プレス用ダイクッション装置
【課題】プレスと金型の撓みに関係なく均一なしわ押え力を創成することができ、また、ダイクッション圧力の安定性が高く、ダイクッション力の制御精度も大幅に向上して製品精度の向上に寄与することができ、しかも構造が簡単で、据付けも容易であると共に、耐久性、耐荷重性を高くすることができる実用的なピンレス均圧型のダイクッション装置を提供する。
【解決手段】プレスの片側の金型と対向する位置において他方の金型の周囲に配されるダイクッション装置であって、平面環枠状の基体と、該基体に内蔵され外部の圧力発生・制御手段と接続された加圧部と、しわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部にリフト部材と、前記しわ押えよりも外側の基体上またはこれと対向する金型側に配されたディスタンスブロックを備えている。
【解決手段】プレスの片側の金型と対向する位置において他方の金型の周囲に配されるダイクッション装置であって、平面環枠状の基体と、該基体に内蔵され外部の圧力発生・制御手段と接続された加圧部と、しわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部にリフト部材と、前記しわ押えよりも外側の基体上またはこれと対向する金型側に配されたディスタンスブロックを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属及び非金属材の塑性加工に用いられるプレスのダイクッション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属及び非金属材を塑性加工する方法、たとえば絞り加工や張り出し成形などにおいては一般的にプレス装置が使用されている。かかるプレス装置(単動式プレスが多い)においては、しわの発生の防止、絞込み量のコントロールなどのために一方の金型と対向する側にブランクホルダを装備させ、これと対向する側の金型の周囲でワーク周縁部を厚さ方向で挟持し、ダイクッションを行うようにしている。
【0003】
かかるダイクッションのための装置として、一般に、先行技術1のように、ボルスタを貫通して上方に延びる多数本ピンの先端にしわ押えリングを固定し、ピンの下端を植え立てたプレッシャパッドをエアシリンダと油圧シリンダで支えた油空圧式のものが汎用されている。
また、これに代わるものとして、先行技術2のように、下方からピンを介して下型を支持するパッドにラック杆を接続し、このラック杆とサーボモータの間を減速ギヤ列を介して接続した機械式のものがある。
【0004】
しかし、各先行技術は、いずれもしわ押えリングを多数本のピンを介して下方から支持し、そのピンをベッド側の下方のクッション手段で間接的に支える形式であるため、構造が複雑かつ大型化することを避けられず、組立て、据付けも大掛かりな作業になる。また、成形加工中に、ダイクッション力が発生するため、リリーフ弁を使用しているが、当該弁により油の温度が高くなり、エネルギの消耗が多くなる。また、先行技術2は耐久性、耐荷重性も不十分となりやすい。
しかも、いずれの先行技術も、しわ押えリングを間隔的な配置のピンで支持するので、ピンとピンの間でしわ押えにたわみが生ずることを避けられず、またピンがボルスタの下方からボルスタを貫通して延びる長いものであるのでプレススライドによる圧縮荷重でたわみが生じ、さらにはプレススライドやベッドのたわみに対応が困難である。これによりしわ押え力の不均一化が生じ、製品の精度不良につながる問題があった。また、先行技術ではしわ押え力をワークの全体に対して一様にしかできないので、製品のある部分について局部的にしわ押え力を加減することが困難であった。
このようなことから、新素材や新成形法の開発ととともにダイクッション性能の向上が要望されているが、従来のこの種装置では、これに的確に対応することが困難であった。
【特許文献1】実公平2−25538号公報
【特許文献2】特許第3211904号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、プレスと金型の撓みに関係なく均一なしわ押え力を創成することができ、また、ダイクッション圧力の安定性が高く、ダイクッション力の制御精度も大幅に向上して製品精度の向上に寄与することができ、しかも構造が簡単かつ高さ方向での形状がコンパクトで、据付けが容易であると共に耐久性、耐荷重性を高くすることができる実用的なピンレス均圧型のダイクッション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は従来のダイクッション装置の発想を転換し、根本的に異なるシステムとしたもので、プレスの片側の金型と対向する位置において他方の金型の周囲に配されるダイクッション装置であって、平面環枠状の基体と、該基体に内蔵され外部の圧力発生・制御手段と接続された加圧部と、しわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部に望むリフト部材と、前記しわ押えよりも外側の基体上またはこれと対向する金型側に配されたディスタンスブロックを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、しわ押えにワークを配し、この状態で金型を移動させれば、ディスタンスブロックで片側の金型(たとえば上型)が一旦受け止められ、その状態で圧力発生・制御手段からの圧力が加圧部に導入されることによりリフト部材の全体が所定の距離たとえば2〜3mm上昇し、それによりしわ押えがディスタンスブロックよりもレベルが高くなる。前記しわ押えは加圧部とリフト部材により全面的、均一的に力が作用するので、上型としわ押えの間で挟持されているワークに全面的、均一的なしわ押え力を与えることができる。
本発明はピンを介してしわ押えを上昇するのでなく、リフト部材を基体内の面状加圧部の圧力でリフトするので、ピン式の場合のピンの間隔によるたわみ、ピンの長さに起因するたわみが解消され、均一なしわ押え力を創成できるので、加工精度を著しく向上することができる。
【0008】
また、リフト部材と加圧部を備えた基体により偏平状のユニットないしアッセンブリが構成され、構造が簡単でであるので、設置も容易で、ダイクッション圧力の安定性が高く、しかもしわ押えの直近にある加圧部への圧力媒体の導出入でダイクッション力を自在に高い精度で制御することができる。
片側の型はストローク時にいったんディスタンスブロックで受け止められ、直接しわ押えに衝突しないので、加圧室とこれに対する圧力発生・制御手段のサージ圧を低くすることができる。
本発明によるダイクッション装置は、プレスのタイプを問わず適用でき、本出願人の開発したリンク式サーボプレスはもとより、汎用のメカニカルプレス、油圧プレスなどにも適用可能であり、駆動形式による分類において、単動式プレスはもとより複動式プレスにも適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
前記加圧部がリング状をなし、プレートの全周にわたって設けられている。
これによれば、リフト部材の全体を均一にリフトすることができ、しわ押えに全面的、均一的なしわ押え力を作用させることができる。
また、これに代えて、加圧部が複数に分割され、複数の加圧部が幾つかの組をなすように連結され、それぞれの組に圧力発生・制御手段が接続されていてもよい。
これによれば、全周の複数部分でしわ押え力を調整したり、局部しわ押え力を制御することができるので、たとえば、製品のコーナーに相当する部分のしわ押え力を弱くなり、又は増強することなどを容易に行え、成形精度を高くすることができる。
【0010】
加圧部は室本体とこれに内装された弾性体からなっているか、室本体とこれを満たす流体からなっている。
前者によれば加圧媒体で弾性体を膨張させてリフト部材を上昇させるので、加圧部を複数に分割してしわ押え力を多点制御することも容易に行え、また、弾性体として袋を採用すればこの中に圧力媒体が給排されるので加圧部のシールが容易である。また、後者によればリフト部材にダイレクトに加圧が行われるので感度がよくなり、圧力制御も容易である。
本発明は、基体が下型側に設置される場合に限らず、上型側に設置され、ディスタンスブロックが下型側に配される態様を含んでいる。
これによれば、プレスが複動式の場合に容易に適用することができる。
好適には、圧力発生・制御手段がサーボモータを駆動源としている。
これによれば、リフト部材を持ち上げる加圧部の圧力を精度よく自在に制御することができ、ワークの材質特性、板厚などに即した最適なダイクッション効果を得ることができる。
本発明は場合によっては、加圧部としわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部に望むリフト部材がシリンダチューブとピストンであり、これが多数隣接して配されている形態を含んでいる。
これによれば、基体内に小型のピストンシリンダいいかえると流体圧アクチュエータを配列すればよいので、ダイクッション装置の製作が容易であり、ピストン同士の間隔は小さく、ストロークが2〜5mm程度と短いので圧縮荷重によるたわみは無視できる大きさとなる。また、ピストンシリンダを室本体に幅方向で複数配設すれば、よりきめ細かにリフト部材によるリフト圧したがってしわ押え力を調整することができる。
【実施例1】
【0011】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は本発明にかかるダイクッション装置を使用したデジタル駆動式のリンクプレスを示しており、1はプレスフレームで、ベッド1aとコラム1bとクラウン1cを有し、ベッド1aの中央には下成形プレス部2が、クラウン側には上型締めプレス部(上プレス部)3が装備されており、ベッド上面にはボルスタ4が固定されている。
下成形プレス部(下プレス部)2は、ベッド内の穴部に配されたスライド3aと、これを昇降するための左右一対のリンク機構3bおよびデジタル系のモータ(サーボモータ、CNCモータ)3cを備えており、前記ボルスタ4の上面側には下型(この例ではパンチ)Aが位置され、スライド3aは前記ボルスタ4の開口を介して下型と連結されている。前記リンク機構3bは、モータ3cで回動されるねじ軸に螺合したナット300に一端が連結された第1リンク301と、ベッドに一端が連結された第2リンク302と、スライドに一端が連結された第3リンク303の各他端を集合させて枢軸にて連結している。
【0012】
上型締めプレス部3は、下面側に上型(この例ではダイ)Bを固定したスライド3dと、これを昇降するための左右1対のリンク機構3eおよびデジタル系のモータ(たとえばACサーボモータ等)3fを備えており、リンク機構3eは前記下成形プレス部2のそれと構成は同じであり、モータ3eで回動されるねじ軸に螺合したナット300に一端が連結された第1リンク301と、クラウンに一端が連結された第2リンク302と、スライドに一端が連結された第3リンク303の各他端を集合させて枢軸にて連結している。
【0013】
5は本発明にかかるダイクッション装置であり、前記ボルスタ4の上面側でかつ下型Aの成形用部よりも下方の柱状部周囲に配されている。
ダイクッション装置5は、図2ないし図4に示されており、環枠状をなした基体5aと、この基体5aに内蔵された加圧部5bと、これに圧力媒体を給排する圧力発生・制御手段5cと、基体5aの上面側に配される環状のしわ押え5dと、前記しわ押え5dの底面に対する押圧面を上端に有し、それ以降が前記加圧部に昇降可能に内装されたリフト部材5eとを備えている。また、前記しわ押え5dよりも外側の基体の上には、上型Bの下降時にこれをいったん受け止めることによりストロークを規制するディスタンスブロック5fをさらに備えている。ディスタンスブロック5fは全体で枠状をなしていてもよいし、複数の分割された単体(柱、壁体)であってもよいが、いずれの場合にも、その高さは、加工開始前の状態において、しわ押え5dの上にワークWを配置した状態でのレベルと同等かあるいは適度に高い寸法が設定される。
【0014】
前記基体5aはボルスタやスライドに据付けるベースとして機能するので、強度と剛性が高く作られている。
前記加圧部5bは、この例では基体5aの内部に帯環状に形成されている。詳しくは、図3のように、基体5aは本体50と蓋体51を固定要素で締結するなどして一体化してなり、本体50に溝500を形成し、蓋体51には溝500と対向状の溝510を形成し、かつ、蓋体51には溝510と連通するがこれより幅が小さい周口511を形成している。
前記リフト部材5eは剛体からなり、この例ではプレート形態をなし、押圧面520よりも下の部分が周口511に嵌められて溝内に延び、下端側部には前記溝510の天壁に当接可能なつば521、521を有し、このつばと天壁とでリフトストロークSTを2〜4mmの範囲で規定するようになっている。なお、しわ押さえ5dのたとえば側部と基体5a間には、非接触式あるいは接触式の位置センサー58が設けられている。
【0015】
前記加圧部5bは、図3(a)のように溝500、510で画成される室5b1と、これに内装された弾性体5b2とで構成されていてもよい。弾性体5b2はゴムなどの可縮・膨張材質からなり、全体がエンドレス状をなしているか,長手方向の両端が近接するように数個で構成される。弾性体5b2の上面はリフト部材5eに接合していてもよい。なお、弾性体5b2はこの例では、比較的偏平な袋(チューブ)が用いられているが、流体の圧力で膨張して圧力を発生するものであれば限定はなく、液状あるいはペースト状のゴムなどでもよいし、固体のゴム類などでもよい。
そして、基体5aの適所には、一端が加圧部5bに通じ他端が外方に到る導路52が設けられており、この例では導路52にジョイントを介して前記弾性体5b2の一部が接続している。
【0016】
図3(b)は加圧室5bの別の例を示しており、溝500、510で画成される室本体5b1からなり、前記導路52を通して直接、加圧用媒体(液体,気体など)が導出入されるようになっている。このため、周口511の内壁面に沿ってリフト部材5eの周壁部に接するシール部材5b3が取付けられている。
【0017】
前記圧力発生・制御手段5cは前記加圧部5bを駆動する手段であり、好適にはデジタル制御可能な形式のものが用いられる。図4は圧力発生・制御手段の例を示しており、図4(a)はデジタルシリンダタイプであり、ポンプ53とチェック弁を介して前記導路52に接続される配管54に、シリンダ55の加圧側出口と接続した分岐配管540を接続し、シリンダ55に挿入されるピストンロッド550のねじ5501にナット56を螺合させ、このナット56そのものまたはナット外周に固定した減速用回転部材(プーリあるいは歯車)560を、サーボモータ57の出力部の回転部材(小プーリあるいは小歯車)571と伝導手段で連絡している。
この形式においては、サーボモータ57の出力を減速してナットに伝達し、ナットの回転によりピストンロッド550を動かし、それにより予めポンプ53で送られた流体が満たされた分岐配管540と配管54からなる系の圧力を増加側あるいは低減側に制御される。すなわちサーボモータ57の回転方向と回転数あるいはさらにトルクによりピストンロッド550の移動方向、速度が変化して、圧力部5bの圧力が変えられるので、リフト部材5eの突出力が変化し、これに支えられているしわ押え5dの力が変化する。
【0018】
(b)はデジタルポンプタイプであり、ポンプ53をサーボモータ57で駆動することにより、配管54の系内圧力を増加側あるいは低減側に制御させるようにしている。言い換えると、配管54に介在され回転方向に応じてタンクから加圧部5bへと圧油を供給し逆に加圧部5bからタンクへ油圧を戻すポンプ53と、該ポンプを正逆駆動し、回転方向とトルクおよび速度制御により加圧部3bに創成されるクッション力を制御するするサーボモータ57を備えている。
この形式においては、サーボモータ57の正方向駆動によりタンクの油はポンプから配管54を経て加圧部5bに送られることで、リフト部材5eは上昇する。また、サーボモータ57を逆方向に駆動すれば、加圧部5bと配管54にある油がポンプからタンクに戻されるのでリフト部材5eは下降する。
【0019】
そして、プレス加工時には、リフト部材5eが押圧されて加圧部室内で移動するので、ポンプにいたる系の圧力が増加し、この系内圧力がカウンター圧としてリフト部材5eに作用する。サーボモータ57を逆方向に駆動すれば、ポンプ53は配管の圧油を吸い込んでタンクに戻すので、サーボモータ57のトルクと速度のコントロールによってダイクッション力を任意に精度よく制御することができるのである。
いずれのタイプにおいても、流体のクッションを利用するので、スライドとしわ押えの衝突時のショックを低くすることができ、また、切換え弁を使用しないので回路内に発熱が生じない。しかも機械的構造が簡単であり、回路も単純であるため耐久性がよく、耐荷重性もよいものにすることができる。なお、59は安全用のリリーフ弁である。
【0020】
前記配管54には圧力センサー60が設けられており、圧力センサー60と前記位置センサー58の出力系は、前記サーボモータ57の速度、トルクの出力ともども図6のようにコントローラに接続されている。詳しくは、前記サーボモータ57はアンプを介してCNCコントローラに電気的に接続されており、材料の種類、特性、加工条件などをコンピュータに入力記憶させ、演算した好適なダイクッション条件に呼応してコントローラから回転方向、速度、トルクの指令が発せられるようになっている。
そして、サーボモータ57の出力系から配置、回転数、トルクがコントローラにフィードバックされ、また、実際のリフト部材5eの位置が前記位置センサー58により、速度が前記位置センサー60の検出値を微分することにより、クッション圧力が圧力センサー60によりそれぞれ検出され、コントローラにフィードバックされ、それらに応じて適正かどうかが逐次比較演算され、差異があれば補正された回転方向、速度、トルクがコントローラからサーボモータ57に指令されるようになっている。
【0021】
前記加圧部5bは、図5(a)のように、基体5aの全周にわたって連続したものであってもよい。この場合は、リフト部材5eに対して全体に一様な力が付加され、均一なしわ押え力が創成されることになる。
また、加圧部は、図5(b)のように複数組5b、5b´に分割され、それぞれが個別に圧力制御されてもよい。
この例では、製品の各辺に対応する比較的大きな第1加圧部5bと、製品の隅角部に対応する比較的小さな第2加圧部5b´に分割され、それぞれの組は別々の連絡路541,542によって相互につながれ、導路54,54´を介して第1、第2の圧力発生・制御手段5c1,5c2に接続されている。
【0022】
この場合、加圧部形式は、前記図3のいずれの構造でもよいが、図3(b)の構造とする場合には、室本体を個別的に形成する。図3(a)のように室本体とこれに内装された弾性体5b2を用いた場合には、室本体を基体の全周に形成しておいてもよくなる。通常、リフト部材5eは環状に構成され、したがって、蓋体51には周溝511が形成されるが、場合によってはリフト部材5eも分割されていてもよい。
図5(b)の態様においては、第1加圧部5bと第2加圧部5b´の圧力条件を相違させることができるので、クッション圧を多点制御して局部的にしわ押え力を制御することができる。たとえば、ワークWが大きいような場合には、直線部を構成している第1加圧部5bの圧力を相対的に高くして強いしわ押え力を得、コーナー部である第2加圧部5b´の圧力を相対的にやや低くさせ、しわ押え力をやや弱くすることを簡単に実現できる。
【0023】
図7は図1に示すプレスの動作を段階的に示しており、図7(a)は加工開始前の状態であり、上型Bと下型Aはそれぞれ後退限にあり、本発明のダイクッション装置5における加圧部5bは圧力がゼロないし低圧とされるためリフト部材5eは下降しており、しわ押え5dは基体上面に接している。ワークWをしわ押え5dの上に取付ければ準備完了となるが、このときには、ディスタンスブロック5fの上端はワークWの上面と同等かわずかに高いレベルにある。
【0024】
つぎにモータ3fを駆動して上型締めプレス部3を作動させ、スライド3dと上型Bを下降すれば、図7(b)のように上型Bがディスタンスブロック5fに当接され、圧力保持される。この状態で圧力発生・制御手段5cを作動すれば、加圧媒体が配管54と導路52を介して加圧部5bに送給されて増圧されるので、図4(a)では弾性体5b1が膨張し、図4(b)では室内の圧が高くなって、リフト部材5eが強圧され、押圧面520が基体上面レベルより規定高さたとえば2〜4mm上昇する。これにより、しわ押え5dに全面的、均一なしわ押え力が作用し、上型Bとしわ押え5d間のワークWに全面的、均一なしわ押え力が作用させられる。
【0025】
この状態で、図7(c)のように下成形プレス部2を上昇すれば、下型Aが上型Bに進入して、絞り加工などが行われる。このときに、しわ押え5dとリフト部材5eを介して加圧部5bに力が加えられ、プレス力が加圧部5bの内圧に勝ると、しわ押え5dとリフト部材5eは所定のストロークと速度で押し下げられ、これにより加圧部5bの内圧が増加し、圧力媒体は配管54を介してシリンダ55(図4(a)またはポンプ53(図4(b))にいたる。サーボモータ57が作動を停止している間は、系の圧力が高まるので、リフト部材5eとしわ押え5dにはカウンター圧力が創成され、その結果、しわ押え力は高いものとなる。
【0026】
以後は、図6に示すようなデジタル制御系とサーボモータのトルクと速度制御により、加圧部5b内の圧力をプレスの任意の位置で自由自在に制御できる。たとえば、設定したダイクッション力に対応するコントローラからの指令で、サーボモータ57の回転方向を逆転しかつ加工条件に応じたトルクと回転数にてサーボモータ57を駆動すれば、図4(a)ではピストン550が後退してシリンダ容積が拡大する。図4(b)では、ポンプ53が逆回転して吸込みと吐出が切り替えられ、配管54内の圧力媒体はトルクと回転数に応じてタンクに戻される。これにより、加圧部5bの圧力すなわちダイクッション圧力が設定した力に保持されつつリフト部材5eとしわ押え5dが下降し、その結果、しわ押え力は緩められ、絞りに適したクッション作用が発揮されて材料流動がなされる。
【0027】
前記ダイクッション圧力は、サーボモータ57のトルクと回転数により無段階に連続して制御することができる。すなわち、サーボモータのトルクを低下させれば減速し、トルクを増せば増速する。回転数が少なければシリンダまたはタンクへ戻される圧力媒体の量が少なくなるので、加圧部5bの系内圧の低下は少なく、したがってダイクッション圧はサーボモータの回転数が多い場合よりも相対的に高くなる。
したがって、この特性に即して適当な値でサーボモータ57を駆動させることにより、ダイクッション圧力をスムーズかつ高精度に制御することができ、加工条件にマッチしたしわ押えを実現することができる。また、しわ押え5dのロッキングも自在に行うことができる。
【0028】
成形完了後は、7(d)のように、下成形プレス部2を下降し、圧力発生・制御手段5cを減圧側に作動させれば、加圧部5bが減圧するためリフト部材5eが下降し、しわ押え5fは前記のように基体上面に接する当初位置に戻る。そこで、上型締プレス部3を上昇させ、上死点に停止したならば、成形品を取外し、加工工程が加工を完了する。
【0029】
本発明は従来のようなダイクッションパッド、シリンダ、ダイクッションピンを使用せず、加圧部5bでリフト部材5eに面圧を加えてしわ押えを働かせるので、プレスと金型の撓みに関係なく、全面でしわ押え力が均一となる。また、CNCデジタル技術によりプレスのストロークに応じてダイクッション圧力を自由自在に制御でき、ダイクッション力が均一のため、成形品の精度も大幅に向上できる。
【0030】
本発明は種々の形式のプレス装置に適用される。図8は汎用プレスに適用した例を示しており、わずかな変更にて既存のプレスで使用できる。30は上プレス部であり、油圧などで昇降されるスライド30dと上型Bを有している。ベッド1aにはボルスタ4が据付けられ、これに下型Aが固定されている。また、ボルスタ4よりも下方に流体アクチュエータにより駆動されるプッシャパッド80が配され、これからボルスタ4を貫いてピン81が突出している。本発明を適用するには、ピン81で支持されていたプッシャリングを本発明装置5と交換すればよい。すなわち、基体5aの下部をピン81で支持すればよい。
【0031】
図8(a)のプレス加工前の状態では、プッシャパッド80が上昇され、本発明装置5は所要高さに保持される。この状態でワークWをしわ押え5dの上に載置し、スライド30dを下降すれば、上型Bがディタンスブロック5fに当たり、しわ押え5dと上型BでワークWをサンドイッチしながら、汎用のダイクッション装置を押圧下降させる。この時に汎用のダイクッション装置の設定圧力は本発明クッション装置5よりも設定圧力が大きくなっている。
つぎに圧力発生・制御手段5cのサーボモータを駆動すれば、前述のように配管54を介して加圧部5bが増圧され、リフト部材5eの上昇により、しわ押え5dに全面的、均一なしわ押え力が作用する。即ち、上型Bとしわ押え5dの間のワークWに全面的、均一なしわ押え力が作用させられる。
【0032】
この状態で、スライド30dを下降させることで図8(c)のように絞り加工が行われ、成形完了後、圧力発生・制御手段5cを減圧側に駆動し、加圧部5bを減圧させれば、リフト部材5eが下降し、当初位置を戻る。そして、スライド30dを上昇させ、上死点に停止したところで成形品を取外せば、加工が完了する。
この成形加工時の加圧部5bの制御と動作は記述したとおりであり、プッシャパッド80とピン81を用いてはいるものの、ピン相互の間隔と長さによる従来問題であったたわみ、プレススライドのたわみ、ベッドのたわみによる問題は、本発明装置の加圧部5bとリフト部材5eおよび加圧部5bに対する圧力発生・制御手段5cの圧力制御でキャンセルし、補正することができるので精度の高い成形を容易、確実に行える。
【0033】
また、本発明はメカニカルプレスにも適用できる。図9と図10図は、本発明装置をダブルアクション式のプレスに適用した例を示しており、図9(a)はアウターがクランク駆動、インナーがリンク式駆動の例を示している。すなわち、上プレス部30は、インナースライド30dとアウタースライド30d´を有し、インナースライド30dは図1の駆動形式と同じであるので、説明は援用する。
アウタースライド30d´はモータにより駆動されるクランク機構31で昇降されるようになっており、インナースライド30dは下面に上型Bを固定していて、アウタースライド30d´の開口を貫いて昇降されるようになっている。
【0034】
本発明装置5の基体5aはアウタースライド30d´の下面にリフト部材5eが下方に向くように固定され、しわ押え5dは上型Bの肩後部の段部に支持される。下型Aはベッド1aのボルスタ4上に固定されており、下型Aの上部周辺部分に前記基体5aと対向するようにディスタンスブロック5fが据えられている。前記下型Aには成形品を取り出すためのエジェクター33が装備されている。
図9(b)はアウタースライド30d´をクランクで、インナースライド30dをクランクに連結したリンク機構で駆動するようにしている。その他の構成は図9(a)と同様である。
【0035】
図10は前記ダブルアクションプレスにおける動作を示しており、(a)は加工開始前の状態であり、インナースライド30dとアウタースライド30d´は上昇限にあり、上型Bの先端はしわ押え5fの先端とほぼ面一のレベルにある。ワークWは下型Aに取付けられる。
ついで、インナースライド30dとアウタースライド30d´は(a)と同じ関係を保ちつつ下降され、それによりアウタースライド30d´に固定されている基体5aが下型B上のディスタンスブロック5fに当接し、位置保持される。このときにしわ押え5fはディスタンスブロック5f内に進入し、下型AとでワークWを挟み込む。この状態で圧力発生・制御手段5cのサーボモータを駆動すれば、前述のように配管54を介して加圧部5bが増圧され、リフト部材5eの下降により、しわ押え5dに全面的、均一なしわ押え力が作用する。即ち、下型Aとしわ押え5dの間のワークWに全面的、均一なしわ押え力が作用させられる。
【0036】
この状態でインナースライド30dを下降させれば上型Bが進出し、図9(c)のように下型Aとで絞り等の加工が行われる。成形完了後、圧力発生・制御手段5cを減圧側に駆動し、加圧部5bを減圧させれば、リフト部材5eの押圧力が喪失し、インナースライド30dを上昇させればしわ押え5dが持ち上げられ、図10(d)のようにアウタースライド30d´を上昇させることで当初位置を戻る。その間にエジェクター33を作動させれば成形品が持ち上げられ、加工が完了する。
【0037】
図11は本発明装置を回転式のシングルアクションプレスに適用した例を示しており、上型締めプレス部3は、回転型リンク機構により昇降されるスライド30dを有している。図12はその回転型リンク機構を拡大して示している。
下成形プレス部2の下型Aは同様に回転型リンク機構により昇降されるようになっている。本発明装置5はベッド1a上のボルスタ4に据付けられ、ディスタンスブロック5fは基体5aの上に据えられている。駆動系の動作を除いてプレス動作とダイクッション作用は第1実施例と同様であるから説明は援用する。
図13は、かかる回転駆動式プレスにおける運動曲線を示している。
【0038】
以上のように本発明のダイクッション装置は、プレスの形式を問わず使用可能であり、ダイクッションは均圧効果が高く、プレスと金型の撓みに関係なく、しわ押え力が均一となるため、製品精度が向上する。また、省エネ効果が大きく、ダイクッション力をブランクホルダ部位で任意的に制御でき、圧力発生・制御手段も実施例のような構成とすれば、リリーフ弁を使用しないので、油圧回路内の発熱が発生せず、スライドとダイクッションが衝突時のサージ圧が低い。しかも、ダイクッション圧力の安定性が高く、ダイクッション力の制御精度も大幅に向上することができ、ダイクッション装置が簡単な機械構造で、高さも低いコンパクトなものとなるので、耐久性、耐荷重性が高い。
【0039】
なお、プレスが図1や図11のようなアンダードライブ型である場合、下型Aは下スライド3aにより昇降されるが、下型Aが大型である場合には、図14のような構造が好適である。
すなわち、ボルスタ4の中央ボス部を下型Aの下面ボス部と結合すると共に、ボルスタ4に配設されている縦孔40のうち下型Aの底面域に対応する縦孔群にリフトピン41を挿入し、スライド3aには各リフトピン41に対応する位置にプッシャーピン34を配設固定している。なお、下型Aの底面域外に相当するボルスタ4の縦孔群はリフトピンが挿入されない。スライド3aにはこれらの縦孔群に挿入されるピンを有していてもよいし、有していなくてもよい。
この構造においては、下型Aを上昇させるべくスライド3aを上昇させると、各プッシャーピン34でボルスタ4の各リフトピン41が軸方向に押圧されてボルスタ上方に突き出すので、下型Aが大型大重量であっても安定してリフトされる。
【0040】
本発明におけるダイクッション装置の加圧部とリフト部材は必ずしも図5の態様に限られず個別的なものであってもよい。図15はその例を示しており、基体5aの内部に形成された室5b1に、加圧部5bとしてのシリンダチューブとリフト部材5eとしてのピストンを備えた多数本の流体圧シリンダ5Bを配列して構成されている。流体圧シリンダ群5Bは室5b1の幅方向にも数列配されることが好ましい。ピストンは基体の上面にむき出しでもよいし、各ピストンごとに穴のあいた蓋体やカバーを装着してもよい。
前記流体圧シリンダ5B群の各シリンダチューブはそれぞれが導路(導管)により連絡され、圧力発生・制御手段5cに接続されている。しかし、図5(b)のような多点での制御が望まれる場合には、流体圧シリンダ群を幾つかのグループに分け、それぞれのグループを導管で接続するとともに各グループごとに対応する圧力発生・制御手段と接続してもよい。また、場合によっては、ピストンの上に図5(a)のようなリングプレート状の上部リフト部材を装着してもよい。
また、図15の構成に代えて、図5(b)におけるリフト部材5eを多数に分割してもよい。
作用については、記述したものと同様であり、各シリンダチューブに加圧媒体を送給することにより各ピストンが上昇してしわ押さえ5dをリフトし、しわ押え力を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のダイクッション装置を適用したプレス装置の一例を示す縦断正面図である。
【図2】本発明装置の斜視図である。
【図3】(a)は図2のX−X線に沿う断面図、(b)は異なるタイプの部分的断面図である。
【図4】(a)は本発明における圧力発生・制御手段の一例を示す説明図、(b)は他例を示す説明図である。
【図5】(a)は本発明における加圧部の一例を示す平面図、(b)は他の例を示す平面図である。
【図6】本発明におけるダイクッション制御系を示す説明図である。
【図7】(a)〜(d)は第1実施例の動作を段階的に示す断面図である。
【図8】(a)〜(c)は本発明装置を汎用のプレスに適用した例を、加工の段階を追って示す断面図である。
【図9】(a)(b)は本発明をダブルアクションプレスに適用した例を示す断面図である。
【図10】(a)〜(d)は(図9(a)のプレスの動作を段階的に示す断面図である。
【図11】本発明装置を回転駆動式のシングルアクションプレスに適用した例を示す断面図である。
【図12】図11の駆動機構部分の拡大図である。
【図13】図11のプレスの運動曲線図である。
【図14】図1や図11のプレスにおける下型昇降機構の他の例を示す断面図である。
【図15】本発明におけるダイクッション装置の別の例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1a ベッド
4 ボルスタ
5 本発明のダイクッション装置
5a 基体
5b 加圧部
5b1 室本体
5b2 弾性体
5c 圧力発生・制御手段
5d しわ押え
5e リフト部材
5f ディスタンスブロック
52 導路
54 配管
57 サーボモータ
520 押圧面
A 下型
B 上型
【技術分野】
【0001】
本発明は金属及び非金属材の塑性加工に用いられるプレスのダイクッション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属及び非金属材を塑性加工する方法、たとえば絞り加工や張り出し成形などにおいては一般的にプレス装置が使用されている。かかるプレス装置(単動式プレスが多い)においては、しわの発生の防止、絞込み量のコントロールなどのために一方の金型と対向する側にブランクホルダを装備させ、これと対向する側の金型の周囲でワーク周縁部を厚さ方向で挟持し、ダイクッションを行うようにしている。
【0003】
かかるダイクッションのための装置として、一般に、先行技術1のように、ボルスタを貫通して上方に延びる多数本ピンの先端にしわ押えリングを固定し、ピンの下端を植え立てたプレッシャパッドをエアシリンダと油圧シリンダで支えた油空圧式のものが汎用されている。
また、これに代わるものとして、先行技術2のように、下方からピンを介して下型を支持するパッドにラック杆を接続し、このラック杆とサーボモータの間を減速ギヤ列を介して接続した機械式のものがある。
【0004】
しかし、各先行技術は、いずれもしわ押えリングを多数本のピンを介して下方から支持し、そのピンをベッド側の下方のクッション手段で間接的に支える形式であるため、構造が複雑かつ大型化することを避けられず、組立て、据付けも大掛かりな作業になる。また、成形加工中に、ダイクッション力が発生するため、リリーフ弁を使用しているが、当該弁により油の温度が高くなり、エネルギの消耗が多くなる。また、先行技術2は耐久性、耐荷重性も不十分となりやすい。
しかも、いずれの先行技術も、しわ押えリングを間隔的な配置のピンで支持するので、ピンとピンの間でしわ押えにたわみが生ずることを避けられず、またピンがボルスタの下方からボルスタを貫通して延びる長いものであるのでプレススライドによる圧縮荷重でたわみが生じ、さらにはプレススライドやベッドのたわみに対応が困難である。これによりしわ押え力の不均一化が生じ、製品の精度不良につながる問題があった。また、先行技術ではしわ押え力をワークの全体に対して一様にしかできないので、製品のある部分について局部的にしわ押え力を加減することが困難であった。
このようなことから、新素材や新成形法の開発ととともにダイクッション性能の向上が要望されているが、従来のこの種装置では、これに的確に対応することが困難であった。
【特許文献1】実公平2−25538号公報
【特許文献2】特許第3211904号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、プレスと金型の撓みに関係なく均一なしわ押え力を創成することができ、また、ダイクッション圧力の安定性が高く、ダイクッション力の制御精度も大幅に向上して製品精度の向上に寄与することができ、しかも構造が簡単かつ高さ方向での形状がコンパクトで、据付けが容易であると共に耐久性、耐荷重性を高くすることができる実用的なピンレス均圧型のダイクッション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は従来のダイクッション装置の発想を転換し、根本的に異なるシステムとしたもので、プレスの片側の金型と対向する位置において他方の金型の周囲に配されるダイクッション装置であって、平面環枠状の基体と、該基体に内蔵され外部の圧力発生・制御手段と接続された加圧部と、しわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部に望むリフト部材と、前記しわ押えよりも外側の基体上またはこれと対向する金型側に配されたディスタンスブロックを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、しわ押えにワークを配し、この状態で金型を移動させれば、ディスタンスブロックで片側の金型(たとえば上型)が一旦受け止められ、その状態で圧力発生・制御手段からの圧力が加圧部に導入されることによりリフト部材の全体が所定の距離たとえば2〜3mm上昇し、それによりしわ押えがディスタンスブロックよりもレベルが高くなる。前記しわ押えは加圧部とリフト部材により全面的、均一的に力が作用するので、上型としわ押えの間で挟持されているワークに全面的、均一的なしわ押え力を与えることができる。
本発明はピンを介してしわ押えを上昇するのでなく、リフト部材を基体内の面状加圧部の圧力でリフトするので、ピン式の場合のピンの間隔によるたわみ、ピンの長さに起因するたわみが解消され、均一なしわ押え力を創成できるので、加工精度を著しく向上することができる。
【0008】
また、リフト部材と加圧部を備えた基体により偏平状のユニットないしアッセンブリが構成され、構造が簡単でであるので、設置も容易で、ダイクッション圧力の安定性が高く、しかもしわ押えの直近にある加圧部への圧力媒体の導出入でダイクッション力を自在に高い精度で制御することができる。
片側の型はストローク時にいったんディスタンスブロックで受け止められ、直接しわ押えに衝突しないので、加圧室とこれに対する圧力発生・制御手段のサージ圧を低くすることができる。
本発明によるダイクッション装置は、プレスのタイプを問わず適用でき、本出願人の開発したリンク式サーボプレスはもとより、汎用のメカニカルプレス、油圧プレスなどにも適用可能であり、駆動形式による分類において、単動式プレスはもとより複動式プレスにも適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
前記加圧部がリング状をなし、プレートの全周にわたって設けられている。
これによれば、リフト部材の全体を均一にリフトすることができ、しわ押えに全面的、均一的なしわ押え力を作用させることができる。
また、これに代えて、加圧部が複数に分割され、複数の加圧部が幾つかの組をなすように連結され、それぞれの組に圧力発生・制御手段が接続されていてもよい。
これによれば、全周の複数部分でしわ押え力を調整したり、局部しわ押え力を制御することができるので、たとえば、製品のコーナーに相当する部分のしわ押え力を弱くなり、又は増強することなどを容易に行え、成形精度を高くすることができる。
【0010】
加圧部は室本体とこれに内装された弾性体からなっているか、室本体とこれを満たす流体からなっている。
前者によれば加圧媒体で弾性体を膨張させてリフト部材を上昇させるので、加圧部を複数に分割してしわ押え力を多点制御することも容易に行え、また、弾性体として袋を採用すればこの中に圧力媒体が給排されるので加圧部のシールが容易である。また、後者によればリフト部材にダイレクトに加圧が行われるので感度がよくなり、圧力制御も容易である。
本発明は、基体が下型側に設置される場合に限らず、上型側に設置され、ディスタンスブロックが下型側に配される態様を含んでいる。
これによれば、プレスが複動式の場合に容易に適用することができる。
好適には、圧力発生・制御手段がサーボモータを駆動源としている。
これによれば、リフト部材を持ち上げる加圧部の圧力を精度よく自在に制御することができ、ワークの材質特性、板厚などに即した最適なダイクッション効果を得ることができる。
本発明は場合によっては、加圧部としわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部に望むリフト部材がシリンダチューブとピストンであり、これが多数隣接して配されている形態を含んでいる。
これによれば、基体内に小型のピストンシリンダいいかえると流体圧アクチュエータを配列すればよいので、ダイクッション装置の製作が容易であり、ピストン同士の間隔は小さく、ストロークが2〜5mm程度と短いので圧縮荷重によるたわみは無視できる大きさとなる。また、ピストンシリンダを室本体に幅方向で複数配設すれば、よりきめ細かにリフト部材によるリフト圧したがってしわ押え力を調整することができる。
【実施例1】
【0011】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は本発明にかかるダイクッション装置を使用したデジタル駆動式のリンクプレスを示しており、1はプレスフレームで、ベッド1aとコラム1bとクラウン1cを有し、ベッド1aの中央には下成形プレス部2が、クラウン側には上型締めプレス部(上プレス部)3が装備されており、ベッド上面にはボルスタ4が固定されている。
下成形プレス部(下プレス部)2は、ベッド内の穴部に配されたスライド3aと、これを昇降するための左右一対のリンク機構3bおよびデジタル系のモータ(サーボモータ、CNCモータ)3cを備えており、前記ボルスタ4の上面側には下型(この例ではパンチ)Aが位置され、スライド3aは前記ボルスタ4の開口を介して下型と連結されている。前記リンク機構3bは、モータ3cで回動されるねじ軸に螺合したナット300に一端が連結された第1リンク301と、ベッドに一端が連結された第2リンク302と、スライドに一端が連結された第3リンク303の各他端を集合させて枢軸にて連結している。
【0012】
上型締めプレス部3は、下面側に上型(この例ではダイ)Bを固定したスライド3dと、これを昇降するための左右1対のリンク機構3eおよびデジタル系のモータ(たとえばACサーボモータ等)3fを備えており、リンク機構3eは前記下成形プレス部2のそれと構成は同じであり、モータ3eで回動されるねじ軸に螺合したナット300に一端が連結された第1リンク301と、クラウンに一端が連結された第2リンク302と、スライドに一端が連結された第3リンク303の各他端を集合させて枢軸にて連結している。
【0013】
5は本発明にかかるダイクッション装置であり、前記ボルスタ4の上面側でかつ下型Aの成形用部よりも下方の柱状部周囲に配されている。
ダイクッション装置5は、図2ないし図4に示されており、環枠状をなした基体5aと、この基体5aに内蔵された加圧部5bと、これに圧力媒体を給排する圧力発生・制御手段5cと、基体5aの上面側に配される環状のしわ押え5dと、前記しわ押え5dの底面に対する押圧面を上端に有し、それ以降が前記加圧部に昇降可能に内装されたリフト部材5eとを備えている。また、前記しわ押え5dよりも外側の基体の上には、上型Bの下降時にこれをいったん受け止めることによりストロークを規制するディスタンスブロック5fをさらに備えている。ディスタンスブロック5fは全体で枠状をなしていてもよいし、複数の分割された単体(柱、壁体)であってもよいが、いずれの場合にも、その高さは、加工開始前の状態において、しわ押え5dの上にワークWを配置した状態でのレベルと同等かあるいは適度に高い寸法が設定される。
【0014】
前記基体5aはボルスタやスライドに据付けるベースとして機能するので、強度と剛性が高く作られている。
前記加圧部5bは、この例では基体5aの内部に帯環状に形成されている。詳しくは、図3のように、基体5aは本体50と蓋体51を固定要素で締結するなどして一体化してなり、本体50に溝500を形成し、蓋体51には溝500と対向状の溝510を形成し、かつ、蓋体51には溝510と連通するがこれより幅が小さい周口511を形成している。
前記リフト部材5eは剛体からなり、この例ではプレート形態をなし、押圧面520よりも下の部分が周口511に嵌められて溝内に延び、下端側部には前記溝510の天壁に当接可能なつば521、521を有し、このつばと天壁とでリフトストロークSTを2〜4mmの範囲で規定するようになっている。なお、しわ押さえ5dのたとえば側部と基体5a間には、非接触式あるいは接触式の位置センサー58が設けられている。
【0015】
前記加圧部5bは、図3(a)のように溝500、510で画成される室5b1と、これに内装された弾性体5b2とで構成されていてもよい。弾性体5b2はゴムなどの可縮・膨張材質からなり、全体がエンドレス状をなしているか,長手方向の両端が近接するように数個で構成される。弾性体5b2の上面はリフト部材5eに接合していてもよい。なお、弾性体5b2はこの例では、比較的偏平な袋(チューブ)が用いられているが、流体の圧力で膨張して圧力を発生するものであれば限定はなく、液状あるいはペースト状のゴムなどでもよいし、固体のゴム類などでもよい。
そして、基体5aの適所には、一端が加圧部5bに通じ他端が外方に到る導路52が設けられており、この例では導路52にジョイントを介して前記弾性体5b2の一部が接続している。
【0016】
図3(b)は加圧室5bの別の例を示しており、溝500、510で画成される室本体5b1からなり、前記導路52を通して直接、加圧用媒体(液体,気体など)が導出入されるようになっている。このため、周口511の内壁面に沿ってリフト部材5eの周壁部に接するシール部材5b3が取付けられている。
【0017】
前記圧力発生・制御手段5cは前記加圧部5bを駆動する手段であり、好適にはデジタル制御可能な形式のものが用いられる。図4は圧力発生・制御手段の例を示しており、図4(a)はデジタルシリンダタイプであり、ポンプ53とチェック弁を介して前記導路52に接続される配管54に、シリンダ55の加圧側出口と接続した分岐配管540を接続し、シリンダ55に挿入されるピストンロッド550のねじ5501にナット56を螺合させ、このナット56そのものまたはナット外周に固定した減速用回転部材(プーリあるいは歯車)560を、サーボモータ57の出力部の回転部材(小プーリあるいは小歯車)571と伝導手段で連絡している。
この形式においては、サーボモータ57の出力を減速してナットに伝達し、ナットの回転によりピストンロッド550を動かし、それにより予めポンプ53で送られた流体が満たされた分岐配管540と配管54からなる系の圧力を増加側あるいは低減側に制御される。すなわちサーボモータ57の回転方向と回転数あるいはさらにトルクによりピストンロッド550の移動方向、速度が変化して、圧力部5bの圧力が変えられるので、リフト部材5eの突出力が変化し、これに支えられているしわ押え5dの力が変化する。
【0018】
(b)はデジタルポンプタイプであり、ポンプ53をサーボモータ57で駆動することにより、配管54の系内圧力を増加側あるいは低減側に制御させるようにしている。言い換えると、配管54に介在され回転方向に応じてタンクから加圧部5bへと圧油を供給し逆に加圧部5bからタンクへ油圧を戻すポンプ53と、該ポンプを正逆駆動し、回転方向とトルクおよび速度制御により加圧部3bに創成されるクッション力を制御するするサーボモータ57を備えている。
この形式においては、サーボモータ57の正方向駆動によりタンクの油はポンプから配管54を経て加圧部5bに送られることで、リフト部材5eは上昇する。また、サーボモータ57を逆方向に駆動すれば、加圧部5bと配管54にある油がポンプからタンクに戻されるのでリフト部材5eは下降する。
【0019】
そして、プレス加工時には、リフト部材5eが押圧されて加圧部室内で移動するので、ポンプにいたる系の圧力が増加し、この系内圧力がカウンター圧としてリフト部材5eに作用する。サーボモータ57を逆方向に駆動すれば、ポンプ53は配管の圧油を吸い込んでタンクに戻すので、サーボモータ57のトルクと速度のコントロールによってダイクッション力を任意に精度よく制御することができるのである。
いずれのタイプにおいても、流体のクッションを利用するので、スライドとしわ押えの衝突時のショックを低くすることができ、また、切換え弁を使用しないので回路内に発熱が生じない。しかも機械的構造が簡単であり、回路も単純であるため耐久性がよく、耐荷重性もよいものにすることができる。なお、59は安全用のリリーフ弁である。
【0020】
前記配管54には圧力センサー60が設けられており、圧力センサー60と前記位置センサー58の出力系は、前記サーボモータ57の速度、トルクの出力ともども図6のようにコントローラに接続されている。詳しくは、前記サーボモータ57はアンプを介してCNCコントローラに電気的に接続されており、材料の種類、特性、加工条件などをコンピュータに入力記憶させ、演算した好適なダイクッション条件に呼応してコントローラから回転方向、速度、トルクの指令が発せられるようになっている。
そして、サーボモータ57の出力系から配置、回転数、トルクがコントローラにフィードバックされ、また、実際のリフト部材5eの位置が前記位置センサー58により、速度が前記位置センサー60の検出値を微分することにより、クッション圧力が圧力センサー60によりそれぞれ検出され、コントローラにフィードバックされ、それらに応じて適正かどうかが逐次比較演算され、差異があれば補正された回転方向、速度、トルクがコントローラからサーボモータ57に指令されるようになっている。
【0021】
前記加圧部5bは、図5(a)のように、基体5aの全周にわたって連続したものであってもよい。この場合は、リフト部材5eに対して全体に一様な力が付加され、均一なしわ押え力が創成されることになる。
また、加圧部は、図5(b)のように複数組5b、5b´に分割され、それぞれが個別に圧力制御されてもよい。
この例では、製品の各辺に対応する比較的大きな第1加圧部5bと、製品の隅角部に対応する比較的小さな第2加圧部5b´に分割され、それぞれの組は別々の連絡路541,542によって相互につながれ、導路54,54´を介して第1、第2の圧力発生・制御手段5c1,5c2に接続されている。
【0022】
この場合、加圧部形式は、前記図3のいずれの構造でもよいが、図3(b)の構造とする場合には、室本体を個別的に形成する。図3(a)のように室本体とこれに内装された弾性体5b2を用いた場合には、室本体を基体の全周に形成しておいてもよくなる。通常、リフト部材5eは環状に構成され、したがって、蓋体51には周溝511が形成されるが、場合によってはリフト部材5eも分割されていてもよい。
図5(b)の態様においては、第1加圧部5bと第2加圧部5b´の圧力条件を相違させることができるので、クッション圧を多点制御して局部的にしわ押え力を制御することができる。たとえば、ワークWが大きいような場合には、直線部を構成している第1加圧部5bの圧力を相対的に高くして強いしわ押え力を得、コーナー部である第2加圧部5b´の圧力を相対的にやや低くさせ、しわ押え力をやや弱くすることを簡単に実現できる。
【0023】
図7は図1に示すプレスの動作を段階的に示しており、図7(a)は加工開始前の状態であり、上型Bと下型Aはそれぞれ後退限にあり、本発明のダイクッション装置5における加圧部5bは圧力がゼロないし低圧とされるためリフト部材5eは下降しており、しわ押え5dは基体上面に接している。ワークWをしわ押え5dの上に取付ければ準備完了となるが、このときには、ディスタンスブロック5fの上端はワークWの上面と同等かわずかに高いレベルにある。
【0024】
つぎにモータ3fを駆動して上型締めプレス部3を作動させ、スライド3dと上型Bを下降すれば、図7(b)のように上型Bがディスタンスブロック5fに当接され、圧力保持される。この状態で圧力発生・制御手段5cを作動すれば、加圧媒体が配管54と導路52を介して加圧部5bに送給されて増圧されるので、図4(a)では弾性体5b1が膨張し、図4(b)では室内の圧が高くなって、リフト部材5eが強圧され、押圧面520が基体上面レベルより規定高さたとえば2〜4mm上昇する。これにより、しわ押え5dに全面的、均一なしわ押え力が作用し、上型Bとしわ押え5d間のワークWに全面的、均一なしわ押え力が作用させられる。
【0025】
この状態で、図7(c)のように下成形プレス部2を上昇すれば、下型Aが上型Bに進入して、絞り加工などが行われる。このときに、しわ押え5dとリフト部材5eを介して加圧部5bに力が加えられ、プレス力が加圧部5bの内圧に勝ると、しわ押え5dとリフト部材5eは所定のストロークと速度で押し下げられ、これにより加圧部5bの内圧が増加し、圧力媒体は配管54を介してシリンダ55(図4(a)またはポンプ53(図4(b))にいたる。サーボモータ57が作動を停止している間は、系の圧力が高まるので、リフト部材5eとしわ押え5dにはカウンター圧力が創成され、その結果、しわ押え力は高いものとなる。
【0026】
以後は、図6に示すようなデジタル制御系とサーボモータのトルクと速度制御により、加圧部5b内の圧力をプレスの任意の位置で自由自在に制御できる。たとえば、設定したダイクッション力に対応するコントローラからの指令で、サーボモータ57の回転方向を逆転しかつ加工条件に応じたトルクと回転数にてサーボモータ57を駆動すれば、図4(a)ではピストン550が後退してシリンダ容積が拡大する。図4(b)では、ポンプ53が逆回転して吸込みと吐出が切り替えられ、配管54内の圧力媒体はトルクと回転数に応じてタンクに戻される。これにより、加圧部5bの圧力すなわちダイクッション圧力が設定した力に保持されつつリフト部材5eとしわ押え5dが下降し、その結果、しわ押え力は緩められ、絞りに適したクッション作用が発揮されて材料流動がなされる。
【0027】
前記ダイクッション圧力は、サーボモータ57のトルクと回転数により無段階に連続して制御することができる。すなわち、サーボモータのトルクを低下させれば減速し、トルクを増せば増速する。回転数が少なければシリンダまたはタンクへ戻される圧力媒体の量が少なくなるので、加圧部5bの系内圧の低下は少なく、したがってダイクッション圧はサーボモータの回転数が多い場合よりも相対的に高くなる。
したがって、この特性に即して適当な値でサーボモータ57を駆動させることにより、ダイクッション圧力をスムーズかつ高精度に制御することができ、加工条件にマッチしたしわ押えを実現することができる。また、しわ押え5dのロッキングも自在に行うことができる。
【0028】
成形完了後は、7(d)のように、下成形プレス部2を下降し、圧力発生・制御手段5cを減圧側に作動させれば、加圧部5bが減圧するためリフト部材5eが下降し、しわ押え5fは前記のように基体上面に接する当初位置に戻る。そこで、上型締プレス部3を上昇させ、上死点に停止したならば、成形品を取外し、加工工程が加工を完了する。
【0029】
本発明は従来のようなダイクッションパッド、シリンダ、ダイクッションピンを使用せず、加圧部5bでリフト部材5eに面圧を加えてしわ押えを働かせるので、プレスと金型の撓みに関係なく、全面でしわ押え力が均一となる。また、CNCデジタル技術によりプレスのストロークに応じてダイクッション圧力を自由自在に制御でき、ダイクッション力が均一のため、成形品の精度も大幅に向上できる。
【0030】
本発明は種々の形式のプレス装置に適用される。図8は汎用プレスに適用した例を示しており、わずかな変更にて既存のプレスで使用できる。30は上プレス部であり、油圧などで昇降されるスライド30dと上型Bを有している。ベッド1aにはボルスタ4が据付けられ、これに下型Aが固定されている。また、ボルスタ4よりも下方に流体アクチュエータにより駆動されるプッシャパッド80が配され、これからボルスタ4を貫いてピン81が突出している。本発明を適用するには、ピン81で支持されていたプッシャリングを本発明装置5と交換すればよい。すなわち、基体5aの下部をピン81で支持すればよい。
【0031】
図8(a)のプレス加工前の状態では、プッシャパッド80が上昇され、本発明装置5は所要高さに保持される。この状態でワークWをしわ押え5dの上に載置し、スライド30dを下降すれば、上型Bがディタンスブロック5fに当たり、しわ押え5dと上型BでワークWをサンドイッチしながら、汎用のダイクッション装置を押圧下降させる。この時に汎用のダイクッション装置の設定圧力は本発明クッション装置5よりも設定圧力が大きくなっている。
つぎに圧力発生・制御手段5cのサーボモータを駆動すれば、前述のように配管54を介して加圧部5bが増圧され、リフト部材5eの上昇により、しわ押え5dに全面的、均一なしわ押え力が作用する。即ち、上型Bとしわ押え5dの間のワークWに全面的、均一なしわ押え力が作用させられる。
【0032】
この状態で、スライド30dを下降させることで図8(c)のように絞り加工が行われ、成形完了後、圧力発生・制御手段5cを減圧側に駆動し、加圧部5bを減圧させれば、リフト部材5eが下降し、当初位置を戻る。そして、スライド30dを上昇させ、上死点に停止したところで成形品を取外せば、加工が完了する。
この成形加工時の加圧部5bの制御と動作は記述したとおりであり、プッシャパッド80とピン81を用いてはいるものの、ピン相互の間隔と長さによる従来問題であったたわみ、プレススライドのたわみ、ベッドのたわみによる問題は、本発明装置の加圧部5bとリフト部材5eおよび加圧部5bに対する圧力発生・制御手段5cの圧力制御でキャンセルし、補正することができるので精度の高い成形を容易、確実に行える。
【0033】
また、本発明はメカニカルプレスにも適用できる。図9と図10図は、本発明装置をダブルアクション式のプレスに適用した例を示しており、図9(a)はアウターがクランク駆動、インナーがリンク式駆動の例を示している。すなわち、上プレス部30は、インナースライド30dとアウタースライド30d´を有し、インナースライド30dは図1の駆動形式と同じであるので、説明は援用する。
アウタースライド30d´はモータにより駆動されるクランク機構31で昇降されるようになっており、インナースライド30dは下面に上型Bを固定していて、アウタースライド30d´の開口を貫いて昇降されるようになっている。
【0034】
本発明装置5の基体5aはアウタースライド30d´の下面にリフト部材5eが下方に向くように固定され、しわ押え5dは上型Bの肩後部の段部に支持される。下型Aはベッド1aのボルスタ4上に固定されており、下型Aの上部周辺部分に前記基体5aと対向するようにディスタンスブロック5fが据えられている。前記下型Aには成形品を取り出すためのエジェクター33が装備されている。
図9(b)はアウタースライド30d´をクランクで、インナースライド30dをクランクに連結したリンク機構で駆動するようにしている。その他の構成は図9(a)と同様である。
【0035】
図10は前記ダブルアクションプレスにおける動作を示しており、(a)は加工開始前の状態であり、インナースライド30dとアウタースライド30d´は上昇限にあり、上型Bの先端はしわ押え5fの先端とほぼ面一のレベルにある。ワークWは下型Aに取付けられる。
ついで、インナースライド30dとアウタースライド30d´は(a)と同じ関係を保ちつつ下降され、それによりアウタースライド30d´に固定されている基体5aが下型B上のディスタンスブロック5fに当接し、位置保持される。このときにしわ押え5fはディスタンスブロック5f内に進入し、下型AとでワークWを挟み込む。この状態で圧力発生・制御手段5cのサーボモータを駆動すれば、前述のように配管54を介して加圧部5bが増圧され、リフト部材5eの下降により、しわ押え5dに全面的、均一なしわ押え力が作用する。即ち、下型Aとしわ押え5dの間のワークWに全面的、均一なしわ押え力が作用させられる。
【0036】
この状態でインナースライド30dを下降させれば上型Bが進出し、図9(c)のように下型Aとで絞り等の加工が行われる。成形完了後、圧力発生・制御手段5cを減圧側に駆動し、加圧部5bを減圧させれば、リフト部材5eの押圧力が喪失し、インナースライド30dを上昇させればしわ押え5dが持ち上げられ、図10(d)のようにアウタースライド30d´を上昇させることで当初位置を戻る。その間にエジェクター33を作動させれば成形品が持ち上げられ、加工が完了する。
【0037】
図11は本発明装置を回転式のシングルアクションプレスに適用した例を示しており、上型締めプレス部3は、回転型リンク機構により昇降されるスライド30dを有している。図12はその回転型リンク機構を拡大して示している。
下成形プレス部2の下型Aは同様に回転型リンク機構により昇降されるようになっている。本発明装置5はベッド1a上のボルスタ4に据付けられ、ディスタンスブロック5fは基体5aの上に据えられている。駆動系の動作を除いてプレス動作とダイクッション作用は第1実施例と同様であるから説明は援用する。
図13は、かかる回転駆動式プレスにおける運動曲線を示している。
【0038】
以上のように本発明のダイクッション装置は、プレスの形式を問わず使用可能であり、ダイクッションは均圧効果が高く、プレスと金型の撓みに関係なく、しわ押え力が均一となるため、製品精度が向上する。また、省エネ効果が大きく、ダイクッション力をブランクホルダ部位で任意的に制御でき、圧力発生・制御手段も実施例のような構成とすれば、リリーフ弁を使用しないので、油圧回路内の発熱が発生せず、スライドとダイクッションが衝突時のサージ圧が低い。しかも、ダイクッション圧力の安定性が高く、ダイクッション力の制御精度も大幅に向上することができ、ダイクッション装置が簡単な機械構造で、高さも低いコンパクトなものとなるので、耐久性、耐荷重性が高い。
【0039】
なお、プレスが図1や図11のようなアンダードライブ型である場合、下型Aは下スライド3aにより昇降されるが、下型Aが大型である場合には、図14のような構造が好適である。
すなわち、ボルスタ4の中央ボス部を下型Aの下面ボス部と結合すると共に、ボルスタ4に配設されている縦孔40のうち下型Aの底面域に対応する縦孔群にリフトピン41を挿入し、スライド3aには各リフトピン41に対応する位置にプッシャーピン34を配設固定している。なお、下型Aの底面域外に相当するボルスタ4の縦孔群はリフトピンが挿入されない。スライド3aにはこれらの縦孔群に挿入されるピンを有していてもよいし、有していなくてもよい。
この構造においては、下型Aを上昇させるべくスライド3aを上昇させると、各プッシャーピン34でボルスタ4の各リフトピン41が軸方向に押圧されてボルスタ上方に突き出すので、下型Aが大型大重量であっても安定してリフトされる。
【0040】
本発明におけるダイクッション装置の加圧部とリフト部材は必ずしも図5の態様に限られず個別的なものであってもよい。図15はその例を示しており、基体5aの内部に形成された室5b1に、加圧部5bとしてのシリンダチューブとリフト部材5eとしてのピストンを備えた多数本の流体圧シリンダ5Bを配列して構成されている。流体圧シリンダ群5Bは室5b1の幅方向にも数列配されることが好ましい。ピストンは基体の上面にむき出しでもよいし、各ピストンごとに穴のあいた蓋体やカバーを装着してもよい。
前記流体圧シリンダ5B群の各シリンダチューブはそれぞれが導路(導管)により連絡され、圧力発生・制御手段5cに接続されている。しかし、図5(b)のような多点での制御が望まれる場合には、流体圧シリンダ群を幾つかのグループに分け、それぞれのグループを導管で接続するとともに各グループごとに対応する圧力発生・制御手段と接続してもよい。また、場合によっては、ピストンの上に図5(a)のようなリングプレート状の上部リフト部材を装着してもよい。
また、図15の構成に代えて、図5(b)におけるリフト部材5eを多数に分割してもよい。
作用については、記述したものと同様であり、各シリンダチューブに加圧媒体を送給することにより各ピストンが上昇してしわ押さえ5dをリフトし、しわ押え力を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のダイクッション装置を適用したプレス装置の一例を示す縦断正面図である。
【図2】本発明装置の斜視図である。
【図3】(a)は図2のX−X線に沿う断面図、(b)は異なるタイプの部分的断面図である。
【図4】(a)は本発明における圧力発生・制御手段の一例を示す説明図、(b)は他例を示す説明図である。
【図5】(a)は本発明における加圧部の一例を示す平面図、(b)は他の例を示す平面図である。
【図6】本発明におけるダイクッション制御系を示す説明図である。
【図7】(a)〜(d)は第1実施例の動作を段階的に示す断面図である。
【図8】(a)〜(c)は本発明装置を汎用のプレスに適用した例を、加工の段階を追って示す断面図である。
【図9】(a)(b)は本発明をダブルアクションプレスに適用した例を示す断面図である。
【図10】(a)〜(d)は(図9(a)のプレスの動作を段階的に示す断面図である。
【図11】本発明装置を回転駆動式のシングルアクションプレスに適用した例を示す断面図である。
【図12】図11の駆動機構部分の拡大図である。
【図13】図11のプレスの運動曲線図である。
【図14】図1や図11のプレスにおける下型昇降機構の他の例を示す断面図である。
【図15】本発明におけるダイクッション装置の別の例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1a ベッド
4 ボルスタ
5 本発明のダイクッション装置
5a 基体
5b 加圧部
5b1 室本体
5b2 弾性体
5c 圧力発生・制御手段
5d しわ押え
5e リフト部材
5f ディスタンスブロック
52 導路
54 配管
57 サーボモータ
520 押圧面
A 下型
B 上型
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスの片側の金型と対向する位置において他方の金型の周囲に配されるダイクッション装置であって、平面環枠状の基体と、該基体に内蔵され外部の圧力発生・制御手段と接続された加圧部と、しわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部に望むリフト部材と、前記しわ押えよりも外側の基体上またはこれと対向する金型側に配されたディスタンスブロックを備えていることを特徴とするプレス用ダイクッション装置。
【請求項2】
前記加圧部がリング状をなし、基体の全周にわたって設けられていることを特徴とする請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項3】
加圧部が複数に分割され、複数の加圧部が幾つかの組をなすように連結され、それぞれの組に圧力発生・制御手段が接続されていることを特徴とする請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項4】
前記加圧部が、室本体とこれに内装された弾性体からなっている請求項1ないし3のいずれかに記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項5】
加圧部が室本体とこれを満たす流体からなっている請求項1ないし3のいずれかに記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項6】
基体が上型側に固定され、ディスタンスブロックが下型側に配されている請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項7】
圧力発生・制御手段がサーボモータを駆動源としている請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項8】
加圧部としわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部に望むリフト部材がシリンダチューブとピストンであり、これが多数隣接して配されている請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項1】
プレスの片側の金型と対向する位置において他方の金型の周囲に配されるダイクッション装置であって、平面環枠状の基体と、該基体に内蔵され外部の圧力発生・制御手段と接続された加圧部と、しわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部に望むリフト部材と、前記しわ押えよりも外側の基体上またはこれと対向する金型側に配されたディスタンスブロックを備えていることを特徴とするプレス用ダイクッション装置。
【請求項2】
前記加圧部がリング状をなし、基体の全周にわたって設けられていることを特徴とする請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項3】
加圧部が複数に分割され、複数の加圧部が幾つかの組をなすように連結され、それぞれの組に圧力発生・制御手段が接続されていることを特徴とする請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項4】
前記加圧部が、室本体とこれに内装された弾性体からなっている請求項1ないし3のいずれかに記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項5】
加圧部が室本体とこれを満たす流体からなっている請求項1ないし3のいずれかに記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項6】
基体が上型側に固定され、ディスタンスブロックが下型側に配されている請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項7】
圧力発生・制御手段がサーボモータを駆動源としている請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【請求項8】
加圧部としわ押えに対する押圧面を有しこれと反対側が前記加圧部に望むリフト部材がシリンダチューブとピストンであり、これが多数隣接して配されている請求項1に記載のプレス用ダイクッション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−160319(P2007−160319A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357019(P2005−357019)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000126894)株式会社アミノ (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000126894)株式会社アミノ (16)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]