説明

プレス機械

【課題】スライド4の熱膨張がスライドと本体ガイド7、8、9との間の摺動に影響することを抑制する。
【解決手段】本体ガイド7、8、9は、スライド4の周りの3個所にスライドの摺動方向に沿って配置され、一方、スライドの本体ガイドに摺動する部分には、スライドガイド40が本体ガイドに沿ってスライドと一体に設けられる。本体ガイドとスライドガイドとは、ナローガイド10を構成するように、摺動溝70内に突状体41が嵌合して成り、且つ、突状体の嵌合先には所定の空間Cが設定される。スライドを挟んで対向する一対の本体ガイドは、摺動溝内への突状体の嵌合方向が互いに反対向するように配置されている。スライドを挟んでナローガイドを対向配置したため、スライドが熱膨張したとき、その膨張はナローガイドの突状体が、その嵌合先の空間内に延びることで逃され、本体ガイドとスライドガイドとの間の摺動隙間には殆ど影響を与えない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械に関する。特に、寸法精度の高い型を用いた精密プレスに適したプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機械において、上型を下型に対して昇降動作させるスライドは、プレス機械のフレームに設けられた本体ガイドに案内されて昇降される。スライドと本体ガイドの摺動部分の摺動隙間は、型同士を精密に位置合わせするためには、できるだけ小さくする必要がある。一方、スライドと本体ガイドとの摺動時の摩擦抵抗を抑制するためには、上記隙間は大きい方が望ましい。そこで、従来より隙間を小さくして、且つ摩擦抵抗も抑制する発明が成されている。例えば、下記特許文献1の発明では、隙間における摩擦抵抗を抑制するため、ころがり摩擦によるガイド方式が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−267100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のプレス機械のように、スライドと本体ガイドとの間の摩擦抵抗を抑制しても、複数の本体ガイドでスライドを案内する場合には、摩擦抵抗によってスライドが発熱し、スライドが熱膨張すると、本体ガイド同士間のスライドの寸法が大きくなり、スライドと本体ガイドとの間で焼付けを起こしてしまう問題がある。
本発明の課題は、このような問題に鑑み、複数の本体ガイド間に挟まれたスライドの熱膨張を逃すことにより、スライドの熱膨張がスライドと本体ガイドとの間の摺動に影響することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1発明は、ボルスタに支持された一方の型に対向させて他方の型をスライドによって支持し、スライドは本体ガイドによって両型の対向方向に摺動可能とされたプレス機械であって、本体ガイドは、スライドの周りの複数個所にスライドの摺動方向に沿って配置され、一方、スライドの本体ガイドに摺動する部分には、スライドガイドがスライドと一体に設けられ、本体ガイドとスライドガイドとは、ナローガイドを構成するように、一対のガイド壁間に突状体が嵌合して成り、且つ、突状体の嵌合先には所定の空間が設定され、スライドを挟んで対向する一対の本体ガイドは、一対のガイド壁間への突状体の嵌合方向が互いに対向、若しくは反対向するように配置されていることを特徴とする。
第1発明によれば、本体ガイドとスライドガイドとの間の摺動に伴う摩擦熱により、スライドが熱膨張したとき、その膨張はナローガイドの突状体が、その嵌合先の空間内に延びることで逃され、本体ガイドとスライドガイドとの間の摺動のための隙間、即ちナローガイドにおける一対のガイド壁間の隙間には殆ど影響を与えない。なぜなら、本体ガイドとスライドガイドとの間の摺動のための隙間である、ナローガイドにおける一対のガイド壁間の隙間は、スライド全体の大きさに比べて僅かであり、スライドが熱膨張しても摺動のための隙間は殆ど変化しない。そのため、高精度のプレス機械を実現するために摺動のための隙間を小さく設定しても、摺動隙間は摩擦熱による熱膨張の影響を殆ど受けることはなく、スライドと本体ガイドとの間で焼付けを起こすことを抑制することができる。
【0006】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、上記一対の本体ガイドは、本体ガイド同士間を結ぶ直線がスライドの中心を通るように配置されていることを特徴とする。
第2発明によれば、本体ガイド同士間を結ぶ直線がスライドの中心を通るため、少数のナローガイドでバランス良くスライドを摺動させることができる。
【0007】
本発明の第3発明は、上記第1又は第2発明において、上記一対の本体ガイドが互いに対向する方向に対して直交する方向に第3の本体ガイドが配置され、該第3の本体ガイドに対応するナローガイドの突状体は、その一対のガイド壁間への嵌合方向が前記直行方向に沿って配置されていることを特徴とする。
第3発明によれば、一対の本体ガイドが対向する方向に対して直交する方向に第3の本体ガイドが配置されているため、スライドを3箇所以上で摺動案内することができ、安定して摺動させることができる。しかも、第3の本体ガイドに対応するナローガイドの突状体は、その一対のガイド壁間への嵌合方向が前記直行方向に沿って配置されているため、第3の本体ガイドにおいても、スライドが熱膨張したとき、その膨張はナローガイドの突状体が、その嵌合先の空間内に延びることで逃され、本体ガイドとスライドガイドとの間の摺動のための隙間、即ちナローガイドにおける一対のガイド壁間の隙間には殆ど影響を与えない。従って、高精度のプレス機械を実現するために摺動のための隙間を小さく設定しても、摩擦熱による熱膨張の影響を殆ど受けることはなく、スライドと本体ガイドとの間で焼付けを起こすことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】上記実施形態の側面図である。
【図4】図2における本体ガイド7付近の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
この実施形態では、平面視で長方形のスライド4が上下に昇降動作されるプレス機械1を示す。プレス機械1は外枠がフレーム2によって構成され、プレス機械1の上部後方には、スライド4を昇降動作させるための駆動機構11が設けられている(図3参照)。
図1のように、プレス機械1の下部には、ボルスタ3が設けられ、ボルスタ3の上面には下金型(一方の型)5が固定されている。この下金型5に対向して上金型(他方の型)6が設けられ、上金型6はスライド4の下面に固定され、両金型5、6によりプレス加工が行われるようにされている。
図1、2のように、スライド4の周りの3個所には、スライド4の摺動方向(上下方向)に沿って本体ガイド7,8,9が配置され、スライド4の本体ガイド7,8,9に摺動する部分には、スライドガイド40が本体ガイド7,8,9に沿ってスライド4と一体に設けられている。
図4のように、本体ガイド7とスライドガイド40とは、ナローガイド10を構成するように、本体ガイド7に形成された摺動溝70に、スライドガイド40により形成された突状体41が嵌合して成り、且つ、摺動溝70の底面71と突状体先端42との間には隙間Cが設定されている。摺動溝70を構成する壁72、73は本発明における一対のガイド壁に相当し、隙間Cは本発明における所定の空間に相当する。図4は本体ガイド7付近を拡大して示すが、本体ガイド8、9付近も本体ガイド8、9の向きが違うのみで構成自体は本体ガイド7と同一である。
【0010】
図2、4のように、スライド4を挟んで対向する一対の本体ガイド7、8は、本体ガイド7、8同士間を結ぶ直線がスライドの中心を通るように配置され、それぞれの摺動溝70の底面71が互いに対向し、摺動溝70内への突状体41の嵌合方向が互いに反対向するように配置されている。
また、図2のように、一対の本体ガイド7、8が互いに対向する方向に対して直交する方向で、一対の本体ガイド7、8の中間位置に第3の本体ガイド9が配置され、第3の本体ガイド9に対応するナローガイド10の突状体41は、その摺動溝70内への嵌合方向が上記直行方向に沿って配置されている。
【0011】
以上の構成の結果、本体ガイド7、8、9とスライドガイド40との間の摺動に伴う摩擦熱により、スライド4が熱膨張したとき、その膨張はナローガイド10の摺動溝70の底面71と突状体先端42との間の隙間Cが変化する(突状体41が、その嵌合先の空間C内に延びる)ことで逃され、本体ガイド7、8、9とスライドガイド40との間の摺動のための隙間A、B、即ちナローガイド10における摺動隙間A、Bには殆ど影響を与えない。なぜなら、本体ガイド7、8、9とスライドガイド40との間の摺動のための隙間A、Bは、摺動溝70の溝幅(一対のガイド壁72、73間の隙間)Dと突状体41の嵌合幅Eとの間にあり、スライド4全体の大きさに比べてナローガイド10の突状体41の嵌合幅Eの大きさは僅かであり、しかも、摺動溝70の溝幅Dは熱膨張に伴って拡幅されるため、スライド4が膨張しても摺動のための隙間A、Bは殆ど変化しない。そのため、摺動のための隙間A、Bの設定に際しては、摩擦熱によるスライド4の熱膨張の影響を殆ど考慮することなく、小さく設定することができる。従って、スライド4と本体ガイド7、8、9との間での焼付けの問題を考慮することなく、高精度のプレス機械を実現することができる。図4中、Fは本体ガイド7(8,9)とスライド4との間の隙間を示し、この隙間Fは摺動溝70の底面71と突状体先端42との間の隙間Cと同等以上に設定されている。
【0012】
また、本体ガイド7,8同士間を結ぶ直線がスライド4の中心を通るため、少数のナローガイド10でバランス良くスライド4を摺動させることができる。
更に、一対の本体ガイド7,8が対向する方向に対して直交する方向に第3の本体ガイド9が配置されているため、スライド4を3箇所で摺動案内することができ、安定して摺動させることができる。
【0013】
本発明は、上記実施形態で説明した外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、
1.上記実施形態では、ナローガイドにおける一対のガイド壁を摺動溝の壁によって構成したが、摺動溝における底面を貫通してなくし壁のみを残した構成としても良い。
2.上記実施形態では、本体ガイドに摺動溝、スライドガイドに突状体を設けてナローガイドを構成したが、スライドガイドに摺動溝、本体ガイドに突状体を設けてナローガイドを構成しても良い。
3.上記実施形態では、一対の本体ガイドはスライドを挟んで線対称となるように配置され、しかも本体ガイド同士間を結ぶ直線がスライドの中心を通るように配置された。しかし、一対の本体ガイドは本体ガイド同士間を結ぶ直線がスライドの中心から外れた位置を通るように配置されても良い。また、一対の本体ガイドはスライドを挟んで線対称となる位置からずれて配置されても良い。このように一対の本体ガイドの配置を変更しても、スライドの摺動時のバランスが悪くなるが、スライドの熱膨張による影響を抑制することに関しては変わりはない。
4.上記実施形態では、第3の本体ガイドは一対の本体ガイドの中間位置となるように配置されたが、中間位置からいずれかの側にずれて配置されても良い。
5.上記実施形態では、一対の本体ガイドの他に第3の本体ガイドを設けたが、スライドを挟んで第3の本体ガイドの反対側にも対向させて第4の本体ガイドを設けても良い。その場合には、スライドの摺動案内個所が更に増加するため、スライドの案内を更に安定させることができる。但し、第4の本体ガイドの追加でプレス作業に悪影響を与えないように留意する必要がある。
6.上記実施形態では、スライドが上下方向に摺動するようにされたが、スライドは水平方向に摺動されるものとしても良い。
【符号の説明】
【0014】
1 プレス機械
2 フレーム
3 ボルスタ
4 スライド
5 下金型(一方の型)
6 上金型(他方の型)
7 本体ガイド(一対の本体ガイド)
8 本体ガイド(一対の本体ガイド)
9 本体ガイド(第3の本体ガイド)
10 ナローガイド
40 スライドガイド
41 突状体
42 突状体先端
70 摺動溝
71 摺動溝底面
72 摺動溝の壁(一対のガイド壁)
73 摺動溝の壁(一対のガイド壁)
A 摺動隙間
B 摺動隙間
C 摺動溝の底面と突状体先端との間の隙間
D 摺動溝の溝幅
E 突状体の嵌合幅
F 本体ガイドとスライドとの間の隙間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルスタに支持された一方の型に対向させて他方の型をスライドによって支持し、スライドは本体ガイドによって両型の対向方向に摺動可能とされたプレス機械であって、
前記本体ガイドは、スライドの周りの複数個所にスライドの摺動方向に沿って配置され、一方、スライドの本体ガイドに摺動する部分には、スライドガイドがスライドと一体に設けられ、
本体ガイドとスライドガイドとは、ナローガイドを構成するように、一対のガイド壁間に突状体が嵌合して成り、且つ、突状体の嵌合先には所定の空間が設定され、
スライドを挟んで対向する一対の本体ガイドは、一対のガイド壁間への突状体の嵌合方向が互いに対向、若しくは反対向するように配置されていることを特徴とするプレス機械。
【請求項2】
請求項1において、上記一対の本体ガイドは、本体ガイド同士間を結ぶ直線がスライドの中心を通るように配置されていることを特徴とするプレス機械。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記一対の本体ガイドが互いに対向する方向に対して直交する方向に第3の本体ガイドが配置され、該第3の本体ガイドに対応するナローガイドの突状体は、その一対のガイド壁間への嵌合方向が前記直行方向に沿って配置されていることを特徴とするプレス機械。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−59784(P2013−59784A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199312(P2011−199312)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(594123158)久野金属工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】