説明

プロピレン系ブロック共重合体の製造方法

【課題】 汎用的な樹脂成分に第3成分として配合することで物性をコントロールし、これを用いて製造された成形品外観を改良することができる、成形性改質剤として優れたプロピレン系ブロック共重合体を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 前段の重合工程において特定の結晶性プロピレン重合体部分を製造し、次いで後段の重合工程において特定のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造する、少なくとも2段階の工程からなるプロピレン系ブロック共重合体の製造方法であって、前段の重合工程(A)は、水素とプロピレンとを反応器中に供給し、触媒の存在下に、プロピレンに対する水素濃度を経時的に低下させながらプロピレンを重合させ、結晶性プロピレン重合体が得られたときは、未反応ガス中の水素とプロピレンとのガス濃度比(H/C)を特定値に保持することを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系ブロック共重合体の製造方法に関し、さらに詳しくは、高流動性の結晶性プロピレン重合体部分と高粘度のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなるプロピレン・エチレンランダム共重合体であって、汎用的な樹脂成分に第3成分として配合することで物性をコントロールし、これを用いて製造された成形品外観を改良することができるポリプロピレン系樹脂用成形性改質剤として優れた、プロピレン系ブロック共重合体を効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、軽量でリサイクル性にも優れることから、自動車用部品への需要が高まっている。具体的には、結晶性ポリプロピレン樹脂に、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体等のエチレン系熱可塑性エラストマー成分と、タルク等の無機充填剤を配合したポリプロピレン樹脂組成物が使用されており、ポリプロピレン樹脂や各種エラストマー成分、無機充填剤を目的に応じて、適宜選択することによって、成形性、機械物性、外観などを向上させることが提案されている。
【0003】
最近は、軽量化された車部品を、より効率よく生産するため、より薄肉な成形品を、より短い成形時間で成形可能なポリプロピレン系樹脂が要望されている。しかしながら、このような製品は、成形時にフローマーク(成形品の表面外観に現れる虎縞状の模様)等の成形外観不良が発生しやすいという問題が生じ、とりわけ、無塗装部分が外部に露出するデザインのバンパー等の部品では商品としての意匠性を損なうといった課題があった。
このようなフローマークの改良技術としては、これまで既に数多くの提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1では、成形体にした場合、フローマークの発生が起こりにくく、ブツの発生の少ない、外観に優れるポリプロピレン系樹脂組成物の提供を課題としており、この解決手段として、極限粘度[η]APが1.3dl/g以下であるプロピレン単独重合体部分と極限粘度[η]AEPが3.0dl/g以下であるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を有するポリプロピレン系樹脂(A)と、[η]BEPが8.0dl/g〜15dl/gとを特定の割合で配合したポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2では、良好な外観を発現し、成形加工に優れたポリプロピレン系樹脂組成物の提供が課題とされており、この解決手段として、特定の物性を有するプロピレン−エチレンブロック共重合体からなる成形性改質剤を使用することが開示されている。具体的には、プロピレン単独重合体部分(結晶成分)のメルトフローレート(以下、MFRと略記する。)が500g/10分以上であり、プロピレン−エチレンブロック共重合体全体のMFRが100g/10分以上で、ダイスウェル比が1.2〜2.5であるプロピレン−エチレンブロック共重合体が開示されている。
【0006】
いずれの方法もプロピレン単独重合体部分に低粘度の高MFR成分を有し、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分に高粘度成分を有するものである。高MFRのプロピレン単独重合体部分に起因する低剪断応力化による流動性向上と、高粘度のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分に起因する高法線応力化による流動の安定化がフローマークを改良していると考えられている。
【0007】
このような、高MFR成分のプロピレン単独重合体と、高粘度のプロピレン・エチレンランダム共重合体を有するポリプロピレン樹脂は、一般にプロピレン単独重合体を重合した後、プロピレン・エチレンランダム共重合体を重合する多段重合法によって製造されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
特許文献3では、プロピレン重合体のMFRが100〜1000g/10分、プロピレン・エチレン共重合体が全重量体の5〜10wt%のプロピレン・エチレンブロック共重合体の製造方法が開示されている。
【0009】
プロピレン単独重合体の重合において、分子量の調整は連鎖移動剤である水素を用いて行うが、特許文献3のように、高MFRのプロピレン重合体の製造時には、大量の水素を用い、プロピレン中の水素濃度を高くする必要がある。具体的には、特許文献3においては、少なくとも水素/プロピレン濃度比(モル比)で0.15以上であり、重合中はこの所定の水素濃度を維持するとされている。
【0010】
しかしながら、この際、反応器から抜き出される未反応のプロピレン中の水素濃度も高くなる。工業的には、コストの観点から、未反応プロピレンは液化精製し再利用されるが、未反応のプロピレン中において非凝縮性の気体である水素の濃度が高くなると、液化出来ず回収能力が低下する問題が生じる。
また、プロピレン単独重合体製造時の未反応のプロピレン、水素は除ききれず、プロピレン・エチレンランダム共重合体の製造に同伴される。未反応プロピレン中の水素濃度が高いとプロピレン・エチレンランダム共重合体を目的の高粘度で得られないという問題も生じる。
こうした状況下に、高MFRポリプロピレン製造後の未反応プロピレン中の水素濃度を低下する重合方法の新たなる開発が切に望まれている。
【0011】
【特許文献1】特開2002−12734号公報
【特許文献2】特開2004−18647号公報
【特許文献3】特開平11−80298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、高流動性の結晶性プロピレン重合体部分と高粘度のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなるプロピレン・エチレンランダム共重合体であって、汎用的な樹脂成分に第3成分として配合することで物性をコントロールし、これを用いて製造された成形品外観を改良することができるポリプロピレン系樹脂用成形性改質剤として優れた、プロピレン系ブロック共重合体を効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、高MFRの結晶性プロピレン重合体部分を製造する前段の重合工程と、高粘度のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造する後段の重合工程とを含む多段工程からなるプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法において、高MFRの結晶性プロピレン重合体の製造時に、プロピレンに対する水素濃度を経時的に低下させることで、結晶性プロピレン重合体の製造終了時の水素濃度を下げ、未反応プロピレンガス中の水素濃度を特定の数値以下に保持したところ、未反応プロピレンの回収能力の低下を防止することができるとともに、あわせてプロピレン・エチレンランダム共重合体の重合時への水素の持ち込みを抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、メルトフローレートが200g/10分以上の結晶性プロピレン重合体部分を製造する前段の重合工程(A)と、固有粘度[η]copolyが6.5dl/g以上であるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造する後段の重合工程(B)とを含む少なくとも2段工程からなる、バッチ法又は連続法でプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法において、
前段の重合工程(A)は、水素とプロピレンとを反応器中に供給し、触媒の存在下に、プロピレンに対する水素濃度を経時的に低下させながらプロピレンを重合させ、結晶性プロピレン重合体が得られたときは、未反応ガス中の水素とプロピレンとのガス濃度比(H/C)を0.1モル比以下に保持することを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前段の重合工程(A)と後段の重合工程(B)とは、単一の反応器内で行われ、後段の重合工程(B)では、前段の重合工程(A)で結晶性プロピレン重合体が得られた後、いったん反応器内の未反応ガスをパージし、引き続いてプロピレンとエチレンとをあらたに供給しながら共重合させることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は第2の発明において、前段の重合工程(A)と後段の重合工程(B)とは、それぞれ、モノマーを連続的に供給するセミバッチ法で行われることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかに記載の発明において、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン及びトルエンからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合溶媒が、反応器内に存在することを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかに記載の発明において、前段の重合工程(A)において、重合開始後に、反応器中に供給する水素とプロピレンとのガス濃度比(H/C)を徐々に低下させながら重合を行うことを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、前段の重合工程(A)と後段の重合工程(B)とは、直列に配置された3個以上の反応器内で行われ、その際、第1の反応器に触媒、水素及びプロピレンを、第3以降の反応器にプロピレンとエチレンを供給し、これら重合工程を連続的に実施することを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法は、高MFR成分のプロピレン単独重合体と高粘度のプロピレン・エチレンランダム共重合体を有し、第3成分として配合することで、成形時のフローマーク等の成形外観不良を防止出来るポリプロピレン系樹脂用成形性改質剤として優れたプロピレン系ブロック共重合体を、特にプロピレン・エチレンランダム共重合部分を高粘度の状態で、効率的に製造することができる。
つまり、本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法を用いることによって、重合過程で発生する未反応のプロピレンを高度に回収して未反応プロピレン中の水素濃度を低くすることができるため、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分が高粘度であるポリプロピレン系樹脂用成形性改質剤として優れたプロピレン系ブロック共重合体を製造することができる。
また、本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法を用いることによって、前記プロピレン系ブロック共重合体をセミバッチ法によっても連続法によっても容易に工業的に効率良く製造することができる。
さらに、本発明の製造方法によって得られた成形性改質剤を用いることにより、自動車外装部品等に好適な、良好な外観を有し、成形加工性に優れた、プロピレン系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、メルトフローレートが200g/10分以上の結晶性プロピレン重合体部分を製造する前段の重合工程(A)と、固有粘度[η]copolyが6.5dl/g以上であるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造する後段の重合工程(B)とを含む少なくとも2段工程からなる、バッチ法又は連続法でプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法において、前段の重合工程(A)は、水素とプロピレンとを反応器中に供給し、触媒の存在下に、プロピレンに対する水素濃度を経時的に低下させながらプロピレンを重合させ、結晶性プロピレン重合体が得られたときは、未反応ガス中の水素とプロピレンとのガス濃度比(H/C)を0.1モル比以下に保持することを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法である。
以下に本発明について各項目ごとに詳細に説明する。
【0022】
1.プロピレン系ブロック共重合体の製造方法
本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法は、結晶性プロピレン重合体部分であるプロピレン単独重合部分の重合(前段の重合工程(A))と、この後に続く、プロピレン・エチレンランダム共重合部分の重合(後段の重合工程(B))の製造工程からなる。結晶性プロピレン重合体は、1段又は2段以上(各段の反応条件は同一又は異なる)の重合工程で製造され、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分も1段又は2段以上(各段の反応条件は同一又は異なる)の重合工程で製造される。従って、本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法における全製造工程は、少なくとも2段の逐次の多段重合工程となる。
【0023】
本発明の製造方法においては、前段の重合工程及び後段の重合工程で単一の反応器を用いるバッチ法でも、3個以上の反応器を直列に配置して行う連続法でも実施することができる。
【0024】
(1)単一の反応器を用いる製造
本発明の製造方法は、前段の重合工程(A)及び後段の重合工程(B)で単一の反応器を用いるバッチ法で実施することができる。また、モノマーを連続的に供給するセミバッチ法でも実施することができる。図1に、本発明において、単一の反応器を用いるバッチ法またはセミバッチ法を採用した製造方法の一態様を模式的に示した。
以下、単一の反応器に重合触媒、重合溶媒及び水素を仕込み、プロピレンを連続的に供給し結晶性プロピレン重合体を製造した後、一度反応器ガスをパージし、次いでプロピレン、エチレンを連続的に供給しプロピレン・エチレンランダム共重合体を製造し取り出す、セミバッチ法を中心として説明する。
【0025】
(i)重合用反応器
重合用の反応器としては、特に形状、構造を問わないが、スラリー重合、バルク重合で一般に用いられる攪拌機付き槽や、チューブ型反応器、気相重合に一般に用いられる流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器などが挙げられる。単一の反応器を用いる重合方法では、重合過程全体を通して、これらから選ばれる一つの反応器を用いて重合を行う。
【0026】
(ii)重合触媒
本発明の製造方法に用いられる重合触媒は、その必要とする全量を重合開始時に存在させ、重合当初から重合に関与させることが必要であるため、重合開始後、新たに触媒を追加することはしない。重合開始後、触媒を新たに追加すると、追加した触媒で重合した部分のプロピレン・エチレンランダム共重合体の割合が高く、パウダー性状の悪化や、ゲル発生の原因となる。また触媒活性が低下するため、触媒コストの増加、重合体中の触媒残渣の増加などの面からも不都合であり、本発明の効果を奏することはできない。
【0027】
本発明の製造方法に用いられる重合触媒の種類としては、特に限定されるものではなく、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒、あるいは、メタロセン触媒(例えば、特開平5−295022)が使用できる。ゴム成分の固有粘度が高い方が改質剤として添加した際成形外観改良効果が高いこと、つまり、分子量が高い、高粘度のプロピレン・エチレンランダム共重合体成分がフローマークを改良させる効果があるため、一般的に重合時連鎖移動の少ないチーグラー・ナッタ触媒がより好ましい。チーグラー・ナッタ触媒は、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し更に活性化したもの(例えば特開昭47−34478、特開昭58−23806、特開昭63−146906)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58−157808、特開昭58−83006、特開昭58−5310、特開昭61−218606)等が含まれる。これらの触媒は特に制限なく公知の触媒が使用可能である。
【0028】
また、助触媒として有機アルミニウム化合物を使用する。例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して使用することも可能である。
【0029】
また、上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することが出来る。例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0030】
(iii)重合形式及び重合溶媒
重合形式としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン若しくはトルエン等の不活性炭化水素を重合溶媒として用いるスラリー重合、プロピレン自体を重合溶媒とするバルク重合、また原料のプロピレンを気相状態下で重合する気相重合が可能である。また、これらの重合形式を組み合わせて行うことも可能である。
例えば、結晶性プロピレン重合体をバルク重合で行い、プロピレン・エチレンランダム共重合体を気相重合で行う方法や、結晶性プロピレン重合体をバルク重合と続いて気相重合で行い、プロピレン・エチレンランダム共重合体は気相重合で行う方法などが挙げられる。
本発明においては、結晶性プロピレン重合体は高MFRのため水素濃度が高く、プロピレン・エチレンランダム共重合体もエチレン濃度が比較的高いため、プロピレンが液化し難く、バルク重合で行うには圧力をより高くする必要がある。そのため、スラリー重合、気相重合が好ましい。
【0031】
(iv)重合添加剤及び他のモノマーの供給
重合添加剤は、触媒との組み合わせにもよるが、三塩化チタン触媒に安息香酸ブチルといった芳香族エステルを添加したケースがより水素の消費が多いため、添加することが好ましい。
【0032】
また、本発明において、結晶性プロピレン重合体製造時は、重合すべきモノマー成分として、通常プロピレンのみが使用され、プロピレンホモ重合体が製造されるが、本発明の目的を損なわない範囲で少量の共重合モノマー成分を使用できる。かかるモノマーとしてはエチレン、ブテンなどのα−オレフィンがあげられる。その使用量はプロピレンに対して3重量%未満、好ましくは1重量%未満とする。
【0033】
また、プロピレン・エチレンランダム共重合体は、重合すべきモノマー成分として、通常プロピレン、エチレンのみが使用され、プロピレン・エチレンランダム共重合体が製造されるが、本発明の目的を損なわない範囲で少量の他の共重合モノマー成分を使用できる。かかるモノマーとしてはブテンなどのα−オレフィンがあげられる。
【0034】
(v)重合圧力
セミバッチ重合においては、結晶性プロピレン重合体製造時、重合圧力を一定で行うことも随時変化させることも可能である。プロピレン重合体製造終了時の水素濃度を低く抑えるには、水素の消費速度が高く、プロピレンに対する水素の供給割合が低いことに依存するが、重合途中で水素の供給をしない場合は、重合開始時と重合終了時の圧力差がより大きい方が有利である。この際、重合圧力を高く設定すると触媒活性を高く出来る利点がある一方、回収する未反応のプロピレンが増加する不利益があるため、0.2〜5MPa、好ましくは0.3〜2MPa程度で実施するのが好ましい。
また、プロピレン・エチレンランダム共重合体製造時も、重合圧力を一定で行うことも随時変化させることも可能であるが、本発明のプロピレン系ブロック共重合体を得るためには、0.1〜0.2MPa程度で実施するのが好ましい。
【0035】
(vi)重合温度
本発明は、重合温度に関しては特に限定されないが、通常20〜100℃、好ましくは40〜80℃の範囲から選択される。この重合温度は重合開始時と重合終了時において同一でも異なっていても良い。
【0036】
(vii)重合時間
本発明の方法において、重合時間も特に限定されないが、通常30分〜10時間で実施される。一般に、結晶性プロピレン重合体製造は、気相重合で2〜5時間、バルク重合で30分〜2時間、スラリー重合で4〜8時間を標準とし、プロピレン・エチレンランダム共重合体は、気相重合で1〜3時間、バルク重合で20分〜1時間、スラリー重合で1〜3時間を標準とする。また、重合時間は長いほど水素の消費が多い傾向がある。
【0037】
(viii)結晶性プロピレン重合体部分の製造
上記少なくとも2段の逐次の多段重合工程においては、前段の重合工程(A)で、プロピレン及び連鎖移動剤として水素を供給して、前記触媒の存在下でプロピレン単独重合を行い、結晶性プロピレン重合体部分を製造する。
この際、本発明のプロピレン系ブロック共重合体における、結晶性プロピレン重合体部分のメルトフローレート(JIS K7210、温度230℃、荷重21.18N)を、200g/10min以上にするためのみならず、次いで行われる後段の重合工程(B)においてプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyが6.5dl/g以上であり、ポリプロピレン系樹脂用成形性改質剤として優れたプロピレン系ブロック共重合体を製造するためにも、前段の重合工程(A)において、水素とプロピレンとを反応器中に供給し、触媒の存在下に、プロピレンに対する水素濃度を経時的に低下させながらプロピレンを重合させ、結晶性プロピレン重合体が得られたときは、未反応ガス中の水素とプロピレンとのガス濃度比(H/C)を0.1モル比以下に保持すること、又は、前段の重合工程(A)において、重合開始後に、反応器中に供給する水素とプロピレンとのガス濃度比(H/C)を徐々に低下させながら重合を行うことが必要である。
【0038】
前段の重合工程(A)終了時に、未反応ガス中における水素とプロピレンのガス濃度比(H/C)が0.1モル比以下となるような制御の方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
つまり、前記のとおり、セミバッチ重合においては、結晶性プロピレン重合体製造時、重合圧力を一定で行うことも随時変化させることも可能であるため、未反応ガス中の水素とプロピレンのガス濃度比(H/C)を低下させる方法としては、(i)プロピレンの供給量は一定に保ち、水素の供給量を減少させる方法、(ii)重合圧力を一定にして、プロピレンの供給量を増加させ、水素の供給量を減少させる方法、(iii)プロピレンと水素両方の供給量を減少させる方法、及び(iv)プロピレンと水素両方の供給量を増加させる方法等が挙げられるが、本発明においては、制御の簡易さから、(ii)重合圧力を一定にして、プロピレンの供給量を増加させ、水素の供給量を減少させる方法、つまり、反応器に供給する水素とプロピレンの比(H/C)を漸次低下させながら行う方法が好ましい。
また、バッチ重合においては、製造前に必要量の大半を仕込み、水素の消費速度を調整することにより、未反応ガス中における水素とプロピレンのガス濃度比(H/C)が0.1モル比以下となるように制御をすることができる。
【0039】
水素の消費は、触媒、重合添加剤の有無、重合時間などにより変化するが、本発明において、結晶性プロピレン重合体製造終了時の水素濃度を低く抑えるためには、水素の消費速度がより大きい方が好ましい。水素の消費速度の点から、触媒については、一般にメタロセン触媒よりもチーグラー触媒が、チーグラー触媒の中でも、いわゆる塩化マグネシウム担持型触媒よりも、三塩化チタン型がより水素の消費が多いため、好ましい。
【0040】
このようにして、水素量を制御し、前段の重合工程(A)の終了時に、未反応ガス中の水素、プロピレンのガス濃度比(H/C)が0.1モル比以下、好ましくは0.09モル比以下、より好ましくは0.08モル比以下となるように行う必要がある。上限値以上だと、非圧縮性水素濃度が高く、プロピレンが十分に液化出来ず、未反応プロピレンの回収能力が低下する。水素量の割合が高くなると水素のみならず一部のプロピレンも液化できなくなる。その量は、水素の割合に依存し、特に0.1モル比を超えると液化出来ないプロピレンの割合が極端に上がり不都合である。またプロピレン・エチレンランダム共重合体製造時に水素を持ち込み、高粘度の共重合体を得られず不都合である。
【0041】
結晶性プロピレン重合体に必要な水素の供給タイミングとしては、製造前に必要量の大半を仕込むことが好ましい。また、セミバッチ重合時には、プロピレンに対する水素の供給量は徐々に低下させることができる。そうすることで、プロピレンの反応器内の平均滞留時間に対し、水素の平均滞留時間を長く取ることが出来、水素はより効率的に使用され、供給量を低下することが出来、また結果的に水素濃度も最終的に低く抑えることが出来る。また、水素はプロピレン重合終了時に供給されていてもよく、また供給を停止していてもよい。水素供給が停止する場合は、プロピレン重合終了時と同時に供給停止してもよく、重合途中の段階で供給が停止となってもよい。
【0042】
図3は、プロピレンに対する水素供給が単調低下する実施態様例を模式的に示すものである。横軸(a)はプロピレン重合開始時、(b)は重合終了時を示し、縦軸はプロピレンに対する水素供給量を示す。図3の(1)及び(2)は直線状に低下する場合、(3)〜(5)は曲線状に低下する場合、(6)は断続的に低下する場合を示す。
本発明において、水素供給量の態様のうち、好ましい態様を適宜選択することができるが、工程管理の簡易さから、図3の(1)に示すような、水素供給量が直線状に低下する態様が好ましい。
【0043】
(ix)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の製造
前段の重合工程(A)において、プロピレンを連続的に供給し結晶性プロピレン重合体を製造し、一度反応器ガスをパージした後、引き続いて、後段の重合工程(B)において、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造する。
後段の重合工程(B)では、プロピレン、エチレンと水素を連続的に供給して、前記触媒(前記前段の重合工程(A)(第1段目)で使用した当該触媒)の存在下にプロピレンとエチレンのランダム共重合を行い、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造し、最終的な生成物として、プロピレン系ブロック共重合体を得る。
【0044】
この際、本発明のプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyが6.5dl/g以上にする必要があるため、プロセス、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を比較的低い濃度に調整し[η]copolyをコントロールする必要がある。
【0045】
プロピレン・エチレンランダム共重合体の製造時は、原則として水素供給はしないが、得られるプロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度[η]copolyを微妙に調節する目的で少量供給することができる。水素を供給し過ぎると固有粘度[η]copolyが低下し、フローマーク改良効果が得られない。
【0046】
(2)連続法による製造
以上、主としてセミバッチ法を対象として説明したが、本発明は連続法においても同様に適用することができる。図2に、本発明において、連続法を採用した製造方法の一態様を模式的に示した。
【0047】
(i)重合用反応器
重合用の反応器としては、単一の反応器を用いる場合と同様であり、特に形状、構造を問わないが、スラリー重合、バルク重合で一般に用いられる攪拌機付き槽や、チューブ型反応器、気相重合に一般に用いられる流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器などが挙げられる。
【0048】
連続法においては3個以上の重合反応器を使用して、その第1の反応器(以下、第1反応器という。)に触媒、水素及びプロピレンを供給し、第3以降の反応器にプロピレン、エチレンを供給する。第2以降の反応器には触媒は供給せず、水素も原則として供給せず、例外的に少量のみ添加することができる。重合生成物は第1反応器から順次連続的に後段反応器に移送され、最終反応器から目的とするプロピレン系ブロック共重合体が取得できる。連続法で重合を行う場合、結晶性プロピレン重合体製造時の未反応ガス中の水素、プロピレンのガス濃度比(H/C)を調節するためには1個の反応器では不充分なので、本発明においては2個以上、好ましくは2〜3個使用され、プロピレン・エチレンランダム共重合体製造の反応器と合わせて、3個以上が使用される。
【0049】
多段の連続重合においては、3個以上の反応器を直列に連結し、結晶性プロピレン重合体製造は前の2個以上の反応器を使用する。第1反応器に、重合圧力が所定値になるようプロピレンを供給し、当該プロピレンと水素の比が一定になるように触媒及び水素を供給する。生成したポリマーは、未反応原料と、スラリー重合であれば重合溶媒と一緒に、順次、次段の反応器に移送される。第2以降の反応器には触媒は供給せず、第1反応器から移送されるポリマー中に含まれている触媒で重合する。また、第2以降の反応器においてもプロピレンは、重合圧力が所定値に維持されるように供給を続ける。水素は第1反応器に供給し、第1反応器で未反応として残存した水素が、次段の反応器に移送される。
【0050】
(ii)結晶性プロピレン重合体部分の製造
多段の連続重合においても重合開始時と重合終了時の水素濃度格差の制御は、水素の供給方法、水素の消費速度で決定される。水素は、全量第1反応器に供給するのが通常であるが、例外的に、更に第2以降の反応器にも供給することが可能である。全量を、第1重合器に供給する方が、より最終的な水素濃度を低く抑えるには有利である。また、更に第2以降の反応器に供給する場合は、第1反応器と第2以降の反応器の水素供給比も、最終的な水素濃度に影響を与える。多段の連続重合においても、触媒、重合添加剤の有無、重合時間などにより水素の消費が変化する。例えば、触媒については、一般にメタロセン触媒よりもチーグラー触媒が、チーグラー触媒の中でも、いわゆる塩化マグネシウム担持型触媒よりも、三塩化チタン型がより水素の消費が多い。そのため、本発明においては、水素の消費速度は、より大きい方が最終的な水素濃度も低く抑えられるため、好ましいことから、触媒としては、三塩化チタン型のチーグラー触媒が好ましい。
【0051】
(iii)重合圧力
多段の連続重合においても、結晶性プロピレン重合体製造時反応器間で重合圧力を一定で行うことも、随時変化させることも可能である。第2以降の反応器に水素の供給をしない場合は、第1反応器とホモ最終反応器(結晶性プロピレン重合体部分製造における最終反応器)の圧力差を大きく取ることによって、最終的な水素濃度は低く抑えられるため、好ましい。
重合圧力の上限には特に制限はないが、必要以上に高く設定すると、触媒活性を高く出来る利点がある一方、回収する未反応のプロピレンが増加するため好ましくない。通常、0.2〜5MPa、好ましくは0.3〜2MPa程度で実施することはセミバッチ法の場合と同様である。
【0052】
(iv)重合温度
単一の反応器を用いる重合方法と同様、重合温度に関しては特に限定されないが、通常20〜100℃、好ましくは40〜80℃の範囲から選択される。この重合温度は重合開始時と重合終了時において同一でも異なっていても良い。
【0053】
(v)重合時間
重合時間も特に限定されない。多段の連続重合においては、各段のそれぞれの重合時間も特に限定されないが、重合時間は長いほど水素の消費が多い傾向があること等から、例えば、1段目1時間、2段目1時間、3段目2時間のように設定される。
【0054】
(3)その他の添加剤
さらに、上記重合工程により製造される組成物の粉体粒子に流動性を付与する目的で、また本共重合体を射出成形した際ゴムの分散不良であるゲル発生を防止する目的で、前段重合工程での重合後、後段重合工程での重合開始前又は重合途中に、活性水素含有化合物を、触媒の固体成分中の中心金属原子(チーグラー・ナッタ触媒の場合はチタン原子)に対して100〜1000倍モルで、かつ、触媒の有機アルミニウム化合物に対して2〜5倍モルの範囲で添加することができる。
【0055】
ここで、活性水素含有化合物としては、例えば、水、アルコール類、フェノール類、アルデヒド類、カルボン酸類、酸アミド類、アンモニア、アミン類等が挙げられる。
【0056】
2.プロピレン系ブロック共重合体の物性
本発明の製造法により製造された、プロピレン系ブロック共重合体の、結晶性プロピレン重合体部分のMFRは200g/10min以上、好ましくは300g/10min以上、より好ましくは400g/10min以上である。下限値を下まわると流動性が低下するため、低剪断応力化によるフローマーク改良効果が得られず不都合である。上限は特にないが、第3成分として配合した後のポリプロピレン系樹脂のMFR、物性への影響、ゲルの発生見合い等で決定される。
また、本発明の製造法により得られるプロピレン系ブロック共重合体のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyは6.5dl/g以上、好ましくは7.0dl/g以上、より好ましくは7.5dl/g以上である。下限値を下まわると粘度が低く、高法線応力化によるフローマーク改良効果が得られず不都合である。上限は特にないが、第3成分として配合した後のポリプロピレン系樹脂のMFR、物性への影響、ゲルの発生見合い等で決定される。
【0057】
以上のようにして得られる本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体自体のMFRは、通常80〜300g/10分であるが、特に第3成分として配合することで、フローマークを改良することの出来るポリプロピレン系樹脂用成形性改質剤としては、該MFRが85〜200g/10分、好ましくは90〜200g/10分のものが用いられる。
【0058】
本発明の方法に係るプロピレン系ブロック共重合体は、結晶性プロピレン重合体部分のMFRが高く、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度が高いことに特徴がある。先述したが、結晶性プロピレン重合体部分のMFRは200g/10min以上、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyは6.5dl/g以上である。いずれかが低いと、十分な成形性改質効果が得られない。
【0059】
また、プロピレン系ブロック共重合体における結晶性プロピレン重合体部分の構成割合は、特に規定はないが、50〜98重量%であり、好ましくは60〜95重量%、より好ましくは80〜93重量%である。また、後に示した方法によって測定されたプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の構成割合は、2〜50重量%であり、好ましくは5〜40重量%であり、さらに好ましくは7〜20重量%である。結晶性プロピレン重合体部分の割合が50重量%未満(プロピレン・エチレンランダム共重合体部分が50重量%を超える)では、曲げ剛性が低下し、98重量%を超える(プロピレン・エチレンランダム共重合体部分が2重量%未満)とフローマークの改良効果が劣るので好ましくない。
【0060】
また、プロピレン系ブロック共重合体の結晶性プロピレン重合体部分の分子量分布は、特に限定されないが、GPCにおける重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で3.5〜10である。4.0以上が好ましく、4.2以上がより好ましい。結晶性プロピレン重合体部分の分子量分布が広いほうが、よりフローマークの改良効果が高く好ましい。本発明の方法に係るプロピレン系ブロック共重合体は、重合形式、触媒、重合添加剤、重合時間などにもよるが、多少、結晶性プロピレン重合体部分の分子量分布が広くなり、フローマークの改良効果は一層高くなる。
【0061】
さらに、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分中のエチレンの割合は、15〜70重量%であり、好ましくは20〜60重量%であり、さらに好ましくは25〜50重量%である。
【0062】
本発明の方法に係るプロピレン系ブロック共重合体には、必要に応じて従来のポリオレフィンに用いられている公知の酸化防止剤や中和剤、帯電防止剤および耐候剤等を添加してもよい。
【0063】
本発明の方法に係るプロピレン系ブロック共重合体は、そのまま単独で使用することも、別のポリプロピレンや、エチレンゴムのような別のポリマーを添加して使用することも出来るが、基本的には本発明のポリプロピレンを第3成分として流動性、外観改良を目的に、別のポリプロピレンなどのポリマーに添加して使用する。
【0064】
本発明の最も大きな特徴は、高MFR結晶性プロピレン重合体の製造時、つまり、前段の重合工程(A)において、連鎖移動剤(分子量制御剤)として水素を大量必要とするが、その水素を重合反応の当初に多く供給し、その後、重合反応の経過と共にプロピレンに対する水素の供給量を低下させるところにある。
これにより、プロピレンの反応器内の平均滞留時間に対し、水素の平均滞留時間を長く取ることが出来、水素はより効率的に使用され、供給量を低下することが出来、また結果的に水素濃度も初期に濃度が高く、徐々に低下させることになり、工業的に回収する必要がある未反応の水素を、プロピレンとの濃度比(H/C)で0.1モル比以下に低下することが出来るところに特徴がある。
こういった本発明の製造方法により、結晶性プロピレン重合体部分のMFRが高く、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度が高いプロピレン・エチレンランダム共重合体が得られる。
【0065】
こういったプロピレン系ブロック共重合体を得るためには、未反応ガス中の水素、プロピレンのガス濃度比(H/C)が0.1モル比以下、好ましくは0.09モル比以下、より好ましくは0.08モル比以下とする必要がある。ガス濃度比(H/C)が0.1モル比以上であると、非圧縮性水素濃度が高く、プロピレンが十分に液化出来ず、未反応プロピレンの回収能力が低下する。一般的に、水素の割合が高くなると水素のみならず一部のプロピレンも液化できなくなる。その量は、水素の割合に依存し、特に0.1モル比を超えると液化出来ないプロピレンの割合が極端に上がり不都合である。またプロピレン・エチレンランダム共重合体製造時に水素を持ち込み、高粘度の共重合体を得られず不都合である。
【0066】
3.プロピレン系ブロック共重合体の物性の分析法
本発明の方法で製造されるプロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分(以下、ゴム成分ということがある。)の比率(Wc)、及びゴム成分中のエチレン含量、固有粘度の測定は、下記の装置、条件を用い、下記の手順で測定する。
【0067】
(1)使用する分析装置
(i)クロス分別装置
ダイヤインスツルメンツ社製CFC T−100(CFCと略す)
(ii)フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析
FT−IR、パーキンエルマー社製 1760X
CFCの検出器として取り付けられていた波長固定型の赤外分光光度計を取り外して代わりにFT−IRを接続し、このFT−IRを検出器として使用する。CFCから溶出した溶液の出口からFT−IRまでの間のトランスファーラインは1mの長さとし、測定の間を通じて140℃に温度保持する。FT−IRに取り付けたフローセルは光路長1mm、光路幅5mmφのものを用い、測定の間を通じて140℃に温度保持する。
(iii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
CFC後段部分のGPCカラムは、昭和電工社製AD806MSを3本直列に接続して使用する。
【0068】
(2)CFCの測定条件
(i)溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
(ii)サンプル濃度:4mg/mL
(iii)注入量:0.4mL
(iv)結晶化:140℃から40℃まで約40分かけて降温する。
(v)分別方法:
昇温溶出分別時の分別温度は40、100、140℃とし、全部で3つのフラクションに分別する。なお、40℃以下で溶出する成分(フラクション1)、40〜100℃で溶出する成分(フラクション2)、100〜140℃で溶出する成分(フラクション3)の溶出割合(単位:重量%)を各々W40、W100、W140と定義する。W40+W100+W140=100である。また、分別した各フラクションは、そのままFT−IR分析装置へ自動輸送される。
(vi)溶出時溶媒流速:1mL/分
【0069】
(3)FT−IRの測定条件
CFC後段のGPCから試料溶液の溶出が開始した後、以下の条件でFT−IR測定を行い、上述した各フラクション1〜3について、GPC−IRデータを採取する。
(i)検出器:MCT
(ii)分解能:8cm−1
(iii)測定間隔:0.2分(12秒)
(iv)一測定当たりの積算回数:15回
【0070】
(4)測定結果の後処理と解析
各温度で溶出した成分の溶出量と分子量分布は、FT−IRによって得られる2945cm−1の吸光度をクロマトグラムとして使用して求める。溶出量は各溶出成分の溶出量の合計が100%となるように規格化する。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式([η]=K×Mα)には以下の数値を用いる。
(i)標準ポリスチレンを使用する較正曲線作成時
K=0.000138、α=0.70
(ii)プロピレン系ブロック共重合体のサンプル測定時
K=0.000103、α=0.78
各溶出成分のエチレン含有量分布(分子量軸に沿ったエチレン含有量の分布)は、FT−IRによって得られる2956cm−1の吸光度と2927cm−1の吸光度との比を用い、ポリエチレンやポリプロピレンや13C−NMR測定等によりエチレン含有量が既知となっているエチレン−プロピレンラバー(EPR)及びそれらの混合物を使用して予め作成しておいた検量線により、エチレン含有量(重量%)に換算して求める。
【0071】
(5)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)は、下記式(I)で理論上は定義され、以下のような手順で求められる。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/B100 …(I)
式(I)中、W40、W100は、上述した各フラクションでの溶出割合(単位:重量%)であり、A40、A100は、W40、W100に対応する各フラククションにおける実測定の平均エチレン含有量(単位:重量%)であり、B40、B100は、各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(単位:重量%)である。A40、A100、B40、B100の求め方は後述する。
【0072】
(I)式の意味は以下の通りである。すなわち、(I)式右辺の第一項はフラクション1(40℃に可溶な部分)に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の量を算出する項である。フラクション1がプロピレン・エチレンランダム共重合体のみを含み、プロピレン単独重合体を含まない場合には、W40がそのまま全体の中に占めるフラクション1由来のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量に寄与するが、フラクション1にはプロピレン・エチレンランダム共重合体由来の成分のほかに少量のプロピレン単独重合体由来の成分(極端に分子量の低い成分及びアタクチックポリプロピレン)も含まれるため、その部分を補正する必要がある。そこでW40にA40/B40を乗ずることにより、フラクション1のうち、プロピレン・エチレンランダム共重合体成分由来の量を算出する。例えば、フラクション1の平均エチレン含有量(A40)が30重量%であり、フラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量(B40)が40重量%である場合、フラクション1の30/40=3/4(即ち75重量%)はプロピレン・エチレンランダム共重合体由来、1/4はプロピレン単独重合体由来ということになる。このように右辺第一項でA40/B40を乗ずる操作は、フラクション1の重量%(W40)からプロピレン・エチレンランダム共重合体の寄与を算出することを意味する。右辺第二項も同様であり、各々のフラクションについて、プロピレン・エチレンランダム共重合体の寄与を算出して加え合わせたものがプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量となる。
【0073】
(i)上述したように、CFC測定により得られるフラクション1〜2に対応する平均エチレン含有量をそれぞれA40、A100とする(単位はいずれも重量%である)。平均エチレン含有量の求め方は後述する。
【0074】
(ii)フラクション1の微分分子量分布曲線におけるピーク位置に相当するエチレン含有量をB40とする(単位は重量%である)。フラクション2については、ゴム部分が40℃ですべて溶出してしまうと考えられ、同様の定義で規定することができないので、本発明では実質的にB100=100と定義する。B40、B100は各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量であるが、この値を分析的に求めることは実質的には不可能である。その理由はフラクションに混在するプロピレン単独重合体とプロピレン・エチレンランダム共重合体を完全に分離・分取する手段がないからである。種々のモデル試料を使用して検討を行った結果、B40はフラクション1の微分分子量分布曲線のピーク位置に相当するエチレン含有量を使用すると、材料物性の改良効果をうまく説明することができることがわかった。また、B100はエチレン連鎖由来の結晶性を持つこと、および、これらのフラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体の量がフラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体の量に比べて相対的に少ないことの2点の理由により、100と近似する方が、実態にも近く、計算上も殆ど誤差を生じない。そこでB100=100として解析を行うこととしている。
【0075】
(iii)上記の理由からプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)を以下の式に従い、求める。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/100 …(II)
つまり、(II)式右辺の第一項であるW40×A40/B40は結晶性を持たないプロピレン・エチレンランダム共重合体含有量(重量%)を示し、第二項であるW100×A100/100は結晶性を持つプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量(重量%)を示す。
ここで、B40およびCFC測定により得られる各フラクション1および2の平均エチレン含有量A40、A100は、次のようにして求める。
微分分子量分布曲線のピーク位置に対応するエチレン含有量がB40となる。また、測定時にデータポイントとして取り込まれる、各データポイント毎の重量割合と各データポイント毎のエチレン含有量の積の総和がフラクション1の平均エチレン含有量A40となる。フラクション2の平均エチレン含有量A100も同様に求める。
【0076】
なお、上記3種類の分別温度を設定した意義は次の通りである。本発明のCFC分析においては、40℃とは結晶性を持たないポリマー(例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体の大部分、もしくはプロピレン単独重合体部分の中でも極端に分子量の低い成分およびアタクチックな成分)のみを分別するのに必要十分な温度条件である意義を有する。100℃とは、40℃では不溶であるが100℃では可溶となる成分(例えばプロピレン・エチレンランダム共重合体中、エチレン及び/またはプロピレンの連鎖に起因して結晶性を有する成分、および結晶性の低いプロピレン単独重合体)のみを溶出させるのに必要十分な温度である。140℃とは、100℃では不溶であるが140℃では可溶となる成分(例えば、プロピレン単独重合体中特に結晶性の高い成分、およびプロピレン・エチレンランダム共重合体中の極端に分子量が高くかつ極めて高いエチレン結晶性を有する成分)のみを溶出させ、かつ分析に使用するプロピレン系ブロック共重合体の全量を回収するのに必要十分な温度である。なお、W140にはプロピレン・エチレンランダム共重合体成分は全く含まれないか、存在しても極めて少量であり実質的には無視できることからプロピレン・エチレンランダム共重合体の比率やプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量の計算からは排除する。
【0077】
(6)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量は、上述で説明した値を用い、次式から求められる。
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(重量%)=(W40×A40+W100×A100)/Wc
但し、Wcは先に求めたプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(重量%)である。
【0078】
(7)固有粘度の測定
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体における結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]homo、[η]copolyは、ウベローデ型粘度計を用いてデカリンを溶媒として温度135℃で測定する。
まず、結晶性プロピレン重合体部分の重合終了後、一部を重合槽よりサンプリングし、固有粘度[η]homoを測定する。次に、結晶性プロピレン重合体部分を重合した後、プロピレン・エチレンランダム共重合体を重合して得られた最終重合物(F)の固有粘度[η]Fを測定する。[η]copolyは、以下の関係から求める。
[η]F=(100−Wc)/100×[η]homo+Wc/100×[η]copoly
【0079】
4.成形品外観改質剤としての利用
本発明の方法により製造されたプロピレン系ブロック共重合体を成形品外観改質剤として汎用的なポリプロピレン系樹脂被改質材料に第3成分として配合することにより、成形品外観に優れるポリプロピレン系樹脂組成物を得ることができる。これは、主にフローマーク特性に代表される成形品外観等が改良されたポリプロピレン系樹脂組成物である。
具体的には、(a)本発明の製造方法によって得られるプロピレン系ブロック共重合体からなる成形品外観改質剤とポリプロピレン系樹脂被改質材料とのポリプロピレン樹脂組成物として表すことができ、ポリプロピレン系樹脂被改質材料としては、(b)エチレン系又はスチレン系エラストマー等のポリプロピレン樹脂組成物を挙げることができ、さらに必要に応じて、(c)無機充填剤、及び/又は(d)エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーを含有するポリプロピレン樹脂組成物を挙げることができる。以下、各成分を詳細に説明する。
【0080】
(1)ポリプロピレン系樹脂組成物の各成分
(a)成分:成形品外観改質剤
ポリプロピレン系樹脂組成物に用いる(a)成形品外観改質剤は、本発明の製造方法によって得られるプロピレン系ブロック共重合体である。
(a)成形品外観改質剤は、上記のプロピレン系ブロック共重合体以外に他の成分を含んでいてもよい。そのような他の成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル等のポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0081】
(b)成分:ポリプロピレン樹脂組成物
ポリプロピレン系樹脂組成物に用いるポリプロピレン樹脂組成物(b)としては、エチレン系又はスチレン系エラストマーや、汎用的なポリプロピレン樹脂組成物が挙げられる。
具体的には、結晶性ポリプロピレン重合体部(A単位部)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部(B単位部)とを含有するブロック共重合体等が挙げられる。(b)がこういったプロピレン−エチレンブロック共重合体である場合、上記A単位部は、通常プロピレンの単独重合、場合によってはプロピレンに少量の他のα−オレフィンを共重合することによって得られる結晶性の重合体であり、その密度は高いことが好ましい。一方、上記B単位部はプロピレンとエチレンとのランダム共重合によって得られるゴム状成分である。
【0082】
(b)がプロピレン−エチレンブロック共重合体である場合、(b)のMFRは、10〜200g/10分が好ましく、より好ましくは、15〜150g/10分である。MFRが10g/10分未満であると、成形性が劣り、200g/10分を超えると耐衝撃性が低下するので好ましくない。
【0083】
上記プロピレン−エチレンブロック共重合体の製造は、高立体規則性触媒を用いて重合する方法が好ましく用いられる。重合方法としては従来公知の方法がいずれも採用できる。プロピレン・エチレンランダム共重合体部(B単位部)の多いプロピレン−エチレンブロック共重合体成分の製造においては、特に気相流動床法が好ましい。また、後段反応において新たに電子供与体化合物を添加することにより、粘着、閉塞のトラブルを回避し、重合の操作性を改良することができる。
【0084】
(c)成分:無機充填剤
ポリプロピレン系樹脂組成物においては、必要に応じて、無機充填剤(c)を配合することができる。(c)成分は、ポリプロピレン系樹脂組成物の曲げ弾性率を向上させ、線膨張係数を低下させるために使用する。
無機充填剤(c)としては、組成、形状等は特に限定されない。ポリマー用充填剤として市販されているものはいずれも使用できる。
具体的には、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の板状無機充填剤、短繊維ガラス繊維、長繊維ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ゾノライト等の繊維状無機充填剤、チタン酸カリウム、マグネシウムオキシサルフェート、窒化珪素ホウ酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、ワラストナイト、炭酸カルシウム等の針状(ウィスカー)無機充填剤、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の粒状無機充填剤、ガラスバルーンのようなバルン状無機充填剤が例示される。その中でも、物性・コスト面のバランスより、タルクが特に好ましい。
【0085】
タルクは、重合体との接着性或いは分散性を向上させる目的で、各種の有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、又はその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理したものを用いてもよい。
【0086】
(d)成分:エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー
ポリプロピレン系樹脂組成物においては、必要に応じて、エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー(d)を配合することができる。エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー(d)の具体例としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合エラストマー(EOR)等のエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体エラストマー等のエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー(EPDM);スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)等のスチレン系エラストマー等が使用できる。
なお、上記したスチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体の水素添加物は、ポリマー主鎖をモノマー単位で見ると、スチレン−エチレン−ブテン−スチレンとなるので、通常、SEBSと略称されるものである。
また、これらのエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー(d)は、2種類以上を混合して使用することができる。
【0087】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体エラストマーは、各モノマーを触媒の存在下重合することにより製造される。触媒としては、ハロゲン化チタンのようなチタン化合物、アルキルアルミニウム−マグネシウム錯体、のような有機アルミニウム−マグネシウム錯体、アルキルアルミニウム、又はアルキルアルミニウムクロリド等のいわゆるチーグラー型触媒、WO−91/04257号公報等に記載のメタロセン化合物触媒を使用することができる。重合法としては、気相流動床、溶液法、スラリー法等の製造プロセスを適用して重合することができる。市販品を例示すれば、ジェイエスアール社製EDシリーズ、三井化学社製タフマーPシリーズ及びタフマーAシリーズ、デュポンダウ社製エンゲージEGシリーズ、旭化成社製タフテックHシリーズなどを挙げることができ、これらはいずれも本発明において使用することができる。
【0088】
ここで、上記スチレン系エラストマーにおけるトリブロック共重合体の水素添加物(SEBS、SEPS)の製造法の概要を述べる。これらのトリブロック共重合体は、一般的なアニオンリビング重合法で製造することができ、逐次的にスチレン、ブタジエン、スチレンを重合しトリブロック体を製造した後に、水添する方法(SEBSの製造法)と、スチレン−ブタジエンのジブロック共重合体をはじめに製造した後、カップリング剤を用いてトリブロック体に、水添する方法がある。また、ブタジエンの代わりにイソプレンを用いることによってスチレン−イソプレン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)も同様に製造することができる。
【0089】
ポリプロピレン系樹脂組成物で用いるエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー(d)のMFR(230℃、2.16kg荷重で測定)は、0.5〜150g/10分が好ましく、より好ましくは0.7〜150g/10分、特に好ましくは0.7〜80g/10分である。本発明の成形外観に優れたポリプロピレン系樹脂組成物の主要用途である自動車外装材を考慮した場合、MFRが上記の範囲であるものが特に好ましい。
【0090】
(e)付加的成分(任意成分)
ポリプロピレン系樹脂組成物中には、上記(a)〜(d)成分以外に、さらに、本発明の製造法による改質剤による効果を著しく損なわない範囲で、他の付加的成分(任意成分)を添加することができる。この様な付加的成分(任意成分)としては、フェノール系及びリン系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の耐候劣化防止剤、有機アルミ化合物、有機リン化合物等の核剤、ステアリン酸の金属塩に代表される分散剤、キナクリドン、ペリレン、フタロシアニン、酸化チタン、カーボンブラック等の着色物質、を例示できる。
【0091】
(2)ポリプロピレン系樹脂組成物の成分組成
ポリプロピレン系樹脂組成物は、上記各(a)〜(d)成分を組み合わせて得られる。代表的には、成分(a)と(b)の組成物、成分(a)、(b)及び(c)の組成物、成分(a)、(b)及び(d)の組成物、成分(a)、(b)、(c)及び(d)の組成物などであり、更に必要に応じて成分(e)が配合される。
【0092】
(i)成分(a)と(b)からなるポリプロピレン系樹脂組成物
成分(a)と(b)からなるポリプロピレン系樹脂組成物にあっては、(a)成形品外観改質剤は、(b)ポリプロピレン樹脂組成物100重量部に対して、3〜30重量%であり、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは3〜10重量%である。(a)成形品外観改質剤が1重量部未満であると成形外観効果が劣り、逆に25重量部を超えると流動性が低下する。コストも含めた観点から、絶対量が少なく効果が発現することが好ましい。
【0093】
(ii)成分(a)、(b)及び(c)からなるポリプロピレン系樹脂組成物
成分(a)、(b)及び(c)からなるポリプロピレン系樹脂組成物にあっては、(a)成形品外観改質剤は、成分(b)及び(c)の合計100重量部に対して、3〜30重量%であり、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは3〜10重量%である。ポリプロピレン系樹脂被改質材料全体に対しての成分(b)と成分(c)の割合は、成分(b)は、65〜99重量%、好ましくは70〜98重量%、より好ましくは75〜98重量%、特に好ましくは80〜97重量%であり、成分(c)は、1〜35重量%、好ましくは2〜30重量%、より好ましくは2〜25重量%、特に好ましくは3〜20重量%である。成分(c)が1重量%未満であると添加効果が充分発揮されず曲げ弾性率が不足し、逆に35重量%を超えると脆化温度が悪化し、成形性も低下する。
【0094】
(iii)成分(a)、(b)及び(d)からなるポリプロピレン系樹脂組成物
成分(a)、(b)及び(d)からなるポリプロピレン系樹脂組成物にあっては、(a)成形品外観改質剤は、成分(b)及び(d)の合計100重量部に対して、3〜30重量%であり、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは3〜10重量%である。ポリプロピレン系樹脂被改質材料全体に対しての成分(b)と成分(d)の割合は、成分(b)は、65〜99重量%、好ましくは70〜98重量%、より好ましくは75〜98重量%、特に好ましくは83〜97重量%であり、成分(d)は、1〜35重量%、好ましくは2〜30重量%、より好ましくは2〜25重量%、特に好ましくは3〜17重量%である。成分(d)が1重量%未満であると添加効果が充分発揮されず、逆に35重量%を超えると剛性低下が懸念され、またコスト的にも問題がある。しかし目的、用途によっては各種の配合があり、エラストマーの種類により、上記に限定されるものではなく、用途や目的に応じて選択することも重要である
【0095】
(iv)成分(a)、(b)、(c)及び(d)からなるポリプロピレン系樹脂組成物
成分(a)、(b)、(c)及び(d)からなるポリプロピレン系樹脂組成物にあっては、(a)成形品外観改質剤は、成分(b)、(c)及び(d)の合計100重量部に対して、3〜30重量%であり、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは3〜10重量%である。ポリプロピレン系樹脂被改質材料全体に対しての成分(b)と成分(c)と成分(d)の割合は、成分(b)は、45〜98重量%、好ましくは47〜96重量%、より好ましくは50〜92重量%であり、成分(c)は、1〜40重量%、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは4〜32重量%であり、成分(d)は、1〜40重量%、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは4〜32重量%である。
【0096】
(3)ポリプロピレン系樹脂組成物の製造
ポリプロピレン系樹脂組成物の製造は、上記の各構成成分を、上記の割合で、混合又は、一軸押出機、二軸押出機等の押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等通常の混練機を用いて、設定温度180℃〜250℃にて混練することにより製造できる。これらの混練機の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いて製造することが好ましい。
【0097】
(4)ポリプロピレン系樹脂組成物の成形加工
ポリプロピレン系樹脂組成物は、所望の成型品に加工される。成形加工法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて各種の成形方法で成形できる。例えば、射出成形法、押出成形法など適用できるが、大型射出成形法に適用した場合、成形加工性、フローマーク特性、ウエルド外観などに優れ、効果が大きい。従って、バンパー、ロッカーモール、サイドモール、オーバーフェンダーをはじめとする自動車外装部品、自動車内装部品、家電等に用いられるポリプロピレン樹脂組成物に好適である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において行った分析、および評価方法は以下の通りである。
【0099】
1.メルトフローレート(MFR)
JIS K7210(測定条件:温度230℃、荷重21.18N)に従って測定した(単位:g/10分)。
2.分子量分布(Mw/Mn)
以下に示す装置及び条件によるGPC測定により求めた。
装置:ウォーターズ社製、GPC150C型
カラム:昭和電工社製、AD80M/S、3本
測定温度:140℃
濃度:20mg/10ml
溶媒:オルソジクロロベンゼン
【0100】
<実施例1>
(i)固体触媒成分(a)の製造
充分に窒素置換した内容積50リットルの攪拌機付槽に、脱水および脱酸素したn−ヘプタン、20リットルを導入し、次いでMgClを10モル、Ti(O−n−Cを20モル導入し、95℃で2時間反応させた。反応終了後、40℃に温度を下げ、次いでメチルヒドロポリシロキサン(20センチストークスのもの)を12リットル導入し、3時間反応させた。生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
次いで、前記攪拌機付槽を用いて該槽に、上記と同様に精製したn−ヘプタンを5リットル導入し、上記で合成した固体成分をMg原子換算で3モル導入した。次いでn−ヘプタン2.5リットルにSiCl、5モルを混合して30℃、30分間でフラスコへ導入し、70℃で3時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。
次いで前記攪拌機付槽へn−ヘプタン、2.5リットルを導入し、フタル酸クロライド0.3モルを混合して、70℃、30分間で導入し、90℃で1時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。次いでTiCl、2リットルを導入して110℃で3時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄して成分(a)を製造するための固体成分(a1)を得た。この固体成分のチタン含量は2.0重量%であった。
次いで、窒素置換した前記攪拌機付槽にn−ヘプタンを8リットル、上記で合成した固体成分(a1)を400グラム導入し、成分(a2)としてSiCl、0.6リットルを導入して90℃で2時間反応させた。反応終了後、さらに成分(a3)として(CH=CH)Si(CH、0.54モル、成分(a4)として(t−C)(CH)Si(OCH、0.27モルおよび成分(a5)としてAl(C、1.5モルを順次導入して30℃で2時間接触させた。接触終了後、n−ヘプタンで充分に洗浄し、塩化マグネシウムを主体とする成分(a)390gを得た。このもののチタン含量は、1.8重量%であった。
【0101】
(ii)プロピレン・エチレンブロック共重合体の製造
図1に示した装置により重合を実施した。内容積400リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブをプロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒として脱水及び脱酸素したn−ヘプタン80リットルを入れた。次に温度70℃の条件下、トリエチルアルミニウム30g、水素198リットル、および前記触媒(a)を9.8g加えた。オートクレーブを内温75℃に昇温した後、圧力が0.3MPaGになるようにプロピレンの供給をし、重合を開始した。水素は水素/プロピレン比が2.9(L/Kg)で供給を開始し、220分後に0になるように一定比率で低下させた。220分後にプロピレンの導入を停止し、器内の未反応ガスを0.03MPaGまで放出し結晶性プロピレン重合体部分を得た。反応器内の水素濃度(水素/プロピレン濃度比、H/C)は、重合開始時0.26モル比であったが徐々に低下し、プロピレン供給停止時には0.040モル比であった(前段の重合工程)。
次いで、オートクレーブを内温65℃にセットした後、n−ブタノールを12.5cc導入、重合圧力が0.14MPaGになるようにエチレン、プロピレンをエチレン/プロピレン=0.43wt比の比率で供給した。90分後エチレン、プロピレンの供給を停止、重合を終了した(後段の重合工程)。
得られたスラリーは、次の攪拌機付き槽に移送し、ブタノールを2.5リットル加え、70℃で3時間処理し、更に次の攪拌機付き槽に移送、水酸化ナトリウム20gを溶解した純水100リットルを加え、1時間処理した後、水層を静置後分離、触媒残渣を除去した。スラリーは遠心分離機で処理し、ヘプタンを除去、80℃の乾燥機で3時間処理しヘプタンを完全に除去、58.1Kgの(改質剤1)を得た。
【0102】
(iii)成形品外観フローマーク発生距離の評価
ゴム含量が27wt%でMFRが31g/10minのプロピレン・エチレンブロック共重合体(55重量%)、平均粒径が5μmのタルク(15重量%)、MFRが6.3g/10min、密度が0.862g/ccのエチレン・ブテン共重合エラストマー(15重量%)及び上記、改質剤1(15重量%)の混合物100重量部に対して、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3’5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバガイギー社製、商品名:イルガノックス1010)0.1重量部、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト(チバガイギー社製、商品名:イルガホス168)0.05重量部、分散剤としてステアリン酸カルシウム0.15重量部、顔料としてカーボンMB(東洋インキ社製PPM01143)1重量部を配合して、スーパーミキサー(川田製作所製)で5分間混合した後、二軸混練機(神戸製鋼社製:KCM)にて210℃の設定温度で混練造粒することによりポリプロピレン系樹脂組成物を得た。得られたポリプロピレン系樹脂組成物についてフローマーク発生距離の評価を行った。
フローマークの発生距離は、型締め圧170トンの射出成形機で、350mm×100mm×2mmtなる成形シートを成形温度220℃として射出成形し、フローマークの発生を目視で観察し、ゲートからフローマークが発生した部分までの距離を測定した。
【0103】
各実施例について、表1に重合条件、表2に生成重合体の物性評価を示した。また、結晶性プロピレン重合体製造時の開始時から終了時までの水素、プロピレンのモル比(H/C)の推移を図4に示した。
【0104】
<実施例2>
実施例1において、重合開始前の触媒(a)の供給量を11.0gに、前段の重合工程において水素の供給量を水素/プロピレン比が4.3(L/Kg)で供給を開始し、220分後に0になるように一定比率で低下、後段の重合工程の重合圧力を0.17MPaGにした以外は、実施例1に準じて行いプロピレン・エチレンブロック共重合体(改質剤2)を製造した。前段重合工程の反応器内の水素濃度(水素/プロピレン濃度比、H/C)は、重合開始時0.29モル比であったが徐々に低下し、プロピレン供給停止時には0.064モル比であった。また、得られた製品量(改質剤2)は60.0kgであった。結晶性プロピレン重合体製造時の開始時から終了時までの水素、プロピレンのモル比(H/C)の推移を図4に示す。
また、フローマークの発生距離の評価は、改質剤1を改質剤2に変更し、実施例1に準じて実施した。
【0105】
<実施例3>
実施例2において、重合開始前の触媒(a)の供給量を9.4gに、後段の重合工程の重合圧力を0.10MPaGにした以外は、実施例2に準じて行いプロピレン・エチレンブロック共重合体(改質剤3)を製造した。前段の重合工程の反応器内の水素濃度(水素/プロピレン濃度比、H/C)は、重合開始時0.31モル比であったが徐々に低下し、プロピレン供給停止時には0.070モル比であった。また、得られた製品量(改質剤3)は59.4kgであった。結晶性プロピレン重合体製造時の開始時から終了時までの水素、プロピレンのモル比(H/C)の推移を図4に示す。
また、フローマークの発生距離の評価は、改質剤1を改質剤3に変更し、実施例1に準じて実施した。
【0106】
<実施例4>
(i)触媒の調整
内容積50リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、n−ヘキサン40リットル、トリエチルアルミニウム13g、前記触媒(a)を75g仕込み、次に30℃に維持攪拌しながらプロピレンガスを100g/時で2時間供給し、予備処理を行った。
(ii)連続法による重合
図2に示す装置により重合を実施した。内容積200リットルの第1反応器(1)にn−ヘキサンを26リットル/時、トリエチルアルミニウム8.9g/時、触媒スラリー400ミリリットル/時で連続的に供給した。第1反応器(1)、第2反応器(2)の温度はいずれも70℃、圧力はそれぞれ0.5MPaG、0.9MPaG、になるように各反応器にプロピレンを供給し調整した。水素はそれぞれ、第1反応器、第2反応器の気相部の水素濃度とプロピレン濃度の比(H/C)が0.2モル比、0.08モル比となるように供給した。各反応器は液面レベル80%になるようにコントロールバルブによりスラリーを抜き出し、第1反応器(1)から第2反応器(2)へ、第2反応器(2)からフラッシュタンク(3)に受け入れて60℃の条件下、未反応ガスを0.03MPaGまで放出した。フラッシュタンクではn−ブタノールを4.0cc/時で連続的に供給した。次いでゴム反応器(4)に受け入れ、プロピレンを1.7Kg/時、エチレンを0.5Kg/時となるように供給した。ゴム反応器(4)を出たスラリーは、フラッシュタンク(5)で圧力を0.03MPaGまで放出し、メタノールで触媒を失活させ、さらに苛性ソーダで中和後水洗、パウダー分離、乾燥工程を経て製品パウダーを回収した。
また、フローマークの発生距離の評価は、改質剤1を改質剤4に変更し、実施例1に準じて実施した。
【0107】
<比較例1>
図1に示した装置により重合を実施した。内容積400リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブをプロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒として脱水及び脱酸素したn−ヘプタン80リットルを入れた。次に温度70℃の条件下、トリエチルアルミニウム30g、水素114リットル、および前記触媒(a)を10.6g加えた。オートクレーブを内温75℃に昇温した後、圧力が0.3MPaGになるようにプロピレンの供給をし、重合を開始した。水素は水素/プロピレン比が2.0(L/Kg)一定になるように供給した。220分後にプロピレンの導入を停止し、器内の未反応ガスを0.03MPaGまで放出し結晶性プロピレン重合体部分を得た。反応器内の水素濃度比(水素/プロピレン濃度比、H/C)は、重合開始時0.14モル比であったが徐々に低下し、プロピレン供給停止時には0.17モル比であった(前段の重合工程)。
次いで、オートクレーブを内温65℃にセットした後、n−ブタノールを12.5cc導入、重合圧力が0.15MPaGになるようにエチレン、プロピレンをエチレン/プロピレン=0.43wt比の比率で供給した。90分後エチレン、プロピレンの供給を停止、重合を終了した(後段の重合工程)。
得られたスラリーは、次の攪拌機付き槽に移送し、ブタノールを2.5リットル加え、70℃で3時間処理し、更に次の攪拌機付き槽に移送、水酸化ナトリウム20gを溶解した純水100リットルを加え、1時間処理した後、水層を静置後分離、触媒残渣を除去した。スラリーは遠心分離機で処理し、ヘプタンを除去、80℃の乾燥機で3時間処理しヘプタンを完全に除去、59.6Kgの(改質剤5)を得た。結晶性プロピレン重合体製造時の開始時から終了時までの水素、プロピレンのモル比(H/C)の推移を図5に示した。
また、フローマークの発生距離の評価は、改質剤1を改質剤5に変更し、実施例1に準じて実施した。
【0108】
<比較例2>
比較例1において、重合開始前の触媒供給量を7.8gに、前段の重合工程において水素の供給量を水素/プロピレン比が1.5(L/Kg)一定になるように供給、後段の重合工程の重合圧力を0.10MPaGにした以外は、比較例1に準じて行いプロピレン・エチレンブロック共重合体(改質剤6)を製造した。前段の重合工程の反応器内の水素濃度(水素/プロピレン濃度比、H/C)は、重合開始時0.098モル比であったが徐々に低下し、プロピレン供給停止時には0.10モル比であった。また、得られた製品量は58.2kgであった。結晶性プロピレン重合体製造時の開始時から終了時までの水素、プロピレンのモル比(H/C)の推移を図5に示す。
また、フローマークの発生距離の評価は、改質剤1を改質剤6に変更し、実施例1に準じて実施した。
【0109】
<比較例3>
フローマークの発生距離の評価において、改質剤をまったく入れずに行った。すなわち、実施例1において、ゴム含量が27wt%でMFRが31g/10minのプロピレン・エチレンブロック共重合体(73重量%)、平均粒径が5μmのタルク(15重量%)、MFRが6.3g/10min、密度が0.862g/ccのエチレン・ブテン共重合エラストマー(12重量%)の混合物に、酸化防止剤、分散剤、顔料を配合したポリプロピレン系樹脂組成物について行い、その他は実施例1に準じて実施した。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
表1及び2に示す結果から、本願発明に係る実施例1、2、3は、セミバッチ重合で結晶性プロピレン重合体製造時、水素フィードを水素/プロピレン比(H/C)を一定比率で低下させて行った例であり、比較例1、2の場合に比べて、未反応プロピレンガス中の水素濃度が低く、製造されたポリプロピレン系樹脂組成物におけるフローマーク発生距離が長いことが判る。
また、本願発明に係る実施例4は、連続法により、結晶性プロピレン重合体製造終了時の水素/プロピレン比(H/C)を特定モル比となるように供給して行った例であり、比較例1、2の場合に比べて、製造されたポリプロピレン系樹脂組成物におけるフローマーク発生距離が長いことが判る。
一方、比較例1は、結晶性重合体製造時、水素フィードを水素/プロピレン比(H/C)一定で行った例であり、実施例1、2、3の場合に比べて未反応プロピレンガス中の水素濃度高く、また、実施例1、2、3、4の場合に比べてフローマーク発生距離が短いことが判る。
また、比較例2は、改質剤の結晶性プロピレン重合体のMFRが低い例であり、実施例1、2、3、4の場合に較べてフローマーク発生距離が短く、さらに、比較例3は、改質剤を入れずに行った例であり、実施例1、2、3、4の場合に比べてフローマーク発生距離が短いことが判る。
以上のことから、本願発明の製造方法によれば、成形時にフローマーク(成形品の表面外観に現れる虎縞状の模様)等の成形外観不良が発生しにくいプロピレン系ブロック共重合体を効率的に製造できたことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、単一の反応器を用いて行われる本発明の製造方法の一態様を模式的に示した図である。
【図2】図2は、3個以上の反応器を用いて重合工程を連続的に行う本発明の製造方法の一態様を模式的に示した図である。
【図3】図3は、水素とプロピレンの比が単調低下する実施態様例を模式的に示した図である。
【図4】図4は、実施例1〜3の水素/プロピレン比(H/C)の推移を示した図である。
【図5】図5は、比較例1又は2の水素/プロピレン比(H/C)の推移を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレートが200g/10分以上の結晶性プロピレン重合体部分を製造する前段の重合工程(A)と、固有粘度[η]copolyが6.5dl/g以上であるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造する後段の重合工程(B)とを含む少なくとも2段工程からなる、バッチ法又は連続法でプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法において、
前段の重合工程(A)は、水素とプロピレンとを反応器中に供給し、触媒の存在下に、プロピレンに対する水素濃度を経時的に低下させながらプロピレンを重合させ、結晶性プロピレン重合体が得られたときは、未反応ガス中の水素とプロピレンとのガス濃度比(H/C)を0.1モル比以下に保持することを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
前段の重合工程(A)と後段の重合工程(B)とは、単一の反応器内で行われ、後段の重合工程(B)では、前段の重合工程(A)で結晶性プロピレン重合体が得られた後、いったん反応器内の未反応ガスをパージし、引き続いてプロピレンとエチレンとをあらたに供給しながら共重合させることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
前段の重合工程(A)と後段の重合工程(B)とは、それぞれ、モノマーを連続的に供給するセミバッチ法で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン及びトルエンからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合溶媒が、反応器内に存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
前段の重合工程(A)において、重合開始後に、反応器中に供給する水素とプロピレンとのガス濃度比(H/C)を徐々に低下させながら重合を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
前段の重合工程(A)と後段の重合工程(B)とは、直列に配置された3個以上の反応器内で行われ、その際、第1の反応器に触媒、水素及びプロピレンを、第3以降の反応器にプロピレンとエチレンを供給し、これら重合工程を連続的に実施することを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−326927(P2007−326927A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158168(P2006−158168)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】