プロトン濃度トポグラフィーならびにその生成方法および生成デバイス
等電点フォーカシングのためのデバイス。デバイスは、長さ軸を有し、かつ、電解質溶液を含有するために構成されるフォーカシング容器と、前記長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含み、それぞれの前記電気分解ユニットが、イオン流を前記フォーカシング容器の中に注入して、その結果、前記長さ軸に沿った前記電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配を作るようにするために構成され、それぞれの前記段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、前記pH勾配が、前記複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日発行)の内容は、本明細書中に完全に述べられているかのように組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、そのいくつかの実施形態において、分子分析および分離に関連し、より具体的には、しかし、限定的ではなく、等電点フォーカシングのための方法およびシステムに関連する。
【背景技術】
【0003】
等電点フォーカシングは、分析物サンプルにおける分子を、分子の異なるイオン的性質を利用することによって分離するための分析技術である。
【0004】
等電点フォーカシングは通常、固定化されたプロトン濃度勾配、一般には、所与の方向でより高いpHからより低いpHにまで変化するプロトン濃度勾配を有する電解質溶液(場合によっては、例えば、ポリアクリルアミド、デンプンおよび/またはアガロースに基づくゲル形態での電解質溶液)において行われる。一部の実施では、溶液は、電場のもとでpH勾配を生じさせる両性電解質を含有する。等電点フォーカシングでは、分離が、分離距離全体を占め、かつ、勾配におけるpHが陽極から陰極に向かって増大するpH勾配において生じる。使用時において、分析物が電解質溶液におけるある場所に負荷される。それぞれの異なる分子の電荷が、分子の様々な官能基の酸性度(pKa)に従って周囲のプロトン濃度に応答して変化する。
【0005】
電位が、等電点フォーカシング陽極と、等電点フォーカシング陰極との間でプロトン濃度勾配と平行に加えられる。正味の正電荷を有する分子が電解質溶液を通って陰極に向かって移動し、一方、正味の負電荷を有する分子が電解質溶液を通って陽極に向かって移動する。
【0006】
これらの分子が移動するにつれ、周囲のpHが変化して、分子における正味の電荷を減少させ、ついには、分子が、周囲のpHのためではあるが、分子における正味の電荷がゼロとなる等電点(pI)に達する。この地点で、移動中の分子は、ゼロの電荷を有するので停止する。そのような様式において、等電点フォーカシングは、特定のpIを有する分子を電解質溶液の比較的狭い体積に集中させる。等電点フォーカシングは、タンパク質をその酸性度に従って特徴づけることによってタンパク質の分析のために有用である。より重要なことであるが、等電点フォーカシングは、タンパク質の混合物を分離するために有用である。
【0007】
国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日発行、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)は、プロトンの局所的濃度、プロトン濃度勾配および所望されるプロトン濃度トポグラフィーを、電解質を含む環境(例えば、電解質溶液またはゲルなど)において生じさせる際に有用な方法およびデバイスを記載する。この特許出願はまた、等電点フォーカシングおよびデータ表示のための方法およびデバイスを開示する。
【発明の概要】
【0008】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのためのデバイスが提供される。本デバイスは、長さ軸を有し、かつ、電解質溶液を含有するために構成されるフォーカシング容器と、長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含む。それぞれの電気分解ユニットが、イオン流をフォーカシング容器の中に注入して、その結果、長さ軸に沿った電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配をもたらすようにするために構成される。それぞれの段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、pH勾配が、複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される。
【0009】
場合によっては、pH傾斜部は少なくとも0.1のpHである。
【0010】
場合によっては、それぞれの段差が少なくとも3mmの長さである。
【0011】
場合によっては、少なくとも1つの電気分解ユニットは複数の電気分解ユニットを含み、この場合、それぞれの電気分解ユニットを別個に制御するためのコントローラーをさらに含む。
【0012】
場合によっては、電解質溶液は複数の生体分子を含み、これらの複数の生体分子がpH勾配に沿った少なくとも1つのpH傾斜部にのみ濃縮する。
【0013】
場合によっては、勾配は複数の段差のうちの10未満を含む。
【0014】
場合によっては、勾配は複数の段差のうちの5未満を含む。
【0015】
場合によっては、勾配は複数の段差のうちの2つを含む。
【0016】
場合によっては、少なくとも1つの電気分解ユニットの1つが、複数のヒドロキシルイオンを注入するために構成され、かつ、少なくとも1つの電気分解ユニットの別の1つが、複数の水素イオンを注入するために構成される。
【0017】
場合によっては、フォーカシング容器は複数の狭くなったセグメントを有する。それぞれの電気分解ユニットが、イオン流をそれぞれの狭いセグメントに注入するために構成される。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのためのデバイスが提供される。本デバイスは、電解質溶液を含有するために構成され、かつ、第1および第2の末端部ならびに長さ軸を有するフォーカシング容器であって、少なくとも1つのスリットを第1および第2の末端部までの途中に有するフォーカシング容器と、第1の末端部および第2の末端部にそれぞれ取り付けられ、かつ、第1の電流を、電解質溶液を介してそれらの間に通すために構成される陽極および陰極とを含む。本デバイスはさらに、少なくとも1つのスリットに近接してそれぞれが取り付けられる少なくとも1つの二極性メンブランと、それぞれの少なくとも1つの二極性メンブランの前方にそれぞれが取り付けられ、かつ、第2の電流を少なくとも1つのそれぞれの二極性メンブランに付与し、その結果、少なくとも1つのスリットを介するイオン流を促進するようにするために構成される少なくとも1つの制御可能な電極とを含む。
【0019】
場合によっては、本デバイスは、第1および第2の電流を、陽極および陰極に対して、また、少なくとも1つの制御可能な電極に対してそれぞれ供給する電流源を含む。
【0020】
さらに場合によっては、本デバイスはさらに、発生器電流源を経由して上記制御可能な電極に物理的に接続されるホイートストンブリッジを含む。
【0021】
場合によっては、第1および第2の電流は高電圧の電流である。
【0022】
場合によっては、少なくとも1つの二極性メンブランは少なくとも1つの無気泡性の二極性メンブランである。
【0023】
場合によっては、本デバイスは、第1および第2の末端部にそれぞれ接続される第1および第2の受器を含み、ただし、この場合、陽極および陰極が第1および第2の受器にそれぞれ少なくとも部分的に取り付けられる。
【0024】
場合によっては、本デバイスは、フォーカシング容器を支持するための適所の前方において複数のソケットを有する支持構造物を含む。それぞれのソケットが、少なくとも1つの二極性メンブランの1つと、少なくとも1つの制御可能な電極の1つとを含有する。
【0025】
場合によっては、本デバイスは、pHレベルを少なくとも1つの二極性メンブランのそれぞれの近くで測定するために構成される少なくとも1つのpHプローブを含む。
【0026】
場合によっては、少なくとも1つのスリットの幅が3mm未満である。
【0027】
場合によっては、少なくとも1つの制御可能な電極と、二極性メンブランとの間の距離が3mm未満である。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのための方法が提供される。本方法は、長さ軸を有するフォーカシング容器を提供すること、複数の生体分子を有する電解質溶液を前記容器に加えること、電場を長さ軸に沿って電解質溶液において加えること、および、イオン流を長さ軸に沿った少なくとも1つの地点に注入して、電解質溶液における複数の段差によって定義されるpH勾配を確立し、その結果、複数の生体分子が少なくとも1つの地点の近くで少なくとも1つの濃縮において蓄積することを含み、ただし、それぞれの段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、pH勾配が、複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される。
【0029】
場合によっては、本方法はさらに、pH勾配を安定化するために緩衝剤を加えることを含む。
【0030】
場合によっては、pH勾配が上記複数の段差の中の複数の傾斜部によって定義され、この場合、pH勾配を安定化するために緩衝剤の混合物を加えることをさらに含む。
【0031】
場合によっては、複数の生体分子が上記少なくとも1つの濃縮にだけ蓄積する。
【0032】
場合によっては、注入することは、電流を、それぞれの上記少なくとも1つの地点で電解質溶液に近接してそれぞれが取り付けられる少なくとも1つの二極性メンブランにおいて加えることを含む。
【0033】
場合によっては、本方法はさらに、上記複数の生体分子を少なくとも1つの濃縮に従って診断することを含む。
【0034】
場合によっては、本方法はさらに、少なくとも1つの濃縮の少なくとも1つを別々に集めることを含む。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのための方法が提供される。本方法は、電解質溶液を有する容器に少なくとも1つの生体分子を提供すること、少なくとも1つのpH指示薬を電解質溶液に加えること、および、pH勾配を電解質溶液においてもたらすことを含む。本方法はさらに、電解質溶液の少なくとも1つの画像を取り込むこと、電解質溶液の少なくとも1つのセグメントの少なくとも1つの色特性を少なくとも1つの画像に従ってコンピューター計算すること、および、セグメントにおける少なくとも1つのpHレベルを少なくとも1つの色特性に従って計算することを含む。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのためのデバイスが提供される。本デバイスは、生体分子の混合物を伴う電解質溶液により湿らされる多孔性ブロックをその長さ軸の途中で、取り外し可能に保持するために構成されるフォーカシング容器と、第1の電流を、多孔性ブロックにおいて電解質溶液を介して通すために構成される複数の電極と、イオン流をフォーカシング容器の中に注入して、その結果、pH勾配を多孔性ブロックにおける電解質溶液において変化させるようにするためにそれぞれが構成される、長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含む。生体分子の混合物がpH勾配に従って多孔性ブロックにおいて配置される。
【0037】
場合によっては、フォーカシング容器は、多孔性ブロックをフォーカシング容器に設置すること、および、多孔性ブロックをフォーカシング容器から取り出すことの少なくとも一方のための開口部を有する。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのための方法が提供される。本方法は、生体分子の混合物を伴う電解質溶液により湿らされる多孔性ブロックをフォーカシング容器に設置すること、pH勾配を、多孔性ブロックにおける生体分子の複数の濃縮を促進するように電解質溶液においてもたらすこと、および、多孔性ブロックを、複数の濃縮のうちの1つをそれぞれが別々に含有する複数のセグメントにセグメント化することを含む。
【0039】
場合によっては、セグメント化することが、多孔性ブロックを複数の濃縮のうちのそれぞれ2つの間で切り取って、複数のセグメントを作製することによって行われる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのための着脱可能な溶液カートリッジが提供される。着脱可能な溶液カートリッジは、等電点フォーカシングシステムのフォーカシング流路にはまるようなサイズおよび形状を有し、かつ、複数の生体分子を有する電解質溶液により湿潤化されて、その結果、複数の生体分子の移動を電解質溶液において形成されるpH勾配に従って可能にするようにするために構成される多孔性ブロックを含む。
【0041】
場合によっては、多孔性ブロックは、複数の生体分子濃縮のうちのただ1つの濃縮をそれぞれが含む複数のセグメントを作製するために切り取ることができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態によれば、タンパク質の混合物を分離するためのデバイスが提供される。本デバイスは、電解質溶液および混合物を含有するために構成される電気泳動容器であって、長さ軸と、長さ軸と平行する第1および第2の向き合う側面とを有する電気泳動容器と、第1および第2の側面にそれぞれ取り付けられる第1および第2の二極性メンブランと、電場を電解質溶液において加えて、その結果、タンパク質を長さ軸に沿って動かすようにするための少なくとも1つ電極とを含む。第1および第2の二極性メンブランのうちの1つが、イオン流を電気泳動容器の中に注入して、その結果、電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配を長さ軸と直交してもたらすようにするために構成される。それぞれの段差が、実質的に均一なpHレベルを有する。
【0043】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および/または科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
本明細書では本発明のいくつかの実施形態を単に例示し添付の図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の実施形態を例示考察することだけを目的としていることを強調するものである。この点について、図面について行う説明によって、本発明の実施形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【0045】
【図1】図1は、生体分子の分離、および/または、1つもしくは複数の生体分子を有する分析物の診断を行うための、本発明のいくつかの実施形態による例示的な等電点フォーカシングデバイスの側面図の概略図である。
【0046】
【図2】図2は、本発明のいくつかの実施形態による、図1に示されるpH発生器の拡大図である。
【0047】
【図3】図3は、本発明のいくつかの実施形態による、図1に示されるデバイスの構成要素のいくつかを支持するための例示的な構造物の概略図である。
【0048】
【図4】図4は、本発明のいくつかの実施形態による、等電点フォーカシングのための方法のフローチャートである。
【0049】
【図5】図5は、本発明のいくつかの実施形態による、電場をイオンスリットの近くで増大させるための狭くなったセグメントを有するフォーカシング流路の概略図である。
【0050】
【図6】図6は、本発明のいくつかの実施形態による、pH発生器の近くに配置されるフォーカシング流路のセグメント、ならびに、Na2SO4電解質溶液およびリン酸塩緩衝剤系(HPO4−2/H2PO4−)を使用するときの段差形状の勾配である。
【0051】
【図7】図7は、本発明のいくつかの実施形態に従ってもたらされる段階化pHプロフィルを有する例示的な勾配、および、タンパク質の濃縮である。
【0052】
【図8】図8は、本発明のいくつかの実施形態による、通過する電流に対する無気泡性BPMの応答の概略図である。
【0053】
【図9】図9は、本発明のいくつかの実施形態による、幅広いスリットを有するpH発生器である。
【0054】
【図10】図10は、図1に示されるデバイスに類似するデバイスで、電解質溶液および生体分子により湿らされる多孔性ブロックを有する、本発明のいくつかの実施形態によるデバイスの概略図である。
【0055】
【図11】図11は、本発明のいくつかの実施形態による、生体分子濃縮を単離するために使用される例示的な取り外し可能な多孔性ブロックの概略図である。
【0056】
【図12】図12は、二極性メンブランを向かい合う面に有する電気泳動容器で、pH段階化を生じさせるために設計される、本発明のいくつかの実施形態による電気泳動容器の概略図である。
【0057】
【図13】図13は、本発明のいくつかの実施形態に従って規定される例示的なフォーカシングデバイスのシミュレーションによって生じる様々なpHプロフィルを示すグラフである。
【0058】
【図14】図14は、本発明のいくつかの実施形態に従って規定される例示的なフォーカシングデバイスのシミュレーションによって生じる様々なpHプロフィルを示すグラフである。
【0059】
【図15】図15は、例示的なフォーカシングデバイスのフォーカシング流路の一連の9個の画像、および、電気分解期間を示す一組のドットである。
【0060】
【図16】図16は、2段差のpHプロフィルの例示的な生成を示すグラフ、および、例示的なフォーカシングデバイスの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、分子分析および分子相互作用に関連し、より具体的には、しかし、限定的ではなく、等電点フォーカシングのための方法およびシステムに関連する。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態によれば、安定した段階化pH勾配を電解質溶液においてもたらし、その結果、生体分子(例えば、タンパク質およびペプチドなど)をそれらのpIに従って濃縮することを促進するようにするための方法およびシステムが提供される。安定した段階化pH勾配は、異なるpHレベルをそれぞれが有する複数の段差を有する。それぞれ2つの連続する段差が、0.1超のpH単位(例えば、0.5のpH単位)の急峻なpH傾斜部によって隔てられる。そのような勾配は、生体分子を約1000秒で段階化pH勾配に沿って濃縮することを可能にする。場合によっては、安定した段階化pH勾配は10未満の段差(例えば、5、4、3および2)を有する。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態によれば、生体分子の濃縮を分離および/または診断するためのフォーカシングデバイスが提供される。本デバイスは、電解質溶液を生体分子の混合物と一緒に含有するためのフォーカシング容器(例えば、フォーカシング流路など)を含む。本デバイスはさらに、電場を電解質溶液において加えるための電極を含む。電場により、生体分子が電解質溶液においてある軸に沿って並ばされる。フォーカシング流路は、1つまたは複数の電気分解ユニット(これは本明細書中ではpH発生器として示される)がH+イオンまたはOH−イオンをフォーカシング流路に注入することを可能にする1つまたは複数のスリットを有する。H+イオンまたはOH−イオンが、場合によっては無気泡性であるが、二極性メンブランを使用することによって生じる。H+イオンまたはOH−イオンにより、pH勾配が軸に沿って決定される。このことは、生体分子がそれらのpIに従ってpH勾配に沿って濃縮することを可能にする。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態によれば、画像処理を、フォーカシング容器における電解質溶液の1つまたは複数のセグメントでのpHレベルをコンピューター計算するために使用するための方法が提供される。そのような実施形態において、pH指示薬が電解質溶液に加えられる。pH指示薬は電解質溶液の色を、フォーカシング容器において形成されるpH勾配に従ってフォーカシング容器に沿って変化させる。変化した色が、画像センサーを使用して取り込まれる。取り込まれたデータにより、フォーカシング容器に沿った1つまたは複数のセグメントのpHレベルをコンピューター計算することができる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解質溶液を生体分子の混合物と一緒に吸収するための多孔性ブロックを含む着脱可能な溶液カートリッジが提供される。着脱可能な溶液カートリッジの多孔性ブロックは、フォーカシング流路(例えば、上記で概略され、また、下記で記載されるようなフォーカシング流路など)にはまるようなサイズおよび形状を有する。場合によっては、使用時において、多孔性ブロックは、電解質溶液と、分離されるべき生体分子の混合物とにより湿らされ、フォーカシング流路に挿入される。その後、pH勾配が、大きい電場と一緒にフォーカシング流路に沿ってもたらされる。pH勾配は、混合物の生体分子の濃縮を多孔性ブロックに沿ったいくつかの濃縮において促進させる。これは、異なるpIを有する生体分子が異なる場所に集中するからである。次いで、多孔性ブロックが取り出され、これにより、使用者は、多孔性ブロックを、例えば、濃縮がセグメント毎に制限される様式で切り取ることによってセグメント化することができる。
【0066】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示されるか、および/または図面および/または実施例において例示される構成要素および/または方法の組み立ておよび構成の細部に必ずしも限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施または実行されることが可能である。
【0067】
次に、図1が参照される。図1は、1つもしくは複数の生体分子を含む混合物における生体分子の分離、および/または、1つもしくは複数の生体分子を有する分析物の診断を行うための、本発明のいくつかの実施形態による例示的な等電点フォーカシングデバイス100の側面図の概略的例示である。本明細書中で使用される場合、生体分子には、タンパク質、ペプチド、ペプチドに基づく医薬用化合物、および、生体分子に基づく医薬用化合物が含まれる。
【0068】
等電点フォーカシングデバイス100は、場合によってはフォーカシング容器(これは本明細書中ではフォーカシング流路102として示される)に近接してアレイとして配置される複数の電気分解ユニット101を含む。場合によっては、フォーカシング流路は、例えば、100mmの長さ、5mmの幅および0.5mmの厚さの矩形のガラスキャピラリーである。電気分解ユニット101は、イオン流を生じさせ、そのイオン流をフォーカシング流路102に注入することによって、フォーカシング流路102の長さ軸99またはそれと平行する任意の他の軸に沿った異なるセグメントにおけるpHレベルを制御する。これらの電気分解ユニットは本明細書中ではpH発生器として示されることがある。そのような様式において、急峻なpH傾斜部によって互いに隔てられ、フォーカシング流路102においてもたらされ、かつ、場合によっては、例えば、イオンが種々のセグメントにおいて注入される限りは数分間を超える期間にわたって維持される複数のpH段階を有する勾配。そのような勾配は、段階化勾配、および/または、段差形状プロフィルを有するpH勾配として示されることがある。
【0069】
2つだけのpH発生器が示されるが、等電点フォーカシングデバイス100は任意の数のpH発生器101(例えば、4個、8個、12個、16個、20個、100個または任意の中間数またはより大きい数のpH発生器101)を有し得ることには留意しなければならない。
【0070】
図1に示されるように、フォーカシング流路102の左側面および右側面のそれぞれ一方が電解質溶液受器(103、104)に対して開いている。電解質溶液受器の一方103が陰極105に接続され、他方104が陽極106に接続される。陰極および陽極の受器(103、104)は、場合によっては高電圧(HV)のために設計され、フォーカシング流路102を主電流源108(場合によってはHV電流源、例えば、およそ300Vを超える電圧を有する電源)に接続する。他の電場が生体分子の混合物に依存して加えられ得ることには留意しなければならない。
【0071】
場合によっては、システム101はさらに、主電流源108およびpH発生器101を場合によっては別々に制御するコントローラー110を含む。例えば、pH発生器101の電極を、コントローラーにより、それぞれの電極が、選択された電流により別々にバイアス付加することを可能にする様式でコントローラー110に別々に接続することができる。
【0072】
場合によっては、図1に示されるように、1つまたは複数のpHプローブ109がフォーカシング流路102に沿って置かれる。それぞれのpHプローブ109が、局所的pHをモニターするために、1つまたは複数のpH発生器101に隣接して設置される。場合によっては、コントローラーはpHプローブ109の出力を受け取る。場合によっては、コントローラー110はpHプローブ109の出力を受け取り、例えば、国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日公開、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載されるように、pH発生器101に送られる電流をそれに従って調節する。
【0073】
次にまた、図2が参照される。図2は、本発明のいくつかの実施形態による、図1に示される例示的なpH発生器101の拡大図である。pH発生器101は、フォーカシング流路102に隣接して配置される二極性メンブラン(BPM)200を含む。場合によっては、BPMは、F.G.Wilhelm,I.他、Optimisation strategies for the preparation of bipolar membranes with reduced salt ion leakage in acid−base electrodialysis、Journal of Membrane Science、2001、182(1−2)、13〜28、および、G.Pourcelly、Electrodialysis with Bipolar Membranes: Principles, Optimization, and Applications、Russian Journal of Electrochemistry、2002、38(8)、919〜926において定義される通りである。pH発生器101はさらに、コントローラー110によって制御される発生器電流源202に接続される電極201(例えば、白金電極)を含む。場合によっては、電極201は、発生器電流源202に接続される白金線である。電極201は、チャンバー205として示されることがある空間(例えば、体積において1cm3;これは場合によっては接する)に配置される。場合によっては、チャンバー205は水性の電解質溶液で満たされる。
【0074】
次にまた、図3が参照される。図3は、本発明のいくつかの実施形態による、デバイス100の構成要素を支持するための例示的な構造物120の概略図である。場合によっては、上記で概略されるように、流路は矩形のガラスキャピラリーである。フォーカシング流路102が、場合によってはPerspexブロックである構造物120に取り付けられる。フォーカシング流路102は、pH発生器101のアレイからのイオンの通過およびpHプローブ109からのpH検知を可能にする薄いスリット211を有する。構造物120は、121において示されるように、pHプローブが挿入されるpHプローブソケットと、例えば、図2において示されるように、BPM200および電極201が挿入される発生器チャンバー205とを収容する。場合によっては、それぞれのpHプローブがSENRONのMicro電極9070−008を含む(その仕様書が参照によって本明細書中に組み込まれる)。Micro電極が、流路からのイオンがその中では自由に小さいスリットに達し、これを通り抜け、これにより、pH検知を可能にするpHプローブソケットに挿入される。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態によれば、発生器電流源202が、例えば、図1では111において示されるように、場合によってはホイートストンブリッジを経由して陽極106および陰極105に接続される。ホイートストンブリッジ111が、陰極105と、陽極106との間を接続するために置かれる。ホイートストンブリッジ111は、pH発生器101が高電圧で作動することを可能にするために使用される。10ボルトを超える電圧が存在する場合、電位差がBPM200の両方の面において現れるかもしれない。具体的には、電源108を介した電位差はBPMの2つの面の間における電位差をもたらす。BPMの2つの面の間における電位差が10Vを超えるならば、PBMが損傷するかもしれない。そのような電位差は、発生器電流源202と同様に、BPM200を傷つけるかもしれない。場合によっては、ブリッジは、メンブランの2つの面の間における電位をバランスさせ、これにより、2つの面の間における電位差を、BPM200および/または発生器電流源202の運転を妨げることなく低下させる一連の抵抗器からなる。代替では、高電圧が加えられず、発生器電流源202が陰極105および陽極106に直接にワイヤ接続される。
【0076】
pH発生器101(これには発生器電流源202によって通電され得る)により、pH勾配がフォーカシング流路102においてもたらされる。二極性メンブラン200は、pH発生器101が水分子を水素H+およびヒドロキシルOH−に効率よく解離することを可能にする。一般に知られているように、二極性メンブランは、H+を放出することを可能にする面151と、ヒドロキシルOH−を放出することを可能にする別の面152との2つの面を有する。BPM200は、例えば、101Aにおいて示されるように、H+をフォーカシング流路102の中に放出し、かつ、ヒドロキシルOH−をチャンバー205の中に放出するために配置することができ、または、例えば、101Bにおいて示されるように、OH−がフォーカシング流路102の中に放出され、かつ、H+がチャンバー205の中に放出されるように逆配置で配置することができる。
【0077】
図4もまた参照される。図4は、本発明のいくつかの実施形態による、等電点フォーカシングのための方法90のフローチャートである。
【0078】
最初に、91において示されるように、フォーカシング容器が提供される(例えば、100において示される等電点フォーカシングデバイスの容器など)。その後、92において示されるように、電解質溶液により、等電点フォーカシングデバイスのフォーカシング容器が満たされる。場合によっては、2つの電解質溶液受器(103、104)と、流路102とが、溶液で満たされる。94において示されるように、1つまたは複数の異なる生体分子(例えば、タンパク質など)の混合物がフォーカシング容器における溶液に加えられる。混合物は、下記で記載されるようなpH勾配を確立する前および/または確立している期間中に加えられ得ることには留意しなければならない。93において示されるように、電場(例えば、上記HVなど)が、例えば、陰極105と、陽極106との間に、長さ軸99に沿って電解質溶液において加えられる。その後、95において示されるように、1つまたは複数のイオン流が長さ軸99に沿った1つまたは複数の地点において注入されて、96において示されるように、急峻なpH傾斜部によって隔てられる複数の段差によって規定されるpH勾配を確立し、その結果、生体分子が、急峻なpH傾斜部をpH発生器101の前方の空間にもたらす注入地点の近くに蓄積する。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態によれば、フォーカシング流路102は、電場をイオンスリットの近くで増大させるための狭くなったセグメントを有するいくつかの狭くなったセグメントを含む。具体的には、これらのセグメントは、例えば、図5の数字131において示されるように、流路の他のセグメントよりも狭いので、これらのセグメントにおいて形成される電場は流路の他のセグメントにおける電場よりも強い。そのような実施形態において、イオンスリット211が流路102の狭くなったセグメント131において形成される。強い電場は、生体分子を流路のより狭いセグメントにおいて濃縮するようにpH傾斜部を狭くする。
【0080】
次に、水素H+イオンおよび/またはヒドロキシルOH−イオンを、安定なpH勾配をフォーカシング流路102において保証する様式で電解質溶液に注入するプロセスの説明が示される。明確化のために、電解質溶液における化学種iのイオンの挙動が下記の式によって支配される:
式中、Ciは化学種iの濃度を示し、DCiはCiの拡散係数を示し、μCiはCiの電気移動度を示し、Ziは電子単位でのCiの電荷を示し、Fはファラデー定数を示し、Riは化学種iの反応項を示し、Eはフォーカシング流路102における電場を示す。基本的に、式1は、電解質溶液においてイオンに作用する2つの駆動力、すなわち、拡散移動および電気的移動を記述する。デバイス100において、電場がHV電流源108に従って決定され、したがって、主要な駆動力として機能する。ポアソン方程式によれば、イオン濃度に対するEの依存性を下記のように表すことができる:
式中、εは水の誘電率を示す。
【0081】
場合によっては、Eの存在下での安定したpH勾配をフォーカシング流路102においてもたらすために、化学種の1つ(H+またはOH−)が多く存在する電解質溶液が流路に通される。例えば、pH10の電解質溶液を、多く存在する化学種としてのOH−の10−4Mの濃度、および、H+の10−10Mの濃度で、流路に通すことができる。そのような実施形態において、多く存在する化学種の濃度を、他の化学種(例えば、H+イオン)をフォーカシング流路102の途中で注入することによって徐々に低下させることができる。
【0082】
他の化学種がフォーカシング流路102に注入されるとき、pHレベルにおける急峻な傾斜部が注入点においてもたらされる。傾斜部は、イオン注入が行われない場合には保たれる一定のpH値に関して急峻である。簡単に述べると、そのような注入により、分析物が蓄積するまさにその地点、すなわち、注入装置の前方のまさにその地点を規定する段差形状のプロフィルを有するpH勾配がもたらされる。このことは、生体分子を検出および/または集めることをより容易にする。場合によっては、傾斜部の長さ、すなわち、フォーカシング流路102の長さ軸の部分と、傾斜部の高さ、すなわち、pHレベルの変化との比率が、1pH単位あたり10−4mである。
【0083】
使用時において、注入された生体分子は移動させられ、ついには、注入された生体分子は、それらのpIと実質的または完全に一致するpHレベルを有するフォーカシング流路102のセグメントに到達する。例えば、図7に示されるように、デバイス100によって形成される段階化勾配は、フォーカシングプロセスを速めることを可能する。生体分子を取り巻くpHと、それらのpIとの差がより大きいとき、生体分子において加えられる駆動力がより強くなる。フォーカシング流路102における電解質溶液のpH勾配がpH段階に分割されるので、生体分子のpIと、周囲pHとの差は、生体分子が、ほとんどの場合、他の段階との関連で、それらのpIと実質的または完全に一致するpHを有するpH段階に到達するまでは比較的大きい。そのpH段階において、生体分子は2つの異なるpH段階の間の領域に静止し、濃縮する。そのような様式においては、タンパク質がそのpIに近づくにつれて速度が低下する既存の方法とは異なり、フォーカシング流路102における生体分子の速度は大きく、かつ、一定のままであり、したがって、フォーカシングが比較的速く、例えば、2つの段階を有する勾配をもたらすデバイス100では1000秒である。
【0084】
他方で、段差形状でないpH勾配では、生体分子の駆動力が、pH勾配が徐々に増大または低下することにより徐々に低下する。そのような勾配におけるフォーカシングでは、比較的長いフォーカシング時間が要求される。これは、生体分子が、pHレベルがそれらのpIと一致する点に一層接近するときには生体分子の駆動力が実質的に低下するからである。さらに、段差形状プロフィルにより、生体分子が蓄積するまさにその地点、すなわち、注入装置の前方のまさにその地点が規定される。
【0085】
場合によっては、段差形状のプロフィルの安定性が、フォーカシング流路102における電解質溶液の段差形状のpHプロフィルと類似または同一である酸解離定数(pKa)を有する緩衝剤を加えることによって維持される。pKaの値は好ましくは、急峻なpH傾斜部の両側のpHレベルの範囲にある。例えば、傾斜部を、pH5の段差と、pH6の段差との間にもたらすためには、5〜6の間のpKa(例えば、5.4)を有する緩衝剤を選ばなければならない。場合によっては、異なるpKaを有する緩衝剤の混合物が加えられる。そのような様式において、複数の傾斜部を同時に安定化することができる。そのような混合物の一例が、支持電解質として機能する0.005MのNa2SO4と、2、7.2および/または12.33のpKaを有する0.0025Mリン酸塩緩衝液と、3.13、4.76および/または6.40のpKaを有する0.0025Mクエン酸塩とを含む混合物である。
【0086】
次に、図6が参照される。図6は、本発明のいくつかの実施形態による、pH発生器101の近くに配置されるフォーカシング流路102のセグメント、および、Na2SO4電解質溶液を使用するときに形成される段差形状の勾配である。場合によっては、pH8でのリン酸塩緩衝剤がNa2SO4電解質溶液に加えられる。図6に示されるように、Eは正イオン(カチオン)を左側に移動させ、負イオン(アニオン)を右側に移動させる。pH発生器101を始動させたとき、H+イオンがフォーカシング流路102に注入され、直ちに左側に移動し、同時に、緩衝剤イオンと反応する。反応に応答してもたらされるが、H+イオンおよび緩衝剤イオンの濃縮により、301において示されるように、段差形状のpH勾配がもたらされる。
【0087】
この電解質溶液において、このpH付近で高い濃度で存在する緩衝剤分子の化学種が、HPO4−2およびH2PO4−である。これらの緩衝剤分子は下記のプロトン化反応に関与する:
HPO4−2およびH2PO4−の相対的濃度の対するpHの依存性を、下記のように、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式によって表すことができる:
式中、Kaは反応の平衡定数である。
【0088】
一般に知られているように、H+イオンおよびOH−イオンは反応して、水を生じさせる:
ただし、平衡定数Kwは下記を満たす:
【0089】
pH発生器101が始動されないならば、すべての化学種の濃度が一定であり、電解質溶液のpHレベルもまた一定である。しかしながら、pH発生器101の1つまたは複数がプロトンをフォーカシング流路102に対して注入するとき、プロトンは、HPO4−2イオンがH2PO4−イオンに変換される式3における順方向の反応において示されるように反応する。その結果、式4に記載されるように、発生器の右手側でのフォーカシング流路102におけるpHレベルが低下する。したがって、それぞれのpH発生器101におけるプロトンの注入により、段差形状の勾配が、フォーカシング流路102におけるH+イオン、HPO4−2イオンおよびH2PO4−イオンの濃度を同時に変化させることによってもたらされる。Eは正イオンを左側に移動させ、負イオンを右側に移動させるので、それぞれのフォーカシング流路102の左手側におけるH+、HPO4−2およびH2PO4−の濃度は留まったままであり、それぞれのフォーカシング流路102の右手側におけるH+およびH2PO4−の濃度、ならびに、HPO4−2の濃度がそれぞれ増大および低下する。
【0090】
式5および式6に従って、H+イオンがOH−イオンと反応するとき、上記の段差形状のpHプロフィルが緩衝剤の非存在下で生じ得ることには留意しなければならない。しかしながら、H+イオンおよびOH−イオンの濃度は小さいかもしれないので(例えば、10−6〜10−8の間)、比較的低い電流により、プロフィルにおける段差が生じるかもしれない。そのような敏感さは、提供された電流におけるどの変化も、フォーカシング流路102における所望されるpH勾配の段差形状のpHプロフィルに影響することを生じさせるか、または、フォーカシング流路102における所望されるpH勾配の段差形状のpHプロフィルをなくすことを生じさせる。
【0091】
pH発生器101は、注入されたH+イオンの流れがHPO4−2イオンの流れよりも小さい様式で通電される。そうでない場合には、HPO4−2イオンの流れがH+イオンの流れによって消され、これにより、フォーカシング流路102全体にわたるpH低下が引き起こされる。
【0092】
場合によっては、いくつかのpH発生器101を、段階化pHプロフィルをもたらすために使用することができる。そのような実施形態において、複数のpH発生器101により、これらはフォーカシング流路102に沿って配置されるので、これらのpH発生器101によって加えられる異なる電流によって制御され得る勾配状の多数のpH段差がもたらされる。段階化プロフィルを有するそのような勾配は、異なるpIを有する複数の生体分子を同時に集中させるために利用することができる。コントローラーはこれらのpH発生器101に通電して、種々の混合物の生体分子のプローブ探査および/または分離するためにそれぞれが選択される異なる段差形状のpHプロフィルを有する異なる勾配を確立することができる。それぞれのpHプロフィルが、異なるpHレベルを有するセグメントを有する。それぞれのセグメント(これは段階化pHプロフィルにおける段差に対応する)を混合物における異なる生体分子のpIに従って選択することができる。使用時において、電解質溶液に加えられる種々の生体分子がフォーカシング流路102の異なるセグメントを占める。異なるpIを有する種々の生体分子をフォーカシング流路102に加えることにより、複数の濃縮を生じさせることができる。例えば、図7は、上記で記載されるデバイス100または方法90によってもたらされる、第1の傾斜部が7〜5.7の間のpHレベルを有し、第2の傾斜部が5.7〜5の間のpHレベルを有する段階化pHプロフィルを有する例示的な勾配を示す。この勾配のプロフィルは、これらの傾斜部が、5.3のpIおよび6のpIをそれぞれ有するタンパク質Aおよびタンパク質BのpIと一致するように構築される。そのような様式において、タンパク質Aが、pH5と、pH5.7との間の接合部401に静止し、タンパク質Bが、pH5.7と、pH7との間に静止する。そのようなpHプロフィルは、これらの生体分子の混合物を分離するために使用することができる。
【0093】
次に、再びではあるが、図2が参照される。上記で記載されるように、pH発生器はBPM200を含む。上記で記載されるように、BPM200は、H+イオンおよびOH−イオンを、水分子を分割することによって生じさせる。場合によっては、BPM200は、膨れまたは泡を電気分解期間中にその表面上および/またはそれらの間に生じさせない1つまたは複数の無気泡性メンブランを含む。簡略化のために、そのようなBPM200は無気泡性BPM200として示されることがある。そのような無気泡性BPM200を使用するとき、フォーカシング流路102は、気泡が実質的に存在しない状態のままであり、したがって、流路のより近くに置くことができる。そのような近接は、pH勾配をより速い速度(例えば、数秒)で生じさせることを可能にし、また、より長期間にわたって安定なままにすることができる。同様にまた、無気泡性BPM200は、他のpH発生器よりも正確かつ安定であるpHプロフィルを生じさせることを可能にするので、一定pHの領域における変動がより少なくなる。
【0094】
電極が、例えば、国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日公開)に記載されるように、pH発生器として使用されるとき、気泡がフォーカシング流路の中に拡散することを防止するために、当該電極は、フォーカシング流路102から距離をとって、例えば、3mm離れて置かれることには留意しなければならない。そのような距離は、電極によって生じたイオンが典型的なフォーカシング流路に移動して、pH勾配をもたらすために要する時間を、例えば、およそ400秒に遅らせる。上記で記載されるように、無気泡性BPM200を使用することにより、気泡の生成が防止され、したがって、pH発生器101をフォーカシング流路102の比較的ごく近くに、例えば、0.1mm未満に置くことが可能になる。
【0095】
さらに、そのようなpH発生器のアレイは、生体分子をより大きい分離度で分離をすることを可能にする。そのようなデバイス100において生じる勾配の大きい安定性は、限定された範囲からのpIを有する生体分子を分離することを可能にする。
【0096】
次に、図8もまた参照される。図8は、本発明のいくつかの実施形態による、通過する電流に対する無気泡性BPM200の応答の概略図である。BPM200は水分子をH+イオンおよびOH−イオンに分割する。場合によっては、BPMは、アニオン交換層152と、カチオン交換層151とからなり、これらの層は、水が通って拡散し得る薄い境界505を残して互いに平行に置かれる。アニオン交換層152およびカチオン交換層151は、アニオンおよびカチオンをそれぞれ伝え、一方、逆電荷のイオンに対しては不透過性である半透過性メンブランである。水の電気分解が、BPM200を、アニオン交換層152が陽極503に面し、カチオン交換層151が陰極504に面するように陽極503と、陰極504との間に置くことによって達成される。電圧が、陽極503と、陰極504との間に加えられたとき、層151と、層152との間の水分子が、逆方向ではあるが、H+イオンと、OH−イオンとに分かれる。
【0097】
水が分かれることに加えて、水の加水分解が生じ、これにより、H+およびO2ガス分子が陽極503で生じ、OH−およびH2ガス分子が陽極504で生じる。
【0098】
次に、もう一度ではあるが、図1が参照される。使用時において、主電流源108によって生じる電流により、電圧差が、フォーカシング流路102において、陰極105と、陽極106との間に生じる。pH発生器101(これらはフォーカシング流路102に沿って置かれる)は、イオンを、図3の211において示されるように、小さいスリット(例えば、およそ0.5mm)を介して流路に注入する。図1に示されるように、pH発生器101の電極のそれぞれ1つがそのそれぞれの発生器電流源202に接続され、次に、発生器電流源202はホイートストンブリッジを介して陰極105および陽極106につながる。そのような様式において、発生器電流源202は、電流を、pH発生器101の白金電極を介して陰極105および陽極106に向かわせるか、または、逆に、陰極105および陽極106介してpH発生器101の白金電極に向かわせる。上記で記載されるように、BPMの配向により、どのイオンがフォーカシング流路102に注入されるかが決定されることには留意しなければならない。
【0099】
図1において、図8に関しては、左側のpH発生器101Aの電極が陽極503として機能し、陰極105および陽極106が一緒になって、陰極504として機能する。pH発生器101Aおよび類似するpH発生器は、H+イオンをフォーカシング流路102に注入するように配向されるそれらの二極性メンブランを有する。そのようなpH発生器は電流をそれぞれの電極から陰極105および陽極106に向かわせる。反対に、右側のpH発生器101Bの電極は陰極504として機能し、陰極105および陽極106は一緒になって、陽極503として機能する。pH発生器101Bおよび類似するpH発生器は、OH−イオンをフォーカシング流路102に注入するように配向されるそれらの二極性メンブランを有する。そのようなpH発生器は電流を陽極105および陰極106からそれぞれの電極に向かわせる。
【0100】
次に、もう一度ではあるが、図2が参照される。上記で概略されるように、pH発生器101の内側で生じる化学的プロセスは、H+イオンをフォーカシング流路102に注入することを可能にする。使用時において、上記で記載されるように、電流が電極201を介して流れる。通電された電極201は、水分子をH+およびO2ガス分子に分解する電気分解を引き起こす。電流が、OH−およびH2ガスが生じる陰極105および陽極106に流れる。電極201と、陰極105および陽極106との間において、BPM200は水分子をH+イオンおよびOH−イオンに分解する。電極201およびBPM200は互いに近接しているので、BPM200によって生じるOH−イオンと、電極201によって生じるH+イオンとは、式5に従って絶え間なく再結合し、一定のpHをチャンバーにおいて維持する。他方で、陰極105および陽極106と、BPM200との距離は、フォーカシング流路102におけるpHレベルを長期間にわたって制御することを可能にする。
【0101】
上記で記載されるように、また、図2に示されるように、pH発生器101は、イオンを、薄いスリット211を介してフォーカシング流路102に注入する。代替では、pH発生器101は、イオンを、例えば、図9に示されるように、より幅広い開口物を介して注入する。そのような実施形態において、イオンが、数cmの幅であるスリットを介して注入される。この構成は、互い非常に接近して置かれる非常に多数の薄いスリットと等価であるので、結果は、数多くの短い段差から構成される平滑なpHプロフィルである。そのような実施形態において、注入は、多数の小さい段差からなる中程度の傾斜部を有するpHプロフィルを引き起こす。
【0102】
次に、もう一度ではあるが、図1が参照される。本発明のいくつかの実施形態によれば、コントローラー110が、ユーザーインターフェース(示されず)に、例えば、クライアント端末(例えば、パーソナルコンピューターまたはノート型コンピューターなど)に対して実行されるグラフィックユーザーインターフェース(GUI)を含むモジュールなどに接続される。そのような実施形態において、コントローラーは、使用者によって提供される値に従ってpH発生器101に通電することができる。例えば、使用者は所望のpHレベルを入力することができ、コントローラー110はpH発生器をそれに従って作動させることができる。別の実施形態において、使用者は1つまたは複数の生体分子を選択し、コントローラー110はpH発生器をそれに従って作動させることができる。そのような実施形態において、通電することが、例えば、上記で記載されるように、生体分子をフォーカシング流路102の種々のセグメントにおいて分けることを可能にするpHプロフィルをもたらすために行われる。
【0103】
本出願から成熟する特許の存続期間の期間中には、多くの関連するシステムおよび方法が開発されることが予想され、電源、GUI、およびコントローラーの用語の範囲は、すべてのそのような新しい技術を先験的に包含することが意図される。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態によれば、デバイス100は、生体分子濃縮を固定することを可能にする。上記で記載されるように、デバイス100において通る電流により、フォーカシング流路102内へのイオンの注入が誘導され、そのpH勾配が場合によっては動的ではあるが、様々な生体分子濃縮を生じさせることを可能にする様式で調節される。しかしながら、電流およびイオン注入が停止するとき、これらの濃縮は解消することがある。解消は、生体分子濃縮物の診断および/または分離された生体分子濃縮物の回収を制限し、かつ/あるいは、電流およびイオン注入を診断期間の期間中に維持することを必要とする。次に、図10が参照される。図10は、本発明のいくつかの実施形態による、濃縮の解消を遅くするか、または防止する多孔性ブロック118を有する着脱可能な溶液カートリッジ119を有するデバイス100の概略図である。デバイス100は、図1に示される構成要素のすべてを含み、しかしながら、フォーカシング流路102は、着脱可能な溶液カートリッジ119を含有するための空間と、その挿入および/または取り出しのための挿入開口部とを形成する。多孔性ブロック118が多孔性材料(例えば、セルロース)から構成される。使用時において、多孔性ブロック118は、電解質溶液により、また、分析される生体分子の混合物により湿らされ、その後、フォーカシング流路102に挿入される。次に、イオンが、上記で記載されるように、pH発生器101によって注入される。多孔性ブロック118の多孔性材料は、注入されたイオンが多孔性ブロック118におけるpHレベルを変化させることを可能にし、これにより、例えば、上記と同様に、段階化プロフィルを場合によっては有するそれに沿ったpH勾配をもたらす。そのような様式において、上記の分離プロセスおよびフォーカシングプロセスが多孔性ブロック118の中で生じ得る。フォーカシングが安定化するとき、多孔性ブロック118は、生体分子濃縮のうちのそれぞれ1つを単離することを可能にするようにセグメント化することができる。セグメント化を、多孔性ブロック118における種々の生体分子濃縮の間を隔てる中間領域を切り取ること、切断すること、連結することおよび/または結ぶことによって行うことができる。例えば、図11は、生体分子を例示的な多孔性ブロック118において単離することを概略的に示す。数字131は、いくつかの生体分子濃縮物を伴って吸収される取り外し可能な構造物であり、数字132は、それに対する切り取られた形態である。次に、セグメント化された多孔性ブロック118は、生体分子濃縮を維持するために電流をそれに対して通すことなく分析することができる。加えて、または、代替において、診断および/または生体分子回収を、濃縮が形成された後、より長期間にわたって行うことができる。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態によれば、フォーカシング流路(例えば、デバイス100のフォーカシング流路102など)におけるpHレベルが色分析に従って測定される。そのような実施形態において、pH指示薬、例えば、リトマス、フェノールレッド、ブロムクレゾールパープルおよび/または任意のpH感受性色素などが、フォーカシング流路102における電解質溶液に加えられる。電解質溶液におけるpH指示薬はその色をフォーカシング流路102におけるpHレベルに従って変化させるので、画像処理を、pHレベルを検出するために使用することができる。場合によっては、画像センサー、例えば、電荷結合デバイス(CCD)および/または相補型金属酸化物半導体(CMOS)に基づくセンサーなどが、フォーカシング流路の画像を取り込み、フォーカシング流路の種々のセグメントの1つまたは複数の色特性を色分析の一般に知られている方法によってコンピューター計算するために使用される。そのような色特性は、種々のセグメントにおけるpHレベルを前記に従って計算することを可能にする。場合によっては、求められたpHレベルが上記GUIに転送され、使用者に示される。
【0106】
画像処理を上記のように使用することにより、比較的速いpHレベル推定を受け取ることが可能になることには留意しなければならない。Micro電極に基づくpHプローブが使用されるとき、マイクロ電極と、電解質溶液との間における接触を容易にするスリットが形成される。このスリットは、例えば、図3の121において示されるように、pHプローブが挿入されるpHプローブソケットに接続される。これらのソケットは、流路からのイオンの移動を可能にし、これにより、ソケットにおけるpHレベルを変化させる溶液で満たされる。Micro電極はソケットにおけるpHレベルを検知し、流路のそれぞれのセグメントにおけるpHレベルを推定することを可能にする。しかしながら、ソケット内へのイオンの移動は時間がかかるので、pHプローブの読み取りにおける遅れが誘導される。さらに、ソケットは電解質溶液の要求される体積を増大させ、したがって、プロセス期間中に流路に注入しなければならないイオンの量を増大させる。他方で、画像センサーは電解質溶液との接触を必要とせず、したがって、ソケットが全く必要ない。画像センサーは、イオン移動を待つ必要がないので、pH確認プロセスがより速くなる。加えて、ソケットが全く必要ないので、電解質溶液の体積を減らすことができる。さらに、画像センサーは電解質溶液と接触していないので、溶液中に置かれる要素において通常の場合には形成される汚染を軽減または回避することができる。そのような様式では、画像センサーによって行われる測定は信頼性がより大きい。具体的には、pH電極に基づくプローブは、溶液によって容易に汚染される傾向がある。この汚染は誤差をそれらの読み取りに加える。画像センサーはそのような汚染にさらされない。さらに、HV電流が流路102において流れる。そのような電流は、溶液と接触しているプローブ(例えば、pH電極など)を損傷させることがある。画像センサーを使用することにより、HV電流を流路101において流すことが、システムの信頼性および寿命を低下させることなく可能になる。
【0107】
次に、図12が参照される。図12は、二極性メンブラン(290、291)を向かい合う面に有する電気泳動容器192で、電解質溶液において電気泳動容器192の長さ軸に対して横方向であるpH段階化292をもたらすために設計される、本発明のいくつかの実施形態による電気泳動容器192の概略図である。
【0108】
図12に記載される電気泳動容器192は、pH勾配を、電気泳動容器192が含有する電解質溶液において、向かい合う二極性メンブラン(290、291)の間にもたらすことを可能にする。pH勾配の種々のセグメントが、例えば、Clyde A.Dubbs他、Science、1966年1月28日、第151巻、第3709号、463頁〜464頁(Transverse Gradient Electrophoresis:Protein Homogeneity Test and Subfractionation Technique;これは参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載されるように、異なるpHレベルを有する。
【0109】
pH勾配292は、本明細書中では横方向pH勾配292として示されることがあるが、電気泳動容器192に置かれる混合物におけるタンパク質を、タンパク質をフォーカシングすることなく分離することを可能にする。横方向pH勾配292はタンパク質移動方向に対して横方向であり、かつ、混合物におけるタンパク質をそれらの移動度に従って分離することを可能にするように電気泳動容器192を介して伝えられる電場293に対して直交する。タンパク質の移動度はpHに依存するので、同じ種類のタンパク質は、それらの周囲のpHに依存する異なる速度を獲得する。得られる分離パターンが、流路に沿った斜線からなる。
【0110】
横方向pH勾配292が、二極性メンブラン(291、292)の間に流されるイオンによってもたらされる。具体的には、図8に関連して上記で記載されるように、二極性メンブランは、アニオン交換層152と、カチオン交換層151とからなり、これらは互いに平行に置かれる。アニオン交換層152およびカチオン交換層151はアニオンおよびカチオンをそれぞれ伝え、一方、逆電荷のイオンに対しては不透過性である。水の電気分解が、二極性メンブランを、アニオン交換層152が陽極に面し、カチオン交換層151が陰極に面するように置くことによって達成される。電圧が、陽極と、陰極との間に加えられたとき、層151と、層152との間の水分子が、逆方向ではあるが、H+イオンと、OH−イオンとに分かれる。二極性メンブラン(291、292)の間にもたらされるH+イオンの流れにより、pH勾配がもたらされる。
【0111】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0112】
用語「含む/備える(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。この用語は、「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」を包含する。
【0113】
表現「から本質的になる」は、さらなる成分および/または工程が、特許請求される組成物または方法の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物または方法がさらなる成分および/または工程を含み得ることを意味する。
【0114】
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
【0115】
用語「例示的」は、本明細書では「例(example,instance又はillustration)として作用する」ことを意味するために使用される。「例示的」として記載されたいかなる実施形態も必ずしも他の実施形態に対して好ましいもしくは有利なものとして解釈されたりかつ/または他の実施形態からの特徴の組み入れを除外するものではない。
【0116】
用語「任意選択的(場合によって)」は、本明細書では、「一部の実施形態に与えられるが、他の実施形態には与えられない」ことを意味するために使用される。本発明のいかなる特定の実施形態も対立しない限り複数の「任意選択的」な特徴を含むことができる。
【0117】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1〜6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
【0118】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0119】
明確にするため別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されることもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで、あるいは本発明の他の記載される実施形態において好適なように提供することもできる。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしに動作不能である場合を除いては、それらの実施形態の不可欠な特徴であると見なされるべきではない。
【0120】
本明細書中上記に描かれるような、および、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けが下記の実施例において見出される。
【実施例】
【0121】
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0122】
実施例は、例えば、図1および図2に関して上記で記載されるように、段差形状のpHプロフィルを生じさせるためにただ1つだけのpH発生器を使用する例示的なフォーカシングデバイスのシミュレーションに基づく。シミュレーションされたpH発生器は、上記で記載されるように、無気泡性BPMに基づく。シミュレーションされた例示的なフォーカシングデバイスはただ1つだけのpH発生器を含むが、上記で記載されるように、任意の数のpH発生器が使用され得ることには留意しなければならない。シミュレーションが、一組の偏微分方程式(PDE)を解くことによって行われる。この一組には、式2と、それぞれの式が電解質溶液における化学種について定義される式1の形式の一組の式とが含まれる。適切な境界条件が、例示的フォーカシングデバイスのフォーカシング流路の両側における一定の濃度、および、例えば、図2に示されるように、また、上記で記載されるように、pH発生器からのH+イオンの一定の電流である。初期条件が、例示的フォーカシングデバイスにおける任意の場所での一定の濃度として加えられる。完全な一組の式は下記の通りである:
上記式において、Kwおよびkwは、式5に示される反応についての平衡定数および会合速度定数を示し、Kpおよびkpは、式3に示される反応についての平衡定数および会合速度定数を示す。
【0123】
そのようなシミュレーションは、大きい電場と、x=0の位置にあるpH発生器電流の存在下でもたらされるpHプロフィルのグラフとをそれぞれ示す図11および図12に示されるような結果をもたらす。図13は、E=10−6mol/m2sの場合における様々な時点でのpHプロフィルを示し、図14は、定常状態のpHプロフィル、すなわち、様々な電流の結果を示す。
【0124】
図13は、一定の電流(10−6mol/m2s)を通し、かつ、x=0の位置にあるpH発生器の存在下における、時間の関数として生じるpHプロフィルを示す。図11に示されるように、酸性前線が、急なpH段差を有するプロフィルを数秒以内にもたらすように進行する。5mmの長さの酸性状況が右側におよそ100秒でもたらされ、一方で、左側では、初期のpHレベルが維持される。図14は、様々な大きさの電流において定常状態のpHプロフィルを有する勾配を示す。認められるように、電流の大きさにより、pH段差の高さが決定される。
【0125】
次に、図11および図12に関連して記載される実施例で使用される例示的なフォーカシングデバイスによるpH勾配の生成を例証する実施例が参照される。本明細書中で使用される場合、pH勾配生成速度は、pH勾配が例示的フォーカシングデバイスのフォーカシング流路において安定化するために要する期間を意味する。図13に示されるように、ただ1段だけのpHプロフィルが、シミュレーションされた例示的フォーカシングデバイスのpH発生器によってもたらされる。例示的フォーカシングデバイスのpH勾配生成速度を近似するために、例示的フォーカシングデバイスのpH勾配が期間中の多数の瞬間でモニターされている。図15は、例示的フォーカシングデバイスのフォーカシング流路の一連の9個の画像、および、電気分解期間を示す一組のドットである。画像が8分の期間tにおいて1分の画像間隔により連続して取り込まれた。pH指示薬が例示的フォーカシングデバイスにおける電解質溶液に加えられた。901〜903の数字は、例示的フォーカシングデバイスに沿って挿入される3つのpHプローブ(黒色の棒)を示す。数字904はpH発生器を示す。電流がpH発生器によって加えられることが黒塗りドットによって示され、電流の非存在が白塗りドットによって示される。電解質溶液は、pH指示薬を含む場合、pHレベルが7を超えるならば、紫色に変わり、または、pHレベルが4.5未満であるならば、赤色に変わる。t=0.5において、例示的フォーカシングデバイスのpH発生器に通電し、これにより、pH発生器は80μAの電流を生じさせた。結果として、図11および図12に示されるシミュレーションが予測するように、H+イオンがフォーカシング流路に注入され、これにより、右側に進行した酸性前線をもたらした。t=4.5分において、電流が切られると、酸性状況が消えた。t=6.5分において、pH発生器が再び通電され、酸性状況がもう一度、生じた。画像に示されるように、急なpH増加が、pHプローブ902と、pHプローブ903との間のセグメントにおける色の変化によって示され、一方、902と、901との間のセグメントの色は、8分の間中、一定のままであり、8のpHレベルを示している。
【0126】
急なpH増加がまた、2段差のpHプロフィルの例示的な生成を示すグラフ1005、および、上記で記載される例示的なフォーカシングデバイスの画像1006である図16によって示され得る。画像は、流路1001、pH発生器904およびpHプローブ901〜pHプローブ903、ならびに、電場方向1007を示す。グラフは、pHプローブ901〜pHプローブ903の読み取りを時間の関数として示す。示されるように、pHプローブ903は、pH発生器の右手側での酸性状況の生成を示す途切れることなく低下するpHレベルを読み取っている。pHプローブ901およびpHプローブ902は、加えられた電流によって影響されない一定のpHレベルを示す実質的に一定のpHレベルを読み取っている。初期の発生器電流が100μAであり、後で110μAおよび120μAに上昇した。
【0127】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
【0128】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。
【技術分野】
【0001】
関連出願
国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日発行)の内容は、本明細書中に完全に述べられているかのように組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、そのいくつかの実施形態において、分子分析および分離に関連し、より具体的には、しかし、限定的ではなく、等電点フォーカシングのための方法およびシステムに関連する。
【背景技術】
【0003】
等電点フォーカシングは、分析物サンプルにおける分子を、分子の異なるイオン的性質を利用することによって分離するための分析技術である。
【0004】
等電点フォーカシングは通常、固定化されたプロトン濃度勾配、一般には、所与の方向でより高いpHからより低いpHにまで変化するプロトン濃度勾配を有する電解質溶液(場合によっては、例えば、ポリアクリルアミド、デンプンおよび/またはアガロースに基づくゲル形態での電解質溶液)において行われる。一部の実施では、溶液は、電場のもとでpH勾配を生じさせる両性電解質を含有する。等電点フォーカシングでは、分離が、分離距離全体を占め、かつ、勾配におけるpHが陽極から陰極に向かって増大するpH勾配において生じる。使用時において、分析物が電解質溶液におけるある場所に負荷される。それぞれの異なる分子の電荷が、分子の様々な官能基の酸性度(pKa)に従って周囲のプロトン濃度に応答して変化する。
【0005】
電位が、等電点フォーカシング陽極と、等電点フォーカシング陰極との間でプロトン濃度勾配と平行に加えられる。正味の正電荷を有する分子が電解質溶液を通って陰極に向かって移動し、一方、正味の負電荷を有する分子が電解質溶液を通って陽極に向かって移動する。
【0006】
これらの分子が移動するにつれ、周囲のpHが変化して、分子における正味の電荷を減少させ、ついには、分子が、周囲のpHのためではあるが、分子における正味の電荷がゼロとなる等電点(pI)に達する。この地点で、移動中の分子は、ゼロの電荷を有するので停止する。そのような様式において、等電点フォーカシングは、特定のpIを有する分子を電解質溶液の比較的狭い体積に集中させる。等電点フォーカシングは、タンパク質をその酸性度に従って特徴づけることによってタンパク質の分析のために有用である。より重要なことであるが、等電点フォーカシングは、タンパク質の混合物を分離するために有用である。
【0007】
国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日発行、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)は、プロトンの局所的濃度、プロトン濃度勾配および所望されるプロトン濃度トポグラフィーを、電解質を含む環境(例えば、電解質溶液またはゲルなど)において生じさせる際に有用な方法およびデバイスを記載する。この特許出願はまた、等電点フォーカシングおよびデータ表示のための方法およびデバイスを開示する。
【発明の概要】
【0008】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのためのデバイスが提供される。本デバイスは、長さ軸を有し、かつ、電解質溶液を含有するために構成されるフォーカシング容器と、長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含む。それぞれの電気分解ユニットが、イオン流をフォーカシング容器の中に注入して、その結果、長さ軸に沿った電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配をもたらすようにするために構成される。それぞれの段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、pH勾配が、複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される。
【0009】
場合によっては、pH傾斜部は少なくとも0.1のpHである。
【0010】
場合によっては、それぞれの段差が少なくとも3mmの長さである。
【0011】
場合によっては、少なくとも1つの電気分解ユニットは複数の電気分解ユニットを含み、この場合、それぞれの電気分解ユニットを別個に制御するためのコントローラーをさらに含む。
【0012】
場合によっては、電解質溶液は複数の生体分子を含み、これらの複数の生体分子がpH勾配に沿った少なくとも1つのpH傾斜部にのみ濃縮する。
【0013】
場合によっては、勾配は複数の段差のうちの10未満を含む。
【0014】
場合によっては、勾配は複数の段差のうちの5未満を含む。
【0015】
場合によっては、勾配は複数の段差のうちの2つを含む。
【0016】
場合によっては、少なくとも1つの電気分解ユニットの1つが、複数のヒドロキシルイオンを注入するために構成され、かつ、少なくとも1つの電気分解ユニットの別の1つが、複数の水素イオンを注入するために構成される。
【0017】
場合によっては、フォーカシング容器は複数の狭くなったセグメントを有する。それぞれの電気分解ユニットが、イオン流をそれぞれの狭いセグメントに注入するために構成される。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのためのデバイスが提供される。本デバイスは、電解質溶液を含有するために構成され、かつ、第1および第2の末端部ならびに長さ軸を有するフォーカシング容器であって、少なくとも1つのスリットを第1および第2の末端部までの途中に有するフォーカシング容器と、第1の末端部および第2の末端部にそれぞれ取り付けられ、かつ、第1の電流を、電解質溶液を介してそれらの間に通すために構成される陽極および陰極とを含む。本デバイスはさらに、少なくとも1つのスリットに近接してそれぞれが取り付けられる少なくとも1つの二極性メンブランと、それぞれの少なくとも1つの二極性メンブランの前方にそれぞれが取り付けられ、かつ、第2の電流を少なくとも1つのそれぞれの二極性メンブランに付与し、その結果、少なくとも1つのスリットを介するイオン流を促進するようにするために構成される少なくとも1つの制御可能な電極とを含む。
【0019】
場合によっては、本デバイスは、第1および第2の電流を、陽極および陰極に対して、また、少なくとも1つの制御可能な電極に対してそれぞれ供給する電流源を含む。
【0020】
さらに場合によっては、本デバイスはさらに、発生器電流源を経由して上記制御可能な電極に物理的に接続されるホイートストンブリッジを含む。
【0021】
場合によっては、第1および第2の電流は高電圧の電流である。
【0022】
場合によっては、少なくとも1つの二極性メンブランは少なくとも1つの無気泡性の二極性メンブランである。
【0023】
場合によっては、本デバイスは、第1および第2の末端部にそれぞれ接続される第1および第2の受器を含み、ただし、この場合、陽極および陰極が第1および第2の受器にそれぞれ少なくとも部分的に取り付けられる。
【0024】
場合によっては、本デバイスは、フォーカシング容器を支持するための適所の前方において複数のソケットを有する支持構造物を含む。それぞれのソケットが、少なくとも1つの二極性メンブランの1つと、少なくとも1つの制御可能な電極の1つとを含有する。
【0025】
場合によっては、本デバイスは、pHレベルを少なくとも1つの二極性メンブランのそれぞれの近くで測定するために構成される少なくとも1つのpHプローブを含む。
【0026】
場合によっては、少なくとも1つのスリットの幅が3mm未満である。
【0027】
場合によっては、少なくとも1つの制御可能な電極と、二極性メンブランとの間の距離が3mm未満である。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのための方法が提供される。本方法は、長さ軸を有するフォーカシング容器を提供すること、複数の生体分子を有する電解質溶液を前記容器に加えること、電場を長さ軸に沿って電解質溶液において加えること、および、イオン流を長さ軸に沿った少なくとも1つの地点に注入して、電解質溶液における複数の段差によって定義されるpH勾配を確立し、その結果、複数の生体分子が少なくとも1つの地点の近くで少なくとも1つの濃縮において蓄積することを含み、ただし、それぞれの段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、pH勾配が、複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される。
【0029】
場合によっては、本方法はさらに、pH勾配を安定化するために緩衝剤を加えることを含む。
【0030】
場合によっては、pH勾配が上記複数の段差の中の複数の傾斜部によって定義され、この場合、pH勾配を安定化するために緩衝剤の混合物を加えることをさらに含む。
【0031】
場合によっては、複数の生体分子が上記少なくとも1つの濃縮にだけ蓄積する。
【0032】
場合によっては、注入することは、電流を、それぞれの上記少なくとも1つの地点で電解質溶液に近接してそれぞれが取り付けられる少なくとも1つの二極性メンブランにおいて加えることを含む。
【0033】
場合によっては、本方法はさらに、上記複数の生体分子を少なくとも1つの濃縮に従って診断することを含む。
【0034】
場合によっては、本方法はさらに、少なくとも1つの濃縮の少なくとも1つを別々に集めることを含む。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのための方法が提供される。本方法は、電解質溶液を有する容器に少なくとも1つの生体分子を提供すること、少なくとも1つのpH指示薬を電解質溶液に加えること、および、pH勾配を電解質溶液においてもたらすことを含む。本方法はさらに、電解質溶液の少なくとも1つの画像を取り込むこと、電解質溶液の少なくとも1つのセグメントの少なくとも1つの色特性を少なくとも1つの画像に従ってコンピューター計算すること、および、セグメントにおける少なくとも1つのpHレベルを少なくとも1つの色特性に従って計算することを含む。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのためのデバイスが提供される。本デバイスは、生体分子の混合物を伴う電解質溶液により湿らされる多孔性ブロックをその長さ軸の途中で、取り外し可能に保持するために構成されるフォーカシング容器と、第1の電流を、多孔性ブロックにおいて電解質溶液を介して通すために構成される複数の電極と、イオン流をフォーカシング容器の中に注入して、その結果、pH勾配を多孔性ブロックにおける電解質溶液において変化させるようにするためにそれぞれが構成される、長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含む。生体分子の混合物がpH勾配に従って多孔性ブロックにおいて配置される。
【0037】
場合によっては、フォーカシング容器は、多孔性ブロックをフォーカシング容器に設置すること、および、多孔性ブロックをフォーカシング容器から取り出すことの少なくとも一方のための開口部を有する。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのための方法が提供される。本方法は、生体分子の混合物を伴う電解質溶液により湿らされる多孔性ブロックをフォーカシング容器に設置すること、pH勾配を、多孔性ブロックにおける生体分子の複数の濃縮を促進するように電解質溶液においてもたらすこと、および、多孔性ブロックを、複数の濃縮のうちの1つをそれぞれが別々に含有する複数のセグメントにセグメント化することを含む。
【0039】
場合によっては、セグメント化することが、多孔性ブロックを複数の濃縮のうちのそれぞれ2つの間で切り取って、複数のセグメントを作製することによって行われる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態によれば、等電点フォーカシングのための着脱可能な溶液カートリッジが提供される。着脱可能な溶液カートリッジは、等電点フォーカシングシステムのフォーカシング流路にはまるようなサイズおよび形状を有し、かつ、複数の生体分子を有する電解質溶液により湿潤化されて、その結果、複数の生体分子の移動を電解質溶液において形成されるpH勾配に従って可能にするようにするために構成される多孔性ブロックを含む。
【0041】
場合によっては、多孔性ブロックは、複数の生体分子濃縮のうちのただ1つの濃縮をそれぞれが含む複数のセグメントを作製するために切り取ることができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態によれば、タンパク質の混合物を分離するためのデバイスが提供される。本デバイスは、電解質溶液および混合物を含有するために構成される電気泳動容器であって、長さ軸と、長さ軸と平行する第1および第2の向き合う側面とを有する電気泳動容器と、第1および第2の側面にそれぞれ取り付けられる第1および第2の二極性メンブランと、電場を電解質溶液において加えて、その結果、タンパク質を長さ軸に沿って動かすようにするための少なくとも1つ電極とを含む。第1および第2の二極性メンブランのうちの1つが、イオン流を電気泳動容器の中に注入して、その結果、電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配を長さ軸と直交してもたらすようにするために構成される。それぞれの段差が、実質的に均一なpHレベルを有する。
【0043】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および/または科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
本明細書では本発明のいくつかの実施形態を単に例示し添付の図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の実施形態を例示考察することだけを目的としていることを強調するものである。この点について、図面について行う説明によって、本発明の実施形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【0045】
【図1】図1は、生体分子の分離、および/または、1つもしくは複数の生体分子を有する分析物の診断を行うための、本発明のいくつかの実施形態による例示的な等電点フォーカシングデバイスの側面図の概略図である。
【0046】
【図2】図2は、本発明のいくつかの実施形態による、図1に示されるpH発生器の拡大図である。
【0047】
【図3】図3は、本発明のいくつかの実施形態による、図1に示されるデバイスの構成要素のいくつかを支持するための例示的な構造物の概略図である。
【0048】
【図4】図4は、本発明のいくつかの実施形態による、等電点フォーカシングのための方法のフローチャートである。
【0049】
【図5】図5は、本発明のいくつかの実施形態による、電場をイオンスリットの近くで増大させるための狭くなったセグメントを有するフォーカシング流路の概略図である。
【0050】
【図6】図6は、本発明のいくつかの実施形態による、pH発生器の近くに配置されるフォーカシング流路のセグメント、ならびに、Na2SO4電解質溶液およびリン酸塩緩衝剤系(HPO4−2/H2PO4−)を使用するときの段差形状の勾配である。
【0051】
【図7】図7は、本発明のいくつかの実施形態に従ってもたらされる段階化pHプロフィルを有する例示的な勾配、および、タンパク質の濃縮である。
【0052】
【図8】図8は、本発明のいくつかの実施形態による、通過する電流に対する無気泡性BPMの応答の概略図である。
【0053】
【図9】図9は、本発明のいくつかの実施形態による、幅広いスリットを有するpH発生器である。
【0054】
【図10】図10は、図1に示されるデバイスに類似するデバイスで、電解質溶液および生体分子により湿らされる多孔性ブロックを有する、本発明のいくつかの実施形態によるデバイスの概略図である。
【0055】
【図11】図11は、本発明のいくつかの実施形態による、生体分子濃縮を単離するために使用される例示的な取り外し可能な多孔性ブロックの概略図である。
【0056】
【図12】図12は、二極性メンブランを向かい合う面に有する電気泳動容器で、pH段階化を生じさせるために設計される、本発明のいくつかの実施形態による電気泳動容器の概略図である。
【0057】
【図13】図13は、本発明のいくつかの実施形態に従って規定される例示的なフォーカシングデバイスのシミュレーションによって生じる様々なpHプロフィルを示すグラフである。
【0058】
【図14】図14は、本発明のいくつかの実施形態に従って規定される例示的なフォーカシングデバイスのシミュレーションによって生じる様々なpHプロフィルを示すグラフである。
【0059】
【図15】図15は、例示的なフォーカシングデバイスのフォーカシング流路の一連の9個の画像、および、電気分解期間を示す一組のドットである。
【0060】
【図16】図16は、2段差のpHプロフィルの例示的な生成を示すグラフ、および、例示的なフォーカシングデバイスの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、分子分析および分子相互作用に関連し、より具体的には、しかし、限定的ではなく、等電点フォーカシングのための方法およびシステムに関連する。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態によれば、安定した段階化pH勾配を電解質溶液においてもたらし、その結果、生体分子(例えば、タンパク質およびペプチドなど)をそれらのpIに従って濃縮することを促進するようにするための方法およびシステムが提供される。安定した段階化pH勾配は、異なるpHレベルをそれぞれが有する複数の段差を有する。それぞれ2つの連続する段差が、0.1超のpH単位(例えば、0.5のpH単位)の急峻なpH傾斜部によって隔てられる。そのような勾配は、生体分子を約1000秒で段階化pH勾配に沿って濃縮することを可能にする。場合によっては、安定した段階化pH勾配は10未満の段差(例えば、5、4、3および2)を有する。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態によれば、生体分子の濃縮を分離および/または診断するためのフォーカシングデバイスが提供される。本デバイスは、電解質溶液を生体分子の混合物と一緒に含有するためのフォーカシング容器(例えば、フォーカシング流路など)を含む。本デバイスはさらに、電場を電解質溶液において加えるための電極を含む。電場により、生体分子が電解質溶液においてある軸に沿って並ばされる。フォーカシング流路は、1つまたは複数の電気分解ユニット(これは本明細書中ではpH発生器として示される)がH+イオンまたはOH−イオンをフォーカシング流路に注入することを可能にする1つまたは複数のスリットを有する。H+イオンまたはOH−イオンが、場合によっては無気泡性であるが、二極性メンブランを使用することによって生じる。H+イオンまたはOH−イオンにより、pH勾配が軸に沿って決定される。このことは、生体分子がそれらのpIに従ってpH勾配に沿って濃縮することを可能にする。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態によれば、画像処理を、フォーカシング容器における電解質溶液の1つまたは複数のセグメントでのpHレベルをコンピューター計算するために使用するための方法が提供される。そのような実施形態において、pH指示薬が電解質溶液に加えられる。pH指示薬は電解質溶液の色を、フォーカシング容器において形成されるpH勾配に従ってフォーカシング容器に沿って変化させる。変化した色が、画像センサーを使用して取り込まれる。取り込まれたデータにより、フォーカシング容器に沿った1つまたは複数のセグメントのpHレベルをコンピューター計算することができる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解質溶液を生体分子の混合物と一緒に吸収するための多孔性ブロックを含む着脱可能な溶液カートリッジが提供される。着脱可能な溶液カートリッジの多孔性ブロックは、フォーカシング流路(例えば、上記で概略され、また、下記で記載されるようなフォーカシング流路など)にはまるようなサイズおよび形状を有する。場合によっては、使用時において、多孔性ブロックは、電解質溶液と、分離されるべき生体分子の混合物とにより湿らされ、フォーカシング流路に挿入される。その後、pH勾配が、大きい電場と一緒にフォーカシング流路に沿ってもたらされる。pH勾配は、混合物の生体分子の濃縮を多孔性ブロックに沿ったいくつかの濃縮において促進させる。これは、異なるpIを有する生体分子が異なる場所に集中するからである。次いで、多孔性ブロックが取り出され、これにより、使用者は、多孔性ブロックを、例えば、濃縮がセグメント毎に制限される様式で切り取ることによってセグメント化することができる。
【0066】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示されるか、および/または図面および/または実施例において例示される構成要素および/または方法の組み立ておよび構成の細部に必ずしも限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施または実行されることが可能である。
【0067】
次に、図1が参照される。図1は、1つもしくは複数の生体分子を含む混合物における生体分子の分離、および/または、1つもしくは複数の生体分子を有する分析物の診断を行うための、本発明のいくつかの実施形態による例示的な等電点フォーカシングデバイス100の側面図の概略的例示である。本明細書中で使用される場合、生体分子には、タンパク質、ペプチド、ペプチドに基づく医薬用化合物、および、生体分子に基づく医薬用化合物が含まれる。
【0068】
等電点フォーカシングデバイス100は、場合によってはフォーカシング容器(これは本明細書中ではフォーカシング流路102として示される)に近接してアレイとして配置される複数の電気分解ユニット101を含む。場合によっては、フォーカシング流路は、例えば、100mmの長さ、5mmの幅および0.5mmの厚さの矩形のガラスキャピラリーである。電気分解ユニット101は、イオン流を生じさせ、そのイオン流をフォーカシング流路102に注入することによって、フォーカシング流路102の長さ軸99またはそれと平行する任意の他の軸に沿った異なるセグメントにおけるpHレベルを制御する。これらの電気分解ユニットは本明細書中ではpH発生器として示されることがある。そのような様式において、急峻なpH傾斜部によって互いに隔てられ、フォーカシング流路102においてもたらされ、かつ、場合によっては、例えば、イオンが種々のセグメントにおいて注入される限りは数分間を超える期間にわたって維持される複数のpH段階を有する勾配。そのような勾配は、段階化勾配、および/または、段差形状プロフィルを有するpH勾配として示されることがある。
【0069】
2つだけのpH発生器が示されるが、等電点フォーカシングデバイス100は任意の数のpH発生器101(例えば、4個、8個、12個、16個、20個、100個または任意の中間数またはより大きい数のpH発生器101)を有し得ることには留意しなければならない。
【0070】
図1に示されるように、フォーカシング流路102の左側面および右側面のそれぞれ一方が電解質溶液受器(103、104)に対して開いている。電解質溶液受器の一方103が陰極105に接続され、他方104が陽極106に接続される。陰極および陽極の受器(103、104)は、場合によっては高電圧(HV)のために設計され、フォーカシング流路102を主電流源108(場合によってはHV電流源、例えば、およそ300Vを超える電圧を有する電源)に接続する。他の電場が生体分子の混合物に依存して加えられ得ることには留意しなければならない。
【0071】
場合によっては、システム101はさらに、主電流源108およびpH発生器101を場合によっては別々に制御するコントローラー110を含む。例えば、pH発生器101の電極を、コントローラーにより、それぞれの電極が、選択された電流により別々にバイアス付加することを可能にする様式でコントローラー110に別々に接続することができる。
【0072】
場合によっては、図1に示されるように、1つまたは複数のpHプローブ109がフォーカシング流路102に沿って置かれる。それぞれのpHプローブ109が、局所的pHをモニターするために、1つまたは複数のpH発生器101に隣接して設置される。場合によっては、コントローラーはpHプローブ109の出力を受け取る。場合によっては、コントローラー110はpHプローブ109の出力を受け取り、例えば、国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日公開、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載されるように、pH発生器101に送られる電流をそれに従って調節する。
【0073】
次にまた、図2が参照される。図2は、本発明のいくつかの実施形態による、図1に示される例示的なpH発生器101の拡大図である。pH発生器101は、フォーカシング流路102に隣接して配置される二極性メンブラン(BPM)200を含む。場合によっては、BPMは、F.G.Wilhelm,I.他、Optimisation strategies for the preparation of bipolar membranes with reduced salt ion leakage in acid−base electrodialysis、Journal of Membrane Science、2001、182(1−2)、13〜28、および、G.Pourcelly、Electrodialysis with Bipolar Membranes: Principles, Optimization, and Applications、Russian Journal of Electrochemistry、2002、38(8)、919〜926において定義される通りである。pH発生器101はさらに、コントローラー110によって制御される発生器電流源202に接続される電極201(例えば、白金電極)を含む。場合によっては、電極201は、発生器電流源202に接続される白金線である。電極201は、チャンバー205として示されることがある空間(例えば、体積において1cm3;これは場合によっては接する)に配置される。場合によっては、チャンバー205は水性の電解質溶液で満たされる。
【0074】
次にまた、図3が参照される。図3は、本発明のいくつかの実施形態による、デバイス100の構成要素を支持するための例示的な構造物120の概略図である。場合によっては、上記で概略されるように、流路は矩形のガラスキャピラリーである。フォーカシング流路102が、場合によってはPerspexブロックである構造物120に取り付けられる。フォーカシング流路102は、pH発生器101のアレイからのイオンの通過およびpHプローブ109からのpH検知を可能にする薄いスリット211を有する。構造物120は、121において示されるように、pHプローブが挿入されるpHプローブソケットと、例えば、図2において示されるように、BPM200および電極201が挿入される発生器チャンバー205とを収容する。場合によっては、それぞれのpHプローブがSENRONのMicro電極9070−008を含む(その仕様書が参照によって本明細書中に組み込まれる)。Micro電極が、流路からのイオンがその中では自由に小さいスリットに達し、これを通り抜け、これにより、pH検知を可能にするpHプローブソケットに挿入される。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態によれば、発生器電流源202が、例えば、図1では111において示されるように、場合によってはホイートストンブリッジを経由して陽極106および陰極105に接続される。ホイートストンブリッジ111が、陰極105と、陽極106との間を接続するために置かれる。ホイートストンブリッジ111は、pH発生器101が高電圧で作動することを可能にするために使用される。10ボルトを超える電圧が存在する場合、電位差がBPM200の両方の面において現れるかもしれない。具体的には、電源108を介した電位差はBPMの2つの面の間における電位差をもたらす。BPMの2つの面の間における電位差が10Vを超えるならば、PBMが損傷するかもしれない。そのような電位差は、発生器電流源202と同様に、BPM200を傷つけるかもしれない。場合によっては、ブリッジは、メンブランの2つの面の間における電位をバランスさせ、これにより、2つの面の間における電位差を、BPM200および/または発生器電流源202の運転を妨げることなく低下させる一連の抵抗器からなる。代替では、高電圧が加えられず、発生器電流源202が陰極105および陽極106に直接にワイヤ接続される。
【0076】
pH発生器101(これには発生器電流源202によって通電され得る)により、pH勾配がフォーカシング流路102においてもたらされる。二極性メンブラン200は、pH発生器101が水分子を水素H+およびヒドロキシルOH−に効率よく解離することを可能にする。一般に知られているように、二極性メンブランは、H+を放出することを可能にする面151と、ヒドロキシルOH−を放出することを可能にする別の面152との2つの面を有する。BPM200は、例えば、101Aにおいて示されるように、H+をフォーカシング流路102の中に放出し、かつ、ヒドロキシルOH−をチャンバー205の中に放出するために配置することができ、または、例えば、101Bにおいて示されるように、OH−がフォーカシング流路102の中に放出され、かつ、H+がチャンバー205の中に放出されるように逆配置で配置することができる。
【0077】
図4もまた参照される。図4は、本発明のいくつかの実施形態による、等電点フォーカシングのための方法90のフローチャートである。
【0078】
最初に、91において示されるように、フォーカシング容器が提供される(例えば、100において示される等電点フォーカシングデバイスの容器など)。その後、92において示されるように、電解質溶液により、等電点フォーカシングデバイスのフォーカシング容器が満たされる。場合によっては、2つの電解質溶液受器(103、104)と、流路102とが、溶液で満たされる。94において示されるように、1つまたは複数の異なる生体分子(例えば、タンパク質など)の混合物がフォーカシング容器における溶液に加えられる。混合物は、下記で記載されるようなpH勾配を確立する前および/または確立している期間中に加えられ得ることには留意しなければならない。93において示されるように、電場(例えば、上記HVなど)が、例えば、陰極105と、陽極106との間に、長さ軸99に沿って電解質溶液において加えられる。その後、95において示されるように、1つまたは複数のイオン流が長さ軸99に沿った1つまたは複数の地点において注入されて、96において示されるように、急峻なpH傾斜部によって隔てられる複数の段差によって規定されるpH勾配を確立し、その結果、生体分子が、急峻なpH傾斜部をpH発生器101の前方の空間にもたらす注入地点の近くに蓄積する。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態によれば、フォーカシング流路102は、電場をイオンスリットの近くで増大させるための狭くなったセグメントを有するいくつかの狭くなったセグメントを含む。具体的には、これらのセグメントは、例えば、図5の数字131において示されるように、流路の他のセグメントよりも狭いので、これらのセグメントにおいて形成される電場は流路の他のセグメントにおける電場よりも強い。そのような実施形態において、イオンスリット211が流路102の狭くなったセグメント131において形成される。強い電場は、生体分子を流路のより狭いセグメントにおいて濃縮するようにpH傾斜部を狭くする。
【0080】
次に、水素H+イオンおよび/またはヒドロキシルOH−イオンを、安定なpH勾配をフォーカシング流路102において保証する様式で電解質溶液に注入するプロセスの説明が示される。明確化のために、電解質溶液における化学種iのイオンの挙動が下記の式によって支配される:
式中、Ciは化学種iの濃度を示し、DCiはCiの拡散係数を示し、μCiはCiの電気移動度を示し、Ziは電子単位でのCiの電荷を示し、Fはファラデー定数を示し、Riは化学種iの反応項を示し、Eはフォーカシング流路102における電場を示す。基本的に、式1は、電解質溶液においてイオンに作用する2つの駆動力、すなわち、拡散移動および電気的移動を記述する。デバイス100において、電場がHV電流源108に従って決定され、したがって、主要な駆動力として機能する。ポアソン方程式によれば、イオン濃度に対するEの依存性を下記のように表すことができる:
式中、εは水の誘電率を示す。
【0081】
場合によっては、Eの存在下での安定したpH勾配をフォーカシング流路102においてもたらすために、化学種の1つ(H+またはOH−)が多く存在する電解質溶液が流路に通される。例えば、pH10の電解質溶液を、多く存在する化学種としてのOH−の10−4Mの濃度、および、H+の10−10Mの濃度で、流路に通すことができる。そのような実施形態において、多く存在する化学種の濃度を、他の化学種(例えば、H+イオン)をフォーカシング流路102の途中で注入することによって徐々に低下させることができる。
【0082】
他の化学種がフォーカシング流路102に注入されるとき、pHレベルにおける急峻な傾斜部が注入点においてもたらされる。傾斜部は、イオン注入が行われない場合には保たれる一定のpH値に関して急峻である。簡単に述べると、そのような注入により、分析物が蓄積するまさにその地点、すなわち、注入装置の前方のまさにその地点を規定する段差形状のプロフィルを有するpH勾配がもたらされる。このことは、生体分子を検出および/または集めることをより容易にする。場合によっては、傾斜部の長さ、すなわち、フォーカシング流路102の長さ軸の部分と、傾斜部の高さ、すなわち、pHレベルの変化との比率が、1pH単位あたり10−4mである。
【0083】
使用時において、注入された生体分子は移動させられ、ついには、注入された生体分子は、それらのpIと実質的または完全に一致するpHレベルを有するフォーカシング流路102のセグメントに到達する。例えば、図7に示されるように、デバイス100によって形成される段階化勾配は、フォーカシングプロセスを速めることを可能する。生体分子を取り巻くpHと、それらのpIとの差がより大きいとき、生体分子において加えられる駆動力がより強くなる。フォーカシング流路102における電解質溶液のpH勾配がpH段階に分割されるので、生体分子のpIと、周囲pHとの差は、生体分子が、ほとんどの場合、他の段階との関連で、それらのpIと実質的または完全に一致するpHを有するpH段階に到達するまでは比較的大きい。そのpH段階において、生体分子は2つの異なるpH段階の間の領域に静止し、濃縮する。そのような様式においては、タンパク質がそのpIに近づくにつれて速度が低下する既存の方法とは異なり、フォーカシング流路102における生体分子の速度は大きく、かつ、一定のままであり、したがって、フォーカシングが比較的速く、例えば、2つの段階を有する勾配をもたらすデバイス100では1000秒である。
【0084】
他方で、段差形状でないpH勾配では、生体分子の駆動力が、pH勾配が徐々に増大または低下することにより徐々に低下する。そのような勾配におけるフォーカシングでは、比較的長いフォーカシング時間が要求される。これは、生体分子が、pHレベルがそれらのpIと一致する点に一層接近するときには生体分子の駆動力が実質的に低下するからである。さらに、段差形状プロフィルにより、生体分子が蓄積するまさにその地点、すなわち、注入装置の前方のまさにその地点が規定される。
【0085】
場合によっては、段差形状のプロフィルの安定性が、フォーカシング流路102における電解質溶液の段差形状のpHプロフィルと類似または同一である酸解離定数(pKa)を有する緩衝剤を加えることによって維持される。pKaの値は好ましくは、急峻なpH傾斜部の両側のpHレベルの範囲にある。例えば、傾斜部を、pH5の段差と、pH6の段差との間にもたらすためには、5〜6の間のpKa(例えば、5.4)を有する緩衝剤を選ばなければならない。場合によっては、異なるpKaを有する緩衝剤の混合物が加えられる。そのような様式において、複数の傾斜部を同時に安定化することができる。そのような混合物の一例が、支持電解質として機能する0.005MのNa2SO4と、2、7.2および/または12.33のpKaを有する0.0025Mリン酸塩緩衝液と、3.13、4.76および/または6.40のpKaを有する0.0025Mクエン酸塩とを含む混合物である。
【0086】
次に、図6が参照される。図6は、本発明のいくつかの実施形態による、pH発生器101の近くに配置されるフォーカシング流路102のセグメント、および、Na2SO4電解質溶液を使用するときに形成される段差形状の勾配である。場合によっては、pH8でのリン酸塩緩衝剤がNa2SO4電解質溶液に加えられる。図6に示されるように、Eは正イオン(カチオン)を左側に移動させ、負イオン(アニオン)を右側に移動させる。pH発生器101を始動させたとき、H+イオンがフォーカシング流路102に注入され、直ちに左側に移動し、同時に、緩衝剤イオンと反応する。反応に応答してもたらされるが、H+イオンおよび緩衝剤イオンの濃縮により、301において示されるように、段差形状のpH勾配がもたらされる。
【0087】
この電解質溶液において、このpH付近で高い濃度で存在する緩衝剤分子の化学種が、HPO4−2およびH2PO4−である。これらの緩衝剤分子は下記のプロトン化反応に関与する:
HPO4−2およびH2PO4−の相対的濃度の対するpHの依存性を、下記のように、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式によって表すことができる:
式中、Kaは反応の平衡定数である。
【0088】
一般に知られているように、H+イオンおよびOH−イオンは反応して、水を生じさせる:
ただし、平衡定数Kwは下記を満たす:
【0089】
pH発生器101が始動されないならば、すべての化学種の濃度が一定であり、電解質溶液のpHレベルもまた一定である。しかしながら、pH発生器101の1つまたは複数がプロトンをフォーカシング流路102に対して注入するとき、プロトンは、HPO4−2イオンがH2PO4−イオンに変換される式3における順方向の反応において示されるように反応する。その結果、式4に記載されるように、発生器の右手側でのフォーカシング流路102におけるpHレベルが低下する。したがって、それぞれのpH発生器101におけるプロトンの注入により、段差形状の勾配が、フォーカシング流路102におけるH+イオン、HPO4−2イオンおよびH2PO4−イオンの濃度を同時に変化させることによってもたらされる。Eは正イオンを左側に移動させ、負イオンを右側に移動させるので、それぞれのフォーカシング流路102の左手側におけるH+、HPO4−2およびH2PO4−の濃度は留まったままであり、それぞれのフォーカシング流路102の右手側におけるH+およびH2PO4−の濃度、ならびに、HPO4−2の濃度がそれぞれ増大および低下する。
【0090】
式5および式6に従って、H+イオンがOH−イオンと反応するとき、上記の段差形状のpHプロフィルが緩衝剤の非存在下で生じ得ることには留意しなければならない。しかしながら、H+イオンおよびOH−イオンの濃度は小さいかもしれないので(例えば、10−6〜10−8の間)、比較的低い電流により、プロフィルにおける段差が生じるかもしれない。そのような敏感さは、提供された電流におけるどの変化も、フォーカシング流路102における所望されるpH勾配の段差形状のpHプロフィルに影響することを生じさせるか、または、フォーカシング流路102における所望されるpH勾配の段差形状のpHプロフィルをなくすことを生じさせる。
【0091】
pH発生器101は、注入されたH+イオンの流れがHPO4−2イオンの流れよりも小さい様式で通電される。そうでない場合には、HPO4−2イオンの流れがH+イオンの流れによって消され、これにより、フォーカシング流路102全体にわたるpH低下が引き起こされる。
【0092】
場合によっては、いくつかのpH発生器101を、段階化pHプロフィルをもたらすために使用することができる。そのような実施形態において、複数のpH発生器101により、これらはフォーカシング流路102に沿って配置されるので、これらのpH発生器101によって加えられる異なる電流によって制御され得る勾配状の多数のpH段差がもたらされる。段階化プロフィルを有するそのような勾配は、異なるpIを有する複数の生体分子を同時に集中させるために利用することができる。コントローラーはこれらのpH発生器101に通電して、種々の混合物の生体分子のプローブ探査および/または分離するためにそれぞれが選択される異なる段差形状のpHプロフィルを有する異なる勾配を確立することができる。それぞれのpHプロフィルが、異なるpHレベルを有するセグメントを有する。それぞれのセグメント(これは段階化pHプロフィルにおける段差に対応する)を混合物における異なる生体分子のpIに従って選択することができる。使用時において、電解質溶液に加えられる種々の生体分子がフォーカシング流路102の異なるセグメントを占める。異なるpIを有する種々の生体分子をフォーカシング流路102に加えることにより、複数の濃縮を生じさせることができる。例えば、図7は、上記で記載されるデバイス100または方法90によってもたらされる、第1の傾斜部が7〜5.7の間のpHレベルを有し、第2の傾斜部が5.7〜5の間のpHレベルを有する段階化pHプロフィルを有する例示的な勾配を示す。この勾配のプロフィルは、これらの傾斜部が、5.3のpIおよび6のpIをそれぞれ有するタンパク質Aおよびタンパク質BのpIと一致するように構築される。そのような様式において、タンパク質Aが、pH5と、pH5.7との間の接合部401に静止し、タンパク質Bが、pH5.7と、pH7との間に静止する。そのようなpHプロフィルは、これらの生体分子の混合物を分離するために使用することができる。
【0093】
次に、再びではあるが、図2が参照される。上記で記載されるように、pH発生器はBPM200を含む。上記で記載されるように、BPM200は、H+イオンおよびOH−イオンを、水分子を分割することによって生じさせる。場合によっては、BPM200は、膨れまたは泡を電気分解期間中にその表面上および/またはそれらの間に生じさせない1つまたは複数の無気泡性メンブランを含む。簡略化のために、そのようなBPM200は無気泡性BPM200として示されることがある。そのような無気泡性BPM200を使用するとき、フォーカシング流路102は、気泡が実質的に存在しない状態のままであり、したがって、流路のより近くに置くことができる。そのような近接は、pH勾配をより速い速度(例えば、数秒)で生じさせることを可能にし、また、より長期間にわたって安定なままにすることができる。同様にまた、無気泡性BPM200は、他のpH発生器よりも正確かつ安定であるpHプロフィルを生じさせることを可能にするので、一定pHの領域における変動がより少なくなる。
【0094】
電極が、例えば、国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日公開)に記載されるように、pH発生器として使用されるとき、気泡がフォーカシング流路の中に拡散することを防止するために、当該電極は、フォーカシング流路102から距離をとって、例えば、3mm離れて置かれることには留意しなければならない。そのような距離は、電極によって生じたイオンが典型的なフォーカシング流路に移動して、pH勾配をもたらすために要する時間を、例えば、およそ400秒に遅らせる。上記で記載されるように、無気泡性BPM200を使用することにより、気泡の生成が防止され、したがって、pH発生器101をフォーカシング流路102の比較的ごく近くに、例えば、0.1mm未満に置くことが可能になる。
【0095】
さらに、そのようなpH発生器のアレイは、生体分子をより大きい分離度で分離をすることを可能にする。そのようなデバイス100において生じる勾配の大きい安定性は、限定された範囲からのpIを有する生体分子を分離することを可能にする。
【0096】
次に、図8もまた参照される。図8は、本発明のいくつかの実施形態による、通過する電流に対する無気泡性BPM200の応答の概略図である。BPM200は水分子をH+イオンおよびOH−イオンに分割する。場合によっては、BPMは、アニオン交換層152と、カチオン交換層151とからなり、これらの層は、水が通って拡散し得る薄い境界505を残して互いに平行に置かれる。アニオン交換層152およびカチオン交換層151は、アニオンおよびカチオンをそれぞれ伝え、一方、逆電荷のイオンに対しては不透過性である半透過性メンブランである。水の電気分解が、BPM200を、アニオン交換層152が陽極503に面し、カチオン交換層151が陰極504に面するように陽極503と、陰極504との間に置くことによって達成される。電圧が、陽極503と、陰極504との間に加えられたとき、層151と、層152との間の水分子が、逆方向ではあるが、H+イオンと、OH−イオンとに分かれる。
【0097】
水が分かれることに加えて、水の加水分解が生じ、これにより、H+およびO2ガス分子が陽極503で生じ、OH−およびH2ガス分子が陽極504で生じる。
【0098】
次に、もう一度ではあるが、図1が参照される。使用時において、主電流源108によって生じる電流により、電圧差が、フォーカシング流路102において、陰極105と、陽極106との間に生じる。pH発生器101(これらはフォーカシング流路102に沿って置かれる)は、イオンを、図3の211において示されるように、小さいスリット(例えば、およそ0.5mm)を介して流路に注入する。図1に示されるように、pH発生器101の電極のそれぞれ1つがそのそれぞれの発生器電流源202に接続され、次に、発生器電流源202はホイートストンブリッジを介して陰極105および陽極106につながる。そのような様式において、発生器電流源202は、電流を、pH発生器101の白金電極を介して陰極105および陽極106に向かわせるか、または、逆に、陰極105および陽極106介してpH発生器101の白金電極に向かわせる。上記で記載されるように、BPMの配向により、どのイオンがフォーカシング流路102に注入されるかが決定されることには留意しなければならない。
【0099】
図1において、図8に関しては、左側のpH発生器101Aの電極が陽極503として機能し、陰極105および陽極106が一緒になって、陰極504として機能する。pH発生器101Aおよび類似するpH発生器は、H+イオンをフォーカシング流路102に注入するように配向されるそれらの二極性メンブランを有する。そのようなpH発生器は電流をそれぞれの電極から陰極105および陽極106に向かわせる。反対に、右側のpH発生器101Bの電極は陰極504として機能し、陰極105および陽極106は一緒になって、陽極503として機能する。pH発生器101Bおよび類似するpH発生器は、OH−イオンをフォーカシング流路102に注入するように配向されるそれらの二極性メンブランを有する。そのようなpH発生器は電流を陽極105および陰極106からそれぞれの電極に向かわせる。
【0100】
次に、もう一度ではあるが、図2が参照される。上記で概略されるように、pH発生器101の内側で生じる化学的プロセスは、H+イオンをフォーカシング流路102に注入することを可能にする。使用時において、上記で記載されるように、電流が電極201を介して流れる。通電された電極201は、水分子をH+およびO2ガス分子に分解する電気分解を引き起こす。電流が、OH−およびH2ガスが生じる陰極105および陽極106に流れる。電極201と、陰極105および陽極106との間において、BPM200は水分子をH+イオンおよびOH−イオンに分解する。電極201およびBPM200は互いに近接しているので、BPM200によって生じるOH−イオンと、電極201によって生じるH+イオンとは、式5に従って絶え間なく再結合し、一定のpHをチャンバーにおいて維持する。他方で、陰極105および陽極106と、BPM200との距離は、フォーカシング流路102におけるpHレベルを長期間にわたって制御することを可能にする。
【0101】
上記で記載されるように、また、図2に示されるように、pH発生器101は、イオンを、薄いスリット211を介してフォーカシング流路102に注入する。代替では、pH発生器101は、イオンを、例えば、図9に示されるように、より幅広い開口物を介して注入する。そのような実施形態において、イオンが、数cmの幅であるスリットを介して注入される。この構成は、互い非常に接近して置かれる非常に多数の薄いスリットと等価であるので、結果は、数多くの短い段差から構成される平滑なpHプロフィルである。そのような実施形態において、注入は、多数の小さい段差からなる中程度の傾斜部を有するpHプロフィルを引き起こす。
【0102】
次に、もう一度ではあるが、図1が参照される。本発明のいくつかの実施形態によれば、コントローラー110が、ユーザーインターフェース(示されず)に、例えば、クライアント端末(例えば、パーソナルコンピューターまたはノート型コンピューターなど)に対して実行されるグラフィックユーザーインターフェース(GUI)を含むモジュールなどに接続される。そのような実施形態において、コントローラーは、使用者によって提供される値に従ってpH発生器101に通電することができる。例えば、使用者は所望のpHレベルを入力することができ、コントローラー110はpH発生器をそれに従って作動させることができる。別の実施形態において、使用者は1つまたは複数の生体分子を選択し、コントローラー110はpH発生器をそれに従って作動させることができる。そのような実施形態において、通電することが、例えば、上記で記載されるように、生体分子をフォーカシング流路102の種々のセグメントにおいて分けることを可能にするpHプロフィルをもたらすために行われる。
【0103】
本出願から成熟する特許の存続期間の期間中には、多くの関連するシステムおよび方法が開発されることが予想され、電源、GUI、およびコントローラーの用語の範囲は、すべてのそのような新しい技術を先験的に包含することが意図される。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態によれば、デバイス100は、生体分子濃縮を固定することを可能にする。上記で記載されるように、デバイス100において通る電流により、フォーカシング流路102内へのイオンの注入が誘導され、そのpH勾配が場合によっては動的ではあるが、様々な生体分子濃縮を生じさせることを可能にする様式で調節される。しかしながら、電流およびイオン注入が停止するとき、これらの濃縮は解消することがある。解消は、生体分子濃縮物の診断および/または分離された生体分子濃縮物の回収を制限し、かつ/あるいは、電流およびイオン注入を診断期間の期間中に維持することを必要とする。次に、図10が参照される。図10は、本発明のいくつかの実施形態による、濃縮の解消を遅くするか、または防止する多孔性ブロック118を有する着脱可能な溶液カートリッジ119を有するデバイス100の概略図である。デバイス100は、図1に示される構成要素のすべてを含み、しかしながら、フォーカシング流路102は、着脱可能な溶液カートリッジ119を含有するための空間と、その挿入および/または取り出しのための挿入開口部とを形成する。多孔性ブロック118が多孔性材料(例えば、セルロース)から構成される。使用時において、多孔性ブロック118は、電解質溶液により、また、分析される生体分子の混合物により湿らされ、その後、フォーカシング流路102に挿入される。次に、イオンが、上記で記載されるように、pH発生器101によって注入される。多孔性ブロック118の多孔性材料は、注入されたイオンが多孔性ブロック118におけるpHレベルを変化させることを可能にし、これにより、例えば、上記と同様に、段階化プロフィルを場合によっては有するそれに沿ったpH勾配をもたらす。そのような様式において、上記の分離プロセスおよびフォーカシングプロセスが多孔性ブロック118の中で生じ得る。フォーカシングが安定化するとき、多孔性ブロック118は、生体分子濃縮のうちのそれぞれ1つを単離することを可能にするようにセグメント化することができる。セグメント化を、多孔性ブロック118における種々の生体分子濃縮の間を隔てる中間領域を切り取ること、切断すること、連結することおよび/または結ぶことによって行うことができる。例えば、図11は、生体分子を例示的な多孔性ブロック118において単離することを概略的に示す。数字131は、いくつかの生体分子濃縮物を伴って吸収される取り外し可能な構造物であり、数字132は、それに対する切り取られた形態である。次に、セグメント化された多孔性ブロック118は、生体分子濃縮を維持するために電流をそれに対して通すことなく分析することができる。加えて、または、代替において、診断および/または生体分子回収を、濃縮が形成された後、より長期間にわたって行うことができる。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態によれば、フォーカシング流路(例えば、デバイス100のフォーカシング流路102など)におけるpHレベルが色分析に従って測定される。そのような実施形態において、pH指示薬、例えば、リトマス、フェノールレッド、ブロムクレゾールパープルおよび/または任意のpH感受性色素などが、フォーカシング流路102における電解質溶液に加えられる。電解質溶液におけるpH指示薬はその色をフォーカシング流路102におけるpHレベルに従って変化させるので、画像処理を、pHレベルを検出するために使用することができる。場合によっては、画像センサー、例えば、電荷結合デバイス(CCD)および/または相補型金属酸化物半導体(CMOS)に基づくセンサーなどが、フォーカシング流路の画像を取り込み、フォーカシング流路の種々のセグメントの1つまたは複数の色特性を色分析の一般に知られている方法によってコンピューター計算するために使用される。そのような色特性は、種々のセグメントにおけるpHレベルを前記に従って計算することを可能にする。場合によっては、求められたpHレベルが上記GUIに転送され、使用者に示される。
【0106】
画像処理を上記のように使用することにより、比較的速いpHレベル推定を受け取ることが可能になることには留意しなければならない。Micro電極に基づくpHプローブが使用されるとき、マイクロ電極と、電解質溶液との間における接触を容易にするスリットが形成される。このスリットは、例えば、図3の121において示されるように、pHプローブが挿入されるpHプローブソケットに接続される。これらのソケットは、流路からのイオンの移動を可能にし、これにより、ソケットにおけるpHレベルを変化させる溶液で満たされる。Micro電極はソケットにおけるpHレベルを検知し、流路のそれぞれのセグメントにおけるpHレベルを推定することを可能にする。しかしながら、ソケット内へのイオンの移動は時間がかかるので、pHプローブの読み取りにおける遅れが誘導される。さらに、ソケットは電解質溶液の要求される体積を増大させ、したがって、プロセス期間中に流路に注入しなければならないイオンの量を増大させる。他方で、画像センサーは電解質溶液との接触を必要とせず、したがって、ソケットが全く必要ない。画像センサーは、イオン移動を待つ必要がないので、pH確認プロセスがより速くなる。加えて、ソケットが全く必要ないので、電解質溶液の体積を減らすことができる。さらに、画像センサーは電解質溶液と接触していないので、溶液中に置かれる要素において通常の場合には形成される汚染を軽減または回避することができる。そのような様式では、画像センサーによって行われる測定は信頼性がより大きい。具体的には、pH電極に基づくプローブは、溶液によって容易に汚染される傾向がある。この汚染は誤差をそれらの読み取りに加える。画像センサーはそのような汚染にさらされない。さらに、HV電流が流路102において流れる。そのような電流は、溶液と接触しているプローブ(例えば、pH電極など)を損傷させることがある。画像センサーを使用することにより、HV電流を流路101において流すことが、システムの信頼性および寿命を低下させることなく可能になる。
【0107】
次に、図12が参照される。図12は、二極性メンブラン(290、291)を向かい合う面に有する電気泳動容器192で、電解質溶液において電気泳動容器192の長さ軸に対して横方向であるpH段階化292をもたらすために設計される、本発明のいくつかの実施形態による電気泳動容器192の概略図である。
【0108】
図12に記載される電気泳動容器192は、pH勾配を、電気泳動容器192が含有する電解質溶液において、向かい合う二極性メンブラン(290、291)の間にもたらすことを可能にする。pH勾配の種々のセグメントが、例えば、Clyde A.Dubbs他、Science、1966年1月28日、第151巻、第3709号、463頁〜464頁(Transverse Gradient Electrophoresis:Protein Homogeneity Test and Subfractionation Technique;これは参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載されるように、異なるpHレベルを有する。
【0109】
pH勾配292は、本明細書中では横方向pH勾配292として示されることがあるが、電気泳動容器192に置かれる混合物におけるタンパク質を、タンパク質をフォーカシングすることなく分離することを可能にする。横方向pH勾配292はタンパク質移動方向に対して横方向であり、かつ、混合物におけるタンパク質をそれらの移動度に従って分離することを可能にするように電気泳動容器192を介して伝えられる電場293に対して直交する。タンパク質の移動度はpHに依存するので、同じ種類のタンパク質は、それらの周囲のpHに依存する異なる速度を獲得する。得られる分離パターンが、流路に沿った斜線からなる。
【0110】
横方向pH勾配292が、二極性メンブラン(291、292)の間に流されるイオンによってもたらされる。具体的には、図8に関連して上記で記載されるように、二極性メンブランは、アニオン交換層152と、カチオン交換層151とからなり、これらは互いに平行に置かれる。アニオン交換層152およびカチオン交換層151はアニオンおよびカチオンをそれぞれ伝え、一方、逆電荷のイオンに対しては不透過性である。水の電気分解が、二極性メンブランを、アニオン交換層152が陽極に面し、カチオン交換層151が陰極に面するように置くことによって達成される。電圧が、陽極と、陰極との間に加えられたとき、層151と、層152との間の水分子が、逆方向ではあるが、H+イオンと、OH−イオンとに分かれる。二極性メンブラン(291、292)の間にもたらされるH+イオンの流れにより、pH勾配がもたらされる。
【0111】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0112】
用語「含む/備える(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。この用語は、「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」を包含する。
【0113】
表現「から本質的になる」は、さらなる成分および/または工程が、特許請求される組成物または方法の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物または方法がさらなる成分および/または工程を含み得ることを意味する。
【0114】
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
【0115】
用語「例示的」は、本明細書では「例(example,instance又はillustration)として作用する」ことを意味するために使用される。「例示的」として記載されたいかなる実施形態も必ずしも他の実施形態に対して好ましいもしくは有利なものとして解釈されたりかつ/または他の実施形態からの特徴の組み入れを除外するものではない。
【0116】
用語「任意選択的(場合によって)」は、本明細書では、「一部の実施形態に与えられるが、他の実施形態には与えられない」ことを意味するために使用される。本発明のいかなる特定の実施形態も対立しない限り複数の「任意選択的」な特徴を含むことができる。
【0117】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1〜6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
【0118】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0119】
明確にするため別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されることもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで、あるいは本発明の他の記載される実施形態において好適なように提供することもできる。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしに動作不能である場合を除いては、それらの実施形態の不可欠な特徴であると見なされるべきではない。
【0120】
本明細書中上記に描かれるような、および、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けが下記の実施例において見出される。
【実施例】
【0121】
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0122】
実施例は、例えば、図1および図2に関して上記で記載されるように、段差形状のpHプロフィルを生じさせるためにただ1つだけのpH発生器を使用する例示的なフォーカシングデバイスのシミュレーションに基づく。シミュレーションされたpH発生器は、上記で記載されるように、無気泡性BPMに基づく。シミュレーションされた例示的なフォーカシングデバイスはただ1つだけのpH発生器を含むが、上記で記載されるように、任意の数のpH発生器が使用され得ることには留意しなければならない。シミュレーションが、一組の偏微分方程式(PDE)を解くことによって行われる。この一組には、式2と、それぞれの式が電解質溶液における化学種について定義される式1の形式の一組の式とが含まれる。適切な境界条件が、例示的フォーカシングデバイスのフォーカシング流路の両側における一定の濃度、および、例えば、図2に示されるように、また、上記で記載されるように、pH発生器からのH+イオンの一定の電流である。初期条件が、例示的フォーカシングデバイスにおける任意の場所での一定の濃度として加えられる。完全な一組の式は下記の通りである:
上記式において、Kwおよびkwは、式5に示される反応についての平衡定数および会合速度定数を示し、Kpおよびkpは、式3に示される反応についての平衡定数および会合速度定数を示す。
【0123】
そのようなシミュレーションは、大きい電場と、x=0の位置にあるpH発生器電流の存在下でもたらされるpHプロフィルのグラフとをそれぞれ示す図11および図12に示されるような結果をもたらす。図13は、E=10−6mol/m2sの場合における様々な時点でのpHプロフィルを示し、図14は、定常状態のpHプロフィル、すなわち、様々な電流の結果を示す。
【0124】
図13は、一定の電流(10−6mol/m2s)を通し、かつ、x=0の位置にあるpH発生器の存在下における、時間の関数として生じるpHプロフィルを示す。図11に示されるように、酸性前線が、急なpH段差を有するプロフィルを数秒以内にもたらすように進行する。5mmの長さの酸性状況が右側におよそ100秒でもたらされ、一方で、左側では、初期のpHレベルが維持される。図14は、様々な大きさの電流において定常状態のpHプロフィルを有する勾配を示す。認められるように、電流の大きさにより、pH段差の高さが決定される。
【0125】
次に、図11および図12に関連して記載される実施例で使用される例示的なフォーカシングデバイスによるpH勾配の生成を例証する実施例が参照される。本明細書中で使用される場合、pH勾配生成速度は、pH勾配が例示的フォーカシングデバイスのフォーカシング流路において安定化するために要する期間を意味する。図13に示されるように、ただ1段だけのpHプロフィルが、シミュレーションされた例示的フォーカシングデバイスのpH発生器によってもたらされる。例示的フォーカシングデバイスのpH勾配生成速度を近似するために、例示的フォーカシングデバイスのpH勾配が期間中の多数の瞬間でモニターされている。図15は、例示的フォーカシングデバイスのフォーカシング流路の一連の9個の画像、および、電気分解期間を示す一組のドットである。画像が8分の期間tにおいて1分の画像間隔により連続して取り込まれた。pH指示薬が例示的フォーカシングデバイスにおける電解質溶液に加えられた。901〜903の数字は、例示的フォーカシングデバイスに沿って挿入される3つのpHプローブ(黒色の棒)を示す。数字904はpH発生器を示す。電流がpH発生器によって加えられることが黒塗りドットによって示され、電流の非存在が白塗りドットによって示される。電解質溶液は、pH指示薬を含む場合、pHレベルが7を超えるならば、紫色に変わり、または、pHレベルが4.5未満であるならば、赤色に変わる。t=0.5において、例示的フォーカシングデバイスのpH発生器に通電し、これにより、pH発生器は80μAの電流を生じさせた。結果として、図11および図12に示されるシミュレーションが予測するように、H+イオンがフォーカシング流路に注入され、これにより、右側に進行した酸性前線をもたらした。t=4.5分において、電流が切られると、酸性状況が消えた。t=6.5分において、pH発生器が再び通電され、酸性状況がもう一度、生じた。画像に示されるように、急なpH増加が、pHプローブ902と、pHプローブ903との間のセグメントにおける色の変化によって示され、一方、902と、901との間のセグメントの色は、8分の間中、一定のままであり、8のpHレベルを示している。
【0126】
急なpH増加がまた、2段差のpHプロフィルの例示的な生成を示すグラフ1005、および、上記で記載される例示的なフォーカシングデバイスの画像1006である図16によって示され得る。画像は、流路1001、pH発生器904およびpHプローブ901〜pHプローブ903、ならびに、電場方向1007を示す。グラフは、pHプローブ901〜pHプローブ903の読み取りを時間の関数として示す。示されるように、pHプローブ903は、pH発生器の右手側での酸性状況の生成を示す途切れることなく低下するpHレベルを読み取っている。pHプローブ901およびpHプローブ902は、加えられた電流によって影響されない一定のpHレベルを示す実質的に一定のpHレベルを読み取っている。初期の発生器電流が100μAであり、後で110μAおよび120μAに上昇した。
【0127】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
【0128】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等電点フォーカシングのためのデバイスであって、長さ軸を有し、かつ、電解質溶液を含有するために構成されるフォーカシング容器と、前記長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含み、それぞれの前記電気分解ユニットが、イオン流を前記フォーカシング容器の中に注入して、その結果、前記長さ軸に沿った前記電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配を作るようにするために構成され、それぞれの前記段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、前記pH勾配が、前記複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される、デバイス。
【請求項2】
前記pH傾斜部は少なくとも0.1のpHである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
それぞれの前記段差が少なくとも3mmの長さである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記少なくとも1つの電気分解ユニットは複数の電気分解ユニットを含み、それぞれの前記電気分解ユニットを別個に制御するためのコントローラーをさらに含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記電解質溶液は複数の生体分子を含み、前記複数の生体分子が前記pH勾配に沿った前記少なくとも1つのpH傾斜部にのみ濃縮する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記勾配は前記複数の段差のうちの10未満を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記勾配は前記複数の段差のうちの5未満を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記勾配は前記複数の段差のうちの2つを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記少なくとも1つの電気分解ユニットの1つが、複数のヒドロキシルイオンを注入するために構成され、かつ、前記少なくとも1つの電気分解ユニットの別の1つが、複数の水素イオンを注入するために構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記フォーカシング容器は複数の狭くなったセグメントを有し、それぞれの前記電気分解ユニットが、前記イオン流をそれぞれの前記狭いセグメントに注入するために構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
等電点フォーカシングのためのデバイスであって、電解質溶液を含有するために構成され、かつ、第1および第2の末端部ならびに長さ軸を有するフォーカシング容器であって、少なくとも1つのスリットを第1および第2の末端部までの途中に有するフォーカシング容器と、前記第1の末端部および前記第2の末端部にそれぞれ取り付けられ、かつ、第1の電流を、前記電解質溶液を介してそれらの間に通すために構成される陽極および陰極と、前記少なくとも1つのスリットに近接してそれぞれが取り付けられる少なくとも1つの二極性メンブランと、それぞれの少なくとも1つの二極性メンブランの前方にそれぞれが取り付けられ、かつ、第2の電流を前記少なくとも1つのそれぞれの二極性メンブランに付与し、その結果、前記少なくとも1つのスリットを介するイオン流を促進するようにするために構成される少なくとも1つの制御可能な電極とを含む、デバイス。
【請求項12】
前記第1および第2の電流を、前記陽極および陰極に対して、および前記少なくとも1つの制御可能な電極に対してそれぞれ供給する電流源をさらに含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
発生器電流源を経由して前記制御可能な電極に物理的に接続されるホイートストンブリッジをさらに含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記第1および第2の電流は高電圧の電流である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項15】
前記少なくとも1つの二極性メンブランは少なくとも1つの無気泡性の二極性メンブランである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項16】
前記第1および第2の末端部にそれぞれ接続される第1および第2の受器をさらに含み、前記陽極および前記陰極が前記第1および第2の受器にそれぞれ少なくとも部分的に取り付けられる、請求項11に記載のデバイス。
【請求項17】
前記フォーカシング容器を支持するための適所の前方において複数のソケットを有する支持構造物をさらに含み、それぞれの前記ソケットが、前記少なくとも1つの二極性メンブランの1つと、前記少なくとも1つの制御可能な電極の1つとを含有する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項18】
pHレベルを前記少なくとも1つの二極性メンブランのそれぞれの近くで測定するために構成される少なくとも1つのpHプローブをさらに含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項19】
前記少なくとも1つのスリットの幅が3mm未満である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項20】
前記少なくとも1つの制御可能な電極と、前記二極性メンブランとの間の距離が3mm未満である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項21】
等電点フォーカシングのための方法であって、長さ軸を有するフォーカシング容器を提供すること、複数の生体分子を有する電解質溶液を前記容器に加えること、電場を前記長さ軸に沿って前記電解質溶液において加えること、および、イオン流を前記長さ軸に沿った少なくとも1つの地点に注入して、前記電解質溶液における複数の段差によって定義されるpH勾配を確立し、その結果、前記複数の生体分子が前記少なくとも1つの地点の近くで少なくとも1つの濃縮において蓄積することを含み、それぞれの前記段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、前記pH勾配が、前記複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される、方法。
【請求項22】
前記pH勾配を安定化するために緩衝剤を加えることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記pH勾配が前記複数の段差の中の複数の傾斜部によって定義され、前記方法が、前記pH勾配を安定化するために緩衝剤の混合物を加えることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の生体分子が前記少なくとも1つの濃縮にだけ蓄積する、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記注入することは、電流を、それぞれの前記少なくとも1つの地点で前記電解質溶液に近接してそれぞれが取り付けられる少なくとも1つの二極性メンブランにおいて付与することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記複数の生体分子を前記少なくとも1つの濃縮に従って診断することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つの濃縮の少なくとも1つを別々に集めることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
等電点フォーカシングのための方法であって、電解質溶液を有する容器に少なくとも1つの生体分子を提供すること、少なくとも1つのpH指示薬を前記電解質溶液に加えること、pH勾配を前記電解質溶液において作ること、前記電解質溶液の少なくとも1つの画像を取り込むこと、前記電解質溶液の少なくとも1つのセグメントの少なくとも1つの色特性を前記少なくとも1つの画像に従ってコンピューター計算すること、および、前記セグメントにおける少なくとも1つのpHレベルを前記少なくとも1つの色特性に従って計算することを含む、方法。
【請求項29】
等電点フォーカシングのためのデバイスであって、生体分子の混合物を伴う電解質溶液により湿らされる多孔性ブロックをその長さ軸の途中で、取り外し可能に保持するために構成されるフォーカシング容器と、第1の電流を、前記多孔性ブロックにおいて前記電解質溶液を介して通すために構成される複数の電極と、イオン流を前記フォーカシング容器の中に注入して、その結果、pH勾配を前記多孔性ブロックにおける前記電解質溶液において変化させるようにするためにそれぞれが構成される、前記長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含み、前記生体分子の混合物が前記pH勾配に従って前記多孔性ブロックにおいて配置される、デバイス。
【請求項30】
前記フォーカシング容器は、前記多孔性ブロックを前記フォーカシング容器に設置すること、および、前記多孔性ブロックを前記フォーカシング容器から取り出すことの少なくとも一方のための開口部を有する、請求項29に記載のデバイス。
【請求項31】
等電点フォーカシングのための方法であって、生体分子の混合物を伴う電解質溶液により湿らされる多孔性ブロックをフォーカシング容器に設置すること、pH勾配を、前記多孔性ブロックにおける前記生体分子の複数の濃縮を促進するように前記電解質溶液において作ること、および、前記多孔性ブロックを、前記複数の濃縮のうちの1つをそれぞれが別々に含有する複数のセグメントにセグメント化することを含む、方法。
【請求項32】
前記セグメント化することが、前記多孔性ブロックを前記複数の濃縮のうちのそれぞれ2つの間で切り取って、前記複数のセグメントを作製することによって行われる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
等電点フォーカシングのための着脱可能な溶液カートリッジであって、等電点フォーカシングシステムのフォーカシング流路にはまるようなサイズおよび形状を有し、かつ、複数の生体分子を有する電解質溶液により湿潤化されて、その結果、前記複数の生体分子の移動を前記電解質溶液において形成されるpH勾配に従って可能にするようにするために構成される多孔性ブロックを含む、溶液カートリッジ。
【請求項34】
前記多孔性ブロックは、前記複数の生体分子の濃縮のうちのただ1つの濃縮をそれぞれが含む複数のセグメントを作製するために切り取られることができる、請求項33に記載の溶液カートリッジ。
【請求項35】
タンパク質の混合物を分離するためのデバイスであって、電解質溶液および前記混合物を含有するために構成される電気泳動容器であって、長さ軸と、前記長さ軸と平行する第1および第2の向き合う側面とを有する電気泳動容器と、前記第1および第2の側面にそれぞれ取り付けられる第1および第2の二極性メンブランと、電場を前記電解質溶液において加えて、その結果、タンパク質を前記長さ軸に沿って動かすようにするための少なくとも1つ電極とを含み、前記第1および第2の二極性メンブランのうちの1つが、イオン流を前記電気泳動容器の中に注入して、その結果、前記電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配を前記長さ軸と直交して作るようにするために構成され、それぞれの前記段差が、実質的に均一なpHレベルを有する、デバイス。
【請求項1】
等電点フォーカシングのためのデバイスであって、長さ軸を有し、かつ、電解質溶液を含有するために構成されるフォーカシング容器と、前記長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含み、それぞれの前記電気分解ユニットが、イオン流を前記フォーカシング容器の中に注入して、その結果、前記長さ軸に沿った前記電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配を作るようにするために構成され、それぞれの前記段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、前記pH勾配が、前記複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される、デバイス。
【請求項2】
前記pH傾斜部は少なくとも0.1のpHである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
それぞれの前記段差が少なくとも3mmの長さである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記少なくとも1つの電気分解ユニットは複数の電気分解ユニットを含み、それぞれの前記電気分解ユニットを別個に制御するためのコントローラーをさらに含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記電解質溶液は複数の生体分子を含み、前記複数の生体分子が前記pH勾配に沿った前記少なくとも1つのpH傾斜部にのみ濃縮する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記勾配は前記複数の段差のうちの10未満を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記勾配は前記複数の段差のうちの5未満を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記勾配は前記複数の段差のうちの2つを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記少なくとも1つの電気分解ユニットの1つが、複数のヒドロキシルイオンを注入するために構成され、かつ、前記少なくとも1つの電気分解ユニットの別の1つが、複数の水素イオンを注入するために構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記フォーカシング容器は複数の狭くなったセグメントを有し、それぞれの前記電気分解ユニットが、前記イオン流をそれぞれの前記狭いセグメントに注入するために構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
等電点フォーカシングのためのデバイスであって、電解質溶液を含有するために構成され、かつ、第1および第2の末端部ならびに長さ軸を有するフォーカシング容器であって、少なくとも1つのスリットを第1および第2の末端部までの途中に有するフォーカシング容器と、前記第1の末端部および前記第2の末端部にそれぞれ取り付けられ、かつ、第1の電流を、前記電解質溶液を介してそれらの間に通すために構成される陽極および陰極と、前記少なくとも1つのスリットに近接してそれぞれが取り付けられる少なくとも1つの二極性メンブランと、それぞれの少なくとも1つの二極性メンブランの前方にそれぞれが取り付けられ、かつ、第2の電流を前記少なくとも1つのそれぞれの二極性メンブランに付与し、その結果、前記少なくとも1つのスリットを介するイオン流を促進するようにするために構成される少なくとも1つの制御可能な電極とを含む、デバイス。
【請求項12】
前記第1および第2の電流を、前記陽極および陰極に対して、および前記少なくとも1つの制御可能な電極に対してそれぞれ供給する電流源をさらに含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
発生器電流源を経由して前記制御可能な電極に物理的に接続されるホイートストンブリッジをさらに含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記第1および第2の電流は高電圧の電流である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項15】
前記少なくとも1つの二極性メンブランは少なくとも1つの無気泡性の二極性メンブランである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項16】
前記第1および第2の末端部にそれぞれ接続される第1および第2の受器をさらに含み、前記陽極および前記陰極が前記第1および第2の受器にそれぞれ少なくとも部分的に取り付けられる、請求項11に記載のデバイス。
【請求項17】
前記フォーカシング容器を支持するための適所の前方において複数のソケットを有する支持構造物をさらに含み、それぞれの前記ソケットが、前記少なくとも1つの二極性メンブランの1つと、前記少なくとも1つの制御可能な電極の1つとを含有する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項18】
pHレベルを前記少なくとも1つの二極性メンブランのそれぞれの近くで測定するために構成される少なくとも1つのpHプローブをさらに含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項19】
前記少なくとも1つのスリットの幅が3mm未満である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項20】
前記少なくとも1つの制御可能な電極と、前記二極性メンブランとの間の距離が3mm未満である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項21】
等電点フォーカシングのための方法であって、長さ軸を有するフォーカシング容器を提供すること、複数の生体分子を有する電解質溶液を前記容器に加えること、電場を前記長さ軸に沿って前記電解質溶液において加えること、および、イオン流を前記長さ軸に沿った少なくとも1つの地点に注入して、前記電解質溶液における複数の段差によって定義されるpH勾配を確立し、その結果、前記複数の生体分子が前記少なくとも1つの地点の近くで少なくとも1つの濃縮において蓄積することを含み、それぞれの前記段差が、実質的に均一なpHレベルを有し、前記pH勾配が、前記複数の段差のうちの2つ毎の連続した段差の間における少なくとも1つのpH傾斜部によって定義される、方法。
【請求項22】
前記pH勾配を安定化するために緩衝剤を加えることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記pH勾配が前記複数の段差の中の複数の傾斜部によって定義され、前記方法が、前記pH勾配を安定化するために緩衝剤の混合物を加えることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の生体分子が前記少なくとも1つの濃縮にだけ蓄積する、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記注入することは、電流を、それぞれの前記少なくとも1つの地点で前記電解質溶液に近接してそれぞれが取り付けられる少なくとも1つの二極性メンブランにおいて付与することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記複数の生体分子を前記少なくとも1つの濃縮に従って診断することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つの濃縮の少なくとも1つを別々に集めることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
等電点フォーカシングのための方法であって、電解質溶液を有する容器に少なくとも1つの生体分子を提供すること、少なくとも1つのpH指示薬を前記電解質溶液に加えること、pH勾配を前記電解質溶液において作ること、前記電解質溶液の少なくとも1つの画像を取り込むこと、前記電解質溶液の少なくとも1つのセグメントの少なくとも1つの色特性を前記少なくとも1つの画像に従ってコンピューター計算すること、および、前記セグメントにおける少なくとも1つのpHレベルを前記少なくとも1つの色特性に従って計算することを含む、方法。
【請求項29】
等電点フォーカシングのためのデバイスであって、生体分子の混合物を伴う電解質溶液により湿らされる多孔性ブロックをその長さ軸の途中で、取り外し可能に保持するために構成されるフォーカシング容器と、第1の電流を、前記多孔性ブロックにおいて前記電解質溶液を介して通すために構成される複数の電極と、イオン流を前記フォーカシング容器の中に注入して、その結果、pH勾配を前記多孔性ブロックにおける前記電解質溶液において変化させるようにするためにそれぞれが構成される、前記長さ軸に近接して取り付けられる少なくとも1つの電気分解ユニットとを含み、前記生体分子の混合物が前記pH勾配に従って前記多孔性ブロックにおいて配置される、デバイス。
【請求項30】
前記フォーカシング容器は、前記多孔性ブロックを前記フォーカシング容器に設置すること、および、前記多孔性ブロックを前記フォーカシング容器から取り出すことの少なくとも一方のための開口部を有する、請求項29に記載のデバイス。
【請求項31】
等電点フォーカシングのための方法であって、生体分子の混合物を伴う電解質溶液により湿らされる多孔性ブロックをフォーカシング容器に設置すること、pH勾配を、前記多孔性ブロックにおける前記生体分子の複数の濃縮を促進するように前記電解質溶液において作ること、および、前記多孔性ブロックを、前記複数の濃縮のうちの1つをそれぞれが別々に含有する複数のセグメントにセグメント化することを含む、方法。
【請求項32】
前記セグメント化することが、前記多孔性ブロックを前記複数の濃縮のうちのそれぞれ2つの間で切り取って、前記複数のセグメントを作製することによって行われる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
等電点フォーカシングのための着脱可能な溶液カートリッジであって、等電点フォーカシングシステムのフォーカシング流路にはまるようなサイズおよび形状を有し、かつ、複数の生体分子を有する電解質溶液により湿潤化されて、その結果、前記複数の生体分子の移動を前記電解質溶液において形成されるpH勾配に従って可能にするようにするために構成される多孔性ブロックを含む、溶液カートリッジ。
【請求項34】
前記多孔性ブロックは、前記複数の生体分子の濃縮のうちのただ1つの濃縮をそれぞれが含む複数のセグメントを作製するために切り取られることができる、請求項33に記載の溶液カートリッジ。
【請求項35】
タンパク質の混合物を分離するためのデバイスであって、電解質溶液および前記混合物を含有するために構成される電気泳動容器であって、長さ軸と、前記長さ軸と平行する第1および第2の向き合う側面とを有する電気泳動容器と、前記第1および第2の側面にそれぞれ取り付けられる第1および第2の二極性メンブランと、電場を前記電解質溶液において加えて、その結果、タンパク質を前記長さ軸に沿って動かすようにするための少なくとも1つ電極とを含み、前記第1および第2の二極性メンブランのうちの1つが、イオン流を前記電気泳動容器の中に注入して、その結果、前記電解質溶液における複数の段差を有するpH勾配を前記長さ軸と直交して作るようにするために構成され、それぞれの前記段差が、実質的に均一なpHレベルを有する、デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図11】
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【図16】
【公表番号】特表2013−502574(P2013−502574A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525253(P2012−525253)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/IL2010/000672
【国際公開番号】WO2011/021196
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(504127647)テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミテッド (20)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/IL2010/000672
【国際公開番号】WO2011/021196
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(504127647)テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミテッド (20)
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