキ3の制動によって停止する。
【0029】
クラッチブレーキ装置8に対して作動液を供給/排出する液圧装置14は、作動液を供給する液圧源16と、液圧源16とクラッチブレーキ装置8を接続する作動液配管15と、作動液配管15上に設けられたバルブ17とを有する。液圧源16としては、例えば、電気モータで駆動されるギア式やピストン式のポンプを適用できる。バルブ17としては、例えば、電気信号で駆動されるポペット式やスプール式のものを適用できる。また、バルブ17は、複数のバルブの組み合わせで作動液の流れを切り替えるように構成される場合もある。
【0030】
このように構成された液圧装置14において、バルブ17はバルブ開閉信号28に基づいて開閉動作する。バルブ17が開いてクラッチブレーキ装置8に液圧が付与されると、クラッチ2がオンとなり、バルブ17が閉じてクラッチブレーキ装置8から液圧が取り除かれるとブレーキ3がオンとなる。
【0031】
上死点停止制御装置20は、回転角検出器21と、特性測定手段としての粘度センサ22と、制御器23とを備える。上記のバルブ17も上死点停止制御装置20の一部に含まれる。
回転角検出器21は、クランク軸4の他端に取り付けられており、クランク軸4の回転角を検出し、角度信号26を出力する。回転角検出器21としては、光学式エンコーダやレゾルバを適用することができる。角度信号26の伝送には、パルス信号・電圧信号やセンサネットワークが使用される。
【0032】
粘度センサ22は、作動液配管15に取り付けられており、作動液の粘度を測定し、特性信号としての粘度信号27を制御器23に送信する。粘度センサ22としては、作動液の組成が既知であれば粘度は温度に依存することから温度計を作動液配管15に取り付け、作動液の温度を測定して粘度に換算するように構成したものが考えられる。また、粘度センサ22の他の形態としては、特性が既知の絞り弁を作動液配管15に設けるとともに、この絞り弁の前後位置の作動液配管15に圧力差センサを設け、絞り弁の前後の圧力差を測定して粘度に換算するように構成したものが考えられる。粘度信号27の伝送には、電圧信号・電流信号やセンサネットワークが使用される。
【0033】
制御器23は、回転角検出器21からの角度信号26と粘度センサ(特性測定手段)22からの粘度信号(特性信号)27に基づいて、上死点位置でクランク軸(回転体)4の回転が停止するようにバルブ17を制御する。本実施形態では、上死点位置でクランク軸(回転体)4の回転が停止するようにバルブ17の開閉タイミングを制御する。
【0034】
この制御器23について、より詳しく説明する。制御器23は、停止指令角度演算器24と比較器25とを有する。停止指令角度演算器24は、粘度信号27に基づいて、前記バルブ17の開閉タイミングに対応するクランク軸4の回転角を演算し、これを停止指令角度29として出力する。すなわち、停止指令角度演算器24は、バルブ開閉信号28が取り除かれ、バルブ17が閉じ、クラッチブレーキ板10が移動し、ブレーキ3の制動によりクランク軸4が停止したとき、スライド6が上死点に位置しているような停止指令角度29を演算し、出力する。この停止指令角度29は、クランク軸4の回転速度のみに基づいて決定していたブレーキすべり量を作動液の粘度に応じて補正したものである。
【0035】
粘度信号に応じた適切な停止指令角度29を決定する方法として、液圧回路の形状から物理的に遅れ時間を計算する方法がある。この方法を採用する場合、停止指令角度演算器24は、粘度信号27に基づいて、最小二乗法などの方法により予めあてはめた計算式を用いて、停止指令角度29を演算する。
また、停止指令角度29を決定する他の方法として、ヒータを使って作動液を意図的に加熱して作動液の粘度を変えて、クランク軸4を回転・停止して、スライド6を上死点で停止させるために適切な停止指令角度29を実験的に求める方法がある。この方法を採用する場合、停止指令角度演算器24は、粘度信号27に基づいて、実験で得たデータをメモリに格納してテーブル参照方式により演算する。
【0036】
図2に、作動液の温度に基づいて粘度を算出し、粘度に基づいて停止指令角度29を算出したときの、作動液の温度と停止指令角度29との関係の一例を示す。図2に例示するように、作動液の温度に応じて停止指令角度29が変化する。上死点に相当する回転体の角度を360度とした場合、図2では、作動液の温度が30℃のとき、停止指令角度29は300度であり、作動液の温度が60℃のとき、停止指令角度29は310度である。
【0037】
比較器25は、停止指令角度29と角度信号を比較し、角度信号26が停止指令角度29に達したときにバルブ17を動作させる。具体的には、バルブ開閉信号28を停止し、バルブ17を閉じる。バルブ17が閉じられると、クラッチブレーキ板10が移動して、ブレーキ3の制動によりクランク軸4の回転が停止する。
【0038】
クラッチ2の切れ・ブレーキ3の作動タイミング・ブレーキ板(クラッチブレーキ板10)の押付け力は、作動液配管15及びこの配管に設けられたバルブ17を通過する作動液の特性に影響を受ける。そこで、本発明では、作動液配管15及びバルブ17を通過する作動液の特性を測定し、その特性に応じてブレーキ3、クラッチ2への作動液の給排を制御するようにした。また、クラッチ2の切れ・ブレーキ3の作動タイミング・ブレーキ板(クラッチブレーキ板10)の押付け力に対して特に影響を与えやすいのは作動液の粘度であるため、上述した本発明の実施形態では、作動液の特性として粘度を測定し、粘度に応じてバルブ17の開閉タイミングを制御するようにした。
【0039】
したがって、本発明によれば、プレス機械1の周囲環境温度が変化しても、スライド6を上死点位置に正確に停止させることができる。
したがって、プレス間搬送装置とスライド6との干渉を防ぐための離間距離を小さくでき、ラインの稼動速度が向上する。
また、上死点ではスライド6の直線動の速度がゼロであることから、上死点で正確に停止させることにより、スライド6の加速度・ジャーク(加速度の一回微分:躍度)は小さくなる。このため、プレス機械1に加わる機械的ショックも小さくなり、耐久性が向上する。
【0040】
[第2実施形態]
図3に、本発明の第2実施形態にかかるプレス機械1及びその上死点停止制御装置20の概略構成を示す。上述した第1実施形態において対象としたプレス機械1では、クラッチ2とブレーキ3が一体となったコンビネーションタイプであったが、第2実施形態において対象とするプレス機械1では、クラッチ2とブレーキ3が分離したセパレートタイプとなっている。
【0041】
クラッチ2内には、軸方向にスライド可能なクラッチ板11が設けられている。クラッチ板11は、一方側(図3では右側)に移動したときには、ケーシング9の内部に固定されたクラッチ外板2aに接触し、他方側(図3では左側)に移動したときには、クラッチ外板2aから離れるようになっている。クラッチ板11は、作動液の液圧とバネ(図示せず)の弾性力によって作動する。
【0042】
ブレーキ3内には、軸方向にスライド可能なブレーキ板12が設けられている。ブレーキ板12は、一方側(図3では左側)に移動したときには、ブレーキ3内に固定されたブレーキ外板3aに接触し、他方側(図3では右側)に移動したときには、ブレーキ外板3aから離れるようになっている。ブレーキ板12は、作動液の液圧とバネ(図示せず)の弾性力によって作動する。
【0043】
クラッチ2とブレーキ3には、共通の液圧装置14により作動液が供給/排出される。作動液がクラッチ2とブレーキ3に供給されると、作動液の液圧によって、クラッチ板11がクラッチ外板2aに押し付けられてクラッチ2がオンとなり、ブレーキ板12がブレーキ外板3aから離れてブレーキ3がオフとなる。したがって、フライホイール13の回転動力がクラッチ2を介してクランク軸4に伝達される。
クラッチ2とブレーキ3から作動液が排出されると、バネの弾性力によって、クラッチ板11はクラッチ外板2aから離れてクラッチ2がオフとなり、ブレーキ板12はブレーキ外板3aに押し付けられてブレーキ3がオンとなる。したがって、フライホイール13からの回転動力の伝達が遮断され、クランク軸4はブレーキ3の制動によって停止する。
【0044】
その他の構成は、上述した第1実施形態と同様である。したがって、制御器23は、回転角検出器21からの角度信号26と粘度センサ(特性測定手段)22からの粘度信号(特性信号)27に基づいて、上死点位置でクランク軸(回転体)4の回転が停止するようにバルブ17の開閉タイミングを制御する。
このように本実施形態においても、作動液の粘度を測定し、その粘度に応じてブレーキ3とクラッチ2への作動液の給排を制御するようにしたので、プレス機械1の周囲環境温度が変化しても、スライド6を上死点位置に正確に停止させることができる。
【0045】
[第3実施形態]
図4に、本発明の第3実施形態にかかるプレス機械1及びその上死点停止制御装置20の概略構成を示す。
第3実施形態のプレス機械1では、第2実施形態と同様にクラッチ2とブレーキ3が分離したセパレートタイプとなっている。しかし、第3実施形態のプレス機械1では、クラッチ2用の液圧装置30がブレーキ3用の液圧装置14とは別個独立に設けられている。クラッチ2とブレーキ3の構成は、上述した第2実施形態におけるのと同様である。
【0046】
ブレーキ3に対してブレーキ用作動液(以下、単に「作動液」という。)を供給/排出するブレーキ3用の液圧装置14は、作動液を供給する液圧源16と、液圧源16とブレーキ3を接続する作動液配管15と、作動液配管15上に設けられたバルブ17とを有する。
クラッチ2に対してクラッチ用作動液を供給/排出するクラッチ2用の液圧装置30は、クラッチ用作動液を供給する液圧源32と、液圧源32とクラッチ2を接続するクラッチ用作動液配管31と、クラッチ用作動液配管31上に設けられた第2のバルブ33とを有する。
【0047】
作動液配管15には特性測定手段としての粘度センサ22が取り付けられている。粘度センサ22は、作動液の粘度を測定し、特性信号としての粘度信号27を制御器23に送信する。
クラッチ用作動液配管31には第2の特性測定手段としての第2の粘度センサ34が取り付けられている。第2の粘度センサ34は、クラッチ用作動液の粘度を測定し、特性信号としての粘度信号35を制御器23に送信する。
【0048】
制御器23の停止指令角度演算器24は、粘度センサ22からの粘度信号27と第2の粘度センサ34からの粘度信号35に基づいて、バルブ17と第2のバルブ33の開閉タイミングに対応するクランク軸4の回転角を演算し、これを停止指令角度29として出力する。すなわち、停止指令角度演算器24は、バルブ開閉信号28と第2のバルブ開閉信号36が取り除かれ、バルブ17と第2のバルブ33が閉じ、ブレーキ板12とクラッチ板11が移動し、ブレーキ3の制動によりクランク軸4が停止したとき、スライド6が上死点に位置しているような停止指令角度29を演算し、出力する。この停止指令角度29は、クランク軸4の回転速度のみに基づいて決定していたブレーキすべり量を作動液とクラッチ用作動液の粘度に応じて補正したものである。
【0049】
比較器25は、停止指令角度29と角度信号26を比較し、角度信号26が停止指令角度29に達したときにバルブ17と第2のバルブ33を動作させる。具体的には、バルブ開閉信号28と第2のバルブ開閉信号36を停止し、バルブ17と第2のバルブ33を閉じる。バルブ17と第2のバルブ33が閉じられると、ブレーキ板12とクラッチ板11が移動して、ブレーキ3の制動によりクランク軸4の回転が停止する。
【0050】
このように、作動液及びクラッチ用作動液の粘度を測定し、その粘度に応じてブレーキ3への作動液の給排とクラッチ2へのクラッチ用作動液の給排を制御するようにしたので、プレス機械1の周囲環境温度が変化しても、スライド6を上死点位置に正確に停止させることができる。
【0051】
なお、本実施形態では、作動液とクラッチ用作動液の両方の粘度に応じて、ブレーキ3とクラッチ2の両方の作動液の給排を制御したが、クラッチ2については従来と同様に制御し、ブレーキ3についてのみ作動液の粘度に応じて給排を制御し、ブレーキすべり量を補正するようにしてもよい。この場合であっても、スライド6の上死点位置の停止精度が向上する。
【0052】
[その他の実施形態]
上記の各実施形態では、回転体の回転運動をスライドの昇降運動に変換する動力伝達機構としてクランク軸を有するクランクプレスを示したが、本発明は、クランクレスプレス、リンクプレス、ナックルプレスなど他の動力伝達機構を有するプレス機械にも適用できる。
【0053】
上記の各実施形態では、作動液(及びクラッチ用作動液)の特性として粘度を測定し、粘度に応じてブレーキすべり量を補正したが、作動液の流速など他にもクラッチ、ブレーキの作動遅れ・ブレーキ板の押付け力に影響する要因があれば、その値も測定して、制御器での演算によりバルブ(及び第2のバルブ)の開閉タイミングを制御し、スライドが上死点位置に正確に停止するようにしてもよい。
【0054】
上記の各実施形態では、バルブ(及び第2のバルブ)の開閉タイミングを制御することによりスライドを上死点位置に停止させるようにしたが、バルブ(及び第2のバルブ)の開度を制御するようによりスライドを上死点位置に停止させるようにしてもよい。
【0055】
さらに、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】作動液の温度と停止指令角度との関係の一例を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第3実施形態の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 プレス機械
2 クラッチ
2a クラッチ外板
3 ブレーキ
3a ブレーキ外板
4 クランク軸(回転体)
5 コネクティングロッド
6 スライド
8 クラッチブレーキ装置
10 クラッチブレーキ板
11 クラッチ板
12 ブレーキ板
14,30 液圧装置
15 作動液配管
16,32 液圧源
17 バルブ
20 上死点停止制御装置
21 角度検出器
22 粘度センサ(特性測定手段)
23 制御器
24 停止指令角度演算器
25 比較器
27 粘度信号
28 バルブ開閉信号
29 停止指令角度
33 第2のバルブ
34 第2の粘度センサ(第2の特性測定手段)
31 クラッチ用作動液配管
35 第2の粘度信号
36 第2のバルブ開閉信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メーンモータの動力をクラッチを介して回転体に伝達し、前記回転体の回転運動を動力伝達機構によりスライドの昇降運動に変換し、前記回転体に接続され作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるブレーキにより上死点位置で前記回転体の回転を停止させるようにしたプレス機械の上死点停止制御方法において、
前記回転体の回転角と前記作動液の所定の特性を測定し、前記回転角と前記特性に基づいて、上死点位置で前記回転体の回転が停止するように前記ブレーキへの作動液の給排を制御する、ことを特徴とするプレス機械の上死点停止制御方法。
【請求項2】
前記ブレーキへの作動液の給排の制御において、作動液の給排を切り替えるタイミングを制御する請求項1記載のプレス機械の上死点停止制御方法。
【請求項3】
前記クラッチは、クラッチ用作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるものであり、
前記クラッチ用作動液の所定の特性を測定し、前記ブレーキへの作動液の給排の制御と併せて、前記回転角と前記クラッチ用作動液の特性に基づいて、上死点位置で前記回転体の回転が停止するように前記クラッチへのクラッチ用作動液の給排を制御する請求項1又は2記載のプレス機械の上死点停止制御方法。
【請求項4】
前記クラッチへのクラッチ用作動液の給排の制御において、クラッチ用作動液の給排を切り替えるタイミングを制御する請求項3記載のプレス機械の上死点停止制御方法。
【請求項5】
前記特性は粘度である請求項1〜4のいずれかに記載のプレス機械の上死点停止制御方法。
【請求項6】
メーンモータの動力をクラッチを介して回転体に伝達し、回転体の回転運動を動力伝達機構によりスライドの昇降運動に変換し、回転体に接続され作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるブレーキにより上死点位置で回転体の回転を停止させるようにしたプレス機械の上死点停止制御装置において、
前記回転体の回転角を検出する回転角検出器と、
前記作動液の所定の特性を測定する特性測定手段と、
前記ブレーキに接続された作動液配管上に設けられたバルブと、
前記回転角検出器からの角度信号と前記特性測定手段からの特性信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記バルブを制御する制御部と、を備える、ことを特徴とするプレス機械の上死点停止制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記角度信号及び前記特性信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記バルブの開閉タイミングを制御する請求項6記載のプレス機械の上死点停止制御装置。
【請求項8】
前記クラッチは、クラッチ用作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるものであり、
さらに、前記クラッチ用作動液の所定の特性を測定する第2の特性測定手段と、
前記クラッチに接続されたクラッチ用作動液配管上に設けられた第2のバルブと、を備え、
前記制御部は、前記バルブの制御と併せて、前記回転角検出器からの角度信号と前記第2の特性測定手段からの粘度信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記第2バルブを制御する請求項6又は7記載のプレス機械の上死点停止制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記角度信号及び前記第2の特性測定手段からの粘度信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記第2のバルブの開閉タイミングを制御する請求8記載のプレス機械の上死点停止制御装置。
【請求項10】
前記特性は粘度である請求項6〜9のいずれかに記載のプレス機械の上死点停止制御装置。
【請求項11】
メーンモータの動力をクラッチを介して回転体に伝達し、回転体の回転運動を動力伝達機構によりスライドの昇降運動に変換し、回転体に接続され作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるブレーキにより上死点位置で回転体の回転を停止させるようにしたプレス機械において、
前記回転体の回転角を検出する回転角検出器と、
前記作動液の所定の特性を測定する特性測定手段と、
前記ブレーキに接続された作動液配管上に設けられたバルブと、
前記回転角検出器からの角度信号と前記特性測定手段からの特性信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記バルブを制御する制御部と、を備える上死点停止制御装置を備える、ことを特徴とするプレス機械。
【請求項12】
前記クラッチは、クラッチ用作動液の給排によってオンとオフの切り替えが行われるものであり、
さらに、前記クラッチ用作動液の所定の特性を測定する第2の特性測定手段と、
前記クラッチに接続されたクラッチ用作動液配管上に設けられた第2のバルブと、を備え、
前記制御部は、前記バルブの制御と併せて、前記回転角検出器からの角度信号と前記第2の特性測定手段からの粘度信号に基づいて、上死点位置で回転体の回転が停止するように前記第2バルブを制御する請求項11記載のプレス機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−114236(P2008−114236A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297922(P2006−297922)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】