説明

プレフィルドシリンジ

【課題】 本発明は、合成樹脂製のシリンジ本体を通じて、酸素などが侵入することを確実に防止して薬剤の劣化を防ぐことができるプレフィルドシリンジを提供する。
【解決手段】 筒状胴部21の前方閉塞面22に薬剤注出口となる注射針装着部23が形成された合成樹脂製のシリンジ本体2と、注射針装着部23に取り付けられたキャップ5と、シリンジ本体2内に封入された薬剤と、シリンジ本体2の外面を覆うガスバリア性を有するフィルム7と、を備え、フィルム7が、シリンジ本体2の周方向に熱収縮性を有し、これを熱収縮させることにより、少なくともシリンジ本体2の胴部21から前方閉塞面22にかけてフィルム7にて覆われ、フィルム7の裏面のうち少なくとも前端部7c及び後端部7dには、接着剤又は粘着剤が周設されているプレフィルドシリンジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のシリンジ本体内に注射剤が封入されたプレフィルドシリンジに関し、更に詳しくは、ガスバリア性に優れた合成樹脂製のプレフィルドシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
プレフィルドシリンジは、予め薬剤が封入された注射器である。具体的には、プレフィルドシリンジは、筒状胴部の前方閉塞面に薬剤注出口となる小径の注射針装着部が形成されたシリンジ本体と、このシリンジ本体の後方開口部に挿入された薬剤押出し用のプランジャー栓部と、シリンジ本体の注射針装着部に着脱可能に取り付けられたゴム製のキャップと、を備え、シリンジ本体内に所定の薬剤が封入されている。
かかるプレフィルドシリンジは、使用時、キャップを外して注射針を取付け、患者に薬剤を注射することができるので、アンプルから薬剤を吸い取る手間がなく、又、投与する薬剤を間違える可能性が低く、近年広く使用されている。
【0003】
そして、一般に、シリンジ本体は、ガラス製又は合成樹脂製のものが用いられている。ガラス製のシリンジ本体は、ガスバリア性に優れているので、薬剤の酸化はほとんど問題にならない。しかしながら、合成樹脂製のシリンジ本体の場合、ガラス製に比して、ガスバリア性が悪いという問題点がある。
【0004】
このような点に鑑みて、特開2004−267662公報には、バレル部(本願のシリンジ本体に相当する)の外表面に、無機化合物蒸着プラスチックフィルムからなるラベルが装着されたプレフィルドシリンジが開示されている。
しかしながら、上記公報記載のプレフィルドシリンジは、無機化合物蒸着プラスチックフィルムが、バレル部の筒状胴部にのみ設けられているため、注射針装着部が形成された前方閉塞面は、無機化合物蒸着プラスチックフィルムによって覆われておらず露出状態となっている。従って、上記プレフィルドシリンジは、前方閉塞面を通じて、酸素などが内部に透過し、薬剤を酸化させる虞がある。
【0005】
【特許文献1】特開20004−267662公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、合成樹脂で作製されたシリンジに於いて、シリンジ本体から酸素などが侵入することを確実に防止して薬剤の劣化を防ぐことができるプレフィルドシリンジを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、筒状胴部の前方閉塞面に薬剤注出口となる注射針装着部が形成された合成樹脂製のシリンジ本体と、注射針装着部に取り付けられたキャップと、シリンジ本体内に封入された薬剤と、シリンジ本体の外面を覆うガスバリア性を有するフィルムと、を備えるプレフィルドシリンジに於いて、フィルムが、シリンジ本体の周方向に熱収縮性を有し、これを熱収縮させることにより、少なくともシリンジ本体の胴部から前方閉塞面にかけてフィルムにて覆われ、フィルムの裏面のうち少なくとも前端部及び後端部には、接着剤又は粘着剤が周設されているプレフィルドシリンジを提供する。
【0008】
上記プレフィルドシリンジは、ガスバリア性を有するフィルムがシリンジ本体の周方向に熱収縮性を有するので、該フィルムを熱収縮させることによってシリンジ本体の前方閉塞面が覆われている。さらに、このフィルムの少なくとも前端部及び後端部の裏面には、接着剤又は粘着剤が周設されているので、フィルムの前端部及び後端部とシリンジ本体(又はキャップ)とが気密状に密着する。従って、フィルムの前端縁及び後端縁を通じて、フィルムとシリンジ本体の間に空気が入り込むことがなく、シリンジ本体の胴部から前方閉塞面にかけてガスバリア性を有するフィルムによって気密状に覆われたプレフィルドシリンジを提供できる。
【0009】
さらに、本発明の好ましい態様では、上記フィルムが、一側端部をシリンジ本体に接着した状態でシリンジ本体に巻き付けてシリンジ本体の外面を覆う巻付けフィルムからなる上記プレフィルドシリンジを提供する。
【0010】
上記プレフィルドシリンジは、フィルムが、一側端部をシリンジ本体に接着した状態でシリンジ本体に巻き付けてシリンジ本体の外面を覆う巻付けフィルムからなるので、熱収縮させた際の収縮量が比較的小さくなる。従って、フィルムとシリンジ本体との間に空気が残存し難く、又、フィルムに目盛りなどの高精度印刷表示を施しても、熱収縮に起因する高精度印刷表示の歪みが生じ難いので好ましい態様である。
【0011】
また、本発明の好ましい態様では、上記フィルムの前端部の裏面が、キャップに接着されており、フィルムの前端部の内側寄りにフィルムを分断するための分断手段が設けられている上記プレフィルドシリンジを提供する。
【0012】
上記プレフィルドシリンジは、フィルムの前端部の裏面がキャップに接着されているので、被覆フィルムの前端縁及び後端縁から空気が入り込むことを確実に防止して、薬剤劣化を防止することができる。
また、フィルムの前端部をキャップに接着していると、プレフィルドシリンジの使用時、フィルムを除去しなければキャップを外すことができない。この点、上記プレフィルドシリンジは、フィルムの前端部の内側寄りにフィルムを分断するための分断手段が設けられているので、該分断手段を利用して、フィルムを前端部とそれ以外の部分に分断することができる。前端部の内側寄りでフィルムを分断することにより、キャップを簡単に外すことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るプレフィルドシリンジは、ガスバリア性及び熱収縮性を有するフィルムを用いることにより、シリンジ本体の胴部から前方閉塞面にかけてガスバリア性のフィルムによって覆われる。さらに、フィルムの裏面のうち少なくとも前端部及び後端部に、接着剤又は粘着剤が周設されているので、フィルムの前端縁及び後端縁から空気が入り込むことを防止でき、薬剤が劣化し難いプレフィルドシリンジを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
(第1実施形態)
図1に於いて、1は、筒状胴部21の前方閉塞面22に薬剤注出口となる注射針装着部23が形成された合成樹脂製シリンジ本体2と、シリンジ本体2の後方開口部24に挿入されたプランジャー栓部3と、注射針装着部23に取り付けられたキャップ5と、シリンジ本体2内に封入された薬剤と、シリンジ本体2の外面を覆うように装着されたガスバリア性を有するフィルム7(以下、被覆フィルムという)と、を備えるプレフィルドシリンジを示す。
【0015】
具体的には、シリンジ本体2は、例えば内部に収納部26が形成された円筒状の胴部21と、この胴部21の前方開口部を閉塞する前方閉塞面22と、この前方閉塞面22に形成され、且つ胴部21内部に連通する小径筒状部からなる注射針装着部23と、胴部21の後方開口部24の周囲から外側に突設された掛止部25と、を有する。
シリンジ本体2は、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどの公知の合成樹脂成形品によって形成されている。
【0016】
このシリンジ本体2の後方開口部24には、ゴム製のプランジャー栓部3が挿入されており、この栓部3には、プランジャー31が連結されている。
シリンジ本体2の注射針装着部23には、ブチルゴムなどのゴムや合成樹脂などの成型品からなるキャップ5が着脱可能に取付けられている。このキャップ5は、例えば、シリンジ本体2の胴部21よりも小径な円柱状に形成され、注射針装着部23の中途部分にまで嵌着されている。
そして、シリンジ本体2の収納部26内に於いて、プランジャー栓部3からキャップ5に至るまで、薬剤が充填封入されている。
尚、特に図示しないが、注射針装着部に注射針が装着され、この注射針を覆うように、ペンキャップ状のキャップが注射針に取り付けられているプレフィルドシリンジも知られており、本発明は、かかるプレフィルドシリンジに適用することも可能である。
【0017】
次に、被覆フィルム7は、ガスバリア性を有し且つ縦方向に少なくとも熱収縮性を有するフィルムからなり、被覆フィルム7の裏面全体に接着剤又は粘着剤を塗工することによって接着部8が設けられている。
この被覆フィルム7の幅方向(シリンジ本体2に装着した際、シリンジ本体2の縦方向。以下同様)の長さは、概ねシリンジ本体2の掛止部25からキャップ5の後端部までの長さに形成され、被覆フィルム7の縦方向(シリンジ本体2に装着した際、シリンジ本体2の周方向。以下同様)の長さは、オーバーラップ部6を確保するため、概ねシリンジ本体2の胴部21周長よりも少し長く形成されている。
この被覆フィルム7は、図2に示すように、被覆フィルム7の前端部7cをシリンジ本体2の前方閉塞面22よりも外側に突出させ、且つ被覆フィルム7の一側端部7a裏面をシリンジ本体2の胴部21の縦方向に沿って貼着した状態で、該被覆フィルム7をシリンジ本体2の胴部21の周りに巻き付け、被覆フィルム7の他側端部7bの裏面を一側端部7aの表面に重ね合わせて両面を接着した後(この重ね合わせ接着部分をオーバーラップ部6という場合がある)、熱収縮させて装着されている。
【0018】
裏面に接着部8が設けられ且つ熱収縮によって装着された上記被覆フィルム7は、シリンジ本体2の胴部21から前方閉塞面22に気密状に接着されている。すなわち、被覆フィルム7は、接着部8を介してシリンジ本体2の胴部21の外周面に密着している。さらに、被覆フィルム7の前端部7cは、熱収縮により、シリンジ本体2の胴部21から前方閉塞面22、更に注射針装着部23の基部(キャップ5によって覆われていない注射針装着部23の露出部)にかけて形成された段部に沿って縮径しており、接着部8を介して前方閉塞面22及び注射針装着部23の基部に気密状に接着されている。尚、被覆フィルム7の後端部7dは、接着部8を介してシリンジ本体2の胴部21に気密状に接着されている。
また、キャップ5と被覆フィルム7によってシリンジ本体2の外面を確実に被覆するため、被覆フィルム7の前端縁は、キャップ5に接している。尚、被覆フィルム7の後端縁は、シリンジ本体2の掛止部25に近接している。ここで、キャップ5は、通常、肉厚も厚くガスバリア性を有するので、キャップ5を被覆フィルム7によって被覆しなくても、プレフィルドシリンジ1のガスバリア性は保持される。
尚、被覆フィルム7には、必要に応じて、例えば商品名、注意書き、目盛りなどの印刷表示(図示せず)を公知の印刷法によって印刷してもよい。
【0019】
上記被覆フィルム7は、ガスバリア性を有し且つ縦方向に少なくとも熱収縮性を有するフィルムからなり、好ましくは透明なフィルムが用いられる。このような被覆フィルム7としては、例えば、透明な熱収縮性を有するフィルムにガスバリア性が付与されたフィルムを用いることができる。
熱収縮性を有するフィルムは特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリスチレンやスチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂からから選ばれる1種、又は2種以上の混合物などからなる熱収縮性フィルムなどを用いることができる。また、熱収縮性を有する2種以上のフィルムが積層された積層フィルムでもよい。中でも、比較的ガスバリア性及び透明性に優れていることから、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂の熱収縮性フィルムを用いることが好ましい。フィルムは公知の製法で製膜し延伸処理することにより熱収縮性フィルムを得ることができる。延伸処理は、通常、70〜110℃程度の温度で、縦方向に2.0〜8.0倍、好ましくは3.0〜7.0倍程度延伸することにより行われる。さらに、幅方向にも、例えば1.5倍以下の低倍率で延伸処理を行ってもよい。得られたフィルムは、一軸延伸フィルム又は主延伸方向と直交する方向に若干延伸された二軸延伸フィルムとなる。フィルムの厚みは、概ね20〜60μm程度のものが好ましい。
【0020】
熱収縮性フィルムの熱収縮率としては、シリンジ本体2に密着可能な程度に熱収縮可能なものであれば特に限定されないが、通常、縦方向に於ける熱収縮率(90℃温水中に10秒間浸漬)が約30%以上、好ましくは約40%以上のものが例示される。また、熱収縮性フィルムは幅方向に若干熱収縮してもよく、かかるフィルムの幅方向に於ける熱収縮率(90℃温水中に10秒間浸漬)は、約−3〜15%程度のものが例示される。
但し、熱収縮率(%)=[{(縦方向(又は幅方向)の元の長さ)−(縦方向(又は幅方向)の浸漬後の長さ)}/(縦方向(又は幅方向)の元の長さ)]×100。
【0021】
被覆フィルム7は、例えば、上記熱収縮性フィルムに、酸化アルミニウムやシリカなどの1種又は2種以上を蒸着した透明蒸着フィルム、熱収縮性フィルムに、ガスバリア性を有する合成樹脂製フィルム(例えば、6ナイロン/MXDナイロン/6ナイロン、6ナイロン/エチレン−ビニルアルコール共重合体/6ナイロンなどの層構成からなるフィルム等)を積層した透明積層フィルム、熱収縮性フィルムに、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニルアルコール共重合体などの合成樹脂、無機微粒子を含有するコーティング剤などをコーティングした透明塗工フィルムなどを用いることができる。また、蒸着フィルムは、熱収縮時に蒸着割れを生じ、ガスバリア性が低下する虞があるため、被覆フィルム7としては、上記積層フィルムや塗工フィルムを用いることが好ましい。
【0022】
被覆フィルム7の裏面に設けられた接着剤又は粘着剤は、シリンジ本体2に接着可能なものであれば特に限定されない。接着剤としては、例えば、加熱することによって接着性を発揮する感熱性接着剤、紫外線又は電子線などの光線を照射することで接着性を発揮する紫外線硬化型接着剤又は電子線硬化型接着剤、溶剤型接着剤などを用いることができる。また、粘着剤としては、感圧型粘着剤、加熱することによって粘着性を発揮する感熱性粘着剤、紫外線を照射することで粘着性を発揮する紫外線硬化型粘着剤などを用いることができる。中でも、被覆フィルム7をロール状に巻き取ることができ且つ使用時に接着性又は粘着性を発揮できることから、感熱性接着剤、紫外線硬化型接着剤、電子線硬化型接着剤、感熱性粘着剤、紫外線硬化型粘着剤などを用いることが好ましく、特に、熱収縮性を有する被覆フィルムを熱収縮装着する際の熱を利用して接着できることから、感熱性接着剤又は感熱性粘着剤を用いることが好ましい。
感熱性接着剤又は粘着剤としては、例えば、ホットメルト型接着剤又は粘着剤、パートコート型感熱接着剤又は粘着剤、ディレードタック型感熱接着剤又は粘着剤などを適宜用いることができる。
【0023】
ホットメルト型接着剤又は粘着剤は、常温で接着性又は粘着性を示さず、加熱することによって接着可能となるものであり、加熱溶融することによって塗工可能なものである。ホットメルト型接着剤又は粘着剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−アクリル酸共重合体などのエチレン系樹脂、スチレン−ブタジエンブロック共重合体などのベース樹脂に粘着付与剤などの添加剤が配合されたものが例示される。中でも、透明性に優れていることから、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などのエチレン共重合体を20〜60重量%、及びオレフィンゴムなどのゴム成分を20〜60重量%、及びタッキファイヤーなどの粘着付与剤を10〜30重量%、及び各種添加剤を混合してなるホットメルト型接着剤又は粘着剤を用いることが好ましい。
パートコート型感熱接着剤又は粘着剤は、室温で接着性又は粘着性を示さず、加熱によって接着性又は粘着性を示し、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの熱接着性樹脂と粘着付与剤などを水や有機溶剤などに溶解又は分散させた溶液を、グラビアコーティングなどの印刷によって塗工可能な接着剤であり、塗工後乾燥して使用するものである。
ディレードタック型感熱接着剤又は粘着剤は、室温で接着性を示さず、加熱することによって活性化して接着性又は粘着性を示し且つ冷却後長時間に亘ってそれが持続するものであり、グラビアコーティングなどの印刷によって塗工可能な接着剤である。ディレードタック型感熱接着剤又は粘着剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、合成ゴムなどのベース樹脂に粘着付与剤及び固体可塑剤が配合されたエマルジョン型のものなどが例示される。
【0024】
上記プレフィルドシリンジ1は、例えば、下記の製法によって得ることができる。
少なくとも縦方向に熱収縮性を有するフィルムの裏面全体に感熱性接着剤又は感熱性粘着剤(例えばホットメルト型)を塗工することにより、被覆フィルム原反を作製する。この被覆フィルム原反は、一旦ロール状に巻取られ、ラベリング装置に装填される。ラベリング装置に於いて、この被覆フィルム原反を引き出し、縦方向に所定長さに切断することによって一の被覆フィルム7が得られる。この被覆フィルム7を加熱することで感熱性接着剤を接着可能な状態にした後、順次供給されるシリンジ本体2の胴部21に、図2(a)に示すように、被覆フィルム7の一側端部7aを貼着し、被覆フィルム7に張力を加えながらシリンジ本体2を回転させることにより、被覆フィルム7を胴部21に巻き付ける。そして、他側端部7b裏面を一側端部7a表面に重ね合わせ、接着部8を介して接着することにより、シリンジ本体2の周囲に被覆フィルム7を筒状に巻付けることができる。
最後に、これをシュリンクトンネルなどを通過させて所定温度(例えば80〜120℃程度)に加熱することにより、被覆フィルム7が縦方向に熱収縮し、図1(a)に示すようなプレフィルドシリンジ1を得ることができる。
尚、接着剤(又は粘着剤)として紫外線硬化型又は電子線硬化型を用いる場合には、加熱に代えて紫外線又は電子線照射を行う。また、接着剤(又は粘着剤)として、溶剤型接着剤や感圧型粘着剤を用いる場合には、被覆フィルム原反に予め接着剤(又は粘着剤)を塗工せず、シリンジ本体2に装着する直前に該接着剤(又は粘着剤)を塗工する。
【0025】
上記プレフィルドシリンジ1は、シリンジ本体2の胴部21からシリンジ本体2の前方閉塞面22に至るまで、ガスバリア性を有する被覆フィルム7によって覆われていると共に、被覆フィルム7の前端部7c及び後端部7dは接着部8を介してシリンジ本体2に気密状に密着されているので、被覆フィルム7の前端縁及び後端縁から被覆フィルム7とシリンジ本体2の間に空気が入り込むことがない。従って、上記プレフィルドシリンジ1は、酸素などが外部からシリンジ本体2を通過し、収納部26内に侵入することを防止できる。
特に、被覆フィルム7の裏面全体には、接着部8がベタ状に設けられ、更に、該被覆フィルム7は、シリンジ本体2に巻付けて装着されるので、熱収縮後の被覆フィルム7とシリンジ本体2の胴部21との間に、空気が残存し難く、従って、残存空気がシリンジ本体2内へ侵入することを防止できる。また、このように被覆フィルム7の裏面略全体が、シリンジ本体2に密着するため、プレフィルドシリンジ1の透明性が向上するという利点もある。
【0026】
また、本実施形態に係る被覆フィルム7は、シリンジ本体2に巻付けた後に熱収縮させる巻付けフィルムからなるので、第2実施形態で示すような予め筒状に形成されたフィルムに比して、収縮量を小さくすることができる。つまり、予め筒状に形成されたフィルムの場合、シリンジ本体2の胴部21に嵌挿するため、該胴部21の周長よりも大きく形成する必要がある。一方、本実施形態のように巻付けて装着される巻付けフィルムの場合、巻付けることで筒状に形成されるため、装着時(熱収縮前)に於ける被覆フィルム7の周長は、胴部21の周長に略等しくなる。従って、巻付けて装着される巻付けフィルムは、筒状フィルムに比して、熱収縮時の収縮量が小さくなるのである。
かかる巻付装着される被覆フィルム7の場合、例えば、目盛り(薬剤量の指標用)などのような高い精度の要求される高精度印刷表示を、被覆フィルム7の胴部21装着位置に施しても、被覆フィルム7の熱収縮に起因して、該高精度印刷表示が歪み難いという利点がある。また、被覆フィルム7として酸化アルミニウムやシリカなどを蒸着した蒸着フィルムを用いた場合には、被覆フィルム7の収縮量が大き過ぎると、蒸着層がひび割れてガスバリア性を損ねる虞もあるが、巻付装着される被覆フィルム7の場合、蒸着層のひび割れを防止できる。
【0027】
本実施形態に於いて、被覆フィルム7の前端部7cは、前方閉塞面22及び注射針装着部23の基部に気密状に密着されているが、例えば、図3(a)に示すように、被覆フィルム7の前端部7c裏面が、前方閉塞面22に気密状に接着され、且つこの前端部7b表面に、キャップ5の後端面が当接されていてもよい。
また、本実施形態に於いて、キャップ5は、シリンジ本体2の注射針装着部23の中途部分にまで嵌着されているが、例えば、図3(b)に示すように、キャップ5が、注射針装着部23の全体に嵌着されていてもよい。この場合、被覆フィルム7の前端部7cは、接着部8を介して前方閉塞面22に気密状に接着され、更に、少なくともその前端縁がキャップ5に接していることが好ましい。
【0028】
(第2実施形態)
第2実施形態は、予め筒状に成形された被覆フィルムをシリンジ本体に嵌挿し、熱収縮させることによって装着されたプレフィルドシリンジに係る。以下、主として上記各実施形態と異なる構成及び作用効果について説明し、同様の構成などについては、その説明を省略し、図番を援用することがある。
上記第1実施形態では、シリンジ本体2に装着する前の被覆フィルム7の形態は、平坦状であったが、本実施形態に於ける被覆フィルム7は、接着部8を内面側にして筒状に丸め、一側端部7aの表面に他側端部7bを重ね合わせ、両者を溶剤等の接着剤を介して接着してオーバーラップ部6を形成することにより筒状の態様(所謂筒状シュリンクフィルム)とされている。
本実施形態のように、予め筒状に成形された筒状態様の被覆フィルム7を用いる場合には、製造上、被覆フィルム原反の幅方向がシリンジ本体2の周方向となるように、被覆フィルム原反を筒状成形する。従って、本実施形態の被覆フィルム7に用いられる熱収縮性フィルム(被覆フィルム原反)は、幅方向(シリンジ本体2に装着した際、シリンジ本体2の周方向)に延伸処理が施される。つまり、上記第1実施形態のような巻付態様のものと本実施形態の筒状態様のものとでは、用いられる熱収縮性フィルムの主たる延伸方向(熱収縮方向)が異なり、従って、上記第1実施形態で示したフィルムの熱収縮特性は、本実施形態では、幅方向と縦方向が反対となる。
それ以外の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0029】
かかる筒状フィルム態様からなる被覆フィルム7は、その前端部7aを前方閉塞面22の外側に突出させた状態で、シリンジ本体2の胴部21に嵌挿した後、熱収縮させることにより、シリンジ本体2に装着される。このように被覆フィルム7を予め筒状に成形していても、上記第1実施形態と同様のプレフィルドシリンジ1を得ることができる。
【0030】
尚、本実施形態に於いて、接着部8として、被覆フィルム7の熱収縮温度(例えば、80〜120℃程度)で接着性又は粘着性を発揮する感熱性接着剤又は感熱性粘着剤を用いれば、被覆フィルム7を熱収縮させる際の熱を利用して、該感熱性接着剤又は感熱性粘着剤を活性化させることもできる。
【0031】
(第3実施形態)
第3実施形態は、分断手段が設けられているプレフィルドシリンジに関する。以下、主として上記各実施形態と異なる構成及び作用効果について説明し、同様の構成などについては、その説明を省略し、図番を援用することがある。
図4及び図5に於いて、本実施形態の被覆フィルム7は、その前端部7cがキャップ5の外面に接着部8を介して接着されている。具体的には、図4に示すプレフィルドシリンジ1は、熱収縮により、被覆フィルム7の前端部7cがキャップ5の周面に接着されており、図5に示す示すプレフィルドシリンジ1は、熱収縮により、被覆フィルム7の前端部7cがキャップ5の前面に接着されている。
何れのプレフィルドシリンジ1も、被覆フィルム7は、巻付け態様のもの、或いは筒状態様のもの、何れの態様でも構わない。
【0032】
この被覆フィルム7には、該フィルム7を、前端部7cとそれ以外の部分に分断するため、被覆フィルム7の前端部7cの内側寄りに分断手段が設けられている。
分断手段は、縦方向(シリンジ本体2の周方向であり、筒状態様の場合には、第2実施形態で説明したとおりフィルムの幅方向に相当する)に引裂性を有する被覆フィルム7に施され(縦方向に熱収縮性を有する上記被覆フィルム7は、一般に縦方向に延伸処理されて作製されるため、別途加工を施さなくても、縦方向に引裂性を有する)、この被覆フィルム7のオーバーラップ部6を形成する他側端部7bのうち、前端部7cの内側寄りに2箇所の切れ目91を形成すると共に、被覆フィルム7のシリンジ本体2接触面のうち、該2箇所の切れ目91の縦方向延長線によって囲われる帯状領域に、(接着剤又は粘着剤を設けず)非接着部92を周設することにより、構成することができる。
尚、図4(c)に示すように、被覆フィルム7の他側端部7bのうち2箇所の切れ目91の間は、一側端部7a表面に接着されてオーバーラップ部6の一部を構成しているが、2箇所の切れ目91で挟まれた外縁部7eは、摘み代を形成するため一側端部7a表面に非接着とされている。
【0033】
本実施形態のプレフィルドシリンジ1は、被覆フィルム7の前端部7cがキャップ5の外面に接着部8を介して接着されているので、被覆フィルム7の前端縁及び後端縁から空気が入り込まず、従って、酸素などが収納部26内に侵入することを確実に防止できる。
また、本実施形態のように、被覆フィルム7が、キャップ5に接着されていると、プレフィルドシリンジ1の使用時、被覆フィルム7を除去しなければキャップ5を外すことができない。この点、本実施形態では、縦方向に引裂性を有する被覆フィルム7と、このフィルム7の他側端部7bに形成された2本の切れ目91と、被覆フィルム7のシリンジ本体2接触面のうち切れ目91で囲われる周方向帯状領域に少なくとも設けられた非接着部92と、からなる分断手段が設けられている。この切れ目91で挟まれた外縁部7eを摘み、これをシリンジ本体2の周方向へ回すことにより、被覆フィルム7は、その引裂性から非接着部92に沿って切り取られる。従って、被覆フィルム7を、前端部7cとそれ以外の部分とに容易に分断して、キャップ5を取り外すことができる。
【0034】
尚、本実施形態に於いて、分断手段は、上記の構成のものを例示したが、分断手段はこの構成に限られず、例えば、分断手段として、被覆フィルム7の裏面であって前端部7cの内側寄り位置に、テアテープを周設してもよい。一般に、フィルムの分断手段としては、フィルム表裏面に貫通する孔を断続的に形成したもの(例えばミシン目など)が多用されるが、上記構成のものやテアテープなどのように貫通孔を有しない分断手段を用いることで、被覆フィルム7とシリンジ本体2との間に空気や水などが入り込む虞はない。
【0035】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、被覆フィルム7の裏面全体に実質的に接着部8が設けられているが、例えば図6(a)に示すように、接着部8が、被覆フィルム7の裏面のうち、前端部7c及び後端部7dの裏面に周方向に設けられている態様に変更することもできる。
本発明のプレフィルドシリンジ1は、少なくとも前端部7c及び後端部7dの裏面に接着部8を周設することにより、この被覆フィルム7の前端部7c及び後端部7dの裏面をシリンジ本体2(及びキャップ5)に密封状に密着させることができ、被覆フィルム7の前端縁及び後端縁から該フィルム7の裏面側に空気が入り込むことを防止できる。
【0036】
さらに、上記各実施形態では、被覆フィルム7は、その後端部7dが掛止部25の近傍位置にまで被覆されているが、例えば図6(b)に示すように、被覆フィルム7は、その後端部7dがプランジャー栓部3の対応位置まで被覆されている態様に変更することもできる。ガスは、シリンジ本体2の厚み方向から収納部26内へ侵入するので、被覆フィルム7の後端部7dが、少なくともプランジャー栓部3の対応位置まで被覆されていれば、プレフィルドシリンジ1のガスバリア性を保持することができる。
また、上記各実施形態では、被覆フィルム7の前端縁は、ガスバリア性を高めるためキャップ5に接しているが、本発明に於いては、被覆フィルム7の前端部に接着部8が設けられているので、被覆フィルム7は、その前端縁がキャップ5から少し離れた状態で装着されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)は、第1実施形態に係るプレフィルドシリンジを縦方向に於いて切断した状態を示す断面図、(b)は、シリンジ本体を被覆する巻付け態様のフィルムを示す斜視図。
【図2】被覆フィルムをシリンジ本体に巻付け装着する過程を示す側面図。
【図3】(a)、(b)は、変形例に係るプレフィルドシリンジを縦方向に於いて切断した状態を示す断面図。
【図4】(a)は、第3実施形態に係るプレフィルドシリンジを示す側面図、(b)は、同A−Aで縦方向に於いて切断した断面図、(c)は、同B−B線断面図。
【図5】(a)は、変形例に係るプレフィルドシリンジを示す側面図、(b)は、同C−Cで縦方向に於いて切断した断面図。
【図6】(a)、(b)は、他の実施形態に係るプレフィルドシリンジを縦方向に於いて切断した状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0038】
1…プレフィルドシリンジ、2…シリンジ本体、21…胴部、22…前方閉塞面、23…注射針装着部、24…後方開口部、25…掛止部、26…収納部、3…プランジャー栓部、5…キャップ、6…オーバーラップ部、7…フィルム、7a…フィルムの一側端部、7b…フィルムの他側端部、7c…フィルムの前端部、7d…フィルムの後端部、8…接着部、91…切れ目、92…非接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状胴部の前方閉塞面に薬剤注出口となる注射針装着部が形成された合成樹脂製のシリンジ本体と、注射針装着部に取り付けられたキャップと、シリンジ本体内に封入された薬剤と、シリンジ本体の外面を覆うガスバリア性を有するフィルムと、を備えるプレフィルドシリンジに於いて、
フィルムが、シリンジ本体の周方向に熱収縮性を有し、これを熱収縮させることにより、少なくともシリンジ本体の胴部から前方閉塞面にかけてフィルムにて覆われ、
フィルムの裏面のうち少なくとも前端部及び後端部には、接着剤又は粘着剤が周設されていることを特徴とするプレフィルドシリンジ。
【請求項2】
前記フィルムが、一側端部をシリンジ本体に接着した状態でシリンジ本体に巻き付けてシリンジ本体の外面を覆う巻付けフィルムからなる請求項1記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項3】
前記フィルムの前端部の裏面が、前記キャップの外面に接着されており、フィルムの前端部の内側寄りにフィルムを分断するための分断手段が設けられている請求項1又は2記載のプレフィルドシリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−61476(P2007−61476A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253394(P2005−253394)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000238005)株式会社フジシールインターナショナル (641)
【Fターム(参考)】