説明

プロピレンオキサイドの製造方法および製造装置

【課題】副生成物の生成を最小化させた、プロピレンからプロピレンオキサイドの製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】プロピレンからプロピレンオキサイドを製造するための装置であって、上部管板および下部管板によって保持された反応管を有する反応容器と、該反応容器を上流域および下流域に分割する分離グリッドと、冷却媒体を上流域に供給し、上流域から取り除き、上流域に再循環させる上流域冷却系であって、冷却媒体の一部が上流域冷却系から蒸気として排出させることができる系と、冷却媒体を下流域に供給し、下流域から取り除き、下流域に再循環させる下流域冷却系であって、追加の冷却媒体を下流域冷却系に加えることができる系とを含み、該分離グリッドは下流域から上流域に冷却媒体が実質的に流れるようにする、装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキサイドの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンオキサイドは、例えば金属触媒存在下でのプロピレンの接触気相酸化によって製造することができる。反応は発熱反応であり、反応容器は典型的には金属触媒を充填した多数の反応管で構成され、冷却媒体が反応管の外側を流れて反応熱を除去することで反応温度を制御する。
エチレンオキサイド製造のための反応容器の設計は、副生成物の生成を減少させて、エチレンオキサイドの品質を向上させるように開発されている。US3147084には、管板によって上流反応域と下流冷却域とに横方向に分割した反応容器が記載されている。その2つの領域の間を少量の流体がしみ出すことが許されているものの、熱交換流体は2つの独立した領域で別々に循環される。US5292904には、仕切板によって反応域および冷却域とに横方向に分割された反応器が記載されている。その冷却域で熱交換流体として使用される熱水は、気液分離槽に供給され、熱水はタンクから反応域に戻される。
EP821678には、反応容器から取り除かれるときの温度よりも少なくとも20℃低い温度で、熱交換流体の一部またはすべてが反応容器の下流端に導入される、シングルコンパートメント反応容器を用いる方法が記載されている。EP1358441には、管状反応器の吐出ヘッドと一体である熱交換器を組み合わせた、従来型の管状反応器が記載されている。
US4203906には、多孔シールド板で2つの熱伝達域に分割された反応容器が記載されている。熱交換流体は、多孔シールド板を通って熱伝達域間を流れることができ、さらに2つの領域間の温度差を維持することができる。2つの領域間の熱伝達媒体の実質的な動きはない。
EP0911313には、仕切板によって上部空間と下部空間内に分割され、上部空間と下部空間で実質的に独立して熱媒体が循環する反応容器が開示されている。これによって、反応管の触媒層の温度が制御される。
【0003】
特許文献1には、エチレンオキサイドの製造方法および製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2010/081906
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、副生成物の生成を最小化させた、プロピレンからプロピレンオキサイドの製造方法および製造装置を提供することにある。さらには、望ましくは、対費用効果が高い単純な設計がなされ、エネルギー効率の高いプロセス操作を可能にする装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため検討した結果、以下に示す本発明を完成した。
[1] プロピレンからプロピレンオキサイドを製造するための装置であって、
上部管板および下部管板によって保持された反応管を有する反応容器と、
該反応容器を上流域および下流域に分割する分離グリッドと、
冷却媒体を上流域に供給し、上流域から取り除き、上流域に再循環させる上流域冷却系であって、冷却媒体の一部が上流域冷却系から蒸気として排出させることができる系と、
冷却媒体を下流域に供給し、下流域から取り除き、下流域に再循環させる下流域冷却系であって、追加の冷却媒体を下流域冷却系に加えることができる系とを含み、
該分離グリッドは下流域から上流域に冷却媒体が実質的に流れるようにする、装置。
【0007】
[2] プロピレンからプロピレンオキサイドを製造する方法であって、
a)プロピレンおよび酸素を反応管に供給する工程であって、該反応管は反応容器の上部管板および下部管板によって保持され、該反応容器は該反応容器を上流域および下流域に分割する分離グリッドを有する工程と、
b)冷却媒体を上流域冷却系から上流域に供給し、冷却媒体を上流域から上流域冷却系に取り除き、冷却媒体の一部を上流域冷却系から蒸気として排出させる工程と、
c)冷却媒体を下流域冷却系から下流域に供給し、冷却媒体を下流域から下流域冷却系に取り除き、追加の冷却媒体を下流域冷却系に加える工程とを含み、
該分離グリッドを通して下流域から上流域に冷却媒体が実質的に流れる、方法。
【0008】
[3] 前記分離グリッドの開放された領域が反応容器の断面積の0.5%〜8%である、[1]記載の装置、または[2]記載の方法。
[4] 上流域が反応容器の容積の50%〜95%であり、下流域が反応容器の容積の5%〜50%である、[1]もしくは[3]記載の装置、または[2]もしくは[3]記載の方法。
[5] 冷却媒体が水である、[1]、[3]もしくは[4]記載の装置、または[2]〜[4]のいずれか記載の方法。
[6] 上流域冷却系に蒸気ドラムがある、[1]、[3]〜[5]のいずれか記載の装置、または[2]〜[5]のいずれか記載の方法。
[7] 下流域冷却系の冷却媒体が熱交換に供されている、[1]、[3]〜[6]のいずれか記載の装置、または[2]〜[6]のいずれか記載の方法。
[8] 下流域冷却系にトリム冷却器およびポンプがある、[1]、[3]〜[7]のいずれか記載の装置、または[2]〜[7]のいずれか記載の方法。
[9] 反応管が、触媒床をすべて上流域内に配置して、含んでいる、[1]、[3]〜[8]のいずれか記載の装置、または[2]〜[8]のいずれか記載の方法。
[10] 下流域内で反応管が実質的に触媒を含まない、[9]記載の装置または方法。
[11] 触媒床が金属触媒を含む[9]または[10]記載の装置または方法。
[12] 金属触媒が(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒である[11]記載の装置または方法。
【発明の効果】
【0009】
仕切管板で区切られた2つの分離された領域内で、熱交換流体が別々に循環する前記従来技術のシステムでは、2つの領域間に大きな温度差を維持することが可能である。この温度差によって、下流域の温度を上流域よりも有意に低くすることができ、副生成物の生成を減らして、プロピレンオキサイドの品質を向上させることができるとの利点が生じる。しかし、仕切管板を有する反応容器は高価であり、また仕切管板の使用及び製造は機械的に複雑である。本発明者らは、本発明の製造装置および製造方法において、反応容器がたとえ固定管板ではなく、単純な分離グリッドを有していても、上流域および下流域の間に大きな温度差を維持することができることを見出した。下流域から上流域に分離グリッドを通って冷却媒体が実質的に流れるように冷却系を制御することによって、より高温の上流域からより低温の下流域に冷却媒体はほとんどまたは全く流れず、温度差を維持することができる。
従って、本発明の製造方法および製造装置によって、ほとんど副生成物を含まない高品質のプロピレンオキサイドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明が適用できるプロピレンの接触気相酸化方法としては、例えば、金属酸化物等を含有するような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法等が挙げられる。このような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法については、例えば、WO2011/075458、WO2011/075459、WO2012/005822、WO2012/005823、WO2012/005824、WO2012/005825、WO2012/005831、WO2012/005832、WO2012/005835、WO2012/005837、WO2012/009054、WO2012/009059、WO2012/009058、WO2012/009053、WO2012/009057、WO2012/009055、WO2012/009052、WO2012/009055等に記載されている。その製法において用いる触媒としては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)、(o)、(p)及び(q)からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む触媒が挙げられる。
(a)銅酸化物
(b)ルテニウム酸化物
(c)マンガン酸化物
(d)ニッケル酸化物
(e)オスミウム酸化物
(f)ゲルマニウム酸化物
(g)クロミウム酸化物
(h)タリウム酸化物
(i)スズ酸化物
(j)ビスマス酸化物
(k)アンチモン酸化物
(l)レニウム酸化物
(m)コバルト酸化物
(n)オスミウム酸化物
(o)ランタノイド酸化物
(p)タングステン酸化物
(q)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分
好ましくは(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒であり、より好ましくは(a)銅酸化物、(b)ルテニウム酸化物及び(q)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分を含有する触媒である。
【0012】
上部管板および下部管板によって保持された反応管を有する反応容器に、プロピレンおよび酸素が供給される。酸素は、酸素または空気として供給されるが、好ましくは酸素として供給される。メタン等のバラストガスが、好ましくは可燃性混合物を引き起こさずに高い酸素レベルで反応させるために提供される。WO2012/102918に記載されている有機塩素化合物等の添加剤を、触媒性能を制御するために加えてもよい。プロピレン、酸素、バラストガスおよび添加剤は、好ましくはプロピレンオキサイド吸収体からの再循環ガスに加えられ、プロピレンオキサイド反応容器に供給される。
反応容器は、1000本〜20000本の反応管、好ましくは2500本〜15000本の反応管を有する。反応管は、好ましくは5m〜20mの高さ、より好ましくは10m〜15mの高さを有し、好ましくは15m〜80mmの内径、より好ましくは20mm〜75mmの内径、最も好ましくは25mm〜70mmの内径を有する。反応管は、好ましくは実質的に垂直であり、好ましくは垂直から5°以下である。
反応管の上端は、上部管板に接続され、反応容器への1つまたは複数の入口と流体連通している。反応管の下端は、下部管板に接続され、反応容器への1つまたは複数の出口と流体連通している。上部管板および下部管板は、好ましくは水平であり、好ましくは水平から3°以下である。
【0013】
反応管は、触媒床を有する。触媒粒子以外で触媒床に含まれてもよい粒子は、例えば、不活性粒子である。好ましくは、触媒床は、反応管の下端に配置される触媒支持手段によって、反応管に支持される。支持手段は、網およびバネを含んでもよい。
反応管は、必要に応じて原料流を加熱する目的で、または反応生成物の冷却のために、1つまたは複数の異なる不活性物質の粒子の床をも含む。また、不活性物質の床の代わりに、ロッド状の金属インサートを使用してもよい。そのようなインサートの説明は、US7132555に記載されている。
【0014】
分離グリッドは、上流域および下流域に反応容器を分割して、下流域から上流域に冷却媒体が実質的に流れるようにする。分離グリッドは、反応管が通過できる貫通孔を有する板である。反応管と分離グリッドとは接触できるが、反応管は分離グリッドに接続(例えば溶接)されてはいない。したがって、反応管の一部が上流域に存在して、同じ反応管の別の部分が下流域に存在することができる。
反応管が分離グリッドの孔を通過するように反応容器内に取り付けられる場合、冷却媒体が分離グリッドを通過できるような開放された領域を、分離グリッドは有している。分離グリッドの孔は、反応管の外径よりも大きく、反応管が貫通孔を容易に通過する(典型的な許容誤差は0.2mm〜3mmである)。反応管と分離グリッドとの間の隙間によって、分離グリッドの開放された領域の一部またはすべてが提供される。加えて、分離グリッドに反応管が通過しない追加の孔があって、これによって分離グリッドの開放された領域の一部を提供してもよい。好ましくは、分離グリッドの開放された領域は、反応容器の断面積の0.5%〜8%であり、より好ましくは1%〜5%であり、最も好ましくは1%〜3%である。組み立て時に反応管が通過するように分離グリッドに孔を開ける際の製造許容誤差があるために、開放された領域をより小さくすることは達成が困難である。開放された領域をより大きくすれば、上流域から下流域に多量の冷却媒体が流れて、下流域が加熱され、副生成物の生成が増加するため、より大きな開放された領域は好ましくない。
【0015】
分離グリッドは好ましくは金属であり、より好ましくは金属の単一のシートから作られる。最も好ましい金属は炭素鋼である。分離グリッドの厚さは好ましくは100mm以下であり、より好ましくは5mm〜50mmであり、最も好ましくは10mm〜30mmである。
分離グリッドは、好ましくは上部管板から垂直の棒で吊り下げられる。好ましくは、この棒は、管の位置を確実にするための決まった位置、典型的には1.5m〜2.5mの高さごとにある、従来の管支持グリッドをも支える。従来の管支持グリッドとは、反応管が通過できる貫通孔を有し、さらに蒸気と水の通過のための孔を有する板である。従来の管支持グリッドと分離グリッドとの違いは、分離グリッドがグリッドを介する流体の流れを限定的にするように設計されているのに対して、従来の管支持グリッドがグリッドを介して多量の流体の流れを可能にするように設計されていることである。管支持グリッドの開放された領域は、通常、反応容器の断面積の20%〜30%である。
分離グリッドの外周と反応容器のシェルとの間には、小さな隙間、例えば1mm〜5mmがあることが好ましい。これは、反応容器の設置を可能にするためであり、また熱膨張差に対応するためである。
分離グリッドは、反応容器を上流域および下流域に分割する。垂直方向での分離によって、冷却の効率化、下流域内の冷却媒体の流動状況と温度が図れるため好ましい。しかし、分離グリッドは、好ましくは反応容器体積の50%〜95%を占める上流域と、反応容器体積の5%〜50%を占める下流域とに分割する。より好ましくは、上流域は反応容器体積の70%〜90%を占め、下流域は反応容器体積の10%〜30%を占める。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、反応管は、触媒床をすべて上流域内に配置して含んでおり、反応管は下流域内に不活性粒子および反応容器インサート等の不活性物質を含む。下流域内の不活性物質は、反応生成ガスから冷却媒体への熱伝達を向上させ、それによって下流域内の副生成物の生成を減少させる。反応管は、好ましくは上流域内の触媒床の上流側に不活性物質の床を有する。この構成によって、上流域内で冷却媒体から原料供給ガスへの熱の伝達を向上させる。
したがって、一実施形態では、反応管が下流域内で触媒を実質的に含まないようにすることができる。触媒を実質的に含まないとは、反応管の下流域内の部分が触媒床を含まないが、少量の触媒、例えば上流域内の触媒床からガス流に乗って下流域に移動する触媒等は含んでも良いことを意味する。さらなる実施形態では、反応管が下流域内で触媒を完全に含まないようにすることができる。
【0017】
上流域冷却系は、上流域に冷却媒体を供給して、上流域から冷却媒体を取り除く。上流域冷却系では、冷却媒体を上流域に再循環させる前に冷却媒体の一部が蒸気として排出される。下流域冷却系は、下流域に冷却媒体を供給して、下流域から冷却媒体を取り込む。下流域冷却系では、冷却媒体を下流域に再循環させる前に追加の冷却媒体を追加する。追加の冷却媒体を下流域に加えて、上流域から冷却媒体を蒸気として排出して、分離グリッドに存在する開放された領域が冷却媒体を分離グリッドを通って流れるようにすることで、下流域から上流域へ冷却媒体が実質的に流れることができる。
上流域冷却系および下流域冷却系の冷却媒体は、本質的に下流域から上流域へ流れる冷却媒体と同じ物質である。冷却媒体は蒸気として排出できる冷却媒体である。冷却媒体は、例えばn−オクタン、n−ノナン、灯油、ISOPAR(登録商標)、MOBILTHERM(登録商標)またはダウサム(登録商標)等の炭化水素または炭化水素の混合物であってもよいが、好ましくは、冷却媒体は水性物質であり、最も好ましくは水である。
冷却媒体は、下流域冷却系に、好ましくは液体として供給され、上流域冷却系から蒸気として排出される。好ましくは、供給速度と排出速度とは、系内の冷却媒体の量がほぼ一定となるように、同一または同等である。冷却媒体の供給速度は、少なくとも部分的に必要とされる冷却量に応じて決定される。生成物と反応物には温度差があり、反応熱は生成物に伴われて取り除かれるが、生成される反応熱のほとんどは、冷却媒体によって除去される。
【0018】
本発明の一実施形態では、追加の冷却媒体が、上流域冷却系に好ましくは液体として供給される。この実施形態では、上流域冷却系および下流域冷却系への冷却媒体の供給速度の合計は、好ましくは上流域冷却系からの冷却媒体の排出速度と同一または同等である。たとえ冷却媒体が上流域冷却系に供給されているとしても、上流域冷却系から冷却媒体を排出することで、下流域から上流域へ冷却媒体の実質的な流れを確実にすることができる。2つの位置(下流域冷却系と上流域冷却系)に冷却媒体を加えることで、分離グリッドを介して冷却媒体の流れを制御する追加の柔軟性が提供される。
プロピレンと酸素とを反応させてプロピレンオキサイドを製造する反応は、発熱反応である。さらに、プロピレンおよびプロピレンオキサイドが燃焼して二酸化炭素と水が生成する、極めて発熱の大きい副反応も存在する。本発明では大部分の反応が反応容器の上流域で発生し、したがって、反応が望ましい温度で望ましい選択性で進行することを確実にするために、上流域での反応熱を取り除く必要がある。また、酸化反応の生成物を急速に冷却することによって、アルデヒド等の副生成物の生成を最小限に抑えることを確実にする。したがって、反応容器の下流域を冷却することは必要である。下流域内の冷却媒体と上流域内の冷却媒体の間の温度差を維持することが望ましい。下流域内の冷却媒体の温度は、好ましくは、上流域内の冷却媒体の温度よりも少なくとも5℃以下、より好ましくは少なくとも10℃以下、さらにより好ましくは少なくとも20℃以下、最も好ましくは少なくとも30℃以下である。下流域の温度は、好ましくは120℃〜275℃の間、より好ましくは160℃〜230℃の間、最も好ましくは170℃〜210℃の間である。上流域の温度は、好ましくは150℃〜350℃の間、より好ましくは200℃〜300℃の間、最も好ましくは220℃〜300℃の間である。
【0019】
上流域冷却系において、冷却媒体の一部は蒸気として排出される。冷却媒体が水である本発明の好ましい実施形態において、冷却媒体の一部は水蒸気として排出される。上流域内での冷却は、上流域の冷却媒体の蒸発によって少なくとも部分的に達成され、上流域から排出される冷却媒体の一部は蒸気の形態となり、一部は液体の形態である。冷却媒体の一部が蒸気として上流域冷却系から排出される。上流域冷却系に蒸気ドラムが存在することが最も好ましい。水蒸気は蒸気ドラムに入る水/水蒸気混合物から分離され、水蒸気は蒸気ドラムから排出される。水は上流域に再循環される。好ましくは、冷却液は、上流域冷却系から上流域に、反応器の円周に沿って、1つ以上の冷却媒体噴射多孔分散管またはノズルを介して導入される。好ましくは、冷却媒体は、上流域に上流域の下部(分離グリッドの近く)で導入され、上流域から反応容器の上部付近で取り除かれる。
追加の冷却媒体が上流域冷却系に供給される本発明の実施形態において、追加の水を蒸気ドラムに供給することが好ましい。蒸気ドラムは液体量制御システムを持つことが好ましく、それによって液体が設定レベルを下回る場合に追加の水が加えられる。
【0020】
下流域冷却系で、冷却媒体が上流域内の冷却媒体の温度以下の温度で供給される。より低い温度で冷却媒体を連続的に供給することで、反応熱を除去する。冷却媒体の供給に加えて、好ましくは下流域冷却系の冷却媒体を熱交換することによっても、熱の除去が達成される。熱交換は、最も好ましくは下流域冷却系のトリム冷却器によって行われる。トリム冷却器を使用する場合、下流域から取り除かれる冷却媒体の温度は、トリム冷却器を用いて水蒸気が生成できるか、またはプロセスの水蒸気を加熱できる程度に十分に高い温度であることが望ましい。好ましくは、下流域内の冷却媒体は蒸発せず、下流域と下流域冷却系内の冷却媒体は液体として存在する。冷却媒体を循環させるために下流域冷却系内に冷却媒体循環ポンプが存在することが好ましい。好ましくは、冷却液は、下流域冷却系から下流域に、反応器の円周に沿って、1つ以上の冷却媒体噴射多孔分散管またはノズルを介して導入される。好ましくは、冷却媒体は、下流域から反応容器の下部付近で導入され、下流域から下流域の上部(分離グリッドの近く)で取り除かれる。小規模なシステムでは、それは反応容器の周囲で冷却媒体を導入すれば十分であるが、大規模なシステムでは、反応管のすべてにわたって冷却媒体の分散が改善されている半径方向の分布管を使用することが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明をさらに詳しく述べるために、実施例を説明する。しかし、この実施例は、何ら本発明の範囲を制限するものでない。
図1に本発明の製造装置の好ましい実施形態を示す。反応管(2)が上部管板および下部管板に接続されて反応容器(1)内に設置される。分離グリッド(3)が反応容器(1)を上流域(4)および下流域(5)に分割するように反応容器(1)内に配置される。上流域冷却系(7)は蒸気ドラム(9)を含み、下流域冷却系(11)はトリム冷却器(13)および冷却媒体循環ポンプ(15)を含む。
プロピレンおよび酸素が、反応容器(1)内の反応管(2)の上部に供給され、発熱反応下で反応してプロピレンオキサイドを生成する。この反応は、上流域(4)の反応管で主に進行し、大量の熱が上流域(4)で生成する。反応生成物は下流域(5)の反応管(2)を通るが、その際、副生成物の生成を減らすために反応生成物を急速に冷却することが望ましい。
【0022】
水が下流域冷却系(11)に供給される(14)。水は冷却媒体循環ポンプ(15)によって下流域冷却系(11)を流れ、下流域(5)に供給される(16)。水は下流域(5)内の反応管(2)と接触して熱を吸収するため、下流域(5)に供給されるとき(16)よりも下流域(5)から取り除かれるとき(12)のほうがより高温になる。下流域冷却系(11)において、下流域(5)に再供給する前にトリム冷却器(13)が水から熱を除去する。
上流域(4)内で水が反応管(2)と接触して加熱される。反応熱の量は、上流域(4)で水が蒸発する程度、存在する。水蒸気と液体の水の混合物は、上流域冷却系(7)に上流域(4)から回収され(6)、蒸気ドラム(9)に供給される。水蒸気は蒸気ドラム(9)から排出される(10)。水は上流域(4)に循環、供給される(8)。
水は下流域冷却系(11)に供給され(14)、水蒸気は上流域冷却系(7)内の蒸気ドラム(9)から排出される(10)。そこで、下流域(5)から上流域(4)に分離グリッド(3)を通って水が実質的に流れる。より高温の上流域(4)から、より低温の下流域(5)に、冷却媒体が流れることは、ほとんどまたは全く無く、2つの域の間の温度差が維持される。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の製造方法および製造装置によって、ほとんど副生成物を含まない高品質のプロピレンオキサイドを提供することができる。
【符号の説明】
【0024】
1:反応容器
2:反応管
3:分離グリッド
4:上流域
5:下流域
7:上流域冷却系
9:蒸気ドラム
11:下流域冷却系
13:トリム冷却器
15:冷却媒体循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンからプロピレンオキサイドを製造するための装置であって、
上部管板および下部管板によって保持された反応管を有する反応容器と、
該反応容器を上流域および下流域に分割する分離グリッドと、
冷却媒体を上流域に供給し、上流域から取り除き、上流域に再循環させる上流域冷却系であって、冷却媒体の一部が上流域冷却系から蒸気として排出させることができる系と、
冷却媒体を下流域に供給し、下流域から取り除き、下流域に再循環させる下流域冷却系であって、追加の冷却媒体を下流域冷却系に加えることができる系とを含み、
該分離グリッドは下流域から上流域に冷却媒体が実質的に流れるようにする、装置。
【請求項2】
プロピレンからプロピレンオキサイドを製造する方法であって、
a)プロピレンおよび酸素を反応管に供給する工程であって、該反応管は反応容器の上部管板および下部管板によって保持され、該反応容器は該反応容器を上流域および下流域に分割する分離グリッドを有する工程と、
b)冷却媒体を上流域冷却系から上流域に供給し、冷却媒体を上流域から上流域冷却系に取り除き、冷却媒体の一部を上流域冷却系から蒸気として排出させる工程と、
c)冷却媒体を下流域冷却系から下流域に供給し、冷却媒体を下流域から下流域冷却系に取り除き、追加の冷却媒体を下流域冷却系に加える工程とを含み、
該分離グリッドを通して下流域から上流域に冷却媒体が実質的に流れる、方法。
【請求項3】
前記分離グリッドの開放された領域が反応容器の断面積の0.5%〜8%である、請求項1記載の装置、または請求項2記載の方法。
【請求項4】
上流域が反応容器の容積の50%〜95%であり、下流域が反応容器の容積の5%〜50%である、請求項1もしくは3記載の装置、または請求項2もしくは3記載の方法。
【請求項5】
冷却媒体が水である、請求項1、3もしくは4記載の装置、または請求項2〜4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
上流域冷却系に蒸気ドラムがある、請求項1、3〜5のいずれか記載の装置、または請求項2〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
下流域冷却系の冷却媒体が熱交換に供されている、請求項1、3〜6のいずれか記載の装置、または請求項2〜6のいずれか記載の方法。
【請求項8】
下流域冷却系にトリム冷却器およびポンプがある、請求項1、3〜7のいずれか記載の装置、または請求項2〜7のいずれか記載の方法。
【請求項9】
反応管が、触媒床をすべて上流域内に配置して、含んでいる、請求項1、3〜8のいずれか記載の装置、または請求項2〜8のいずれか記載の方法。
【請求項10】
下流域内で反応管が実質的に触媒を含まない、請求項9記載の装置または方法。
【請求項11】
触媒床が金属触媒を含む請求項9または10記載の装置または方法。
【請求項12】
金属触媒が(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒である請求項11記載の装置または方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82691(P2013−82691A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−198397(P2012−198397)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】