説明

プロジェクターを使った機能的神経ネットワーク構築方法

【課題】本発明の目的は、自在の再生技術を提供するための技術を提供することにある。特に、神経に損傷を受けた患者等組織損傷を受けた患者の機能を回復するための再生医療の実現に貢献することである。
【解決手段】本発明は、光反応によって状態が変化する性質を有する細胞を含む、組織再生のための組成物、ならびに所望の場所で組織再生を行うためのシステムであって、A)光反応によって状態が変化する性質を有する細胞とB)該所望の場所に光を提供する光源とを備える、システムを提供することによって、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を利用した機能的再生方法に関する。別の局面では、本発明は、光を利用した新規実験システムに関する。本発明はまた、光を利用した生物制御方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
神経(脳)に損傷を受けた患者の機能を回復するための再生医療には、(1)神経細胞を作成し移植する、(2)移植した機能的な神経細胞ネットワークを構築する、の二つの連続する技術が必要である。そのどちらか一方が欠けても、これら患者の機能を、迅速かつ効果的に回復することができない。
【0003】
ところが、技術(1)に関する研究は精力的に進められ、成果も挙げられているが、技術(2)はまったく未開拓のままであり、その現状は、移植した神経細胞が自主的にネットワーク構築することを期待する、という受動的なものに留まっている。患者の機能を迅速かつ効果的に回復するためには、神経細胞の軸索を目的の細胞へと投射させ、シナプスを形成させて、神経細胞同士を接続して、機能的ネットワークを構築する技術(2)が必要である。非特許文献1には、かかる技術は記載されていない。
【非特許文献1】Ishizuka et al., Neurosci. Res.54 (2006) 85-94
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、自在の再生技術を提供するための技術を提供することにある。特に、神経に損傷を受けた患者等組織損傷を受けた患者の機能を回復するための再生医療の実現に貢献することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明者は、機能的神経細胞ネットワークを構築するための刺激源として「光」に着目した。光は、強度と強度幅(模様)、種類(すわち、波長または色)、そして、空間配置を自在に制御できる。コンピューターで出力が制御できるプロジェクタを活用することで、「多彩な強度や模様や色、さらには時間変化を有する刺激の微細な時空間パターン」を作ることができる。一方、刺激を受ける側の神経細胞については、光に応答する陽イオンチャネルを強制発現させた神経細胞(非特許文献1=Ishizuka et al., Neurosci. Res.54 (2006) 85-94)を使う。このように、「コンピューター出力用プロジェクターと陽イオンチャネル強制発現神経細胞」とを組み合わせることで、患者の神経損傷部位に、任意の神経ネットワークを再構築することができる。なお、このような微細な刺激制御は、従来一般的に使われてきた溶液や電気による刺激では実現できない。
【0006】
はじめに、光に応答する蛋白質(例えば、channel rhodopsin−2)を強制発現させた神経細胞を作成する(方法は、非特許文献1を参照)。この神経細胞は、青色照射に反応して興奮状態になり、その結果、神経軸索の伸張とシナプス形成が促進される。すなわち、青色を照射することにより、神経細胞間を接続して機能的神経細胞ネットワークを構築することができる。次に、患者の神経機能を回復するために必要な部位に、上記の神経細胞を注入する。最後に、コンピューターで作成した光パターンをコンピューター出力用プロジェクタを用いて必要な部位に照射し、神経細胞を活性化し、神経細胞間を接続して、機能的神経ネットワークを誘導する。
【0007】
本発明を図解したものが図1である。はじめに、例えば、青色光で開口する陽イオンチャネルであるckmelrhodopsin・2を強制発現させた神経細胞を作成する(例示的な方法は、非特許文献1を参照)。
【0008】
この神経細胞は、青色照射に反応して興奮状態になり、その結果、神経軸索の伸張とシナプス形成が促進される。すなわち、青色を照射することにより、神経細胞間を接続して機能的神経細胞ネットワークを構築することができる。次に、患者の神経機能を回復するために必要な部位に、上記の神経細胞を注入する。最後に、コンピューターで作成した光パターンをコンピューター出力用プロジェクターを用いて必要な部位に照射し、神経細胞を活性化し、神経細胞間を接続して、機能的神経ネットワークを誘導する。
【0009】
本発明を実現するために必要な光学系の1例を図2に示す。
【0010】
したがって、本発明は、以下を提供する。
(1)光反応によって状態が変化する性質を有する細胞を含む、組織再生のための組成物。
(2)上記状態の変化は、上記組織再生に適切な変化である、項1に記載の組成物。
(3)上記状態の変化は、細胞死、形態変化、移動、細胞間相互作用の変化、分化および増殖からなる群より選択される、項1に記載の組成物。
(4)上記細胞は、組織再生に使用される細胞である、項1に記載の組成物。
(5)上記細胞は、神経細胞である、項1に記載の組成物。
(6)上記細胞は、天然で上記性質を有するか、または天然で上記性質を有しない細胞を変換することにより上記性質を有するよう変換された細胞である、項1に記載の組成物。
(7)上記細胞は、上記性質を有するように一過的に形質転換される、項1に記載の組成物。
(8)上記変換は、光応答性タンパク質をコードする核酸を用いた形質転換により達成される、項6に記載の組成物。
(9)上記光応答性タンパク質は、Gタンパク質結合光受容体、陽イオンチャネルまたは陰イオンチャネル、項8に記載の組成物。
(10)上記光応答性タンパク質は、陽イオンチャネルであり、上記陽イオンチャネルは、チャネルロドプシン−1、チャネルロドプシン−2、オプシン、赤オプシン、緑オプシン、青オプシン、UVオプシンまたはピノプシンである、項8に記載の組成物。
(11)所望の場所で組織再生を行うためのシステムであって、
A)光反応によって状態が変化する性質を有する細胞と
B)上記所望の場所に光を提供する光源と
を備える、システム。
(12)上記状態の変化は、上記組織再生に適切な変化である、項11に記載のシステム。
(13)上記性質の変化は、細胞死、形態変化、移動、細胞間相互作用の変化、分化および増殖からなる群より選択される、項11に記載のシステム。
(14)上記細胞は、組織再生に使用される細胞である、項11に記載のシステム。
(15)上記細胞は、神経細胞である、項11に記載のシステム。
(16)上記細胞は、天然で上記性質を有するか、または天然で上記性質を有しない細胞を変換することにより上記性質を有するよう変換された細胞である、項11に記載のシステム。
(17)上記細胞は、上記性質を有するように一過的に形質転換される、項11に記載のシステム。
(18)上記変換は、光応答性タンパク質をコードする核酸を用いた形質転換により達成される、項16に記載のシステム。
(19)上記光応答性タンパク質は、Gタンパク質結合光受容体、陽イオンチャネルまたは陰イオンチャネル、項18に記載のシステム。
(20)上記光応答性タンパク質は、陽イオンチャネルであり、上記陽イオンチャネルは、チャネルロドプシン−1、チャネルロドプシン−2、オプシン、赤オプシン、緑オプシン、青オプシン、UVオプシンまたはピノプシンである、項18に記載のシステム。
(21)上記光源は、プロジェクタである、項11に記載のシステム。
(22)上記光源は、コンピュータで出力が制御可能なプロジェクタである、項11に記載のシステム。
(23)上記光源は、強度、模様、色および時間からなる群より選択されるパラメータの変化を有する刺激のパターンを形成することができる、項11に記載のシステム。
(24)上記光源は、上記所望の場所における照射に適した形状を有する、項11に記載のシステム。
(25)上記形状は、手術時における照射に適した形状である、項24に記載のシステム。
(26)上記光源は、上記所望の場所に特異的な照射を実現する、項11に記載のシステム。
(27)上記光源は、多光子励起法を実現する手段を含む、項26に記載のシステム。
(28)上記多光子励起法は、エネルギーが半分の光子である2倍の波長の光を、同時に2個当てることにより上記光反応性タンパク質の反応を励起することによって実現される、項27に記載のシステム。
(29)上記手段は、赤外線レーザーを含む、項27に記載のシステム。
(30)上記手段は、750nm〜3000nmの波長の光を照射することができるものである、項29に記載のシステム。
(31)上記手段は、間欠的に光るパルスレーザーである、項27に記載のシステム。
(32)上記光応答性タンパク質は、チャネルロドプシン−2であり、上記手段は、920nm付近の強いパルスレーザーを照射することができる手段である、項27に記載のシステム。
(33)所望のパターンを有するように組織再生を行うためのシステムであって、
A)光反応によって状態が変化する性質を有する細胞と
B)上記光反応に対応する光源と
C)上記光源を所望のパターンに加工するための手段と
を備える、システム。
(34)項12〜32に記載の1または複数の特徴を有する、項33に記載のシステム。
(35)上記光源を所望のパターンに加工するための手段は、赤外線レーザー、レーザスキャン、バーチャルマスク、リアルマスク、フィルタおよびプロジェクタからなる群より選択される、項33に記載のシステム。
(36)上記組織は、神経であり、上記細胞はチャネルロドプシン−2で形質転換された神経細胞であり、上記光源は、青色光源であり、上記手段は、神経系パターンである、項33に記載のシステム。
(37)上記神経細胞は、青色の光の照射により神経ネットワークを作るように活性化される、項33に記載のシステム。
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、再生医学、特に神経細胞間を接続し機能的神経ネットワークを構築する方法が提供され、その上、以下の目的にも有効である。すなわち、他のどのような移植器官にも、例えば、移植皮膚と,患者の神経を接続する方法としても活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0015】
(再生医療)
本明細書において使用される「再生」(regeneration)とは,個体の組織の一部が失われた際に残った組織が増殖して復元される現象をいう。動物種間または同一個体における組織種に応じて、再生のその程度および様式は変動する。ヒト組織の多くはその再生能が限られており、大きく失われると完全再生は望めない。大きな傷害では、失われた組織とは異なる増殖力の強い組織が増殖し,不完全に組織が再生され機能が回復できない状態で終わる不完全再生が起こり得る。この場合には,生体内吸収性材料からなる構造物を用いて、組織欠損部への増殖力の強い組織の侵入を阻止することで本来の組織が増殖できる空間を確保し,さらに細胞増殖因子を補充することで本来の組織の再生能力を高める再生医療が行われている。この例として、軟骨、骨、心臓および末梢神経の再生医療がある。軟骨、神経細胞および心筋は再生能力がないかまたは著しく低いとこれまでは考えられてきた。近年、これらの組織へ分化し得る能力および自己増殖能を併せ持った組織幹細胞(体性幹細胞)の存在が報告され、組織幹細胞を用いる再生医療への期待が高まっている。胚性幹細胞(ES細胞)はすべての組織に分化する能力をもった細胞であり、それを用いた腎臓、肝臓などの複雑な臓器の再生が試みられているが実現には至っていない。
【0016】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。細胞としては、例えば、初代培養の細胞が用いられ得るが、継代培養した細胞もまた使用され得る。好ましくは、継代が3代〜8代経由した細胞が用いられる。本明細書において、細胞密度は、単位面積(例えば、cm)あたりの細胞数で表すことができる。
【0017】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は好ましくは胚性幹細胞または組織幹細胞が使用され得る。
【0018】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来、軟骨由来、骨由来、骨髄由来)などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0019】
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
【0020】
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような間葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、間葉系由来の細胞が使用され得る。
【0021】
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、単離された細胞、組織などとは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。組織についていう場合、単離された組織とは、その組織以外の物質(例えば、足場、シート、コーティングなど)が実質的に含まれていない状態の組織をいう。
【0022】
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
【0023】
本明細書において、「非胚性」とは、初期胚に直接由来しないことをいう。従って、初期胚以外の身体部分に由来する細胞がこれに該当するが、胚性幹細胞に改変(例えば、遺伝的改変、融合など)を加えて得られる細胞もまた、非胚性細胞の範囲内にある。
【0024】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0025】
本明細書において「組織」(tissue)とは、細胞生物において、同一の機能・形態をもつ細胞集団をいう。多細胞生物では、通常それを構成する細胞が分化し、機能が専能化し、分業化がおこる。従って細胞の単なる集合体であり得ず,ある機能と構造を備えた有機的細胞集団,社会的細胞集団としての組織が構成されることになる。組織としては、外皮組織、結合組織、筋組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の組織は、生物のどの臓器または器官由来の組織でもよい。本発明の好ましい実施形態では、本発明が対象とする組織としては、骨、軟骨、腱、靭帯、半月、椎間板、骨膜、血管、血管様組織、心臓、心臓弁、心膜、硬膜などの組織が挙げられるがそれらに限定されない。
【0026】
移植可能な人工組織において十分な生体適合性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体適合性の程度を設定することができる。通常、所望される生体適合性としては、例えば、炎症などを起こさず、免疫反応を起こさずに、周囲組織と生物学的結合を行うことなどが挙げられるが、それらに限定されない。場合によって、例えば、角膜などでは、免疫反応を起こしにくいことから、他の臓器において免疫反応を起こす可能性がある場合でも、本発明の目的では生体適合性を有するとすることができる。生体適合性のパラメータとしては、例えば、細胞外マトリクスの存否、免疫反応の存否、炎症の程度などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体適合性は、移植後における移植部位での適合性を見ること(例えば、移植された人工組織が破壊されていないことを確認する)によって判定することができる(ヒト移植臓器拒絶反応の病理組織診断基準 鑑別診断と生検標本の取り扱い(図譜)腎臓移植、肝臓移植および心臓移植 日本移植学会 日本病理学会編、金原出版株式会社(1998)を参照)。この文献によれば、Grade 0、1A、1B、2、3A、3B、4に分けられ、Grade 0(no acute rejection)は、生検標本に急性拒絶反応、心筋細胞障害などを示す所見がない状態である。Grade 1A(focal, mild acute rejection)は、局所的、血管周囲または間質に大型リンパ球が浸潤しているが、心筋細胞傷害は無い状態である。この所見は、1つまたは複数の生検標本で認められる。Grade 1B(diffuse, mild acute rejection)は、血管周囲、間質またはその両方に大型リンパ球がよりびまん性に浸潤しているが、心筋細胞傷害は無い状態である。Grade 2(focal, moderate acute rejection)は、明瞭に周囲と境界された炎症細胞浸潤巣がただ一箇所で見出されるような状態である。炎症細胞は、大型の活性化されたリンパ球からなり、好酸球をまじえることもある。心筋構築の改変を伴った心筋細胞傷害が病変内に認められる。Grade 3A(multifocal, moderate acute rejection)は、大型の活性化したリンパ球からなる炎症細胞浸潤巣が多発性に形成され、好酸球をまじえることもある状態である。これらの多発性の炎症性の炎症細胞浸潤巣の2箇所以上が心筋細胞傷害を伴っている。ときに、心内膜への粗な炎症細胞浸潤を伴っている。この浸潤巣は生検標本のひとつまたは複数の標本で認められる。Grade 3B(multifocal,borderline severe acute rejection)は、3Aで見られた炎症細胞浸潤巣がより融合性またはびまん性となり、より多くの生検標本で認められる状態である。大型リンパ球および好酸球、ときに好中球を交える炎症細胞浸潤とともに、心筋細胞傷害がある。出血はない。Grade 4(severe acute rejection)は、活性化したリンパ球、好酸球、好中球を含む多彩な炎症細胞浸潤がびまん性に認められる。心筋細胞傷害と心筋細胞壊死とは常に存在する。浮腫、出血、血管炎も通常認められる。「Quilty」効果とは異なる心内膜への炎症細胞浸潤が通常認められる。かなりの期間、免疫抑制剤で強力に治療されている場合には、細胞浸潤よりも浮腫と出血とが顕著となり得る。
【0027】
移植可能な人工組織において十分な生体定着性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体定着性の程度を設定することができる。生体適合性のパラメータとしては、例えば、移植された人工組織と移植された部位との生物学的結合性などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体定着性は、移植後における移植部位での生物学的結合の存在によって判定することができる。本明細書において好ましい生体定着性とは、移植された人工組織が移植された部位と同じ機能を発揮するように配置されていることが挙げられる。
【0028】
本明細書において「臓器」と「器官」(organ)とは、互換的に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、骨、軟骨、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。このような臓器または器官はまた、表皮系、膵実質系、膵管系、肝系、血液系、心筋系、骨格筋系、骨芽系、骨格筋芽系、神経系、血管内皮系、色素系、平滑筋系、脂肪系、骨系、軟骨系などの器官または臓器が挙げられるがそれらに限定されない。
【0029】
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。本発明は、インビボで行なうことができる。
【0030】
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。本発明は、インビトロで行なうことができる。
【0031】
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。本発明は、エキソビボで行なうことができる。
【0032】
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
【0033】
本明細書において「被験体(被検体とも)」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
【0034】
本発明において使用される細胞は、対象となる組織に対して同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、第12巻、臓器移植(心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて)(改訂第3版)、中山書店に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の医薬と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生・治療方法の前または後にも投与され得る。
【0035】
本発明で用いられる細胞は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の細胞でもよい。好ましくは、脊椎動物由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類由来の細胞が用いられる。最も好ましい実施形態において、ヒト由来の細胞が用いられる。通常は、宿主と同じ種の細胞を用いることが好ましい。
【0036】
本発明が対象とする組織は、生物のどの臓器または器官でもよく、また、本発明が対象とする組織は、どのような種類の生物由来であり得る。本発明が対象とする生物としては、脊椎動物または無脊椎動物が挙げられる。好ましくは、本発明が対象とする生物は、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)である。より好ましくは、本発明が対象とする生物は、霊長類である。最も好ましくは、本発明はヒトを対象とする。
【0037】
本明細書中で使用される場合、用語「部分」とは、任意の身体中の部分、組織、細胞、器官を指す。そのような部分、組織、細胞、器官としては、骨格筋芽細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、幹細胞によって治療され得る部分が挙げられるが、それらに限定されない。特異的なマーカーであれば、核酸分子(mRNAの発現)、タンパク質、細胞外マトリクス、特定の表現型、細胞の形状などどのようなパラメータでも使用することができる。従って、本明細書において具体的に記載されていないマーカーであっても、その部分由来であることを示すことができるマーカーであれば、どのようなマーカーを利用して、本発明において提供される人工組織を判定してもよい。このような部分の代表例としては、例えば、心筋以外の心臓の部分、間葉系幹細胞またはそれに由来する細胞を含む部分、組織、器官、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、線維芽細胞、滑膜細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0038】
本明細書中で使用される場合、用語「由来する」とは、ある種の細胞が、その細胞が元々存在していた細胞塊、組織、器官などから分離、単離、または抽出されたこと、あるいはその細胞を、幹細胞から誘導されたことを意味する。
【0039】
本発明において提供される細胞、システムなどは、医薬品として提供され得るが、あるいは、動物薬、医薬部外品、水産薬および化粧品等として、公知の調製法により提供され得る。
【0040】
従って、本発明が対象とする動物は、臓器または器官を有するものであれば、どの生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物))でもよい。好ましくは、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)であり得る。例示的な被験体としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)が用いられる。最も好ましくはヒトが対象とされ得る。移植治療において限界があるからである。
【0041】
本発明が医薬として使用される場合、本発明の医薬は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0042】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない
本発明の処置方法において使用される医薬(人工組織、併用される医薬化合物など)の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、組織の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間〜1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0043】
本明細書中、「投与する」とは、本発明において提供される人工組織、三次元構造体などまたはそれを含む医薬を、単独で、または他の治療剤と組み合わせて投与することを意味する。本発明において提供される人工組織は、以下のような治療部位(例えば、障害心臓など)への導入方法,導入形態および導入量が使用され得る。すなわち、本発明において提供される人工組織および三次元構造体の投与方法としては、例えば心筋梗塞、狭心症等で虚血性の障害を受けた心筋組織の障害部位への直接貼付、貼付後に縫合、挿入等の方法があげられる。組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、人工組織などが直接手術によって提供され、他の薬剤は静脈注射によって与えられる場合)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
【0044】
本明細書において「指示書」は、試薬の取り扱い、使用方法、調合方法、人工組織の作成方法、収縮方法など、本発明の医薬などを投与する方法または診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0045】
本明細書において「予防」(prophylaxisまたはprevention)とは、ある疾患または障害について、そのような状態が引き起こされる前に、そのような状態が起こらないようにするか、そのような状態を低減した状態で生じさせるかまたはその状態が起こることを遅延させるように処置することをいう。
【0046】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消長させることをいう。本明細書では「根治的治療」とは、病的過程の根源または原因の根絶を伴う治療をいう。従って、根治的治療がなされる場合は、原則として、その疾患の再発はなくなる。
【0047】
本明細書において「予後」とは、予後の処置ともいい、ある疾患または障害について、治療後の状態を診断または処置することをいう。
【0048】
本明細書において、「光反応によって状態が変化する性質」とは、光の照射によって変化を生じうる任意の性質をいう。したがって、そのような性質としては、たとえば、形態、移動、細胞間相互作用、分化および増殖などを挙げることができる。
【0049】
このような性質は、天然に有している場合と、人工的に付加する場合とがある。たとえば、たとえば、もともと光に応答して動く性質があります(光走性)がある細胞などは天然の細胞を用いてもよい。従って、このような天然の細胞を用いる場合、神経細胞と違い、わざわざ光受容チャンネルを強制発現しなくても、光によりその運動をコントロールすることができる。
【0050】
本明細書において「光」は、当該分野において最も広い意味で用いられ、紫外線,赤外線をあわせ波長が約1nm〜1mmの範囲にある電磁波を光とよぶ.これは原子,分子のエネルギー準位間の遷移によって放出,吸収されるものにほぼ相当する.波の性質を強調するときは光波(light wave)ともよぶが,それぞれの波長に応じたエネルギーをもつ光子の集団として現象することもある。エネルギーの伝播経路を光線とよび,光を光線またはその集合で代表させることもある。
【0051】
本明細書において、「状態の変化」とは、細胞に関して用いるとき、細胞の任意の変化をいう。そのような状態の変化としては、たとえば、細胞死、形態変化、移動、細胞間相互作用の変化、分化および増殖などを挙げることができることが理解される。
【0052】
本明細書において、「変換」とは、広義に解され、たとえば、任意の変化をもたらす工程を包含する。そのような変換としては、たとえば、形質転換、形質導入、トランスフェクション、感染、変異誘発等任意のものを挙げることができることが理解される。
【0053】
本明細書において、形質転換とは、当該分野における通常の意味に解され、ある遺伝形質をもつ細胞(供与細胞)から抽出したDNAを他の細胞(受容細胞)に与えると,その細胞の遺伝的性質が供与細胞のものに変わることをいう。
【0054】
本明細書において、「光応答性タンパク質」とは、光に応答する任意のタンパク質をいう。そのような光応答性タンパク質としては、たとえば、光応答性の陽イオンチャネルなどを挙げることができる。
【0055】
本明細書において「陽イオンチャネル」とは、陽イオン(カチオン)を通イオンチャネルをいう。代表的なものに,神経のインパルスの伝播を担っているNaチャネルやKチャネルを挙げることができる。これらは電圧依存性チャネルである.これらの開閉によって神経軸索を伝播するインパルスが発生する。また,電圧依存性のCa2+チャネルもある.興奮性シナプス伝達に関与するカチオンチャネルはリガンド作動性チャネルであり,代表的なものにニコチン性アセチルコリン受容体やグルタミン酸受容体がある。
【0056】
本明細書において「陰イオンチャネル」とは、陰イオン(アニオン)を通すイオンチャネル.神経興奮伝達などで重要な働きをしているチャネルはClを通すもの(塩素(イオン)チャネルchloride channel)が多いが,選択性の低いものもある。リガンド作動性のアニオンチャネルとしては,抑制性神経伝達物質の受容体と一体になったγ−アミノ酪酸(GABA)受容体,グリシン受容体などが知られている。電圧依存性のものとしては,細菌やミトコンドリア膜にあるVDACが知られている。
【0057】
本明細書において「Gタンパク質結合受容体」とは、グアニンヌクレオチド結合性調節タンパク質であって、GTP(グアノシン5‐三リン酸)またはGDP(グアノシン5‐二リン酸)と特異的に結合し,結合したGTPをGDPとリン酸に分解する酵素活性を示すGTP結合タンパク質のうち,ホルモンや神経伝達物質などの受容体を介した細胞内シグナル伝達経路で情報を変換し伝達する因子(トランスデューサー)として機能するタンパク質のうち、細胞外の情報を細胞内に伝達する受容体をいう。酵母からヒトに至る真核生物の細胞膜に存在する。多くのホルモン,神経伝達物質の受容体,視覚,嗅覚,味覚の受容体が含まれる。
【0058】
このほか、錐体視物質(赤オプシン、緑オプシン、青オプシン、UVオプシン)、眼以外の生体内部にも光受容体があることが知られている。例えば、ニワトリ松果体にはピノプシンという光受容体があり、サーカディアンリズムに関連していることが知られている(http://www.kaorin.net/casa/misc/phototransduction.htmlを参照のこと)。
【0059】
本明細書において、「チャネルロドプシン―2」とは、オプシンの一種であり、藻類が有する独自の光ゲートイオンチャンネルである。Ishizuka et al., Neurosci. Res.54 (2006) 85−94に記載されるものが例示される。
【0060】
チャネルロドプシン―2を用いる場合は、以下のようにして行なうことができる。タンパク質チャネルオプシン−2(channelopsin−2)をコードするcDNA(核酸)を人為的に細胞に導入する。細胞内で作られたchannelopsin−2はオールトランス レチナール(all−trans retinal)と複合体を形成し、細胞膜上に陽イオンチャンネルのチャネルロドプシン−2(channelrhodopsin−2)を形成する。つまり、(チャネルロドプシン = チャネルオプシン−2 + オールトランス レチナール)である。このチャネルロドプシン−2が光に応答して開く陽イオンチャンネルである。他にもチャネルロドプシン−1などがあるが、現時点においてチャネルロドプシン−2が性能的に一番良いものである。
通常の眼の網膜においては細胞内にロドプシンが含まれる。ロドプシンは、オプシンとレチナール(ビタミンA(レチノイド)の一種)との複合体で、光に応答する。チャネルロドプシンはロドプシンと似ていますが、それ自身がイオンチャンネルでもある。イメージとしては、(チャネルロドプシン = ロドプシン + イオンチャネル)である。
【0061】
本明細書において「プロジェクタ」とは、映写機または投影機ともいい、適当に照明された物体の実像を,見えるか,撮影できるか,他の方法で観測できるように結像する光学系をいう。
【0062】
現在実用化されている技術の中で、好ましい実施形態では、赤外線レーザーを使い、多光子励起法でチャネルロドプシンを照射する方法を用いて本発明を実施することができる。
【0063】
赤外線を使う脳計測の機械(光トポグラフィ)は実際に製品化されていることから明らかなように、赤外線は頭蓋骨を透過できる。
【0064】
多光子励起法は、蛍光観察の分野で最近よく使われている方法であり、2光子励起法を例にとると、エネルギーが半分の光子(2倍の波長)を、ほぼ同時に2個当てることにより蛍光色素などを励起する方法である。良く使われるのは高出力のレーザーで、レーザーの焦点を絞ることにより、焦点の部分だけに光が高密度になり、ほぼ同時に2個の光子を当てることが可能となる。赤外線(波長750nm〜1,000,000nm)の中の短波長側は近赤外線(又は近赤外光、波長750nm〜3000nm)と呼ばれ、リモコンなどのワイヤレス通信をはじめ様々な産業に使われており、生体計測の分野でも良く使われている。赤外線の良い点は、生体の吸収、散乱が少ないため、生体内部を計測するのに良い点である。近赤外光の中でも最も短波長側(波長750nm〜1200nm, SWNIR: Short Wave Near Infraredとも呼ばれる)は生体への吸収が特に低く、俗に「生体における光の窓」などと呼ばれ、様々な生体計測に利用されている。生体計測は生体内部の情報を生体外に取り出す(出力、診断)方法ではあり、本発明は生体外より生体内に情報を送り込む(入力、治療)の方法である。方向性は違うが、同じ赤外光という媒体を使うことができる。安全性に関しては、赤外線のうちでも波長が1000nm付近の近赤外線は生体への吸収が低いため、安全性が高いといわれている。また、間欠的に光るパルスレーザーを使えば、高出力でも低侵襲であることが知られている。
【0065】
そこで、具体的には以下のように実施形態を想定することができる。チャネルロドプシン−2は460nm付近に吸収の最大値があるから、その倍の波長(920nm)付近の強いパルスレーザーを使い、スキャンすれば、頭骸骨の外から脳内のチャネルロドプシンを活性化できる。
【0066】
レーザースキャンはプロジェクタとは違うが、「光の映像を投影する機械」の一種である。多色のレーザーを操作することにより、プロジェクタと同じに使うことができることが理解される。
【0067】
また、必ずしも外から当てる必要は無く、手術しているときにその場で照射することも可能である。そのような場合は、手術時に適した形状または照射方法を利用する。そのような照射方法は当該分野において耕地の手法を用いることができることが理解される。
【0068】
本明細書において生物の「制御」とは、生物学においては,生物の示す多様な調和的適合作用をいう。細胞・組織・器官・個体・個体群,またそれら相互のレベルにわたって広範な概念を含む。
【0069】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の最良の形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0070】
(組織再生技術)
1つの局面において、本発明は、光反応によって状態が変化する性質を有する細胞を含む、組織再生のための組成物を提供する。この技術によって、移植した細胞が自主的にネットワーク構築することを期待する、という受動的な再生方法ではなく、移植した細胞を自在にコントロールすることによって自在の再生方法を達成できる。また、神経細胞等では、意味のある機能的ネットワークも、この能動的な再生方法によって達成できることが理解される。
【0071】
本発明の細胞が起こし得る性質の変化の代表例としては、図1に示されるように、神経細胞を例に取ると、一つは光反応により軸索を伸長すること、もう一つは光反応により細胞間にシナプスを形成することである(図3を参照)。軸索とは、ある神経細胞から他の細胞(別の神経細胞や、筋肉などを含む)へと伸びる細長い突起のことで、情報を伝達する導線の役割をする。シナプスとは、ある神経細胞と他の細胞との間にできる特殊な接点で、この接点ができることにより情報伝達が可能となる。したがって、光を当てることにより、ある神経細胞から別の神経細胞へと向かい軸索を伸長させ、更にシナプスを形成させます。2つの神経細胞を2つのCPUに例えると、光を当てることにより、片方のCPUから導線が延び、もう一つのCPUの特定の足にハンダ付けできるようなイメージである。
【0072】
筋肉または皮膚などでも、単に増えるだけでなく、形態変化したり、移動したり、細胞間の相互作用が強化されれば、使える局面が存在することから、光により状態が変化する性質の細胞であれば、任意の細胞が使用されることが理解される。
【0073】
本発明の組織再生技術において使用される細胞における状態の変化は、組織再生に適切な変化であれば、どのようなものであってもよいことが理解される。
【0074】
たとえば、1つの実施形態では、状態の変化は、細胞死、形態変化、移動、細胞間相互作用の変化、分化および増殖などの細胞における任意のパラメータの変化であり得る。ここで、形態変化とは、細胞の形状が変化することをいう。移動とは、細胞の位置が変動することをいう。細胞間相互作用とは、細胞と細胞との間の相互作用をいい、有体物の他無体物および概念も含む。したがって、情報学的に異なるか、または相対的な位置が変動することもこの細胞間相互作用の変化に含まれることが理解される。ここで、たとえば、分化とは、細胞の状態について言及するとき機能および形態が特殊化することをいう。分化した細胞は、多能性を減ずるかまたは消失させる。
【0075】
1つの実施形態において、本発明において使用される細胞は、組織再生に使用される細胞であり得る。このような細胞は、組織再生に使用される細胞である限り、如何なる細胞であってもよいことが理解される。そのような細胞としては、たとえば、分化能を有する細胞が挙げられるがそれらに限定されない。
【0076】
好ましい実施形態において、本発明において使用される細胞は、神経細胞である。好ましくは、この細胞は、天然で光反応によって状態が変化する性質を有するか、または天然で該性質を有しない細胞を変換することにより光反応によって状態が変化する性質を有するよう変換された細胞である。このような変換は、当該分野において公知の任意の手法によって実現することができ、たとえば、形質転換、形質導入、トランスフェクション、変異誘発等を挙げることができる。
【0077】
好ましい実施形態では、本発明において使用される細胞は、光反応によって状態が変化する性質を有するように、一過的に形質転換される。このような一過性の形質転換は、ClontechのRetro−X Systemなどのキットを用いて達成することができ、J. Virol., Dec 1997, 9557−9562, Vol 71, No. 12などを参酌することによって実現することができる。
【0078】
1つの実施形態において、上記変換は、光応答性タンパク質をコードする核酸を用いた形質転換により達成される。別の実施形態では、光に応答する生体物質であれば、タンパク質以外のものでも利用することができる。そのようなタンパク質以外の生体物質の例としては、たとえば、脂質、糖質を挙げることができる。赤外線などを使い生体計測ができるということは光と何らかの相互作用をすることから、反対に光を当てれば生体に何らかの作用を及ぼすことはできる。
【0079】
1つの実施形態において、光応答性タンパク質は、Gタンパク質結合光受容体、陽イオンチャネルまたは陰イオンチャネルなどを挙げることができる。
【0080】
1つの実施形態において陽イオンチャネルは、チャネルロドプシン−1、チャネルロドプシン−2、オプシン、赤オプシン、緑オプシン、青オプシン、UVオプシン、ピノプシン等を挙げることができる。
【0081】
(システム)
別の局面において、本発明は、所望の場所で組織再生を行うためのシステムを提供する。このシステムは、A)光反応によって状態が変化する性質を有する細胞とB)該所望の場所に光を提供する光源とを備える。この技術によって、移植した細胞が自主的にネットワーク構築することを期待する、という受動的な再生方法ではなく、移植した細胞を自在にコントロールすることによって自在の再生方法を達成できる。また、神経細胞等では、意味のある機能的ネットワークも、この能動的な再生方法によって達成できることが理解される。このような方法を実現するシステムは、まさに、再生治療器として有用性が期待される。
【0082】
1つの実施形態では、上記状態の変化は、組織再生に適切な変化である。そのような細胞の状態の変化としては、細胞死、形態変化、移動、細胞間相互作用の変化、分化および増殖などを挙げることができる。たとえば、神経細胞の場合、適切な細胞死、分化および増殖がなされることによって、所望の神経ネットワークを構築することができる。
【0083】
別の実施形態では、本発明において使用される細胞は、組織再生に使用される細胞である。このような細胞は、組織再生に使用される細胞である限り、如何なる細胞であってもよいことが理解される。そのような細胞としては、たとえば、分化能を有する細胞が挙げられるがそれらに限定されない。1つの具体的な実施形態では、この細胞は、神経細胞である。
【0084】
好ましくは、本発明のシステムにおいて使用される細胞は、天然で光反応によって状態が変化する性質を有するか、または天然で該性質を有しない細胞を変換することにより光反応によって状態が変化する性質を有するよう変換された細胞である。このような変換は、当該分野において公知の任意の手法によって実現することができ、たとえば、形質転換、形質導入、トランスフェクション、変異誘発等を挙げることができる。本発明のシステムでは、天然の細胞と、このような変換を実現する手段(たとえば、形質転換を実施するための試薬を含むキット)とを備えていてもよい。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明のシステムにおいて使用される細胞は、光反応によって状態が変化する性質を有するように、一過的に形質転換される。このような一過性の形質転換は、ClontechのRetro−X Systemなどのキットを用いて達成することができ、J. Virol., Dec 1997, 9557−9562, Vol 71, No. 12などを参酌することによって実現することができる。
【0086】
1つの実施形態において、上記変換は、光応答性タンパク質をコードする核酸を用いた形質転換により達成される。
【0087】
本発明において用いられる光応答性タンパク質は、本明細書に記載される任意のタンパク質を用いることができる。あるいは、別の実施形態では、光に応答する生体物質であれば、タンパク質以外のものでも利用することができる。そのようなタンパク質以外の生体物質の例としては、たとえば、脂質、糖質を挙げることができる。
【0088】
本発明において用いられる光源としては、所望の場所に光を提供することができる限り、如何なる光源を用いることができる。そのような光源としては、たとえば、プロジェクタ、赤外線レーザー、赤外線パルスレーザー等を挙げることができる。そのようなプロジェクタの一例としては、たとえば、コンピュータで出力が制御可能なプロジェクタを挙げることができるがそれに限定されない。
【0089】
本発明において使用される光源は、強度、強度幅または模様、色および時間等のパラメータの変化を有する刺激のパターンを形成することができる光源であり得る。
【0090】
したがって、本発明において用いられる光源は、所望の場所に特異的な照射を実現することができる限り、どのようなものであっても用いることができ、所望の場所における照射に適した形状を有していれば、どのような形状のものであっても用いることができることが理解される。
【0091】
1つの実施形態では、本発明の光源の形状としては、手術時における照射に適した形状を挙げることができる。たとえば、そのような形状としてはカテーテル、内視鏡等の形状を挙げることができるがそれに限定されない。
【0092】
1つの実施形態では、本発明において用いられる光源は、多光子励起法(multiphoton excitation)を実現する手段を含む。多光子励起とは、多数の光子が同時に用いられそれら光子が吸収され励起を起こす現象であり、2つの場合は、二つの光子が同時に分子に吸収され励起を起こす現象となる。2つの例にとって説明すると2光子励起といってもレーザーを二つ使う訳ではではなく、フェムト秒レーザー光では光が非常に短い(約100フェムト秒)パルスに圧縮されており、パルスの期間中は極端に強い光がでるところ、これをレンズで集光すると、焦 点では光の密度が異様に強くなり、通常起きることのない2光子吸収と励起が起きる。焦点以外では光の密度が十分でないために、2光子吸収は起きずレーザー光は標本を通り抜ける。こうして観察または反応に関係のない光の吸収をなくすことができる。また、2光子励起には近赤外の光を使うために組織のより深部まで浸透することから、観察または反応を深部において行うことができる。こうして、2光子励起等の多光子顕微鏡法は生体組織のやや深部における分子・細胞機構を見たり、または反応させることを実現する。
【0093】
1つの実施形態では、本発明において使用される多光子励起法は、エネルギーが半分の光子である2倍の波長の光を、同時に2個当てることにより光反応性タンパク質を励起することによって実現される。
【0094】
したがって、1つの実施形態では、上記手段は、赤外線レーザーを含む。
【0095】
別の実施形態では、上記手段は、750nm〜3000nm、たとえば、1000nm程度の波長の光を照射することができる。赤外線(波長750nm〜1,000,000nm)の中の短波長側は近赤外線(又は近赤外光、波長750nm〜3000nm)と呼ばれ、リモコンなどのワイヤレス通信をはじめ様々な産業に使われており、生体計測の分野でも良く使われている。赤外線の良い点は、生体の吸収、散乱が少ないため、生体内部を計測するのに良い。
【0096】
好ましい実施形態では、手段は、間欠的に光るパルスレーザーである。間欠的な光照射により、生体への影響が軽減されるからである。
【0097】
別の具体的な実施形態では、光応答性タンパク質は、チャネルロドプシン−2であり、前記手段は、920nm付近の強いパルスレーザーを照射することができる手段である。これにより、チャネルロドプシン―2を用いた場合のシステムが実現される。
【0098】
別の局面において、本発明は、所望のパターンを有するように組織再生を行うためのシステムであって、A)光反応によって状態が変化する性質を有する細胞とB)該光反応に対応する光源とC)該光源を所望のパターンに加工するための手段とを備える、システムを提供する。このシステムにおいても、本明細書において上記されているような任意の1または複数の特徴を有していてもよいことが理解される。
【0099】
1つの実施形態では、本発明において使用される光源を所望のパターンに加工するための手段は、赤外線レーザー、バーチャルマスク、リアルマスク、フィルタおよびプロジェクタのスクリーン等を挙げることができるがそれに限定されない。
【0100】
1つの実施形態では、本発明において対象となる組織は、神経であり、細胞はチャネルロドプシン−2で形質転換された神経細胞であり、光源は、青色光源であり、手段は、神経系パターンである。あるいは、この手段は、920nm付近の強いパルスレーザーを照射することができる手段であってもよい。
【0101】
1つの実施形態では、上記神経細胞は、青色の光の照射により神経ネットワークを作るように活性化されてもよい。
【0102】
別の局面において、本発明は、光応答性の生物を制御する方法を提供する。この方法は、 該光応答性の生物が応答する波長の光を、該制御に適した様式で該光応答性の生物に照射する工程を包含する。このような方法は、任意の形態において実施することができることが理解される。
【0103】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、実施例のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA)、和光純薬などから市販されるものを用いることができる。
【0105】
(実施例1:青色光でチャネルロドプシン-2を開けることができることを示す実験)
サンプル: チャネルロドプシン-2を強制発現した細胞
照 射: 顕微鏡下で青色光(460nm付近)で照射
観 察: 顕微鏡で細胞の形態変化の観察や、蛍光カルシウム指示薬を使用したカルシウムイメージングなどで、レーザー照射により変化を検出できるかどうかを観察。
【0106】
(チャネルロドプシン-2を強制発現した細胞の調製)
チャネルロドプシン-2を強制発現した細胞は、Ishizuka et al., Neurosci. Res.54 (2006) 85-94に記載される方法によって、調製する。具体的には、配列番号1に記載されるチャネルロドプシン―2(配列番号1)を用いて、適切なベクター(たとえば、pDsRed2−N1 (Clontech))にクローニングする。これをたとえば、所望の神経細胞またはPC12細胞にトランスフェクトして、チャネルロドプシン-2を強制発現した細胞を調製する。
【0107】
蛍光イメージの世界の手法と同様の手法を用いて、多光子励起法が適応することができる。
B)青色光により神経再生できることを示す。
【0108】
図2は、本実施例において使用される神経ネットワーク化のための光学系の1例を示す。図2に例示したコンピューター出力用のプロジェクタを用いて、「多彩な強度や模様、色を有する刺激の微細な時空間パターン」を持つ光刺激を作ることができる。その光特性は、
1) 波長:任意の可視光(300-700nm)
2) 強度幅:任意
3) 空間配置:任意
4) 空間分解能:≦5 μm
5) 時間変化:任意
6) 時間分解能:〜10 ms
である。
【0109】
条件検討: レーザーとサンプルの間に動物の頭骸骨や組織切片をはさみ、上記と同様の実験を行う。レーザー出力と骨や組織の種類、厚さの関係などを調べ、現在の技術でどの程度透過性があるかを確認する。あるいは、手術時に行なうことができる。Ishizuka et al の論文によると、光を当てたとき約2ms、の時定数をもつ指数関数で反応し、光を消したときの復帰は約6msの時定数をもつ指数関数で反応すると考えられる。従って、約10msで応答すると考えてよい。
【0110】
このようにして、本発明は、脳における神経系を任意の再生することができることが実証される。
【0111】
(実施例2:多光子励起法でチャネルロドプシン-2を開けることができることを示す実験)
サンプル: チャネルロドプシン-2を強制発現した細胞
照 射: 顕微鏡下で赤外線パルスレーザーを使い多光子励起の方式で照射
観 察: 顕微鏡で細胞の形態変化の観察や、蛍光カルシウム指示薬を使用したカルシウムイメージングなどで、レーザー照射により変化を検出できるかどうかを観察。
【0112】
(チャネルロドプシン-2を強制発現した細胞の調製)
チャネルロドプシン-2を強制発現した細胞は、Ishizuka et al., Neurosci. Res.54 (2006) 85-94に記載される方法によって、調製する。具体的には、配列番号1に記載されるチャネルロドプシン―2(配列番号1)を用いて、適切なベクター(たとえば、pDsRed2−N1 (Clontech))にクローニングする。これをたとえば、所望の神経細胞またはPC12細胞にトランスフェクトして、チャネルロドプシン-2を強制発現した細胞を調製する。
【0113】
蛍光イメージの世界の手法と同様の手法を用いて、多光子励起法が適応することができる。
B)多光子励起法で頭骸骨を透過して照射できることを示す。
【0114】
図2は、本実施例において使用される神経ネットワーク化のための光学系の1例を示す。図2に例示したコンピューター出力用のプロジェクタを用いて、「多彩な強度や模様、色を有する刺激の微細な時空間パターン」を持つ光刺激を作ることができる。その光特性は、
1) 波長:任意の赤外線光(750-3000nm)
2) 強度幅:任意
3) 空間配置:任意
4) 空間分解能:≦5 μm
5) 時間変化:任意
6) 時間分解能:〜13 ms
である。
【0115】
条件検討: レーザーとサンプルの間に動物の頭骸骨や組織切片をはさみ、上記と同様の実験を行う。レーザー出力と骨や組織の種類、厚さの関係などを調べ、現在の技術でどの程度透過性があるかを確認する。
【0116】
このようにして、本発明は、脳における神経系を任意の再生することができることが実証される。
【0117】
(実施例3:脳以外の神経)
次に、本発明は、脳だけではなく、色々な組織での神経(末梢神経)での適応ができることを示す。
【0118】
幾つかの神経が存在する組織(四肢など)で試みる。どの組織のとき、どの程度の厚みまで透過できるかについて検討する。検討した結果を用いて、種々の再生手法を実現することができる。
【0119】
なお、表面に存在する神経であれば、青色光法では、行なうことが可能であり、生体深部まで届かせるために多光子励起法を用いてもよい。詳細な条件は、レーザー出力や、波長、パルス幅(模様)、集光、など細かい条件により透過度を変化させることによって、任意の実現する条件を選定することができる。
【0120】
(実施例4:脳以外の組織)
次に、本発明は、脳だけではなく、色々な組織での適応ができることを示す。
【0121】
幾つかの組織(骨、脳、皮膚など)で試みる。どの組織のとき、どの程度の厚みまで透過できるかについて検討する。検討した結果を用いて、種々の再生手法を実現することができる。
【0122】
なお、多光子励起法では、生体深部まで届くことは、理論的にも実験的にも確立していることであるから、現在の技術である程度までは照射できる。詳細な条件は、レーザー出力や、波長、パルス幅(模様)、集光、など細かい条件により透過度を変化させることによって、任意の実現する条件を選定することができる。
【0123】
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、神経(脳)の再生医療だけでなく、その他の移植器官、例えば、移植皮膚と神経患者本人の神経を接続する方法としても、活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1は、本発明を図解したものである。例えば、青色光で開口する陽イオンチャネルであるchannel rhodopsin・2を強制発現させた神経細胞を作成する(例示的な方法は、非特許文献1を参照)。この神経細胞は、青色照射に反応して興奮状態になり、その結果、神経軸索の伸張とシナプス形成が促進される。すなわち、青色を照射することにより、神経細胞間を接続して機能的神経細胞ネットワークを構築することができる。次に、患者の神経機能を回復するために必要な部位に、上記の神経細胞を注入する。最後に、コンピューターで作成した光パターンをコンピューター出力用プロジェクターを用いて必要な部位に照射し、神経細胞を活性化し、神経細胞間を接続して、機能的神経ネットワークを誘導する。
【図2】図2は、神経ネットワーク化のための光学系の1例を示す。図2に例示したコンピューター出力用のプロジェクタを用いて、「多彩な強度や模様幅、色を有する刺激の微細な時空間パターン」を持つ光刺激を作ることができる。その光特性は、:1) 波長:任意の可視光(300-700nm)2) 強度幅:任意3) 空間配置:任意4) 空間分解能:≦5 μm5) 時間変化:任意6) 時間分解能:〜10 msである。
【図3】図3は、本発明による軸索誘導およびシナプス形成の模式図を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0126】
チャネルロドプシン―2の配列(AF461397)DNA及びアミノ酸配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反応によって状態が変化する性質を有する細胞を含む、組織再生のための組成物。
【請求項2】
前記状態の変化は、前記組織再生に適切な変化である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記状態の変化は、細胞死、形態変化、移動、細胞間相互作用の変化、分化および増殖からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記細胞は、組織再生に使用される細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記細胞は、神経細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記細胞は、天然で前記性質を有するか、または天然で該性質を有しない細胞を変換することにより前記性質を有するよう変換された細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記細胞は、前記性質を有するように一過的に形質転換される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記変換は、光応答性タンパク質をコードする核酸を用いた形質転換により達成される、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記光応答性タンパク質は、Gタンパク質結合光受容体、陽イオンチャネルまたは陰イオンチャネル、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記光応答性タンパク質は、陽イオンチャネルであり、該陽イオンチャネルは、チャネルロドプシン−1、チャネルロドプシン−2、オプシン、赤オプシン、緑オプシン、青オプシン、UVオプシンまたはピノプシンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
所望の場所で組織再生を行うためのシステムであって、
A)光反応によって状態が変化する性質を有する細胞と
B)該所望の場所に光を提供する光源と
を備える、システム。
【請求項12】
前記状態の変化は、前記組織再生に適切な変化である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記性質の変化は、細胞死、形態変化、移動、細胞間相互作用の変化、分化および増殖からなる群より選択される、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記細胞は、組織再生に使用される細胞である、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記細胞は、神経細胞である、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記細胞は、天然で前記性質を有するか、または天然で該性質を有しない細胞を変換することにより前記性質を有するよう変換された細胞である、請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
前記細胞は、前記性質を有するように一過的に形質転換される、請求項11に記載のシステム。
【請求項18】
前記変換は、光応答性タンパク質をコードする核酸を用いた形質転換により達成される、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記光応答性タンパク質は、Gタンパク質結合光受容体、陽イオンチャネルまたは陰イオンチャネル、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記光応答性タンパク質は、陽イオンチャネルであり、該陽イオンチャネルは、チャネルロドプシン−1、チャネルロドプシン−2、オプシン、赤オプシン、緑オプシン、青オプシン、UVオプシンまたはピノプシンである、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記光源は、プロジェクタである、請求項11に記載のシステム。
【請求項22】
前記光源は、コンピュータで出力が制御可能なプロジェクタである、請求項11に記載のシステム。
【請求項23】
前記光源は、強度、模様、色および時間からなる群より選択されるパラメータの変化を有する刺激のパターンを形成することができる、請求項11に記載のシステム。
【請求項24】
前記光源は、前記所望の場所における照射に適した形状を有する、請求項11に記載のシステム。
【請求項25】
前記形状は、手術時における照射に適した形状である、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記光源は、前記所望の場所に特異的な照射を実現する、請求項11に記載のシステム。
【請求項27】
前記光源は、多光子励起法を実現する手段を含む、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記多光子励起法は、エネルギーが半分の光子である2倍の波長の光を、同時に2個当てることにより前記光反応性タンパク質の反応を励起することによって実現される、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記手段は、赤外線レーザーを含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記手段は、750nm〜3000nmの波長の光を照射することができるものである、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記手段は、間欠的に光るパルスレーザーである、請求項27に記載のシステム。
【請求項32】
前記光応答性タンパク質は、チャネルロドプシン−2であり、前記手段は、920nm付近の強いパルスレーザーを照射することができる手段である、請求項27に記載のシステム。
【請求項33】
所望のパターンを有するように組織再生を行うためのシステムであって、
A)光反応によって状態が変化する性質を有する細胞と
B)該光反応に対応する光源と
C)該光源を所望のパターンに加工するための手段と
を備える、システム。
【請求項34】
請求項12〜32に記載の1または複数の特徴を有する、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記光源を所望のパターンに加工するための手段は、赤外線レーザー、レーザスキャン、バーチャルマスク、リアルマスク、フィルタおよびプロジェクタからなる群より選択される、請求項33に記載のシステム。
【請求項36】
前記組織は、神経であり、前記細胞はチャネルロドプシン−2で形質転換された神経細胞であり、前記光源は、青色光源であり、前記手段は、神経系パターンである、請求項33に記載のシステム。
【請求項37】
前記神経細胞は、青色の光の照射により神経ネットワークを作るように活性化される、請求項33に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−162983(P2008−162983A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356525(P2006−356525)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】