説明

プレニルキノン生合成能の高い形質転換植物

【課題】プレニルキノン類の量の増加は、植物に、酸化的ストレス、特に、冷気、乾燥または強度の光に対する、より優れた抵抗性を付与する。植物および植物細胞を形質転換することによりこれらの性質を付与する。
【解決手段】形質転換植物、特に、プラストキノン類、トコトリエノール類およびトコフェロール類を、形質転換されていない同じ植物よりも多量に産生する形質転換植物を得た。該植物を産生するための方法および前記植物を培養するための方法も示す。該植物は、p−ヒドロキシフェニルピルベートジオキシゲナーゼ酵素阻害剤に耐性となる特性も獲得していた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換植物、特に、プラストキノン類、トコトリエノール類およびトコフェロール類を、形質転換されていない同じ植物よりも多量に産生する形質転換植物に関する。本発明は、これらの植物を産生するための方法およびこれらの植物を培養するための方法にも関する。本発明の植物は、p−ヒドロキシフェニルピルベートジオキシゲナーゼ酵素(以下、HPPDと呼ぶ)の阻害剤である除草剤に耐性となる特性も有する。
【背景技術】
【0002】
プレニルキノン類は、特にプラストキノン類、トコフェロール類およびトコトリエノール類を含む、脂質親和性を有する化合物の大きな群である。植物中で、プレニルキノン類は、ホモゲンチサート経路を介して合成される。
【0003】
最も良く知られているプレニルキノンはビタミンE、すなわちα−トコフェロールであり、ヒトまたは動物の食事の必須成分であり、特に、ビタミンEを天然には生成しないが栄養的に必要としている哺乳動物に必須である。ビタミンEの最も理解されている効果は、細胞膜脂質へのその抗酸化作用である(Epsteinら著、1966年、Radical Research第28巻:322〜335頁;Kamel−EldinおよびAppelqvist著、1996年、Lipids第31巻:671〜701頁)。
【0004】
ビタミンE以外に、ヒトおよび動物の食事において必須ではないがトコトリエノール類が、ビタミンEよりも著しい特に有利な抗酸化特性を有する(Kamatら著、1997年、Mol.Cell.Biochem.第170巻、131〜137頁)。これらの化合物は、特に、細胞をフリーラジカルから保護すること、および心臓血管疾患または癌の発生を防ぐことも知られている(Packerら著、2001年、J.Nutr.第131(2)巻:3698〜3738頁)。さらに、トコトリエノール類は、エストロゲン受容体の増殖の阻害による抗癌活性、すなわち、トコフェロール類が持っていない活性を示す(Guthrieら著、1997頁、J.Nutr.第127巻:544〜548頁)。これらは、トコフェロール類よりもかなり優れた低コレステロール血症活性も示し(Pearceら著、1992年、J.Med.Chem.第35巻、3595〜3606頁;Qureshiら著、2001年、J.Nutr.第131巻:2606〜2618頁)、これにより、動脈硬化を抑えることがより可能になっている。
【0005】
プラストキノン類は、ヒトまたは動物の健康における役割が知られていないが、植物においては必須の役割を果たす。これらの分子は、葉緑素膜中に存在し、それらの機能は、光合成反応中の電子移動である(Grumbach著、1984年、Structure Function and Metabolism of plant lipids、SiegenthalerおよびEichenberger編)。
【0006】
さらに、プレニルキノン類の量の増加が、植物に、酸化的ストレス、特に、冷気、乾燥または強度の光に対する、より優れた抵抗性を付与する。
【0007】
植物および光合成性生物において、通常、ホモゲンチサートがプレニルキノン類の芳香族前駆体を構成する。ホモゲンチサートは、p−ヒドロキシフェニルピルベートジオキシゲナーゼ酵素(以下、HPPDと称する)の産物である。大部分の生物において、HPPDは、芳香族アミノ酸チロシンの異化分解経路に関連する酵素である(Goodwin著、1972年、Tyrosine Metabolism:The biochemical、physiological and clinical significance of p−hydroxyphenylpyruvate oxygenase、Goodwin B.L.編、Oxford University press、1〜94)。HPPDは、チロシン分解産物であるp−ヒドロキシフェニルピルベート(HPP)のホモゲンチサートへの転化反応を触媒する。
【0008】
大部分の植物は、アロゲナートを介してチロシンを合成する(AbouZeidら著、1995年、Applied Env Microb第41巻:1298〜1302頁;Bonnerら著、1995年、Plant Cells Physiol.第36巻、1013〜1022頁;Byngら著、1981年、Phytochemistry第6巻:1289〜1292頁;ConnelyおよびConn著、1986年、Z.Naturforsch第41c:69〜78頁;Gainesら著、1982年、Plants第156巻:233〜240頁)。これらの植物において、HPPは、チロシンの分解からのみ誘導される。一方、酵母Saccharomyces cerevisiaeまたは細菌Escherichia coli(大腸菌)のような生物において、HPPはチロシン前駆体であり、プレフェナートをHPPに転化するプレフェナート脱水素酵素(以下、PDHと呼ぶ)の作用により合成される(Lingensら著、1967年、European J.Biochem第1巻:363〜374頁;SampathkumarおよびMorrisson著、1982年、Bioch Biophys Acta第701巻:204〜211頁)。従って、これらの生物において、HPPの産生は芳香族アミノ酸生合成経路(シキマート経路)に直接結びつき、チロシン分解経路には結びつかない(図1参照)。
【0009】
植物によるプレニルキノン類の生合成を増加させるために、本特許出願の発明者は、前記前駆体の生合成をPDH酵素の過発現による「シキマート」経路に結びつけることにより、これらの植物の細胞内へのHPP前駆体の流入を増加させようとした。予想される効果は、HPP前駆体のより大きな流れであり、全体としてプレニルキノン生合成を増加させるはずである。
【0010】
PDH酵素をコードする遺伝子による植物の形質転換が、前記植物によるプレニルキノン類の産生の増加を可能にすることが実際上注目された。この増加は、PDH酵素をコードする遺伝子で形質転換された植物が、HPPD酵素も過発現する植物である場合、非常に著しい。
【0011】
PDH酵素をコードする遺伝子による植物の形質転換が、HPPD阻害剤への前記植物の耐性の増加を可能にすることも注目された。この耐性の増加は、PDH酵素をコードする遺伝子で形質転換された植物が、HPPD酵素も過発現する植物である場合、非常に著しい。
【0012】
この数年間において、この酵素が新規科の「脱色性」除草剤の標的であることが示された後、HPPDへの興味が著しく増加した。その標的がHPPDであるそのような除草剤は、特にイソオキサゾール(欧州特許第418 175号、欧州特許第470 856号、欧州特許487 352号、欧州特許第527 036号、欧州特許560 482号、欧州特許682 659号、米国特許第5,424,276号)、特に、イソキサフルトール、トウモロコシ用の選択的除草剤、ジケトニトリル(欧州特許第496 630号、欧州特許第496 631号)、特に、2−シアノ−3−シクロプロピル−1−(2−SOCH−4−CFフェニル)プロパン−1,3−ジオンおよび2−シアノ−3−シクロプロピル−1−(2−SOCH−4−2,3−ジクロロフェニル)プロパン−1,3−ジオン、トリケトン(欧州特許第625 505号、欧州特許第625 508号、米国特許第5,506,195号)、特にスルコトリオンまたはメソトリオン、あるいはピラゾリネートである。
【0013】
その標的が植物の生命を維持する代謝経路に含まれる酵素である除草剤の利点の一つは、離れた系統発生的由来の植物に対する広い活性範囲である。しかしながら、そのような除草剤は、不必要な植物すなわち「雑草」を除去するために作物に適用されたときに、栽培植物にも作用するという大きな欠点も有する。この欠点は、前記除草剤に耐性のある栽培植物を用いることにより克服することができる。そのような植物は、通常、それらの組織中で酵素を過発現するように前記除草剤への抵抗性のための酵素をコードする遺伝子をそのゲノム中に導入することによる遺伝子工学により得られる。
【0014】
今までに、除草剤に耐性の植物を作るために、遺伝子工学を用いる3つの主要な手法が用いられてきた。第1の手法は、解毒性酵素をコードする遺伝子で植物を形質転換することにより除草剤を解毒することにある。この酵素は、除草剤またはその活性代謝産物を、非毒性分解産物、例えば、ブロモキシニルまたはベースト(baste)への耐性用の酵素に転化する(欧州特許第242 236号、欧州特許第337 899号)。第2の手法は、除草剤またはその活性代謝産物への感受性が低くなるように突然変異された標的酵素、例えば、グリホサート耐性酵素をコードする遺伝子で植物を形質転換することにある(欧州特許第293 356号;Padgetteら著、1991年、J.Biol.Chem.第266巻:33頁)。第3の手法は、植物中で、大量の、可能なら植物に入る除草剤の量よりもかなり多い量の標的酵素を産生するように、感受性標的酵素を過発現することにある。この手法は、その阻害剤の存在にも拘わらず、機能性酵素の充分な水準を維持することを可能にする。
【0015】
この第3の手法を実行し、HPPD阻害剤に耐性の植物を得ることを可能にした(WO96/38567)。さらに、感受性(非突然変異)標的酵素を過発現させるこの単純な手法を初めてうまく用いて、除草剤への作物学的水準での耐性を植物に付与した。
【0016】
大部分のHPPD阻害除草剤が、ゆっくりかつ実質的に不可逆的に結合する基質に関して競合的阻害剤であることも知られている(Ellisら著、1996年、Chem.Res.Toxicol.第9巻:24〜27頁;Vivianiら著、1998年、Pestic.Biochem.Physiol.第62巻:125〜134頁)。従って、それらの作用形式は、その結合部位に選択的に結合することによりHPPと競合することにある。この結合の結果は、ホモゲンチサート合成を細胞が停止することである。
【0017】
PDH酵素の過発現によるHPPD基質HPPの流入の増加を利用する本発明は、除草剤耐性植物、特に、HPPD阻害除草剤に耐性である植物を得るための第4の可能な手法を構成するようである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許第418175号明細書
【特許文献2】欧州特許第470856号明細書
【特許文献3】欧州特許487352号明細書
【特許文献4】欧州特許第527036号明細書
【特許文献5】欧州特許560482号明細書
【特許文献6】欧州特許682659号明細書
【特許文献7】米国特許第5424276号明細書
【特許文献8】欧州特許第496630号明細書
【特許文献9】欧州特許第496631号明細書
【特許文献10】欧州特許第625505号明細書
【特許文献11】欧州特許第625508号明細書
【特許文献12】米国特許第5506195号明細書
【特許文献13】欧州特許第242236号明細書
【特許文献14】欧州特許第337899号明細書
【特許文献15】欧州特許第293356号明細書
【特許文献16】国際公開第96/38567号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Epsteinら著、1966年、Radical Research第28巻:322〜335頁
【非特許文献2】Kamel−EldinおよびAppelqvist著、1996年、Lipids第31巻:671〜701頁
【非特許文献3】Kamatら著、1997年、Mol.Cell.Biochem.第170巻、131〜137頁
【非特許文献4】Packerら著、2001年、J.Nutr.第131(2)巻:3698〜3738頁)
【非特許文献5】Guthrieら著、1997頁、J.Nutr.第127巻:544〜548頁
【非特許文献6】Pearceら著、1992年、J.Med.Chem.第35巻、3595〜3606頁
【非特許文献7】Qureshiら著、2001年、J.Nutr.第131巻:2606〜2618頁)
【非特許文献8】Grumbach著、1984年、Structure Function and Metabolism of plant lipids、SiegenthalerおよびEichenberger編
【非特許文献9】Goodwin著、1972年、Tyrosine Metabolism:The biochemical、physiological and clinical significance of p−hydroxyphenylpyruvate oxygenase、Goodwin B.L.編、Oxford University press、1〜94)
【非特許文献10】AbouZeidら著、1995年、Applied Env Microb第41巻:1298〜1302頁
【非特許文献11】Bonnerら著、1995年、Plant Cells Physiol.第36巻、1013〜1022頁
【非特許文献12】Byngら著、1981年、Phytochemistry第6巻:1289〜1292頁
【非特許文献13】ConnelyおよびConn著、1986年、Z.Naturforsch第41c:69〜78頁
【非特許文献14】Gainesら著、1982年、Plants第156巻:233〜240頁
【非特許文献15】Lingensら著、1967年、European J.Biochem第1巻:363〜374頁
【非特許文献16】SampathkumarおよびMorrisson著、1982年、Bioch Biophys Acta第701巻:204〜211頁
【非特許文献17】Padgetteら著、1991年、J.Biol.Chem.第266巻:33頁
【非特許文献18】Ellisら著、1996年、Chem.Res.Toxicol.第9巻:24〜27頁
【非特許文献19】Vivianiら著、1998年、Pestic.Biochem.Physiol.第62巻:125〜134頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
従って、本発明は、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
を含むことを特徴とする形質転換植物に関する。
【0021】
特定の実施態様によれば、本発明は、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
を含み、植物中で機能的でありフィチル/プレニルトランスフェラーゼ酵素を過発現させる遺伝子は除くことを特徴とする形質転換植物に関する。
【0022】
もう一つの特定の実施態様によれば、本発明は、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、および
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
で形質転換された植物からなることを特徴とする形質転換植物に関する。
【0023】
本発明の特定の実施態様によれば、本発明の形質転換植物は形質転換植物細胞により代表され得る。
【0024】
「形質転換植物」または「形質転換植物細胞」という用語は、本発明によれば、形質転換植物または任意の他の生物に由来し得る少なくとも一つの導入遺伝子をそのゲノム中に安定して取り込んだ植物または植物細胞を意味することを関心のある。好ましくは、本発明による導入遺伝子は、形質転換植物以外の少なくとも一つの生物に由来する要素を含むキメラ遺伝子により代表される。特に、本発明による導入遺伝子は、他の要素のうち、異なる生物に由来する少なくとも一つのプロモーター、コード配列、およびターミネーターを含んでよく、前記生物も形質転換植物と異なる。
【0025】
「植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子」という表現において、「PDH」という用語は、プレフェナートをHPPに転化するPDH活性を示す任意の天然または突然変異したPDH酵素を意味するものと解釈されるべきである。特に、前記PDH酵素は、任意の型の生物に由来し得る。PDH活性を有する酵素は、プレフェナート基質の量の減少の測定または、酵素的反応から誘導される産物、すなわちHPPまたは補因子NADHまたはNADPHの一方の蓄積の測定を可能にする任意の方法により確認することができる。特に、PDH活性は、実施例2に記載の方法により測定することができる。
【0026】
PDH酵素をコードしている多くの遺伝子が文献に記載されており、その配列は、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/上で確認することができる。Mannhauptらが記載(1989年、Gene第85巻、303〜311頁)のような酵母Saccharomyces cerevisiae(受入番号S46037)、Bacillus属の細菌、特に、Hennerらが記載(1986年、Gene第49(1)巻、147〜152頁)のような種B.subtilis(受入番号P20692)、Escherichia属の細菌、特に、Hudsonらが記載(1984年、J.Mol.Biol.第180(4)巻、1023〜1051頁)のような種E.coli(受入番号KMECTD)、またはErwinia属の細菌、特に、Xiaらが記載(1992年、J.Gen.Microbiol.第138(7)巻、1309〜1316頁)のような種E.herbicola(受入番号S29934)のPDH酵素をコードする遺伝子が特に知られている。
【0027】
「植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子」という表現において、「HPPD」という用語は、HPPをホモゲンチサートに転化するHPPD活性を示す任意の天然、突然変異またはキメラHPPD酵素を意味するものと解釈されるべきである。HPPDの酵素活性は、HPP基質の量の減少の測定または、酵素反応から誘導される産物、すなわちホモゲンチサートの蓄積の測定を可能にする任意の方法により測定することができる。特に、実施例1およびGarcialらの文献(1997年、Biochem.J.第325巻、761〜769頁)またはGarcialらの文献(1999年、Plant Physiol.第119巻、1507〜1516頁)に記載の方法によりHPPD活性を測定することができる。
【0028】
特に、前記HPPD酵素は、任意の型の生物に由来し得る。HPPD酵素をコードする多くの遺伝子、特に、Pseudomonas(Ruetschiら著、1992年、Eur.J.Biochem.第205巻、459〜466頁、WO96/38567)のような細菌の、Arabidopsis(WO96/38567、遺伝子バンク AF047834)またはニンジン(WO96/38567、遺伝子バンク 87257)のような植物の、Coccicoides(遺伝子バンク COITRP)の、またはマウスもしくはブタのような哺乳動物の遺伝子が文献に記載されている。
【0029】
本発明によれば、「突然変異したHPPD」という用語は、天然HPPDに関して少なくとも一つの突然変異を有すると共に、対応する天然HPPDよりもHPPD阻害性除草剤への耐性がより大きな特性を有するHPPDを意味することを意図している。この突然変異したHPPDは、特許出願WO99/24585に記載のように、そのC末端部分において突然変異したHPPDであることが有利である。好ましくは、突然変異したHPPDは、特許出願WO99/24585に記載のように、突然変異W336を含む。
【0030】
「キメラHPPD」という用語は、種々のHPPDに由来する要素を含むHPPDを意味することを意図している。そのようなキメラHPPDは、特に、特許出願WO99/24586に記載されている。
【0031】
このHPPDは、Pseudomonas fluoescens(WO96/38567)またはArabidopsis thaliana(WO96/38567)からのHPPDであるのが有利である。
【0032】
「植物中で機能的でありフィチル/プレニルトランスフェラーゼ酵素を過発現させる遺伝子」という表現において、「フィチル/プレニルトランスフェラーゼ」という用語は、特許出願WO02/089561に記載のようなフィチル/プレニルトランスフェラーゼ酵素を意味すると解されるべきである。特に、前記「植物中で機能的でありフィチル/プレニルトランスフェラーゼ酵素を過発現させる遺伝子」は、Synechocystis slr1736遺伝子(ウェブサイトhttp://www.kazusa.or.jp/cyanobase上のCyanobaseに記載の配列)およびArabidopsis ATPT2遺伝子(Smithら著、1997年、Plant J.第11巻、83〜92頁)から選択される遺伝子からなる。
【0033】
本発明による形質転換された植物または植物細胞は、非形質転換植物よりも多くの量のプレニルキノン類を産生する。好ましくは、本発明による形質転換された植物または植物細胞は、植物中で機能的でありPDHまたはHPPD酵素を過発現させる遺伝子の一つのみで形質転換された植物よりも多くの量のプレニルキノン類を産生する。好ましくは、本発明による形質転換された植物または植物細胞により産生されるプレニルキノン類は、トコフェロール類および/またはトコトリエノール類および/またはプラストキノン類である。トコフェロール類、トコトリエノール類およびプラストキノン類の量を測定するための多くの方法が知られており、当業者が利用できる。例えば、トコフェロール類、トコトリエノール類およびプラストキノン類は、Frazerらの方法(2000年、Plant J.第24巻:551〜558頁)により測定することができる。本発明によれば、「より多くの量」という用語は、好ましくは少なくとも2倍多い、好ましくは少なくとも5倍多い、好ましくは少なくとも10倍多い、好ましくは少なくとも50倍多い、好ましくは少なくとも100倍多い、好ましくは少なくとも500倍多い、および好ましくは少なくとも1000倍多い量を意味すると解される。
【0034】
本発明による形質転換された植物は、HPPD阻害剤に耐性である効果も有する。
【0035】
「HPPD阻害剤に耐性の形質転換された植物」という用語は、形質転換されていない同じ植物に通常毒性であるHPPD阻害剤の投与量(dose)に関して耐性である特徴を少なくとも示す前述のような形質転換植物を意味すると意図される。形質転換されていない植物に通常毒性であるHPPD阻害剤の投与量は、使用するHPPD阻害剤に、および前記阻害剤を適用する植物に、および前記植物に適用する段階にも依存する。しかしながら、当業者は、HPPD阻害剤について通常そうであるように、植物への「脱色」効果により先行される可能性のある、前記阻害剤の適用からある日数後に死ぬことになる前記阻害剤の致死効果に、または、植物の成長低下という効果に、前記阻害剤の毒性が対応し得るという知識においてそのような投与量を決めることができる。好ましくは、本発明によるHPPD阻害剤に耐性の形質転換された植物は、植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子のみで形質転換された同じ植物に通常毒性であるHPPD阻害剤の投与量に関して耐性である。
【0036】
「HPPD阻害剤」という用語は、HPPをホモゲンチサートに転化させるその天然の酵素的活性を一時的にまたは永続的に阻害するように植物HPPD酵素に結合することができる天然または人工由来の任意の化合物を意味すると意図される。この特性故に、本発明のHPPD阻害剤は、それが適用される植物の死または成長阻害を誘発し、前記死は、通常、前記植物の「脱色」の後に生じる。
【0037】
HPPD阻害剤の例として、イソオキサゾール(欧州特許第418 175号、欧州特許第470 856号、欧州特許第487 352号、欧州特許第527 036号、欧州特許第560 482号、欧州特許第682 659号、米国特許第5,424,276号)、特に、イソキサフルトール、トウモロコシ用の選択的除草剤、ジケトニトリル類(以下、DKNsと呼び、欧州特許第496 630号、欧州特許第496 631号に記載)、特に、2−シアノ−3−シクロプロピル−1−(2−SOCH−4−CFフェニル)プロパン−1,3−ジオンおよび2−シアノ−3−シクロプロピル−1−(2−SOCH−4−2,3−ジクロロフェニル)プロパン−1,3−ジオン、トリケトン類(欧州特許第625 505号、欧州特許第625 508号、米国特許第5,506,195号)、特にスルコトリオンまたはメソトリオン、あるいはピラゾリネートを挙げることができる。
【0038】
本発明によれば、「植物中で機能的である遺伝子」という表現は、植物中で機能することができる遺伝子を意味すると意図される。植物中で機能することができる遺伝子は、前記植物の少なくとも一つの組織中でその遺伝子がコードする蛋白を発現することができる遺伝子である。特に、本発明による植物中で機能的である遺伝子は、PDHおよびHPPD酵素を過発現させ得る。蛋白の過発現は、形質転換されていない同じ植物中におけるよりも高い水準での形質転換植物の組織中でのこの蛋白の過発現を意味し、この水準は、前記植物の同一の発育段階において測定される。好ましくは、本発明による植物中で機能的な遺伝子は、それが導入される植物以外の生物に由来する要素を含み得るキメラ遺伝子である。
【0039】
本発明による植物中で機能的である遺伝子は、好ましくは、少なくとも、互いに機能的に結合している、植物中で機能的であるプロモーター、PDH酵素および/またはHPPD酵素をコードする配列、およびこの同じ植物中で機能的であるターミネーター要素を含むキメラ遺伝子である。キメラ遺伝子が含み得る種々の要素は、第1に、蛋白の転写、翻訳および成熟用の制御要素、例えば、プロモーター、シグナルペプチドまたはトランジットペプチドをコードする配列、またはポリアデニル化シグナルを構成するターミネーター要素であり、第2に、蛋白をコードする配列である。「互いに機能的に結合」という発現は、その機能が調整されてコード配列を発現させるように、キメラ遺伝子の前記要素が互いに結合していることを意味する。例えば、プロモーターは、コード配列の発現を提供することができる場合、コード配列に機能的に結合される。本発明によるキメラ遺伝子およびその種々の要素のアセンブリの構築は、当業者によく知られている技術、特に、Sambrookらの文献(1989年、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Nolan C.編、ニューヨーク:Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の技術を用いて行うことができる。キメラ遺伝子を構成する制御要素の選択は、それらがその中で機能すべき植物に本質的に依存し、当業者は、所定の植物中で機能的である制御要素を選択することができる。
【0040】
本発明によるキメラ遺伝子が含み得るプロモーターは、構成的に、誘発的に、空間的にまたは時間的に制御することができる。
【0041】
本発明のキメラ遺伝子において用いることができる構成的プロモーターのうち、例えば、オクトピンシンターゼ遺伝子またはノパリンシンターゼ遺伝子のプロモーター(Sandersら著、1987年、Nucleic Acids Res.第15巻、1543〜1548頁)のような細菌プロモーター、カリフラワーモザイクウイルスの19Sまたは35S RNAの転写を制御する遺伝子のプロモーター(CaMV;Lawtonら著、1987年、Plant Mol.Biol.第9巻、315〜324頁;Odellら著、1985年、Nature第313頁、810〜812頁)のようなウイルスプロモーター、カッサバ葉脈モザイクウイルスのプロモーター(CsVMV;特許出願WO97/48819に記載)を挙げることができる。植物由来のプロモーターのうち、リブロース−ビスカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(RuBisCo)小サブユニット遺伝子のプロモーター、欧州特許第0 507 698号に記載のようなヒストン遺伝子のプロモーター、またはイネアクチン遺伝子のプロモーター(Wangら著、1992年、Mol.Cell.Biol.第12(8)巻:3399〜3406頁;米国特許第5,641,876号)が挙げられる。
【0042】
本発明のキメラ遺伝子において用いることができる誘発性プロモーターのうち、例えば、オーキシン結合蛋白をコードする遺伝子のプロモーター(Schwobら著、1993年、Plant J.第4(3)巻:423〜432頁)、UDP−グルコースフラボノイドグリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子のプロモーター(Ralstonら著、1988年、Genet.第119(1)巻:185〜197頁)、MIP蛋白分解酵素阻害剤をコードする遺伝子のプロモーター(Corderoら著、1994年、Plant J.第6(2)巻、141〜150頁)、またはグリセルアルデヒド−3−ホスフェート脱水素酵素をコードする遺伝子のプロモーター(Martinezら著、1989年、J.Mol.Biol.第208(4)巻、551〜565頁;Quigleyら著、1989年、J.Mol.Evol.第29(5)巻、412〜421頁;Kohlerら著、1995年、Plant Mol.Biol.第29(6)巻、1293〜1298年)を挙げることができる。
【0043】
本発明のキメラ遺伝子において用いることができる組織特異的プロモーターのうち、例えば特許出願WO00/29594に記載のような根特異的プロモーター、特許出願WO98/22593、WO99/15679またはWO99/43818に記載のような花特異的プロモーター、果実特異的プロモーター、特に、特許出願WO91/13993、WO92/17580、WO98/45460、WO98/45461またはWO99/16890に記載のような種子特異的プロモーターを挙げることができる。
【0044】
本発明のキメラ遺伝子で用いることができるターミネーター要素のうち、例えば、Agrobacterium tumefaciens由来のノパリンシンターゼをコードする遺伝子のnosターミネーター要素(Bevanら著、1983年、Nucleic Acids Res.第11(2)巻、369〜385頁)または欧州特許出願第0 633 317号に記載のようなヒストン遺伝子のターミネーター要素を挙げることができる。
【0045】
キメラ遺伝子は、シグナルペプチドまたはトランジットペプチドをコードする細胞下(subcellular)標的配列も含むことができる。そのような、HPPD酵素またはPDH酵素をコードする配列の上流または下流に位置する配列は、前記HPPDまたはPDH酵素を、特異的に、宿主生物の細胞区画内に導くことを可能にする。例えば、キメラ遺伝子は、ミトコンドリア、プラスト、小胞体または小胞のような細胞質の特定の区画にHPPDおよび/またはPDH酵素を導くために、シグナルペプチドまたはトランジットペプチドをコードする配列を含むことができる。
【0046】
そのような配列の役割が、特に、大部分が植物細胞の種々の区画中での蛋白の輸送に関連するレビューPlant Molecular Biology(1998年)の38版に記載されている(植物細胞中の小胞への蛋白の選別;127〜144頁、核孔複合体;145〜162頁、葉緑体外皮膜中へのおよびそれを通過する蛋白移動;91〜207頁;葉緑体中のチラコイド蛋白の標的用の複数経路;209〜221頁;植物内へのミトコンドリア蛋白輸送;311〜338頁)。
【0047】
一つの実施態様によれば、トランジットペプチドは、葉緑体標的またはミトコンドリア標的シグナルであり得、続いて、葉緑体またはミトコンドリア内で開裂する。好ましくは、本発明のキメラ遺伝子は、HPPDおよび/またはPDH酵素を葉緑体中に導くトランジットペプチドをコードする細胞下標的配列を含む。
【0048】
トランジットペプチドは、一重または二重であってよい。二重トランジットペプチドは、中間配列により任意に分離される。例えば、本発明による好ましいトランジットペプチドは、転写の方向において、色素体中に位置する酵素をコードする植物遺伝子のトランジットペプチドをコードする配列、色素体中に位置する酵素をコードする植物遺伝子の成熟N−末端部の配列の一部、および、続いて、色素体中に位置する酵素をコードする植物遺伝子の第2のトランジットペプチドをコードする配列を含む。そのような二重トランジットペプチドが、例えば、欧州特許出願第0 508 909号に記載されている。
【0049】
本発明によれば、キメラ遺伝子は、転写活性化因子(エンハンサー)、例えば、特許出願WO87/07644に記載のタバコモザイクウイルス(TMV)の、CarringtonおよびFreed(1990年、J.Virol.第64(4)巻:1590〜7頁)に記載されているタバコエッチウイルス(TEV)の、またはゴマノハグサモザイクウイルス(Figwort Mosaic Virus、米国特許第5,994,521号)の転写活性化因子のような、プロモーターとコード配列との間に位置する、他の制御配列も含むことができる。本発明によるキメラ遺伝子は、イントロン、特に、単子葉植物中での遺伝子の発現を促進するイントロン、例えば、特許出願WO99/34005に記載のイネアクチン遺伝子のイントロン1またはトウモロコシイントロンadh1も含むことができる。
【0050】
本発明による植物および植物細胞は、形質転換された植物および植物細胞である。本発明による形質転換された植物および植物細胞を得るために、当業者は、植物を形質転換する多くの既知の方法の一つを用いることができる。
【0051】
好ましくは、本発明による植物および植物細胞は、本発明による植物中で機能的でありHPPDまたはPDHを過発現させる遺伝子を含むクローニング、発現および/または形質転換ベクターで形質転換される。
【0052】
本発明の実施に有用であり得るベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウイルスである。好ましくは、本発明による植物細胞または植物を形質転換するためのベクターはプラスミドである。通常、ベクターの主な性質は、それ自体を維持する性能および、特に複製開始点の存在故に植物細胞中で自己複製する性能であるはずである。宿主生物の安定な形質転換を得ることを目的として、ベクターをゲノム中に取り込むこともできる。そのようなベクターの選択および、本発明による遺伝子を前記ベクター中に挿入するための技術が、Sambrookらの文献(1989年、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Nolan C.編、ニューヨーク:Cold Spring Harbor Laboratory Press)に広く記載されており、当業者の通常の知識の一部である。本発明で用いられるベクターは、本発明による遺伝子に加えて、選択マーカーをコードする別の遺伝子も含むのが有利である。選択マーカーは、効果的に形質転換された宿主生物、すなわち、ベクターを取り込んだ生物の選択を可能にする。用いることができる選択マーカーのうち、抗生物質に抵抗性を得るための遺伝子を含むマーカー、例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(Gritzら著、1983年、Gene第25巻:179〜188頁)のマーカーを挙げることができるが、除草剤耐性遺伝子、例えば、ビアラホス(bialaphos)への抵抗性を得るためのbar遺伝子(Whiteら著、1990年、Nucleic Acid Res.第18(4)巻:1062頁)、グリホサートへの抵抗性を得るためのEPSPS遺伝子(米国特許第5,188,642号)、あるいはイソオキサゾールへの抵抗性を得るためのHPPD遺伝子(WO96/38567)を含むマーカーも挙げられる。GUS酵素のような容易に確認できる酵素をコードする遺伝子、または形質転換細胞中での顔料の産生を制御する酵素または顔料をコードする遺伝子も挙げられる。そのような選択マーカー遺伝子が、特に、特許出願WO91/02071、WO95/06128、WO96/38567およびWO97/04103に記載されている。
【0053】
本発明による形質転換植物を得るために用いることができる形質転換方法のうち一つは、ポリエチレングリコール(PEG)および前述のベクターの存在下に形質転換させるべき植物の細胞または組織を配置することである(ChangおよびCohenら著、1979年、Mol.Gen.Genet.第168(1)巻、111〜115頁;MercenierおよびChassy著、1988年、Biochimie第70(4)巻、503〜517頁)。電気穿孔は、形質転換させるべき細胞または組織とベクターを電場に付することからなるもう一つの方法である(AndreasonおよびEvans、1988年、Biotechniques第6(7)巻、650〜660頁;ShigekawaおよびDower著、1989年、Aust.J.Biotechnol.第3(1)巻、56〜62頁)。もう一つの方法は、ベクターを、マイクロインジェクションにより細胞または組織に直接注入することからなる(GordonおよびRuddle著、1985年、Gene第33(2)巻、121〜136頁)。「バイオリスティック」法を有利に用いることができる。これは、ベクターがその上に吸着された粒子を、細胞または組織に衝突させることからなる(Bruceら著、1989年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第86(24)巻、9692〜9696頁;Kleinら著、1992年、Biotechnology、第10(3)巻、286〜291頁;米国特許第4,945,050号)。好ましくは、植物細胞または組織の形質転換は、Agrobacterium属の細菌を用いて、好ましくは、前記植物の細胞または組織にA.tumefaciens(Knopf、1979年、Subcell.Biochem.第6巻、143〜173頁;Shawら著、1983年、Gene、第23(3)巻:315〜330頁)またはA.rhizogenes(BevanおよびChilton著、1982年、Annu.Rev.Genet.、第16巻:357〜384頁;TepferおよびCasse−Delbart著、1987年、Microbiol.Sci.、第4(1)巻、24〜28頁)を注入することにより行うことができる。好ましくは、Agrobacterium tumefaciensでの植物細胞または組織の形質転換は、Ishidaらが記載のプロトコール(1996年、Nat.Biotechnol.、第14(6)巻、745〜750頁)に従って行われる。当業者は、形質転換すべき植物の性質に従った適切な方法を選択する。
【0054】
本発明の主題は、本発明による植物を産生する方法でもある。この方法は、前述のように形質転換された植物細胞から形質転換植物を再生することにある。再生は、植物の性質に依存する任意の適切な方法により得られる。
【0055】
本発明は、これらの形質転換された植物の一部および、これらの植物の子孫も含む。「これらの植物の一部」という用語は、地面の上であっても下であっても、これらの植物の任意の器官を意味すると意図される。地面の上の器官は、茎、葉、および雄および雌の生殖器官を含む花である。地面の下の器官は、主に根であるが、塊茎でもあり得る。「子孫」という用語は、主に、これらの植物の互いの生殖により生じる胚芽を含む種子である。拡大解釈では、「子孫」という用語は、親の少なくとも一つが本発明による形質転換植物である交雑から誘導される各新しい世代において形成される全ての種子に適用される。子孫は、前記形質転換植物の植物性増殖により得ることもできる。本発明による種子は、殺真菌性、除草性、殺虫性、殺線虫性、殺菌性または殺ウイルス性から選択される活性を有する少なくとも一つの活性産物を含む農薬組成物で被覆することができる。
【0056】
本発明による形質転換植物は、関心のある蛋白をコードする少なくとも一つの他の遺伝子を含むことができ、この他の遺伝子も、植物中で機能的でありPDHおよび/またはHPPDを過発現させる遺伝子と同時、その前または後に植物のゲノム中に人工的に導入される。関心のある蛋白をコードする遺伝子のうち、除草剤への耐性を得るためのもう一つの酵素をコードする遺伝子、例えば、ビアラホスへの耐性を得るためのbar遺伝子(Whiteら著、NAR、第18巻:1062頁、1990年)をコードする遺伝子、またはグリホサートへの耐性を得るためのEPSPS酵素(米国特許第5,188,642号、WO97/04103)をコードする遺伝子を挙げることができる。殺虫性毒素をコードする遺伝子、例えば、Bacillus thuringiensis細菌のδ−内毒素をコードする遺伝子も挙げることができる(例えば、国際特許出願WO98/40490)。疾患への抵抗性を得るための他の遺伝子、例えば、欧州特許出願第0 531 498号または米国特許第5,866,778号に記載のようなオキサラートオキシダーゼ酵素をコードする遺伝子もこれらの植物中に含まれてよく、特許出願WO97/30082、WO99/24594、WO99/02717、WO99/53053およびWO99/91089に記載のような別の抗菌および/または抗真菌性ペプチドをコードする遺伝子も挙げられる。植物の栽培学的特徴をコードする遺伝子、特に、米国特許第5,552,306号、5,614,313および特許出願WO98/46763およびWO98/46764に記載のようなδ−6不飽和化酵素をコードする遺伝子または、特許出願WO00/01833およびWO00/36127に記載のようなセリンアセチルトランスフェラーゼ(SAT)酵素をコードする遺伝子も挙げることができる。
【0057】
関心のある蛋白をコードするさらなる遺伝子を、ベクターにより取り込むことができる。この場合、ベクターは、PDH酵素および/またはHPPD酵素をコードする本発明の遺伝子、およびもう一つのペプチドまたは関心のある蛋白をコードする少なくとも一つの遺伝子を含む。
【0058】
これらは、前述の通常の技術に従って、前記さらなる遺伝子を含む少なくとも一つの他のベクターにより取り込むこともできる。
【0059】
本発明による植物は、一方が、本発明によるPDH酵素および/またはHPPD酵素をコードする遺伝子を有し、他方が、少なくとも一つの他の関心のあるペプチドまたは蛋白をコードするもう一つの遺伝子を有する、植物の交雑により得ることもできる。
【0060】
本発明により形質転換された植物は、単子葉植物または双子葉植物であってよい。好ましくは、これらの植物は、栽培学的に重要な植物である。単子葉植物は小麦、トウモロコシまたはイネであるのが良い。双子葉植物はナタネ、ダイズ、タバコまたは綿花であるのが良い。
【0061】
本発明は、本発明の形質転換植物を栽培する方法であって、前記植物の栽培に適した耕地(field)の領域に前記形質転換植物の種子を播くこと、前記種子または前記形質転換植物に実質的に影響を与えることなく前記耕地の領域にHPPD阻害剤を含む少なくとも一種の除草剤組成物を適用すること、次に、所望の成熟度に達したときに栽培植物を採取すること、および任意に、採取した植物から種子を分離することから構成されることを特徴とする方法にも関する。
【0062】
本発明は、HPPD阻害剤への耐性を植物に与えるための方法であって、前記植物を、同時又は順次に、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
で形質転換することを特徴とする方法にも関する。
【0063】
本発明は、プレニルキノン類、特にトコフェロール類、トコトリエノール類および/またはプラストキノン類の産生のための、本発明による植物または植物細胞の使用にも関する。
【0064】
本発明は、植物中のプレニルキノン類の量を増加させる方法であって、前記植物を、同時又は順次に、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
で形質転換することを特徴とする方法にも関する。
【0065】
本発明は、プレニルキノン類を産生する方法であって、本発明による形質転換植物細胞または植物を、前記植物細胞または前記植物の成長および増殖に適した培養培地中で培養する工程を含むことを特徴とする方法にも関する。
【0066】
前記方法の特定の実施態様によれば、産生されたプレニルキノン類が好ましくは、ビタミンEに代表されるトコフェロール類である。
【0067】
前記方法の特定の実施態様によれば、産生されたプレニルキノン類は好ましくはトコトリエノール類である。
【0068】
本発明の特定の実施態様によれば、プレニルキノン類を産生するための前記方法は、前記形質転換植物細胞によりまたは第1の工程で培養された前記形質転換植物により産生された前記プレニルキノン類を抽出するその後の工程を含む。
【0069】
プレニルキノン類を産生するための前記方法を、本発明による形質転換植物細胞を用いて行う場合、前記植物細胞は、その生存および成長を促進する培養培地中で培養される。当業者は、前記植物細胞を最適に成長させるように前記培養培地の組成を決めることができる。例えば、植物細胞を培養するための方法および培地が、MurashigeおよびSkoogの文献(1962年、Physiol.Plant.第15巻:473〜497頁)およびGamborgらの文献(1968年、Exptl.Cell Research、第50巻:151〜159頁)に記載されている。
【0070】
さらに、本発明による形質転換植物細胞を用いて前記方法を行う場合、産生された前記プレニルキノン類は、培養培地中に分泌されてよいしまたは分泌されなくてもよい。前記プレニルキノン類が培養培地中に分泌される場合、前記方法の抽出工程の前に、前記植物細胞の除去により培養培地を回収する工程を行うことができる。前記植物細胞の除去により培養培地を回収するそのような工程は、液体画分に含まれている固形分を分離する任意の手段により行うことができる。特に、濾過および遠心分離は、この工程を行うための適切な手段である。
【0071】
プレニルキノン類が培養培地中に分泌されない場合、抽出工程は、培養された植物細胞の濃縮、単離された植物細胞の破壊、破壊された細胞抽出物の遠心分離および、その後の、前記プレニルキノン類を含む上澄みの回収からなる一連の工程により行うことができる。細胞破壊工程は、機械的粉砕(圧力差、超音波の作用、摩砕による)、酵素的溶解または浸透圧衝撃のような当業者に知られた技術を用いて行うことができ、前記技術は個々にまたは組み合わせて用いることができる。
【0072】
プレニルキノン類を産生するための前記方法を本発明による形質転換植物を用いて行う場合、前記植物は、その生存およびその成長に適した基質上で培養され、前記基質は天然または人工的であり得る。天然基質は、例えば、土または土の混合物であってよく、前記植物は、例えば培養チャンバー中のような制御条件下、例えば温室中のような半制御条件下、または例えば露出地面のような天然条件下で培養することができる。人工基質は、例えば、液体基質または寒天基質であってよく、その組成物は、本発明による植物の生存および成長を促進する。当業者は、前記植物を最適に成長させるように前記人工基質の組成を決めることができる。植物を培養するための基質の例として、栄養要素N(窒素)、P(リン)およびK(カリウム)を含む栄養溶液、またはこれらの媒体上に植物を成長させる任意の他の市販または調節栄養溶液を注いだ岩綿または蛭石のような培地を挙げることができる。本発明による植物を人工基質上で培養する場合、これらは、通常、培養チャンバー中で制御条件下に培養される。
【0073】
さらに、本発明による形質転換植物を用いて前記方法を行う場合、産生された前記プレニルキノン類は、通常、前記形質転換植物中に固定される。
【0074】
本発明による形質転換植物または前記植物の一部は、ヒトまたは動物の食事を意図した食物組成物中に直接用いて取り込む、または、それらが含むプレニルキノン類の抽出を行うことができる。前述のように、「植物の一部」という用語は、地面の上であっても地面の下であっても、これらの植物の任意の器官を意味すると意図される。地面の上の器官は、茎、葉、および雄および雌の生殖器官を含む花、ならびに種子でもある。地面の下の器官は、主に根であるが、塊茎でもあり得る。本発明の好ましい実施態様によれば、種子は、食用を意図した形質転換植物の一部である。
【0075】
本発明は、本発明による形質転換植物の種子も含み、この種子は、非形質転換植物の種子と比較してプレニルキノン類に富んでいる。さらに、本発明は、種子または本発明による形質転換植物の他の部分を含む食物組成物も含む。植物のこれらの部分、特に種子から産生された油も、本発明の主題である。
【0076】
形質転換植物中で産生されたプレニルキノン類を回収するために、培養された植物の粉砕、粉砕植物材料の濾過および/または遠心分離、および、その後の、前記プレニルキノン類を含む上澄みの回収からなる一連の工程により抽出工程を行うことができ、前記回収は、脂質化合物の抽出からなることができる。好ましくは、粉砕工程は、機械的粉砕(圧力差、超音波の作用、摩砕による)からなり、その後、酵素的溶解または浸透圧衝撃を行うことができる。
【0077】
本方法は、得られた植物細胞または植物の抽出物中に含まれるプレニルキノン類を精製する最終的工程を行うこともできる。前記プレニルキノン類の精製は、化合物を濃縮または分離する技術、特に、当業者に良く知られている微小濾過、限外濾過、電気泳動またはクロマトグラフィーの技術により行うことができる。精製されたプレニルキノン類を得るために、当業者は、前記プレニルキノン類を含む精製画分を確認するために前記プレニルキノン類を測定する方法を用いることができる。この方法によれば、産生された前記プレニルキノン類は、好ましくは50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または有利には100%の純度を有する。
【0078】
本発明の特定の実施態様によれば、本発明による形質転換植物は、植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子および植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子に加えて、植物中で機能的でありゲラニル−ゲラニルリダクターゼ(以下、GGRと呼ぶ)酵素を過発現させる遺伝子を含む。産生されたプレニルキノン類のうち、そのような植物は、トコトリエノール類およびプラストキノン類に比して、優先的に、トコフェロール類、特にビタミンEを産生する。
【0079】
GGR酵素は、ゲラニル−ゲラニルピロホスフェートからフィチルピロホスフェートへの転化を触媒する酵素である。特定の実施態様によれば、植物中で機能的でありGGRを過発現させる遺伝子は、植物GGRをコードする遺伝子のコード配列を含む。例えば、Kellerらの文献(1998年、Eur.J.Biochem.第251(1−2)巻:413〜417頁)に公開されているArabidopsisのGGRをコードする配列、または、受入番号AJ007789(タバコ)、AF069318(Mesembryanthenum crystallinum)、Y14004(Arabidopsis)およびQ55087(Synechocystis種PCC6803)により記載された配列を用いることができる。
【0080】
【表1】


【0081】
以下の実施例により、本発明を説明することができるが、その範囲を制限するものではない。
【0082】
これらの実施例で以下に記載の方法または工程の全てが、例示的なものであり、同じ結果を達成するために利用できる種々の方法のうちから選択される。この選択は、結果の質に影響を与えず、その結果、同じ結果を得るために当業者が適切な方法を用いることができる。特に、および実施例で別段の断りがない限り、用いられる全ての組換えDNA技術は、Sambrookらの文献(1989年、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Nolan C.編、Cold Spring Harbor Laboratory Press,ニューヨーク州)、SambrookおよびRusselの文献(2001、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,ニューヨーク州)、Ausubelらの文献(1994年、Current Protocols in Molecular Biology、Current protocols、米国、第1巻および2巻)、およびBrownの文献(1998年、Molecular Biology LabFax、第2版、Academic Press、英国)に記載の標準的プロトコールに従って行われる。植物分子生物学用の標準的材料および方法が、R.D.D.Croy(1993年、Plant Molecular Biology LabFax、BIOS Scientific Publications Ltd(英国)およびBlackwell Scientific Publications(英国))に記載されている。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)用の標準的材料および方法も、DieffenbachおよびDvekslerの文献(1995年、PCR Primer:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州)およびMcPhersonらの文献(2000、PCR−Basics:From background to bench,第1版、Springer Verlag、独国)に記載されている。
【実施例1】
【0083】
HPPD活性の測定
Garciaらの文献(1997年、Biochem.J.第325巻、761〜769頁)またはGarciaらの文献(1999年、Plant Physiol.第119巻、1507〜1516頁)に記載の方法によりHPPD活性を測定することができる。
【実施例2】
【0084】
プレフェナート脱水素酵素活性の測定
プレフェナート脱水素酵素活性は、50mMのTris−HCl、pH8.6、300μMのプレフェナートおよび1mMのNADまたはNADPを含み合計体積が200μlである溶液中でNADHまたはNADPHの形成を25℃で、340nmでの分光光度モニターにより測定する。
【実施例3】
【0085】
HPPD過発現キメラ遺伝子の構築
HPPD阻害性除草剤への抵抗性を植物に付与するためにHPPDを過発現させるキメラ遺伝子を構築した。
【0086】
これは、転写の方向において、欧州特許出願第0 507 698号に記載のような「二重ヒストン」プロモーター(PdH4)、CarringtonおよびFreedの文献(1990年;J.Virol.第64巻:1590〜1597頁)に記載のタバコエッチウイルス翻訳エンハンサー(TEV)配列、欧州特許出願第0 508 909号に記載のような最適化トランジットペプチド(OTP)をコードする配列、特許出願WO96/38567に記載のArabidopsis thaliana HPPD遺伝子のコード部分、次いで、Bevanらの文献(1983年、Nucleic Acids Res.第11(2)巻、369〜385頁)に記載のノパリンシンターゼ遺伝子のnosターミネーターを組み立てることから構成される。次に、アセンブリを、バイナリーベクターにクローニングし、以下の構造を有する。
【0087】
【化1】

【実施例4】
【0088】
PDH過発現キメラ遺伝子の構築
キメラ遺伝子過発現PDHの構築は、翻訳の方向において、欧州特許出願第0 507 698号に記載のような「二重ヒストン」プロモーター(PdH4)、CarringtonおよびFreedの文献(1990年;J.Virol.第64巻:1590〜1597頁)に記載のタバコエッチウイルス翻訳エンハンサー(TEV)配列、欧州特許出願第0 508 909号に記載のような最適化トランジットペプチド(OTP)をコードする配列、Mannhauptらの文献(1989年、Gene第85巻、303〜311頁)に記載の酵母PDH遺伝子のコード部分、およびBevanらの文献(1983年、Nucleic Acids Res.第11(2)巻、369〜385頁)に記載のノパリンシンターゼ遺伝子のnosターミネーターを組み立てることからなる。次に、アセンブリを、カナマイシン抵抗性遺伝子(NPTII)を含むバイナリーベクターpRD224にクローニングしてベクターpRD224−PDHを得る。このベクターは以下の構造を有する。
【0089】
【化2】

【0090】
次に、このバイナリーベクターを用いて、Agrobacterium菌株EHA105を形質転換し、Agrobacterium菌株EHA105−pRD 224−PDHを得た。このAgrobacterium菌株を用いて、タバコPBD6およびタバコPBD6−ARA9を形質転換した(タバコは、Arabidopsis thaliana HPPDを過発現させるキメラ遺伝子で形質転換)。
【0091】
形質転換された植物を、カナマイシン上で選択する。
【実施例5】
【0092】
PDHを過発現している発現カセットでのタバコPBD6−ARA9の形質転換
PBD6−ARA9タバコ植物は、実施例3に記載のようなキメラ遺伝子で形質転換したタバコ植物であり、特許出願WO96/38567に記載のA.thaliana HPPDを過発現している。PBD6−ARA9タバコ植物を得るための方法が、Garciaらの文献(1999年、Plant Physiol.第119巻、1507〜1516頁)に記載されている。実施例4に記載のようなPDHを過発現しているキメラ遺伝子で形質転換されたPBD6−ARA9系を、ARA9−PDH系と呼ぶ。
【0093】
5.1:形質転換
foliar disk技術(Horschら著、1985年、Science第227巻:1229〜1231頁)に従って、非発癌遺伝子であるAgrobacterium tumefaciens菌株EHA105−pRD224−PDHを用いて形質転換を行う。
【0094】
5.2:再生
30g/lのスクロースおよび350mg/lのセフォタキシムおよび200mg/mlのカナマイシンを含むMurashigeおよびSkoog(MS)基礎培地上で、外植葉からARA9−PDHタバコ植物を再生する。外植葉は、温室中の植物から得、foliar disk技術(Horschら著、1985年、Science第227巻:1229〜1231頁)に従って3つの連続工程で再生する:
・第1の工程は、30g/lのスクロースと0.05mg/lのナフチル酢酸(ANA)および2mg/lのベンジルアミノプリン(BAP)も含むMS基礎培地上で15日間、そして200mg/mlのカナマイシンで若枝を誘導することを含む。
【0095】
・この工程中に形成された緑若枝を、次に、30g/lのスクロースおよび200mg/mlのカナマイシンが加えられているが、ホルモンを含まないMS培地上で10日間培養することにより成長させる。
【0096】
・続いて成長した若枝を除去し、次に、塩、ビタミンおよび糖の半分の量、200mg/mlのカナマイシンを含み、ホルモンを含まないMS発根媒体上で培養する。約15日後、発根した若枝を温室内に移す。
【0097】
形質転換された植物の耐性を、ジケトニトリル(DKN)で処理した土の上に播種することにより調べる。
【実施例6】
【0098】
PBD6−ARA9およびARA9−PDHタバコ植物のHPPD阻害剤への耐性
6.1.ジケトニトリル(DKN)への耐性
13個のARA9−PDH系および、形質転換用の出発材料として用いたPBD6−ARA9系を、DKNの濃度が5、10および32ppmと増加するように蒔いた。
【0099】
DKNが5ppmの場合、全てのPBD6−ARA9およびARA9−PDH系は、特にそれら全てがA.thaliana HPPDを過発現するので、抵抗性である。DKNが10ppmの場合、親系PBD6−ARA9が完全に阻害される。一方、全てのARA9−PDH系は、阻害される一つ(ARA9−PDH4)のみを除いて、優れた抵抗性である。DKNが32ppmの場合、10ppmのDKNに抵抗性であったARA9−PDH系の全てが、抵抗性であり正常に成長する植物を与えるが、組換えHPPDのみを発現する親系PBD6−ARA9は完全に阻害される。最良の耐性を示す系は、ARA9−PDH14、ARA9−PDH18およびARA9−PDH24系である。
【0100】
6.2.スルコトリオンおよびメソトリオンへの耐性
HPPD阻害剤スルコトリオンおよびメソトリオンを用いて同じ実験を行った。ARA9−PDH18系は、3μMのメソトリオンおよび6μMのスルコトリオンに耐性であるが、Petit Havana型の野生型タバコ系は、0.375μMのこれら二つの化合物に感受性であることが分かった。
【実施例7】
【0101】
PBD6−ARA9およびARA9−PDHタバコ植物中でのトコフェロールおよびトコトリエノール水準の測定
分析した植物の各々の中間葉および幼若葉のサンプルから、Folchの方法(Folchら著、1957頁、J.Biol.Chem.、226〜497頁)により脂質抽出物を得る。次に、それらのトコフェロールおよびトコトリエノール含量の分析を、Frazerらの方法(2000年、Plant J.第24巻:551〜558頁)に従ったHPLCにより行う。次に、これらの含量を、対照産物に関して定量し、次に、固形分1g当たりのμgで表す。結果を表1に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
これらの結果は、PDHおよびHPPD酵素を過発現させるキメラ遺伝子で組み合わせて形質転換したARA9−PDHタバコ植物は、HPPD酵素をコードする遺伝子で単独形質転換したPBD6−ARA9タバコ植物と比べて、プレニルキノン類、特に、トコフェロール類およびトコトリエノール類を多量に与えることを明らかに示している。トコトリエノール類について最高の効果が得られる。この効果は、分裂組織に富む幼若葉においていっそう顕著である。この組織特異性の原因は、ARA9−PDHタバコ植物を作るために用いられるプロモーターであって、植物の迅速成長組織、特に分裂組織(PdH4)において優先的に発現されるプロモーターに関係する。他の型のプロモーターの使用により、植物の他の組織において同様の効果を得ることが可能となるはずである。
【0104】
さらに、種々のARA9−PDH系の間で観察される相違は、異なる形質転換事象が含まれるという事実に由来する。ホモ接合性系の成長を意図した最適系の間での交雑は、プレニルキノン類の産生、およびHPPD阻害剤への耐性に関して同等である系を得ることを可能にするはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を、同時又は順次に、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
で形質転換することを特徴とする、植物中のプレニルキノン類の量を増加させる方法であって、但し、PDH酵素をコードする遺伝子は、Erwinia herbicolaのTyrA遺伝子ではない前記方法。
【請求項2】
形質転換植物細胞または植物を、前記植物細胞または前記植物の成長および増殖に適した培養培地中で培養する工程を含むことを特徴とする、プレニルキノン類を産生する方法であって、
形質転換植物は、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
を含むことを特徴とする形質転換植物であって、但し、PDH酵素をコードする遺伝子は、Erwinia herbicolaのTyrA遺伝子ではない前記形質転換植物であって、
形質転換植物細胞は、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
を含むことを特徴とする形質転換植物細胞であって、但し、PDH酵素をコードする遺伝子は、Erwinia herbicolaのTyrA遺伝子ではない前記形質転換植物細胞である、前記方法。
【請求項3】
植物中で機能的でありPDHを過発現させる遺伝子が、酵母PDHをコードする遺伝子のコード配列を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
酵母PDHをコードする遺伝子のコード配列が、サッカロミセル・セレビシエ(Saccharomyces cereviseae)遺伝子のコード配列であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
植物中で機能的でありHPPDを過発現させる遺伝子が、植物HPPDをコードする遺伝子のコード配列を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
植物HPPDをコードする遺伝子のコード配列が、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)遺伝子のコード配列であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記プレニルキノン類がトコトリエノール類であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記プレニルキノン類がビタミンEに代表されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記植物を、同時または順次に、さらに、植物中で機能的でありGGR酵素を過発現させる遺伝子で形質転換することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
プレニルキノン類を産生するための、形質転換植物または形質転換植物細胞の使用であって、
形質転換植物は、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
を含むことを特徴とする形質転換植物であって、但し、PDH酵素をコードする遺伝子は、Erwinia herbicolaのTyrA遺伝子ではない前記形質転換植物であって、
形質転換植物細胞は、
(1)植物中で機能的でありPDH酵素を過発現させる遺伝子、
(2)植物中で機能的でありHPPD酵素を過発現させる遺伝子
を含むことを特徴とする形質転換植物細胞であって、但し、PDH酵素をコードする遺伝子は、Erwinia herbicolaのTyrA遺伝子ではない前記形質転換植物細胞である、前記使用。

【公開番号】特開2010−246552(P2010−246552A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126784(P2010−126784)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2004−535592(P2004−535592)の分割
【原出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【出願人】(503325538)バイエル・クロツプサイエンス・エス・アー (73)
【Fターム(参考)】