説明

プロセシングされていない及び部分的にプロセシングされたA型ニューロトキシンを測定するためのシステム

本発明は、ニューロトキシンの製造過程における品質管理及び安全性のためのツールに関する。特に本発明は、プロセシングされたボツリヌスニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)並びに部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aを含む溶液中の、部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量を測定する方法であって、該溶液のサンプルを、部分的にプロセシングされたBoNT/A及びプロセシングされていないBoNT/Aと特異的に結合する捕捉抗体と、該抗体と該部分的にプロセシングされたBoNT/A及びプロセシングされていないBoNT/Aとの結合を可能にする条件下で接触させ、それにより複合体が形成されるステップと、形成された複合体の量を測定し、それにより該複合体の量が上記溶液中の部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量を示すステップとを含む方法に関する。さらに本発明は、上記方法を実施するためのデバイス及びキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューロトキシンの製造過程における品質管理及び安全性のためのツールに関する。特に本発明は、プロセシングされたニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)並びに部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aを含む溶液中の、部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量を測定する方法であって、該溶液のサンプルを、部分的にプロセシングされたBoNT/A及びプロセシングされていないBoNT/Aと特異的に結合する捕捉抗体と、該抗体と該部分的にプロセシングされたBoNT/A及びプロセシングされていないBoNT/Aとの結合を可能にする条件下で接触させ、それにより複合体が形成されるステップと、形成された複合体の量を測定し、それにより該複合体の量が上記溶液中の部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量を示すステップとを含む方法に関する。さらに本発明は、上記方法を実施するためのデバイス及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)及び破傷風菌(Clostridium tetani)は、極めて強力なニューロトキシン(神経毒)、すなわちボツリヌストキシン(BoNT)及び破傷風トキシン(TeNT)をそれぞれ産生する。これらのクロストリジウムニューロトキシンは、神経細胞に特異的に結合して、神経伝達物質の放出を破壊する。該トキシンは各々、不活性のプロセシングされていない約150 kDaの一本鎖タンパク質として合成される。翻訳後プロセシングは、ジスルフィド架橋の形成、及び細菌プロテアーゼによる限定的なタンパク質分解(ニッキング)を含む。活性ニューロトキシンは、ジスルフィド結合によって連結された2つの鎖、すなわち約50 kDaのN末端軽鎖と、約100 kDaのC末端重鎖から構成されている。ニューロトキシンは、構造及び機能上、3つのドメイン、すなわち触媒性軽鎖、輸送(translocation)ドメインを含む重鎖のN末端半分、及び受容体結合部位を含む重鎖のC末端半分から構成されている(Krieglstein 1990, Eur J Biochem 188, 39; Krieglstein 1991, Eur J Biochem 202, 41; Krieglstein 1994, J Protein Chem 13, 49を参照)。ボツリヌスニューロトキシンは、150 kDaニューロトキシンタンパク質と、関連する非毒性複合化タンパク質とを含む分子複合体として合成される。上記複合体の大きさは、クロストリジウム菌株、及び異なるニューロトキシン血清型に応じて異なり、300 kDaから500 kDa以上、900 kDaまでの範囲である。上記複合体中の非毒性複合化タンパク質は、ニューロトキシンを安定化して、これを分解から保護する(Silberstein 2004, Pain Practice 4, S19-26を参照)。
【0003】
ボツリヌス菌は、A型〜G型と呼ばれる、抗原が異なる7つの血清型のニューロトキシンを分泌する。破傷風菌によって分泌される関連TeNTを含むすべての血清型が、Zn2+エンドプロテアーゼであり、これらは、SNAREタンパク質を切断することによってシナプスエキソサイトーシスを阻止する(Couesnon, 2006, Microbiology, 152, 759を参照)。CNTは、ボツリヌス中毒症及び破傷風にみられる弛緩性筋肉麻痺を引き起こす(Fischer 2007, PNAS 104, 10447を参照)。
【0004】
その毒作用にもかかわらず、ボツリヌストキシン複合体は、多数の疾患において治療薬として用いられている。ボツリヌストキシン血清型A(BoNT/A)は、1989年に米国で、斜視、眼瞼痙攣、及びその他の障害の治療のためにヒトへの使用が承認されており、それゆえ特に重要性がある。これは、BoNT/Aタンパク質製剤として、例えば、商標BOTOX(Allergan Inc)又は商標DYSPORT(Ipsen Ltd)で市販されている。複合化タンパク質を含まない改良BoNT/A製剤は、商標XEOMIN(Merz Pharmaceuticals GmbH)で市販されている。治療用途では、上記の製剤を、治療しようとする筋肉に直接注射する。生理学的pHで、上記トキシンはタンパク質複合体から放出されて、所望の薬理学的効果が発揮される。ボツリヌストキシンの効果は一時的に過ぎないことから、治療効果を維持するために、ボツリヌストキシンの反復投与が必要な場合もある。
【0005】
クロストリジウムニューロトキシンは、筋収縮を弱くし、斜視、頸部ジストニアなどの限局性筋失調症、及び良性本態性眼瞼痙攣の有効な治療薬である。さらに、これらは、片側顔面痙攣、及び焦点性痙攣を軽減することが示されており、他の多様な適応症、例えば、胃腸障害、多汗症、及び美容上のしわ取りにも有効であることがわかっている(Jost 2007, Drugs 67, 669を参照)。
【0006】
クロストリジウムニューロトキシンの製造プロセスにおいては、活性ニューロトキシンポリペプチドの質と量の測定及び品質管理が特に重要である。現在入手可能なニューロトキシン製剤は、所望の活性(プロセシングされた、すなわち成熟)ニューロトキシンに加えて、タンパク質分解によりプロセシングされていない前駆体及び/又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドを種々の量で含む。タンパク質分解によりプロセシングされていない前駆体又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドは、わずか数個のアミノ酸で、成熟(活性の、プロセシングされた)ニューロトキシンポリペプチドとは異なる。従って、これらを、その化学的及び物理的特性に基づいて量的に区別するのはほぼ不可能である。これに対し、全タンパク質含量のうちのタンパク質分解によりプロセシングされていない前駆体及び/又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの部分は、上記製剤中で依然として大きな影響を与える可能性がある、すなわち製剤の比活性に関連する可能性がある。
【0007】
製剤中の全ニューロトキシン含量を測定するアッセイは当技術分野で周知である。これらのアッセイは、Immuno-PCR又はサンドイッチELISAに基づいている(Lindstrom 2006, Clin Microbiol. Rev. 19(2): 298-314; Volland 2008, J Immunnol Methods 330(1-2): 120-129)。しかし、上述したように、望ましくない部分的にプロセシングされた又はプロセシングされていないニューロトキシンの含量は、全ニューロトキシン含量をアッセイするこれらの技術を使用することによって測定することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、製剤中の部分的にプロセシングされた又はプロセシングされていないニューロトキシン分子、特にはBoNT/A分子の含量を測定するための手段及び方法はまだ利用可能ではないが、非常に望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
それゆえ本発明は、プロセシングされたニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)並びに部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aを含む溶液中の、部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量を測定する方法であって、以下のステップ:
(i)該溶液のサンプルを、部分的にプロセシングされたBoNT/A及びプロセシングされていないBoNT/Aと特異的に結合する捕捉抗体と、該抗体と該部分的にプロセシングされたBoNT/A及びプロセシングされていないBoNT/Aとの結合を可能にする条件下で接触させ、それにより複合体が形成されるステップと、
(ii)ステップ(i)で形成された複合体の量を測定し、それにより該複合体の量が上記溶液中の部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量を示すステップと
を含み、上記捕捉抗体が、以下のステップ:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列(TKSLDKGYNKA)を含むペプチド免疫原により免疫された動物由来のポリクローナル抗血清を、次の捕捉ペプチドSLD、LDK及びYNKと、該ポリクローナル抗血清に含まれる非特異的抗体及び該捕捉ペプチドを含む捕捉複合体の形成を可能にする条件下で接触させるステップ、
(b)上記捕捉複合体をポリクローナル抗血清から除去するステップ、
(c)ポリクローナル抗血清を、配列番号1を含む又はそれから本質的になるペプチドと、上記ペプチドとプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと特異的に結合する抗体とを含む複合体の形成を可能にする条件下で接触させるステップ、
(d)ステップ(c)で形成された複合体を上記抗血清から取り出すステップ、
(e)プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと特異的に結合する抗体を、上記複合体から遊離させるステップ
を含む方法により得られるものである、上記方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法は、全体的に又は少なくとも部分的に自動化により補助することできる。そのような自動化には、ロボットデバイス、並びに上記溶液中の上記部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量の測定に好適なアルゴリズムを実装したコンピュータシステムが含まれる。さらに本発明の方法は、ステップ(i)とステップ(ii)の前、その後、又はその間に追加のステップを含んでもよい。そのような追加のステップとしては、一態様において、サンプル前処理ステップ、洗浄又は精製ステップ、並びにデータマイニングステップが挙げられる。一態様において、さらなるステップには、以下の実施例において記載するステップが含まれる。
【0011】
本明細書において使用する「部分的にプロセシングされたニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)及びプロセシングされていないニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)」という用語は、まだ成熟ではない、すなわち一本鎖前駆体から成熟二本鎖ポリペプチドへとプロセシングされていないか又は部分的にしかプロセシングされていない、ニューロトキシン血清型Aポリペプチドを指す。BoNT/Aは、ボツリヌスニューロトキシンの7つの血清型のうちの1つである。これは一本鎖前駆体分子として産生され、これが翻訳後にタンパク質分解によりプロセシングされる。一本鎖分子は、N末端軽鎖、リンカーペプチド、及びC末端重鎖を含む。一本鎖分子のタンパク質分解プロセシングの過程において、リンカーペプチドが切除されて、リンカーペプチドを欠損する重鎖及び軽鎖を含む成熟二本鎖分子が生成される。従って、リンカーペプチドは、2つのプロテアーゼ切断部位に挟まれている。それゆえ、タンパク質分解活性化のプロセスにおいて、部分的にプロセシングされた分子が生じることがある。これらの部分的にプロセシングされた分子は、隣接するプロテアーゼ切断部位の一方でのみ切断されて、リンカーペプチドが依然として重鎖又は軽鎖のいずれかと連結している状態である。そのような分子は、本発明の目的で、部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドと称する。
【0012】
正しいプロセシングの結果として、「プロセシングされたBoNT/A」が得られる。このプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドは、ニューロトキシンに特有の生物学的特性、すなわち(a)受容体との結合、(b)内在化、(c)エンドソーム膜を介した細胞質ゾルへの軽鎖の輸送、及び/又は(d)シナプス小胞膜融合に関与するタンパク質の細胞内タンパク質分解切断を呈示する。従って、プロセシングされたBoNT/Aポリペプチドは、本明細書において、活性又は成熟ニューロトキシンポリペプチドと呼ぶこともある。一態様では、生物学的活性は、前述した生物学的特性全ての結果として生じるものである。生物学的活性を評価するためのin vivoアッセイとしては、Pearce及びDressierによって記載されているように、マウスLD50アッセイ及びex vivoマウス半横隔膜アッセイがある(Pearce 1994, Toxicol Appl Pharmacol 128: 69-77及びDressier 2005, Mov Disord 20:1617-1619)。生物学的活性は、一般に、マウスユニット(MU)で表される。本明細書で用いる1MUは、腹腔内注射後に規定マウス集団の50%を死滅させるニューロトキシン成分の量、すなわちマウスi.p.LD50である。
【0013】
一態様において、BoNT/Aは、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)のHall株から得られ、さらなる態様において、Beecher 1997, J Protein Chem 16: 701-712又はKrieglstein 1994, J Protein Chem 13: 49-57に開示されているような構造(すなわちアミノ酸配列)を有する。さらに、BoNT/Aのアミノ酸配列及びそれをコードする核酸配列は、それぞれGenBankアクセッション番号ABD65472.1若しくはGI:89258592に見出されるか、又は配列番号2若しくは3に示されている。リンカーペプチドに隣接するプロテアーゼ切断部位は、一態様において、アミノ酸K438/T439の間及びK448/A449の間にある。従って、リンカーペプチドは、アミノ酸T439〜アミノ酸K448から本質的になる。
【0014】
しかしながら、本発明の方法には、上記BoNT/Aの変異体も包含される。該変異体は、一態様において、配列番号2に示されるBoNT/Aのアミノ酸配列又は配列番号3によりコードされるアミノ酸配列と比較して、少なくとも1個のアミノ酸付加、置換及び/又は欠失を含むアミノ酸配列を有するニューロトキシンポリペプチドである。また別の態様では、変異体ニューロトキシンは、配列番号2に示されるBoNT/Aのアミノ酸配列又は配列番号3によりコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも40%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。上記アミノ酸配列は、プロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。対応する部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの配列は、本明細書の他の箇所で示す切断部位及びリンカーペプチドに関する情報によって、上記配列から推定することができる。本発明の別の態様では、変異体BoNT/Aポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列又は配列番号3のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。本発明において用いられる「同一性」とは、最大級のマッチが得られるように配列をアライメントした場合のアミノ酸配列同士の配列同一性を指す。これは、コンピュータープログラム、例えば、BLASTP、BLASTN、FASTA(Altschul 1990, J Mol Biol 215, 403)などに体系化されている公開技術又は方法を用いて達成することができる。同一性のパーセント値(%)は、一態様では、アミノ酸配列全体にわたって計算する。様々な配列を比較するために、当業者は、様々なアルゴリズムに基づく一連のプログラムが利用可能である。これに関して、Needleman及びWunsch、又はSmith及びWatermanのアルゴリズムにより、特に信頼性の高い結果が得られる。配列アライメントを実施するためには、GCGソフトウエアパケット(Genetics Computer Group 1991, 575 Science Drive, Madison, Wisconsin, USA 53711)の一部である、プログラムPileUp(1987, J Mol Evolution 25, 351; Higgins 1989 CABIOS 5, 151)又はプログラムGap及びBestFit(Needleman 1970, J Mol Biol 48; 443; Smith 1981, Adv Appl Math 2, 482)が用いられる。パーセント(%)で表す前記配列同一性の値は、本発明の一態様では、以下の設定値:ギャップ重み:50、長さ重み:3、平均マッチ:10,000及び平均ミスマッチ:0.000で、配列領域全体にわたってプログラムGAPを用いて決定する。これらは、特に記載のない限り、配列アライメントのための標準設定値として常に用いるものとする。
【0015】
前述した変異体が、本発明の一態様では、BoNT/Aの生物学的特性の少なくとも1つを保持するものもあれば、一態様では、BoNT/Aの生物学的特性の全てを保持するものもあることは理解されよう。さらなる態様では、部分的にプロセシングされた及びプロセシングされていない変異体BoNT/Aポリペプチドが、本発明の方法において使用される抗体と特異的に結合可能であることが想定される。一態様において、これは、リンカーペプチドにおける配列番号1を含むペプチド配列の存在によって達成することができる。
【0016】
別の態様では、BoNT/Aの変異体は、改善された又は改変された生物学的特性を有するニューロトキシンであってもよく、例えば、上記変異体は、酵素認識について改善された切断部位を含んでいてもよいし、又は受容体結合、若しくはその他の既に明記した特性について改善されたものであってもよい。
【0017】
一般的に、本発明の方法を改変することが想定される。なぜなら、本発明の基本的概念は、ニューロトキシンポリペプチドの軽鎖と重鎖の間の少なくとも1つの切断部位の存在に依拠するものであるが、切断部位及びそれらの間の特定のアミノ酸配列の性質は、本方法において使用される抗体が、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドを特異的に認識することができる限り、重要ではないと考えることもできるためである。従って、別の態様では、プロテアーゼ認識部位、及び/又は重鎖と軽鎖の間のリンカーペプチドが置換された変異体ニューロトキシンを使用する。この態様において使用される抗体は、リンカーペプチド又はそのエピトープと依然として特異的に結合することが理解されるだろう。
【0018】
また別の態様では、配列番号1を含むBoNT/Aのリンカーペプチドは、例えば核酸組換え技法によって、他のニューロトキシン血清型のリンカーに導入することができ、上記他の血清型のニューロトキシンのプロセシングされていないポリペプチド及び部分的にプロセシングされたポリペプチドの量を、本発明の方法を適用することによってサンプル中で測定することができる。
【0019】
本発明の方法で用いられる「量」という用語は、ポリペプチドの絶対量、該ポリペプチドの相対量又は濃度、並びにこれらと相関する又はこれらから導き出される任意の値又はパラメーターを包含する。
【0020】
本明細書で用いられる「溶液」という用語は、成熟BoNT/Aポリペプチドと、その部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチド前駆体を含む、任意の溶媒系を指す。該溶媒系はさらに溶媒を含む。本発明の様々な態様において、含まれる溶媒は、水、水性バッファー系、有機溶媒、及びイオン性液体である。本発明の一態様では、上記溶媒は、水性溶媒系である。さらに、該溶媒系は、成熟BoNT/Aポリペプチドと、部分的にプロセシングされたポリペプチド、又はプロセシングされていない前駆体ポリペプチド、及び溶媒以外に、別の分子、例えば別の細菌ポリペプチドなども同様に含んでもよい。一態様では、本発明の方法に使用する溶液は、細菌細胞培養物、又は該細菌細胞培養物から得られた部分的精製若しくは精製調製物である。
【0021】
本明細書において使用する「サンプル」という用語は、本発明の方法により調べる溶液の一部を意味する。サンプルはまた、BoNT/A、並びに部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/A前駆体を含むことが理解されよう。本発明の方法の一態様において、サンプルは、所定の量及び/又は所定の総タンパク質含量を有する。さらなる態様において、サンプルは、外部から供給された分子標準を含んでもよい。
【0022】
本発明の方法に従って用いられる溶液のサンプルと捕捉抗体との接触とは、該捕捉抗体と、上記サンプルに含まれる前述したプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチド及び/又は部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドとを、物理的に接近させて、物理的及び/又は化学的相互作用を可能にすることを指す。特異的な相互作用を可能にする好適な条件は、原則的には、当業者には周知である。こうした条件は、本発明の方法に使用する抗体及び溶液に応じて異なり、当業者が造作なく設計することができる。さらに、相互作用を可能にするのに十分な時間も、当業者が造作なく決定することができる。この時間は、本方法を実施する際の外因的要因、例えば温度、溶媒組成、pH値などに応じて異なることが理解されよう。さらには、本発明の方法で述べる接触の個々のステップの間に、接触に好適な条件を取得する目的で、洗浄ステップを実施してもよいことが理解されよう。例えば、ステップ(i)において複合体を形成後、残った溶液を除去した後に、該複合体に対する検出試薬を使用する。
【0023】
本発明の方法の一態様において、ステップ(i)の間に洗浄剤(detergent)が存在する。従って、ステップ(i)の前又はその間に、洗浄剤がサンプルに添加されることが想定される。好適な洗浄剤には、イオン性及び非イオン性洗浄剤が含まれる。一態様において、洗浄剤は非イオン性洗浄剤であり、また別の態様ではTween 20である。
【0024】
本発明の方法の一態様において、洗浄剤は、0.01%(v/v)〜10%(v/v)の範囲の濃度で存在する。さらなる態様において、該濃度は、0.2%(v/v)〜0.8%(v/v)の範囲、又は0.3%(v/v)〜0.6%(v/v)の範囲であり、また別の態様では、濃度は0.5%(v/v)である。
【0025】
本発明の方法の別の態様において、ステップ(i)における条件は、リン酸緩衝又はtris緩衝生理食塩水溶液の存在を含む。一態様において、生理食塩水溶液は、150〜350 mMの範囲の濃度でNaClを含む。また別の態様では、上記濃度は200〜300 mMの範囲であり、さらに別の態様では、濃度は250 mMである。
【0026】
本明細書で用いる「量を測定(決定)する」という用語は、定量的又は半定量的に、絶対量、相対量又は濃度を測定することに関する。測定は、ステップ(i)で形成された複合体の化学的、物理的又は生物学的特性に基づいて実施する。上記複合体の量は、直接的又は間接的に測定することができる。一態様において、形成された複合体と相互作用する検出試薬を使用する。検出試薬は、検出される複合体の量と相関し、従ってその量を測定することが可能となる、検出可能な標識を含むか又は検出可能な標識を生じる。一態様において、検出試薬は、複合体に存在する捕捉抗体、又はプロセシングされていないBoNT/A若しくは部分的にプロセシングされたBoNT/Aと結合する。従って、さらなる態様において、検出試薬は、捕捉抗体、又は部分的にプロセシングされたBoNT/A若しくはプロセシングされていないBoNT/Aのいずれか、あるいはその両者と、それらがステップ(i)において形成された複合体中に存在する場合には結合する、抗体、結合性ペプチド(例えばBoNT/A受容体若しくはその一部)、アプタマー、又は小分子化合物である。
【0027】
検出試薬は、一態様において、検出可能な標識を含む。一態様において、検出可能な標識は、蛍光又は化学発光特性を有し、従って、検出試薬の直接的な検出が可能となる。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びAlexa色素(例えば、Alexa 568)が挙げられる。また別の態様では、標識は放射性標識とすることができる。典型的な放射性標識としては、35S、125I、32P、33Pなどが挙げられる。さらに別の態様では、検出試薬は、例えば基質の変換などにより、検出可能なシグナルを生成することが可能な酵素活性を含むものであってもよい。典型的には、そのような酵素は、ペルオキシダーゼ(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ)、ホタルルシフェラーゼ、又はアルカリホスファターゼである。上述したタイプの標識は、検出試薬と直接(共有結合又は非共有結合により)結合させることができる。上記直接標識以外にも、本発明の方法の別の態様では、検出試薬は間接的に標識することができる。間接的標識は、検出試薬と特異的に結合することができかつ検出可能な標識を担持する作用剤の結合(共有結合又は非共有結合)を含む。そのような作用剤は、例えば、検出試薬と特異的に結合する二次(より高次の)抗体とすることができる。そのような場合、二次抗体を検出可能な標識と結合させる。検出複合体の検出のために、さらに高次の抗体をさらに用いることができることが理解されよう。高次抗体は、シグナルの増強のために用いられることが多い。好適な高次抗体には、市販の標識系、例えばストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)、Dako LSABTM2及びLSABTM+系(標識ストレプトアビジン−ビオチン)、又はDako PAP系(ペルオキシダーゼ抗ペルオキシダーゼ)なども含まれる。
【0028】
検出試薬に含まれる又はそれにより生じる検出可能な標識の量は、複合体の量と直接相関することが理解されよう。また、複合体の量は、測定しようとする分子種の量、すなわちサンプル中に存在するプロセシングされていないニューロトキシン分子及び/又は部分的にプロセシングされたニューロトキシン分子の量と相関する。さらに、サンプルは、溶液の代表的な部分であることが理解されよう。従って、サンプルについて測定されたプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチド及び/又は部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドの量は、溶液中に存在する量の指標となる。
【0029】
プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド及び部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの量の測定は、一態様では、所定量の該ポリペプチドを含む標準溶液を使用することによる、本方法の較正も必要とする。上記の較正を実施する方法は、当業者には周知である。一態様において、プロセシングされていないニューロトキシン及び/又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンの所定量が異なる2以上の上記標準溶液のサンプルについて本発明の方法を適用することにより複数回の測定を行う。
【0030】
従って、本発明の方法の一態様において、ステップ(ii)は、複合体の測定量を参照と比較することを含む。一態様において、参照は、上述した2以上の標準溶液から導かれる較正曲線である。比較の結果として、複合体の測定量を、所定量のプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチド及び/又は部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドに割り当てることが可能となる。
【0031】
プロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドは、プロテアーゼの切断部位に変異を有するBoNT/Aポリペプチド前駆体を発現するボツリヌス菌変異株から得ることができる。そのような変異株は、当技術分野で周知の標準的な分子生物学技法により作製することができる。さらに、プロセシングされていないBoNT/Aは、タンパク質分解切断によりBoNT/Aを活性化可能なプロテアーゼを欠損する大腸菌又は他の細菌において、組換えにより該BoNT/Aを発現させることによって得ることができる。別の態様において、プロテアーゼ活性が顕著に低減した又は該活性がなく、それゆえプロセシングされていないニューロトキシンしか産生しない変異株をスクリーニングするために、ボツリヌス菌細菌細胞又は他の発現系を変異させてもよい。
【0032】
本発明の方法は、部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及びプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドと特異的に結合する捕捉抗体を必要とする。そのような抗体は、一態様において、上で参照したステップ(a)〜(e)を含む上記方法によって得ることができる。本明細書において使用する用語はさらに以下で説明する。
【0033】
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト、ヒト化、霊長類化、若しくはキメラ化抗体、二重特異性抗体、合成抗体、化学的若しくは酵素的に修飾された誘導体、上記の抗体のいずれかのフラグメント、又は天然に存在する及び/若しくは化学的に修飾された核酸からなるアプタマーを包含する。上記の抗体のフラグメントには、F(ab’)2、F(ab)、Fv若しくはscFvフラグメント、又はこれらのフラグメントのいずれかの化学的若しくは酵素的に修飾された誘導体などが含まれる。本発明の抗体は、上記のペプチドが部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドに含まれるならば、上記のペプチドからなるエピトープと特異的に結合するであろう。
【0034】
「特異的に結合する」という用語は、本発明の抗体が、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド上の、若しくはプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド上の、又は他の一般的なポリペプチド上の他のエピトープと有意な程度まで交差反応しないことを意味する。本発明の一態様では、本発明の抗体は、活性のある完全にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと交差反応しない。エピトープ特異性は、本発明の抗体の重要な特徴である。プロセシングされたニューロトキシンと比較した、部分的にプロセシングされたニューロトキシン又はプロセシングされていないニューロトキシンに対する抗体の特異性は、一態様では、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%である。特異的結合は、例えば、競合試験又はSDS-PAGEのウエスタンブロット分析を含む様々な周知の技術によって試験し得る。他の重要な特徴は、抗体の感度である。感度は、本発明の一態様では、サンプルに含まれるプロセシングされたニューロトキシンの少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が結合するものである。感度は周知の技術によって試験し得る。当業者は、通常の実験を用いることによって、それぞれの測定のために有効かつ最適なアッセイ条件を決定することができるであろう。結合試験のための従来の技術としては、ラジオイムノアッセイ、ELISA、平衡透析、等温マイクロ熱量測定、BIACORE(登録商標)アッセイ(表面プラズモン共鳴、SPR)又は他の表面吸着法が挙げられる。本発明の抗体の感度などの結合特性は、原理的には、センサー表面上にある固定化された抗原(リガンド)を用いた結合試験によって測定しうる。試験対象の抗体(アナライト)は、移動相、すなわち溶液中に供給されるであろう。ある場合には、抗原は、捕捉分子と呼ばれる別の固定化分子への結合を介して間接的に表面に付着させる。抗体が固定化抗原を有する表面を横切る不連続なパルスで注入される場合、基本的に3つの段階に分類され得る。すなわち:(i)サンプル注入の間の抗体と抗原との結合;(ii)抗体結合速度と抗体‐抗原複合体からの解離が釣り合っている、サンプル注入の間の平衡状態又は定常状態;(iii)バッファーが流れる間の抗体の表面からの解離。このようなアッセイは、あるいは、調べる固定化された抗体、及び移動相として抗原含有溶液を用いて実施し得ることが理解されるであろう。結合段階及び解離段階は、アナライト-リガンド相互作用の反応速度論に関する情報(ka及びkd、複合体形成速度及び解離速度、kd/ka=KD)を提供する。平衡段階は、アナライト‐リガンド相互作用の親和性に関する情報(KD)を提供する。本発明の一態様では、本発明の抗体は0.5μM未満、一態様では0.05μM未満、別の態様では0.02μM未満のKDを有する。
【0035】
本発明の方法において使用される抗体は、一態様において、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及び/又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの高感度及び高特異度での検出を可能にし、一態様では、その検出限界は<1000 pg/mL、<300 pg/mL、<100 pg/mLであり、一態様では50〜80 pg/mLであり、また別の態様では69 pg/mLである。さらなる態様において、検出限界は、<30 pg/mL、<10 pg/mL、<3 pg/mLでさえあり、一態様ではおよそ1 pg/mL又は<1 pg/mLである。
【0036】
本発明において言及する抗体は、例えば、Harlow及びLane “Antibodies, A Laboratory Manual”, CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載された方法を用いることによって製造され得る。モノクローナル抗体は、もともとKohler 1975, Nature 256, 495、及びGalfre 1981, Meth Enzymol 73, 3に記載された技術によって調製され得る。その技術は、免疫された哺乳動物に由来する脾臓細胞とマウス骨髄腫細胞との融合を含む。抗体は、当技術分野において周知の技術によって更に改良することができる。例えば、BIACORE(登録商標)システムに用いられるような表面プラズモン共鳴は、タンパク質分解によりプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド中の上記のエピトープと結合するファージ抗体の効率を増加させるために使用することができる(Schier 1996, Human Antibodies Hybridomas 7, 97; Malmborg 1995, J. Immunol Methods 183, 7を参照のこと)。
【0037】
上記で用いられる「ペプチド免疫原」という用語は、非ヒト動物において免疫応答の誘導を可能にするような方法で与えられる、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドを指す。
【0038】
一態様において、配列番号1を有するペプチドは、当技術分野で公知のリンカー又は連結手法によりキャリアタンパク質と結合させる。
【0039】
別の態様では、その免疫原はKLHをさらに含む。さらなる態様では、そのKLHは、配列番号1を有するペプチドと、リンカーN-[γ-マレイミドブチリルオキシ] スクシンイミドエステル(GMBS)を介して結合させる。またさらなる態様では、そのKLHは、システインを介して、一態様ではC末端システインを介して、配列番号1を有するペプチドと、リンカーGMBSを介して結合させる。KLHをGMBSなどのリンカー分子によってペプチドと結合させる方法は、当技術分野において周知であり、又は以下の実施例に記載されている。
【0040】
別の態様において、オボアルブミンを免疫原として用いることができる。このオボアルブミンは、リンカーであるスルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC)を介して、システイン残基、一態様ではC末端システイン残基に架橋させうる。この態様において、上記システインがC末端に付加されている、配列番号1のアミノ酸X〜Yからなるペンタペプチドを使用することが想定される。
【0041】
別の態様では、非ヒト動物は哺乳動物であり、一態様ではラット、マウス、ウサギ、ヒツジ又はヤギである。本発明の方法を実施する前に、ポリクローナル抗血清の供与源となる非ヒト動物は、上記のペプチド免疫原を用いて免疫される。非ヒト動物を免疫する方法は、当技術分野において周知であり、下記の実施例に記載されている。免疫付与の結果として、非ヒト動物は、ペプチド免疫原に対するポリクローナル抗体を産生するであろう。
【0042】
ポリクローナル抗血清は、非ヒト動物から様々な方法によって採取し得る。一態様では、それは、血液、血清又は血漿から、当技術分野において周知の、また下記の実施例に記載される標準的な技術によって得られる。「ポリクローナル抗血清」という用語は、従って、動物から精製及び部分精製された血清を包含する。このようなポリクローナル抗血清は、上記の方法のための出発物質である。プロセシングされていないBoNT/Aポリペプチド及び/又は部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドと特異的に結合する望ましい1種以上の抗体に加えて、ポリクローナル抗血清は、プロセシングされていないBoNT/Aポリペプチド及び部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドと特異的に結合しない更なる抗体を含有しうる。
【0043】
これらの望ましくない交差反応性抗体は、ポリクローナル抗血清を、捕捉ペプチドSLD、LDK及びYNKと、ポリクローナル抗血清に含まれる非特異的抗体及び捕捉ペプチドを含む捕捉複合体の形成を可能にする条件下で接触させ、ポリクローナル抗血清から捕捉複合体を除去して、部分的に精製されたポリクローナル抗血清を得ることによって、所望の特異的抗体から分離する。上記捕捉ペプチドを本方法において使用することができ、一態様では、以下の実施例に開示されるそれらの誘導体の形態で使用することができる。
【0044】
部分的に精製されたポリクローナル抗血清は続いて、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するペプチドとまた接触させる。一態様において、そのペプチドは、本明細書の他の部分で詳細に記載されるようにキャリア上に固定化される。接触の結果として、ペプチド及び特異的抗体の複合体が形成され、それはその後残りのポリクローナル血清から取り出し得る。特異的抗体はその後、取り出された複合体から遊離させ得る。このような複合体から抗体を遊離させるための適切な方法は、本明細書の他の部分に記載される。
【0045】
一態様では、本方法のステップa)〜e)は、アフィニティクロマトグラフィーによって行われる。アフィニティクロマトグラフィーは、本発明において用いられる場合、移動相中の分子を、クロマトグラフィーで使用される固定相に対するそれらの異なるアフィニティに基づいて分離する技術を指す。一態様では、その技術は、選択的吸着及びそれに続く化合物の固定化リガンドからの回収を指す。別の態様では、その技術は、標的化合物を結合するためのビーズ状の多孔質マトリックス上の適切な選択的リガンドを用いた、タンパク質及び関連化合物の非常に特異的で効率的な精製のために設計されており、標的化合物はその後、穏やかな条件下で回収し得る。この技術は、抗原と抗体、酵素と基質、又は受容体とリガンドの間のような、非常に特異的な相互作用に基づく。別の態様では、アフィニティクロマトグラフィーはカラムクロマトグラフィーとして行われる。上記で詳細に特徴づけられたようなアフィニティクロマトグラフィーは、一態様では、免疫吸収体(immunoabsorber)クロマトグラフィー及び、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、逆相クロマトグラフィーであり、別の態様では、結合物質を利用したイムノアフィニティクロマトグラフィーであり、また更なる態様では、その結合物質は本発明の抗体である。本明細書において言及される固定相は、一態様では、固体マトリックスとして上記の物質で構成される。その物質は、一態様では、固体マトリックスに結合させたポリペプチドキャリアと結合し、別の態様では、固体マトリックスに結合させたプロテインAと結合する。
【0046】
本発明の方法を実施するために、捕捉抗体を固相支持体に共有結合又は非共有結合させてもよい。そのような固相支持体のための材料は当技術分野で周知であり、中でも、以下からなる群より選択される市販の多糖マトリックス:セファロース、セファデックス(sephadex);アガロース、セファセル(sephacell)、ミクロセルロース、及びアルギン酸ビーズ、ポリペプチドマトリックス、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス、プラスチック及び/又はシリコンチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウエル及び壁、プラスチックチューブが含まれる。本発明の一態様において、固相支持体は、γ線照射ポリスチレン製のものである。意図する用途に応じて、固相支持体は、別個のバイアルに含まれてもよいし又は別個のバイアルの形態であってもよい。あるいは、固相支持体は、マルチウエルプレートに含まれてもよいし又はマルチウエルプレートの形態であってもよい。固相支持体に応じて、固相支持体の結合部位がペプチド及びタンパク質にとってフリーとなる状態を阻止するため、本発明の方法において固相支持体を使用する前にブロッキングステップを行う必要があることもある。
【0047】
有利には、本発明の方法により、BoNT/A前駆体分子、すなわちプロセシングされていない一本鎖BoNT/A及び/又は部分的にプロセシングされたBoNT/Aの特異的な測定が可能となる。これらの前駆体分子は通常、治療用途又は化粧品用途に使用するBoNT/A製剤中の望ましくない混入物である。従って、それらの含量を最小量に低減するべきである。本発明の方法により、BoNT/A製剤の製造のための効率的な品質管理及び製品安全性管理の確立が可能となる。さらに、精製及び/又は加工工程の有効性を、BoNT/A製剤の製造時にモニターすることができる。本発明の基礎となる研究において、プロセシングされていないボツリヌスA型ニューロトキシン(BoNT/A)に対するポリクローナル抗血清を、ヤギにおいて免疫原としてKLHと結合させたリンカーペプチドを用いて生成した(抗リンカーペプチドscBoNT/A血清)。この血清は、アフィニティ精製後においても、SDS-PAGEのウエスタンブロット分析において、プロセシングされたBoNT/Aに対する交差反応性を示した。この交差反応性は、リンカーペプチド、並びにプロセシングされたBoNT/Aの軽鎖及び重鎖に存在するトリペプチド(SLD、LDK及びYNK)の認識によるものであったことが示された。ヤギ免疫血清の第2バッチを、2段階アフィニティクロマトグラフィーによって精製して、交差反応性のトリペプチド抗体を除去した。第2の抗リンカーペプチドscBoNT/A血清は、ウエスタンブロットにおいて、プロセシングされたBoNT/Aに対する交差反応性を示さなかった。
【0048】
一態様において、上述した一般的ステップを含む本発明の方法は、さらに以下の具体的なステップを含む:
(1) 固相支持体(例えばマルチウエルプレート)上に、上記方法により得られた捕捉抗体を固定化するステップ;
(2) 非固定化捕捉抗体を洗浄により除去するステップ;
(3) 好適なブロッキングバッファーの使用により固相支持体上のフリーのペプチド/タンパク質結合部位をブロッキングするステップ(以下の実施例参照);
(4) ブロッキングバッファーを洗浄により除去するステップ;
(5) 分析対象の溶液のサンプル、又は較正用に使用する標準溶液のサンプルを、捕捉複合体の形成を可能にする条件下で添加するステップ;
(6) 未結合のサンプル物質を洗浄により除去するステップ;
(7) 検出試薬(例えば、一次検出抗体、場合により、酵素(ペルオキシダーゼなど)と直接又は間接的に結合させた高次の検出抗体)を、検出複合体の形成を可能にする条件下で添加するステップ;
(8) 未結合の検出試薬を洗浄により除去するステップ;
(9) (例えば、発色基質を検出複合体に添加し、基質の変換を光学密度の測定により測定することにより)検出試薬により生じる検出シグナルを測定するステップ。
【0049】
しかしながら、本発明の方法は、上記から導くことのできる他の具体的なステップによっても実行可能であることが理解されよう。
【0050】
本発明はまた、プロセシングされたニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)並びに部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドを含む溶液中の、部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドの量を測定するためのデバイスであって、
(i)上で特定した捕捉抗体を含む分析ユニットであって、該溶液のサンプルと該捕捉抗体との接触を可能にする分析ユニット、並びに
(ii)分析ユニットにおいて形成された複合体の量を測定するためのリーダーシステムと、該複合体の測定量に基づいて、該溶液中の部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドの量を算出することができるデータプロセシングシステムとを備えた評価ユニット
を備えたデバイスも包含する。
【0051】
本明細書で用いる「デバイス」という用語は、測定を可能にするように、互いに作動可能に連結された、少なくとも前記分析ユニット及び評価ユニットの配列を含むシステムに関する。一態様では、上記配列は、前述の固定化捕捉抗体を含む固相支持体であり、該抗体は、上記溶液のサンプルと捕捉抗体との接触を可能にするために、例えばバイアルの形態で、上記特定した固相支持体上に存在させてよい。さらに、上記デバイスは、一態様では、上記検出複合体の量の測定のためのリーダーシステムを含んでいてもよい。用いようとする検出試薬の種類に応じて、上記システムは、生成されるシグナルの検出器を含む。さらには、上記ユニットは、一態様において、リーダーシステムから得られたデータをプロセシングするためのコンピュータによるアルゴリズムを含むことができる。上記アルゴリズムは、所望のポリペプチドの量の計算が可能なものである。一態様において、これは、溶液又はそのサンプル中に存在するポリペプチドの量を測定する目的で、測定シグナルを較正標準と比較することにより行われる。
【0052】
さらに本発明は、プロセシングされたニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)並びに部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドを含む溶液中の、部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドの量を測定するための、上で特定した捕捉抗体を含むキットを包含する。
【0053】
本明細書で用いる「キット」という用語は、前述した捕捉抗体、並びに、一態様では、本明細書の他の箇所において記載する検出試薬及び/又は1以上の較正標準の集合体を指す。キットの構成要素は、一緒にパッケージされていても、されていなくてもよい。該キットの構成要素は、個別のバイアルに含まれていてもよい(すなわち、個別部品からなるキットとして)し、単一のバイアル中に提供されてもよい。さらに、本発明のキットは、本明細書の先で述べた方法を実施するために用いられることが理解されよう。一態様では、すべての構成要素が、前記方法を実施するために、即時使用できる形態で提供されることが考えられる。別の態様では、上記キットは、該方法を実施するための説明書を含む。該説明書は、紙又は電子形態のユーザマニュアルによって提供することができる。例えば、該マニュアルは、本発明のキットを用いて前記方法を実施したときに得られる結果を解説するための説明を含んでいてもよい。
【0054】
本発明のキットの態様において、上記キットはさらに、捕捉抗体と、プロセシングされていないBoNT/Aポリペプチド及び/又は部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドとを含む複合体の量を測定するための少なくとも1種の検出試薬を含む。
【0055】
本明細書で引用した参考文献はすべて、その全開示内容及び本明細書で具体的に述べた開示内容について本明細書に参照として組み込むものとする。
【実施例】
【0056】
実施例1:免疫原及び抗体の作製
免疫原の作製
1. リンカーペプチド‐免疫原I:
NH2-TKSLDKGYNK-Cys-COOHの配列を有するペプチドを外部の提供業者に作製させ、その後、リンカーGMBSによってキャリアタンパク質KLHと結合させた。
【0057】
2. リンカーペプチド‐免疫原II:
a)オボアルブミンの活性化;2.18 mgのスルホ-SMCC(スルホスクシンイミジル-4(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)を50μlのDMSOに溶解した。その後、7.5 mg/mlオボアルブミンを含有する2.5 mlのオボアルブミン溶液(バッファー:5mMリン酸ナトリウム;0.9%NaCl)を加え、この溶液を室温で1時間、回転させながらインキュベートした。PD10カラムを用いてバッファー交換を行い、10 mM リン酸ナトリウム;0.9%NaClを含有する3.5 mlのバッファーに活性化オボアルブミンを溶出した。
【0058】
b)ペプチドのオボアルブミンへの結合;8 mgのペプチドAc-DKGYN-Cys-COOHを250μlのH2O及び2.5μlの500 mM TCEP・HCl(トリス[2-カルボキシエチル]ホスフィン 塩酸塩)に溶解し、その後、1 mM NaOHで中和した。最後に、活性化オボアルブミンを加え、反応混合物を室温で4.4時間、回転させながらインキュベートした。10 mMシステイン溶液の添加によって、残存している反応性基を1時間、回転させながらインキュベートすることによりブロッキングした。10 mM リン酸ナトリウム;0.9%NaClを用いて透析を行った。
【0059】
免疫付与
免疫付与により抗血清を得た。
【0060】
1.)抗リンカーペプチドscBoNT/A血清I:
免疫原として、リンカーGMBSによりキャリアタンパク質KLHに結合されたリンカーペプチド-免疫原Iを用いた。2頭のヤギに、リンカーペプチド-免疫原Iの皮下注射により、それぞれ最初はフロイントアジュバントに溶解した300μgのリンカーペプチド-免疫原Iを用いて免疫付与し、最終的には2週間周期で4回、不完全フロイントアジュバント中100μgのリンカーペプチド-免疫原Iを用いて免疫付与した。49、63、77及び84日後に抗血清を採取した。84日目の最後の採血から回収した血清を用いて、アフィニティクロマトグラフィーを行った。
【0061】
2.)抗リンカーペプチドscBoNT/A血清II:
免疫原として、リンカーSMCCによりキャリアタンパク質オボアルブミンに結合されたリンカーペプチド-免疫原IIを用いた。2羽のウサギに、リンカーペプチド-免疫原IIの腹腔内注射により、それぞれ最初はフロイントアジュバント中300μgのリンカーペプチド免疫原IIを用いて免疫付与し、最終的には2週間周期で5回、Montanide ISA 206中150μgのリンカーペプチド免疫原IIを用いて免疫付与した。60又は110日目の採血からそれぞれ回収した血清を用いて、アフィニティクロマトグラフィーを行った。
【0062】
血清の2段階アフィニティクロマトグラフィー
1.マトリックスの作製:
2段階アフィニティクロマトグラフィーのために、異なるペプチドを含有している2つの異なるultra linkヨードアセチルマトリックスを作製した。
【0063】
一方では、交差反応性ペプチドSLD、LDK及びYNKは、下記のペプチド、Ac-ELDKYN-Cys-COOH(配列番号4)、NH2-NISLDL-Cys-COOH(配列番号5)及びNH2-YYNKF-Cys-COOH(配列番号6)の形で提供され、下記に示される概要を用いてマトリックスに結合させた。他方では、リンカーペプチド(配列番号1)は、次の誘導体:Ac-TKSLDKGYNKA-Cys-COOHの形で下記に示される概要を用いてマトリックスに結合させた。
【0064】
概要:
カップリングバッファー:50 mM Tris、5 mM EDTA-Na、pH 8.5。使用するUltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルの20倍量に相当する容量のバッファーを調製する。
L-システインHCl;洗浄液:1 mM塩化ナトリウム(NaCl)。
上部と下部の両方に蓋をしうる空の重力流カラム又はスピンカラム。
【0065】
ペプチド又はタンパク質サンプルを調製する。
ペプチドをカップリングバッファーに溶解する。
【0066】
UltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルへの結合:
1. 重力流カラムの下部に蓋をして、目的とする量のUltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルスラリーを加え、ゲルを15分間かけて安定させる。
2. 充填したカラムから液を流出させ、ゲルベッドの5倍容量のカップリングバッファーを用いて、バッファーをゲルベッドの上部に添加し、カラムを通して流出させることによって、UltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルを洗浄/平衡化する。ゲルベッドを干上がらせてはならない。
3. 下部の蓋をして、用意したスルフヒドリル含有サンプルを添加する。1 mlのUltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルあたり、約1 mlのサンプル溶液が使用できる。
4. 上部の蓋をして、カラムを室温で15分間混合する。
5. カラムを直立させ、室温で30分間混合せずにインキュベートする。
6. 続いて上部と下部のカラムの蓋を取り、液を流出させる。
7. ゲルベッドの3倍容量のカップリングバッファーを用いて、カラムを洗浄する。
【0067】
ゲル上の非特異的結合部位のブロッキング:
1. カラムの下部に蓋をする。
2. カップリングバッファー中50 mM L-システイン HClの溶液を調製し、ゲル1 mlごとに1 mlのこの溶液をカラムに加える。
3. 上部の蓋をして、室温で15分間混合し、その後、混合せずに更に30分間室温でその反応をインキュベートする。
【0068】
2. 2段階アフィニティクロマトグラフィー:
精製しようとする血清を、まず血液から分離する。未精製の血清を、交差反応性トリペプチドを含有する第一カラムに加える。交差反応性抗体はトリペプチドに結合し、未精製の血清から分離される。この第一カラムのフロースルーを、結合したリンカーペプチドを含有する第二カラムに加える。リンカーペプチド特異的抗体はリンカーペプチドに結合し、従って、第二カラムの2番目のフロースルーに見出される未精製血清から分離される。低アフィニティ抗リンカーペプチドscBoNT/A抗体を、PBSバッファー(0.5 M NaCl)を用いた高ストリンジェンシー洗浄によってカラムから除去する。その後、結合した高アフィニティ抗リンカーペプチドscBoNT/A抗体を溶出し、濃縮する。この濃縮物が、使用される抗リンカーペプチドscBoNT/A血清に相当する。
【0069】
実施例2:抗体特異性の試験及び検証
1. ELISA試薬:
コーティングバッファー:0.005 M〜1M Tris;0.9 %NaCl、好ましくは0.01 M〜0.2 M Tris;0.9%NaCl、pH=8.5。
捕捉抗体:抗リンカーペプチドscBoNT/A血清。
ブロッキング及び抗体希釈バッファー:0.01 Mリン酸ナトリウム中0.5%〜5%BSA;0.9%NaCl、pH=7.4。
サンプルバッファー:0.005 M〜1 Mリン酸ナトリウム中0.5%〜5%BSA;0.1〜0.5 M NaCl;0.01%〜1%Tween 20、好ましくは0.005〜0.1 Mリン酸ナトリウム中1%〜3%BSA;0.15 M〜0.4 M NaCl;0.05%〜0.5%Tween 20、pH=7.4。
洗浄バッファー:0.01 Mリン酸ナトリウム;0.9%NaCl;0.05%Tween 20、pH=7.4。
検出抗体:BoNT/Aに対するモノクローナル抗体。
二次抗体:ペルオキシダーゼとコンジュゲートしたポリクローナル抗マウスIgG(H&L)抗体。
基質:市販のTMB。
【0070】
2. ウェスタンブロット試薬:
市販の変性サンプルバッファー。
市販のSDSゲル。
MES泳動バッファー(SDS-PAGE):市販。
PVDF膜:市販。
転写バッファー(ウェスタンブロット):市販。
サンプル:二本鎖BoNT/A及びscBoNT/Aを含むボツリヌスニューロトキシンA。
一次抗体:抗リンカーペプチドscBoNT/A血清。
二次抗体:アルカリホスファターゼとコンジュゲートしたポリクローナルロバ抗ヤギ抗体IgG(H&L)。
ブロッキング及び抗体希釈バッファー:0.01 M〜0.1 M Tris中0.5%〜5%BSA;0.9%NaCl;0.05%〜5%Tween 20、pH=7.4。
洗浄バッファー:0.01 M〜0.1 M Tris;0.9%NaCl;0.05%〜5%Tween 20、pH=7.4。
Trisバッファー:0.025 M Tris、pH=8.0。
基質:市販のBCIP/NBT。
【0071】
a)BoNT/B及びBoNT/Eに対する抗血清の特異性:
BoNT/B及びBoNT/Eに対する抗血清の特異性を決定するために、物質の回収率をELISAで分析した。0.5μg抗リンカーペプチドscBoNT/A血清/mlを含有する100μl/ウェルのコーティングバッファーを含むマイクロタイタープレートを、室温で16時間インキュベートし、その後、洗浄バッファーで3回洗浄する。200μl/ウェルのブロッキング溶液をマイクロタイタープレートに加え、室温で1時間インキュベートする。較正標準として抗原scBoNT/A(サンプルバッファーでの希釈系列;pg/ml濃度)を用い、100μl/ウェルの較正標準を含むマイクロタイタープレートをインキュベートする。BoNT/B又はBoNT/Eをそれぞれサンプルバッファーで希釈し、100μl/ウェルの容量でマイクロタイタープレートに加える。両物質は過剰に加えられ、200 ng/mlの希釈物を用いる。サンプル及び標準を37℃で2時間インキュベートする。マイクロタイタープレートを洗浄バッファーで3回洗浄する。100μlの検出バッファー/ウェルを加え、室温で1時間インキュベートする。その後、マイクロタイタープレートを洗浄バッファーで3回洗浄する。次に、100μl/ウェルの二次抗体と共に室温で1時間のインキュベーションを行う。その後、マイクロタイタープレートを洗浄バッファーで3回洗浄する。
【0072】
100μl基質/ウェルの添加によって検出反応を開始する。室温で30分間のインキュベーション後、50μlの2 M H2SO4/ウェルの添加によって反応を停止させ、450 nmでの吸光度を測定する。特異性の決定のために、BoNT/B及びBoNT/Eの濃度を標準化によって計算する。回収率を計算することによって、血清型B及びEに対する抗リンカーペプチドscBoNT/Aの特異性が決定できる。回収率が低い程、交差反応性はより低く、scBoNT/Aに対する血清の特異性はより良好である。
【0073】
b)二本鎖BoNT/Aに対する抗リンカーペプチドscBoNT/Aの特異性:
活性化された二本鎖BoNT/Aに対する抗血清の特異性を決定するために、ウェスタンブロッティングによる免疫組織学的検出を行う。NTサンプル(少なくとも50 ngのscBoNT/A、使用するサンプルに応じて二本鎖BoNT/A)を、還元条件下でSDS-PAGEによって、それらの分子量に従ってscBoNT/A、LC及びHC(二本鎖BoNT/A)に分離する。タンパク質をその後、PVDF膜上にブロッティングする。その膜を20 mlのブロッキングバッファーを用いて室温で1時間かけてブロッキングする。ブロッキングバッファーを除去し、0.005μg/mlの抗リンカーペプチドscBoNT/A血清を含有する20 mlの一次抗体溶液を加える。一次抗体を4℃で一晩インキュベートする。抗体含有溶液を除去し、膜を37℃で30分間、20 mlの洗浄バッファーで3回洗浄する。その後、膜を0.4μg/mlの濃度の20 mlの二次抗体と共に、室温で3時間インキュベートする。二次抗体溶液を除去し、膜を37℃で30分間、20 mlの洗浄バッファーで3回洗浄する。更に、膜を室温で5分間、20 mlの25 mM Trisバッファーで1回洗浄する。
【0074】
検出反応は、基質の添加によって行われる。基質を15分間インキュベートし、水の添加によって呈色反応を停止させる。特異性は、150 kDaのscBoNT/Aバンドの染色によって決定する。150 kDaの特異的バンドのみが検出され、100 kDa(HC)及び50 kDa(LC)の二本鎖BoNT/Aに特異的なバンドが検出されなかった場合に、抗リンカーペプチドの特異性を決定した。
【0075】
種々の分量のscBoNT/A含量を、上述したELISA条件を用いて決定し、SDS-PAGEにより決定した含量と比較した。結果を以下の表に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセシングされたニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)並びに部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aを含む溶液中の、部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量を測定する方法であって、以下のステップ:
(i)該溶液のサンプルを、部分的にプロセシングされたBoNT/A及びプロセシングされていないBoNT/Aと特異的に結合する捕捉抗体と、該抗体と該部分的にプロセシングされたBoNT/A及びプロセシングされていないBoNT/Aとの結合を可能にする条件下で接触させ、それにより複合体が形成されるステップと、
(ii)ステップ(i)で形成された複合体の量を測定し、それにより該複合体の量が上記溶液中の部分的にプロセシングされたBoNT/A及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aの量を示すステップと
を含み、上記捕捉抗体が、以下のステップ:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むペプチド免疫原により免疫された動物由来のポリクローナル抗血清を、次の捕捉ペプチドSLD、LDK及びYNKと、該ポリクローナル抗血清に含まれる非特異的抗体及び該捕捉ペプチドを含む捕捉複合体の形成を可能にする条件下で接触させるステップ、
(b)上記捕捉複合体をポリクローナル抗血清から除去するステップ、
(c)ポリクローナル抗血清を、配列番号1を含むペプチドと、上記ペプチドとプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと特異的に結合する抗体とを含む複合体の形成を可能にする条件下で接触させるステップ、
(d)ステップ(c)で形成された複合体を上記抗血清から取り出すステップ、
(e)プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと特異的に結合する抗体を、上記複合体から遊離させるステップ
を含む方法により得られるものである、上記方法。
【請求項2】
免疫原がKLHをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
KLHが、リンカーN-[γ-マレイミドブチリルオキシ] スクシンイミドエステル(GMBS)を介して配列番号1を有するペプチドと連結している、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(i)における条件が、洗浄剤の存在を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
洗浄剤がTween 20である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
洗浄剤が0.01%(v/v)〜10%(v/v)の範囲の濃度で存在する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
濃度が0.2%(v/v)〜0.8%(v/v)の範囲、又は0.3%(v/v)〜0.6%(v/v)の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(i)における条件が、リン酸緩衝生理食塩水溶液又はtris緩衝生理食塩水溶液の存在を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
溶液が、150〜350 mMの範囲の濃度でNaClを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
濃度が200〜300 mMの範囲である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(ii)が、複合体の量を参照と比較することを含み、それにより複合体の測定量を、所定量のプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドに割り当てることができる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
プロセシングされたニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)並びに部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドを含む溶液中の、部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドの量を測定するためのデバイスであって、
(i)請求項1〜3のいずれか1項に記載されている捕捉抗体を含む分析ユニットであって、該溶液のサンプルと該捕捉抗体との接触を可能にする分析ユニット、並びに
(ii)分析ユニットにおいて形成された複合体の量を測定するためのリーダーシステムと、該複合体の測定量に基づいて、該溶液中の部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドの量を算出することができるデータプロセシングシステムとを備えた評価ユニット
を備えたデバイス。
【請求項13】
プロセシングされたニューロトキシンAポリペプチド(BoNT/A)並びに部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドを含む溶液中の、部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチド及び/又はプロセシングされていないBoNT/Aポリペプチドの量を測定するためのキットであって、請求項1〜3のいずれか1項に記載されている捕捉抗体を含むキット。
【請求項14】
捕捉抗体と、プロセシングされていないBoNT/Aポリペプチド及び/又は部分的にプロセシングされたBoNT/Aポリペプチドとを含む複合体の量を測定するための少なくとも1種の検出試薬をさらに含む、請求項13に記載のキット。

【公表番号】特表2013−508701(P2013−508701A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534647(P2012−534647)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065618
【国際公開番号】WO2011/048044
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(511202045)メルツ ファルマ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲーアーアー (4)
【Fターム(参考)】