説明

プレテンション部材の製造方法

【課題】プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する場合において、安価な製造設備で所期のプレストレス導入を容易に行えるようにした上で、軟弱地盤上においても製造設備に強度上問題が生じないようにする。
【解決手段】箱形の製作ベッド10を用いて、複数本の縦方向PC鋼材102がコンクリート部材106内に配置されてなるプレテンション部材100を、縦方向の複数箇所で製造する。その際、製作ベッド10として、両端部壁10D、10Eの各々にその下端部から縦方向外側へ所定長突出する沈下抑止版10F、10Gが形成されたものを用いる。これにより、製作ベッド10を軟弱地盤に設置した場合でも、1対の沈下抑止版10F、10Gの存在により、両端部壁10D、10E付近の地盤が不等沈下してしまうのを抑制し、製作ベッド10の中間部における両端部壁10D、10Eの近傍部位に大きな負の曲げモーメントが生じないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する方法として、例えば「特許文献1」に記載されているような方法が知られている。
【0003】
すなわち、この「特許文献1」に記載された製造方法においては、複数のコンクリート部材の打設位置を縦方向に直列に配置するとともに、これら複数箇所の打設位置の縦方向両側に位置する地盤に1対の反力装置を設置した状態で、これら反力装置に複数のPC鋼材を定着し、ジャッキを用いてこれらPC鋼材の緊張および緊張解除を行うことにより、各コンクリート部材に対してプレストレスを導入するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−58427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記「特許文献1」に記載された製造方法においては、複数箇所の打設位置の縦方向両側に位置する地盤に1対の反力装置を設置した状態でプレストレス導入を行うようになっているので、各反力装置として長尺の水平反力アンカを備えた構成としておくことが必要となり、その製造設備が高価なものとなってしまう、という問題がある。また、このような反力装置を用いた方法では、PC鋼材の緊張力の管理が難しく、所期のプレストレス導入を行うことが容易でない、という問題もある。
【0006】
これに対し、縦方向および横方向の鉛直断面形状がいずれも略U字形に設定された箱形の製作ベッドを用いてプレストレス導入を行うようにすれば、長尺の水平反力アンカを備えた反力装置が不要となるので、プレテンション部材の製造設備のコスト低減を図ることができ、また、PC鋼材の緊張力の管理が容易となるので、所期のプレストレス導入を行うことが容易に可能となる。
【0007】
しかしながら、このような箱形の製作ベッドを用いた場合、この製作ベッドは、縦方向に長尺で形成されるとともに大きな重量を有するものとなるため、通常の堅固な地盤に設置される場合には特に問題とはならないが、軟弱地盤に設置される場合には次のような問題がある。
【0008】
すなわち、この製作ベッドは、その下面において地盤により弾性支持された状態となるが、軟弱地盤に設置される場合には、この製作ベッドの縦方向の死荷重分布においてその値が大きくなる両端部壁を支持している地盤が、その間に位置する中間部(すなわち横方向の鉛直断面形状が略U字形に設定されている部分)を支持している地盤よりも大きく沈下してしまうこととなる。そして、この不等沈下により、製作ベッドの中間部における両端部壁近傍部位には、大きな負の曲げモーメントが生じてしまう、という問題がある。
【0009】
このような不等沈下による負の曲げモーメントに対して鉄筋による補強で抵抗させようとしても、箱形の製作ベッドにおいては、その中立軸よりも上方側の部分に十分な配筋スペースを確保することができないので、効果的な補強を図ることが困難である。
【0010】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する場合において、安価な製造設備で所期のプレストレス導入を容易に行うことができるようにした上で、その製造が軟弱地盤上で行われる場合であっても製造設備に強度上の問題が生じないようにすることができるプレテンション部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、箱形の製作ベッドを用いた上で、その構成に工夫を施すことにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0012】
すなわち、本願発明に係るプレテンション部材の製造方法は、
縦方向に延びる複数本の縦方向PC鋼材がコンクリート部材内に配置されてなるプレテンション部材を、縦方向の複数箇所で複数個同時に製造する方法において、
縦方向および横方向の鉛直断面形状がいずれも略U字形に設定された箱形の製作ベッドを用い、
上記製作ベッドにおける一方の端部壁に上記各縦方向PC鋼材の一端部を定着した状態で、上記製作ベッドにおける他方の端部壁に設置したジャッキを用いて上記各縦方向PC鋼材の緊張および緊張解除を行うことにより、上記両端部壁間において打設される複数のコンクリート部材に対して縦方向のプレストレスを一括して導入するようにし、
その際、上記製作ベッドとして、該製作ベッドの両端部壁の各々に、該端部壁の下端部から縦方向外側へ所定長突出する沈下抑止版が形成されたものを用いる、ことを特徴とするものである。
【0013】
上記「プレテンション部材」は、縦方向に延びる複数本の縦方向PC鋼材がコンクリート部材内に配置された構成となっているが、その際、これに加えて横方向に延びる複数本の横方向PC鋼材がコンクリート部材内に追加配置された構成となっていてもよい。
【0014】
上記「複数本の縦方向PC鋼材」の具体的な配置や本数は、特に限定されるものではない。
【0015】
上記「縦方向の複数箇所」の具体的な数は特に限定されるものではない。
【0016】
上記「製作ベッド」は、縦方向および横方向の鉛直断面形状がいずれも略U字形に設定された箱形の製作ベッドであれば、その具体的な形状は特に限定されるものではない。
【0017】
上記各「沈下抑止版」は、製作ベッドにおける各端部壁の下端部から縦方向外側へ突出するように形成されたものであれば、その具体的な形状は特に限定されるものではなく、また、その幅、厚さおよび縦方向外側への突出量の具体的な値についても特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0018】
上記構成に示すように、本願発明に係るプレテンション部材の製造方法においては、縦方向に延びる複数本の縦方向PC鋼材がコンクリート部材内に配置されてなるプレテンション部材を、縦方向の複数箇所で複数個同時に製造するようになっているが、その際、縦方向および横方向の鉛直断面形状がいずれも略U字形に設定された箱形の製作ベッドを用いてプレストレス導入を行うようになっているので、安価な製造設備で縦方向のプレストレス導入を行うことができ、また、縦方向PC鋼材の緊張力の管理が容易となり、これにより所期のプレストレス導入を行うことが容易に可能となる。
【0019】
しかも本願発明においては、製作ベッドとして、その両端部壁の各々に該端部壁の下端部から縦方向外側へ所定長突出する沈下抑止版が形成されたものを用いるようになっているので、この製作ベッドを軟弱地盤に設置した場合においても、その1対の沈下抑止版の存在により、その両端部壁付近の地盤が不等沈下してしまうのを抑制することができる。そしてこれにより、製作ベッドの死荷重によって大きな負の曲げモーメントが生じやすい該製作ベッドの中間部における両端部壁近傍部位に、強度上問題となるほどの大きな負の曲げモーメントが生じてしまわないようにすることができる。
【0020】
このように本願発明によれば、プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する場合において、安価な製造設備で所期のプレストレス導入を容易に行うことができるようにした上で、その製造が軟弱地盤上で行われる場合であっても製造設備に強度上の問題が生じないようにすることができる。
【0021】
上記構成において、各沈下抑止版を、製作ベッドの横幅と同じ幅で形成しておくようにすれば、これら各沈下抑止版を形成する際の施工を容易に行うことができ、また、これら各沈下抑止版の単位長さ当たりの底面積を十分に確保して、その沈下抑止効果を高めることができる。
【0022】
上記構成において、各沈下抑止版を、製作ベッドの底面壁よりも薄肉で形成しておくようにすれば、その重量を小さく抑えることができる。そしてこれにより、これら各沈下抑止版自体の重量が上記負の曲げモーメントを生じさせる大きな要因となってしまわないようにすることができる。
【0023】
上記構成において、各沈下抑止版は、製作ベッドの不等沈下を抑制する観点からは、各端部壁からある程度長く突出させておくことが好ましく、一方、あまり長くしすぎると、これら各沈下抑止版の形成に必要な鉄筋量が多くなってしまい、また、これら各沈下抑止版の付け根の位置に発生する断面力に対する補強が新たに必要となってしまうので、その突出量を1〜2.5m程度に設定しておくことが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0025】
図1は、本願発明の一実施形態に係るプレテンション部材の製造方法に用いられる製作ベッド10を、所定の付属装置が装着された状態で示す図であって、同図(a)が平面図、同図(b)が側断面図である。
【0026】
同図に示すように、この製作ベッド10は、鉄筋コンクリート製であって、平面視において細長矩形状の外形形状を有しており、その縦方向(長尺方向)の長さは100m程度、その横方向の長さは13m程度の値に設定されている。この製作ベッド10は、自碇式の製作ベッドとして構成されており、平坦な地盤2に設置された状態で使用されるようになっている。なお、本実施形態においては、地盤2が軟弱地盤であり、この地盤2に対して所定量(具体的には0.6m弱程度)沈み込むようにして製作ベッド10が設置されている状態を示している。
【0027】
この製作ベッド10は、底面壁10Aと、この底面壁10Aの横方向の両端縁部において上方へ立ち上がる1対の側壁10B、10Cと、底面壁10Aの縦方向の両端縁部において上方へ立ち上がる1対の端部壁10D、10Eとで構成されており、その縦方向および横方向の鉛直断面形状はいずれも略U字形に設定されている。その際、この製作ベッド10は、その両端部壁10D、10Eと両側壁10B、10Cとが連続的に形成された箱形の製作ベッドとして構成されており、その内側に縦長矩形状の作業用空間が形成されるようになっている。また、この製作ベッド10における両端部壁10D、10Eの各々には、該端部壁10D、10Eの下端部から縦方向外側へ所定長突出する沈下抑止版10F、10Gが形成されている。
【0028】
本実施形態において製造の対象となるプレテンション部材100は、縦方向に延びる38本(19本ずつ上下2段)の縦方向PC鋼材102と、これら縦方向PC鋼材と交差するようにして横方向に延びる22本の横方向PC鋼材104とが、コンクリート部材106内に配置されてなる二方向プレテンション部材であって、横長矩形状のコンクリートスラブとして構成されている。そして、本実施形態においては、このプレテンション部材100が、製作ベッド10の作業用空間内における縦方向の21箇所で、21個同時に製造されるようになっている。
【0029】
これら21個のプレテンション部材100を製造する工程において、これら各プレテンション部材100に対して、横方向のプレストレスと縦方向のプレストレスとが導入されるようになっている。これら二方向のプレストレス導入は、次のようにして行われるようになっている。
【0030】
すなわち、一方の側壁10Bに各横方向PC鋼材104の一端部を定着した状態で、他方の側壁10Cに設置した各1対のジャッキ50を用いて、22本の横方向PC鋼材104の緊張および緊張解除を行うことにより、両側壁10B、10C間において打設される各コンクリート部材106に対して、横方向のプレストレスが導入されるようになっている。
【0031】
また、一方の端部壁10Dに、各縦方向PC鋼材102の一端部を定着した状態で、他方の端部壁10Eに設置した各1対のジャッキ30を用いて38本の縦方向PC鋼材102の緊張および緊張解除を行うことにより、両端部壁10D、10E間において打設される21個のコンクリート部材106に対して、縦方向のプレストレスが一括して導入されるようになっている。
【0032】
図2、3、4および5は、図1のII部詳細図、III 部詳細図、IV部詳細図およびV部詳細図である。また、図6は、図1のVI-VI 線断面詳細図である。
【0033】
これらの図にも示すように、この製作ベッド10の底面壁10Aは、その壁厚が1.2m程度の値に設定されており、この底面壁10Aの下面は、その全域にわたって平面状に形成されている。
【0034】
そして、この製作ベッド10の各側壁10B、10Cは、その壁厚が1.2m程度の値に設定されており、その高さは、底面壁10Aの下面から2.2m程度の値に設定されている。これら各側壁10B、10Cの内側面には、その下端部に傾斜角45°程度のハンチ部10Ba、10Caが形成されている。
【0035】
また、この製作ベッド10の各端部壁10D、10Eは、その壁厚が該端部壁10D、10Eの上端面において2.2m程度の値に設定されており、その高さは、各側壁10B、10Cの高さと同じ値に設定されている。これら各端部壁10D、10Eの内側面は、傾斜角45°程度の傾斜面10Da、10Eaとして形成されている。
【0036】
その際、一方の端部壁10Dには、38本の縦方向PC鋼材102を挿通させるための38本の挿通孔(図示せず)が、横方向に所定間隔をおいて上下2段配置で縦方向に貫通するようにして形成されている。
【0037】
また、他方の端部壁10Eには、プレテンション導入装置20が装着されている。このプレテンション導入装置20は、端部壁10Eの内側近傍に配置された定着用ブロック22と、端部壁10Eの外側近傍に配置された受け梁24と、これら定着用ブロック22、端部壁10Eおよび受け梁24を縦方向に貫通するようにして上下2段で配置され、両端部が定着用ブロック22および受け梁24に各々ナット28で固定された2対のテンションロッド26と、端部壁10Eと受け梁24との間に設置された1対のジャッキ30とを備えた構成となっている。その際、定着用ブロック22には、38本の縦方向PC鋼材102を挿通させるための38本の挿通孔(図示せず)が、横方向に所定間隔をおいて上下2段配置で縦方向に貫通するようにして形成されている。
【0038】
同様に、一方の側壁10Bには、上記21箇所の各々に対応する位置に、22本の横方向PC鋼材104を挿通させるための22本の挿通孔(図示せず)が、縦方向に所定間隔をおいて横方向に貫通するようにして形成されている。
【0039】
また、他方の側壁10Cには、縦方向に等間隔をおいて21箇所にプレテンション導入装置40が装着されている。このプレテンション導入装置40は、側壁10Cの内側近傍に配置された定着用ブロック42と、側壁10Cの外側近傍に配置された受け梁44と、これら定着用ブロック42、側壁10Cおよび受け梁44を横方向に貫通するように配置され、両端部が定着用ブロック42および受け梁44に各々ナット48で固定された2対のテンションロッド46と、側壁10Cと受け梁44との間に設置された1対のジャッキ50とを備えた構成となっている。その際、各定着用ブロック42には、22本の横方向PC鋼材104を挿通させるための22本の挿通孔(図示せず)が、縦方向に所定間隔をおいて横方向に貫通するようにして形成されている。
【0040】
この製作ベッド10において、その両端部壁10D、10Eの下端部から縦方向外側へ所定長突出するように形成された1対の沈下抑止版10F、10Gは、いずれも製作ベッド10の横幅と同じ幅で、かつ、底面壁10Aよりも薄肉で形成されており、平面視において矩形形状を有している。具体的には、これら各沈下抑止版10F、10Gは、その下面が底面壁10Aの下面と面一になるようにして形成されており、その肉厚は0.6m程度の値に設定されている。また、これら各端部壁10D、10Eからの突出量は、1〜2.5mの範囲内の値(具体的には1.5m〜2m程度の値)に設定されている。
【0041】
次に、プレテンション部材100の製造工程について説明する。
【0042】
まず、製作ベッド10における縦長の作業用空間の21箇所に、コンクリート部材106の形状に対応する型枠(図示せず)を設置し、38本の縦方向PC鋼材102を上下2段で横方向に等間隔をおいて配置するとともに、各箇所において22本の横方向PC鋼材104を、上段に位置する縦方向PC鋼材102の上方近傍において縦方向に等間隔をおいて配置する。
【0043】
各縦方向PC鋼材102は、その一端部を、一方の端部壁10Dに形成された挿通孔に挿通させた状態で、該端部壁10Dの外面において定着具32で定着するとともに、その他端部を、定着用ブロック22に形成された挿通孔に挿通させた状態で、該定着用ブロック22における縦方向外側の端面において定着具32で定着する。そして、他方の端部壁10Eと受け梁24との間に設置された1対のジャッキ30により、受け梁24を縦方向外側へ移動させ、これに伴い、テンションロッド26を介して定着用ブロック22を縦方向外側へ移動させ、これにより38本の縦方向PC鋼材102を一括して緊張する。
【0044】
一方、各横方向PC鋼材104は、その一端部を、一方の側壁10Bに形成された挿通孔に挿通させた状態で、該側壁10Bの外面において定着具52で定着するとともに、その他端部を、定着用ブロック42に形成された挿通孔に挿通させた状態で、該定着用ブロック42における横方向外側の端面において定着具52で定着する。そして、他方の側壁10Cと受け梁44との間に設置された1対のジャッキ50により、受け梁44を横方向外側へ移動させ、これに伴い、テンションロッド46を介して定着用ブロック42を横方向外側へ移動させ、これにより各プレテンション部材100用の22本の横方向PC鋼材104を一括して緊張する。この作業は、21箇所のプレテンション導入装置40毎に個別に行う。
【0045】
次に、上記21箇所の各々に設置された型枠内にコンクリートを打設し、所定時間養生する。
【0046】
その後、各プレテンション導入装置40において、その1対のジャッキ50による22本の横方向PC鋼材104の緊張を一括して解除する。その際、この緊張解除による各プレテンション部材100の変位を最小限に抑えるため、この緊張解除は、各プレテンション導入装置40毎に順次少しずつ行うようにする。この緊張解除が完了した後、プレテンション導入装置20において、その1対のジャッキ30による38本の縦方向PC鋼材102の緊張を一括して解除する。
【0047】
最後に、各縦方向PC鋼材102および各横方向PC鋼材104における各型枠からの突出部分を切り落とした後、これら各型枠からプレテンション部材100を取り出す。
【0048】
本実施形態において、プレテンション部材100の製造に用いられる製作ベッド10は、その下面において地盤2により弾性支持された状態となっているが、この製作ベッド10は縦方向に長尺で形成されており大きな重量を有しているので、仮に1対の沈下抑止版10F、10Gを備えていないとすると、次のような問題が生じることとなる。すなわち、この製作ベッド10が軟弱地盤に設置される場合には、この製作ベッド10の縦方向の死荷重分布においてその値が大きくなる両端部壁10D、10Eを支持している地盤が、その間に位置する中間部を支持している地盤よりも大きく沈下するため、その中間部における両端部壁10D、10Eの近傍部位に大きな負の曲げモーメントが生じてしまうこととなる。
【0049】
しかしながら、この製作ベッド10は、実際には、その両端部壁10D、10Eの下端部から縦方向外側へ突出する1対の沈下抑止版10F、10Gを備えているので、これら1対の沈下抑止版10F、10Gの存在により、その両端部壁10D、10E付近の地盤の不等沈下が抑制され、これにより製作ベッド10の中間部における両端部壁10D、10Eの近傍部位に大きな負の曲げモーメントが生じてしまうのが未然に防止されることとなる。
【0050】
その際、これら各沈下抑止版10F、10Gの各端部壁10D、10Eからの突出量は、上述したように1.5〜2m程度の値に設定されているが、その理由について説明すると以下のとおりである。
【0051】
図7〜12は、各沈下抑止版10F、10Gの突出量を変化させたときに、製作ベッド10に生じる曲げモーメントがどのように変化するのか、ということを確認するために行ったシミュレーションの結果を示す曲げモーメント図である。
【0052】
その際、図7は、各沈下抑止版10F、10Gを形成しなかった場合の曲げモーメントを示しており、図8、9、10、11、12は、それぞれ各沈下抑止版10F、10Gの突出量を0.5m、1m、2.5m、5m、10mに設定した場合の曲げモーメントを示している。
【0053】
これら各図において、(a)は、製作ベッド10の死荷重により生じる曲げモーメントを示しており、(b)は、プレストレス導入により生じる曲げモーメント(正確には、プレテンション部材100の製造工程において、21個のコンクリート部材106に対して縦方向のプレストレスを一括して導入する際、38本の縦方向PC鋼材102を一括して緊張したときに製作ベッド10に生じる曲げモーメント)を示しており、(c)は、プレストレス導入時に生じる曲げモーメント(すなわち、製作ベッド10の死荷重により生じる曲げモーメントとプレストレス導入により生じる曲げモーメントとを足し合わせた合成曲げモーメント)を示している。
【0054】
また、これら各図において、実線で示す曲線は、N値がN=2の超軟弱地盤に製作ベッド10が設置されているとした場合の曲げモーメントを示しており、破線で示す曲線は、N値がN=30の通常地盤に設置されているとした場合の曲げモーメントを示している。
【0055】
これらの図に示すように、超軟弱地盤の場合には、通常地盤の場合に比して全般的に曲げモーメントの値が大きく(絶対値で大きく;以下同様)なっており、かつ、死荷重時とプレストレス導入時とで曲げモーメントの値の差が大きくなっている。したがって、超軟弱地盤の場合について補強の必要性を検討すれば足りることとなる。
【0056】
図13は、図7〜12に示す超軟弱地盤の場合の曲げモーメント図において、製作ベッド10における縦方向のいくつかの主要な点に着目して、その曲げモーメントの値を表に纏めた図である。
【0057】
なお、同図においては、製作ベッド10における端部壁10D側の半分を取り上げているが、端部壁10E側の半分に関しても全く同様である。
【0058】
同図に示すように、着目点A(すなわち沈下抑止版10Fの付け根に位置する断面)においては、沈下抑止版10Fが形成されていなければ曲げモーメントは当然ながら生じないが、沈下抑止版10Fが形成されている場合には負の曲げモーメントが生じ、その値は沈下抑止版10Fの突出量が大きくなるに従って急激に大きくなる。
【0059】
着目点B(すなわち端部ハンチ部の付け根(具体的には端部壁10Dの傾斜面10Daと底面壁10Aの上面との交線)に位置する断面)においては、沈下抑止版10Fの有無およびその突出量にかかわらず、かなり大きな正の曲げモーメントが生じ、その値は、沈下抑止版10Fの突出量が大きくなるに従って徐々に大きくなり、突出量が5mを超えると逆にやや小さくなる。
【0060】
着目点C(すなわち製作ベッド10の全長をLとしたときに端部壁10Dの外側面から0.1Lの距離(具体的には10mの距離)に位置する断面)においては、沈下抑止版10Fが形成されていない場合には負の大きな曲げモーメントが生じ、沈下抑止版10Fが形成されている場合にはその値が小さくなる。そして、沈下抑止版10Fの突出量が大きくなるに従って、その値がさらに小さくなり、突出量が1mから2.5mの間で正の値に転じ、突出量がさらに大きくなると、これに従って曲げモーメントの値も大きくなる。
【0061】
着目点D(すなわち製作ベッド10の縦方向中央に位置する断面)においては、沈下抑止版10Fの有無およびその突出量の長短にかかわらず、大きな負の曲げモーメントが生じる。そして、沈下抑止版10Fの突出量が大きくなるに従って、その値が徐々に大きくなり、突出量が5mを超えると逆にやや小さくなる。
【0062】
本実施形態においては、製作ベッド10が鉄筋コンクリート製であることから、これら各着目点A〜Dに生じる曲げモーメントに対する補強は、コンクリート部材106内に鉄筋を適宜追加配置することにより行われることとなる。
【0063】
その際、負の曲げモーメントに対する補強は、中立軸よりも上側に鉄筋を配置することにより行われるが、この上側に位置する両側壁10B、10Cには十分な配筋スペースを確保することができないので、効果的な補強は困難である。一方、正の曲げモーメントに対しては、中立軸よりも下側に鉄筋を配置することにより行われるが、この下側には底面壁10Aが位置しており、十分な配筋スペースを確保することができるので、曲げモーメントの値がかなり大きくなっても補強は容易である。したがって、正の曲げモーメントが生じるような構成にするか、あるいは負の曲げモーメントが生じる構成であってもその値ができるだけ小さくなるような構成にすることが望まれれる。
【0064】
製作ベッド10において、沈下抑止版10Fの突出量を大きくすると、着目点Cにおいては、死荷重時に生じる負の曲げモーメントの値が小さくなるが、着目点A、Dにおいては、プレストレス導入時に生じる負の曲げモーメントの値が大きくなる。ただし、着目点Dにおいては、プレストレス導入時には、縦方向PC鋼材102の緊張による軸方向力が生じるので、その足し合わせでは圧縮状態となり、特に問題とはならない。一方、着目点Aにおいては、プレストレス導入時にもこのような軸方向力が生じることはない。
【0065】
したがって、着目点Cと着目点Aとの双方において、負の曲げモーメントの値があまり大きくならないようにすることが肝要である。このような観点から、沈下抑止版10Fの突出量は、これを1〜2.5mの範囲内の値に設定しておくのが好ましい。このようにすることにより、着目点Cにおける負の曲げモーメントの値を、沈下抑止版10Fがない場合に比して1/2以下にすることができ、かつ、着目点Aにおける負の曲げモーメントの値についても十分小さく抑えることができる。そして、このようにした場合、補強用の鉄筋は配力筋として用いられるD13鉄筋で十分であり、特別な鉄筋は不要となる。
【0066】
本実施形態においては、沈下抑止版10Fの突出量が1.5〜2m程度の値に設定されているので、着目点Cにおいては、曲げモーメントを略ゼロないし正の値にすることができ、着目点Aにおいては、負の曲げモーメントの値をかなり小さい値に抑えることができる。もう1つの沈下抑止版10Gについても同様である。
【0067】
以上詳述したように、本実施形態においては、38本の縦方向PC鋼材102と22本の横方向PC鋼材104とがコンクリート部材106内に配置されてなるプレテンション部材100を、縦方向の21箇所で21個同時に製造するようになっているが、その際、縦方向および横方向の鉛直断面形状がいずれも略U字形に設定された箱形の製作ベッド10を用い、この製作ベッド10における一方の側壁10Bに各横方向PC鋼材104の一端部を定着した状態で、該製作ベッド10における他方の側壁10Cに設置したジャッキ50を用いて各横方向PC鋼材104の緊張および緊張解除を行うことにより、両側壁10B、10C間において打設される各コンクリート部材106に対して横方向のプレストレスを導入するとともに、製作ベッド10における一方の端部壁10Dに各縦方向PC鋼材102の一端部を定着した状態で、該製作ベッド10における他方の端部壁10Eに設置したジャッキ30を用いて各縦方向PC鋼材102の緊張および緊張解除を行うことにより、両端部壁10D、10E間において打設される21個のコンクリート部材106に対して縦方向のプレストレスを一括して導入するようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0068】
すなわち、自碇式の製作ベッド10を用いて二方向のプレストレス導入を行うようになっているので、従来のような長尺の水平反力アンカを備えた反力装置が不要となり、このため二方向プレテンション部材100の製造設備のコスト低減を図ることができ、また、各縦方向PC鋼材102および各横方向PC鋼材104の緊張力の管理が容易となるので、所期のプレストレス導入を行うことが容易に可能となる。
【0069】
しかも本実施形態においては、製作ベッド10として、その両端部壁10D、10Eの各々に該端部壁10D、10Eの下端部から縦方向外側へ所定長突出する沈下抑止版10F、10Gが形成されたものを用いるようになっているので、この製作ベッド10を軟弱地盤に設置した場合においても、その1対の沈下抑止版10F、10Gの存在により、両端部壁10D、10E付近の地盤が不等沈下してしまうのを抑制することができる。そしてこれにより、製作ベッド10の死荷重によって大きな負の曲げモーメントが生じやすい該製作ベッド10の中間部における両端部壁10D、10Eの近傍部位に、強度上問題となるほどの大きな負の曲げモーメントが生じてしまわないようにすることができる。
【0070】
このように本実施形態によれば、プレテンション部材100を直列配置で複数個同時に製造する場合において、安価な製造設備で所期のプレストレス導入を容易に行うことができるようにした上で、その製造が軟弱地盤上で行われる場合であっても製造設備に強度上の問題が生じないようにすることができる。
【0071】
その際、本実施形態においては、各沈下抑止版10F、10Gが、製作ベッド10の横幅と同じ幅で形成されているので、これら各沈下抑止版10F、10Gを形成する際の施工を容易に行うことができ、また、これら各沈下抑止版10F、10Gの単位長さ当たりの底面積を十分に確保して、その沈下抑止効果を高めることができる。
【0072】
また本実施形態においては、各沈下抑止版10F、10Gが、製作ベッド10の底面壁10Bよりも薄肉で形成されているので、その重量を小さく抑えることができる。そしてこれにより、これら各沈下抑止版10F、10G自体の重量が上記負の曲げモーメントを生じさせる大きな要因となってしまわないようにすることができる。
【0073】
さらに本実施形態においては、各沈下抑止版10F、10Gの各端部壁10D、10Eからの突出量が1.5〜2m程度に設定されているので、これら各沈下抑止版10F、10Gの付け根の位置に発生する断面力に対する補強を必要とせずに、各端部壁10D、10E付近の地盤の不等沈下を抑制することができる。しかも、各沈下抑止版10F、10Gの突出量をこのような値に設定しておくことにより、プレテンション部材100の製造が軟弱地盤上で行われる場合だけでなく超軟弱地盤上で行われる場合であっても、その製造設備に強度上の問題が生じないようにすることができる。
【0074】
なお、上記実施形態においては、各沈下抑止版10F、10Gの肉厚が0.6m程度であるものとして説明したが、1m程度以下の肉厚であれば、上記実施形態の場合と略同様の作用効果を得ることが可能である。
【0075】
また、上記実施形態においては、各沈下抑止版10F、10Gの各端部壁10D、10Eからの突出量が1.5〜2m程度であるものとして説明したが、1〜2.5mの範囲内の突出量であれば、上記実施形態の場合と略同様の作用効果を得ることが可能である。
【0076】
ところで、上記実施形態においては、製作ベッド10として鉄筋コンクリート製の製作ベッドを用いるようにしたが、PC鋼材で適宜補強された鉄筋コンクリート製の製作ベッド等を用いるようにしてもよい。
【0077】
また、上記実施形態においては、その製造対象となるプレテンション部材100が横長矩形状のコンクリートスラブであるものとして説明したが、これ以外の形状を有する部材である場合においても、上記実施形態の製造方法を採用することにより上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0078】
なお、上記実施形態において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本願発明の一実施形態に係るプレテンション部材の製造方法に用いられる製作ベッドを、所定の付属装置が装着された状態で示す図であって、同図(a)が平面図、同図(b)が側断面図
【図2】図1のII部詳細図
【図3】図1のIII 部詳細図
【図4】図1のIV部詳細図
【図5】図1のV部詳細図
【図6】図1のVI-VI 線断面詳細図
【図7】上記製作ベッドにおける各沈下抑止版の突出量を変化させたときに、該製作ベッドに生じる曲げモーメントがどのように変化するのか、ということを確認するために行ったシミュレーションの結果を示す曲げモーメント図(その1)
【図8】上記シミュレーションの結果を示す曲げモーメント図(その2)
【図9】上記シミュレーションの結果を示す曲げモーメント図(その3)
【図10】上記シミュレーションの結果を示す曲げモーメント図(その4)
【図11】上記シミュレーションの結果を示す曲げモーメント図(その5)
【図12】上記シミュレーションの結果を示す曲げモーメント図(その6)
【図13】超軟弱地盤の場合における上記曲げモーメント図において、上記製作ベッドにおける縦方向のいくつかの主要な点に着目して、その曲げモーメントの値を表に纏めた図
【符号の説明】
【0080】
2 地盤
10 製作ベッド
10A 底面壁
10B、10C 側壁
10Ba、10Ca ハンチ部
10D、10E 端部壁
10Da、10Ea 傾斜面
10F、10G 沈下抑止版
20、40 プレテンション導入装置
22、42 定着用ブロック
24、44 受け梁
26、46 テンションロッド
28、48 ナット
30、50 ジャッキ
32、52 定着具
100 プレテンション部材
102 縦方向PC鋼材
104 横方向PC鋼材
106 コンクリート部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向に延びる複数本の縦方向PC鋼材がコンクリート部材内に配置されてなるプレテンション部材を、縦方向の複数箇所で複数個同時に製造する方法において、
縦方向および横方向の鉛直断面形状がいずれも略U字形に設定された箱形の製作ベッドを用い、
上記製作ベッドにおける一方の端部壁に上記各縦方向PC鋼材の一端部を定着した状態で、上記製作ベッドにおける他方の端部壁に設置したジャッキを用いて上記各縦方向PC鋼材の緊張および緊張解除を行うことにより、上記両端部壁間において打設される複数のコンクリート部材に対して縦方向のプレストレスを一括して導入するようにし、
その際、上記製作ベッドとして、該製作ベッドの両端部壁の各々に、該端部壁の下端部から縦方向外側へ所定長突出する沈下抑止版が形成されたものを用いる、ことを特徴とする請求項1記載のプレテンション部材の製造方法。
【請求項2】
上記各沈下抑止版を、上記製作ベッドの横幅と同じ幅で形成しておく、ことを特徴とする請求項1記載のプレテンション部材の製造方法。
【請求項3】
上記各沈下抑止版を、上記製作ベッドの底面壁よりも薄肉で形成しておく、ことを特徴とする請求項1または2記載のプレテンション部材の製造方法。
【請求項4】
上記各沈下抑止版の上記各端部壁からの突出量を、1〜2.5mに設定しておく、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のプレテンション部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−276123(P2007−276123A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101403(P2006−101403)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】