説明

プロサポシン受容体活性を刺激する方法

【課題】神経変性障害または髄鞘形成障害の処置のための医薬組成物を提供する。
【課題解決手段】プロサポシン、サポシンC 、サポシンC のアミノ酸18〜29のペプチド、および配列番号3に示すアミノ酸配列からなる群より選択される1つを有効な形でコードする単離されたDNA またはRNA 分子を含む医薬組成物を調製する。プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストをコードするDNA またはRNA 分子を細胞にトランスフェクトすることにより、細胞中のプロサポシン受容体活性を刺激することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストをコードするDNA またはRNA を細胞にトランスフェクトすることによってプロサポシン受容体活性を刺激する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
70キロダルトンの糖タンパク質であるプロサポシンは、リソソーム加水分解酵素によるスフィンゴ糖脂質の加水分解に必要な一群(4 種類)の耐熱性糖タンパク質の前駆体である(Kishimoto ら、J. Lipid Res.,33:1255-1267、1992)。プロサポシンはリソソームでタンパク質分解によるプロセシングを受けて、プロサポシン中に4 つのタンデムドメインとして存在するサポシンA 、B 、C およびD を生成する(O'Brien ら、FASEB J.,5:301-308、1991)。4 つのサポシンは全て、6 つのシステイン、グリコシル化部位および保存されたプロリン残基の配置を含めて、構造上互いに類似している。
【0003】
米国特許第5,571,787 号および国際特許出願PCT/US94/08453に記載されているように、プロサポシン、サポシンC 、およびサポシンC に由来する様々なペプチド(18マーおよび22マーペプチド)は神経突起伸長を誘導し、神経細胞死を防止し、髄鞘形成を刺激する。「プロサポシン受容体アゴニスト」群の構成要素であるこれらのタンパク質とペプチドは神経保護も助長し、糖尿病性神経障害やタキソール誘発性神経障害を含む様々な神経障害の処置に使用できる。神経栄養および髄鞘栄養活性はさらにサポシンC の12マー領域(アミノ酸18〜29)(LIDNNKTEKEIL、配列番号1)に限局されている。免疫組織化学的研究により、プロサポシンは上位および下位運動ニューロンを含む大きいニューロンの集団に局在することが示された。プロサポシンは細胞表面受容体に結合し、いくつかのタンパク質への32P の組み込みを刺激する。
【0004】
神経栄養ペプチドの治療薬としての使用には、例えばタンパク質分解を受けやすいなどといった固有の制限がある。神経系では、治療薬が血液脳関門を横切ることが望ましい。上記の18マーは血液脳関門を横切ることができるが、末梢および/ または中枢神経系の細胞によるプロサポシン、サポシンC またはそれらに関連するペプチドの産生量の増加は、神経変性障害および髄鞘形成障害の防止および処置に有益だろう。
【0005】
プロサポシン受容体は、米国特許第5,571,787 号に記載されている。この受容体は、サポシンC および上記の12マーを含むプロサポシン受容体アゴニストも結合する。プロサポシン受容体アゴニストを同定する方法は、米国特許出願第08/896,181号に記載されている。プロサポシン受容体アゴニストの神経栄養、神経保護および髄鞘栄養活性が発見されて以来、様々な研究者がそのような種々のアゴニストのインビトロおよびインビボでの有用性を実証してきた(O'Brien ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:9593-9396 、1994;O'Brien ら、FASEB J. 9:681-685、1994;Sanoら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 204:994-1000 、1994;Kotaniら、J. Neurochem. 66:2197-2200、1996;Kotaniら、J. Neurochem. 66:2019-2025;Qiら、J. Biol Chem. 271:6874-6880 、1996)。
【0006】
遺伝子治療による疾患の治療的処置は、細胞への新しい遺伝情報の一過性のまたは安定な挿入を伴なう(概観するにはCrystal ら、Science 、270:404-410 、1995を参照されたい)。所望の機能をコードする正常な対立遺伝子の再導入による遺伝的欠陥の矯正が達成されている(Rosenberg ら、New Engl. J. Med. 、323:570 、1990;Boris-Lawrieら、Ann. N.Y. Acad. Sci.、716:59、1994;Wivel ら、Science 、262:533 、1993)。
【0007】
神経変性障害または髄鞘形成障害の処置に治療上有効であるために、プロサポシンおよびプロサポシン受容体アゴニストは、神経細胞に一過性または安定に送達される必要がある。本発明はそのような送達法を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,571,787号
【特許文献2】国際特許出願PCT/US94/08453
【特許文献3】米国特許出願第08/896,181号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kishimoto ら、J. Lipid Res.,33:1255-1267、1992)
【非特許文献2】O'Brien ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:9593-9396 、1994
【非特許文献3】O'Brien ら、FASEB J. 9:681-685、1994
【非特許文献4】Sanoら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 204:994-1000 、1994
【非特許文献5】Kotaniら、J. Neurochem. 66:2197-2200、1996
【非特許文献6】Kotaniら、J. Neurochem. 66:2019-2025
【非特許文献7】Qiら、J. Biol Chem. 271:6874-6880 、1996
【非特許文献8】Crystal ら、Science 、270:404-410 、1995
【非特許文献9】Rosenberg ら、New Engl. J. Med. 、323:570 、1990
【非特許文献10】Boris-Lawrieら、Ann. N.Y. Acad. Sci.、716:59、1994
【非特許文献11】Wivel ら、Science 、262:533 、1993
【非特許文献12】O'Brien ら、FASEB J. 5:301-308、1991
【発明の概要】
【0010】
本発明の一態様は、神経変性障害または髄鞘形成障害の処置に、プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストを有効な形でコードする単離されたDNA またはRNA 分子を使用することである。プロサポシン受容体アゴニストはサポシンC 、サポシンC のアミノ酸18〜29を包含するペプチド、および配列番号3に示すアミノ酸配列を包含するペプチドからなる群より選択されることが好ましい。この好ましい態様の一側面では、上記DNA またはRNA 分子が発現ベクターに含まれている。発現ベクターはアデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、プラスミドベクターおよびプラスミド- リポソームベクターからなる群より選択されることが好ましい。障害は多発性硬化症、脊髄損傷、黄斑変性、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、ポリオ後症候群、筋ジストロフィー、末梢神経障害、脳卒中および末梢神経損傷からなる群より選択することが有利である。この好ましい態様のもう一つの側面では、その障害が、炎症誘発性サイトカインによって誘導されるアポトーシスに起因する障害から起こる。その障害は脳梗塞または心筋梗塞であることが好ましい。この好ましい態様のもう一つの側面では、医薬が静脈内、脳脊髄内、筋肉内、皮内、皮下、頭蓋内、硬膜外、局所、鼻腔内、経粘膜および経口からなる群より選択される投与経路に適した形状をしている。この医薬はヒト用であることが好ましい。この好ましい態様のもう一つの側面では上記DNA またはRNA 分子が哺乳動物から得られる神経細胞にトランスフェクションまたは感染されている。上記DNA またはRNA 分子は発現ベクターに含まれていることが有利である。発現ベクターはアデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、プラスミドベクターおよびプラスミド- リポソームベクターからなる群より選択される群より選択されることが好ましい。この好ましい態様のもう一つの側面では上記の細胞がカプセル化される。カプセル化細胞は髄腔内または頭蓋内移植に適していることが好ましい。この好ましい態様のもう一つの側面では上記の細胞が神経幹細胞である。この幹細胞はニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞からなる群より選択される細胞の前駆細胞であることが好ましい。この医薬は、プロサポシン受容体アゴニストを有効な形でコードするDNA 分子を含有することが好ましい。
【0011】
本発明は、プロサポシン受容体アゴニストを有効な形でコードするDNA またはRNA 分子を含有するウイルスベクターも提供する。
【0012】
本発明のもう一つの態様は、プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストを有効な形でコードする単離されたDNA またはRNA 分子を哺乳動物に投与する工程、哺乳動物から体液を単離する工程および前記体液から前記プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストを単離する工程を含む組換えプロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストの製造方法である。体液は血液、乳、脳脊髄液および精液からなる群より選択されることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、プロサポシン、プロサポシン受容体アゴニスト(サポシンC およびサポシンC のアミノ酸8 〜29を包含するペプチドなど)またはプロサポシン受容体をコードするDNA またはRNA 分子をインビボまたはエクスビボで神経細胞に送達することを含む、神経保護を助長し神経変性障害または髄鞘形成障害を処置する方法を包含する。本発明の方法では、プロサポシン/ プロサポシン受容体アゴニストのレベルを上昇させるか、プロサポシン受容体のレベルを上昇させ、その結果、プロサポシン受容体は、より多くの循環プロサポシン/ 受容体アゴニストを結合し、強化された神経保護および/ または神経突起形成効果をもたらす。受容体アゴニストとは、通常は内因性物質によって刺激される細胞受容体に対して親和性を有し、その細胞受容体での生理活性を刺激する化合物であると定義される。したがって、受容体アゴニストは受容体に結合し、しかもその活性を刺激する。もう一つの好ましい態様ではプロサポシン受容体をコードするDNA またはRNA 分子が神経細胞に送達される。
【0014】
ヒトサポシンC に含まれ配列番号1の活性神経突起促進領域を包含する天然の15マー(TKLIDNNKTEKEILD 、配列番号2)を、インビボでのタンパク質分解に対するその感受性を低下させるために、次のように改変した。エキソペプチダーゼに対する耐性を増すためにlys2をD-ala で置換し、トリプシン消化に対する耐性を増すためにlys8をala で置換し、トリプシン消化に対する耐性を増すためにlys11 を削除した。さらに、ヨウ素化部位を設けるためにasp15 をtyr で置換した。したがって得られたペプチドTX14(A) はトリプシンまたはキモトリプシン切断部位を含有しない。
【0015】
配列番号1は次のように改変することができ、それでもなお神経栄養および髄鞘栄養活性を保つ。Leu1とIle2は必須、Asp3は任意のアミノ酸、Asn4およびAsn5は必須、Lys6は任意のアミノ酸(リジンでもアルギニンでもないことが好ましい)、Thr7は必須、Glu8は荷電アミノ酸、Lys9は存在しないか荷電アミノ酸、Glu10 は任意の荷電アミノ酸、Ile11 とLeu12 は任意のアミノ酸である。これらの指針により、LIX1NNX2TX3X4X5X6X7(配列番号3)というコンセンサス配列が得られる。
【0016】
プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストをコードするDNA またはRNA 分子は、神経細胞集団の一過性のまたは安定なトランスフェクションもしくは感染に使用され、それらは、構成的プロモーターの制御下にある場合はプロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストを連続的に産生し、誘導性プロモーターの制御下にある場合はプロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストを一過性に産生する。プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストの細胞内産生量の増加は、プロサポシン受容体を刺激し、なかんずく神経保護、神経変性の抑制および髄鞘形成の抑制につながる事象のカスケードを開始することによって、プロサポシン活性レベルを増加させる。
【0017】
本発明の好ましい一態様では、プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストをコードするDNA またはRNA を真核細胞用発現ベクターに入れて、神経変性障害または髄鞘形成障害を持つ個体から得られた神経細胞のエクスビボトランスフェクションまたは感染を行なう。次に、そのようなトランスフェクト細胞または感染細胞をその患者に再導入する。そのような細胞にはシュワン細胞、乏突起膠細胞、グリア細胞、星状膠細胞および樹状細胞(dendrocyte)が包含される。これらのトランスフェクト細胞は脳、脳脊髄液および末梢神経を含む適切な神経部位に移植することができる。
【0018】
ニューロンとグリアは、共通の胎児前駆細胞から誘導することができる(McKay 、Science 276:66-71 、1997)。成体の神経系もニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞の多能性前駆細胞を含有する(Reynoldsら、Science 255:1707、1992;Grittiら、J. Neurosci. 16:1091、1995;Joheら、Genes Dev. 10:3129、1996)。インビトロで増殖した成体CNS と胎児CNS の培養細胞は、どちらも分化してニューロンに特有の形態学的特徴と電気生理学的特徴、すなわち再生性のシナプス構造を示すことができる(Grittiら、前掲;Vicario-Abejonら、Neuron 15:105 、1995;McKay ら、前掲)。
【0019】
もう一つの好ましい態様では、上記多能性神経幹細胞を哺乳動物(好ましくはヒト)から得て、エクスビボで培養し、プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストをコードする発現ベクターによるトランスフェクションまたは感染を行ない、前記哺乳動物に再導入する。次いで、前記タンパク質またはペプチドを含有する前記幹細胞は特定の神経細胞型に分化し、前記ペプチドを連続的に産生する。
【0020】
上述のような真核細胞用発現ベクターは数多く知られ、市販されている。これらの発現ベクターを構築するための標準的技術はよく知られており、Sambrookら「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」(Cold Spring Harbor Laboratory Press 、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー、1989)などの参考書や、組換えDNA 技術に関する広く入手できる実験書のいずれにも見出すことができる。DNA 断片の連結には様々な方法を利用することができ、その選択はDNA 断片の性質と末端に依存し、当技術分野の通常の知識を有する者であれば容易に決定できる。
【0021】
好ましい発現ベクターには、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターが包含される。ヘルペスウイルスベクターも使用できる。これらのウイルスはその遺伝子を宿主DNA に組み込まないが、それらはニューロンに誘引され、それらニューロンの一部はそれらのウイルスとそこに含まれる外因性DNA 配列をほとんど無害な状態で保持する。したがって、神経障害に向けられる治療にはヘルペスウイルスベクターの使用が望ましい。遺伝子治療に一般に使用されるこれらのベクターは、Millerら(FASEB J.、9:190-199 、1995)によって詳しく論じられている。
【0022】
発現ベクターは通例、治療用タンパク質またはペプチドを発現している細胞を選択するために、抗生物質耐性などの選択可能マーカーも含有する。エクスビボ細胞トランスフェクションの好ましい方法はエレクトロポレーションであるが、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクションおよび細胞融合などといった他の方法も考えられる。遺伝子送達系についてはFelgner ら(Hum. Gene Ther. 8:511-512 、1997)による記述があり、それら遺伝子送達系には脂質に基づく送達系(リポプレックス)、ポリカチオンに基づく送達系(ポリプレックス)およびそれらの組み合わせ(リポポリプレックス)が含まれ、これらは全て本発明での使用が考えられる。
【0023】
プロサポシン、サポシンC 、それに由来する神経栄養ペプチドまたはプロサポシン受容体アゴニストをコードするDNA またはRNA を含有する発現ベクター構築物は、2 つの方法により、インビボでニューロン細胞に投与することができる。第一の方法では、神経障害または髄鞘形成障害を持つ個体から得た細胞に、実験室で標準的なトランスフェクション法または感染法によって発現カセットが導入され、次にその改変細胞が前記個体に戻されるという手順で、遺伝子治療がエクスビボで行なわれる。これに代えて、発現カセットを個体内の細胞に直接導入することにより、遺伝子導入をインビボで行なうこともできる。どちらの場合も、通常、その導入工程は、適切に機能できる細胞内部位へのカセットの送達を助けるベクターによって促進される。遺伝子治療用のベクター系は、Hodgson (Exp. Opin. Ther. Patents、5:459-468 、1995)によって詳しく論じられている。発現カセットは通例、遺伝子の発現を駆動するために適当な異種プロモーターを含有する。そのようなプロモーターは当技術分野ではよく知られており、例えばSV40プロモーターやサイトメガロウイルス(CMV )プロモーターなどがある。構成的プロモーター、誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターの使用はいずれも本発明の範囲に包含される。発現ベクターには、染色体へのDNA の組込み、そのDNA の発現およびそのベクターのクローニングを容易にするために、他のヌクレオチド配列要素を組み込むことができる。例えばプロモーターの上流にエンハンサーが存在するか、コード領域の下流にターミネーターが存在すると、その発現ベクターに含まれるDNA またはRNA の発現が促進されうる。
【0024】
本発明の一態様では、対象とするDNA またはRNA を含有する発現ベクターが血中に直接注入される。もう一つの態様では、直接的な頭蓋内注入または脳脊髄液への注入によって発現ベクターが投与される。どちらの場合もリン酸緩衝食塩水(PBS )または乳酸加リンゲル液などの薬学的に許容されうる担体が使用される。適切にコードされたDNA セグメントを含有する発現ベクターではなく、薬学的に許容されうる担体中の純粋なDNA の前記DNA セグメント(「裸のDNA 」)を注入してもよい。あるいは、直接局所注入または全身投与により、本組成物を末梢神経組織に投与することもできる。静脈内、筋肉内、皮内、皮下、脳脊髄内、頭蓋内、硬膜外、局所、鼻腔内、経粘膜および経口を含めて従来の様々な投与法が考えられる。
【0025】
プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストを発現するトランスフェクト細胞または感染細胞は、生体適合性ポリマー膜内にカプセル化することもできる。これらの素材の一部の例を挙げると、ポリアクリロニトリル塩化ビニル(PAN/PVC )アクリルコポリマー、アルギン酸塩やアガロースなどのヒドロゲル、混合エステル、セルロース、ポリテトラフルオロエチレン/ ポリプロピレン(Lum ら、Diabetes、40:1511-1516、1991;Aebischer ら、Exp. Neurol.、111:269-275 、1991;Liu ら、Hum. Gene Ther. 、4:291-301 、1993;Hillら、Cell Transplantation、1:168 、1992)およびポリエチレングリコール(PEG )相似被覆構造(米国特許第5,529,914 号)がある。カプセル化細胞は、神経変性障害または髄鞘形成障害を持つ動物に移植される。これらの選択透過膜は酸素および他の必須栄養素の流入は許すが、抗体および免疫系の細胞は排除するので、細胞が異物として認識されるのを防ぎ、移植された細胞が神経栄養タンパク質またはペプチドを絶えず産生することを可能にする。この技術を概観するには、Lanza ら、Surgery 、121:1-9 、1997を参照されたい。例えば、カプセル化細胞は、筋萎縮性側索硬化症患者の腰椎くも膜下腔内およびパーキンソン病を処置するために脳の間隙に移植される。遺伝子操作された細胞のカプセル化と哺乳動物への移植は、数グループによって報告されている(Sagot ら、Eur. J. Neurosci. 、7:1313-1322 、1995;Sagen ら、J. Neurosci.、13:2415-2423、1993;Aebischer ら、Nature Medicine 、2:696-699 、1996)。
【0026】
本組成物は、患者に投与される一日量に相当する用量で注射用組成物または局所製剤などの単位量剤として、または徐放性組成物として、包装し投与することができる。PBS 中にまたは凍結乾燥状態で一日量の活性成分を含有するセプタム付きバイアルは、単位量の一例である。
【0027】
本発明のもう一つの好ましい態様では、対象とするDNA またはRNA を含有する発現ベクターが、その物質の移植により、インビボで神経細胞に局所的に投与される。例えばポリ乳酸、ポリガラクト酸(polygalactic acid )、再生コラーゲン、多重膜リポソームおよび他の多くの従来型デポー剤は、生物活性組成物と共に製剤化できる生体侵食性または生分解性物質からなる。これらの物質は移植されると徐々に崩壊して活性物質を周辺組織に放出する。本発明では特に、生体侵食性、生分解性その他のデポー剤が考えられる。注入ポンプ、マトリックス捕捉システムおよび経皮送達装置も考えられる。
【0028】
本発明のDNA またはRNA 構築物をミセルまたはリポソームベクターに封入することも有利だろう。リポソーム封入技術はよく知られている。リポソームは、標的組織を結合できるレセプター、リガンドまたは抗体を使用することにより、神経組織などの特定の組織に誘導することができ、形質膜との融合を促進しうる。これらの製剤の製造は当技術分野ではよく知られている(Radin ら、Methods Enzymol 、98:613-618、1983)。もう一つのリポソーム製造法では、例えばLipofectinTMおよびLipofectaminTM試薬(GIBCO BRL 、メリーランド州ゲーサーズバーグ)を使用する。プロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストをコードするDNA またはRNA は、遺伝子を細胞表面に輸送しおよび/または受容体介在性エンドサイトーシスによる細胞内への移行を促進するトランスフェリンなどの受容体リガンドにコンジュゲート化することもできる。
【0029】
本発明の遺伝子治療法は、中枢神経系の障害の治療にも末梢神経系の障害の治療にも使用できる。ポリオ後症候群は筋疲労と持久力の低下を特徴とし、筋脱力と筋萎縮を伴なう。この疾患の一因は、筋萎縮性側索硬化症で起こるものと類似するタイプの脊髄運動ニューロン損傷にあると考えられる。糖尿病または化学療法によって起こるような末梢神経損傷および末梢神経障害は、最も一般的な末梢神経障害を構成し、本発明の方法を使って処置できる。そのような神経障害には脊髄損傷、黄斑変性、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、ポリオ後症候群、筋ジストロフィー、末梢神経障害、脳卒中および末梢神経損傷が包含される。中枢または末梢神経系に対する外傷性または虚血性の損傷は、いずれも本発明の方法を用いて処置できる。
【0030】
細胞は、髄鞘形成を促進するためまたは脱髄を防止するために、インビボでもエクスビボでも上記のように処置することができる。エクスビボ法では、トランスフェクトした神経細胞がその個体に戻され、コードされたプロサポシンまたはプロサポシン受容体アゴニストを絶えず発現することになる。神経線維の脱髄を起こす中枢神経系の疾患は、多発性硬化症、急性散在性白質脳炎、進行性多巣性白質脳炎、異染性白質萎縮症および副腎白質萎縮症などいくつかある。末梢神経系の脱髄性疾患の一例はギラン- バレー症候群である。これらの疾患は、プロサポシン、サポシンC 、サポシンC に由来する神経栄養ペプチドまたはプロサポシン受容体アゴニストをコードするcDNAをコードする発現ベクターの投与によって処置することができ、脱髄の進行を減速または停止させることができる。
【0031】
無酸素症は、心臓組織を破壊する最終段階の事象ではない。この過程は、炎症誘発性サイトカインによって促進されるアポトーシスを開始する。本方法は、脳梗塞、心筋梗塞およびうっ血性心不全中に起こるアポトーシスを抑制するためにも使用できる。米国仮特許出願第60/058,352号に記載されているように、プロサポシンおよびプロサポシン受容体アゴニストは、このアポトーシスを抑制するために使用できる。
【0032】
もう一つの好ましい態様では、組換えプロサポシン、サポシンC または他のプロサポシン受容体アゴニストをコードする発現ベクターをトランスフェクトされた哺乳動物が、これらの物質の供給源として使用される。プロサポシンは乳、脳脊髄液および精漿などの様々な体液中に見出される内在性膜タンパク質および分泌タンパク質である。したがって、インビボで産生されるプロサポシン、サポシンC または他のプロサポシン受容体アゴニストは、これらの体液中に存在し、それらの体液をこれらの分子の供給源として使用できるだろう。プロサポシンは米国特許第5,571,787 号に記載されているように精製される。プロサポシン受容体アゴニストは、標準的アフィニティークロマトグラフィー法により、そのアゴニストに対して生成した抗体を使って精製される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロサポシン、サポシンC 、サポシンC のアミノ酸18〜29のペプチド、および配列番号3に示すアミノ酸配列からなる群より選択される1つを有効な形でコードする単離されたDNA またはRNA 分子をヒト以外の哺乳動物に投与する工程、前記哺乳動物から体液を単離する工程、および前記体液から前記プロサポシン、サポシンC 、サポシンC のアミノ酸18〜29のペプチド、および配列番号3に示すアミノ酸配列からなる群より選択される1つを単離する工程を含む、神経変性障害または髄鞘形成障害の処置のための医薬組成物の製造方法。
【請求項2】
前記体液が血液、乳、脳脊髄液および精液からなる群より選択されたものである請求項1に記載の製造方法。


【公開番号】特開2011−84569(P2011−84569A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276018(P2010−276018)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【分割の表示】特願2000−568870(P2000−568870)の分割
【原出願日】平成11年9月9日(1999.9.9)
【出願人】(500013728)ミエロスコーポレーション (2)
【Fターム(参考)】